エリカ「姉さん」

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186 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/19(日) 22:06:19.69 ID:LGEFd4u10


【再び脱衣所】


みほ「お、お姉ちゃん、大丈夫…?」オロオロ

まほ「……大丈夫…だ…クルスクに…比べたら………」

エリカ「行ったことないクセに…」

まほ「…だま…れ……」

みほ「とりあえずお水飲んで?」

まほ「…すまん…みほ………」ゴクゴク



私はいつの間にかみほの作戦に完膚なきまでに打ちのめされるようになっていた。

それは私が弱くなったからではない。みほが私を上回るほどの実力者になったという動かぬ証拠だ。

西住流だの黒森峰隊長だと驕り高ぶっているせいで、いつのまにか妹に追い抜かれてしまっている。

やはり週明けからは気を引き締めて今まで以上に厳しく鍛えなければなるまい…。

意識が遠のく中で私は誓った。


〜〜〜〜

187 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 18:51:13.47 ID:ei8K93cA0


まほ「…う…ん…?」パチッ

まほ「ここは…私の部屋…か…」

シーン

まほ「…みほと…エリカは…?」



どうやら私はその後気を失ったようで、目が覚めたら自室の布団の中にいた。

…黒森峰の隊長が風呂で逆上せて気を失う事などあってはならないが、今はそんなことはどうでもいい。

それよりも、妙に部屋が静かだと思ったらあいつ(エリカ)がいない。

一体どこへ行ったというのだ。


188 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 18:53:32.02 ID:ei8K93cA0


菊代「あら、まほお嬢さま。お体の方はもう良いのですか?」

まほ「ああ、もう大丈夫。それより菊代さん、みほとエリカは?」

菊代「つい先程みほお嬢様と一緒に出られましたよ」

まほ「なに?」

菊代「え? みほお嬢様とお出かけに…」

まほ「…」


まずい。

今のエリカが、外部の人間と接触して余計なことを喋ったりしたら大変なことになる。

早く探しに行かなければ明日の朝刊の一面記事に"西住流家元 隠し子疑惑"と横向きの見出しがついてしまう。

そんな流派の危機的状況にあるというのに、お母様もみほも随分悠長なことをしている。

菊代さんも菊代さんでどうして止めてくれなかったんだ。

189 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 18:54:58.19 ID:ei8K93cA0


「ただいま」

菊代「お帰りなさいませ奥様」

しほ「ええ。ただいま」

まほ「お帰りなさいお母様…?」

しほ「どうしたのですか。鳩に豆鉄砲食らったような顔をして」

まほ「いえ…あの…」

しほ「言いたいことがあるのなら、ハッキリと言いなさい」

まほ「…その、」



カチューシャ「」ガタガタガタガタ



まほ「何故、プラウダ高校の隊長を肩に乗せておられるのですか…?」



ありのまま今、起こったことを話そう。

『エリカを探そうとしたら、肩にプラウダの隊長を乗せたお母様が帰宅した』

何を言っているのか分からないかもしれないが、私も何が起きたか分からなかった。

頭がどうにかなりそうだった。

副隊長のノンナだとか、大学選抜戦のエリカだとか、そんなちゃちなものでは断じてない

もっと恐ろしいものの片鱗を味わった…。

190 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 18:55:53.55 ID:ei8K93cA0


しほ「帰宅途中のドブ川で見つけたので拾ったのです」

まほ「どうしてプラウダ高校の隊長が、ドブ川などに落ちているのでしょう…」

しほ「私にもわかりません」

まほ「私はこの光景の一切がわかりません」

菊代「プラウダ高校といえば東北の方の学校ですが、何故こちらへいらしたのでしょう?」

カチューシャ「く、黒森峰に行ったらあなたがいないから、お家の住所教えてもらったの!」

カチューシャ「そして行ったてみたら途中でノンナが迷子になるしカチューシャは川に落ちるしでもう最悪よっ!!」

まほ「それはご足労かけたな…」


191 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 19:00:08.89 ID:ei8K93cA0


頭の処理が追いつかないが、一つ一つ整理していこう。


まず、プラウダ高校の隊長であるカチューシャは、何かしら私に用があって黒森峰を訪れた。

しかし、黒森峰には私がいなかったので、わざわざこちらへ来たという(幸い学園艦は熊本港に停泊しているので遠くはない)。


ところがカチューシャ曰く、プラウダの副隊長であるノンナが道中で迷子になり(お前が迷子になったのでは?)、更には自身もドブ川に落ちてしまったという。

それも"片足がハマった"というような生易しいものではなく、ドボンと"体単位"で沈んだようで、某探偵アニメの犯人よろしく全身灰色になっている。

その他ヘドロや堆肥などが混ざった形容し難い悪臭が彼女から漂っていて近寄りがたい。お母様もよくこんな汚いものを担ごうと思ったものである。


…と言った具合に、本来なら見知らぬ田舎で全身ヘドロまみれという絶望的な状況だが、幸いにも(不幸にも)お母様が偶然通りかかり、捨て猫よろしく拾ってきたという。肩に担いで。


余談だが、母というものは子に対し「お前はうちの子じゃない。ドブ川から拾ってきた」と言うが、あれは何故だろう。

私も幼少期にお母様に訪ねたところ、『ドブ川ではなくライン川から拾ってきました』などと意味不明なことを宣う。

そのような得体の知れん場所から発掘されるくらいならドブ川のほうがまだマシである。

192 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 19:03:30.76 ID:ei8K93cA0


まほ「…それで、彼女をどうするのですか?」

しほ「くさいので風呂に入れます」

まほ「妥当かと思います。くさくてかないません」

カチューシャ「レディに向かってくさいくさい失礼ねっ!!」


しほ「菊代。風呂の用意はしてありますか?」

菊代「はい。ご用意出来ております」

しほ「ご苦労様。行くわよ、かほ」

まほ「…」

カチューシャ「私はカホじゃなくカチューシャよ!!」

しほ「何か?」ギロッ

カチューシャ「な…ナンデモアリマセン……」オロオロ



そう言い残すとカチューシャは風呂場へ連れて行かれた。

…かほ? カチューシャの「カ」をとって"かほ"なのだろうか。よくわからないが下手をすると西住家にまた一人、娘が出来そうだ。

エリカの件で隠し子云々と危機感を抱いているのに、カチューシャまで認知しては隠し子どころの騒ぎではない。

しかし、カチューシャを肩に乗せるお母様は、まるで幼かった頃のみほを散歩に連れて行く時のようにも見える。思えば私も幼い頃はお母様によく肩車をしてもらったものだ。

だが、肝心の搭乗者ならぬカチューシャは尋常でないほど怯えており、元来チビである彼女がますます小さくなってしまっている。

193 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 19:09:24.14 ID:ei8K93cA0


「ただいまー」

「ただいま」

「お邪魔します………」



カチューシャが浴室送りにされて数分後に入れ替わりでエリカとみほが帰ってきた。

しかし声は3人分なので二人の他に誰か客人を招いたようだ。



まほ「戻ってきたか…!」

菊代「お帰りなさいませ。みほお嬢様。エリカお嬢様。…そちらの方は?」

みほ「うん。戦車道でお世話になってる方なんだ」

まほ「おいエリカ、お前どこをほっつき歩いてい……た?」


ノンナ「………こんにちは……」


まほ「」

みほ「ノンナさん、カチューシャさんを探してたみたい…」アハハ...

ノンナ「…恐縮です………」



そんな予感はしていた。

先ほど浴室送りにされたカチューシャは、本来なら今私の目の前にいるノンナという女の肩の上に収まるものだ。

肩の重みを失った彼女は、"乗せるもの"を探すべく彷徨っていたのだろう。

失ったのは"乗せるもの"だが、彼女の生気のない顔を見ると、このまま魂まで失ってしまわないか心配になる。

194 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 19:10:45.17 ID:ei8K93cA0


まほ「それで、お前で一体どこをほっつき歩いていた」

エリカ「みほが久しぶりに実家に帰ってきたのだから近所を散歩してたのよ」

まほ「何故私に言わずに勝手に出ていった」

エリカ「だって寝てたじゃない」

まほ「…」

エリカ「それで、帰る途中に、この…ブリのノンナ? って人が探し物をしていたから、家まで案内したのよ」

まほ「私の記憶が正しければ彼女は"ブリザードのノンナ"だ。ブリは魚だ」

エリカ「そのブリブリノンナがカチューシャを探してたけれど、見つけられなかったそうよ」

ノンナ「…あの、ブリブリではなく、ブリザードです………」

195 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 19:12:17.75 ID:ei8K93cA0


まほ「まあ、その…ノンナ」

ノンナ「…はい……」

まほ「そう気を落とすことはない。必ず見つかるだろう」

ノンナ「はい…命に代えてでも…」

まほ「そう気を張るな。きっと腹が減ったらお前のところに戻ってくる」

ノンナ「そうだと良いのですが……」

まほ「彼女だって伊達にプラウダ高校の隊長をやっているわけではない。きっと無事だ」


196 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 19:13:37.41 ID:ei8K93cA0


ノンナ「ああ…カチューシャ…一体どこへ………」ズーン

まほ「心配するな。彼女はいつだってお前のそばにいるさ」

ノンナ「変な人に誘拐されていないか心配です………」



厳密に言うと半径10m以内にいる。

そして変な人よりも数倍厄介なお母様に連れて行かれた。



エリカ「…姉さん、実は居場所知ってるでしょ」ボソッ

まほ「知ってるどころかお母様が先ほど持って行った」ヒソッ

エリカ「じゃぁどうして教えてあげないのよ…」ボソッ

まほ「これ以上面倒事が増えるのは勘弁願いたい」ヒソッ

エリカ「これ以上何か面倒なことあったかしら?」モソッ



私の目の前にいるお前が最大の"面倒事"だ。



〜〜〜


197 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 19:15:16.02 ID:ei8K93cA0


「あら。またお客かしら?」トコトコ


まほ「お母様…?」

エリカ「お母さん家にいたのね?」

しほ「ええ。かほをお風呂に入れていました」

エリカ・みほ「かほ?」



ノンナ「カチューシャッ!!」ガタッ



カチューシャ「」カタカタカタカタ


そう。"かほ"というのはカチューシャの頭文字"カ"と、西住家の女の"ほ"を合わせたものだ。…西住かほ。無駄にしっくり来るのが腹立たしい。

そんな"西住かほ"ことカチューシャは、相変わらずお母様の肩に乗っている。替えの服が無いので彼女はタオル一枚だ。

お母様もそこそこ背が高いので、カチューシャにとっては良い眺めだとは思うが、当の本人はそんなことを思う余裕など恐らく無いだろう。

心なしか更に萎縮しており、そろそろ2桁台に突入しそうだ。風呂場で一体何があったのだろう?


198 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 19:16:22.21 ID:ei8K93cA0


しほ「まほ、こちらの客人は?」

まほ「プラウダ高校の副隊長です。お母様の肩に乗っているカチューシャを探しておりました」

エリカ「え? カチューシャってあのチビなの?」

カチューシャ「誰がチビよっ! このカチューシャ様を侮辱するなら許さないわよ!!」

まほ「カチューシャはカチューシャでも頭にはめるアレではない。プラウダ高校の隊長のコレだ」

カチューシャ「コレって言うなぁぁ!!」ガーッ



人様の肩の上でお構い無しに叫びながら、ぐわんぐわん体を揺らすのがプラウダ高校のカチューシャである。ロデオマシーンにでも跨っているかのようだ。

しかし、本来の持ち主であるノンナはともかく、お母様もあれほど激しく動き回るカチューシャを搭載しているのに平然としておられる。

その安定感たるや、ティーガーの車体にII号戦車の砲塔を載せたようである。

199 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 19:17:33.57 ID:ei8K93cA0



しほ「プラウダ高校…?」チラッ

ノンナ「っ…!」

しほ「…」

ノンナ「…」

カチューシャ「」ブルブル



ノンナとお母様…。

ものすごい組み合わせだ。

一方は肩に少女を乗せ、もう片方はその少女を『私のものだ。返せ』と言わんばかりに対峙する。

もう何が何だか分からなくなるほど無茶苦茶な構図だ。


200 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 19:21:53.50 ID:ei8K93cA0


みほ「…お姉ちゃん、なんだか胃のあたりが痛くなってきたよ」

まほ「ああ…。私も同じだ」

みほ「どうしよう…」



色んなことが起こり過ぎたせいで感覚が麻痺してきているが、ノンナとお母様という組み合わせは実は相当洒落にならない。例えるならメントスとコーラである。

何しろみほが黒森峰を去る原因となった"あの決勝戦"の相手がプラウダ高校だ。ノンナ(及びカチューシャ)が直接関与していないとは言え、プラウダ高校の代表が目の前にいる。

まさに因縁の相手なわけで、西住家の一角は冷戦期のように緊迫した空気へと一瞬で変わる。



しほ「この子の服がありませんが、娘が昔使っていた着ぐるみを代わりに着せようと思います」

ノンナ「…それは、どういうものでしょう」

しほ「クマの着ぐるみです」スッ

ノンナ「!!」

しほ「ジャストフィットでモコモコがなかなか暖かそうです」

ノンナ「Это замечательно」



…と思っていたら独ソ不可侵条約が成立した。これで両国は未来永劫良好な関係を築き続けるだろう。

些細な争いごとなど話し合い一つで幾らでも解決できるのだ。エリカがみほとお母様の軋轢を修正したように。

201 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 19:22:30.72 ID:ei8K93cA0


カチューシャ「そ、そんなことより早くおろしなさいシホーシャ!!」

まほ「シホーシャ?」

カチューシャ「そうよ! 西住しほだからシホーシャ。何か文句ある?」

まほ「お母様はその件について何と言った?」

カチューシャ「"シホーシャ…悪くありません"だって」



ネジが数万本外れた今のお母様なら言いかねん。

202 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/22(水) 19:24:31.50 ID:ei8K93cA0



エリカ「ところでお母さん、その肩の上に乗ってる子、どうするの?」

しほ「それを今から考えようと思います。まずは役所に出向いて出産育児一時金の申請を」

まほ「お母様。その肩の上に乗ってる子は腐っても高3です。確実に役場で笑われます」

カチューシャ「腐ってもってどういうことよ!!!」

しほ「そうですか。困りましたね」


エリカ「そのまま軒下に吊るしておけば良いんじゃないかしら?」

まほ「そうだな。渋みが無くなって丁度いい塩梅になるだろう」

ノンナ「カチューシャは渋柿ではありません」

カチューシャ「そうよノンナ! もっと言ってやりなさい!!」

ノンナ「同志はそのままでも甘くてジューシーです」

カチューシャ「ノンナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


しほ「家族とは良いものです」

エリカ「ええ」

みほ「賑やかで楽しいわね」

まほ「その通りだな。みほ」


ワッハッハッハッハ!



