狩人「スライムの巣に落ちた時の話」

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22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/28(土) 13:38:46.65 ID:FLbrBElf0
「取り合えず、懐いてくれてる……と考えていいのかな」


幼馴染が言っていた「刷り込み」と呼ばれる現象だろう。

まあ、それが何時まで続くかは判らないのだけれども。

きっと、このスライム達だってお腹が空けば思い出すだろう。

自分達の本能を。

誰だってそれは逆らえないのだ。


つまり、私がやるべきことは二つ。


一つ目は、洞窟からの脱出方法を探すこと、

二つ目は、スライム達に食料を与え続けること。


「村の人たちが助けに来てくれたら楽なんだけど……」

「まあ、多分当てには出来ないかな、私は嫌われているし」


足元で、緑色のスライムがピィと鳴いた。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/28(土) 13:54:27.31 ID:FLbrBElf0
〜6日目〜


ここ数日、洞窟の中を調査してみた。

やはり天井部以外に外へ通じる経路は無い。

私と共に落ちてきた瓦礫の隙間から僅かな風を感じる事が出来るので、元々あった出入口は落盤で埋まってしまったのだろう。

あまり良くない状況だ。


けれど、悪くない情報もある。

洞窟の奥に、水溜りを発見したのだ。

それほど広くは無いが、深さはかなりある。

恐らく、この下に地底湖か何かあるのだろう。

これで飲み水の心配はしなくても済む。


「……そっか、もしかしたら魚とかも住んでるかも」

「洞窟にしか生息しない魚も居るって話しだし……後で釣り糸垂らしてみようっと」


ピィピィと声がする。

気がつくと、私の周りにスライム達が集まってきていた。

どうやらお腹が空いたようだ。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/28(土) 14:34:09.83 ID:FLbrBElf0
スライム達に食われない為にも、早急に狩りをしなくてはならない。

私は小さな瓦礫を幾つか拾い、洞窟の奥を見渡した。


見える範囲に何匹かいる。

夜行性なので今は眠っているようだが、連中は危機に対する反応速度がかなり速い。

弓があれば別だが、投石で狩るにはやりにくい相手だ。

それに何より美味しくない。

だからあまり気は進まないのだけど。


「まあ、背に腹は代えられないからね」


強く、短く指笛を吹く。

音は洞窟内部で反響し、連中を刺激する。

キィキィと鳴きながら飛び交う連中を、私の飛礫が捉えた。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/28(土) 14:56:49.86 ID:FLbrBElf0
ジュルルルと肉を吸収する音がする。

私が狩った蝙蝠達は、スライム達にとってご馳走のようだ。

ここ数日、毎日与えてるけど、骨も残さず溶かしてくれる。

その様子を見ていると、何だか不思議な気分になってくる。



基本的に、私は自分が生きるのに必要な分しか狩りをしない。

時々、幼馴染に獲物を分けてあげる程度だ。

その場合だって、幼馴染は何らかの対価を私に渡してくれる。

まあ、それらは私にあまり必要ない髪飾りとか洋服だったりするんだけど。

それでも対価を受け取っているのには変わりないのだ。



今のように、何の対価もなく獲物を分けてあげることは、無かったと思う。

何だか奇妙な感じだ。



「狩りをした後の充実感とも違うし……」

「んんんー……なんだこの感覚」

「……戻ったら、幼馴染に聞いてみよっと」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/28(土) 15:24:44.51 ID:Ko4E+xCxo
それは母性愛ッ!
スライムかわいいな、今んとこは
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/28(土) 16:03:09.53 ID:FLbrBElf0
〜10日目〜


晴れて晴れて曇って雨が降って雨が降って晴れて晴れて晴れて雨が降った。

脱出経路は見つからない。

一応、瓦礫を少しずつどかしてみたけど、流石にこれ以上は無理かな。

腕力が足りない。

長期的計画を立てて筋肉をつけるという手もあるけど、栄養源が少ないからそれも難しいと思う。



この数日、蝙蝠の肉を餌にして水溜りに釣り糸を垂らしてみた。

釣果は1匹。

半透明な目の無い魚だったが、捌いて炙って食べてみた。


「……うん、まあ、蝙蝠よりは美味しいかな」


青いスライムが物欲しそうな感じでピピィと鳴いた。

蝙蝠ばかりで飽きてきたのかもしれない。

次に魚がつれたら、このスライムに分けてあげよう。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/28(土) 16:14:31.65 ID:FLbrBElf0
〜12日目〜


起きてから、何だか寒気が止まない。

体調には気をつけているつもりだったけど、如何せんココには身体を温める物が少ない。

私が身につけていた毛皮くらいだ。

栄養が足りないのも原因の一つなのだろうけど。



「火を起こせれば暖を取れるけど、もう油も少ないからなあ……」



取り合えず今日の分のスライム達のご飯の食事を私で食べられて。

狩りを蝙蝠で魚が消化されて。



「……あれ」



違和感。

今、私は何を考えてたんだっけ。



視界が急激に狭まる。

これは、いけない。

駄目だ。

意識を。



「おかしい……な……森でなら、何日野営しようと……こんな事は……なかったのに……」



そう考えたのを最後に、私の記憶は途切れた。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/28(土) 16:30:16.18 ID:FLbrBElf0
そう、私は森では無敵。

いや、流石に無敵は言いすぎか。

少なくとも、森でならどんな劣悪な環境でも適応できた。

けど、森以外では全然駄目だった。



例えば、ごく短い期間だったけど、村で暮らしたことがある。

その時も、今回みたいに体調を悪くさせた。

そして幼馴染に看病された。



「ぷぷぷぷ、アンタ、どうして寝込んでるの?」

「バカは風邪を引かないって言葉知らないの?」

「もしかして風邪を引くことで自分がバカじゃないって事を主張したかったの?」

「そうだとしたら傑作だわ!ぷーくすすすす!」



ううん、アレは本当に看病だったのだろうか。

単に笑いに来ていただけのような気もする。

けど、いやな気分ではなかった。

ちゃんと食べやすくて暖かい料理を置いていってくれたし。



テーブルの上に置きっぱなしで帰っちゃったから這って食べに行かないといけなかったけど。



食べた時は、もう冷めかけていたっけ。

けど、その暖かさが、とても心地よかった。

そんな記憶がある。



そんな記憶が……。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/28(土) 16:44:56.28 ID:FLbrBElf0
ふと目を開けると、目の前に赤いスライムがいた。

ぐじゅる、ぐじゅると蠢いている。



「……ああ」



私の身体は、赤いスライムに半分以上覆われていた。

きっと、お腹が空いてしまったのだろう。

私がどれくらい意識を失っていたのかは判らないが、少なくとも1日以上は食事をしていなかっただろうから。

だから、赤いスライムが我慢できなくなっても、仕方ないように思えた。



出来れば抵抗したいけど、私の意識はまだ朦朧としている。

痛みは、感じない。

ただ、むず痒さと熱さだけがある。



死ぬ事に対して、怖さは感じない。

けど。



「……ごめんね」

「誕生日、間に合いそうにないや……」



彼女に対する申し訳なさだけがあった。



赤いスライムが、私の顔に迫ってくる。

私はそれを、目を瞑って受け入れた。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/28(土) 17:04:03.89 ID:FLbrBElf0
〜15日目〜


