勇者「よーし、いっちょ叛乱でもするか!」

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229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 00:28:57.75 ID:LrMKao7DO
乙…
230 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/07/03(火) 00:50:54.46 ID:nZ+RnUe20
次から次へと、報告書が軍師の卓に積まれていく。
灌漑用のため池や用水路の不足が大半だった。
大唐国が亀茲城に兵を集めていることも報告されている。

大唐国の存在は、軍師にとって悩みの種のひとつだ。
彼らは王国と同盟関係にある。

数年前には、将軍・高仙芝が自軍を率いて小勃律国を打ち破った。
剣のごとく鋭い、峻険な山々を大軍で越えたのだから驚きだ。
もし今バルフが高仙芝に攻め込まれれば、確実に陥とされてしまう。

軍師「間諜がいたら大分楽だったろう」

彼は天井を見上げながら、ポツリと呟いた。

軍師「あの女、性格はともかく能力は優秀だった」

間諜の横顔が軍師の脳裏に浮かぶ。
優しく微笑んだ間諜。
心配そうな眼差しを向ける間諜。
怒ったように頬を膨らませる間諜。
人差し指を唇に当て、ウィンクした間諜。

軍師「仕事中に考えることではないな」

一度だけ、廷臣との会議中に頭痛で倒れたことがある。
その時、間諜は素早く駆け寄り、軍師を書斎まで運んでくれた。
彼女の肌は、絹のようにきめ細かく滑らかだった。

乳房も大きい。
服の上からでも、柔らかく潰れているのをはっきりと感じ取れた。

軍師「だから、何を考えているのだ。私は」

軍師とて人の子。
何日も狭い部屋の中で膨大な報告書と向き合っていれば、おかしくなってしまうのも無理もない。
そう、思うことにした。軍師は溜息を吐いて椅子から立つと、寝台に倒れ込んだ。

軍師「間諜を、抱いてやる」

言った直後、彼は毛布に顔を埋めて悶絶した。
35にもなって、まだ思春期が抜け切れていないのか。
女と縁がないことなど、誰よりも自分が分かっているはずなのに。

軍師「私は軍師失格だ。女に心を乱されるなど、あってはならないことだ。だが……クッ……」

勇者と話す間諜を見るたび、胸が引き裂かれるように痛む。
痛んだ心を奥底にしまい込み、再び軍師は卓に向かい、筆を執った。
231 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/07/04(水) 01:02:09.07 ID:Fje6RjDZ0
木の葉の隙間に、ちらちらと炎が揺らめいて見える。
忍達が焚火を囲んで休んでいるのだ。
彼らは大富豪が雇った、腕利きの諜報部隊だった。
本名を捨て、感情を殺し、ただただ任務に従事する。

諜報の他に、暗殺や工作活動も行えるらしい。
いずれ特別攻撃部隊、略して特攻部隊と名を変え、間諜の部隊から独立させる。
そう、大富豪は言っていた。

間諜は忍の小隊長を務める黒髪の青年に声をかけた。

間諜「進捗状況はどうだ」

忍B「……」

忍Bは無言で頷いた。
初めて会った頃から、寡黙な男だった。
影たる者、余計な感情は必要ない。口数も少ない方がよい。

そのため、間諜も部下と向き合う時は最低限の言葉しか話さなかった。
冷徹なクノイチを演じることで、隊の中に緊張が生まれる。
精神と肉体を極限まで追い詰め、ようやく最強の諜報部隊は誕生するのだ。

間諜(これもみんな、勇者さんの笑顔が見たいから。もっと、喜ばせてあげたい。もっと、あの人の役に立ちたい)

タシケントとバルフを結ぶ、安全な輸送経路の確立。
王国軍に見つからないよう慎重に進めなければならない。
大型の輜重車も通れるように、なるべく平坦な道を選んでいる。

バルフから十数里北東へ向かった先にある、ドゥシャンベ郊外で間諜隊は休息を取っていた。
町へは入らない。ドゥシャンベの門衛は国王同様に猜疑心が強く、長い時間をかけても、全ての荷物を検めるのだ。