何か重要なことを幾つか忘れている気もするが、思い出したところでこのメンツで解決するとは到底思えないので今は忘れよう。



〜〜〜〜〜
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/22(水) 20:29:10.48 ID:/4izVAV/0
事態がますますカオスなことに…
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/23(木) 05:16:46.48 ID:gySZZ/VNO
エリカのお母さん呼びはスルーですか(笑
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/23(木) 08:37:19.32 ID:wFw+LQYbO
カチューシャが隊長になったのは、カチューシャ車が黒森峰のフラッグ車を撃ったからってのは公式だっけ
206 :なんか最終章の公式サイト誤字多くない?  ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 21:33:24.74 ID:N46VW/iU0

【居間】


グツグツ グツグツ....


まほ「ところでカチューシャ」

カチューシャ「なーにー?」フーフー

まほ「こちらまで用があって来たとのことだが…?」

カチューシャ「そうよ! 思い出したわ!」モグモグ

ノンナ「カチューシャ。口に食べ物を入れたまま喋ってはいけません」

しほ「かほ。頬に付いてます」フキフキ

カチューシャ「モガガガ...」


みほ「あむっ」パクッ

エリカ「あっ、それ私が育ててた鶏肉よ!」

みほ「はひゃいほほはひはひょへひひゃん」ホフホフ

エリカ「何言ってんのかわかんないわよ…」

菊代「エリカお嬢様、お肉はまだ沢山ありますよ」

エリカ「…じゃぁ次はハンバーグをお願いね」

まほ「鍋にハンバーグ放り込むやつがどこにいる」モグモグ



新たに増えた客人を招いて鍋を囲んでいる。西住流は戦車道だけでなく鍋もまた豪快である。

炊き出しで使うような巨大な鍋に味噌ベースのスープを満たし、そこにぶつ切りにした肉だの野菜だの魚といった具材を投入して煮込む。

また、肉や野菜だけでなく、小麦粉を練って千切って平らに丸めた団子も入っている。いわゆる"だご汁"風だ。

それにしてもあまりにダイナミックな鍋なので、相撲部屋にでもいるような気分になる。

207 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 21:34:55.49 ID:N46VW/iU0


エリカ「このお鍋大きいからカチューシャならスッポリ入りそうよね」

みほ「あはは、カチューシャさん専用のお風呂に出来そう」

エリカ「光熱費が節約できそうね。あとで試してみようかしら?」

カチューシャ「ちょっと! カチューシャを何だと思ってんの?! それにお風呂はさっき入ったばっかりよ!!」

エリカ「良いじゃない。再入浴なんて旅館じゃ普通よ?」

菊代「温泉も良いですけど、久々にサウナに入りたいですね」

ノンナ「私は薬風呂というのが好きです。ここ最近肩こりが酷いもので」

しほ「近くに健康ランドが出来たそうです。一度行ってみようかと思います」



こんな調子で、鍋をつつきながら三者三様談笑に花を咲かす。

カチューシャを鍋のシメにするだの健康ランドがどうのこうの。こういうのもたまには悪くない。

208 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 21:38:41.96 ID:N46VW/iU0


まほ「…カチューシャ、話を戻そう。黒森峰に来た用とは?」

カチューシャ「モグモグゴックン。…用件も用件よ。今日練習試合するっての忘れてるじゃない!」

まほ「ふむ。練習試合」

エリカ「悪かったわね。ここ最近姉さん物忘れが激しいみたいで」

しほ「その年で物忘れでは困ります。しっかり食べて栄養つけなさい」ヒョイヒョイ

まほ「はい…肝に銘じます…」モグモグ

みほ「お母さんとお姉ちゃんの会話なのに、妙にほんわかしてるね」

エリカ「堅苦しい会話してるのに小鉢に次々と野菜放り込むのがなかなかシュールよね」

まほ「あの…お母様、できれば肉も…」

しほ「好き嫌いは許しません」ヒョイ

まほ「はい…」



お母様はやたら野菜ばかりよそうので、椎茸だの葱だのに舌鼓を打ちつつ、行われるはずだった練習試合のことを振り返る。

確か…、カチューシャが『久々にドンパチやりたい』などと言い出したので、私が『他校も誘ってはどうか』と提案してみた。

実際のところ、黒森峰が他校と練習試合をするのは久し振りで、サンダースや聖グロ、知波単学園、アンツィオ、継続高校、そして大洗女子といった面々も招いた。

今までにない規模の練習試合を兼ねた合同演習なので、(頭がおかしくなる前の)エリカも張り切っていたな。

209 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 21:41:08.37 ID:N46VW/iU0


カチューシャ「しっかし、港に学園艦が勢揃いってのも凄いことよねぇ?」

ノンナ「これほどの大規模な集まりは先の大学選抜チーム戦以来でしょうか」

エリカ「学園艦だけで街一つくらいの面積があるし、船というより埋め立て地とでも呼んだ方が良いくらいね」

みほ「うん。そんな大きな学園艦を一つの港に大集合だから凄いことになるよね」

まほ「全くだ。見物客も相当…」


まほ・みほ・カチューシャ「あ゛っ!!」


エリカ・ノンナ「?」

カチューシャ「何ノンn…ノンキなこと言ってんのよ!! 他校の子たちそっちのけじゃない!!」

まほ「のんびり鍋など突いている場合ではない。ダージリンや安斎に小突かれてしまう」

みほ「も、もしもし会長?! え? 今ですか? じ、自宅ですっ!!」アセアセ



エリカにかまけていたせいで今日が練習試合、それも複数校参戦型の大規模演習の日だということをすっかり忘れていた。

きっと今頃各校の隊長たちは各々の学園艦でカンカンになっているに違いない…。

210 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 21:44:13.03 ID:N46VW/iU0


みほ「どうしよう…会長が物凄く怒ってたよ…」オロオロ

まほ「会長というのは角谷か?」

みほ「うん…」

カチューシャ「あの小さいヤツも怒るときは怒るのね。カチューシャくらい寛大な心を持てば良いのに」


みほ「74アイスクリーム食べ放題券を没収するぞーって言ってた…。明日から節約しなきゃ…」ズーン

ノンナ「何という横暴なのでしょう…!」

エリカ「ハッ! 生徒会って何様のつもりかしら!」

カチューシャ「まずは大洗の生徒会をボッコボコにするべきよ!!」

ノンナ「同意です。悪政がまかり通る学校など教育機関としての価値はありません」

しほ「邪道は跡形も残らず叩き潰すべきです」

エリカ「いっそ文科省に頼んで廃校にしたらどうかしら?」

みほ「ま、待ってよ! 廃校になったら私中卒になっちゃう!!」



皆好き放題言ってくれるが、その学校の廃校を阻止する為にみほは奮闘したんだぞ?

その結果、みほは二度に渡る廃校の危機から見事大洗を守り抜いた。

それら輝かしい功績を知る私(ここにいる全員が知ってるはずだが…?)は、軽々しく大洗を廃校しろなど口が裂けても言えない。



エリカ「廃校になったら黒森峰に戻って来れば良いじゃない」

まほ「おっ、そうだな」

カチューシャ「黒森峰は一度追い出したでしょ! ミホーシャはプラウダに来るの!」

ノンナ「次期隊長の席を用意してお待ちします」

みほ「」


ギャーギャー ワーワー

211 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 21:47:58.20 ID:N46VW/iU0

♪ オープスシュテュルムオーダーシュナイトオプディゾーンネーウンスラハト...


まほ「ん」ピッ


まほ「…私だ」

『御機嫌よう"私"さん』

まほ「…私は"私"という名前ではない。西住まほだ」

『そうですわね。ご機嫌よう西住まほさん。聖グロリアーナのダージリンですの』

まほ「その気持ち悪い声とお嬢様言葉を聞けば名乗らずともわかるさ」

ダージリン『…私があなたに電話をする理由、ご存知ですわよね?』イラッ

まほ「あ、ああ。すまない…」


ダージリン『すまんで済んだら戦争は起こりませんのことよ?』

まほ「そうだな…。嫌な予感しかしないが、そっちはどうなってる?」

ダージリン『まほさんやカチューシャが来ないから演習が出来ないと、』

まほ「重ねておわびs


ダージリン『黒森峰の学園艦を的に砲撃演習をしておりますの』


まほ「やめんか!」


212 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 21:52:04.56 ID:N46VW/iU0


『お! 私の砲撃が黒森峰の校舎に命中しましたぞ!』


ダージリン『おやりになるわね絹代さん。でもあなたの戦車では校舎を破壊するには火力不足ですの』

『じゃ、今度はナオミのファイアフライ使ってみる?』

ダージリン『17ポンド砲さんに"一番いい場所を頼む"とお伝え願いますの』

『な、なぁダージリン…流石にカモ撃ちはどうかと思うぞ…?』



安斎の言う通りだ。。

学園艦を的に砲撃練習という発想が理解できん。お前たち聖グロは日頃どんな練習をしているんだ。

その頓珍漢っぷりたるや、例えるなら空母同士の戦いで艦載機ではなく艦載砲で叩き合うようなもの。そんな指揮をする馬鹿提督がいるなら即刻クビにすべきだ。

それに学園艦には多くの人が住んでいるのだから直ちにやめさせろ。

213 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 21:54:10.47 ID:N46VW/iU0


ダージリン『そうですわね。アンツィオさんの仰る通りですわ』

アンチョビ『アンツィオじゃなくてアンチョビだー!』

まほ「分かったならさっさと」

ダージリン『今なら黒森峰の重戦車を鹵獲できますわよ』

まほ「おい」

アンチョビ『そ、そうか?! …P40のパーツとか置いてあれば…』

まほ「おい」

ダージリン『そんなケチ臭い事仰らずに、ティーガーあたりを拝借しては如何ですの?』

まほ「おい!!」

アンチョビ『ティーガーかぁ。後輩が乗りたがっていたなぁ…』



待て。ティーガーを持って行かれては私の乗る戦車が無くなってしまう。

ティーガーは黒森峰を象徴する戦車なんだぞ。そうやすやすと誰かに託せるものではない。

ましてや安斎の部下、特にマカロニとかいう奴に乗せようものなら車内がチーズまみれになってしまう。

あいつは戦車とオーブンの区別がつかんのだからな。

214 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 21:56:02.56 ID:N46VW/iU0


ダージリン『あなたの学校には強力な戦車が目白押しですもの。一つくらい無くなったって問題ありませんわ。かくいう私もエレファントを』

まほ「エレファントはやめとけ。色んな意味で地雷だ」

西『でしたら私もタイガー戦車を一輌頂きたいのですが…』

まほ「お前の学校は大日本帝国の戦車で編成されているはずだ。そこにティーガーを混ぜてはおかしなことになるだろう」

西『"盟友都々逸国から賜った"ということで手を売って頂けないでしょうか? …"福"が逆さまになったやつが…』

まほ「まず都々逸は落語だ。それに倒福は中華民国だ」

西『む…』


まほ「埒が明かん。ダージリン、取り急ぎで済まないが、ひとまず日程を…」

ダージリン『それまでに黒森峰の学園艦が耐えられるかどうかですわね』

まほ「だから人の学園艦を的にするのはよせと言ってるだろう!」


『黒森峰には、人生の大切なすべての事がつまってるんだよ』モグモグ

まほ「その声は継続高校のミカ隊長だな? お前何を食べている?」

ミカ『ヴァイスヴルストが私を呼んでいたからね』



ふむ。ヴァイスヴルストを選ぶとはなかなかお目が高い。さすが継続の隊長だけある。

ヴァイスブルストとはその名の通り白いソーセージで、主に茹でて食すのだが、この時沸騰する直前のお湯あるいは白ワインに10分ほど温め、色がねずみ色になるのが丁度良い茹で加減なのだ。