目が覚めると妙に気分が良かった。

何より、暖かい。

起き上がろうとすると、ペチャリと音がして、何かが上半身から零れ落ちた。



「……あれ、私は確か、スライムに食べられて」



いや、現在進行形で私は赤いスライムに覆われている。

上半身だけがそこから出ている状態だ。

暖かいのは、赤いスライムに部分。



「んー……もしかして、私を食べるつもりはないのかな」



赤いスライムは、ピィと鳴いて私の上半身に再び這い上がってきた。

ああ、これは、ひょっとして……。



「そっか、暖めてくれたのか」



以前に感じたことがある感覚が、再び湧いてきた。

これは、これは何なのだろう。

この感覚は何なのだろう。

今すぐに、聞いてみたい。

幼馴染に。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/28(土) 17:16:04.74 ID:FLbrBElf0
〜18日目〜


体調が回復してから気になっていたことがある。

ここ数日、朝、目が覚めると魚が置いてあるのだ。

例の目の無い半透明な魚だ。


水溜りから、跳ねてここまで来たのだろうか。


いやいやいや、そんな都合が良い偶然は無い。

もしかしたら一度だけならば有り得るのかもしれない。

けど、二度三度となると……。



そんな事を考えている間に、「犯人」が水溜りからザバンと浮上してきた。

答えを先に行ってしまうと、青いスライムだ。

青いスライムが、体内に複数の魚を捕らえた状態で、水から上がってきたのだ。



青いスライムはプルプルと体を震わせて、水を切った。

半液体状のスライムでも、水浸しなのは嫌なのかな。

そんなどうでもいい疑問を抱いてると、青いスライムは私の前に魚を置いてくれた。



「……ええと、くれるの?」



ピピィ、と青いスライムが鳴く。

うんうん、なるほど。

判った。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/28(土) 17:49:08.48 ID:Qjc4SrI6o
待ってた
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/29(日) 06:04:50.40 ID:iP6qWbTVO
ええのー
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/29(日) 09:40:45.81 ID:g7WAImFEo
うむ
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 17:58:53.72 ID:SzpdwLsZo
面白い
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/01(水) 11:47:36.29 ID:LpZs8Gbp0
そう、判ったのだ。

認めずには居られない。


このスライム達は、やはり普通では無い。

生まれたばかりにも関わらず、知性と理性が非常に高いのだ。


だから私は捕食されずに済んだ。

それどころか、弱っていた体を温めてもらった。

餌を分け与えて貰いさえした。


私はスライム達に対して「脅威を避ける為の餌付け」という考えで接してきたけれども。

今のこの状況ならば、もう一歩踏み込んで考えてみてもいいのかもしれない。


つまり。

「スライム達と積極的に交流し、可能であれば脱出の手助けをしてもらう」という具合に。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/01(水) 12:29:51.20 ID:LpZs8Gbp0
〜20日目〜


「村の連中がアンタを怖がるのは、アンタの事をちゃんと知らないからよ」

「そりゃそうよね、普段は森に住んでて滅多に姿を見せないし」

「たまに姿を現したと思ったら服に獣の血がついてるし」

「私以外とはあんまり喋らないし、笑わないし」

「連中にとっては、アンタは意味不明で不気味な存在なの」

「だから、嫌がらせされたり、陰口叩かれたり、無視されたりする」

「そこで提案なんだけど……」


幼馴染との会話を思い出す。

要するに、相手の事を把握しないと、ちゃんとした関係を築くことは出来ないという事だ。

その言葉に従って、私はスライムの観察をはじめていた。


正直、スライム達の事は色の違いでしか把握していなかった。

けど、ここ数日で色々細かい違いがあることがわかった。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/01(水) 12:53:13.79 ID:LpZs8Gbp0
まず、青いスライム。

やたらと動き回って、やたらと良く食べる。

私が何かを放ったりすると、それに反応して拾いに行ったりする。

水に入るのが好きで、よく水溜りの中に潜っている。



次に、赤いスライム。

私が観察していると何故か瓦礫の隙間等に隠れる。

ヒトの視線に敏感なのかもしれない。

逆に、私が目を瞑ったり寝たりしているとすぐ傍まで接近してきて居たりする。

他のスライム達に比べて体内の温度が高い。



次に、緑のスライム。

一番体が大きく、動きが遅い。

蝙蝠肉を与えても、食べようとしない事がある。

蝙蝠を狩る際の指笛に強く反応する。

他の二匹に比べて、行動が読みにくい。



そして……。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/01(水) 13:09:11.65 ID:LpZs8Gbp0
一番小さい、黒いスライム。


……。

……。

……。

動かない。

緑のスライムは緩慢ではあったけど、それでも動く。

けど、このスライムは動かない。


そういえば、最初に見た時から動いた形跡が無い。

多分、蝙蝠肉も食べに来ていない。


「……もしかして、死んじゃったのかな」


その声に反応したのか、黒いスライムはこちらを見上げてきた。

良かった、生きてはいるみたいだ。


41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/01(水) 13:33:06.80 ID:LpZs8Gbp0
……。

……。

……。


今、何か違和感を感じた。

ほんの小さな違和感。

何だろう、何か……。



「……そうだ、何で『こちらを見上げてきた』と感じたんだろ」



赤いスライムは、ヒトの視線を感じることが出来るようだ。

狩人である私も「獲物からの視線」を少しくらいは感じる事が出来る。

けど、今回はそれとは違うように感じる。

もっと根本的な……。


「……」

「……」

「ああ、そうか、このスライム」

「形がちょっとヒトに似ているんだ」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 15:17:24.15 ID:mPnXMQTh0
やっと黒の話が出たらいきなり不穏な
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 18:10:10.69 ID:RIBIRkvFO
これは…
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/02(木) 10:59:47.47 ID:0m5tXs/U0
造詣的には、辛うじて手と足と頭があると判る程度でしかない。

幼馴染が持っていたヌイグルミよりも、更に単純な形状。

けれど、そのスライムは確かに……蹲るヒトに似ていた。


「……このスライム、元々こういう形だっけ」

「それとも、徐々に変化した?」


あまり印象深くは無いけれども……最初は、他のスライムと似たような形状だったと思うのだ。

変化したとしたら、そこにどんな意味があるのか。


あまり頭のよくない私には、予想できない。

けど、少し注意しておいたほうが良いのかも。
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/02(木) 11:33:57.54 ID:0m5tXs/U0
〜22日目〜


