国王「さあ勇者よ!いざ旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」完結編

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372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/28(月) 15:07:51.16 ID:xekiK3YE0
更新を…
373 : ◆EonfQcY3VgIs [sage]:2018/06/04(月) 07:28:37.57 ID:GRoQFgrq0
今週末の9日(土)に続きを投下します
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 03:50:09.96 ID:bKe36NXDO
舞ってるわ!
375 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 08:13:54.40 ID:m5D6diRcO









神父(――この世の終わりとは、こんな眺めなのだろう)

神父(天に向かって幾筋もの光が飛び散った時、私はそう思った)


神父(光は、空を突き破るように虚空を飛び、そして破裂した)

神父(途端に天空は紅蓮色に染まり、朱く我々の姿を照らした)

神父(爆風が遥か上空から我々を叩きつけ、少し遅れてから耳をつんざくような轟音が襲ってきた)


神父(理解の及ばぬほどの激しい衝動がぶつかり合っていたのだと知ったのは、もっとずっと後になってからで)

神父(その時、人々は誰一人例外なく、為す術もないまま身を縮めるしかなかったのだ)

神父(私は城下町で見つけた赤毛達を庇うようになったまま、何とかもう一度空を見た)

神父(王城は、すでに奇怪な姿へ形を変えて中へ浮かび上がり、原形を留めていなかった。光はそこから四散し、爆発を繰り返していた)

神父(神話の世界を眺めているようだと、思った。そしてあの光の欠片がひとつでも落ちてくれば、王国は消し飛ぶのだ)

神父(そういう予感があった)


神父(だからいよいよその瞬間を迎えようという時に)

神父(身を呈して城下町を守った小さな影が、魔王自身だったなどということを)


神父(その時の私たちは、気づくはずもなかった――)



376 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 08:21:31.44 ID:m5D6diRcO


魔王「――うあああああああッ!!」




魔法使い(魔王………っ! 貴女という人は!!)

魔法使い(人間の王国を、その身を呈して守ろうというのですか!?)

魔法使い(今の貴女では、命を落としかねない暴挙だ!!)

魔法使い(人間の国を守って死んで、それでもいいというのですかっ!!)


魔王「これは…っ、もう………!!」

魔王「人と魔の戦いではない!!」


魔王「世界を操る存在と、そこに生きる生命の戦いだ………!!」


魔王「滅びるべき命なんて、最初からなかった…っ!!」

魔王「私は…っ、それを見抜けずに多くを殺めた…!!」


魔王「私は、もうこれ以上」



魔王「生命の生きる権利を奪わない!!」




魔法使い「ふっ!」

魔法使い「くくく!! いいでしょう!!」

魔法使い「面白い皮肉じゃありませんか!!」


魔法使い「守ってご覧なさい!!」


魔法使い「"魔王"たるあなたが!!」


魔法使い「世界をっ!!」



377 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:14:47.76 ID:tpR/STzE0


魔法使い(ああ)

魔法使い(今や神の化身となった炎獣の相手は流石に…)

魔法使い(僕の存在が流れ出してゆく。それを塞き止める余裕はありませんね)

魔法使い(僕の過去の記憶)


魔法使い(この数百年の想いが、こぼれ落ちる………)









――
――――
――――――

378 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:15:37.47 ID:tpR/STzE0



側近『はあ、はあ………』

側近『誰か、生きている者はいませんか!』

側近『誰か…っ!』

側近『………いないのか』

側近『生き延びたのは、僕だけなのか』

側近『………勇者一行も、四天王も、魔王様も』

側近『みんな、死んだ』



379 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:16:49.95 ID:tpR/STzE0



側近『前回の魔王と勇者は同士討ちになりました』

側近『人間側も次の勇者が出るまで、しばらくは攻勢に出てくることはないでしょうが』

側近『我らはその長寿にかまけて、これ以上魔王の座を巡る戦いに没頭していては、魔界は疲弊するばかりです』

側近『新たな魔王が必要なのです。それは、邪神の加護を持つあなたに他なりません』

側近『………ですから』

側近『その手に持つ鍬を捨てて、さっさと軍をまとめて下さい』


先代『ふーむ。気乗りせんなあ』




380 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:18:04.02 ID:tpR/STzE0




側近『魔王就任おめでとうございます』

先代『やれやれ。魔界っていうのはどうしてこう血の気が多いのばかりなのだか』

先代『…いらん犠牲を払いすぎた』

側近『あなたが王の座に就くことが一番の平和への道ですよ』

先代『しかし、こうなれば今度は人間との戦いが始まるわけだろう。勇者との、戦いが』

側近『そうなりますね』

先代『なあ、側近。本当に戦わねばならんのか…?』

側近『………何を、今さら』

側近『迷う必要など、ありませんよ』



381 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:22:05.97 ID:tpR/STzE0



冥王『おや、お前様は』

側近『…冥王』ハァ

側近『魔王様の戴冠式はとっくに済みました。あなたの用はもうこの魔王城にはないはずですが』

冥王『おほほ。なんとまあ、ツレないこと。あたくしにそんな態度をとる魔族は、魔界中探してもお前様くらいのものですのよ』

側近『悠久ともいえる時を生きる者同士と言えど、馴れ合うつもりはありませんよ』

冥王『相変わらずのコミュ障野郎で、困っちまふわね。それにしても、お前様』

冥王『新しい魔王に随分と手を焼いてるご様子じゃありませんの。珍しいものが見れて、あたくし可笑しくてしょうがないわ』

側近『…あの人は、今までの魔王にないくらいマイペースでしてね。戦意ってやつが薄すぎるんですよ。魔族のくせに』

冥王『………あたくしにしてみれば』

冥王『それだけの力と知識を持っていながら、未熟者に付いて回り続けるお前様の方が、魔族らしからぬズボラ者に見えるけれどね』

側近『………早く冥界に帰ってくださいよ。うるさいですねぇ』

冥王『はいはい』オホホ



382 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:24:59.33 ID:tpR/STzE0



側近『…魔王と勇者の戦い。その全ての戦績はほぼ五分と五分』

側近『それは僕が今まで経験した戦いの全ても同様だ。敗れた種族は搾取され、文明が衰退する。やがて窮地を救う英雄が現れる…その繰り返し』

側近『"本当に戦わねばならんのか?"ですか』

側近『僕だって本当はその問いに幾度も辿り着いていた。けれど人と魔は相容れない………勇者と魔王がいる限り』

側近『――それでは勇者と魔王は、人間と魔族の争いを引き起こすために存在しているのか?』

側近『英雄などではなく…歴史を繰り返すための道具』

側近『………道具…一体誰の? それは――』


側近『天から加護を与え続ける、神々の、だ』


側近『…』

側近『もしかすると、次は人間の敗北なのかもしれない。人間は近年純粋な敗北とは縁がなく、その人口を増やし続けている』

側近『どちらにせよ、今度の大戦において魔王様が優位なのだとすれば………あの魔王様なら、戦争以外の道を模索できるかもしれない』

側近『それに何より、今回はあの魔王様が』

側近『死なずに済む』



383 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:28:53.54 ID:tpR/STzE0



側近『…まさか。確かなのですか?』

冥王『どうやら、そのようでしてよ』

冥王『邪神の加護が、王からその娘に移り変わり始めちまってますわね。あたくしもこんな事は始めて経験しますのよ』

冥王『赤子の身で親の加護を吸い出すなんて…末恐ろしい魔族も居たものですわね』

冥王『邪神というのも、どういうつもりでいるのだか』

側近『………』

冥王『…せっかくお前様がいれこんでいる魔王ですけれど、あののんびり屋さん、娘に加護を奪われてこのままでは弱る一方』

冥王『あれじゃあ今話題の女勇者には勝てやしないでせう』

側近『………』



384 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:30:06.28 ID:tpR/STzE0



側近『――お嬢様を殺しましょう』



雷帝『側近様…正気ですか!?』

鳳凰『血迷ったのかえ? 側近』

側近『…いいえ。僕は至って正常ですよ。異常なのはこの事態です。あってはならないことなんです』

先代『………』

雷帝『だからと言って、そんな!』

玄武『んだ。話が飛躍しすぎだべ、側近』

側近『そんな事はありません。このまま魔王様の邪神の加護が弱まれば、確実に勇者一行に敗北します』

木竜『じゃから、殺せと言うのか? まだ赤ん坊の、その子を』

側近『はい』

側近『魔王様、僕はもう一度ここに進言します』

先代『………』

側近『あなたのお嬢様は、今の内に、殺してしまうべきです』

385 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:33:07.79 ID:tpR/STzE0

側近《魔王様…分かって下さい》

側近《あなたは今までの暴君としての魔王ではない。勇者との争いではない道を探し出せるお方だ》

側近《あなたは、死んではダメだ。神々の思い通りになることはない》

側近《今回のように先回りして気づけたことは、神の意思に逆らうチャンスだ。だから………!》

先代『………』


先代『ならん』

先代『この子を殺すことなど、許せるはずがない』


側近《…!!》

先代《すまん…許せ。側近》

先代《どんな理由があっても、娘を手にかけることは出来ない》

側近《………なぜ。なぜです》

側近《このチャンスを逃したら…またこの後数百年か、更に永い時をか、神々に支配されたままなのですよ!》

側近《その大戦の中で、沢山の生命が散る…っ! 死の循環をさまよい続けなければならないっ!》

側近《また大いなる意思の下に飼い慣らされ、呪われた放浪をすることになる――!》

先代《………》


先代《すまん》


側近《…っ!!》

386 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:33:49.10 ID:tpR/STzE0

側近《………》

側近《――もういい》

側近《ならば、僕自身で手を下すまでだ。………どんなことをしてでも、神々の思い通りにはさせない》

側近《この機を逃してはならない。その為なら僕は――僕らしさだって捨ててみせる》

側近《あなたが捨てきれないものを、僕は捨てます。魔王様》

側近《そう。だから》

側近《魔王様。あなたを倒すことになったとしても………僕はやり遂げる》

側近《邪神の加護を………僕自身の手で正面から越えてみせる。神々の筋書きを裏切る》

側近《もう………無意味な戦いの連鎖には》


側近『ウンザリだ』

側近『守る価値もない。ならばいっそ』

側近『僕の手で、壊してしまえばいい』


木竜『…やる、と言うのじゃな』ザッ

雷帝『翁…!』

木竜『構えよ、雷帝。この男は、今この時を持って…我らの敵じゃ』ギロ

雷帝『…っ!』ジャキ…!