私も好きでプレッツェルやノンアルコールビールと一緒に囓っている。

ただ、しっかり茹でないと食あたりを起こすから気をつけろ。


…ではなくて。

215 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 21:57:36.07 ID:N46VW/iU0


まほ「貴様どうして人の学校の食料庫を漁っているんだ!!」

ミカ『さぁ。彼女に聞いておくれ』

まほ「彼女? アホのダージリンのことか?」

ダージリン『まぁ、随分な言われようですわね』

まほ「カチューシャがそう言ってた」

ダージリン『ほう…?』

カチューシャ「そっ、そんなこと言ってないわよバカーっ!!」

西『あはははは。…彼女を侮辱するなら、流石の私も黙ってはいませんよ?』

カチューシャ「ひぃっ?!!」ビクッ

ダージリン『絹代さん、落ち着いて! 今回はそういうのじゃないのよ…!?』

ケイ『ま、マホ! キヌは一度火がつくと手がつけられないから刺激したらダメだよー!』

まほ「ぐ…それは悪かった。謝罪する」

安斎「に、西! 西住だって悪気があっていってるわけじゃないんだ! 落ち着け! な?」


ワーワーガヤガヤ

216 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 21:59:26.62 ID:N46VW/iU0


まほ「…良くわからんが、とにかく学園艦を的にするのと倉庫内を漁るのをすぐに辞めさせてくれダージリン」

ダージリン『仕方ありませんわね』

アンチョビ『…何というか…凄いことになってるぞ…?』

まほ「凄いこと…?」

アンチョビ『ノリと勢いのウチらですら不安になるレベルで各校自由気ままに動いてて…』

まほ「は?」

アンチョビ『もう食べたい放題』

ダージリン『やりたい放題』

まほ「何してくれとんねん」


217 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 22:00:16.30 ID:N46VW/iU0


みほ「お姉ちゃん、ダージリンさんと話してるの?」

まほ「ん。そうだが?」

みほ「じゃあちょっと代わって」ハイ

まほ「わかった」ホイ


みほ「もしもし…ダージリンさん?」

ダージリン『その声はみほさんね?』

みほ「その、ごめんなさい。私も久々の帰省だったので…」

ダージリン『そうでしたの。お母様とはよろしくされているのかしら?』

みほ「ええ。おかげで無事に和解しました」

218 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 22:02:27.98 ID:N46VW/iU0

ダージリン『まぁ、それは良かったですわ』

みほ「ダージリンさん達に色々助けて頂いたおかげです。本当にありがとうございます」

ダージリン『あらあら、お上手ですわね。それで演習のことですが、日程を変更することにしますわ」

みほ「良いんですか?」

ダージリン『良いんですのよ。他でもないみほさんのことすもの。ご家族と団欒なさってくださいな』フフッ

みほ「あ、ありがとうございます!」

ダージリン『その代わり次の日程では』


ダージリン『黒森峰・プラウダ・大洗 vs それ以外 にしますので』ウフッ


みほ「え」

ケイ『おー、ミホが相手か! 楽しみだなぁ〜。今のうちにカール導入しちゃおうかな!』

みほ「え。え」

西『今日まで積み重ねてきた努力の成果を試せるなんて光栄の極みでございます!』

みほ「え。え。え」

『また、みほさんと戦える…』

みほ「その声って…愛里寿さん!!?」


219 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 22:04:55.81 ID:N46VW/iU0


ダージリン『お聞きの通り、"被害者の会"の皆さんがみほさんと戦いたがっておりますの』フフッ

ケイ『ミッホー! 今度は負けないからねーあははっ☆』アハハッ

西『またご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致しますっ!』

ミカ『みほとミカは一文字違いだね』

アンチョビ『黒森峰とプラウダもいると手強いけど、こっちだって全力でやるからな!』

愛里寿『あれからいっぱい頑張ったから、今度こそ…』

220 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 22:06:56.71 ID:N46VW/iU0


みほ「…一言、良いでしょうか?」


ケイ『おおっ! ミホの"アレ"が聞けるのかー!』

ダージリン『ふふっ。久しぶりですわね。みほさんの"アレ"』

西『なんだか私、胸が躍り高ぶって参りました!』

愛里寿『私は初めてだから…ちょっと緊張する…!』

ミカ『西住さんの"アレ"には大事なものが詰まっているんだ』

アンチョビ『全くだ。"アレ"を聞くために戦車道をやってるようなものだからな!』

みほ「あはは。…では、お言葉に甘えて」スゥー
























     みほ「異議ありっ!!」




















              逆転ガル判

      おしまい

221 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 22:08:53.17 ID:N46VW/iU0




まほ「待ったぁー!!」




エリカ「…うるさいわね」

しほ「食事中は静かにしなさい」

カチューシャ「はしゃいじゃって。まるで子供ねぇミホーシャ」

ノンナ「日頃の鬱憤を晴らしたかったのです。カチューシャ」

みほ「お姉ちゃん、さすがにはしたないよ…」

まほ「…」



流石に大声を出したことについては反省しよう。

だが、お前たちがあまりにわけの分からん話ばかりをして、挙句の果てに何も解決しないまま終わろうとするから、こちらとして異議申し立てをしたくなった。

茶番はその辺にして、いい加減演習ついて真剣に話し合うべきだ。

222 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 22:10:22.30 ID:N46VW/iU0


ダージリン『そうですわね。さすがにおイタが過ぎましたの』

まほ「頼むぞダージリン。お前がトチ狂ったら話が進まなくなる」

アンチョビ『それで西住。先程言った通り、黒森峰、プラウダ、大洗女子 vs それ以外というチーム分けの件だが』

まほ「ああ。随分とざっくりした編成だとは思った」

カチューシャ「良いじゃないの。優勝校vsそれ以外って分かりやすいでしょう?」

まほ「それはそうだが…」

ケイ『私たちとしては相手は強い方がHEAT UPするわ!』

ミカ『向かい風に逆らうのも悪くはないさ』

西『腕がなりますよ!』
223 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 22:12:22.41 ID:N46VW/iU0


まほ「うむ。…だが、聖グロ、サンダース、継続、そして知波単に島田流までいるとなれば戦力に偏りが出ないか?」

アンチョビ『ほう…アンツィオは戦力外と?』

まほ「そんなことはない。安斎の偵察は大学選抜戦にて大いに脅威と判断した」

まほ「重装甲・高火力だけが取り柄のチームには無い、小回りの聞く戦車による煽動、撹乱、そして偵察は決して馬鹿には出来ん」

エリカ「…」

みほ「…」

アンチョビ『その通りだ。アンツィオ高校だってやればできる。我々は決して弱く…じゃなくて』


みほ「でもお姉ちゃんの言うとおり、戦力差出そうだよね」

まほ「恐らくはな。だがそれは同時に我々にとっても良い訓練となる。それにどうしても差がありすぎるならその都度修正すれば良い」

エリカ「そうね。最も修正が必要かどうかは怪しいけれど」フフン

まほ「油断するなと言っているだろう」

ダージリン『楽しみですわね…"実現するのが"』

まほ「そうだな。だが"期待し過ぎる"のも良くないぞ」

ダージリン『?』

224 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 22:13:37.55 ID:N46VW/iU0



〜〜〜〜



ダージリン『…さて、大方お話は決まりましたし、そろそろお開きと致しましょう』

まほ「そうだな。長々と付き合わせて済まなかった」

ダージリン『構いませんの。こうやって他校を交え和気藹々とするのも良いものですから』

まほ「ああ。その通りだ。和気藹々しすぎて通常の5倍ほど時間が掛かった点を除けばな。それでは、よろしく頼むぞ」

ダージリン『ええ。御機嫌よう』


ツーツーツー


225 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/24(金) 22:14:41.03 ID:N46VW/iU0


まほ「…というわけだ」

カチューシャ「面白いことになってきたわね」

まほ「全くだ。きっと誰かが演習について詳しくレポートしてくれる者が現れるだろう」

みほ「レポート?」

まほ「うむ。この演習について書いてくれる人だ。少なくとも私は現状で手一杯だからな」

エリカ「そう…」

カチューシャ「…どういうこと? ノンナ?」

ノンナ「カチューシャ、触れるべきでない情報もあります」

まほ「全くだ。いらん事を言い過ぎたせいで話がどんどん脱線している」



今の心境を語るなら、夏休みの最後の日に、宿題を1つもやっていなかった事に気が付いた時に似ている。

素直に『練習試合は中止だ』とでも言っておけば丸く収まったものを、いらん話をしたせいでどんどん拡大してしまった。

戦線を拡大しすぎて物資も人員も足りないジリ貧のドイツそのものだ…。

226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/25(土) 11:53:23.92 ID:hfgtkpRo0
話を広げ過ぎてエリカが西住家の一員と化してることに誰も突っ込まなくなってるw
227 :訂正です ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/27(月) 04:08:45.58 ID:LdRMzVtw0
>>221

誤) カチューシャ「はしゃいじゃって。まるで子供ねぇミホーシャ」

正) カチューシャ「はしゃいじゃって。まるで子供ねぇマホーシャ」

228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/27(月) 12:29:18.54 ID:c+5xXZNKO
しえんしえん
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/29(水) 11:07:40.49 ID:QWBGpTGW0

いやいや、>>1の試合(演習)描写は好きだぞ
ちなみにこれは対空戦車シリーズの続編かな?
ダージリンに対する西の描写が気になった
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/29(水) 19:07:06.52 ID:jypLknCQo
待ってますよ
231 :訂正です ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 19:58:14.84 ID:iWsjbRHN0


【まほの部屋】


エリカ「…あれ? ちっちゃいのとブリブリの人は?」

まほ「…カチューシャとノンナのことか。二人ならもう帰ったぞ。何でも"ほっとくと部下のロシア人が餓死する"らしい」

エリカ「ロシア人ねぇ…」

まほ「プラウダ高校はソビエトを模倣した学校だ。ロシアやウクライナから留学する生徒もいるだろう」

エリカ「ふーん。そう考えるとウチには留学生は一人しかいないわね」

まほ「そういえばツェスカの事を忘れていたな」

エリカ「ツェスカで思い出したけど、別のヤンキー学校にも日独混血の生徒がいわね。…ツェスカとは仲が悪いらしいけど」

まほ「そうか」



念の為補足すると、『ツェスカ』というのは黒森峰に留学しているドイツ人生徒だ。簡単に言えば今のエリカを更に喧しくしたようなやつである。

以前はドイツの名門校にいたとのことだが、同じ学校のエースだった生徒と一悶着あったらしく、来日してから偶然再開したそうだ。

しかし、ドイツでの出来事が原因で、日本でもギクシャクした関係にあるという。


その生徒と私は面識がある。何しろ彼女はみほの幼馴染だ。何年も前の話だが(大洗にいる角谷の妹かと思うほど欲にているが、どうやら無関係のようだ)。

そして、彼女もまた私と同じティーガーIに乗る女。もしかしたら…いつか、何処かで彼女とは手合わせをする時が来るかもしれない。

232 :↑「訂正です」ってあるけどミスです…  ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 19:59:50.72 ID:iWsjbRHN0


まほ「そろそろ寝るか」

エリカ「もう寝るの? 明日は日曜日なのに」

まほ「日曜日だとしても夜更かしは健康に悪い。早寝早起きを心がけろ」

エリカ「ふーん」

まほ「…何だ?」

エリカ「いや、姉さんって年寄り臭いな…って」

まほ「…」

エリカ「…」

まほ「…」

エリカ「…」

まほ「…寝る」ゴロン

エリカ「あ! ちょっと! 私の布団無くなるじゃない!」

まほ「知るか。お前などダンボールと新聞紙で上等だ」

エリカ「それじゃホームレスじゃない!!」

まほ「犬みたいにキャンキャンはしゃぐな」


233 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:07:50.18 ID:iWsjbRHN0


今日もまた色々あった。…いや、昨日以上に色々あったかもしれない。


エリカに枕にされて叩き起こされ、みほが家に帰ってきて、お母様とみほが和解した。

デパートへ買い物に行ったら赤星と直下と遭遇し、二人を副隊長補佐に任命した。

帰ってからはみほによって部屋の外をボコまみれにされた。エリカがまた発狂してた。

昼食のラーメンがやたらニンニクがキツく風呂に入り、エリカのしょーもない一発芸を見せらた。

風呂で気絶して目が覚めてからは、カチューシャやノンナが家にやってきた。

そして皆で鍋を囲いながら談笑に花を咲かせ、練習試合のことをすっかり忘れる。


色々ありすぎた。良い意味でも悪い意味でも。

いずれにせよ、ここまで充実した一日は本当に久し振りだ。

何しろ、つい先日まで私はひたすら戦車道に没頭していた。高みを目指すことだけを目標に過酷な訓練を繰り返す日々だった。

それだけに、これほど和気藹々とした温もりある生活を肌で感じたのが遠い昔のことに思える。

戦車道で心身を鍛える日々も良いが、その一方で、心身をリラックさせられる居場所を築くのも大事だろう。

…そんな風に、一日の出来事を振り返りながら私は寝床に就いた。



就いたのだが…

234 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:10:09.85 ID:iWsjbRHN0


エリカ「」スヤァ

まほ「…」グゥゥ

エリカ「」スヤァ..

まほ「…」グゥゥ

エリカ「」スヤァ...


