エンド・オブ・オオアライのようです

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579 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/11(土) 23:03:55.67 ID:uxo1vhXg0
《……なお、東光台に派遣された第一波はSBUとC.R.Rを主力とし、これに艦娘戦力として航空巡洋艦の鈴谷、駆逐艦の暁、電、それから航空戦艦の日向が加わっているとのことだ。この第一波は後1分ほどで其方に────》

(結構強力な戦力出してくるのねぇ)

【Hedwig】から送られてくる増援部隊の情報に、少しの驚きを覚える。

SBUにC.R.Rといえば、それぞれ海自と陸自の精鋭部隊だ。特に後者は東南アジア解放戦において私たち艦娘とも肩を並べて戦い、豊富な実戦経験を積んでいる。恐らく、国内の“人間”を主力とした部隊では最強の存在に違いない。

そこに更に艦娘が四人、内日向は“航空戦艦”だから改装済み。それもこの内容はあくまで“第一波”であって、今後続々と後続部隊が投入されるという。

まぁ重要拠点なので、戦力を投入して防衛線を補強すること自体は別段不思議ではない。ただ、既に空母を含む一個艦娘艦隊に+αの人員まで揃っている場所に送り込む戦力としては、些か過分と言わざるを得ない。

どうも百里基地F.O.Bからの“海軍”に対する信頼は、錦糸卵に使う卵焼きよりもぺらぺらなようだ。

(まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないか)

ギコさん達の様に“兼任”している隊員を除けば、元帥を始めこの組織の存在を知っている自衛隊の人間は上層部の一握りに過ぎない。アメリカ国防省が多分に歪曲を加えて存在を公表していたが、リアルに「こんなこともあろうかと」をされてもそんな得体の知れない組織を信じろというのはなかなかに無理難題よね。
580 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/11(土) 23:05:44.67 ID:uxo1vhXg0
そんなことをつらつらと考えていると、ふと、背後から聞こえる車のエンジン音に気付いた。コンクリート片をタイヤが踏み砕く「パキパキ」という乾いた音を伴ったそれは、猛烈な勢いで近づいてくる。

再び振り向くと、丁度迷彩柄の大型トラックが四台、瓦礫の山を蹴散らしながら私たちの方に向かってきていた。

「現地到着、現地到着!総員降車、総員降車!」

「車外展開後は陣地構築だ!迅速に行動しろ、1分後には深海棲艦の攻勢が再開されるかも解らん!」

「既に国連“海軍”部隊が展開を完了しているぞ!合流を急げ!」

四台は、乗せられているのが産地から運ばれる卵なら間違いなく全滅していたであろう荒々しい運転の下、雲龍の真後ろの辺りで次々と停車する。

【Hedwig】が言っていた増援の第一波なのだろう。後部の荷台には兵員が満載されているらしく、口々にがなり立てるような声と共に幌が揺れた。

「……ホント、随分な重役出勤じゃないか」

(,,゚Д゚)「現役としては耳が痛いな。

よし、Wild-Cat各位は自衛隊と合流、共同で陣地構築を行う!Fighterはここで待機を─────」












(;´_ゝ`)「クソッ、見事に町中壊滅しちまってるじゃないか!もっと早く俺たちも投入できなかったのか!?」

(´<_` )「上層部にもいろいろ事情があるんだろうさ。ぐちぐち言うな兄者、その姿じゃとても流石とは言えないぞ」

先陣を切って車内から飛び出したのは、どちらかが鏡に映した像なのではないかと疑うほどそっくりな顔をした二人の海自隊員。

(,,゚Д゚)「」

ギコさんの動きが、瞬間冷凍でもされたみたいにピタリと止まる。
581 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/11(土) 23:15:21.98 ID:uxo1vhXg0
本当に、鮮やかな移り変わりようだった。

(,,゚Д゚)(*゚ー゚)

(,,;゚Д゚)(*;゚ー゚)

(,,B゚Д゚)(*B゚ー゚)

肌色から、イースターエッグの配色として使われても違和感がないほど真っ青に、ついで剥きたてほやほやの茹で卵の表面の如く真っ白に。さながらアニメイション映画の登場人物のように二人の顔色が変化していく様はどこかコミカルで、二人には大変悪いと思いながら正直笑いをこらえるのに苦労した。

「少尉?えぇと、指示はどのように」

( T)「……おいギコ、どうした?」

(,,;゚Д゚)「いや、その……だな……」

(´<_` )「鈴谷、日向さん起こしてくれ!」

「チィーッス……ってうわっ!想像してた以上に滅茶苦茶じゃん……」

ギコさん達が硬直している間にも、自衛隊の増援は着々と戦力の展開を始める。双子と思われるその兵士達のすぐ後に鈴谷──勿論私たちの鎮守府とは別の子だ──が顔を出し、市街地の光景に眼を見開いた。

「七警があった方も煙上がってる……加賀さん、大丈夫かな……」

(´<_` )「大洗鎮守府からウチの加賀は無事保護されたと報告があった。小破状態であっちの明石から修繕を施されてる最中だそうだ、安心しろ」

( ´_ゝ`)「電ちゃんと暁ちゃんは対空警戒を厳に!敵機来襲時は俺たちや提督の指示を待たず速やかに射撃を開始するように!弟者、あちらさんの指揮官を叔父者のところに案内しといてくれ!」

「なのです!」

「了解……って、れでぃなんだからちゃん付けなんてしないでよ!」

(´<_` )「はいはい、れでぃれでぃ。

で、アレが噂の国連海軍………と……」

(゜<_゜ )

弟者と呼ばれた士官が此方を向き、指揮をしている人物を探そうとしたか私たちの列を見回す。その目線がギコさんとしぃさんのところに達したと同時に、糸のように細かった彼の両目が見開かれる。

手から89式小銃が滑り落ち、足下に落下してガチャンと音を立てた。
582 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/11(土) 23:19:39.19 ID:uxo1vhXg0
( ´_ゝ`)「狙撃班はどこか高さを取れる場所を探せ!それと携行砲の管理はしっかりしろよ、暴発でお釈迦になりましたなんて笑えないぞ!

──おい弟者、指揮官捜しにいつまでかかっ………て………」

「ねぇ、二人とも、司令部から通信入ってるけど。アレ?ギコさんじゃん、チィーッス!……はっ!?えっ!?ギコさん!!?なんでここにいんの!!?」

ついで私たちの方に駆け寄ってきた、“兄者”と呼ばれていた方も“弟者”と全く同じ感じで固まる。その背後からトランシーバーを掲げながらひょっこりと顔を出した鈴谷は、ギコさんの姿を見て一度自然な感じで手を上げかけた後素っ頓狂な叫び声を辺りに響かせた。

そういえば、彼としぃさんが自衛隊の方で活動しているときに、ムルマンスクへ派遣される前はこの町に勤務していたことを思い出す。

なるほど理解した、事情を知らない表の顔に対する「同僚」と鉢合わせをしてしまったというわけか。向こうも完全に予想外の出会いだったようで、立ち尽くしたまま微動だにしない。

「えっ!?えっ!?しぃさんもいるし!?ってか二人のその軍服何!?海自のじゃないよね?!なんで!?なんでそんな服着てんの!?てか、その人達国連の“海軍”だよね!?なんでギコさん達一緒に居るの!?」

逆に此方も顔見知りらしい鈴谷は、二人とは対照的に益々大騒ぎしている。タイムセールの卵のパックを奪い合うスーパーの主婦の群れだってここまで五月蠅くはできない。

まだこの子しか見ていないが、それでも概ね察する。どうやらギコさんとしぃさんの“表向きの職場”は、私たちの鎮守府に負けず劣らず愉快なところだったらしい。

(;´_ゝ`)「猫山に……椎名で、間違いないんだよな?」

(´<_`;)「お前等北方戦線に異動したはずじゃ……百歩譲って戻ってくるだけならともかく、なんで国連軍に……?」

(*;゚ー゚)「えっ、ええっとね……ぎ、ギコ君、どう説明したらいいかな……?」

(,,゚Д゚)「………」
583 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/08/11(土) 23:49:05.53 ID:uxo1vhXg0
ギコさんの口元が、突然尖る。彼はそのまま手元の白兵用ブレイドをまるで杖のように地面に突き立てると、その大きな眼を限界まで細めて老人のように腰を曲げて見せた。

