かきね「すくーる?」

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1 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2017/10/09(月) 03:43:14.91 ID:CdsvNY5b0

学園都市を未曾有の危機に陥れんとする魔術師の企みがあった。
これは。
その脅威に巻き込まれ、混乱と絶望のただ中にあっても諦めることなく戦い抜いた。
ある組織の記録、かもしれない。

科学と魔術が交差するとき、物語ははじまる?!


垣根帝督「はぁ? 俺はオタクじゃねえぞ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407332154/

から派生して膨れ上がったネタが形をとったスレです。
よろしくドーゾ。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1507488194
2 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2017/10/09(月) 03:46:13.06 ID:CdsvNY5b0


「ちース」

何だ、いたのかと声を掛けられて誉望はパソコンに向かったまま返事をした。
この後隠れ家では『スクール』のブリーフィングが予定されていた。

「遅刻する前に待機してれば遅れない! どうスかこの作戦!」

だからって遊んでんなよ、と言う顔をして。
こちらはきちんと時間をあわせてやってきた垣根はいつも通り手ぶら……では、なかった。

「なんか表で配ってたぞ。試供品だってさ」

いるか? と垣根は手にした小さなペットボトルを持ち上げた。

「いや、俺はまとめ買いしたコラボ飲料がまだ家に箱であるんで大丈夫っス。ノルマ一日二本なんで」

そう断って誉望が開けたリュックサックの口からペットボトルが二本浮いて出てきて机に並ぶ。
ラベルに書いてある美少女キャラが正面に来るようにきっちり置かれたのを確認して満足そうに誉望はパソコンに向かう。
世が世なら、それも正史なら大能力者として、その有能さを存分に発揮してパシられていただろう少年も。
なんの因果か。
レベル3相当の念動力をゲームをすることに全振りしてしまっては暗部組織の構成員の見る影もない、最早ただのオタクだった。


「ねえ」

「っス。いますよー。時間、まだですよね」

キーボードを叩きながらの返事に今度はため息が返ってくる。

「君じゃないわよ。彼は? 私、この後予定があるの。早くはじめちゃいましょう?」

さっきまでそっちに居ましたよ、と誉望に言われて部屋の奥を覗いた心理定規は首を振る。
ドアを開けて隣の部屋まで探しにいった。
あれーいませんでした? と誉望も後を追いかける。

「いないみたいだけ……ど、ッ!」

「うわっ何ス……か」

ガッとシャツを引っ張られて強引に振り返った誉望と。
驚いた顔のまま立ちつくす心理定規の視線の先には何だかおかしなものがあった。
きょとんとした顔で床の上に座り込んでいる子どもがいた。
迷子だろうか。
それにしてもどこから入ってきたのだろう。
暗部組織の所有する、オートロックのこの部屋に小さい子がいるなんておかしな話だ。

そのまま一瞬固まってから二人は壁の近くまで黙って移動した。

「(なんスかあのちっちゃい子!)」

ひそひそ叫ぶ(器用な真似をする)誉望の声を聞いて、目をこすっていた心理定規がため息をついた。

「(私にだけ見えてるんじゃないのね)」

どうやら彼女は自分が幻覚を見ているのではと思っていたらしい。

「(いやー誰かに似てる気がしませんか、あのちびっこ。見覚えがあるような、さっき探していたような……)」

「(そうね……あ。前に君も言ってたじゃない。能力者のクローンを作ってるって噂。きっとそれじゃない?)」

「(でもずいぶん小さいっスよ? あれか? 研究所で事故があって、生育途中で逃げてきたクローン体がエキサイティングな事件を引き連れてやってきた展開か?)」

とんでもないが、学園都市なら実際におきてもおかしくない妄想をこぼす。
誉望はどこか遠くを見ながら、いつもなら
「つまんねえこと言ってんじゃねえよ」とスルーされそうな話題を振ったが。

「(ねえ…もし、彼がもう一人居たらって想像してみて)」

「(もろもろ倍になるんスよね……困りますね)」

「(彼二人ぶんって絶対手を焼くわ。そっか。それで小さいのよ。場所も取らないしね)」

いつもは、割と組織内でもまじめなはずの心理定規がらしくない冗談を言って乗ってしまった。
ずいぶん強引に、下らない方面に会話の舵がきられていこうとしている。

「(おおっと、クローン説が信憑性を帯びてきたような……いやまさか、垣根さんがとうとう『未元物質』での禁忌の人体錬成に成功したんじゃ……垣根さんがコピーを作成したら小さいのが出来たのか?)」