まほ「…」グゥゥゥゥゥ....



寝れん。

…いや、寝れないことは無いとは思うが、こんな時間に腹が減ってしまった。

夕食はみんなで鍋を囲ったのだが、ダージリンから電話が掛かってきたせいで禄に手を付けなかった。

そして彼女の相手が終わり、さあ飯だと思ったら鍋の中身はすっからかんだったという。

おかげで食事の席に着いていたにも関わらず、満足に食事を摂っておらず、今この時間になって猛烈な空腹感に襲われている。

ああ…腹減った…。

235 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:11:20.74 ID:iWsjbRHN0


まほ「…」パサッ

エリカ「」スピー

まほ「…」

エリカ「」スピー



さすがに我慢ならんので、食卓で何か軽くつまもう。

確か買い置きのレトルトカレーがあったはず。

ボンカレーはどう作ってもうまいのだ。

236 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:14:46.88 ID:iWsjbRHN0


エリカ「姉さん………」

まほ「っ…」

エリカ「……プラウダの……シャが………」

まほ「"シャ"って誰だ?」

エリカ「…プラウダ……たいちょう………?」クカー

まほ「…。プラウダの隊長はカチューシャだ」

エリカ「……あいえすつー……」スヤァ

まほ「IS-2に乗ってるのはノンナだろう。お前がさっきブリブリと呼んでた女だ」



急にエリカが喋りだすので驚いたが、どうやら寝言のようだ。

その内容から察するに、プラウダ高校との練習試合の夢でも見ているのだろう。

それはそれで結構。睡眠学習は大いに歓迎しよう。

かくいう私もプラウダと戦う夢をよく見る。昨晩は川に転落した。

237 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:17:01.65 ID:iWsjbRHN0


エリカ「………あぁ……小梅……落ちた……えだめ…」モガ....

まほ「なんだ? 赤星のやつ今度は肥溜めに落ちたのか?」

エリカ「………」クカー

まほ「…」グゥゥゥゥゥゥ



そこでエリカの寝言は終わった。

部下を肥溜めに叩き落とすとはなかなかの邪道である。どんな夢を見ているのだろうか。

夢の内容も些か気にはなるが、それよりも腹が鳴り出してやかましい。

早くカレーを食べよう。

238 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:18:16.40 ID:iWsjbRHN0

【台所】



まほ「確かこのあたりに…」ガサゴソ

まほ「うむ? おかしいな」ゴソゴソ

まほ「参ったな。残しておいたはずだが…」


エリカ「探してるのってコレのこと?」つ[Von Calais]


まほ「ああそれだ。悪いなエリカ」

エリカ「どういたしまして」

まほ「………ん」

エリカ「?」


まほ「うっ!?」


エリカ「」ビクッ

まほ「どうしてお前がここにいる。背後から現れるから驚いただろうが」

239 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:19:14.90 ID:iWsjbRHN0



エリカ「どうしてって…私の家なんだから私がいても別におかしくないでしょう?」

まほ「そういう意味ではない。つい先程までお前は私の部屋で寝ていただろう」

エリカ「ええ寝てたわよ。寝てたけど、急に姉さんの匂いがしなくなったから目が覚めたのよ」

まほ「お前は犬か」



ああ犬だな。

キャンキャン吠え、クンクン甘えて、ゴロゴロくつろぐ。紛うことなき犬だ。

オマケにそこら中に糞尿まで垂れ流す



エリカ「だぁから糞尿は

まほ「静かにしろ。今何時だと思っている」

エリカ「ぐ…」


240 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:21:43.23 ID:iWsjbRHN0


まほ「そもそもここへ何しに来た?」

エリカ「お腹がすいたから何か食べようかなと思って」

まほ「ならば良いものがある」

エリカ「良いもの?」

まほ「庭に沢山草が生えている。今年は菊代さんが帰省の関係で草刈りが遅れたからまだ残っている。マヨネーズをつけて食べるといい」

エリカ「ヤギじゃないんだから食べれるわけ無いでしょう!!」

まほ「静かにしろと言ったはずだ。何度も言わせるな」

エリカ「…姉さん、いい根性してるわね……」

まほ「根性なくして黒森峰の隊長は務まらん」


241 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:23:23.72 ID:iWsjbRHN0


まほ「さて」

エリカ「…」ジー

まほ「…」

エリカ「…」ジー

まほ「…なんだ」

エリカ「姉さん、作れるの? ソレ?」

まほ「なに?」

エリカ「レトルトカレー。作れるの?」

まほ「は?」

エリカ「作れるの?」



…こいつは何を宣っているのだ?

レトルトカレーが作れるか、だと?

馬鹿にするな。レトルトカレーの一つや二つ作れないようで西住流が名乗れるか。


242 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:26:00.78 ID:iWsjbRHN0


エリカ「…いや、西住流以前に、作れないと人としてどうかと思うわよ…」

まほ「案ずるな。レトルトカレーなど作り方を誤る方が難しい」

エリカ「そうよね…?」

まほ「うむ。まずは箱からパウチを出す」

エリカ「ええ」

まほ「そしてパウチを開け口から開封する」

エリカ「そうね」

まほ「そして、鍋に中身をあける」

エリカ「うん」



エリカ「………ん?」



まほ「…どうした?」

エリカ「こっちがどうしたって聞きたいわよ! 姉さん頭打っておかしくなったんじゃないの?!」



頭を打っておかしくなったのはお前だろうが。

…まったく。今のエリカは人に対するモノの言い方を知らんから困る。

良いかエリカ。戦車道というのはな、『乙女の嗜み』として古くから伝わる武芸だ。

そこには礼節あり淑やかで慎ましく凛々しい婦女子の育成を目指すという目的がある。

故に女子高生のように下品にギャーギャー騒ぐような女でいては戦車道をやる者として不適格だ。

243 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:29:37.87 ID:iWsjbRHN0


エリカ「いや、だって…」

まほ「だってもラーテも無い。戦車道を嗜む者ならば品行方正を心がけよ」

エリカ「姉さん、一つ良い?」

まほ「なんだ?」

エリカ「あのね、戦車道は大事よ?」

まほ「うむ」

エリカ「けれども」


エリカ「レトルトカレーひとつ満足に作れないと、婦女子どころか人として失格レベルよ?」


まほ「私がレトルトカレーを作れないとでも?」

エリカ「」コクリ

まほ「…」

エリカ「…」

まほ「…なに?」

244 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:30:59.77 ID:iWsjbRHN0

エリカ「レトルトカレーって、中身を鍋に放り込んだりしないわよ?」

まほ「は? ならばどう作れと言う」

エリカ「お鍋に水を入れて、火にかける」

まほ「…」

エリカ「そこにレトルトカレーのパウチを入れて温める」

エリカ「そして温まったら封を切って、お皿に盛り付ける」

エリカ「…以上」

まほ「…」

エリカ「…」

まほ「…」

エリカ「…」

まほ「…ちょっと待ってろ」ピポパ

エリカ「?」



真相を確かめるために、私はこの手の情報に詳しい人物と連絡を取った。


245 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:33:56.48 ID:iWsjbRHN0


『…も、もしもし……?』

まほ「私だ」

『……わたしさん……? …こ、こんな時間に何よ……』

まほ「………まず私の名前は私さんじゃない……」

『おお…?』


まほ『西 住 ま ほ だ』


『A゛hhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!!!』バタン ゴン!!



電話の先でケイが絶叫している。

どうせあいつのことだ。ポップコーンでも貪りながらホラー映画でも見ていたのだろう。

こちらが緊急事態だというのに呑気なやつだ。

そして名乗っただけで絶叫するとは失礼なやつだ。

246 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:36:02.05 ID:iWsjbRHN0


ケイ『ま…マホっ! "Orgy of the Dead"観てる時に脅かさないでよっ! ビックリしたじゃない!』ヒリヒリ

まほ「それは悪かった。しかし"死霊の盆踊り"とはまた渋いチョイスだな」

ケイ『…そんなことより、こんな時間に電話して何かあったの? 他の学校の皆はもう寝ちゃってるよ?』

まほ「実はだな、ケイ。お前に頼みたいことがある」

ケイ『へ? 頼みたいこと?』


まほ「ああ。お前にしか聞けないことだ」


ケイ『!! …私に…だけ…?』

まほ「ああ。ケイにだけ」

ケイ『…そ、そう……内緒話…?』


まほ「私とケイだけの"秘密"だ」


ケイ『う、うん…なんでも聞いて…まほ……』ドキドキ

まほ「済まないな」

ケイ『い、良いのよ! 他でもないまほの頼みだもん…!』ドキドキ


247 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:36:54.92 ID:iWsjbRHN0





まほ「レトルトカレーの作り方を教えてくれ」






ケイ『……………………は?』




248 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:40:54.89 ID:iWsjbRHN0

まほ「その、なんだ…」

まほ「私は今までレトルトカレーは、パウチの中身を鍋に入れて加熱するものだと思っていた」

ケイ『…』

まほ「しかし、うちの副隊長が言うには、パウチは開封せず、そのまま水の張った鍋に入れて加熱するのだと言う」

ケイ『…』

まほ「もしかしたら、私は今の今まで重大な過ちを見過ごしていたのかもしれない…」



エリカはレトルトカレーひとつ満足に作れぬ者など人間失格だと言う。

しかし私としては、そのような輩は人間どころかミジンコ以下であり。

そして、その"ミジンコ以下"に私は今まさになろうとしている。

このままでは西住ジンコ流などと罵られてしまう。

だから今ここで名誉を挽回するのだ…!

ちなみに、何故ケイなのかというと、こいつはハンバーガーやフライドチキンといったジャンクフードばかり食べている。

なのでレトルトカレーにも詳しいだろうと思っての選定だ。髪の毛もカレーみたいな色してるしな。

249 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 20:43:09.89 ID:iWsjbRHN0


まほ「…というわけだ」

ケイ『………』

まほ「…おい、ケイ? 聞いているのか?」







ケイ『ファァァァキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!』







まほ「え」

ケイ『なぁにがカレーだ!! 私の純情返しやがれバーーーーーカ!!!!!!』

まほ「お、おい…?」



よくわからんが、ケイが煮込まれたカレーのように沸騰している。

『ポジティブ』という単語を擬人化したかのように開放的で明るいやつだけに珍しい事もあるものだ。


…もしやケイ、お前も腹を空かせているのか?

250 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 21:48:03.40 ID:iWsjbRHN0


ケイ『うっさいうっさい!! 私はお腹なんか空いてないよっ!!』

まほ「そ、そうか。とりあえず落ち着け…」

ケイ『ビークワイエッ!! ちょっとでもドキッとした私がバカだったぁぁぁぁぁぁぁ!!』ウワーン

まほ「そ、それは悪かった…すまん」

ケイ『ダージリンのヤツがドヤ顔でカレシ自慢するからアッタマ来てた矢先にコレよジーザス!!』

まほ「いや、カレシじゃなくカレーを…ん?」

ケイ『何よ…?』

まほ「ダージリンのやつ、男がいるのか?」

ケイ『ええ!いるわよっ! あんにゃろう私の前でイチャコラしやがってぇぇぇぇぇ!!』

まほ「それは知らなかった」

ケイ『なぁにが、"キヌヨさんは私だけの白馬の王子様ですの♥"だ!! ふざけやがってぇぇぇぇ!!!』ウガー



話を要約すると、ケイはカレーではなく"カレ"がいないことに憤慨しておられるようだ。

その憤慨ぶりたるや元の性格が思い出せなくなる程である。女の嫉妬というものは恐ろしい。

だが恋人がいないのは何もケイに限った話ではない。むしろ恋人がいる人の方が少数ではないだろうか。

私もそうだし、ダージリンを除く他の隊長も恐らく恋人などいたことがないはず。少なくとも安斎は確定だ。

ティーガーが鹵獲されたというなら腹が立つのもわかるが、惚気話如きに何をそんなに腹を立てることがあるというのだ。



………ん?
251 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 21:51:41.63 ID:iWsjbRHN0


まほ「キ"ク"ヨさん…?」


ケイ『そうよ キ"ヌ"ヨ! まぁ私はキヌって呼んでるんだけどさ! ダージリンのヤツ年下の子捕まえやがってぇぇぇぇ!!』グギギギ

まほ「なに?! 彼女はダージリンと付き合っているのか?!」

ケイ『そうよ! ダージリンのヤツ、私の前で "普段は騒がしいけれど、二人きりになると…ふふっ♥" ってノロけやがって!!』ガァァァァ!!