(,,;=3=)「い、否。ここには猫山義古等という名の人物はおらん!せ、拙者、猫山ではなく、ライスボーラーパン蔵と申す!!」

( ´_ゝ`)「は?」

(´<_` )「えぇ……」

「無い」

(*゚ー゚)「ギコ君……」

( T)・'.。゜「ブブホゥwwwwwwwwwwww」

「グブフフヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒwwwwwwwwww」

どこから出したのかと首を捻りたくなるような高音声で放たれた台詞に、双子と鈴谷としぃさんが一瞬で真顔に戻る。提督がマスクを貫通して大量のつばをまき散らしながら崩れ落ち、時雨も明らかに自称美少女が出すものとしてはふさわしくない笑い声と共に腹を抱えて地面を転げ回る。

「……ッ、……ッッ!!」

「ポ、ポヒッ、ポヒヒッ……」

「ふっ……くっ……ふふっ……」

あと雲龍も無言で顔を押さえて膝をついているし、古鷹と夕立も精一杯の優しさでこらえながらもギコさんの方に視線を向けられていない。“海軍”兵士も大半は決壊寸前だ。

正直私もヤバかった。

(,,B Д )「…………殺してくれ誰か」

「たまご」

自己嫌悪で地面に崩れ落ちるギコさんの肩に、初めて一単語しか喋れない体質に感謝しながら慰めの意を込めて手をそっと置く。

きっとこれは、彼の人生全体を通して恐らく最大級の失策だったに違いない。

何せ、我が鎮守府が誇る邪神二人に、向こう5年は使える【鳳凰の卵】よりも美味しい極上のからかいネタを与えてしまったのだから。

( ´_ゝ`)「どうした、しっかりしろライスボーラーパン蔵」

(´<_` )「いろいろ説明を頼むライスボーラーパン蔵」

( T)「そう落ち込むなよライスボーラーパン蔵」

「元気出しなよライスボーラーパン蔵wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

(,,#;Д;)「お前等全員死ねゴルァアアアアアアアア!!!!」

とりあえずギコさんの当鎮守府における認識が、

「男梅に轢かれて気絶した上に公衆の面前で上官に犯されそうになった面白ヤンキー」

から

「“海軍”所属がバレそうになってテンパった挙げ句漫才コンビ流れ星のちゅ○えいに無駄に近いクオリティでライスボーラーパン蔵と名乗った面白ヤンキー」

に更新された瞬間だった。






.
584 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/12(日) 23:04:44.17 ID:GFXsSW1a0






在日米軍が到着した時点では、私は多少の安堵こそすれどまだ状況を楽観してはいない。

いかに世界最強の軍事組織でも、相手は深海棲艦。圧倒的な重武装と物量を誇る、“生きた戦艦”の大軍勢だ。例え米軍でも彼我の火力差は歴然で、真っ向からぶつかって上回ることは難しい。

それらを埋めうる艦娘戦力についても、サラトガとアイオワの2艦種だけでは“同一艦娘の複数編成不可”の原則も手伝って到底間に合わない。
もし米本土で先日新たに実装された3艦種が配備されていれば話も変わっただろうけど、彼女たちは欧州情勢の悪化に伴い西欧戦線への優先配備が決定。日本列島戦線への派遣は先送りにされている。

これらの事情から鑑みて、一気に戦況を覆せるとは端っから考えていない。勝てる可能性が一分にも満たなかったさっきまでの状況からは大いに盛り返しはするだろうが、せいぜい五分五分。敵側からの追加戦力次第では、それでも六分四分で此方が若干不利というのが私の弾いたソロバンだった。

勿論、“国連海軍”という本来嬉しい計算外の存在は認識していた。だけど、賭けてもいいけど私を含め誰一人として、ひょっとしたら行動を共にしていた米軍部隊さえ、そんなものは当てにしていなかったに違いない。

当たり前の話よ。
設立からさしたる時間も経たずに“前身”同様大国・先進国の都合で動く傀儡と成り果て、疾うの昔にその機能も威厳も存在意義さえ失っていた虚構の組織。そこから突然派遣された得体の知れないぽっと出の軍事組織に、一体何を期待しろと言うつもり?

艦娘戦力が含まれるという情報についても、せいぜいお飾りの駆逐艦が2、3隻含まれていればいい方。正直なところ、足手纏いにならなければ御の字────私にとっては、その程度の認識。

その程度の認識………“だった”。
585 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/12(日) 23:11:46.76 ID:GFXsSW1a0
深海棲艦の対空砲火を擦り抜けて私達のすぐ近くに降下した、二機のオスプレイ。そこから見たことの無い軍服を身につけた武装兵と共に現れた、10名ほどの艦娘。

彼女らが戦闘を開始した瞬間、私は思い知らされる。

自らの認識の甘さを。

“よくて五分五分”という懸念が、いかに無駄なものだったかを。

「…………て、敵艦隊、防衛線全域にて一時撤退を確認。な、なお、撃沈艦の数は膨大であり、現在戦果は確認中。

ただ、深海棲艦側の撤退は単なる離脱ではなく、“壊滅的損害”による敗走とみられます」

ノハ;メ゚听)「すっげ…………」

一瞬、とまでは言わない。だけど、感覚としてはそれに限りなく近いものがある。

あれほど重厚な陣容を以て押し寄せてきていた正面敵艦隊は、今やその大半が穴だらけの身体を陸地に横たわらせ、或いは海面にぷかぷかと浮かべ、無残な屍を晒している。討ち漏らしたほんの一握りも、私が目の届く範囲で見た限り中破以下の損傷で済んでいた艦は1隻として存在しない。

対して自称“国連海軍”側の艦娘達には、そもそも敵の攻撃が一発たりともまともに命中しなかった。

「Clear, Clear!!」

「【Lycaon】並びに【Echo】、戦闘態勢を解除し装備の点検に移れ!海上哨戒と敵艦隊の追跡は【Blizzard】と【Cubs】に任せるぞ!」

ノハ;メ゚听)「……蝶野一等陸尉、あの艦娘達、一部の奴ら白兵戦で深海棲艦殺してませんでした?」

「……乱戦でよく見えなかったけれど、そんな気はしたわね。正直、ベリーあり得なさすぎるから信じがたいけれど」

ノハメ;゚听)「いやどんな言葉遣いですかそれ。完全にルー大柴と化してるじゃないですか」
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/13(月) 00:47:58.62 ID:QVghaKhA0
おつおつ
色々とあれだけど、ギコさんが悲惨過ぎるw
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/13(月) 19:06:24.80 ID:yI1csy5UO
後少し早ければ、しぃのクネクネを流石兄弟は目撃していたのか(戦慄
588 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/14(火) 23:03:01.33 ID:7P9UOiPr0
大隈二曹からの問いかけにはふざけて答えたが、実際その光景は私もしっかりと眼にしている。

刀や槍、薙刀やハルバード、諸刃剣、変わり種のところではモーニングスター……時代錯誤も甚だしい形状の漆黒の武器が振るわれる度に、深海棲艦の装甲が砕け、肉が裂け、断末魔の合唱と共に屍体が増えていく様子を。

(………なんていうか、滅茶苦茶な光景だったわね)

白兵装備の存在自体には驚かない。天龍や龍田、改装前の叢雲等デフォルトで近接戦闘用の武器を持っている艦娘がいることは私も知っているし、海自の方でもその点に着目し護身用のナイフ程度は全艦娘に配備するべきではないかという意見が出ていると聞く。
実際に戦場で使用され撃沈に至った事例も、指折り数えられるほど少数かつ不明瞭な内容だが無くはない。材質についても、戦車道の特殊カーボンやAPFSDSに使われる合金など候補は2、3思い浮かぶ。

