勇者「ニートになりたい」

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340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/23(火) 19:07:08.61 ID:576+Hgr7O
341 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/25(木) 14:45:24.55 ID:PJlRf//QO
【翌日 朝 宿屋】

魔法使い「――はぁ?? ここにしばらく滞在するぅ?」

勇者「そうだ」

戦士「てっきり、あたしは通過地点程度にしか思ってなかったが」

武闘家「アタイだってそうさ」

僧侶「ダーマに急がなくてよろしいのですかぁ?」

勇者「(ど、どうする……。まさか、私用で……それも勇者にまつわる話だと正直に言うとこいつらのことだ。騒ぎそうだし、めんどくせぇ……)」

戦士&武闘家&僧侶&魔法使い「……?」

勇者「(よし、また適当なウソつくか)……ミンゴナージュからここまでは少し疲れたからな。休息も必要だ」

戦士「疲れてもないが?」

勇者「お前らは揺られてただけだろうが!」バンッ

魔法使い「あんただって手綱握ってた……馬にってこと?」

勇者「そ、その通り!(ということにしておこう)」

僧侶「それにしてはぁ、まるでご自分が疲れたかのようなぁ」

勇者「言い方間違えただけ! 細かいことはいいの!」

武闘家「馬車を失うのは痛いもんね」

勇者「そうだ! 人手で運ぶには限界がある! 魔法使い!」

魔法使い「……なによ?」

勇者「お前、何十キロも重りつけて歩けるか?」

魔法使い「無理だけど」

勇者「だろう⁉︎ 人は便利さを知る前と後ででは感覚が違う! 物資も買った!」バンッ

戦士「む、たしかに。買いこんだな。勇者が最初は北にいくなんていうから余計な荷物まで」

勇者「こ、細かいことは忘れよ⁉︎ ……ごほんっ、それでだな。馬もいたわってあげなきゃいけない。僧侶!」

僧侶「はい〜」

勇者「俺が言ってることになにかおかしい点はあるか?」

僧侶「いえ〜。暑いですからねぇ〜」

勇者「そうだろう、そうだろう! なにもおかしくはない!」

武闘家「……何日ぐらい予定を伸ばすのさ?」

勇者「へ?」

戦士「いや、もちろんすぐにとはいかないが、異常があるわけじゃないんだ。武闘家が言うようにあまり伸ばしても」

勇者「(し、しまった。見切り発車でそこまでは考えてなかった)……三日ぐらいかな?」

魔法使い「ふぅ〜ん、まぁいいけど。それならマッスルタウンで羽伸ばしたかったなぁ。ここ住みにくいし」

勇者「……」ホッ

戦士「馬舎に預けてあるから簡単な世話はしてれるよな。あたしらはその間、フリーでいいのかい?」

勇者「そうだな。一緒に行動する理由もない。思い思いに休息してくれ」

僧侶「かしこまりましたぁ」
342 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/25(木) 14:57:10.51 ID:PJlRf//QO
【宿屋 部屋】

勇者「よし、うまくいったぞ。えぇーと……どこにしまったんだっけ」ゴソゴソ

従業員「掃除しても大丈夫です?」ガチャ

勇者「あー、どーぞどーぞ。お疲れ様です」

従業員「すみません、他の部屋もまわらなくちゃいけないもので。失礼します」バタン

勇者「おっ、あったあった。マク・ドナルドの時の覆面。これを探してたんだよなー。でも、このままだと武闘家は知ってるから〜……従業員さん」

従業員「はい?」

勇者「ここらへんって服の仕立て屋ありませんかね?」

従業員「ありますよ。宿をでてしばらく歩くと十字路の大通りにでますから、そこを右に曲がった角です」

勇者「裁縫もやってくれたりします?」

従業員「えぇ、まぁ頼めばやってくれないことはないと思いますが。なにか破れたんですか?」

勇者「いえ、そういうわけじゃないんですけどね、これに手を加えてほしいなーなんて」

従業員「マスクですか? 仮装用の?」

勇者「そんなもんです」

従業員「けっこう痛んでますね。新しいもの買ったらどうです?」

勇者「へ? 売ってるんですか?」

従業員「ええ。変わった店ならいくらか」

勇者「おお! どこに行けば⁉︎」

従業員「それなら、大通りの十字路をそのまま――」
343 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/25(木) 15:12:16.31 ID:PJlRf//QO
【仮面屋】

店主「いらっしゃい」ニタァ

勇者「魔物め!」スラッ

店主「……なぁ〜に言っとるんだい」

勇者「つ、つい。店内薄暗いのにロウソクで下から照らしちゃってるから」

店主「余計なお世話だよ。ひやかしなら帰っとくれ」

勇者「いやいや! 買う! 買いに来た!」

店主「ふん……お探しはなんだい? 仮装用かい?」

勇者「見た目はなんでも。希望は顔の全面が隠せるもので、なるべく通気性の良いものがいいな」

店主「布地がいいかね。麻か、もっと薄くなると透けちまうから……」ゴソゴソ

勇者「けっこう色々あるんだなぁ」キョロキョロ

店主「なんだい? こういう店に慣れてないのかい?」

勇者「ていうか、あんまり見かけない」

店主「そりゃそうかもしれないねぇ。クィーンズベルでもこの1店舗だけさ……これなんかどうだい? 体もセットという代わり品だ」スッ

勇者「おもっくそスパイダー○ンやんけ!!」

店主「す、すばだー?」

勇者「……知らないならいいんだ。でも、ちょっと派手かな? この世界観にそぐわないっていうか。もっとファンタジー色の強いものがいいと思う」

店主「さっきからなに言っとるんだい」

勇者「うんとね、なんかこう、仮面です! って仮面?」

店主「……やっぱり、ひやかしかい」ジトォー

勇者「いやいや違うよ!」

店主「あんたの要望にはそれしかないよ」

勇者「え、えぇ……これ?」チラ

店主「買わないんだったら帰っとくれ」
344 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/25(木) 15:23:13.53 ID:PJlRf//QO
【数十分後 城門前】

兵士「なんだ貴様は」

スパイダー○ン「ハーイ! ボクの名前はスパイディーさ!」

兵士「不審者か」

スパイダー○ン「違うよ! 正義の味方で悪者をやっつけるんた!」

兵士「……それで、なんの用だ」

スパイダー○ン「城に入れないか――」

兵士「だめだ。帰れ」チャキ

スパイダー○ン「い、いきなり槍の剣先向けないでよ!ボクがなにをしたっていうのさ⁉︎」

兵士「なにかしそうだ」

スパイダー○ン「冤罪だ! 人を見た目で判断しないで!」

兵士「なら、脱げよ」

スパイダー○ン「だ、だめだよ。そんなことしたら、ボクが一般人のピーター・○ーカーだって」

兵士「……」スゥ

スパイダー○ン「笛ふこうとしないで⁉︎ 仲間呼ぶつもりでしょ⁉︎」

兵士「帰れと言ってるだろうが。捕まえるぞ」

スパイダー○ン「い、いや、だからボクは犯罪者じゃなく悪者をやっつけるヒーローで」

兵士「すぅー……」ピィィィィ

スパイダー○ン「戦術的撤退ッ!!」ダダダッ
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 16:17:13.70 ID:joevVxvVO
世界観壊れててギアナ高地生えますよ
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 16:27:54.14 ID:rf+PgS3dO
これが勇者魔王の王道なんだよ
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 16:35:17.07 ID:joevVxvVO
まとめられた際に、王道の是非議論でコメ欄が80くらいまで荒れそうな予感
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/25(木) 18:51:17.81 ID:9oz6ej7sO
王道っぽい展開+100点
異世界転生っぽい勇者-10000点

クソSSなんだよなぁ
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 19:46:45.35 ID:FNyLS5Vu0
まだアンチ湧いてたのかw
残念ながらまとめサイトの感想欄ではみんな面白い面白いて読んでるよ
面白くないんなら散った散った
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 20:13:48.34 ID:BJEo/A8QO
周りが勝手に言うならともかく>>1が王道勇者SSとか言っちゃうからな
エレ速あたりがまとめたらコメ欄えらい荒れそう
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 20:19:11.92 ID:qQBUgtkA0
「まとめがー」
「まとめではー」
「コメ欄がー」

冬休みか?
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 20:19:43.36 ID:FNyLS5Vu0
バカバカしすぎるw
エレ速のコメ欄とか有名SSでさえ「なろう産みたい」にピンポイントで反応して叩く吹き溜まりの集まりじゃねーかw
しかも世界観壊れてるとか衣装って設定でギャグSSにありがちなメタ発言でwww
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 20:55:18.60 ID:7YD3kyBA0
乙レス1つからの炎上信者大量発生とかもうね…

いろいろ察してしまいますよ
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 20:56:19.80 ID:FNyLS5Vu0
>勇者「……知らないならいいんだ。でも、ちょっと派手かな? この世界観にそぐわないっていうか。もっとファンタジー色の強いものがいいと思う」

この一文があっての世界観壊れてるツッコミとかそっちのが草生えるわw
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 20:58:17.90 ID:ERwfwOrFO
それだけ注目されてるんやで
まとめでコメ欄が荒れるのも同じや
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 21:16:01.40 ID:FNyLS5Vu0
俺は有名SSの「仲間TUEEE」SSのコメ欄が今のこことまったく同じような「なろうみたい」「作者の自演で察する」になったときにあのサイトは変なの住み着いたなと逆に察したなw
このSSに粘着してるのも同じやつだったりしてw
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 22:44:20.01 ID:RpLbcTqLO
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 23:14:57.86 ID:1VAm1C8A0
それだけ連投してれば、ねえ
遠慮なしに連投できるのって、作者か荒らしぐらいしかいないから
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 00:03:44.16 ID:3ZqTLTN60
まーた信者が騒いでるのか…頼むから静かにしててくれ
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 00:37:54.72 ID:KgC32AaKO
iD:FNyLS5Vu0
まとめサイトの感想欄で皆に面白いと言われてる
エレ速のコメ欄なんて「なろう産みたい」にピンポイントで反応して叩く吹き溜まり

感想欄とコメ欄って使い分けてるけど何で?
コメント欄であることに変わりはないよね?
サイトは違えどコメント欄ということに変わりはないよね?

コメ欄に面白いと書いてあるから面白いんだと言うような主張かと思えば、コメ欄なんて叩きの吹き溜まりと言う

言ってることぐちゃぐちゃですよ
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 00:45:34.28 ID:GLsWpgl80
森きのこでは絶賛されてるぞ
ただ、エレ速は閲覧者の母体数が比較にならないからね
星を5つつける奴もいれば、1つしかつけない奴もいる
どんな作品にも否定的な人間は一定数いるわけだから、顔真っ赤にして喧嘩しちゃいかん

362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 05:30:21.45 ID:fGNDHHkao
久々の長編名作だと期待
楽しみにしてるよ
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 05:54:05.78 ID:c7j70UuA0
乙がないからとか言ってる方も頭おかしい
黙って見守ることができんならどっちも出て行け
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 06:05:27.12 ID:+iJNe8k9O
過敏に反応してるアンチがエレ速住民だってのはよくわかった
エレ速まとめ禁止だと書いた方がいいレベル
じゃないとまとめられたら待ってましたと言わんばかりにクソSSの連呼を自演されてるのが想像に難しくない
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 07:25:20.49 ID:dpr/yItPO
その決め付けは何なの? 根拠は?
アンチは嫉妬してる作者なんでしょ、何でエレ速住民になったわけ?
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 08:11:51.93 ID:c7j70UuA0
ここがエレ速のコメ欄そのまんまになってきてる
本当に>>270あたりまで平和なスレだったから誰が荒らしてるかなんて一目瞭然なんだがな
レスバトルの内容もゴミだ
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 08:19:59.66 ID:fGBU3bs4O
    _
    \)    ()フ
     Y) (\/
     /    ̄Zフ
     |    |
     |   ヘ/
     \  | \_
      \/  _/
       L<\/
        ヘ
       | \
       | |
       ロ/  (
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  ∠___   n/
/\ ヘヘロ/ n_/
L |L_/ L/
`Ln/
    十ヽ -|-、レ |
    d⌒) /| ノ ノ
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 08:55:14.74 ID:s+qaajMpO
過剰に反応する読者もどうかと思うよ
煽られても無視すればそのうち消えるのに、むきになって反論するとか悪手でしかない
SSの内容がどうであれ荒らす奴は荒らすんだから何を言っても無駄だよ
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 19:52:46.78 ID:3eBD+g4Co
楽しみ
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 21:49:57.16 ID:h30HTTEeO
追い付いた
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 23:02:18.24 ID:KTeJh+RhO
人が少なくなってもつまらないSSはちゃんと叩かれるんだな
安心した
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 08:10:01.36 ID:S4Lz+F1z0
実際問題叩いてるやつが自演しまくってるように見える
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 09:30:59.06 ID:TAs0Dis1O
叩きは全て自演です
擁護は決して自演などではありません
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 10:30:08.64 ID:S4Lz+F1z0
俺もそうだけどまとめで元スレ貼られてるから続き読みたくてそっから飛んできたやつもいるんじゃねの?
擁護や信者が沸くのに自演がいないとは言わんが叩きがどっとわいてるのはどう見たっておかしい
375 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2018/01/27(土) 11:54:52.45 ID:sYFh7cGeO
【仮面屋】

スパイ○ーマン「ぜぇっ、ぜぇ、はぁっ……ふぅ〜」バタン スポッ

店主「おや、あんたついさっきの」

兵士「チッ、見失ったか。おーい! 向こうを探せーっ!」ザッザッザッ

勇者「うっ、やばっ」ササッ

店主「表が騒がしいねぇ。捕り物でもやっとるのか」

勇者「行ったか……こうなると思ってた! 思ってたよ!!」ビターン

店主「なんだいきなり。物を粗末に扱うんではないよ。ましてやうちの元商品を。買った店で床にたたきつけるなんぞ……」

勇者「ば、ばあちゃん! 俺も漫画は好きでよく読んでたけどさぁ……! 」

店主「そりゃ子供達がよく読んでる本の代物だったのかい。だったら買手がつきそうなもんだがねぇ、なんで売れ残ってたんやら」

勇者「コアな方だからな! アデルでも数冊しか見かけないぐらいの!」

店主「詳細はどうでもいいよ。あたしゃあんたの希望に沿う品をご提示しただけだから」

勇者「もっと他になんかない? ファンタジーでなくてもいいからもっと普通の……そう、舞台や劇であるような! これならばあちゃんもわかるだろ?」

店主「劇……そうか。それなら最初から言ってくれればいいのに」

勇者「あくまで俺が悪いみたいな言い方やめていただけるかな⁉︎」

店主「……そうさね、演劇で使うとなりゃ……」ゴソゴソ

勇者「つ、使うわけじゃないけど」

店主「ん〜と……これならどうだい?」ポイッ

勇者「おっと……⁉︎」ズシッ

店主「そりゃちょっと曰くつきなんだけどね。なんでも役者が着けてる時に死んだっていう」

勇者「縁起わりーな! ……甲冑の鉄仮面か。これなら。たしかに、さっきより」

店主「違和感とかさっきからお前はなにを言っとるんだい?」

勇者「あぁ、いや、城に行くのにさ」

店主「お城に? そんなもん着けて城にいくのかい?」ジトォー

勇者「あんたんとこの商品だからな!」

店主「客の個人事情なんか知ったもんか。あたしが知りたいのは用途だよ。城に行くならはやく言えってんだ」ゴソゴソ

勇者「……これ、着けたら呪われたりしないだろうな……」ジー

店主「それはその場に置いておきな」ポイッ

勇者「んっ? ……っと」ポト

店主「城に行くならそれなりの格好でなきゃ行けないだろ。それ着けてきな」

勇者「これは……? 仮面か?」

店主「貴族が愛用してるマスカレードマスク(舞踏会で用いられる仮面に装飾が施された物のこと)さ。……あんたの格好じゃチグハグだね」

勇者「だって、体もスパイダー……いつもの服でもダメだな」

店主「亡くなったじいさんがかっこよさコンテストで着ていた服がたしかこっちのタンスに――……」
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 11:56:31.41 ID:lt/OPqe90
擁護も叩きも自演だらけでもはや魔境やな
前はもっとマシだった気がするんだが
377 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 11:58:50.96 ID:sYFh7cGeO
【竜王城 司書室】

シンリュウ「ふむふむ」ペラ

ベビードラゴン「んしょ、よいしょ、紅茶と人肉クッキーを運んできましたよぉ」

シンリュウ「そごにおいででぐれ」ペラ

ベビードラゴン「精がでるっすねぇ〜」コト

シンリュウ「……」ペラ

ベビードラゴン「勇者をお調べになってるだっしょ? 正直、たかが人間をなにを恐れるてのやら」

シンリュウ「わだすもそう思う。だけんど、伝承によっちゃ、歴代魔王様の天敵扱いになってっぺな」パタン

ベビードラゴン「勇者ってそもそもなんす? 記録が残ってるんすか?」

シンリュウ「時代によっで解釈が変わる。勇あるもの、女神に愛されしもの、世界に平和と均衡を繋ぐもの……呼び名は様々だぁ」カチャ

ベビードラゴン「ふぅ〜ん。あっ、一枚もらうっす」ポリッ

シンリュウ「“勇者”とはあくまで符号にしかすぎないのか? たまたまそうなった者が勇者と呼ばれる」

ベビードラゴン「血統は関係ないんすか? んぐっ、あむっ」モグモグ

シンリュウ「そんれがなぁ〜、それもたまたまかもしれないし、そうじゃないのかもしんね」

ベビードラゴン「よくわかんねっす」ゴクン

シンリュウ「生まれ持った“ギフト(女神からの贈り物)”なのか……そうだとしたら……勇者とは“運び手”じゃないんかなぁ……」

ベビードラゴン「運び手わっしょい、運び手わっしょい!」パタパタ

シンリュウ「この部屋にある壁画。世界樹を前に、我が祖先と勇者が共に戦う姿……」

ベビードラゴン「ほんとなんすかね? 祖先様は人肉を食べるのをやめたって話」

シンリュウ「……」カチャ ズズ

ベビードラゴン「こんなにおいしいのに」ポリッ

シンリュウ「……っ⁉︎ あっつぅいっ! ベビー! ちょっとあんだ!」ブボッ

ベビードラゴン「あっ、紅茶、暑すぎたっすか? 猫舌ですもんね」

シンリュウ「冷ましてから持ってぎでっていづも言っでるだに!」

ベビードラゴン「んだども、猫舌の竜王なんて聞いだごども。火炎の息はくのに」

シンリュウ「覚えてけろっ! 何度言わせんの!」プルプル

ベビードラゴン「す、すいません!」

シンリュウ「……祖先様は、勇者のどこに惹かれたんだっぺな……」ボー
378 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 12:17:58.27 ID:sYFh7cGeO
【クイーンズベル城 城門前】

勇者?「はっはっはっ、いやぁ、今日も暑い中ご苦労だねぇ!」

兵士「ん……?」

勇者?「失礼。私は名家出身である、ジャンポワール・ルネッサンスというものだが」

兵士「は、はぁ」

ジャン「気軽にジャンと呼んでくれたまえ」

兵士「……」ジー

ジャン「(バレませんようにバレませんようにバレませんようにバレませんように……!)」

兵士「……本日はどのようなご用件で?」

ジャン「(キターーー! ばあちゃん感謝!!)……この城の中に知り合いがいてね」

兵士「はぁ、お知り合いですか。それならば名簿を」

ジャン「いい、いい。私は貴族でありながら庶民の苦労を汲みたい」

兵士「……?」

ジャン「いや、だからだね、手を煩わせるのも悪いだろう?」

兵士「あ、あぁ。いえ、これも務めですので、お名前を教えていただければ――」

ジャン「申すな申すなぁ。せっかくこちらが気を使っているというのに」

兵士「……」

ジャン「……」ゴクリ

兵士「――……あ、ありがとうございます。実はちょうどそろそろ交代の時間で」

ジャン「そ、そうだろう⁉︎ そうだろう! 気にしなくていいんだぞ⁉︎」

兵士「お優しい貴族様で。あの、それでなんですが城内に入るということで?」

ジャン「無論だ。じゃないと自分では探せないからな」

兵士「無許可で通すのはちょっと。そうだ、本日は身分証をお持ちでいらっしゃいますか?」

ジャン「み、身分証?」

兵士「はい。貴族様であれば、身分を証明するものをお持ちですよね?」

ジャン「も、もちろんである!」ゴソゴソ

兵士「……」ジー

ジャン「あ、あれぇ〜? どこやったっけなぁ……わ、忘れちゃったかなぁ?」

兵士「……忘れた?」

ジャン「い、いやぁ〜ついうっかり。忘れるなんて慌てん坊さん! てへっ!」

兵士「貴様……」チャキ

ジャン「な、なんでせう?」

兵士「貴族が身分証を忘れただぁ?」
379 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 12:49:21.67 ID:sYFh7cGeO
ジャン「た、たたたんま! 本当に! ウソじゃないて!」

兵士「身分証を持ち歩かない貴族など聞いたこともない!」

ジャン「今回がはじめてのケース! やったね! きみの童貞は捨てられたよ!」アタフタ

兵士「ますます怪しいわ! 貴族がそんなにふざけた言葉遣いをするものかっ!!」

ジャン「言っただろ⁉︎ うちの家系そうなの! こういう教育方針なの!」

兵士「……では、どこの出身だ」スッ

ジャン「ん?」

兵士「出身地と名家であるという証拠を別の形で示せ」

ジャン「ん??」

兵士「できないのか……?」

ジャン「で、できるよ! もちろん! 我が家系は先祖代々アデル王と関係を持っていて」

兵士「ほう」

ジャン「そ、それから、えっと、アデル王と親交が深くて」

兵士「ふむ」

ジャン「……アデル王と仲がすっごくいいんだ!!」

兵士「で?」

ジャン「ん??」

兵士「だからなんだ?」

ジャン「いや、だからさ、そんな凄い貴族ってことで、ここはひとつ」

兵士「なにひとつ証明になっていないのだが?」チャキ

ジャン「矛先って人に向けたら危ないと思うんだ」

メイド「――……これ。なにをしているのです、城門前で」テクテク

ジャン「(ん? あいつは……)」

兵士「こ、これはこれは。姫様専属の……職務に励んでいたのであります!」ビシッ

メイド「貴方は品格を落とすのが務めですか」

兵士「いえっ! 不審者を取り締まり! 王と場内の安全を確保するのが務めであります!」ビシッ

メイド「こちらが、不審者……」ジー

ジャン「(ま、間違いない! あの凶悪姫と小さい頃から一緒にいた……! 俺がいじめられてたのをほくそ笑んでいたメイド……!)」

メイド「城の者が失礼致しました。貴族様と見受けられますが、本日はどのような」

兵士「メイド様! 騙されてはなりません! そいつは怪しいです!」

メイド「黙りなさい。この方がつけているマスクは由緒正しきマスカレードマスクではありませんか。贋作でもない、真贋です。なにを疑っているのです」

兵士「えっ? そ、そうでありますか⁉︎」

ジャン「(な、なんとぉっ⁉︎)」

メイド「……大変失礼致しました。兵にあまり学はないもので」ペコ

ジャン「……いやっはっはっ! いい、いい! 私も身分証をついうっかり忘れていてね!」

メイド「まぁ……それは」

ジャン「だからそこの兵士くんが疑うのも当然よ。責めないでやってくれ」

兵士「……っ! し、失礼いたしましたぁっ!!」ペコペコ
380 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 13:10:07.39 ID:sYFh7cGeO
メイド「重ね重ね、こちらの非礼をお詫び致します」ペコ

ジャン「(けっ、なぁ〜にがお詫びいたしますだ! 俺はあの時助けてくれずニコニコしてたお前を忘れちゃいねーぞ!!)……知り合いが城内にいてね。会いにきたのだが」

メイド「お名前がわかればすぐにお調べいたしますが」

兵士「そ、それがっ、貴族様は、ご自分で探していただけると」

メイド「……? なぜ?」

兵士「私を労っていただいて。それなのに、疑ってしまい、本当に申し訳ないことを……」シュン

ジャン「(ちったー反省しろこのタコ!!)……いいんだ。間違いなど誰にでもある。キミはキミの職務を全うしようとていた。責任感に感服する思いだよ」キラン

兵士「お、おおおぉぉぉっ」

ジャン「これからも励み、そして必ずやこの国の、ひいては民の安全を守ってほしい。キミにしかできないのだから」ニコ

兵士「くっ、我が人生、このようなお言葉をかけていただいのは初めてのこと! 私は自分が恥ずかしい!」ガクッ

ジャン「――失敗を糧にしろ」

兵士「糧に……?」

ジャン「学べばよいこと。そうすればキミという価値もさらに高みに近づける」

兵士「そ、そうか……俺は、たるんでいたのか」ギリッ

ジャン「キミは私ができないことをしている。尊敬するよ」ポンッ

兵士「うぅっ、うっ、ありがとうございます、ありがとうございます」

ジャン「(なーっはっはっはっ!! きんもちええwwww)」

メイド「本当に、素晴らしいお考えですね」

ジャン「フッ、よしてくれ。私は父と母の教えに従っているだけで」

メイド「かしこまりました。では、私が城内をご案内させていただきます」

兵士「いえ! それならば俺が! 交代の時間ですし!」

ジャン「(ん……?)」

メイド「あなたよりも私が詳しい。空き時間があるなば……」

兵士「ハッ! そ、そうだ! 高めねば! 自分を!」

ジャン「いや、ほら、メイドさんも忙しいんじゃ?」

メイド「お客様をご案内するのも務めなのでございます。失礼のないように」

ジャン「(どうしてこうなった)」

メイド「自己紹介が遅れて申し訳ございません。私は、クィーズベル王の一人娘にして第一王女。……その専属メイドを務めさせていただいております」フワッ
381 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 13:35:55.30 ID:sYFh7cGeO
【クイーンズベル城 城内】

メイド「あの、なぜ先ほどから目につく鏡ばかりを熱心に」

ジャン「えっ⁉︎ ご、ごほんっ、身だしなみは大切だからね!」

メイド「左様でございましたか。法務室はこの先の右手になります」

ジャン「(くっそー、この城って鏡こんなにあんのかよ! ナルシストかっつーの!)……あぁ、案内ありがとう。礼を尽くしてくれて感謝する」ペコ

メイド「……」キョトン

ジャン「では、私はこれで」

メイド「お、お待ちをっ!」

ジャン「……? なんだい?」

メイド「下々に頭に下げるなんて聞いたことが。あの、どちらの家柄はどちらの」

ジャン「フッ、名乗る時には相応しい場がある。今はその時ではない」

メイド「それは、なぜでございましょう」

ジャン「貴族とはなにか。そう下々に尋ねると権力と富の象徴だと答えるだろう。そこに差はないのだよ」

メイド「……?」

ジャン「つ、つまりだね、私はひけらかしたくないのだ。自分の家柄を」

メイド「……またもや、ご無礼を。私もまだまだ見識が足らぬようです」

ジャン「良いんだ。こういう貴族もいるとこれかは知っていてくれれば」

メイド「感服の極みでございます」ペコ

ジャン「うむうむ、ではこれで」

衛兵「……」スタスタ

メイド「……っ!?」ビクッ

ジャン「(……ん?)」

衛兵「……」スタスタ

メイド「……ふぅー」ホッ

ジャン「(なんだ? 今の表情は? 怯えていたような)」

メイド「退城の際はお声かけくださいまし。私は最初に通りましたホールでお待ち致しておりますので」

ジャン「あ、あぁ。わかった。そうするよ」
382 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 14:05:17.91 ID:sYFh7cGeO
【クィーズベル城 法務室前】

ジャン「……よし、邪魔者はいなくなったな……」ササッ

学者「ど、どどどいてくださいっ!」アタフタ

ジャン「へっ?」クルッ

学者「わひゃあっ」ドーンッ パラパラ

ジャン「お、おお、自分でぶつかって自分でこけた」

学者「ひ、ひいぃいいっ!! せっかく順序よく並べた資料がぁっ!」カサカサ

ジャン「す、すまん。拾えばいいのか?」スッ

学者「触らないでくださいっ!! どこになにがあるのかごちゃごちゃになるでしょう!!」クワッ

ジャン「あ、はい」

学者「あーっ、もう、急いでるのに。なんで角に突っ立てたんですかっ!!」

ジャン「す、すみません」ペコ

学者「うぅ〜。間に合わないのにぃ、時間押してるのに〜……はやく水質調査団と合流しないと」カサカサ

ジャン「水質? それって井戸のこと?」

学者「そうですよ! この国に住んでるなら知ってるで……あなた、誰?」

ジャン「いや、私は貴族のジャンというもので」

学者「お客様でしたか。城に入れるのならさぞかし誉れ高い名家なのでしょうね」トントン

ジャン「それでさ、水質どうなってんの?」

学者「どうもこうもありませんよ。民には伏せてますが、原因がわからないのです」

ジャン「へぇ、伏せてんの? それってまずくない?」

学者「ならば公表しろと? 無用な混乱を招くだけです。水はたださえ欠かせないもの。この国の気候ならば尚更です。大恐慌が起きますよ」

ジャン「……」

学者「国王様も長期化の憂いは充分理解しておいでです。法務担当の者達が法王庁との協議にはいっています」パンパン

ジャン「(法王庁。たしかアデル王のとこに遊びいった時にきいたことあんな。名前だけだけど)」

学者「水売りに来ている商人があるので、すぐに困窮するともないですし、外部の貴族様が知らなくてもよいですよ」

ジャン「あ、そう」

学者「どいてもらっていいですか? 急いでるので」

ジャン「キミ、貴族に対してフランクだね」

学者「もう一度言います、急いでるので。……罰なら後で受けます」

ジャン「いや、そういう意味ではないけど」

学者「失礼っ、っと、わたたっ」ヨテヨテ

ジャン「前見えてないじゃん。よこせよ、半分」

学者「は、はい?」

ジャン「持ってやるから。整理し終えたんたなら触っても問題なかろうて」

学者「ば、バカじゃないですか⁉︎ ……ハッ! もしや、貴族様に荷物持ちをさせてる現場を見させてさらに重い罰を……」

ジャン「ばっかじゃねーの? そのかわり、ちょい話を聞かせてくれや」

学者「話……?」

ジャン「そうそう。歩きながらでかまわんから」スッ
383 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 14:46:55.06 ID:sYFh7cGeO
【クイーンズベル城 大広間】

メイド「(会いたい。……一目だけでも無事かどうか確認したい。私のたったひとりの弟)」ボー

姫「こんなところでなにしてるんですの?」ヒョイ

メイド「……姫さま。午前の教養の部は?」

姫「退屈だから抜け出してきちゃった」

メイド「はぁ……」ガックシ

姫「貴女こそなぜここに? 暇してるわけじゃないでしょ?」

メイド「私は、お客様のお帰りをお待ちなのです」

姫「お客様? なぜ、貴女がそんなことをするの? わたくしの専属なのに」

メイド「姫様のお付きであると同時に、国にも従事しているのです。丁重におもてなしするのは当然のこと」

姫「いいえ! わかってないのは貴女の方なんですの。私が右といったら右。左といったら左を向くのが貴女の務め」

メイド「ひ、姫様。そのようなことをいつまでもおっしゃるから、国王様は私に」

姫「うるさいんですの! お父様の名前を今持ち出さないで! 縁談の話を思い出したくないのですからっ! べーっ!」

メイド「……はい」

姫「それで? そのお客様というのはどちらですの?」

メイド「……はい?」

姫「わたくしの付き人をこき使った罰を与えてやらなくちゃいけませんの」

メイド「ひ、姫さまっ!! 国賓なのですよ! 自覚をお待ちくださいませ! 第一皇女がそのようなマネを!!」クワッ

姫「うるっさいんですの。どうせどこかの貴族だったのよね? アイツらすぐに舐めたマネしやがるから。セクハラされたんですの?」

メイド「い、いえっ! そ、そのような!」ブンブンッ

姫「口止めされたんですのね。全く許されないんですの!」コツコツ

メイド「ひ、姫さまっ! お待ちを! お待ちくださいっ! そちらでなく法務室にっ⁉︎」バッ

姫「そうなんですのぉ……」ニヤァ

メイド「ち、違います! だめです! なりません! 貴族相手とはいえ姫さまが直々に! 大事になりますよ! 家柄を潰す気ですか⁉︎」アタフタ

姫「大げさなんですの。ちょっとこらしめてやるだけなのに」コツコツ

メイド「待って! お待ちくださいまし! 後生ですから!」タタタッ
384 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 15:30:49.44 ID:sYFh7cGeO
【クイーンズベル城 通路】

ジャン「――ふぅん、水脈が逃げてるねぇ」テクテク

学者「信じられないでしょうが、事実なのです」テクテク

ジャン「岩盤に使う火薬が足りないんとかじゃなく?」

学者「硬い地層については爆薬で突破し、さらに掘りすめたのですからそういう話ではないしょう」

ジャン「いっそ、別の場所を掘ってみるとか」

学者「どこでも掘ればいいという条件ではないのですよ。水脈が流れているか、もしくは地中に溜まった水蒸気が溜まっていないと。生活水として使うまでには濾過も必要ですから」

ジャン「なら、今ある井戸の再利用できないかと模索してるわけ?」

学者「可能ならばそれが一番いいのです。ですが、厳しい……はぁ」ガックシ

ジャン「そりゃ困ったな。できることと言えば掘るしかないしな」

学者「せめて、なぜ水が逃げているのか……その原因さえ突き止められれば」

メイド「ひ、姫さまぁっ!!」タタタッ

姫「……」ズンズン ズンズン

ジャン「……あ、あれは……こっちにまっすぐ向かってくるのは……ま、ままままま、まさかっ!」

学者「あ、姫様だ」ペコ

姫「……見つけたぁ……」ニヤァ

ジャン「ひ、ひぃっ! 10年ぶりかぐらいになるが忘れもせんぞ! そのおもちゃを見つけたような笑み!」ガクガク

学者「頭さげなきゃ。貴族といえども、怒られますよ」コツン

ジャン「(た、たたたのむっ! はやく通り過ぎて! と、トラウマが! やめて! そこはネギを刺す穴じゃ!)」ペコ

姫「……」ズンズン ピタッ

メイド「ひ、姫さま。立ち止まらずにそのまま歩きましょう! ねっ! そうしましょう!」

姫「――……これ。そこのお前」ビシッ

学者「わっ、姫さまから声かけられてるよ」

ジャン「(か、勘弁してくれぇぇぇっ)」ガタガタ

姫「聞こえんのか? マスカレードマスクなどつけておる小癪なお前のことよ」

ジャン「はっ、はいぃっ!」ビシッ
385 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 15:33:59.82 ID:sYFh7cGeO
姫「なんだそのナリは? 舞踏会にでもきたつもりかえ? 着飾って……なんとまぁ、無様な男よ」

メイド「姫さまっ!!」クワッ

姫「オーホッホッホッ! 見てみるんですの。震えておる! くふふっ」ニマァ

ジャン「(に、逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ、逃げちゃ、だめだ! トラウマなんか平気だい!)」

メイド「気は晴れましたでしょう? ささ、私たちは――」

ジャン「……失礼。あまりにも麗しいお姿なので、身体に電流が走っておりました」

姫「おべっかを使う作戦に切り替えたんですの? なんでも、このわたくしの付き人をこき使ったようですね」

メイド「来る途中に何度も……! それが私の務めであり、なにより、私から!!」

ジャン「よいのです。たしかに自己紹介をされた際に専属だと。辞退すべきだったのです」

姫「ほう?」

メイド「も、申し訳ございませんっ!」ペコペコ

姫「お前が頭を下げるではないわ。私までさげたことと同義になるであろうが」

メイド「ひ、姫さまぁ」

姫「マスクをとって顔を見せよ」

ジャン「……はい?」

姫「なにかえ? とれぬと申すか?」

ジャン「あー、んー」

姫「私の頼みを聞けぬのか?」

ジャン「(だ、だだだだ大ピンチッ!! ど、どないしよ! こいつ俺の顔覚えてたらえらい目にあうど!!)」

姫「どうした?」

ジャン「(で、ででもっ、10年前の話だし、顔なんか忘れちゃうし? ちっくしょおおおっ! これじゃ変装した意味が! なんとか誤魔化さなければ!)」

学者「……なにやってるんですか。とったほうがいいですよ。無礼です」コソ
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 17:19:41.61 ID:hukL3QGnO
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 17:29:55.54 ID:S4Lz+F1z0
今日の分終わり?
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 19:07:53.31 ID:YrLRbhlvo
389 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 19:23:41.99 ID:YWyAV8D2O
姫「はやくとらぬか。お父様に言いつけるぞ」

ジャン「(ええい、ままよっ!!)……メラミ」ボソ

姫&メイド&学者「え、ええっ⁉︎」ギョッ

ジャン「〜〜〜っ! ぐはっ、ぐあぁ」ゴロゴロ

姫「こ、こいつ、自分の顔に向けて火炎魔法を撃ちおった……気でも狂ってるんですの?」

メイド「だ、大丈夫ですか⁉︎ すぐに神官職のものを」

ジャン「(俺の魔法ってこんないてーの⁉︎ 自分に撃ったことないからわからんかった。で、でも! 困惑させることには成功したぞ!)……これでいいのです」ボォッ

学者「いい、って燃えてますよ。服」

ジャン「え? あ、やばっやばっ! あちゃ! あちゃちゃ!」バタバタ

姫「……」ポカーン

ジャン「ふぅ……私の無礼には今、私自らが罰を与えたのです」

姫「罰? あなたが?」

ジャン「姫。聞いてもらえますでしょうか」

姫「なんですの?」

ジャン「(見よ! 俺の演技力を!)……実は、この仮面の下はひどいヤケドの跡がございます」

姫「……」ピク

ジャン「あれは幼き日のことでございました。実家にある納屋で可愛がっていた馬とお昼寝をしていると……放火魔が」

学者「ま、まさか。それで火をつけられて、逃げ遅れて」

ジャン「警備の者が火事に気がついて救出された際、私は一命をとりとめましたっ!! 顔にひどいヤケドをおって……」

メイド「な、なんということを……」

ジャン「でも! でもっ!! それより悲しかったのは……!! なにかおわかりですかっ⁉︎ 姫っ!!」クワッ

姫「な、なんですの……?」タジ

ジャン「私の仲良かった馬が……っ! 仲の良い馬が巻き込まれてしまったこと……」ポロ

メイド「……涙が」

ジャン「守りたかった!! 守れなかった!! もう帰ってこない! あぁ、ロビー! ……うっうっ……」ポロポロ
390 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 19:26:11.51 ID:YWyAV8D2O
学者「そんなにまで……」

ジャン「姫……。本来ならば罰は姫からいただくが道理。しかし、私にとって最も辛い処罰がわかるのは、私なのです」

姫「……トラウマを……ほじくり起こしたんですのね?」

ジャン「(おめーにほじくられてるよ馬鹿野郎!!)……左様です。追加の罰があれば、なんなりと。仮面を脱げと言われれば脱ぎましょう」スッ

メイド「……っ! お、お待ちください!!」ガシッ

ジャン「ど、どうなされたのです?」(困惑の演技)

メイド「姫さま! 罰というのなら私も同罪でございます!!」

姫「うっ」タジ

メイド「この方はこんなにキレイな瞳をしていて、涙をためてるのに……これ以上なんの罰が必要でしょうか⁉︎」

姫「(な、なんですの。このクソ寒い流れは)」

メイド「さぁっ! 罰を! この方も、そして私も謹んでお受け致しますっ!!」

ジャン「(いや、ちょ、ちょっと。せっかくうまくいきそうだったのに)」ハラハラ

姫「……私が貴女に罰を与えるわけないでしょう」

メイド「では、この方も」

姫「はぁ……なんだか。もうどうでもいいですわぁ」

ジャン「あ、ありがたき幸せっ!!」ドゲザ

メイド「姫さま、寛大なお計らいに感謝を申し上げます」ペコ

姫「はいはい」ヒラヒラ

メイド「さぁ、お立ちを。なにも恥じることはないのです。申し訳ありません、はるばるハーケマルから来ていただく予定の国賓の使者たる方に」

姫「ん……?」ピク

ジャン「ハーケマル?」

メイド「実は……申し上げずともわかっておりました。そのマスクはハーケマル由来のもの。第一皇子に先駆けて様子を見にいらしたのでしょう?」

姫「な、な、な……」プルプル

ジャン「(城門の兵士さんにはアデルって言っちゃたけど。まぁ、いっか。それで。どうせ目的の鏡見つけりゃいいし)……バレていましたか」

姫「……っ⁉︎」ギロッ
391 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 19:38:49.15 ID:YWyAV8D2O
メイド「お帰りの際に、王室へとご案内しようと思っていたのです」

ジャン「いや、そ、そこまでは。今回は隠密でして」

姫「……」プルプル

メイド「姫さま、よかったですね。ハーケマルの国からの使者がこのように清い方で。これなら、民も第一皇子もさぞかし……」

姫「おい」ギロッ

ジャン「ひっ⁉︎」ブルッ

姫「ハーケマルの皇子ってのに伝えるといいですの」

ジャン「(こ、この目はっ! なにかに無性にイライラしている時の! や、やめて! 第二のトラウマを発動させないで!)」ガタガタ

姫「わたくしは、貴方と結婚するつもりは毛頭ないと。頭の毛ぐらいにね!!」

ジャン「あわわわわっ、ごめんなさい、許してください、もう勘弁してください」ブルブル

メイド「姫さまっ!」

姫「……? なんですの? 別に使者に言ってるわけではありませんのに」

ジャン「い、いやだ。診察ごっこはもう嫌だ……」ガタガタ

学者「体育すわりしてなんか言ってますね」

姫「診察ごっこ……?」ピク

メイド「やはり、先ほどのトラウマが!! こうしてはおられません! すぐにお部屋にお通しいたします! 本日は城にお泊まりくださいませ!!」

ジャン「いやなんや……そこは違う穴なんや……」ブツブツ

姫「……どこかで……? なにか……見落としてるような……」
392 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 20:01:17.00 ID:YWyAV8D2O
【クィーンズベル城 玉座】

王様「まことかっ⁉︎ ハーケマルからの使者が!」

メイド「今は、部屋でお休みなさっておいでです」

王様「そうかそうか! そうじゃったか! 失礼はないであろうな!」

メイド「そ、それは……」

王妃「懐かしい。ハーケマルといえば私の母国でもあります。使者といえば、いつもの貴族かしら」

メイド「今回のご来訪は、王子に先駆けての隠密だそうでして」

王様「なるほどのう、視察に参ったというわけか」

王妃「……? それにしては、おかしいような? 定期的に文を渡しておりますし、なにより私が嫁いでいる国をいまさら」

王様「よいよい。あちらの王にとっても大事な息子なのであろうて。気になりもする」

王妃「……左様で、ございますね……」

メイド「目が覚めたら、お通しいたしますか?」

王様「うむ……いや、まて。今日は自由に見てもらって、明日にでも会食を設けよう。ワシが出張っては隠密の意味がなくなる」

メイド「承知いたしました」

王様「お主に世話役をまかせよう。くれぐれも、失礼のないようにな。姫の大事な面談相手に悪印象を持たせるわけにはいかん」

王妃「あなた、その席には私もご一緒してもかまいませんか?」

王様「よろしい。許可しよう」

メイド「姫さまとのご縁談がかかっております」

王様「うむ……お主にも、無理を言ってすまなんだ。小さき頃より共に育った間柄を逆手にとり、姫を説得させようなどと」

メイド「拾っていただいた恩は忘れておりません。姫さまにとっても幸せな婚姻となると信じております」

王様「うむっ! お主の忠義やあっぱれ! ……これからも、姫をよろしく頼む」

王妃「私たちは少々甘やかしすぎたようです。あの子には自覚がたりない。頼りにしていますよ」

メイド「もったいなきお言葉にございます」
393 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/27(土) 20:24:17.99 ID:YWyAV8D2O
【クィーンズベル城 客室】

ジャン「Zzz」

メイド「……」パタン

ジャン「うっ、うぅっ」ビクゥッ

メイド「……起きていらっしゃるのですか?」

ジャン「いややっ、やめてっ」

メイド「うなされている……おかわいそうに、よっぽどお辛かったのですね」

姫「失礼するんですの」バターーンッ

メイド「……っ⁉︎」ギョッ

姫「あら? 貴女まだいらしたんですの?」

メイド「ひ、姫さま! お静かに! 休まれているんですよ!」

姫「どーにも喉に小骨がひっかかっているような気がして。やっぱりそいつの顔見たいんですの」

メイド「な、なりませんっ! どうしてもというのならせめて許可をお取りください!」

姫「あらあら? 歯向かうんですのぉ?」ニタァ

メイド「な、なんですかぁ?」タジ

姫「めずらしいですわね。貴女が反抗するなんて、十年間はなかったことですの。最後に……かばおうとしたのは、勇者相手だったかしら」

メイド「……っ!」

姫「あの頃の貴女は今よりも引っ込み思案でしたものね。いつもニコニコ笑って、取り繕っていたのをよく覚えていますわ」

メイド「む、昔の話です」

姫「勇者と私と貴女の三人で。アデル王に連れられてやってきた勇者と仲良くなるのはそんなに時間がかからなかったんですの」

メイド「……そうでしたね」

姫「遠く過去のように感じますわ……本当に遠い過去なんですけど」コツコツ

メイド「姫さま! ドサクサ紛れでなにを近づこうとしているんですか!」

姫「……なぁ〜んかひっかかるんですの……診察ごっこをしていたのを覚えている?」

メイド「え……? 覚えては、いますが。勇者様とやっていたおままごとの」

姫「ええ。私が妻、そして貴女が愛人」

メイド「い、今思うと、子供ながらにとんでもない設定を」

姫「仲間外れにしてはかわいそうだと思ったんですの。……その診察ごっこをしたのは、後にも先にも勇者だけ……」

メイド「左様です。勇者様が1ヶ月間滞在していた時にやった遊び。アデルにご帰国の際には、遊び疲れたのか、勇者様が憔悴しきっていたのをよく覚えています」

姫「楽しかったですわよね。……こいつは、なんでさっき“診察ごっこ”と口走ったのか」チラ

ジャン「Zzz」

メイド「遊び自体は、よくある遊びですよ」

姫「……それも、そうなんだけど……」ジー

ジャン「違う、皮ひっぱらないで、う、うぅっ」

メイド「良くない夢を見ておられるのです。今はそっとしてあげましょう、姫さま」

姫「うぅ〜〜〜ん? なんで、こいつを見てると勇者を思い出すんですの……?」
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 21:36:36.16 ID:S4Lz+F1z0
やっぱおもしれww
叩かれるレベルのものではないよなこれww
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 22:47:47.99 ID:NIYx7LzA0
>>1以外が何レスもするのは荒らしと変わらんのにな
まとめ民アピールも臭いからやめてくれよ
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 23:34:23.95 ID:Ci4KaatSO
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/28(日) 00:19:40.30 ID:QdoqZEgV0

勇者→いじめられてた
姫、メイド→友達のつもりだった

つまりこういうことか
アンチに負けないで頑張ってくれ
とても面白いよ
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 04:17:45.81 ID:/iotL7Eco
乙でした
月並みな展開だけどやはりこういうの好きだわ
399 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/01/28(日) 10:47:29.94 ID:2zswLIblO
ここだけ補足レスしておきます。

マスカレードマスク
https://i.imgur.com/TrKZxsN.jpg

SS内でも()で説明入れてますが一例を挙げるとだいたいこのような仮面のことです。
ありがちに映画やRPGゲームで正体を隠す人物がつけたりするので見たことある方は多いんじゃないでしょうか。
この他にも様々な種類のものがあります。画像を身につけているというわけではありません。
そういう部分にこだわりのある方は好きなデザインを想像して当てはめてみてください。
400 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/28(日) 15:49:13.59 ID:nyYl0jguO
【その頃1 クィーズベル城 郊外】