まほ「………」



とんでもないことを知ってしまった…。

菊代さんは我が西住家の家政婦だが、まさかダージリンと関係を持っていたとは…。

…いや、驚くべき事実ではあるが、考えてみればそれほど突飛な話でもない。


菊代さんには私やみほが幼い頃から身の回りの世話をしてもらっていた。

その他にも西住流の門下生や来客の応対、家事全般をこなしている。

そんな多忙極まりない家政婦という境遇に息苦しさ、そして虚無を感じていたのかもしれない。


だから、ダンケルクよろしく西住家を飛び出して、思い切って羽根を伸ばしたかったのだろう。

そんな矢先に聖グロのダージリンと出会い、恋に落てしまったのだ。


…菊代さんのことだ。どうせ玉の輿でも狙っていたのだろう。


252 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 21:58:16.80 ID:iWsjbRHN0


まほ「ケイ」

ケイ『な、何よぉ…?』


まほ『彼女は私たちの家で暮らしている』


ケイ『What's!!?』

まほ「それも何年も前からだ」

ケイ『ちょ、ちょっとマホ! それ本当なの!? Really!?』

まほ「ああ。朝は起こしてくれるし、美味しいご飯を作ってくれる』

ケイ『うそ!?』

まほ「嘘なんかじゃない。私たちにとって生活の一部だ」

ケイ『…oh…そうだったんだ………』

まほ「こんな事になっていたなんて、知らなかった…」

ケイ『………』



さすがのケイも黙り込んでしまった。

何しろダージリンの交際相手は菊代さん、つまり"西住流の使者"だ。

このまま両者の関係が深まれば、ダージリンは西住流の女としてその敷居を跨ぐことになる。

そしてそれは、西住流の次期家元は私ではなく、ダージリンが選ばれる可能性があるということを意味する。

家元の座を誰にも渡すつもりはないが、ここに来て新たなライバルが現れたこととなる。

私か、あるいはダージリン、どちらが西住の名を受け継ぐに相応しいか………!


西住流の今後を決める話だ。

今電話をしているケイはともかく、菊代さん交際相手であり私の宿敵となったダージリンにも話しておくべきだろう。

253 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 22:01:31.03 ID:iWsjbRHN0


まほ「…どうやら、泥沼の争いになりそうだな」

ケイ『わ、私…知らなかったよ…あの子がそんな事してるなんて………』

まほ「私も明日、ダージリンに改めて宣告するとしよう」

ケイ『ま、マホ…?』

まほ「なんだ?」

ケイ『その、さっき…私"たち"って言ったよね?』

まほ「ああ、そうだが?」

ケイ『じゃ、じゃぁ他にも?!』

まほ「うむ。私だけでなく、みほもお世話になっている」

ケイ『ミホも!?』

まほ「みほだけじゃない。最近では副隊長のエリカも世話になっている」

ケイ『え゛っ!!?』

まほ「実際に昨夜は一緒に風呂に入っていた。エリカ曰く」




まほ「"気持ちよかった"とのこと」



ケイ『〜〜〜〜〜〜〜〜!!////////////』ポシュッ!



エリカは腕を骨折しているため、一人で体を洗うことができず、菊代さんに手伝ってもらった。

かくいう私やみほも幼い頃は菊代さんに体を洗ってもらうことが何度もあった。

家事をそつなくこなす菊代さんだけに人の体を洗うのもまた上手いのだ。あの絶妙な力加減は病み付きになる。


…ところで、電話の向こうから撃破判定装置が作動する音がしたのだが、ケイは一体何をしているのだろうか?

254 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 22:03:16.65 ID:iWsjbRHN0


ケイ『マホのおバカ〜〜〜〜〜ッ!!/////』


まほ「なっ、何故私が馬鹿なんだ!」

ケイ『そそそそんなの言っちゃダメでしょーがぁ!!//////』

まほ「何をだ?」

ケイ『ききき、気持ちいいいだなんて、はは破廉恥だよっ!/////』プシュゥゥゥゥゥゥゥ

まほ『む…』



確かに。人様の風呂事情を赤裸々にしたのは不味かった。

さすがの私も入浴中に何処をどう洗うかなど暴露されて良い気はしない。

私としたことが軽口を叩きすぎたようだ。気をつけなければ…。


…ところで、電話の向こうから蒸気が噴き出すような音が聞こえるが、ケイは一体何をしているのだろうか?

255 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 22:05:12.11 ID:iWsjbRHN0


ケイ『わ、私…あの子に会ったらどう接すれば良いか分かんなくなっちゃったよ…』

まほ「実を言うと私もだ。明日どんな顔をして接すれば良いか迷う」

ケイ『…ダージリンにちょっぴり嫉妬してたけど、こんな事になってたなんて…ダージリンが可哀想だわ…』

まほ「それでも変えられない事実だ。だから私は明日ダージリンに改めて宣告する」

ケイ『だ、ダメよマホ! ダージリンあんなに幸せそうにしてたんだから!』

まほ「だが言わなければ何時までたっても解決しないだろう?」

ケイ『ダメだって! 絶対ダメっ!!』

まほ「しかし…」


256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/11/30(木) 22:08:14.80 ID:Qv730hDSO
>>229
死ね特定厨
西ダジくらい普通だろ
257 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 22:10:11.83 ID:iWsjbRHN0


ケイ『考えてもみなさいマホ! 恋人ができて幸せ絶頂なあなた自身を!』

まほ「出来たことが無いから考えようがないが、まま幸せなのだろうな」

ケイ『そんな毎日超ハッピーなタイミングで、その恋人が色んなヒトと浮気してたって知らされたらマホはどんな気持ちになるの!』

まま「そうだな。履帯の染みにする程度では恐らく気が済まないだろう」

ケイ『でしょう? ダージリンにとってもそれくらいショッキングな出来事なんだから簡単に言っちゃダメよ!』

まほ「…しかし、ダージリンとは西住流家元の看板を懸けたライバルだ。宣言無しで戦うのはフェアじゃない」

ケイ『浮気にフェアもアンフェアも無いわよっ!!』

まほ「まぁそうだが………うん? 浮気?」

ケイ『まずは私がキヌに"女の子を悲しませるような事しちゃダメ"って話すよ!』

ケイ『それでキヌに謝罪させるの!』

まほ『そうか。…ところでケイ』

ケイ『なに?』











まほ「キヌって誰だ?」




258 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/11/30(木) 22:10:53.89 ID:iWsjbRHN0




ケイ『へ?』

まほ「急に知らぬ人物の名が出てきて困惑しているのだが」

ケイ『なに言ってんのよ。今までずーっとキヌのことでお話してたじゃない』

まほ「えっ」

ケイ『あ、私がキヌって呼ぶからいけなかったわね。キヌヨよキヌヨ』

まほ「キヌヨ? 知波単学園の西絹代か?」

ケイ『そうよ?』

まほ「…」

ケイ『…』

まほ「…」

ケイ『…?』



…どうやら、盛大な勘違いをしていたようだ。



〜〜〜

259 :誤字訂正 ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 05:17:22.05 ID:euFb9Y1k0
>>231-258

まで、いくつか誤字がありました(´・ω・)


>>248

誤: しかし私としては、そのような輩は人間どころかミジンコ以下であり。

正: しかし私としては、そのような輩は人間どころかミジンコ以下である。


>>251

誤: そんな矢先に聖グロのダージリンと出会い、恋に落てしまったのだ。

正: そんな矢先に聖グロのダージリンと出会い、恋に落ちてしまったのだ。



その他、ケイとの電話の会話でまほのカギ括弧が『』になってますが、正しくは「」です。

脳内補完・訂正お願いします。
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/01(金) 12:55:02.52 ID:UCJaQ7w9O
おもしろい
261 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 22:47:37.73 ID:VmvplbzM0



ケイ『…なーんだ、ビックリしたぁ』

まほ「全くだ。あのダージリンが私のライバルだと思うと恐ろしくて夜も眠れん」

ケイ『Ahahaha! もし西住流の跡継ぎがダージリンになったらどうなるんだろうねー』

まほ「ティーカップ片手に戦車に乗ってしたり顔で格言を自慢する西住流など全く想像出来ん」

ケイ『あっはははは面白そうじゃないソレ!』

まほ「やらされる側としてはたまったもんじゃない」

ケイ『ダージリンもだけど、聖グロの子たちはどーやって戦車の中でこぼさないでカップ持ってるのかしらね〜?』

まほ「それはわからん。…ひとまずうちの"菊代"さんがダージリンと関係を持っていなくて安心した」

ケイ『me too. 私もよ。キヌが浮気しまくりのク●ビ●チじゃなくて安心したわ』

まほ「西はそんな玉じゃないだろう」

ケイ『そうかもしんないけどさー。ホントにビックリしたんだからねー? マホが勘違いするからさっ』

まほ「私が悪いんじゃない。一文字違いの名前を授かった二人が悪い」


262 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 22:51:00.33 ID:VmvplbzM0


ケイ『もしもマホが気付かなかったら危うくキヌんとこに怒鳴り込むところだったわよ。このクソビ●チがぁぁぁ! ってね』

まほ「事情を知らないダージリンからしたらケイが浮気相手と勘違いしそうだなそれは」

ケイ『あはは。私がキヌ貰っちゃおうかな〜?』

まほ「ダージリンが悲しむからやめとけ」

ケイ『じゃあ逆にダージリンを貰うとか?』ahaha!

まほ「もっとやめとけ。地球の反対側まで追いかけて八つ裂きにされるぞ」

ケイ『Oops…物騒なこと言わないでよ…』

まほ「流石にしないと信じたいが…どういうわけか、最近あいつが怖い」

ケイ『そりゃそうよ。恋人を奪おうとすれば誰だって怒るわよ』




263 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 22:54:36.09 ID:VmvplbzM0


まほ「ケイも怒るのか?」

ケイ『当ったり前じゃない。私だって怒ったらコワいよぉー?』

まほ「どのように?」

ケイ『CVSGで殴り込む』

まほ「しーぶい? よくわからん。………っと、もう深夜じゃないか」

ケイ『そうね。随分と話し込んじゃってたね』

まほ「ここまで話が盛り上がることなんてそうない。なかなか有意義だった」

ケイ『私もよ。やっぱりガールズトークってGoodね〜!』

まほ「ああ。間違いない。それでは夜分遅くに済まなかった」

ケイ『いーえ。こちらこそよ。それじゃね〜See you again☆』



ずいぶん長いこと話し込んでいた。ケイは某ハンバーガーショップの道化師よろしくお喋りが大好きなのだろう。

…それに便乗していた私も同じ穴の狢ではあるが、よほど楽しかったのだろう、時間が経つのを忘れるほど話し込んでいた。

こういうのもたまには悪くないな。


…しかし、知波単の西は"二人きり"になると何かあるのか。全く想像できないが。

実は狙撃の名手で、10キロ先のティーガーを撃ち抜けるとか、

実はダージリンの借金の連帯保証人だったとか、

実はカツラだったとか………。


わからん…。

いつか練習試合を申し込み、意図的に西と一騎打ちする戦況を作るか。


264 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 23:00:13.19 ID:VmvplbzM0


グゥゥゥゥゥゥ....

まほ「ん…」



長電話のせいですっかり忘れていたが、そもそも私は空腹だったのだ。それ故カレーを作りに台所まで来た。

しかしケイと電話に夢中になり、気が付いたら草木も眠る丑三つ時になっていた。

夜更かしにも程があるな。さっさと食べてさっさと寝よう。


…何かを忘れている気がするが、今はそれよりもカレーが大事だ。


265 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 23:01:31.23 ID:VmvplbzM0


まほ「まずは鍋に水を入れ」ジャー

「………さん」

まほ「次に、鍋に火をかける」カチャン ボッ...

「………えさん」

まほ「あとはパウチを入れて加熱すれば良かったな」

「………ねえさん………」

まほ「ああ。出来上がるのが楽しみだ」




エリカ「姉さんッ!!!!」

まほ「ぬぉッ!?」



そうだ。コイツを忘れていた。


266 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 23:03:06.96 ID:VmvplbzM0


エリカ「いつまで電話してんのよ! 待ちくたびれたじゃない!」

まほ「仕方がないだろう。同じ隊長として戦場を駆け巡った者同士語り合うこともある」

エリカ「恋人がどうたらというのが同じ戦場を駆け回った者同士の語り合いなのかしら?」

まほ「そういうこともある」

エリカ「…」

まほ「…」


エリカ「…で?」

まほ「で?」

エリカ「…レトルトカレーの作り方、わかった?」

まほ「…」

エリカ「…」

まほ「…」

エリカ「…」


まほ「作り方は色々あるということがわかった」


エリカ「嘘おっしゃい! 作り方そっちのけで聖グロと知波単の話で盛り上がってたでしょーが!!」

まほ「…うるさいな。私だって人間だ。忘れることだってある」



267 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 23:07:49.12 ID:VmvplbzM0


エリカ「フン。何が知波単よ」

まほ「知波単を甘く見るな。酷い目にあう」

エリカ「戦車はポンコツで戦術なんてあったもんじゃない。あんな弱小校なんて私一人で十分よ」

まほ「相手の戦車や戦力が低いからといえ油断はするな」

エリカ「…やけに知波単の肩を持つじゃない?」

まほ「そんなことはない。…ただ、我々は戦車の質も数も圧倒的に劣る大洗に敗れた経験があるだろう」

エリカ「…そうね」

まほ「戦車の数や質だけが必ずしも有利な要素であるというわけではない。指揮し、動く人間の質が重要だ」

まほ「素人がティーガーに乗ったところで最大限の性能を引き出せはしないだろう?」

エリカ「それは言えてるわね」

まほ「実際にみほは戦車の数も質も他校より劣っている。にも関わらず大洗を一つにまとめ、強豪校を尽く蹴落としてきた」

エリカ「…確かにみほは凄いわ。昨年の黒森峰での大失態を無名校で汚名返上したのだから」

まほ「その通りだ」


268 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 23:10:27.20 ID:VmvplbzM0