玄武『ちィ…!』ザッ

鳳凰『四天王全員を相手にして、勝ち目があると思うのかえ? 側近よ…!』


側近『ふっ。くっくっくっ…!』

側近『いいでしょう。今こそ試される時だ』

側近『この数百年、僕の生きた証を』



側近『その身に、刻むがいい――!!』



387 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 14:37:37.76 ID:tpR/STzE0



『…ここは?』

賢者『…目が覚めたかい?』

賢者『どうやら蘇生には成功したようだ。身体は動くかな?』

『僕は…』

賢者『君は、どうやら魔王に反旗を翻した魔族だ。そして信じられないことに、邪神の加護を持つ魔王の撃破に成功したようだ』

『………そうですか』

『僕は、勝ったんですね。神々のシナリオを…逸脱せしめた』

賢者『神々のシナリオ…。興味深い話だ』

賢者『是非とも君には詳しい話を伺いたいと思っている。自分の名は、賢者。ここは人間の王国だ』

賢者『自分は君に、新たな可能性を感じている。今までの、勇者と魔王に依存した世界から抜け出すための可能性を』

賢者『自分達の研究に協力してはくれないだろうか。その為の場所はすでに用意出来ている』

賢者『人間界で生きるのだ…側近という名を捨てて』

賢者『今日からは魔法使い、と名乗るといいだろう』



『………魔法使い、ですか。そうですね』

魔法使い『分かりやすくて、いいですね…』



388 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:44:09.59 ID:tpR/STzE0



教皇『き…危険はないのか?』

賢者『彼は我々の研究に興味を示してくれている。自分の見立ててでは、同じ価値観の中にいるという印象だよ』

賢者『それに何より…永い時を生きた経験を持っている。そして膨大な魔法の知識』

賢者『自分達の研究…"古代文明と女神について"の答えが、得られるかもしれない』

教皇『…』


魔法使い『………古代都市の、文明…。人間界には、こんなものが残されているんですか』

魔法使い『資料をもっと下さい。これは魔界にはなかった、世紀の発見だ』

賢者『もちろんさ。しかし、キリのいい所で君が魔界で得た知識も披露してくれよ』

魔法使い『ええ、ええ。もちろん。とは言え、僕の得たものは"勇者魔王大戦の枠組みの中のもの"でしかありませんが…』

教皇『…!』

賢者『どうだい? 彼の熱意は本物だろう?』

教皇『う、うむ』

教皇『そうか…。ならば私とて、女神の子ということをこの一時忘れよう』

教皇『研究の成果のために、全てを捧げよう』


389 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:44:55.04 ID:tpR/STzE0



賢者『――魔法使いは、勇者ではないにも関わらず魔王を倒した。これは、女神の加護をいち生命が凌駕したという動かぬ事実だ』

教皇『ここでひとつの仮説を立てよう。女神の加護を、生命は越えられる。そうであるなら、女神の加護を造り出すことすら出来るのではないか』

魔法使い『生命の神秘への挑戦。現存の細胞を使わない新しい生命の誕生』

賢者『不可能じゃない。古代文明において、それは本当に実現していたはずだ』

教皇『下地は既に完成している。長い長い年月をかけてな。ついに、それを目覚めさせる仕上げの時というわけだ』



賢者『人造人間………ついに完成だ』

教皇『………これは、成功なのか?』

魔法使い『ええ。…これは今までにない魔力値をもった個体ですね』

賢者『彼女が目覚めることが出来れば、この研究の脳となってくれるだろう』

賢者『個体番号〇一七号。…通称"魔女"』


魔女『………』ムクリ…



390 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:45:53.70 ID:tpR/STzE0



教皇『…本当に、いいのか』

賢者『うん。自分は構わないよ』

賢者『今は、自分達の研究の最も大事な時期だ。ここで少しの遅れも取りたくはない』

賢者『魔女の完成に次いで、ついに"女神"を造り出せるんだ、自分達の手で。これさえ出来れば、自分達は今までにない成果を上げられるようになる』

賢者『それこそ、女神の加護と同等のものを…!』

教皇『………とは言え』

教皇『お前自身が、生け贄にならねばならないなどと。そんな実験…』

魔法使い『…すみません。先生と手を尽くしたのですが、この方法にしか辿り着けませんでした』

賢者『…"生け贄"』

賢者『魔女と魔法使いの力を持って辿り着いた結論だ。この、古代文明の錬金術とも言える技』

賢者『そのためには、純粋な人間が生け贄に必要なんだ。………覚悟は決まっているさ』

賢者『どの道、自分はこの研究のために全てを捨て去るつもりでいた。それは教皇、君や魔法使いも同じだろ?』

教皇『くっ…しかし!』

賢者『もう、自分の能力では研究に成果をもたらせない。その役目は魔女や魔法使い、それに生み出される人造人間達が担う』

賢者『教皇。君には引き続き彼らの後援者であり続けて欲しい。………そうなると』

賢者『責任者のひとりとして、僕が果たせる仕事は、最早こんなことくらいだ』

魔法使い『………』

391 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:46:36.19 ID:tpR/STzE0

賢者『誇りをもって、死ねるよ。君たちと、世界の神秘に挑戦し続けた証として』

賢者『教皇。魔法使い。君達と志を同じく出来たこと、本当に嬉しい』

賢者『自分は完成された"女神"の中で生き続ける、ということも考えられる。そうなれば、自分は時空すら越える存在になれるってことさ』

賢者『はは。楽しみじゃないか』

魔法使い『…賢者さん。しかし、あなたのご友人や妹さんは…』

賢者『言うな、魔法使い』

賢者『もういいんだ。踏ん切りはとうの昔につけた。それに』

賢者『"神々"についてのあの仮説が正しいんだとしたら――』

賢者『自分は、その存在にこそ近づいてやりたいと思うんだ』

魔法使い『そうですか…』

教皇『………つくづくお前は、憐れみ深い男だ』

賢者『さあ、名残惜しいがここまでにしよう』

賢者『やってくれ』



392 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:47:22.03 ID:tpR/STzE0



教皇『み………見ろ。石板に文字が刻まれ出したぞ』

魔法使い『…ええ。どうやら、これが未来に行った"女神"の啓示のようですね』

教皇『こ、これが我々の未来…!?』

魔法使い『ふむ。"女神"が時を越えて見た未来ですから、恐らく間違いはないでしょうね』

教皇『魔王の凶暴化。勇者の敗北。人類の敗走…。そして』

魔法使い『あはは。僕らは、死ぬそうですよ』

教皇『…っ!』

魔法使い『魔王と四天王に為す術なく蹂躙される未来。…さて、どうしたものですかね』

教皇『………ふっ』

教皇『くくく…。ははははは!』

魔法使い『教皇…?』

教皇『なあ、魔法使い。我々は未来を知り得ることに成功したのだ…!』

教皇『死の運命など、どうとでも出来る。たった今、我々はそれほどの多大な力を手に入れた!』

教皇『未来を知れば、世を支配することすら造作もないっ!』

魔法使い『………』

教皇『我々は、神々と肩を並べたのだよ! この力を持ってすれば――』

魔法使い『教皇』

教皇『っ…!?』

魔法使い『あくまで我々の目的は勇者魔王大戦の仕組みを…天上の意思を裏切ることです』

教皇『…分かっている』

教皇『分かっているとも。それくらいのことは…』

魔法使い『…』



393 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:48:30.27 ID:tpR/STzE0



教皇『――女神の力によって幾度かの未来線の変更を実行。研究は急激に加速している』

魔法使い『神々の創造する未来"勇者一行の敗北"を逃れるため、魔王討伐に成功した世界の構築を試みましたが、これは難解を極めることです』

魔法使い『今回邪神の加護を受け継いだ姫君は、類を見ないほど強大な加護の片鱗を見せています』

教皇『撃破できるかどうかギリギリの線だな。だが、不可能ではない』

魔法使い『…多くの犠牲を払うことになります』

教皇『構うものか。どうせ戦に死人は付き物だ。それより魔女の研究を急がせろ』

教皇『"鍵"の完成がもしも間に合えば、さらに新しい未来が見えてくる。魔王撃破に留まらず、世界そのものを変えるような成果になる』

魔法使い『それは、そうですが』

教皇『博愛主義の現国王も邪魔でしかないな。命までは取らずとも、どこかでご退場願おう』

教皇『そうだ。より軽便な手を思いついたぞ。魔女達の開発した奇跡の力の一旦を私自身が扱えるようになればよい』

教皇『そうと決まれば僧正達を使って明日からでも実験だ』

魔法使い『………』

教皇『魔法使い。武器商会の女社長への警戒は怠るな。あの女、どうも目敏い。あくまで魔導砲レベルのもので満足させておくのだ』

魔法使い『…分かっています』



394 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:52:51.40 ID:tpR/STzE0

魔女『女神の時間超越は安定してきた』

魔女『おぬしらにもたらされる啓示も、"魔王敗北の未来"のために正確な指示が下るはずじゃ』

魔法使い『…流石ですね、先生。本当にあなたは初の成功例にして最高傑作かもしれませんよ』

魔女『お世辞はいい。ふざけた名で呼ぶのも止めんか』

