フレデリカ「怪談ごっこ、その4」

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1 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:42:01.99 ID:QhrAtV4YO

これはモバマスssです

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2 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:43:16.95 ID:QhrAtV4YO


フンフンフフーン、フレデリカ〜。

さてさてー、今回はフレちゃんの番かなー。
え、誰も言ってない?
いーのいーの、そんなこと気にしてたらピッグな人間になれないよー?
なりたくない?それもそっか!

えっと、なんの話だったっけ……?
あ、そうそう、アタシが怖い話をする番かなーって。
ほら、もう文香ちゃんも肇ちゃんも杏ちゃんも話したでしょー、怪談。
だからなんとなんとー、とっておきの怖い話を用意しましたー!いぇい!
3 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:44:32.29 ID:QhrAtV4YO


雰囲気作りとかそう言うのは得意じゃないけど、とっても怖い話だと思うよ。
それはもー、自分がこんな体験をしたら気が狂いそうになっちゃうくらい。
ほら座って座って、カフェオレも淹れてあげたから。
のんびり、フレちゃんとお話しよ?

だいじょぶだいじょぶ、前まではテキトーだったけど今回はちゃんと怖いから。
ほらほら杏ちゃんもスマホ弄らないで聞いてってばー。
文香ちゃん、少しは本置いてくれてもいいんじゃないかなー?
肇ちゃん、事務所で陶芸はやっぱりおかしいと思うよ?

ごっほん!

それじゃーそれじゃー。
お話していこっか。
4人の怪談の〆に相応しい。
フレちゃんとっておきの体験談を。

あ、体験談って言っちゃったけど勿論作り話だからね?
えっとねー、時期はどのくらいにしよっかなー。
うーん、先週末くらいでいっか。
よし、スタート!


4 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:45:04.89 ID:QhrAtV4YO




いつもと変わらない、ありふれた事務所での日常。
アタシがふざけて、文香ちゃんが乗っかって。
肇ちゃんが振り回されて、杏ちゃんがため息を吐く。
そんないつも通りが、毎日続くと思ってた。

勿論、つまらない訳じゃないよ?
とっても楽しいし、充実してて。
毎日がエブリワンなくらいエンジョイしてる。
0から100で表すと5千兆くらい。

でも、自分の部屋で一人で寝っ転がってる時にね。
なんとなーく、思っちゃったんだ。
もしかしたら疲れてたのかもしれないけど。
天井の蛍光灯がチカチカ点滅して切れそうになってるのを見ながら。

……あー、とんでいっちゃいたいなー。
あの蛍光灯みたいに、消えてっちゃいたいなー。
手を洗った時の泡みたいに、弾けてなくなっちゃいたいなー。
って、そんな感じ。

毎日が充実し過ぎてたからかな。
だから、逆にそんなマイナスな事考えちゃったのかな。
理由なんて自分にも分かんない。
ただ単純に、そう思っただけだから。

うーん、よろしくない!
そんな変な事考えてちゃお天道様も沈んじゃうよね、もう夜だけど。
明日なにして遊ぼうか考えよ。
んー、まぁ考えなくてもてきとーに思いついた事やればいっか。

それじゃ、寝よっかな。


5 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:45:33.83 ID:QhrAtV4YO


翌日起きて事務所に行くと、まだ他の三人は来てなかった。
アタシが早く来過ぎちゃったからなんだけどね。
のんびーり、みんなが来るまでソファでカフェオレを飲む。
おーいっつでりしゃす、フレデリシャス!

今日は何をしよっかなー。
午後からは撮影があるけど、それまではなんにもやる事ないし。
じゃあなんで事務所に来たのかって?
それはもー、遊ぶ為!

バタン、と。
肇ちゃんと文香ちゃんが部屋に入って来た。
二人は確か、一緒にレッスンがあるんだっけ。
でもきっとまだ、レッスン開始まで時間あるよね。

「おはろー!肇ちゃん、文香ちゃん」

警戒されないように軽快な挨拶。
うーん、あんまり面白くない。
まぁまだ朝だもんね。
これからどんどん……あれ?