エリカ「…で」

まほ「で?」

エリカ「それと知波単とどう関係があるのよ?」

まほ「なに?」

エリカ「みほの名誉挽回と知波単の関係」

まほ「…」

エリカ「…」

まほ「…」

エリカ「…」


まほ「カレーが温まったから食べるとしよう」


エリカ「あっコラ! 話逸らすなッ!」

まほ「食べないのか? じゃあ私が全て頂こう」

エリカ「たっ、食べるわよ!」


269 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 23:24:11.80 ID:VmvplbzM0



その答えは来年、みほや他の同級生が最上級生となった時にわかるだろう。


各校は少しずつ世代交代への準備を進めている。私もエリカにティーガーIを託す時が必ず訪れる。

だが、エリカはみほや知波単の西と違って"後発"だ。それは私が長く隊長の座に居座りすぎていたせいでもある。

みほは大洗の隊長として元から持っていた才能を更に昇華させ、その上大学選抜チーム戦ではかつて戦った強豪校たちを率いて勝利した実績もある。

知波単学園の西も二年生でありながら既存の戦術に疑惑を抱き、戦術の改革を試みていると聞いた。


この両名はどこの学校の同級生よりも早い段階から「隊長」を経験している。


指示を出すだけが隊長の責務ではない。隊長はその学校の顔であり全てと言って良い。

試合の戦績、部下の育成、不祥事の引責…。それらは全て隊長が一人で背負っていく。

たとえ仲間の支援があったとして、最終的にすべてを抱え、興廃を懸けた決断をしなければならない。

全員が明後日の方向を向く中、自分ひとりだけが真逆に進めと言わなければならないこともある。

卒業生や在校生との板挟みとなり、二進も三進もいかなくなることだってある。


それら隊長としての宿命を何処よりも早く引き受けてきたのがこの二名だ。

隊長とそれ以外の一般生徒とでは得られる経験値が全く違う。そしてその隊長としての経験の差が試合において如実に反映される。


270 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 23:28:36.75 ID:VmvplbzM0


しかし、エリカは未だに"副"隊長止まりである。

先述の通り、私が長らく隊長の座に居続けたことが原因である。言うまでもなく私の失態ではあるが、そうなったのにはいくつか理由がある。

全国トップクラスの実力を持つ黒森峰の、更に頂点という隊長に就いた私の自己保身的なもの。

その隊長を誰かに譲渡したことによる黒森峰の弱体化・衰退の可能性を恐れていること。

そして何より、優勝常連校の隊長という並々ならぬ重圧で誰かが潰れることを防がなければならないこと。


だから私はじっくり時間をかけて次世代の王者を担う者を探していた。

そしてそのニーズに答えたのが、今私の横でカレー皿にご飯をよそうエリカだった。

つい最近までは虎の目をしていたエリカだったが、事故による負傷で戦力外となったことで、黒森峰には実質次期隊長が不在となってしまった。

…確かに赤星や直下を臨時の"副隊長補佐"として任命した。だが、あの二人もエリカと比較するとまだまだ不十分だ。


エリカの戦線離脱はチームの弱体化どころか、黒森峰の存続に関わるほど致命的なものと言える。


271 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 23:30:42.49 ID:VmvplbzM0


ここ最近は色々あったせいで忘れかけていたが、エリカは記憶の一部に障害をきたしている。

それは自分を"逸見エリカ"ではなく、"西住エリカ"として、西住家の人間であるという錯誤。

しかし、どういうわけか、私やお母様のことはしっかり覚えていたのに、何故かみほのことだけが記憶から抜けているという不可解な状態だ。

何故、西住家の人間だと思いこんでいるのに、何故、みほの記憶だけ抜けてしまっていたのか…














そんなもの、一つしか無いだろう。

272 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 23:32:58.44 ID:VmvplbzM0


まほ「さて。出来たぞ」ホカホカ

エリカ「あ、ちょっと! 姉さんだけルー多いじゃない!」

まほ「…しょうがないな。ホラ」

エリカ「こらっ! ニンジンばかり入れるなっ!」

まほ「人参だってカレーの具だ。文句言わず食べろ」

エリカ「むう…」

まほ「…」



273 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/01(金) 23:37:40.82 ID:VmvplbzM0



エリカ「最近のレトルトはなかなか凝った味付けをするのね」モグモグ

まほ「当然だ。ボンカレーはどう作っても美味い」

エリカ「鍋に注ぎ込んで加熱する方法は絶対間違ってると思うけど」

まほ「普通のカレーとて鍋で煮込む。同じことだ」

エリカ「カップ麺と袋麺を同じ方法で調理するのと同じくらい違うわよ」

まほ「相変わらずややこしい言い回しだ」

エリカ「全然よ」

まほ「…」


まほ「そういえば、冷蔵庫にマカロンがあったが、お前食べるか?」

エリカ「マカロン?」

まほ「ああ。ちょうど2つある」

エリカ「みほが買ったんでしょう?」

まほ「そうだったか?」

エリカ「他に誰がいるってのよ。あの子昔っからマカロン大好物じゃない」

まほ「そうだな」





























そうだな。


みほは昔からマカロンが大好物だ。

274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/02(土) 02:32:47.34 ID:LGNMmwxK0
雲行きがあやしい…
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/02(土) 04:54:01.28 ID:gJEjjhHd0
不穏だ・・・
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/04(月) 12:56:31.51 ID:9hTO1YLrO
西住エリカ
277 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/12/22(金) 23:43:35.53 ID:2K0ZXy8E0
年末忙しいせいでなかなか更新できなくてすまないんだな(´・ω・`)

ちゃんと完結するから待っててほしいんだな(´・ω・`)
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/22(金) 23:46:08.70 ID:mAABIh99o
生きててよかった
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/25(月) 01:50:33.56 ID:T9dLH7Az0
待ってるぞ
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/25(月) 12:35:36.36 ID:Fphf0dEBO
お年玉はよ
281 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 07:34:37.72 ID:CJE4bdvW0


〜〜〜


エリカ「ごちそうさま」

まほ「おい、食器をちゃんと洗わないか」

エリカ「明日やる。食べたら眠たくなってきたもの…」ファァ...

まほ「カレーを食べたことがお母様にバレてしまうぞ?」

エリカ「…今やる」カチャカチャ

まほ「全く。最初から素直にやれば良いものを」サッサッ

エリカ「ちょっと! 何で姉さんの分まで私が洗わんなきゃいけないのよ!」

まほ「私のカレーを分け与えたのだから当然だろう」

エリカ「むぅ…」

まほ「…」



エリカは先の事故によって記憶に一時的な障害が発生し、自分を"西住家の人間"だと思い込んでいる。

また、西住家の人間と思い込む一方で、同じ西住の人間である"みほの記憶"だけ欠落している。


何故、そのような"都合のいい"記憶障害が起きるのか。

282 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 07:36:17.52 ID:CJE4bdvW0


まほ「…さて。今度こそ寝るぞ」

エリカ「その前に歯磨き。忘れないでよね」

まほ「わかってるさ。ニンニクだけでなくカレー臭までしたらたまらん」

エリカ「カレー臭なのかカレイ臭なのかね…」

まほ「魚は食べていない」

エリカ「鰈じゃなく加齢」

まほ「…」



― 隊長って大変ね。あんな横着な部下をまとめないといけないのだから…

― お前が一番横着だ

― そんなことないわよ。…そういえばみほも隊長だったわね。忘れてたわ


何故、みほの記憶が消えていたエリカが、"みほが隊長である"ことを知っていたのか。

283 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 07:37:05.43 ID:CJE4bdvW0

エリカ「姉さん、もっとそっち行って」

まほ「仕方ないな…」ゴロン

エリカ「あっ! また布団持っていった!」グイグイ

まほ「引っ張るな。これは私の布団だ。お前は藁でも敷いて寝てろ」

エリカ「家畜じゃないって言ってるでしょーが!」

まほ「モーモーうるさいお前は立派な家畜だ。エリ家畜と名乗って干し草でも食べていろ」

エリカ「何ですって?!」

まほ「静かにしろ。今何時だと思っているんだ」

エリカ「………3時半よ」ムスッ

まほ「こんな時間に騒いでいたら、例のクマのぬいぐるみがお前を黙らせに来るだろうな」

エリカ「!?」ビクッ

まほ「こ、こら潜り込んで来るな! そしてしがみ付くな!」

エリカ「」ガタガタガタ



― …まあ。確かにみほは凄いわ。昨年の黒森峰での大失態を無名校で汚名返上したのだから


何故、みほの記憶を喪失したエリカが、"黒森峰での失態"や"無名校で汚名返上"を知っているのか。


284 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 07:40:39.20 ID:CJE4bdvW0



その場その場では気付かなかったが、改めてエリカの発言を思い返すとそこには不可解な点がいくつかあった。

しかし、その不可解な点…『みほの記憶を失ったエリカが、みほのことを知っている』が何を意味するか分からなかった。

記憶が無いと言えど多少の差異はあるのだろう…と、別段気に留めることもなかった。

しかし、それこそが私が見落とした重大な過ちだった。何故なら、これら不可解はある一つの"前提"が成り立てば全て合点がいく。

その前提とは










             "エリカは最初から記憶障害ではなかった"


285 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 07:45:13.71 ID:CJE4bdvW0


まほ「そろそろ離れろ。腕が痺れてきた」

エリカ「む、無理よ…! 離れたらまた奴らに食われる…」オロオロ

まほ「"また"って何だ。食われたことなど一度も無いだろ」

エリカ「な、無いけどいつか絶対に食われるわ…!」ガタガタ

まほ「なら食われた時に心配しろ」

エリカ「姉さんの危機管理能力どーなってんのよ!」



そして、その前提は先程のやり取りで成立した。

エリカは『みほは昔からマカロンが好き』と確かに言った。本当にみほの記憶を失った者なら出ることのない発言だ。

そして、それがエリカは記憶喪失ではなく、記憶喪失の"ふり"をしていることを裏付ける証拠となった。

隙間だらけだったパズルが埋まり、謎が解けた瞬間、世界がぐるりと反転したような錯覚に陥った。

だが、そんな私を待つことなく、完成したパズルには次の謎が描かれていた。





            "なぜエリカは記憶喪失のフリをした?"



286 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 07:47:37.96 ID:CJE4bdvW0


わからない。

記憶喪失の"ふり"をするということは、言い方を変えると"本来の自分を捨てる"ということになる。

逸見エリカを捨てる? なぜ?

逸見エリカは、黒森峰女学園の2年生で戦車道の副隊長をしている。

先日の訓練で事故を起こした。

事故の件、あるいは"次期隊長"からの逃避!?


…いや、それは違うだろうな。

もし仮にそうだとすれば、全ての記憶を喪失したことにすれば良い。わざわざ"西住家の女"という回りくどい設定にする必要はない。

なぜなら"西住"はあまりに距離が近すぎるし、現にエリカは私のすぐ近くにいる。逃避を目的とした者のとる選択ではない。

もっと言えばそこから"みほの記憶"だけを消す理由もない。


なら何故だ!

何故こうも回りくどい偽装をする!?

そしてエリカ、お前の目的は何だ…!?

287 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 07:51:05.50 ID:CJE4bdvW0


まほ「………エリカ」

エリカ「…なによ…私眠たいんだけど…」

まほ「私だって眠い。だから寝言だと思って適当に聞き流せ」

エリカ「意味がわからないわよ…」

まほ「…みほと会って、どう思った?」

エリカ「…は?」

まほ「今朝、偶然みほがやってきて、お前たちは初めて顔を合わせただろう?」

エリカ「…ええ」

まほ「初めて会った姉妹はどうだった?」


エリカ「そうね…。大人しいって印象だったけれど、実際に一緒にいるとなかなか横着い子よね」

まほ「横着いか…。確かにそうかもしれん」

エリカ「姉さんにソックリよ。そういうところ」

まほ「私が横着というのは解せんが、姉妹なのだから似るのは当然だろう」

エリカ「何にせよ。変なぬいぐるみを部屋中に置くのだけはやめてほしいわね…」

まほ「あれほど大量のぬいぐるみをどこに収納していたんだろうな」

エリカ「暗黒世界に繋がってて、そこからゾロゾロと出て来るのよ…」

まほ「そんなわけあるか」


288 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 07:55:46.44 ID:CJE4bdvW0


エリカ「…でも、帰ってきて良かったと思うわよ」

まほ「ん?」

エリカ「ほら、みほってお母さんと仲悪かったじゃない?」

まほ「…。確かに。あんな一瞬で、不仲が解決するとは思わなかった」

エリカ「お母さんも娘が出て行ったくらいであんなピリピリしなくても良いのにね」

まほ「…」

エリカ「融通がきかないところは姉さんとソックリよ。さすが親子」

まほ「いらんお世話だ」

エリカ「みほもみほで、大洗じゃなくこっちに戻って来れば良いのに」

まほ「みほにはみほの学校生活がある。そう簡単にはいかん」

エリカ「残念な話よね。実家に帰るのにそう時間もかからないだろうし」

エリカ「大洗なんかに行かず黒森峰にいたら良かったのにねぇ」

まほ「…」



もう、良いだろう…。


289 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 08:02:16.51 ID:CJE4bdvW0