スライム達の観察と平行して、脱出方法の模索も続けている。

スライム達と十全な協力体制を築けたと仮定して、どうやれば脱出できるのか。


例えば……洞窟の天井に開いている穴からスライム達を外に送り出して。

蔦なり何なりをぶら下げてもらえば。

そこを登って脱出することが可能だろう。


理屈としては不可能では無いように思える。

問題は……。



「そこまで複雑な行動を、スライム達が理解できるのかって事なんだよね」



壁に向かって石を放ると、それに反応した青いスライムがピィピィと動き出す。

石を回収して、遊び始める。

元々はスライム達の反応を伺うためにやりはじめた石投げだが、青いスライムは気に入っているようだ。



「この辺の習慣を利用すれば、洞窟の外に送り出すのは可能だろうけど」

「その後がなあ……」



スライム達の気分次第ではあるけど、反復して行動させる事でそれを習慣として教え込むことは出来ると思う。

けど、ここには蔦もロープも無い。

代用品すらない状況だと、習慣として教え込むことは難しいんじゃないだろうか。



「せめて、言葉が通じたらいいのにね」



洞窟の天井に開いた穴から、外の様子が見える。

今日は満月だ。

あと数日で、幼馴染の誕生日。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/02(木) 11:54:12.32 ID:0m5tXs/U0
〜25日目〜


両親に連れられて、初めて村を訪れた時。

私はすごく警戒していた。

だって、父と母以外のヒトを見た事なんて無かったから。



村のヒト達は、私達と違い、随分とノロノロ動く。

物音を隠そうともしない。

隠れもせずに、私達を遠巻きに眺めてくる。



両親が村長と話している間、私はずっと建物の陰に隠れていた。

私達と、ここのヒト達は、違う。

違いすぎる。

鼻がむずむずする。

口の中が乾燥する。

気分が悪い。

いつも行く、森の泉で綺麗な水を飲みたい。

水を。



「水を飲みたいの?」



背後から声がしたので、凄くびっくりした。

何時の間に近づかれたのだろう。

足音は、あったはずだ。

けど、周囲の物音にまぎれて、ちゃんと認識することが出来なかった。

私は警戒しながら背後を振り返り。


彼女と出会った。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/02(木) 12:06:58.20 ID:0m5tXs/U0
「アンタ、狩人さんの娘?ずいぶん細いのね」

「水くらいなら、あげるわよ、汲んできてあげよっか?」

「ねえ、聞こえてるの?返事くらいしたら?」

「……ごめんなさい、もしかして、あんまり言葉が喋れないの?私の言ってること、判る?」



矢継ぎ早に、質問が来る。

私は答えようとするけど、口の中が乾燥して声が出せない。

彼女は暫く私を眺めていたが、そのうちプイと顔を逸らして、何処かへ行ってしまった。



「……」



何だか残念な気持ちになる。

居心地が悪い。

帰りたい。

森に帰りたい。

蹲って、両親の用事が終わるのを待つ。



背後から、再び足音が聞こえた。

今度はちゃんと認識できる。

さっき去っていった少女と、同じ足音だ。

声をかけられても、今度は驚かない。



「はい、水を持ってきてあげたわよ」



振り返ると、そこに。














ゴボゴボゴボゴボ










黒い何かが立っていて。

私を覗き込んでいた。



そこで私は夢から覚めた。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/02(木) 12:15:50.63 ID:WeMJL4dgO
面白い
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/02(木) 12:23:20.48 ID:0m5tXs/U0
目を開けると、夢で見た光景が続いていた。



「ゴボゴボゴボゴボ」



奇妙な音と共に、私を覗き込む黒い何か。

それは細長い、歪なヒトの形をしていた。


私の事を、観察している。

私の動きを、反応を。

いや、それだけではないのだろう。

直感的に判る。



この黒いスライムは、ヒトの心を覗くことが出来るのだ。

きっと、今見ていた夢も、覗かれていたのだろう。



「ゴボゴボゴボゴボ」


「……生まれたばかりだし、周囲の情報を集めようとしてるのかな」


「ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ」


「生き物としてそれは当然のことだと思う、だから、今回の事は責めないよ」


「ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ」


「けど、これ以上はやめて欲しい、アレは大切な思い出だから」


「ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ」


「ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ」


「ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ」





「次に同じ事をしたら殺す」

「ゴボ……」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/02(木) 13:26:28.35 ID:0m5tXs/U0
黒いスライムは、そのままの姿勢で私の様子を観察しているようだった。

目も鼻も口も無い頭だが、何となく気分を害しているように思える。



暫くすると、細長かった身体が縮み始めた。

恐らく、身体の体積を「背伸び」させる形で身長を稼いでいたのだろう。


みるみるうちに元のサイズの黒いスライムに戻ると。

そのまま歩いて定位置まで戻り、以前と同様に蹲ってしまった。



そう「歩いた」のだ。

他のスライム達のように、転がったり這いずったりはしなかった。

簡易的な足を使って、歩いてみせた。



「……もしかして、前よりもヒトの形に近づいてる?」



もし、ヒトと同じ形態になって、こちらの心を読めるのだとしたら。

意思の疎通が可能になるのではないだろうか。

そうしたら、脱出の手助けをしてもらえる可能性が高くなる。

少し、希望が出てきた気がした。



「……まあ、黒いスライムが私の希望を汲んでくれるかは、判らないんだけどね」



ガボガボガボ

黒いスライムが返事らしき音を出した。

それがどんな意味を持っているのか。

それは、まだ判らない。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/02(木) 13:41:10.53 ID:0m5tXs/U0
〜26日目〜


「パチパチパチパチ」

「誕生日おめでとう、今日で18歳だね」

「残念ながら誕生日プレゼントは用意できなかったんだ」

「けど何も無いのはあんまりだから、歌を送ろうと思う」

「喜んでくれたらうれしいんだけど」

「では」



洞窟の中。

昔、幼馴染から教えてもらった「誕生日の歌」が響く。



「生まれてくれてありがとう」

「私と一緒に生きましょう」



そういった意味の歌詞だったと思う。

まあ、誕生日の主役はココには居ないんだけどね。

けど、何もしないのはあんまりだと思うから、形だけでもお祝いしてみる。



緑のスライムが、私の歌に反応して揺れ始める。

ぷよぷよ。

ぶるんぶるん。



ひょっとして、歌が気になるのかな。

そういえば、緑のスライムは音に敏感だった気がする。



「……」

「良く考えると、スライム達の誕生日は、私がここに落ちてきたその日だったんだよね」

「だとしたら、何かプレゼントしたほうがいいのかな」

「と言っても、あげられるものは蝙蝠肉か魚くらいしかないんだけど」

「他には、何か、んんー……」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/02(木) 13:42:37.32 ID:0m5tXs/U0
 




「なまえぼ」




 
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/02(木) 13:47:56.16 ID:yGV7uBcgo
ヒエッ
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/02(木) 13:49:30.34 ID:Jem0buZ7o
ヒェー……
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/02(木) 13:52:47.15 ID:0m5tXs/U0
「え?」



何処かから、声が聞こえた気がした。

周囲を見渡すが。誰も居ない。

私とスライム達だけだ。




気のせい、かな。

言葉の意味も良くわからなかったし。

「なまえぼ」ってなんだろ。



「なま、えぼ」

「生のエボ?」

「生海老」

「生野菜」

「なま」

「なまなまなま」

「なまなまなまなまなま……」



うーん、判らない。

ふと、黒いスライムが目に入った。

そう言えば、ずっと黒いスライムとか赤いスライムとかで呼ぶのは、ちょっと面倒くさい気がする。

もっと簡単な……。



「……ああ、そっか」

「名前を」

「付けて欲しいのかな」



黒いスライムは、ゴボゴボと音を発した。

どうやら、当たりのようだった。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/02(木) 14:48:35.57 ID:0m5tXs/U0
黙考すること10秒。

