【艦これ】戌と兎の百年戦争

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141 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:24:30.61 ID:CTEpQFTU0

卯月「真っ赤な嘘って言葉、聞いたことあるはずぴょん。人を傷付けるのが真っ赤なら、人を傷付けない優しい嘘が、真っ白な嘘ぴょん」

卯月「うーちゃんはぁ、真っ白な嘘を心掛けているぴょん♪朝潮もやってみるといいぴょん。楽しいぴょーん!」

朝潮「別に、嘘をつくつもりなんてないけれど…」

朝潮「…真っ赤な嘘…真っ白な嘘…」

142 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:25:02.18 ID:CTEpQFTU0

朝潮「(本当に、そんなものが…?)」

朝潮「(…いや、違う!そんなわけないわ!)」ブンブン

朝潮「(この子の口車に乗っては駄目。でまかせを言っているに決まってるわ)」

朝潮「(でたらめ…嘘八百…ホラよ…)」

朝潮「……」

143 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:25:41.74 ID:CTEpQFTU0

ー島嶼 沿岸部ー


朝潮「すっかり低気圧がどこかにいったわね」

卯月「海風が気持ちいいぴょ〜ん!」

朝潮「ところで卯月。あなたの艤装類は嵐でやられなかった?」

卯月「あうぅ〜…主機の調子がよくないぴょん…ほとんどスピードは出ないぴょん…」

朝潮「私はなんとか大丈夫みたい。けれど、魚雷発射菅が片方ダメになってるわね…四発しか撃てない。あまり下手な行動はとらないほうがいいみたい」

卯月「うわぁぁ〜…しばらく我慢するしかないっぴょん…」

朝潮「そう…ね。……っ!!」

朝潮「あそこ…沖!タンカーだわ」

卯月「えっ!?」

144 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:26:46.84 ID:CTEpQFTU0

卯月「ホントだ!船だぴょん!明かりがついてるぴょん!」

卯月「おおぉぉーーーい!!ここだぴょーーーん!おおぉーーい!」

朝潮「かなり離れているわね…声は届かないわ」

卯月「じゃあ、探照灯を振り回すぴょん!」ピカーー

朝潮「わ、私も…」ピカーー

卯月「こっちだぴょーん!」グルグル…

朝潮「……」グルグル…

卯月「おーい…」グルグル…

朝潮「……無理、かしらね」

145 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:27:13.54 ID:CTEpQFTU0

卯月「あぁぁーー、希望がどんどん離れていくぴょん…」

朝潮「仕方がないわ。当初の予定通り、鎮守府の皆の救助を待ちましょう」

卯月「ううぅ…来てくれるかなぁ…」

朝潮「来るに決まっているわ。信じて待ちましょう」

146 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:27:50.42 ID:CTEpQFTU0

ー三十分後ー


朝潮「……!」

朝潮「また明かりが…」

卯月「やったぴょん!もしかしてここ、輸送航路だぴょん?」

朝潮「可能性はあるわね。生存の確率はぐっと高まるわ」

朝潮「…いや待って。あの船は、船団は、もしかして!?」

朝潮「深海棲艦だわ!」

卯月「えっ?こんな時に!?」

147 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:28:31.45 ID:CTEpQFTU0

朝潮「数は、およそ六。速度を考えると、水雷戦隊編成かしら」

朝潮「おそらく十分後には、この辺りを通るわ」

卯月「ま、まさか…うーちゃん達がここにいること、バレてるぴょん!?」

朝潮「……それはないわ。方向が違うもの」

朝潮「おそらく、通商破壊ね。さっきのタンカーを落とすつもりだわ」

卯月「あのタンカー、あんまり速度出てなかったぴょん!」

朝潮「えぇ。だから、間違いなくやられるわ」

148 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:29:00.66 ID:CTEpQFTU0