忍B「……隊長」

彼の口調にはやや棘があった。
数日間、バルフに戻っていたことを咎めているのではない。
間諜の身にまとう殺気が、緩くなったからだ。

それどころか、くだらん町娘が醸すような甘ったるい気まで見える。
表情に出さずとも、仕草や雰囲気で察知できた。

間諜「ごめんなさい」

謝ったものの、勇者と過ごした夢のような時間を忘れることはできなかった。
自分は間諜失格なのかもしれない。彼女は両手を顔にあて、大きく溜息をついた。
隣で、忍Bがぼそぼそ小声で呟いている。

忍B「……その時は、俺が隊長を殺します」

232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/06(金) 01:20:42.75 ID:UsTeNwHDO
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/06(金) 01:21:12.10 ID:UsTeNwHDO
234 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/07/14(土) 22:55:05.72 ID:5bdkGI0Z0
側近「新生勇者を野放しにしてはなりません! バルフ付近の村が次々と取り込まれています。軍として形が整いつつあるのです」

側近の巨大なターバンが国王の目の前で右と左、せわしなく動き回っていた。
王に仕えてはや40年。
酸いも甘いも共に経験してきたからこそ、国王の弱点が自堕落さにあることを見抜いていた。

国王「分かっておる。だが、もう少し待ってもよかろう」

側近「待つ? 何をです」

国王「秋(とき)を」

側近「勇者軍が成長するのを待つおつもりですか? 愚かな! そんなことをして万が一、王都が攻め落とされたとあっては取り返しがつかんのですよ」

国王は鬱陶しそうに溜息を吐くと、一冊の本を懐から取り出した。
表紙は山羊の皮をなめして作られたものか。題名はない。

国王「どこの誰が書いたか知らぬが、国の腐敗を書き連ねた小説だ。王都に来た商人の荷に混じっていた」

本を開く。ページをめくる。王が目を細めた。
まるで逃げ出した獲物を狙う鷹のように。
覇気が全身から溢れている。
側近はごくりと唾を飲んだ。

国王「この小説を書いた人間に、会ってみたいのう。そして、その者が苦痛に顔を歪ませながら死にゆく様を眺めてみたい。すぐに首を刎ねるのはいかんぞ」

側近「書いた人物は、勇者ではないのですか?」

国王「字を見てみろ。柔らかく、丸みを帯びている。おそらく女が書いたのだろう。それも、幼い少女じゃ」

側近「少女が!? そんなバカな……」

国王「何を驚いておる。王都の神学校にも、教養を身につけている少女は沢山いるではないか。これも、その内の一人。勇者軍め、意外と人材は豊富らしい。だが、今にこの小説の作者を捕えてみせる。少女をいたぶるのは、実に十数年ぶりだからのう」

国王は口元に嗜虐的な笑みを浮かべた。
235 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/07/14(土) 23:32:45.48 ID:5bdkGI0Z0
国王は玉座から立ち上がると、庭園へ歩いていった。
数人の侍女がいそいそと後をついていく。今日は日が照っている。
日傘をさしたり、巨大な団扇で扇いだりするのだろう。

国王「勇者軍は次に何をすると思う」

勇者軍というより軍師だが、と国王は付け加えた。
彼は軍師の能力と忠誠を高く評価していた。
だからこそ、先代勇者と共にバルフの統治を任せたのだ。
バルフを第二の王都とするつもりで。

側近「物流の管理、法整備、兵力の増強、様々ございますが、いずれ新たな拠点を築くでしょう。それも、王権の及ばぬ場所にです」

国王「王権の及ばぬ場所、か……」

エルフ族の治めるサマルカンドとドワーフ族の棲むカーブル。
最初に思い浮かんだのはその二都市だ。
国王は考えた。自分が軍師なら。
南方のカーブルよりも、アムダリヤ川でバルフと結ばれたサマルカンドを自軍の領土としたいはずだ。
肚は決まった。

国王「勇者軍より先に、サマルカンドを手中に収める」

側近「精霊王が容易に町を明け渡すとは思えませぬが」

国王「ジザフの地方軍は優れた将が多く揃っていたろう。早急にエルフ討伐軍を編成し、サマルカンドを攻め陥とせ」

側近は瞬時に悟った。騎士、戦士、剣士のことを言っているのだ。
勇者軍を牽制しながら、新たな領地まで得ようとしている。
それも酒の上の妄言ではなく、本気でサマルカンド占領を目論んでいるのだ。