魔法使い『僕にとっては、あなたは既に研究の先を行く先生ですよ。もはや教わることの方が多い』

魔女『ふん、口の減らぬ奴よ。それより本当なのじゃろうな?』

魔法使い『…ええ。先生の目指すように、研究は人類の未来のために、必ずや役立てます』

魔女『…そうか』

魔女『おかしいか。人形の分際で心を持ち、仕事に意味ややりがいを求めている妾が』

魔法使い『…いえ、おかしいなんてことは』

魔女『人造人間でもな…喜びなくては生きていられぬようなのじゃ』

魔女『これは、致命的な欠陥かもしれぬな?』

魔法使い『…』

魔法使い『あなたは…もしかすれば、僕より豊かな心を持っているのかもしれませんね』

魔女『これが豊かと言うことなのか…悲しみや、苦しみも多く感じ取ってしまう』

魔女『いっそ壊れていた方が、生きやすかったかもしれぬ』

魔法使い『…っ』

魔女『それでもな。今は人の幸福のために研究をしているということと、それに』

魔女『後から生まれてくる後輩共の先生役をしておることが、心の支えになっておる』

魔法使い『先生役が、ですか…?』

魔女『うむ』ニコ

魔女『人に教える…何かを残す、というのは』

魔女『――思いの外いいもんじゃぞ』



395 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:53:40.40 ID:tpR/STzE0


魔法使い『………………』


396 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:57:16.30 ID:tpR/STzE0



魔女『…見つけたぞ、魔法使い!』

魔法使い『おや、どうしましたか』

魔女『惚けるな…っ! どういうことじゃ!?』

魔女『あの技術を、戦争に利用するなど…っ!!』

魔法使い『簡単なことですよ。これは人類の未来のためです』

魔法使い『魔王なんて生き物がいては、人に明るい将来などない…そう思いませんか?』

魔女『戯れるでない! お前は言っておったではないかっ! 魔王を倒すこととは違う未来は、切り拓けるはずじゃと!!』

魔法使い『………これが啓示なんです。分かってください』

魔女『ば、馬鹿な…!! そんなことが………』

魔女『お、おい!! 何処へ行く!?』

魔法使い『…人里へ。たまには城下町へ行ってみようかと思いまして』

魔法使い『ねえ、先生。あなたは言ってましたよね』

魔法使い『先生役も悪くないって。教えたり、何かを残すのも、悪くないって』

魔女『それがなんだと言うんじゃ…!!』

魔法使い『僕も、やってみようかなって、思いましてね。先生役…』

魔女『ふざけるな!!』

魔法使い『あはは』

魔法使い『これがね、大真面目なんですよね』

魔女『ま、待て………!!』

魔女『待たんかっ!』



397 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 19:58:20.41 ID:tpR/STzE0



三つ編『先生!』

坊主『先生ってば!』

『は、はい?』

金髪『もう、何ボーッとしてんだよ。先生』

赤毛『先生! 先生もこっちに来て、ボール遊びしようよ!』

『えっ…ぼ、先生がですか?』

『先生は先生なので、遊びなどをするつもりはありませんが』

金髪『固いこと言いっこなしだぜ、先生!』

坊主『早く早くぅ!!』

『お、押さないでくださいよ…』

三つ編『いっくよー! あっ…!?』スポーン

『ぶっ!?』バシーン!

坊主『うおーっ、顔面にクリーンヒット!』

金髪『やるなぁ、三つ編!』

三つ編『ごごごご、ごめんなさいっ、先生!』

赤毛『あははははは!』

『…は』


魔法使い『はははは…』









――――――
――――
――

398 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:39:41.23 ID:tpR/STzE0




魔法使い「ぜぇ、はあ…っ」


炎獣「 ヒュウ ヒュウ … 」


魔法使い(消耗が激しい)

魔法使い(だがそれは相手も同じだ。回復の速度が落ちてきている)

魔法使い(お互い底をついてきたということですか)


魔法使い「それにしても、口惜しいですね。これだけ僕の感情が、垂れ流しにされてしまうと」

魔法使い「…まるで、丸裸にされた気分ですよ」





魔王「………魔法使い」

魔王「あなたは、本当に………」


魔王「本当に、赤毛ちゃんたちの先生になるつもりで…」



魔法使い「………ふ、はは」

魔法使い「可笑しいなら、笑ってくださいよ」

399 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:40:40.02 ID:tpR/STzE0

魔王「あなたは………」

魔王「あなたは、どうして――」


魔法使い「分かりませんか? そうでしょう…!」

魔法使い「誰が、貴女などに私の思いを推し量らせるものですか!!」

魔法使い「貴女の思い通りになんて、させませんよ、魔王!!」


魔法使い「お前などに!!」

―― ゴ ゥ ッ ! !


魔王(!! 私を狙って来――)

炎獣「 グ ォ オ ウ ッ ! 」 ――パァンッ!


魔法使い「………ちっ。生意気にも守って見せるつもりですか…!」

魔法使い「邪神の加護の化身に成り下がった哀れな獣の分際で…ッ!」


炎獣「―― ガ ァ ウ ッ ! 」


魔法使い「げほっ…!」ビチャビチャ

魔法使い「はあっ、はあっ」

魔法使い「気に食わないん、ですよねぇ」

魔法使い「自分だけ、望みを叶えてゆく、貴女が、ね…」

魔王「………魔法使い」

魔法使い「誰が、お前などに」

魔法使い「僕の心の深淵を、覗かせてなるものか」

魔法使い「誰が………ッ!!」

400 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:41:31.17 ID:tpR/STzE0

炎獣「 グ ォ オ ォ オ ォ オ ! 」


魔法使い「………黙れ」

魔法使い「黙れ、けだもの…!」

魔法使い「…あらゆる英傑が、己を犠牲に歩んできた、この物語で…っ」

魔法使い「魔王…お前だけが、周囲を蝕みながら悠々と歩み続け…!」

魔法使い「そして僕の想いの全てまで、かどわかしてみせようというのなら!」


魔法使い「僕はそれに持てる全てを持って抗おう!!」


魔法使い「お前にはもう、僕を奪い取ることは出来ない!!」




魔法使い「…お前に出来ることは後ひとつ…っ!」



魔法使い「僕を、殺すことだけだ――!」





401 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:42:39.95 ID:tpR/STzE0



炎獣「 ガ ァ ッ ! 」 ギュン!

――ドシッ

魔法使い「ぐッ!!」


魔法使い(腹を突き抜けた)

魔法使い(守りを固めてもこれだ。ですが)

魔法使い(その腕、貰いますよ――)


魔法使い「切り裂け…っ!!」 ヒュ

ズバンッ!!

炎獣「 ア ガ ァ ッ ! ? 」








魔法使い『…ねぇ、武闘家さん』

武闘家『なんじゃ、ひょろひょろ』


魔法使い(僕の記憶を………っ、尚も奪おうというのか!!)

402 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:43:30.23 ID:tpR/STzE0

魔法使い『あなたは、どうして強くなるんです?』

魔法使い『肉体の限界を手に入れて………その更に先を見ようだなんて』

魔法使い『そんなことに、何の意味があるんです?』

武闘家『なんじゃあ? センチメンタルにでもなっとるのか?』

武闘家『あんまりワシを失望させるようなことを言うなよ』

魔法使い『いいじゃないですか、たまには』

魔法使い『僕、最近何のためにやってるのかなぁ、とか思っちゃうんですよね』

武闘家『そんなもん、ひとつしかないじゃろうが』

魔法使い『え?』

武闘家『………楽しいから、じゃ』ニィ





魔王(炎獣が、渾身の力で魔法使いを削り取る)

魔王(こぼれ落ちる想いの欠片が、断片的なものになってきた)

魔王(もう少し…もう少しで、彼の本心に辿り着けるのに…!)



炎獣「 ゴ ァ ア ッ ! 」

魔法使い「――ぐっ!!」

炎獣「 ガ ア ッ ! ! 」

魔法使い「ぜぇえッ!!」



魔法使い『商人さん。本当にいいんですか?』

商人『何?』

魔法使い『あなたが、悪者扱いされるようなやり方ばかりじゃないですか』

魔法使い『人は誰だって誉められたい生き物ですよ。こんなやり方で、本当に………』

403 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:44:21.79 ID:tpR/STzE0

商人『ふははははは! 何を言い出すかと思えば!』

商人『私を挑発しているのか? それとも頭を打ったか』

魔法使い『いえ、純粋な疑問なんですが』

商人『悪も正義もない。あるのは"私"だけだ』

商人『私が信ずるからこの道をゆく。そこに微塵の疑いもない』

商人『そもそも魔法使い。貴様の腹の内は読めんが………』

商人『貴様も、同じ穴の狢だろう?』

魔法使い『………そう。そう、でしたね』





魔法使い「はあッ…はあッ…!」

魔法使い「ここまで、きて、肉弾戦だなん、て…」

魔法使い「僕は、これでも、魔法使いって、名乗ってるんですが」

炎獣「 ガ ア ア ア ア ア ! ! 」

魔法使い「やれやれ、聞いちゃ、くれません、よね!」


ズッ

――ドォンッ!!