(そう、存在自体は別に不思議でも何でも無い。

問題は、彼女たちがそれを“主兵装”として扱っていた点)

実戦経験は今日が初めてでも、かつて名門戦車道家元の教えを受け入隊後は軍事組織の一員として何年も訓練を重ねてきた身だ。彼女たちの動きがいかに洗練されているかも理解出来ないなら私は自衛隊から去るべき人間だろう。

太刀筋の力強さ、踏み込みの速度、斬撃や刺突の軌道の正確さ。どれを取っても、一朝一夕では身につかない。何百回も何千回も繰り返し、修練し、身体に染みついた類いのもの。

本来艦娘たちもまた、深海棲艦と対を成す形で“生ける軍艦”としての力を持つ存在。その本分は、艦砲射撃や航空爆撃によるアウトレンジからの遠距離攻撃だ。巡洋艦や駆逐艦による雷撃戦にしても、肉薄する距離などたかが知れている。

だが目の前の彼女たちは、その本分とは逆行する近接戦闘を軽々と熟して見せた。
589 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/14(火) 23:11:14.54 ID:7P9UOiPr0
尤も、流石に全員が白兵戦に興じていたわけではない。
空母艦や戦艦、夕張、大淀といった軽巡でありながら重装備を可能とする艦などは後衛に下がり、若見屋交差点から合流した羽黒等海自の艦娘達と共に“本分”たる遠距離攻撃で此方も十二分な戦果を上げている。攻撃目標も徹底的に海上の敵後続戦力に集中し、前衛の増強を防ぐことで“白兵艦隊”の戦いやすさをより高めるという理想的なものだ。

自然な連携。だが故に、尚更確信せざるを得ない。

彼女達にとって、この戦術は“手慣れたこと”であると。その練度の高さは単に訓練だけではなく、幾十幾百の“実戦経験”に裏打ちされたものであると。

「アメリカと、我らが祖国も一枚噛んでそうね」

ノハメ゚听)「? 何の話ッスか?」

「……気にしないで、ただの独り言よ」

お飾り?足手纏いじゃなければ御の字?自分の認識の甘さに吐き気がする。国連なんて組織がいかに頼りにならないかは、何よりも日本政府が“艦娘三原則”の一件で散々に思い知っている。

少し考えれば解ることだったのだ。中でも特にその事をイヤというほど味わったあのブサメン首相と自衛隊首脳部が、端っからそんなものを引っ張り出してきて寄越すはずがないと。

この部隊は、正真正銘の“切り札”なのだろう。それも、本来盤に存在してはいけない三枚目のジョーカー。

「………大隈二曹。彼女達にはあまり気を許さないようになさい。手練れ揃いだけど、それだけに寝首を?かれるか解らないわ」

ノハメ;゚听)「えっ?いや、彼女達味方でしょ?」

「味方だからこそ、よ」

強力な戦力として、戦況打開の切り札として「信用」には値する。

だが、幾ら自分たちを救ってくれたとはいえ手放しで彼女達を「信頼」する気になれるほど、私は純真無垢な小娘ではない。
590 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/14(火) 23:51:08.04 ID:7P9UOiPr0
「────了解。現地部隊と共に戦力の再編、防御拠点の応急修復・強化に入る」

恩知らずとしか言い様がない私の思考など露知らず、一人の女性がどこかとの通信を終えて私達の方を振り向いた。カツン、カツンと、規則正しくアスファルトを踏みしめる靴音が真っ直ぐ此方へ近づいてくる。

ノハメ;゚听)「おおぅ……」

私たちの目の前で立ち止まった彼女の姿に、大隈二曹が少し気圧された様子で声を漏らした。

まぁ無理もない。170を少し越えているであろう長身に、少し筋肉質で広い肩幅、切れ長でよく研磨された刀の切っ先のように鋭い眼光、そんな女性がピンッと背筋を伸ばして直立不動になれば、威圧感を感じるなという方が難しい。
きっちりとサイドテールに纏められた長く美しい黒髪と、まるでおろし立ての新品のように皺一つ無い紫を基調とした艤装服も尚更その雰囲気を助長する。

私だって、同性からこれ程のプレッシャーを感じたのは10年以上前────初めて、西住しほに相対したとき以来だ。

ただ、彼女が背負う自身の身長ほどもある大太刀と、先ほどまで彼女が立っていた位置に転がる両断されたハ級の残骸が奇妙な違和感を生じさせていたけれど。

「貴官が、ここの拠点の指揮官か?」

「えぇ、現状はそうです」

外観同様の、凜とした響きの声。何の勝負かと問われても困るけど、なんとなく負けたくなくて私も心持ち声を張る。

「陸上自衛隊所属、蝶野亜美一等陸尉。搭乗車両は破壊されましたが、一○式戦車1号車車長。

………また、現在は原隊に復帰しておりますが大洗女子学園戦車道教官でもありました」
591 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/15(水) 00:23:43.61 ID:EJBxc0AV0
ノハメ;゚听)「あ、自分は陸上自衛隊二等陸曹、大隈瞳です!蝶野一等陸尉の車両にて砲手も担当しました!

………一尉、最後の部分付け加える意味ありました?」

私のすぐ後に自己紹介を続けた大隈二曹がヒソヒソ声で尋ねてきたが、小さく肩だけ竦めて返事に変える。

意味なんて無い。最後の紹介は、単に私の意地というか、拘りみたいなものの現れだ。

「大洗女子学園…………そうか、学園艦の、か」

目の前の女性は、私の言葉に振り返り、沖合で相変わらず黒煙を吹き上げる巨大な艦影を一瞥する。

何故か一瞬彼女が複雑そうな表情を浮かべたように思えたが、それが何故かは解らない。そして再び此方に向き直ったときには、元の凜とした顔つきに戻っていた。

「私たちの提督も間もなく合流する。敵の再侵攻まで恐らく時間も無いだろうし、速やかな戦力編成と作戦の摺り合わせを具申したい」

「えぇ、それは私達としても希望するところです。指揮系統の整理も必要ですし、何より時間が少ないという点は同感ですから」

「話が早くて助かります。我々も、統治の防衛戦力として粉骨砕身させていただく……あぁ、そういえば私自身の紹介が未だでした」

彼女はそう言って、勢いよく両足を揃え敬礼する。

完璧と言っても過言じゃない程美しい、【海軍式】の敬礼だった。













「妙高型重巡洋艦2番艦・那智。国連特別“海軍”所属。

コールサイン【Lycaon】の旗艦です。

よろしくお願いする、蝶野一等陸尉」


592 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/15(水) 00:33:02.91 ID:EJBxc0AV0








194■.4.■■

開戦から■年が経った。我々の海軍は、現在も■■■■■の海上防衛網を突破しきれずにいる。

昨年の■■■■■■■において■■■を取り逃がした事もあり、奴らの精■■空■■は健在である。軍部も■■R■への様々な対策を講じているようだが、圧倒的な練度と性能の差を即座に埋め、戦況を優勢に転じる妙案は生まれていない。
陸戦においても、兵站線の不安も重なり我々は常に苦境と膨大な出血を強いられている。特に■■■■■■島は地獄の有様だ。

認めよう。我々はかの国を甘く見ていた。■■■・■■■のあの悪魔を血祭りに上げるための、生け贄に過ぎないと思っていた。だが現実には、我々は■■■■■戦線に匹敵、否、それ以上の犠牲を払って尚■の一つも取り返せていない。