そう言えば、なかなか返事が返ってこない。
まったくもー、業界人なんだから挨拶は基本中の基本だよ?
特に今は、フレデリカ夏のおはよう強化月間なのに。
二人ともアタシの挨拶をスルーしてお茶なんて淹れて。

「おーい、おっはよー!」

「あ。おはようございます、フレデリカさん」

「あ……おはよう、ございます……」

今更になって2人から返事が返って来た。
なにさなにさ、まるで気付いてなかったみたいな振る舞いしてー。
扉開けて真っ正面のソファに居たのに。
なんならこっちから挨拶したよ?


6 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:46:15.42 ID:QhrAtV4YO



とは言えそのあとは何があることも無く、ふつーに喋って遊んでね。
楽しい時間はあっという間、もー2人ともレッスン行っちゃうんだって。
仕方ないからお別れして、アタシはまた一人で雑誌を捲る。
面白そうなニュースとか楽しそうな場所とかないかなー、って。

わぁお、今東京っぽい千葉のテーマパークはこんな事やってるんだ。
アタシも行きたいなー、誰か誘って行こっかな。
あ、このお店のプリン美味しそー!
誰かに買って来て貰おっかな。

あ、そーいえばゼリー買って来たんだった。
みんなで食べようと思ってたけど言うの忘れちゃってたし、一個食べちゃおっかな。
うん!美味しい、メルシー、0カロリー!
0カロリーって0乗したら1カロリーだよね!

なーんてペラペラ捲ってたら、杏ちゃんが入って来た。
いつもどーりにスマートフォンをポチポチしながら。
もー、事務所の中でも歩きスマホは危ないのにね。
それと杏ちゃんもまた挨拶しないし。

そのまま杏ちゃんは冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して、アタシの反対側のソファに座って涙した。
ちょっとくらいこっち見てくれてもバチは当たらないんじゃないかなー?
それともフレちゃんの事スルーするゲームでもしてるのかな?
誰も幸せになれないよ?

「おーい杏ちゃん!ぼんじゅー!」

「……えっ?!あ、おはよフレデリカちゃん」

なにさなにさ、杏ちゃんまでアタシに気付かなかったみたいな振る舞いしてー。
アタシに気付かないなんて人生の100割損しちゃってるよ。
9代先まで人生を棒に振ってるね。
でも気付けたから末代までハッピー!

7 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:46:53.71 ID:QhrAtV4YO




「ごめんね、杏スマホに集中し過ぎてたのかな」

「まったく、これだから最近の若いもんは……」

「二つしか変わらないでしょこの19歳」

「そーいえばゼリー買って来たよ!」

「お、じゃーありがたく頂こっかな」

「さっきフレちゃんが食べちゃったけど!」

「よしフレデリカちゃん、腕立て100回!目指せトップアスリート!」

なんてね。
まだ3つ残ってるよ、教えてあげないけど。
流石に美少女アイドルが筋肉マッスルだと見栄えが悪いから、腕立ては1回しかしないよ。
そう言うのは文香ちゃんの方が得意そうだし。

そのまま杏ちゃんで遊んで、アタシもそろそろレッスンの時間が近付いてきた。
んー、もうちょっと一緒に遊んでたいなー。
でもサボっちゃダメだよね、色んな人に迷惑だし。
代わりに杏ちゃんが受けてくれればオールオッケーなんだけど。

「んな訳ないでしょ、サボるなはよ行け」

「らじゃー!行ってくるよー」

8 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:47:32.10 ID:QhrAtV4YO


非情にも杏ちゃんに見捨てられちゃったし、一人寂しくレッスンルームに向かう。
あ、飲み物部屋に置いてきちゃった。
まーいっか、レッスン終わってから戻ってくれば。
どうせフレちゃん完璧パーペキだからあんまり喉乾かないもんね。

レッスンウェアに着替えて、レッスンルームに到着。
ぼんじゅー!っと入室すると、トレーナーさんは一人でストレッチしてた。
アタシも早速準備運動。
ちゃんと身体ほぐさないと大変だからね。

おいっちに、さーんし、おいっちに、さーんし。
どうよ、フレちゃん柔らかい!
もう軟体動物名乗っていいんじゃないかなー?
ほら、床にしっかり手が張り付く!