軍師『御苦労様でした。では約束の物は確かに。…このことは盟主様へは、内密にお願いします』

魔法使い『ええ、盗賊さんには黙っておきますよ。そもそも彼が僕の顔を覚えているか怪しいところですしね。…しかし』

魔法使い『再三お話ししましたが、その宝珠はあなたの死を引き金に爆発します。本当に宜しいんですね?』

軍師『構いません。これからの戦い、もしかすれば私の能力の及ばぬ事態に陥ることがあるかもしれませんから』

軍師『自爆だろうがなんだろうが、奥の手というやつは必要です』

魔法使い『…まったく、大した覚悟ですね。そんなにあの翼の団が大事ですか』

軍師『ええ。私の生命よりも、信念よりも』

軍師『あの場所が大事です』


404 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:45:14.30 ID:tpR/STzE0

魔法使い(言わせて貰えば)

魔法使い(僕の生命力は"鍵"を使うたびに削り取られ続けてきた)

魔法使い(木竜を殺した時。教皇相手に策を弄した時。最初に炎獣を倒した時。雷帝と氷姫を相手にした時)

魔法使い(少しずつ僕を蝕んできたこの"鍵"の力に耐えうるだけの余力は)

魔法使い(もう僕にはとっくに残されてはいない)



魔法使い「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…!」

炎獣「 グ ォ オ ァ ア ァ !」



魔法使い(出来ることならば)

魔法使い(この"鍵"で扉を開き、神々を名乗る者のそのご尊顔を、この目で拝んでやりたかったが)

魔法使い(どうやら)

魔法使い(それも叶いそうにないか)



405 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:46:08.41 ID:tpR/STzE0

炎獣「 ゴ ァ ア ァ ア ァ ア ッ ! ! 」

――――ドスンッ!!


魔法使い「うガっ………」ヨロ…





魔法使い(ああ、これは不味い)

魔法使い(いよいよもって回復が間に合わない)

魔法使い("鍵"の反動を、精神力だけで堪え忍んできたのも、もはやここまで)

魔法使い(対して炎獣の方はまだ余力が見える)

魔法使い(今度こそ)

魔法使い(今度こそ終わるのか)

魔法使い(僕の生が)



兄『俺が魔王を討つ。必ずだ』

魔法使い『ご武運を』

兄『………貴様らには俺でさえ計り知れんものがある』

兄『俺が例え…その駒のひとつにしか過ぎなかったのだとしても』

魔法使い『!』

兄『必ず意味のあるものにしてくれ…』

魔法使い『………』

魔法使い『分かりました』

406 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:49:24.03 ID:tpR/STzE0

赤毛『…先生。行かせて、下さい』ペコ…

魔法使い『っ………どうして、どうしてそこまでして…』

神父『先生。生徒は、あんたの所有物じゃない。自分で決めたことだ。…そうなんだろう?』

赤毛『はい。パパやママを、守りたいんです』

魔法使い『………』

赤毛『あたしには、それが出来るかもしれないから、他の人にはそれが出来ないから』

赤毛『だから、あたしが行くんです』



魔法使い『………………』






魔王(彼の心の中心に近づいてきた)


魔王(より生々しい感情が伝わってくる…!)


魔王(――もう少し)


魔王(もう少しで、魔法使いの狙いが………!!)
















魔法使い「転移ッ!!」

――ギュウン!




407 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:50:11.27 ID:tpR/STzE0


魔王「消えたっ!?」


魔王(まさか、まだ転移を使うだけの力を残していたなんてっ!)


魔王「一体どこに――」








魔法使い「魔王」





魔王「!!」ゾクッ


魔王(真後ろッ!?)







  ザ ク ッ




408 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:53:38.52 ID:tpR/STzE0


魔王「――………」


魔法使い「………は」

魔法使い「はは」


ズブッ…


魔法使い「やり、ましたね」グラッ…

魔法使い「魔王…」


魔王「あ…」


魔王「あなたは」


魔王「もはやほんのひと欠片しか、力を残していなかった」


魔王「そしてそのひと欠片を」


魔王「私の背後に回り込むためだけに、使った」


魔王「――私に」


409 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:54:20.05 ID:tpR/STzE0


魔王「私自身に、とどめを刺させるために………!!」


410 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:55:13.24 ID:tpR/STzE0


魔法使い「グハっ、げほッ」ドバッ

ビチャビチャ…

魔法使い「…ふ」

魔法使い「ふふふ」


魔法使い「あははははははははは!!」


魔法使い「魔王!! あなたは、これ以上、僕の記憶を奪うこと、は、出来ない!!」


魔法使い「僕は、死ぬ!! この何百年の想い、に、終わりを告げ、る!!」


魔法使い「これ以上、生命を奪わないと、宣った、あなたの!!」


魔法使い「あなた自身の、手を汚し、そして!!」


魔法使い「その、下僕たる邪神の加護は、最後の一手を打てず、に!!」


魔法使い「僕の死を、見送ることとなる!!」


魔法使い「最後の記憶は、僕だけのもののままだ!!」


魔法使い「この、最後の、瞬間まで!!」


フラ…

…フラフラ

411 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:58:45.41 ID:tpR/STzE0


魔王(覚束なく機械城の庭をさまよい)

魔王(何も見えていないような目)

魔王(あなたは、もう――)



魔法使い「あははは、は、ははは!!」


魔法使い「全てのことが、懐かしくすら、ある!!」


魔法使い「僕の全生涯、を、煮詰めたこの数年の研究、が、花開い、た!!」


魔法使い「魔王!!」


魔法使い「その血染めの、姿で、最後の地へ足を、踏み入れるといい!!」


魔法使い「それこそ、魔王らしい!!」


魔法使い「魔王を魂とした、この、物語を、終わらせるの、です!!」



魔王「………っ!」

魔王「魔法使い。あなたは、もしかして…」

魔王「最初からこうするつもりで――………」




魔法使い「ははははははははははッ!!」


魔法使い「予言、しましょうッ………魔王!!」



魔法使い「――この物語の終わりは、あなたの、死だ!!」


412 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 21:59:43.11 ID:tpR/STzE0

魔法使い「もう、あなたが死ぬことでしか!!」


魔法使い「この可笑しな惨劇、は、終わりようも、ないのだ!!」



魔法使い「魔王!! あなたは!!」







魔法使い「戦いの終わる最後の瞬間に、命を落とすだろう!!」










魔法使い「あはははは――!!」







魔法使い「 あ は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は は ! ! ! ! 」




ヨロ…





魔王「ま、魔法使い…!」


魔王(そっちは機械城のへりっ!)


魔王「待って…!!」




413 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 22:00:31.48 ID:tpR/STzE0



魔法使い「さらば、世界」



魔法使い「僕の夢見たもの」




魔法使い「どうか、素敵な朝を――」




414 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 22:03:52.01 ID:tpR/STzE0




魔王「魔法使いっ!!」











ヒュォオ…
























415 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 22:04:47.04 ID:tpR/STzE0













冥王「………側近」


魔法使い「………………」


冥王「何を驚いているのでせう。このあたくしが…お前様の死に際なんていう面白い見世物を、見逃すと思ったのかしら?」


魔法使い「………………」


冥王「安心なさいな。こんな人間の国までえっちらこっちら来たのは、単なる野次馬根性」

冥王「ただの見物ですのよ。………お前様が成し遂げようとしたことと、あたくしのお弟子さんが選んだことを見届けてみよう、なんて洒落てみただけここと」

冥王「歴史の生き証人ってやつは必要だと、そうは思いませんこと?」


魔法使い「………………」


冥王「あらあらまあまあ、お前様、本当に死んじまうのね」

冥王「もう既に"鍵"はお前様から離れ、新たな主を求めて何処へやら。まったく、尻の軽い乙女のような代物ですわね」

冥王「あの絶対的な力が、この辺りの馬の骨の手に渡っちまうなんてこんな結末、本当によろしいんですの?」


魔法使い「………………」


冥王「…ふふ」

冥王「最後まで不気味に笑うんですのね。お前様らしいこと」

冥王「"鍵"を手にする幸運の持ち主は何処へやら…」

冥王「それはそうと、お前様の生はここで幕引きですわ。大悪党の最期って、思いの外あっさりしたものですのね」


冥王「最後くらい安らかに眠りなさいな」


冥王「おのが魔の血に挑み続けた、愚かな魂」




冥王「我が友。側近よ………――」






416 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 22:05:20.66 ID:tpR/STzE0








魔王「………」

魔王「この高さでは助かりようもない」

魔王「そもそも最後の言葉を紡いだあの時間………彼は生きているとはいえない状態だった」


魔王「――魔法使いは死んだ」


魔王「もう彼の代わりになる者は居ない」


魔王「………」

魔王(ではお前はどうするつもりだ?)

魔王「っ…」ゾッ

魔王(勇者のもとを目指す必要はなくなった)

魔王(神々を打倒せんとした魔法使いはお前が殺した)

魔王(――もう道標となるものはひとつもない)

魔王(お前は、なにを選ぼうと言うのだ?)


417 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 22:08:54.66 ID:tpR/STzE0


炎獣「 ヒュゥ ヒュゥ … 」


魔王「! 炎獣…っ!」

魔王(それはもう炎獣などではない。邪神の加護の化身)

魔王「…ううん、違う。まだ、炎獣の温もりを残している」

魔王「立てる? 炎獣」

炎獣「 グ ォ オ … 」ヨロ…

魔王「………行こう。炎獣」

魔王(――どこへ?)

