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勇者「よーし、いっちょ叛乱でもするか!」
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245 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/12(日) 01:30:44.52 ID:3vsqBSqDO
乙
246 :
◆EpvVHyg9JE
[saga]:2018/08/18(土) 23:21:40.72 ID:yYJTY5ji0
魔剣士「剣士様が消えた、ですって!?」
王都アルマリクから北西に数里。
タシケントとサマルカンドの間にある小都市ジザフの朝は、令嬢剣士の叫び声で幕を開けた。
将校D「ええ。魔剣士様なら、将軍の居場所に心当たりがあるのではないかと存じまして」
朝一番に乗馬の訓練があった。
木馬を馬に見立て、走りながら飛び乗る。
訓練自体は上級将校が行い、結果をまとめて将軍に報告する。
その将軍が軍営から煙のように消えてしまったのだ。
これでは将校の報告する相手がいない。
どうしようもないので、剣士の副将である魔剣士に相談しに来た次第であった。
魔剣士「あなた達、乗馬の訓練に戻りなさい。非常事態であっても、冷静に監督すること。心の乱れは、弱さを生みますわ」
魔剣士は寝間着を脱ぐと、緋色の髪をしっかりまとめ、いそいそと戦袍に着替え始めた。
将校達の前でもお構いなしである。
というより、焦って周りが見えていないのだろう。
将校D「承知致しました。ところで魔剣士様」
魔剣士「まだいらっしゃるの? わたくしの話、聞いておりまして?」
将校D「魔剣士様。着替える際は、我々が全員退出の後にしていただくと大変嬉しいのですが」
魔剣士「……そうね。今のは見なかったことにしなさい」
247 :
◆EpvVHyg9JE
[saga]:2018/08/18(土) 23:42:02.28 ID:yYJTY5ji0
ドタールの柔らかな音色が聞こえた。
ジザフで唯一の妓館。
給料が良いので、ここに勤める十代の女性は少なくない。
魔剣士「所詮は妓館。負の印象が拭えませんわ」
呼び込みの遊妓が桑の木の下で、絹服を縫っていた。
官員の着物を縫っているのだ。
ジザフの妓館では性的サービスだけでなく、実用的な雑務もこなしてくれる。
子供の世話から畑の農作業までお手の物。
何でも屋のような側面も持つのだった。
そのため、衣類を担いだ老婆が妓館へ入っていく様子もたまに見かける。
魔剣士「剣士様が行きそうな場所といったら、ここしかないですわね」
扉を乱暴に開け、ずかずかと中に押し入る。
武装した女がいきなり飛び込んできたのだ。
悲鳴をあげて逃げ惑う遊妓達。
魔剣士は部屋の並ぶ2階へと足を運んだ。
剣士「ほらほら、もっとしゃぶりなよ」
遊妓「よろしいの……ですかぁ……」
半ば喘ぐような女の声。思わず魔剣の柄に手をかける。
魔剣士(しゃぶる……? 一体ナニを……)
剣士「好きなだけ、しゃぶっていいんだよ。洗濯とか、料理とか、いつもお世話になってるじゃない。そのお礼だ」
遊妓「あふッ……んッ……んッ……///」
魔剣士(ななッ! とてもヒワイな音がしますわ!)