まほ「エリカ、もう一つ良いか?」

エリカ「…私眠いんだけど?」イライラ

まほ「それは悪かったな。…だが安心しろ。目の覚める話だ」

エリカ「目の覚める話…?」

まほ「ああ」


まほ「いつまで、これを続けるつもりだ?」


エリカ「えっ?」

まほ「いつまで、お前は記憶喪失のフリを続けるんだ?」

エリカ「えっ? どういうこと…?」

まほ「お前はみほのことを知らないはずだ」

エリカ「は…? 何言ってんの姉さん? 今朝みほに会ったでしょう???」キョトン

まほ「そうだ。お前は昨日の朝、初めてみほと対面した」

エリカ「そうよ? 何急に言い出すのよ。記憶喪失にでもなったの…?」



まほ「昨日がみほと初対面だったお前がなぜ、みほが"黒森峰から去った"ことを知っている?」

290 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 08:29:02.38 ID:CJE4bdvW0

エリカ「え…」

まほ「先ほど、"大洗なんかに行かず黒森峰にいたら良かったのに"と言ったな?」

エリカ「え、ええ…そうよ…?」

まほ「何故、昨日初めて会ったみほが、過去に黒森峰にいて、今は大洗にいるとわかった?」

エリカ「そ、それは…」

まほ「…お前はこうも言ったな」

まほ「"昨年の黒森峰での大失態を無名校で汚名返上した"」

エリカ「!!」

まほ「不思議だな。昨日会うまでみほのことを一切知らなかったお前が、どうして"みほが無名校で汚名返上した"ということを知っているのだろう?」

エリカ「…っ……!」



エリカの表情からサーッと血の気が引いていくのが伺える。

残念ながら私の予想は的中した………


291 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 08:30:29.33 ID:CJE4bdvW0


エリカ「あ…あははははは。何言ってんの姉さん? やっぱり頭おかしくなったんじゃない?」

まほ「…」

エリカ「い、一度医者に診てもら

まほ「最後に」

エリカ「っ…!」

まほ「よく、知ってたな。…エリカ」

エリカ「え…な、何がよ…?!」


まほ「みほが"昔から"マカロンが好きだと」


エリカ「ッ!!!!」



これでおしまいだ………。

292 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 08:33:59.26 ID:CJE4bdvW0


エリカ「あ…あゎ……あ………」

まほ「何故、このような真似をした?」

エリカ「わ……わたし……………」

まほ「さぁ、話せエリカ。全て…」

エリカ「………い…」






エリカ「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」






絶叫響く廊下をバタバタと走るエリカの後を追うこともなく、私はただただ呆然とするだけだった………

私に従順だったはずのエリカが…私を欺いた………

そして…その欺瞞を見破った瞬間、エリカは逃走した


私は…エリカに裏切られた………


293 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 08:36:10.58 ID:CJE4bdvW0







みほ「………もういいよ。お姉ちゃん………」






294 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 08:40:37.48 ID:CJE4bdvW0


まほ「みほ!?」

みほ「ごめんなさい…私がいけなかったんだ………」

まほ「ど、どういうことだ?!」

みほ「エリカさんと…私の利害が一致したからあんなことを…」

まほ「利害の一致だと!? お前はエリカと共謀して私を陥れたのかッ!!?」


みほ「ちゃんと最後まで聞いてっ!!」


まほ「っ…」

みほ「エリカさんは…」



みほ「お姉ちゃんがいなくなることを何よりも恐れていたの…」


295 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 08:42:02.34 ID:CJE4bdvW0



まほ「…!」

みほ「そして、私も…」

まほ「みほも…?」


みほ「この家にもう戻れなくなるのがすごく怖かった…」


まほ「!」

みほ「…だから、エリカさんに協力してもらったんだ」

まほ「どういうことだ…説明しろ!」

みほ「うん…」


296 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 08:45:07.82 ID:CJE4bdvW0

みほ「私のせいで黒森峰が10連覇出来なかった」

みほ「そして、その責任から逃げたせいで、一時はお母さんに勘当されそうになったよね…」

まほ「…確かにお母様は言っていたな。だがそれは過去の話だ」

みほ「うん…。だけど、私はいつかは必ず、家に帰らないといけない日が来るから、お母さんと仲直りしなきゃダメって思ったんだ……」

まほ「…」

みほ「前に大洗が廃校になりかけた時に家に帰ってきたけど、あの時はお姉ちゃんがいたから家に入れた」

みほ「…でも、もしあの時お姉ちゃんがいなかったらって思うと………」

まほ「…」

みほ「この先も廃校騒ぎが起きたり、何かあって家に戻る事があるかもしれないし」

みほ「仮に起きなかったとしても、卒業したあとの進路によってはお金がいるから…」

まほ「………」


297 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 08:49:35.17 ID:CJE4bdvW0


みほ「そしたらある日、エリカさんから連絡が来て『家元と仲直りしたいなら私に協力しなさい』…って」

まほ「エリカが…?」

みほ「うん。…『私が記憶喪失のフリしてアナタたち親子の仲裁をしてやる』って…」

まほ「エリカのやつ、そんなことを…」

みほ「エリカさんのおかげで私はお母さんと仲直りが出来て、家にも帰れるようになった」

まほ「…確かに。驚くほど早く和解できた。それについてエリカには感謝している」

まほ「…ただ、わからないことがある」


みほ「わからないこと?」

まほ「ああ…」

まほ「何故、エリカはわざわざ記憶喪失を装う上で、更にそこから"みほの記憶"だけを切り取ったのか」

みほ「…」

298 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 08:52:45.58 ID:CJE4bdvW0


まほ「今の話が事実だとして、"みほの記憶"だけを削る必要はあるのか?」

みほ「…」

まほ「そんな回りくどいことをせず、単に"西住家のふり"だけすれば良いだろう? わざわざ"みほは知らない"とする理由はない」

みほ「そうだよね…」

まほ「なら…!」


みほ「私にもわからない」


まほ「…わからない?」

みほ「私は『記憶喪失のフリをする』としか言われなかったから、エリカさんがそこから私の記憶を消した理由まではわからないよ…」


299 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 08:54:26.46 ID:CJE4bdvW0


― そう…アナタがみほなのね

― へ?



まほ「…ならば、あの会話は…」

みほ「一瞬、"えっ?"ってなったかな…」

まほ「…」

みほ「あのあと、お姉ちゃんからエリカさんのことを教えてもらって、そこで初めてエリカさんは"私の記憶"まで消しちゃったことを知ったの…」

まほ「"みほの記憶"を消した理由は、もはやエリカ本人だけしか知らないということか…」

みほ「うん…」

300 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 09:02:21.44 ID:CJE4bdvW0


まほ「…では、エリカの言う"私がいなくなることを何よりも恐れてた"というのは?」

みほ「エリカさんはね、中等部に入る前からずっとお姉ちゃんに憧れてたんだ」

まほ「…」

みほ「もちろん、エリカさん以外の人だってお姉ちゃんに憧れている人は多かったと思うよ?」

みほ「何しろ、黒森峰だけでなく高校生でNo.1の実力者だからね。お姉ちゃん」

まほ「…」

みほ「多くの人がお姉ちゃんに憧れると同時に、多くの人が黒森峰の厳しい練習に耐えられずリタイアしちゃったよね…」

まほ「…それは仕方ない。黒森峰は常に王者で在り続けなければならない。生半可な練習では駄目だ」

みほ「そんな厳しい練習で生き残ったのがエリカさんだった…」

まほ「エリカは他のどのメンバーよりも優秀だった」

まほ「だからこそ私の後継者としてエリカを選び、手塩にかけて育てたつもりだ」

301 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 09:06:37.59 ID:CJE4bdvW0


みほ「それについてはエリカさんもきっと喜んだと思う。努力が実ったからね」

みほ「…でも、同時に」

まほ「ん?」


みほ「ものすごく不安だったと思うんだ」


まほ「!」

みほ「全国トップのお姉ちゃんと、自分自身を重ねて、そのギャップに悩んで、プレッシャーに押し潰されそうになって…」

まほ「ば、馬鹿なッ! エリカに限ってそんなこと!」

みほ「私だって大洗の隊長やって不安やプレッシャーで押しつぶされそうになること、よくあるよ…」

まほ「そうなのか…!?」

みほ「うん。…でも私はまだ黒森峰じゃないからそこまで厳しくないし、困った時はみんなが助けてくれるから大丈夫だった」

みほ「でも、エリカさんは」

まほ「エリカは…?」







みほ「今も、そしてこれからもずっと一人ぼっち…」





302 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 09:09:56.60 ID:CJE4bdvW0

まほ「!!」

みほ「…だからエリカさんもきっと」

まほ「馬鹿も休み休み言え! エリカは私が………っ!!」



― 最強の学校の隊長という並々ならぬ重圧で誰かが潰れることを防ぎたいということ。



みほ「うん…。黒森峰は大洗とは全然違うんだ…」

まほ「…嘘だろ…エリカが………」

みほ「お姉ちゃんなら、わかるよね…?」

まほ「それじゃ…エリカは…!?」

みほ「何かしらの形でプレッシャーから逃れたかったのかな…?」

まほ「ふ、ふざけるな!! 何のために今まで育ててやったと思っているッ!!!」

みほ「…」

まほ「責任から逃れたいから記憶喪失だと!? そんなもの黒森峰の副隊長がとる選択ではないッ!!!」

まほ「副隊長どころか普通の黒森峰生としてもあるまじき行為だッ!!!」


303 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 09:10:42.71 ID:CJE4bdvW0


みほ「…というのが一つ」



まほ「なに!?」

みほ「もう一つの方が大事…かな……」

まほ「もう一つだと…?」

みほ「うん。さっきも言ったけど…エリカさんのおかげで私は家に帰ることができた…」

まほ「…?」

みほ「…それどころか、本当に久しぶりに"家族"に恵まれた」

まほ「!」


304 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 09:52:35.46 ID:CJE4bdvW0


みほ「あはは……え、エリカさんには…もう…頭が上がら…ない…かも………」

まほ「みほ…?」

みほ「…だっ…て………」


みほ「……私のせいで……もう……二度と戻らないっ…て思ってたもん………」ツー...


まほ「!!」

みほ「……それにお姉ちゃん…もうすぐ…"お別れ"だから……」

まほ「………」

みほ「……次の大会……お姉ちゃん出ないもんね…………」

みほ「そうしたら……私も…お姉ちゃんもひとりぼっちになる………って…………」

まほ「……っ………」

みほ「………だから…そうなる前に…って…………」

まほ「………エリカ………っ…………」

みほ「………あはは…え…えりかさん…らしい…よね………」

まほ「…私が馬鹿だった……すまん…エリカ………!」

305 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 10:00:12.31 ID:CJE4bdvW0


みほ「……家族ってすごくいいね…って思った………」

まほ「…ああ……この2日間…本当に楽しかった………」

みほ「…でも……当分……会えないからね………寂しいよ……やっぱり……」

まほ「…はは……バカを言うな…永遠の別れじゃあるまい…」

みほ「………」

まほ「…行こう」

みほ「えっ……?」

まほ「…手のかかる"妹"を、探しに」

みほ「…うん……お姉ちゃん、そんな顔じゃ探せないよ……ほら、ティッシュ…」

まほ「…みほこそ私の服に鼻水べっとりつけて…ほら、鼻をかめ」

みほ「うん……!」


306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/02(火) 10:10:11.23 ID:OPIKcW+SO
西住殿が鼻をかんだティッシュ
307 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 10:10:24.30 ID:CJE4bdvW0


エリカは自身に課せられた責務から逃れるため記憶喪失を装ったと思っていた。…だが、それは私の大きな間違いだった。

それどころかエリカはずっと、私やみほのことを案じていた。

偶然起きた事故を利用して、記憶喪失を装って西住の人間となり、西住の人間をひとつ屋根の下に集めた。みほには家に戻れと指示したのだろう。

そしてお母様とみほの関係を修復するべくじっと待ち構え、ついにその時が来てエリカは動いた。

その結果、みほとお母様は和解し、いつぶりか分からないほど懐かしいあの時の"家族"が戻ってきた。


エリカが家に来てから、私たちは家族という"憩い"を取り戻すことができた。

お母様やみほ、そしてエリカと食卓を囲って食事を取り

姉妹そろって温かい風呂に入り

今日も色々な事があったと、一日の出来事を振り返りながら床に就く…。

客人を招いて鍋をつついたり友人と長電話に洒落込むこともあったな。そういえば。

いずれも戦車道に明け暮れるだけの日々だった以前の私には考えられないようなことばかりだ。

そして、そんな日常を、エリカは私やみほに与えてくれた…。


308 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 10:14:18.79 ID:CJE4bdvW0

【とある場所】



まほ「ここにいたか」

エリカ「っ! …ね…あっ……たい…ちょう………」

まほ「…」

エリカ「…わ………」

まほ「帰るぞ。ほら」

エリカ「え………?」

まほ「家に帰るぞ。エリカ」

エリカ「……はい…」

まほ「…全く。出て行くにしても裸足で出歩くやつがあるか」

まほ「それに私の浴衣をまた泥だらけにしてくれたものだ…」

エリカ「……もうしわ

まほ「本当に手のかかる妹だよ。エリカは」

エリカ「!」

エリカ「た……た……」


エリカ「隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

309 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 10:21:12.70 ID:CJE4bdvW0