それにしても、トレーナーさんはいつまでストレッチしてるんだろ。
はやくレッスン始めないのかな?
時間は有限だよ、ワトソン君!
貴重なティーンエイジャーの時間は無駄に出来ないよ!

「……遅いな、宮本……」

「あれー?宮本のフレデリカちゃんならもー来てるよ?」

「んっ?!すまん、気がつかなかった。ストレッチに夢中になり過ぎたか」

「もー、ちゃんと挨拶したのに。耳だけ年取った?耳年増ってやつ?」

「よし、腕立て1000回からだな。大丈夫だ、若い宮本なら余裕でこなせるだろう」


9 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:48:12.38 ID:QhrAtV4YO




「うへー……かつてフレデリカだったものになっちゃうよー……」

口は災いのなんとやら、だねー……
いつもより良い感じに厳しめなレッスンは、稀代の剣豪宮本ことアタシでもかなりキツかった。
喉乾いたー、はやく何か飲みたーい。
部屋に置いて来ちゃったし、早く戻ろっと。

「ただいまー!フレデリカだよー!」

部屋に戻ると、文香ちゃんと杏ちゃんが二人でお喋りしてた。
あ、冷蔵庫の奥の方に入れといたゼリー見つけられたんだね、よかったよかった。
アタシも早く飲み物飲もーっと。
うん、生き返る!

「なるほどねー、まぁ杏は今日はパスかな」

「そう言わず……是非、ご一緒しませんか?」

「絶対支払い押し付ける気でしょ」

「……な、何の事ですか?私がその様なつもりだなんて、言い掛かりも甚だしいです……」

文香ちゃんが杏ちゃんに何か誘ってるみたい。
スイーツの食べ放題とかかな?
ハイ!ハーイ!それならアタシが行きたい!
今ならお財布もあったかいし。

10 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:48:56.03 ID:QhrAtV4YO



「ねー文香ちゃん、アタシも行っていーい?」

「あ……お疲れ様です、フレデリカさん……」

「いつの間に戻って来てたのさ。声くらいかけてくれれば良いのに」

「えー?アタシちゃんとただいまって言ったよ?」

言ってたよね?
なんだか逆に自分の記憶が不安になって来た。
この歳でボケは流石に早すぎるよね、もう1世紀くらい年取ってからにして欲しいかな。
うん、確か言ってる筈。

「スイーツの食べ放題とか?そのくらいならこないだ文香ちゃんに本貸して貰ったしアタシがもつよ?」

「……!でしたら、今日はスイーツではなくこちらのお寿司屋さんで……」

「おい文香ちゃん、明らかに回ってないよねそのお店」

「フレちゃん的にも樋口さん越えちゃうと少し辛いかなー……」

文香ちゃんは元気だねー。
まぁそんなこんなで肇ちゃんが戻ってくるのも待って、四人でスイーツバイキングに。
支払い?全部じゃんけんに負けたアタシが払ってあげたよ。
しばらくは節約と運動の日々が続きそうかなー……


11 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:49:31.70 ID:QhrAtV4YO


翌日事務所に行くと、またアタシ一人だけだった。
他の三人は来るの遅いなぁ……アタシが暇しちゃうじゃん!
もー、暇!肥満!ピーマン!
野菜ジュース飲んで待ってよっと。

足パタパタしながら雑誌読んでたら、杏ちゃんがやって来た。
確か杏ちゃんはボイトレだっけ?
そんで午後は撮影だよね。
頑張る杏ちゃんにはフレちゃんから野菜ジュースの残りをお裾分けしよーっと。

「おはよー杏ちゃん。野菜ジュース飲む?アタシの飲みかけだけど!」

……あれ?返事が無い。
おっかしいなー……イヤホンつけてる様には見えないし、よっぽど考え事に集中してるのかな?
そのまま、また昨日みたいにアタシの反対側に座ってスケジュールを確認しだす杏ちゃん。
うーん、挨拶の大切さをきちんと教えてあげないとね。