「(馬鹿なこと言わないでって言いたいけど。やっぱりあの子、誰かさんの面影があるのよね……あれ? それじゃあ本人はどこに行ったの)」

まだ二人は現状を飲み込めていない。
タイミング悪く垣根がいないからうまく事態の説明が頭のなかで追いついていない。
そう言うことに二人はしたいようだが、実際に問題が目の前にある以上いつまでも無視はしていられない。
3 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2017/10/09(月) 03:48:41.62 ID:CdsvNY5b0

「(まさか全身持っていかれ……いや……やっぱ、あれが垣根さんか?)」

疑問をブチ抜く誉望の呟きに二人は隠れ家にふってわいた謎の幼児をじっと見た。
よく見れば。
小さいのが着ているのは、垣根がいつもシャツの下に着ているセーターに似ていた。
参考元の着用イメージの半分以下の大きさで、袖も裾丈も余り過ぎているから何かはわかりづらかったが、きっとセーターだろう。
ぺたんと床に座り込んだ子どもは辺りをきょろきょろ見回したり、ぶかぶかの袖を振ったりいじったりしている。

なんでこんなところに小さい子どもがいて。
なんでおかしなサイズの服を着ているのか。
そして相変わらず当の本人垣根帝督はどこにもいない。
やる気さえどうにかすれば、トラブルが舞い込んでも何とかしてくれそうなあの超能力者がいない。
やっぱりふざけてばかりはいられそうになかった。
リーダー不在の事態は避けたいと考えていただろう二人の気持ちも虚しくあの子どもと垣根が一本の線で結ばれていく。
それどころか……垣根=幼児、とびっきりに意味不明な厄介ごとの予感だ。

「(大分裾が余ってるけど……そうね) なんなの! どこかの研究所が若返りの実験にでも成功したって言うの?」

「シッ! だめだ、気づかれました!」

誉望が慌てて止めようとしたが、心理定規の舌打ちと個人的な不満が乗った文句が聞こえたらしい子どもが振り返る。
誰か……壁の近くでこそこそしている怪しい人たちに気づいたちびっこは。
目があうとぱちぱち瞬きをしてから立ち上がり、そーっと後ずさるように一歩、二歩と動いた。

その場から逃げようとする子どもに心理定規はしゃがんで手招き、誉望は両手を広げてわ〜っと手を振る。
怖がらせないようにしたかったようだが、残念ながら二人ともものすごく怪しかった。