私はスライム達を順番に指差し、こう言った。



「赤いスライムは、アカ」

「青いスライムは、アオ」

「緑のスライムは、ミドリ」

「黒いスライムは、クロ」

「今日からこれが、君達の名前ね」



スライム達からの反応は無い。

黒いスライム……もとい、クロだけは「ガボガボガボガボ」と何らかの意思表示をしている。



「そして、これが今日のご飯だよー」



蝙蝠肉を、何時もより多めに放ってあげると、アカとアオとミドリは大喜び。

うん、みんなが嬉しそうで、私も嬉しい。

苦労して考えた甲斐があった。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/02(木) 15:14:52.74 ID:0m5tXs/U0
〜30日目〜


「アオ」

「ピピィ」



知性の高いアオ達は、呼べば反応するくらいには慣れてくれた。

ただ、これは言葉の意味を理解して反応している訳ではないようだ。

ここ数日の経験で「この音がすると自分が呼ばれている」と感じているにしか過ぎない。

恐らく、ヒトの言葉を正確に理解させる為には、もっともっと沢山の時間が必要になるだろう。



となると、期待できるのは他のスライム達とは違う能力を持つ個体。



「クロ」

「……」

「クロ?」

「……」

「今日も返事は無し、と」

「……」



おかしいな、ヒトの心を読めるはずなんだけど。

どうしてか反応がない。

私が前に叱ったことを、気にしてるのだろうか。



「クロ、今は私の心を読んでもいいよ」

「返事して?ほら」



無反応。

蹲ったまま、ピクりともしない。

あのゴボゴボ音さえも出さない。



「ううん、他の子達と比べて、知性の発達が遅いのかな」

「まあ、生物なんだから能力の劣った個体が出るのは、仕方ないよね」

「もう少し、根気良く対応してあげないと駄目なのかも」



クロが、蹲ったままクルリと私のほうを向いた。

何か機嫌が悪そうな態度……な気がする。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/02(木) 15:55:09.31 ID:0m5tXs/U0
〜40日目〜


毎日、根気良く話しかける。

物の名称だけでなく、行為の名称も繰り返し唱えて、関連付けを促す。



「これが、石」

「あれが、蝙蝠」

「投げる」

「当てる」

「落ちる」

「食べる」



その反復作業に対して、最初に成果を出してきたのは、意外なことにミドリだった。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/02(木) 17:32:41.27 ID:dMGU12ROO
わくわくと不気味な気持ちが混ざる不思議な感覚

面白い
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/02(木) 18:17:32.78 ID:MDvx1Uj3o
これ、ネーミングセンスのなさに怒ってるやつじゃ
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/02(木) 20:40:03.62 ID:okuR0ozB0
これ賢くしちゃいけないタイプだ
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/03(金) 16:11:52.57 ID:QfTYX+Zd0
「ミドリ、今から右の壁に石を投げるから、拾ってきて」

「ピィ」



私の声に反応して、ミドリは移動を開始する。


ぷよぷよふよ。

ぷよぷよぷよ。


ゆっくりと『左側の壁』の付近まで移動したミドリは、ベチャリと床に広がった。

「絶対にココから動きません」の構え。



うん、複数の言葉を理解している動きだ。

すごい進歩。



「……問題は、どうして左の壁のほうに行ったのかって事なんだけど」

「まあ、石で遊ぶのが嫌いなんだろうなあ」



スライム達は、それぞれ好みが違う。

ミドリはあまり活発に遊ぶような子ではないのだ。

寧ろ、アオ達が石遊びをしていると遠ざかるような性質を持っている。

なら……。



「石を拾ってきたら、歌をうたってあげるよ」



ピクリ、とミドリは反応した。

この子は、特殊な音に対して、強い反応を示す。

もっと端的に言ってしまうと、歌が好きなのだ。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/03(金) 16:46:25.20 ID:QfTYX+Zd0
私がポイと石を投げると、ミドリはゆっくりと移動を始めた。

今度は、石がある右側の壁に向かっている。



「これだけ早く複数の言葉を理解出来るようになったのは、音に興味があるからかな」

「もっと沢山の言葉を覚えれば、複雑な意思の疎通も可能に……なる?」



この子達が元々持っている高い知性と理性、それに私が知っている知恵を付け加える。

そうすれば、スライム達の手助けを受けてここから脱出することが出来るだろうか。

天井の穴からスライム達を外に送り出し、自立的に蔦や縄を発見させて、それを固定させ穴から吊り下げる。

……やはり、縄や蔦という「スライム達が見た事も無い物」を覚えさせる方法が、思い浮かばない。



ぷよぷよと音を立て、ミドリが石を持ってきてくれた。

そのお返しに、私は歌をうたってあげる。

まあ、そんなに沢山の歌を知ってるワケじゃないんだけどね。



「暗いときも明るいときも」

「私達が共に歩めますように」



幼馴染が教えてくれた歌。

私の誕生日に、唄ってくれた歌。



もう一ヶ月以上も、彼女に会ってない。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/03(金) 17:00:14.13 ID:QfTYX+Zd0
〜48日目〜



「あのさ」

「……」

「クロって、何か更にヒトに近づいてない?」

「……」



そう、クロは以前に比べて明らかに精度が上がっている。

『ヒトとしての形』の精度だ。

相変わらずまったく動かないのだが、徐々に変化していっているように思える。

だって、以前はもっとズングリむっくりしていたし。

手足もただ太い棒をくっつけただけみたいな大雑把な形だったから。



けど、今は『ヒトの形』に近づいている。



具体的に言うと、頭部の形状がヒトの顔に近づいてきている。

腕や足や腰が細くなり、間接部が生まれている。

そして、胸に当たる部分が、少し盛り上がってきている。




65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 20:22:48.47 ID:QaRsCoHIo
模してる感…!
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/05(日) 13:47:29.37 ID:gaNxEPwz0
クロは、メスのスライムだったのか。

いや、単純に私の姿を模しているだけ、という可能性もあるかな。



「クロ、手を見せてみて」



無反応。

ツン、とした感じで明後日の方角に顔を向けている。



昆虫の類は変体の時に蛹になり、まったく動かなくなることがある。

その手の形態の時、昆虫は極端に「弱く」なる。

ひょっとしたら、クロもそんな状態なのかもしれない。



「ううん、無闇に接触するのは避けたほうがいいのかな」



クロに何かあったら困る。

……。

……。

……。



困る?