側近「で、ですがエルフ族には、先の大戦で援軍を出してもらった大恩がございます。恩を仇で返すのは人道に反する行為ではないかと……」

国王「人道が何だと言うのだ。やれ。余の命が聞けぬか」

側近「……かしこまりました。軍部にそのように伝えておきます」

白騎士の精鋭部隊を以てしても、中々崩せない堅陣を敷く騎士。
勇者パーティーのひとりとして魔王討伐を達成した戦士。
そして統率力では王国軍随一の剣士。

この3人が集まれば、なるほどエルフの町など簡単に呑み込んでしまうだろう。
しかし、側近には漠然とした不安があった。
完璧な計画。その中に生まれた、ほんの小さなほつれ。
その小さなほつれが、いずれ破滅的な失敗を引き起こすのである。

側近「私が陛下の味方をしなくて、誰がするというのだ」
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/15(日) 02:55:18.96 ID:OyXTos7DO
237 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/07/26(木) 22:28:22.95 ID:02ZN5DCz0
真夏の高原。
爽やかな風。
草の匂い。
馬蹄の響き。

戦士「止まれ」

戦士は訓練用の戦斧を肩に担ぎ、馬上でじっと目を凝らしていた。
彼の背後に控えるは、物々しい甲冑に身を包んだ3000の兵。

魚鱗鎧。

誇り高き王国軍の一員であることを示す、名誉の鎧だ。
戦士は数名の部下を斥候として送り出した。
索敵の怠りは死を意味する。

それは訓練中の今とて同じである。

斥候A「四里ほど先に歩兵3000。指揮官を中央に据え、方陣を組み、守り固めているようです」

戦士「相変わらず、守りの戦が好きよのう。良かろう、吾輩がその堅陣、打ち破ってみせよう」

今回の相手は戦士の副将・盾士である。
盾を構えた歩兵に対する突撃訓練として、戦士が直々に頼み込んだのだ。
見知った相手だからこそ、手の内を知り尽くしている相手だからこそ、逆に油断はできない。

斥候B「しかし、将軍も物好きですね。盾兵は動きが鈍い代わりに、長槍を携えています。どう考えても騎馬隊では相性が悪いのでは」

相性が悪い相手であろうと、とことん攻め立てる。それが戦士の戦だった。
あまりに苛烈なので、訓練でも死人は出る。
その地獄のような訓練を乗り越えたからこそ、戦士の部隊は王国軍でも無類の攻撃力と突破力を誇るのだった。
彼の前では槍も飛び道具も、路傍の石と同じである。

戦士「吾輩が道を開く。お前達は後に続け」

戦士は3000のうち1000を連れ、二列の縦隊を組み、駆け始めた。
238 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/07/31(火) 17:32:47.70 ID:fNHxSn0F0
なだらかな丘陵の頂に上った。

戦士「あれが盾士の陣か」

眼下に広がる巨大な正方形の影。否、影ではない。
漆黒の盾を隙間なく並べているので、影のように見えるだけだ。

さらに目を凝らすと方陣の中に、八つの小さな陣が敷かれている。
その陣が互いに連携し合い、まるで迷路のような形を取っているのであった。

戦士「ああいう陣は大抵、八つの方角に入る門が分かれている。北、北西、北東、東、西、南東、南西、そして南。正しい方角を見つけねば、非常に厄介なことになる。どれが正しい門か、分かるか?」

誰もが息を飲んで、眼下に広がる奇妙な景色を見つめていた。

戦士「知らずともよい。あれは大唐国に古くより伝わる方術と深く結びついた布陣。知らない方が普通なのだ」

このような陣を張るのは、王国軍では盾士の他に誰もいない。
当の本人である盾士が、一番親密な戦士にすら陣の張り方を隠していたからだ。

誰にも分からない、霧に包まれた謎の戦法。
打ち破るのは困難だろう。

戦士「だが、狡猾な吸血鬼やリザードマンではない。人間の張る陣だ。必ずどこかにつけいる隙がある」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 00:25:19.12 ID:UZW9tGWDO
来てたか乙
240 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/08/01(水) 23:13:34.13 ID:VLtlB4jN0
戦士「ガハハハハ! そこじゃあッ!」