卯月「ど、ど、どうするぴょん!?」

朝潮「……」

朝潮「もちろん、戦うのよ」

卯月「えっ!?」

朝潮「私達は艦娘よ。海の脅威から、人々を守るのが仕事。ここでその存在意義を示さなくて、どうするの!」

卯月「ま、マジぴょん?」

朝潮「マジです」

卯月「無理ぴょん!一個隊編成の敵に、二人でなんて敵うはずないぴょん!戦艦や空母ならまだしも!」

朝潮「でも!私達が行かなければ、あのタンカーの船員は全員海の底よ!」

卯月「そんなの分かってるぴょん!」

149 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:29:39.20 ID:CTEpQFTU0

卯月「うーちゃんだって、助けたいぴょん!でも、装備が時化でやられちゃって…格好の的ぴょん…」

朝潮「あっ…そうだったわね…」

卯月「戦って死ぬのは、仕方ないぴょん…でも、手も足も出せずに終わるのは、イヤぴょん!」

朝潮「…」

150 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:30:19.71 ID:CTEpQFTU0

朝潮「分かったわ。ならば、私が一人で食い止める」

卯月「そ、それこそ無理ぴょん!」

朝潮「無理じゃないわ。少なくともフラグシップ級はいない。私達の砲も魚雷も、通るはずよ」

卯月「い…イヤぴょん!朝潮がやられちゃうぴょん!」

朝潮「大丈夫。必ず生きて帰ってみせるわ」

卯月「信じられないぴょん!」

151 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:30:48.10 ID:CTEpQFTU0

卯月「あ、朝潮!お願いだから、行っちゃだめぴょん!朝潮がいなくなるの、うーちゃんはとっても悲しいぴょん!ほかの皆も同じはずぴょん!」

朝潮「私は絶対に、約束を守るわ」

卯月「だめだぴょん…そんなのぉ…イヤだぴょん…」

朝潮「…卯月?泣いてるの?」

卯月「だってぇ…朝潮と二度と会えないなんて、そんなの絶対にイヤなんだぴょん!」

朝潮「……」

卯月「うぅぅ……ぐすっ…」

朝潮「……どうして」

152 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:31:56.85 ID:CTEpQFTU0

朝潮「どうして、そんなに私のことを心配してくれるの?あんなに私に嫌がらせをしてきたのに…」

卯月「そ、そんなつもりないぴょん!うーちゃんは朝潮と仲良くしたいぴょん!」

朝潮「嘘です。信じられません!さんざんに人をバカにしておいて」

卯月「ホントだぴょーん!これだけは絶対に、嘘じゃないぴょん!」

朝潮「あんなに私を挑発していたのに?」

卯月「うーちゃんなりの親愛表現だぴょん…でも、朝潮がイヤだったなら、やめる…」

卯月「うーちゃんは…わ、私は…朝潮と仲良くしたかったの…だから、気を引こうとして、いつか私のこと、分かってくれるって勝手に思ってて…」

卯月「朝潮がイヤだったなら、謝るから!もう迷惑かけないから!だから、死なないで!向こうに行かないで!一緒に帰ろうよ!」

卯月「お願い…お願いだからぁ…」

朝潮「……」

153 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:32:32.28 ID:CTEpQFTU0

朝潮「ぶっ!?くく…あははははっ!」

卯月「なぁ!?どうして笑うの!」

朝潮「だ、だって!仕方ないわ。あなたが…ぷぷ…急に神妙な顔付きで、口調も改まって、仲良くしたかっただなんて言うんだもの。それも、こんな土壇場で!」

朝潮「卯月って、そんな顔も出来るのね。知らなかったわ」

卯月「こ、こっちは真剣に話してるのに!」

朝潮「分かってるわよ。それまでイタズラなんだったら、あなたとは一生仲良くできないところだわ」

154 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:33:09.55 ID:CTEpQFTU0

朝潮「はぁー…あぁ可笑しかった…ギャップってすごいわね」

卯月「うぅ…」

朝潮「はは…まったく、あなたはバカですね。別に私は、死ぬために海上へと赴くわけではないのですよ」

朝潮「勝って、帰ります。あなたの元へ」

卯月「……なら、私も戦う!」