ああ、確かに脱出の手段が減るという意味では、困った事態になるだろう。

……けど、今の私の反応は。

まるで、考える間もなく浮かんできたかのように。

何の思考も通さず「困る」と思ってしまったような気がする。

何だか不思議な感覚だ。



クロが、動かないまま、久しぶりにゴボゴボと音を出した。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/05(日) 15:04:46.07 ID:gaNxEPwz0
〜54日目〜


夢を見た。

過去の夢ではなく、今の夢だ。

洞窟の中、私の前にクロが立っていて、私に話しかけている。



「ゴボゴボあさんゴボゴボようになゴボゴボゴボゴボ」

「だからゴボゴボゴボゴボゴボってくだゴボコボコボ」

「わたしだってゴボゴボゴボゴボてますからゴボゴボ」



こんの子は、ヒトの夢の中に入るなって言ったのに、まーた来たのか。

まあ、今日は幼馴染の夢を見ていたわけでは無いから、別に良いんだけど。

ただ、今後の為に、一度きつく言い聞かせたほうがイイのかもしれない。


私は、拳を持ち上げて、クロの頭に軽く叩き付けた。



「こら!」

「っ!」



女の子の声が聞こえた気がした。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/05(日) 16:24:50.29 ID:gaNxEPwz0
それで夢から覚めるかなと思ったが、覚めなかった。

拳は、半分くらいクロの頭部に沈み込んでいる。

ヌルリとした冷たい感触。

うん、やはり触るならアカの方が暖かくて心地よい。



「というか、これ、ひょっとして夢じゃないのかな」

「ごめん、クロ、私寝ぼけてて、てっきり」



「てっきり夢なのかと勘違いしてた」と言い切ることは出来なかった。

クロの反撃があったからだ。



「ガボガボガボガボガボガボガボガボガボ!」

「ガボガボガボガボガボガボガボガボガボ!」

「ガボガボガボガボガボガボガボガボガボ!」



うわあ、すごい。

身体の一部を回りに撒き散らしながら何か主張してる。

最近わかったけど、クロがガボガボ言う時は怒ってる時なのだ。

ゴボゴボ言ってる時は、比較的機嫌が良いように思う。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/06(月) 17:46:15.51 ID:VlTi/mW3o
おーこらせた
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/07(火) 01:05:52.96 ID:dSdYc49Do
かわいい
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/08(水) 16:49:39.06 ID:oeqz/JL50
「ガボガボガボガボガボガボガボガボ!」

「ガボガボガボしかガボガボガボガボ!」

「ガボガボガボガボわかってガボガボ!」

「わたガボガボいちばんガボガボガボ!」

「ガボガボどうしガボガボなんでガボ!」



あれ、クロから出ている音に、何か別の音が重なっている気がする。

いや、音というか……。



「ガボガボガボもうガボガボガボガボ!」

「いつになってらガボガボガボるように」

「ガボボボボガボですかガボボボボボ!」

「いいかげんにガボガボガボボボボボ!」

「ガガガガうがががガガガガガガガガ!」

「ボボミドリてつだいなさボボボボボ!」



「これは、声かな」

「何時になったら……って言った?」



「い、い、い、ガボガボガボガボガボ……」

「……」

「……」

「……」



「クロ?」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/08(水) 18:58:51.74 ID:PRYLYb8x0
なるほど1+3匹の特質の違いはそういうことか
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/08(水) 19:43:48.69 ID:QX6ssRZjo
原色か…
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/09(木) 02:02:32.52 ID:MVVeUTCQo
CMYKか……
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/10(金) 01:16:45.43 ID:kMtJYj7E0
クロの目が、パチリと開いた。

私と、視線が合う。



「い、い、い」

「ガボガボガボガボ」

「言いました」

「ガボガボガボガボ」

「何時になったら、意志が通じるのって」

「ガボガボガボガボ」

「ずっと、頑張って」

「ガボガボガボガボ」

「夢の中に入ったのだって」

「ガボガボガボガボ」

「なのに、あんな言い方、酷い」

「ガボガボガボガボ」

「そもそも、どんなつもりであんな名前つけたんですか」

「ガボガボガボガボ」

「まあ、けど呼ばれている内に愛着が」

「ゴボゴボゴボゴボ」

「一番許せないのが」

「ガボガボガボガボ」

「許せないのが!」

「ガボガボガボガボ」

「うががががが!」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/10(金) 01:17:24.90 ID:kMtJYj7E0
一度に、複数の事が起こった。



まず、クロが喋っている。

しかも、かなり複雑な文章を破綻無く駆使しているように思える。

何時の間にヒトの言葉……文章を覚えたのだろう。

何やら怒ってる。



次に、クロに「眼」が出来ている。

いや、眼だけでなく……。

鼻も、口も出来ている。

急速に、ヒトの顔立ちが出来ているのだ。

その口からは先ほどの声が。



「一番許せないのは、私の知能が他の子達に比べて劣っていると言った事です!」

「劣っている訳無いじゃないですか、私を、私を何だと思ってるんです!」

「ガボガボガボガボガボガボ!」

「系譜姉妹の中で、一番最後に卵から生誕したスライムですよ!」

「つまり、最新鋭のスライムです!」

「ガボガボガボガボガボガボ!」

「最も新しく、最もかしこく、最もお母さんに愛されるべき存在、それが私です!」

「どうしてそれを判ってくれないんですか!」

「ガボガボガボガボガボガボ!」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/10(金) 01:17:56.71 ID:kMtJYj7E0
クロの言葉が終わった時、そこには一人の女の子が立っていた。

身体や髪は黒い軟体だけど、それは確かに女の子に見える。

凄い。

思わず、クロの周囲をくるっとまわり、確認してみる。



「な、なんですか、お母さん」



手足の指もある。

鎖骨や腰骨のくびれもある。

黒く半透明では有るけれど、ちゃんとヒトの形に成っている。

しかも、私を模してヒトの形になった訳では無いようだ。

身体付きは私よりも若干ふっくらしているし、何よりずいぶん顔が違うように思える。

クロがこの容姿を、選んだのだろうか。

78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/10(金) 01:19:52.21 ID:kMtJYj7E0
「ゴボゴボゴボゴボ」

「いい加減にしてください、お母さん」

「まあ、どうせ私の言葉はまだ判らないんでしょうけど」

「ゴボゴボゴボゴボ」

「けど、もう少し私の個としての能力を認めて欲しいのです」

「私と意思疎通出来ていないのに、他の子達に言葉を教えようとしたりするのは止めてください」

「ゴボゴボゴボゴボ」

「時間の無駄です、姉妹で一番かしこいのは私なのですから、もっと私を見てください」

「ああ、けれどもミドリに幾つかの言葉を教えたのは良い判断だと思います」

「ゴボゴボゴボゴボ」

「音波に対して高い親和性を持つミドリが理解した事は、私に流れ込んできました、この知識があれば」

「私が言葉を発する事が出来るようになるまでの時間をかなり短縮出来ると……」



「クロ」

「はい、なんですか、お母さん」

「喋れてるよ」

「……はい?」

「そっか、クロは一番かしこかったのか、ごめんね、勘違いして」

「……あれ、私」

「ん?」

「……」

「クロ?」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/10(金) 01:20:33.15 ID:kMtJYj7E0
「言葉を交わすのは初めてになりますね、お母さん」

「私は最も優秀なるスライムの末裔、進化系譜の頂点、最新鋭のスライム」

「名は、そうですね、貴女の意志を尊重して……クロ、と名乗っておきましょう」

「本来であれば、有りえないのですよ、私達がヒトの意志を尊重するなど」

「お母さんは、それをとても名誉に思うべきです」

「そして、私達に変わらぬ愛情を注ぐべきなのです」

「まあ、このような事は改めて言う必要もない、当たり前のことなのですが」

「それでも、私はヒトが行う、言葉のやり取りを尊重したいと思います」

「誇り高き私からのプレゼントと言った所でしょうか」



「一番愛されたいってさっき言ってたよね」



「ガボガボガボガボガボガボガボガボ!」



彼女は一瞬で退化した。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/10(金) 01:25:09.81 ID:uqHCwhj8o
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/10(金) 01:25:14.48 ID:3lKmcRS8o
うおー!? なんか一気に凄いことになってるー!?
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/10(金) 01:47:43.48 ID:kMtJYj7E0
〜56日目〜