これ以上、手をこまねいているわけにはいかない。早急に■■■■■■■■計画を進めなければ。

我々が自由を謳歌し、永遠の繁栄を手に入れるためには、悪魔にさえ魂を売り渡す覚悟と決意が必要だ。

私は、神への信仰をも捨てよう。

それが祖国の、■■■■■■■の為になるのなら。

       記・ J.V.N■■■■■■
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 06:31:02.36 ID:fQk/8Ij0o
お疲れ様です
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/17(金) 15:57:54.49 ID:35BNV+0/0
更新おつです
蝶野一尉無事でよかったが学園艦とブーン先生はどうなった
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/18(土) 05:27:39.22 ID:Z6erRM/90
乙です!
596 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/20(月) 23:01:29.07 ID:Uxp/rQ8L0






「─────あぁ、今私も送られてきたURLを見ているざます」

右肩で通話状態のスマートフォンを挟み耳に当てながら、手元のタブレット端末を操作する。11inchの画面に大写しになった一枚の写真は、日本最大級のインターネット掲示板“ちゃんねるツー”にアップロードされたものだ。

撮影者が使っている機種の性能や手ぶれのせいで決して見やすいものとはいえないが、それでも被写体として中央に映された“機影”ははっきりと確認できる。
全長はざっと目算した限り、凡そ50M程だろうか。レンドリースを受けた戦車の整備や例の“大鍋”の調整にあたって何度かサンダース大附属を訪れているアスパラガスは、その無骨な外見に見覚えがあった。

「C-17【Globemaster III】ざますね」

《ご名答です》

電話口の向こうで、相手───元BC自由学園戦車道チーム副隊長・ムールが頷くのを気配で感じた。

《横須賀の在日米軍基地から多数のV-22やCH-47と共に離陸した機影を住民が撮影したものがインターネット上で複数のコミュニティにアップロードされました。投稿主によれば、撮影した時それらの編隊は北へと向かっていたそうです》

「この横須賀から北………ざますか」

一応北海道や北方四島、千島列島、樺太特別自治区等幾つか候補はあるが、現状入ってくる限りの情報でこれらの戦線が危機的だとは思えない。だとすれば、この写真に写された機体群の行き先は自然と絞られる。

「大洗町に在日米軍が本格的に介入を開始した、か」

《ほぼ間違いないかと》

そういえば、幾らか前にジェットエンジンの音やヘリのローター音が大量に市街地の上を通過していった時間帯があったと思い出す。丁度文科省各局の“パイプ”に様々な働きかけを行っていた頃と重なったため、アスパラガスとやはり各方面に電話をかけていたダージリンにとってそれらは迷惑千万な騒音に他ならなかったが。
597 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/20(月) 23:08:40.03 ID:Uxp/rQ8L0
《因みに“ちゃんツー”軍事板やその他ミリタリー系のネットコミュニティによれば、国内複数の米軍基地からA-10【Thunderbolt II】の離陸が確認されています。

此方は映像が上がっていませんが、目撃情報から察するにやはり大洗町方面へ投入されたものと思われます》

「……空対空戦闘機ではなく、対地攻撃特化のA-10ざますか?」

その情報を聞いてイヤな推測が脳裏を過ぎり、アスパラガスの目付きが険しくなる。

在日米軍の介入自体は不思議ではないし、大規模な戦力投入もアスパラガス達の予想の範囲内だ。最大の艦娘生産・保有国である日本の失陥は米国云々どころかそのまま人類滅亡に直結しかねない以上、どのような状況になろうともかの国が日本を見捨てるという選択肢は“政治的”にあり得ない。

寧ろアスパラガスとダージリンが懸念しているのは、中華人民共和国という仮想敵国の存在を危惧した米国が大洗町戦線の“早期幕引き”を計るかも知れないという点だ。

(アメリカ合衆国が列島失陥の次に恐れている事態……それは恐らく、人民解放軍による“国防上の判断”を理由とした日本国内への武力介入ざます)

自国の防衛を理由に、日本本土へ中国軍が進駐してくることを心配する……一見荒唐無稽な、突拍子もない懸念かも知れない。普通に考えれば、世界中から武力制裁されてもおかしくない大暴挙なのだから。

だが、日米の同盟国にして国連常任理事国たるロシア連邦が既に“ルール地方への一方的な核兵器投射”というより強烈な前例を作ってしまった今、それは決して非現実的な空想ではなくなった。

そして日本の失陥と艦娘戦力の壊滅は、万に一つでも起きてしまえば中国のみならず世界の危機となる。それを防ぐという建前は、日本本土へ“増援”の名目で人民解放軍を送り込むにあたってこれ以上ない大義名分となるだろう。

また世界的な侵攻で各国が自国の防衛に手一杯になっている今、仮に咎めるとしても出せるのはせいぜい何の意味も無い批判声明ぐらいのもの。一度日本進駐さえ成功すれば、後は中国人旅行者の安全確保なり日本の防衛協力なり何かと理由を付けて進駐した地域を拠点化してしまえばいい。
598 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/20(月) 23:10:44.08 ID:Uxp/rQ8L0
お誂え向きな事に、大洗は正規鎮守府があり多数の艦娘戦力が駐屯する地だ。艦娘利権に長らく絡むことが出来なかった中国にとって、仮に拠点化までは上手くいかなくても艦娘技術の“盗用”の機会を作れるというだけで強引に派兵する理由になり得る。

無論所詮は一介の女子学生の考察であり、全く見当違いの見方になってしまう可能性は否めない。だが一方で、既に中共外交部が「軍事的な支援を惜しまない」という声明を発表した事実がある。

散々外交上で日本との対立を繰り返し先日は【艦娘自己自衛権法案】の件でもあれだけ噛みついた国が、こうまで掌を返してくる。それを何の裏もない善意と受け取れる人間は、余程の脳内花畑か日本の滅亡を願うスパイかの二択だろう。

仮にこの考察が的外れなものではないとすれば、アメリカ政府も中国介入の危険性には当然気づき、策を練っているはずだ。そしていよいよとなればアメリカ側も、人民解放軍の日本侵入を前に事態の“早期解決”────即ち、大洗女子学園そのものの撃沈によって深海棲艦の掃討を計る可能性は大いにある。

(アメリカにとって幸いな、そして私たちと西住みほにとって最悪なことに、日本国内でも既に早期解決を求めて“大洗女子学園の破壊”を叫ぶ声はインターネットを中心に少数ながら出ている。状況の改善が遅れれば、その声が多数派に取って代わる時もそう遠くはないざます)

加えて、アメリカ側にも“フィリピン海から北上する新型深海棲艦”という絶好の建前が存在する。本土への浸透拠点を確保されるのを防ぐためという名目で攻撃が行われれば、日本側としてもあまり強い意見は言えない。生存者がいたのではないかという批判があったとしても、“汚れ役を買ってでも人類の存亡を優先した”と主張されればそれまでだ。

故にアスパラガスは、A-10投入の報告に一瞬あの血気盛んな超大国が早くも“早期解決”に動き出したのかと身構えた。だが、そうなると一つの疑問が沸く。
599 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/20(月) 23:23:55.06 ID:Uxp/rQ8L0
「………火力が、少なすぎるざます」

《仰るとおりです》

ムールの側も、アスパラガス達と同様の考察に辿り着いていたらしい。ならば当然、その疑問点も共通のものになる。

《学園艦撃沈による“早期解決”を目論むなら、A-10はあまりにも不適格です。仮に輸送機隊に満載されていたのがフル装備の艦娘部隊だったと仮定しても、やはり大洗女子学園を沈める戦力としては少々非効率が過ぎます》

全長7.6km、全幅1.7km。町一つが浮いているも同然の、超巨大船【学園艦】。当然自重を支えたり艦内インフラを保全するために船体装甲は分厚く、かつ丈夫な合金が使用されている。
A-10が搭載できる対地ミサイルなど、数十発束になってもどこか外壁に亀裂が入ってくれれば御の字というレベルで力不足だ。艦娘にしても、流石に学園艦を撃沈するとなると相当な数を集中し膨大な火力を割く必要がある。

