卯月「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」【偶像喰種・外伝完結編】

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120 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:28:40.59 ID:nATks/WC0
>>119
その辺は後で判明します >メロイエ担当P
121 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:29:08.24 ID:nATks/WC0

〜凛・未央による346プロ潜入の翌日 渋谷家〜


渋谷父「…凛の様子は?」

渋谷母「今日は家にいる、って」

渋谷母「仕事は入ってないから心配しないでって言ってたけど……」

渋谷父「…そうか」


渋谷父(……夜遅くにやっと帰って来たと思ったら、あの落ち込みようだ)

渋谷父(何があった、凛?)


渋谷父「……話を聞くのは後にしよう。何があったのかは分からないが、凛にはゆっくりと休んでもらって―――」


「……あの。渋谷さんのお父様とお母様ですね」


渋谷父母「「!!」」


渋谷母「あなたは……!」


――――――――――――――――――――
122 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:29:37.32 ID:nATks/WC0

〜凛の部屋〜


凛「……」ボフ

ハナコ「キューン……」

凛「……ただいま、ハナコ」ナデ


凛「私は大丈夫だよ。心配しないで……」
123 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:30:05.57 ID:nATks/WC0

凛「……」


凛(――ちひろさんは)


凛(――あの後、私と未央に特に攻撃することもなく)

凛(――普通に出口まで案内した)


凛(――未央は、ちひろさんに何をされたか話してくれなかった)

凛(――お腹に穴をあけられたことだけは知ってるし、無理に聞くことでもないけど)


未央『……しぶりん。ゴメン、今日はひとりで帰らせて』


凛(――ただ傷つけられただけじゃない筈だってことは、何となく分かったんだ)

凛(――346プロの真実を聞かされた私とも、また違うことを考えてた……)

凛(――そんな風に見えた)


凛(――家に帰って、お父さんとお母さんに怒られかけて)

凛(――でも、二人ともすぐに私が変だって思ったみたいで)

凛(――すぐに何も言わなくなって)


凛(――『ご飯』だけ置いて、部屋で一人にしてくれた)



凛(――お腹がすいていたことに気が付いた)
124 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:30:39.91 ID:nATks/WC0

凛(――346プロを出てから、家に帰るまで)

凛(――どこか、ふわふわした気分だった)

凛(――まるで、悪い夢を見ていたかのような)


凛(――でも、お腹がすいて)

凛(――お母さんが出してくれた『ご飯』をかじった瞬間に)



凛(――それは幼いころからずっと食べていた人肉の味だと気付いて、私は現実に引き戻された)



凛(――私は"喰種"だ)

凛(――今まで何を勘違いしてたんだろう)

凛(――346プロに入ったからって、人間みたいになれるわけがなかった)

凛(――人間みたいに、何も考えずがむしゃらに走って行けるのがおかしいことに、なんで気付かなかったんだろう)


凛(――考えてみれば、私達を隠すために)

凛(――何も悪い事をしてないなんて、そんなわけない)


凛(――分かってる)

凛(――本当に悪いのは、346プロだけじゃない)

凛(――ずっと346プロに居座り続けた、私もなんだ)


凛(――知らなかっただけだ)

凛(――私達が何も知らなかっただけで)

凛(――奈緒や、加蓮みたいに)

凛(――私や未央が悩んでいる間、ずっと人間の誰かが犠牲になっていたんだ)


凛(――私は、結局化け物なんだ)
125 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:31:12.32 ID:nATks/WC0

凛(――それに気付いてからは)

凛(――まるで変えようのない事実から逃げるように)

凛(――346プロに入ってから今までのことを思い出してた)


凛(――『踏み込めば、今までとは別の世界が広がっています』)

凛(――その言葉を聞いて、"喰種"でも何かに夢中になれるのかなって思って)

凛(――アイドルになった)


凛(――デビューライブの時、卯月や未央と一緒に"喰種"が人前に立つ不安にぶつかった時)

凛(――プロデューサーが迎えに来てくれた)

凛(――プロデューサーの本音を初めて聞いた)


凛(――サマフェスの時は、すごく楽しかった)

凛(――山ほどのファンレターを貰った)

凛(――どこまでも走って行けるって、確信した)

凛(――裏で、女の子がひどい目にあってることなんか、考えもしなかった)


凛(――あの時も、あの時も、あの時も)


凛(――何も知らなかっただけで、私達のために)

凛(――罪もない人たちが、たくさん死んでたんだ)
126 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:31:42.59 ID:nATks/WC0

凛(――プロデューサーに会いたい)

凛(――でも、会うのが怖い)

凛(――問い詰めてやりたい)

凛(――何も聞きたくない)


凛(――私に、世界が広がるだなんて言っておいて)

凛(――プロデューサーは、私達に真実を隠してたの?)

凛(――プロデューサーも、知ってて黙ってたの?)


凛(――プロデューサーも)





凛(――私達のために、人をたくさん殺したの?)







「……渋谷さん」
127 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:32:13.09 ID:nATks/WC0

凛「!!」


「…ご両親に許可をいただきました」

「部屋に行っていいから、娘に会ってあげなさいと……」



凛「……あ……」



凛「プロ、デューサー」










武内P「……入っても、よろしいですか」
128 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:33:46.63 ID:nATks/WC0

――――――――――――――――――――


凛「……どうぞ」

P「ありがとう、ございます」


P「…本日、渋谷さんのお宅に訪問したのは」

P「重要な連絡を、渋谷さんに伝えたかったからです」


P「346プロダクションの閉鎖と、アイドルの皆さんの解雇が決定しました」



凛「……そっか。…バレたの?」

P「はい。美城常務が、我々の知らぬ間に情報を手に入れ……内部告発したと聞いています」

凛「…これからどうするの」

P「346プロは、閉鎖宣言を行うわけではありません」

P「我々は1週間のうちに、表向きは野外ロケと称して」

P「人間・喰種を問わず、少しずつ郊外まで移動していただき」

P「CCGがアイドルを区別できていないうちに身を隠していただくことになっています」

P「シンデレラプロジェクトの皆さんにも、最後の仕事が終わり次第」

P「各自、脱出していただく事を説明しています」


P「渋谷さんには、シンデレラプロジェクトの皆さんと共に東京から脱出するか」

P「ご家族と一緒に東京を去るか、選ぶことが出来ます」

凛「……うん、分かった」

凛「多分、父さんと母さんと一緒に逃げると思う」

凛「…皆には、顔を合わせられないと思うから」


P「……分かりました」
129 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:34:38.04 ID:nATks/WC0

凛「……連絡はそれだけ?」

P「……はい」

凛「……そっか」

P「……」

凛「……」


P「……」



P「……驚かれないのですね。346プロが無くなると聞いても」

凛「うん」

凛「そうなるだろうな、って思ったから」


P「……千川さんから、お話は聞いています」

凛「……うん」


P「……渋谷さんの御友人を、本田さんの御友人を奪いました」

P「本当に、申し訳ありませんでした」

凛「……」


凛「……プロデューサー」



凛「プロデューサーは、どこまで知ってるの」
130 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:35:30.08 ID:nATks/WC0

P「…渋谷さん…」


凛「答えて。奈緒と加蓮を攫ったのはプロデューサーなの?」

凛「茜を殺したのはプロデューサーなの?」

凛「未央を傷つけたのも、プロデューサー?」

凛「プロデューサーは全部知ってて、私達に黙ってたの?」

凛「私達のプロデュースの裏で、罪もない人をたくさん攫って、殺したの?」

凛「そうしておいて、『笑顔の橋』をやろうとしたの?」


P「……」


凛「……ごめん」

凛「別に、怒ってるわけじゃないよ」

凛「一晩考えて、そうするしかなかったんだって分かった」

凛「私達の正体を隠すために、打てる手は全部打った」

凛「善悪なんて考えてる余裕はなかった……そういうことでしょ」
131 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:37:33.90 ID:nATks/WC0

P「……すべて答えます」


P「本田さんへの処遇に、私は一切関わっていません」

P「あれは千川さんの独断であり、私に報告が回ったのもつい先ほどのことです」

P「ビッグリリィへの報酬に神谷さんと北条さんを選定したのも誘拐を実行したのも、私ではありません」


P「……ですが、日野さんを攫ったのは私です」

P「私があの場にいれば、本田さんに制裁など加えません。ただ、規則に従い日野さんの処分は迷わず行っていたでしょう」

P「『財産』についても……私に選択権があれば渋谷さんに近しいお二人は選ばなかっただろうというだけで」

P「対象が出来るだけ関わりのない人間アイドルに代わっただけで、誘拐や売買そのものに躊躇はしません」


P「私も他の1級、準1級Pと変わらず、346プロの真実をすべて把握しています」

P「渋谷さんをスカウトし、シンデレラプロジェクトが正式に発足してから」


P「神谷さん、北条さんを除いた3名のアイドルを『財産』として誘拐し、日野さんを除いた2名のアイドルを口封じに処分し」

P「数百の捜査官や喰種を、この手で殺しました」


P「……皆さんのプロデュースを行っていた傍らで」


P「神崎さんや、本田さんに、人間の皆さんと深い繋がりを持って欲しかったのは、紛れもなく私の本音です」

P「『笑顔の橋』も、神崎さんの願いを最大限尊重したい一心で企画しました」

P「……ですが」


P「皆さんの命を失わせないことが、第一です」

P「……大切なものには順番があります」
132 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:38:22.60 ID:nATks/WC0

凛「そっか」

凛「……じゃあ、最後にひとつだけ教えて」


凛「プロデューサーが最初に担当した、3人のこと」


P「……!!」

P「なぜそれを……!?」


凛「未央がアイドルやめかけた後、今西部長が話してくれたんだよ」

凛「昔、とっても真っすぐな男がいたって」

凛「その人はアイドルの幸せを心から願ってたけど」

凛「アイドルが心から笑顔になるには、どうすればいいか真剣に考えて行動して……」

凛「その結果、プロデューサーが担当した3人は死んじゃったって」


凛「だから、プロデューサーは私達のために人を殺すようになっちゃったの?」


凛「プロデューサーの口から教えてほしい」
133 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:40:49.63 ID:nATks/WC0