「杏ちゃん!おはぼんじゅー!!」

「うわっ?!え、フレデリカちゃん?!」

「まったくもー、さっきもおはよーって言ったのにー……」

「ごっめん、なんで気付かなかったんだろ……おはよ、随分早いね」

「お年寄りの朝は早いんだってよ?」

「何言ってるのさこの未成年」

12 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:50:24.25 ID:QhrAtV4YO



バタンってドアが開いて、肇ちゃんも入ってきた。
肇ちゃんも早いね、今日も午前中レッスンだっけ?

「おはようございます、杏ちゃん」

「おはよー肇ちゃん、お茶飲む?」

「あ、でしたら私が淹れます。湯呑みを二つ出して貰っていいですか?」

……あれ?

「ちょちょちょ、おはよー肇ちゃん!フレちゃんも居るよー?」

「え……あ、おはようございます、フレデリカさん。フレデリカさんも飲みますか?」

「うーん……やっぱり今はいいかなー」

肇ちゃんの位置からだとアタシが見えなかった、って事は無いよね。
だってアタシから見えてたんだもん。
アタシの事いじめてるの?いじめはかっこ悪いよ。
……なーんて、肇ちゃんがそんな人な筈無いよね。

「ところで、どうですか?」

「……どしたの肇ちゃん、なにがどうですかなのさ」

「まったく、杏ちゃんは……ほら、新しい服です!」

「いや知らないよ……でも良いんじゃない?似合ってると思うよ」

「うーん!アタシ的にもオシャレさんだと思うなー」

「ふふっ、ありがとうございます。せっかくオシャレしてみたので、どうせなら褒めて貰いたいな、と」

13 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:51:05.72 ID:QhrAtV4YO


杏ちゃんが『めんどくさいなぁ……かわいいけど』みたいな顔してる。
でもそこも肇ちゃんの可愛らしさだもんね。
それに、オシャレしたなら褒めて貰いたいって言うのはアタシも分かるし。
オシャレしたのに人に認識して貰えないなら、してないのと一緒だもん。

ワイワイ三人で話してたら、文香ちゃんも沢山の本を抱えてやってきた。
文香ちゃん、見かけによらず結構筋肉あるよね。
重そうな本を何冊も運んで来るなんて。
トップアスリートも夢じゃないんじゃないかな。

「おはようございます。どうやらまだ、二人だけの様ですね……フレデリカさんに、先日のお礼として本をお貸ししようと思ったのですが……」

あっれー?
文香ちゃんもそーゆー感じ?
なんでたろ、フレちゃんが可愛すぎて眩しくて直視出来ないのかな?
それならしょうがないねー。

「おはよー文香ちゃん。フレデリカちゃんなら居るじゃん」

「ぼんじゅー文香ちゃん!アタシ一番乗りで事務所に来たんだよー!」

「ふふっ、おはようございます文香さん。ボケました?」

「おや、どこからか肇さんの声が……湯呑みの妖精でしょうか」

それからは、いつも通り。
でもちょっとだけ、アタシは不安だった。
昨日もだけど、なんで声掛けてもなかなか気付いて貰えなかったのかな。
影が薄くなったのかな。

でもまー、別に困る事があるわけじゃないよね。
挨拶が直ぐには帰ってこないのは寂しいけど、集中してたら気付けない事もあるし。
うん、まぁしょうがない。
なーんて、少し楽観視し過ぎてたからかな。

アタシが焦り始めたのは、次の日からだった。

14 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:51:44.98 ID:QhrAtV4YO




今日は午前中はお買い物して、午後から事務所に向かった。
一目見て気に入った服も買えたし、今日はアタシが褒めて貰う番!
大人っぽ過ぎてみんなびっくりしちゃうかなー?
プロデューサーもアタシの事天使と見間違えちゃったりして。

「ボンジュール諸君!何してるのー?」

ワクワクてかてかルンルン気分で事務所のドアをくぐると、三人がトランプしてた。
大富豪かな?次の回から富豪として混ぜて貰おっと。
あ、杏ちゃんがあがった。
肇ちゃんももうすぐあがりそうだね。

「ねーねー、アタシも混ぜてー?」

……あれ?またスルーされた。
三人とも大富豪に熱中し過ぎじゃないかな?
杏ちゃんはあがってるよね?
スマホいじってないで挨拶返してくれても良いんだよ?