戦士の斧が血を求めて低く唸る。吹き飛ばされた盾が宙を舞った。
波が引くように、周囲の盾兵が道を開ける。勢いを殺さず、陣の内側へ突撃した。

両側は木柵。槍が突き出される様子も、進路を阻む兵の姿も見えない。
正しい方角から入ったのか。ふと、戦士の背筋に何か冷たいものが走った。

戦士「本当に、正しかったのか?」 

衝突する時、妙に手ごたえが無かった。
盾兵の退き方も落ち着いている。

戦士が入るのを、予想していたかのごとく―――

兵士A「将軍! 退路を塞がれています!」

戦士「ぬうッ!? これは……!」

気が付けば、戦士の周囲は大量の槍、槍、槍。
槍で埋め尽くされていた。

退路を断たれてはどうしようもない。圧し潰されるだけだ。
ゆっくり、食虫植物が捕えた蠅を溶かしていくように、じんわりと。

戦士「否、まだ負けてはおらぬ。一時撤退するぞ!」

戦場に響き渡る戦士の怒号。兵が一斉に顔を上げた。

戦士「貴様、その槍を寄こせ!」

近くにいた盾兵から槍を奪うと、戦士は馬腹を勢いよく蹴った。
甲高くいななき、盾兵の海へ踊り込む戦士の馬。

戦士麾下の将校らも続々と武器を振り回し敵を薙ぎ倒す。
その勢いたるや虎と呼ぶべきか龍と呼ぶべきか。盾と槍を放り捨て逃げ始める兵も現れた。

戦士「やっと抜け出せたが、どうするべきか……」

振り向けば、陣形は再び元の状態に戻っている。
何物も寄せつけない盾の要塞。

装甲をまとった、巨大な虫を相手しているような気分だった。
見かけは地味だが、装甲の中には鋭い牙を隠している。

不用意に攻め込めば喰われるのはこちらだ。
何とも見事な陣を敷いたものである。

戦士「少し戦法を変える必要があるな」

どの方角が正しいなど、勘に頼るのはやめた。
そもそも、どの方角もハズレなのだ。

攻め込めば、盾士は瞬時に隊列を変えてくる。
外側は岩のように硬く、内側は流砂のように柔らかい。

そんな不規則な陣を相手に、従来の戦法が通用するはずないのである。
241 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/08/11(土) 00:21:22.07 ID:pZhPrSd+0
戦士「これから吾輩は、酷な命令を下す」

戦士「普段から長駆の訓練は積んでいるが、今日はそれ以上に過酷だ。もし辞退を願う者がいれば、今はっきり申しつけよ」

誰も挙手しない。

戦士「それでこそ我が軍よ」

戦士は駆けた。兵も懸命に後を追う。
方陣に動きは見られない。
突撃すれば、再び中へ引きずり込まれるだろう。

戦士「ゆくぞッ!」

訓練用の戦斧を構えると、ぶつかり合う寸前のところで馬の手綱を右へ引っ張った。
隊列が直角に曲がる。

盾兵A「突っ込んでこないだと!?」

盾兵B「戦士様は何を考えておられるのだ!?」

盾兵C「どうでもよい、突いてしまえッ!」

戦士「馬鹿めが」

戦士は突き出された槍を次々と戦斧で叩き折っていった。

戦士「まず、牙を折る」

二週目。今度は一週目よりも深く食い込み、最前列の盾兵を方陣の外へ突き飛ばした。
波に乗った戦士隊の勢いは誰も止められない。
242 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/08/11(土) 00:23:48.53 ID:pZhPrSd+0
戦士「そろそろ、頃合いだろう。戦士隊の底力、今こそ見せる時ぞ」

戦士は兵が密集していない場所から、陣の内側へと潜り込んだ。
方陣は半分以下まで小さくなっている。懸命にまとまろうとするも、そこは戦士隊が許さなかった。
即座に割り込み、盾隊を分断する。

戦士「見えたぞ。悠長に盾など構えおって」

中央に佇む老将の姿を認めた。
己の背丈よりも大きい盾を構え、状況の分析を行っている。

一瞬の油断が、戦場では命取りとなるのだ。
戦士は無力化した盾の海を突き抜け、盾士の首筋に戦斧を振り下ろした。

戦士「はあッ!」

盾士「むんッ!」

咄嗟に反応し、打撃を防ぐ盾士。
飛び散る蒼白い火花。
耳障りな金属音が、訓練終了の合図となった。

戦士「吾輩の勝ちですな、叔父上」

盾士「……やれやれ、降参じゃ。奇妙な戦法を使いおって」
243 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/08/11(土) 00:29:09.78 ID:pZhPrSd+0
戦士と盾士の部隊は合流した後、近くの岩山に拠った。
兵士達が各々の時間を楽しむ中、戦士は一人、頂上で火を焚いていた。
群青の闇に沈むサマルカンドがよく見える。