P「……」


P「…どこにでもあるような、つまらない話です」


P「私が最初にプロデュースした3名のアイドルは、人間が好きな方ばかりでした」

P「神崎さんや本田さんのように、"喰種"の身であっても人と対等にかかわることを心から望み」

P「大切な御友人が攫われ、346プロの真実を知った時は、泣いて私に救いを求めました」

P「私はその願いを叶えたい一心で、346プロダクションに対立しました」

P「私には、それを可能にする力がありました」

P「人間の御友人を助け出して、彼女たちはご自分が喰種であることを話し」

P「それを御友人に受け入れられた彼女たちは、本当に心からの笑顔を見せてくれました」



P「そして、1週間もしないうちに」

P「御友人は恐怖に耐えきれず、彼女たちを通報しました」


P「3人の命は、絶望と泣き叫ぶ声と共にいとも容易く奪われたのです」


P「更なる被害を食い止めるため、私は御友人を殺し」

P「積み上げたものは、すべて無意味に消失しました」
134 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:42:29.84 ID:nATks/WC0

P「渋谷さん」


P「許してくれとは、言いません」

P「私は、広がっていく世界が屍の上に立つ幻だと知っていて貴女を引きずり込みました」


P「それでも、出来ることなら貴女に幸せな夢を見てほしかった」

P「それが虚構でも、広がっていく世界をその目で見て欲しかった」

P「それで貴女たちが笑顔でいられると思ったから、私はそれで良かった」


P「"喰種"に生まれたならば、喰べるしかない。奪うしかない」

P「すべての喰種が、自分の運命に苦しんでいる」


P「ならば、せめて我々が代わりに奪えばいい」

P「そうすれば、せめてアイドルは自分の運命を忘れられる」

P「我々が代わりに背負うことで、皆さんは輝ける」

P「嘘の世界でも、騙されていても」


P「私は皆さんが、生きて笑顔でいてくれるなら、それでよかった」


凛「…………」
135 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:43:13.77 ID:nATks/WC0

凛「……そっか」


凛「プロデューサーも、辛かったんだね」

凛「大丈夫。恨んだりしないよ。プロデューサーのこと、とっくに許してるよ」


凛「根っこは、私が見たままのプロデューサーと全然変わらなかった」

凛「公園で言ってくれたことは、私が信じた言葉は、嘘じゃなかった」

凛「私達を守るために、ずっと優しい嘘をつき続けてくれてたんだね」


凛「……もう、私のことはいいよ」

凛「あとは皆を見ててあげて」


P「……渋谷さん」

凛「ごめん。346がなくなるまでまだ時間はあるみたいだけど」

凛「もう私はそっちにいけない」


凛「大丈夫。最後の仕事は、なんとなく想像つくから。それはちゃんと見てる」

凛「テレビの前で応援してる」


凛「卯月たちは、まだ真っすぐに夢を見続けてる」

凛「卯月や蘭子の夢は、プロデューサーが支えてあげて」




136 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:43:50.45 ID:nATks/WC0

凛「プロデューサー」





凛「さようなら。元気でね」





P「…はい。渋谷さん」





P「さようなら。どうかご無事で」




――――――――――――――――――――
137 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:45:19.13 ID:nATks/WC0

――――――――――――――――――――


P「……本日は、凛さんとの面会の許可をいただき」

P「本当にありがとうございました」

P「……凛さんと、あなた方の無事を願っています」


渋谷父「ああ、ありがとう。君の言葉に嘘が無いことは何となく分かる」

渋谷父「…"喰種"の聴力が恐ろしくなるな。話は全て聞いてしまったよ」

渋谷父「君が悪くないことも分かる。娘のために必死で働いてくれていたことも」

渋谷父「……感謝は、している。君のおかげでこの1年、娘は本当に楽しそうだった」



渋谷父「……君を責めはしない。だが―――――」





渋谷父「―――――二度と娘に関わらないでくれ」



――――――――――――――――――――
138 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:46:08.98 ID:nATks/WC0

――――――――――――――――――――










――――――――――――――――――――
139 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:46:55.21 ID:nATks/WC0



プロデューサー。



あなたに会えてよかった。あなたが私のプロデューサーでよかった。



あなたは私が信じた通り、すごくアイドルや、私の事を考えてくれる、素敵な人だった。



怯えて隠れるしかない人生だって思ってたけど。



あなたが連れ出してくれた先は、すごく楽しかった。



あなたのおかげで、卯月や未央にも会えた。大切な仲間もできた。



プロデューサーには、本当にありがとうって思ってるんだよ。



……でも。私がアイドルをやってることで。



理不尽に殺されていく罪もない人が、いたのなら。



たくさんの人が、夢を踏みにじられたなら。



私が踏み出したせいで、生きられたはずの人が泣いて死んでいったのなら―――――




140 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:47:28.71 ID:nATks/WC0










アイドル、ならなきゃよかった。










――――――――――――――――――――
141 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 10:48:24.57 ID:nATks/WC0

今日はここまで。

次ちゃんみお編です。
142 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 11:51:17.00 ID:nATks/WC0

――――――――――――――――――――


未央『茜ちん、あーちゃん』

未央『ふたりに話したい事があるんだ』


未央『ずっと隠し続けてたけど、言わなくちゃって思って』



未央『私、本当は"喰種"なんだ』



藍子『……未央、ちゃん?』

茜『……?』
143 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 11:51:44.65 ID:nATks/WC0

茜『"喰種"ですか? 喰種って言うと、確か……』

未央『うん。見た目は人に似てるけど、人の肉しか食べられない生き物』

未央『こんな風に、目の色も変わるよ』ギョロ

茜『……!!』


茜『……未央ちゃんが冗談を言ってるわけじゃないんですね』

未央『うん。今まで隠しててごめん』

未央『でも、茜ちんには知ってて欲しかった』

未央『本当の友達に、なりたかった』

茜『……そうですか』


茜『……つまり……』
144 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 11:52:20.75 ID:nATks/WC0





茜『……今まで私相手に手加減していたと言うことですね!?』





未央『えっ』





藍子『……そっち!?』
145 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 11:53:10.47 ID:nATks/WC0

茜『なめないでください! 私も知っています! "喰種"は人間の何倍も速く走れると!!』

茜『しかしそのようなポテンシャルを持っていながら、私と走った時はあんなに遅かった!』

茜『本気を出せば私など追い抜けるはずなのに!』

茜『こうしちゃいられません、未央ちゃん! 勝負です!』

茜『喰種の未央ちゃんと私、どちらが速いか!!』

茜『今一度手加減なしの真剣勝負で決めようじゃないですか!!!』


未央『ちょ』

未央『ちょっと待って待って待って待って!? 問題はそっちじゃないよね!?』

未央『私言ったよね!? "喰種"だって! 人の肉しか食べられないって!!』

未央『食べられるかもしれないって考えなかったの!?』

茜『何ですって!? 私食べられちゃうんですか!?』

未央『食べないよ!?』

茜『そうでしょう!!』

未央『……え? あ、あれ?』
146 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 11:54:12.54 ID:nATks/WC0

茜『未央ちゃん! あえて話すなら、私は未央ちゃんに一つだけ言いたい事があります!』

未央『は、はい』


茜『…未央ちゃんや藍子ちゃんが私に隠し事をしてるって、私はちゃんと気付いてました』

茜『聞かれたくない事みたいでしたから、黙ってましたけど……』

茜『でも、寂しかったです。本音で語り合えてない気がして』

茜『私は、未央ちゃんと藍子ちゃんと仲間じゃないような気がして』


未央・藍子『『……!!』』


茜『でも、未央ちゃんが秘密を話してくれました!』

茜『怖かったと思います! でも話してくれました!!』

茜『私と本当の友達になりたいとまで言ってくれました!!』

茜『私はそれがすごく嬉しいです! 未央ちゃんと本当の仲間になれたから!!』

未央『茜ちん……』
147 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 11:55:40.46 ID:nATks/WC0

茜『だから藍子ちゃんも!』

藍子『!』

茜『藍子ちゃんが何を隠してても、私は藍子ちゃんを嫌いになったりはしません!!』

茜『もちろん、無理には聞きませんが……』

茜『それでも、藍子ちゃんが私を傷つけるだなんて考えてません! 未央ちゃんが私を食べるだなんて考えません!!』

茜『未央ちゃんや藍子ちゃんがどんな子でも、私はお二人が大好きです!!!』


藍子『茜ちゃん……!!』



藍子『…ごめんね、茜ちゃん』

藍子『私も、隠してた。私も、未央ちゃんと同じ"喰種"なの』

藍子『……"喰種"の私でも、今まで通り友達でいてくれますか?』


茜『……』



茜『……何っ!? 藍子ちゃんまで"喰種"だったんですか!!?』


未央『いや気付いてなかったんかい!?』
148 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 11:56:22.57 ID:nATks/WC0

茜『ま、まあ、藍子ちゃんまで"喰種"だったことには驚きましたが……』

茜『変わりません!! むしろ、今まで以上に強く結ばれた仲間!! 戦友!! マブダチです!!!』

茜『今から本当の本当に全力で走りましょう!! 自分を隠す必要なんてどこにもありません!!』

茜『行きますよっ……ボンバー!!』


藍子『……』

未央『っ……』


茜『ほらどうしたんですか二人とも!! 私は一緒に走りたいです!!』

茜『行きますよ! ボンバー!!』


藍子『ぼ、ぼんばー!』

未央『……あはは』


未央『…うっし! 走るか! ボンバー!!』


茜『その意気です未央ちゃん! 藍子ちゃん!! 体をほぐして!! 位置について!!』

茜『走る先をまっすぐ見て!! 思いっきり息を吸って……!!』



『『『ボンバー!!!』』』



――――――――――――――――――――
149 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 12:05:10.16 ID:nATks/WC0

――――――――――――――――――――


藍子(――なんであの日、茜ちゃんに正体を話したか聞いたら)

藍子(――蘭子ちゃんが『受け入れてくれるに決まってる』って言ってくれて)

藍子(――だから、蘭子ちゃんが正しいって証明したくて)

藍子(――茜ちゃんに全てを知ってもらおうとしたって話してくれました)


藍子(――『最初から信じてた』って、未央ちゃんは言ってましたけど)

藍子(――あのとき、未央ちゃんは)

藍子(――すごく、怖かったんだと思います)


藍子(――私が同じ"喰種"だって思われないように、話し方に工夫をつけて)

藍子(――もしもの時は、自分だけ犠牲になろうとした)

藍子(――それだけ怖かったのに、勇気を振り絞って一歩を踏み出してくれたから)