「ん、肇ちゃんもあがったね。んじゃ杏が大富豪、肇ちゃんが平民、文香ちゃんが大貧民で」

「……次こそは、勝ってみせます!」

「これ7試合目ですよ、次で終わりにしませんか?」

酷くない?ねー酷くない?
いじめダメ、絶対。
フランスに島流ししちゃうよ?

15 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:52:31.13 ID:QhrAtV4YO



「ねーねー!アタシもまーぜーて!!」

「えっ?!あ、おはよー。えっと……ん?」

「あ、おはようございます……あれ?」

「おはよう、ございます……その……ええと……」

……あれ?どーしたのかな?
なんだろ?みんな困ってるみたい。
何かあったのかな。

「フレちゃんのオシャレさに驚いちゃった?」

アタシがそう言った瞬間、みんな『あ!』って顔したのを、アタシは見逃さなかった。

「あ、フレデリカちゃん、今日は随分大人っぽい服だね」

「流石ですね、フレデリカさん。喋ってなければとても素敵な大人の女性だと思います」

「っ!じゃー喋ったら超素敵な大人の女性だねー!」

大富豪に混ぜて貰いながら、アタシは考える。
不安は顔には出さないけど、どうして三人が困った顔をしてたのかは分かった。
言っても多分三人がまた困るだけだから言わないけど。
でも、アタシの脳内はその事で埋め尽くされて、大富豪どころじゃなかった。


16 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:53:41.18 ID:QhrAtV4YO


多分、アタシの名前を忘れてた。

だから、挨拶の後が続かなかった。
だから、困った顔をしてた。
だから、アタシがフレちゃんって言って思い出した。
名前なんだっけ?なんて言える訳無いもんね。

でも、何で忘れられてたんだろ?
自慢じゃないけど、忘れられる様な名前じゃないと思うんだけど。
それに、今日もなかなか気付いて貰えなかったし。
何が、何かが起きてるのかな。

その後のファッション誌のモデルの撮影でも、スタッフさん達がちょいちょい書類を見てからアタシの名前を呼んでた。
多分スタッフさん達も、アタシの名前をど忘れしちゃってたんだと思う。
それで撮影に支障はなかったし、アタシは完璧にこなしたけど。
その間も、不安は増すばかり。

なんで?
なんでみんな、忘れてたの?
こっちから挨拶しても、なかなか気付いて貰えないし。
うーん、分かんない!

……なんて、いつもみたいにふざけてられる事態じゃない。
そのくらいは分かってた。
ママはアタシが帰ってきた事になかなか気付いてくれなかったし。
お風呂に入ってのんびりしようとしても、心はまったく落ち着いてくれない。

時間が解決してくれるとは思えない。
名札でも付けて生活してみようかな?なんて事を大真面目に考えちゃうくらいには、他の解決策が思い付かなかった。
うーん、もっと有名になって忘れられないくらい印象強くなればいいのかな。
明日はちゃんと名前で呼んで、みんなから挨拶して貰えるといいな。

17 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:54:17.54 ID:QhrAtV4YO



ダメだった。
結果は同じで、みんなアタシの名前をど忘れしてた。
しかも、アタシが自分の事をフレちゃんって言っても、なかなか思い出して貰えなくて。
泣きそうな気持ちを必死に抑えて『みんなのアイドル、フレデリカだよ?』って言ってようやく思い出して貰えて。

喋ってる最中でも、アタシの名前を忘れる事すらあったみたいで。
相手が困った顔で思い出そうとする、そんなのを見てるのが辛かった。
なんでだろ、おかしいよね。
どうして、みんな忘れちゃうんだろ。