朝潮「ダメです。まともに動かない装備で、何ができるというの」

卯月「でも!」

朝潮「卯月。聞きなさい」

155 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:34:09.10 ID:CTEpQFTU0

朝潮「私は、あなたが嫌いだった。どれだけ言っても、イタズラも嘘もやめない。見ていてイライラしたわ。どうして私の言葉を無視するんだろうって、嘆いたわ」

朝潮「仲良くなんて、到底出来る気がしない。私の価値観とあまりにかけ離れているもの。仕方ないわ」

卯月「あぅ…絶交宣言みたい…」

朝潮「そう。これは絶交宣言よ。今までの私の鬱憤を込めた、特大の本音。あなたが嘘で私を攻撃するならば、私は本音で勝負するわ」

朝潮「私は本音を隠さない。だから、今感じている気持ちをぶつける」

朝潮「私は、卯月。あなたと話をしなければならないと思っているわ」

卯月「…え?」

朝潮「嘘だらけのあなたが、さっき私に本音をぶつけてくれた。嬉しかったわ。まだまだあなたの本音を聞かなければならないと、私は思う」

156 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:34:44.25 ID:CTEpQFTU0

朝潮「生きて帰って、お話をしましょう。なんでもぶちまけるがいいわ。本音をぶつけるのだから、それはそれは盛り上がるでしょう」

朝潮「私は嘘が嫌い。だから、そんなかしこまった口調ではなく、いつも通りの話し方でかかってきなさい。あなたの全てをさらけ出しなさい」

朝潮「そうすれば、私はあなたと仲良くなれる気がする」

朝潮「どうかしら?」

卯月「……」

157 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:35:17.88 ID:CTEpQFTU0

卯月「…っ!」ゴシゴシ

卯月「もちろん受けて立つっぴょん!うーちゃんは本音でもスゴいんだぴょん!絶対に朝潮と、友達になるんだぴょん!」

朝潮「ふふ。決まりね」

朝潮「それじゃあ、約束。必ず生きて帰ってくるわ」

卯月「うん♪」

卯月「それなら朝潮も、うーちゃんと約束してほしいぴょん!」

朝潮「なにを?」

卯月「うーちゃんが立てた作戦に、乗ってほしいぴょん!」

158 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:36:33.19 ID:CTEpQFTU0

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


卯月「っていう感じだぴょん!」

朝潮「…でもそれは、あなたにリスクが大きい。気が付かれたら、全てパアよ」

卯月「大丈夫だぴょん!朝潮が戦うのに、うーちゃんが何もしないわけにはいかないぴょん!どーんと任せるぴょん!」

朝潮「大丈夫の根拠になってないです」

朝潮「……分かったわ。のみます。お互いの約束を、きちんと果たすことに努めましょう」

卯月「オーライだぴょん!!」

朝潮「会敵までおよそ十分。その間に戦略を練るわよ」

卯月「りょーかい!」

159 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:37:07.17 ID:CTEpQFTU0

〜十分後〜


朝潮「…来たわ。合図は私がとる」

卯月「ほ、本当に大丈夫ぴょん…?やっぱり不安だぴょん…」

朝潮「任せなさい。私を誰だと思っているの」

朝潮「栄えある駆逐艦娘にして、朝潮型一番艦、その朝潮よ。たとえ大艦隊が相手でも、交わした約束は守って見せる」

朝潮「あなたもよ。卯月。自信を持ちなさいな」

卯月「…っ。わかったぴょん!!」

160 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:37:42.31 ID:CTEpQFTU0




朝潮「…………抜錨、突撃するわ!」




161 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:38:50.34 ID:CTEpQFTU0
ここから地の文ありです。
162 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:39:41.83 ID:CTEpQFTU0