紺碧の街・サマルカンド。数千人のエルフが住む街だ。
建物のほとんどにラピズラズリが用いられているので、夜空の街とも呼ばれる。

かつて自分が守った場所を眺めながら喰う肉は美味いものだ。

戦士「精霊王は息災だろうか」

エルフ族とは幼い頃からの付き合いである。
叔父に連れられ、精霊王に謁見した。
何も考えず彼の耳を引っ張ったところから、精霊王との友情は続いている。

奇妙な縁だと自分でも思う。

戦士『エルフ族の助力あってこそ、魔王を討ち果たすことができた。礼を言う』

精霊王『なんの、感謝すべきは私の方だ。君は魔王軍の攻撃から街を救ってくれた』

精霊王『いつでも遊びに来い、我が永遠の友よ』

魔王討伐以降、久しく顔を合わせていない。
もし会う機会ができたなら、その時は上質な香木を持って行ってやろう。

エルフは人一倍、容姿に気を遣う種族だ。
助けられた以上、こちらも何か形で返さねばならない。

それが、盟友同士の礼儀というものだろう。
244 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/08/11(土) 00:31:18.39 ID:pZhPrSd+0
盾士「ご苦労だった、戦士」

戦士「叔父上」

隻眼の老将が戦士の隣に腰を下ろした。
盾士は戦士よりも戦の経験が豊富だ。
本来なら、将軍を盾士が務め副将を戦士が務めるはずだった。

しかし、彼は将軍の座を甥へ譲った。
戦士はいずれ、王国にとって不可欠な存在となる。
そう判断したからだった。

盾士「よくぞ儂の陣を破った」

戦士「叔父上、今回は兵士達がよく踏ん張ってくれた。そして信じてくれた。彼らのお陰で無茶な作戦も実行できたのです」

盾士「あの戦法が、いつまでも通用するとは限らぬぞ。戦とは砂の大海。時が経ち、風が吹けば形は別物となる」

戦士「肝に銘じておきます」

盾士「……後で兵達を労わってやれ」

戦士「ええ。叔父上も肉を肴に一杯、どうです」

盾士「ありがたく、いただこう」

二人の豪傑は静かに笑って杯を重ねた。
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 01:30:44.52 ID:3vsqBSqDO
246 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/08/18(土) 23:21:40.72 ID:yYJTY5ji0
魔剣士「剣士様が消えた、ですって!?」

王都アルマリクから北西に数里。
タシケントとサマルカンドの間にある小都市ジザフの朝は、令嬢剣士の叫び声で幕を開けた。

将校D「ええ。魔剣士様なら、将軍の居場所に心当たりがあるのではないかと存じまして」

朝一番に乗馬の訓練があった。
木馬を馬に見立て、走りながら飛び乗る。
訓練自体は上級将校が行い、結果をまとめて将軍に報告する。

その将軍が軍営から煙のように消えてしまったのだ。
これでは将校の報告する相手がいない。
どうしようもないので、剣士の副将である魔剣士に相談しに来た次第であった。

魔剣士「あなた達、乗馬の訓練に戻りなさい。非常事態であっても、冷静に監督すること。心の乱れは、弱さを生みますわ」

魔剣士は寝間着を脱ぐと、緋色の髪をしっかりまとめ、いそいそと戦袍に着替え始めた。
将校達の前でもお構いなしである。
というより、焦って周りが見えていないのだろう。

将校D「承知致しました。ところで魔剣士様」

魔剣士「まだいらっしゃるの? わたくしの話、聞いておりまして?」

将校D「魔剣士様。着替える際は、我々が全員退出の後にしていただくと大変嬉しいのですが」

魔剣士「……そうね。今のは見なかったことにしなさい」
247 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/08/18(土) 23:42:02.28 ID:yYJTY5ji0
ドタールの柔らかな音色が聞こえた。
ジザフで唯一の妓館。
給料が良いので、ここに勤める十代の女性は少なくない。

