【ミリマス】君のその指にリースをはめて

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1 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/05(木) 19:28:54.11 ID:TzvX0Up20
===
人間、柄にもないことするもんじゃない。
それと思いつきだけで行動するのもできれば止めておくべきだ。

金無いだらしない意地汚い、おまけにワガママ自分勝手。
日頃からダメ人間としての醜聞を、あらかた欲しいままにしているこの俺がだ。

ちょっとした気まぐれの結果として、こんな窮地に立たされてる。

「プロデューサー、私……!」

ああ、ああ! そんなに感極まっちゃって。
涙なんかも流しちゃって。

流石の俺にもこれは分かる。

確実に、今目の前にいるこの少女が取り返しのつかない
判断ミスを下した事が……そう! 言わずもがなさ、人生の!

「驚い……てます。でも、それと同じぐらいに嬉しくて……! どうしよう、うまく言葉が出てこない……」

そう言って、琴葉は涙も拭かずに微笑んだ。
その健気で儚い微笑みに、俺の良心がズキズキと痛む。

ああ全く、どうしてこんないい子なのに、人を見る目が無いんだか……。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1507199333
2 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/05(木) 19:36:19.09 ID:TzvX0Up20
===1.
 
事のきっかけは数日前。いつも仕事でお世話になっている、とある知り合いに呼び出されたのが始まりだった。

待ち合わせ場所のカフェにつくと、周りは若い女の子だらけ。
それもそのハズ、この店はケーキが旨いと評判で、よく事務所の子達も話題に上げてる人気店。

そんなカフェの平均年齢を一人で上げてるその人は、
店に入って来た俺の姿を見つけるとケーキを食べてた手を止めて、「こっちこっち」と声を上げた。

「呼び出されるのはいいですけど、待ち合わせ場所はもう少し考えて欲しかったなぁ。正直ここ、俺には居心地悪いっス」

相手の姿を見つけるなり、愚痴が飛び出すのは悪い癖だ。
とはいえ直せる物なら直してる、二十年来のつきあいもある悪癖で……っと、それはいいや。

この店を指定した張本人である彼……いや、彼女は俺が席に着くや。

「ちょっとお姉さんすみません、この人にエスプレッソ一つ」

「小窯さん! 自分で注文できますよ」

ガタイが良い、声が太い、口周りには髭の剃り跡も。
しかし着ている服は女物で、仕草も優雅でそつがない。

そんな彼女に声をかけられた店員が、「かしこまりました」と若干引き気味の笑顔で去って行く。
3 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/05(木) 19:38:01.53 ID:TzvX0Up20

「いいじゃない。君の好みは知ってるつもりよ」

手の甲にちょんと顎を乗せて、ニコリと笑う小窯さん。

「居心地悪いって言ったって、アナタ甘い物大好きな人じゃない」

「……そいつは否定しませんけど。アホほど苦いコーヒーと甘いお菓子の組み合わせ。これだけでご飯三杯はいけますし」

「悪食ね」

「例えですよ」

そして俺の好みもそうだけど、小窯さんは女心を分かってる。今までだってそうだった。
彼女のくれた些細な助言が何度仕事で役立ったことか……。

ああそうだ。そう考えるとこの人も、
そんなに悪い人じゃあないけども……どうにも見た目のインパクトがね。

「強すぎるのも考えもんだ」

「なに?」

「いえ何も。……それで、わざわざ電話してきてなんですか? またロコを貸し出す話でも?」

「そうそれ! 彼女にこの前イベントを、色々と手伝ってもらったでしょ。そのお礼と言うのもなんだけど――」

そうして小窯さんは持って来ていたポーチから、ある物を取り出して机の上に置いたんだ。

それはそう、例えるなら小さな宝石箱みたく。
いや、どんな角度から眺めても、紛れも無いそれは宝石箱。

そうだな……ちょうど、指輪を入れるのにいいぐらいの。
4 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/05(木) 19:41:22.21 ID:TzvX0Up20

「あー……その、見事に四角い箱ですね」

「中身はもっと驚くわよ?」

言って、小窯さんは勿体つけるように蓋を開けた。
そうして箱の中身を覗き見た俺は、思わず息を飲んだんだ。

「ゴチャゴチャしてるぅっ!!」

「なぁーによぉ〜う」

文句があるなら訊いてやんぞ? ってな調子で小窯さんは唇を尖らせる。

ハッキリ言ってその仕草は、可愛くない上に不気味だし、
箱に入っていたソレも案の定指輪だったけども。

……それにしたってこれはまた。
素人目でもヤバいと分かる装飾技法の全部乗せ。

ハッキリ言ってデザイン過多! 
世間にはさ、リースってのがございましょ?