まほ「こらっ! 泥まみれで抱きつくやつがあるか! 私まで汚れるだろうが!」

エリカ「ずびばぜんだいぢょぉ………!」

まほ「…やれやれだな」

エリカ「わ、わだじはぁ…X@〒※334♂…ゲホォッ!!!」

まほ「わかった。わかったからまずは落ち着け。そして鼻水を拭け」



エリカのやつ、号泣しながら喋るのものだから何を言っているのかさっぱりわからん。

だが、無事に見つけることができて、丸く収まりそうだからひとまず安心した。

そうとわかれば速やかに家に戻り、泥まみれの虎ならぬ、泥だらけのエリカを風呂に放り込んでやらねばならん。

泥だらけなのに抱きつくものだから、私まで泥まみれになってしまった。

310 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 10:22:23.45 ID:CJE4bdvW0


【西住家の風呂】


まほ「それにしても随分と汚れたものだな…」

エリカ「…だ、大丈夫です隊長! わ、私一人で洗えますからっ!」

まほ「馬鹿を言うな。折れた腕でどう洗えと言う」ワシャワシャ

エリカ「ぅ…」

まほ「………楽しかったぞ」モシャモシャ

エリカ「えっ…?」

まほ「楽しかった。この二日間」

エリカ「そ、そうですか…?」

まほ「ああ。エリカが取り戻してくれた"家族"のおかげでな」

エリカ「!」


311 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 10:25:46.55 ID:CJE4bdvW0



まほ「戦車道だけだった私には、どれもこれも久々過ぎてむしろ新鮮に思えてしまう日々だった」

エリカ「そ、それは良かった…です…!」

まほ「ああ…それとエリカ、お前にはもう一つ大事な話をしよう」

エリカ「大事な話…?」

まほ「あの事故は偶然かもしれない」

エリカ「!」

まほ「…だが、そこから先のお前の行動は黒森峰の者としては不適格だ」

エリカ「………」

まほ「だから、エリカ」












まほ「ティーガーIIと同じ71口径8.8cm砲を搭載した車輌を3つ答えよ」

312 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 10:26:55.58 ID:CJE4bdvW0

エリカ「………はい?」

まほ「ティーガーIIと同等の主砲をもつ車輌の名前、3つ答えろ」

エリカ「え…えーと…? ヤークトパンター、エレファント…あとは…………………?」

まほ「まだまだだな。残り1つはヤークトティーガーだ」

エリカ「えっ? や、ヤークトティーガーは『12.8cm PaK44』では!?」

まほ「甘い。ヤークトティーガーの中でも『Sd.Kfz.185』という、ごく少数の車輌にはPaK44ではなく『8.8cm PaK43』を搭載している」

エリカ「そ、そんなマニアックなものは知りません…!」

まほ「それでは困る。お前は来週から私の代わりに頑張ってもらわないといけないからな」

エリカ「だからといってそんな知識は急には………えっ?」

313 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 10:30:33.31 ID:CJE4bdvW0


まほ「どうした?」

エリカ「今…"私の代わりに"って言いました…?」

まほ「ああ。言ったな」

エリカ「あの…それはどういう…?」

まほ「…」

エリカ「…まさか?!」

まほ「そういうことだ」



まほ「逸見エリカを黒森峰の隊長に任命する」




ようやく決心がついた。
314 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 10:55:40.49 ID:CJE4bdvW0



エリカ「!!!」

まほ「今思うと、私はもっと早くに退いて、隊長を受け渡すべきだった」

エリカ「そ、そんなことは…!」

まほ「…だが、私も不安だったのだろう。自分が去った後の黒森峰がどうなるかと…」

エリカ「…」

まほ「それでも時間はまだ残っている。私自身が納得するまで徹底的にお前を指導してやる。任命者としての責任だからな」

エリカ「ほ、本当ですか!?」

まほ「ああ。そうと決まれば明日から特訓だ」

エリカ「えっ? 今日は?」

まほ「寝る。どこかの誰かさんのせいで明け方まで起きていたからな」

エリカ「…すみません」



記憶喪失を装い、私を欺いたエリカの行為は称賛できるものではない。

…だが、その行為のおかげで私やみほは失ったものを取り戻すことができた。

私やみほがどれほど望んでも手に入れられず、諦めかけていたものをエリカは瞬時に取り戻した。その優れた作戦は見事というほか無い。

そしてその作戦を生み出した、エリカが持つ計画性・行動力・判断力は、隊長になる者として相応しいと判断した。

エリカの作戦は私の不安を吹き飛ばし、重大な決断を後押しするものとなった。

315 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 10:57:17.68 ID:CJE4bdvW0


エリカ「あの…隊長…」

まほ「なんだ?」

エリカ「何故、私があそこにいるとわかったんですか?」

まほ「簡単なことだ」

エリカ「えっ?」

まほ「今朝通ったばかりだからな」

エリカ「…」

まほ「エリカのことだ。逃走する一方で、自分を探して見つけてくれることを望んでいたのだろう?」

エリカ「うっ…」

まほ「そして、道中で足でも滑らせたのだろう。そのままドブ川に真っ逆さま」

まほ「こんなところだろう?」

エリカ「…全部、当たりです」


316 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 10:58:54.78 ID:CJE4bdvW0


まほ「それにしても、エリカがあのようなことをしたとはな。未だに信じられん」

エリカ「も、申し訳ありません…」

まほ「私の横で堂々とあくびをして、フニャフニャになってくつろいで」

エリカ「…え」

まほ「事あるごとに私の目を見て"バカなの?"と抜かすこともあったな」

エリカ「そ、それは……」

まほ「そのほか戦車の中で砲弾をぶつけてくるわ、ニンジンを押し付けるわ…」

エリカ「うっ…」


まほ「股ぐらに戦車の玩具を当てて何と宣ったものか」


エリカ「なぁっ?!」

まほ「…目と耳を疑いたくなる光景は多々あったが、その中でも頭一つ置いて驚かされたな。ははは」

エリカ「あ、あれはっ!」


まほ「そして極めつけに糞尿の始末をさせられたしな」


エリカ「ですからフンはしてませんッ!!!!」

まほ「洗わされる側からしたら一緒だと言っているだろう」

エリカ「ぐ…」


317 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 11:05:48.78 ID:CJE4bdvW0



本当に信じがたい。エリカがここまで変わるとは。

最初は記憶喪失によってあそこまで変わったことに驚いたが、後にその記憶喪失が嘘っぱちだと知り、それらが全部"演技"だったというのだからなお驚く。

今でもここにいるエリカは実はエリカではなく、エリカそっくりの別人なのではないかと疑いたくなるほどだ。


しかし残念だな。

私の知らないエリカの意外な一面を垣間見ることができたと思いきや、それが私達を欺くための演技だったのだから。

…いや、もしかすると演技とは別に、エリカはプライベートでは本当にあのようにフニャフニャになっているのかもしれない。

なにせ四六時中シャキッとしている人などいないからな。私も風呂や自室でくつろいでいる時はフニャフニャとまではいかないが、気が弛む。


だが、どうであるにせよ、クマのぬいぐるみに怯えて糞尿を垂れ流すのだけは今回限りの"演技"であってほしい…。


318 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 11:06:48.80 ID:CJE4bdvW0


エリカ「そ、そんなこと言ったら私だって隊長の意外な一面を見ましたからっ…!」

まほ「ほう。どんなだ?」

エリカ「ピーマンが嫌いなところとか」

まほ「嫌いではない。積極的に食べようと思わないだけだ」

エリカ「機械音痴なところとか」

まほ「電源のオンオフができれば十分だ」

エリカ「えぇ…」

まほ「…」

エリカ「あ、あとはレトルトカレーひとつ満足に作れませんしね?!」

まほ「作り方が違うだけで作れないわけではない。道は一つだけとは限らない」

エリカ「ぐぶぶ…」ブクブクブク......

まほ「フッ。まだまだだな」



〜〜〜〜

319 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 11:10:23.10 ID:CJE4bdvW0


エリカ「…ところで、みほはどうしたんです?」

まほ「なに?」

エリカ「みほです」

まほ「みほなら寝て………あっ!」

エリカ「…」ジトー

まほ「何だ? 文句があるなら堂々と言ったらどうだ?」

エリカ「…いえ。隊長も粗忽なところがあるのだな…と」

まほ「…」

エリカ「…」



…エリカのやつ、以前より生意気になってないか?

だが今はそんなことはどうでもいい。それよりもみほのことを完全に忘れてた。

みほは今もなおエリカの捜索に出たままだ。このまま放置したらあの子は地球の裏側までエリカを探しに行きかねん。

急いで風呂から出て、みほを電話で呼び戻した。


320 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 11:16:33.54 ID:CJE4bdvW0

〜〜〜〜





みほ「」ブスッ

まほ「その、すまなかった」

みほ「私のこと、完全に記憶から消えてたんだよね」ツーン

まほ「すまん…」

みほ「どーせ私なんかエリカさんにもお姉ちゃんにも忘れられる存在だよ…」ムスッ

エリカ「みほ。隊長も反省してるんだから許してあげたら?」

みほ「…元を言えばエリカさんが悪いんだよね?」

エリカ「だからゴメンって謝ってるでしょう?」

みほ「ふん…」プイッ



エリカにかまけていたら実の妹の方を完全に忘れるという大失態をした。

皮肉にも"みほの記憶"というのは、色んな人の頭から消えてしまう運命のようだ。

…いや、消えてもらっては困る。何しろ私の妹なのだからな。


しかし、みほは私にもエリカにも忘れられたせいでヘソを曲げてしまった。

先程の『エリカさんにはもう頭が上がらないかも』という言葉がウソのようにヘソを思い切りひん曲げている。

一度スネたら簡単に機嫌が直らないのがみほだ。



エリカ「冷蔵庫にマカロンあったけど、食べる?」

みほ「食べる!」

エリカ「そ、そう…」

まほ「…」

みほ「えへへ〜 マカロン最高〜♪」



…と思ったら、エリカのやつ、またみほの機嫌を取り戻した。

やるじゃないか。

321 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 11:20:19.48 ID:CJE4bdvW0



【黒森峰女学園 演習場】


エリカ「全車、エンジン始動!」

エリカ「第一中隊、前進!」

エリカ「第二中隊、所定の位置に展開!」

エリカ「第三中隊、全車全速にて突貫せよ。Panzer vor!!」

エリカ「砲撃用意………撃てッ!!」



その後、記憶が元に戻った(説明すると面倒なのでそういうことにする)エリカは無事黒森峰に戻った。

そして改めて皆に、エリカに隊長を引き継がせたことを伝え、副隊長には赤星・直下2名を指名した。今後はこの3人に黒森峰を引っ張ってもらう。

私は現役を引退し、一歩離れた場所から彼女たちの活躍を見守っている。

新しく隊長となったエリカは、私の意思を引き継いでくれたようで、隊長としての役割を卒なくこなしている。

それどころか、自分が実際に指揮しているのでないかと錯誤してしまうほど、かつて私が構築したものをエリカは忠実に再現している。

もうエリカは大丈夫だろう。

322 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 11:25:28.53 ID:CJE4bdvW0


そして私も間もなく皆と別れる。

かつて共に戦った黒森峰の仲間やお母様、みほともしばらくは会えない。寂しくないと言えば嘘になるが、遅かれ早かれ別れの日はやってくる。

それに私は更なる高みを目指さねばならないから、いつまでも同じ場所に留まり続けるわけにはいかない。

何しろ気を抜けばあっという間にエリカに追い越されてしまうからな。いつまでも感傷に浸っている場合ではない。


…とはいえ、エリカとしばらく会えなくなるのは辛い。

自分を偽っていたとは言え、姉さん姉さんと私にべったりくっついていたので、心なしか本当の妹のように思えてしまう。

もう二度と私のことを「姉さん」と呼ぶことはないだろうが、またあの日のように甘えてくれないだろうかと、心の何処かで望んでいる自分がいる。

記憶喪失を装ったエリカが、あえて"みほの記憶"だけを削ってた理由も"妹"として、より私との距離を縮めたかったからなのだろう。

血縁関係など無いが、エリカは私のもう一人の妹だ。


私は遠く離れた場所から、二人の妹たちの健闘を祈ることにした。







                      エリカ「姉さん」 お姉妹
323 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2018/01/02(火) 11:37:43.09 ID:CJE4bdvW0


ということで完結です。

読んでくれた人、レスしてくれた人ありがとう。

HTML化依頼して次のSSを書く作業に戻ります。



■過去作

・【ガルパン】みほ「猛特訓です!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474376201/

・【ガルパン】西住みほ「IV号対空戦車?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475267396/

・【ガルパン】西「四号対空戦車?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491635145/

・【ガルパン】西「四号対空戦車?」 後期型
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1508644014/

・【ガルパン】典子「下剋上?」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509460971/

324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/02(火) 13:30:24.91 ID:6qCm/6P/0
新年からいい話だった乙
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/02(火) 14:28:23.07 ID:MYF7Gv/60
乙ー
プライドが高そうなエリカがだらしない姿を尊敬する隊長に見せつけられる演技力は女優になれるレベル
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 10:17:49.37 ID:4ua1Sm7a0
内容もさることながら
文体というか、まほの語りが面白かった。
327 :以下、名無しのかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/06(土) 01:20:00.41 ID:U+th0p/r0
演技にしては人格変わりすぎではw
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