日本列島が置かれた状況を考えれば、自衛隊にも在日米軍にも短時間で学園艦を深海棲艦諸共海の藻屑に出来るほどの大艦隊を投入する余裕はない。それに流石にまだ国内外の世論も民間人ごと沈めることを“やむなし”とするほどには至っていないし、何よりそれだけの戦力を揃えるぐらいならグアム島からB-2爆撃機でも飛ばしてバンカーバスターを2、3発叩き込む方が余程理にかなったやり方だ。

では、学園甲板上の敵艦隊を掃射撃沈するための投入か?尚更あり得ない。空母艦娘の艦載機を使えば、A-10なんかより確実かつ正確に、生存者に対する誤射の確率を遙かに低くした上で処理することができるだろう。
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/21(火) 12:53:13.36 ID:DSthDakJ0
更新乙です
601 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/22(水) 23:12:30.30 ID:OtTN9X5Y0
目的が学園艦の撃沈でもなければ、甲板上の敵艦隊の処理でもない。にもかかわらず、A-10の投入が必要となるシチュエーション。

少し考えれば、その選択肢は自ずと一つに絞られる。

「単純に大洗町自体の戦況が劣悪。少なくとも、大規模強襲上陸程度は受けていてもおかしくなさそうざますね」

《えぇ。実際に、涸沼以西の避難未完了地域上空に敵の爆撃隊が差し掛かったという情報も一部SNSで流れています。その範囲がかなり広域であることから推測するに、大洗町の防衛線が一時危機的な状況にあったことは間違いないと思われます。

現在我々の方でも防衛省の“パイプ”を通してこれらの情報の真偽を確認していますが、流石に向こうの口が堅く芳しくありません》

そりゃそうだとアスパラガスは内心で呟く。

学園艦が深海棲艦に占拠されているという現状だけでも、“危機慣れ”していない日本国民の動揺は非常に大きい。正式な鎮守府に百里基地の支援まである本土の戦線が苦戦を強いられているなんて話が民間に漏れれば、それこそベルリン陥落時の欧州にも匹敵する大規模な民衆恐慌や暴動に繋がりかねない。

「……ムール、A-10の離陸や深海棲艦機の飛来に対する民間の反応は?」

《前者については、我々ほど穿った見方をしている意見はほぼ見られません。……が、深海棲艦機の飛来に関してはやはり各種SNSで深刻視されています》

そして、“タイムリミット”が訪れるのはそう先の話ではなさそうだ。

「ムール、引き続きネット上での世論の動きを注視。……言動の過激化・先鋭化が進行しきる前に、さっき指示した“工作”を実行できるよう前倒しで準備して欲しいざます」

《畏まりました。他校情報部との連携強化を急がせます》

「また、並行して文科省、防衛省両方からの情報収集と各部署への根回しも怠らないように。其方はボルドーに一任してあるが、必要に応じて人員の増強も惜しむな」

《D'accord》
602 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/22(水) 23:22:26.59 ID:OtTN9X5Y0
「…………あぁ、ありがとうございます」

一通りの指示を出し終えたところで、一度通話を切り椅子に深く座り直す。そのタイミングを見計らっていたかのように女店主が無言で差し出した紅茶に、礼を言いつつノータイムで口を付けた。

「────っふぅ」

極上の味と最適な温度を兼ね揃えたアッサムティーが渇いた喉に染み渡り、生き返ったような心地に自然と吐息が漏れる。
同時に、アスパラガスは何故ダージリンがこの店を待ち合わせ場所に選んだかを概ね察した。地理的な問題や目立たずに済む等思い当たる節は幾つかあったが、最大の理由はここの紅茶が絶品だからに違いない。

(大洗関連であれだけ取り乱してた癖に、妙なところはブレないざますね)

そんなことを考えながら、横目で隣に座るダージリンを見やる。丁度彼女も通話を終えたところで、ティーカップに手を伸ばしながら此方の視線に気付いて首を傾げた。

「………私の顔に何かついているかしら?」

「舌が三枚ついているのが見えるざますね」

「まぁ非道い」

此方の飛ばした皮肉に、ダージリンはクスクスと笑う。
何が非道いものか。彼女達が標榜する本家英国など、歴史を紐解けば百枚舌でも足りないというのに。

「それで、貴女の方の首尾はどうかしら?」

「とりあえず、今急ピッチで情報収集体制を構築している真っ最中ざます。防衛省は流石に口が堅いが、文科省経由で学園艦に対する国の大まかな動向や方針が拾える目処は立った。

ボルドーには大洗女子学園関連の情報を最優先で収集し聖グロリアーナ側にも共有するように言ってあるざます。……まぁ、あいつなら確実に仕事をしてくれる筈だ。ムールの補佐もあることざますし」

「随分打ち解けたようねぇ」

ダージリンの目が軽く見開かれる。自由側とBC側に分かれて骨肉の内紛に明け暮れていた時期を知る故に、わりかし本気で驚いているようだ。
603 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/22(水) 23:24:10.79 ID:OtTN9X5Y0
「私としてはこう言った方がいいのかしら?“ご結婚おめでとうございます”って」

「……あの小っ恥ずかしい作戦名について掘り返すのはやめるざます」

我ながら、脳が沸いていたとしか思えない。……いや、実際にあの時は例の侍ガールに感化され、敗北を経て我々は真のBC自由学園を作るんだ的なおかしなテンションになっていた面はある。

それにしても、だ。確かにBC自由学園の変革を進めるきっかけとなったのは喜ばしいことだったが、言うに事欠いて“Strategie Mariage”とは!!

「私は素敵な作戦名だったと思うわよ、お世辞抜きにね」

「例え本気でそう思ってくれているにしろ、本当にその件は勘弁して……まさかエクレールにまであれほど笑われるとは思わなかったざます」

しかも訂正しようとしたときには時既に遅く、面白がったボルドーがチーム全体にちゃっかり浸透させていたためその後しばらくアスパラガスは身が焦げるような恥辱を味わうハメになったのだ。

ムールでさえクスクス笑いを堪えていた姿を見た時の孤独感と言ったら、もう。

「ええい私たちの話は今はいいざます!聖グロリアーナ側の進捗はどうなってるざますか!?」

「……現状、連絡がついた学園艦や聖グロリアーナの系列校に片っ端から協力を要請、相互連携を強化中よ。それと併せて、各艦の住民退避進捗や自衛隊による艦内臨検の様子なんかもわかる範囲で調べてもらえるよう要請したわ。

それで、現在進行形で退艦作業中のケバブハイスクールから早速一つ気になる情報が入ったの」

「……ボスボラスからざますか?」

「ええ。何でも、臨検に立ち入っている自衛隊の中に防護服に身を固めた一団が混じっているとか。

あと、艦内住民の一部が退艦時に健康診断のようなものを受けさせられているらしいわ」
604 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/22(水) 23:40:32.99 ID:OtTN9X5Y0
「防護服に、健康診断……」

確かに、奇妙。深海棲艦との戦争が始まって以来、奴らに攻撃を受けた地域で疫病が流行ったなんて話は聞いたことがない。また“軍艦”を模した存在であるため、例えば毒ガスのようなものを散布する能力を有しているとも考えづらい。

そもそも、別にケバブハイスクールには──あくまで“現段階では”の話だが──深海棲艦が実際に出現したわけではないのだ。

「……奇妙なのは確かだが、判断材料が少なすぎるざますね。今はなんとも言えない」

「とりあえず、ビゲン高校には“六課”から人員を向かわせた。下手したら現場の自衛官さえ事の真相を知らされていない可能性すらあるけど、動かなければ始まらないもの」

「六課……情報処理学部第六課・G.I.6ざますか」

戦術研究や敵車両の性能分析など、戦車道における“戦前諜報”は非常に重要な意味合いを持つ。故に各学園艦は生徒間で構成した一種のスパイ組織紛いの集団を一つは持っているし、大洗女子学園ですら秋山優香里が自主的にサンダースやアンツィオに諜報活動のため乗り込んでいたと聞く。