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


闇夜の海原。
着飾るは鉄塊と波飛沫。
漆黒のステージを照らし出すのは、真円の望月。

一匹の忠実なる猛犬が、開演中の舞台へと雪崩れ込む。

突発的に現れた敵の姿に、深海棲艦は対応しきれなかった。猛然と突き進む人型のそれは、機関が壊れるほどの速度を叩き出している。真っ直ぐに二体の駆逐艦イ級目掛け、その手に掴む連装砲の照準を合わせる。

「沈めッ!!」

一度目の砲撃。鉄の塊は一体のイ級に致命傷を与え、もう一体を完全に沈黙させた。血路を開いた彼女は、そのまま火を噴き上げるイ級の横をすり抜け、残敵四体に自らの姿を悠然と曝しあげる。

163 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:40:13.56 ID:CTEpQFTU0

朝潮型駆逐艦の一番艦。朝潮。誰よりも忠義を重んじる彼女は、真っ直ぐに、愚直に前を捉え続け、敵に威圧をのし掛からせる。

旗艦と思しき重巡洋艦リ級が叫んだ。奴を食いちぎれと、獣のような雄叫びを空に響かせる。呼応するように他三体も空気を震わせ、朝潮に死の花吹雪をもたらす。

最初に動いたのは駆逐ロ級だった。魚のような体をうねらせ、口から飛び出た砲身で朝潮を狙い撃つ。解き放たれた砲弾は頭を軌道に捉えるが、咄嗟に朝潮は股割りを行い、可能な限り体勢を低くした。
数秒の後、遠くで水柱が上がる。

164 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:41:15.99 ID:CTEpQFTU0

「…っ!」

敵の追随は止まらない。続いて軽巡洋艦ニ級が朝潮の相手をつとめる。未だ体勢を低くし大きな動きがとれない朝潮目掛け、朝潮のよりも一回り大きな砲を撃った。
朝潮は爆雷入りの腰鞄をニ級に投げつけた。砲弾は布を貫き火薬と反応する。朝潮とニ級の間で大きな綾辻模様の爆炎が生まれ、砲撃を防いだ。
代わりに強い衝撃波が朝潮を襲った。

「バランスが……!がほごぼッ!!?」

直近の爆炎の衝撃波にはさすがに耐えられなかった。糸で引かれるように側頭部から海に突っ込み減速する。海面をぐるぐるとローリングし、胃の中身を危うく吐き出しそうになりながらも、なんとか慣性を利用して立ち上がる。

165 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:41:49.40 ID:CTEpQFTU0

「グオオオオオッッ!!」

後ろから怒声が聞こえた。リ級が朝潮のバックを陣取り砲撃を浴びせる。避けきれないと判断した朝潮は、即座に右主機を強制停止させ、わざとバランスを崩す。腹へと風穴を開けるために放たれた砲弾は、しかし今度は近くの水面で巨大な水柱をあげた。

「うわああぁっ!?…くっ!!」

悟る。今ので右主機が完全にイカれた。航行能力が半減した。元々嵐で軋んでいたのが、ここに来て一気に爆発したようだ。
快速こそが取り柄の駆逐艦娘にとって、これは足をもぎ取られたも同義。訓練での実績は、五体満足だからこそ生かせるというのに。

166 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:42:15.63 ID:CTEpQFTU0

朝潮は一瞬だけ周囲を見渡す。
向かって十時の方向に残敵ニ。八時に一。五時に一。

やはり、二人で攻めるべきだったか。後悔先に立たず。一時間前の自分を殴りたい。でも、愚痴っていても始まらない。重巡洋艦の装甲を食い破るには、朝潮の12.7cm連装砲では物足りないから。魚雷も限りがある。

確実に仕留めるため、作戦は必要だった。

167 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:43:08.27 ID:CTEpQFTU0

肩で息をしながら、横を見据える。
駆逐艦ハ級がこちらに不気味な目を向けていた。死んだ魚みたいな目を憤怒で揺らし、速度の低下した獲物目掛けて鉄の雨を浴びせる。

朝潮はその光景を、まるでスローモーションでも見ているかのような気持ちで眺めた。
不思議な感覚だった。動こうと思えば動ける。撃とうと思えば撃てる。けれど朝潮は、ゆっくりと迫る砲弾を見つめ続ける。