でも頑張って、一日を乗り越えた。
大丈夫、完全に忘れられてる訳じゃないから。
ちょっとだけ我慢すれば、それで……
どうにか、なるのかな。

明日、プロデューサーに相談してみよ。
きっと、プロデューサーなら。
アタシを救ってくれる。
そんな、気がして。

少しだけ希望を持って、アタシは夢の世界へと落ちてった。


18 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:55:10.88 ID:QhrAtV4YO


翌日、不安になりながら事務所に向かって歩いた。
事務所の警備員に挨拶してみる、返ってこない。
エレベーターで一緒に乗った人に挨拶してみる、返ってこない。
何度か挨拶すれば、ようやく気付いてくれるんだけどね。

こうなってくると、どんどん不安になってくる。
大丈夫、みんななら挨拶してくれる。
アタシの名前をちゃんと呼んでくれる。
少し寒かったから秋を先取りした服着てみたし、褒めてくれる。

部屋のドアの前で一瞬躊躇ったけど、迷ってたって何がある訳じゃないから。
アタシは勢いよく、ドアを開けた。
アタシに気付かなくても、ドアの音で気付いて貰える様に。
そんな保険を掛けちゃうくらい、不安で不安で仕方が無くて。

「おはよー!フレデリカちゃんだよー!」

杏ちゃんと、肇ちゃんと、文香ちゃんと、プロデューサー。
四人八つの目が、こっちに向けられた。
良かったー!気付いて貰えた!
うん、これから毎日少し派手に登場すれば良いよね!

……あれ?
なんだかみんな、不思議そうな顔をしてる。
ねぇ、どうしたの?
音が大きくてびっくりしちゃった?

不安で仕方が無くって、今すぐにでもドアを閉じそうになる。
ううん、大丈夫。
気付いて貰えた、名前も自分から言った。
不安になる要素なんて、一つも……

19 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:56:02.08 ID:QhrAtV4YO




「……えっと……どちら様?モデル部門の方かな?」

「……え」


20 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:56:45.44 ID:QhrAtV4YO



アタシは一人で、事務所の近くの喫茶店に居た。
結局あの後、直ぐ事務所を出たんだ。
名前を思い出して貰えないだけなら、どれだけ良かったかな。
なかなか気付いて貰えないだけなら、どれだけ良かったかな。

……アタシの事を、忘れちゃってるなんて。

泣きそうな思いを必死にこらえて、あったかいカフェオレを傾ける。
うん、美味しい。
味なんて分かんないけど、多分美味しい。
アタシのお気に入りのお店だもん。

結構通って、店員さんとも知り合いだったのに。
何回かお話して、仲良くなった筈なのに。
アタシを見る目が、完全に知らないお客さんになってた。
間違いなく、忘れられてるんだと思う。

……なんで?
なんで忘れられちゃってるの?
ずっと一緒に頑張ってきたのに。
どうして、みんなの中では無かった事になってるの?

『えっと、うちのユニットのファンの子だったりするのかな?』

『え……冗談でしょー?アタシもユニットのメンバーじゃん!』

『何言ってるのさ、スリーエフなんだから三人に決まってるじゃん』

そんな会話を思い出して、またアタシは天井を見上げた。
おかしいよね、変だよね。
アタシはこれからもみんなと一緒に楽しく過ごしたいのに。
これからどころか、今までが消えてるんだもん。

21 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:57:41.09 ID:QhrAtV4YO


……アタシが、願っちゃったからかな。
とんでいっちゃいたいなー。
あの蛍光灯みたいに、消えてっちゃいたいなー。
手を洗った時の泡みたいに、弾けてなくなっちゃいたいなー、って。

だから、アタシが居なかった事になっちゃったのかな。
プロデューサーに相談しようにも、そもそも知り合いですら無くなっちゃったんだもん。
心の支えがとんでいっちゃったよ。
……なーんにも楽しくも面白くもないね。

時間を確認しようとスマホをつけると、四人の写真の壁紙。
みんなで大成功させたステージの時の、四人の笑顔。
今はもう、誰も覚えてないのかな……
アタシにとっては、とっても宝物なのに。

……あ、写真!