それらの中でも、明確に学部として独立しあらゆる情報取得法を体系的に学んでいる聖グロリアーナの情報処理学部は規模・練度共に所謂“超高校級”の存在。分けても第六課は、前身の課を卒業した人物がロシア革命を起こして日露戦争の帰趨を決しただの公安や内閣調査室に多数の人材を輩出しているだのと逸話に事欠かない。

「GI6も早くもフル稼働か。切り札としてもう少し温存しておくと思ったざますが」

「お慕いするみほさんを救うためだもの。出し惜しみはしないわ。寧ろ、本当は私が直接彼女の白馬の王子になりたいぐらいのところを我慢しているぐらいよ。

“イギリス人は戦争と恋愛には手段を選ばない”の」

「耳にたこができるぐらい聞いたざますねその格言」

全く、お慕いするやら白馬の王子やら、聞いているこっちが赤面しそうだ。

【Strategie Mariage】に対する反応も、この様子だと案外素で褒めてくれていたのかも知れない。そうだとしたらセンスが一致してしまっているということなので寧ろ落ち込むが。
605 :>>604訂正、申し訳ない ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/22(水) 23:48:44.72 ID:OtTN9X5Y0
「防護服に、健康診断……」

確かに、奇妙。深海棲艦との戦争が始まって以来、奴らに攻撃を受けた地域で疫病が流行ったなんて話は聞いたことがない。また“軍艦”を模した存在であるため、例えば毒ガスのようなものを散布する能力を有しているとも考えづらい。

そもそも、別にケバブハイスクールには──あくまで“現段階では”の話だが──深海棲艦が実際に出現したわけではないのだ。

「……奇妙なのは確かだが、判断材料が少なすぎるざますね。今はなんとも言えない」

「とりあえず、ボスポラスのところには“六課”から人員を向かわせた。下手したら現場の自衛官さえ事の真相を知らされていない可能性すらあるけど、動かなければ始まらないもの」

「六課……情報処理学部第六課・G.I.6ざますか」

戦術研究や敵車両の性能分析など、戦車道における“戦前諜報”は非常に重要な意味合いを持つ。故に各学園艦は生徒間で構成した一種のスパイ組織紛いの集団を一つは持っているし、大洗女子学園ですら秋山優香里が自主的にサンダースやアンツィオに諜報活動のため乗り込んでいたと聞く。

それらの中でも、明確に学部として独立しあらゆる情報取得法を体系的に学んでいる聖グロリアーナの情報処理学部は規模・練度共に所謂“超高校級”の存在。分けても第六課は、前身の課を卒業した人物がロシア革命を起こして日露戦争の帰趨を決しただの公安や内閣調査室に多数の人材を輩出しているだのと逸話に事欠かない。

「GI6も早くもフル稼働か。切り札としてもう少し温存しておくと思ったざますが」

「お慕いするみほさんを救うためだもの。出し惜しみはしないわ。寧ろ、本当は私が直接彼女の白馬の王子になりたいぐらいのところを我慢しているぐらいよ。

“イギリス人は戦争と恋愛には手段を選ばない”の」

「耳にたこができるぐらい聞いたざますねその格言」

全く、お慕いするやら白馬の王子やら、聞いているこっちが赤面しそうだ。

【Strategie Mariage】に対する反応も、この様子だと案外素で褒めてくれていたのかも知れない。そうだとしたらセンスが一致してしまっているということなので寧ろ落ち込むが。
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/23(木) 11:43:21.83 ID:O/xAvQTR0
投下おつです
このssガルパン世界も連結してたのをすっかり忘れてましたww
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/23(木) 12:32:15.92 ID:CjWC/L3A0
おつおつ
一般人組は為す術もないはずなのに、この逞しさは尊敬するw
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/23(木) 18:40:24.01 ID:iP+05Oe40
おつ
609 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:04:19.71 ID:IP2U38kI0
とはいえ、その決意の強さは痛いほどに伝わってくる。それに出し惜しみする気がないのはアスパラガスも同様だ。

「ダージリン、この件は間違いなく長期戦になるざます。ペース配分と人員の休息スケジュールも考えた方がいい」

「同感ね、ローテーションはアッサムに作らせるわ。あの子はデータの管理が上手いもの。

それと、総務省と消防庁の方にも少し探りを入れた方が良さそうね。避難計画や緊急車両の稼働状況から解ることもあるかも知れない」

「総務省については我々の方でもう幾つかBC学園関連の“パイプ”があるざます。データを送っておくからGI6の方で自由に使えるよう手配を」

「ありがとう。礼は必ずするわ」

「その礼は是非我が校の偉大な卒業生達に送ってほしいざますね」

BC学園と自由学園の統合に関連するゴタゴタには、確かに当時アスパラガスも立ち会った。だが自由学園中等部の首席として末端に名前のみ連ねただけであって、実際に政府側との交渉を行ったのは両校の高等部生徒会や戦車道チームの隊長達だ。
防衛省、文科省を中心に各省庁に繋がる数多の“パイプ”も、その時彼女達が残してくれた遺産に過ぎず地力で勝ち取ったものではない。

戦車道チームも学園自体も最後までまとめ上げることが出来ず、ボルドーやムールを筆頭に優秀な人材を腐らせ続けてきた。そんな自分がその貴重な遺産を、しかも他校を助けるために食い潰すことに対する抵抗や自責の念が無いと言えば嘘になる。

「それと、BC学園の“鎮守府化”に伴う国連職員立ち会いの関係で外務省の方にも多少コネがある。まぁ、外務省ならそっちの方が関係は太そうざますが……」

「いや、OG関連のコネクションだとどうしても下ろしてもらえる情報には限界があるわ。内部への直接的な繋がりがあるならそっちの方が間違いなく多角的に集められる」

「なら主要な現役局員の連絡先を送るざます。すぐオレンジペコ達に連絡させるよう手配を」

だがアスパラガスは、そうした自身の感情をかなぐり捨て惜しげも無く極秘コネクションを開放していく。
610 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:09:27.91 ID:IP2U38kI0
多少普通よりは特別な力や人脈を持っていたとしても、あくまで自分たちは年端もいかぬ女子学生、政治も戦争もアマチュアに過ぎない。そんな集団が、場合によっては一国に盾突くことすら半ば視野に入れた上で本物の戦争に本気で横入りしようとしているのだ。

当然軽率に動くことは出来ない。そもそも例え小指の先ほどでも介入できるような隙間が残されているのかという部分も含めて、徹底的に、今あるもの以上に、多量の情報を集め精査する必要がある。

ならば、使えるものは全て使う。自分のくだらないプライド、感傷など二の次だ。

「……戦国の名軍師も言っているざますね。“使わぬ金なら瓦や石ころにも劣る”と」

「黒田如水ね。私あの人好きよ、目的のために手段を選ばないところとか」

「あぁ、あの人の晩年の生き様とか英国臭が凄いざますね……」

特に【関ヶ原の戦い】前後の九州における動向のきな臭さは、後世から見ても天下への野心がいっそ清々しいほどにダダ漏れだった。徳川家への申し開きの内容も含めて“リトル英国”といっても過言ではない。

アスパラガス個人の見解としては、偉人として尊敬はするが同時代に生きていたらあまりお近づきになりたくないタイプに分類される。

(………それにしても、これだけパイプを増やし情報の収集範囲を広げているのに、未だに“本命”の……大洗女子学園艦内に関する新情報は皆無ざますか)

手元のタブレット端末に再度視線を落とす。画面上にはムール達が指揮する諜報チームや聖グロリアーナ側から送信されてきた情報が電子の奔流となって溢れかえっているが、アスパラガスとダージリンが最も欲している内容のものはどれだけ眼を懲らしても見つからない。

