老ガイル

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56 :テスト [sage]:2018/11/07(水) 02:24:56.93 ID:3YTTgBIDO
「八幡、着いたぞ」


車の後部座席にて文庫本を読んでいると叔父に声をかけられたので車の中の時計を見ると12時を回っていた。車に乗りだしたのは9時前だったので3時間近く車に乗っていたようだ。


俺は文庫本を閉じて横に置いてあるケースを持ち車から降りるとレンガ造りの一軒家が目に入る。表札には由比ヶ浜と叔父の名字が刻まれている。


「ここが叔父さんの家っすか? 初めて見ましたが大きいっすね」


千葉にある俺の生家より一回り大きい。豪邸とまでは言わないが、周囲の家より大きいのは確かだ。


「そういえば改装してから来てなかったな」


「そうですね。これからよろしくお願いします」


「おいおい。そんな大げさに頭を下げるなよ? これからは一緒に暮らすんだからよ」


「いえ。自分の身勝手が原因で厄介になるので」


俺は叔父に頭を下げると叔父からは呆れた声が聞こえてくるが、叔父やその家族からしたら親類とはいえ部外者が家庭に入ってきたら迷惑に決まっている。


「事情については聞いてる。誰もお前を傷付けないから安心しろ」


「……ありがとうございます」


嘘を言っているようには聞こえない。それを理解すると少しだけ安心する。家族以外の人全てから拒絶された俺からしたら胸にくる。


「だから、そんなに畏まんなって。それより早く入れ。結衣もお前に会いたがっていたぞ」


叔父は自分の娘にして俺の従姉弟の名前を口に出す。彼女と会ったのは年の初めだから久しぶりに会う事になる。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/23(日) 11:48:44.47 ID:9yXTFP1MO
晒しage
58 : ◆9pp7qon/u2 [sage]:2021/05/23(日) 17:54:39.78 ID:9yXTFP1MO
投稿から4年。この度「老ガイル」の改訂版の連載を決意しました
旧版と比較しながら読んでみてください
59 : ◆9pp7qon/u2 [saga]:2021/05/23(日) 18:02:58.08 ID:9yXTFP1MO
【やはり俺の玄冬ラブコメはまちがっている。】



家族――それは男女が愛を交わして

その愛が育みやがて子供が生まれるという

人類が有史以前から持ち合わせているコミュニティの一種だ。

この俺、比企谷八幡も当然そのコミュニティのおかげでこの世に生まれた。

だが俺の場合は家族というカテゴリーからかなりかけ離れる。
60 : ◆9pp7qon/u2 [saga]:2021/05/23(日) 18:21:04.34 ID:9yXTFP1MO
何故なら俺は両親の愛情を貪り、今日まで生きてきた。

最愛の妹である小町が巣立って所帯を持った後も

俺は父と母に守られて生きてきた。

年を重ねる内に人と交流する機会も減り

恋する事も愛する事も忘れてしまった。

まちがい続けた青春が終わり

朱夏と白秋を知らない俺の人生は玄冬を迎えた。
61 : ◆9pp7qon/u2 [saga]:2021/05/23(日) 18:24:49.98 ID:9yXTFP1MO


「ヒキタニさん。比企谷八幡さん。朝ですよ! 起きてください!」

62 : ◆9pp7qon/u2 [saga]:2021/05/23(日) 18:47:02.74 ID:9yXTFP1MO
「うぅ……うるさいのぅ……」

「もう起きる時間ですよ」

「まだ6時じゃろ……」

「何言ってるんですか! もう9時過ぎてますよ。とっくに食堂が閉まっている時間です!」

職員の松ヶ谷廿一(まつがや・はたひと)に叩き起されて俺はようやく目が覚めた。

俺は年老いても変わらず宵っ張りで朝寝坊の常習犯なのだった。
63 : ◆9pp7qon/u2 [saga]:2021/05/23(日) 19:01:22.57 ID:9yXTFP1MO
比企谷八幡、87歳。既に総武高校を卒業してもう半世紀以上が過ぎた。

本来なら気ままに余生を過ごす筈が

5年前に大病を患って以来、お節介な親族により介護施設にぶち込まれた。

なんでも近所と交流がない独居老人は危険だとかそんな理由だ。

まったくもって余計なお世話だ。心配ならお前達が養ってくれよ。
64 : ◆9pp7qon/u2 [saga]:2021/05/23(日) 19:04:35.40 ID:9yXTFP1MO
だがここでの生活は案外悪くはない。

日々職員達が身の回りの世話をしてくれるので気楽に過ごせる。

まあ松ヶ谷のヒキタニさん呼びだけは納得いかんのだが…。

今時のヘルパーは入居者にあだ名を付けるものなのか?
65 : ◆9pp7qon/u2 [saga]:2021/05/23(日) 19:11:49.89 ID:9yXTFP1MO
「朝食は取り置きしていますので」

「わかったよ」

そそくさと去る松ヶ谷。

他の部屋も担当しているので俺ばかりに引っ付いている訳にもいかないのだ。
66 : ◆9pp7qon/u2 [saga]:2021/05/23(日) 19:14:49.23 ID:9yXTFP1MO
「いただきます」

だから俺は黙々とぼっち飯している訳だ。

うん、実に……老いた体に優しい味付けだ。別に悪いとかそんなんじゃない。

だが……なんといえばいいのだろうか……

今日は妙に居た堪れない気分になる。

何でいい年してぼっち飯しなくちゃならんのだとそう思える。

いや、これは寝坊した俺が悪い。

こうなるのは当然の事だろ。
67 : ◆9pp7qon/u2 [saga]:2021/05/23(日) 19:27:22.50 ID:9yXTFP1MO
「おはよう。今日もぼっち飯なのね」

老女が現れた。雪ノ下雪乃(87歳)だ。

「今日も可愛げのない挨拶だな」

思えばこいつとは高校時代からずっと腐れ縁が続いた。

大学、就職先とずっと一緒だった。

定年を迎えて、ようやくおさらばかと思えば、まさか同じ施設に入居するとは…

一体何の巡り合わせなんだかな。平塚先生の導きか?
68 : ◆9pp7qon/u2 [saga]:2021/05/29(土) 20:56:48.20 ID:fMVhr6j/O
「こんなお婆さんに可愛げを求めるなんて変わってるわね」

「今の年寄り向けの娯楽作品は容姿も性格も良いジジババで溢れているんだぞ。婆に夢見て何が悪い」

「凡庸なお爺さんが美老女達に囲まれるラブコメを基準にしないでちょうだい」

「するね! 特に上地毛遺影(うえちけ・いえい)先生の『老いらくの恋(ラブコメ)は介護施設(ホーム)で始まる』をな!」

「右肩から腕に桜の入れ墨彫ったお爺さんを元妻と幼馴染と同級生が取り合う話だったかしら?」

「そうそう」
69 : ◆9pp7qon/u2 [sage]:2021/07/14(水) 20:34:53.63 ID:Mvktp2xwO
保守
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