戦士「はぁぁぁぁっ!!」ザシュ

武闘家「ハイィィィィッヤァッ!!」ドンッ

戦士「ぐっ⁉︎ がはっ」キーーン

武闘家「はぁっ、はぁっ……ふぅー」スッ

戦士「く……っ、ち、ちくしょう、また負け、か」ガクッ

武闘家「まだやる?」パンパン

戦士「ふん、あたしは負けず嫌いなんだ。身体が動けばすぐにでもやりたいが……少し休憩するか……ふぅ」

武闘家「……」ドサッ

戦士「なぁ? 気になってたんだが……老人は……武闘家の師匠はなんで勇者についてけって言ったんだ? 修行のためか?」

武闘家「見聞を広げろって。……そう言われた。アタイが井の中の蛙だって思い知ってちょうどよかったんだと思う」

戦士「マク選手のことか。たしかにあの強さは尋常じゃなかったな。できれば、あたしももう一度会いたい」

武闘家「毎日会ってるじゃないさ」ボソ

戦士「……武闘家……お前はあたしより、強い。悔しいが認めなきゃいけないみたいだ。なにかアドバイスをもらえないか?」

武闘家「タフさに自信がありすぎるんだ。防御が疎かになりすぎ。アタイの動きは見えるんだろう?」

戦士「ああ、だが、速すぎて反応できない」

武闘家「動体視力は悪くない。これまでの相手は多少攻撃を受けても自前のタフさがあってどうにかなってたかもしれないけど」

戦士「……」

武闘家「――達人に近づけば近づくほど甘くないよ」

戦士「防御か。攻める方が好きなんだけどなぁ」

武闘家「得意不得意は誰にでもあるもんさ。アタイだって人に教えられるほど高みにいるわけじゃない。勇者に教えてもらえば?」

戦士「むっ? なぜだ? あいつはこのパーティで三番手だろう。器用貧乏だと言ってたのはその通りだったし……武闘家はまだ勇者と手合わせしてないから実力を知らないのか」

武闘家「……はぁ」

戦士「もっと、もっと、強くなりたい……マク選手とまではいかないが、背中が見えるようには」

武闘家「そこに関しちゃ同感だね。あいつの顔色を変えるぐらいの一撃を放ってみせる……! やられっぱなしでたまるもんか……!」ギュゥ

戦士「ぷっ、ははっ、お前もあたしと同じぐらい負けず嫌いなんだな」

武闘家「……なんで笑うのさ」

戦士「いやいや。目標があるとはいいものだ。無愛想だが、嫌いじゃないよ、あたしは」

武闘家「アタイは嫌いだけど」

戦士「なっ⁉︎ 今ようやくいい雰囲気になろうとしていただろうが!」

武闘家「女同士でなに言ってるのさ。アンタ、そっちの気でもあんの?」

戦士「〜〜ッ! き、嫌いだ! やっぱりお前なんか! このひねくれ者!」

武闘家「くっ、ひ、人が気にしてるところを」

戦士「あ? ……なぁ〜んだ。自覚あったのか? やぁ〜〜い」

武闘家「立てッ!! 足腰立たなくしてやるッ!!」クワッ

戦士「やろうってのか!! あたしが何遍も黙って負けると思ってんだろ!」ムクッ

武闘家「弱いくせに。ウププッ」

戦士「い、言いやがったなぁっ⁉︎ 叩き切ってくれるッ!!」
401 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/28(日) 16:08:32.89 ID:nyYl0jguO
【その頃2 クィーンズベル城 防具屋】

魔法使い「見てこれ見てこれ〜っ! ピアスかわいくないっ⁉︎」

僧侶「お似合いですよぉ〜」

魔法使い「はぁ、自由に買い物ができるなんて……甲斐性なしの勇者についてってたら一生できないと思ってたぁ! ふんふ〜ん♪」

僧侶「賭けにかってよかったですねぇ」

魔法使い「マク選手! あぁ、素敵! この杖も貰っちゃたし! ん〜、ちゅっちゅっ」

僧侶「杖は手垢がついて汚いですよぉ……でもぉ、考えてみればマク選手って不思議な人でしたよねぇ?」

魔法使い「不思議? へんてこりんなマスクや格好が?」

僧侶「それもありますけどぉ。なんで無口なんでしょぉねぇ?」

魔法使い「修行なのよ。あれが」キリッ

僧侶「なんだか、喋りたくなかったみたいなぁ〜?」

魔法使い「チッチッチ、僧侶ったらなんにも知らないのね。サイレントモンクっていうのよ。あれが自分に課した制限なの。はぁ……かっこいい」ウットリ

僧侶「……はぁ、やっぱりポンコツなんですねぇ」

魔法使い「きっと、きっとね、あのマスクの下はすごぉ〜く、かわいい顔してるのよ? なんで私に杖くれたのかしら……ま、まさかっ⁉︎ 一目惚れされてたっ⁉︎」

僧侶「……」

魔法使い「や、やだぁ〜! ど、どうしよ! 私にに恥ずかしがってたってこと⁉︎」バンバン

僧侶「叩かれると痛いですぅ〜」

魔法使い「修行があけたら私に会いに来たりして……好きだ、結婚してくれ」(マクの真似のつもり)

僧侶「あのぉ、そもそも声を知らないのではぁ?」

魔法使い「純粋な目を見てわからなかったの⁉︎ そんなことも想像できないの⁉︎」クワッ

僧侶「は、はぁ」

魔法使い「ぐへ、ぐへへっ……だめよ! 私、ダメ男代表の勇者についていかなくちゃ! 魔王が!」

僧侶「……」

魔法使い「それでも僕はかまわない。魔法使い、君がほしい!! ……なぁ〜んちゃってなんちゃってぇ!!」バンバン

僧侶「幸せそうでなによりですよねぇ〜」
402 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/28(日) 19:36:14.57 ID:vdGmdMVbO
【数時間後 クイーンズベル城 客室】

ジャン「――せ、洗濯バサミはだめだっ!」ガバッ

メイド「目が、覚められましたか……?」

ジャン「こ、ここは……? 知らない天井だ……」

メイド「姫さまと通路で会ってから、しばらくしてからこちらの客間にお通ししたのですが」

ジャン「お、お前は……姫……思い出したぞ! なぜ俺がここにいるのか!」

メイド「そうですか、よかったです。睡眠中もなにやらうわ言のようにうなされていたので!」

ジャン「(誰のせいだと思ってやがる!)……し、失礼。取り乱してしまい、申し訳ない」

メイド「起きたばかりで、このようなことを申し上げるのは、大変恐縮なのですが」

ジャン「あ、あぁ、長居しすぎたか。こちらこそ――」

メイド「いえいえっ! そうではありません! 本日はお泊りくださいませ!」

ジャン「泊まる? いや、それはご迷惑では」

メイド「申し訳ございません。王に、国王様に今回の使者様のご来訪を報告致しました」

ジャン「(あー、王っていうと、気さくなおっちゃんことか。10年前だからなぁ、顔もあやふやになっちまってるが。じいちゃんになってんのかね)」

メイド「隠密だというお立場を知りながら。責任は全て私にございます」

ジャン「……いや、バレてしまったのならば仕方のないこと。体裁さえ守っていただければかまいませんよ」

メイド「ありがとうございます。城内、街はご自由にご覧くださいませ」ホッ

ジャン「(泊まりの上に行動制限もなし、か。それだったら大義名分のもとゆっくり鏡を探せるな)」

メイド「あの、実は、お伝えしたいことがもうひとつ」

ジャン「ん?」

メイド「姫さまでございます」

ジャン「(かーっ、かーっ、またあいつかよ。顔も見たくないわ)……聞きましょう」

メイド「姫さまを、悪く思わないでくださいまし」

ジャン「……?」

メイド「本来は、とっても心お優しいお方なのです」

ジャン「(ないね)」

メイド「淑女たる教育、求められる姫というお立場、そして……政略結婚の道具。18の年齢にかすにはあまりに重すぎる重圧……」

ジャン「(まぁ、一国の姫だからなぁ。勇者という立場を冠する者として同情はするけど……政略結婚?)」

メイド「ハーケマルとクイーンズベルは長年築いてきた地位が、秩序がございます。それはなにを優先しても守られなければならない」

ジャン「待った……ごほん、待ってくれ。政略結婚と?」

メイド「……っ! ち、違います! 姫さまはまだ会ったことのない王子を悪く言ってるわけでは!」

ジャン「ハーケマルの王子と?」

メイド「会えばきっとお互いを知るきっかけになります! 姫さまはとっても魅力的で!」

ジャン「(縁談か……なぁるほど、だから俺がハーケマルの使者だと聞いて機嫌悪くしやがったんだな)」

メイド「ですから……その、先ほどの無礼はお許しいただけると」

ジャン「(そんでこいつは、さっきのを“なかったことにしてくれ”と打診してるわけだ。ようするに、報告すんなと、王子に)」

メイド「いかがでしょうか?」オズオズ

ジャン「……元よりそのつもりでした。発端は私の無礼のせいなのですから」

メイド「こちらこそ。王様よりは丁重におもてなしせよとのご命令を受けております」ホッ

ジャン「(あーあ、安堵した顔しちゃって。こりゃこの縁談、よっぽど重要みたいだな。ハーケマルとクイーンズベルか……)」
403 : ◆7Ub330dMyM [:saga]:2018/01/28(日) 20:14:42.56 ID:5byNfoa1O
メイド「もし、空腹であればお食事のご用意を」

ジャン「それより、許されるならば貴女からお話を伺いたいのですが」

メイド「はい……? なんなりと」

ジャン「姫は縁談相手である王子をどう思っておいでで」

メイド「……それは、その、ここだけの話でしょうか?」

ジャン「約束しましょう。帰っても話さないと誓います」

メイド「当たり障りのないお話を申しますと、あまり、良くは。なにぶん、会う機会すらなく」

ジャン「(じゃあ、初対面で結婚! みたいな感じか。親同士であらかじめ決められる許嫁みたいなもんかね。家柄ってのは難儀だねぇ)」

メイド「この年齢の婦人は、また複雑なのでございます。姫さまは、誰かと恋愛したことすら、ありませんので……ハッ! い、いいえ! 嫁入り前のお身体を傷物にするというわけではなく!」

ジャン「大丈夫ですよ。言っている意味は伝わっています」

メイド「……ですから、その、現実としてまだ直視できていないご様子で……」

ジャン「(ん? いやでもまてよ?)……王妃はハーケマルのご出身では?」

メイド「もちろん、それは使者さまもご存知の通り。なので、王妃様からもご説得をしたのですが」

ジャン「(え? 待って待って。王妃の血族ってことは……いとこ? え? うっすいけど血の繋がりあんじゃね? うはー、まじかよ。いとこやはとこ同士で毎回結婚してるみたいなもんじゃねぇか)」

メイド「……聞きたことというのは、聞けましたしょうか」

ジャン「(あれ? でも、だとすれば……なんだこりゃ、どうなってんだ? ……探り入れてみるか)」

メイド「……?」

ジャン「いやいや、多感なお年頃だとは理解できます。私は当人達の感情よりも別のことが気がかりかと思っておりました」

メイド「別の?」

ジャン「はい。“ハーケマルから婿入りにこれても、クィーンズベルからは誰も出せない”」

メイド「……」

ジャン「(クソ姫は一人娘だ。男の兄弟がいるわけじゃない。王の直径にあたる人物は交換じゃないとパワーバランスが崩れてしまう)」

メイド「その点は、姫様のご裁量にかかっております」

ジャン「我が国……ハーケマル王子を操ると?」

メイド「い、いいえっ! そんなまさか! 子を産み、その子が成人した暁にはハーケマルに送ると盟約を交わされているではありませんか!」

ジャン「(じ、次世代予約システムっ⁉︎ えげつねーことしてんなこいつら)……そうでしたね」

メイド「永遠の友好は、紡がなければならぬこと。姫様ならば、必ずや元気な赤子を生まれるでしょう」

ジャン「(気の長い話だが、一人娘なのはどーしようもないかんな。それが落ち所ってやつなのかね)」

メイド「他には、なにか?」

ジャン「いや、ない」

メイド「それならば、私はこれで。なにかご用があれば備えつけの鈴をお鳴らしください。表にいる衛兵がすぐに使用人を連れてまいります」ペコ
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 22:42:38.05 ID:2i8ZNkb/0
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/29(月) 00:25:24.86 ID:P4zYGwS00

昔は近親相姦は多かったらしいね
勇者魔王SSだけど
406 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/29(月) 10:21:42.46 ID:NGx50bz8O
ジャン「なにからなにまでありがとう。キミには感謝している」

メイド「い、いえ。私はこれが責務ですので。失礼致します」ガチャ パタン

ジャン「――……ふぅ、結婚か」スポッ

勇者「聞きました奥さんwwあの姫が結婚ですってよwwしかも望まないwwメシウマww」ゴロゴロ

メイド「ジャン様、よろしいですか?」コンコン

勇者「おっとww……ごほん、しばし待たれよ」スポッ

メイド「あの、何度も申し訳ございません。会いたいというお方が」

ジャン「どうぞ。お入りください」

メイド「失礼致します」ガチャ

姫「……」スッ

ジャン「(ぬ、ぬおっ⁉︎ な、なななぜっ⁉︎)……これはこれは、ご機嫌麗しゅうございます。先ほどは大変失礼を」スッ

姫「上っ面だけのおべっかはいいんですの」チラ

メイド「ひ、姫さま。くれぐれも。では」パタン

姫「……」ジー

ジャン「(こいつとは1秒たりとも同じ空間にいたくねぇ)どうなされました? 私になにか? まずはお座りください」

姫「あなた、この城に来るのは何回目ですの?」

ジャン「え? えーと、数回ほどです。いや、回数をよく覚えていないのは前回から期間が開いておりまして」

姫「どれぐらい?」

ジャン「(や、やけにつっこんでくるな)一年ほどでしょうか。申し訳ございません、あやふやで」

姫「声の感じからして年配には見えないですけれど。ボケてるんですの? それとも物覚えが悪いだけ?」

ジャン「(こ、このっ、腐れビ○チ)気を悪くされたのならば申し訳ありません」

姫「そのマスクの下は、ひどいヤケドがあるんでしたわね?」

ジャン「はい」

姫「とってみてはくれませんの?」

ジャン「(しつけぇな!)私はかまいませんが、姫を不快にさせるわけには」

姫「かまいません」

ジャン「い、いえ、でも、それでは」

姫「かまわないと言っているんですの」

ジャン「(なんなんだよこの食いつきようは)……なぜ、私のヤケド痕を? やはり、先ほどの罰では」
407 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/01/29(月) 10:25:19.04 ID:NGx50bz8O
姫「仮にも一国の姫が免除すると言ったこと自体は撤回しないんですの。ただ――」

ジャン「……?」

姫「どーにも、ひっかかるんですの。以前、城に来た時にわたくしに会った?」

ジャン「(なんだこいつは⁉︎ 野生の勘でもあんのかっ⁉︎ )な、ななにをっ? そ、そんなわけがございません」

姫「前回来た時は何しに? お母様に言われて?」

ジャン「(ま、まずいぞ。演技どうこうじゃねぇ、ウソで塗り固めて二分の一の賭けに勝ち続けるしか。辻褄が合わなければ一発でアウトだ)左様です」

姫「そう……定期的に文を渡してるのを見たことあるんですの。でも、その時の貴族はマスクをしては」

ジャン「ち、父上なのです! 私は息子です!」

姫「父上……?」

ジャン「はい、この度は、隠密ですので。あまり顔を知られていない私がと」

姫「ふぅん」

ジャン「(ど、どうだ? 息子いるよな? どうなんだ?)」

姫「……そうなんですの」

ジャン「(セーーーフッ!! セーフっぽい!)」

姫「では、私と面識はないんですのね?」

ジャン「ありません! 誓って!」

姫「あなた、いくつですの?」

ジャン「……18になりました」

姫「……」ピクッ

ジャン「(空気が重てえ! こいつは何気なく聞いとるのかもしれないが、俺は生きた心地してない。帰りたいよぉ〜)」

姫「同い年なんですのね。私も18の誕生日を迎えたばかりです」

ジャン「そ、それは、めでたきことで」

姫「ハーケマルとはどんな国?」

ジャン「王妃様が、よくご存知のはず」

姫「色々な見方を聞いてみたいんですの。あなたとは歳が近いとわかったし、価値観が似ているやも」

ジャン「私の価値観が王族と肩を並べるとは、恐れ多くも」
408 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/29(月) 10:52:19.52 ID:NGx50bz8O
姫「かまいません。いわばここは外界より隔離された室内。この場での発言は全てなかったことにすると確約いたしましょう」

ジャン「ですが、体裁が」

姫「保つのは第三者の目がある時のみでよい。今はない。この意味がわからないほど愚鈍なんですの?」

ジャン「(俺もその考えに同意だが、こいつに言われると腹たつゥッ!)」

姫「王子とはどんな方?」

ジャン「(知らねーよ。俺会ったことないし、顔すら知らねー。……とは言えないし)我が国を誰が悪く言えましょう」

姫「それは、本音を言えば悪いと?」

ジャン「信用の問題でございます。私が良く言おうと、悪く言おうと、姫様は私の発言する言葉を信じていただけますか?」

姫「……」

ジャン「仮に、王子を褒めたとしましょう。そうしても“どうせ出身国なのだから”、と。勘繰りはいたしませんか?」

姫「わたくしを馬鹿にしているんですの?」

ジャン「いいえ。誰しもが同じなのでございます。そう思うのが自然なのです」

姫「王族であるわたくしを同じだと?」

ジャン「(めんどくせぇ。これだから血筋にこだわるやつらは。一方で嫌いつつも一方でプライドもってやがる)……恐れ多くも、発言がすぎました」

姫「……わたくしの質問に答えればよいのです」

ジャン「北のハーケマルといえば、年中寒さが厳しい国です」

姫「知ってるんですの」

ジャン「この国とはちょうど真逆ですね。しかしながら、そのような厳しい環境にあっても民達からの不平不満は聞こえてきません」

姫「それも知ってるんですの。ハーケマル現王がお父様と同じく賢王であることも。でも、息子もそうであるとは限らないでしょう?」

ジャン「(お前がそうだからなww)……ご自分の目でお確かめを。それ以上は言えません」

姫「忠を尽くしているつもりなんですの?」

ジャン「この縁談は両国間の今後に強く影響致します。お姫様はまだまだうら若き年齢、気分ひとつで悪い結果になりかねません」

姫「……そう、そうなんですの。あなた、犬っころなんですのね。駄犬」

ジャン「なんとでも」

姫「……っ! こ、やつ! こんなやつがあいつのはずないんですの!! 不愉快です!!」バシャ

ジャン「(水ぶっかけてきやがった。お前をデスノートに書いてやる)」ポタポタ

姫「なんとか言ったらどうですのっ⁉︎」ブンッ スコン

ジャン「(今度はコップ投げつけてきやがった。お前をデスノートに……これさっきも思ったか)」

姫「〜〜ッ!! 私は、結婚なんかする気は、ぜぇ〜〜〜ったいに、ないんですのっ!!」ビシッ
409 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/29(月) 11:20:01.75 ID:NGx50bz8O
ジャン「(まぁ別に俺は自分の正体さえバレなきゃ)」

姫「王子のことを悪く言うんですの! お父様に報告してなかっことにしてもらうためにっ!!」

ジャン「(なりふりかまわず言いやがったな! なにが発言をなかったことにだ! お前最初からそのつもりだったな!)……できません」

姫「ムキーーーッ!! あなた! 国に帰れなくなりますわよ⁉︎」

ジャン「(使者を脅すなよ……)私がどうなろうと、それだけは」

姫「……」カチャ スラッ

ジャン「ひ、姫様? 暖炉に飾ってあるレイピアを握ってなにを……?」

姫「女はつつましく、男の三歩後ろに下がりついていく。そんなのは前時代的な考えなんですの」ズンズン

ジャン「は、はわわっ」ガタガタ

姫「女であろうと戦う。自分の幸せは自分で勝ち取る。良い時代とは思いませんこと? 使者よ」ニタァ

ジャン「す、鈴、鈴……」カサカサ

姫「お待ちなさい」グサッ

ジャン「いっ⁉︎ (さ、刺した⁉︎ ガチで俺の脚刺しやがったぞこいつっ⁉︎」

姫「どうせお父様がわたくしを守ってくれるんですの。人の一人や二人殺めても」ユラァ

ジャン「(お坊ちゃまが犯罪起こす時にありがちな思考回路⁉︎)ひ、姫? それはまずいですよ。俺使者ですよ」

姫「あなたを殺せば、破談になる、破談になる、破談に……」ブツブツ

ジャン「ひ、ひぃっ⁉︎ (メンヘラにクラスチェンジした⁉︎ やばい、だたやだやだ!俺はニートになるまで死にたくない! せめて自分の好きにやって死にたい!)」

姫「だぁ〜いじょうぶですの。痛くない、すぐ終わりますからぁ」ニタァ

ジャン「(こ、この笑みは、10年前と同じ……! ま、またトラウマが……! あ、あぁぁっ!)」ガタガタ

姫「さぁ、覚悟するんですの――……」
410 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/29(月) 11:23:36.35 ID:NGx50bz8O




ジャン「――……やっ、やめてよっ!! 姫ちゃん!!」ブルブル





411 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/29(月) 11:38:51.62 ID:NGx50bz8O
姫「へ……?」ポロッ

ジャン「や、やめて。それはいかんて。それは……」ガタガタ

姫「その呼び方は……あなた……? やっ、やっぱりマスクを……!」グィ

ジャン「うっ、うっ、尻穴が、痛い」スポッ

姫「……っ⁉︎ まさか、そんな、で、でも、面影が……」

勇者「汚された。汚されてしもうた……うっうっ」

姫「勇者? 勇者、なんですの? そ、そうだ! お尻見せるんですの!!」グィ

勇者「やだぁっ! またお尻!」ペカー

姫「こ、これは。聖痕……間違いない、勇者……なぜ、ハーケマルの使者だと……」

メイド「お嬢様!! 姫様!! なにをやってるんですか⁉︎ 開けますよ⁉︎」

姫「い、いけませんわっ!!」ダダダッ ガチャン

メイド「鍵閉めましたね⁉︎ 本当になにをやってるんです⁉︎」

姫「えーと、えーと、お、お待ちなさいっ!!」スポッ

ジャン「うっうっ」

姫「これで仮面は元通り。あとズボンも」ゴソゴソ

メイド「かまいません!! ドアをぶちやぶってください!!」

兵士「はっ!」

姫「今開けるというておる!!」タタタッ

――ガシャーーーン――

兵士「あ、あきました!」

メイド「姫様、いったい、なにを――……きゃ、きゃああああああっ⁉︎」

姫「はぁ、今開けるともうしたのに。なにを叫んでいるんですの」

兵士「……」ポカーン

メイド「ひっ、ひっ、ひっひっひっ、ひっ姫様、様」プルプル

姫「……?」

メイド「そ、そっそそそそっ、それはぁ?」

姫「どれですの?」クル

兵士「れ、レイピアが、使者様の太ももに刺さっておりますが……」タラ〜

メイド「あふぅ」ドサッ

兵士「メイド様! 気をしっかり! 気絶なされた! お、おーい! 誰か!」

姫「足に刺したまんまなの、忘れてたんですの……」タラ〜
412 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/29(月) 11:57:54.83 ID:NGx50bz8O
【クィーンズベル城 玉座】

王様「な、なんたることを……っ! なんということをぉっ!」ドンッ

姫「……」プイ

王様「〜〜ッ! なにをしでかしたかわかっておらんのかァッ!!!」ドンッ ドンッ

王妃「あまり怒られては血圧に……メイドよ。貴女がついていながらなんという失態です」

メイド「も、申し訳ございません! 申し訳ございません!!」ペコペコ

王様「前代未聞の出来事じゃ!! 友好国の使者を刺しただァッ⁉︎ しかも、姫が⁉︎ なにをされたというわけでもなくゥッ⁉︎」

姫「ぷっ、顔真っ赤ですわよ、お父様」

王様「お、お前は……っ、いったいどこで育て方を間違えてしまったのだ……! なぜ、このような……」

姫「押しつけるのが悪いんですの。私にできる意思表示をしたまで」

王妃「姫よ。あなたの感情のせいで外交問題に発展するのですよ……どれほどの心労が貴女のお父様の……民の不安に繋がるか考えないの……?」

姫「わたくしがいつ! そんなのを望んだって言うんですの⁉︎ ……それに、外交問題には発展しませんからご心配なく」

王様「な、なにィ? 使者だぞ? こちらが弱みを握られるのだぞ?」

姫「わたくしが解決してみせます。その方法も心得ております。お父様とお母様はどーんと大船になった気持ちでお待ちくださいませ」

王様「こ、こやつは……なんと」プルプル

王妃「あ、あなた。落ち着いて」

王様「使者が回復次第、ここに連れてまいれ。ワシ直々に頭を下げる」

姫「ですから、その必要はありません」

王様「お前がなくてもワシにはあるんじゃ!!」クワッ

王妃「姫は一週間の自部屋謹慎処分です。事態が落ち着いたら、また追加で罰を与えます」

王様「よいなっ⁉︎ お前はもうなにもするな!! この件には一切かかわるな」

姫「いいんですの? 本当にあっというまに解決できますのに」

王様「メイド!! この大馬鹿娘をはやく部屋に連れてゆけっ!!!」クワッ

メイド「は、はいぃっ!! かしこまりましたぁ!!」
413 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/29(月) 12:18:49.46 ID:NGx50bz8O
【クィーンズベル城 通路】

姫「るんたったらん♪」コツコツ

メイド「ひ、姫様、あの、上機嫌ですけどご自分がなにをしたのかご理解していらっしゃいます?」

姫「不安がってるようですわね。さっきも言ったでしょ? 大船に乗ったつもりでいろと」

メイド「や、やってしまった姫様が言える台詞じゃ」

姫「だいたい回復魔法ですぐに治るんだから騒ぎすぎなんですの。使者はどこですの?」キョロキョロ

メイド「な、な、な、なぁっ⁉︎ この後に及んでまだなにかやろうと⁉︎」

姫「懐かしい友人に会いにいくだけですの」

メイド「……へ? 懐か、しい?」

姫「貴女も知ったら驚くんですの。仮面の下はヤケドなんてありませんでしたよ」

メイド「へ? そ、そうなんですか? じゃ、じゃあウソ?」

姫「いいからはやく案内するんですの」

メイド「で、でもっ……姫様がウソついてる可能性が」

姫「わ、私を疑うんですの?」ヒクヒク

メイド「だって、こんなことしでかす人を!!」

姫「まぁ、本当にハーケマルの使者でも同じことをしてたでしょうけど」

メイド「な、なんという……!」

姫「それはそれ。これはこれです。今回は違ったのですからよしとしましょう」

メイド「……本当に違ったのですか? ハーケマルの使者では……?」

姫「さぁて♪ あなたも見ればわかるんですの♪」
414 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/29(月) 16:48:18.49 ID:vTFPOFUKO
【クィーンズベル城 南西方向 廃墟】

ガンダタ「飯だ」

見張り番「おっ、やっと飯か。……ん? なんだそれは。なんで2つも持ってんだ? まさか、あいつの分か?」チラ

少年「……」

見張り番「いらねーよ! もったいねぇ、よこせ、俺が食う!」グィ

ガンダタ「人質は生きてなくちゃ意味がねぇ。お頭からの指示だ」

見張り番「お、お頭ァ? ほんとかよ、それ」

ガンダタ「ああ」

見張り番「チッ、だったらしょうがねぇか。俺は酒とってくる。ガンダタさんよ、その間見張り番頼んだぜ」テクテク

ガンダタ「……」スッ

少年「……」ビクゥ

ガンダタ「……飯だ、食え」コト

少年「い、いらない。ねぇ、家に帰して。なんでここに連れてこられたの、家に帰してよ……うっ、うっ」

ガンダタ「食わなきゃ力つかねーぞ」

少年「……」

ガンダタ「お前は単なる人質だ。生きてさえいりゃ家に帰れるだろうよ」

少年「ほ、ほんとう……? お姉ちゃんに、また会える?」

ガンダタ「希望にすがるのはおめぇの勝手だが、不確定な部分もある。……とにかく、今は食って体力を確保しろ。それがお前のすべきことだ」

少年「うっ、うっ」ポロポロ

ガンダタ「メソメソすんじゃねぇ! ……俺もお前も境遇は一緒よ」

少年「……?」

ガンダタ「牢にいれられ、虎視眈々と脱出を狙う。這い上がるチャンスをな。お前はその機会が与えられるのをただ待ってるだけだがな」

少年「……な、なに言ってるのか、意味が……」

ガンダタ「わからなくていい。見張り番の気が変わっちまったら、取り上げられちまうかもしれねぇぞ」

少年「うっ」ぐぎゅるる〜

ガンダタ「腹、減ってんだろ?」ススッ

少年「よく、わからないけど、ありがとう、おじちゃん」カチャ

ガンダタ「おじちゃんじゃねぇ。俺の名前はガンダタ。いずれアレフガルドの大盗賊団の長になる男よ」

少年「へ、へー」

ガンダタ「ふん、今はこんな場所にいるけどよ。必ず這い上がってみせるぜ」

少年「うん」パクっ

ガンダタ「(旅の若僧め、えらそーに説教たれてきややがって……! お陰でこっちはあの後手下どもに逃げられ……アデルで、だ、大工仕事だぁ? いまさらできるかよ!!)」プルプル

見張り番「おぉ〜い、すまねぇな」テクテク

ガンダタ「(見つけたらただじゃおかねぇぞ! ぶち殺して、やつに渡された銀細工を……)」

見張り番「どうだい、お前も酒飲む――」

ガンダタ「ごちゃごちゃうるせェッ!!」ブン

見張り番「え? ちょ……っ⁉︎ うっ!」ドゴォッ

ガンダタ「あっ」

見張り番「」ドサッ

少年「あ、あわわっ」ガタガタ

ガンダタ「し、しまったぁぁぁっ!!」
415 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/29(月) 17:09:54.99 ID:vTFPOFUKO
少年「……」ブルブル

ガンダタ「ま、まずいぞ。大人しくしてるつもりが、つい、はずみで」チラ

少年「こ、殺したの?」

ガンダタ「(ど、どうする。このガキがやったことに、ええぃ、できるはずがねぇ。喧嘩の末にやっちまったって感じに――)」

少年「こ、こわいよぉ、お家帰りたいよぉ」ポロポロ

ガンダタ「側で泣くな!! 今考えてるんだからよ!」

少年「ひっ」ブルッ

ガンダタ「ちくしょおぉぉっ、仲間内での殺しはご法度だ。例え喧嘩だとしても、許されるもんじゃねぇ……くっ、なんてこった……こ、ここまでか」

少年「お姉ちゃん、お姉ちゃぁん」

ガンダタ「泣きてえのはこっちも同じ……ん? お姉ちゃん?」

少年「うっうっ、ぐすっ」

ガンダタ「おい、ガキ。おめぇ、そういやなんで人質になってんだ?」

少年「し、知らないよぉ」

ガンダタ「(クソ、イライラさせるガキだ。……いや、まてよ。まだ生き残る道があるかもしれねぇ、このガキを使やぁ)」スタスタ

少年「ひっ、な、なに……」

ガンダタ「――ついてこい。ここから逃げるぞ」

少年「えっ⁉︎ お家に帰れるの……?」

ガンダタ「家には帰れねぇが」

手下「が、ガンダタ……おめぇ、なにしてやがる……」

ガンダタ「……っ⁉︎」ギョ

手下「酒が足りねえだろうと思って、来てみりゃ……まさか、お前、裏切るつもりじゃ⁉︎ お、お頭らァッ!! みんなぁっ!!!」

ガンダタ「チッ」ヒョイ

少年「うっ、わっ」

手下「人質を担いでどうするつもりだ! そいつは――」

ガンダタ「ごちゃごちゃうるせぇよ」ヒュッ

手下「うっ」グサッ

ガンダタ「(手持ちの投げナイフは今ので最後か)」スチャ

手下「う、ううっ」ドサッ

ガンダタ「急所は外してある。お頭に伝えな。人質を返してほしけりゃ、追って連絡を待てとよ」

手下「ぐっ、ガンダタァっ! 身内殺し、裏切りはこの業界じゃご法度だと知らねーおめぇじゃねぇだろ!!」

ガンダタ「まともなことやってちゃ時間がかかるのよ。それに、なにがご法度だ。俺もお前も、社会のはみ出し者だろうが」

手下「ぐっ、ぐぬぬっ! 許されるこっちゃねぇぞ! ガンダタァッ!!」

ガンダタ「……なら、追ってこい。誰も止めやしねぇよ。お前らも止まるつもりねぇだろうがな」

少年「お、お家、帰りたい」

ガンダタ「(クィーンズベル城で働くメイドの弟だったな。こうなっちまったらしょうがねぇ、やるとこまでやるっきゃねェッ!! 男ガンダタ、ただでは死なねぇぜっ!!」
416 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/29(月) 17:20:52.93 ID:vTFPOFUKO
〜〜第3章『砂漠の花と太陽と雨と』〜〜(前編)

417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/29(月) 17:28:55.64 ID:rVks6FFUO
勇者はニートになったのけ?
418 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/01/29(月) 17:36:31.43 ID:vTFPOFUKO
長くなりそうなんでここで一旦区切ります。
いろいろ書いてるフラグ回収してたらこの章ちょっと長くなりそうです。
なので今回は前編、後編と分けることにしました。

今日はレスしません。
ちょい時間あけます。
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/29(月) 18:28:30.51 ID:P4zYGwS00

続き楽しみ
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/29(月) 18:47:14.58 ID:S+nobXoj0
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/29(月) 22:51:08.55 ID:DVEPXsaeo
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/30(火) 00:13:18.07 ID:sE7zk8ty0
やっぱり王道は良いな
ここまで楽しかった
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/30(火) 00:23:03.52 ID:dZ5Y/sXyO
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/30(火) 03:17:19.57 ID:hWy89NLNo
おつ
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/30(火) 04:03:48.25 ID:i9muVxtyO
おつー
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/30(火) 07:37:40.26 ID:ginuxxYpo
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/30(火) 10:54:34.41 ID:4rtQaZ/XO
森きのこは章ごとにまとめてるから読みやすくてありがたい
エレ速だと一気まとめするから読むの疲れる

さて余計なレス排除してあるまとめ版見てくるか
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/30(火) 12:25:20.02 ID:sE7zk8ty0
エレ速は最近超長いアンカスレがまとめられてて理不尽な叩かれ方をしてたな
まとめ方がおかしいてちゃんと指摘してるやつもいたけどこのSSも長編になるならまとめ拒否は考えた方がいいよ
読まないからなんの得にもならない
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/31(水) 00:18:32.50 ID:ypjEG5wC0
続きまだですか
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/31(水) 02:02:38.76 ID:S9n0YB2A0
くっせえまとめ民アピールとageカスがウザいので更新無しです
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/31(水) 09:07:15.49 ID:GlTgRd4n0
更新はあります
作者が真面目に書いたら800くらいまでいくと言っていたではありませんか
その言葉を信じて、私は今日も辛い仕事場へ満員電車に揺られていく
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/31(水) 11:50:03.00 ID:ypjEG5wC0
>>430
この人作者でもないのになんでこんなにカリカリしてるんだろ
433 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 13:59:27.91 ID:YvuJAF6kO
【数十分後 廃墟】

お頭「そうかい……ガンダタの野郎。ついに裏切りやがったか」グビッ

手下「お、お頭ァ! そんな悠長に酒飲んでる場合じゃねぇですよ!」

お頭「騒ぐことはねぇ。あいつはいつか裏切ると思ってた」

手下「……え? そ、それなら、なんで?」

お頭「“目つき”よ。目は口ほどに物を言うっていうだろ。ありゃあ下につくやつの目じゃねぇ。下克上を考えてるやつのモンよ」

手下「だったらなんで手下に加えたんでさぁ⁉︎」

お頭「こうなると予測はついてたっつったろ? まさか……人質をかっさらうとは思ってなかったが」

手下「ガンダタがいなくなって、見張り番を殺られちまったのもかまいやしません。でも、人質は……!」

お頭「計画にケチがついた。おめェはそう言いてんだろ?」

手下「うぐっ」

お頭「修正すりゃいいのよ。予定が狂ったんなら。……やるべきことをやるだけで慌てたってなんにもならねぇ」

手下「なら、すぐに追っ手を!」

お頭「ああ。馬10頭とそれに見合う人数で走らせろ。見つけたら殺せ」

手下「へ、へいっ!」タタタッ

お頭「(ガンダタよ。おめェに一目置いてたんだぜ? 人質掻っ攫われた俺と、行動を起こしたお前。ヘタ打ったのはどちらか、白黒ハッキリつけなくちゃいけねぇみてぇだな)」

手下「あ、そ、そうだっ!」ピタッ

お頭「ん……? どうしたい?」

手下「城に潜伏させてる密偵から連絡がありましてね。なんでもハーケマルの使者がきてるらしいです」

お頭「あ? 使者ァ?」

手下「へい。なんでも、王子来訪に先駆けてだそうで」

お頭「そりゃ都合が良い。水が干上がっちまってるのがバレちまうだろ」

手下「そ、それが……。王も黙って成り行きを見守るつもりはないらしく、法王庁と協議に入ったとか」

お頭「なんだとォ?」

手下「おそらく、援助を要請する腹づもりでしょうね。長期化しても耐えられるように」

お頭「……まじィな。ガンダタよりもそっちのが問題だ。計画がご破算とかしちまう」

手下「どうしやしょう? 予備も含め王子来訪に合わせて水不足に陥っていなきゃ」

お頭「(法王庁か。やつらの援助で水を確保できりゃ、俺らがいくら干上がらせたところで……)」

手下「いっそのこと、こちらも長期化させて、王子来訪の後にズラしますかい?」

お頭「バカやろ。どれくらいの金と期間をかけて下準備してきたと思ってやがる。それまでこっちの体力がもたねぇの。小銭稼ぎじゃ給料が払えなくなっちまう」

手下「う……」

お頭「しかたねぇ。さらに金をばらまくか。……おい」

手下「へ、へい?」

お頭「潜伏してる手下に伝えろ。使者ってやつが金で動くかどうか確認しろとな」

手下「へい!」

お頭「(全てが計画通りとはいかねぇか。だが、それでこそやりがいがあるってもんよ)」
434 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 14:42:42.78 ID:YvuJAF6kO
【クィーンズベル城 癒しの間】

ジャン「(うぅ……ここは……)」

神職「ルビスよ。聖なる守護者よ。彼の者を癒し給ええ」ポワァ

ジャン「(……回復魔法……そうか、また気を失ってたのか。自由に動けてもクソ姫とエンカウント率高かったらたまらんぞ……)」

姫「ここかしら⁉︎」バターーンッ

メイド「姫さまぁっ!」

神職「ひ、姫さま?」

ジャン「(思ってるそばからぁ⁉︎ まだ、寝たふりしてよう)」

姫「神職、あなたはもう下がってよろしくてよ」

神職「し、しかし、目が覚めたら玉座にお通ししろと仰せ司っております」

姫「後はこのわたくしとメイドが面倒を見ます」

ジャン「(ひ、ひぃっ⁉︎ なんでこいつはこうも俺にまとわりついてきやがる!)」

神職「王様は、姫さまは謹慎処分だと」チラ

メイド「う、うぅ」オズオズ

神職「メイド。王に報告いたしま――」

姫「貴女。誰に向かって、誰の専属メイドにモノを申しているんですの?」ギロ

ジャン「(負けるな! 神職さん! あんたは正しい! 責務を全うしようとしている!)」

神職「うっ、し、しかしですね」

姫「まさか? まさかねぇ? たかが宮使いの神職が姫直属の従者に向かってそのような……」

神職「王令は、姫さまと言えど」

姫「おだまりなさいっ!!」バンッ

神職「……っ!」ビクゥ

姫「その王の血を引く者に向かってなんたる無礼なっ!!」

神職「そ、そのようなつもりは」

姫「いいえ、そう聞こえます。嫌というほど聞こえます。貴女がわたくしを軽視していると」

神職「わ、私はただ、王令を尊守しているだけでございます」

姫「チッ。しつこいですわね」

ジャン「(王に報告しろ! 今すぐ報告しろ! どんだけ甘やかされて育ってやがる! こんなのは横暴だ! 許されないよ!)」

メイド「姫さま……。神職殿のお立場も考慮なさってください。彼女は与えられた責務を」

姫「なんでも責務責務。……ふう。わかりました。十分外にでておれ」

神職「……」チラ

メイド「こ、今度は、私もそばについておりますので」ペコペコ

神職「……わかり、ました。十分だけです」

姫「誰にモノを申しておるか。わかったならとっとと出て行け」

ジャン「(だ、だめだぁっ! 行かないで! 友よ! この城の良心よ! 神職さまぁ!)」

神職「失礼致します」ペコ
435 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 15:08:09.43 ID:YvuJAF6kO
ジャン「(い、いって、しまわれた。目を覚ましてやりすごさねば……)」

姫「メイド。よく見ておくんですの」コツコツ

メイド「い、いったいなにをされようというのです?」

姫「この者の正体。なぜハーケマルの使者と名乗っていたのか……」

ジャン「(な、なに……? 正体だと?)」

メイド「先ほども言っていましたが、ハーケマルの使者ではないのですか……? では……ハッ! ま、まさか⁉︎」

ジャン「(こ、こいつ……っ⁉︎ 俺が気絶してる間に仮面とりやがったな⁉︎ やっぱり顔覚えてやがったのか!)」

メイド「な、なりません! 姫さま!」ガシッ

姫「えっ、ちょ、な、なぜ止めるんですの? 貴女も知ってる懐かしい――」

メイド「ま、まさか、姫さまにまで接触していたなんて……!なりません! 危険です!」

ジャン「(……? な、なんだ?)」

メイド「(そうよ! まさか盗賊の一味が毒牙を……! 姫さまだけは巻き込んじゃだめ!!)」

姫「な、何言ってるんですの? 危険なはずがありませっ、はなっ、離しなさい」グィ

メイド「私におまかせくだっ、さいっ! 危害が及んでは王に顔向けできなくなります!」ググッ

姫「あ、貴女、ちょっと、なにか勘違いしてるんじゃありませんこと⁉︎」

メイド「いいえ! 姫さまこそ! この人達は危険なんです! ご自分のお立場と御身をご理解ください!!」

姫「……っ!」カチーンッ

メイド「だいたい! 姫さまはいつもそうです! 小さい頃は泣き虫だったくせに! 勇者様と会ってからはすぐ調子に乗るようになって!」

姫「なんですのっ⁉︎ 貴女だって昔はニコニコ笑うだけの引っ込み思案だったくせに! お姉さん風吹かせてたのは最初だけ! 後は私の後をぴょこぴょこついてきてでしょ⁉︎」

メイド「……っ!」カチーン

姫「歳を重ねるにつれて姫さまお嬢様と!」

メイド「それを言うんだったら言わせてもらいますけどねっ⁉︎ 姫さまは本当は芯が脆いんじゃないんですか⁉︎ 私がいなくなってもいいんですかっ⁉︎」

姫「なっ、ななななぁっ⁉︎ 貴女、自分をなんだと⁉︎」

ジャン「……あの」ムク

メイド「本当はさみしいだけでしょ! 今だって私がいなきゃ着替えもできないのに!」

姫「で、できますわっ! 貴女こそ!」

メイド「……私がなんだって言うんです?」

姫「ぐっ、ぬぬっ……!」

ジャン「いや、あの〜、もしも〜し」

メイド「いいんですよ〜? 昔みたいに泣き虫になっても? ハンカチ貸してあげますからぁ」

姫「あったまきた! 頭きたんですの! 戦争ですわ!」

メイド「なにが戦争ですか! いつまでも子供みたいなこといって!」

ジャン「……おい、お前ら」

姫&メイド「なんですの(か)っ⁉︎」

ジャン「なんでもないです。どうぞ、お続けください」

姫「このクソメイド!! そんな思い込みが激しいからなんでもかんでもすぐポカやるんですの!!」

メイド「あーあー、聞こえませーん。子供姫に言われたくありませーん」

ジャン「……ふぅ」テクテク

姫「耳腐ってるんじゃありませんこと⁉︎」

メイド「幼児退行してるんじゃありません⁉︎」

ジャン「ごゆっくり」パタン
436 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 15:27:01.23 ID:YvuJAF6kO
【クィーンズベル城 通路】

神職「目が覚められましたか」

ジャン「あ、どうも」ペコ

神職「部屋の中からなにやら喧騒な声が」

姫&メイド『――――ッ!!』ギャアギャア

ジャン「喧嘩するほど仲がいいと言いますしね。そっとしておきましょう」

神職「は、はぁ。傷は塞がっておりますか? 痛みなどは?」

ジャン「おかげさまで」

神職「回復力が良いのですね。羨ましいですわ。まるで精霊に愛されているかのよう」

ジャン「大袈裟ですよ。それより、少し城の中を散策したいのですが」

神職「王が会いたいと仰っておいでです」

ジャン「(まぁ、姫が使者を刺したとなればそうなるか)……私は気にしておりませんが」

神職「寛大なお心とお申し出に感謝致します。しかし、事がコトですので、なにもなしというわけにも……」

ジャン「一国の王の申し出ですしね。お誘いを無碍に断ってもカドが立ちますか」

神職「さすがハーケマルの使者様でございます。どうか、我が王を安心させてはいただけませんでしょうか」

ジャン「(弱ったなぁ。俺もボロがでそうだからできれば会いたくないんだけど……かと言って、会わないというわけにも)」

衛兵「神職殿。……と、こちらの方は、ハーケマルの使者様ですね」

神職「これはこれは。お勤めご苦労様です」

衛兵「国王陛下がお呼びです。目が覚め次第、お連れせよと」ペコ

ジャン「ふぅ、わかりました。行きますよ」

神職「ありがとうございます」

ジャン「(今さらだけど、こうなるんだったら忍びこめばよかったなぁ)」ポリポリ
437 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 15:53:29.37 ID:YvuJAF6kO
【クィーンズベル城 玉座へと続く階段】