「あは、あははこんにちはっス〜……え、えーっとぼく? お名前は?」

「ていとく。いみは、とってもえらい」

「幾つ?」

ムスっとした顔のていとくくんは黙って手のひらを広げて前に出す。
数えるとちょうど指が五本。

「五歳ってことかな」

「……やっぱりこれ垣根さんっスか?」

「学園都市に何人『ていとく』さんがいるのかしら。もう、何でこんなことになっちゃったの」

「いやーもうこれ夢じゃないか? いてっ?!」

「残念だけど夢じゃなさそうね……って あの子どこに行っちゃったの?」

自分の頬…ではなくいきなり誉望の腕をつねった心理定規がふと見ると、目を離した隙に子どもは逃げてしまっていた。

「なんで俺をつねるんスか。そう言うのは自分で確認しなきゃ意味ないんじゃ」

心理定規の不意打ちをくらって痛がっていた誉望が見回すと小さいていとくはすぐみつかった。
テーブルの下に、脚の後ろに隠れるようにしてしゃがんでいた。

「……だれ、ですか」

丁寧に聞かれて、誉望が垣根さんが俺らに敬語を使った?! 今の聞きました? とあわてた様子で心理定規に確認する。
こっちはまだ現実逃避の途中らしい。

「そこじゃないわよね驚くとこ。ええと、私たちのことわかるかな」

離れた所からぷるぷる首を振るかきね(仮・小さい)。

「縮んで次は記憶喪失っスか」

「もう。しっかりしてよ。小さくなったのは見た目だけじゃないみたい。そんなところにかくれてないで、こっちでお話ししましょう?」

「やだ。しらないひとと、おはなししない」

今度はブンブン音がしそうなくらい大きく首を振る小さいかきね。

「でも一応返事はしてくれますね」

「ほら。この子の方が君よりしっかりしてるじゃない」

ひそひそ話す二人をかきねはじーっと見ていた。
幼い顔が険しくなっている。

「あー、警戒してます! って顔してますよ。不審者を見る目っスよあれ。どうしたらいいんスか」

どうしようどうしようと騒ぐばかりの誉望の横で、子どもの様子をうかがっていた心理定規は…何か考えを探るように額のあたりを押さえてから返事をする。

「ちょっと待って。まだ、うまく……いかないみたいだわ。地道に何とかしましょう。とりあえず説得しないと。なるべく怯えさせないように気をつけて」

「いきなり自信ないんですが」
4 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2017/10/09(月) 03:52:17.82 ID:CdsvNY5b0

「えっと、ていとくくん?」

てんでダメな誉望と違い、心理定規はにっこりと完璧な笑顔を浮かべて物陰の子どもに声を掛ける。
バイトや日頃の暗部での対応でよっぽど精神力が鍛えられているのか、異常事態にも慌ててみせたりはしない。

「それじゃあご挨拶からしましょうか? はじめましてこんにちは」

「……こんにちは」

「こんにちは〜俺は、誉望万化って言いま〜す」

いつもより無駄にへらへらしている誉望にも、かきねはちゃんと頭を下げていた。

「よぼー、ばんかー?」

「そっスそっス。えっとこっちは」

あれ、何て紹介すればいいんだ? と間があって、心理定規はまたにっこりして子どもに笑いかけた。

「……心理定規よ」

横にいる誉望の腕をぎゅっとつねりながら。
いてててて、と理不尽な攻撃に誉望が小さく悲鳴をあげる。
作り笑顔でそうは見せないだけで、もしかすると彼女の心の中は穏やかではないのかもしれない。
あまり騒がず落ち着いている普段のイメージからはあまり想像できないアクションだったが。
甘んじて攻撃を受けた誉望は離してもらえた腕をぷらぷら振って仕方なさそうな顔をしている。

「そんな凹まなくてもいいじゃないスか。俺が何もやり返せないからってひどくないスか?」

「はーと?」

彼女の能力名、メジャーハートがよくわからなかったのかお子さまは首を傾げる。

「心理定規おねえちゃんっス」

「おねえちゃん」

「もう……いいわ、それで」

ちびっこににっこりそう呼ばれて心理定規は仕方なさそうにうなずいた。


「俺たち怪しいもんじゃ…あるかもしれないっスけど、悪い人じゃ…ないとも言えないんスけど……あああどう説明すりゃいいんだ。どうしたらいいんスか?!」

「もう!! ちょっと落ち着いてよ」

ビクゥ、と目を丸くして固まるかきねを見た心理定規はほら、と誉望をにらんだ。

「大きい声出さないの! ほら、この子が怖がるでしょ」

「気のせいか? 俺よりずっと怖いものがあるような……あ、また隠れてますね。いや、全然見えてるんスけど」

頻繁に打撃系のツッコミをされる側な誉望は、少し怒鳴られたくらいでは別にこたえていないがちびっこには十分すぎたのか。
かきねはまたテーブルの下に避難していた。
家具の脚は残念ながら姿を隠してくれないが隠れている気分にはなるんだろう。
その後ろから騒ぐ二人のようすを見ていた。

「怖がらなくても大丈夫。垣根帝督くんね。私たち、あなたのこと見るように言われてるの。だから心配いらないわ」

「そんなこと言っていいんスか? 任務でもないのに」

状況的に間違ってはないだろうが、いきなりそんなスパイアクション映画みたいなことを言われて、子どもでも素直に信じてくれるのか。
小さな声で尋ねられた心理定規は誉望の方を見てにっこり笑った。

「あら。このままどこかに逃げられちゃってもいいのかしら? 真偽は別として、私たちは安全だってあのこが思えばそれでいいのよ」

とても合理的な、頼りになるお言葉だった。
すっかりいつもの……仕事の気分になっているのかもしれない。
5 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2017/10/09(月) 03:58:09.47 ID:CdsvNY5b0