魔王「………私達が進んできたところはひとつだけ」



魔王「前へ」

魔王「ただ前へ進む」







少年「そっか。行くんだね、魔王」

418 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 22:09:49.90 ID:tpR/STzE0

魔王「!?」

少年「最後は僕が案内するよ」

魔王「い、いつの間に…」

少年「機械城は、炎獣と魔法使いの戦いでボロボロになってしまったけど、最後の部屋は守られていたみたい」

少年「一緒に行こうか。勇者がその務めを言い渡された場所」

少年「あらゆる勇者物語が生まれてきた場所」


少年「謁見の間へ」


魔王「………あなたは」

少年「ほら、あそこの大きな門の前に立って」

魔王「…」

炎獣「 グ ル ル … 」

魔王「…彼に従ってみましょう」

炎獣「 ウ ゥ … 」


419 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 22:13:32.53 ID:tpR/STzE0

門『認証、確認』

門『3名の人間と認められました。中へどうぞ』


魔王「!? …人間? 私達が?」

少年「あはは。混乱するのも無理はないよね。君は魔王だし、炎獣なんかとても人間って風体じゃない」

少年「とにかく招かれた訳だし、入ってみようよ」

魔王「………」

魔王「謁見の、間。王城の中心部。かつて私達が目指していた場所」

魔王(ここに勇者が………)

魔王(勇者に会って、それでどうしようというのだ。無益に戦うのか…?)

魔王(その戦いに意味はないとしても、勇者は宿命のもとに剣を取るのかもしれない)

魔王(そもそも人間の彼に、私は許されはしないだろう)

炎獣「 グ ォ オ … 」

魔王「…炎獣」

魔王「ありがとう、平気だよ」


魔王「………行こう」


420 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 22:14:19.03 ID:tpR/STzE0

機械城

謁見の間





少年「ようこそ、魔王」

少年「ここが、君達の旅の終着点だ」


421 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 22:15:11.82 ID:tpR/STzE0

魔王「………」

魔王「誰もいないわ」

少年「うーん、そうだね。本来王国の王城だった場所を魔法使いが歪ませて機械城にしたわけだけど」

少年「城内にいた人間がどうなってしまったかは誰にも分からない」

少年「国王も、妃も、無事だといいんだけど」

魔王「でも、あなたは私たちの前に現れたわ」

魔王「ここ…謁見の間は私達が目指した旅の終着点だとあなたは言った」

少年「………」

魔王「そしてそこにいるのはあなたと私達だけ」

魔王「役者がこれで全てだと言うのなら、私はひとつの答えにしか行き当たらない」



魔王「教えて」




魔王「――あなたが、勇者なの?」



422 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/06/09(土) 22:18:39.83 ID:tpR/STzE0
今日はここまでです
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 22:06:11.82 ID:FM3OArSKo
乙です
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/11(月) 00:48:19.53 ID:Cr2lawnDO

425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/10(火) 13:28:50.81 ID:TScOCr2I0
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 01:18:20.67 ID:KMWzrbPA0
しゅ
427 : ◆EonfQcY3VgIs [sage]:2018/07/29(日) 06:24:44.40 ID:B+4BpQ8m0
今週末5日(土)に続きを投下します
428 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 12:33:57.24 ID:+njJv4Yc0


少年「あはは」

少年「僕が勇者、か。そう思ってしまうのも無理はない」

少年「ここ、謁見の間で待っていたのは僕なんだからね」

少年「でもね、魔王。君はもう知っているはずだよね」

魔王「………」

少年「圧倒的な力を持つ宿敵。それが人智の及ばぬ大いなる力を示して迫り来る」

少年「味方は次々に倒れて、勝ち目なんてこれっぽっちもないのに、戦えと急き立てられ、拒むことは許されない」

少年「その恐怖。残酷さ」

魔王「…ええ」

魔王「魔法使いの幻術の中だったけれど…私は逃げ惑う他なかったわ」

少年「そうでしょう。だから」

少年「だから、誰も彼を責める資格なんてないと思うんだ」


少年「ねえ、魔王」

少年「僕は勇者じゃない。勇者はここに居ない」





少年「――逃げたんだよ、勇者は」





少年「迫る君の恐怖に負けて。使命をなげうってね」


429 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 12:34:56.12 ID:+njJv4Yc0


魔王「逃げ、た?」

魔王「………勇者が、逃げた?」

少年「うん。誰にも知られぬうちに王城を抜け出した」

少年「君達が城下町に辿り着いた頃には、もぬけの殻だったそうだよ」

魔王「………」

少年「彼が何を思い、何を考えていたのか、僕らは想像することしか出来ない」

少年「望んだわけでもなく勇者なんて祭り上げられ、絶望的な戦いに放り込まれる運命の人間…なんてさ」

少年「どんな気持ちだったんだろうね?」

少年「少し前の君達であれば、勇者を探しだして抹殺しようとしたかもね。…君はそれを望まなくても、雷帝あたりは危険の芽を摘むため事に当たっただろう」

少年「ふむ。そんな物語の展開もまた、面白いのかもしれない」

魔王「………」

少年「酷い肩透かしって顔だね。まあまがりなりにも勇者討伐を目指してきた君にとっては、ショックが大きかったかな」

魔王「………勇者でないなら、あなたは」



魔王「一体、何?」

430 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 12:35:51.69 ID:+njJv4Yc0


炎獣「 グ ル ル … ! 」



少年「おっと、もう臨戦態勢かい?」

少年「へえ、そう。流石というかなんというか」

少年「僕を敵と認めたのは、魔王としての勘ってやつかい? それとも論理的推測?」

少年「もう、魔法使いから情報は引き出せないものね。そうして己を信じ剣を取る他ないんだよね」

魔王「…あなたが何者かによっては、私は剣を取らずに済む」

少年「強気だね! そうかそうか」

少年「けれどまあ、僕が自分で名乗るよりもより信憑性の高いやり方をしよう」

魔王「なんですって?」

少年「君達の前に立ち塞がってきた人間の研究機関。この戦乱を巻き起こした者達。――教皇と、魔法使い」

少年「彼らを、君と四天王は討ち果たした。でもね」

少年「もう一人重要な存在を忘れてないかな?」




少年「………出ておいでよ。女神」



魔王「!!」


431 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 12:36:46.22 ID:+njJv4Yc0

――フワァ…


女神『………魔王』

女神『ようこそ謁見の間へ』




魔王「女、神…!」

魔王(――いや違う。これは"女神と名付けられたもの"であって、本当の女神ではない)

魔王(教皇と魔法使いが造り出した偽りの女神)

魔王(彼らの思い通りの物語になるよう啓示を与えてきた存在…!)



女神『数えきれぬ戦いを乗り越え、よくぞ辿り着きました』

女神『よくぞ、人類を絶望に陥れ、英雄達を討ち果たし、文化に破壊をもたらしました』



女神『…勇者など倒さずとも、あなたは既にその役目を果たしたのです』


432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/04(土) 15:25:00.35 ID:hsUyCHrfO

悲報
クソまとめサイトあやめ速報、あやめ2nd
創作活動への冒涜続行


・SSちゃおラジシリーズの盗作が発覚
作者も自白済み


・各まとめサイトにちゃおラジの盗作が伝えられる
真っ当なまとめサイトはちゃおラジシリーズを削除


・まとめサイトあやめ2ndはちゃおラジの削除を拒否
独自の調査により盗作に当たらないと表明


・あやめ2ndが荒れる
あやめ管理人は盗作だというちゃんとした証拠をもってこいと言う


・かと思いきやあやめ管理人、盗作に当たらない発言も証拠を求めた発言も寄せられたコメントもなにもかも削除
全部もみ消してなかったことにする気かとあやめ2ndもっと荒れる


・あやめ2nd、ちゃおラジシリーズは盗作ではないがこのままではサイト運営に不都合なためと削除


・後日あやめ2nd、ちゃおラジが盗作ではない独自の理論を公開
ちゃおラジシリーズ再掲載


・あやめ2nd、多数のバッシングにあい数時間後ちゃおラジシリーズ全削除
自らの非を全て認める謝罪記事を掲載


・謝罪記事掲載から5日後、あやめ2nd謝罪記事削除
サイトは謝罪時から通常通りの運行だった
またもみ消して逃げるのかと荒れる


・あやめ2ndに迷惑だから釈明するなり謝罪するなりしろとの訴えが出される


・あやめ管理人釈明なし
責任を逃れ私欲に走る

この間、あれだけちゃおラジへのコメントを削除したにも関わらず以下のようなコメントの掲載を承認
ダブルスタンダードは健在
http://ayamevip.com/archives/52295361.html#comments


ご意見はこちらまで
ayamevip@gmail.com


あやめ管理人は謝罪記事の再掲載を行え

433 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 17:20:38.93 ID:+njJv4Yc0

魔王「役目を果たした…? 私が? ………馬鹿な」

魔王「あなたは、神々の意思を裏切るために創られた偽りの生命だ」

魔王「私の撃破。もしくは魔法使いがしたように、私を操り神を殺そうという魂胆だったはず」

魔王「私がここにこうして立っていることは、あなたの描いた道筋から大きく外れている」

魔王「それは、虚勢? それとも偽りの存在にも関わらず、神々の代弁者を気取ろうとでも言うつもり?」


女神『…魔王。あなたは我々の目的をよく理解していますね』

女神『ただし検討違いがあります』


女神『あなたは今以て、私の望み通りの魔王であり続けており』


女神『魔法使い個人の敷いたレールの上を歩み』


女神『かつ、天上の神々の与えた役目さえ果たしているのです』


魔王「…私が未だに、私ではないものの思惑通り動いていると」

魔王「そう言うの?」

女神『…哀れな魔王。全てを自分で選んでいるつもりでいたのですね』

434 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 17:21:25.50 ID:+njJv4Yc0