168 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:43:42.00 ID:CTEpQFTU0

その時脳裏に浮かんだのは、これまでの鎮守府での想い出の数々。仲間との、様々な場面でのやり取り。そしてその中には、仲睦まじく喋る卯月の顔もあった。
これは走馬灯か。それとも、シナプスだかニューロンだかの脳内物質がオーバーヒートを起こして、余計な情報を引っ張り出してきたのか。

どちらでも構わない。何故なら、自分はここで死んで終わるつもりは毛頭ないから。
彼女と交わした約束を、私は死んでも果たしてみせる。

己の大いなる意志を覆すことなど誰にもできやない。
足の一本や二本をもがれようが、なんのハンデにもならないのだ。
朝潮は笑みを浮かべた。

「遅いのですよ」

左舷一杯、機関への無理強い上等。この海戦に勝ちさえすれば、それでいい。朝潮は悲鳴をあげる主機の声を全て無視し、ハ級の砲撃を避ける。
この程度の窮地で敗けるようでは、朝潮型の沽券に関わる。朝潮は叫び、ハ級に肉薄した。

「そこっ!」

砲撃。外しようのない距離まで近付いた朝潮は、確実に敵を仕留める。
断末魔をあげながらハ級は海に沈んだ。

169 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:44:13.81 ID:CTEpQFTU0

これで二体轟沈。一体は大破。三体が自分に次々と砲を撃ってくる。直撃だけはなんとか免れているが、水しぶきや鉄の破片が、容赦なく朝潮にダメージを与えていく。

素早く回頭を続ける朝潮に対し、攻めあぐねた深海棲艦は更なる怒りの怨念を燃やす。三方向からの挟撃を目論み散開し始めた。
どのような手段を講じたところで無駄だ。私は、お前たちに絶対に勝ってみせる。朝潮は自身の瞳に、頭上の月の如き輝きを見た気がした。
荒れ狂う水面をスケートリンクのように疾走し敵を翻弄する。

横を見た。二級が妖怪のような上半身を唸らせ並走してくる。朝潮はその直線上目掛け、次々と砲を撃つ。三日月状の飛沫がお互いの姿を隠した。

「魚雷発射管、一番二番用意!」

ニ級はどんどん撃ってくる。水柱が至近距離に、遠方に、そして遂に朝潮の連装砲へと直撃する。一本が完全にスクラップとなり、単装砲と化して尚も朝潮は気にしない。

「放てぇっ!!」

がこんと海中へ魚雷が飛び出し、ウェーキを描いていく。ニ級の予想進路へと火薬の怪物が突き進む。一本はニ級の砲撃音の後に破壊され、もう一本が鈍い音を伴いながら炸裂したのがわかった。
小さな悲鳴が聞こえる。朝潮は反転した。

170 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:44:52.01 ID:CTEpQFTU0

残りは三体。だが残弾は数えるほどしかない。どうする。せめてロ級だけでも落としたい。どう戦うのが得策だ。
祈るように顔をあげ、夢も希望もない化け物共と目を合わせる。

答えなど誰もくれやしない。考える時間もくれない。砲撃の雨霰は止まる気配を知らない。
止めどない絶望を彩る、ないない尽くしの状況下。
だから、考えても仕方がない。変な作戦を立てるよりは、探照灯でも照明弾でも使って相手を一体でも多く撃ち落とす。駆逐艦娘である朝潮にとって、もっとも得意な戦法を華々しくお披露目するだけ。
それこそが自分の、艦娘である朝潮にとって最高の舞踏会。