「なんで、おれは、ここに……いるんですか」

「なんでと言われてもっスね。俺が聞きたいっつうか」

しどろもどろな誉望の不審な様子に、じーっとそれを見ていた子どもの目にはじわじわ涙がたまっていく。
やっぱり危ない人たちにつかまったんだ! なんて泣き出されてもおかしくない状況だった。
追い詰められた様子に誉望の方があたふたする。
子どもが泣き出すのは彼にとってオレンジ以上の警報と同じくらい効果がありそうな慌てぶりだ。

「うわわわわ、心理定規ー! にらんでる垣根さんがどんどん涙目にー?!」

「このおうちで一緒に遊ぶからよ。ほら、こっちにいらっしゃい」

「どーしてですか」

「そうね……お昼ごはんまで時間があるでしょ。いっぱい遊んだら、ご飯まであっと言う間よ。何がいいかな? そうだ。みんなで考えましょうか?」

「うーん。いいよ」

ご飯、遊ぶ、何てワードが興味を引いたのか。
少し悩んでから小さいかきねは緊急避難場所から出てきてくれた。

「垣根さん、小さいのにちゃんとしてるんスね」

「おとなのひとにはちゃんとおはなししないとだめなんです。おをつけてていねーに。しらないひととは、おはなししちゃだめ」

一生懸命、まじめな顔で話してくれるかきね。
五歳児からみたら中学生くらいの心理定規でも大人に見えるだろう。
それにしてもよっぽど厳しいご家庭だったのか。
もしかしたら親ではなく、こっちでついた教育者の方針かもしれない。
五歳はちょうど学園都市での能力開発がはじまる一番早い年齢だ。
垣根の昔のことなんて心理定規たちも詳しくは知らないが。
厳しい幼稚園の先生よりは、開発官の影響の方が……超能力者だしありえそうな話だ。

「私たちはもう知ってる人ね? いいのよ何でも気軽にお話しして」

「そっか。ごあいさつしましたね」

「……いいのか、いいのかそれで」

心理定規の言葉に納得したらしく本人はにこにこしているが。
聞き分けが良すぎる気もする小さいかきねに、誉望は不安が増したようだ。

「はー。でもよかったーひとまずテーブルからは出てきてくれたっスね。あのままじゃ落ち着いて話し合いも出来ないっスよ」

「はぁ……とりあえず興味をひければいいんだけど。小さい子って次の行動が読めないわね」

おねえちゃんにぶかぶかのセーターの袖を折ってもらったかきねは動きやすくなったのか、今は部屋の中をちょろちょろしていた。
広い室内は見るところがたくさんある。子どもの興味もひいたようだ。
その様子を気にしながら二人はお子様への対応を相談していた。
誉望は宅配デリバリーのメニューを調べるよう、早速用事が言いつけられている。

「心理定規なら能力でお子さまのハートも一発ゲットだと思ったんスけど。違うんスか」

「私の能力は、ある程度対象の心の中の尺度に依存するのよ。個人の人間関係どころか、価値観が曖昧な小さい子だと余計に不安定になりそう」

試してみてもいいけどと心理定規が言ったすぐ後、少し離れて部屋の奥の方にいたかきねはとことこ歩いてきて心理定規を見上げた。

「ね。ねー、おねえちゃん」

「はい。これでいい?」

手を引っ張られて心理定規はかきねの頭を撫でてやった。
小さくなる前と同じ明るい茶髪だ。
まさかこんな歳から染めてたのか、それとも実は地毛だったなんてことはあるのかどうか。
頭をよしよししてもらっても、かきねは不満そうに心理定規にくっついていた。

「んーん。だっこ」

椅子に座ると心理定規は膝の上にかきねを抱き上げる。

「もう……ほら、あっちのおにいちゃんに遊んでもらう?」

「んーん」

ぎゅっと背中に腕を回したちびっこは、誉望の方なんて見もしないで嫌そうに首を振った。
6 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2017/10/09(月) 04:01:48.31 ID:CdsvNY5b0