魔剣士「所詮は妓館。負の印象が拭えませんわ」

呼び込みの遊妓が桑の木の下で、絹服を縫っていた。
官員の着物を縫っているのだ。
ジザフの妓館では性的サービスだけでなく、実用的な雑務もこなしてくれる。

子供の世話から畑の農作業までお手の物。
何でも屋のような側面も持つのだった。
そのため、衣類を担いだ老婆が妓館へ入っていく様子もたまに見かける。

魔剣士「剣士様が行きそうな場所といったら、ここしかないですわね」

扉を乱暴に開け、ずかずかと中に押し入る。
武装した女がいきなり飛び込んできたのだ。
悲鳴をあげて逃げ惑う遊妓達。
魔剣士は部屋の並ぶ2階へと足を運んだ。

剣士「ほらほら、もっとしゃぶりなよ」

遊妓「よろしいの……ですかぁ……」

半ば喘ぐような女の声。思わず魔剣の柄に手をかける。

魔剣士(しゃぶる……? 一体ナニを……)

剣士「好きなだけ、しゃぶっていいんだよ。洗濯とか、料理とか、いつもお世話になってるじゃない。そのお礼だ」

遊妓「あふッ……んッ……んッ……///」

魔剣士(ななッ! とてもヒワイな音がしますわ!)

剣士「イイねぇ〜! イイ顔するじゃない君、俺まで興奮してきちゃったよ。やっぱり美味しいよね」

魔剣士「何してらっしゃるの、このヘンターイ!」

剣士「わーッ! ってなんだ、魔剣士ちゃんか……」

銀髪の青年は笑いながら、寝台の上にあった桃色の花をつまみ上げた。

剣士「庭先に花が咲いてたんだけど、これが美味いのなんの。魔剣士ちゃんもしゃぶってみる? 蜜のまろやかさと花の芳しい香りが絶妙にマッチし(ry」

魔剣士は無言で拳を握りしめ、ヘラヘラ笑っている剣士の顔面を殴り飛ばした。
248 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/08/18(土) 23:54:09.34 ID:yYJTY5ji0
剣士「え、どうして!? どうして殴るの!」

魔剣士「わたくしがどれだけ心配したと……兵士の皆様にも迷惑かけて、許せませんわ!」

馬乗りになって、兵士の頭をポカポカ殴り続ける魔剣士。

遊妓(なにアレ……マジ引くわ)

遊妓「あらあら、お時間が来たようです。名残惜しいですが、私はこれで〜」

思わぬ修羅場に出くわした遊妓は、そそくさと部屋を出ていってしまった。

剣士「え、ちょっと待って! そりゃないでしょ、まだ会って数分しか経ってないじゃないのよ〜!」

魔剣士「まだあの女の尻を追っかけるおつもり!?」

剣士「魔剣士ちゃん、ごめん! 謝るから! 暴力反対! やめてえぇ〜!」
249 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/08/18(土) 23:58:39.45 ID:yYJTY5ji0
騎士に呼ばれ、剣士は軍営の天幕に戻った。

剣士「こんにひわ」

騎士「派手に殴られたな。大きな痣、できているぞ」

騎士が右目の周りを指差しながら微笑む。
兜で表情が隠れているものの、声を聞けば笑っているのか怒っているのか分かるのだ。

剣士「本妻を怒らせた、なんてね」

騎士「冗談はそこまでにしておけ。朝一番に、良い知らせと悪い知らせが飛び込んできた。どちらから聞きたい」

剣士「もちろん、良いニュースっしょ!」

騎士「バルフで新たな勇者が誕生した。世代交代というやつだ。目的は知らんが、英雄が生まれたのは喜ばしい」

剣士「なぁんだ、つまんないのー。英雄がいたって敵がいないんじゃ、意味ないもんねー」

剣士「で、悪い知らせは?」

騎士「サマルカンドを陥とせと、王都から命令が出ている」

剣士「命令? サマルカンドって確か、エルフの住む町でしょ。不可侵条約、だいぶ前に結んだはずだけどなー」

騎士「勅命だ。陛下は外交で遠回りするよりも、手っ取り早く武力での制圧を選んだらしい」

剣士「なんかやだなぁ。どうしてそんなバカな王様のために、俺達が恨まれるような真似しなくちゃいけないんだい?」

騎士「それが、組織に所属するということだ。国家に忠誠を誓うということだ。私の家は代々、陛下の剣として傍で仕えてきた。たとえ煮え湯を飲まされようと、先祖の名に泥を塗ることだけは許されん」

