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【オリジナル百合】私の中和
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1 :
◆78PQPAiXI6
[saga]:2017/08/14(月) 16:49:34.40 ID:jTripSwpo
書き溜めはほぼないのでのんびりやっていきます
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1502696974
2 :
◆78PQPAiXI6
[saga]:2017/08/14(月) 16:58:41.60 ID:jTripSwpo
山の稜線のなだらかなところを縫うように舗装された道が、三十分は続いていた。
父親は車を運転しながら、
「酔わないか?」
何気なしに私にそう聞いた。
私はうなずきを返すけれど、お昼にとコンビニで買ったおにぎりには手を付けられずにいる。
私の生まれ育った地が都会だったことを嫌でも思い知らされた。
峠を二つ超えた先に引っ越すのだが、一つ目の峠を登るところでここまでつらくなるとは予想外だった。
3 :
◆78PQPAiXI6
[saga]:2017/08/14(月) 17:08:10.71 ID:jTripSwpo
外の景色は一様に緑で、聞こえるものといえば、セミの鳴き声ぐらいで、
それがまた暑さを思い起こさせて気分がさらに悪くなる。
車の前にも後ろにも、車両は見当たらない。
父親の転勤。
家族を持っていることを考慮されて、なお業績不振を認められたことでの、地方転勤だった。
父より年下の、大学時代の後輩でもある母親が父親に文句を言えるはずもなく、
まだ十七歳の私は社会を知らないのでそもそも業績が悪いといわれてもよくわからない。
4 :
◆78PQPAiXI6
[saga]:2017/08/14(月) 17:17:41.78 ID:jTripSwpo
父親は必死で会社に抗弁した。
数年後にまた、東京に戻すという条件を不承不承飲み、転勤は確定した。
ちょっとした地方旅行にしては、数年は滞在期間が長すぎた。
けれど、東京勤務は限界に来ていたのだろうと思う。
毎晩のように山のようなストレスを抱えて帰ってくる父親。
とくに彼が、夜帰って酒で自らを慰め、母親などに泣き言を言うさまは見ていられなかった。
威厳とか、そういうものの欠落を感じたからではない。
毎晩のように自分を殴ってしまう私は、血のつながりを感じてしまうからだ。
5 :
◆78PQPAiXI6
[saga]:2017/08/14(月) 17:23:22.50 ID:jTripSwpo
「お父さん、眠くならない?」
「ああ、大丈夫」
心配性の母親が、助手席から父親にそう声をかけた。
ふと眠くなるといけないから、としきりにガムをかむことをすすめていた。
6 :
◆78PQPAiXI6
[saga]:2017/08/14(月) 17:30:33.28 ID:jTripSwpo
上司に対し何とか転勤を避けたいと言い続けていた時の父親は特に荒れていた。
でも業績が悪いですよね、あなたにそんな文句を言う資格があるのですか?
とでも返されたのだろう。
胃薬を日本酒で流し込んでいたほどだった。
――心の療養だと思って、行こうよ。
母親はそう言ってなだめ、最終的には彼女に助けられたように、父親は彼女に泣きついて感謝した。
その様を見てもなお、父に嫌悪感を抱かないのは自分でも不思議だった。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/14(月) 21:52:04.89 ID:jTripSwpo
今日はここまでです
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/15(火) 00:44:18.89 ID:zh/RHgBXo
おつ
きたい
9 :
◆78PQPAiXI6
[sage]:2017/08/20(日) 17:39:28.52 ID:+pvwcNhoo
お待たせしました。再開します。
10 :
◆78PQPAiXI6
[saga]:2017/08/20(日) 17:50:07.90 ID:+pvwcNhoo
最近、心の療養というのは、父親だけでなく私にも向けた言葉であったかもしれない。
そう考えることが時々ある。
考えすぎ、と自分でも思うが、それでもあの息苦しさは嫌になる。
一つ目の峠を越えたところは盆地だった。
私の顔色を見て父親は笑い、コンビニに車を止めて少し休憩することになった。
しばらく外の風に当たると楽になって、ようやくスマートフォンの画面を見る。
唯奈(ゆいな)から、メッセージが届いている。
いつでもまた、東京に遊びにおいで。
彼女に会うというだけであれば、私は一向にかまわない。
正直、今すぐにでも会いたい気分だ。
ただ、東京に戻りたくはない。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/26(土) 13:56:58.96 ID:x/zmaNo4o
続きはよ
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/26(土) 17:23:17.69 ID:9dSKV1EtO
見てるぞ
13 :
◆78PQPAiXI6
[sage]:2017/08/26(土) 20:32:29.18 ID:72WQJXDso
前回は寝落ち失礼しました。
再開します。
14 :
◆78PQPAiXI6