衛兵「この度は、災難でしたね」コツコツ

ジャン「あぁ、いえ」

衛兵「我々も姫のおてんばぶりには手を焼いているのですよ。トホホ」

ジャン「(同情するわ)」

衛兵「ところで、使者様の生家は名家なのでしょうか?」

ジャン「なぜ、突然?」

衛兵「い、いえ。私は平民出ですので、少し興味が。使者という大役を任せられるとはどのような家柄だろうかと」

ジャン「(俺も普通の家だぞ)たいしたことはございません。我が家系は王に代々使えているだけのこと」

衛兵「やはり。謙遜しておいでなのでしょうが、裕福なのでしょうね」

ジャン「いえいえ、ちっぽけな家でございますよ」

衛兵「またまたご謙遜を」

ジャン「(そういや、勇者特典で王様から支給されてた300万ゴールドはいったいどこへ……夫婦の旅費に消えたんだろなぁ)」

衛兵「……まさか、お金にお困りなのですか?」

ジャン「いえ、困っているというわけではないと思いますが。私が買ってもらったのは竹とんぼなんですよ」

衛兵「た、竹とんぼ……?」

ジャン「はい」ガックシ

衛兵「それは、つまり、お小遣いがなかったと? 教育が厳しくて」

ジャン「厳しい……かは甚だ疑問ですが、自由に使えるお金はなかったですね」

衛兵「ほ、ほうほう! それでしたら! お金があればどんな使い方をしたいです⁉︎」

ジャン「お金があれば……ですか?」

衛兵「パフパフをしてみたり?」

ジャン「(そうやなぁ、それもいいな。ぐへへ。今の金で豪遊すると魔法使いとかがうるせぇだろうしな)」

衛兵「ギャンブルもしてみたり?」

ジャン「い、いいですね」ニマ

衛兵「そーですか! そーですか! 使者様とは気が合いそうですね!」

ジャン「男ならみんなそんなもんでしょう?」

衛兵「たしかにたしかに! たまぁ〜にいるんですよ! 堅物が!」

ジャン「何が楽しくて生きてるんでしょうね」

衛兵「いや! まさにその通り! ごもっとも! ……使者様においしいお話があるんですが、どうです? 今夜、酒場で一献」

ジャン「今夜ですか? いや、今日は城に泊まると」

衛兵「城下町の視察だって言って抜けりゃいいじゃないですか! 可愛い子つけますよ? パフパフッ。パフパフッ」

ジャン「う、ううん」

衛兵「おっぱいでパフパフっ。パフパフっ」ワキワキ

ジャン「ご、ごほん。なにやら重要な話みたいですね」

衛兵「(チョロいな! こりゃあお頭が喜ぶぞ!)……楽しい夜になりそうですな。ぐふっ、ぐふふっ」

ジャン「衛兵よ。お主もワルよのぉ、ぐふっ」

ジャン&衛兵「ぐふふふふっ」
438 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 17:24:58.09 ID:Ks50AJWbO
【クィーンズベル城 玉座】

王様「本当に、ウチのバカ娘が申し訳なんだ」

ジャン「私は気にしておりません」

王様「う、む。そう言ってくれるのはありがたいのだが。どうだろうか、本心を聞かせてもらえぬか」

ジャン「と、申されますと?」

王様「国を代表する使者として来場している身。母国に忠あればこそ、報告する理由があろう」

ジャン「(あのおっちゃんもだいぶ白髪が目立つようになってんな。喋り方まで。苦労してんだろな)」

王妃「陛下同様、妾も身体に大事ないか心配しておった。傷の具合はどうか……?」

ジャン「(なんでこんなできた親からあんな娘が。……甘やかしだろうな。原因は)神職様に手厚い治療を受けまして、この通り。すっかり傷も癒えましてでございます」

王妃「いつもの貴族ではないようですが……」

ジャン「(ぎ、ぎくぅっ!)あの方は流行りのインフルエンザにかかっておりまして」

王妃「まぁ……そうであったか。北では難病が流行っておったか」

ジャン「収束傾向を見せておりますのでご心配なく」

王妃「ハーケマルに戻った暁には、私も民たちの安全と健康を心より祈っていると伝えておくれ」

ジャン「御意」ペコ

王様「話を戻すが、なにか、望みの物はあるか?」

ジャン「(賄賂だな。物を与えるかわりに黙ってろと。すんなり黙っていますでは忠義がないと判断して、受け取らなければ信用しないつもりか)……では、出立の際に金貨を10万ゴールドほど」

王様「……ふむ、よかろう」

王妃「気を悪くしないでね。これもまた、政治なのです。両国が正しく、良い関係を続けるための」

王様「うむ。お主の国に対する忠義を疑っているわけではない、ただ、保険として――」

ジャン「陛下のご意向。私もしかと感じております。両国の発展と、民が安心して暮らせるのならば、是非もなく」

王様「ほっ⁉︎ ほっほっ。優秀な若者……仮面をかぶっておるからわからんが、優秀であることに違いない」

ジャン「(いやぁ、ホントは素顔で会いたいんだけどね。クソ姫がいるからね)」

王妃「貴方の家柄を取り立てるよう、私からハーケマル王に文を持たせましょう。今後の使者としても」

ジャン「いっ⁉︎ そ、それは、さすがに出来過ぎといいますか」

王様「謙虚な。……国を想う心がそうさせるのか。うむっ! 気に入った!」バンッ

ジャン「陛下。そんないっときの気分で人事を」

王様「ワシの見る目を疑うというのかの?」ギロッ

ジャン「(こ、こいつら……っ! やっぱり親子やんけ!)」

王妃「陛下は一度言い出したらきかぬ頑固者なのです。まったく、あの娘も変なところばかり似て」

王様「だから可愛いのよ」

王妃「ええ、そうですね。ふふっ」

ジャン「(甘やかしてる片鱗を見た気がする)」

王様「使者よ。此度の来訪の目的は隠密での視察だと聞いておるが」

ジャン「はい」

王妃「ハーケマル王も人が悪い。私にさえ秘密にするなんて」

王様「自由に見て回るがよい。大臣よ。この者に、首飾りを」

大臣「かしこまりました」ゴソゴソ

王様「使者よ。心して聞け。今から渡すものは、王家代々伝わる由緒正しき宝具。それを身につけてさえおれば、王族同等の扱いを受けるであろう」

ジャン「畏れ多い。よろしいのですか?」

王様「たかだか10万ゴールドなどはした金で水に流してもらったのだ。こちらも器量を見せねばな。ここに滞在する間のみの貸し出しだが」

王妃「これも、クィーンズベル王陛下のご采配があればこそ……ハーケマルの使者とはいえ、寛大さに感謝するように」

ジャン「はっ!」ドゲザ
439 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 17:48:48.08 ID:Ks50AJWbO
【クィーンズベル城 通路】

ジャン「宝具ねぇ」キラン

メイド「玉座に向かったと……ならば、こちらに……」キョロキョロ

ジャン「なにか特殊な付加効果あったりすんのかな。ただの飾りか……それにしても、久しぶりだった。おっちゃんにあったの」テクテク

メイド「……いたっ! 見つけた!」ダダダッ

ジャン「ん……?」クルッ

メイド「めぇいどぉ〜〜キィィィィック!!」ドゴォッ

ジャン「ぐはっぁ⁉︎」ドサッ

メイド「……はぁっはぁっ……」

ジャン「あ、あ……? な、なにしやが――」

メイド「姫さまをどうするおつもりです⁉︎ 弟だけではなく姫さままで!!」

ジャン「はぁ?」キョトン

メイド「いつから接触していたのですか⁉︎ 見取り図を渡せといってきたのはつい最近の出来事でしょう⁉︎」グイッ

ジャン「お、おい。ちょっと落ち着け」

メイド「姫さまをどうするおつもりですか! 姫さまを姫さまを姫さまを姫さまを姫さま姫さまをっ!!」ブンブン

ジャン「お、おおっ、おちっふるなっ、ガクガクさせるなっ、ままっまたんかいっ」ガクガク

メイド「私が仕事をしないからですか⁉︎ 弟を人質にとるだけではなく姫さままで⁉︎」

ジャン「ひ、人質……?」

メイド「うっ、うっ、わかりました。城内の見取り図はお渡しします。ですから、もう、姫さまだけは勘弁してくださいまし……」ガクッ

ジャン「いや、あの」

メイド「弟にも、会わせてくださいまし。お金が目的なら、それでいいでしょう⁉︎」キッ

ジャン「う、うん?」

メイド「……弟を助けだしたら、王に罪を告白して、自決します」スッ

ジャン「お、おい」ポカーン

メイド「本日の夜。城下町の酒場に来てください。……そこで、約束の物をお渡しします」
440 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 18:16:00.45 ID:Ks50AJWbO
【10年前 クィーンズベル城 中庭】

姫「ねぇ、ゆうしぁ? おままごとしない〜?」

勇者「ええ、またぁ? 姫が奥さんでメイドが愛人の? やだよ。飽きた」

姫「……うっ、うっ、ひぐっ……い、いやなのぉ?」

メイド「お、じょうさま、はんかち」ゴソゴソ

姫「いやだっていわれちゃったぁ……ひぐっひぐっ」

勇者「……泣くことないじゃないか」

姫「あああああんっ!! びいゃあああっ!!」ポロポロ

メイド「な、泣かない。泣かない。お鼻、ちーんっ」スッ

勇者「ちぇ。……ただいま。今日もつかれたなぁ」ドサッ

姫「……? ん、すんっ、すんっ」

勇者「今日のゴハンなにかなぁ」

メイド「お、おじょうさま。ほら」ニコニコ

勇者「泥団子まだかなぁ」

姫「ち、違うもん。そうじゃないもん、ひぐっひぐっ」

勇者「違うのぉっ⁉︎ 役が違った⁉︎」

姫「うっ、診察、ごっこっ、すんっ」

勇者「しんさつぅ?」

姫「わたくしが、お医者さんで、ゆうしゃは患者さん。メイドはナース」
441 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 18:17:10.12 ID:Ks50AJWbO
勇者「な、なに、それ」

姫「今日はどうしましたかぁ?」

勇者「うっ、や、やだよ。やっぱり」

姫「ぴっ⁉︎ ま、まだやだっでぇ……!」

メイド「ゆ、ゆうしゃさま」ジー

勇者「……お、お腹いたいです」

姫「そうなんですかぁ? じゃあ見せてくださいっ!」

勇者「み、見せるの?」チラ

メイド「……」ジー

姫「見せてくださいっ!」ニッコニコ

勇者「わ、わかった。はい」グィ

姫「うーーん」ピト ピト

勇者「……」

姫「これはいけませんねぇ! 手術です!」

勇者「え……?」

姫「メイド! 患者さまを四つん這いに!」

メイド「はい、おじょうさま」

勇者「え? え?」

姫「だぁいじょうぶぅ。ちょこっとちくっとしますからねぇ」

メイド「あ、あの、おじょうさま。なにを」

姫「ニンジン! 生えてたんですの!」ニタァ

勇者「ちょ、なにするつもりっ⁉︎」

メイド「おじょうさま、勇者さま、嫌がって」オズオズ

姫「逆らうんですのぉ?」ニタァ

メイド「……」ガシッ

勇者「メイド、ちゃん? な、なんで抑えてるの?」

姫「おーほっほっほっ! 天井のシミ数えてる間に終わるからねぇ」

勇者「ひっ、や、やめて、いや」

姫「さきっちょだけ。さきっちょだけ」

勇者「や、やめてっ! あ、アッーーーー!!!」
442 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 18:34:57.07 ID:Ks50AJWbO
【クィーンズベル城 姫の自室】

姫「懐かしいですわ。なにもかも――」ゾク

勇者『姫ちゃん! やめて! そこは違う! 穴が違う!』

姫『おーほっほっほっ! ならどこの穴ならいいんですのぉっ!』グリグリ

姫「――なにもかもが、懐かしく、また……いつまでたっても色褪せることはない、うふっ、うふふっ」ゾクッゾクッ

メイド「……ただいま、戻りました……」パタン

姫「もう帰ってきたんですの?」プィッ

メイド「先ほどのやりとり、まだ怒っておいでなんですか?」

姫「当たり前ですわ! というか、さっきの今でしょう! わたくしにあのような無礼千万なことをツラツラと!」

メイド「そ、そうですね。ついカッとなり、失礼いましました」ペコ

姫「なんですの……? いきなり」

メイド「姫さまは、私が守ります」

姫「……? あ、さっき伝えそびれていたんですけれどね、ハーケマルの使者というのは――」

メイド「姫さまはァッ!! 私がッ!!守護(まも)りますッ!!」クワッ

姫「……っ!」ビクゥッ

メイド「私、これまで、勘違いしておりました」

姫「は、はぁ?」

メイド「立ち向かわなければならなかったのです。怯えるのではなく! その、せいで……! 姫さままで!」

姫「いったい、なにを」

メイド「ハーケマルの使者のことは、お忘れください。私がカタをつけてまいります」

姫「ちょ、ちょっと?」

メイド「必ずやっ! この命にとしても!」

姫「……そ、そう」タラ〜

メイド「貴女は死なないわ……。私が守るもの」スッ

姫「……」

メイド「では、準備がありますので、私はこれで」

姫「が、がんばってね?」

メイド「御意」ペコ
443 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 21:28:02.30 ID:YvuJAF6kO
【夜 城下町 酒場】

バニーガール「いらぁっしゃぁ〜いん♪」

ジャン「お、おう」

バニーガール「あらぁ? その格好は貴族さまぁ〜ん? パフパフ……い・か・がぁ?」

衛兵「ジャン殿! ここ! ここ! ここですよぉ!」フリフリ

バニーガール「衛兵さんのお連れだったのぉ〜ん?」

衛兵「今日もかわいいねぇ、可愛い子三人テーブルにつけちゃってよ。チップは弾むからさ、これぐらいでどう?」スッ

バニーガール「んもぅ、しかたないわねぇ〜ん」カサ

衛兵「ジャン殿。遅かったですね!」

ジャン「ちょっといろいろと見て回ってたもんで」ガタッ

衛兵「何飲まれます! 席についたらなにか飲まなくちゃ!」

ジャン「じゃあ、カクテルを」

衛兵「貴族さまは小洒落てますなぁ! おーい! なんかカクテル! あ、おしぼりどうぞ」スッ

バニーガール「ただいまぁん♪」

衛兵「どうですか? クィーンズベルは。都会なようでなんにもない街でしょー? 賑わっちゃいますが」

ジャン「活気があるのは良いことですよ」

衛兵「そうは言うてもですねぇ、実がないと田舎となにも――」

メイド「た、たたたたのもうっ!!」バターーンッ

店内「……」シーン

メイド「〜〜〜ッ!! あ、あのっ!」

バニーガール「メイド喫茶と間違えたのかしらぁん?」

店内客「わははっ! ねーちゃん! そんな力いっぱい扉開けたらびっくりするだろうがっ!」

衛兵「……っ⁉︎ あ、あいつっ⁉︎」ガタッ

ジャン「お知り合いですか……?」チラ

衛兵「い、いえ、そ、その」

バニーガール「どうしたのぉ? ここはメイドさんが来る場所じゃ」

メイド「人と、待ち合わせしているんですっ!!」

バニーガール「そ。ミルク、でいい?」

店内客「ぎゃっはっはっ! かわいそーだろ! 俺の席につけてくれよ! そのメイドねーちゃん!」

バニーガール「あらぁ? うちの子じゃ不満〜?」ギロ

店内客「うっ! そ、そうは言っちゃいねぇが」タジ
444 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 21:42:55.21 ID:YvuJAF6kO
メイド「……」キョロキョロ

衛兵「うっ」ササッ

ジャン「どうなされました? テーブルの下に隠れて」

衛兵「い、いえ。小銭を落としてしまったもので」

メイド「……あ、あんなところに……!」ズンズン

ジャン「(ふーん。やはり、メイドの狙いは俺か。あれから城の中を調べてみたが、さしたる収穫はなし。鏡についてもどれがどれやら――)」

メイド「お、お待たせしましたっ!」

ジャン「――あぁ」

衛兵「お、お前ッ!! なんでここに! 俺を探していやがったな⁉︎」ガバッ

ジャン「あ……?」チラ

メイド「や、やはり……! 一緒にいるということは! あなたも盗賊の一味で間違いないようですね!」

ジャン「あなた、“も”?」

衛兵「ばっ⁉︎」アタフタ

ジャン「(おやおやぁ? これはもしかして、もしかすると、とんでもないマヌケな図式になってるんでない?)」

メイド「裏でこそこそと結託して!! 恥ずかしいという気持ちはないのですかっ⁉︎ 挙句に姫さままで!!」

衛兵「……ひ、姫?」

メイド「とぼけたって無駄です!! あなた方が二人でいることがなによりの証拠!!」バンッ

衛兵「ジャ、ジャン殿。少々席を外しても?」

ジャン「ええ、かまいませんよ」

衛兵「バニーガール! 奥の個室使わせてもらうよ!」

バニーガール「ご自由にぃ〜」

衛兵「おまえ、ちょっとこいっ!!」グィッ

メイド「いたっ、はな、離しなさいっ!」タタタッ

ジャン「やれやれ。これが衛兵とメイドで彼氏彼女の関係なら、ここでお幸せに〜で帰るんだけどねぇ」
445 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 22:05:10.06 ID:YvuJAF6kO
【酒場 個室】

衛兵「な、なにしにきやがった⁉︎ 俺はこれから大事な接待をするところで!」

メイド「……」ゴソゴソ

衛兵「ああっ、ちくしょう! 絶対怪しまれちまった……警戒心を解くのが肝心なのに……どうしてくれんだよ、ったく」

メイド「これです! これが目的だったんでしょう!」バンッ

衛兵「そりゃぁ、もしかして、城の見取り図か⁉︎」

メイド「夕食の配膳係を変わっていただき、その際に宝物庫の鍵をとり。忍びこみ持ってきました」

衛兵「これは、原本か? そうなんだな?」

メイド「はい。間違いございません。……さあ、約束の品は渡しました」

衛兵「これがこうなって……ふんふん、おお、こんなところに隠し通路が……こっちにも! 隠し階段が!」

メイド「弟はどこなんですかっ⁉︎ 会わせててくれるって約束でしょう⁉︎」

衛兵「あ、あぁ。そうだったな、心配すんな。合わせてやる。ただ、今日はだめだ。これから接待を――」

メイド「私は約束を守ったじゃないですか! どうして弟に会えないんですかっ!」グィッ

衛兵「お、ちょ、あぶっ」ビリ ビリ

メイド「嘘つき! 嘘つき!」ブンブンッ

衛兵「まっ、待て! 破れる!!」ビリィィィッ

メイド「あ……」

衛兵「……う、うそ、だろ……っ。や、やべぇ、ぞ。真っ二つに破れて……どけっ!」ドンッ

メイド「あぅっ!」ドサ

衛兵「……だ、大丈夫だ、真っ二つに破れただけだから、繋ぎ合せりゃいいんだ……」

メイド「……」ムクッ ユラァ

衛兵「おまえどーかしてるんじゃないのか! 会わせると……⁉︎」ギョッ

メイド「……弟は、どこですか……?」スラァ

衛兵「た、短刀⁉︎ お、おまえっ! な、なにするつもりだ⁉︎」

メイド「弟の居場所を、教えて。会わせてください」スッ

衛兵「ま、待てっ! 落ち着け! な?」

メイド「(姫さまにも、お城にも迷惑をかけません。弟を助けたら、見取り図は必ず戻します……だから……っ!)」プルプル

衛兵「……? ふふぅ〜ん?」ニヤ

メイド「な、なんですか? なにがおかしいんですか! 私は本気ですよ!!」プルプル

衛兵「そんなにナイフの切っ先を揺らしてか? よく見りゃ膝もふるえちまってるぜ? お前」

メイド「……っ!」

衛兵「冷静になって考えりゃ、メイドに人を刺した経験なんたありゃしねぇよな」ムクッ

メイド「わ、私は本気でっ!!」





446 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 22:24:39.35 ID:YvuJAF6kO
衛兵「本気で? なんだよ?」

メイド「ち、近寄らないでっ!」プルプル

衛兵「……ふんっ!」バシィ

メイド「あっ! うっ!」カランカラン

衛兵「こちとら潜伏してる盗賊とはいえ、毎日兵としての訓練もこなしてるんだ。やわな鍛え方しちゃいねぇぜ」スッ

メイド「うっ……くっ……!」キッ

衛兵「なんだぁ? その目は? こっちは予定を狂わされてちぃとばかし怒ってるんだぜぇ?」

メイド「弟に……」

衛兵「弟弟ってうるせぇっ!!」バンッ

メイド「ひっ」ビクゥ

衛兵「黙ってりゃ会わせてやるって言ってんだ!! わからねぇのかよ!!」

メイド「……うっ、うっ……ぐすっ……」ポロ

衛兵「あ〜あ、女はすぐこれだ。泣きゃいいと思ってやがる。なぁ?」グィッ

メイド「うっ、さ、触らないで」パサッ

衛兵「……おう、メイド服ってのは、そそるなぁ?」

メイド「な、なにを……?」

衛兵「お前のうなじ……はだけた胸元、前からいい女と思ってたんだ……」ゴクリ

メイド「……っ⁉︎ な、なに! いやっ! は、離して! だ、誰かぁっ!」ジタバタ

衛兵「だぁ〜れもきやしねぇよ。ここの個室はな、そういうこと専門なんだ。……よっと」ビリビリ

メイド「きゃ、きゃあああああっ⁉︎」ドサ

衛兵「白、か。ありがちだが悪くねぇブラジャーだ。着痩せするタイプなんだな」

ジャン「――……衛兵さーん!」コンコン

衛兵「チッ。良いところで」

メイド「……っ、や、やだ、っ、に、逃げないと……」ガタガタ

ジャン「そろそろ帰ろうかと思うんですけどー?」

衛兵「どうするか、こいつとヤレそうだってのに。しかし、使者を抱き込まねぇと」

メイド「と、扉、扉」ガチャガチャ

ジャン「内鍵閉まってますよねー? 蹴破ってもいいですかねー? 離れてた方がいいよー」

メイド「えっ?」

衛兵「な、なに?」
447 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 22:34:31.89 ID:YvuJAF6kO
ジャン「よいせっと」バターーンッ

メイド「あうっ!」ゴチーーン

ジャン「あっ」

メイド「」

ジャン「だ、だから離れてろって警告したのに。お、おい、大丈夫か? ええい、くそ。ベホマ」ポワァ

衛兵「……」ポカーン

ジャン「ちょ、ちょっとまってね? すぐに治すから」ポワァ

衛兵「……ジャン殿? あの、扉が、壁にめりこんでますが、あれぇ〜? 見間違いかなぁ〜?」ゴシゴシ

ジャン「あ、それ? だいぶ加減したつもりなんだけどさ、よし」

メイド「」

ジャン「外傷は癒えたな。その内意識も取り戻すだろ」

衛兵「か、か、壁に、扉がぁ⁉︎」ギョッ

ジャン「さて、壁にコップを当てるというなんとも古典なやり方で聞かせてもらったよ。盗賊さん」

衛兵「えっ? えっ」

ジャン「とりあえず、右手と左手どっちがいい?」

衛兵「そ、それは〜。なんの質問でしょう?」タラ〜

ジャン「なんだと思う?」ニヤ

衛兵「ほ、暴力じゃないですよねぇ?」

ジャン「残念。でも当たり」ブンッ

衛兵「う、うわあああああっ⁉︎」アタフタ
448 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/01/31(水) 23:01:26.01 ID:YvuJAF6kO
【数分後 同個室】

ジャン「ふんふん、それで? 城の見取り図を入手するため、こいつの弟を拉致ったと」

衛兵「ひゃい」ボロッ

ジャン「盗賊団はどうやって井戸の水脈を……たしか、学者に聞いた話だと“逃げさせてる”んだったか」

衛兵「わかりまひぇん」

ジャン「嘘?」スッ

衛兵「ひっ! ほ、ほんとへす! お頭が別働隊を仕切ってて、そっちの仕事で!」

ジャン「別働隊か。団全体で何人ぐらいの規模なんだ? 二、三十人ぐらいか?」

衛兵「詳しい数は、お頭しか、把握してないと」

ジャン「あ、そう。まだ殴られたいんだ」スッ

衛兵「ひゃ、百人は! いると思います! はい!」

ジャン「へぇ……結構でかい団じゃないか。シノギも大変だろう」

衛兵「まぁ、そこはその、こうしてたまにデカイヤマを扱ってるんで」

ジャン「この国だけじゃなく?」

衛兵「貴族様から依頼されることもあります。……ジャン様もももしよかったら」

ジャン「……」スッ

衛兵「な、ないですよねっ! だと思ってました!」

ジャン「あー、もう。なんでこう芋づる式になっちまうのかねぇ」ポリポリ

衛兵「あの、もう帰っていいですか?」

ジャン「いいわけないだろ。牢屋行きだからな、お前」

衛兵「そ、そんなぁっ! 頼みますよ! 謝礼はウンとはずみますから!」

ジャン「(まずは、人質になってる弟とやらの確保だな。じゃないとこいつが牢にはいったとバレると……)」チラ

メイド「Zzz」

ジャン「(危険になるだろうなぁ……どうするか……どうする? やることは決まってんのかねぇ)」

衛兵「考えなおしてくれました……?」

ジャン「アジトに連れてってくれたら考えてもいいよ」

衛兵「え、えっ? 俺らの仲間に?」

ジャン「行ってから決めるけど。儲けはどれぐらいもらえんの?」

衛兵「一人頭、100万ゴールドはかたいと」

ジャン「お前らさぁ、この国潰す気? 百人いたら最低一億ゴールドじゃない。元締めである親の取り分が100ぽっちってことはないだろし」

衛兵「そう、ですけど?」

ジャン「だぁ……」ガックシ

衛兵「へへっ、お頭、たいしたもんでしょ? どうされます?」

ジャン「とりあえず、バニーガールさん呼んできてもらっていい? ……そのまま逃げたら地の果てまで追っかけてぶち[ピーーー]からな」

衛兵「へ、へい」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 01:40:29.55 ID:IctMq2oQ0
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/01(木) 02:15:42.00 ID:4CSh5eWu0
おつー
あいかわらず安心して読めるSSだわ
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 02:43:57.45 ID:fi/uy0dro
おつ
452 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/01(木) 13:08:18.56 ID:tIdBMrZ3O
【数時間後 酒場】

バニーガール「とっとと起きなァッ!!」バチィン

メイド「ひゃっ、ひゃいぃぃっ! ただいま支度をっ……はれ? へっ? ここは?」

バニーガール「なぁに寝ぼけてんの」コチン

メイド「あ……? 貴女は……」

バニーガール「そろそろ店じまいの時間だから帰ってよ」キュッキュッ

メイド「……あのっ! 私、なぜ?」

バニーガール「仮面つけてる貴族の人から起きるまで面倒見てくれって頼まれたの。最初は送ってくれって言われたんだけど……ねぇっ、あんたってお城で働いてんの?」

メイド「あ、そ、そうですけど? か、仮面の人から?」

バニーガール「いいなぁ〜! お城でメイドやりゃ貴族様とお知り合いになれるなんて! ……でも、んふふっ、お金はたんまりと弾んでくれたしいっか♪」

メイド「貴女、さっきと言葉使い違いません?」

バニーガール「ありゃ商売の顔。接客のね。男どもなんて媚び売っときゃいいのさ。酒場に来るようなやつらはみぃ〜んなさみしくて、気持ちよく飲めれば満足なんだから」

メイド「そ、そうなんですか」

バニーガール「よく見りゃあんたもかわいい顔してるじゃなぁ〜い……スタイルもメイド服ぬぎゃ悪くなさそうだし。おっぱい何カップ?」

メイド「……っ⁉︎」ササッ

バニーガール「女同士でなに隠してんのよ。……そっか。生娘か。ならウチはだめだ」

メイド「働くなんて一言も……! このような汚らわしい場所で……!」

バニーガール「……ちょっとあんた。今なんつった?」ギロッ

メイド「うっ、だって、そうじゃありませんか。無精髭を生やしているような、清潔感のカケラもない男を」

バニーガール「そうかい。なら尚更だめだな。あんたにゃ城の中が似合ってるよ。世間知らずのガキが」

メイド「ガキって……!」

バニーガール「そうだろ? 男を知らないで、ホイホイついてっちまってさ。貴族様がいなけれりゃ、あんた、犯されてたよ」

メイド「……っ⁉︎」ブルッ

バニーガール「人生ってのはね、生まれながらにして平等じゃない。メイド服きて城の中に住めるだけラッキーってもんだ。……あたしらは、その運がなかっただけ」

メイド「……」

バニーガール「運だよ。この世は。決められた定員数があって、それにあぶれりゃ問答無用で選択肢は狭まる。じゃなきゃ、理不尽なことに説明なんかつくもんか……っ!」ギリッ

メイド「あ、あの。貴族の人が、私を?」

バニーガール「そう言ったろ。……あんたから貴族様にあたしのこと紹介しておくれよ? おもいっきりパフパフするからって♪」

メイド「(どうして、助けて、くれたの……? 盗賊の仲間のはずなのに……)」

バニーガール「あのお方お抱えになればここから抜けだせそうだしさ。ね? 頼むよぉ〜」

メイド「貴族様は、どちらに?」

バニーガール「あん? 手癖の悪い衛兵さんと一緒にどっか行っちまったよ」

メイド「(行動をともにするということは……やはり……でも……)」

バニーガール「んふふっ、銀細工までもらっちゃったぁ」キラン

メイド「……? そ、それは……ちょっ、ちょっと! 見せてもらえませんか⁉︎」ガバッ

バニーガール「だめだよ! これは! あたしんのなんだからぁっ!」

メイド「み、見るだけ! 見るだけですから!」

バニーガール「……そんなに見たいの?」

メイド「はいっ! 見たいです! すごく!」

バニーガール「なら、カネ。カネだしな。見物料」クイクイ

メイド「えっ? えぇと、今、手持ちが」ゴソゴソ

バニーガール「じゃあ見せられないね!」プイッ

メイド「300ゴールドあります! これでどうですか⁉︎」ジャラジャラ
453 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/01(木) 13:29:46.17 ID:tIdBMrZ3O
バニーガール「たった300ぽっちぃ? そんなんじゃ一晩の遊び代にもなりゃしないよ」

メイド「うっ、あの、今はこれが全財産で。お城に行けばまだ」

バニーガール「だぁめぇ〜! 今度、いつか、なんて口約束ほど信用ならないもんはない」キッパリ

メイド「う、うぅっ、でも、約束は必ず守りますから」

バニーガール「ふぅ〜ん、ま、いっか。盗むんじゃないよ」スッ

メイド「こ、これは……間違いない。見間違えようがない……アデルの……」

バニーガール「なんでもさぁ、アデルにいってこれを見せりゃ仕事を斡旋してくれるって言ってたけど」

メイド「な、なんですって⁉︎」ガタッ

バニーガール「きゅ、急に乗り出してきたらびっくりするじゃないのさ」

メイド「(まさか……っ⁉︎ まさかまさかまさかまさかまさかっ⁉︎)」ギュウッ

バニーガール「ちょっと! なに握りしめてんだ! あたしんのだ!」

メイド「その方は! 今っ! どちらにっ⁉︎」バンッ

バニーガール「……いや、だから知らないって……」

メイド「な、なんてこと……私ったら、なんて勘違いを……」ワナワナ

バニーガール「あのさぁ、そろそろ返してくんない?」

メイド「あ、す、すみません」スッ

バニーガール「でも、ほんとなのかねぇ。これ見せれば選択肢が広がるって」

メイド「なんと、言われたんですか?」

バニーガール「ん? いや、少し世間話をしていたら、ひょんなことを言われたのさ」

メイド「……?」

バニーガール「“なりたいものがあるなら諦めちゃだめだ”って。ふふっ、なんとも青臭いセリフだけどね。ああまで透き通った瞳で言われちゃうとさ」

メイド「……」

バニーガール「私も、自分に対する負い目はあるからさ。境遇は運だけど、いつのまにやら、今の環境に慣れちまってる自分もいる」

メイド「そう、ですか」

バニーガール「つまらない話しちまったね。さぁ、はやく帰ってくれ。この300ゴールドはもらうよ」

メイド「(や、やはり、違う。盗賊なんかじゃない! この銀細工は……この形は……あの時の……ゆ、勇者様……?)」


姫『貴女も知ってる、懐かしい友人ですの――』


メイド「……っ⁉︎」ガタッ

バニーガール「わ、わぁっ! だ、だから勢いよく立つなって」

メイド「姫さまは知ってた⁉︎ 気がついてた⁉︎ あの人の正体に⁉︎」

バニーガール「ひ、姫さま……?」

メイド「も、戻らなくちゃ! お城に戻って確認しなくちゃ!」タタタッ
454 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/01(木) 13:48:48.97 ID:tIdBMrZ3O
【クィーズベル城 南西方向 廃墟】

ジャン「ぶえっっくしょんっ!! あー……風邪かな」ズズッ

衛兵「も、もう少しですよ」

ジャン「けっこー離れてんのな。かったりぃったらありゃしねぇ」

衛兵「あ、あの〜。さっき、バニーガールに支払ったお金は……」

ジャン「ん?」

衛兵「に、2000ゴールドも、その、俺の財布から。い、いつか、返してもらえるかな〜なんて?」

ジャン「お前がやらかしたからだろ?」

衛兵「そうはいわれましてもぉ〜? 気絶させたのはジャン殿といいますかぁ」

ジャン「お前がこじ開けなきゃいけない状況を作ったからだろ?」

衛兵「ぐっ、で、でもぉ、やっぱりぃ〜、最後の決めてはぁ」

ジャン「あ?」スッ

衛兵「さぁッ! 先を急ぎましょうっ!!」クルッ

ジャン「これこれ。待たれよ」

衛兵「……なんすか?」

ジャン「疲れたのである。おぶってたも」

衛兵「……」ヒクヒク

ジャン「おぶってたも」クイクイ

衛兵「こ、この野郎ッ!!!」

ジャン「あ゛ぁッ⁉︎」ギロッ

衛兵「おぶらせていたたぎますっ!」ササッ

ジャン「素直で嬉しいでおじゃる」

衛兵「(あ、アジトについたら、全員で、袋叩きにしてやる……っ!!)」ヒクヒク

ジャン「……その顔は良からぬことを企んでいるでおじゃ」

衛兵「い、いいぇ〜っ! そんなわけありませんよぉ〜!」ニコォ

ジャン「なんでもいいからおぶれや」(鼻ホジ)

衛兵「(殺してやる……!)」ギリッギリッ
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 19:33:20.00 ID:T14vwUJbO
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 20:31:32.02 ID:U+9Dlw5T0
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 23:12:08.21 ID:75KL/yKEo
おつー
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 23:58:16.21 ID:QfEMveoBo
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/02(金) 12:49:08.95 ID:m/4c0sLd0
続きマダー
460 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 16:32:37.82 ID:396w4EcWO
【城下町 宿屋】

魔法使い「もう何度目? バカ勇者が無断で帰ってこないの」

僧侶「せめてぇ、帰ってこないのなら連絡の一本ぐらいほしいのですがぁ。せっかく使ったご飯も冷めてしまいますしぃ」

魔法使い「作ってないでしょ!」

戦士「勇者の勝手っぷりには困ったものだ。遊び人の方が似合ってるんじゃないかとさえ思えてきた」

武闘家「まぁ……この街にいるのは間違いないだろうし、ほっといたら帰ってくるだろうさ」

戦士「世話焼きの武闘家にしちゃめずらしいなぁ。前回なんか、アタイ達のリーダーがっ! って慌ててたくせに」ニマァ

武闘家「さっきの勝負をまだ根に持ってんの? 何回やっても負けは負け。アタイの5勝。アンタは0勝」

戦士「ぬぐっ。そ、それがなんだぁっ!」バンッ

魔法使い「あ〜はいはい。わかったから。武闘家の言う通り、この街にいるのは間違いないと思うし、どっかで遊びほうけてるだけでしょ」

僧侶「酒場にいらっしゃったりしてぇ」

魔法使い「あいつ、酒なんか飲むの?」

僧侶「さぁ〜? 存じ上げませんが、アレフガルドでは18が成人の歳。飲んでいたとしてもなんら問題ありません〜」

魔法使い「……それもそうね。酔っ払って嫌な絡み方しなければいっか」

武闘家「しばらく、様子を見よう。明日以降も戻らないようであれば、探しにいく」

戦士「ははっ、なんだよ。やっぱり世話焼きだ」

武闘家「そうじゃなくて、アタイはリーダーを」

戦士「ほぉら、また始まったぞ」ニマァ

武闘家「めんどくさいね、アンタ」

僧侶「……やっぱりぃ、まとめてくれる方がいないと締まりませんねぇ」

魔法使い「まとめる? 誰が?」

僧侶「勇者さまがですよぉ」

魔法使い「あ、あいつが? まとめてられてる様な気がしたことないんだけど? 私達が合わせてやってるだけで」

僧侶「衝突しそうになったら、勇者さまが身を呈して団結させてくれるではありませんかぁ〜」

戦士「いや、あいつは好き勝手にふざけているだけだろう」ピタ

武闘家「アタイもそれはちょっとどうかと……」

僧侶「そうは言われましてもぉ、こうして話題になると戦士さんと武闘家さんの喧嘩は止まりますしぃ」

戦士「それは……うーん? なんでだ? 魔法使い」

魔法使い「余計にツッコミやすいからに決まってるじゃない」

僧侶「なんだかんだで、率先してやられてるんですよぉ? 私達の間のクッションになっていただいてぇ」

魔法使い「例えそうだとしても! 連絡もよこさず勝手な振る舞いをしてるやつよ! ただテキトーなだけ! 夢見すぎ!」ビシッ

僧侶「それはぁ〜そうですがぁ」

戦士「うん、勇者がダラシないやつという部分に疑いはない」

僧侶「武闘家さんもそう思われますかぁ?」

武闘家「あ、アタイは、武に生きる者として、尊敬する部分もあるが、あいつの人柄を、そこまでは良く考えられない。人間的な部分は出来の悪い弟弟子というか」

僧侶「そうですかぁ〜」シュン

魔法使い「僧侶も勇者だからって甘やかしてばかりいちゃだめよ。信仰心という補正がかかってるだけなん――」


「きゃあああああ〜〜〜〜ッ!! だ、誰かぁ〜〜ッ!!」


戦士「叫び声っ⁉︎」ガタッ

武闘家「表の通りからか……!!」ダダダッ

魔法使い「あっ、ちょ、ちょっと!」

戦士「魔法使いと僧侶は後からこい!!」チャキッ ダダダッ
461 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 16:47:41.75 ID:396w4EcWO
【城下町 表通り】

荒くれ者「逃さねぇぜぇ〜コイツぅ〜っ!」

メイド「あ、あ……」

荒くれ者「そんなはだけた格好で走ってどこいくのぉ〜? お嬢ちゃん」ニヤニヤ

メイド「ど、どいてくださいっ! 私はお城に! 見回りの兵はっ⁉︎」キョロキョロ

荒くれ者「四六時中いるもんかぁ〜! 恨むんならテメェの運の悪さを恨みなぁ。へっへっへっ」ジリ ジリ

武闘家「――お前らっ!! なにをしているっ!」ズザザッ

荒くれ者「あぁん? なにをって今からお楽しみに決まって……」クルッ

戦士「こいつらは……たしか、昼間のモミの木のタネの老人からお金を巻き上げようとしていた……」

荒くれ者「あ……っ、あっ……あ、あんたらは……」

武闘家「まだこんな元気があったんだね」ポキ ポキ

荒くれ者「ひ、ひィッ!」ガタガタ

戦士「ちぇ、雑魚か。ならあたしの出番はないな」ドサッ

荒くれ者「きょ、今日の昼間はたまたま調子が悪かったんだ! 今度はそうはいかねぇぞっ!!」

武闘家「御託はいい。さっさとかかってきな。今度はしばらく悪さできないようになるけど」クイクイ

荒くれ者「ヒャッハーッ!! 舐めてんじゃねぇぞぉ!」ブンッ
462 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 17:14:57.65 ID:396w4EcWO
【数分後】

魔法使い「――あれ? もう終わってたの? ってこいつ、昼間のじゃない?」

荒くれ者「」チーン

魔法使い「うわっ、顔面ぼっこぼこ」

戦士「弱い者いじめだよなー」

武闘家「アンタじゃ勝てなかったかもよ」

戦士「んなわけあるかっ!!」

僧侶「これは、少々やりすぎでは〜」

メイド「あの、助けていたたぎありがとうございました」ペコ

戦士「あぁ、かまわな――」

武闘家「アンタ見てただけだろうさ」

戦士「なんだよ! いいだろあたしが言っても!」

僧侶「あのぉ〜。そのような格好で出歩かれてはぁ〜。時間も時間もですしぃ」

魔法使い「……露出狂?」

メイド「ちっ、ちちちっ違いますっ! 急いでて!」

僧侶「そうでしたかぁ〜。なにやらご事情があるご様子。でしたら、私の着ている服を〜」ヌギヌギ

魔法使い「二人に増やすんじゃないわよ!」

武闘家「……ほら、汚いマントだけど。これなら胸元隠せるだろ」パサッ

メイド「ど、どうも……ありがとうございます」

戦士「勇者がいたら喜んでたかな?」

魔法使い「きゃははっ、ないわよ。あいつ、絶対童貞だし」

僧侶「またお二人はそうやってぇ。純粋と言ってあげないとぉ」

魔法使い「甘い甘い。童貞は皆すべからずムッツリなの」

メイド「ゆ、勇者? そうおっしゃいました?」

武闘家「あ、んー……まぁ、その、アタイ達のパーティに」

メイド「今もご一緒なんですか⁉︎」

魔法使い「見たいの? やめといたほーがいいわよ。幻滅するから」

戦士「見た目は悪くないが、サインをもらうような相手ではな」

メイド「教えてくださいっ! 今もいらっしゃいますか⁉︎」

僧侶「いぇ〜。今日は別行動をしておりましてぇ、今は帰ってきておりません〜」

メイド「こ、これっ! これ見たことありませんかっ、私が小さい時にもらったお守りなんですけど……見覚えは……?」スッ

戦士「銀細工みたいだが、ススだらけだな。あるか? 魔法使い」

魔法使い「んーん、ない」

メイド「そ、そんなはず……! 勇者様のパーティなら見覚えが!」

武闘家「アタイも、ないな。僧侶は?」

僧侶「私もありません〜」

メイド「そ、そうですか。勇者様なら、コレを持ち歩いているはず……“別の勇者”なのでしょうね……」

戦士「偽物は実際に出ていたが、あたし達が同行している勇者は本物の――」

メイド「いえ、いいのです。姫さまに確認すれば済む話ですので」スッ

武闘家「ちょっと待ちなよ。アタイ達がウソつきだっていうのか?」

メイド「そうは言ってません。ですが、私も、なにがなにやらわからなくて……混乱しているんです……」

戦士&武闘家&魔法使い&僧侶「……?」

メイド「助けていただきありがとうございました。後日、お城におこしくださいませ」ペコ
463 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 19:05:02.23 ID:nXSMbgjzO
【数時間後 廃墟】

お頭「でえっへっへっ!! おめぇ、なかなかに面白いやつじゃねぇかっ!」

ジャン「いやぁ、お頭ほどでもないですよ」モミモミ

衛兵「(な、なんで……こいつが、気に入られてやがる……っ!!)」

ジャン「それそうとお頭、分け前の話なんですけどね」

お頭「そんなにカネが好きか? あァ?」

ジャン「大好き! カネのためならハーケマル王の足の裏だってペロペロしちゃう!」

お頭「ぎゃはっはっ! プライドねぇのかよぉ〜おめえ」

ジャン「そんなんで金儲けできたら苦労しませんて。俺も噛ませてくださいよー」

お頭「おう、衛兵。帰ってきたと思えばなに神妙な顔してやがる。酒だ酒」

衛兵「へ、へい」トクトク

お頭「おめぇもご苦労だったな。ハーケマルの使者を見事にだきかかえちまうとは」

衛兵「あ、いや……それが」

ジャン「そりゃあねぇ、衛兵さんが頑張ってくれたおかげでこうして席があるわけですから」

お頭「違えねェ。お前の取り分、成功報酬から三割上乗せしといてやるよ」

衛兵「えっ⁉︎ い、いいんですかい? 三割……というと基本が100だから、130⁉︎」

お頭「なんだァ? 足りねぇか? ……そうだな。使者の協力があれば、成功したも同然だし、200ぐらいいっとくか」

衛兵「ば、ばばばはっ倍ですかいっ⁉︎」

ジャン「さすがお頭! 太っ腹!」

お頭「まぁよっ! 俺ぐらいになりゃあこれぐらい豪気じゃねぇとな!」

衛兵「(あ、あれ? こいつって、もしかして、良い奴?)」

ジャン「協力したいんですってぇ〜! でも、計画がどういうものかわからなきゃだめでしょ〜?」

お頭「……把握する。それが、狙いか?」ギロッ

ジャン「……」ピタ

お頭「だぁっはっはっ! ちょっと睨んだだけじゃねぇか!」

ジャン「(目は笑ってなかった。半分以上は俺を疑ってるな)」

お頭「いやいや、おめぇはおもしれーやつだ。ちっとも貴族らしくねぇ。だがな、だからこそ、大丈夫か? とも思う」

ジャン「はいはい〜」モミモミ

お頭「衛兵。お前は使者をどう見る?」

衛兵「へい? 俺ですか? ……そいつは」

ジャン「思った通りに行ってくださいよー。疑う余地はないって」
464 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 19:20:24.74 ID:nXSMbgjzO
衛兵「お、お頭、実は……」

お頭「ん? なんだ? どうした」

衛兵「……そ、そいつは……」

ジャン「……」ジー

衛兵「俺からジャン殿に質問させていただいてもいいですかいっ⁉︎」

お頭「かまわねェよ」

衛兵「ジャン殿、ちょっと」

お頭「なんだァ? 俺の目の前でコソコソ内緒の打ち合わせか? まさかおめぇら二人で宝を横取りするつもりじゃあるまいな」ニタァ

衛兵「ひっ⁉︎ い、いいえっ! そ、そういうわけではなく!」

ジャン「衛兵さん。お頭は俺たちの雇用主になるわけです。信用を失っちゃったら元も子もありませんよ」

お頭「……」

ジャン「聞きたいことがあれば、どうぞ。ご随意に」

衛兵「(よく考えろ! ここは、俺の岐路だ。分岐点だ。こいつは危ないやつだって、お頭に教えるべき。……で、でも、そうなったら俺の倍のボーナスは、どうなる……?)」

お頭「なにか、あんのか?」

衛兵「(密告しても、もらえるのか? この野郎はどこまでが本気でどこまでがウソなんだ。俺たちの仲間になりたいのは……本気……なのか? 女を襲ったのが気に入らなかっただけか?)」

ジャン「はやくしないと俺だけじゃなく衛兵さんの信用まで失ってしまいますよー」

お頭「だぁっはっはっ! おめェ、よくわかってんじゃねぇか!」バンバン

衛兵「〜〜〜〜ッ! ジャン殿っ!!」

ジャン「はい?」

衛兵「お、お金。お金は、好きですか?」オズオズ

ジャン「好きですよ」

衛兵「じゃ、じゃあ、女を襲うようなやつは?」

ジャン「嫌いですね。陵辱は胸糞悪くなるので」

お頭「あァ? そうなのかァ? 嫌がる女を征服するっていいもんだろうが」

ジャン「いやぁ〜俺ドMなんで」

お頭「……まじかよ」(ドン引き)

ジャン「や、やだなぁ! 冗談ですって!」

衛兵「(な、なら、でも、牢屋いきだって言ってたしな。俺を。やっぱり報告するか! 報告して報酬もらおう! それでいこう!)」


465 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 19:39:42.55 ID:nXSMbgjzO
ジャン「ほかになにか――」

衛兵「お頭ァッ! そいつは危ねぇやつです!!」ビシッ

お頭「あん? どういう意味だ?」

衛兵「そいつに殴られました! そんななりしてめちゃくちゃつええっす! そいつ!」

お頭「へぇ。おめェ、衛兵よりつええのか?」

ジャン「貴族なもので。幼少の頃より武術と剣術は嗜んでおります」

衛兵「俺が女を襲おうとしたら、こいつが扉を蹴破って入ってきたんです!! そんで俺をぼっこぼこに……!」

お頭「そのわりには、怪我が見当たらねぇが?」

衛兵「ここまで案内させるのに治しやがったんでさぁっ!!」

ジャン「まぁまぁ落ち着いて」

衛兵「お頭、そいつは……」

ジャン「俺、女を襲うようなやつは嫌いなんですよ。でもこの計画には一枚噛みたかった。だから案内してもらったんです」

お頭「ふぅん……」

衛兵「そいつは俺を殴った後、団の内情も聞き出そうとしてて!」

お頭「なに?」ピクッ

ジャン「それも全て、どういう規模で活躍されてるか知りたかったのです。より良い取り引きのために」

お頭「……なるほど?」

ジャン「雇い主を無条件に信用するほどおめでたくありませんよ。ましてや、こんな無能を雇っているようでは」

衛兵「な、なにをぅっ⁉︎」

ジャン「お頭。気がつかないんですか? ならなぜ最初からこいつは報告しなかったのか」

お頭「そいつは俺も気になっていた。なんで今頃になって言う?」

衛兵「……うっ、そ、それは、すぐバレると思って……」

ジャン「予想外に相手に取り入ってしまった。俺にビビってたのか?」

衛兵「ぬぐっ」

ジャン「別にそこはどーでもいいんだけど。ボーナスの話が出たからだと思ってた」

お頭「……」ピクッ

ジャン「迷ってた。俺に金に好きかって聞いたのはなんで?」

衛兵「そ、それは、その、よ、よく考えてから」

ジャン「ほーらね。こいつも俺も金が大好きなんですよ。金のためなら平気で打算しますよ。お頭だって好きでしょ? カネ」

お頭「ああ……」グビッ
466 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 20:02:12.03 ID:nXSMbgjzO
ジャン「そこで――こっからは俺の取り引きです」