いや賃貸契約の話じゃなくて、有名なところでクリスマスリース。
植物の蔓なんかを輪にしてさ、花なんかでデコレーションするアレねアレ。

で、指輪についてた装飾は正にそんな感じの代物で。
ちょうどリングをはめた時、そのリース部分が指の背に乗るようになっていた。

全体に渡る細かく綺麗な造りに職人の技が光ってることは分かるけど、シンプルさとは程遠い、
そのゴテゴテトゲトゲしたデザインはまるでそう――。

「ロコの作品じゃあるまいし」

「そのロコちゃんのイメージで作ったのよ」

小窯さんが宝石箱を手に取って、フフンと自慢げに鼻を鳴らす。
5 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/05(木) 19:43:23.79 ID:TzvX0Up20

「今度の新作を持って来たの。日本じゃまだ発売してないんだけど、
正真正銘『OGAMA』ブランド、リースモチーフの指輪よ指輪!」

あ、やっぱり? リースが元になってんのね……とはいえ。

「またアホほどお高いんでしょう?」

「まぁ……そうね。アナタみたいな人にはね」

呆れたように放たれた、彼女の言いたいことは分かる。そりゃ、俺は金遣いの荒いので有名だけど。
それでもこんなワケのわからん指輪にだ、何万と出す奴の気が知れん!

「で、なんです? コイツをロコに渡してやればいいんですか?」

「そうなの、お願いできるかしら? 直接渡したっていいけれど、彼女、断っちゃう気がして」

「そりゃいくらお礼と言ったって、こんな高価な物はねぇ」

ロコの性格から考えても、十中八九断るだろ。
……けどそんな俺の乗り気じゃない雰囲気を察したのか、小窯さんは突然俺の手を握りしめ。

「でもアナタならきっと大丈夫! その人の都合なんて考えない、
強引で厚かましい性格ならきっとロコちゃんにだって渡せるわ!」

「褒めてんスか、貶してんスか! それが物を人に頼む態度ですかっ!」

結局指輪は押し付けられて、これじゃあどっちの方が強引だか分かったもんじゃありゃしない。

でもま、ご贔屓さんは大切に。引き受けましょうこのお使い。
……けどその代わりに次こそは、うちのアイドルにモデルの仕事を貰うかんな!
6 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/05(木) 19:45:38.07 ID:TzvX0Up20
===2.

「ノーサンキューですプロデューサー」

「待って、まだ指輪を見せただけじゃないか」

「ワンコンタクトで分かります。その指輪は、ロコにはノットフィーリング……。ミスマッチですよ、それもかなり」

それだけ言うとロコはまた、鑿(のみ)打ち作業を再開する。
ここは765劇場工作室、別名ロコのアート小屋。

事務所きってのDIY……じゃない。美術担当であるロコは今、
どこから持って来たかも知れない丸太を相手に奮闘中。

一体何を作ってるやら。この前なんて泥船を
劇場の横にある海に浮かべて大はしゃぎ……って、今はその話は別にいいか。

俺は件の宝石箱を手に持ったまま、ロコの背中に話しかける。
7 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/05(木) 19:47:42.93 ID:TzvX0Up20

「そんなつれないこと言わないで、ただ貰っちゃえばいいだけなんだしさ」

するとロコは困ったような顔をこちらに向け。

「ロコだって、オガマさんを嫌いなワケじゃないですけど。
だからこそそんな高価なプレゼントを、受け取るわけにはいきません」

「いやいやそんな安物だよ。ちょっと見た目が細々してるだけだってば」

でも俺のでまかせなんて彼女はお見通しのようで。
「それ、本気で言ってます?」なんて厳しい視線を返される。

普段はへにゃへにゃしてるのに、こと芸術が絡む話題の時は百合子より手強いのなんのって。

……しょうがない、作戦を少し変えてみるか。

「でもさ、人気の『OGAMA』の新作だよ? 日本じゃまだ発売すらしてないレアらしいし、
イマドキの子なら誰だって、欲しがるもんだと思うけどな」

「それこそ関係ないですよ! ムーブメントは乗るよりも、自分でフィーチャーできないと!」

おっとどうやらバッドコミュ。ロコは不機嫌そうに眉をしかめ、
手に持っていたノミとハンマーを真っ直ぐに、ビシッと俺に構えて見せた。
8 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/05(木) 19:50:47.63 ID:TzvX0Up20

「それに、その作品からインスピレーションは受けましたし……ロコはそれだけで十分なの」

「……はいはい、大人の御意見で」

「理解できたならプロデューサー、そこのカンナを取って下さい」

「ほら」

「サンクスです!」

そうして道具を受け取ると、ロコはいつものふにゃっとした笑顔を浮かべて言ったんだ。

「後、グラティテュードならまた一緒にお仕事がしたいですね。……期待してますよ、プロデューサー!」

結局ロコは、予想通り指輪を受け取りはしなかった。

小窯さんは俺の図々しさに期待をしていたようだけど、
プロデューサーとしてはアイドルの自由意思を尊重。

受け取らないって言う物を、無理に渡して気分を損ねるのも得は無いし。
せっかくだからこの指輪は――。

「あ、そうだ」

「ん、なんだ?」

「その指輪、ちゃんとオガマさんに返してくださいね? セールオフなんかしちゃダメですよ」

ポッケに入れようとしたトコを、ロコに優しくとがめられる。
……ふっ、全く良い洞察力してやがるぜ。

だから俺は小さく肩をすくめると、誤魔化すために訊いたんだ。

「ところでロコ、何作ってんの?」

丸太を指さし尋ねてみる。すると彼女は腕を組み、笑顔のままでこう答えた。

「これはトーテムポールです! 社長から、劇場の玄関用オブジェを作ってくれって言われました♪」

……ホント、社長もなにを作らせてんだ?
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