藍子(――私も、茜ちゃんともっと仲良くなれました)


藍子(――ありがとうって、言いたいんです)

藍子(――今までの不安を、取り払ってくれた未央ちゃんに)

藍子(――抱えてた不安を、簡単に壊してくれた茜ちゃんに)


藍子(――なのに)


藍子(――どうして2人とも、346プロに来てくれないんですか)


――――――――――――――――――――
150 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/10(日) 12:06:47.77 ID:nATks/WC0

続いた。

多分今日はここまで。


そして茜ちんは意外といい勝負をした。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 13:27:12.42 ID:GSdg4EFqO
おつおつ
最近更新多くて嬉すぃ
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 19:38:17.73 ID:RboVbaT20
藍子が蚊帳の外の様で…謝罪が必要なのは少し前の財産及び口封じも一緒なんだよなあ
凛はTPの2人を諦めたのか、このまま出番無さそうな感じすらあるし
メロウイエローPは前の話だからうろ覚えだけどまゆPがまゆの正体知らなかった(と記憶してる)ように、会社の実態を知らん可能性もあるか?
153 : ◆AyvLkOoV8s [sage]:2017/09/11(月) 00:03:51.11 ID:sYHaExIf0
>>152
TPについて作中でもうちょい触れとけば良かったかもしれません。

凛はもう奈緒加蓮の救出を諦めてます。
武内Pに必死に頼めばビッグリリィからの救出を手伝ってくれたでしょうが、まだ生きているのかもう既に死んでいるかすら分かっていないし
何より余計なことをすれば茜のように美穂まで殺される、まだ真実を知らず夢を見ていられる卯月たちまで壊してしまうと分かっていたので
凛は喰種の友達の笑顔をとって人間の友達を見捨てることを選びました。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/11(月) 12:24:17.31 ID:sqGzCiZXO
隻眼3人の活躍が楽しみ
155 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 16:03:21.60 ID:sYHaExIf0

〜凛・未央による346プロ潜入から4日後 346プロ〜


藍子「……閉鎖?」

藍子P「ああ」


P「……すまない、どうやら白鳩は346プロの秘密に気付いてしまったらしい」

P「上が『これ以上の活動は不可能』と判断してな」


P「藍子をトップアイドルにしてやりたかった」

P「でも、俺がプロデュースしてあげられるのはここまでみたいだ。ごめんな」
156 :振り分け画像見返したら夕美が人間扱いになってた。夕美は喰種設定です。 ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 16:05:37.46 ID:sYHaExIf0

藍子「ッ……」

藍子「……ううん。分かってます」

藍子「覚悟は、してました。いつまでも、このままアイドルを続けられるとは、思ってませんでした」

藍子「私だって、346プロに来るまでは……"喰種"がこんな世界にいられるなんて思ってなくて」

藍子「だから…こんな優しい世界にいられたことが……本当に夢みたいでっ……!」

藍子「……」


藍子「……本当に、終わりなんですか?」

P「終わりじゃないさ」

藍子「…えっ?」


P「確かに、346プロは終わりだ」

P「だが藍子の人生が終わるわけじゃない」

P「俺も346プロも、全力でお前を逃がす」

P「ここは無くなるけど、藍子が生きている限り夢を見ることはできる」

P「見た夢を実現するための時間だってある」


P「それは藍子の仲間だってそうだ」

P「生きていればまた会える。またやり直せる。また作り直せる」

P「ただちょっと危険から逃げて、しばらく身を隠すだけだ」


P「忘れるな、藍子」

P「君の未来はまだ無限に広がってる」

P「ここでの思い出や、いつか隣に立った仲間たちが、また立ち上がらせてくれる」

P「……そうだろ?」
157 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 16:08:50.04 ID:sYHaExIf0

藍子「…プロデューサー、さん」

P「だから藍子。泣かないでくれ」

P「十二時の魔法が解けても、シンデレラはまだ頑張れるだろ?」

藍子「……」

藍子「……はいっ」


P「よし良い子だ。さすがは俺の見つけたシンデレラ」

P「じゃあ脱出方法を簡単に説明する」


P「藍子にはこれから、野外ロケの仕事が入る」

P「これは全員同じだ。喰種も、人間も」

P「わざわざ『仕事』の名目にするのは、人間アイドルから事情を隠すため」

P「あとは、全員同じ理由にすることで誰が人間で誰が喰種か判別させなくするためだ」


P「すごく急な話だが……藍子には明朝までに必要な荷物をまとめて、バスを使って指定の場所まで動いてほしい」

P「俺はついて行けないから、ちゃんと一人でやる事を覚えて動いてくれ」

P「できるな?」
158 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 16:09:51.59 ID:sYHaExIf0

藍子「明朝? ほ、ほんとに急な話です……それも一人で……ひとり?」

藍子「あ、あの! プロデューサーさんはついてきてくれないんですか!?」


P「……ああ。ついて行けない」

P「俺は残って、仕事しなきゃいけないからな」

P「346のプロデューサーがほぼ全員"喰種"だとは気付かれてるらしくてな」

P「俺がついて行ったら藍子にもマークがついてしまう」

P「だから一緒にはいけないな」


藍子「そんな! じゃあ、プロデューサーさんはここでっ……!」

P「そうだな。俺はここで死ぬと思う」

藍子「い、嫌です! そんな事、絶対いやです!」

藍子「プロデューサーを置いて逃げるなんて……そんな話、いきなりされても……!!」

P「ははっ」


P「なんで急な話なのか分かっただろ?」

P「藍子は優しいからな。絶対そう言うと思ったよ」
159 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 16:12:32.61 ID:sYHaExIf0

藍子「いや……嫌です……こんな急に、お別れなんて……!!」

P「……俺から言えることはもうない」

P「大事なことはさっき言った」

P「藍子はちゃんと『はい』って言えた」


P「俺はずっと、藍子を応援してる。ずっと藍子の味方だ」

P「……良い子だから、ちゃんと言うこと聞いてくれ。な?」

藍子「ッ……グス……」


――――――――――――――――――――


藍子(――分かってます。駄々をこねたって、どうにもならないって)

藍子(――プロデューサーさんや346の皆さんは、最初からそのつもりだったんです)

藍子(――自分を犠牲にしてでも、最後まで私達を守ってくれる気だったって……)


藍子(――もし、プロデューサーさんが守ってくれなかったら)

藍子(――私もきっと、ああなってたって)



『指名手配 She is Ghoul』


『速水奏』

『塩見周子』

『宮本フレデリカ』

『佐久間まゆ』



「フレデリカさんたづ、"喰種"だったんだか? わだすも一緒にお仕事すだことあっだのに……」

「そういえば、数日前からお姿を見ていませんでしたわね。まゆさんも、プロデューサーと旅行に出かけたきり帰ってきませんわ」

「まさか"喰種"が紛れ込んでいたのに見抜けなかったなんて……この冴島清美、超☆風紀委員として一生の不覚です!」

「複雑でありますな……悪い人達ではないと思っていましたが、あれは演技だったのでしょうか」


藍子(――人間のみんなは、奏ちゃん達が悪い人だったんじゃないかって疑い始めてる)

藍子(――あんまり関わってなくても、同じ事務所の仲間だったのに)


藍子(――その"喰種"が、今ここにいるって知ったら)

藍子(――私も同じことを言われちゃうのかな)
160 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 16:13:19.22 ID:sYHaExIf0

藍子(――ううん。茜ちゃんは、ちゃんと受け入れてくれた)

藍子(――分かってくれる人はちゃんといたんだよ)


藍子(――だから、お願い)

藍子(――346プロに来てください)

藍子(――メールの返事をください)

藍子(――会いたいよ、茜ちゃん)

藍子(――会いたいよ、未央ちゃん……!!)





「……あっ」





藍子「!!」

藍子(――この声!!)バッ



「わっ、見つかっちゃった!」

「…参りましたなあ。皆の様子だけ見て、どっか行くつもりだったのに」


藍子「……み」


藍子「未央ちゃん……!!」



未央「……やっほー、あーちゃん」


未央「三日ぶり」


――――――――――――――――――――
161 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 18:05:09.63 ID:sYHaExIf0

〜近くの喫茶店(346御用達。外伝前編参照)〜


未央「……そっか。あーちゃんは明日出ていっちゃうんだ」

未央「うん、私もプロデューサーから聞いてるよ。346がなくなるって」

未央「最後の仕事はCPに回してくれるみたいでさ」

未央「テレビ放送もちゃんとやってくれるみたいだし、どっかでそれ見てからこの町を出ようって思ってる」


藍子「最後の仕事……『笑顔の橋』、ですか?」

未央「そ。来週その宣伝ライブをしまむー達がやる予定だったんだけど、ご存知の通り来年までもたないからさ」

未央「それでも、りーなやしまむー、らんらんはやりたそうだったから」

未央「その放送が終わって、みほちー、なつきち、あすあすと一緒に皆東京から出て」

未央「それで346アイドルの避難は完全に終わり、なんだって」

未央「CCGにバレないようこっそりやるから(本当は人質取ってるから手出しされないんだけど)、CPも大丈夫って言ってたよ」


未央「出演するのはCPの全員じゃなくて、しまむー、らんらん、りーな。あとらんらんのお願いでアーニャも参加するんだけど」

未央「私としぶりん以外は、楽屋で応援するみたいだよ」


未央「宣伝ライブって体だけど、最後の仕事でやれるだけやりたいって、らんらん達は本気でさ」

未央「余裕があればでいいから、あーちゃんもテレビで見てあげて欲しいな」
162 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 18:05:43.62 ID:sYHaExIf0

未央「……で」


未央「今まで来なかったのは、家族と折り合い付けなきゃいけなかったから」

未央「ほら、話したでしょ? 私は人間に育てられたって」

未央「このままじゃ確実に重罪人コースだったからさ。みんなには先に夜逃げしてもらったんだ」

未央「…皆して一緒に来い一緒に来てってずっと揉めたから、私はCPのみんなと逃げることにしたって言ったんだ」


藍子「…逃げることにしたって、『言った』?」

藍子「じゃあ、本当は……」

未央「うん。一人でどっか行くことにしたよ」

未央「しぶりんと同じでCPの皆には会い辛くて。…あーでも、ホームレス暮らしなんてやったことないからなあ」

未央「今までお仕事で貯めたお金はそこそこあるし、家を借りてもいいか」


未央「……そっから先は、どうしようかなあ」

未央「学校には、いけそうもないからなあ」


藍子「……」
163 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 18:06:28.53 ID:sYHaExIf0

藍子(――久しぶりに会った未央ちゃんは、どこか異様な雰囲気でした)

藍子(――私と話している時も、時々独り言のように呟いています)

藍子(――3日前までの未央ちゃんと比べて、何処が、とははっきり言えないけど)

藍子(――それでも、何かがおかしくなった事は分かります)

藍子(――まるでさっきのプロデューサーみたいに)


藍子「……?」


藍子(――何が? 今の未央ちゃんは、なにがプロデューサーに似ているの?)