女神『この物語の始まりはいつであったのでしょう』

女神『あなたたち魔王四天王が、港町に攻め入ったあの時?』

女神『それとも、魔法使いが先代魔王を己の身ひとつで討ち果たした時?』

魔王「………その、どちらでもないと?」

女神『――自分の立っている所をご覧なさい。その機械城を。…古代王朝の叡智の結晶を』

女神『これだけの力を持ってすれば、世界の全ては人々の手にあった。全てを知り、全てを能うた………それが、かつての古代王朝』

女神『生命を技術により産み出し、死した種を甦らせ』

女神『気の遠くなるほどの距離を翔び、時空を越え』

女神『山を野に変えてしまうほどの兵器があった』

女神『まさに神のごとき所業。教皇と魔法使いが私を創ったように、テクノロジーの進歩は天神すら産み出しました』


女神『――全ての始まりは、その古代王朝の滅びに遡ります』

魔王「………」

女神『魔王。あなたに何故この万能の王朝が滅びたか、それが分かりますか』

435 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 17:22:16.52 ID:+njJv4Yc0

魔王「………神のようであったとしても」

魔王「所詮は血の通う生命よ。間違いはおこる」

女神『その通り…古代王朝は、その高い技術ゆえに狂いだすことになります』

女神『生と死に関する倫理観が次第に失われた。ビジネスとしての命の奪い合いや、交換が行われた』

女神『繰り返される時空間転移に、無数に生まれた平行世界。膨張した世界は破滅を迎えようとした』

女神『終末は、あっけなく訪れた。星は、宇宙は、消滅の危機に瀕した』

女神『森羅万象の崩壊。ありとあらゆる事象の終わり』

女神『………けれど"鍵"を握った古代人がいた』

女神『それが限りない終わりの中で、たったひとつの始まりとなった』

魔王「………」

436 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 17:23:08.29 ID:+njJv4Yc0

女神『そう。古代にも"鍵"は創られていたのです。そしてかつての"鍵"は魔法使いが創ったそれよりもさらに偉大なものだった』

女神『古代における"鍵"。それはあらゆるものを超越する可能性の塊』

女神『滅びの世界を、新たに受胎させることすら許すもの』

女神『"鍵"によって、世界は生まれ変わった。小さな小さな世界だったけれど、そこには確かに生命が息づいた』

女神『無数の闇の中に、一筋の光明となったその世界では、あるひとつのシステムが組まれた』

女神『勢力を二分し、互いに互いの文明を破壊しあい、ある一定以上の力を持つことが出来ぬように』

女神『それは、滅亡の歴史を踏まえた苦肉の策』

女神『生命の発展の果ては、自壊でしかない。自壊を防ぐために、そもそもの発展をある一定の範囲に縛り付け続ける』

女神『古代人はその小さな世界を管理する者となり、神からの啓示という形をとってその世界の維持をあるプログラムに託した』



女神『敵対勢力に破壊をもたらすプログラムは…それぞれ』

437 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 17:23:47.38 ID:+njJv4Yc0

女神『魔王と、勇者』

女神『そう名付けられた』





魔王「――!!」

438 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 20:46:09.51 ID:+njJv4Yc0

女神『もう理解できましたか? 魔王』

女神『この魔王と勇者に依存した世界の、必要性が』

女神『勇者が勝利すれば魔族は絶滅の危機に瀕した。魔王が勝利すれば、人類は搾取され絶望の淵へ立たされた』

女神『そうすることによってこの小さな世界は、守られ続けてきたのです』

女神『進化という、生命の業から』

魔王「………」

少年「…魔王」

少年「君達の生は………人と魔は、最初からお互いの生命を奪い合うために生まれたんだ」

少年「どうやらそれは、間違えようのない真実だ」

少年「君の探し求めていたもの。魔王勇者大戦の答え。生命の在り方」

少年「その結論が、これなんだよ」


439 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 20:46:45.60 ID:+njJv4Yc0

魔王「………これが………意味?」

魔王「これだけの死を生み出し続けた、長い戦乱の理由………?」

魔王「私達の生の………――」

女神『ええ。あなたは、だから今この時点で人類に大きな傷を与え、管理者の領域にその手を伸ばす魔法使いらを撃沈せしめた』

女神『勇者は逃げ出しその打倒の機会は失われてしまいましたが、此度の力のない勇者のことなど些細なこと』

女神『あなたはすでに、立派に魔王としての役目を果たしたのですよ』














魔王「――――ふざけるな!」


440 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 20:47:21.80 ID:+njJv4Yc0


魔王「このおびただしい数の死は………決して癒えぬ傷の連鎖は」

魔王「そんな身勝手のために積み上げられてきたの!?」


魔王「そんなものに、一体どれだけの意味があるっ!!」

魔王「何が神々だ! 女神も邪神も存在などしていない!!」

魔王「神を気取る古代の呪いに…世界は永遠に翻弄され続ける運命だと…!」

魔王「魔王も勇者も、無益な争いの呼び水として産み出され続けるというの…!!」


女神『勇者と魔王には常に使命が与えられ、歴代伝説の英傑達はその使命を全うしてきました』

女神『"対となる種族の衰退をもたらすこと"。…行き過ぎた文明の誕生の阻止』


魔王「それはただの災厄だっ!!」

魔王「生命の生きる権利を奪っていい理由にはならない!!」

441 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 20:48:20.15 ID:+njJv4Yc0

女神『なぜ、そう言えるのです?』

女神『生命の発展の先には、滅びしかないのですよ。それは歴史が証明しているのです』


魔王「生命には、ただそこに在るだけで無限の可能性を秘めている!」

魔王「私達は、ただ死ぬために生きているわけではない!」

魔王「生けるものが、戦乱のない豊かな暮らしを営もうというのを、奪っていい理由なんてひとつとしてない!!」

魔王「あなたのいう管理とは、傲慢な支配だ!」

魔王「喜びを奪い、悲しみを生むためだけに勇者と魔王があるなら………そんなもの消え去ってしまえ!!」



女神『………それは、魔法使いの言葉と同じものです』

女神『彼も今のあなたと同じ思いから、魔王勇者大戦の仕組みを壊そうと立ち上がりました』

女神『だから彼は、そのシステムの根幹となる女神と邪神の加護を――』

女神『システム管理者である"神"を、あなたを使って倒そうとした』

女神『あなたは結局、彼の思い通りになるのですか?』


442 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 20:49:24.47 ID:+njJv4Yc0


魔王「私は………っ!!」


魔王「私達は、多くの戦いの果てにここに至った!!」

魔王「最後の真実に、私の意思で足を踏み入れたっ!!」


魔王「私達の生命の起源が………古代の終わりに開かれた小さな世界なのだとしても…!!」

魔王「最初の理由が、争うのための生だったとしても…!!」


魔王「私達は…その生を精一杯生きた!!」


魔王「愛の喜びを知って、それ故の悲しみに耐えて、もがき苦しみながら」


魔王「――私達は、確かに生きている!!」


魔王「その命の輝きは、どんなものよりも尊い………!! 死するその瞬間まで、どうしようもなく目映い光を放つ!!」


魔王「私はその光を、この戦いで幾度も目に焼きつけてきた!!」


魔王「――多くの英雄達との戦いで、それは私の胸に刻まれ続けてきた!!」


443 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 20:50:23.43 ID:+njJv4Yc0


魔王「この世界には、正義も悪も、聖も邪もない!!」

魔王「ただ生ける生命がそこにあるだけだっ!!」

魔王「それを独善的な価値観で、殺戮の渦に陥れるのなら――」





魔王「私達に、神はいらない!!!」





444 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 20:51:17.97 ID:+njJv4Yc0


炎獣「 ―― グ ォ オ ォ オ ン ! ! 」


魔王「いこう………炎獣!」

魔王「最後の戦いに――!!」



女神『やはりこうなるのですね…』


女神『神を倒そうというその意思………確かに聞き届けました』

女神『けれど魔王、辿り着けますか。管理者の元へ。本当の女神であり、邪神であるその存在の元へ』

女神『そこへゆくには、大いなる力が必要です。その扉は、"鍵"によってのみ開かれます』

女神『地上で創られた"鍵"は、魔法使いが持っていましたが………彼の死と共に何処へと去りました』

女神『誰の手に渡ったのか。その強運の持ち主が偶然この場に現れるのを待つしか』

女神『あなたに方法はありません――』














国王「それならここにあるぜ」

445 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 20:52:09.61 ID:+njJv4Yc0

魔王「!」

少年「君は………」

女神『――国王!』



国王「ったく」

国王「城は滅茶苦茶…国はぼろぼろ」


国王「この勘定をどこにつけたろーかと、流石の余も検討がつかなかったが」

国王「そういうことなら、話は早い」


国王「怪しげな宗教を余の国にばら蒔いた、神様直々にあがなってもらうとしよう」


魔王「………あ、あなたは」


国王「おう、魔王。噂通りなかなかの美人だな」


「――陛下」

女王「お戯れはそこまでに」

国王「わ、分かってるっちゅーの」

446 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 20:53:38.60 ID:+njJv4Yc0

少年「国王、女王………」

少年「機械城の出現と共に行方を眩ませていたと思えば………あなた達は」

少年「――この時を、待ち構えていたのかい?」


国王「余を誰だと思っとんのじゃ、たわけ」

国王「そこの美人が魔界の王者なら、余は人間のトップだぞ」


国王「教皇にしてやられて、そのまま退場っていうんじゃ………お粗末が過ぎるだろうよ」ニヤ


少年「…君が、次の"鍵"の持ち主に?」


女王「まさか。この人の運の値は歴代国王最低ランク」

女王「"鍵"などという、霊験あらたかなものに選ばれるはずもありません」

国王「お、おい。ちょっとは格好をつけさせろよ」

女王「いいから、早く彼を。"鍵"の持ち主をここへ」

国王「へいへい」

447 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 20:54:48.38 ID:+njJv4Yc0

国王「"鍵"………この世の理すら歪ませる反則級の代物。それを手にするほどの幸運の持ち主は誰だと思う?」

国王「それは、ある意味運だけでここまでやってきたような者ではないか?」

国王「ある所では怠け者と呼ばれる類いですらあるかもしれん」


国王「余のこれは賭けだった。けれどどうやらこの推測は正しかった」


国王「それ、こっちに来い。――出番じゃ」

























「ひ、ひい………」


「な、なんだよここは………」








遊び人「………どうして俺が、こんな目にっ!」


448 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 20:56:04.48 ID:+njJv4Yc0



【遊び人】



449 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:04:30.95 ID:+njJv4Yc0


遊び人(うまく、逃げおおせたはずだった…っ! どこをどう間違ったってんだ…!)