この素晴らしき夜戦こそは、我が闘犬本能を満たすに相応しい。

長い黒髪をばさりと翻し、砲を握る五つの両手指に力を込めた。

「三番用意!」

波を掻き分ける朝潮目掛け、ロ級は魚雷を撃ってきた。死の魚が獲物を食わんと襲いかかる。扇状に広がる白い線を朝潮は辛うじて避け、反撃の弾を撃ち込む。
ロ級は砲頭が潰され苦しそうにもがいた。牙をもがれた深海棲艦など、もはや恐るるに足らず。

「放てぇっ!!」

朝潮の生存意義を反映したような、真っ直ぐな魚雷の軌跡。雷のような爆発は敵を間違いなく粉砕し、深き水底への片道切符をもたらす。

171 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:45:32.44 ID:CTEpQFTU0

残りは二体。続いてリ級の姿をその目に宿し、朝潮は最後の戦いを挑む。
僚艦をことごとく喪った重巡洋艦はかなり慎重になっている。朝潮が近づけば遠ざかり、砲を構えれば防御の姿勢をとる。これでは朝潮の攻撃が届かない。魚雷も当然当たらない。
舞台が長引けば長引くほど、こちらは不利になる。焦燥に駆られ、そうして敵の隙をうかがうことに躍起になっていた朝潮は、伏兵の姿を見落としていた。
突然背後から砲が撃たれた。当たりこそしなかったものの、朝潮とリ級の間に水柱が上がる。

「ッッ!?」

後ろを見る。最初に轟沈し損ねたイ級が、ぼうぼうと火を上げながら一矢を報いていた。あれだけの炎の中で撃つとは、敵ながらあっぱれ。
これを好機とリ級は撃ち込む。速度が制限された朝潮の位置を掴むのは容易だったようで、何発もの至近弾が水柱をあげる。撒き散らされた鉄片で、とうとう朝潮の連装砲は鉄屑と化した。

172 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:46:36.16 ID:CTEpQFTU0

魚雷を撃ち込むための手段が絶たれた。己の運命を全うした鉄の箱は、静かに黒煙を空へと立ち上らせる。
歯噛みする。これを持っていても意味がない。沈み行く勇者への手向けの菊花として、朝潮はイ級目掛けて通過ざまに放り込んだ。弾薬庫に引火して大爆発を起こす。

リ級は口角をあげる。
朝潮も笑ってやった。やけくそなんかではない。

ここまで派手に引き付けておけば、きっと奴はこう思っている。たった一人で忌々しい駆逐艦だ、と。残念ながら、一人ではない。

自分とあの子を繋ぐ、初めて芽生えた信頼のような絆。交わした手のひらの温もりは柔らかく、今でも朝潮を支えているようだった。
自分はずっと、二人で戦っているんだ。それが分からないのなら、お前に勝機はない。
さあ、彼女との約束を果たす時がきた。

タービンの回転をもう一度最大にし、並走を続けて朝潮はその瞬間を待った。

「四番用意!!」

周囲に響き渡るよう大きく声を放つ。身構えるリ級へと、彼女が出来る最後の攻撃を向けた。

「放てぇっ!!」

がこんと、音が響く。
ウェーキは真っ直ぐ、リ級へ。

173 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:50:58.04 ID:CTEpQFTU0

そんな馬鹿正直な魚雷が、相手に届くわけがない。リ級は危なげなく海中へと砲撃し、自身の脅威を打ち破る。

にたぁ、という音が聞こえそうな顔。全てを撃ち尽くした敵を、どう料理してやろうかという、一方的な虐殺を考えている余裕。
お互いの視線が交錯する。
朝潮は微笑んだ。

「四番魚雷は、もう一発あるんです」

気付く筈がない。あれだけの大轟音の最中で、こちらにしか意識を向けていない敵が、背後から迫り来る一羽の首狩りウサギの気配に。

174 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:51:52.85 ID:CTEpQFTU0

この作戦は、自分の好みではない。最終的に騙す行為だから。
己の心に反する。
でも、乗ってやった。
嘘が時に誰かを救うのならば。それもまた、面白いかもしれないと思ったから。
今回だけは、乗ってやる。
全ては生き残る為に。