「これは……懐いたってレベルじゃねえべったり具合ですね? 心理定規さん」

ついさっきまで怖がっていたのが嘘みたいに心理定規に懐くかきね。
相変わらず、いや予想以上の効果だな……と誉望は大げさな丁寧口調でうなずく。

「距離単位二〇くらいのつもりなんだけどね。この子にはこれが近過ぎるのか、効果が強く出てるのかもわからないわ」

「でもコアラの親子みたいで非常に微笑ましい光景っスよ」

オヤ、シャシンヲトルンデスカ? とセリフを再生するスマホを二人に向けて、誉望はおーいと手を振ったが、

「……やだ。あっちいけ」

コアラの子どものようにおねえちゃんに抱きついていたかきねが心理定規の肩ごしに睨みつける。

「あっはい。すんません邪魔でそうですね俺なんかいても邪魔でしかないよな」

「そんなにショック受けないで。私もさっきから、このおかしな状況に驚いてる余裕くらい欲しいんだけどな。多分、小さい子は一つのことで頭も手もいっぱいになっちゃうのよ」

「ここまでばっさり他人のATフィールドに拒否られたのは久々だ……あれですか心理定規さんにツッコミ解説担当を強いてる俺のヘタレさへのおしおきっスか」

「だから私のせいじゃないってば。気にしすぎじゃない?」

そう言いながらも、いつも以上に面倒な自虐ネタに走る誉望はスルーして。
やだやだ、と不機嫌になってしまったかきねの頭をあやすようになでる。
その姿はおねえちゃんと言うよりおかあさんみたいになっている心理定規だった。
そんなことをしているうちに、不機嫌の方に傾いていたゲージの針が反対側に振れたらしい。

「おねえちゃんいいにおい」

「そう? 香水つけてるからかな」

「いーにおい」

「心理定規、小さい垣根さんがにこにこしてますよ。うわっ、いつもの垣根さんからはぜってえ想像出来ない無邪気な笑顔が……あ」

「何」

「貴重な『ドヤらない』垣根さんの笑顔じゃないスか! 営業スマイル抜くと……多分、俺初っス!」

「へえよかったわね。今私にそれ、見れると思う?」

「そっスね」

肩のあたりに抱きつかれて、見えないだろう本人の代わりに実況していた誉望だが。
こちらにもばっさり切り捨てるようなトーンでツッコミを入れられて素早くスマホを取り出した。
シャシンヲトリマース…の音声の後に保存されたブツはきっちり彼女に送信されるだろう。


その後すぐに、心理定規はかきねへの能力使用をやめた。
調節の難しい状況で距離が近すぎるのはかえってやりづらいと判断したようだ。
と、言うか。
その間かきねはカモの子どものようにおねえちゃんの後にくっついて離れようとしなかった。

「これで元通りかしら。おねえちゃんが一緒にいなくても大丈夫? 手を握ってる?」

「ううん。へーきです」

心理定規はあえて、さっきまでなら喜んで甘えてきそうなことを聞いてみた。
だが、無事に効果は消えているのだろう。
かきねはいい子の顔でお返事をした。

「良かった。問題なさそうね。いいのよ? もっとお友達みたいに話して。そうやっておしゃべりするの大変じゃない?」

「そーですか?」

「そうよ。それにそっちの方がうれしいな。仲良しみたいでしょ」

「なかよし」

仲良しがうれしかったのか。
かきねはそっかそっか! とジャンプしている。

「これから私たちとは……仲良くしてもらわないとね」

ビジネスライクな距離感を保っているといつだったか言っていた少女は内心複雑なのか、それをみて薄い笑みを浮かべる。

7 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2017/10/09(月) 04:05:52.88 ID:CdsvNY5b0

「おれね、もうだいじょぶ。ごさいはひとりでなんでもへーきなんだよ。えらい?」

おねえちゃんうれしい? と確認しながら仲良し仕様で喋ってくれている。
とても……これがあの垣根帝督なのか。
知っている人間ほど、ありえないと笑って首を振りそうな状況だ。