お頭「……言うだけ言ってみろ」

ジャン「この場所を知られてしまった以上、お頭達は俺を黙って帰すつもりはないでしょう。なので、先に条件を提示します」

お頭「……」

ジャン「俺を仲間に引き入れれば、計画はさらに円滑に進められるでしょう。そこの衛兵さんをボコった際に聞き出したのですが、なんでも井戸の水を枯れさせているとか」

お頭「おめェ……っ! ペラペラと喋りやがったのか!!」ギロッ

衛兵「ひ、ひっ⁉︎ す、すみませっ!」ドゲザ

ジャン「話を進めても?」

お頭「……」コクリ

ジャン「ハーケマルの使者として、お力になれることは多いはず。取り分は、そうですね。300万でいかがでしょうか?」

お頭「……話を聞くだけといったはずだ。誰がお前を仲間にいれるといった」

ジャン「決めるのはお頭です。どうぞ、存分に打算なさってください。俺を引き入れることによって得られる利点と危険を天秤にかけて」

お頭「……」

ジャン「黙って殺られる気はありませんよ。だめだというなら懐に隠してある短刀で抵抗します」スッ

お頭「……俺をおどそうってのか?」

ジャン「めっそうもない。……お頭らぁ〜。頼みますよぉ〜。俺もお金もうけしたいんですぅ〜」モミモミ

お頭「……」グビッ

ジャン「(考えてる考えてる。口から生まれたと俺に勝とうとは10年はやいわっ!ボケ衛兵が!)」チラ

衛兵「お、お頭。そ、そいつは」オズオズ

お頭「おめェはだぁってろ!! ……ボーナスはなしだ」

衛兵「そ、そんなぁ……」ガックシ

お頭「使者さんよ……まずはおめェになにができるか聞かせてもらおうか」

ジャン「私はハーケマルとクィーンズベルとを結ぶ使者でございます。そうですね、パッと思いつくのは、王子来訪と合わせ帯同してくる」

お頭「それで?」

ジャン「お頭達が安心して、余裕をもって仕事を行えるどころか、逃げ道までお手伝いできるかと」

お頭「う、む。注意を引きつけられるのか?」

ジャン「立場を利用すればたやすい。難しいことではないと想像できますでしょう?」

お頭「……」

ジャン「なにがひっかかてるかじゅ〜〜ぶんに理解できます。計画の重要ポストにおいたら、消えたり裏切りにあっては痛手。それもかなりの」

お頭「そうだ」

ジャン「私が信用できない。そこがひっかかってる」

お頭「……あぁ」

ジャン「信用できるようになにかやりましょう。あ、そうだ。メイドの弟を拐ってると聞いたのですが。衛兵さんから」

お頭「……なにから、なにまで……ペラペラと……っ!」ブンッ

衛兵「いたっ」コツン

ジャン「その弟の居場所を教えてもらえれば――」

お頭「いねぇよ」

ジャン「――はい?」

お頭「俺もヘタこいてな。ガンダタってやつに持ってかれちまった「

ジャン「な、なんですとぉっ⁉︎」



467 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 20:30:33.68 ID:nXSMbgjzO
【クィーンズベル城 郊外】

ガンダタ「どおりゃあっ!!」ザシュっ

手下「うっ」ドサッ

ガンダタ「ふうっ、ふうっ、これで最後か……」

少年「ひっ、ひぃん」ガタガタ

ガンダタ「む、ぅっ、さすがに10人いっぺんには、こたえる」ガクッ

少年「お、おじちゃん」トコトコ

ガンダタ「ガキ。おめぇ、逃げなかったのか。バカなやつだ」

少年「こ、こわくて。動けなかった」ヘナヘナ

ガンダタ「あ? よく見りゃ小便漏らしてやがる。小便小僧だ」

少年「うっ、うっ、ぐすっ」

ガンダタ「おめェの姉ちゃんに会わせて、俺は金をもらう。そして、そのまましばらく姿をくらませる。再起は、その後だな」ドサッ

少年「だ、大丈夫?」

ガンダタ「ちっらたぁ根性見せたらどうだ。女みたいに人の顔色ばかりうかがってないでよ」

少年「あ、あぅ」

手下「ぐっ、ガンダタァッ……!」

ガンダタ「なんだ。まだ死に損ないがいたか」

手下「美味しい思いだけをできると思うなよ……! 追っ手は俺たちだけじゃねぇぞ!! うっ、ゲフッ」

ガンダタ「わかってるよ」ムクッ

手下「そいつを、渡して、謝礼をもらえてもっ、所詮、おめェは犯罪者だ。腐りきったクズ野郎だ」

ガンダタ「……あぁ」スタスタ

手下「仲間殺し、裏切り、裏社会での暗黙の了解を破ったお前に、もはや居場所なんか、ねぇっ!!」キッ

ガンダタ「だったらよ、俺は自分だけの居場所ってやつを作るだけだ」グサッ

少年「も、もういやだぁ、お、おねぇちゃぁ〜ん」ポロポロ

手下「が、がはっ」ドサッ

ガンダタ「自分の居場所なんてもんは勝ち取るもんだ。そうだろ」グサッ グサッ

手下「」

ガンダタ「――俺は生きる。生き残って、あがいてあがいてやる。その先が地獄なら、鬼になってもな」ポタポタ
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/02(金) 22:05:15.90 ID:E1d4QI8B0
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/02(金) 22:32:44.03 ID:9nEUDDxZO
毎日更新は嬉しいね
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/03(土) 09:07:32.86 ID:YBSEylk6o
471 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/03(土) 21:24:03.71 ID:0GHFRMQmO
【再び 廃墟】

お頭「どうして驚いて……いや、ちょっと待て。頭を整理したい」

ジャン「(まずいぞ。弟はいったいどこに……)」

お頭「使者よ……ジャンっつったか。おめェの指摘には間違いがいくつかある」

ジャン「あ……はい? 間違いとは?」

お頭「たしかに俺ァ金が好きよ。ボンクラ衛兵も、お前も好き。ソレに違いはねぇ……ただな、俺にとっちゃ、カネなんてものは手段にすぎねえ」

ジャン「……?」

お頭「“金に溺れてるつもりはねぇ”。そういうこった。富、権力、そういうものを追い求め野望を胸にしてりゃ、金は後からついてくる。金なんてもんは所詮――」ゴソゴソ

ジャン「……」

お頭「贅沢をするための、道具だ」チャリン

ジャン「さっすがお頭――」

お頭「腹をわって話しようぜェ? ジャンさんよ。おめぇは“カネに使われるモノか”、“カネを使うモノか”。どっちなんだァ? あぁ?」

ジャン「なんのことやら、さっぱり」

お頭「くっくっ、とぼけるんじゃねェよ。俺の手下を無能呼ばわしたお前が、これぐらいを察しがつかねぇでどうする。そんな無能なら、俺がいらねェ」

ジャン「……そうですねぇ、いずれは一人立ちしたいと考えています。いつまでもコキ使われるのはイヤなので」

お頭「盗賊になるか?」

ジャン「俺は働くのが嫌いなクズなんですよ。盗賊だって社会からはみ出して、人の迷惑をかえりみない犯罪まがいのことやっちゃいるが、ルールがある。働いてますよね、一応」

お頭「一般人が積み上げてきたものをぶち壊す汚ねェ手段ばかりだがな」

ジャン「性善説なんてありえませんし、あなた方みたいな人は、人が人間である以上、必ず出てくる。必然的にね」

お頭「……」

ジャン「そんなに複雑な話じゃないんです。私は、のんびり気ままなニートを目指してまして」

お頭「ニート? てェと、無職、世捨て人になるつもりか」

ジャン「今の肩書きを捨てたいだけなのかもしれませんね」

お頭「ほかに大きな野望はねェのか?」

ジャン「そんな先のことまで考えてませんよ」

お頭「そうか……骨のあるやつを期待したんだがな」

ジャン「お頭のおっしゃっている意味は理解できます。その先になにを求めているので? カネが主目的ではない、後からついてくる副産物なら……」

お頭「“国盗り”よ。それが俺の夢であり、盗賊としての野望」

衛兵「く、国盗り……お頭、自分も初耳です」ゴクリ

お頭「そんなんだからおめェはカネに振り回されてんだ」

ジャン「(こいつは……どうしたもんでしょ)」

お頭「ジャンよ、おめぇのここ(胸)になにもないんなら……カネほしさに国を潰せる突き抜けたクズ野郎か?」トントン

ジャン「宝を奪い、財政難に陥れるだけで国が陥落するわけがないでしょう。そうなる前に、ハーケマルや他の機関が援助に動きだします」

お頭「くっ、くっくっくっ。そうはならねぇのさ。なぜなら、落とすからだ」

ジャン「戦をしかけるおつもりで? たった百人たらずの盗賊団で?」
472 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/03(土) 22:03:19.35 ID:sz2fZswmO
お頭「衛兵から聞いたか……ぎゃっはっはっ! 百人じゃねェのよ。俺たちの団は」

ジャン「例え千でも同じこと、万を超える数ではないと……万もいるとか?」

お頭「いいや。いねェ、くっ、くっくっ」

ジャン「お頭ぁ、わかりませんよぉ〜」

お頭「“魔族”だよ。俺たちのバックにはやつらがついてる」

ジャン「(あぁ? ……ちっ)」

衛兵「えっ⁉︎ そ、そうなんですか⁉︎」

お頭「どうだい? これなら信じられないこともないだろう? 国を落とせると」

ジャン「魔族が人間と協力か、もしくは協同ともいいましょうか……初めて聞きましたが」

お頭「俺も驚いたさァ。なにしろ、人間の若い女の姿をしていたからなァ。最初は気がつかなかった」

ジャン「(人間の若い? 淫夢族か?) ……それで、どうやって?」

お頭「そこまで話する気にゃならねェ」

ジャン「魔族がいるかどうかだけでも」

お頭「今言ったろ……チッ、証明か」ゴソゴソ

衛兵「……そ、そんな……ま、魔族と繋がってたなんて……」ブツブツ

お頭「ほらよ。このビー玉見てみな」

ジャン「それは?」

お頭「こりゃあ、なんでも特殊な瘴気の溜まってるもんを閉じこめてる玉らしい。中でケムリが渦になってるのわかるだろ?」

ジャン「(たしかに、紫色の、なにか、形作ってないか?)」ジー

お頭「こんなもんは人間には作れない代物だ。呪いのアイテムなんかでもねぇ」

ジャン「(よく、見ると、竜か?)もっと、よく見せていただいても?」

お頭「ダメに決まってるだろうが。証明はコレで済んだ」サッ

ジャン「……けちんぼぉ〜」

お頭「さぁ、どうするよ? お前の結論は」

ジャン「お頭に協力します」キッパリ

お頭「あ、あぁ? 悩むそぶりも見せずにか?」

ジャン「他人が血を流そうかどうなろうか知ったこっちゃありません。俺はクズじゃなくドクズだったようです」

お頭「軽率なやろうだ」

ジャン「単純明快でいいじゃないですか。俺は答えましたよ。お頭はまだじっくり考えたいですか?」

お頭「うう、む」

ジャン「(魔族がなんでまた人間に。あいつら種族のプライド高いはずだけどな〜、クィーンズベルを潰すために人間同士の争いに演出するつもりなのかなぁ)」

手下「お、お頭ぁッ!!」ダダダッ

お頭「うるせぇなァ!! ゆっくり考えられねぇだろうがッ!!」

手下「す、すいませんっ! でも、ガンダタを追っていかせた、馬たちが……帰ってきてて……!」

お頭「馬? 馬だけか?」

手下「し、死体をくくりつけた、馬が……!」

お頭「チッ、やられたか。なら、さらに人員を増やして……いや、まてよ。おめェ、衛兵よりつええんだったな……なら、こうすッか。ガンダタって野郎を殺ってこい。そしたらお前を信用する」

ジャン「かまいませんけど、顔がわかりませんよ」

お頭「人相書きなら、ほらよ」ポイッ

ジャン「……」パシッ シュルシュル

お頭「そいつが、ガンダタだ」

ジャン「(あれ? これどっかで……あぁっ⁉︎ 山で出会った山賊じゃねっ⁉︎ こっちに合流してたの⁉︎)」
473 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/03(土) 22:42:50.34 ID:sz2fZswmO
【宿屋前 表通り】

ガンダタ「ぬっ、ぐっ」ヒョコヒョコ

少年「ずっと足ひきずって歩いてるけど」

ガンダタ「(矢を受けた足の痛みがおさまらねぇ、毒でも塗ってやがったな……!)」ヒョコヒョコ

少年「お、おじちゃん……」

ガンダタ「うるせぇよ、小便小僧。お前はもうすぐ解放されるんだから喜んでろ」

魔法使い「――たまには外食もオツなものよねー!」スタスタ

僧侶「そのわりにはぁ、あまりハシが進んでませんでしたけどぉ」

魔法使い「だって暑いか辛いしかないんだもんっ!! 気分だけでも味わいたくて言ったただけ!」

戦士「あたしは美味かったけどなぁ」

魔法使い「あんたは食えればなんでもいいんでしょうが!」

ガンダタ「(うるせぇ女どもだ。さっさと通りすぎやがれ)」

僧侶「武闘家さんもくればよかったんですけどねぇ〜」

戦士「ほっとけ! あんなひねくれ者!」

魔法使い「宿屋のご飯食べるっていたし、まぁいいんじゃない?」

ガンダタ「(いや、まてよ。こいつら、どこかで……?)」

魔法使い「寝苦しくないといいな〜」スタスタ

ガンダタ「思い出した……! おめぇらっ! 若僧のツレで寝てたやつ!!」

魔法使い「へ?」ピタッ

ガンダタ「あいつはっ、どこだぁっ!!」ブンッ

少年「わ、わぁっ、またぁっ⁉︎」


――バチィンッ――


魔法使い「あ? へ……?」ヘナヘナ ペタン

戦士「大丈夫か? 魔法使い」ザッ

ガンダタ「(こいつ……俺様の正拳突きを止めやがった……!)」

戦士「いい突き出しだ。ちょっと反応遅れたらウチの魔法職さんに当たってたろう。でも、残念ながらもっと凄いやつの正拳突きをあたしは知ってる」

僧侶「武闘家さんのことですねぇ〜」

戦士「余計な解説いれんでいい!」
474 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/03(土) 22:55:45.34 ID:sz2fZswmO
ガンダタ「なんだァ? てめぇは」グリッ

戦士「むっ⁉︎」シュタッ

魔法使い「せ、戦士ッ! 平気⁉︎」

戦士「(さらに拳に力が入っていたな、思わず距離をとったが)……問題ない」スラァ チャキッ

ガンダタ「小便小僧。少し離れてろ」

少年「あ、あわわっ」トテトテ

僧侶「補助魔法、おかけしますかぁ?」

戦士「いや、必要ないだろう」

魔法使い「ほ、ほんと? 油断してて負けるとかやめてよ?」

ガンダタ「……おい、ねぇちゃんよ。俺は血を見てちィとばかし、気性が荒くなってる。おめぇらの中に若僧がいたろ。あいつはどこだ?」

僧侶「勇者さまを訪ねる方が多いですねぇ。さすが有名人でしょぉかぁ〜」

魔法使い「い、嫌な来訪者だけど」

戦士「……あいにくとあんたの探してるやつはいない。今はね」

ガンダタ「ウソついてちゃなんにもなんねぇぞ」ヒョコヒョコ

戦士「……? 足、怪我してるのか? そんな状況であたしと――」

ガンダタ「だったら、なんだってぇんだっ⁉︎」バッ

戦士「――っ⁉︎ 砂っ⁉︎ い、いつのまにっ、くっ」

ガンダタ「正攻法だけでくると思うなよネェちゃんっ!」ブンッ

戦士「目に、砂がっ」ガクッ

魔法使い「……っ! メラミッ!!」ボフゥ

ガンダタ「なにっ」バァンッ

魔法使い「あんたこそっ! この大魔法使いである私の存在を忘れちゃいないでしょうね!」スチャ

僧侶「なんだかぁ、不意討ちのようなぁ〜」

魔法使い「し、しかたないでしょ! 戦士が危なかったんだから!」

ガンダタ「……魔力が練りこまれてねぇじゃねぇか。中級魔法(メラミ)の名が廃れるぜ」モクモク

魔法使い「言ったわね……! 時間なかっただけだもん! 咄嗟だからだもん!」キィィィン

ガンダタ「させるかよっ! 俺の斧でもくらっとけ!」ブンッ

魔法使い「え? ちよ、ちょっと、ま、まずっ⁉︎」アタフタ
475 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/03(土) 23:13:38.11 ID:sz2fZswmO
武闘家「あちょぉ〜〜〜っ!!」キンッ

ガンダタ「……っ⁉︎ なんだぁおめェ」

武闘家「今度は誰かと思えばアンタ達か。まったく、戦士。なんてザマなのさ」タンッ

戦士「くそっ」ゴシゴシ

魔法使い「た、助かった。あ、ありがとう、武闘家」

武闘家「……」キッ

ガンダタ「そーかい。おめェも仲間ってわけかい。女ばかりがゾロゾロと」

武闘家「女だと思って甘くみるんじゃないさ。……痛い目みるよ」スッ

ガンダタ「うるせぇよ。見たところ前衛職二人に、後衛職二人か……」

僧侶「あのぉ、争いはやめたほうがぁ」

魔法使い「女神様は休暇中で見ないことにしてくれるってさ!」

ガンダタ「俺も満身創痍な状態でこれはきついか。これを使うのは気が進まねぇが」

僧侶「……?」

ガンダタ「おい、お前ら。おれが喋る最後のチャンスだ。あの若僧はどこだ」

戦士「だから言ったろう! いないと!」

武闘家「また訪ねてきてるのか?」

僧侶「みたいですねぇ」

ガンダタ「そうかい……へ、へへっ、せっかく、最後の機会を与えたってのによ……」シュゥゥゥ

戦士「なんだ……? 身体から、煙が」

魔法使い「気のせい? 真っ赤になってきてない?」

武闘家「……こ、これはっ⁉︎」

ガンダタ「うっ、うぅっ! うぅっ、ヴゥうぅっ」シュゥゥゥ

戦士「唸ってるが」

魔法使い「唸ってるわね」

武闘家「僧侶! スクルトを! はやく戦士とアタイに! 戦士! 本気を出せッ!!」

僧侶「は、はいぃ〜」ポワァ

戦士「なんだ? いったい……?」


武闘家「こいつは……ッ!! バーサーカー(狂戦士)だッ!!」


戦士「バーサーカー?」

ガンダタ「う、ヴぅ」ピタ

武闘家「――来るぞっ!!」
476 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/03(土) 23:43:01.51 ID:sz2fZswmO
ガンダタ「ウガァッッ!!!」ダンッ

戦士「むっ! あたしに来るか!!」チャキッ

ガンダタ「がァッ」ブンッ

武闘家「避けろ! うけようとするなっ!!」

戦士「なっ、なんだこの力、づよさっ、きゃあぁぁぁっ!」ドーーーンッ

魔法使い「え……戦士が……女の子の悲鳴あげながら、吹っ飛んでった……」

武闘家「だから言ったじゃないさ!」

僧侶「ピオリム〜」ピュイ

武闘家「ナイスだ僧侶! はぁぁぁぁっ!! 哈ぁっ!!」ドゴンッ

ガンダタ「ヴゥッ?」ギロ

武闘家「ビクともしないか……っ! アタイの拳を舐めるんじゃないよ!! あちゃぁ! ほぉあたぁっ!!」ドゴォ バキィッ

ガンダタ「……」

武闘家「一撃必殺ッ!! 正拳突きぃぃっ!!」ドゴーーンッ

ガンダタ「うっ……っ!」ヨロ

武闘家「どうだ!」

ガンダタ「……」ギロッ

武闘家「ば、ばかなっ!? アタイの正拳突きがっ!? き、筋肉に阻まれてる……!?」

僧侶「戦士さんを回復してきますぅ」タタタッ

魔法使い「えーと、えーと、えーと、えーと、私は魔力を練らなきゃ」キィィィン

ガンダタ「ヴゥッ!!」ブンッ ブンッ

武闘家「うっ、くっ」ヒョイ ヒョイ

魔法使い「(ひ、ひぃ〜ん。ど、どどどうしよぅ。メンバーには黙ってたけどメラミ以上の魔法使えないのにぃぃ〜〜)」

僧侶「ベホイミ」ポワァ

戦士「うっ、うぅっ」

僧侶「じっとしててください」

戦士「う、受けた、剣が、折れた。ぶ、ぶとうかぁっ、そいつの攻撃は、うけちゃだめだ……」プルプル

武闘家「アタイが最初に言ったろ⁉︎」クルッ

魔法使い「あっ! よそ見っ!」

ガンダタ「ウガァッ!」ブンッ

武闘家「しまっ――」グッ
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 02:49:05.03 ID:LUoP8PDu0
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 07:16:58.81 ID:JyCFzePqo
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 08:30:06.71 ID:0n55qv9no
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 09:48:50.56 ID:idCM/mpeO
481 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 12:44:09.78 ID:BK8AK1TlO
【数分後】

武闘家「……うぐっ」ガラガラ

戦士「どうなってるんだ! いくらダメージを与えてもおかましなしじゃないか!」キィンッ ギュインッ

ガンダタ「ウガァッ!!」ブンッ ブンッ

魔法使い「ぜんぜん効いてないじゃないのよぉ〜っ!
メラミッ!」ボヒュウ

武闘家「うっ、足が……」ズキンッ

僧侶「今治しますよぉ〜」ポワァ

戦士「武闘家っ!」ズザザッ

魔法使い「ちょっとぉ〜! なによアレはぁ!」タタタッ

武闘家「……コロシアムにいた時に聞いたことがある。何代か前に、バーサーカーと呼ばれるチャンピオンがいたと」

戦士「……」ジトォ〜

武闘家「なにさ、その目は。“もっとはやく教えろ”。そう思ってるな? ……しかたないだろ。バーサク化する特徴で気がついたんだからさ」

魔法使い「それじゃあ、あの化け物もマッスルタウンの元チャンピオンっ⁉︎」

武闘家「同一人物かは知らない。……戦士、今から言うことを良く聞け」

戦士「なんだ?」

ガンダタ「ウゥ……」ノシノシ

武闘家「バーサーカーはアドレナリンを分泌させて筋強アップや痛覚を麻痺させてる。でも、ダメージが蓄積されてないわけじゃない」

戦士「そうは見えないが……」

武闘家「されてるんだよ。アレはいってみれば“究極のやせ我慢”状態なのさ。状態解除されれば、本人もただでは済まない。恐ろしいほどのペイン(痛み)が肢体を駆け巡る」

戦士「状態解除といってもなぁ、止まる方法はなんなんだ?」

武闘家「一度あのモードにはいったら、目的を達成するまで止まらない。我慢を上回るダメージを積むしかない……!」ムクッ

僧侶「あぁ〜まだ途中ですよぉ〜」ポワァ

戦士「一発でも受ければ致命打だ。先にどでかいのもらうか、手数をぶちこむかの戦いってことだね?」

武闘家「その通り……!」

魔法使い「じゃ、じゃあ! 私も魔力が尽きるまで魔法を撃ちまくって当てまくればいいのね!」

戦士「僧侶。回復は最小限にして補助魔法を頼む」

僧侶「……はい〜。スクルトォ〜、ピオリム〜」ポワァ

武闘家「まさか、いきなりで苦戦を強いられるとは……世の中ってのは、ホントにわけがわからない」

ガンダタ「うがぁぁぁぁあっ!!」ズンズン

戦士「さっきまでは人間と思えてたんだが、あれじゃモンスターだな」

武闘家「……すぅーっ……はぁ〜……総力戦だっ!!」クワッ

僧侶「作戦名はぁ〜“ガンガンいこうぜ”。と、いったところでしょうかぁ」
482 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 13:42:43.92 ID:BK8AK1TlO
【クイーンズベル 郊外】

ジャン「はぁ〜、なにやらこんがらがってきたな〜」パッパカ パッパカ

衛兵「……」

ジャン「どしたんだ? さっきから黙りこくっちゃって」

衛兵「魔族と裏で繋がってるなんて聞いて平気でいられるのがおかしいんですよ」

ジャン「悪そなやつはだいたい友達でいいんじゃないの。最高峰の魔族とツルんでるんだから、誇れば?」

衛兵「に、人間じゃないんだぞ⁉︎ お、おっかねぇ」ブルッ

ジャン「よくわからんなぁ〜。人間だからだとか魔族だからとか。やってる非道さは似たようなもんだろ」

衛兵「あいつらは人を食う!」

ジャン「……人間は人間を食わないけどさ、普通は」

衛兵「エサとしか見てねえだろ! お、俺らはそこまではしちゃいねぇ」

ジャン「お前なぁ、一般人から見たらどっちもタチ悪いんだが? ビビりめ」

衛兵「そんなんじゃねぇよ、俺はただ」

ジャン「衛兵が弱者を襲ったりする時だけ強気な典型的クソ野郎だとはわかったよ」

衛兵「な、なんとでもいえっ!」

ジャン「ガンダタは城に向かったのは確かなのか?」

衛兵「血の跡がまっすぐ続いてる。盗賊団との取り引き材料に使うよりも、謝礼を貰う方を選んだみたいだな」

ジャン「(このままほっとけば弟くんはメイドの元に帰る、が――)」

衛兵「お頭は人質の奪還をお望みだ。そうしないと、入団も認めてくれねぇぞ」

ジャン「(そこなんだよなぁ。魔族と井戸の原因がまだ判明してない……とりあえず、弟くんの無事を確認したら今わかってる情報だけ王様にながすか……?)」

衛兵「こういう取り引きはよくすんのか?」

ジャン「ん? いや、しないよ」

衛兵「それにしちゃ、慣れてるように感じたが。おカシラにもすぐ気にいられてたし」

ジャン「気に入ったんじゃなくて値踏みしてんの」

衛兵「……値踏み、ねぇ」

ジャン「気に入ったそぶりを見せてたのはハーケマルの使者だから。こいつは使えるとわかってはじめて“気にいる”のスタートラインに立てる」

衛兵「なるほど……」

ジャン「我輩のコミュ力におそれいったかね? なっはっはっw」

衛兵「もうすぐクイーンズベルだ。ジャン殿、まずは宿屋にいきやしょう」

ジャン「あっ! お前スルーしやがったな⁉︎ さみしいじゃないか!」

衛兵「めんどくさいんすよあんたの絡み!」

▼勇者は心に198758のダメージを受けた!

ジャン「き、傷ついた。会心の一撃をお見舞いするとはやるやないか……!」

衛兵「打たれ弱いな!」

ジャン「なんだよぉ、もっとかまってくれよぉ」

衛兵「さらにめんどくせぇ! ……城門は閉まってます! なんで! 宿屋です! 宿屋からいきやしょう!」

ジャン「はいはい」

衛兵「はぁっ」バシィッ

馬「ヒヒーンッ」
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 15:18:39.60 ID:LUoP8PDu0
484 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 20:08:21.87 ID:S3D9Cw+YO
【クィーンズベル城 姫の部屋】

メイド「……はぁっ……はぁっ、お、お嬢様」ガチャ

姫「わたくしの専属メイド様じゃございませんの。いいご身分ですわね、仕事を放棄していったいどこを……」ポト

メイド「……息を、乱してしまい、失礼いたしました……」

姫「貴女……そのマントは? そんなにメイド服を汚して、なにがあったんですの?」

メイド「姫さま、教えてくださいまし。ハーケマルの使者の正体について」

姫「まずは着替えて――」

メイド「お願いします、姫さま! わたし、とんでもない勘違いをしていたんじゃないかと……盗賊団の仲間かと思ってて、気が気じゃないんです……」ポロポロ

姫「盗賊団……?」

メイド「……もしや、もしや、あの方は、勇者さま……なのでは?」

姫「……そうですわよ」

メイド「や、やはり……そんな、どうして」ペタリ

姫「勇者も見かけなくなりましたけど、なにがあったの……盗賊団と間違えてたってなに?」

メイド「あ、謝らなければ。で、でも、盗賊団と一緒にどこへ」

姫「落ち着いて。順を追って説明なさい」

メイド「いえ、姫さまを巻き込むわけには……」

姫「余計な心配です。貴女はわたくしの従者なんですよ。主人に秘密を持つとはなんたることですか。裏切り行為です」ギロッ

メイド「す、すみません」シュン

姫「それとも、話せないほどわたくしは頼りない?」

メイド「いえ! そんな!」ブンブン

姫「ならば、申してみよ。一国の姫として命ずる」

メイド「……っ!」ギュゥ

姫「……」ジー

メイド「ふぅ〜、わかりました、姫さま。告白せねばならぬことがございます」

姫「……申せ」

メイド「実は……弟が、盗賊団を名乗る者に拐われ拉致されました……」

姫「なんですって? 城外にメイドの母と二人で暮らしているという。たまに遊びにきてたわよね」

メイド「ご存知の通り、私の母は、飲んだくれの父に先立たれてから床に伏せております。どうしようもない父でしたが、母には、心の拠り所だったようで」

姫「ええ」

メイド「給金が酒代に消えていたのはお嬢様も薄々感づいておられたのでしょう?」

姫「……」コクリ

メイド「父が不摂生な生活がたたり亡くなってからは、幼い弟が母の身の回りの面倒を見ていたのです」

姫「それもわかっておりました」

メイド「ちょうど二週間ほど前のことでした。城で従事している衛兵に呼び止められ、“弟を拉致した”……そう告げられたのは」

姫「衛兵が……?」

メイド「はい。私にとっては、晴天の霹靂(せいてんのへきれき)でした。父と母を忌み嫌っている私は、弟しか、家族と呼べる者がいないのですっ」ポロ

姫「それで……?」

メイド「うっ、ぐすっ、そ、それから、私は、あろうことか、お城の内部情報をっ、盗賊に流すようになりましたっ」

姫「……」
485 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 20:30:46.42 ID:S3D9Cw+YO
メイド「幼き日、姫さまの従者として取り立てていだいた恩を感じながらもっ、私はっ、弟を失いたくないっ、それしか考えられずっ」

姫「盗賊団の狙いは? 身代金の要求じゃなく情報なんですの?」

メイド「ひっ、姫さまの、ぐすっ、縁談に合わせて、宝物庫に忍びこむらしいです」ポロポロ

姫「……そう。それで、勇者をなぜ盗賊団の関係者と?」

メイド「そ、それはっ、私が早合点してしまい、姫さまがハーケマルの使者じゃないといったときに、盗賊団の者が接触していたのかと」

姫「ここまでは理解しました。先ほど、謝らなければと言っていたわね? 勘違いが解け勇者とわかったきっかけはなに?」

メイド「私は、勇者さまが盗賊団の者だと勘違いしていた折に、姫さまが危険だと感じて、焦っていました」

姫「だから、出かけていたのね?」

メイド「はい。かねてより要求されていた物を手にして」

姫「要求されていたもの? それはなに?」

メイド「城の見取り図でございます」

姫「……っ⁉︎」ガタッ

メイド「弟を無事返していただいたら、王に全てを告白し、自害するつもりでおりました」

姫「自害で済むと思うっ⁉︎」バンッ

メイド「申し訳、ございません」ペコ

姫「でも、相手が勇者だと気がついたのなら見取り図を持ち帰ってきたのですよね? そうでしょ?」

メイド「いえ。それが……待ち合わせ場所である酒場に到着すると、なぜか、衛兵と勇者さまが一緒に卓を囲んでおられたのです」

姫「なんですって……?」

メイド「私はハーケマルの使者が、盗賊団の一味だったという確信を持ちました。そして、衛兵に個室に連れていかれ、二人きりの状況で見取り図を渡したのです」

姫「勇者が、なぜ……そ、それからっ⁉︎ どうなったんですのっ⁉︎」

メイド「……はやく弟の無事を確かめたかった私は、衛兵に詰め寄りました。懐に隠していた短刀を突きつけて」

姫「……」

メイド「でも、こわくてこわくて仕方なかった私は、身体中が震えてしまって……衛兵に気がつかれた後はは、たやすく武器を奪われ、襲われかけました」

姫「だから、そんな格好してるんですのね」

メイド「逃げようと必死になった時でした。個室の扉の前から勇者さまの声が聞こえてきて」

姫「……」

メイド「覚えているのはここまでです。どうやら、扉を無理やり開けてきたらしく、その際に私は気絶してしまい」

姫「目が覚めたら、どこにいたんですの?」

メイド「酒場の椅子に横たわっていました。そこでバニーガールからこれと同じものを見せられて」スッ

姫「それは……勇者の……貴女、まだ後生大事にしてたの……」

メイド「ふふっ、なにをいうんですか。姫さまもオルゴールの箱に大切に隠しているではありませんか」

姫「しっ、知ってたんですのっ⁉︎」

メイド「これは、アデルの像をかたどったもの。勇者さまが生まれた日に作られた記念の銀細工」

姫「サインみたいに配りまくってましたけどね」

メイド「勇者だけが配ることを許された品でもあります。底に刻印が掘ってあるのを気がつかれてましたか?」
486 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 21:02:28.56 ID:S3D9Cw+YO
姫「ええ……」

メイド「これには、特殊な意味があるのです。姫さまに渡したものも、私に渡したものも。ただ、無闇に配っているわけではないのですよ」

姫「……わかってるんですの。ただ、あんまりにも渡しすぎるから。一時は袋に目一杯つめて歩いてましたもの」

メイド「あの時の勇者さまったら、ズルズル袋を引きずりながら」

姫「ふふっ……って! それでっ⁉︎ 見取り図はっ⁉︎」

メイド「申し訳ありません」ペコ

姫「勇者が持ってるんですのっ⁉︎」

メイド「なにぶん、気を失っておりまして」

姫「お父様に報告するにも、見取り図がなくては。貴女が……」

メイド「私のことはどうか、お気になさらないでくださいまし」

姫「き、気にするなですって……?」

メイド「罰を受ける。その覚悟で持ち出したのです。私は、最初から王と姫さまに打ち明け、弟をお頼みするべきだった」

姫「あ、貴女ねぇっ!」ブンッ

メイド「……」

姫「いい加減にしなさいよっ!!」バチィンッ

メイド「……っ、お怒りはごもっともでっ」

姫「痛いでしょう⁉︎ 頬を叩かれて痛くないわけないんですの⁉︎」

メイド「……」

姫「でもっ! 叩いた私の手だって痛いっ!! なぜ叩くと思う⁉︎ 楽しいからじゃあませんのよっ⁉︎」

メイド「も、もうしわけっ、ぐすっ、うっ」ポロポロ

姫「貴女が私の友だからでしょう!」ビシッ

メイド「ひぐっ、ぐすっ」

姫「……お父様には、まだ伏せておきます」

メイド「ひ、姫さまぁ、それでは、見つかった時に、姫さままで罪にぃっ」

姫「黙りなさい!! 勇者……勇者はどこほっつき歩いてんるんですの……!」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 21:38:18.69 ID:LMpz7L8A0
全部が主人公に集約するように書いてるのか
これはうまいな
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 21:52:39.38 ID:mVRfNrTHO
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 22:23:34.51 ID:LUoP8PDu0
490 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 23:26:05.63 ID:PSV4AvuAO
【再び 宿屋前 表通り】

戦士「予備の剣まで折られるなんて……」カランカラン

ガンダタ「ヴぉおおおおぉっ!!」ブンッ

武闘家「諦めるなっ! 心が折れなければっ……ぐぁっ」ドゴォーーン

魔法使い「武闘家ぁっ! め、メラ……魔力が……力が、抜けてく」ガクッ

僧侶「私も精神力がぁ〜」ガクッ

戦士「こいつの、やせ我慢が勝ったか」

武闘家「まっ、まだまだぁっ!」ガラガラ

戦士「もう、いいよ」

武闘家「……戦士、アンタ、なに言って……」ズル ズル

戦士「世の中は広い。武闘家に負けて、こんないきなり出会ったやつにまで。つくづくあたしは、弱い」

魔法使い「戦士……」

戦士「なにが、自分の力を試したい、だっ。あたしが勝てないやつばかりがゴロゴロいるじゃないか」ポロ

ガンダタ「ウゥ」ノシノシ

武闘家「泣き言はいい、まだ戦えるだろ。折れた剣をとれ」ヒョコ ヒョコ

戦士「お前も! もう足がまともに動かないんだろ⁉︎ 勝てない! 勝てないんだよ! だったら、もう……いいじゃないか……」

武闘家「ふぬけがぁ……っ!!」

戦士「強くなりたかった。強くなりたいってことは、自分が弱いと思ってるってことだ。そうだ、あたしは、弱いんだ」

武闘家「それで納得するのかっ⁉︎ “とことん”までやってないだろ⁉︎」

戦士「立て続けに負けたことのないあんたにはわからないのよ! 自分の強さが、信じていたものを立て直せなくなる!」

武闘家「武は、いつだって己との戦いだ! 背を向けているものに微笑みかけはしない! それでも! 諦めないものに、勝利をもって微笑んでくれる!」

ガンダタ「うおおぉっ」ズシン ズシン

魔法使い「熱く語りあってるとこ悪いんだけど、待ってくれないみたいよ……」

武闘家「お前はそこで見てろ!! 戦いとはなにか!」

戦士「……」

僧侶「す、スクルトぉ〜!」ポワァ

武闘家「戦いとは――意地のぶつけ合いだッ!!」シュタッ

ガンダタ「ウガァッ!!」ブンッ

武闘家「くっ」ササッ スッ

ガンダタ「……ウゥッ」ヨロッ

武闘家「(やつも相当なダメージが蓄積されてる。もう少し、もう少しなんだ……!)ハイィィィィヤァッ!!」ドゴォ

ガンダタ「……っ」ヨロヨロ

魔法使い「き、効いてる? ねぇっ! あれって、効いてるんじゃない⁉︎」

戦士「……」ジー

僧侶「私たちも殴りにいきますかぁ〜?」

魔法使い「え……? あ、あの中に?」タラ〜

武闘家「あちょぉ〜! ちょぁっ!!」バキィ

ガンダタ「うがぁっ!!」ブンッ
491 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 23:27:13.33 ID:PSV4AvuAO
戦士「無駄だよ。じきに、武闘家は捕まる」

魔法使い「戦士っ! どうしちゃったのよ!」

戦士「勝てないんだ、あれじゃ」

僧侶「押しているように見えますが〜」

戦士「武闘家の攻撃は、疾く、拳の質もいい。的確に急所を狙ってくる。でも――」

ガンダタ「ヌガァァッ!」ブンッ ドゴォ

武闘家「がっ! かはっ」ドサッ

戦士「足をやられ、翼をもがれた武闘家は、こわくない」

僧侶「やっぱりぃ〜、武闘家さんも痛みを我慢してたんですねぇ」

ガンダタ「ウゥゥゥ」ガシッ

武闘家「……ぐっ⁉︎」

戦士「ほら見ろ。言ったそばから捕まった。ああなったら、おしまいだ」

魔法使い「た、助けないとっ! め、メラ……あれ……鼻血が……」ツゥー

僧侶「魔力を使いすぎたんですよぉ」

魔法使い「え……? 魔力って使いすぎたら、鼻血でるの……」

僧侶「知らずに魔法使いをやってるんですかぁ? そのまま使えば血管切れて死んじゃいますよぉ」

魔法使い「ひっ……し、死ぬ……?」

僧侶「もっともぉ〜死ぬのは武闘家さんが先かもしれませんがぁ」

ガンダタ「わカぞうは……ドコだ……」ギリギリッ

武闘家「ぐぁぁぁっ」ミシミシッ

戦士「勇者か。なぜ探してるかは知らないが、勇者がきたところで――」
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 23:41:01.14 ID:L2+6iqCLO
実は僧侶も最強格の一人なんじゃないかと思ってたけど
べつにそんなことはなかったか
493 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 23:42:10.44 ID:PSV4AvuAO
【このちょっと前 宿屋 角】

衛兵「やけにうるせぇと思ったらストリートファイトしてる。それもすっげーハイレベルの」コソッ

ジャン「な、なにやっとんだ。あいつらは」

衛兵「ガンダタってあんなに強かったのか。お、おっかねぇ〜」ブルブルッ

ジャン「衛兵。使いパシリいってこい。ダッシュな」

衛兵「へ? どこに行くんですかい? ガンダタの首をとらねぇと」

ジャン「宿屋にヘンテコなマスクが置いてある。いや、俺の今つけてるやつじゃないよ。覆面レスラーみたいなやつな」

衛兵「は、はぁ」

ジャン「それ探してこい。とにかく急げ。俺はちょっくら時間稼いどくから」

衛兵「部屋番号は何番ですかい?」

ジャン「わからん」

衛兵「わ、わからんって……」

ジャン「僧侶か武闘家か戦士か、はたまた魔法使いかで部屋とってるはずだ。その部屋に荷物があるから。他のやつの荷物には触るなよ。俺のにはゼッケン貼り付けてある。母さんお手製の」

衛兵「へ、へい」

ジャン「くれぐれも。かわいい子だからって下着ドロなんかすんなよ」

衛兵「し、しませんて! 俺は生身にしか興味ないんで!」

ジャン「余計な情報はいらん。わかったら行け」スポッ

衛兵「わかりました」タタタッ

勇者「……ふぅ、しかたねぇなぁっ! ったくもぉっ!」タタタッ
494 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 00:05:58.71 ID:3/mAan4kO
勇者「――ちょぉっとまったぁっ!!」ズザザッ

僧侶「あ、あれは……」

ガンダタ「……」ピクッ

武闘家「あ……う……っ」ドサッ

戦士「勇者……」

魔法使い「バカ勇者! 今までどこいってたのよ!」

勇者「酒場でパフパフしてもらってた」キッパリ

魔法使い「こ……っ、このっ、ボンクラ……っ!」

勇者「久しぶりじゃないか。おっちゃん。山で会って以来だな? 元気してた?」

ガンダタ「てメぇ……」

勇者「おやぁ? 前はもっとハキハキ喋ってたと思うけど、どうしたの? ダメージくらいすぎた?」

武闘家「ゆぅ、しゃぁっ! こいつは、バーサーカーだ!」

勇者「それってなぁに?」

僧侶「やせ我慢男みたいですぅ〜」

勇者「なるほど。わからん」

魔法使い「とにかく! あともうちょっとみたいなんだから! ピンピンしてるあんたがやりなさいよ!」

戦士「無理だ。勇者、逃げろ」

魔法使い「戦士っ⁉︎」

戦士「勇者の剣さばきじゃ、すぐに終わる」

勇者「(戦士ったらすっかり自信なくしてやがんの。うけるw ……まぁ、サキュバスの時は精神攻撃だったから仕方ないとはいえ、こうも立て続けに負けてちゃなぁ)」

武闘家「戦士……っ、安心しろ、この勝負、アタイたちの、勝ちだ」ムクッ

戦士「勇者じゃ勝てない」

武闘家「勝てる」

戦士「なぜ……? そうか、武闘家は、知らないんだったな」

武闘家「知らないのは、気がついてないのはあんたさ」ズリズリ

勇者「薬草をすりつぶした塗り薬だ。僧侶」ポイッ

僧侶「はい〜」パシッ

勇者「仙豆とまではいかないが、そいつを傷口に塗ってやれ」

ガンダタ「こ、コゾぉっぉおおおおっ!! おまえのせイでぇぇ」

勇者「カカロットォってか。いやはや、中途半端なことして悪かったな。おっちゃん」

ガンダタ「こ、コロしてやるッ!!」ズシン ズシン

勇者「……」チラッ

武闘家&戦士&魔法使い「……」ジー

勇者「(ばっちり見られてるねぇ。やっぱり、テキトーに時間稼ぐとするか)……スクルト、ピオリム」ポワァ

ガンダタ「ウガァァァッ!」ズンズンズン

武闘家「補助魔法……? 勇者、まさか……」

戦士「知らないのだろう。あれが、勇者の戦闘スタイルだ」

魔法使い「自身を強化する魔法剣士。一人でも戦える。だけど、なにかが突出してるわけじゃない器用貧乏」

武闘家「勇者ぁっ!! 本気でやれっ!!」

ガンダタ「ウガァッ!」ブンッ

勇者「むっ」チャキ

戦士「ば、バカっ!! 受けようとするな!!」
495 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 00:36:30.16 ID:3/mAan4kO
ガンダタ「うぅぅぅっオオォォおおっ!!」

勇者「(おおっ、なかなかに重い……! こりゃ苦戦してるわけだ)」パキィッン

魔法使い「勇者の剣がっ!」

戦士「……終わった」

ガンダタ「ゥゥッ」ピタッ

勇者「……なぁ、おっちゃん。アデルに行かなかったのは自由だけど、なにも俺に会いにこなくたって」シュタッ

ガンダタ「オマエのせイで、オレはこうナッた」

勇者「自業自得な面もあると思うよぉ。いつまでも続けられるわけじゃないとわかってると思ってたけど」

ガンダタ「……」シュゥゥゥ

武闘家「……バーサーカー状態が、解けた……?」

ガンダタ「うっ、むぅ……」ガクッ

勇者「終わりか?」

ガンダタ「慌てるな。若いってのはせっかちでいけねぇな」ゴソゴソ

勇者「……?」

ガンダタ「お前が置いてったもの。こいつを返したくてよ」キラン

魔法使い「あれって……さっき、メイドが持ってたやつと同じ……?」

勇者「それは俺がおっちゃんにあげたもんだ。捨てるも自由、なにするも自由だ。俺が受けとらないのもね」

ガンダタ「勘違いすんな。これは、オマエの墓標に添えるもんだ」

少年「お、おじちゃん。終わったの?」ヒョコ

勇者「キミは……もしかして、メイドの弟くん?」

少年「えっ、な、なんでお兄ちゃんが、お姉ちゃんを?」

勇者「そうか……。なぁ、おっちゃん。悪いことは言わないからこのまま城に行け。そして、弟を助け出したと言うんだ」

ガンダタ「くっ、くっくっ」

勇者「金もらってどことなり消えりゃいいだろ。な?」

ガンダタ「そこだよォっ!! 俺が気にくわねぇのはぁーっ! なに上から目線で見てやがる!! オマエは! 誰に向かって言ってるんだ⁉︎ あ゛ぁッ⁉︎」ギロッ

勇者「……」

ガンダタ「オレはッ!! オレ様は認めねぇ!! お前みたいな世の中をなんも見てきてねぇでわかったようなツラしてるガキをッ!!」

勇者「現代っ子なもんで」

ガンダタ「ガキィッ!! だったら、オレが教えてやるよっ!!」シュゥゥゥ

魔法使い「そ、そんなっ……! またっ⁉︎ 武闘家、解除したら痛みが襲うんじゃなかったの⁉︎」

武闘家「意地があるんだ。その意地が、肉体と精神を凌駕している」

戦士「……」

武闘家「あいつも、戦ってる。胸がムカつくことに対して、認めないと」

戦士「勇者ぁっ! 剣の予備はもうない!」

勇者「そいつは、残念」タラ〜

ガンダタ「さァッ!! 覚悟ハいいカッ!!」クワッ
496 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 00:52:44.81 ID:3/mAan4kO
【宿屋 部屋】