遊び人(こいつらは俺を捕らえに来た…エラソーな格好してやがると思ったら、国王だとか名乗りやがる)

遊び人(イカれてやがるのかと思ったが、こんな所まで連れてくるってことは、本物ってことか!?)

遊び人(城下町に逃げ込んだのが不味かったのか…!? 港町から戦場になった平野を越えられたまではツイてたはずだ…っ)

遊び人(港町が氷づけになったの時には肝を冷やしたっ、だがそれからもうまく逃れてきたんだ…!)

遊び人(そもそもあの時、港町であの女に………)



――商人「お前、うちのカジノに入り浸っていた遊び人だな?」

――遊び人「うへっ!?」

――商人「大事な顧客の顔は覚えるさ。これでも商人の端くれだからねぇ」

――遊び人「こ、こりゃあ光栄な事で…」

――商人「しかし、お前は客というだけでは留まらなかった人物でもある」

――遊び人(な…なななな何で、あのことが、バレて)

――商人「知らないとでも思ったのかい? まあ、その小さな脳ミソじゃそこまで考えも回らんだろうなぁ」

――商人「貴様は今まで、我々の監視下で生かされていたに過ぎないのだ。そして、今日この日でさえそれは変わらない」

――商人「その事を、よく肝に命じておけ」



遊び人(………あの時、商人に殺されずに逃げのびた時から)


遊び人(――こうなる運命だったってのか………!?)


450 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:05:34.56 ID:+njJv4Yc0


炎獣「 グ オ ゥ ! ! 」



遊び人「ひ、ひぃぃっ!」

遊び人(じょ、冗談じゃねえぞっ…! なんだあのバケモンは!!)

遊び人(畜生っ、見るからにやべえ奴らばかりだ…っ!)


女神『そのような非力な人間に………本当に鍵が宿ったというのですか』

少年「鍵とは、そういうものだよ。女神。僕はそれをよく知ってる」

魔王「………」ツカツカツカ

遊び人(ひっ! なんだ、こっちに来…)

魔王「あなたが鍵の持ち主なら」

魔王「お願い。鍵を開けて。………神々を名乗る者の元へ、私を導いて」

遊び人「…な、な」

遊び人「何を言ってやがるんだ…っ!?」

451 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:07:23.96 ID:+njJv4Yc0

国王「魔王」

魔王「…はい」

国王「余も、この争いを終わらせたいと望むものの一人だ」

国王「だがここから先、古代人に対抗出来るのはおそらく、そなたとその力の化身だけだ」

魔王「………炎獣は」

魔王「私の友達です」

国王「む。…すまん。口が悪いのは王座についても治らなくてな」

魔王「いえ。あなた方の思い、受け止めました」

魔王「勇者と魔王の戦いを…その根元を断つ。そして」

国王「ああ」


魔王 国王「――そこから、新しい世界を探す」

魔王「人間と魔族がお互いを支えあう国を」

国王「争いを必要としない世の中を」


魔王「………もっと早くに」

魔王「あなたと話をしたかった」

国王「…本当にな。えらく遠回りをしたようだ」

国王「気の遠くなるような、遠回りを、な」

452 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:08:27.45 ID:+njJv4Yc0

遊び人(おい。おいおいおいおい)

遊び人(ふざけんなよ。俺に一体、こんなしかめっ面だらけの連中の中で、何をどうしろって…)

国王「遊び人よ」

遊び人「っ」ビクッ

国王「………その手に持ったダイスを振るえ。お前がするのはそれだけでいい」

遊び人「あ、あんだとぉ…!?」

国王「鍵はお前の手にあるのだ。扉を開くのは、きっかけさえあればいいはずだ。後は坂道を転げ落ちるように、事は動き出す」

国王「何のことはない。いつものように、掌に握った三つの賽を投げろ」

魔王「お願い」


遊び人「………っ」

453 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:09:16.42 ID:+njJv4Yc0

遊び人「へ、へへ…」

遊び人「もう、知らねぇや…っ、何がどうなろうと、俺の知ったことかっ!」

遊び人「振ればいいんだろ、振れば!!」


女神『………させません』ォオ…!

少年「女神」ス

女神『! しかし…』

少年「いいんだ。これもまた、面白いじゃないか」

少年「僕はこのシナリオを、最後まで楽しむことにするよ」

女神『………』



遊び人(どうとでも、なりやがれぇ!)






遊び人「うおらっ…!!」 バッ














コロン コロン………





454 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:10:20.69 ID:+njJv4Yc0



遊び人(………い)




遊び人(1が、三つ…!)



































――カチッ










455 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:11:02.11 ID:+njJv4Yc0








456 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:11:47.48 ID:+njJv4Yc0








魔王「!!」



炎獣「ッ!!」




遊び人(な)



遊び人(なんだ、こりゃあ………)



遊び人(あたりが、ま、真っ白になっちまった)




457 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:12:39.57 ID:+njJv4Yc0


魔王「………これが、扉を潜るということ」

魔王「どうやらそれを許されたのは、加護の名残をもつ者………私と、炎獣」

魔王「それに鍵を持つ彼だけ」

遊び人「い、いい、一体何がどうなって………」

魔王「神々…いや、それを名乗る古代人の居場所にきた。この白い無の世界こそが管理者たる者の居所なんだ」

魔王「そして私達と一緒にこの場に立っているということは――」


魔王「あなたが………その古代人だったのね?」









少年「はは」

少年「そういうことだよ」

458 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:18:04.99 ID:+njJv4Yc0

少年「"鍵"」

少年「あれはそれ自体が気紛れな代物で、ひとたび持ち主が手放すようなことがあれば、誰の手に渡るか分からないんだよ」

少年「古代王朝の終わりに創られた"鍵"もやはりそうだった」

少年「本来の"鍵"の持ち主は醜い争いの憂き目にあって命を落とした…。その後誰の手に"鍵"が渡るか、世界は緊張に包まれた」

少年「狂ってしまった世の中を正そうと希望を持ち続ける人徳者もいたな。彼の手に"鍵"が渡れば、古代王朝にも先があったのかもしれない」

少年「選民思想のもと、ノアの方舟のようなものを作ってある一定の人々を生き残らせようとした人もいた」

少年「いずれの手に渡っていたとしても、こんな小さな、魔王と勇者の世界は創らなかっただろうね」


少年「でも、"鍵"は僕の手に渡った」

少年「僕が幸運だった。理由はそれだけだ」

459 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:18:49.56 ID:+njJv4Yc0

少年「僕はね。ウンザリしていた」

少年「先の見えない争いの世界も。何もかも科学の力で証明された夢のない世の中にも」


少年「――僕は永遠に、ファンタジーを見ていたいと思ったんだ」

少年「だから世界をリセットして、勇者と魔王の冒険譚だけがある、閉じた場所を作った」


少年「友情と愛と、危険に満ちた戦いがあって」

少年「ひとかけらの希望を胸に、剣と魔法のワクワクするような戦いが繰り返される」


少年「科学の力なんて持ち出す不粋な輩は永劫現れない。そこまで進化する必要がない」

少年「ある時は勇者が勝って、ある時は魔王が勝つ。その綱引きが行われるたび、胸を踊らせる夢物語が紡がれる」


少年「どうだい? 飽きないだろ?」

少年「だから僕はこうして、今まで邪神の役と女神の役をこなし、魔王と勇者をつくりながら――」

少年「この美しい世界を………悠久とも言える時間眺め続けてきたんだよ」


少年「たった一人でね」



460 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:19:47.55 ID:+njJv4Yc0

遊び人(おい…なんだってんだ?)

遊び人(こいつらは何の話をしている…!?)