「民間運営のネット掲示板各所でも目新しい話題はないみたいね。それこそ、“ちゃんツー”の住人なんか真偽そっちのけで色々言い立ててると思ったのに。

まぁ、私はいつも戦車道板と飲み物板ぐらいしか巡らないけど」

「貴女が“ちゃんツー”見てるって意外ざますね……ブッ、ゴホンッ、ゴホンッ」
611 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:15:43.32 ID:IP2U38kI0
頭の中に突然ボンッと音を立てて浮かぶ、ジャージにぐるぐる眼鏡の出で立ちで嬉々としてパソコンを起動し戦車道板に格言スレを立てるダージリンの姿。こみ上げてくる笑いをごまかすため、わざとらしく咳払いをして顔を背ける。

「んっ、んん!………ふむ」

なんとか大決壊を堪えたところで、ふとひっきりなしに届くメールの内の一つが目に止まる。ついさっき行われた茂名官房長官の記者会見に関するもので、開くと会見動画と内容を簡潔に書き起こして纏めたPDFファイルが添付されていた。

指先でPDFをタッチし、画面上に現れた文書に目を通す。世界規模で行われている深海棲艦の侵攻に対して各国と連携し迅速に対処していること、大洗町に出現した深海棲艦による内陸浸透目的の攻勢が行われたが現地自衛隊と艦娘が完全に封じ込めていること、避難勧告は今後段階的に拡大される可能性が高いことなどを一通り説明した上で、最後の締めに国民に冷静な対応を求めて終わりという一見毒にも薬にもならない内容が羅列されている。

だがやはり、大洗町女子学園自体の現状に関しては一言も触れられていない。一応記者団から質問はあったようだが、

( ´∀`)《現在鋭意調査中であり、乗船職員、居住者や生徒、在艦旅行者の安全を一刻も早く確保できるよう努める》

の一言が返されたきりだ。

「………幾ら何でも、ここで触れないのはちょっと異常ね」

「そうざますね」

同じ内容のデータを開いたらしいダージリンの呟きに、頷く。

元々、搦め手からのアプローチでも殆どまともな情報が入ってこない超極秘事項だ。表立っての会見で何か有益な事柄が発表されるとは、アスパラガスもダージリンも毛頭考えていない。
612 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:17:47.34 ID:IP2U38kI0
だが、例えば同じ大洗でも“大洗町”で行われた戦闘については、それが発生したことを明確に公表した。また真偽の程はどうあれ──少なくとも先ほどムールと共有した情報から察するに“完全な封じ込め”は真っ赤な嘘だろう──、現時点での戦況や国側が考えている対策についても言及があった。
対して大洗女子学園は、会見の中身から推察するにマスコミの質問がなければそういった“形式的なコメント”すら残されずに終わった可能性が極めて高い。

(学園艦も“大洗町の戦況”に内包した扱いのため個別に言及する予定はなかった……いや、あり得ないざますね)

中・高等部の生徒と教員、職員、その家族や関係者含めて定住者のみで3万余名。ここ最近の“軍神効果”で旅行者や商業国展開する企業が爆増していたことを考慮すると、総乗艦者数は少なくともその2倍から3倍に達すると推定される。

あくまでも“目新しい話題・情報が無い”だけで、現に艦内の人々の安否を気遣う声は決して小さくも少なくもない。事態発生から四時間程度が経過し、Twitterなどの各種SNSでは徐々に情報開示を求める不満や抗議の言葉も混じり始めた。

政治的に考えて、放置しておくには危険な状態。そしてアスパラガスとダージリンが知る限り、本来南慈英という(日本の歴史上で見れば殆ど突然変異に近い存在の)政治家はその辺りの見極めを誤るタイプではない。

個別の報告どころか言及それ自体に消極的だった理由は、恐らく他にある。
613 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:26:44.62 ID:IP2U38kI0
「当然、大洗女子学園についてあまり詮索を受けたくないからよね。でも、このタイミングで国民の不信感を増大させてまで隠したい事って何かしら?」

中指の先でコツコツと意味も無くタブレットの画面を叩きながら、ダージリンが珍しく不快感をあらわにして疑問点を提示する。どれだけ情報を集めても謎が解明されるどころか寧ろ未解決の問題の方が増えていく現状に、そろそろ本格的な苛立ちを覚え始めているようだ。

「艦の下層から深海棲艦の駆逐艦種が複数生えてくるなんて異常事態が現時点で起きてる真っ最中なのよ?

甲板上でどれだけ悲惨なことが起きてるかなんて民衆も大半は見当がついてる、発表内容に関するハードルはかなり低いわ。それでもあそこまで言及したがらなかったのは何故?」

「ダージリン、少し落ち着くざます」

早口で捲したてるダージリンを右手で制する。大分いつもの調子に戻ってきたとはいえ、やはり西住みほの件になるとダージリンは言動に冷静さを欠く傾向が強い。

「考えられる可能性は三通りざます。

一つ、政府側でも全く現状が掴めておらず、純粋に公開できる情報が無い

二つ、状況は把握している・予想できているが、あまりにも内容が悪すぎて人民解放軍等諸外国の介入の口実になりかねないため秘匿している」

この内前者については、あり得なくはないが“できる限り言及それ自体を避ける”理由・動機としては薄い。可能性2は、大洗町それ自体の戦況が政府によって「封じ込めに成功している」と発表されている以上学園艦の状況をどう発表しようとも大勢に影響はない筈。

ならば、考えられるのは三つ目。
614 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:28:43.14 ID:IP2U38kI0
「三つ、状況は把握している・予想できているが、公表すれば即国全体がパニックに陥るほど危険な内容のため“匂わせる”事すら避けるべく徹底的な……隠蔽……」

それを口にしている途中で、ふとアスパラガスの脳裏にボスポラスから届いたケバブハイスクールの現状報告がフラッシュバックする。

防護服、健康診断、漏れれば国民がパニックになるような内容。特にジョージ=A=ロメロ作品をこよなく愛する人種なら、これらを聞けばすかさず目を輝かせて「パンデミック」か「アウトブレイク」という単語を付け加えるに違いない。

「───まさか、バイオハザードざますか?」

「? ごめんなさい、何か言ったかしら?」

「………いや、ただの独り言ざます。何でも無い」

漏れた呟きが小声であったことに感謝しつつ、アスパラガスは頭を軽く横に振り脳内を埋め尽くした【T-ウィルス】や【ZQN】や【Walker】といった単語を追い出しにかかる。

深海から突如として現れた正体不明の化け物によって滅亡の縁に立たされている世界で、今更リアリティもクソもないとは思う。が、かといって「学園艦の中でゾンビパニック映画と同じ状況が発生している」というのは幾ら何でも飛躍が過ぎた。
第一、政府がこの荒唐無稽な“妄想”を公開したとして失笑と怒りを買うだけで、却ってパニックなど起こりようもない。誰も信じやしないだろう。

無論、そんな事が“本当に起きた・起きている”とすれば話は別になるが。
615 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:29:45.60 ID:IP2U38kI0
(こんなワケのわからない発想をしてしまうとは、私も焼きが回ったざますね……とりあえずなんとか新しい情報を手に入れないことにh《─────Allons enfants de la Patrie, Le jour de gloire est arrive?!》……っと、着信ざますか」

「きゃっ!?」

前触れ無く店内に響き渡るテノールボイスの【ラ・マルセイエーズ】に思考を中断され、胸ポケットに閉まっていたスマートフォンを取り出す。予期せぬ不意打ちに悲鳴を上げるダージリンの姿を横目で見て、急な呼び出しや度々のからかいに対する溜飲がようやく晴らされ微かに口元が綻んだ。

……が、画面に表示された着信相手の名前を見てたちまちその表情は訝しげなものに変わる。

「────私ざます」

《お忙しいところ申し訳ありません、アスパラガス隊長》

「もう私はBC自由学園戦車道には直接は関わっていない。その敬称は不要ざます、押田」

諜報活動の指揮の一端を担っていたはずの後輩からの入電。それも、上官にあたるムールを介さない直接の架電という事態に自然と眉が真ん中に寄る。
この手の形で来た“緊急の要件”は、創作の世界でも現実においてもたいてい碌な内容ではない。