剣士「縛られてるね〜息苦しそうだね〜。ザ・頭でっかち。ご先祖様も、あの世で呆れ返っておられるだろーよ」

騎士「なんだと?」

剣士「なぁ騎士。主君を見定めるのも、臣下の務めなんだぜ。暴君に仕える軍人ほど、暇なやつはいないさ」

天幕を出ると、魔剣士が立っていた。
サマルカンド征伐の話も、もちろん立ち聞きしていたのだろう。

魔剣士「剣士様」

剣士「どれが正しくてどれが間違っているかくらい、俺にだって分かる」

魔剣士「やはりあなた様は……」

剣士「さてと。魔剣士ちゃん、遊びに行こうぜ!」

剣士の手を、すげなく払いのける魔剣士。

魔剣士「イヤですわ。汚い手で触らないでくださる?」

剣士「ひどッ! 上官への態度じゃない!」

魔剣士「そのエラーイ上官が、部下を放って妓館で卑猥な遊びですか。最低な男。尊敬する価値など微塵もありませんわね」

剣士「卑猥な遊びなんてしていないでしょ〜! 許しておくれよ、明日から真面目に訓練するから〜!」

魔剣士「明日から? その腐れきった根性が嫌なのですわ! 剣士様にお弁当を作るのは、しばらく控えることにします」

剣士「ゲーッ! こんなことなら、夜こっそり行くべきだった……」

魔剣士「夜でもダメです!」

遠ざかっていく二人の後ろ姿を眺めながら、騎士は呟いた。

騎士「ハッハ、仲のよろしいことだ。見せつけてくれるね」
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 02:07:02.30 ID:wIiB04+DO
251 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/08/19(日) 10:55:00.23 ID:JbrWqG6U0
魔女「これから干戈を交えるであろう相手。王国軍の将軍。騎士、戦士、剣士について少し語っておこうか」

勇者「知っているのか?」

魔女「そりゃ、ボクも王都で働いていたからね。戦士とは魔王討伐の旅を共に乗り越えた仲だし」

ハザラ族の集落を出た後、盗賊団は鉄門街道を北に進んでいた。
勇者と魔女を、盗賊団の牙城に招待するらしい。

先頭を女盗賊が歩き、しんがりは盗賊が務める。
張りつめた空気。
客として招かれているはずが、まるで連行されているような気分だった。

魔女「王国軍には大きく分けて三つの階級があってね。五千人以上の軍を率いる将軍。千人程度の軍を率いる上級将校。そして百人を取りまとめる下級将校」

アルマリクは人材が少ない。
そのため、他国から力のある指揮官を金で引き抜いていた。
騎士もその一人である。

彼の甲冑は魚鱗鎧ではない。
薄い鉄板を繋ぎ合わせた簡素な鎧だが、従来の魚鱗鎧と比べると、耐久性は遥かに高かった。

魔女「騎士は頭が固かった。一度決めたら曲げない人でね。性格が敷く陣形によく表れていたよ」

魔女「戦士はそうだなぁ、大雑把な豪傑……かな。酒と戦のことしか頭になくて、勇者から脳筋脳筋ってバカにされてた。ふふふ」

魔女「三人の中で一番、下の管理がなっていないのが剣士。いっつも妓館に入り浸っていて、強いんだか弱いんだかよく分からない」

懐かしそうに語る魔女の横顔が、とても眩しかった。
同時に、暗澹たる思いも湧き上がってきた。
そうか、魔女は再び知己と殺し合わなければならないのか。

魔女「言ったでしょ、覚悟はできてる」

ギュッと心臓をわし掴みされたような衝撃。
かつて、自分も国に立ち向かう覚悟があると、魔女に宣言したことがある。

違う。

勇者の覚悟と、魔女の覚悟では、言葉の重みに差があり過ぎる。

魔女「よしよし。怖がらないで」

頭を撫でる魔女の手が、普段よりも冷たく感じた。
252 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/08/19(日) 11:00:08.74 ID:JbrWqG6U0
先頭を歩く褐色の女が、ふと立ち止まった。

女盗賊「これが鉄門。街道の名前の由来にもなってる門さ。あんたら、鉄門目指して来たんだろ? 目ェかっぽじってよく見とくんだね」

目をかっぽじったら、見えなくなるのではないか。
そんな野暮な突っ込みは許されない。しかし、どうしても気になる点がある。

勇者「そもそもさ、何もないんだけど」

灰褐色の隘路が、どこまでも続いているのみ。

女盗賊「もっと近づいてみな」

言われるがまま近づいてみると、硬い岩のようなものが爪先にぶつかった。
赤茶色に風化した鉄が、あちらこちらに散らばっている。
女盗賊の伝えたいことが、分かったような気がした。