「そう。立派ね。あ、あっちでひとりぼっちになってるおにいちゃんにも声かけてあげて?」

さっきバッサリ拒否られた誉望は遠巻きに様子をみていた。
と言うか既にスマホを取り出して寂しく暇を潰している。

「おーい」

「はい……」

「ちゃーんとなかよししてやるからな」

「なんか……やっぱ垣根さんっスね?」

五歳児とは思えない立派なドヤ顔で仲良し宣言。
小さくなっても小さい時でも似ている部分はあるのかもしれない。



だんだんとここに慣れてきたのか、部屋の中を見ていたかきねは窓に駆け寄ると歓声をあげた。

「こーそーまんしょんだ! すごーい!」

第三学区のこのマンションは『スクール』の隠れ家の中でも特に眺望がいい。
夜になれば学園都市中の夜景が一望できそうな一室で、ちいさな子どもは無邪気に目を輝かせている。

「おねえちゃんたち、おかねもちか?」

「そうっスね。ま、一番は垣根さんなんだよな」

「たかーいな」

「そうね」

「くるまがありさんだ」

「そうですね」

すごいなーと窓ガラスに顔をくっつけるようにして外を見るかきね。
それを見守る二人はほほえましい姿にあいづちをうっていた。
と、大人しくしていたかきねは急にガラスをぺちぺち叩いたり押したりしはじめた。

「あかない。あかないぞー?」

「この窓はあけてないのよ。危ないから見てるだけね」

「実は外からも開くんスけどね」

「誉望君?」

本当は大きく開くだけでなく、この窓は特別仕様にされたおかげで外からもスライドする。
こどもどころか大人一人楽に通るのを今教えても危ないだけだ。
だと言うのに余計な一言を口走る誉望に素早い心理定規の牽制。
見事にきまって、誉望はあっやべっとはっきり顔に出してから話をそらした。

「ほ、ほーら垣根さん、ふははは人がごみのようだー!」

「……なに?」

ちょっと考えてから首を傾げられる。
有名な国民的アニメ映画でも、五歳のかきねは元ネタがわからなかったらしい。
通じないパロディやギャグの解説ほど虚しいものはないらしいが、スベった誉望はまるでそれが当たり前のようにセリフの意味を教えようとしていた。

「人がいっぱいいる所や高い所ではそう言うんですよ。大佐ごっこですよ。ほーら。ごみのようだー」

「ふっふっふー。ひとがごみだー」

「あらら。言い切っちゃったわね」

「それじゃあ垣根さん次は意識高い高いをですね」

「こら。もう、おかしなことを教えないの」

口げんかのように見えなくもないやりとりだが、かきねはもう怖がらずに二人の様子を見ていた。

8 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2017/10/09(月) 04:14:53.31 ID:CdsvNY5b0

「あの小さい垣根さん、これからどうしたらいいんスかね」

小さいかきね、もとい何かおかしなことが起きてしまったリーダーが見えなくなると、部下の二人は揃ってため息をついていた。

「今はどうしてるの?」

「隠れ家の中を探検に行きました。やってることはまるっきり子どもですよ」

漫画やアニメのように体だけ変化してしまっている可能性も疑ったようだが、誉望の期待はハズれてしまったようだ。

「そう。なんで……こんなことになっちゃったのかな」

少し落ち着く暇が出来ると、小さい子どもの世話から一歩離れて問題に目が向けられる。
原因はまだわからないが、状況を考えると垣根が子供になってしまったと見て間違いなさそうだった。
今までのやりとりを振り返るなら、見た目だけじゃなく中身も完全にだ。
垣根が実はものすごい演技派で悪趣味な体を張ったドッキリを仕掛けてきてる可能性は……あったらそれも恐ろしい。
一応、二人が垣根の知り合いなのはもちろん。
暗部組織のリーダーの一大事となると、今後の任務にも関わってくるだけに気がかりになる。

「やっぱりどこかの研究施設でおかしな研究でも成功したのか?」

そう言えばさっきジュースもらったって飲んでた気がするんスけど……と言って誉望は最初に小さいかきねがいた辺りを見に行った。

「これもあったんですが」

小さいペットボトルと、ジャケットの袖の中にシャツが通っているもの(どう脱いだものか半分ひっくり返ってる)とベルトの留まったままのズボンを能力で運びながら誉望は戻ってきた。
今、小さいかきねが身に着けているものを元の状態から引いた残骸。
中身だけ消えてしまった、着ていたままの抜け殻みたいな服はちょっとホラーだった。