「それで、要件は?貴女がそこまで慌てているとなると、バッドニュースであることは概ね予想できているざますが」

《……ご名答です》

ただし今回の場合、その中でも特に最悪のケースとして分類されるべきものだった。

《D.A.G.E(対学園外治安総局)に、先ほど他学園艦から───静岡県川奈港に緊急停泊している、楯無高校から情報提供の依頼がありました。なおこの依頼は、現時点で連絡がついている学園艦の情報機関全てに出されている模様です》
616 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:30:59.11 ID:IP2U38kI0
その校名を聞いた瞬間、アスパラガスの全身からさざ波のような音を立てて血の気が引いていく。

迂闊。あまりにも、迂闊。自らの間抜けさ加減に最早殺意すら湧いてくる。

そうだ、一度頭に思い浮かべておきながら、その時何故気付かなかったのか。“軍神”に感化され、戦車道に更なる“風”を吹き込むべく現れたあのサムライ・ガールが。“軍神”に憧れ、いつか彼女と戦うことに全てを賭け、ダージリンさえ凌ぎかねないあの西住みほフリークが。

“政治的な判断”に対する理解力も十分に持ち合わせ、正しい判断とは何かを知りながらなお自分の感情に合わせてその反対側へと飛び込むことを厭わない───そんな、最も厄介な人種であるあの女が。

この状況で、“おとなしくしている”等という選択肢を選ぶはずがなかったのだ。












《同校生徒の鶴姫しずか、松風鈴、遠藤はるか、以上三名が“テケ車”を持ち出した上で無断退艦し行方不明となっています。

目撃情報等はありませんが………あのサムライ女の性格から推察するに、大洗町に向かっている可能性が極めて高いかと》
617 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/08/27(月) 23:45:08.63 ID:IP2U38kI0






《防空指揮艦【いずも】CDCより赤城、損害状況を報告しろ!中破以上の損傷を受けた艦娘は何人居る!?》

《っ、もう敵の第四波が来るぞ!各艦娘は夜間戦闘態勢急げ!》

《インド海軍の【ラーナ】、【ランジート】は轟沈、【マイソール】も右舷側への雷撃によって激しく傾斜しています!》

《CDCより第四艦隊旗艦利根へ、空母【ヴィラート】の護衛に回れ!第五艦隊、対潜警戒!》

《CDCよりカタパルト、爆装にてLancer-05からLancer-08は発艦!Lancer-01以下第一編隊は第二編隊の離陸完了後着艦し補給を受けろ!》

《【あきかぜ】より旗艦【いずも】、外周警戒中の第九艦隊伊-58より入電!南西280海里地点にて深海棲艦の新たな艦隊を捕捉!

空母ヲ級3、内1がflagship型の機動艦隊と確認、現在艦載機多数が発艦中!》

《夜間航空戦だとクソッタレめ!!【いずも】より【まや】以下全護衛艦に伝達!対空警戒、繰り返す、対空警戒!!》

《此方【きづがわ】、艦載の96式艦戦と飛燕を全機投入し迎撃に移る!【ベンフォールド】にも連携要請出せ、少しでも手前で食い止めろ!!》

《本土に、横須賀と市ヶ谷に連絡。“第1防空機動艦隊、インド洋にて印・米海軍と共に深海棲艦の波状攻撃を受けつつあり。戦力損耗中、至急の支援を求む”と。……出せる余裕があるとは思えんがダメ元だ。

サビ残確定か、公務員のツラいところだな!》
618 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/08/27(月) 23:46:27.80 ID:IP2U38kI0
《ベララベラ島鎮守府より“海軍”極東司令部、深海棲艦の侵攻艦隊を海上で迎撃中も物量に圧されている!増援艦隊迄は求めない、せめて航空支援だけでも飛ばせないか!?》

《アッツ島鎮守府より北米司令部、西部海域から侵攻を開始した深海棲艦に対し機動迎撃を敢行し我々は侵攻を遅滞させている。だが長くは保たない、速やかな増援の派遣を。

……我々の存在は公表されたのだろう、日本からの増援は見込めないのか?20000人もの艦娘を保有してるんだろ?一個艦隊でいいんだ、どうしてあの娘達を助けてやることができないんだ!!?》

《南アフリカ派遣艦隊臨時司令部より全艦娘、全ユニットに伝達。ケープタウンは現在通信が完全に途絶した状態だが、状況的に深海棲艦は“泊地”の建設に移りつつある可能性が高いとホワイトハウスは見ている。

なんとしても食い止めるぞ、奴らにこれ以上の跳梁を許すな》

《リーザよりドレスデン、リーザよりドレスデン!深海棲艦による大規模攻勢が再開された、我々は攻撃を受けている!

地平線が真っ黒だ、一体何隻で来やがった!!》

《此方コーヘン、イッシ=ストーシュル。Prinz Eugen-32の水偵がハノーファー方面から南下する敵艦隊を確認した。……少なくとも九個艦隊超の戦力と思われる。

空爆による足止めを具申する、オーバー》

《エタンプ、ドゥルダン、シャルトルで新たに深海棲艦による攻勢を確認、現地軍が迎撃戦を開始しましたが火力面で劣勢です!またリジウーでの戦闘においてCommandant Teste-17が大破した模様!》

《例の国連“海軍”はまだ到着しないのか!?

【Richelieu】はまだ二隻しか配備できていないんだぞ、我々の現有戦力では食い止めきれん!》

《洋上の敵艦隊を視認、凡そ六個艦隊前後!報告通りリスボンに向かってやがる!》

《行かせるな、絶対にここで止めろ!

All unit, Weapon-Free!!》



.
619 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/08/27(月) 23:47:29.64 ID:IP2U38kI0
.












《Lancer-07より【いずも】、Lancer-07より【いずも】、南西の方角から高速飛翔体複数が出現、攻撃を受けた!05が、隊長機がロスト!!》

《【いずも】CDCよりLancer-07、落ち着け!此方のレーダーでも新たな機影は確認している、状況を報告せよ!》

《ふざけやがって、捕捉できない、速すぎる畜生!!黒鳥だ、【Bla────》

.
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/28(火) 03:32:46.84 ID:Wi1rtA7jO
もうこれ地球滅亡以外に落とし所ないやん
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/28(火) 13:13:22.08 ID:K8qph3+A0
投下されてた
おつです
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/17(水) 19:26:11.49 ID:njCCK9vA0
おつおつ、ひさびさに見れた…
…それにしても絶望的過ぎるww
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/15(木) 23:58:59.48 ID:K7BbWWrA0
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 11:16:36.80 ID:IbyqLq8x0
8月以降12月まで更新がないのは寂しいな
落としどころが見つからないから放棄かな
このSSだけじゃなくたくさん書いてる人なだけに復活きてしてます
625 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/12/15(土) 07:13:20.44 ID:xPOBxPXi0
https://engawa.open2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1536501657/

やだ………報告完全に失念してた…………

此方で先日板が落ちた際に当スレに関してはおーぷんに移設しており、現在こちらをメインに更新しております。
こっちでも相変わらず糞みたいな亀更新ですが一応継続しているので、今作については以後こちらの加筆修正版を御覧いただけると幸いです。

また、ss速報での稼働も短編等から徐々に再開していく予定なので今後ともよろしくお願いいたします
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/17(月) 18:46:08.01 ID:KHnLDAYqO
>>625
このスレからの続きのレス番くらい指定しとけよカス
627 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/12/17(月) 19:04:59.26 ID:M23x3Mqb0
>>626
大変失礼しました。確かにおっしゃる通りですね

リンク先のスレ、>>360までが加筆修正版、>>362以降が続きとなっています

628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/22(土) 01:26:27.16 ID:GOioj88A0
待ってました!早速行ってみます
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