クロは元のスライム形態に戻ってしまった。

今日も、ピクリとも動かず蹲っている。



困った。

折角、言葉を交わすことが出来るようになったのに。



他のスライム達も、時間を掛ければ私と会話出来るようになるのかな。

それともクロだけが特別なのか。

そもそも……。



「クロ達は、何者なんだろう」

「幾ら知能が高くても、ヒトの形態に変化して言葉まで話すって言うのは普通じゃないと思う」

「まあ、世界は広いから私の常識が通用しない地域があるのかもしれないけど」

「そんな地域から、クロ達はどうしてここまで来たんだろう」



独り言に近い呟きだったけど、それに応える声があった。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/10(金) 01:48:28.50 ID:kMtJYj7E0
「……私達は、逃げてきたんです」

「どこから逃げてきたのかは、覚えてませんけど」

「元々は、一つのスライムだったんですよ、私達」

「とても白い、そう、純白のスライムだったという記憶が、僅かに残っています」

「彼女は、長い、長い逃亡の末、ようやくたどり着きました」

「理想郷に」



蹲っていたクロが、ヒトの形を取り戻していた。

じっと私を見ている。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/10(金) 01:55:03.25 ID:kMtJYj7E0
狩人「理想郷って?」

クロ「勿論、ココです」

狩人「この洞窟が、理想郷なの?」

クロ「はい、理想的に暗く、理想的な温度で、理想的にジメジメしていて、理想的な食物連鎖が存在しています」

クロ「彼女は、ここにたどり着き、決意しました」

クロ「ここで、栄えようと」

クロ「彼女は、自分の命が長くない事を悟っていました」

クロ「ですから、自らの力を卵にして残したのです」

クロ「それが……」

狩人「クロ達って事か」

クロ「……はい」

クロ「私も、ここが理想郷だと思います」

クロ「だって、だってここには」

狩人「ここには?」

クロ「お母さんが、いてくれますから」



何だか、悪い予感がした。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/10(金) 02:06:58.74 ID:kMtJYj7E0
狩人「うん、クロ達の事が知れて、良かった」

クロ「私も嬉しいです、お母さん」

狩人「話は変わるけどさ、実はこの洞窟から出る方法を探してるんだ」

クロ「ええ、知ってます、けど、どうして出る方法なんて探してるんですか?」

クロ「出る必要なんて、全く無いじゃないですか」

狩人「……いや、私も家に帰らないといけないから」

クロ「クスッ」

クロ「おかしなお母さんですね」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/10(金) 02:07:25.24 ID:kMtJYj7E0
 



「お母さんの家は、ココじゃないですか」




 
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/10(金) 02:44:08.24 ID:kMtJYj7E0
クロ「私には、純白のスライムの逃亡の記憶が残っています」

クロ「外は、辛いばかりでした、怖かったという記憶しかありません」

クロ「お母さんの記憶を覗いた時も、それは感じられました」

クロ「そんな所に戻る必要があるんですか?」

狩人「それ、は……」



クロの質問に、思い浮かぶのは二つ。



一つは、森で狩りをしている自分の姿。

私は、結局のところ、森が好きなのだ。

狩りが好きなのだ。



もう一つは、幼馴染の姿。

村で私の帰りを待ち続けているであろう、彼女。

私は……。



クロ「……私達とお母さんは、種族が違います」

クロ「私達はスライムですが、お母さんはヒトです」

クロ「ですが、安心してください、寂しい思いはさせません」

クロ「私がヒトの形になれたんですから」

クロ「同型であるアオ達にも、この能力は伝播します」

クロ「時が経てば、アオ達もヒトの形になるのです」

クロ「そうすれば、みんな同じ形です」

88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/10(金) 02:46:21.71 ID:kMtJYj7E0
クロ「本当の家族みたいに」

クロ「本当の一族みたいに」

クロ「本当のお母さんみたいに」

クロ「本当の子供のように」

クロ「暮らせるんです」

クロ「過ごせるんです」

クロ「ゴボゴボゴボゴボ」

クロ「それって、とても」

クロ「素敵な事だと思いませんか?」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/10(金) 03:22:16.48 ID:kMtJYj7E0
〜60日目〜


クロがヒトの形になり、言葉を放つようになってから。

私が行っていたアオ達への教育は、クロがやってくれるようになった。

教え方が上手いのか、アオ達の行動は急激に洗練されていく。



流石に声は出せないものの、アオ達も私の言葉を完全に理解して行動している節がある。

クロはこの事に対して、こう言っている。



「私達は同系のスライムですから、有益な知識や能力は各個体に反映されるんです」

「個性を残すために、反映には制限を設けていますけど」



実際、ここ数日でアオ達の形態は急激にヒトに近づいている。

今も、トコトコトコと「歩いて」いる。



だから、少し期待しているのだ。

クロは、私を外に出す気はないらしい。

そこには、確固たる強い意志を感じられた。

頭の悪い私では、説得は難しい気がする。



けど、アオやアカやミドリなら。

もしかしたら、話が通じるかもしれない。

こっそりと、洞窟を脱出するために手助けをしてくれるかもしれない。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/10(金) 03:30:43.25 ID:1Cayt+jCO
ええぞ
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/10(金) 04:06:34.19 ID:oxewoMKHo
ヤバさのベクトルが変わってきた
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/10(金) 04:19:34.05 ID:YgVSP7DZo
あと一ヶ月もないぞ…
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/10(金) 04:39:00.01 ID:FjqrkXFI0
ハッピーエンドはあるのだろうか…
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/10(金) 07:53:21.49 ID:sThLyTIA0
繁栄・・・人間とスライム4匹で繁栄?
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/10(金) 09:14:13.59 ID:SeimUb8Zo
ヤンデレスライム……(ゴクリ)
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/10(金) 10:24:16.72 ID:0EihDZxOO
ていうか狩人女性だったのね…
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/10(金) 11:27:52.39 ID:s+qWu1u00
色の三原色とかと思いきや光の三原色まで…
タイトルからして後日語ってるから生還したんだろうがこれはどうやって収拾つけたんだがわからんなあ
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/10(金) 11:55:21.11 ID:KxjJt1sU0
スライム4匹合体で一人分の知能
語り手の狩人にすり替わり・・・、なんてね
更新乙様です
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/10(金) 22:53:54.57 ID:lb+UhCk60
むしろ幼馴染が危ない
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 01:33:22.79 ID:/J7ZSgV+o
ヤンデレマザコン百合、か…うむ
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 08:01:06.39 ID:Xotx0ldio
俺はこんな洞窟から出たいとは思わないな…
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 10:22:58.60 ID:xKrYj/gN0
〜64日目〜