画像フォルダを開くと、ユニット四人で撮った写真が沢山。
これを見せれば、思い出して貰えるんじゃない?
よーし、ようやく希望が見えてきたね。
四人で仕事した時の台本とか写真とか映像を全部もってけば、それを切っ掛けに!

走って家に返って、部屋の棚を片っ端から開ける。
そして四人で仕事をしてきた証拠になりそうなものをカバンに詰め込んでく。
贈り物でも、サインでも、絵しりとりの紙でも、交換ノートでもなんでもいい。
多ければ多いほど、思い出して貰える可能性は上がると信じて。

物音でようやく気付いたママが物凄く驚いた顔をしたけど、二人で撮った写真とか保険証を見せたら思い出してくれた。
それだけで、もう泣きそうになっちゃって。
ママに忘れられっぱなしなんて、そんなの絶対イヤだから。
それに、こうすれば思い出して貰えるってことが分かったから。

明日、証拠と希望を詰め込んだカバンを持ってけば。
きっとみんな、思い出してくれる。
また、四人で一緒に進む時間を取り戻せる。

そう、信じて……

22 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:58:10.83 ID:QhrAtV4YO




翌日、目覚ましよりも早くにアタシは飛び起きた。
よーし、これなら誰よりも先に事務所に居られるね。
早く着替えて、朝ごはん食べて事務所に行かなきゃ。
えっと、今の時間は……

スマホをつけて、時間を確認しようとして。
アタシは絶望の底に叩き落とされた。
急いでカバンに詰め込んだ写真を確認して。
それは、より一層アタシを苦しめるだけで。

写真に、アタシが写ってなかった。


23 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:58:57.54 ID:QhrAtV4YO


ライブのDVDを観た。
アタシが写ってなかった。
ドラマの台本を開いた。
アタシの名前はなかった。

部屋中の身分証を探し回った。
何一つ見つからなかった。
区役所に行って戸籍謄本を発行しようとした。
当然出来なかった。

ネットで自分の名前を検索してみた。
該当件数は0だった。
電話帳に登録されてる電話番号に片っ端から掛けてみた。
間違い電話と思われた。

どこにも、アタシが生きてきた形跡が無い。
ママもまたアタシの事を忘れてて、アタシがママの子供だと証明するモノが無い。
どの写真にもどの映像にもアタシは写って無い。
誰も、宮本フレデリカという人物を知らない。

なんで?
なんで、何も無いの?
本当に誰も覚えて無いの?
本当に誰も、宮本フレデリカを知らないの?

もしかして、アタシの記憶が偽物だったの?
本当は、本当に宮本フレデリカなんて女の子は存在しなかったの?
アタシが今まで見てきたのは、全部夢だったの?
周りじゃなくて、アタシがおかしかったの?

24 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 19:59:54.28 ID:QhrAtV4YO



……怖いよ、アタシ……

家にも帰れない。
事務所にも居場所は無い。
アタシはこれから、どうすればいいの?
どこで、暮らせばいいの?

街を歩き回ってクタクタになって、気がついたら日が暮れてた。
近くのビジネスホテルに入って、今日はここに泊まる事にする。
わーお、ママに内緒で外泊なんて。
……今では、誰も何も言ってくれないんだけどね。

一日中歩き回ってたからか、自分で思ってる以上にアタシは疲れてたみたい。
あったかいカフェオレを飲んでるうちに、気がつけば夢の世界へと落ちて行った。
次に目が覚めたら。
全部、元どおりになってたらいいのにな。

25 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 20:01:40.74 ID:QhrAtV4YO



眼が覚めると、いつもと違う風景。
まだボンヤリした脳を少しずつ覚醒させる。
あれ?なんでアタシこんな場所で……
あ、そっか、そうだったね。

スマホをつけると、私以外の三人が写った壁紙。
そろそろ退出時間だし、お金払わなきゃ。
こんな生活で、いつまで保つかな……
ほんとにずっと、このままなのかな……

フロントに鍵を返そうと、エレベーターで下る。
当然、同乗者に挨拶をしても返事は無い。
あと5回くらい話し掛けたら、こっちに気付いてくれるのかな。
どんどん、気付いて貰い難くなってるね。