剣士「イイねぇ〜! イイ顔するじゃない君、俺まで興奮してきちゃったよ。やっぱり美味しいよね」
魔剣士「何してらっしゃるの、このヘンターイ!」
剣士「わーッ! ってなんだ、魔剣士ちゃんか……」
銀髪の青年は笑いながら、寝台の上にあった桃色の花をつまみ上げた。
剣士「庭先に花が咲いてたんだけど、これが美味いのなんの。魔剣士ちゃんもしゃぶってみる? 蜜のまろやかさと花の芳しい香りが絶妙にマッチし(ry」
魔剣士は無言で拳を握りしめ、ヘラヘラ笑っている剣士の顔面を殴り飛ばした。
248 :
◆EpvVHyg9JE
[saga]:2018/08/18(土) 23:54:09.34 ID:yYJTY5ji0
剣士「え、どうして!? どうして殴るの!」
魔剣士「わたくしがどれだけ心配したと……兵士の皆様にも迷惑かけて、許せませんわ!」
馬乗りになって、兵士の頭をポカポカ殴り続ける魔剣士。
遊妓(なにアレ……マジ引くわ)
遊妓「あらあら、お時間が来たようです。名残惜しいですが、私はこれで〜」
思わぬ修羅場に出くわした遊妓は、そそくさと部屋を出ていってしまった。
剣士「え、ちょっと待って! そりゃないでしょ、まだ会って数分しか経ってないじゃないのよ〜!」
魔剣士「まだあの女の尻を追っかけるおつもり!?」
剣士「魔剣士ちゃん、ごめん! 謝るから! 暴力反対! やめてえぇ〜!」
249 :
◆EpvVHyg9JE
[saga]:2018/08/18(土) 23:58:39.45 ID:yYJTY5ji0
騎士に呼ばれ、剣士は軍営の天幕に戻った。
剣士「こんにひわ」
騎士「派手に殴られたな。大きな痣、できているぞ」
騎士が右目の周りを指差しながら微笑む。
兜で表情が隠れているものの、声を聞けば笑っているのか怒っているのか分かるのだ。
剣士「本妻を怒らせた、なんてね」
騎士「冗談はそこまでにしておけ。朝一番に、良い知らせと悪い知らせが飛び込んできた。どちらから聞きたい」
剣士「もちろん、良いニュースっしょ!」
騎士「バルフで新たな勇者が誕生した。世代交代というやつだ。目的は知らんが、英雄が生まれたのは喜ばしい」
剣士「なぁんだ、つまんないのー。英雄がいたって敵がいないんじゃ、意味ないもんねー」
剣士「で、悪い知らせは?」
騎士「サマルカンドを陥とせと、王都から命令が出ている」
剣士「命令? サマルカンドって確か、エルフの住む町でしょ。不可侵条約、だいぶ前に結んだはずだけどなー」
騎士「勅命だ。陛下は外交で遠回りするよりも、手っ取り早く武力での制圧を選んだらしい」
剣士「なんかやだなぁ。どうしてそんなバカな王様のために、俺達が恨まれるような真似しなくちゃいけないんだい?」
騎士「それが、組織に所属するということだ。国家に忠誠を誓うということだ。私の家は代々、陛下の剣として傍で仕えてきた。たとえ煮え湯を飲まされようと、先祖の名に泥を塗ることだけは許されん」
剣士「縛られてるね〜息苦しそうだね〜。ザ・頭でっかち。ご先祖様も、あの世で呆れ返っておられるだろーよ」
騎士「なんだと?」
剣士「なぁ騎士。主君を見定めるのも、臣下の務めなんだぜ。暴君に仕える軍人ほど、暇なやつはいないさ」
天幕を出ると、魔剣士が立っていた。
サマルカンド征伐の話も、もちろん立ち聞きしていたのだろう。
魔剣士「剣士様」
剣士「どれが正しくてどれが間違っているかくらい、俺にだって分かる」
魔剣士「やはりあなた様は……」
剣士「さてと。魔剣士ちゃん、遊びに行こうぜ!」
剣士の手を、すげなく払いのける魔剣士。
魔剣士「イヤですわ。汚い手で触らないでくださる?」
剣士「ひどッ! 上官への態度じゃない!」
魔剣士「そのエラーイ上官が、部下を放って妓館で卑猥な遊びですか。最低な男。尊敬する価値など微塵もありませんわね」
剣士「卑猥な遊びなんてしていないでしょ〜! 許しておくれよ、明日から真面目に訓練するから〜!」