藍子(――現実を見ていない目。悪い意味でふわふわとした喋り方)

藍子(――どこか悲しそうな顔)

藍子(――まるで、このまま何処かに消えていってしまいそうな……)


藍子(――あ)


藍子(―――――!!!)



藍子「……ッ、未央ちゃん!!」

未央「!? お、おおうッ!?」


未央「ど、どしたのあーちゃん? あーちゃんらしくないよ、いきなり大声出して」

藍子「……未央ちゃん」


藍子「今の未央ちゃんの様子……」

藍子「ついさっき会った、私のプロデューサーと同じ表情をしてました」

未央「……ん? どゆこと?」


藍子「今の未央ちゃんの顔……」



藍子「生きることを諦めた人の顔です」
164 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 18:06:58.06 ID:sYHaExIf0

未央「!」

未央「……そっか」


藍子「……否定、してくれないんですか?」

未央「…そーだね。そうかも」

未央「CPの皆に会いたくないのも、家族と一緒に行かなかったのも、こうやってあーちゃんとお喋りしてるのも」

未央「多分、終活気分なんだ」

未央「べつに自殺とかはする気ないけどさ」

未央「どこかで死に場所みつかるかな、くらいは考えてる」

藍子「そんなのダメです!」

藍子「なんでそんな事、軽々と言えるの!? 未央ちゃんに何があったの!?」

藍子「死ぬとか、終活とか、そんなこと言う人じゃなかったのに!」

未央「私のせいで茜ちんが死んだからかな」

藍子「だからってそんな……」


藍子「……茜ちゃんが、死んだ?」
165 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 18:09:02.99 ID:sYHaExIf0

未央「死んだ」

未央「私のせいで死んだんだよ」


未央「346プロはさ。メチャクチャ徹底して秘密を守ってた」

未央「茜ちんが、私とあーちゃんが"喰種"だって知ったこと、すぐに掴まれてたみたいで」

未央「すぐに捕まって、殺されちゃった」


未央(……財産のこととかは言うのナシにして、これくらいなら話してもいいよね)


未央「少し考えれば、分かる事なのにね。プロデューサーにペナルティくらい聞いとけば良かったのに」

未央「勝手に行動して、勝手に秘密ばらして。何様のつもりなんだろうね、私」


藍子「……!!」

藍子「……で、でも。それでも!!」


藍子「私は未央ちゃんに生きて欲しいです! 茜ちゃんが死んだからって、未央ちゃんのせいじゃないし、未央ちゃんまで失いたくないです!!」

藍子「お願いです、そんな、自分の事を責めていなくならないで……!!」


未央「……あーちゃん」



藍子「……そうだ。一緒に暮らしませんか?」

藍子「私、何かあった時はお母さんの実家に逃げるって家族で決めてたんです!」

藍子「未央ちゃんもこっちに来ませんか!? ううん、来てください!!」

藍子「お父さんもお母さんも歓迎してくれます! 未央ちゃんのこと話したら、会ってみたいって言ってくれたんです!!」

藍子「必要なものなら、たぶんなんでもあるから……このままいなくならないでください!!」

藍子「何をやったって、未央ちゃんは大切な友達なんです!!」

藍子「だから……だからっ……ヒグッ……」


未央「……もー」

未央「私ってば、ほんとに愛されてたんだなあ」


未央「お父さんもお母さんも兄貴も弟も、すっごくしつこかったし」

未央「これだけ言ってくれる友達もできた」

未央「……幸せ者だなー、私」
166 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 18:11:32.50 ID:sYHaExIf0

未央「でも、できないや」

未央「私みたいなのが傍にいたら、きっとあーちゃんも悪い子になっちゃうから」

未央「あーちゃんはふわふわで優しくて、私の憧れの女の子だったから」

未央「おんなじ"喰種"なのに、あーちゃんは人間と変わらず優しかったから。そういう所が大好きだったから」

未央「どうか、あーちゃんにはずっとそのままでいて欲しいな」


未央「…じゃ、そろそろ行くね―――」


ドスッ


未央「……もー。あぶないなあ」

未央「ちょっと壁えぐれてるじゃん」


藍子「…行かせません。絶対に行かせません」バキキ

藍子「茜ちゃんが死んだからって、未央ちゃんのせいじゃないんです」

藍子「そんな下らないこと考えてるなら、私だって厳しくなります」


藍子「……傷つけてでも、暴力に頼ってでも」

藍子「このまま死にたいなんてふざけたこと言うなら、私だって戦います」

藍子「このまま未央ちゃんを動けなくしてでも、引きずってでもうちに連れていきます」ギョロ


藍子「それくらいの才能なら、私にだってあります」
167 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 18:12:19.45 ID:sYHaExIf0

未央「…そういや、あーちゃんの赫子初めて見たなあ」

未央「私と同じ甲赫だったんだ。思ったより分厚くて固そうだけど、刃がついてないのはあーちゃんらしいや」

未央「参ったなあ。こっちはあーちゃんを傷つけたくないんだけどなあ」


藍子「じゃあ黙って私のところに来てください」

藍子「私は本気です……!!」


未央「まーったく……」

未央「……仕方ないかあ。これ以上、嫌われたくなかったんだけどな」


未央「実はね、あーちゃん」

未央「家族ともめた時、みんな最後まで私を外に出してくれなかったんだよ」

未央「兄貴なんかは、ずっと私にしがみついて離してくれなくて」

未央「まあ、やろうと思えば"喰種"の力で引き剥がして強行突破も出来たけどさ」

未央「でもそんなことしたらケガさせちゃうの目に見えてるし」


未央「それでね。結局、どうやって家を出たかなんだけど」

未央「『ある事実』を言ったら、皆すごく動揺したんだ」

未央「その隙をついて、家を出て、今ここ」

藍子「……?」


未央「よーく聞いてね、あーちゃん」

未央「私のせいで茜ちんが死んだって言ったでしょ? あれ、ちょっと違うんだ」

未央「まず私が散々に痛めつけられちゃってね。すごいもんだよ、お腹に穴空いたもん」

未央「一応治ったんだけどさ。やっぱりすごく体力使うみたいで、苦しくて苦しくて」

未央「食事も最低限にしかとってなかったからさ、お腹もすいちゃって」


未央「そんな時に、目の前に茜ちんを連れてこられた」

未央「茜ちんは、捕まってることも忘れて私の心配ばっかりしてくれて」

未央「そして、すっごくいい匂いがして」


未央「ここまでお腹がすいたの、実は初めてだったんだ」

未央「だから"喰種"の飢えが地獄だってこと知らなくてさ」


未央「あんまりお腹がすいたもんだから、意識も途切れ途切れで、何も考えられなくて」

未央「必死に声かけてくれる茜ちんのことも、耳に入ってこなくて―――――」





未央「そのまま――――――――――」




168 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 18:13:39.21 ID:sYHaExIf0










未央「食べちゃった」










未央「私、茜ちんのこと食べちゃった」





未央「気がついた時には、茜ちんの顔以外見れたもんじゃなくなってた」

未央「あ。涙でぐしゃぐしゃになってたから、顔も見れたもんじゃないのか」
169 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 18:16:19.11 ID:sYHaExIf0

藍子「―――――」



未央「……ほら。効果てきめん」スッ


未央「恨んでいいよ。気持ち悪いって思っていいよ」

未央「だってそうでしょ。信じてくれた友達を食べたんだもん」

未央「もう誰にも会わない方がいい。このまま死んだ方がいい」

未央「……本当に、生きてるだけで気持ち悪い」



未央「じゃあね、あーちゃん」カラン



未央「あーちゃんのコーヒー、好きだったよ」
170 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 18:17:13.27 ID:sYHaExIf0

――――――――――――――――――――


藍子「……っ!」ハッ


藍子「―――未央ちゃん!!」ガチャ


藍子「……あ……」



藍子(――何秒か後に、私は我に返って)

藍子(――店を出て未央ちゃんを探したけど)

藍子(――もうとっくに、影も形も見えなくなってしまっていました)


藍子(――分かってます。同じ"喰種"でも、未央ちゃんは私よりずっと足が速い)

藍子(――今から追いかけても、もう追いつけないってことくらい)


藍子「……うっ……」ヘタリ


藍子(――どうして気付けなかったんだろう)

藍子(――未央ちゃんが死にたがってた、本当の理由に)

藍子(――少し考えれば、分かりそうなものだったのに)

藍子(――どうして分かってあげられなかったんだろう)


藍子「ううっ……ぐすっ……ひっく……」


藍子(――お願い。死なないでよ、未央ちゃん)

藍子(――会いたいよ。このままお別れなんて嫌だよ)


藍子「未央ちゃんっ……ううっ……」

藍子「……うああぁぁぁぁぁああああ……!!」


藍子(――どうして。どうしてこんなに)


藍子(――こんなにいきなり、皆いなくなっちゃうの)



――――――――――――――――――――
171 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 18:18:27.63 ID:sYHaExIf0

――――――――――――――――――――



未央「……ここまでくれば、もう追っかけてこないかな」

未央「……」


未央「……泣かせちゃったなあ」

未央「こんな目に遭わせるなら、お喋りなんかしないで見つかった時点で逃げてた方がよかったかなあ」


未央「こんな調子なら、CPの皆にも会わない方が良さそうかなあ」

未央「応援くらい、言ってあげたかったんだけどなあ」


未央「……」



『あなたはちょっと、自分の立場が分かっていないようなので』

『"喰種"が本当はどんなものなのか、身体に教えてあげます』

『私達は"喰種"。どうあがこうと、人喰いの人殺しなんですよ』



未央「……」



未央「……これから、どうしようかな」



未央「せっかくなら、誰かを守って死にたいな……」



――――――――――――――――――――
172 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 18:25:27.64 ID:sYHaExIf0

一旦ここまで。


とある藍子Pをフォローしているのですが、その方のダイマから藍子が本当に優しくて穏やかな子だと言うのが分かります。

"喰種"の自分が嫌で嫌で仕方なかった未央にとって、"喰種"でも人間みたいに穏やかでいてくれた藍子の存在は本当に救いでした。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/11(月) 19:13:19.66 ID:MUvQ13ZJ0
乙です!