「服はクリーニングね。そのペットボトルまだ中身が残ってるわ。お茶みたいだけど、こんな商品見たことないわね」

「おっと、俺は飲みませんよ」

ゴーグルをつけてさっそく商品名とメーカーを調べていた誉望が何か言われる前に釘をさす。
検索結果は該当なし。
どうやらラベルに書いてあったのは、全て虚偽か架空の実在しないものだったらしい。

「そんなことして、もしもよ? 君まで彼みたいになったら事態が悪化するだけでしょ。私一人で面倒見きれないわ」

どうせ末端の子達にも働いてもらうことになりそうだし協力してもらおうかな、なんて恐ろしいことをため息まじりで呟く。
心理定規はもちろん誉望もよくわかっていることだが。
暗部組織の人員は替えがきく。
何かあればかわりを補充できるくらいだ。
そんな中で数少ない例外が、垣根のような超能力者だろう。
それが……こんなことになっては、『スクール』だけでなく学園都市を巻き込んだ大問題に発展しかねない。
何より、わけあって暗部にいる二人はあの『電話の男』に難癖をつけられる前に少しでも目の前で生じた問題に対処しようとしていた。
この組織の圧倒的な強みがなにか、は考えるまでもない。

「そいつが原因か検証はするんスね」

厄介なことになったな……と渋い顔をして誉望はゴーグルを外した。

そんな時、とてとてちびっこが部屋に戻ってきた。
二人の深刻そうなようすなんてわかりもしないだろう。
なにかを一生懸命もって楽しそうにやってきた。

「よいしょ。みてみて。じゃーん! ぴすとるだーてをあげろー!」

楽しそうな声がして、物騒なものが二人の目に飛び込んできた。
二人の方に向けられたのは五歳児の手にもなんとか持てるくらい小さなグリップ、レデイース用の小型の銃だ。
それに、こっちもドラマでよくありそうなセリフで誉望が叫ぶ。

「垣根さん?! そんなのどこから…そいつをゆっくり下に置いて両手を上にあげて下さい!」

「……あら。すごいわね。私にも貸して?」

おねえちゃんが笑顔でそう言うとかきねはいいよ、と銃を持ち上げて渡してくれた。

「ありがとう。人に渡す時は、こうしてグリップを向けるのがマナーなのよ。銃口はこっち」

「ふーん。むこうにあった。あとこれぐにぐに。これもあげる。はいどーぞ」

「はい。ありがとう」

「あっちのおへやもみてくるね!」

「はーい、気をつけてね」
9 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2017/10/09(月) 04:28:40.91 ID:CdsvNY5b0

「……心理定規さーん」

手をふって、にこやかにちびっこを見送る心理定規。
二人のやりとりをビビってみていた誉望はこわごわ声をかける。
いくら暗部組織でも、銃器をおもちゃにするなんてデンジャラスすぎる日常パートには引いた様子だ。
冷静にかきねの手からおもちゃをすべて回収した心理定規は、ぱたぱた振っていた手を止めるとやさしいおねえさんのリアクションが嘘のようなむっとした顔で立ち上がった。
やっぱりかきねが持ってきたのは本物の、彼女の持ち物だったらしい。

「大丈夫。弾は別で保管してるし、こっちも信管がなければただの粘土みたいなものよ。きちんとしまっておいたんだけど」

「恐怖のファンシーグッズっスね……早いとこ、小さい子に触られちゃまずいものを片付けましょう。そっちお先にどうぞっス」

物理的にやばいのは心理定規の持ち物で間違いないだろうが、順を譲った誉望の方も相当まずい。
おもに、教育に。

少しして。
かきね探検隊がラグマットの草原を転がって、ソファの船で遊んでいる間に二人はそれぞれ隠れ家に持ち込んでいた荷物を無事整えることが出来た。
今まで以上に遠慮なくリーダーが好き勝手してしまうので危険物や重要なものは、空いている部屋に押し込んで子供にはあけられないように鍵をかけておいた。
それでも誉望の定位置の周りはそんなに変わったようにはみえない。
相変わらずゲーム機やグッズが置いてあるが本人曰く。
「無いとおちつかない」のと、
「勝手に壊されること以上にまずいことがある」ので少しの片付けでは彼の不安要素は解消されないらしい。