魔剣士「明日から? その腐れきった根性が嫌なのですわ! 剣士様にお弁当を作るのは、しばらく控えることにします」
剣士「ゲーッ! こんなことなら、夜こっそり行くべきだった……」
魔剣士「夜でもダメです!」
遠ざかっていく二人の後ろ姿を眺めながら、騎士は呟いた。
騎士「ハッハ、仲のよろしいことだ。見せつけてくれるね」
250 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/19(日) 02:07:02.30 ID:wIiB04+DO
乙
251 :
◆EpvVHyg9JE
[saga]:2018/08/19(日) 10:55:00.23 ID:JbrWqG6U0
魔女「これから干戈を交えるであろう相手。王国軍の将軍。騎士、戦士、剣士について少し語っておこうか」
勇者「知っているのか?」
魔女「そりゃ、ボクも王都で働いていたからね。戦士とは魔王討伐の旅を共に乗り越えた仲だし」
ハザラ族の集落を出た後、盗賊団は鉄門街道を北に進んでいた。
勇者と魔女を、盗賊団の牙城に招待するらしい。
先頭を女盗賊が歩き、しんがりは盗賊が務める。
張りつめた空気。
客として招かれているはずが、まるで連行されているような気分だった。
魔女「王国軍には大きく分けて三つの階級があってね。五千人以上の軍を率いる将軍。千人程度の軍を率いる上級将校。そして百人を取りまとめる下級将校」
アルマリクは人材が少ない。
そのため、他国から力のある指揮官を金で引き抜いていた。
騎士もその一人である。
彼の甲冑は魚鱗鎧ではない。
薄い鉄板を繋ぎ合わせた簡素な鎧だが、従来の魚鱗鎧と比べると、耐久性は遥かに高かった。
魔女「騎士は頭が固かった。一度決めたら曲げない人でね。性格が敷く陣形によく表れていたよ」
魔女「戦士はそうだなぁ、大雑把な豪傑……かな。酒と戦のことしか頭になくて、勇者から脳筋脳筋ってバカにされてた。ふふふ」
魔女「三人の中で一番、下の管理がなっていないのが剣士。いっつも妓館に入り浸っていて、強いんだか弱いんだかよく分からない」
懐かしそうに語る魔女の横顔が、とても眩しかった。
同時に、暗澹たる思いも湧き上がってきた。
そうか、魔女は再び知己と殺し合わなければならないのか。
魔女「言ったでしょ、覚悟はできてる」
ギュッと心臓をわし掴みされたような衝撃。
かつて、自分も国に立ち向かう覚悟があると、魔女に宣言したことがある。
違う。
勇者の覚悟と、魔女の覚悟では、言葉の重みに差があり過ぎる。
魔女「よしよし。怖がらないで」
頭を撫でる魔女の手が、普段よりも冷たく感じた。
252 :
◆EpvVHyg9JE
[saga]:2018/08/19(日) 11:00:08.74 ID:JbrWqG6U0
先頭を歩く褐色の女が、ふと立ち止まった。
女盗賊「これが鉄門。街道の名前の由来にもなってる門さ。あんたら、鉄門目指して来たんだろ? 目ェかっぽじってよく見とくんだね」
目をかっぽじったら、見えなくなるのではないか。
そんな野暮な突っ込みは許されない。しかし、どうしても気になる点がある。
勇者「そもそもさ、何もないんだけど」
灰褐色の隘路が、どこまでも続いているのみ。
女盗賊「もっと近づいてみな」
言われるがまま近づいてみると、硬い岩のようなものが爪先にぶつかった。
赤茶色に風化した鉄が、あちらこちらに散らばっている。
女盗賊の伝えたいことが、分かったような気がした。
勇者「これ、ひょっとして掛け金だろう。掛け金が砕けて散らばっているんだ。だから、ここに門があった。鉄の門があったんだ」
女盗賊「正解。掛け金だけじゃなく蝶番もある。魔族と人間の大戦で、ぶっ壊されちまったみたいでさ」
勇者「立派な門だったんだろうな」
女盗賊「ったく、どうして魔族なんかが攻めてきたのかねぇ」
ここで、魔女が静かに口を開いた。