親友を食べさるとは千川も惨いことをする
どうしても口封じが必要なら極力苦しまないように殺してやるのがせめてもの情と言うものだろうに
よく言われているネタではなく本当に悪魔のような奴だな
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/11(月) 20:30:36.87 ID:VPL0F1bC0
藍子ちゃんのかぐねは多分オークションの時のピクハゲみたいな刃無しの鈍器型なのかもなぁ
175 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 22:01:09.21 ID:sYHaExIf0

――――――――――――――――――――


丸手「――奴らの置手紙に、346プロ最後の仕事も書かれてた」

丸手「12月25日の金曜日、音楽番組への生放送ゲスト出演および346プロダクション単独ライブ宣伝」

丸手「あとはシンデレラプロジェクトほか選抜メンバー7人によるステージ出演だ」

丸手「で、避難完了日も同日」

丸手「こいつらを最後に346プロのアイドルは全員避難完了ってわけだ」


篠原「そして避難完了日には346プロ全職員を本社に待機させる、ってことは……」

吉時「皆の考えている通りだ。キャッスル討伐作戦は1週間後の12月25日」

吉時「番組終了時の午後9時ちょうどを以て開始する」

宇井「"喰種"が出ているかもしれない番組をそのまま放送させるんですか? 少なくともCは"喰種"だと分かっているのに……」

法寺「しかし人質が最後の一人まで残っている可能性がある以上、中止させるわけにもいきません」

清子「手間はかかるけど、346プロを壊滅させてから調べるしかないわね」

実「不可能ではないな。アイドルの行き先を調べて検査を受けさせれば、時間こそかかるが確実に喰種アイドルを追い詰められる」


吉時「そうだ。無闇に人質を危険に晒すこともない」

吉時「最優先はキャッスルの資金源および人脈を断ち社会的に無力化すること」

吉時「ただし346プロが大人しく捕まるとは考えられないから、十分な編成で討伐に臨む」

吉時「たとえそれが彼らの計画と一致していようが、ね」
176 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 22:01:46.34 ID:sYHaExIf0

丸手「…あー、そのことなんですがね局長」

吉時「なんだい? 丸手特等」

丸手「その番組出演メンバーへの対処について、『やらせろ』ってうるさい奴がいるんですよ」

吉時「誰だ?」


丸手「黒井上等です」


黒磐「! 崇男か」

篠原「ああ……なるほど。なんであれ喰種のアイドル見逃せって、あいつ絶対納得しないもんな」

丸手「そうだよ。作戦を聞いた黒井の野郎が、イヤミ並べたてながら迫って来やがったんだよ」

丸手「……つーわけで局長。出演メンバーの確保および駆逐について、黒井上等が単独でやりたいって言ってるみたいなんです」

丸手「方法についても、あてはあると」

吉時「…ふむ。どんな方法だ?」


丸手「この間『飛び級』で入局させた、3人の新人捜査官にやらせるそうです」

丸手「彼等なら顔が割れてない上に、実力も申し分ないと言っていました」

丸手「そうやって捕らえた喰種アイドルを情報源にして、同じアイドルの捜査を効率よく進めていくとも」


吉時「新人……なるほど、彼らか」


丸手「ええ」
177 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 22:02:18.50 ID:sYHaExIf0



丸手「天ヶ瀬冬馬、伊集院北斗、御手洗翔太」



丸手「以上3名が黒井上等捜査官の指示の基で」



丸手「『キャッスル討伐作戦』と並行して―――――」





丸手「―――『346プロ所属アイドル捕獲・保護作戦』を遂行します」


178 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 22:03:38.08 ID:sYHaExIf0

今日はここまで。

>>174
そうですね。それが一番近いイメージです
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/11(月) 22:54:12.08 ID:ux6c7CgB0
うーんこのちひろは所業も去ることながら「立場を分からせる〜」等の上から目線口調もいらっとするな
それはさておき、捜査官サイドで原作から輸入されたの見て提案あるんだけど
主が設定考えた346アイドルの内、全編通して出番が無さそうだなって思ったキャラを思い切って捜査官側にキャスティングして登場してもらうのは可能?

180 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/11(月) 23:50:16.78 ID:sYHaExIf0
>>179
キャスティングするにしても、そう多くは出せないかなと思います


と言うのも

1、アイドルの道を諦めてまで、喰種とはいえ元々同じプロダクションの仲間だった子と自分から戦う、さらには 『 殺 す 』 動機・あと冷静になれない理由を作れるか
  (攻撃的になれない・特に強い因縁が無い子は無理)
2、過酷な喰種捜査官の仕事をこなせる体力 (レッスンでみんな多少は動けるけど戦闘となるとまた別の話) や技術があるか
  (ただの女子高生・女子大生・体力に特化してるわけじゃない大人は出来ない)
3、ふつう捜査官が入るアカデミーやジュニアの過程をいかにすっとばすか、ふつう保護者が反対するだろうから年齢の問題をいかに解決するか
  (特に理由がない限り少なくとも18歳以上じゃなきゃ実戦に行かせられない)

等の問題をクリアしなきゃいけないため、捜査官に登用できるアイドルは結構限られてくるんですね


あとはキャラクターをあまり把握できていないアイドルをよく分かってないまま死なせたり悲劇に巻き込んだりするのは個人的に気が進まない(sideMのキャラを出さなかった理由もこれ)ため

捜査官に使う方向で、346のアイドル全体を活躍させることはちょっと出来ないかな、といったところです
181 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/12(火) 19:53:50.76 ID:Z1xPk/XU0

――――――――――――――――――――


〜特等捜査官会議 終了〜


実「そう言えば美樹。市原一等が捕らえて君が所有権を持っている『H』、サギサワのことだが」

実「あれはまだ生かしておくのか?」

美樹「いいえ。まともな情報を持っていなかったし、近々廃棄するつもりよ」

美樹「せめて同類の振り分けに使えるかと思ったけど……何をやっても口を噤んだままだし」

美樹「ろくな交渉材料がない以上、生かしておく必要もないわね」

実「そうか」


実「なら、君の手を借りられるのもここまでだな。あとは私達に任せてほしい」

実「だから美樹は、その……ありすに構ってあげてくれないか」

美樹「!」

実「他に仕事があったとはいえ、私がろくに協力できなかったせいで君を忙しくしてしまった」

実「きっとありすも寂しがっている」

実「情けないが、特等として私はこれからもっと忙しくなるだろうから……せめて君だけは、あの子の側にいてやって欲しいんだ」

美樹「実さん……」


美樹「…そうね、分かったわ。一足先にお休みして、ありすと一緒に待ってる」

美樹「でも無茶はしないで。あなただってありすの父親なんだから」

実「分かっているさ」


――――――――――――――――――――
182 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/12(火) 19:57:38.71 ID:Z1xPk/XU0

1レスだけですが今日はここまで。かなり眠い

橘パパの名前は「in fact → 実は」の翻訳と、ついでに実が植物関係の漢字だったのとで決めました。

ちなみに市原パパの名前は「市原ハルオ」って設定にしてます
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/12(火) 20:47:04.28 ID:R0T26d1HO
喰種「ほんとの、私を(人間は)誰も知らない」
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/12(火) 21:09:27.73 ID:NyAzWmRe0
すいません、聞いたお話しなのですがグロテスクな表現があるSSは全面禁止らしいです
外伝、本編共々楽しませて貰ってますがマナー違反だそうですのでRに移った方が良いそうですよ
不快な気分になる人ももしかしたら居るかもとご指摘がありましたので、長々とすいません
185 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/12(火) 22:16:04.93 ID:Z1xPk/XU0
>>184

ゆかりが指もぎ取られてる
未央が腹に穴開けられて茜食べた
奈緒加蓮の現在予想図(手足のない身体で云々)


この辺りの展開についてでしょうかね


一応、>>2で書いてある通り↑のシーンは食事中、指切断中のグロテスク、リョナ嗜好「描写」は省略して
なるべく後からの報告、結果と言う形でショッキングな「展開」だけ書くように配慮してはいるのです(ゆかりと茜の首はちょい不味かったかも)

ぶっちゃけグレーゾーンって自覚はありますがどうかご容赦願いたい


……耳にムカデとかどうしよう。どう考えてもアウトじゃんあれ。あんなのお茶の間に流せねえわ
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/12(火) 22:33:14.73 ID:+YuyrdIr0
乙です!

相変わらずCCGの言う「廃棄」という表現は嫌だな
方法もプレス機で身体全体を跡形も無く潰してしまうみたいだし
どうせ[ピーーー]ならせめて人間の死刑囚に行うのと同じような方法にして、「廃棄」という言葉も変えてやって欲しいものだ
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/13(水) 00:36:07.64 ID:+L8tcpPz0
>>186
「こいつら喰種は人間に似てるけど人間じゃないから何してもいいんだ!こいつらは狡猾で凶暴な獣なんだ!だから死体をバラバラにして武器に加工しても毒ガス兵器使用してもプレスで処分しても正義正義!」
くらいの自己暗示がないとハトなんてやってられんでしょ
前スレの日高舞は目が覚めて辞職したけど、差別のコツは思考停止して相手以上の蛮族になることやで
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/13(水) 01:46:08.50 ID:hRVFeZIJ0
>>164です
はい
別なジャンルのSSになりますが、ここより軽めの内容でもモラルの問題がありRに行くべきだと討論されておりまして
一応お伝えすべきなのかと思った次第です、重ね重ねすいません
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/13(水) 01:47:02.04 ID:hRVFeZIJ0
間違えました
>>184です
190 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/13(水) 21:45:09.44 ID:LaJhCUBn0
>>188
御忠告痛み入ります……


確かに最近、色々偏ったもの見てて「グロい=outlastのグルースキン」くらいには基準ぶっ壊れてるなあと気付いたので

このままだとアカン描写を普通にやってしまいそうだと自覚出来てよかったです。
191 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/13(水) 21:45:45.09 ID:LaJhCUBn0