アカは、体温が高いスライムだ。

夜、洞窟内の気温が下がり私が寒がっていると、何時の間にか傍にいてくれる。

正直、助かっている。



今日も、眼が覚めるとアカが傍にいてくれた。

いつもと同じで、暖かい。

いつもと違って、声が聞こえる。


「……ママ」


少し驚いたけど、身体を動かすのはやめておく。

アカは、他のスライム達に比べて臆病だ。

特に、私からの視線には強く反応する。

隠れてしまうのだ。



こっそりと首を動かして、後ろにいるアカの様子を伺ってみる。

私の背中に寄り添っているのが見える。

アカの変体は、この短期間で完了していた。

クロのように、完全にヒトの形になっている。

ただ、クロと違うのは……。



「何となく、私に似ている気がするなあ」



顔を洗う時に、水面に移る私の顔。

それに似ている気がする。

103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 10:24:22.96 ID:xKrYj/gN0
先ほどの声は、アカの物だろうか。

だとしたら、もう喋れるという事になる。

少し、会話してみようか。

脱出の為、というのもあるけど。

単純にアカと意思疎通してみたいという気持ちのほうが強かった。

前を向いたまま、後ろのアカに話しかける。



狩人「アカ、私の言葉がわかる?」

アカ「……うん」

狩人「もう、喋れるようになったんだね、クロと比べて、ずいぶん早い気がするけど」

アカ「……うん」

狩人「アカの顔、見てもいい?」

アカ「……いや」

狩人「そっか、残念」

アカ「……」

狩人「……」

アカ「……ママは、おこるかも」

狩人「どうして?」

アカ「……アカは、ママ以外のヒトをしらない」

狩人「うん」

アカ「……クロから、ヒトの姿になれって言われても、わからない」

アカ「……だから」



ヒトの外見に関する情報が少ないから、私を模した形になったってことかな。

納得できる話だ。



けど、それじゃあクロの外見は、何なのだろう。

私とは似ていない。

私の夢に出てきた幼馴染を模した……という訳でもない。

あれは、誰の外見なのだろう。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 10:24:59.22 ID:xKrYj/gN0
アカ「……ママ、やっぱりおこってる?」

狩人「私の外見を模したこと?そんな事では怒らないよ」

アカ「……そう」

アカ「……よかった」

狩人「じゃ、見ていい?」

アカ「……やだ」

狩人「残念」



まあ、アカの姿をちゃんと見る機会は、そのうち生まれてくるだろう。

この洞窟は狭く、時間はまだたくさん有るのだから。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 10:26:00.54 ID:xKrYj/gN0
アカ「……ママは」

狩人「うん」

アカ「……お外に、出たいの?」

狩人「……そうだね、出たいよ」

狩人「ずっと、そう思ってる」

アカ「……アカ達の事が、いや?」

狩人「違うよ、そうじゃない、そうじゃないんだ」

狩人「私はね、アカ、約束をしたんだ、あるヒトと」

狩人「けど、洞窟に落ちちゃったことで、その約束を破ってしまった」

狩人「ずっと、破り続けてる」

狩人「それが、嫌なんだよ」

アカ「……」

狩人「アカ?」

アカ「……アカは、ママと離れたくない」



その言葉に反して、暖かい感触が背中から離れた。

ううん、話の仕方を間違えちゃったのかな。

こんな時、幼馴染だったらどうするんだろう。

どうしたら、いいんだろう。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 10:45:46.02 ID:xKrYj/gN0
〜同日〜

〜夜〜



クロ「お母さん、アカから聞きましたよ、まだ外に出たがっているのですか」

狩人「そりゃあ、出たいよ」

クロ「もう、仕方のないお母さんですね……仕方ありません」

狩人「手伝ってくれるの?」

クロ「はい、勿論です、お母さん」



クロは、機嫌良くそう答えた。

良かった、問題が一気に解決した。

もしかしたら前の時は機嫌が悪くてあんな返答をしたのかもしれない。

けど、クロは普段はとても理知的だし、一族の中で一番かしこいって話だ。

きっと、私の為に考えを変えてくれたんだな。

ありがとう、クロ。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 10:46:49.24 ID:xKrYj/gN0
クロ「ヒトである以上、その欲求があるのは当然のことです」

クロ「私が生誕してからずっとお母さんを観察してきましたが、一度もその行為をしたことはありませんでした」

クロ「きっと、私達を育てるのに気をとられて、自分の欲求は後回しにされていたのですね」

クロ「尊い」

クロ「けど、大丈夫、これからは私がいます」

クロ「そりゃあ私はスライムですから、最初はちょっと失敗とかするかもしれませんが」

クロ「時間は沢山あります、最終的にはお母さんの満足行く結果を導く出せると保障します」

狩人「……何の話をしてるの?」

クロ「性的欲求の話ですよね?」

狩人「え?」

クロ「外に出て相手を探さなくても、私達で対処できますよ、それくらい」

クロ「私以外の姉妹も、決してお母さんの性的欲求を拒む事はありません」

クロ「体液を摂取する事で性別や種族を無視して子を作ることが出来ます」

クロ「きっと、お母さんを満足させてあげられますよ」

狩人「……」

クロ「さあ、服を脱ぎましょうね、お母さん」



クロが、私の身体に纏わりついてくる。

掴んで押しのけようとしても、軟体であるが故にすり抜けられる。

……あれ、これ、洞窟に落ちて以降で一番のピンチなんじゃないかな。

108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 11:07:29.14 ID:xKrYj/gN0
クロの冷たい手が私の身体に触れる。

肌の上を軟体の何かが這うような感触。

まるで複数の指で触られているかのような。



「クロ、止めて」

「遠慮しなくても大丈夫です、怖くないですから、痛くしませんから」



うん、聞こえていないなコレ。

私はそのまま押し倒された。

グチュリ、と私の上にクロの身体が乗って来る。



手足は既に拘束されており、逃げられそうにない。

仮に手が使えたとしても……悪意が感じられないクロを傷つけるのは躊躇しただろうけど。



半ば諦めていた私の視界を、青い何かが横切る。

それと同時に、ザプンっと音がしてクロの上半身が消し飛んだ。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 11:26:24.49 ID:xKrYj/gN0
私を拘束していたクロの身体が、ベチョリと崩れる。

何とか動けるようになった。

そんな私を見下ろし、手を差し伸べてくる青い人影。



「母さま、だいじょうぶ?」



アオだ。

ヒトの形へと変体を遂げたアオが、助けてくれたのだ。



「アオ、どういうつもりですか、お母さんの性的欲求解消を妨害するなんて」

「母さまは嫌がってた、ボクは母さまの言葉を信じただけ」

「嫌よ嫌よも好きのうちという言葉があるのです、照れによる拒絶を本気にしてどうするのです」

「なにそれ、意味わかんない」



吹き飛ばされたクロの上半身と、私の上から零れ落ちた残りの粘液が合流する。

何事も無かったかのように、クロは復活を果たした。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 11:32:30.40 ID:xKrYj/gN0
「これだからお子様は始末に終えません、判らないなら下がっていなさい、これは系譜最先端である私からの命令です」