衛兵「ちぇっ、俺をアゴでこきつかいやがって。なんだってんだよ」ギィ

――ドゴォーーンッ――

衛兵「え……」

勇者「バーサーカーって筋力までアップされてんのな」パンパン

衛兵「あ、あの……。表から、ここまで?」

勇者「吹っ飛ばされてきた。ここってもしかして、俺らの部屋?」

衛兵「す、素顔はそんなに若かったんすね。仮面したまんまだから」

勇者「え〜と、たしかこのへんにぃ〜と」ゴソゴソ

衛兵「隠れてていいっすか?」

勇者「おっ、あったあった。いいよ。ここなら安全だろうから」スポッ

衛兵「ちなみに、なんでマスクを?」

マク「いろいろとめんどーなことにならないため」

衛兵「は、はぁ」

マク「服の衣装がないけど、とりあえず、同じなままじゃバレちゃうから……たしかこっちに、寝巻きが」ゴソゴソ

衛兵「正体を隠しているので?」

マク「まーね。ヒーローはいつだってそんなもんだろ?」ヌギヌギ

ガンダタ「ワカゾォォォッ!! 降りてコイっ!!」

衛兵「およびが、かかってますが」

マク「人にはせっかちだとか言ってたくせに」タンタン

衛兵「……」

マク「なにも盗るなよ? 盗ったらボコすかんな?」

衛兵「ひゃい」

マク「んーと、となりの部屋から飛び出すか」タタタッ

衛兵「(ここまで吹っ飛ばされて、無傷って……どうなってんの……)」
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 01:54:10.42 ID:Dx56cLw6O
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 07:08:07.87 ID:kIEySeL9o
499 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 10:26:15.41 ID:fQ/B2oVuO
【再び表通り】

魔法使い「勇者、死んだんじゃ……?」

戦士「可能性としては、ありうる。もしくは戦闘不能になってるか」

武闘家「ないね」キッパリ

戦士「あれを見ろ。踏みこみで足跡がくっきりついてる。宿屋の三階まで吹っ飛ばされてるのが衝撃の強さの証拠だ」

僧侶「そろそろ出てくるんじゃないですかねぇ」

――バターンッ――

マク「……」シュタッ

魔法使い「あ、ああ、あ、あれはっ⁉︎」

戦士「マクさんっ⁉︎」

武闘家「(やっぱり……とことん隠したいみたいだね。勇者のやつ)」

僧侶「……くすっ」

ガンダタ「……?」

マク「……」クイクイ

魔法使い「見て見てえっ! 隣の部屋から出てきたわよぉ! マク様が泊まってたなんてぇ〜っ!! 颯爽と飛び出して……キャーーーッ! かっこいいっ!!」キラキラ

戦士「マクさんなら、あるいは……」

武闘家「こ、こいつらは……。アタイが全部ぶちまけてやろうかな」ボソッ

ガンダタ「ジャマするノなら容赦しねェッ!」ブシュウ

マク「(血が吹きだしてやがる。時間稼ぎのために長引かせて悪かったな。本当はとっくに限界こえてんだろ)」スッ

魔法使い「マクさまぁっ! がんばってぇ〜〜!」フリフリ

戦士「動きが、構えが洗礼されてる。勇者とは大違いだ」

武闘家「頭痛がする」

僧侶「くすくすっ、なんでもいいじゃありませんかぁ」

マク「(こっちの都合で本当にごめんな。一発でケリをつけるよ)」ビュッ

ガンダタ「ウォおおおっ!!」ブンッ

マク「(普通のパンチ!)」ズパァァァァンッ

魔法使い「戦士。み、見えた?」

戦士「見えない。いつのまに近づいて攻撃したんだ」

武闘家「(やはり、勇者は次元が違う。あそこまでの高みにはいったいどうすれば)」

ガンダタ「う……オォ……っ! な、なんだァ? テメぇ……」ヨロヨロ

マク「(俺の拳を耐えるとはたいしたもんだよ。人間の枠の中じゃおっちゃんは強い。でもな、俺は魔王に勝てる勇者。人間じゃ、勝てないんだ)」スッ

魔法使い「え……」

ガンダタ「ば、バカなぁっ! たった、一発でぇ」

戦士「限界間近だったのか……?」

武闘家「とっくに限界を迎えて、認めたくないという意地で保ってた。健気に歯をくいしばって耐えてた根性を上回る一撃だったのさ」

戦士「ど、どんだけ強いんだ……」ゴクリ

ガンダタ「」ズゥゥン

マク「(いかん、おっちゃんが死ぬかもしれん。ベホマ)」ポワァ
500 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 10:53:01.39 ID:fQ/B2oVuO
魔法使い「あれって回復魔法っ? 武闘家! モンクって魔法使えるの?」

武闘家「ん? ん〜、えーと、き、聞いたことがあったよーな。体内で練りこんだチャクラを分け与えると」

僧侶「ブフッ……だめっ、こらなきゃっ」プルプル

魔法使い「しゅごい。あんだけ強くて、回復まで。完璧な人ね」

魔法使い「求婚されたら、オーケーしちゃうかも。ケーオーされちゃうかも……いやぁ〜ん」クネクネ

戦士「惚れ惚れする強さだ。あたしの師匠よりも、強い。勝てる人間がいるのかとさえ思う」

ガンダタ「う……」ピクッ

マク「(全快させても面倒だからな。これぐらいでいいか)」チラッ

魔法使い「あっ、だめっ。目が合っちゃった。妊娠しちゃいそう。むしろ子供ほしい……」ジュル

僧侶「ぶーっ、くっくっ、よだれでてますよぉっ」プルプル

マク「(ウチのメンツも満身創痍って感じだな。回復してやるか)」テクテク

戦士「あっ、あの……?」サッ

マク「(ベホマ)」ポワァ

戦士「治して、くれるのか。あ、の。あ、ありがとぅ」

マク「(ゆでダコみたいになっちゃってまぁ)」ポワァ

魔法使い「うらやましい……わ、私も怪我してれば……折れた剣、折れた剣はどこ」カサカサ

武闘家「傷つけるなら戦えよ!」

魔法使い「女の戦いよ! 武闘家にはわからないんでしょーけどね!」クワッ

戦士「(凄まじい治癒力だ。それに光が、暖かい)」ぽーっ

魔法使い「見なさいよ! あの戦士の表情! 軽くイッてんじゃないの⁉︎」

戦士「……ばっ、バカなこというなぁっ!!」ボッ

マク「(マジでうるせぇ。これぐらいでいいだろ。次)」テクテク

武闘家「アタイは、いい」プイ

マク「足、見せてみろ」ボソッ

魔法使い「あーーーっ! 武闘家だってなに黙ってやらせてんのよ!」

武闘家「うるさいなっ!」

マク「(無理したなこりゃ。ベホマ)」ポワァ

武闘家「なんで、そんなに隠すのさ」ボソ

マク「……」ポワァ

武闘家「ちゃんとしてれば、アンタだって、それなりに……」

マク「黙っててくれてるのは、感謝する」ボソ

武闘家「……別に、いいケド」

魔法使い「ね、ねぇっ⁉︎ 小声で喋ってない⁉︎ マク様喋っていいの⁉︎」

マク「(目ざとい)」

武闘家「なんでそういうとこばっかり気づいて別のことは気がつけないんだよ!」

僧侶「イメージの固定化でしょおねぇ〜。この人はこう、そう思ってるからわからないんですよぉ〜」

マク「(よし、これなら歩けるはずだ)」スッ

武闘家「マク。あとのことはアタイたちにまかせてアンタは行きな」

魔法使い「ちょっと武闘家! マク様を気やすく呼び捨てッ⁉︎」

戦士「武闘家は、マクさんと兄弟弟子なのか? あの、あたしにも紹介を……」モジモジ

武闘家「きっしょくわるいんだよ! アンタたち!」

魔法使い「独り占めしてんじゃないわよ! そうやってほかの女を遠ざけてんでしょ⁉︎」

僧侶「わ、わたし、我慢するの、限界ですぅ〜、あはっ、あははっ」
501 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 11:17:21.39 ID:fQ/B2oVuO
【宿屋 部屋】

衛兵「ば、ばばばっ、バカなぁっ⁉︎ なんだあの強さは! 人間じゃねぇっ!」ガクガク

マク「お疲れちゃん」スポッ

衛兵「ひ、ひぃっ」ズザザッ

勇者「あー、壊れた窓から見てたのか。そんな距離とらんでも。俺を化け物だと思ってるんだろ」

衛兵「す、すいませんっ! もうご無礼はいいません! どうか、これまでのことはお許しをっ!」ドゲザ

勇者「……強すぎるってのはさ、なにも良いことばっかりじゃない。女にモテる。チヤホヤされる。それは、あくまで人間の枠の中での強さの話」テクテク

衛兵「……ひっ」

勇者「最初だけなんだ。みんな。次第に尊敬が畏怖にかわり、そして、怯えていく。魔族がいるから緩和されてるけどね」

衛兵「……」ガタガタ

勇者「ちょっとでも鍛錬したことあるやつなら余計に俺がこわいだろ。忌々しいったらない」ヌギヌギ

衛兵「ひゃ、ひゃい」

勇者「衛兵はアジトに戻ってお頭に報告しろ。俺は後から行く」

衛兵「ガンダタは、まだ息があるようですが」

勇者「きっちり殺っとくよ。信じねえの?」

衛兵「信じます! ジャン殿ならいつでも殺せますよね!」

勇者「これ。ガンダタの血をたっぷり染み込んだ布持ってきたから。渡しとくように」
502 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 11:46:28.81 ID:fQ/B2oVuO
【アデル城 玉座】

大臣「また夜分遅くにこんなところで。歳も歳なんですからご自愛くださいといつも申しておりますにた

王様「ふぉっふぉっ。また、あの時の夢を見てしもうての。ワインを飲み気を紛らわせておったところじゃ」

大臣「もうお忘れなさい。あれは、あの“事件”は仕方ないことだったのです」

王様「悔やんでも悔やみきれなんだ。あれから……勇者は、両親に、ワシに……いや、人間に対する目つきが変わってしまった」

大臣「普段おちゃらけてますのは、その反動でしょうな」

王様「理解者は少ないがおる。アイーダの酒場の店主、城内の兵士達の一部。だが、ワシも含めて、目の奥に宿った恐怖は、ぬぐいされるものではない」

大臣「……」

王様「恥ずべきことよ。王が、たった一人の民に恐怖し持て余すとは。勇者とはなにか? そう聞かれた時になんと答える?」

大臣「人類の代表であり、女神の代弁者です」

王様「違う、違うのだ。勇者とは“孤高”であり“孤独”である。てっぺんのいただきに立つ瀬に見る景色は、そこに立たなければわからぬ」

大臣「陛下のような……?」

王様「王とはいうなれば、民達の親である。ワシもワシで孤独を感じることに否定はしない。勇者の抱えるものは、それよりもっと、異質なのだ」

大臣「人は、誰しもが心に孤独を感じて生きております。繊細であればあるほど過敏になりましょうが」

王様「だからじゃよ。あの子に対して普通の子と同じように接するべきじゃった。勇者として利用するのではなく」

大臣「……」

王様「(ワシは信じる。おぬしの帰るべき場所を用意して待っておるぞ。勇者よ)」
503 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 12:18:54.25 ID:fQ/B2oVuO
【宿屋 表通り】

勇者「ぬぁぁっ、い、いてぇ」ノロノロ

魔法使い「チッ、使えない勇者が今頃ノコノコと」

勇者「あれ? 終わってたの?」

戦士「マクさんがやってくれた。感謝しなければな」

魔法使い「こっち見ないでよ! ぱふぱふなんかしてくるよーな男!」

勇者「生理現象だろーが! ずっと欲情すんなってのか⁉︎ 自慰マスターに俺はなる!」

魔法使い「……部屋の中でやったら、殺すわよ……」

僧侶「勇者さまぁ、この子はどうされますぅ?」

少年「……あ、う、お、おうち、帰りたいです」

勇者「その子は……戻すは戻すけど、なぁ、弟くん。そこのおっちゃんどう思う?」

少年「こわい……」

勇者「そうだろうな。こわいだけかい?」

少年「……こわいよ……うっ、ぐすっ」ギュゥ

勇者「……そっか。なら、お前らの中の誰でもいい。城に連れていってメイドを訪ねてやれ」

武闘家「メイド……? さっき訪ねてきて勇者を探してたさ」

勇者「な、なにぃ……?」ヒクヒク

僧侶「お知りあいさんですかぁ?」

勇者「(メイドにもバレてると考えるのが妥当か)……小さい時に少しね。それと、見取り図は俺が預かってると伝えといてくれ」

僧侶「かしこまりましたぁ」

勇者「明日の朝一番で頼む」

僧侶「今夜はぁ、お姉ちゃん達と一緒に寝ましょうねぇ〜」

少年「ほんと? 明日になれば、帰れる?」

僧侶「帰れますよぉ〜」ニコ
504 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 12:21:01.81 ID:fQ/B2oVuO
勇者「俺はしばらく別行動する。戦士」

戦士「なんだ?」

勇者「お前は弱くねぇ」

戦士「……っ、な、なんだ、突然」

勇者「要領が悪いんだ。頭がバカなのは仕方ないから、長所をもっと伸ばせ」

戦士「あんたに言われずとも!」

武闘家「戦士、黙って聞いておいたほうがいい」

戦士「武闘家……なぜ……?」

勇者「お前は防御が下手くそだ。自覚あんのか?」

戦士「うっ、それは武闘家にも言われた」

武闘家「アタイは防御もできるようになれと言ったさ」

勇者「不得意の分野を伸ばしても人並みにしかなりゃしねぇよ。お前にはタフさがあんだろ? だったらもっと鍛えて、鍛えまくって“仁王立ち”できるまで極めてみろ」

戦士「……」

勇者「武闘家、お前もだ」

武闘家「……」スッ

勇者「お前自身にゃ力はない。踏み込みの鋭さとしなやかさで慣性の法則を生み出してる。その点についちゃ俺もいい線いってると思う」

武闘家「だけど……それも、最近壁が」

勇者「はやければいいってもんじゃない。壁が見えだしてんなら、考え方を変えろ。お前の脚力はほかに使いようないのか?」

武闘家「脚力……足……」

勇者「あと、魔法使い」

魔法使い「んー? なに?」

勇者「もっと頑張りましょう」ポン

魔法使い「なにっ⁉︎ なんか私だけものすごい適当じゃないっ⁉︎」

勇者「僧侶は――」

僧侶「……はい〜?」

勇者「真面目にやれよ。俺が言うのもなんだけどさ」ポリポリ

僧侶「やるときはちゃんとやりますよぉ〜。私の第一は勇者さまなのでぇ〜」

勇者「さいですか。……よいせっと」ヒョイ

ガンダタ「」ドサッ

武闘家「そいつ、どうするのさ?」

勇者「俺が蒔いた種だ。後始末は俺がつけるよ」

魔法使い「ケッ。なぁ〜にかっこつけてんだか」

戦士「……う、む。だが、気をつけろよ」
505 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 13:16:30.55 ID:fQ/B2oVuO
【クィーンズベル 郊外】

ガンダタ「むう……」ムクッ

勇者「おはよう」

ガンダタ「んだぁ、おりゃあ、寝てたのか」

勇者「ヘンテコな覆面野郎に負けたっしょ。あれ、俺なんだけどね」

ガンダタ「……」

勇者「驚かないの?」

ガンダタ「どーでもいいんだよ。んなこた」

勇者「これから、どうする?」

ガンダタ「おめぇを殺りそこなったのはたしかだ。また殺りあうか」

勇者「それしかできないのならいいよ。けど……さぁ。強さってそこまで重要かなぁ?」

ガンダタ「あぁ?」

勇者「人生の先輩として教えてくれよ。わからねーんだよ、俺。魔物がいる世界で、人間が強さを追い求める理由があるのはわかる。強ければえらい、かっこいい、だからって、そうならなくても」

ガンダタ「……ふん」

勇者「強さなんてそいつの人間性になんの関係があるんだよ?」

ガンダタ「力だからだろ」

勇者「……」

ガンダタ「金、腕力、権力、地位、名誉。どれかひとつが突出してりゃ、それはチカラだ。いつの世も、チカラあるものが正義なんだよ」

勇者「善じゃなくてもか? チカラさえあれば――」

ガンダタ「力なき善に正義はない。良い志を抱えたとしても、実現できなけりゃ、無力だ。……わかるか? 無力って言葉の意味が」

勇者「……」

ガンダタ「無知、無力、能無し。“無”に共通することといやぁ、ただのゼロよ」

勇者「そうか、そうだな」

ガンダタ「おめぇはおめぇでこじらせてるみてぇだな、くっくっ」

勇者「……認めたく、ないんだ」

ガンダタ「なにをだ」

勇者「みんながっ、俺を勇者として、見る視線にっ! 化け物として扱う視線……擦り寄ろうとする視線……誰も、俺を見ちゃいない」

ガンダタ「だったらなんだってんだ? あァ?」

勇者「……」

ガンダタ「そんな雑魚どもはどうやったって寄ってくる。無視しときゃいいだけの話だろ」

勇者「……そうだな」

ガンダタ「ふん、知ったことか」

勇者「よかったら、俺と一緒に旅しないか? 中途半端にした責任もあるし」

ガンダタ「アホぬかせ。俺はおめぇを殺す。それを目的としてしばらくは生きていく」

勇者「……そ、そうか」シュン

ガンダタ「さては心許せる相手がいなくてさみしいんだなぁ?」

勇者「へ、へへっ、そんなんじゃあーりません!」

ガンダタ「ひとつ、忠告しておいてやる」
506 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 13:23:39.21 ID:fQ/B2oVuO
勇者「なんだね?」

ガンダタ「おめぇの強さは常軌を逸してる。どこまでいっても孤独だぜ。勇者さんよ」

勇者「途中から意識があったな……狸寝入りしてやがったのか」

ガンダタ「メスどもがあんまりにもうるせぇからな。なぁ? わかってるか? 孤独を」

勇者「……」ギュゥッ

ガンダタ「ぎゃはっはっはっ! 芋虫を噛みしめたような顔しやがって! 充分理解して生きてきたかぁ? あ゛ぁ?」

勇者「黙れ……もう、行け」

ガンダタ「魔族でもねぇ! 人間でもねぇっ!! 勇者なんだぁ!! だぁっはっはっはっ! 笑えるぜぇっ! 知ったようなツラしてる若造が、誰より孤独な存在だとよぉっ!!」

勇者「やめろ、殺すぞ……!」ギロッ

ガンダタ「やってみろぉ? できんのかぁ? 勇者さまよぉ? ……偽善者なのもじゅ〜〜ぶんに理解ができた。おめぇはどっちつかずの、コウモリ野郎だ」ニタァ

勇者「……」バチィ バチバチィ

ガンダタ「殺れよっ!! やってみろ!! お前の本性を見せてみろやっ!!」

勇者「……行け」フッ

ガンダタ「ほぉら、コウモリ野郎だ! 口先ばっかりでなにもできやしねぇ! おめぇは自分の為に、勇者をやってるって気づいちゃいねぇ大馬鹿野郎よ!」

勇者「……」ギリッ

ガンダタ「せいぜい孤独と隣あわせで生きろや。いつか俺様が引導を与えてやるからよ、こいつぁ、傑作だ、だぁっはっはっはっ!」ノシノシ

勇者「(気づいてない? 俺は嫌というほどわかってるよ。だから、ニートになりたいんだ)」クルッ
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 14:31:55.43 ID:00FdDXOa0
508 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 14:42:34.95 ID:fQ/B2oVuO
【クィーンズベル 南西方向 廃墟】

お頭「ほんとかぁ? なんでもいいけどよぉ、相手は10人をぶっ殺しちまいやがったガンダタだろぉ?」

現場にいた衛兵は様子をこう語る……

衛兵「ガンダタを一発ですよ。一発で倒しちまいやがったんでさぁ。強さへの憧れを通り越して恐怖って言うんですかね……ぶっちゃけ逃げ出したいくらいでしたよ」

手下「エフッ、エフッ」

衛兵「やべぇよ。アレは。俺命からがらでさ」

お頭「で、ガンダタはちゃんと殺ってきたんだろうな」

衛兵「へい。これを渡すように頼まれました」スッ

手下達「うぉぉぉ〜〜まじかよぉ〜」

お頭「そうかィ。ちゃんと見てきてんだろうな? 殺したところを」ギロッ

衛兵「(まぁ、大丈夫だろ)……へい」

お頭「契約をきっちりやったってわけだ。なら、しょうがあるめェ」

手下「なぁなぁ? どこにパンチいれたんだ?」

衛兵「よく見えなかったけど。腹にじゃねぇか?」

手下「腹かよぉ。夜飯くったばっかだから、やべえな[

衛兵「胃が破裂するな」

手下「オイオイオイ、死ぬわw俺w」

お頭「ジャンはいつ頃戻ってくる?」

衛兵「さぁ。しばらくしたらとしか」

お頭「わかった……野郎ども! 月が傾いて二食形になりつつある! 就寝だ!」

衛兵「俺は城に戻りやす」ペコ

お頭「ああ。しっかりやれよ」
509 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 15:01:28.47 ID:fQ/B2oVuO
【宿屋】

魔法使い「……」ササッ

戦士「魔法使い。廊下でなにしてるんだ?」

魔法使い「戦士っ⁉︎ しーっ! しーっ!」

戦士「なんだ?」

魔法使い「……声を潜めて。ちょっと耳貸して」チョイチョイ

戦士「……?」

魔法使い「忘れたの? マク様が隣の部屋に止まってるの」

戦士「……いや、覚えてるが……」

魔法使い「話しかけるチャンスじゃない!」

戦士「どこかに行った様子だったが。部屋に帰ってきてるのかな?」

魔法使い「帰ってきてなかったらそれでいいの! はぁ〜ドキドキするぅ」

戦士「くだらん。あたしは行く」

魔法使い「とかなんとか言っちゃってぇ〜? 戦士もまんざらでもないくせにぃ」

戦士「あ、あたしはっ、前も言ったろ。きちんと話してからでないと」

魔法使い「そのわりにはぁ〜。治療してもらってる間、顔真っ赤にしてたみたいのはどこのどちらさまかしら〜」

戦士「……っ!」ボッ

魔法使い「ぷっ、わかりやすいのね。戦士って。ウブなんだ? 慣れてないんでしょ? 自分より強い男に会うのが」

戦士「し、師匠はあたしより強い!」

魔法使い「歳がひとまわりもふたまわりも離れてる相手……まぁ、そういのが好きってのもいるけど、戦士はそうじゃないでしょ? 親みたいな感覚なんじゃない?」

戦士「うっ」

魔法使い「マク様って、ぜぇぇぇったい、若いわよ。あたし達と同年齢ぐらいだと思う」

戦士「なんでわかるんだ?」

魔法使い「匂いよ、匂い。おっさん臭しないし」

戦士「に、匂い」(ドン引き)

魔法使い「私、こういう時の勘は外したことないの」

戦士「そ、そうなの?」

魔法使い「ねぇねぇ、戦士」

戦士「う、うん?」

魔法使い「どうする? マク様が一緒に鍛錬しないかって言ってきたら」

戦士「ええっ⁉︎ そ、それは……その、やぶさかではないよ、うん」

魔法使い「ふたりきりで?」

戦士「二人でも三人でも同じだ! 鍛錬してれば、雑念は消える!」

魔法使い「ほんとにぃ? マク様あんなに強いんだもの。動きに見惚れちゃわない?」

戦士「……見惚れる……」ポー

魔法使い「ねぇ? 今、妄想してるでしょ?」

戦士「なっ⁉︎ な、してないっ!」

魔法使い「いいじゃない。私達だってオンナなんだから。なんで隠すの?」
510 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 15:16:30.11 ID:fQ/B2oVuO
戦士「べ、別に話することじゃないだろ!」

魔法使い「共有しましょって言ってるのよ。武闘家とマク様の関係、怪しくない?」

戦士「元々、マクさんは武闘家の師匠である老人が知っていたんだ。なんら不思議はない」

魔法使い「さっきさぁ、マク様ってば、武闘家に話しかけてた。おかしくない? サイレントモンクなのに」

戦士「……」

魔法使い「なにかあるのよ。あのふたり」

戦士「……ふぅ、やっぱり、くだらん。あたしは寝る」

魔法使い「いいの? マク様が部屋にいるかもしれないのに」

戦士「魔法使いを見てると我にかえった」

魔法使い「あっそ。じゃあ、いいわよ。さっさと寝てれば? 私はマク様にぃ〜ゴホン」コンコン

戦士「ちょ、深夜だぞ⁉︎ ノックするやつがあるか!」

魔法使い「寝てたら出ないでしょ! そしたら帰る!」

      「はぁい」

魔法使い「……っ⁉︎ お、起きてるっ⁉︎ ていうか、普通に返事した⁉︎ ど、どどどどうしよっ、戦士!」

戦士「し、知らないよっ! どうするんだよ!」

魔法使い「戦士が先に挨拶して!」グィッ

戦士「なんであたしなんだよ! 魔法使いだろ! 会いたかったの!」

魔法使い「恥ずかしくなったの!」

おじさん「……どちら様?」ガチャ

魔法使い&戦士「……へ?」

おじさん「……?」

魔法使い「あ、あのぉ〜。マク、様?」

おじさん「マク? なんだそら?」

戦士「この部屋に宿泊しているはずなんだが」

おじさん「いんや。俺しかいないよ。お姉ちゃん達、マッサージにでも来てくれたの?」

魔法使い「……いえ」ブスゥ

戦士「す、すまない。どうやら、手違いがあったようで」

おじさん「はぁ?」

戦士「部屋を、間違えました……」
511 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 15:32:24.32 ID:fQ/B2oVuO
【宿屋 部屋】

僧侶「あはっ、あははっ、面白すぎですぅ〜!」バンバン

魔法使い「……」ブッスゥ

戦士「魔法使いにも困ったものだ」

魔法使い「戦士だって少しはその気があったくせに!」

戦士「ないよ!」

魔法使い「いーや! あった!」

武闘家「明日はお城に行かなきゃ行けないんだ。さっさと寝るよ。……この子が起きちまうだろ」

少年「Zzz」

魔法使い「あいかわらずね。武闘家って世話やければ誰でもいいの?」

武闘家「アンタと一緒にすんな。この万年発情色情魔」

魔法使い「むぐぐ〜〜やめてほしいんだったら! マク様を紹介してよ!」

武闘家「できない。本人が望んでない」

魔法使い「なんでわか……っ、やっぱり、あの時なんか小声で話してたのはそのこと⁉︎」

武闘家「殴るよ? アタイは女同士だからね。優男みたいに躊躇しない」

僧侶「まぁまぁ〜」

魔法使い「武闘家って前々から気に入らないと思ってたけどさぁ、なんだか最近ますますいやぁ〜な感じ」

武闘家「なにも変わっちゃいないさ。そう感じるのは、アンタが嫉妬してるからだ」

魔法使い「なんですって⁉︎」キッ

僧侶「そこまでそこまでぇ〜。女の敵は女といいますがぁ、本人がいないのに争っても意味ないですよぉ」

魔法使い「あんたはいいわよね。勇者一筋で」

僧侶「そうですねぇ〜」ニコニコ

魔法使い「ほんっとに、あんなののどこがいいわけ? 理解できない」

僧侶「はいはい〜理解できないのならそのままでいいじゃないですかぁ〜」

魔法使い「どーしようもなくテキトーで、グーダラで、どこほっつき歩いてるかわかんなくて」

僧侶「そぉですねぇ〜」

魔法使い「おまけにむっつりで、童貞で、たいして強くもなくて」

武闘家「いい加減にしなっ!!」

魔法使い「な……なにっ?」

武闘家「うるさいんだよ。アンタのオンナの部分がうっとおしい」

魔法使い「……」ブッスゥ

戦士「……もう、寝よう。今夜は、あたしらもおかしいみたいだ」

僧侶「一人の話題なんですけどねぇ〜、くすくすっ」


512 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 16:28:55.00 ID:1+uhoDvtO
【クィーンズベル城 郊外】

勇者「……」フラフラ

老人「これ、そこいく若者よ」

勇者「ん?」

老人「このような夜更けにどうした?」

勇者「じいちゃんこそ。俺は酒でも浴びたい気分なんだ」

老人「ふぇっふぇっふぇっ。お主、まだ若いじゃろ。なにを世に憂うことがある」

勇者「俺はさぁ、人間も魔族も、違いがわからねーんだよ。みんなは敵だなんだっていうけど、人間だって悪いことしないわけじゃないじゃん」

老人「人は、誰しもが宿命を背負って生まれおつるのよ」

勇者「……だぁったら教えてくれよ。ハッキリとした答えをくれよ! わかりやすくさぁ!」

老人「時がたてばわかる。お主の持つサダメが」スゥー

勇者「じぃちゃんが透けて見えるのは俺の目がいかれたんだろかねー」

老人「迷える勇者よ。砂漠の花を探すがよい」

勇者「……」

老人「太陽と雨が交わる場所に、一輪の花がある。その花を見つけた時に、また会おう」フッ

勇者「砂漠の花……太陽と雨が交わる……意味がわかんねぇっ……ての……」ドサッ
513 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 16:32:43.89 ID:1+uhoDvtO
〜〜第3章『砂漠の花と太陽と雨と』〜〜(中編)

514 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/02/05(月) 16:39:40.74 ID:1+uhoDvtO
ここで一旦区切ります。
徐々にフラグ回収が進んでおりますのでたぶんですけど終えるのにあと100レス〜150レスぐらいだろうと判断しました。

以前にちゃんと書いたら800レスぐらいだろうと書きましたがそんなもんじゃ終わらないのがこの時点で確定
適当なところで切り上げたいと思います
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 18:37:45.78 ID:VlXVilc70
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 21:37:38.44 ID:8ph8zZYDo
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 21:51:18.00 ID:imCjLqQ+O

好きなだけ書いてくれてええんやで
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 23:18:42.51 ID:0MVaU4BuO
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/06(火) 01:25:16.70 ID:g2wNedoKo
おつ
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/06(火) 01:55:02.55 ID:xBON21jw0
乙です
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/06(火) 04:38:28.73 ID:sFq/HIrE0

あと1000から1500レスとは嬉しい事言ってくれるわ〜
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/06(火) 07:38:31.16 ID:Qba0zEcaO
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 11:21:10.12 ID:BL6zL6bc0
武闘家の戦いとは意地のぶつけ合いは名セリフ
読んでてゾクゾクした

524 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 19:42:16.87 ID:gIu6BcBMO
【翌日 早朝 クィーンズベル城 城門前】

兵士「えぇいっ、だまれだまれ! 身分を証明する物がないやつを通すわけにはいかん!」

魔法使い「だからさぁ〜! メイドを呼んできてってお願いしてるだけだってばぁ!」

兵士「どこの馬の骨ともわからぬやつ! そんなやつの弁など聞く耳を持たぬ!」

魔法使い「そんな融通がきないこといいはって本当に知り合いだったらどうするつもり⁉︎ あんたよくそれで門番が勤まってるわね! 頭でっかち!」

兵士「なっ⁉︎ ななっ⁉︎」

僧侶「……じゃんけんっ、ぱー」

少年「あっち向いて、ホイ」

僧侶「あらあらぁ〜、また負けちゃいましたぁ」

少年「あの……いいよ。お姉ちゃんに会えなくても。ウチに帰れば母さんがいるし」

魔法使い「そぉ? 姉と弟の再会を邪魔する兵士のせいでぇ〜。ごめんねぇ〜」

兵士「うぬっ」タジ

武闘家「そうは言っても伝言も預かってる。メイドには会わねばならん」

戦士「昨夜、あたしたちはならず者から彼女を助けてるんだ。後日、城に来るようにも言われてる。メイドからなにか聞いてないか?」

兵士「知らん」プイ

魔法使い「ほんとにぃ? 大目玉くらうのは兵士さんなんだからね?」

兵士「知らんもんは知らん! ……メイド様は姫様専属だ。私は普段会えないんだ」

僧侶「仕方ありませんねぇ〜」

武闘家「? 少年を家に送り届けようというのか?」

僧侶「いえいえ〜。これを拝見したいだたきたいのですがぁ」パサ

兵士「はぁ……なんだ? 紙切れを出されたところで一般人の入城は――」シュルシュル

戦士&魔法使い&武闘家「……?」

兵士「……っ⁉︎ こ、これはっ⁉︎」ギョ

僧侶「どうですかぁ? これなら許可をいただけると思うのですけどもぉ」

兵士「しっ、失礼いたしました! ダーマ神殿“法王庁”の御婦人でしたか!」

戦士「ダーマ……」

魔法使い「法王庁……っ⁉︎」

僧侶「師にあたる方が最高顧問を務めておりましてぇ〜」

魔法使い「法王庁といえば特権階級にいる超エリート集団じゃない⁉︎ 僧侶って、そこから来たの⁉︎」

僧侶「はい〜」

兵士「他三名はお付きの者でしょうか?」

戦士「誰が付き人だ!」

僧侶「くすくすっ、まぁまぁ〜。穏便に済むのならいいじゃありませんかぁ」

武闘家「(こ、こいつ……いったい……)」

僧侶「行きますよぉ〜。お付きの方々〜」

魔法使い「(ダーマ神官の中でも選りすぐりの才能を持つ者だけ通れる狭き門。倍率はすごく高い。たしか……噂でつい最近、百年にひとりの天才を輩出したと……まさか……?)」

僧侶「さぁ、行きましょぉねぇ〜」

少年「う、うん」

魔法使い「(ま、まさかねぇ……)」
525 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 20:09:26.39 ID:gIu6BcBMO
【クィーンズベル城 玉座】

王様「よくぞまいった! オモテをあげラクにせよ」

僧侶「王様。ご息災であられましたでしょうか」スッ

王様「健康だけが取り柄よ。この地の気候はなににつけても暑い。過酷ではあるが、丈夫な身体にもなる」

僧侶「健康だけとは、ご冗談が過ぎます。クィーンズベルは陛下のご采配で民達の笑顔が守られているのですから」

戦士&魔法使い&武闘家「……」ポカーン

王様「此度(こたび)は、水不足の件で参ったのであろう? ワシも不安でじっとしておられなんだ」

王妃「法王庁に申請を出してから、よもやこんなにはやく対応していただけるとは」

僧侶「……? いえ、今回わたくしは、法王庁とは別件で動いております」

王様「なに? では、法王庁からの使者として参ったのではないのか?」

僧侶「おそれながら。わたくしは勇者様と行動を共に致しております」

王様「勇者……勇者だと……⁉︎」ガタッ

王妃「まぁ……懐かしい。十年前に見かけたきり。大きくなったのでしょうね」

僧侶「左様でございます、陛下。その旅の途中で御国に立ち寄る運びとなり、この子を……」

少年「……」オズオズ

王様「そうか……勇者がこの国にいるか……ならば後で挨拶にこさせよ。して、その子は――」

姫「失礼いたしますっ!!」バターーンッ

王妃「……なんですか、騒々しい……姫……あなた、自室謹慎処分だと……」

姫「お説教ならば後で! さ、メイド」

少年「あっ!」

メイド「あ……あぁ……っ!」タタタッ

少年「お姉ちゃぁ〜〜んっ!」タタタッ

メイド「あぁっ、よかったっ、ほんとにっ、よかったっ」ギュッ

少年「うぐっ、ひっ、うぁぁあんっ」ギュッ

王様「こ、これは……? どういう……?」

姫「お父様。家族の再会です。それだけなんですの」グスッ
526 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 20:29:54.25 ID:gIu6BcBMO
【クィーンズベル城 姫の部屋】

魔法使い「わぁ、ベッドがおっきぃ〜」

姫「横になってみる?」

魔法使い「そ、そんなっ、おそれおおいっ!」

姫「気にせずともよい。勇者のパーティであれば妾(わらわ)とっても友同然である。僧侶……といったな」

僧侶「ここに」スッ

姫「法王庁出身者とはまことであるか?」

僧侶「はい」

姫「その若さでか? 神官としての経験を積んではじめて選別されると聞いたことがあるが」

僧侶「良き師のお陰でございます。わたくしに力はなにもありません」

姫「謙遜するな。口利きで入れるというというのなら、格式と品格を落とす行為なるぞ」

僧侶「ごもっともでございます」

姫「役職はどこであったか?」

僧侶「……」チラ

戦士&武闘家&魔法使い「……」ジー

姫「なんだ? パーティの面々まで興味津々といった面持ちで眺めておるではないか」

少年「このお菓子おいしぃ」パリパリ

メイド「まだこっちにもあるわよ」ニコニコ

僧侶「内部事情をお話すのは戒律により厳しく禁じられているのでございます。どうか、ご容赦を」

姫「(つまんないんですの!)……そうか」

メイド「それで……勇者さまはいずこへ……」

戦士「ゆ、ゆうしゃはぁっ! どっかいっちゃったでありんすっ!」カチンコチン

魔法使い「ブフゥっ、あ、ありんすって」

姫「どこか? どこに行った?」

戦士「知らないです! 見取り図を持ってると伝えてくれと言われましたぁっ!」

姫「そう……やはり……」

メイド「姫さま。勇者さまが持っているのは幸いでございます。彼の方ならば、きっと悪いようには致しません」

姫「そうね……」

メイド「皆様、昨日は大変失礼を致しました。危ないところを助けていただいたばかりか、勇者様のパーティであることを疑ってしまい」ペコ

戦士「きっ、かかっ、きにしてなぁ〜〜いです!」

魔法使い「きゃはははっ!」バンバン

戦士「あとで覚えてろよ……」

姫「……堅苦しい挨拶はここまでにするんですの。メイド。皆さまに紅茶を」

メイド「ただいまご用意致します」ペコ
527 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 20:50:22.32 ID:gIu6BcBMO
姫「――実は、実力者たる皆に折り入って頼みがあるんですの」

魔法使い「き、聞いたっ⁉︎ 実力者だって! 私たちののとかなっ⁉︎」

戦士「あたしたちしかいないだろ」

姫「なんです? 違うんですか? 法王庁出身とあれば疑う余地はないと思い、他三名もと思ったのですが」

僧侶「いえ。全員、“才能は”ピカイチの者たちばかりです」

姫「なにやら引っかかる物言いですの。まぁ、いいわ。頼みを聞いていただけるかしら?」

武闘家「……」

姫「貴女は先ほどからなにも喋っていませんね。どうですか?」

武闘家「アタイは、王族に興味ありませんので。内容を聞かずにはなんとも」

魔法使い「無礼よっ! お尋ね者になりたいのっ⁉︎」コソッ

姫「ふふっ、勇者は個性的な面々をパーティに選んだようなんですの。たしかに、まずはこちらからお話すべきでしょう」

僧侶「頼みとは……?」

姫「この国の財源が、脅威に晒されています」

戦士「脅威、ですか?」

姫「近く、わたくしの縁談があるのはご存知ですの?」

魔法使い「えぇと……?」

姫「省略しますと、盗賊団が宝物庫に忍びこもうとしているのです」

僧侶「まぁ……」

姫「勇者が盗賊団に接触しているので――」

魔法使い「え、えぇっ⁉︎」ガタッ

姫「……?」

魔法使い「あ、あわわっ、な、なんてこと。ついに悪事にまで手を染めるなんて」

戦士「いや、なにもまだそうと決まったわけじゃ。騙されてるのかもしれん」

武闘家「はぁ……」ガックシ

姫「……もしや? 貴女達は、勇者からなにも聞いてないんですの?」

メイド「姫さま」チラ

姫「……」コクリ

僧侶「皇女様。お話の続きをお伺いしてもよろしいでしょうか?」

姫「いえ、やはり、やめにします」
528 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 21:16:25.71 ID:gIu6BcBMO
魔法使い「や、やっぱりぃっ、ち、違うんですっ、あいつも根は悪いやつでは」

姫「お黙り」ピシャリ

魔法使い「は、はぃぃっ」シュン

姫「見取り図の件を知っていなければ、勇者のパーティではないと疑っていたところです」

魔法使い「は、はい?」

姫「なにも聞かされていないとは……貴女達、信頼されていないんじゃ?」

戦士「え……」

姫「成人の儀を終えた勇者が魔王討伐のため、アデルを出発すると各国に早馬が飛ばされたのが二週間ほど前。いつから一緒に旅を?」

僧侶「私達三名は翌日には帯同していたと思われます」

姫「三名? もう一名は?」

武闘家「アタイは、マッスルタウンについてからだから、半分ぐらいかな?」

姫「期間が短いとは言い訳になりません。貴女方は勇者に選ばれて旅を共にしているのでしょう」

魔法使い「い、いぇ〜、最初は押しかけたっていうかぁ、私達の方から連れていってとお願いしたのでぇ」

姫「なんですの……?」

魔法使い「ですから、その、勇者と一緒に牢に入れられるのは……」

メイド「勇者様からのご指名を受けて旅をされてるのではないのですか?」

戦士「アイーダの酒場で待ってたんですが、勇者は“仲間は足手まとい”といって先に行ってしまったんです」

魔法使い「そうなんです! 私達もてっきり! 最初は凄く強い人なんだろーなーって思ってたんですけど!」

姫「……」ギュゥッ

メイド「姫さま」

魔法使い「それがぜんっぜん……てことはないけど、戦士と同じぐらいで」

姫「ほう。戦士とはそこまで強いのか?」

戦士「いや、あたしは、まだまだで」

姫「勇者は4歳で我が国の兵士長をデコピンで負かしたぞ。さぞや強いのだろう?」

戦士&魔法使い「へ……?」

武闘家「ごほんっ! あー、勇者はぁ、補助魔法を使うからなぁ!」

僧侶「勇者様の実力のほどはしかと。戦士と魔法使いは、その……」

姫「なんだ? さっきから黙って聞いておれば、妾の友をバカにしておるのか?」

メイド「ひ、姫さまっ! なりません! 勇者様が選ばれていないとしても! 共に旅することを認めておられるのです!」スッ

魔法使い「えっ? ど、どゆこと?」

姫「……そうですね」

戦士「(4歳の時に、兵士長をデコピンで? ははっ、さては冗談だな?)」

姫「失礼した。でも、貴女方に不満が残るのも事実です。勇者と連絡をつける方法はないんですの?」

僧侶「しばらく別行動をすると」

姫「なにか考えがあるようですね。しかし、その考えがわからぬことにはこちらも動きずらい」

メイド「しばらく、様子をみては?」
529 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 21:41:57.86 ID:gIu6BcBMO
【クィーンズベル 南西方向 廃墟】

ジャン「本日からはいりましたー! 新人のジャンくんでーす! よろしくねー!」

手下「なぁ、あいつがホントにガンダタ倒したのか?」

ジャン「陰口なら見えないところでお願いしまーす!」

お頭「おめぇらァっ! こいつはあのガンダタを殺してきたそうだ!」

ジャン「ナイフでグサーっとやったりました!」

お頭「功績を認め、団の幹部にとりたてるッ!!」

手下「お、お頭ぁっ! いきなり新人をそんな扱いをするんですかいっ⁉︎」

お頭「当たりめェよ! この団はいつから年功序列になった! 実力主義だろうがッ!」

手下「うっ、それは、そうですけどぉ」

ジャン「(ざまぁwww)」

お頭「納得いかねェやつは前でろ。ジャンが相手になる」

ジャン「……ん?」

手下「いいんですかい? 仲間内での殺しは……」

お頭「このアホたれ。誰が殺し合えといったんだァ。喧嘩は日常茶飯事だろうが」

手下「なぁ〜ほどぉ。そういうことか」

ジャン「んん〜?」

手下「俺やりやす! こいつは強そうに見えねぇ! きっとマグレだったんでさぁ」

お頭「俺も強さを直に見たわけじゃねェからな。素手でやれよ」

ジャン「……めんどくせぇ」
530 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 21:54:17.68 ID:gIu6BcBMO
【数分後】

手下「」ドサッ

ジャン「どんなもんでしょ?」パンパン

お頭「……ワンパンか……つえぇな。貴族とたまに取り引きしてるが、武術に精通してるやつなんてめずらしいぜ?」

ジャン「そのめずらしいやつの中の一人なんですよ。ほかの皆さんも信じていただけましたけねぇ〜?」

手下達「……」ゴクリ

お頭「くっ、だっはっはっ! 俺たちの団にようこそ!」

ジャン「取り引きが終わるまでの間ですけどね」

お頭「まぁ、そう生き急ぐなよ。こっちにこい。計画の詳細を説明する」

ジャン「(いよいよ核心に迫れるのかね。どうやって井戸の水を枯れさせてるのか……)」

手下「お待ちを。お頭。お客様です」ササッ

お頭「後にしろ。どうせ行商頼んでる水売りだろ」

手下「いえ、それが――」コショコショ

お頭「――なにィ? ……わかった。すぐいく」

ジャン「俺もご一緒しても?」

お頭「あ〜? ん〜、まぁ、いいか。そのかわり、なにも喋るなよ。口開いてご機嫌損ねたら舌を切るぞ」

ジャン「あいあいさー!」ビシッ
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/06(火) 23:37:02.89 ID:vsw5Z+FGO
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 02:30:21.53 ID:zp9c0ucPo
おつ
僧侶さん、勇者との会話で只者じゃないのはわかってたけどかなりエリートだったのな
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 02:44:37.93 ID:Hmh3XtaBO
>>490
僧侶「私も精神力が〜」ガクッ
とか言ってるし、底は知れたような気がするが……

まあ何か隠し玉は持ってそうだな
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 07:04:23.97 ID:a9tZbFIro
535 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/07(水) 16:38:24.42 ID:NbYf4Q2GO
【廃墟付近】

お頭「お待たせしたな」

占い師「忙しいようだな。商(あきな)いは順調か」

お頭「お陰様で」

占い師「そちらの男は……?」チラ

ジャン「(まーた新しいやつが出てきた。フードを深めに被って顔はわからないが、女だな)」

お頭「ハーケマルの使者だ。なかなか使えるんで、仲間に抱き込んだ」

占い師「なに……? 間者ではないのであろうな。情報が筒抜けになるぞ」

お頭「金の魅力に取り憑かれてる男よ。なにかあった場合のケツは俺がとる」

占い師「……準備の進捗具合はいかが」

お頭「アンタに教えられた方法で、井戸の水を枯れさせてる。国相手となれば体力も尋常じゃねェ。困窮させるには期間を要する」

占い師「急いては事を仕損じるだけだ。かといって悠長に構えているつもりはない」

お頭「わァってるよ。ハーケマル王子の来訪に合わせられるように進めてる」

占い師「私の雇い主は気の長いお方ではない。計画が頓挫しようものなら、死を覚悟しろ」

お頭「その分、見返りはでかい。ハイリスクハイリターンってとこだな。俺にとっても国盗りの夢を叶える良い機会だ」

占い師「あのお方はクィーンズベルの没落を望んでおられる」

お頭「現政権を追い込んだら、俺を後釜に据えるという約束、忘れちゃいねェでしょうな」

ジャン「(そんな簡単にコトは済まんだろうに)」

占い師「覚えている。が、政権転覆となるとそうやすやすとはいかない」

ジャン「(そぉ〜らきた)」

お頭「な、なんだとォっ⁉︎ 約束を違える気かっ⁉︎」

占い師「名家出身でもない、王族でもない、盗っ人なぞに国を任せると思うか? 第一、周辺国にどう認めさせる」

お頭「国を疲弊させれば、現在の王族は窮地に立たされ、民の信用を失い――」プルプル

占い師「……」

お頭「そう持ちかけてきたじゃねェかッ!!」ビシッ

占い師「王になったとて、その先になにを見る?」

お頭「“自由”よッ!!」

占い師「愚かな……」

お頭「王になりゃぁ、国を、兵を、財をッ! 好きなように操れるッ!!」
536 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/07(水) 17:19:11.10 ID:NbYf4Q2GO
占い師「使者とやら。貴族であろう? こやつに王としての器があると思うか?」