――――――――――――――――――――


橘「……もしもし、ギン?」

市原『もしもし美樹サンか。どした?』

橘「捜査について、特等会議が終わったところなんだけど……」

市原『おお、終わったか! 作戦はいつだ? クインケの新調も終わったしいつでもいけるぜ』

橘「気合十分ね。あと、キャッスル討伐作戦のことだけど」

橘「橘特等ほか特等の皆さんに引き継いでいただくことになったわ。だから私達の出番はここでおしまい」

市原『そーかそーか、ここでおしまい……』

市原『……は?』


橘「任務終了よ。貴女も私もしばらく休暇。娘に構ってあげなさいって言われたわ」
192 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/13(水) 21:48:00.90 ID:LaJhCUBn0

市原『ちょ……ちょっと待てオイ! 美樹サン知ってんだろ!?』

市原『こっちはハルオの治療費と仁奈の養育費稼ぐために喰種狩らなきゃいけねえンだよ!』

市原『休暇とか取ってられるか!』


橘「あら、言ってなかった? 市原ハルオ二等捜査官の治療のこと」

橘「片桐さんが桃華ちゃんを通じて櫻井家に協力してもらったのよ」

橘「今後、市原二等の治療費は櫻井家が全額負担してくれるらしいわ」


橘「『櫻井家の者が、娘を喰種の巣窟から救い出してくれた恩人のために、娘の友達の父親を助けないわけがない』ってね」


市原『……え……』

橘「だから……ありすのことがあったとは言え、私の援助を断ってまで仕事し続ける理由がなくなったのよ」


市原『……あ……い、いや待て!』

市原『カネのためだけじゃなくて、ハルオをあんな風にしやがった「隻眼」だって探さなきゃいけねェし……』

橘「まだ影も形も見つかってないでしょ。少なくとも今やることじゃないわ」
193 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/13(水) 21:50:39.49 ID:LaJhCUBn0

市原『ぐ……』

橘「……いい加減、仁奈ちゃんから逃げるのやめたら?」

市原『に、逃げてなんかねェよ。……実際、教育に悪いって思ってンだよ』

市原『こんなのが近くにいたら、仁奈がまともに育たねえって……』

橘「……はあ」


橘「ギン。貴女の今のクインケ、何て言う名前だったっけ?」

橘「私、あれ長くて覚えられないのよ」

市原『美樹サンが言う時は『アニマル』でいいって言ってんだろ』

橘「はいはい。それで? 本当はなんて名前?」

市原『……ウサギドラゴンヒツジオオカミパンダペンギンサメイカコアラ獅子舞アライグマカエルヒヨコニワトリツバメクマイヌサルリス旗ゾウハチ亀サンバ』

橘「……何か増えてない?」

市原『2コ足したんだよ。前のはウサギドラゴンヒツジオオカミパンダペンギンサメイカコアラ獅子舞アライグマカエルヒヨコニワトリツバメクマイヌサルリス旗ゾウハチだ』

橘「もういいわ、とにかく」


橘「娘がやった仕事をいちいち暗記する熱意があるならね、その間違った方向の親バカっぷりを少しは娘の前で見せてあげなさい」

橘「上司命令よ、今すぐ片桐さんや仁奈ちゃんがいる宿舎に向かいなさい」

市原『う……』

市原『……〜〜〜〜〜ッ!!』


市原『……クソっ、分かったよ。行けばいいんだろ行けば』

橘「お見舞いは私が代わりに行ってあげるから。ちゃんとお喋りしてあげなさいよ、じゃあね」ピッ


橘「……ふう」



橘「……私も、人の事言えないわね」


――――――――――――――――――――
194 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/13(水) 23:03:33.74 ID:LaJhCUBn0

〜某総合病院〜


「ギ……ン……仁、奈……」

「見……ゲエだろ……キリン………」

「せか、ち……ブツブ…………なんだぜ…………」


橘「……お久しぶりね、市原二等」

橘「ごめんなさい。今日はギンのお見舞じゃないの」

橘「しばらくは仁奈ちゃんにかかりっきりで、夫の貴方は後回しになるかもね」



橘(――市原ハルオ)

橘(――ギンの夫で、仁奈ちゃんのお父さん)

橘(――CCGアカデミージュニアスクール卒業後、ギンと共に止むを得ない事情により)

橘(――アカデミーを経由せずCCGに入局、3等捜査官からの活動開始となる)

橘(――周囲の冷ややかな視線の中、生まれた仁奈ちゃんのために必死で喰種の駆逐に臨んでいた市原夫妻だったけど)


橘(――二年前、仁奈ちゃんが生まれて7年目……市原二等は望まぬ引退を強いられた)
195 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/13(水) 23:04:09.57 ID:LaJhCUBn0



橘(――『Rc細胞過剰分泌症』、通称『ROS』)



橘(――本来、喰種だけではなく人間の体内にも微量に含まれるRc細胞が、何らかの異常により過剰に生成される症状)

橘(――特徴は赫子に似た嚢腫の形成。症状が進行した市原二等は、今や意識が朦朧とし寝たきりになっている)

橘(――治療法は発見されておらず、Rc抑制剤で進行を抑えることが唯一の対処法となっている―――――)



橘(――原因は判明していない。ただ、きっかけは分かっている)

橘(――2年前の、『隻眼』による突然の襲撃)

橘(――10年以上前に、子供と思われる年齢にて既にSSSレート喰種『リトルバード』とほぼ互角に争った『隻眼』は)

橘(――当時の襲撃にて捜査官や一般市民を喰い散らかすだけでなく)

橘(――何人かの被害者に自身の赫子を埋め込み、操り人形にして『遊んだ』)


橘(――そのうちの一人が、捜査官の一人として立ち向かった市原二等)

橘(――手術によって一命を取りとめたものの、恐らく異質な赫子が直接体内に混入した影響でROSが発症し)

橘(――今も、人としての生き方、人としての喜びをすべて奪われ続けている)
196 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/13(水) 23:06:25.68 ID:LaJhCUBn0

橘(――ギンは夫の病気を仁奈ちゃんに明かしていない)

橘(――2年前から『海外に行った』と嘘をつき続けて、裏では市原二等の高い治療費と仁奈ちゃんの養育費を絞り出すため)

橘(――そして夫を壊した仇の『隻眼』にたどり着くために、喰種を殺し続ける生活を送っていた)


橘(――彼女の経歴を嫌う捜査官達に、助けを求めることもできない)

橘(――私が援助を申し出たこともあったけど、ありすがいるから受け取れないと躱し続けた)

橘(――ずっとずっと、本当は母親に甘えたいのに我慢している仁奈ちゃんから目を背けながら……)



橘「……ようやく、貴方の治療費を支払い続けてくれる人を見つけたわ」

橘「ギンは戸惑っていたけど、ようやく母親としての仕事に向き合えそう」

橘「仁奈ちゃんが貴方のことを知るかどうかは、まだ分からないけど……心配はいらないわ」

橘「だから目が覚めた時は……また貴方や、仁奈ちゃんの好きな動物園にたくさん連れて行ってあげて」


橘「…私も、貴方と話すのはこれまでにして……私の娘に会ってくるわ。どうかお元気で」


――――――――――――――――――――
197 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/14(木) 00:10:14.12 ID:BatE9BoQ0

もうちょい書きたかったけど日付超えたので今日はここまで。


橘パパは特等だから治療費払えるじゃねーかと突っ込まれそうですが

一応裏設定として橘パパが特等に昇進したのは割と最近であり、
また夫婦共にいつ戦えなくなるか分からない職業についている以上、どこかで稼げなくなるかもしれないありすのための蓄えを
パートナーの夫とはいえ他人のためにどれだけ崩し続けられるか覚悟を決める必要があり、援助に強気になれなかった事情があります。
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/14(木) 01:00:21.31 ID:3MkUCEJU0
過去スレみたら島村一家全滅してたの思い出した
流れから見て蘭子ちゃんのせいやろなぁ
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/14(木) 01:01:38.87 ID:A/FL06lZ0
>>180
こちらの言葉が足らなかったせいか、正しく伝わらなかったようなので付け加えさせてもらうと
元々サイドMが登場予定だった?捜査官ポジションの穴埋めとしてモバマスの「キャラ」を使っては?って意味のもので
と言っても作者が上げた難点は最もで、必要なら346のアイドルじゃなくしたり庭出身なんて設定盛りも込みにしての
ここでのSSにおける日高舞のような、ガチの捜査官一筋みたいな風なイメージしての提案だった訳で
ただ>>156等を見る限り、キャスティングや設定に関して並々ならぬ思い入れも伺えるので、
改めて正しく理解してもらった上で無理と判断したら、聞き流してもらって構いません。
200 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/14(木) 23:56:55.46 ID:BatE9BoQ0

――――――――――――――――――――


市原『……美樹サン』

市原『あたしはな、ゴミみてえな人間なんだよ』

市原『2人そろって喰種に喰われたから親もいねえ、金もねえ、頭もねえ』

市原『ジュニアじゃ2人でバカばっかやってろくに勉強もしねえ』

市原『卒業間際に後先考えねーでヤることヤって、養う準備もしてねえのに仁奈を産んで』

市原『クソみてーな三等捜査官からじゃなきゃCCGに入れなくてバカにされまくったバカ2人なんだぞ』


市原『仁奈を346に入れた時もそうだ』

市原『ただ仁奈と同じくらいのガキがたくさんいるみたいだから、家でアタシの相手するよりマシだろと思って入れたんだよ」

市原『ろくに調べもしねーでよ。アタシのせいで、仁奈が食い物にされるところだったんだぞ』

市原『アイツの父親だって守れなかった。仇すら取れてねえ』

市原『仁奈のために何かしようとしても、仁奈の近くにいようとしても、仁奈のためになった事なんか一つも無かった』


市原『仁奈の口癖聞いたことあるか? アタシの影響で、もう口が悪くなってる。このまま一緒にいたら、アイツまでクソになるぞ』

市原『今の仁奈は、周りにいい女がたくさんいる。あいつらと一緒なら、仁奈はまっすぐ育つ』

市原『アタシはただ、"喰種"狩ってアイツの金稼げりゃいいんだよ』

市原『"喰種"狩って、仁奈が生きやすいようにするしかできねーんだよ』


市原『母親なんか、名乗る資格ねーんだよ』


市原『……なんでアタシが、あの子を産んじまったんだろうな』



市原『もっとまともな親のところに生まれてりゃ、もう少し幸せになれたのによ』


――――――――――――――――――――
201 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 00:06:21.81 ID:ZGZy65VF0