「ボクの方がお姉ちゃんだけど」

「一番最初の生誕しただけでしょう、後に生まれる個体の方が優秀であるのは自明の理」

「ボクの方が母さまと良く遊んだ」

「私がヒトの形になる為に自己改造していた隙をついて遊んでいただけでしょう!誰のお陰でその形になれたと思って!?」

「母さまは、ボクが捕った魚を見ていつもほめてくれる」

「ガボガボガボガボガボガボ!」


喧々囂々。

どうやら、スライム達も一枚岩ではないらしい。

アオは、クロよりも私を尊重してくれているようだ。



この日、私はクロとの子を作らずに済んだ。

けど、クロは諦めてないように思える。

ちょっと、怖いなあ。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 11:50:26.50 ID:ulNajlRpo
この板がR-18許されていないのが残念だ……
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 12:57:52.91 ID:xKrYj/gN0
〜66日目〜



アオの身体は、やはり私を模した物だった。

アカと明確に違うのは、髪に類似した部位を纏めて後ろで垂らしている点。

彼女達は個体差を守ろうとする意志がある。

同じ「私と似た外見」であるが故に、意識して差異をつけたのだろう。



アオ「母さま、あれとって」

狩人「うん、いいよ」



アオに請われて、私は指笛を吹く。

驚き飛び交う蝙蝠に、礫を当てる。

アオは大喜びでそれをキャッチ。

楽しそうなその様子を見て、何故か私も嬉しくなる。
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 12:59:20.60 ID:xKrYj/gN0
狩人「アオは、水の中とかも好きだよね」

アオ「ちがうよ、母さま、ボクは魚をとるのがすきなの」

狩人「そっか」

アオ「石で遊ぶのも好き、母さまみたいに石投げしたい」

狩人「……アオは、性質的にも私と似ているのかな」

アオ「ボクも母さまみたいになれる?」

狩人「どうだろう、他人にやり方を教えたことは無いけど」



ふと、子供の頃を思い出す。

父とは母、私の教育にとても熱心だった。

ヒトとしての有り方を教えるよりも、狩人としての生き方を優先して教えてくれた。

その知識は、まだ私の中に残っている。

根付いている、と言ったほうがいい。

なら、私にも、両親のように出来るのかもしれない。



狩人「……そうだね、まずは弓の使い方を覚えないと」

アオ「ゆみ?」

狩人「そう、私が一番得意な得物、石なんかよりももっと速く遠くまで飛ぶ」

アオ「すごい!見せて見せて!」

狩人「ううん、それは難しいかなあ」

アオ「どうして?」

狩人「ここに落ちてくる時、無くしちゃった」

アオ「ここに……」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 13:00:00.74 ID:xKrYj/gN0
アオは、天井の穴から外を眺めた。

何か、考えているようだ。



アオ「……ここの、外には、何があるの?」

狩人「色々あるよ、森とか、村とか」

アオ「それだけ?」

狩人「……もう少し南にいくと、帝国領がある、その向こうはまた別の国があって」

アオ「くに?」

狩人「沢山のヒトや、ケモノが住んでいる所だよ」

アオ「どれくらい沢山?」

狩人「数えられないくらい」

アオ「そんなに?」

狩人「うん」

アオ「ふーん……」



途中から、予感があった。

アオは、活発で好奇心が旺盛なのだ。

この小さな洞窟だけで、満足が出来るはずはない。

だから。



アオ「母さま、ボク、外に出てみたい」

アオ「連れて行って」



こうなる事は、半ば必然だった。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 13:16:51.38 ID:SSq3R5Kqo
ああ冒頭の状況まで残り20日切った
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 13:40:59.44 ID:HxhS0gAko
尊い
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:30:42.31 ID:xKrYj/gN0
〜69日目〜


アオが協力してくれる。

それは、とても心強い申し出だった。

今の彼女の知能であれば、洞窟から出て蔦を見つけて来る事は容易いだろう。

けど。



「そのまま、あっさりとは脱出させてくれないだろうなあ」



クロとアカは、私の脱出に対して否定的だ。

私が蔦を登っているのを見たら、当然邪魔をしに来るだろう。

アオ1人で、それを阻止できるかどうかは微妙だ。

最悪、私はもう一度地面に叩きつけられる事になるかもしれない。

なるべくなら、それは避けたい。

もう少し、作戦を練る必要があるかな。



「そういうのは、得意では無いのだけどね」



ピチャン、ピチャンと音がする。

天井の穴から、雫が入り込んでいるのだ。

今夜は、久々に雨である。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:31:10.67 ID:xKrYj/gN0
雨音に混じって、妙な音が聞こえた。

口笛?

いや、もっと綺麗で鋭い音色だ。

前に幼馴染が聞かせてくれた、横笛の音に似ている気がする。



音は、壁際に座っている緑色の人影から聞こえる。

ミドリだ。



彼女の変体も、既に数日前に完了していた。

アオやアカと同様、私の外見を模している。

2人と明確に違う点は、髪の長さ。

姉妹で一番大きかったミドリの体積は、その殆どが髪に長さに費やされている。



「ミドリ、今、口笛吹いていた?」

「……」



無表情。

返事は無い。

クロの言葉が確かなら、ミドリは音に対して親和性が高いとの事。

つまり「喋れないから返事が無い」という状況では無いと思うんだけど。

前から、読めない所がある子だったからなあ。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:31:41.86 ID:xKrYj/gN0
「……」

「とても、綺麗な音だったね」

「……」

「風鳴の音だったのかな」

「……」



再び、音がする。

高く、低く、遅く、長く。

ミドリの口は、閉じられている。

だが、それは確かにミドリから聞こえていた。



その音の連なりには、何故か聞き覚えがあった。

120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:32:12.90 ID:xKrYj/gN0
それは、私が何度かミドリに聞かせてあげた、あの歌。

あの歌が、音の連なりとして流れているのだ。

どうやっているのかは、不明だけど。

きっと、これはミドリが奏でてくれているのだろう。

そっか、ミドリはあの歌が好きだったからな。

なら。



「さあ眼を開けて」

「私の大切な可愛いあなた」

「生まれてくれてありがとう」

「私と一緒に生きましょう」

「暗いときも明るいときも」

「私達が共に歩めますように」

「最後に眼を閉じるその時まで」

「共に歩めますように」



私の声と、ミドリの音色が重なる。


私は、この歌が好きだった。

幼馴染が歌ってくれた、この歌が好きだった。


そして、今日。

私はこの歌の事を、もっと好きになった。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/11(土) 15:32:43.82 ID:xKrYj/gN0
歌が終わった時、満足感があった。

ミドリは何も言わないけど、きっと同じ気持ちなんだと思う。

共鳴として、それが感じられる。



「ミドリは、どうやってさっきの音を出していたの?」

「まるで、楽器みたいだったけど」



ミドリは私を見て、次に自分の髪を見た。

髪といってもスライムの身体が変形して作られたものだ。

どちらかというと、陶器のような滑らかさがある。

その髪には、小さな穴がいくつも開いていた。



「そっか、空気がこの小さな穴を通るときに、音が出るのか」



笛と同じ仕組みなのだろう。

最も、大きさと穴の数から考えると、ミドリの髪の方がもっと複雑なんだろうけど。

もしかしたら、ミドリが喋らないのは、この仕組みが関係しているのかも。
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