お頭「言ってやれッ!! あるとッ!!」

ジャン「暴君としてならばあるんじゃないでしょかね? それか、独裁者か」

占い師「うふっ、はっはっはっ。暴君か。たしかに、それならば才気は望めそうだ」

お頭「暴君だァ?」

占い師「国をなんと見る? お山の大将よ」

お頭「お、オィ。誰にモノ言ってやがる」

占い師「国は、生き物だ。内政、物流、通貨、交通、さまざまな分野が折り重なり、人が生きて、国と成る」

お頭「……」

占い師「お前に国を任せたとしたら、5年もたないだろう。部下に殺されるか、民たちに殺されるか。そういう未来が見える」

お頭「な、なんだとォッ⁉︎」

占い師「盗賊として報酬を望め。その後は、このヤマから身を引け」

お頭「こ、このッ!」バンッ

占い師「……ふぅ。フードがうっとうしい」ファサ

ジャン「(若い。見た感じ俺とそんな変わらないぐらいか)」

お頭「魔族に会わせろ。オメェじゃ話にならねぇみたいだからな」

占い師「私に言っているのか?」

お頭「俺とジャンとオメェしかいねぇだろ!」

占い師「ニンゲンよ」

ジャン「(なんだ……この気配は……)」

お頭「あ……? あぐっ……⁉︎ アガガッ⁉︎」ガクッ

占い師「貴様に預けた水晶はどうだ。大切に持っているか……? ん?」

お頭「息がっ……! あぐぅぁあっ!!」ジタバタ

ジャン「(お頭には指一本触れてない。どうやってるんだ?)」

占い師「脆い生き物よ。脆弱で、浅はかで、欲深い。そなたたちが醜くければ醜いほど、憎めずにいる。そこのモノ、助けなくてよいのか……?」

ジャン「どうやって助けろというんです? 貴女の首をハネますか?」

占い師「試したらどうだ?」

お頭「ひゅー……ひゅー……っ」ドサッ

ジャン「いいんですか? お頭を殺せばこれまでの準備が全て無駄になっちゃうと思うんですけど」

占い師「……おおっ、そうであった」シュゥ

お頭「」ドサッ

ジャン「あの〜結局あなたはなにしに来たので? からかいに来ただけ?」

占い師「いや、私は、お頭に用があって。……あれ?」

お頭「」

占い師「これ。起きろ。起きんか」ペチペチ

ジャン「代わりに聞いときましょか?」
537 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/07(水) 18:34:19.87 ID:tg06EGxvO
占い師「やれやれ。ニンゲンは脆すぎていかん。そう思わんか」

ジャン「まるで自分が人間じゃないように言いますね」

占い師「あぁ……そうだな。気になるか?」ニタァ

ジャン「いいえ。ちっとも」

占い師「なんだ。肩透かしだな」

ジャン「俺媚びへつらうのは上に対してだけって決めてるんで」キリッ

占い師「なんぞ? 私はお前より下か?」

ジャン「誰かの指示で動いてるんだろう? あのお方と言っていた」

占い師「言ったが?」

ジャン「でかいヤマになればなるほど関わる人間は……あんたは人間じゃないかもしれないけど、数は増える。中間管理職に媚びたって、ねぇ?」

占い師「お前はさらに末端の下の下ではないか」

ジャン「違いない。だけど、計画を遂行するには、気絶してるお頭は必要だろ? ……話が逸れてる。なんでもいいから、用件があるならどうぞ」

占い師「小癪なやつだ。新しい水晶と古い水晶の交換にきた」

ジャン「なぜ?」

占い師「それは、水脈を止めるために決まってる」

ジャン「(いや、決まってるて知らねーし。調子合わせるか)……そうでしたね。さっきお頭から水脈を止める原理を聞いたばっかりで」

占い師「これには瘴気がつまってる」スッ

ジャン「らしいですね。それ使って逃げさせてるんでしたっけ?」

占い師「……」ギロッ

ジャン「(あら? 違った? 軽率だったかな?)」

占い師「……そうだ」

ジャン「(合ってるんかーい! ドキドキさすなこのボケッ!)いやぁ〜しかし、便利なアイテムですねぇ。それどうやって使うんです?」

占い師「水脈には、地点地点に息吹が存在する」

ジャン「ほぉ」

占い師「割り振られた場所にコレを埋める。すると、水は玉から染み出す瘴気を避けるようにして逃げていく」

ジャン「ほぉほぉ。てことは、ひとつじゃないですな? 何箇所にも埋まってると」

占い師「定期的な交換が必要でね。これを持ってきた」ジャラジャラ

ジャン「(にー、しー、ろー、はー……10個か)」

占い師「穴が結構な深さになるから、これを別働隊に渡してほしい」

ジャン「(なんだ。結局どんなカラクリがあるかと思えば、アイテムか。つまんねーの)……かしこまりました。たしかに伝えときます」
538 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/07(水) 18:54:59.53 ID:tg06EGxvO
占い師「あと、もうひとつ。これを渡しておく」

ジャン「(アイテムとかつまんねー。冷めた。なんだかすっごく冷めたわ)なんでしょ? 剣ですか?」

占い師「念のため、これを5個目の地点に一緒に埋めておけ。呪いをかけてある」

ジャン「どんな?」

占い師「お前は知らずともよい」

ジャン「あ、そう」スッ

占い師「……あの、本当に気にならないの?」

ジャン「え?」

占い師「や、普通だったら、こいつ何者だっ! とか、これにはこんな効果がっ⁉︎ とか」

ジャン「いや? 劇じゃないんだから用件が済んだなら帰れば?」

占い師「え……」

ジャン「あー、忙し忙し。お頭おぶっていかなくちゃ」ヒョイ

占い師「ちょ、ちょっとっ」

ジャン「ん?」

占い師「聞いて驚くがいい! その剣は呪われている!」

ジャン「聞いたよ」

占い師「うん、2回目……」

ジャン「じゃ、そういうことで」

占い師「聞くがいい! 私はっ!」

ジャン「……なによ?」

占い師「聞きたい?」

ジャン「いや」

占い師「……」プルプル

ジャン「わぁ〜。すごいなぁ〜。この剣にはこんな効果があったのかぁ〜」

占い師「聞いてないじゃん! 知らないじゃん! どんな効果があるとか!」

ジャン「……話したいの?」

占い師「……」プィ

ジャン「あー、魔族ってのはどの種族だぁ?」

占い師「き、聞きたいっ⁉︎」

ジャン「教えてほしいなぁー」
539 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/07(水) 19:12:37.14 ID:tg06EGxvO
占い師「ふふっ、いやしい人間め。そんなに魔族と会いたいか。欲に目がくらみ――」

ジャン「厨二病か。お大事に」テクテク

占い師「ま、まてぇいっ」ポンッポンッスポポンッ

ジャン「……?」

ベビードラゴン「オラがせっかく盛り上げた雰囲気さ、壊すでねぇっ!!」

ジャン「お、おお」

ベビードラゴン「なんで無視するだ! 人間のくせして生意気だど! 恥ずかしいと思わんのか!」パタパタ

ジャン「すまん」

ベビードラゴン「謝っで済むことか! せっかく、せっかく……クールな人間を演じて盛り上がってたんに!」

ジャン「本当にすまん」

ベビードラゴン「もっかい仕切りなおしだど。ちゃんどやれっぺな?」

ジャン「あ、ああ」

ベビードラゴン「ふふっ、いやしい人間め――」

ジャン「す、すまん。ちょっといいか?」

ベビードラゴン「なによっ⁉︎ 現場の空気乱さないでぐんねっ⁉︎」

ジャン「どうしても気になってることがあって」

ベビードラゴン「それ、解決しなきゃできそうにない?」

ジャン「うん、まぁ、そうだな」

ベビードラゴン「だぐぅ、ぺっこしかたねぇ。質問は一個だけだかんな。特別にこだえてやる」

ジャン「――……竜族だろ?」

ベビードラゴン「……っ⁉︎」

ジャン「……」ジー

ベビードラゴン「なしてそげなこと思うだ?」

ジャン「なんでだろうな?」

ベビードラゴン「オラは見ての通り、人間だど」パタパタ

ジャン「……そだな」

ベビードラゴン「変わったニンゲンだっぺね。いきなり人を竜族なんて」

ジャン「うん」

ベビードラゴン「あ〜なんかシラケちまったよ。オラ帰る」

ジャン「うん、気をつけてな」

ベビードラゴン「おめっ! マジで言葉使いなんとかしろっ⁉︎ オラに馴れ馴れしいぞっ⁉︎」

ジャン「あんまりにも可愛いらしくて、つい」

ベビードラゴン「はっは〜ん。そっちの欲か。けがわらしい」
540 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/07(水) 21:57:57.91 ID:1ts2l6j1O
【クィーンズベル城 訓練城】

兵士長「全体ッ! 休めッ!」

兵士達「はっ!!」ザッ

姫「兵士長。精が出ますね」

兵士長「皇女殿下でございませんか。最近は歳による衰えを感じておりまして……そちらの方々は?」

魔法使い「うわぁ……むっさくるしい場所……」

姫「客人です。暇なので城内を案内していたんですの。気になることもあったし」

戦士「いいなぁ、この空気。懐かしいなぁ」

姫「戦士は勇者と同じぐらいの強さだそうよ」

兵士長「っ⁉︎」ギョッ

戦士「あ、いや……」

魔法使い「らしくないわね、なに謙遜してんのよ。拮抗してたけど勝ったじゃない」

兵士長「かっ、勝った⁉︎ あの勇者にっ⁉︎」

武闘家&僧侶「……」

魔法使い「そんなに驚かなくても」

兵士長「驚かずにいられるか!!」

姫「して、そのチカラがいかほどか見てみたいと思ってね」

兵士長「……なるほど……よろしいでしょう。私も歳をくったとはいえより激しくレベルアップに励んでまいりました」

戦士「え? あたしがやるのか?」

姫「こわいんですの? 勇者に勝っておきながら、兵士長ごときが」

戦士「冗談にもほどが過ぎます。あたしはまだ修行中の身」

兵士長「これも鍛錬の一環だと思えば問題なかろう。私が相手だと役不足かもしれんが」

戦士「役不足って、そんなわけないでしょう。あたしは……」

武闘家「ちょっと待ってくれ」スッ

姫「どうしたんですの?」

武闘家「その……姫さま。ちょっと」チョイチョイ

姫「……?」テクテク

武闘家「戦士は気がついてないんですよ。実力差を。以前勝ったのも勇者に手加減されてて」コショコショ

姫「どうせそんなことだろうと見当はついてましたわ。身の程を分からせる良い機会です」

武闘家「それが、勇者はなぜか知らないけど、隠したいみたいで」

姫「隠したい?」

武闘家「アタイにも、直接口止めはしてきてないけど、なんていうか、言わないでほしいって雰囲気が伝わってきてて」

姫「……ふぅ〜ん……」

僧侶「武闘家の言葉は真実です」
541 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/07(水) 22:10:54.51 ID:1ts2l6j1O
姫「そうなの?」

僧侶「私は、理由が、なんとなくわかるのですが……」

武闘家「な、なんだって?」

姫「して、理由とは?」

僧侶「おそらく、勇者として見てほしくないのだと思います」

姫&武闘家「勇者として、見てほしくない?」

僧侶「確証はいまだ持てませんが。考えを巡らせると、そこにたどり着くような気がしてなりません」

姫「なぜです? 比べるのもバカげていますが、王よりも尊い存在だと言えるかもしれない唯一無二なんですの」

僧侶「……そこに、根が張っているのではないかとぉ」

姫「わかるように説明なさい」

僧侶「生まれながらにして勇者。その孤独を想像した経験はございませんか……?」

姫「ないわね」キッパリ

僧侶「大抵の人は勇者に羨望の眼差しを向け、時には嫉妬さえ抱いていると思います。なぜか? 勇者が符号として成立してしまっているからです」

姫「……」

僧侶「恩恵とでも言いましょうか。様々な高待遇を約束され、魔王討伐という伝説に彩られた華道を進める」

姫「それで? 王族だって似たようなしがらみにとらわれているんですの」

僧侶「そうなのですが……勇者という職業は……」

姫「妄想はしなくてよいのです。“なにしろ勇者なのですから”」

僧侶「王族でさえ、色眼鏡で見てしまわざるを得ない存在なのです」

姫「あっ、当たり前ですのっ!」

僧侶「……」

姫「この世界の希望なんですのよ! 私達が勇者をサポートしなければ!」

僧侶「はい……おっしゃる通りです……」

姫「妬みなぞもっての他!」プイッ

僧侶「……そう、ですね……」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 00:13:10.97 ID:j3VWY2cpO
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 00:37:17.16 ID:kqwmJKHWO
苦労人僧侶
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 01:47:03.52 ID:Rl/ZncCDO
なんつうかつくづく面倒くさいやつだな、姫
独善的すぎて胸くそ悪い
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 03:23:58.83 ID:cpN3OOx50
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 06:37:45.00 ID:lIedO7EsO
>>540
あえてそう書いているのですよ
用心深く見えて割と簡単に言いくるめられる盗賊の頭

後付け感半端じゃなさそうな勇者の過去
殺人犯した奴に「一緒に旅をしないか」と言い出す情緒不安定な勇者

あえてそう書いているのですよ
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 06:40:58.04 ID:lIedO7EsO
>>544でした
あえてそう書いているのですよ
用心深く見えて割と簡単に言いくるめられる盗賊の頭

後付け感半端じゃなさそうな勇者の過去
殺人犯した奴に「一緒に旅をしないか」と言い出す情緒不安定な勇者

あえてそう書いているのですよ
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 07:02:43.68 ID:3ndwvN2ro
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 08:06:30.91 ID:BVvF6H3N0
まだアンチわいてるのか気持ち悪いなぁ
勇者の過去後付けって初出は初期の>>96だろうに
捏造までしてなにがしたいんだ
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 08:36:53.51 ID:PZgS0TpPO
>>549
信者も大概気持ち悪いよ?
用心深く見えて割と簡単に言いくるめられる盗賊の頭
殺人犯した奴に「一緒に旅をしないか」と言い出す情緒不安定な勇者
これに関しては反論しないのですか?
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 11:04:15.55 ID:u9HQTRWr0
全員が全員諸手を挙げて絶賛するSSなんてあるわけない
そりゃこれだけ長く続けば批判の一つや二つくるだろう
それをすぐアンチだのどうだの決めてかかる幼稚さ
正直、信者の方がいらないわ
火種になるから消えてくれ
迷惑
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 12:27:54.08 ID:BVvF6H3N0
キチガイの自演バレてるぞ
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 12:50:51.55 ID:m+RfkYASO
批判や指摘は自演認定した挙げ句にキチガイ呼ばわりするキチガイ
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 13:01:05.23 ID:BVvF6H3N0
同じ着眼点から延々と同じことしか書いてなくてバレてないと思ってるつもりなのか・・・
捏造してるのを批判とか指摘とか頭の中やばすぎる
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 13:06:44.79 ID:u9HQTRWr0
批判や指摘については作者が答えてくれるだろう
外野が騒ぐことではない
自演認定も的外れ
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 13:14:08.16 ID:BVvF6H3N0
作者の過去の発言ひっぱりだして悪意ある書き方で捏造してんだろ>>546とか
しかも批判だのなんだの言いながら読み続けてる典型的な粘着アンチだ
むしろ作者は反応しちゃいかん
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 13:25:11.79 ID:IKMFZMO8O
>>556は何でそんなに必死なの?作者なの?
>>550の質問には答えないの?
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/08(木) 13:31:33.29 ID:BVvF6H3N0
単発がワラワラと
捏造アンチを逆に指摘したら必死だの信者だの作者だの言うし話が通じなさすぎだろ
捏造をつっこんだら質問に答えろとかキチガイ度数やばすぎ
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 13:39:13.83 ID:y5rjgP6eO
で、答えないの?
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 13:50:23.21 ID:BVvF6H3N0
直近の例を挙げると>>557>>559の単発見て自演がいないと思うなら頭お花畑
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 13:55:01.39 ID:uonLOop5O
質問の答えになってないよ?
というか端から見たらあんたも荒らしだからな?
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 14:02:06.06 ID:BVvF6H3N0
あんたもって荒らしてるって自覚あんならやめろよ
指摘とか批判とかどうでもよくてお前の目的は暇つぶしの遊び場感覚なんだろ
批判部分に否定はしてないし捏造までしてって言ってるだけ
ここまで言って引かないならもうだめだろこいつ
563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 14:11:02.88 ID:u9HQTRWr0
泥仕合乙
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 14:36:26.03 ID:OWJffGdMO
最初から触れなければ良いのに……
そこまでして噛み付く意味が分からない
565 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/02/08(木) 14:48:11.88 ID:qhEh2zmnO
続けます。
566 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/08(木) 14:58:01.47 ID:qhEh2zmnO
【クィーンズベル城 客室】

魔法使い「脳筋の戦士が試合を断るなんてめずらしいわね」

戦士「いやぁ〜、うん、ははっ」ショボン

武闘家「大方また負けるのが怖かったんだろうさ」

戦士「むっ」

魔法使い「あ〜、悪いこと言っちゃった?」

戦士「いや……。正直、なにも言い返せない」

武闘家「剣でもふってくるといいよ。身体を動かしてりゃ余計な考えは浮かばない」

戦士「う、うん。そうだな。そうする……」テクテク

武闘家「戦士」

戦士「なんだ?」

武闘家「自分に、負けるなよ」

戦士「……あぁ」バタン

魔法使い「ちょっと、もう少し優しい言葉かけてやりなさいよ」

武闘家「課題は見えてるんだ。立ち直るかどうかはあいつ次第だね」

魔法使い「……はぁ。つまんないなぁ〜」

武闘家「マクでも探してきたらいいんじゃないさ?」

魔法使い「いい考え! ……待って、まだ街にいるの?」

武闘家「いると思うよ」

魔法使い「それならそうと早く言ってよね〜! っと。それと、僧侶」

僧侶「はい〜?」

魔法使い「あんたのその間延びした口調! 作ってたのがよぉ〜くわかったわ! 今度からは普通に喋りなさいよ!」

僧侶「なぜですかぁ?」

魔法使い「たまぁ〜にイライラするから。なんていうの? レスポンスが遅くて」

僧侶「はぁ〜」

魔法使い「だからっ! そういうところ!」

僧侶「でもぉ、普段はこうですしぃ」

魔法使い「ハキハキ喋るのはよそ行き用ってわけ?」

僧侶「そうですねぇ〜」

魔法使い「親しき仲にも礼儀ありなんだからね? たまには普通に喋ってくれると助かるけど?」

僧侶「善処いたしますぅ〜」

魔法使い「……」ヒクヒク

僧侶「マクさんをお探しにどうぞぉ〜」ニコニコ

魔法使い「もうっ! 本当につまんないんだから!」タタタッ バタンッ
567 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/08(木) 15:15:21.45 ID:qhEh2zmnO
武闘家「僧侶。聞きたいことがある」

僧侶「くすくすっ。わざわざ人払いしてまで〜。勇者様のことでしょう〜」

武闘家「そうだ。さっき、“勇者として見られたくない”そう言ったね」

僧侶「はい〜」

武闘家「どういう意味だ? アタイも、勇者は勇者として思ってるし、見てる。それでいいと思ってる」

僧侶「根は深いのですよぉ〜」

武闘家「だから、それが意味がわからないと」

僧侶「この世界は、長い間、宗教の観念が色濃いのですぅ〜」

武闘家「……?」

僧侶「それもこれも、ルビス様を至上とする宗教主義が行政と思想に強い影響力を与えているからなのですがぁ〜。武闘家さんは、ルビス様に対する信仰はいかがですかぁ?」

武闘家「アタイは、人並みぐらいだと思うけど」

僧侶「そうでしょうねぇ〜、そう答えるでしょうねぇ〜」

武闘家「……」

僧侶「このクィーズベルの皇女様も、そして、私も、武闘家さんも。生きる人々すべてがみぃ〜んな勇者さまの影にルビス様の栄光を見ているのですよぉ」

武闘家「ルビスを、見てる……?」

僧侶「そもそも、勇者が凄いってなぜなんでしょうね〜?」

武闘家「それは、“ルビスの加護を受けてて、魔王を倒すという伝説の存在だから”」

僧侶「そうですよぉ〜。その言葉が自然と出てくるほど、私たちの生活の中にルビス様信仰はあるのですぅ〜。人並みと答えた武闘家さんであっても〜」

武闘家「……」

僧侶「誰が悪いではないのですぅ。でも、勇者さまはきっと、“そうなってみないとわからない”。そんな状況に苛まれているような気がしてぇ〜」

武闘家「よく、わからない」

僧侶「申し上げてるじゃないですかぁ。私たちはおもんばかることはできても、勇者さまが抱える悩みやお立場には、なってみないとわからないのですよぉ」
568 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/08(木) 15:31:19.09 ID:qhEh2zmnO
武闘家「……」

僧侶「おそらく、さみしさ。私だったらと考えると、そう思います〜」

武闘家「さみしい……って、あの勇者が?」

僧侶「単独で動かれるのを好まれる傾向にありますしぃ〜。姫さまがおっしゃっていた、私たちが信頼されていないというお言葉。あれにはドキッとしちゃいましたぁ」

武闘家「勇者は強すぎるから、自分でやった方が効率いいからじゃないの?」

僧侶「それも可能性としてありますねぇ〜。その方が手っ取り早い。そう考えているかもしれません〜」

武闘家「……」

僧侶「人の心情を掴むのは、靄の中にいるようで難しいですねぇ〜。決まったものではないのでぇ〜」

武闘家「アタイ達は、勇者にどう接するべきだと思う?」

僧侶「……わかりません」

武闘家「……」

僧侶「望むように、ある程度の距離感を保ちながらがいいのか。それとも、こちらから踏みこむのがいいのか」

武闘家「さすが童貞だな。繊細な上にめんどくさい」

僧侶「まだ時間が必要だとも思いますしぃ〜、このままだとなにも変わらないとも思いますしぃ〜」

武闘家「アンタ、ちゃんと考えてるんだね」

僧侶「もちろんですよぉ〜。将来の夫になっていただく方ですから〜」

武闘家「訂正する。ヨコシマな考えだ」

僧侶「私の師ならなんて言葉をなげかけるのでしょう〜……」
569 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/08(木) 15:59:40.85 ID:qhEh2zmnO
【クィーンズベル城 南西方向 廃墟付近】

手下「ジャンさーん! スコップ持ってきましたよー!」

ジャン「オラララララァッ!!」サクサクッ

手下「す、すげぇぇ。スコップの二刀流だ」

ジャン「野郎ども! 手を休めないで掘れ!」

手下達「へいっ!」

ジャン「ギガ・ドォリルゥゥゥゥッ!!」サクサクサクサクッ

手下「な、なぁ……なんで、あの人が仕切ってんだ?」

ジャン「私語するなって言ってるだろうが! 日が暮れちまうぞ!」

手下「……へい」

ジャン「あーはっはっはっ!! 豆腐のような土じゃないかァッ!! いいゾォ〜これ!」サクサクッ

手下「ジャンさん」

ジャン「……」ギロッ

手下「ひっ」

ジャン「俺は今なんつった? 波紋を……いや、スタープラチナ召喚してほしいのか……?」

手下「スタープラチナ……? い、いや、業務報告です。埋める物なんですが」

ジャン「そして時は止まる」ズギュゥゥン

手下「は、はい?」

ジャン「なんだよー。ノリ悪いなぁ。そこはURYYYも知らないの? 漫画ぐらい敬意をこめて読め」

手下「(へ、変人だ……)掘り起こした玉なんですけどね」

ジャン「新しいやつはこっちね」ジャラ

手下「了解です」

ジャン「(中身はただのビー玉にすり替え済みだけどな)」

手下「あと、剣なんですけど」

ジャン「あぁ、そういやあったな」

手下「これ、いかにも禍々しいオーラを放ってて。みんな怖がって持ちたがらねぇんすよ」

ジャン「呪いのアイテムらしいよ」

手下「ジャン殿にお願いしていいですか? なんだか妙に古めかしい作りしてますし、とんでもない呪いだったらと思うと恐ろしいんで」

ジャン「なんだなんだぁ? 盗賊団ってのは腰抜けばかりかぁ?」

手下「俺たちゃ、いわくつきとか得体の知れないものは嫌いなんでさぁ」

ジャン「まったくぅ。いいか? 見てろ? 呪いなんてものは大抵迷信なんだから」カチャン

手下「ちょっ、ちょちょっ⁉︎ な、なにをする気でっ⁉︎」

ジャン「なにって、鞘から抜くんだよ。刀身を」スラァ

手下「あーーーーっ!! あんたなんばしょっとぉっ⁉︎」
570 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/02/08(木) 16:19:45.07 ID:qhEh2zmnO
ジャン「む……こ、これは……」

手下「ひ、ひぃぃぃっ⁉︎ わざわいがぁっ」ササッ

ジャン「……なんもねぇわ」ポコン

手下「あいてっ! え? そ、そうなんですか?」

ジャン「見てみりゃわかる。ただの普通の剣」チャキ

手下「切っ先こっちむけないでくださいよっ⁉︎」

ジャン「(本当に普通の剣だな。なんでこんなもん埋めさせようとしたんだ?)」ジロジロ

手下「え、ジャン殿。なんか、気のせいですかね」ゴシゴシ

ジャン「……なに?」

手下「しり、尻が光ってますよ」

ジャン「んなバカな……」クルッ

手下「やっ、やっぱり呪いがっ!!」

ジャン「ほ、本当だ……えっ、なにこれ、痔になる呪い? そ、そんな呪いあり?」ペカー

手下「知りませんよ! きっと死ぬまでいぼ痔だが切れ痔に悩まされるんですよぉっ!」

ジャン「おおお、おちっ、おちけつっ、そ、そんな呪いがあるはずが……ケツ? ケツだって?」

手下「ほらぁっ! 剣まで光ってきてますしぃっ!!」

ジャン「な、なんだこれ……」ゴゴゴゴォォッ

手下「とんでもない呪いだったんですよぉっ! 抜くからぁっ! 本当バカバカバカバカンス!」

ジャン「……手下。俺、思い出した」ゴゴゴゴォォッ

手下「な、なにをです?」

ジャン「セリフな。そして時は止まるじゃなくて、動きだすの間違いだったわ」ゴォォオオオオオオッッ

手下「どうでもいいだろバカやろーーっ!!」
571 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/08(木) 16:36:27.19 ID:qhEh2zmnO
【竜王城 玉座】

シンリュウ「おはよ」

ベビードラゴン「もうお昼だすよー。お寝坊さんですねー」パタパタ

シンリュウ「まだ眠い」クァ

ベビードラゴン「昨日、オラが帰ってくるころには寝てたじゃないですかぁ」

シンリュウ「んだなすぅ。眠くて眠くてぇ」

ベビードラゴン「ほっといたら数年寝てそう……」

シンリュウ「ニンゲンにはあってきたんだっぺ?」

ベビードラゴン「もたろんだすっ! ちゃぁ〜んと言いつけを守ってきたっすよ!」

シンリュウ「勇者はクィーンズベルの近くにいるはずだなす。ちょっかいを出してどう動くか観察するべよ」

ベビードラゴン「国も潰せれば一石二鳥ですしねっ、ニシシッ、さすが竜王さまぁ〜っ! あったまいい!」

シンリュウ「……あんれ?」

ベビードラゴン「どないしただす?」

シンリュウ「玉座の横に置いてあった、“ロトの剣”があったっぺよ? あれ、どこさ持っていっただ?」

ベビードラゴン「それなら、言いつけ通り、盗賊団に渡しただよ」

シンリュウ「誰の言いつけだっぺ?」

ベビードラゴン「やだんもぉ〜。シンリュウ様に決まってるじゃないすかぁ」

シンリュウ「わだすが、いつ、どこで、何時何分何十秒にそげなこといったのよ」

ベビードラゴン「呪いの剣を埋めておいてって言われたではないずかぁ」

シンリュウ「それは言った。でも、この城の別の部屋にある“血塗られた剣”な?」

ベビードラゴン「え……」

シンリュウ「んでもって、ここに置いてあったのは“ロトの剣”な?」

ベビードラゴン「あ……」

シンリュウ「んで、最初に戻るけど、わだすがいつ言ったのよ?」

ベビードラゴン「あぁ〜用事思い出したっ! いっげね、こうしてる場合じゃ」パタパタ

シンリュウ「待てコラ」ガシッ

ベビードラゴン「ひっ」

シンリュウ「おめぇ……まさか、まさか、まさか、勇者が近くにいるのかもしれねってのに、わざわざ、ロトの剣を置きにいったのけ?」

ベビードラゴン「の、呪われてただすっ! それは間違いねぇすよ!」

シンリュウ「あの剣はなぁ、多くの魔物の血を吸ってる。呪われてるのは当たり前なのよ。でも、勇者が抜くと浄化される」

ベビードラゴン「へ、へぇ〜」

シンリュウ「勇者、いま、どこにいるんだっけ? マーキングしてるんだべな?」

ベビードラゴン「……んだなすぅ。サキュバスが服につけてるから。クィーンズベルの宿場のはずだす」

  ゴゴッ  ゴゴォッ  ゴゴゴゴォォッ

シンリュウ「んだ……地震か? 火山でも噴火したかな?」

ベビードラゴン「(誤魔化すチャンス!)み、見に行くっぺ! 竜王様!」
572 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/08(木) 16:58:40.89 ID:qhEh2zmnO
【アデル城】

大臣「お、王様っ!! あれを!」

王様「うむ! あれは、あの光の柱は……っ!」

大臣「見てください! 空にくっきりと紋章がっ! あれこそがっ、まさに伝説の……“ロトの紋章ッ”!!」



【ダーマ神殿】

大司祭「おおっ! つ、ついに……! ついに勇者様が伝説の宝具のひとつ、ロトの剣を……!」

子供達「わぁ〜。見て見てぇ。線が一直線に伸びてるぅ〜」

神官「そんなっ! これほどはやいとは……! ルビス様のお導きに感謝しなければ……!」

大司祭「こうしてはおられん! 子供達よ! 賛美歌の準備を!」

子供達「はーいっ!」タタタッ

神官「祝福を! 勇者の旅路にさらなる栄光が降り注ぐよう!」

  喜び、それは、美しき神々の閃光。
  楽園からの乙女。

  われらは熱情に酔いしれて
  汝の聖殿に踏み入ろう。

  汝の魔力は世の習わしにより
  冷たく引き離されたものを再び結び付。

  勇者の優しき翼のもと
  全ての生物は兄弟となる。


【クィーンズベル城 姫の自室】

メイド「ひっ、姫さまぁっ!」バターン

姫「ええ、ええ……っ! 窓から見てる……っ、ああ、なんという……神々しい光なんですの……」

メイド「お城中、いえ、国中大騒ぎです! あの規模の光なら、アデル、クィーンズベル、ハーケマル……全ての大地から確認できるでしょう!」

姫「勇者……」



【クィーンズベル城 鍛錬場】

戦士「これは、どうしたことだ……」



【クィーンズベル城 客間】

武闘家「す、すごい……なんだ、あれは……」

僧侶「……」ジー



【クィーンズベル城下町 宿場】

魔法使い「なに……あれ……」ポカーン
573 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/08(木) 17:21:40.97 ID:qhEh2zmnO
【数十分後 魔王城 玉座】

シンリュウ「失礼いたします」ギィ

魔王「きたな。ひざまずけ。そして舌を噛んで死ね」

シンリュウ「……せめて、経緯を」

魔王「聞くまでもない。数十分前に、人間界でロトの紋章が確認された。その振動はこちらの“裏の世界”まで轟くものであった」

シンリュウ「……」

魔王「……シンリュウよ。勇者に、お前が保管するロトの剣を渡したな……?」ゴゴゴッ

シンリュウ「……」

魔王「余を、この私に対して、背信行為を働いたのだな?」

シンリュウ「誓って、そのようなつもりはなく」

魔王「結果はどうであれご覧の通りだ。人間達が活気づく。貴様はそれに加担した」

シンリュウ「……はい」

魔王「これまでの功労を讃え、一日の猶予をやる。それまでに後任の竜王を決めておけ」

シンリュウ「はい。もったいなきお言葉」

魔王「竜王よ。私は、ガッカリしたぞ」

シンリュウ「……っ」ギュゥ

魔王「……行け。二度とその顔見とおない」

シンリュウ「失礼、いたします」
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 22:02:42.59 ID:zPnad9zco
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 22:03:03.23 ID:osXsYQdNO

面白くなってきた
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 22:47:52.90 ID:Ef9vFiBd0
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 23:59:35.78 ID:3ndwvN2ro
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/09(金) 00:17:10.31 ID:7ep1IDk30
失礼します
私はpixivで絵師活動をしている者です
作者様のSSがとても面白く、刺激され創作意欲がわいてきました
応援もかねてイラスト並びに手書きMADを作成させていただきたいのですがいかがでしょうか
よければお時間をいただいてからサンプルを送らせていただきたく存じます

手書きMADに使用される楽曲は「英雄」が合っていると思います
https://youtu.be/vKJpwVaYOSY
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/09(金) 01:31:42.44 ID:ryhaEccA0
>>578
どうでも良いからsageろゴミクズ
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/09(金) 01:37:13.56 ID:mb4a/myF0
ゴミクズって言い方は無いだろ
せっかくやってくれるというのに
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/09(金) 03:07:37.45 ID:01uE/8IDO
別に必要でも無いから勝手にどうぞってモノで有難がるモノじゃねぇだろww
>>1でも無いのにageてんだから非難されるのは当然
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/09(金) 04:13:13.40 ID:FKN349pv0
いつもの単発構ってちゃんなんだから反応するなよ
いい加減に学習しろよ戦士以下かよ
583 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/02/09(金) 11:39:29.32 ID:REU529SCO
>>578
わざわざ確認していただいてありがとうございます。
大変嬉しく思ってます。
キャラクターの外観は勇者の見た目がかわいらしいとか髪は何色だ、勇者パーティはみんな美人だとかフワフワっとした特徴しかなく、触れてすらいないのが大半でございます。
というのも、書いちゃうと今よりもっとテンポが崩れちゃうので。
本当はそこまでいれてもいいんですけどあえて崩して書いてる部分が多くあります。

地の文のない台本形式は基本的に描写の約8割〜9割をキャラに喋らせるか間を持たせるなどして成立させています。
残りは補助的な擬音ですね。
そこを逆手にとるじゃないですけど、開き直って各個人のイメージにまかせてますという良い風にしてます。
制限はありませんので自由に書かれて大丈夫です。
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/09(金) 12:52:33.61 ID:7ep1IDk30
了解です!下書き完成したら貼らせていただきます!
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/09(金) 13:02:39.62 ID:nkiTUtbRO
メール欄にsageって入れないと迷惑がられるのは分かっとけよ。基本ageるのは作者だけだ
586 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/09(金) 22:03:06.48 ID:erdwcehdO
【魔王城 通路】

ベビードラゴン「りゅ、竜王さまぁ、あのぅ〜」シュン

シンリュウ「なにも喋るな。城に帰るぞ」

ベビードラゴン「ひぐっ、ず、ずびませぇ〜ん」

サキュバス「くっくっ、あっはっはっ!」

リリス「竜王の失態! 大っ失態っ!」

シンリュウ「……」

ベビードラゴン「淫夢族……」

サキュバス「まだ生きながらえていたとはね。魔王様の前で命乞いでもしてきたか?」

リリス「サキュバスさまぁっ、そんな傷口に塩塗ったらかわいそうですよぉ〜。どうせ極刑は免れないんですからっ」

ベビードラゴン「きさまらぁっ! こちら竜王様であらせられるぞ!」ギロッ

サキュバス「廃位される王でしょ? ……そうよね? 竜王殿?」

ベビードラゴン「え……そ、そんなっ、竜王様っ! うそ、うそですよね……?」

サキュバス「魔王様は一度下した決断を覆したりはしない。なぜなら、絶対王だから」

シンリュウ「……退け。淫魔の王よ」ギリッ

リリス「あらあらぁ? よくみたら拳握りしめてぇ。我慢してらっしゃるのぉ?」

サキュバス「それはいけないねぇ。我慢は身体に毒だ。我らでガス抜きをしてやろうか」

ベビードラゴン「……お、オラのせいで……」プルプル

サキュバス「オマエが気に病むことはないのよぉ〜? 子の失敗は親の責任。部下もまた、然り。ね?」ニタァ

シンリュウ「ふぅ……五月蝿い。そこを退けと言った。いくぞ、ベビー」コツコツ

サキュバス「――……貴様ッ!! 自分のしでかしたことがわかっているのかッ!! 竜王ッ!!」

シンリュウ「……」ピタ

サキュバス「勇者にロトの剣を差し出すようなマネをしおってっ!! あの勇者に……ッ!!」

シンリュウ「……これはこれは。そういえば淫王は勇者にこっぴどくやられた経験がおありでしたね?」

リリス「さ、サキュバス様ぁっ。薮蛇ですよぉ〜」

サキュバス「貴様は対峙したことがないからわからんだけなのだ! 魔王様に対する脅威! その脅威に更に力を与えたことを責めておる!」

シンリュウ「責任は、とれない」

サキュバス「ぬけぬけと……ッ!」

シンリュウ「……次の竜王に望みを託す。私は、これまでのようだから」

ベビードラゴン「りゅっ、竜王様ぁっ!」ウルウル

シンリュウ「城に帰る。お前まで何度も言わせるな」
587 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/09(金) 22:23:37.19 ID:erdwcehdO
【魔王城 玉座】

魔王「おのれ……っ!」ブンッ カランカラン

大臣「魔王様。おいたわしや」

魔王「なぜだっ! なぜこうも勇者に関わることになると裏目にでるっ!」

大臣「竜王は、あやつの落ち度で……」

魔王「今回だけではない! 成人の儀まで見つけられなかったこと! ……これではまるでなにか強力な“引力”が働いてるようではないか⁉︎」

大臣「お気を強くもたれなさいませ」

魔王「弱気ではないッ!出来過ぎていると申しておるのだッ!」ゴォッ

大臣「ひっ」

魔王「余は腹心の一匹を失う! 勇者は新たな力を手に入れた! やつの失ったものはなんだ……? やつは、なにをした? なにもしていないではないか……」

大臣「我々の自爆でございますに」

魔王「竜王はバカではない!」

大臣「左様でございます。しかし、部下の管理がなっていなかったのは……」

魔王「……」

大臣「ご心中お察しいたします。今代の竜王の代わりとなるものは、間違いなくまた弱くなるでしょうから」

魔王「……」ギリッ

大臣「明日、処刑を執り行います。竜王が逃げないか監視をつけますか?」

魔王「心配は無用だ。アレはそういうタマではない。甘んじて死を受け入れるだろう」

大臣「御意に」
588 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/09(金) 22:46:07.55 ID:erdwcehdO
【クィーンズベル城 南西方向 廃墟付近】

ジャン「お〜いてて」ムクッ

手下達「」

ジャン「全員気絶してら。すっごい衝撃波だったもんなぁ」チャキ

テレレ レッテッテッテッテー
▼勇者はロトの剣を手に入れた!

ジャン「なんだろう。なにも努力してないのに手にいれた有り難みのなさ……」

  ドドドドドッ

ジャン「ん? 馬の蹄の音……?」

兵士「こっちだぁーっ! こっちの方角から光の柱があがったぞーっ!」

ジャン「おや? あれはクィーンズベルの兵士達でない? さてはさっきので……手下達を起こさにゃ」

手下達「」

ジャン「いや……でも待てよ? 弟は取り返した、井戸が枯れた原因は突き止めた、盗賊のアジトもわかった、どの魔族かもわかった……あれ? 俺なんで穴掘りなんかやってたんだっけ……」

手下「う、う〜ん」

ジャン「あれれ? これってもう俺ってば、お役御免でいいんじゃない?」

手下「うぅ……さっきの、光はいったい……」ムクッ

ジャン「ていっ」トスッ

手下「あふん」ドサッ

ジャン「アジトで気絶してるお頭も捕まるだろうし、あとは兵士達にお任せして俺はトンズラすっか」

手下達「」

ジャン「俺を恨むなよ……。恨むなら自分達の不運を呪うがいいっ!! さらばだっ!!」シュタッ
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/09(金) 23:37:07.17 ID:NzgF/zDpO
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/10(土) 01:53:51.02 ID:Q6DRywsj0
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/10(土) 07:45:55.02 ID:DoDAKfKCO
592 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/10(土) 11:18:41.28 ID:D1nh3B2VO
【竜王城 玉座】

シンリュウ「ふぅ……次期竜王の選別を行う。カイザードラゴンを呼んでまいれ」ドサッ

ベビードラゴン「オラのせい、オラのせいで」ブツブツ

シンリュウ「ベビー……」

ベビードラゴン「……うっ、そんなっ、うぅっ……」ポロポロ

シンリュウ「ベビー!」バンッ

ベビードラゴン「……っ!」ビクゥ

シンリュウ「済んでしまったことだ。気にするのはおやめ」

ベビードラゴン「でっ、でもっ」

シンリュウ「これからのことを考えねばならない。一族を守る。それだけを考えるのだ。魔王様の取り計らいで、わたしだけで済んだ。それで良しとしよう」

ベビードラゴン「りゅぅ、おうさまぁっ」

シンリュウ「よくお聞き。我ら魔族は魔王様の圧倒的カリスマで統率を保っておるが、各種族の横繋がりは薄い。いがみあっておると言ってもいい」

ベビードラゴン「……」

シンリュウ「我が背信行為をしたという事実。その責を問い、末席に追いやろうと計略するものがいる。誰か、わかる?」

ベビードラゴン「サキュバス、ですか?」

シンリュウ「そう。あれはしたたかだ。他の獣王や巨人王は知能が足りない。サキュバスは、これを機に魔王様のご寵愛を一身に受けようとするはず」

ベビードラゴン「(竜王さまをオラの前でバカにした……! 報いは必ず万倍にして返す……!)」

シンリュウ「後任の竜王には、辛酸を舐めさせような辛い思いをさせることだろう。残念だが」

ベビードラゴン「そっそんなっ! 竜王様はなにも悪くないとオラが言います!」

シンリュウ「やめよ」

ベビードラゴン「なっ、なんでだすかぁっっ⁉︎」

シンリュウ「既に裏世界でも噂になっておろう。私の部下が、ロトの剣を渡したと。ベビー、お前の話題だ」

ベビードラゴン「だっ、だからっ! 私が責任をもってっ!」

シンリュウ「生きよ。生きて立派に魔王様、次期竜王に忠をもって尽くせ」

ベビードラゴン「……っ」

シンリュウ「奪還しようにも時間がなく、勇者はもはやどうしようもないが、やらかした責任は私が墓まで持っていく」

ベビードラゴン「い、いやだぁっ!」ポロポロ

シンリュウ「これがお前の罰なのだっ!!」バンッ

ベビードラゴン「堪忍してぇっ。竜王様だけを逝かせるなんて」

シンリュウ「くるしかろう。死ぬよりももっと辛い想いを抱いてこれから生きていかなければない。何度も思い出して、後悔して……それでも、腐らず前を向いて生きていかなければならない」

ベビードラゴン「うっ、うっ、うわぁぁぁあんっ!」ポロポロ

シンリュウ「生きる。それがお前に化す、わたすからの罰」

ベビードラゴン「……うっ、うっ……」ポロポロ

シンリュウ「わたすが死ぬことで同族からも忌み嫌われるだろう。耐えて、必ずやわたすの志を紡いでおくれ」

ベビードラゴン「あぁあぁぁっ! びぃやあああっ」ポロポロ

シンリュウ「……よいな。なにもするな。さぁ、カイザードラゴンを呼んでまいれ」
593 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/10(土) 11:37:46.87 ID:D1nh3B2VO
【竜王城 通路】

カイザードラゴン「どのツラさげて……ッ!」ビターンッ

ベビードラゴン「竜王様が、およびでずっ、ぐすっ」

カイザードラゴン「貴様……なぜ泣いているのだ。まさか、竜王様の前で泣いていたというつもりか……?」

ベビードラゴン「……ぐすっ、うっ……」

カイザードラゴン「バカも休み休みにしろ! 泣きたいのは我らだ!竜王様だ! お前以外の一族全員だっ!! このッッ大戦犯めッッ!!」ゴォッ

ベビードラゴン「ず、ずびませぇ〜ん」

カイザードラゴン「竜王戦の元にいく。少しでも申し訳ないと思うなら、明日の朝日の前に……自決しろ」

ベビードラゴン「竜王様はぁ、オラに生きろって……」

カイザードラゴン「な、なにぃっ⁉︎」

ベビードラゴン「……」シュン

カイザードラゴン「もし、もしも、私が次期竜王になったら、即座に八つ裂きにしてやる……!」

ベビードラゴン「うぅ……それじゃ、竜王様との約束が……」

カイザードラゴン「約束もへったくれもあるかッ! お前は生きていることが罪なのだ! その罪を! 私が断罪してやるっ!!」

ベビードラゴン「……」

カイザードラゴン「かばいだてするものは誰もいないぞ。勇者の元に行って、剣を奪還してくるぐらいの気概を見せたらどうだ」

ベビードラゴン「勇者の、元に……」

カイザードラゴン「竜王さまは生きておられる。お前にできることをしろ。一族のために。面汚しめ!」

ベビードラゴン「(そうだ。勇者を探して剣を取り返せば……! 竜王さまも……っ!)」
594 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/10(土) 12:12:59.31 ID:D1nh3B2VO
【竜王城 玉座】

カイザードラゴン「馳せ参じました」

シンリュウ「優秀な個体を見繕っておくれ。お前の選んだ者の中から次期竜王を決める。無論、候補者にはカイザーも――」

カイザードラゴン「その前に! たしかめるまでもないですが……竜王様の口から直接! 噂の真相をお聞かせ願いたい!」

シンリュウ「噂には尾ひれがつくもの。ベビーは私の指示にしたがったまで」

カイザードラゴン「この後に及んで虚言を申されるのですかッ⁉︎ やつがロトの剣を持ち出したのでしょう⁉︎」

シンリュウ「それも、すべて、私のせいだ」

カイザードラゴン「では! 竜王様自らが勇者にロトの剣を渡したとお認めになるのですかっ⁉︎」

シンリュウ「そうではない。認めれば一族に災いがふりかかる。任せるものを間違えた。その責は私にあると言っておる」

カイザードラゴン「ベビードラゴンの処刑を今すぐにご下命ください! 我らの憤りは万の言葉をもってしても解消できませんっ!!」

シンリュウ「カイザー。いつも通り話すっぺ」

カイザードラゴン「……」

シンリュウ「ベビーはたしかにやらかした。んだども、なんとか、生かしてやっておいでぐんね?」

カイザードラゴン「アホぬかせぇっ! そったらこと認められっかあっっっ!!」

シンリュウ「おめぇらの憤りもわかる。でも、でもな? あいつのポテンシャルは、一族の誰よりだかいのよ」

カイザードラゴン「そっ、そったらこと」

シンリュウ「魔族は全体的に、世代交代するにつれてどんどん弱体化してってる。魔王様もお気づきのことなんだろうけどな」

カイザードラゴン「それがなんだっていうんだ! 人間より弱くならなきゃいいでねかっ!」

シンリュウ「わだすも同意見。だけんど、勇者っていう強力な個体がいる今、ちょっと不安。ちょっとだけな?」

カイザードラゴン「たかがにんげんだっ!!」

シンリュウ「それもそう。実際に力比べしてくりゃよかったと今になってさ、思うんだ。サキュバスが怯えきってるのがどーにもひっかかる」

カイザードラゴン「淫夢族など! 力はあまり強くないでねぇかっ!」

シンリュウ「ふふっ、わたすも死ぬと決まるまではなにからなにまでおんなじこと思ってた。ベビーは生きさせてあげてよ」

カイザードラゴン「……りゅ、竜王様……っ!」

シンリュウ「あの子が成長するまで、見守ってあげで。それが、一族のためになるがら」

カイザードラゴン「ば、ばかなっ!」

シンリュウ「呑んでくれれば、次期竜王選出なんで形だけでカイザーを指名してあげる。……遺言、聞いてくれるよな?」

カイザードラゴン「そっ、それでいいのか……大罪人になって、同族からツバをかけられるぞ」

シンリュウ「しかたねぇっぺよ。どうせ死ぬんだ。なにも怖いものなんかねぇ。屈辱は耐えればいい」

カイザードラゴン「……バカな王だ……」
595 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/10(土) 17:55:50.40 ID:nMxbtsuVO
【数時間後 宿場】