1レスだけですが今日はここまで。アイマス一挙放送までに笑顔の橋直前まで進めたいんだけど明日までにいけるかなあ……

>>199
なるほどです

設定ではジュピターがアイドル→捜査官に変わってる前例がありますし設定だけ変えてキャラを登用する手も十分ありだとは思うのですが、

個人的にはアイマスのアイドルは基本、アイドルとして活躍していて欲しいなという願望が強いみたいなので、すみませんが提案は見送らせてもらいます。


せっかくのご意見を活用できず申し訳ありません
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/15(金) 00:16:20.19 ID:eyzpCfrYO
名前の出てこないアイドルは財産として出荷されたんじゃないの、設定からして。
芳乃、志希、のあみたいな察しのいい人間は真っ先に出荷されてそう
203 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:05:22.09 ID:ZGZy65VF0
>>202
その辺どうしようかなとは思ったのですが、
名前の出てないモバマスアイドルは一応全員生きてます。

キャッスルについては流石に個人では気付けないように346が情報統制しているのもあって
人間、喰種を問わずアイドルのほぼ全員が気付いておらず、
346プロが喰種のための事務所と言う事実は、気付いてる人間がいてもみんな黙って放置してますね。
特に名前の出てない限り、出荷されてる人間アイドルは他に346に所属している名もないモブアイドルです。

何人か裏で犠牲になってた方がリアルかなとは思ったのですが、
特に話に影響もなく死んでるのはモブっぽくて流石に可哀想だったので

ちょっと不自然かなとは思いつつ、話を進めるうえで死ぬ必要がない限り皆には生きててもらってます。


キャラクターの扱い方は

特に意味もなく、もしくは十把一絡げの扱いで死ぬ(無駄死に。タタラ) << 特に活躍せず生き恥をさらす < 1キャラクターとしてちゃんとストーリーに必要な役割、意味を得て死ぬ ≦ ちゃんと活躍して、尚且つ生き残る

の順に価値が生まれるものだと思っています
204 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:07:01.86 ID:ZGZy65VF0

――――――――――――――――――――


橘(――ギン。あなたが仁奈ちゃんの母親にふさわしいかどうかは、私が決めることじゃないけど)

橘(――それでも、少なくとも今だけは、あの子達にはあなたの存在が必要よ)


橘(――ただでさえ、今は)

橘(――"喰種"でもないのに、大事な人を傷つけられた子まで出てしまった)



〜CCG 外部ゲスト用宿舎〜


美樹「―――失礼します。橘です」

早苗「…おかえり、美樹ちゃん。ちょっといい?」

美樹「……? はい」

早苗「どうしても、美樹ちゃんに聞きたい事があるって……不安がってる子がいるの」

早苗「有香ちゃん」


有香「……お疲れ様です」


美樹「……こんにちは。中野有香さん」
205 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:07:39.73 ID:ZGZy65VF0

有香「あっ、あの……美樹さん」

有香「美樹さんが、あたし達に外の事を話せないのは、ちゃんと事情があるって分かってるんですけど……」

有香「そ、それでも……どうしても聞きたくて……」


美樹「……水本ゆかりさんと、椎名法子さんのことですか?」

有香「! 二人はどうなったんですか!? 無事なんですか!?」

有香「あたし……あたし! 自分だけこっちに逃げて、ゆかりちゃんも法子ちゃんも置いてっちゃって……!」

早苗「……何度も言うけどね。2人を連れてこなかったのは、あたしの判断よ」

早苗「有香ちゃんにさえ、こっちに来るまで『お出かけ』としか言ってなかったんだから」


有香「早苗さんのせいじゃないです……でも、2人は人間です! あたしには分かります!」

有香「今からでも、保護してもらうことは出来ませんか!? 大切な友達なんです、2人に何かあったら、あたし、あたし……!!」


美樹「……」


美樹(――今誤魔化しても、意味はない……わね)
206 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:08:22.18 ID:ZGZy65VF0

美樹「―――中野さん」

美樹「お二方は、もう……」

有香「……ッ!」

有香「もう、どうなったんですか……!?」

有香「まさか、食べられて……」


美樹「いいえ、2人とも生きています。今はただ、こちらの病院施設で入院しています」

美樹「……それでも、重症です。一命こそ取りとめていますが、担当医いわく以前と同じ生活は困難だと」

有香「……そんな」


有香「……あの」

美樹「面会はできません」

美樹「全てが終わるまで、皆さんにはこの宿舎からの外出、連絡を許可できませんし……」

美樹「我々の口頭によるもの以外、外部情報はこれまで通り一切遮断させていただいております」

美樹「どうか、ご理解ください」


美樹「……お力になれず、申し訳ありません」


有香「……ッ……」

有香「……いえ。今の2人のことだけでも、教えてくれてありがとうございます」

有香「……生きてるん、ですよね。それが知れただけでも……」


美樹(――仲間や、家族)

美樹(――本当のそれらを、"喰種"のせいで失う人達がいる)


美樹(――私は、一人の喰種捜査官として)

美樹(――こんな悲劇を、ひとつでも無くさないといけない)

美樹(――いえ。『ひとつだけでも』じゃない)

美樹(――『すべて』無くさないといけない)
207 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:10:48.78 ID:ZGZy65VF0

美樹(――でも)

美樹(――中には、背負う必要のない罪、罪ですらないものの意識に苦しむ子もいる)


幸子「……なんですか、友紀さん。ボクは別に、そんなにべったりくっつかれなくても……」

友紀「いーじゃんいーじゃん。あたしが幸子ちゃんにくっついてないと、不安でしょーがないんだよー。たすけてさっちー」

幸子「……仕方ないですねえ。ボクは優しいので、イヤがったりしませんけど……!」

幸子「…………」カタカタ

幸子「……ありがとう、ございます」

友紀「なんの話かなー」


美樹(――輿水さんは、緒方智絵里の正体をギンに伝え、キャッスルに繋がる入口を伝えてくれた英雄)

美樹(――でも、本人からすれば……友達を間接的に殺した、人でなし)

美樹(――それは間違ってるって言っても……耐えられる人ばかりじゃない)


美樹(――辛いのは、本当の友達を失う人だけじゃない)


美樹「……片桐さん。向井さんも」

美樹「いま中野さんにご説明した通り、キャッスルへの捜査が完了するまでは一切の外出・連絡を許可できません」

美樹「窮屈な思いをされることは承知しています。どうか、ご協力下さい」


拓海「……言われなくても分かってるよ、ンな事」

早苗「連絡なんてしたくても、出来やしないようになってるから安心しなさい」

美樹「ご協力、感謝します」


美樹(――片桐さんも、向井さんも。もしくは、佐藤さんも)

美樹(――恐らく、仲間の誰が"喰種"だったか見当がついている)


美樹(――今、それを聞き出す必要はない)

美樹(――最後には頼らなければいけないかもしれない)

美樹(――でも、今ほかに情報源を得られるなら)

美樹(――たとえまやかしでも、友達を売る辛さを強制することはない)


美樹(――ただでさえ、これから346プロは崩壊する)

美樹(――仲間や親友、思い出の場所が全部、虚像となって消えていく)

美樹(――その様を見せてあげることすらできない。何も分からないまま、失ってしまう)


美樹(――引き金を引くのは、刃を振り下ろすのは私達)



美樹(――その事実に、向き合わないといけない)
208 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:11:34.79 ID:ZGZy65VF0

美樹(――それでも)ガチャ


桃華「……あら! お帰りなさいませ、ありすちゃんのお母様」


唯「ミキミキおかえりちゃ〜ん、今ちょーイイとこに帰って来たね〜」ニヤニヤ

雫「おかえりなさい〜。仁奈ちゃん、すごく幸せそうですよ!」


美樹「…ふふ。本当に幸せそうね」



仁奈「えへへー♪ ママのお膝に乗ったの、すげー久しぶりでごぜーます!!」ニコニコ

ギン「……………………おう」タジタジ



仁奈「早苗おねーさんから聞いたですよ! ママはしばらくお仕事ねーから、いーっぱいお休み出来るって!!」

仁奈「ママ、いつも忙しくてたいへんでやがりましたから、仁奈うれしーです!」

心「お? 仁奈ちゃん、この隙にたくさんママと遊んでもらうつもりだな? この甘えん坊め〜☆」ニヤニヤ

仁奈「えへへー、ママには仁奈のダンスも歌もたっくさん見てほしーです! アイドルやって、色んなきもちになれたですよ!!」


ギン「い、いや……別にアタシが見る必要ねェし……」

心「見ろよ☆」

ギン「う……」


仁奈「…ママ……仁奈と遊ぶの、イヤですか?」

ギン「は? ち、ちげーよ。遊びたいに、決まってるだろうが」


仁奈「じゃあ仁奈と遊んでくだせー!」

仁奈「ママ、いっつもつらそーにしてやがるです。皆言ってたですよ、アイドルになったらみんなを笑顔に出来るんだって!」

仁奈「ママも笑顔になってくだせー!」


ギン「……仁奈……」


ギン「……分かったよ。悪かった。……仁奈がそれでいいって言うんなら、気が済むまで遊ぶから」

仁奈「!!!」


仁奈「わーい! ママとやりたいこといっぱいあるですよ! ウサギの気持ちにもなるですしゾウさんの気持ちにもなるですし、あとあと―――――!!」



美樹「……なんとか、うまく行ってるみたいね」



美樹(――それでも)

美樹(――この幸せな親子を、幸せな人たちを、壊させたくない)
209 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:12:24.58 ID:ZGZy65VF0

美樹(――何より)


「……」ギュ

美樹「!」

美樹「……ふふっ」


美樹「どうしたの、ありす?」



ありす「……あっ」


ありす「ち、違います! 今のは、その、つい裾を握ってしまっただけで……」

心「お? ありすちゃんもママに甘えたいのかな? 甘えたいんだろ☆」

ありす「ただのクセです! 別に仁奈ちゃんが羨ましくなったとかじゃ……! …ハッ」


美樹「…そうね。私も実さんも、ありすのこと一人で大丈夫だって思っちゃって」

美樹「甘えちゃってたのは、私の方ね。ごめんね、今まで寂しい思いさせちゃって」

美樹「今日から、しばらくお休みだから。ギンと仁奈ちゃんみたいに、私もありすとたくさん遊んじゃおうかな」


ありす「……!!」


ありす「お、お休みなら……いい、んだよね」

ありす「……どうしても、じゃないんだけど……お話ししたい事があって……」


ありす「……聞いてくれる?」


美樹「うん。ありすのお話、たくさん聞きたいな」




美樹(――喰種捜査官として、こんなことを考えるのは駄目かもしれないけど)