エレベーターから降りようとして、乗ってくる人にぶつかった。
『あ、ごめんね?』って謝っても、相手はアタシに気付いてくれない。
もしかして……!って、走ってフロントの人に鍵を返そうとする。
『なんで鍵が置きっ放しになってるんだ?』って言いながら片付けただけだった。

もう誰も、アタシを見る事すら出来ないんだね。

街を歩くと、何度も人にぶつかっちゃった。
謝っても、相手は頭にハテナを浮かべながら去ってく。
電話を掛けてみても、相手には何も聞こえてないみたいでイタズラ電話だと思われちゃった。
電車に乗ろうと改札を通ると、駅員さんが凄く不思議そうな顔をしてた。

苦難を乗り越えて事務所に辿り着いて、アタシはアタシ達の部屋を目指した。
ユニットのメンバーに、プロデューサーに。
会いたかったから、気付いて欲しかったから。
誰かにアタシの名前を言って欲しかったから。

誰にも気付いて貰えないなんて。
そんなの、存在しないのと一緒じゃん。

26 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 20:03:12.42 ID:QhrAtV4YO



部屋に入ると、いつもの風景だった。
文香ちゃんと肇ちゃんが仲良く喧嘩して、杏ちゃんが笑いながらプロデューサーと喋ってる。
誰も、宮本フレデリカという人物がいなくなってる事に気付かない。
誰も、宮本フレデリカという人物がいる事に気付いてくれない。

ねぇ……誰か。
アタシに気付いてよ。
目の前に居るのに。
話し掛けてるのに。

プロデューサーのデスクに載った書類に、宮本フレデリカと書いてみた。
なんでか分からないけど、書いた端から消えてった。
どう足掻いても、アタシがこの世界にいる事は誰にも伝わらない。
もしかしたら、本当にアタシは存在してないのかな。

ねぇ杏ちゃん、プリン買ってきたよ?
ねぇ肇ちゃん、お茶飲みたいな。
ねぇ文香ちゃん、まだ本返せてなかったよね。
ねぇ、プロデューサー……

お願いだから。

誰か……気付いてよ……
アタシの名前を呼んでよ……


27 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 20:04:20.25 ID:QhrAtV4YO



はい、これでおーしまい!
どー?怖かった?
フレちゃん的にはかなり怖くて辛い話だと思うんだけどねー。
みんなのお話に負けてないでしょ?

フレちゃんだってこう言う話出来るんだよ。
スーパー万能アイドルなんだから。
今後はホラー系のお仕事もバンバン増えちゃうんじゃないかなー?
もう時期は過ぎ始めちゃってるけどね。

杏ちゃん、どーだった?
少しくらいスマホ置いてくれてもいいんじゃない?
文香ちゃん、どーだった?
……本に熱中しちゃってるねー。
肇ちゃん、どーだった?
うん、その湯呑みいい出来だね。

……ねぇ、どうだった?

28 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 20:04:57.33 ID:QhrAtV4YO



お願いだから。

誰か、気付いてよ。


29 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2017/08/26(土) 20:06:14.73 ID:QhrAtV4YO

勝手にみんなのプリンを食べちゃった時のお話
お付き合い、ありがとうございました

過去作です、よろしければ是非
フレデリカ「怪談ごっこ、その1」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1481607706/
フレデリカ「怪談ごっこ、その2」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483961335/
フレデリカ「怪談ごっこ、その3」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501422268/
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 21:37:02.98 ID:GcQuNm7jO
ぞくっとしたわ
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/27(日) 06:52:34.73 ID:oAq8ogsQ0
最後鳥肌ヤベェ、、、
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 08:29:41.94 ID:XzbSfzzso
3レス目とリンクしてるのか
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/30(水) 22:04:40.14 ID:5OyXMx/dO
おつおつ 過去のも読んだけどすごくよかった
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