魔女「少し、過去の話をしよう」
魔女「元々、鉄門街道は誰の物でもなかった。人間族、精霊族、魔族。三つの種族が領有権を主張し合う、衢地だったのさ」
勇者「こんな緑のない痩せた土地を、どうして奪い合っていたんだ? 稀少な鉱石でも採れたのか?」
魔女「北の土地は比較的痩せているからね。外敵の襲撃を受けにくい交通路を確保して、南の土地へ進出する足掛かりにしたかったんだと思うよ」
考え抜いた人間族の王は、エルフ族の精霊王にサマルカンドへの永久不可侵と鉄門街道の共同統治を約束し、やっと交通路を手に入れたのである。
北のサマルカンドと南のバルフが繋がったことで、都市間の交易が盛んになり、王国の懐もずっと豊かになった。
無論、仲間外れにされた魔族が黙っているはずがない。
魔王は檄文を書き、人間族と精霊族を地上から消し去るべく討伐の旗を揚げたのであった。
勇者「人間が魔族を滅ぼしたと思ったら、今度は人間同士で紛争が起ころうとしている。同じことの繰り返しだ」
魔女「いつの世も、どこの世界でもそうだよ。欲望から争いは生まれる。キミも妹さんを守りたいという欲があるだろう?」
魔女「そういえば、妹さんから小説を託されてね。キミはあまり字が読めないようだから、読み聞かせてあげる」
勇者「妹の、小説?」
魔女「まぁ、そんなに長くないから楽にして聞いてくれ給え」
253 :
◆EpvVHyg9JE
[saga]:2018/08/19(日) 23:36:48.16 ID:JbrWqG6U0
魔女は一冊の本を取り出した。
『昔々、あるところに、とても仲良しな男の子と女の子がいた
いつものように二人で花畑を歩いていると、森の奥から魔王が現れ、たちまち女の子を闇の国へさらっていってしまった
魔王にさらわれた女の子を救うべく、男の子は道端で会った賢者様と一緒に、冒険の旅へ出発したのだった
険しい岩山を越え、極寒の湖を渡り、知らない魔物に襲われながら、ようやく男の子と賢者様は魔王の城へ辿り着いた
魔王は男の子が忌々しい賢者様を連れているのを見て、顔を真っ赤に染めて怒り狂った
そして、その夜
怒った魔王は二匹の毒蛇で賢者様を殺してしまったのである』
魔女「おしまい」
勇者「え、それでおしまい?」
不気味な小説だった。
小難しい文字を用いたがる妹にしては、珍しく簡単な文章だ。
題名も目次もない。
羊皮紙の端切れに、小さな文字で物語がつらつらと書いてあるだけだ。
魔女「昨夜見た夢を書き起こしただけ、かもね」
勇者「この『賢者様』がお前でないことを祈るよ」
魔女「ひょっとしたら、殺されるのはキミかもしれない」
勇者「変な冗談はよせ。どう考えても俺は『男の子』で、あんたが『賢者様』だろ。俺より自分の心配した方がいいぞ」
魔女「うんうん、用心しろってことだよね。国王が本格的に動き出した。サマルカンドで、一悶着あるかもしれないよ」
勇者「流石、厄介事を招き寄せる天才は言うことが違うな」
魔女「それはキミだろ」
勇者「いいや、お前だね」
魔女「キミ!」
勇者「お前!」
女盗賊「あんたらガキか!」
254 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/20(月) 01:34:47.74 ID:iy/rFCRDO
乙
255 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/04(日) 11:09:52.36 ID:YTeUSHwDO
マダー?
256 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/12/05(水) 00:22:24.86 ID:B5N/5osjo
あ、そう。一生懸命頑張ってね
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