美樹(――それでも、何より)

美樹(――この子に幸せになって欲しい)

美樹(――この子が、笑顔で生きていけるように、戦いたい)
210 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:14:00.16 ID:ZGZy65VF0



美樹(――どうか、叶うなら)



美樹(――ありすと実さん、そして私の3人で)



美樹(――"喰種"のいなくなった世界を迎えたい)



美樹(――まやかしなんかじゃなく、本当に幸せでいられる日を迎えたい)



美樹(――もし、それが叶わなくても。私や実さんが、奴らの牙にかかって、あの子のそばにいられなくなっても)



美樹(――せめて)



美樹(――この子の未来を、幸せに生きていける未来だけは、絶対に守りたい)



美樹(――喰種捜査官として……いえ、それよりも、この子の母親として)



美樹(――この子の幸せだけは、絶対に守らなきゃいけない)


211 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:15:04.09 ID:ZGZy65VF0



美樹(――そのためなら――――――――――)



ありす「お母さん」

ありす「このお仕事が終わったら、お母さんに紹介したい人がいるの」

ありす「私ね。唯さんと一緒に、美城常務のところで『プロジェクトクローネ』ってグループに入ったんだよ」

ありす「そこで、素敵な人と出会って……」


ありす「鷺沢文香さんって言ってね」

ありす「すごい人なんだよ。知的で、おしとやかで……」

ありす「いつも、勉強になることをお話してくれて」

ありす「私の憧れの人で……」


ありす「お母さんがその時、忙しくなかったら、でいいの」

ありす「だから、全部終わったら文香さんに会って、仲良くなって欲しいな……」


美樹「……」

美樹「……本当に好きなのね。文香さんのこと」


ありす「……!!」カア

ありす「そ、尊敬してる人ですっ!」


――――――――――――――――――――
212 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:16:14.57 ID:ZGZy65VF0

――――――――――――――――――――


心「ママー!」

ギン「いきなり何やってんだお前」

心「なにって、察しろよ☆ ありすちゃんが甘えやすくするために、少しでも周りが幼児退行してやってんだよ☆」

ギン「頭おかしいんじゃねえのお前」

心「恥を忍んでやってんだよ☆ おい無表情で中指立てんな☆」

ギン「悪かったな。FuckFuckFuckFuckFuckFuckFuckFuck」

心「ボケ過ぎたのは謝るから娘の前でFワード連発すんな! 仁奈ちゃんが真似したらどーすんだ!?」

ギン「あっヤベ、いつものクセが……! 今のは忘れろ仁奈!」

仁奈「ふぁっくって何でごぜーますか?」

ギン心「「忘れろ!!」」


心「もー。仁奈ちゃんと距離を置きたがった理由は身をもって分かったけど、も少し言葉遣い考えろよ☆」

ギン「……そうだな。仁奈に真似させねーように、気ぃ付けねえとな」

心「少しは上司を見習えよ☆ あっちはTHE・レディってかんじなのに」

ギン「……あんたらの前じゃな」


心「お? なんか引っかかるもの言いだな? 美樹ちゃん、意外と私生活はだらしないとか?」

ギン「そういうワケじゃねーよ。ただ、あのヒトの仕事っぷりがえげつねえんだよ」

心「……えげつない?」

ギン「ああ」


ギン「美樹サン、過去に尋問官もやってたことがあってな」

ギン「アタシもパートナー組んでから、何回か美樹サンの尋問に立ち会ったことあるんだけどよ……」



ギン「あの人は"喰種"の前じゃ、アタシよりえげつねえ」


ギン「……まあ、同情する気なんかねえけどな」


――――――――――――――――――――
213 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:17:48.63 ID:ZGZy65VF0

〜夜〜


橘「……もしもし。ええ、私です御坂監獄長」

橘「申し訳ありません。ありすが寝付いてから、仕事に移りたくて……」

橘「はい、休暇中です」

橘「ですが、あと一つだけ…どうしても今やっておきたい仕事がありまして」

橘「……ありがとうございます」



〜コクリア 独房〜


「……はあ、はあ……」


ガチャ


「……!」



橘「……こんばんは。こんな時間だけど」


橘「捜査に協力してもらうわ」



橘「鷺沢文香さん」


214 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:18:49.45 ID:ZGZy65VF0

文香「……!!」

文香「……あ、あああ……!!」


橘「今日は『シンデレラプロジェクト』のメンバーおよび小日向美穂、木村夏樹、二宮飛鳥について」

橘「この中に、『緒方智絵里』以外で"喰種"はいる?」


文香「……い」

文香「…………いえ、ません」


文香「……何度も……言っています……」

文香「……友達を、売ることは……できません……!!」


橘「……そう」ジリ


橘「」グイッ


文香「ひっ……!」



橘「…知識量の割に、学習能力のない子ね」

橘「今度は何をしてあげましょうか?」


橘「また目に火箸を刺されたい?」

橘「また爪を延々と剥がされ続けたい?」

橘「また耳に虫でもいれてあげましょうか?」

橘「また人間の料理を延々とねじ込んだ方がいい?」


橘「拷問のレパートリーなら、あなたが本で読んだ以上に知ってるわよ」


文香「……っ……く、う……!!」



文香「……殺してください……」

文香「私から……あなたに、あげられる情報なんて……ないんです……」

文香「私のページは、もう、ここで終わりだって、知ってます……」

文香「はやく……殺してください……楽にしてください……」


文香「殺して……もう……解放、してください……!!」
215 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:19:46.85 ID:ZGZy65VF0

橘「頼まれなくても、もうあなたは用済みよ」

橘「もう廃棄することにした。何を言っても言わなくても、近いうちにあなたは死ぬ」

橘「その日まで、あなたはずっと身体を抉られ続ける」

橘「……同類を売った方が、まだ楽に死ねるわよ」


文香「……いやです」

文香「もう、それしか……縋れるものが無いんです……」

文香「友達を裏切ったら……もう……本当に何も、なくなってしまうから……」

文香「だから……このまま、殺してください……!!」


橘「……つまらない自己満足ね」



橘「安心しなさい。別にもう、あなたに期待することなんてない」

橘「情報を得られれば幸運、くらいに思っていただけ……」



橘「……だけど、そうね。もし、今日私が求める情報を差し出してくれたなら……」







橘「最後に、ありすに会わせてあげる」


216 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:20:54.59 ID:ZGZy65VF0

文香「――――――――――っっ!!!」



橘「娘が言っていたわ。尊敬してる人だって、知的でお淑やかな女性だって」

橘「とても会いたがってたわ。あなたも、ありすに会いたくないかしら?」


文香「っあ……あああ……!!」


橘「この資料を見て。今必要な情報は、シンデレラプロジェクトの誰が"喰種"なのか」

橘「どうせ庇っても、あなたには何の得もない。あなたはそのまま、ひとりで死んでいく」

橘「情報をくれても、あなたは死ぬ。でも、最後にありすに会うことは出来る」

橘「当然、情報が一言一句正確だったことが条件だけど」

橘「あなたが売るのは、シンデレラプロジェクトのメンバーだけ。他の仲間には逃げられるでしょうね」


橘「……どっちがいいかしら?」



文香「あ……」


文香「あああああ……」

文香「ありす、ちゃん……うう、ああああああ…………!!!」



文香「……あ……」


文香「……ごめんなさい」


文香「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


文香「許して……くださ、い……!!」



橘「……それで? 誰が"喰種"なの?」


文香「……」


文香「…………」


文香「…………ぜ」
217 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:22:04.66 ID:ZGZy65VF0





文香「……全員、です……」





文香「美穂、さん。夏樹さん、飛鳥ちゃんは……3人は、人間です」

文香「でも、シンデレラプロジェクトは……全員、"喰種"です」

文香「人間は、ひとりもいません……」


橘「そう」



文香「……約束です。ありすちゃんに会わせてください」

文香「一目でいい……一目見られるだけで、いいんです……」

文香「ありすちゃんは、ずっと私を慕ってくれて……すごく、可愛らしくて、愛しくて……!!」

文香「もう何もいらないから、ありすちゃんに会いたい……」


文香「お願いです……ありすちゃんに会わせてください……!!」



橘「……」


橘「……可哀想に」

橘「痛みでまともに物を考えられなくて、ただ一つ仲間に縋ることでしか、現実に耐えられなかった」

橘「そのたった一つの支えを手放してまで……ありすに会いたかったのね」


橘「ありすが愛しかったのね……」スッ



橘「あなたは、十分役に立ってくれた。これで、黒井上等達の作戦もやりやすくなるわ」

橘「だから…………」


218 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:24:06.12 ID:ZGZy65VF0



ズパッ



文香「……え?」



橘「ご苦労様。そのまま楽に死になさい」


橘「何もいらないからありすに会いたい? 何様のつもり?」


橘「会わせられる訳がないじゃない。娘をたぶらかしておいて、取り入っておいて……」



橘「娘を惑わす害獣が」





文香「そ、んな……」


文香「……あり……す、ちゃ……」


文香「――――――――――」



――――――――――――――――――――



橘「……もしもし、黒井上等?」

橘「私よ、橘準特等。夜遅くの連絡だけど、どうせ残業していたんでしょう?」

橘「あなた達の助けになる情報を得たから、電話させてもらったわ」



橘「……ええ、そうよ。サギサワからようやく得た情報」

橘「極限状況で、唯一の希望に縋ってようやく出した情報だから、信憑性は高いはずよ」


橘「……ええ。オガタの偽造診断書があんなに精巧だったのも納得ね」
219 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/09/15(金) 13:25:34.76 ID:ZGZy65VF0







橘「『シンデレラプロジェクト』のアイドルは全員"喰種"よ」







橘「小日向さん、木村さん、二宮さんの3人さえ保護できれば……」



橘「あとはもう、気遣いも容赦もいらないわね」



――――――――――――――――――――
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