「まあ小さくても垣根さんだから、何かあっても心配は無さそうっスけど」

呑気にそう言った誉望の目の前で、かきねがいきなりうずくまった。
棚の下をのぞいていて、立ち上がった調子に頭をぶつけたようだ。
ゴツン、と結構な音がした。
それをみていた心理定規が慌てて様子を見に行く。

「おでこぶつけたの? 大丈夫?」


「……う」

グッとかきねの顔が歪む。
今にもうわあああん! と泣き出しそうな様子に、誉望はまるで爆弾から身を守るように素早く後方に逃げた。

「心理定規ぉおお、かっ垣根さんが痛がってますけど?!」

いつもの垣根ならちょっとやそっとの襲撃くらいは、
「いってえ」の一言で軽く済ませそうだが今はそれどころじゃない緊急事態だ。
そうは言っても、自分は家具の後ろに隠れて心理定規に確認させようとするのは大げさすぎる。

「こんな小さな子に、いつもの彼の反応なんて期待しちゃ駄目でしょう? 何で君が逃げるのよ。ほら、みせて?」

座りこんでしまったかきねのそばに行くと、心理定規は額を押さえる小さな手をそっと外させた。
少し赤くなっていたが、こぶが出来るほどひどくぶつけていないらしい。

「いやー、駄目です。これじゃただのちっちゃい子じゃないですか。俺小さい生き物は相性悪いんです。急に何するかわかんないじゃないスか」

おおごとではなさそうだ、と少し安心したのか物陰から出てきた誉望は、聞かれてもいないのに自分の弱点を晒しはじめた。
どうやら室内のオタクグッズは精神・物理両面で相手を遠ざけるためのバリケードとしても機能しているようだ。


「大丈夫よ。いたいのいたいの……飛んでったかな?」

「……いたい」

心理定規はそんな怪我はしてないのよね、と困ったようにもう一度小さい額をみた。
かきねは眉をぎゅっと寄せて泣きそうになるのを一生懸命こらえている。
涙目で見上げてくる子どもの顔に、心理定規は小さく声をだしておかしそうに笑った。
10 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2017/10/09(月) 04:31:52.61 ID:CdsvNY5b0

「びっくりしちゃったのかな」

「ん。おれ、えらいからなかない」

「そう、強いのね」

じっと我慢するかきねの頭を撫でてやりながら、心理定規は話かけ続けている。
少しでも気をまぎらわせてあげようとしている優しいおねえちゃんだが。
「俺くらいになるとトラブルになる前に子どもが避けてくれるんだよな……」と誉望は何だか日頃の行い込みでげんなりしていた。

「もう、こっちは頼りにならないお兄ちゃんね。『いたいのいたいの〜飛んでけ〜』」

「あれ。とんでった?」

「よかった。気をつけてね」

心理定規のおまじないでかきねに無事、笑顔が戻った。
もう大丈夫、と二人がほっとしていると誉望がおそるおそる近寄ってきた。
まだ距離は充分にあけていつでも待避できる。
どこの戦場か、と言うくらい姿勢を低くして警戒態勢で様子をうかがっている。

「君は……大丈夫じゃなさそうね」

「小さくても垣根さんならちょっとくらい、何とかなる気がしてたんス。だって垣根さんスよ」

「どれだけ彼を信頼してるの」

「そもそも垣根さんで『未元物質』に俺らの常識が通用するわけがないじゃないスか」

「彼を何だと思ってるのよ」

はあ、と呆れた顔の心理定規。
確かに『スクール』のリーダーはいろいろと、信頼度抜群だが。
はたしてそう言うレベルの話だろうか。
11 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2017/10/09(月) 04:35:30.41 ID:CdsvNY5b0
ドーモ。
覚えていないかもしれないが、>>1でいつだったか予告していた垣根が小さくなるネタです。
『スクール』のほかにもキャラがでてくる予定。
らっこさんもあとから駆けつけてくれます。

この物語に『未元物質』の少年は登場しない。(ほとんど)
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/09(月) 14:13:39.61 ID:z/Zb2y020
ワロタ
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/10(火) 22:17:53.67 ID:JpVDO7VvO
ショタ垣根が定規さんにべったりしてるシーン2人とも可愛すぎる
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 17:52:23.33 ID:+o5/9axg0
このリーダー光源氏計画のために1匹欲しい
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