勇者「これ、ひょっとして掛け金だろう。掛け金が砕けて散らばっているんだ。だから、ここに門があった。鉄の門があったんだ」

女盗賊「正解。掛け金だけじゃなく蝶番もある。魔族と人間の大戦で、ぶっ壊されちまったみたいでさ」

勇者「立派な門だったんだろうな」

女盗賊「ったく、どうして魔族なんかが攻めてきたのかねぇ」

ここで、魔女が静かに口を開いた。

魔女「少し、過去の話をしよう」

魔女「元々、鉄門街道は誰の物でもなかった。人間族、精霊族、魔族。三つの種族が領有権を主張し合う、衢地だったのさ」

勇者「こんな緑のない痩せた土地を、どうして奪い合っていたんだ? 稀少な鉱石でも採れたのか?」

魔女「北の土地は比較的痩せているからね。外敵の襲撃を受けにくい交通路を確保して、南の土地へ進出する足掛かりにしたかったんだと思うよ」

考え抜いた人間族の王は、エルフ族の精霊王にサマルカンドへの永久不可侵と鉄門街道の共同統治を約束し、やっと交通路を手に入れたのである。
北のサマルカンドと南のバルフが繋がったことで、都市間の交易が盛んになり、王国の懐もずっと豊かになった。

無論、仲間外れにされた魔族が黙っているはずがない。
魔王は檄文を書き、人間族と精霊族を地上から消し去るべく討伐の旗を揚げたのであった。

勇者「人間が魔族を滅ぼしたと思ったら、今度は人間同士で紛争が起ころうとしている。同じことの繰り返しだ」

魔女「いつの世も、どこの世界でもそうだよ。欲望から争いは生まれる。キミも妹さんを守りたいという欲があるだろう?」

魔女「そういえば、妹さんから小説を託されてね。キミはあまり字が読めないようだから、読み聞かせてあげる」

勇者「妹の、小説?」

魔女「まぁ、そんなに長くないから楽にして聞いてくれ給え」

253 : ◆EpvVHyg9JE [saga]:2018/08/19(日) 23:36:48.16 ID:JbrWqG6U0
魔女は一冊の本を取り出した。


『昔々、あるところに、とても仲良しな男の子と女の子がいた

いつものように二人で花畑を歩いていると、森の奥から魔王が現れ、たちまち女の子を闇の国へさらっていってしまった

魔王にさらわれた女の子を救うべく、男の子は道端で会った賢者様と一緒に、冒険の旅へ出発したのだった

険しい岩山を越え、極寒の湖を渡り、知らない魔物に襲われながら、ようやく男の子と賢者様は魔王の城へ辿り着いた

魔王は男の子が忌々しい賢者様を連れているのを見て、顔を真っ赤に染めて怒り狂った

そして、その夜

怒った魔王は二匹の毒蛇で賢者様を殺してしまったのである』


魔女「おしまい」

勇者「え、それでおしまい?」

不気味な小説だった。
小難しい文字を用いたがる妹にしては、珍しく簡単な文章だ。
題名も目次もない。
羊皮紙の端切れに、小さな文字で物語がつらつらと書いてあるだけだ。

魔女「昨夜見た夢を書き起こしただけ、かもね」

勇者「この『賢者様』がお前でないことを祈るよ」

魔女「ひょっとしたら、殺されるのはキミかもしれない」

勇者「変な冗談はよせ。どう考えても俺は『男の子』で、あんたが『賢者様』だろ。俺より自分の心配した方がいいぞ」

魔女「うんうん、用心しろってことだよね。国王が本格的に動き出した。サマルカンドで、一悶着あるかもしれないよ」

勇者「流石、厄介事を招き寄せる天才は言うことが違うな」

魔女「それはキミだろ」

勇者「いいや、お前だね」

魔女「キミ!」

勇者「お前!」

女盗賊「あんたらガキか!」

254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 01:34:47.74 ID:iy/rFCRDO
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/04(日) 11:09:52.36 ID:YTeUSHwDO
マダー?
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/05(水) 00:22:24.86 ID:B5N/5osjo
あ、そう。一生懸命頑張ってね
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