勇者「ふぅ〜、着替え完了っと。パーティメンバーどもはまだ道草くってんのか」パンパン

店員「あれ見たかよ! なんでも勇者様がこの国にいるらしいぞ!」ザワザワ

勇者「……」ササッ ピトッ

おじさん「でも、兵達が現場についたら盗賊団の一味しかいなかったって噂だけど。行列作って表通りを連行されてたじゃないか」

勇者「(よしよし、ちゃんと捕まえたみたいだ)」

店員「勇者様がいるのに疑う余地なんかないだろ。だって、光の柱があったんだから――」ザワザワ

勇者「うーん、どうしたもんか。このままノコノコとでてってパレードなんて開かれてもな。かといってこのまま消えちゃ鏡を探し出せてないし」

コンコンッ

勇者「おっ、ようやく帰ってきたか。今あけるよ」テクテク ガチャ

占い師「……」

勇者「あれ、お前――」

占い師「勇者は、どこだ」

勇者「うぅん、ごほん。……勇者? 誰だそれ? 人違いだよ」

占い師「嘘をつくな。マーキング反応が……っ⁉︎」ギョッ

勇者「マーキング? そんな犬猫じゃあるまいし」

占い師「……お前か……オマエが、勇者か……?」シュゥゥゥ

勇者「(なんだ、息が、できない)」

占い師「剣は、どこだッッッ!!」

勇者「かっ、かはっ、剣なら、背中に」キラン

占い師「……なんだ、その色はッ⁉︎ 剣は禍々しい紫だったはず、純白に輝いて……ハッ⁉︎」

シンリュウ『あれは多くの魔物の血を吸ってる。勇者が抜ぐど浄化されんのよ』

占い師「(間違いない……! こいつが、勇者……!)」

勇者「今度は俺じゃなくて、剣が、有名人か?」ガクッ

占い師「――どっちもに決まってるだろうがクソやろおおおおおッッ!!」ゴゴゴゴゴッ

勇者「おっ、息ができるようになった」

占い師「魔王様にッ!! 竜王様にあだなす勇者めっ!!」ギロッ

勇者「俺、なんかした?」

占い師「ぬぅぅぅっ!!」ゴゴゴゴゴッ

勇者「ちょっとストップ。ここでおっぱじめるの? 一般人多いから場所移さない? 日中だし」

占い師「しるかぁぁああああっ!!」

勇者「あぁそうかよ。だったらちょっと痛いけど我慢しろよ」シュン

占い師「……ッ⁉︎ き、消えッ⁉︎」

勇者「ふっとべ」ズパァァァァァンッ

占い師「ぎゃぅッ!」バコーーン ヒュー

勇者「昨日の件といい。修理代だけで何万ゴールドとられるのやら……はぁ〜」ガックシ
596 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/10(土) 18:17:29.54 ID:nMxbtsuVO
【クィーンズベル 郊外】

占い師「ぬぅぅぅっ!!」スポン ポン ポポポンッ

ベビードラゴン「――ぷはぁっ! ん、んだぁ? いまのパンチは……」キキッ

勇者「おーーーいっ」ダダダッ

ベビードラゴン「いてて……」パタパタッ

勇者「おーーいってば〜! 俺は空までサポートしてないんだよー! 降りてこいよー! じゃないと撃ち落としちゃうぞー!」

ベビードラゴン「だれがおめぇの言う通りになんかすっか! くらえっ! 火炎の――」

勇者「ライデイン」ピュン

ベビードラゴン「わっ⁉︎」バサッ

勇者「ホッホッホッ。あなたにこのフリーザ様のデスビームを避けられますかねェ」ピュン ピュン

ベビードラゴン「ちょっ⁉︎ まっ! っとぉっ! わぁっ!」バサッバサッ

勇者「ほぉ、避けてるってことは稲妻の速度が見えてるのか。すげーじゃん。今まで出会った中でお前がはじめてだ」ピタ

ベビードラゴン「はぁっ、はぁっ、お、おわった……?」

勇者「ライデインver.2」バチ バチバチィ

ベビードラゴン「な、ななななっ⁉︎」

勇者「ここまで私をコケにしたのはあなたがはじめてですよ……ジワジワとなぶり殺しにしてくれるっ!!」クワッ

ベビードラゴン「な、なんだかわかんないけど、火炎の息ッ!!」スゥゥゥ

勇者「フバーハ」ポワァ

ベビードラゴン「ばかめっ! これは魔法なんがじゃねぇっ! 耐火魔法でふせげると思うなよっ!!」ゴォォォッ

勇者「そ、そうなん? え、じゃあ、どうしよ。しまった。フリーザも変身前にやれって誰かが言ってたの。先手必勝の教えを活かせなかった」アタフタ

ベビードラゴン「(かっ、勝った! 骨まで溶けておしまいだっ!!)」ボォォォォッ

勇者「えーと、とりあえず、格好だけでもつけとくか」スラァ

ベビードラゴン「しねぇっ!! 勇者ぁっ!!」
597 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/10(土) 18:40:27.20 ID:nMxbtsuVO
勇者「ほいっ」ブンッ

――シュパァァァァァン――

ベビードラゴン「……え?」ブシュゥ

勇者「お、おぉ……マジかよ」

ベビードラゴン「な、なんだ、今のは」ヒュー

勇者「(俺が聞きてえよ。この剣は……離れてる相手を切るとか斬撃が飛ぶとか、そんなチャチなもんじゃねぇ……炎を、まるごと“空間を切り裂いた”……?)」

ベビードラゴン「あぅっ」ドサッ

勇者「なんというチート。こんなもん使って歴代の勇者は戦ってきたの? そら勝てるわけじゃん。こりゃ封印たな」チャキン

ベビードラゴン「……うっ、く、ぐぞぉっっ!」ググッ

勇者「ちょいまち。結構パックリ切れちゃってるだろ。今回復してやっから。ベホマ」ポワァ

ベビードラゴン「か、回復なんかすんなぁっ! おめぇ、魔族の誇りに泥をぬって辱めようというんだな! さすが勇者汚い!」

勇者「褒めてるのか貶してるのかよくわからん」ポワァ

ベビードラゴン「やめっ、やめろぉぉぉっ」ジタバタ

勇者「治してるそばから傷口開いてるじゃねーか」

ベビードラゴン「オラは、剣を持って帰って、竜王様を……!」

勇者「あ? なんだ、剣がほしいのか? なら最初から言えばいいのに」カチン パチン

ベビードラゴン「……?」

勇者「ほら。持ってけ」ポイ

ベビードラゴン「え」ポカーン

勇者「それは危ねぇわ。持ってても使わないからあげる」

ベビードラゴン「えぇっ⁉︎」

勇者「なぁなぁ、さっき息できなくしたのどうやったん? 火炎の息よりもアレメインに使った方がいいと思うよお前」ポワァ

ベビードラゴン「いや、アレは。まわりの空気吸って、真空にするっていう」

勇者「あー! なるほどね! 竜族の肺活量ならではってわけか! やばいね! 俺だって酸素吸わなきゃ死んじゃうし!」

ベビードラゴン「あの……ほんどにいいのけ?」

勇者「なにが? 剣? うん、いいよ」

ベビードラゴン「だ、だども」

勇者「気にするなって! 困った時はお互いさまだろ!」

ベビードラゴン「いや、そうではなぐで。魔族がニンゲンにもらって帰ってぎだって知られたら」
598 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/10(土) 19:04:22.24 ID:nMxbtsuVO
勇者「あー、そうな。かといって死んであげるわけにゃいかないしなぁ」

ベビードラゴン「おめぇ、つ、強いんだな」

勇者「勝負じゃなくて武器の性能だろ。ガキでも勝てちまうわ」

ベビードラゴン「ほどんど遊んでただろ。それぐらいわかる」

勇者「お前もちゃんとしたとこ見せるまでやれなくてすまなかったな。実力確認する前に終わるとは思わんかった」

ベビードラゴン「サキュバスにも、勝ったんだっぺ?」

勇者「あのグラマラスなおねーさん? 記憶がほとんどなくてねぇ……治ったぞ」

ベビードラゴン「……」サスサス

勇者「仕切り直しでもういっちょやる?」

ベビードラゴン「できれば――」

勇者「よしきた、それじゃあ」パンパン

ベビードラゴン「――ニンゲンの浅知恵を貸してくんろ」

勇者「あぁん?」

ベビードラゴン「こうなりゃ恥やプライドも捨てる竜王様をとにかく、助けてぇんだ。ニンゲンはコソコソやるのが好きなんだろ? そうだっぺな?」

勇者「なにがあったんだ? 魔族が人間に縋るなんてよっぽどだろ。しかも、俺ってば勇者よ? ひどい裏切り行為なんでない?」

ベビードラゴン「うっ……!」

勇者「悪かった悪かった。詳細話してみろ」

ベビードラゴン「(ほ、本当に、話していいんだべか。竜王様、きっとすごくお怒りになる。魔王様も、オラを許してくんね。で、でもっ)」

勇者「……」

ベビードラゴン「(こ、こいつには、本気でやっても勝てそうにない気が、する。たぶん、勝てない)」

勇者「どした?」

ベビードラゴン「に、にんげんよ」

勇者「なんだね?」

ベビードラゴン「こ、この場のやりとりは、墓まで持っていくと、約束するか?」

勇者「なに? そんなに大それた話? よっぽど必死なんだな。会ってすぐのやつに縋るなんて」

ベビードラゴン「時間がないのだ! 時間があれば、お前なんかに……!」

勇者「わかった。約束する」

ベビードラゴン「よ、よし。ならば、あとで魂の契約を交わせるか?」

勇者「えぇ〜なにそれ」

ベビードラゴン「口約束なんか信用できっか!! できないなら喋らねぇど!」

勇者「いや、お前が……まぁ、いいよ。話が進まないから」

ベビードラゴン「よ、よし。本当だな? やっぱりやーめたっとか無しだかんな?」

勇者「はいはい」

ベビードラゴン「――……実は、かくかくしかじかで」

599 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/10(土) 19:18:02.02 ID:nMxbtsuVO
勇者「剣間違えて持ってきちゃったんだ? てことはだ、正規ルートでいけばラスボス手前とかの最強アイテムが序盤も序盤で手に入ったみたいな?」

ベビードラゴン「うぅ」シュン

勇者「お前人間の姿のままでいたら? 元に戻ると本当マヌケじゃん。喋り方もなんだか訛ってるしさぁ」

ベビードラゴン「そったらことどうでもいいだろ! 剣持ち帰っただけじゃ! きっと魔王様は持ち出した失態を取り消しはしねぇっ! 竜王様が死んじゃう!」

勇者「俺に勝って持ってきたっていうのもなぁ」

ベビードラゴン「騙せるのは何匹かいるかもしんね。魔王様は心の奥の奥まで見通すお方だ。肝心のあのお方を納得させるプランでねぇと」

勇者「そんなに大事か? 竜王ってのは」

ベビードラゴン「命よりも、誇りよりも、なによりも大切なお方だっっ!!」

勇者「そうか。じゃあ、取り引きしないか。魔王への伝言を頼みたい」

ベビードラゴン「伝言?」

勇者「俺は、勇者やめたがってる。そう伝えてほしいんだ」

ベビードラゴン「そんなウソついて。なに企んでるかしんねぇけど信じるもんか」

勇者「いや、信じさせる妙案を思いついた」

ベビードラゴン「……」ジト〜

勇者「どうする? 乗るか乗らないかは決めていいよ」
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/10(土) 21:46:45.83 ID:9k6G9V9DO
実は魔王も魔王やめたがってたりしてな
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/10(土) 22:08:06.90 ID:7ks2HcNWO
602 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/10(土) 22:17:11.39 ID:nMxbtsuVO
【数時間後 竜王城 玉座】

シンリュウ「――ほんで? おめぇが勇者に勝ってこの剣を取り戻しでぎだってのけ?」

ベビードラゴン「……」パタパタ

カイザードラゴン「どうしたッ!! はやく答えろッ!」ビターンッ

ベビードラゴン「そうだす。勇者は強かったんけんど、取り戻すことができただす」

シンリュウ「ふぅ〜ん?」チラ

カイザードラゴン「竜王様。ここに、勇者の腕が」ゴトッ

ベビードラゴン「……」

シンリュウ「たしかに、間違いなくニンゲンの腕だな?」

ベビードラゴン「勇者本人のものだす。噛み切ってやっだなす」

シンリュウ「……ニンゲンの腕ではあるが、勇者本人のものとは」

ベビードラゴン「血を飲めばわかるはずだす」

シンリュウ「血を……?」

ベビードラゴン「ルビスの加護。オラも噛み切った時にはじめて知っだけんど、その加護の宿った人間の血は、魔族にとって毒だなす」

カイザードラゴン「それはまことか……!」ペロッ

ベビードラゴン「……」

カイザードラゴン「うっ、まずっ! な、なんだこの臭みは。これでは野ウサギの方がまだマシだ、ぺっぺっ」

ベビードラゴン「これまで飲んだことの味というのが証明になるはずだす。魔王様に謁見の許可を。竜王様」

シンリュウ「謁見して、なにをするづもりだ?」

ベビードラゴン「ただ、ありのままを報告するだす。隻腕(片腕のこと)になったのは、魔王様にも報告せねばならぬこと」

シンリュウ「わだすではなくお前がか?」

ベビードラゴン「現竜王様は、魔王様のご機嫌を著しく害しておられるだす。会ってくれるかどうかもわからないだす」

カイザードラゴン「勇者の腕をもぎとってにたとあれば……! 竜王様っ!」

シンリュウ「まだわだすは竜王だ。ベビー……嘘はついてない?」

ベビードラゴン「誓って。嘘なんかついてねぇ」
603 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/10(土) 22:46:01.71 ID:nMxbtsuVO
【数時間前 クィーンズベル 郊外】

勇者「勇者によるワンポイントレッスン! はぁじまーるよぉー!」

ベビードラゴン「……」ポカーン

勇者「拍手! 歓声!」

ベビードラゴン「わ、わぁ〜」パチパチ

勇者「うむ! いいか、まず本作戦のキモはいかにしてウソがばれないかだ! といことは、つまり、大大大大前提としてウソをつく! これをまずわかれ!」

ベビードラゴン「いや、そったらごど言われんでも」

勇者「いいや! わかってない! ウソを舐めるな! ウソなんてものはすぐボロがでちまうもんだ! まず、第一の基本! ポーカーフェイス!」

ベビードラゴン「……」キリッ

勇者「わざとらしいわボケナスゥッ! 自然体でいいんだよ自然体で。ポーカーフェイスは決して動じないこと。これに尽きる。予期せぬ質問がきても鉄仮面をかぶれ」

ベビードラゴン「は、はいっ!」

勇者「魔王であっても竜王であっても本当に心が読めるわけじゃないんだ。忠誠を誓っているのに、後ろめたい気持ちなくウソをつけるか?」

ベビードラゴン「が、がんばるっ」

勇者「やれ。絶対にやりとげろ。じゃなきゃ竜王が死ぬ。いいな?」

ベビードラゴン「……」ゴクリ

勇者「実際目で見た情報があれば信じやすい。それは変わらん。これ視覚から訴えかける情報量が強い。獣族は嗅覚かもしれんが」

ベビードラゴン「うんうん」

勇者「まずは竜王城に帰り。勇者と戦ってきて勝ったと報告しろ。喋るときは淀みなく喋れよ? かといって饒舌になりすぎず、普段通りだ。聞かれる前に証拠を差し出せ」

ベビードラゴン「証拠ってなに? 剣? んだども、それじゃ信じてもらうには」

勇者「俺はリリスなどを逃したことがあるから、魔族に温情や同情をかけたと思われるかもしれん」

ベビードラゴン「うん」

勇者「というわけで、俺の左腕を噛みちぎれ」

ベビードラゴン「へ?」

勇者「どっちみち、剣だけで信じてもらえても取り返しただけってことで竜王は死ぬ。管理体制が甘いとか、不祥事の責任っていわれたらそれまでだから」

ベビードラゴン「そ、そりゃぁ、そうかもしんねけど」

勇者「さらなる特典が必要だ。恩賞をかけてもらえるだけの。俺も死ぬわけにゃいかんから利き腕じゃない腕が精一杯」

ベビードラゴン「ほ、ほんきかっ⁉︎ おめぇっ⁉︎」

勇者「(ニートになるための必要な犠牲と思えば)……本気だ!」

ベビードラゴン「……ま、マジ……?」

勇者「たぶん、オナニーを左手でできんのが不便だなくらいだと思う、きっと、おそらく」

ベビードラゴン「いや、もっと色々不便になると思うけんど」

勇者「そんで、竜王を突破したら次は魔王だ。魔王は竜王の命運の決定権を持っている。ここはわかるな?」

ベビードラゴン「う……いや、腕を無償で差し出されたら……魔族の名が……」

勇者「竜王のためになんでもするんじゃなかったのか! プライドは捨てろ! 誇りなんて忘れちまえっ!」

ベビードラゴン「うぅ……わがっだよ、わがった」

勇者「魔王には、こう切り出すんだ? 今から俺が言うことをよぉ〜く覚えて帰れ」
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/11(日) 02:36:11.79 ID:qh7jP0to0
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/11(日) 10:38:18.78 ID:rA9nObNIO
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/11(日) 21:45:21.86 ID:eTC3CND90
【旧最大財閥】三井グループ社員の一生.グループ内で余裕で暮らしていけることが判明.
http://youtubelib.com/mitui

戦前まで、日本最大の財閥であった三井グループ。現在でも、日本三大財閥の1つとして、経済界をリードする存在です。
そんな三井グループの月曜会には、金融、製造、不動産からメディアまで、日本を代表する名だたる企業が軒を揃えます。これだけ多岐にわたり、影響力を持つ三井グループなら、グループ内で生活が成り立つのではないか。
そこで今回は、『三井グループ社員の一生を物語風』にしてみました。
607 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/12(月) 14:53:53.37 ID:zhSyHYbEO
【魔王城 玉座】

魔王「――ほう。“この腕のかわりに竜王の死罪を取り消せ”と。そう申すのか」

ベビードラゴン「……」コクリ

大臣「開口一番で要求とはなんたる無礼な!」

魔王「……よい」スッ

大臣「魔王様⁉︎ 絶対王が一度下命したものを取り消すなどど!」

魔王「そう早合点するな。取り消すとの意味ではない。ベビードラゴンよ、ちと気を急いたのではないか?」

ベビードラゴン「オラの望みは魔王様であればこそ、最初から見当がついてるはずだなす。先にご提案したまで」

魔王「慕う王と、一族の地位、そのどちらも守れる。たしかにな」

ベビードラゴン「バカなのは恥ずべきことかもしんね。けど、オラは頭良くねぇのわかってるから」

魔王「“札(カード)”を最初から切ったわけか」

ベビードラゴン「本来なら魔王様から褒美を与えると言われるまで待たなきゃ失礼にあたるのは、オラでもわかります」

魔王「ふぅん……勇者の強さ。それに打ち勝つのは並大抵のことではなかったはず。……お前は無傷のまま綺麗な体をしているな? なぜだ?」

ベビードラゴン「おそらく、勇者はまだ本気ではなかったと思うのだす」

魔王「ならば、あえて剣を差し出しされたと、そういうことか?」

ベビードラゴン「いんや。そうじゃねぇだなす。あれが対峙した時の本気だったとも思うだなす」

大臣「魔王様にむかって適当なことを申すでない!」

ベビードラゴン「オラは忠義をもって包み隠さず報告しているだけだなす」

魔王「虚偽の発言ではないとすれば、どういう意味だ?」

ベビードラゴン「“覇気がなかった”そう思うだす。やる気がないといった方が正しいかもしんね」

魔王「なに……? 勇者のやる気が……? わざと負けようとしたのではないか?」

ベビードラゴン「わざとにしても、腕を噛みちぎられる人間なんているはずがないだなす」

大臣「うむぅ」

ベビードラゴン「恐れながら申し上げさせていただきますと――」

魔王「なんだ? かまわんから続けろ」

ベビードラゴン「勇者は、勇者であることを嫌がっていただなす」

大臣「なにを言うかと思えば……バカバカしい」
608 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/12(月) 15:32:35.12 ID:zhSyHYbEO
【数時間前 クィーンズベル 郊外】

ベビードラゴン「い、いきなり要求なんかしちゃ機嫌悪くなっちまうんじゃないだべか?」

勇者「ばかたれ。どうせ最初から機嫌は悪いんだから気にしなくていいんだよ。いっそのこと開きなおれ」

ベビードラゴン「そ、そうはいっでも」

勇者「ご機嫌とりなんかしなくていいんだ。求めるものは怒られる度合いを減らすことじゃなく要求を通すことだろ?」

ベビードラゴン「でも、機嫌が良い方が。お願い通りやすくなっぺよ」

勇者「だから腕を持って帰る。これは色々な用途の効くエサだ」

ベビードラゴン「ほんとに信じて大丈夫だべか」

勇者「頭が良くて慎重なやつほど、用心深く観察してくる。そういうやつは騙しにくいと、そう思うか?」

ベビードラゴン「……よぐ、わがんねぇげと」

勇者「実際は真逆だ。そういうやつほど胡散臭いことにハマりやすいし騙されやすい。なぜなら、頭がいいからな」

ベビードラゴン「?」

勇者「インテリってのはなぁ、極端だが、なぁーんにも意味がないことを意味があるんじゃないかと考える」

ベビードラゴン「魔王様も、そうなんか?」

勇者「わからん」キッパリ

ベビードラゴン「……」

勇者「そうであってほしいという博打はぶっちゃけてある。今回は、そこに俺の腕と、お前の命と、竜王の命までワンセットで賭ける」

ベビードラゴン「えぇ……」

勇者「無理難題を通すにはある程度の無茶も必要だってことだ。なにしろ、時間がない。最低限の準備が済んだだけ。“騙せる下地”を作っているにすぎん」

ベビードラゴン「う、うぅん」

勇者「お前が独力で剣を奪い、腕をかみちがってきたと騙せるかどうかは、でたとこ勝負ってとこだな」

ベビードラゴン「無理なような気がしてきた」

勇者「やれないとはないはずだ。ご機嫌とりとかあれもこれも欲張るな。ただ、俺を倒した。この一点を信じさせることだけできればいい」

ベビードラゴン「う、うん」

勇者「実力で劣るはずのお前がなぜ俺を倒せたか、理由は俺のやる気のなさだと答えろ」

ベビードラゴン「やる気?」

勇者「そうだ。俺は勇者をやめたがってると言ってたと魔王に伝えるんだ」

ベビードラゴン「わがっだ。そんで?」

勇者「そうすると用心深いやつは罠か? とまず考える。しかぁ〜し、ここでも腕の存在が頭をよぎる。罠で腕を差し出すまでするか? と」

ベビードラゴン「うん、それはたしかに。オラもそう思う」

勇者「お前はマヌケだから、そこまでするはずがないで終わりだろ。ミスリードの原理だ」

ベビードラゴン「……?」

勇者「“真実の中に嘘を混ぜる”。誤った道しるべに魔王をハメる……くっくっくっ、なぁーはっはっはっ!」

ベビードラゴン「(なんがごいづ、悪役みてぇだな)」

勇者「お前を俺の舌の上でぺろぺろ転がしてやんよぉ〜! チュッパチャプスみたいによぉ〜!」

ベビードラゴン「表現が汚ねぇ」

勇者「ひゃっはっはっ! 間接的に勇者vs魔王のはじまりだぁッ!!」
609 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/12(月) 15:57:23.98 ID:zhSyHYbEO
【再び魔王城 玉座】

魔王「……興味深い話だ。なぜ、勇者はやめたがっていると思った?」

ベビードラゴン「実際に耳にしたからだなす」

大臣「な、なんとっ⁉︎ 勇者自身がそう言ってたのかっ⁉︎」

ベビードラゴン「魔王様。オラはわかんなくなっただす。たしかに、勇者は強かった……いや、強いはずだす。サキュバス様を瀕死の状態に追いやったのですから」

魔王「……それで?」

ベビードラゴン「にもかかわらず、力の片鱗を見せたのは最初だけで、やる気がなかった。だからオラは無傷でいられた」

魔王「……」

ベビードラゴン「勇者は本当に恐るるに足る人物なんだべか?」

魔王「だから、勇者を殺さなかったのか?」ギロッ

大臣「そ、そうじゃ。その状態の勇者であればいともたやすく息の根をとめられたはず」

魔王「だから、罠かと疑いもせずに、帰ってきたのか?」

ベビードラゴン「ま、魔王様。勇者の罠かと疑っているんだすか?」

魔王「可能性としてなくはあるまい? 腕をさしだすとまでなると不可思議だが」

ベビードラゴン「(ゆ、勇者が言った通りだ……魔王様が、あの魔王様が、腕を気にかけておられる……)」

魔王「さらに踏み込めば、おそらく勇者はこれを持ち帰らせることにより、なにかを企んでいるやもしれぬ。大臣よ」

大臣「はっ!」

魔王「確認の為、この腕を調べてまいれ」

大臣「ははっ!」

ベビードラゴン「(えぇと、えぇと、次は――)」
610 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/12(月) 16:18:08.54 ID:zhSyHYbEO
【数時間前 クィーンズベル 郊外】

勇者「魔王はまず、腕を確認する。本物であるかどうか、罠がないかどうか。動機は多岐にわたるが、ぜぇぇったいに腕を確認する。気になって気になって仕方ないはずだ」

ベビードラゴン「そうだべか」

勇者「そら心中はソワソワしっぱなしよ。目の敵である勇者の腕なんだからな。魔王にとっちゃ宝の山ほど価値あるもんだ」

ベビードラゴン「自己評価高すぎでねか? なんとも思わねえかもしれねぇど」

勇者「なんとも思ってねぇやつをわざわざ追跡させるかよ。剣渡したぐらいで竜王を死罪にするか? あぁん?」

ベビードラゴン「……そうだけんど」

勇者「お前は“たかがニンゲン”。これをゴリ推しして持論を展開しろ。普段エサだと思ってる存在なんだ、簡単だろ」

ベビードラゴン「はい」

勇者「よしよし。勇者であってもたかがニンゲンだからな? ちゃぁ〜んと言えよ? その程度の認識しかないと伝えることに意味がある。殺さない理由になる」

ベビードラゴン「虫けらだもんな」

勇者「そう! エクセレント! それでいいんだ! これに、淫夢族が逃がされたやり返しだとも言え」

ベビードラゴン「そったらごとしたら、サキュバス顔真っ赤になるぞ。面目丸つぶれだし」

勇者「淫夢族がどう思おうが別に関係ないだろ?」

ベビードラゴン「ねぇな。あいつら、竜王さまバカにしたから、良い気味だ……でへっ」

勇者「その意気だ。魔王にも魔王でプライドがある。勇者がこわいよぉ〜なんで殺してきてくれなかったのぉ〜なんて言える立場じゃない」

ベビードラゴン「魔王様に楯突く存在だべ? 殺してこなかったなんて不忠になるんでない?」

勇者「あー……うーん、まぁ、そこはゴリ推ししてお前がなんとかしろ」

ベビードラゴン「(思いつかなかったんだな……)」ジトォー

勇者「なんだその目は! なんでもかんでも頼るんじゃありません!」

ベビードラゴン「わがっだ。ゴリ推ししてみる」
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/12(月) 18:31:27.62 ID:fZAfsdg40
612 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/12(月) 21:19:07.71 ID:tIpqN2UtO
【魔王城 玉座】

ベビードラゴン「(とにがく、ゴリ推しだっぺな)……魔王様っ!!」ドゲザ

魔王「……」チラ

ベビードラゴン「勇者なんていっても所詮ヒトだど⁉︎ オラは魔王様の偉大さにひれ伏す存在だと思ってるだなす!」

魔王「……そうか」

ベビードラゴン「魔王様は勇者をどう見てるだなすか⁉︎ 竜王様の命を犠牲にするほどの脅威とお考えなんだすかっ⁉︎」

魔王「勘違いするな。竜王が死ぬのは自身の不手際の責を受けるのだ。部下の不始末、その責を――」

ベビードラゴン「でもっ!! 発端は剣を渡したことでしょ⁉︎ たかがちっぽけなニンゲンに!!」

魔王「……」

ベビードラゴン「勇者じゃなかったらどうだすか⁉︎ そこらにいる兵士に剣を竜王様が渡していたら⁉︎ 魔王様は鼻で嗤い許していたと思うだなす!」

魔王「余が、勇者に臆していると……そう言いたいのか」ゴゴゴゴッ

ベビードラゴン「違うっ!! もっと堂々としていてほしい! オラはそう言っているのだす! 死罪を撤回……腕の恩賞を与えてくんろ!」

魔王「お前の非礼はどうなる? 自身の死を覚悟の上の発言か?」

ベビードラゴン「オラは竜王様の臣下でありますっ! 救えるのなら、この命など惜しくはねぇっ!!」

魔王「……」

ベビードラゴン「(よし、ここであの言葉を言えばいいんだな)」

魔王「……なるほど。良き家臣を持ったようだ。今回の働きに免じて、望みを叶えてやろう」

ベビードラゴン「……え? へ?」

魔王「なんだ? それが望みではないのか?」

ベビードラゴン「(あ、あれ? まだ続きがあったんだけど、こうもあっさり)」

魔王「望みを言うがよい」

ベビードラゴン「竜王様に生きる機会を与えてやってください! 交代もさせないでくださいっ!」

魔王「いいだろう。釈命をだす。此度の働きと功績を称え、竜王の減刑を認める」

ベビードラゴン「ほ、ほんとですかぁっ⁉︎」

魔王「二言はない。幾度も撤回したりしていては威光を保てんたからな」

大臣「魔王様……」

魔王「ただし、もし勇者の腕ではなかったり、罠だったと判明した場合には、その命。……即座にないものと思え。私自ら殺しにいくぞ」

ベビードラゴン「もちろんだすっ!! 何百回、何万回でも殺してくんろっ!!」ニコニコ
613 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/12(月) 21:39:07.92 ID:tIpqN2UtO
【数十分後 魔王城 玉座】

大臣「魔王様。間違いありません、鑑定の結果、勇者の腕だと判明いたしました。罠と思われる術式やアイテムの形跡もなく、ベビードラゴンの唾液のみです」

魔王「そうか……」

大臣「おそれながら……もう、自身のだした命令を撤回するのはやめなされ」

魔王「ベビードラゴンのみならず、お前まで小言を言うつもり?」

大臣「ワシは魔王様の家臣でございますゆえ。必要な忠言だといつも申しておりますに」

魔王「小言はいつものことだったわね」

大臣「魔王様。決して、ブレてはなりません。貴女様の絶対的カリスマは、迷うてはならぬのです」

魔王「……」

大臣「……簡単に許したのは、竜王を死罪にしたくなかったのでしょう? らしくもない」

魔王「損得よ。次期竜王は確実に弱くなるならば、今の竜王に続けてもらった方が利益になる」

大臣「……そういうことにしておきましょう。ですが、良いですな? こういうことはこれきりにしていただきたい」

魔王「気になるのは勇者」

大臣「“やめたい”と、そう言っていたことですか?」

魔王「もし、もしも本気でそう考えているのならば、より注視をしなければ」

大臣「なぜでございましょう? 魔族にとって都合が良いのでは」

魔王「辞めるのならば、ね。でも、おそらく――私の推測がただしければ、“勇者は狂う”」

大臣「狂う? ですと?」

魔王「“勇者として輝くか、ニンゲンとして狂うか”。くふっ、うふふっ、あは、あはははっ」

大臣「ま、魔王様……?」

魔王「大臣よ。竜王に処刑を命じた後に余はこう問いたな。勇者はなにを失っておるのかと」

大臣「はい、魔王様はなにも失っていないとの発言を」

魔王「間違っておった!! 間違っていたのだ!! あっはっはっ!」

大臣「……?」

魔王「勇者は、闇に堕ちるやもしれんぞ……くふふっ、うふふっ」
614 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/12(月) 22:14:03.76 ID:tIpqN2UtO
【淫王城 玉座】

サキュバス「おかしい。なにかある。リリスよ」

リリス「はい〜お姉様ぁ〜」

サキュバス「クィーンズベルに行き勇者が隻腕となっているか確認してまいれ」

リリス「えぇ〜あそこ暑くてあんまり好きじゃ――」

サキュバス「なにか?」ギロッ

リリス「すぐに支度して行ってまいりますぅ〜」

サキュバス「(ベビードラゴンが勝った? あのデタラメな強さの勇者に? そんなのは不可能だわ)」

リリス「まったくぅ、人使いが荒いんだからぁ」ブツブツ

サキュバス「(なにか裏があるはず。勇者の企みを突き止めなくては……)」
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/12(月) 22:59:01.04 ID:cs+FE/8zO
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/12(月) 23:40:41.78 ID:fZAfsdg40
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/12(月) 23:58:42.71 ID:UoN47vjG0
フラグ回収が進んでるってまさか闇堕ちすんのか?
続きどうなるんだ
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/13(火) 05:54:16.38 ID:rXas4A+j0
闇落ち(ニート/人間やめました)
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/13(火) 06:53:40.04 ID:h+iPRUkCo
620 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/14(水) 18:21:57.33 ID:bGKI1MBBO
【魔王城 玉座】

大臣「魔王様、この老いぼれにはなんのことやさっぱり」

魔王「――……アイデンティティ(自己証明)の喪失。聞いたことはあるか?」

大臣「いえ」

魔王「ふふ、“ゲシュタルト崩壊”でもよい。兎角、勇者は己を見失っておるやもしれん」

大臣「な、なんですとっ⁉︎」

魔王「ふっ、くふふ、勇者であることを誇りもせず……逃げている。おそらく、人間と勇者の狭間で見失ってしまった。本来の自分を」ニタァ

大臣「ではっ⁉︎ 今の勇者は⁉︎」

魔王「心に偽りの仮面をかぶっておるはず。……常にな。ニンゲンどもの手前でだけ、“勇者を演じておる”のやも」

大臣「魔王ぁっ! これはまたとない機会でありますぞ!」

魔王「どのような機会と申すか」

大臣「揺れ動いているのなら、いっそ、我ら魔族側に!」

魔王「……だめだ」フリフリ

大臣「なぜっ⁉︎ 天秤がニンゲンどもの方に傾いてしまえば、脅威に!」

魔王「“どちらにも傾きうる”から問題なのだ。計りに重りを乗せるにはどうする……?」

大臣「追加で――」

魔王「“手がなければ乗らぬ”であろう? この、手が」プラプラ

大臣「(傾く重りを我々で用意するということですな)――では、計略を講じますか」

魔王「いや、なにもしない」

大臣「な、なぜっ⁉︎」

魔王「別にほしくないから。あちら(勇者)が来たいと言ったら考えるがなぁ! あっはっはっ!」

大臣「……っ!」

魔王「よいな……? なにもするな」

大臣「御意に」

魔王「あぁ、待て。アデルに密偵を派遣して、勇者の生い立ちについて調べさせよ」

大臣「は?」

魔王「調べるだけでよい」

大臣「ははっ!」ドゲザ
621 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/14(水) 18:38:00.84 ID:bGKI1MBBO
【数十分後 魔王城 玉座】

大臣「魔王様のぉ〜、ご壇上ぉ〜」

四天王一同「……」ドゲザ

魔王「皆の者、ラクにせよ」スッ

四天王一同「はっ」ムク

大臣「各王よ。おそれながら本日も進行役を務めさせていただきます。ようこそ、魔王城へ」

魔王「今回の議題については特別に余が発表する。それはこの“勇者の腕”についてだ」ゴト

キングヒドラ「ホンモノでお間違いないのですかっ⁉︎」

大臣「何重にも検査をした結果、間違いございません」

オーガ「ベビードラゴンに咬みちぎられたというのも?」

大臣「お間違いござませんですじゃ」

キングヒドラ「……なんだ。たいしたことない。サキュバスよ。お前の報告と随分差があるようではないか、なぁ?」ニタァ

サキュバス「獣臭い顔でいやらしく笑わないでくれる? 醜くて不快だから」

キングヒドラ「な、なんだとぉっ⁉︎ 貴様ぁっ! 誰に向かって悪態をついたっ!!」ズシーン

サキュバス「わからないのかしらぁ? 頭お花畑?」

キングヒドラ「……」ゴゴゴッ

オーガ「事実をいわれ論点をズラしているよう見えるが」

サキュバス「おだまりっ!!」ピシャン

キングヒドラ「……なんだなんだ……そうかぁ、認めたくなかっただけかぁ」ニヤニヤ

サキュバス「貴様らは知能が低いから疑うこともしないだけであろう! 勇者が負けるはずがない!!」

オーガ「だが、証拠はある」

サキュバス「……っ!」

キングヒドラ「随分と高く勇者を評しているようだな? 負けるはずがなぁい? まるで恋人を想うようじゃないか?」

サキュバス「貴様……っ! 淫夢王をバカにしているのかっ⁉︎」クワッ

キングヒドラ「貴様こそ! 獣王をバカにしているのかぁっ!!」クワッ

大臣「み、みなさま、ご静粛に、ご静粛に。魔王様の御前であられますぞ」
622 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/14(水) 18:51:23.40 ID:bGKI1MBBO
サキュバス「魔王様、私からもご質問。ベビードラゴンはどうやってコレを?」

魔王「やる気がなかったおかげで、噛みちぎれたそうだ」

シンリュウ「……」

オーガ「ぬはっ、ぬっはっはっ、なんとまぁ。やる気がでなかったから腕をさしだした? 言い訳にしても見苦しい」

キングヒドラ「ブフッ、勇者とやらは、阿呆なのですか……? そんな理由で腕をさしだすわけがない。自力でベビードラゴンに敵わなかっただけでしょう」

サキュバス「(貴女達二匹は……! 笑う暇があればもっと知力高めたらいいのに)」

魔王「お前達の意見も是非聞きたい。……が、その前に、シンリュウよ」

シンリュウ「はっ」スッ

魔王「ベビードラゴンから報告を受けておろうが、今回は罷免する」

シンリュウ「……はっ」

魔王「決定に異議のあるものはおるか?」

四天王一同「……」シーン

魔王「おらんのか? 貴様ら、余の犬畜生か?」

オーガ「魔王様の決定ならば、当然のこと」

魔王「では、問おう。巨人王オーガよ。今この場で命をたてと言われれば死ねるか」

オーガ「理由は……」

魔王「ない。ただの気まぐれだ」キッパリ

オーガ「そ、それはあまりにも」

魔王「余の為ならば、死をも厭わない。その覚悟たるやよし。しかし、死に場所がふさわしいものであってほしいと願っておるのだろう?」

オーガ「……」

魔王「なぜ無言でおる。私をナメておるのか?」ゴゴゴッ

オーガ「な、なぜっ⁉︎ そんなっ! めっそうもない!」アタフタ

魔王「よく聞くがいい。命令を撤回するのはこれきりだ。貴様らが余の下命を疑問に思うが、理不尽だと感じようが、次はない」

四天王一同「……」ドゲザ

魔王「我こそが貴様らの王だ。……よいな」

四天王一同「ははっ」
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/14(水) 20:11:54.87 ID:3vlJq4oq0
魔王ぁ!
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/14(水) 21:01:07.15 ID:UQMvEvEDO
なんか魔王の方がギリギリっぽいな
だから自分に都合の良い方にミスリードしてしまい、最終的に勇者に一杯食わされそう…
625 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/14(水) 21:13:59.11 ID:dbQ7u9OxO
【数時間前 クィーンズベル城 郊外】

ベビードラゴン「そったらば、失礼しで」

勇者「ちょ、ちょちょっ! たんまっ! まだ麻痺してないから!」

ベビードラゴン「おどこらしく覚悟決めろ? ほんっと情け無いやつだなぁ」

勇者「布で縛ったら痛みが軽減されるって漫画で読んだことあるのに……おかしいな」

ベビードラゴン「なんでもいいけどよぉ、はやく帰りてーんだけど……はぁ」ガックシ

勇者「お前はいーよな! 腕をなくさないんだから!」

ベビードラゴン「合意の上でねか。むしろ、お前から言い出したこどだぞ? 講釈たれて」

勇者「そうだけどさぁ、いざ噛まれるとなると」

ベビードラゴン「だいじょーぶだで。ちょっとチクってするだけだから」

勇者「そ、そそそのっ、セリフはやめろ? と、トラウマが」

ベビードラゴン「ほんにめんどくせぇなぁっ!」

勇者「……わかった。俺も男だ」

ベビードラゴン「……」ジトォ〜

勇者「いいぞ、やれ。でも、絶対失敗すんなよ! 俺の腕を無駄にすんなよっ⁉︎」

ベビードラゴン「わがったわがった……あ〜〜ん」クパァ

勇者「た、た、た、たんまっ!」

ベビードラゴン「……」ピタ

勇者「やっ、やっぱさ? 別の方法、考えない?」

ベビードラゴン「……あむっ」ガブリ

勇者「〜〜っ⁉︎ ぬ、ぬおおおおぉっ! 牙が、牙が腕に!」メリメリ

ベビードラゴン「(硬え肉だな)」ゴリゴリ

勇者「いだだだだっ! 痛いっ! ちょっとこれは耐えられない! 耐えられそうもない! ギブアップ!」

ベビードラゴン「(うるせぇ……)」ブチブチ

勇者「ひぃっ⁉︎ 待てと言うとるにっ! 腕からいやな音がっ! 血が噴水みたいになってるよ⁉︎ 動脈切れてるんじゃない⁉︎」プシュー

ベビードラゴン「(むっ、このっ)」ガブガブ
626 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/14(水) 21:15:06.40 ID:dbQ7u9OxO
勇者「いだぁぁ〜〜っ! なんだてめぇっ⁉︎ やるなら一気にやれや! ぶち殺すぞっ⁉︎」

ベビードラゴン「かたっ、くふぇ、ぬぅぅ」ブチンッ

勇者「あっ」プシュー

ベビードラゴン「お、食いちぎれた」アムアム

勇者「お、おぉぉぉあ、俺の腕がぁぁぁ〜〜っ!」

ベビードラゴン「うぇっ⁉︎ ま、まずぅっ⁉︎ ペッペッッ」ゴト

勇者「な、なな、なっ、なんてことしやがる⁉︎ 人の腕をっ⁉︎」

ベビードラゴン「止血しねぇと、死ぬど。オラは死体のが都合いいんけんど」

勇者「ハッ⁉︎ そ、そうだった! うおぉぉっ! 俺の右手が真っ赤に燃えるッ! 傷を治せとどろきさけぶ! ベホマぁぁっ!」ポワァァァ

ベビードラゴン「ふつうにできねのかよ」

勇者「それぐらい全力だってことだ! あぁ〜、本当に腕を食いちぎりやがって……」ドクドク

ベビードラゴン「お前がそういったんでねか。ん、でもちょうどいいな、勇者、傷口だせ」

勇者「傷口ならだすどころか晒されとるわい」

ベビードラゴン「それもそだな。そのままじっどしてろ」

勇者「はぁ?」

ベビードラゴン「よいしょっと」ジュク

勇者「いでぇっ! ツメをつっこむな!」

ベビードラゴン「 ممكن. العمل على طلبيتك بأسرع وقت」ポワァ

勇者「な、なんだ?」

ベビードラゴン「(これで魂の契約は完了っと)」
627 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/14(水) 21:31:21.40 ID:dbQ7u9OxO
勇者「あぁ、もういやだ。そもそもなんでニートになるためにここまで苦労せにゃならんのか」

ベビードラゴン「おめぇよ。ほんどーに勇者やめるつもりなんかよ」

勇者「やめる」キッパリ

ベビードラゴン「……なんでよ? オラが言うのも筋違いかもしんねぇけどよ、人間にチヤホヤされるんだべ?」

勇者「なにがいいかなんて決めるのは俺の権利だ。ノットハーレム、ノットチヤホーヤ」

ベビードラゴン「魔王様に伝えたら、なんか意味あんのか?」

勇者「何度も言うが、意味はある。打算で動くようなやつに俺が遅れをとると思うかぁ?」

ベビードラゴン「しんねぇ」

勇者「予言してやろう。整理して考えだすと、魔王は俺の過去に興味を持ち出すはずだ」

ベビードラゴン「はぁ」

勇者「過去を知れば、ますます確信を持つことになるだろう」

ベビードラゴン「よぐわがんね」

勇者「ふっふっふっ……とにかくだ。お前が勇者の腕をとってきた。これで竜王の命を救え、お前自身のお咎めもなければ、それで俺の勝ちだ」

ベビードラゴン「そうなんか?」

勇者「利口なやつほど蜘蛛の糸にがんじがらめにされにくる。自分からな」キッパリ

ベビードラゴン「……もし、魔王様や竜王様に害をもたらすなら、オラが殺すど」

勇者「心配せんでいい。俺の望みは何者にも縛られない自由になることだ。それをニートと言ってるにすぎん」

ベビードラゴン「……今はおめぇを信じてやる」

勇者「しっかりやれよ」

ベビードラゴン「うまくいっだら、借りは、いつか返してやるよ」パタパタ
628 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/14(水) 22:05:34.85 ID:dbQ7u9OxO
【クィーンズベル城 玉座】

王様「お主たちは、なにをくわだてておった」

お頭「俺たちゃしがねぇ盗賊ですよ。そんな、くわだてるって」

姫「嘘ですわっ! メイド!」

メイド「私の顔に、見覚えがありませんか……?」

お頭「ありませんねェ。なんことやら」

メイド「そうですか。では、衛兵ならば私の顔に見え覚えがあるのでは?」チラ

衛兵「……っ」

メイド「陛下。こちらの衛兵は盗賊団の密偵でございます」

衛兵「虚偽の申告をいたしておりますっ! 陛下を裏切るようなマネなどできましょうか!」

メイド「まだ嘘で塗り固めるおつもりですかっ⁉︎」

衛兵「陛下! わたくしめを信じてくださいっ! この女に惑わされてはいけません!」

姫「わたくしの専属メイドに……っ!」

衛兵「公平な裁きを求めているだけでございますっ! 姫様ごひいきのメイドならばこそ!」

メイド「……っ」ギュゥ

姫「生き恥をしてまで……! そんなにも生きたいのかっ⁉︎」

衛兵「(当たり前だろうが。ここで罪を認めちゃ死罪は免れねぇ。お頭、これでいいですよね)」チラ

お頭「(いいぞ。それでいいんだ。俺たちがなにをやろうとしていたか、その証拠はまだねぇはずだ)」

衛兵「王様ぁっ! なにとぞ! なにとぞ調査を!」

王様「……ふぅむ」

姫「お、お父様っ⁉︎ なぜっ⁉︎ なぜ考えこむのですか……⁉︎」

王様「罪を明らかにせねば、適した罰を与えられん」

姫「それはっ……そうですけど……」

メイド「……王様。私は、告白せねばならぬことがございます」

姫「なに……ハッ! や、やめなさい!」

王様「告白? なんだ?」

メイド「私も、罪を償わなくてはなりません。ご寵愛に守られたままでは、この者が言う通りになってしまう。姫様を侮辱されるのは、許せません」

衛兵「(ま、まさかっ、見取り図の件を……? そ、そんなことすれば……お前もただではすまんぞっ!)」キッ

メイド「…………私は、宝物庫に忍び込み」
629 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/14(水) 22:11:50.09 ID:dbQ7u9OxO