名前に四の代名詞を冠する駆逐艦が、魚雷を放つ。

「背中ががら空きだっぴょん!」

気付いた時にはもう遅い。戦艦すらも葬る一撃必殺の魚雷が、リ級の真下で炸裂する。
声なき声をあげ、リ級は爆炎と共に海に沈んでいった。

175 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:53:06.19 ID:CTEpQFTU0

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


卯月「ぜんっっぜん!大丈夫じゃないぴょん!」

朝潮「だから、大丈夫だって言っているでしょう?」

卯月「嘘だぴょん!」

朝潮「本当です!」

卯月「いいから、肩を貸してあげるぴょん!見てられないぴょーん!」

朝潮「あっ!?…まったくもう、平気なのに…」

176 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:54:20.09 ID:CTEpQFTU0

卯月「どう考えてもだめだぴょん!服はぼろぼろ、切り傷だらけ、右腕からは滝みたいな出血だぴょん!」

朝潮「はぁ…別にもう痛くもなんともないのに…」

卯月「だめだぴょん!」

朝潮「もう。分かったわ」

177 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:55:11.02 ID:CTEpQFTU0

朝潮「さっき受信した無線によると、救援がこの辺りに向かっているらしいです。明朝、もうすぐで太陽が顔を出すわね」

卯月「鎮守府に帰ったら、真っ先に朝潮をドッグに放り込むぴょん」

朝潮「その前に、戦果報告です」

卯月「真面目過ぎるぴょん!」

朝潮「それが私ですから、当然です」

178 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:55:44.97 ID:CTEpQFTU0

卯月「むぅぅぅ〜…」

朝潮「一体何がそんなに不満なのかしら」

卯月「だってぇ…せっかくうーちゃんと意気投合できたと思ったのに〜」

朝潮「意気投合した覚えはないわ。鎮守府に帰ったら、すぐにでも『お話』よ。叩きのめしてあげるから、覚悟することね」

卯月「ちょ、その言い方怖いぴょん!何するつもりぴょん!?」

朝潮「何もしないわよ。言うだけ。これまでの私の怨み辛みは、さっきの比じゃないわ。泣いても知らないわよ」

卯月「げえっ!?そんなの聞いてないぴょん!」

朝潮「だから、覚悟しておきなさいと言ったのよ」

179 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:56:22.98 ID:CTEpQFTU0

卯月「や〜だ〜!!朝潮と一緒に真っ白な嘘をつくんだぴょん!そうすればみんな平和になるぴょん!」

朝潮「白でも青でも変わらないわ。嘘は嘘。だめなものはだめ。卯月の嘘は、悪い嘘。イタズラウサギで許してやるつもりはないわ」

卯月「ぷっぷくぷ〜…」

朝潮「……ふふっ」

180 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/07(日) 23:56:58.19 ID:CTEpQFTU0