魔王「………………」



少年「怖い顔をしないでよ、魔王。君の物語も僕はずうっと見ていたさ」

少年「今回のお話は本当に刺激的だった!」

少年「本来は魔王城で鎮座しているはずの魔王が、自ら人間の王国へ攻めてくるんだ…! 凄いよねっ」

少年「本来、一人一人撃破されるはずの四天王が、一致団結して勇者一行を各個撃破するんだ!」

少年「倒される勇者一行にも、様々な想いが胸にあって、美しかった…!」

少年「僕が一番気に入ったのは赤髪の少女が僧侶となってしまったお話だなあ………」



魔王「………あなたは」

魔王「子供でいられたその一瞬に"鍵"を身に宿らせて」

魔王「――そのまま時を止めてしまったのね」

461 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:20:38.86 ID:+njJv4Yc0

魔王「絶対的な力に溺れて、玩具のように生命の希望を生んでは壊し」

魔王「そうしていつの間にか」


魔王「そんな風に、狂気に満ちた醜い存在になってしまった」


少年「…酷いな。傷つくよ」

少年「僕は何も間違ってない。このまま勇者と魔王に世界が依存し続ければ、みんな本当の地獄を見ることはないんだよ」

少年「あの、幻想を欠片も抱けないような、おぞましい終焉をね」

少年「そして希望と絶望が流転する今の世の在り方こそが、永遠のロマンであり…健全な状態なのさ」



遊び人「お、おい」

遊び人「おいおいおいおいおい」

遊び人「ちょ、ちょっと待てよ、おいっ。黙って聞いてりゃよ、好き勝手に言いやがって」

462 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:21:23.11 ID:+njJv4Yc0

遊び人「それじゃあ、なにか? こ…この気の遠くなるほど馬鹿げたドンパチは全部、てめぇのでっちあげた台本だったってのかよ!?」


少年「…僕はあくまで結末を見越したきっかけを与えるだけさ。動き出した魔王と勇者がどんな道程を経るかは、分からない」

少年「白紙のページにドラマが描かれてゆく様を見るのが、僕の楽しみだからね」

少年「僕の作った世界を、僕が選んだ英雄たちが駆け巡る………ふふ!」

少年「でも、それを邪魔しようって奴らもいた」

少年「魔法使いはこの摂理を壊し、あまつさえ僕を倒そうとしてたみたいだけど、残念だったよね。…それに今回はもっと重要なこともあった」

少年「あの"女神"は、魔王勇者大戦の筋書きを書いてくれたんだ…! それは熱中してしまうような面白さで…はは!」

少年「誰かが意図してドラマチックな魔王勇者大戦を作ってくれるなんてさ! 刺激的な体験だったなぁ!」


遊び人「………じょ…っ」

遊び人「冗談じゃねぇぞおい…!」

463 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:22:20.83 ID:+njJv4Yc0

遊び人「ガキの戯言にどいつもこいつも振り回されてたってかぁ!? どっ、どうりでおかしいと思ったんだよ、魔王だの勇者だの………」

遊び人「俺の生きてきたしみったれた街角じゃあ、そ、そんなもんはクソの役にも立たない絵空事だったからなぁ!」

遊び人「おっ、俺に言わせりゃあな…! てめぇのおままごとなんか、ちゃんちゃら可笑しい三文芝居――」

少年「ねえ、遊び人」

遊び人「!」ビクッ

少年「大声でわめきたてるのは、認めて欲しいから?」

遊び人「………な、何を…」

少年「君にだって勇者に憧れた子供時代はあった」

少年「英雄のきらめきの虜になっていた瞬間が確かにあった…けれど」

少年「君は知ってしまった。自分はその器ではない。誰からも選ばれない。能力も心の強さもない」


少年「"自分は惨めな端役でしかない"。そう認めるしかなかった。そうでしょ?」


遊び人「………っ」

464 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:23:09.98 ID:+njJv4Yc0

少年「でも、今君が一歩前に出たのは、どうして? そう。もしかしたら認めてもらえるかもって思ってしまったんだよね?」

少年「この大詰めに居合わせて、その他大勢に甘んじるためにひた隠しにしていた感情が顔を出した」

少年「………君、諦め切れていないんだよね?」

少年「どんなに大人の顔をしてみせたってさ、遊び人。君の心の奥にまだ燻っているんだ」

少年「あは! ………残酷なまでの、勇者への憧れが…!」


遊び人「や、やめろ…」


少年「君は運命のイタズラでここに居合わせただけ! もうここで君にできることなんてひとつもないんだよ!」

少年「でもそれでいい。思い出してごらん」

少年「本来は通行人みたいな役どころだったろう? 元々、勇者なんてものには届きようがないんだ」

少年「それが、本当の君なんだ。だから、何もできなくていいんだよ」

少年「何もできない君で、いいんだよ…」クスクス



遊び人「だ…っ」

遊び人「だまれっ!!」


――バリバリッ!


遊び人「ひっ!?」

465 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:24:51.56 ID:+njJv4Yc0

少年「おやおや。逃げ出してしまいたい気持ちになるのも分かるけど、あんまり興奮すると危険だよ?」

少年「気をつけてね。ここは現世から遥かな距離を持つところ。僕が神として管理を行ってきた席なんだから」

少年「俗にいう天国みたいな場所とも言い表せる。死した亡者の魂も君のすぐ側にいる」

少年「そういう場所だよ」


遊び人「ふ、ふ、ふざけんじゃねぇっ…!」

遊び人「お、俺には関わるつもりなんてこれっぽっちもねぇ! 俺を巻き込むな…っ!」

遊び人「世界だの、生命がどうだの、知ったこっちゃあねぇんだよ!」

少年「ふふふ。今度は必死で知らんぷりかい?」

少年「うん。でも君はそれでいい。それでいい…」

遊び人「俺は、俺は………」

遊び人「俺はただ逃げのびて………酒にさえありつければそれで………!」

――バリッ

遊び人「うひぃっ!?」


商人『たく、使えない男だね。これくらいで悲鳴を上げるんじゃないよ』

466 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:25:31.79 ID:+njJv4Yc0

遊び人「しょ、商人…っ!?」

遊び人「………? だ、誰もいない。今の声は一体どこから聞こえてきやがった………」

――バリバリッ

魔王「!?」

魔王(頭のなかに映像が浮かんでくる…っ!)

魔王(どこかの…平野…?)

魔王(数人の男女がそこに………これは…っ!)


商人『フラフラ動くな、軟弱者』

盗賊『無茶言うんじゃねーよ、アネゴ!』

盗賊『新型の鉄砲の試し撃ちに、なんで俺が的を持っていなきゃならねーんだよ!』

戦士『盗賊。貴様少し静かにしろ。こちらは食事中なんだぞ』

盗賊『っざっけんな猪野郎! じゃあテメェが的になってみやがれコルァ!』

商人『ショット』パンッ!!

盗賊『うひょおおおっ!!』

武闘家『はっはっはっ。なかなか面白い見せモンだのぉ』


467 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:26:06.62 ID:+njJv4Yc0

魔王「………今のは」

少年「ふふ。君達が倒してきた勇者一行だよ」

少年「彼らがもし、力を合わせることに成功したら………想像すると、ちょっとドキドキしないかい?」

少年「それが、あれさ。あの変わり者だらけの英雄達が、足並みを揃えて魔王城を目指すところだ」

魔王「…」

少年「あはは。彼らが同じ食卓を囲んでいるなんて、なんだか可笑しいよね」

少年「魔法使い達には採用されなかった未来だ。けれどそんなことが現実に起こりうれば何かが変えられたもかもしれない………今でもそんなことを夢見る哀れな魂がいるんだよ」

少年「死してなお、彼女はその呪縛のごとき夢から逃れられずにいる。………おいで」



僧侶《………ああ》

僧侶《もし、世界が優しかったなら………》

僧侶《…私は…………私がこんなに、苦しまずに済んだのよ》

僧侶《………どうして………どうして…》


468 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:27:02.14 ID:+njJv4Yc0

魔王「………彼女は…」

少年「元々、今回の勇者一行だったひとだよ。君に相対する前に死ぬことになってしまったけどね」

少年「死した生命は、死後の国に迎えられることなどなく、この"無の空間"で果てのない放浪を味わう。聖女と呼ばれた彼女であっても例外ではない」

少年「…死は、楽になんてなれない」

少年「極楽浄土みたいなものは存在しない。許される余地も、転生なんて都合のいいものもない」

少年「ただ、この場所………限りない無を漠然と漂うだけ。それが"死"の正体さ」

少年「僧侶も生前は高潔で気高い女性だった。でもね、死という事実の前では生きている間に得たものなんかこれっぽっちも役に立たない」

少年「死は、あらゆる生命のメッキを剥がす――」

少年「見果てぬ無の空間。そいつを前にした時、あらゆる魂は等しく絶望するのさ」

少年「ねえ、魔王。あそこを見てごらん」

魔王「………っ」




木竜《………助けて》

木竜《助けてくれんか………》



469 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:28:11.90 ID:+njJv4Yc0

魔王「………」ギリッ

少年「どんなに穏やかに死を迎えた者だって」

少年「いざここにやってきたら………誰一人、この孤独には耐えようがないんだよ」




木竜《………誰か、楽にしてくれ………》

木竜《………こんなに苦しいのならば》


木竜《――儂は、この世に生まれ落ちるべきではなかった》











魔王(爺)

470 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:28:52.23 ID:+njJv4Yc0

少年「死別した相手に安らかであって欲しいっていうのは、生者の勝手な願望でしかない」

少年「君達のために死んだ木竜は、未来永劫こうして苦しみ続ける運命だ」

魔王「………」

少年「――震えてるね?」

魔王「っ…」

少年「魔王四天王…ここまで辿り着いた君達の力は称賛に値する。けど」

少年「その英傑を包み込んできた木竜でさえ、よるべなく慈悲のない無の前に、苦しむことしか出来ない」

少年「…君の足はすくんでいる。君にとって大切な存在である木竜が、見たこともない悲痛さで屈服しているのを目の当たりにしたからだね」

魔王「…」

少年「命すら投げ出して僕を討つつもりでいたんだろう?」

少年「仮にも神を名乗る僕を相手取って、生きて帰るつもりは最早なかった…その生涯を終わらせてしまうことすら厭わないつもりでいた」


少年「しかし、君は知ってしまった」

少年「死は終わりではなく、救いのない永遠の始まりだと」


少年「ねえ、魔王」

少年「僕を倒そうとすれば君はただでは済まない。例え成功したとしても、引き換えに君は死ぬだろう」

少年「その時君の身に降りかかるのは、想像を絶する事象だ」

少年「希望が最初からない無限の世界。そこに君は飛び込めるの?」


少年「命を、投げ捨てられるかい?」

471 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/08/04(土) 22:30:04.35 ID:+njJv4Yc0


魔王「………」


魔王「私は――」

魔王「私は、それでもあなたを倒す」



少年「ふふ。揺るがない決意というやつ?」

少年「そんなことはないよね。ここでは心は隠せないよ」

少年「君………怯えきってるじゃない」


魔王「………」

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