[saga]:2017/08/26(土) 20:42:26.69 ID:72WQJXDso
高校というところは非常に息苦しく、普段集団で行動するがゆえに二人で遊ぶということがなかなか難しい。
誰かと遊ぶと、噂が立つ。
どうして私も誘ってくれなかったの、同じグループの友達にそういわれて面倒なことになったのは一度や二度ではない。
みんなが仲良く、などありえないし、ある一人と顔を突き合わせて話したいことだってある。
けれど周りは、群れること以外を知らないのだ。
あるいはそうやって群れること自体を渇望しているのかもしれない。
そういった人々が集まったのが東京だ。
私たちは群れを欲しがった親の血を受け継いだ子。
15 :
◆78PQPAiXI6
[saga]:2017/08/26(土) 20:49:16.57 ID:72WQJXDso
唯奈に返すメッセージを、少し考えた。
長文を書いてすべて消し、結局、また遊ぼう、としか送れなかった。
一つ目の峠に比べて、二つ目はややなだらかだった。
山道のアップダウンに、体が慣れてしまったからそう感じるだけかもしれない。
退屈な舗装に、がけ崩れ対策のコンクリートの模様などをぼーっと眺めて、おにぎりを食べた。
16 :
◆78PQPAiXI6
[saga]:2017/08/26(土) 21:16:06.27 ID:72WQJXDso
峠のてっぺんを超えると、建物の群れが俯瞰できた。
その奥にある、暑い日差しを白く照り返しているそれは、東京で見るそれとは段違いに立派で、また勇壮で優雅だった。
ここからでも、その荒々しい潮騒、またそれに同調するかのような海鳥の啼き声、
また浜風の吹きすさび、などが聞こえてくるようで、胸が高鳴って仕方がなかった。
「綺麗ね」
母がそう漏らすのに、私は全力で同調した。
山道の退屈から一気に解き放たれる感覚が背筋を駆けていき、
それだけで、私をこの町でずっと暮らしていくことになってもいい、という気にさせた。
17 :
◆78PQPAiXI6
[saga]:2017/08/26(土) 21:22:34.69 ID:72WQJXDso
この海に私の血を垂らせばあっという間に、波がそれを包み込み、赤色が溶けて消えていくに違いない。
どうしようもないことを、車の中でだらだら考えていたものだ。
もしこのドライブを日記にしたためるのであれば、書くことはただ、海が綺麗だったということだけだろう。
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/26(土) 21:23:20.91 ID:72WQJXDso
今日はここまで。
亀で本当にすみません。
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/28(月) 00:20:53.73 ID:eYtXJr7qo
更新していきます。
20 :
◆78PQPAiXI6
[saga]:2017/08/28(月) 00:22:36.41 ID:eYtXJr7qo
初めて自然に恋をした。
冷房をかけて窓を締め切っていた車のドアを開けたときに鼻についた潮のにおいに、どうしようもなく男らしさを感じた。
本当に海が近くに来たのだ、と胸が高鳴った。
十七年ほど東京というコンクリートの街で過ごしてきた私には、刺激が強すぎるかもしれない。
それで、いまマンションの窓からそちらを向けば海は見えるのだが、意識してみないようにしていた。
どうしようもないくらいやばい。言葉を失う。
21 :
◆78PQPAiXI6
[saga]:2017/08/28(月) 00:35:43.16 ID:eYtXJr7qo
私は冷静になり切れていない頭で考える。
初恋というのはえてして実らないし、後々振り返ったときに、
なぜあんなに夢中だったのだろうと不思議に思うと聞く。
初恋は永遠に「初恋」という記憶になるものだという。
そんなのは、知らない。
第一、海は逃げない。
初恋を終わらせる権利は私にしかないのだ。
それなら、私は一生この海を好きでいるつもりだ。
二学期が始まるまで、毎日少しずつ楽しもうと思った。
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/30(水) 18:43:05.68 ID:w3YSIywgo
更新します。
23 :
◆78PQPAiXI6
:2017/08/30(水) 18:49:34.26 ID:w3YSIywgo
マンションに引っ越し業者がやってきた。
荷物を運び入れている間、邪魔になるからということで、私は支度する間もなく家を追い出された。
午後一時だった。
さっきおにぎりを食べたから、お腹が空いているわけでもないし、
そもそもどの辺りに料理屋があるのかも分からない。
適当に町を見て回ろうと考えるも、私を潮のにおいが誘惑した。
行ってしまおうか、海に。
ここから防波堤を超えて、海まで五分もかからない。
でもでも――お化粧もおしゃれも何もしていないし。
などと考えて、マンションの表の道を何度も往復した。
24 :
◆78PQPAiXI6
:2017/08/30(水) 19:03:25.09 ID:w3YSIywgo
「何してんの」
そう、誰かがいたら、私にそのように声をかけるはずだった。
――今声をかけられた気がする。
慌ててそちらを振り向くと、私と同じマンションから出てきたらしい男子が立っていた。
歳のほどは、中学生くらいだろうか。
「何してんの」
「いやーちょっと、どこ行こうかなーって」
「案内しようか? この町。引っ越してきたんでしょ」
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