卯月「?なに笑ってるぴょん」

朝潮「いえ。なんとなく…やっぱりいいです」

卯月「気になるぴょん!言うぴょん!」

朝潮「帰ったら言うわ」

卯月「今言うぴょん!でないと〜…」

朝潮「〜〜〜っいたぁぁいッッ!?」

卯月「傷口に海水かけるぴょーん」

朝潮「うっ……くぅぅぅ…耐えがたい傷みです…」

卯月「これが因幡のウサギの怨念だぴょん!さあはやく、言うぴょん!」

朝潮「わ、わかった!言うから!それ止めて!」

181 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:00:01.46 ID:dxbVI4/40

朝潮「もう…」

卯月「で、なんだぴょん?」

朝潮「…私は、卯月が嫌いだったわ。理由はさっきも言った通り。なのに、こうして二人で連携して敵を撃破できるとは思ってもなかったわ。不思議なものね」

卯月「そんなの当たり前ぴょん。うーちゃんと朝潮は、相性ばっちりなんだぴょん!」

朝潮「とてもそうは思えません」

卯月「だってぇ、弥生だってうーちゃんと正反対の性格なのに、うーちゃんの一番の仲良しだぴょん!だからぁ、朝潮だって絶対に相性が良いに決まってるぴょ〜ん」

朝潮「……」

182 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:00:31.58 ID:dxbVI4/40

朝潮「ま、そう言うことにしておきます」

卯月「あ、否定出来なかったぴょん」

朝潮「傷口に響くから、反論するのをやめただけです」

卯月「ふぅ〜ーん?」

卯月「ま!そういうことにしておくぴょん!」

183 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:01:43.77 ID:dxbVI4/40

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


朝潮「あ、朝日…」

卯月「おぉ〜、きれいだぴょん!」

オーイ

オオーーイ

朝潮「…どうやら、お迎えも来たみたいね」

卯月「弥生だぴょん!睦月に如月も!」

184 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:02:18.81 ID:dxbVI4/40


うーちゃーーん!朝潮ちゃーーん!
大丈夫〜〜〜!?
よく頑張ったなー!


朝潮「…はは。私達、帰ってこれたんですね」

卯月「第八駆逐艦のみんなもいるぴょん。にゅふふぅ、みーんな泣いてるぴょん!」

朝潮「帰ったら、いくらでも武勇伝を聞かせてやりましょう」

卯月「そうするぴょ〜ん」

185 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:03:06.71 ID:dxbVI4/40

卯月「にしても、洞窟の時の朝潮の嘘。けっこうイケイケな感じだったぴょん。才能あると思うな〜♪」

朝潮「冗談。そんなつもりは毛頭ありません」

卯月「でも、咄嗟に出てくる嘘じゃないぴょん。オオカミなんて」

朝潮「嘘つきと言えばオオカミ。そしてウサギの天敵もオオカミ。効果はあると思ったのですが…覿面でしたね」

卯月「じゃあ今度は、楽しい嘘をつくといいぴょん!うーちゃん直伝のコツを教えてあげるぴょん!」

朝潮「いらないわ」

卯月「ぴょん!」

朝潮「いりません!」

186 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:04:46.85 ID:dxbVI4/40

卯月「それじゃあ朝潮とうーちゃんの今後の活躍を祈ってぇぇ〜、朝潮のお手を拝借!」

朝潮「?…はい」スッ

卯月「お互いの健闘をたたえて、握手だぴょん!」ブンブン

朝潮「今じゃなくてもいいんじゃないかしら?」

卯月「思い立ったら吉日だぴょ〜ん」

卯月「それに、うーちゃんと握手すると、ご利益があるんだぴょーん。これで朝潮も、うーちゃん大明神の仲間だぴょん」

朝潮「…まーたそんな適当な嘘を」

卯月「でも、悪い気はしないぴょん?」

朝潮「だからそういう問題では…」

卯月「えっへっへ〜〜♪」

朝潮「……」

187 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:06:44.13 ID:dxbVI4/40

朝潮「はぁ」

朝潮「まぁ確かに」

朝潮「そんなに悪い気分ではないわね」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


おしまい
188 : ◆E7idzvHwo6 :2018/01/08(月) 00:18:56.64 ID:dxbVI4/40
今回はこれで終わりです。

個人的に一番書きたかったのは、朝潮の海戦シーン。
ぽんこつだったり小手川唯言われてたりハイエースされていてもいいんですが、やはり真面目で格好いい姿が個人的な彼女のイメージです。
史実にある通り、どんな状況であっても約束を違えない強さは人間の誉れ。それを書こうと思いました。

次回は、赤城か、もしくは鈴谷を主人公として作成しようかなと。
最後に、御了読いただきありがとうございました。
また次の機会に。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 00:33:26.56 ID:Zir6FnTA0
おつんこ
よく読んだら川内スレだった
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 03:54:36.54 ID:GQVlQOFfo
乙、やっぱり朝潮はいいな
それと「古」手川ね
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