ジャン「ちょぉ〜〜〜っと待ったッ!!」バターーンッ







630 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/14(水) 22:29:38.87 ID:dbQ7u9OxO
王様「お主は……ハーケマルの」

姫「ゆ、ゆうしゃ?」

メイド「なぜ……」

ジャン「王様、ここは無礼講でお願いします」

王様「かまわぬが。今は尋問の最中である。控えてくれると――」

ジャン「それはできません! なぜなら、私が証拠だからでございます!」

王様「なに? どういう意味じゃ?」

ジャン「この私が見取り図を持ち出しました」パサッ

王様「……そ、それはっ⁉︎」

お頭「(こ、こいつっ⁉︎)」

衛兵「(なに考えてやがるっ⁉︎)」

メイド「な、な、なにを……」

ジャン「それもこれも、お頭に指示されましたからです。ちなみに井戸の水が干上がっているのも盗賊団が原因です」

王様「なんだとっ⁉︎」ガタッ

ジャン「原因はこのビー玉だったんですよ。お調べください」ジャララ

王様「び、ビー玉?」

ジャン「魔族のアイテムです」

王様「ま、魔族ぅっ!?」ギョッ

ジャン「落ち着いて考えれば、全て繋がるはず」

姫「な、な、なんですの、これは、いったい盗賊の狙いは、宝のはずのでは」

ジャン「表向きはね。真の狙いは、魔族と組んで国を転覆させること。……そうですよね? お頭♪」

お頭「お、おめェっ! 気でも狂ってるんじゃねぇのか!」

ジャン「俺は打算とか計算が大好きなんですよ。でも好きなだけの趣味って感じですかね、だからそういう“生き方”をしてるやつらの考えがよくわかる」

衛兵「……っ」

ジャン「そこの衛兵も密偵です。言い逃れしてただけですよ」

王様「警備兵よ! ただちにこやつらを引っ立てて、真実を吐かせよ!」

警備兵「はっ!」ザッ

衛兵「ジャン殿っ! あ、あんた……っ!」

お頭「ロビンフッドになったつもりかっ⁉︎ お前も死刑だぞっ⁉︎」
631 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/14(水) 22:56:59.85 ID:dbQ7u9OxO
ジャン「言ったでしょ? ただの趣味なんです。俺もいつかは死ぬ。そん時は天国で会おうぜ」

お頭「こ、こいつっ、殺して、殺してやるっっ!」ジタバタ

警護兵「おい、暴れるな。行くぞ」グィッ

お頭「は、はなせェっ! くそっ、ちくしょぉっ!」

衛兵「な、な、なんで、こんなことに」

ジャン「あんたらの悪手は、最後までシラを切り通さなかったことだ。俺の登場で明らかに動揺したな。どっちみち逃げられないけどね」

王様「……して、貴様はどう申し開きをするつもりだ?」ギロッ

姫「お、お父様っ! 違いますっ! この者は――」

メイド「王様っ! 私です! 私が見取り図を――」

王様「だまれぇぇぇぇいっ!!」クワッ

姫&メイド「……っ」

王様「一国の王のっ!! 発言にっ!! 口をはさむなっ!!」バンッ

ジャン「(さてさて……)」

王様「……ハーケマルの使者よ」

ジャン「はい、王様」

王様「その見取り図。無断で持ち出したことの釈明を聞こう」

ジャン「いや、今いったままです。言い訳はありません」

姫「ば、ばかなっ⁉︎」ギョッ

メイド「そんなっ⁉︎」ギョッ

ジャン「……ちなみに俺はハーケマルともなんら関係ありません。盗賊団の一味です」

王様「なぁにぃ?」

ジャン「どうぞ、犯罪者として指名手配なさってください」

王様「指名手配? 逃すと思うのかっ! 警護兵っ!」

ジャン「(舞台は整った。ここだな)」ビュッ

王様「な、き、消え……っ⁉︎」

姫「きゃあっ!」

ジャン「動かないほうがいい。姫を殺すぞ」チャキ

姫「……っ⁉︎」ギョッ

王様「お、おのれぇぇっ! 人質をとるつもりか」

ジャン「すぐに返してあげますよ」パサッ

姫「ゆうしゃ、いったいなにを考えて……ど、どうしたんですのぉっ⁉︎ その腕ぇっ⁉︎」ギョッ

メイド「腕がっ……そんなっ、左腕がっ、ない⁉︎ なくなってるっ⁉︎」

ジャン「自身の心配をなされよ。砂漠国のプリンセスよ」
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/14(水) 23:41:45.33 ID:Lr0+UNYPo
wktk
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/15(木) 02:01:22.28 ID:h9Tesar9o
おつ。続きが気になって寝れねぇ…
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/15(木) 06:38:29.84 ID:mswNov6t0
635 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/15(木) 07:03:02.04 ID:Ffor0rIXo
636 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/15(木) 11:04:05.95 ID:TxY5L79TO
王様「生きて逃げおおせると思っておるのかぁっっ! 例え……っ! 例え、逃げられたとしても生きた心地のしない逃亡生活が待っておるのだぞっ⁉︎」

ジャン「これは異なことを申される。私の素顔を王はご存知でない」

王様「ぬぐ……っ⁉︎」

ジャン「ハーケマルの使者だと気がつかずとも、一言、“仮面を脱げ”といっていればよかったのに。自身の落ち度に対して卑怯とは、おっしゃられますまいな?」

王様「ぬぐぐっ」ギリッ

ジャン「逃げることには変わりがありませんが、わざわざ姫を拉致したのは別の理由がある」

王様「別の、理由じゃと……?」

ジャン「金銭の要求や、魔族を引き合いに出すのではありません。今回起こったことを、民に公開するのです」

王様「な、なに……?」

ジャン「無論、他三国はもちろんのこと、ハーケマルに詳細を知られることとなるでしょう。姫の政略結婚は、一時見送りになるやもしれませんね」チラ

姫「……っ⁉︎」

王様「こ、これを、醜態を公開せよ、と」

ジャン「王様、世間を縦だけてはありません、横もあるのです」

王様「なにが言いたい」

ジャン「縦とは階級社会、横とは、支配される者とされない者。つまり、民の世界です」

王様「……」ギロッ

ジャン「あんたら王族、貴族、豪族はあくまで縦の存在だ。横になってる民の上で成り立ってる。無知なまま、蓋をして終わらせようとするな」

王様「民は、王政に幻想を抱いておる。“王様にまかせておけばいい”、“まかせておけば安心して暮らせる”。日々の安心感を捨て、民に暴風に晒された生活をしろと」

ジャン「……」

王様「ガラス張りで透明性のある政事などしていては、統治など到底無理だ! なぜならば、ワシら王族も、貴族もっ! 全て、人だからじゃ! 聖人君子などおらん! 失敗もする!」

ジャン「……」

王様「民は口先だけの集まりなのじゃ! 口では、クリーンな政治を求めておきながら、その実、“平和”や“安心感”というボヤっとしたものがあればいい!」

姫「お、お父様……」

王様「此度の件を公開する? ふん、それで? その後はどうなる? 報告してなにを得られる? 民たちは不満を抱え、ワシは王としての権威を保てなくなる」

メイド「……」ゴクリ

王様「問おう。民達の弾弓に耐え、どうやって統治を……この国を治められようか? 方法があれば、聞こうではないか」
637 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/15(木) 11:39:17.51 ID:TxY5L79TO
ジャン「ただ、希望を与えてやってほしい」

王様「……貴様は、群衆の愚かさをなにもわかっとらん……」

ジャン「今回の一件は、大事になる前に見事、収束させてみせたのです。王権の失墜など起こらないでしょう」

王様「欲を、民たちのもつ欲深さを知らんのだろう。青臭い希望では」

ジャン「民に目を向けられよ」

王様「しかと見ておる」

ジャン「いいや、見てない! あんたはそんなに普段から完璧でいるつもりなのか⁉︎ 民衆をバカにするのもいい加減にしろっ!」

姫「お父様に、なんてことを……」

ジャン「我慢できないわけじゃない! この水のなかった期間だって、最後には王様がなんとかしてくれる、そう思っていたとしても!」

王様「だから、幻想を抱いておるというとるに」

ジャン「希望を抱いていたいんだ! ……今は、いう通りかもしれない。でも、そこをなんとかするのが、王たるあんたの使命だ」

王様「……民自身が、無知でいることを望んでいるとしてもか」

ジャン「常識が形式化してしまえば誰だってそうなる。歩行具をつけたまま何世代も歩かせる気なのかよ」

王様「知識を得るのは苦痛が伴う。民は、ひどく疲れるぞ」

ジャン「だから希望が必要なんだ。希望は、苦痛や疲労に耐える力を与える。歩けるようになるまで、あんたが支えてやれ」

王様「わかったような口を」

ジャン「俺は、人間の汚い、醜い部分を多く見てきたつもりだ。結局、どういう国を夢見てるんだよ? 王様は、なんの幻想にすがってるんだ?」

王様「ワシが……?」

ジャン「そうだよ。あんただって人だろ。民達を導いている優秀な指導者か? そこを拠り所にしているのか?」

王様「……」

ジャン「“民と王で同じ夢を見られない国は滅ぶ”。これだけは、言っておく」スッ

王様「……っ」ギリッ

姫「お父様ぁっ! この者はゆう――」

ジャン「はいストップ」ムギュ

姫「もごっ⁉︎ むーっ!」

ジャン「(パーティのやつらは宿屋に置き手紙残してきたから、その内追いかけてくるだろ。来たかったらだけど)」

メイド「姫様っ!」

ジャン「……メイドとやら。軽はずみに口を開がないほうがいい。姫がキズモノとなるぞ」ピト

メイド「なぜっ、このようなことを……っ」

警護兵達「お、王様ぁっっ!」ゾロゾロ
638 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/15(木) 12:06:29.87 ID:TxY5L79TO
兵士長「王様っ! ……な、なんとっ⁉︎ 姫さまがっ⁉︎」ギョッ

姫「(この者は勇者ですっ! 勇者なんですっ!) もごもごっ! むーっふっ! ふもーっ!」

ジャン「(しかし、口おさえるとなんもできんな。両手がないとやっぱり不便。パッと手を離した瞬間に気絶させるか)」トス

姫「うっ」

警護兵達&メイド&兵士長「ひ、姫さまぁっ!!」

姫「」グッタリ

ジャン「(あとは顔真っ赤にさせて、と)マヌケな兵士たちよ! 雁首そろえて女一人守れなくてざんねんしたぁwww 悔しいねぇ? 今どんな気持ち?? ねぇ、どんな気持ち??」

警護兵達「ぶち殺してやるっ!!」

ジャン「王様、それじゃ俺はこれで失礼を」シュタッ タタタッ

王様「すぐに追いかけろっ!! 絶対に逃がしてはならんっ!!」
639 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/15(木) 12:31:41.43 ID:TxY5L79TO
【クィーンズベル城 廊下】

戦士「なんだ? えらくごったがえしてるが」

僧侶「なにやら起こったみたいですねぇ〜」

武闘家「……?」

   ドガシャーンッ

ジャン「なーはっはっ! 遅いわボケナスどもぉ〜!」タタタッ

兵士長「まて、またんかァっ!!」ダダダッ

ジャン「とっつぁ〜ん! 待てと言われて待つルパンがどこにいるんでぇ〜?」タタタッ

戦士「こちらに走ってくるのは、賊か」チャキ

武闘家「やれやれ。この国の治安はどうなってるんさ。白昼堂々と城に」スッ

ジャン「ん……? おっ、お前ら……⁉︎」ギョッ

戦士「大人しくお縄につけ。……はぁぁぁっ!」ダダダッ

ジャン「むっ」パクッ

戦士「電光石火ッ!! はやぶさ斬り」ザシュ ザシュ

ジャン「ふんもっふ!」ササッ

戦士「なに、避けたっ⁉︎」

僧侶「あらあらぁ。器用に口で剣を加えたままで……片腕しかない……?」

武闘家「なかなかやるじゃないかっ!」

ジャン「(邪魔くせぇっ! 手加減してやらねーと)」

警護兵達「まぁ〜〜〜てぇ〜ごるぁあああっ!!」ドドドッ

ジャン「(そんな暇もないか)」パリンッ ガシャーン

武闘家「あっ! チッ!!」

兵士長「窓だっ! 窓から逃げた!」

警護兵「ここ城の三階ですよ⁉︎ 一般家屋とは違い、城の三階は高さが……」

兵士長「堀に捕まっているのかもしれん!」

ジャン「(そう思うじゃん? ふつうに落ちてるんだなこれが)」ヒューー

武闘家「この高さでは、助からないな」

戦士「な、なんだったんだ?」

僧侶「……」ジー

ジャン「(あらよっと)」クルクルッ シュタッ

兵士長&警護兵達「な、なんだとっ⁉︎」ギョッ

ジャン「(決まった。我ながら10点満点の着地である)」

戦士&武闘家「……」ポカーン

僧侶「宿屋に戻りますよぉ〜。今すぐにぃ〜」
640 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/15(木) 13:03:18.32 ID:TxY5L79TO
【クィーンズベル 城下町】

魔法使い「はぁ〜〜。マク様はいったいどこに……」

戦士「おっ、魔法使い」キキッ

魔法使い「朝っぱらからジョギング?」

戦士「いや、なんだか、僧侶が焦ってるみたいで。宿屋に帰ると言われて」

魔法使い「はぁ?」

戦士「ほら、あそこ。前走ってる」

僧侶「(先ほどのすれ違いざまに感じた聖なるオーラは……まさか、まさかっ⁉︎)」シュタタタタタッ

武闘家「くっ、は、はやいっ⁉︎ どうなってるんさッ⁉︎」

戦士「いやぁ〜、人間ってのはわからないもんだ。僧侶があんなに早く走れるなんて。魔法職だよな? あいつ」

魔法使い「な、なんなの。俊敏がウリの武闘家が追いついてないじゃない……」

戦士「いやぁ〜〜〜。ほんっとーーにわからないもんだ。まさかとは思うが、僧侶があたしより強いとか、ないよな?」

魔法使い「えっ?」

戦士「いや、ないよなぁ〜〜さすがにそれはないよな? 魔法職だもんな? サシで負けるなんてこと」

魔法使い「な、ないんじゃない? だって、私たち魔法職は、防御能力ないし」

戦士「……そうだよなっ! あたしのパーティの序列がさらに下がるなんてことないよなっ!」

魔法使い「(僧侶、あいつ、一体……なんなの?)……私も宿屋に戻る!」

戦士「お、おいっ! ほんとにないよな? 僧侶が強いなんてことはないよなぁっ⁉︎ 」タタタッ
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/15(木) 14:58:47.67 ID:Ox5zjxyY0
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/15(木) 18:51:13.73 ID:FByTnZG1O
おつ
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/15(木) 21:57:16.52 ID:T8SysTYLO
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/15(木) 22:31:12.85 ID:Ffor0rIXo
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 16:16:27.78 ID:Z1eKjUE30
戦士と魔法使いだと今のところ魔法使いがワーストか
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/17(土) 16:29:44.05 ID:yuXWzLkO0
魔法使いも魔法使いでマダンテ覚えたら一気に最強クラスになる
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 07:30:34.85 ID:PCKssJ8j0
メラミとメラを数回ずつ使ってヘバるMP量のマダンテじゃなあ
しかも魔翌力切れ起こすと身体に負荷かかるこの作品じゃメガンテと変わらんw
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 09:08:14.37 ID:rimZUGy90
全員才能はピカイチて書いてあるから全員最強クラスになるのが既定路線なんじゃねたぶんだけど

649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 11:15:55.80 ID:vh8tRU5DO
その魔法使いのピカイチが、魔法の才能ではなく炊き出しとか逃走とかの才能である可能性
650 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/18(日) 14:37:44.93 ID:h4MucOXBO
【クィーンズベル 宿屋】

戦士「僧侶が強いなんて、そんなはずない、そんなはずないんだ」ブツブツ

魔法使い「ねぇっ、僧侶ってばぁっ!」

僧侶「……」ゴソゴソ

魔法使い「あんたいったいどうなってるのっ⁉︎ なにか私たちに話してないことあるでしょ⁉︎」

僧侶「はやく荷物まとめないとぉ〜」ギュッギュ

武闘家「……“次の村の宿屋で二日まつ”か」パサ

戦士「うぅ〜、いやだ、もう負けたくない。負けたくないんだぁ」ブツブツ

魔法使い「教えなさいってば!」グィッ

僧侶「別にいいじゃありませんかぁ、知らなくてもぉ」

魔法使い「一緒に旅する仲間でしょう⁉︎」

僧侶「ふぅ……私は勇者さまさえ無事ならそれでいい。言えるのはこれだけですねぇ」

魔法使い「どういう意味……あんた、まさか……」

僧侶「歯ブラシ、はここにっと」スポッ

魔法使い「手を抜いてやってるの……? 勇者が本当に危なくなった時の為に、力を常に温存してるんじゃ……」

僧侶「どう受け取ろうとご自由に〜」

魔法使い「今まで一緒に戦った時も、本気でやってたんじゃなかったの⁉︎ ……なんとかいいなさいよっ!」

村娘「こんにちはぁ〜」ガチャ

戦士「……?」

村娘「(あいかわらずマヌケなやつら。私がリリムだって気づきもしないで)……こちらに勇者様がお泊りしていると噂になってて」

武闘家「勇者なら、いないよ」

村娘「今は席を外されてるんですか? 男性用のマントがありますが」チラ

魔法使い「知らないわよっ!! あんなやつっ!!」プィッ

戦士「おい、魔法使い」

村娘「(なにヒスっちゃってんのこいつ)サインもらいたかったのにぃ」

僧侶「……」スクッ テクテク

村娘「貴女様はご存知でしょうか?」

僧侶「なにしにきたんですかぁ?」バァンッ

村娘「……え?」

戦士「おお、乙女の憧れという壁ドンか」

魔法使い「なんか使い方間違ってるような気がしないでもないけど」

僧侶「“また”来たんですかぁ?」ニコニコ

村娘「は、はい?」

武闘家「……?」

僧侶「今はすこぶる機嫌が悪いんですぅ。誰かに八つ当たりしたくてぇ」ゴゴゴゴッ
651 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/18(日) 14:44:52.43 ID:h4MucOXBO
村娘「……え? へ?」

僧侶「魔法使いさん」チラ

魔法使い「なによ」

僧侶「ちょっぴり話するとぉ、私、ダーマで結構有名人なんですぅ」

魔法使い「あっそ。そりゃ法王庁出のエリートならそうでしょ」

僧侶「いいぇ〜。そうじゃなくて“悪名高い”のでぇ」

戦士「悪名? って、僧侶が?」

僧侶「はい〜。幼い頃からのあだ名がありましてぇ、“殴り僧侶”とか色々言われてましたぁ」ブンッ

村娘「なっ⁉︎ ……ちょっ⁉︎」ギョッ

僧侶「しゃーーーっんなろぉーーっっっっ!!!ドゴォォォォッッンッッッ

村娘「〜〜〜〜ッ⁉︎⁉︎ ぎゃぁっ⁉︎」バコン バコン バコーーーンッ

おっさん「わぁっ⁉︎ 隣の部屋から人が突き破ってきたぁ⁉︎」

魔法使い&戦士&武闘家「……」ポカーン

僧侶「……少しスッキリしましたぁ」パンパン

魔法使い「う、うそ、でしょ……」アングリ

戦士「は、は、はは。夢だ。悪い、夢だ」

武闘家「な、なんちゅー怪力だよ」ゴクリ

魔法使い「魔法職なのに、一体、どうやって……」

僧侶「さぁ? どうやってるんでしょうねぇ〜」ニコニコ

武闘家「と、というかっ! 村娘は⁉︎」ダダダッ

おっさん「ひっ、扉からはいってこいよぉ!」

リリム「」チーン

武闘家「こ、こいつはっ……!」ギョッ

僧侶「まだ息はあるはずなのでぇ〜。回復してどうなってるのか吐かせないとぉ」テクテク
652 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/18(日) 15:11:12.08 ID:h4MucOXBO
【数十分後 同宿屋】

リリム「ん……んん……」

僧侶「目が覚めましたぁ?」

リリム「(くそっ、私の正体に気がついてたやつがいたなんてっ⁉︎ ……し、縛られてるっ⁉︎)ふもーっ! ふむもっ!」ジタバタ

僧侶「殺す気なら寝てる間に何百回も殺せましたよぉ。目的はそうじゃないのでそうしませんでしたけどぉ」ニタァ

リリム「……っ⁉︎」ゾクッ

僧侶「どうしてここに勇者さまがいるとわかったんですかぁ?」

リリム「ふもーっ! ふむむっ!」

僧侶「喋れませんでしたねぇ。いま、噛ませてるタオルをとってあげますぅ」スッ

リリム「ぷはっ! 貴様ぁッ! こんなことしてたタダで済むと思うなよッ⁉︎」

僧侶「戦士さん。ちょっと剣をお借りしますねぇ」スラァ

戦士「えっ? なにする――」

僧侶「えいっ」ザシュ

リリム「ぎゃっ⁉︎」プシュー

魔法使い「きっ、斬ったっ⁉︎」ギョッ

戦士「無抵抗な相手だぞっ⁉︎」

武闘家「……待て。なにも理由がないとは思えない」

僧侶「痛いですかぁ?」ジー

リリム「ぐっ……!」ギロッ

僧侶「治してあげますよぉ」ポワァ

リリム「……殺せ」

僧侶「いいえ〜。殺すなんてしません〜。死なないギリギリのラインで痛めつけ続けてあげますよぉ」

魔法使い「あ、あんた……っ⁉︎ なにいってるのっ⁉︎ 聖職者がそんなっ」

僧侶「手段は選びませんのでぇ。言ったでしょ〜? 機嫌が悪いとぉ〜」

戦士「僧侶、お前……」

僧侶「――……どこのどいつかさっさと言えっつうんだコラ。勇者さまの腕を切り落としたのはどこのクソ魔族だ?」グィッ

リリム「うっ!」

武闘家「……な、なんだって……」

魔法使い「勇者の、腕が……?」

戦士「切り落としたぁっ⁉︎」ギョッ

リリム「……くっ、くっくっ、事実だったのか、余裕しゃくしゃくでいけ好かない男。隻腕になったんだぁ?」

僧侶「言葉に気をつけないと、死ぬよ」

リリム「殺したらいいじゃなぁ〜い? そんなことしても勇者の腕は元に戻らないケド♪」

僧侶「……っ!」ギリッ

リリム「悔しそぉ〜〜。なにも知らなかったんだぁ? あんた達も。パーティの仲間なのにぃ?」

武闘家「おいっ! 勇者は、いまどこだっ!」ガンッ

リリム「知るわけないでしょ? そこに置いてあるマント。私はマーキングを頼りにここに来ただけ」

魔法使い「いつのまに……えっ、だって、昨日は、腕があって」
653 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/18(日) 15:33:42.19 ID:h4MucOXBO
僧侶「腕は、いまどちらに?」チャキッ

リリム「ま・お・う・さ・ま・のぉ〜……と・こっ♪」

僧侶「……」ポトッ

リリム「キャハハッ! ざぁ〜んねぇんでしたぁ〜っ!」

魔法使い「武闘家っ!! さっきの置き手紙なんて書いてあったって⁉︎」バサッ

リリム「クックックッ、おっかしぃ〜〜っ! あんた達なにやってたのぉ〜?」

戦士「……片腕……そんな、剣士としてはもう、終わりじゃないのか……」

リリム「終わり終わりぃ〜! キャハハハハッ!」

武闘家「知ってることをすべて話せっ!! 今すぐっ!!」バンッ

リリム「やぁだ」プィッ

武闘家「……おい」ゴゴゴゴッ

リリム「好きなだけ拷問でもなんでもすれば? でもぉ、私はぜぇぇったいに喋らないけど? あんた達の青ざめた表情見てるだけで悦にはいれちゃうしぃ〜?」

僧侶「……勇者様の服はここに置きっ放しになってます。今すぐ全て燃やしましょう」

戦士「なぜだ?」

僧侶「いちいちイライラさせないでよっ!! マーキングされてるって聞いたでしょっ⁉︎」キッ

戦士「……っ、す、すまん、そうだな」

魔法使い「メモを残してあるってことは、まだ、生きてる。とにかく、次の村に急がないと……!」

武闘家「荷物をまとめろ、はやくっ!」

リリム「あらあらぁ〜? 拷問してかなくていいのぉ〜?」

僧侶「ご同行願います〜。お話は後でゆっくりと〜」

リリム「ふふぅん?」ニヤニヤ
654 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/18(日) 16:10:14.44 ID:h4MucOXBO
【クィーンズベル 郊外】

ジャン「そろそろいいか」スポッ

姫「……お父様が今ごろカンカンですわよ」ジトォ〜

勇者「10年ぶりだね、姫ちゃん」

姫「なに考えてるんですのっ⁉︎ こんなことしてっ! そ、それに、その腕はっ⁉︎」

勇者「ああ、これ? ……未来にッ! 賭けてきたッ!」ドンッ

姫「み、未来?」

勇者「ワン○ース知らない? 漫画なんだけど。それでシャンクスっていうのがいてさ」

姫「そうではなくっ! 漫画なんてどうでもいいでしょ⁉︎」

勇者「俺って友達がいなくてねぇ。漫画ばっか読んでたから、あはは」

姫「……どういうつもりなんですの? 腕はなくしてるわ、見取り図は自分が盗んだというわ」

勇者「ああでもしないとメイドちゃんが自白してたんじゃないかと思って。それに、この国のあり方についても思うところあったし」

姫「内政干渉ですわ。お父様が素直に言うことを聞くはずありません」

勇者「それはそうだ。姫ちゃんが唯我独尊なのって父親の血を受け継いでるとこあるね。わがままっぷりも半端ないけど」

姫「わ、わがっ……⁉︎」

勇者「一応、兵士たちもきっちり煽ってきたことだし、大規模な捜索部隊を編成してるだろ。国民にはバレるよ」

姫「……」

勇者「本当は、ルビスに会いに来たんだけど、また次にする」

姫「ルビス、さま?」

勇者「知らなくていい。ダーマ神殿に行かなきゃいけないんだ」

姫「……魔王討伐の旅の途中でしたものね。光の柱は、勇者のものだったのでしょう?」

勇者「そだよ」

姫「……そう」

勇者「ここで待ってればすぐに見つけてくれるはず。なにかあったらいけないから、遠目から見てるよ」

姫「も、もう行くのっ⁉︎ せめて、お父様の誤解を解いてから」

勇者「メイドちゃんはどうなんのよ」

姫「そ、それはっ、でも、きちんと正直に話すればお父様も」

勇者「ほかの手前もあるからそうはいかないかもよ。政治っていうのは内向きと外向きがあるんだ。今回のは内向きだ」

姫「……」

勇者「俺は仮面を被っていたお陰で、正体を知る者は極少数に限られてる。片手で数えれるぐらい……姫ちゃんと、メイドちゃんと、衛兵。犯罪者の衛兵の言葉なんて誰も信じないし」

姫「私と、メイドが、黙っていれば、勇者は罪に問われない……ってことですわね」

勇者「そうなるね。けど、言ってもいいよ。そこはまかせる」

姫「そ、そんなのっ、言えるわけ、ありません……」

勇者「……そっか」
655 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/18(日) 16:39:17.90 ID:h4MucOXBO
姫「全部、勇者の狙い通りなんですの?」

勇者「ん?」

姫「だって、そうでしょ?」

勇者「んー」ポリポリ

姫「メイドは勇者の身を案じて真実を告白できない、わたくしは大切な友を失わずに済む。罰せられるべき者たちは罰せられ、大円団じゃありません?」

勇者「ははっ、あははっ」

姫「ふふっ、お父様まで巻き込むなんて」

勇者「……大円団なんかじゃないよ」

姫「ど、どうして? だって、結果だけ見れば」

勇者「本来なら罪に問われるべきなんだ。メイドちゃんも。俺もね」

姫「で、でもっ!」

勇者「姫との縁故を利用して、裁かれるべき人が抜け道を通った。苦し紛れの、胸糞悪い結果なんだよ」

姫「……っ」

勇者「これから俺たち三人は、罪を共有してく。それは、王にウソをついた不敬罪、隠匿罪。まぁ、そこさえ気にしなきゃいいんだろうけど」

姫「わたくしは、気にしません」

勇者「……メイドちゃんによろしく伝えておいてよ」

姫「あの子、会いたがってましたわよ。勇者が、くれた、銀細工……ススだらけになるまで持ち歩いて」

勇者「また機会があったら遊びにくる」

姫「腕は? 本当に大丈夫ですの?」

勇者「なんとかなるんでない。わかんないけど」

姫「……あいかわらず、なんですのね」

勇者「あ、ねぇ。ひとつ聞きたいんだけど」

姫「なんですの?」

勇者「ここらへんってさ、花ってある?」

姫「花? サボテンに咲く花ぐらいかしら……」

勇者「なにか、伝承があるとかない? 雨と太陽が交わる場所とか」

姫「雨と、太陽……あぁ、“結晶の薔薇”のことですわね」

勇者「ほ、ほんとにあんのっ⁉︎」

姫「自分で聞いたのではないですか」

勇者「いや、そうなんだけど。まさか、あるとは」

姫「ありますわよ。ただ、今はありませんけど」

勇者「今は? 時期的な話? ここ気候は年中同じだよね」

姫「いいえ、年に一度、雨が降るんですの」
656 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/18(日) 17:05:28.80 ID:h4MucOXBO
勇者「へぇ」

姫「雨があがれば、太陽がさしこむ。一輪の薔薇が咲いてます。学者たちの研究でもよくわかっていません」

勇者「そりゃー、神秘的なお話で」

姫「お城にいけば、ありますわよ」

勇者「どこに……どうせ宝物庫だろ」

姫「観賞用ですから厳重に保管してありません。わたくしの部屋にあります。鏡の前に」

勇者「あ、そう。……鏡?」

姫「ええ、そうですけど」

勇者「そう……そうか……偶然……だよな?」

姫「……?」

勇者「……気にしないでくれ。それと、返しとく」ジャラ

姫「これは、王家に伝わるアクセリー?」

勇者「姫ちゃんに足さされた時に貸し出されたんだ。ちゃんと返しておくよ」

姫「わかりました。お父様には、拾ったと伝えておきます。……あの、勇者」

勇者「なに?」

姫「わたくしの、政略結婚まで、考えてくれて、あ、ありがとぅ」ポッ

勇者「……」ぞわぞわっ

姫「は、ハーケマル王子との婚姻は、きっと、延期されるでしょう」

勇者「う、うん。いいよ」

姫「あ、あのっ、次は、いつ来る……?」

勇者「そのうちに」

姫「お父様も、勇者に、会いたがってましたし……その、もしかしたら、け、けけけっ、結婚相手が変わるなんてことも」

勇者「さてっとぉ」テクテク

姫「どこ行くんですの。まだお話の途中ですが」ガシッ

勇者「……」

姫「勇者なら、王族とも、肩を並べてもおかしくないというか、メイドを側室として迎えて、わたくしと」

勇者「姫ちゃんッ!!」クワッ

姫「は、はいっ!」

勇者「……」ジー

姫「あ……」ドッキンコドッキンコ

勇者「ライデイン」ボソ

姫「……えっ⁉︎ えぇぇぇぇっ⁉︎」ビリビリ

勇者「出力は抑えてある」バチバチ

姫「」プスプス

勇者「結婚なんか人生の墓場だっ!!不吉なこと言ってんじゃねーぞ!!」クルッ
657 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/18(日) 17:33:38.83 ID:h4MucOXBO
【クィーンズベル 廃墟】

老人「ふぉっ、ふぉっふぉっ。ワシに会わずにゆくか、勇者よ」パァァ

ルビス「――……せっかくお膳立てしてあげたのに」

妖精「ルビス様ぁ〜、もう帰りましょ〜」

ルビス「ねぇ」

妖精「はぁい?」

ルビス「魔王なんか小物の前座で私が真のラスボスって言ったら、あの子、どんな顔して喜んでくれるかな? かな?」

妖精「真実知ったら恨まれると思いますよぉ? こーんな顔して」グニ

ルビス「そっかぁ〜、うんうん、そーよね」

妖精「時の狭間に帰りましょ〜」

ルビス「見たかったなぁ。あの子の絶望してる表情」

妖精「もぉ、ルビス様ったら」

ルビス「つまみ食いはよくないもんね? 楽しみはとっておきましょっか♪」
658 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/18(日) 19:00:49.25 ID:h4MucOXBO
【馬車の荷台】

魔法使い「はぁぁぁあっ! メラミっ!」ポフン

武闘家「……」

魔法使い「ありゃ、もう魔力きれちゃった」

武闘家「魔法使い、静かにしてよ」

戦士「はぁぁ〜〜〜っ」ショボン

魔法使い「戦士ったらまだグジグジしてんの? 僧侶の怪力見たからって。戦ってみたら?」

戦士「……また負けたらどうするんだよぅ」

魔法使い「三度目の正直、と言う言葉があるわよ」

戦士「二度ある事は三度ある、というじゃないかぁ」イジイジ

魔法使い「そうね、二度ある事は三度ある、三度目の正直、どっちも言うけれど、どっちが本当なのかしらね」

武闘家「くだらない。どっちも同じじゃないさ」

魔法使い「?」

武闘家「三度とも正直なら、同じ事」

魔法使い「は? なにあんた、空気で頭でも打った? 意味わかんないんだけど」

リリム「……」ボロ

魔法使い「ねぇねぇ、魔族の貴女はどう思う?」

リリム「……」

魔法使い「シカト? 人間を餌にしか思ってないんでしょ〜? こうして逆に痛めつけられるなんて思わなかった?」

リリム「いちいちうるさいなぁ。陰湿」

魔法使い「あんたに言われたかないんだけどぉ?」

リリム「魔法使いって呼ばれてるんだっけ。魔法の才能ないよ? キャハハハハッ!」

魔法使い「……なんで?」

リリム「バカの一つ覚えみたいにメラミメラミってさぁ。魔力はまったく練りこめちゃいないし、学芸会でもやってるのぉ?」

魔法使い「なんですってこの低級三下魔族が」

僧侶「あのぉ〜、そろそろ手綱かわってほしいんですけどぉ」ヒョイ

魔法使い「……私、やる。ここいてもつまんないし」

リリム「逃げた逃げたぁ」ニヤニヤ
659 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/18(日) 19:23:25.03 ID:h4MucOXBO
僧侶「傷の具合はいかがですかぁ」

リリム「(こいつ。厄介なのは、こいつだ。このパーティで、無抵抗な弱者を傷つけるのを躊躇わらない)」

僧侶「勇者さまの腕をやってのはどの魔族か言う気になりましたぁ?」

リリム「言うわけない」

僧侶「そうですかぁ」ゴソゴソ

リリム「……」ジー

僧侶「これぇ、モーニングスターっていう武器なんですけどぉ。鎖の先端にイボイボの鉄球がついてるんですぅ。当たれば痛いですよぉ」ヒョイ

リリム「……だから?」

僧侶「わたしねぇ、勇者さまって、かわいそうだと思うんですよぉ。自分らしくありたいって、そう主張してる男の子にしか見えなくてぇ」

リリム「……」

戦士「僧侶、それ、使う気か? いくらなんでも、そこまで。いっそ、ひと思いに殺してやったほうが」

僧侶「お師匠さまにぃ、言われてるんですよぉ。“精一杯、勇者さまのお力になってきなさい”って。そう思ってた、そう思ってたのに。でき、なかった」

武闘家「……」

僧侶「距離を測るべきか、詰めるべきか、悩んでる内に。腕をなくしちゃってましたぁ〜。あはは、臆病ですよね、私のせいですぅ」

リリム「(なんだ、こいつ、やばい……目に、光がないっ)」ゾワッ

戦士「僧侶……」スッ

僧侶「次なんてあるかわからない」パシッ

戦士「な、なにもあたしの手をはたかなくったって」

リリム「……アンタ、本当に、聖職者……?」

僧侶「でも、だから。だから、次こそは。うん、次なんて、あるのかどうか、あっても何をすればいいのか分からないけど。でもね、次こそは私、勇気を出そうと思う……ね?」カチャ

リリム「……」ゴクリ

武闘家「僧侶、やめろ」

僧侶「邪魔するの? 武闘家さんは少しだけ聡いと思ってたのに」

武闘家「次の、村だ。村につけば、勇者がるはずじゃないさ。直接、聞けばいい」
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 20:58:41.02 ID:fc3pTmj+O
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 21:27:12.11 ID:feu46Cgy0
662 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/18(日) 23:06:48.25 ID:MV461hZpO
【1日後 クィーンズベル城 姫の自室】

姫「……」ブッスゥ

メイド「お、お嬢様。そろそろご機嫌をなおしてくださいまし。きっとなにかの手違いで」

姫「いいえっ!! たしかに痺れましたっ! それになにかボソッつぶやいてましたしっ!! 魔法を唱えたんですわっ!」

メイド「……あの、私の罪をかぶっていただき、命を救っていただいたのは事実ですし」

姫「それとこれとはなにも関係ありませんっ!」

大臣「姫さま、失礼いたします」ガチャ

姫「あーら、じじい。淑女の部屋になんのごよう?」

大臣「じじい……せめてじいやとか」

姫「じじい」

大臣「(この小娘がっ!!)」ニコニコ

姫「用件は?」

大臣「いやいや、用件はないんですけども。声が廊下まで聞こえていたので」

姫「用がないのなら、回れ右」

大臣「ぬぐっ! ……なにやら、痺れたとか」

姫「いやらしいじじい。盗み聞きしてたんですの?」

大臣「ほ、ほほ」ヒクヒク

姫「あなたには関係ないわ。出てって」

大臣「姫さま。僭越ながら、その魔法に心当たりが」

姫「……?」ピク

大臣「メイドよ。恋に落ちた時はあるか?」

メイド「は、はい?」

姫「セクハラですわ。お父様に言いつけて――」

大臣「それこそが、魔法の、正体なのです」

姫「ついに耄碌したんですのね」

大臣「古今東西、恋に落ちた時は、身体に稲妻がはしるという感覚と決まっております。のう、メイドよ?」

メイド「は、はぁ」

姫「恋……? そうなんですの?」

メイド「いえ、私は、よくわかりませんが」

大臣「ペットかなにかでも見つけられたんですかの? ……ごほん、良いですか。それはいわゆる、見惚れた時に現れる現象です」

姫「み、見惚れた……?」

大臣「犬ですか? 猫ですか? どちらでもよいですが。胸に手を当てて、愛くるしい姿を想い浮かべてごらんなさい」

姫「(勇者を……?)」

メイド「あ、あの、大臣さま。それ以上は……姫さまは嫁入り前の」

大臣「そうすると、たまらなく愛おしく思えてくるでしょう? ワシも犬を飼っておりましてな。野良だったのですが、最初の出会いはそりゃもうビリビリと電撃かと思ったくらいで」

姫「(勇者……あの時、見つめられて。そういえば、わたくしったら結婚の申し出を自ら、してた?)」ポワァンポワァン

メイド「自覚を、促すなんて……私、知りませんよ」

姫「……っ」ボッ

大臣「人生のパートナーとは、かけがえのない巡り合わせという運命でもあるのです。話は変わるが、メイドよ」

メイド「はい……」ブスゥ

大臣「? なにを不貞腐れておる」

メイド「知りませんっ! 本当にどーなっても知りませんからねっ!!」バンッ
663 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/18(日) 23:39:11.23 ID:MV461hZpO
【数十分後 クィーンズベル城 玉座】

王様「粛々と述べよ」

兵士長「はっ! ご報告致します! 捜索隊が出立、数刻後に無事確保、気絶しておられましたが、なんら異常は見受けられませんっ!」ビシッ

王妃「噂はどうか」

兵士長「……恐れながら申し上げます! 此度の一件にらつきましては、城内の使用人から漏れたのか、その、民たちの間でも」

王妃「陛下……」

王様「やはり、人の口に戸はたてられんか」

兵士長「箝口令(喋ったら罰すること)を敷きますか?」

王様「いや、そのような愚策をすればますます不信感を募らせる。漏れ出す前ならまだしも、後ではな」

王妃「ならば、別の噂で上書きしてしまうのは?」

王様「?」

王妃「ポジティブに捉えるのです。不祥事を隠さない王権はクリーンだと民たちに訴え、宣伝に活用してはいかがでしょうか」

王様「どちらにせよ、非はある。騙せたとしても一度が限度であろう」

姫「お父様っ!!」バターンッ

王妃「……はぁ、まったく、はしたない」

王様「姫よ。身体に大事ないか」

姫「わたくしっ! 結婚いたしますっ!!」

王妃「まぁ……」

王様「……そうか、危険な目にあい、王室に逆風が吹こうかというこの節目にようやく、ようやく自覚が芽生えたか……」

姫「勇者とっ!! 婚儀をあげますっ!!」

王妃「……」

王様「……」

兵士長「ひ、姫さま? いま、なんと?」

姫「ですからっ! 勇者とっ! 結婚いたしますっ!!」

メイド「ひ、ひひひっ、姫さまぁ〜、はぁっはぁっ」タタタッ

姫「メイドっ! 今伝えたところよっ!」

メイド「ひ、ひぃぃぃぃ〜〜〜〜っ⁉︎」ガタガタ

王妃「この子は……なにを考えてるのやら……」

王様「ば、ば、ばっ、ばっかもぉぉぉおおおっんっっ!!」
664 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/19(月) 00:04:41.71 ID:2O+eU8P+O
姫「なぜでしょうか⁉︎ 勇者であれば王室と婚姻を結んでも身分は問題ないはず! アデルに問い合わせてください!」

王妃「そういう問題ではないのです。ハーケマルとは兄弟国なのですよ。いわば、王子とは許嫁の身。許嫁とは、家同士の契約なのです」

王様「このっ、このっ、バカ娘がっ!」

姫「そんな婚姻に幸せはありませんっ! お父様! お母様! 娘の幸せをお望みではないのですか⁉︎」

王妃「理解してちょうだい。望むだけが幸せではないと。……結婚生活は、いずれ、慣れます」

姫「お母様は、なにも理解しておられません」

王妃「姫。母親に向かってなんたる口を……!」

姫「あの“勇者”なのです! 世界の希望! もし、私と結婚をするとなれば、ゆくゆくは国王! 勇者が国王になるのです! 民たちはこの国こそが一番だと喜び踊るでしょう!」

王妃「そ、それは……」

王様「ハーケマルが孤立するじゃろうが」

姫「そこはお父様の外交手腕の見せ所じゃありません?」

王様「なにも利ばかりが全てではない。信頼とは持ちつ持たれつで成り立っておる。本音を言えば、勇者を迎えたいのは四つ国同じよ」

姫「それじゃぁ、勇者が魔王を倒したら? どうなさるおつもりです? アデルに帰るのを指を咥えて見てるおつもり?」

王様「アデルは、勇者出生の地である。優先権はあそこにある」

姫「それも、国同士の決まりごと? バランスをとるための?」

王様「左様じゃ。我らが強引に動けば、まずアデルが黙っておらん」

姫「勇者が希望していたとしても?」

王様「なに?」ピクッ

王妃「姫……。まさか、勇者自身が、婚姻を望んでいると?」

メイド「ひ、ひめさまぁ、それ以上はまずいですぅ、後戻りが――」

姫「はいっ!! 勇者から求婚されましたっ!!」キッパリッ

王様「まことかっ⁉︎」ガタッ

メイド「…………し、知りませんよ、わたし、なにも、しりませんよぉ」

姫「ウソじゃありません! ですから! お認めください!」

王様「……う、うぅむ……」

王妃「勇者が……そう。この国にいると聞き及んではいたが、会ったのね?」

姫「はい!」

王様「当人は、どこにおる?」

姫「魔王討伐に急ぎでかけられました。戻ってきた時には、かならず妃にすると」

王妃「まぁまぁ、あらあらぁ」

王様「な、なんと。必ずと、そう申したのか」

姫「お父様、お母様。これは、政治的側面においてもチャンスなのではないでしょうか?」

王様「……兵士長よ……」

兵士長「はっ!」ビシッ

王様「この国を除く三国に早馬を飛ばせ。四つ国会議を申請すると。仲介役は、法王庁に」

兵士長「頂上議会を……!」ゴクリ

王様「伝文は、“魔王討伐後の勇者の所有権”。――よいな?」

兵士長「ははっ!」ドゲザ



665 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/19(月) 00:21:16.80 ID:2O+eU8P+O
【クィーンズベル城 姫の自室】

メイド「ひ、ひひひっ、ひめさまぁ。どうなさるおつもりなんですかぁ〜」

姫「なにが?」ケロッ

メイド「嘘なんでしょおっ? 求婚されたなんて一言も……人間達で争いが勃発しますよぉ〜ばかばかばかぁ〜」

姫「ウソなんて真実にしてしまえばいいのよ」

メイド「もし、もしも、バレたら、この国、滅ぶかもしれませんよ」

姫「転覆を目論んでいた盗賊団がいたじゃありませんの。勇者がいなければ気がつけていたかどうか」

メイド「ひぃ、ひぃぃぃぃんっ」

姫「うまくいけば、貴女を第一の側室に申請してあげる」

メイド「……え?」

姫「あら? 嫌だった? なら、どこの馬の骨ともわからない貴族と縁談を」

メイド「い、いえいえっ! 嫌だなんてそんなっ! わ、わたしですかっ⁉︎ というか、側室だなんて、そんなっ! 姫さまいいんですかっ⁉︎」

姫「英雄色を好むというでしょう。優秀なタネであれば多くの女を孕ませる権利がある。子は恵まれるにこしたことはないし」

メイド「え……わ、わたしが、勇者さまの、お嫁に……」

姫「ちょっと! 正妻はわたくしです! あなたは側室っ!!」

メイド「は、はい、それは、もちろん……」

姫「……そういえば、勇者ったら、なぜこの花を探していたのかしら」ゴト

メイド「鏡の前にある結晶の薔薇を?」

姫「ええ。急に聞かれたのだけれど……」

妖精『クスクス』

姫「――ねぇ、今、誰か? 笑った?」

メイド「いえ? 空耳では? この部屋には二人だけですし」

姫「そう……? 変ね……」
666 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 01:29:25.40 ID:Z4PpgFwfO
667 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/19(月) 01:43:20.56 ID:ztXIrcQV0
僧侶のキャラいいわーwww
668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 02:19:18.66 ID:BQBGtKdC0
669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 02:42:10.06 ID:ZNVru2qQO
670 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 07:08:27.77 ID:mrYYructo
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 08:57:06.72 ID:8Ghj5ltgo

楽しみ
672 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/19(月) 13:23:29.51 ID:cZuVtgYmO
【ブサイク村 宿屋】

勇者「この村のネーミングセンスやばない? 悪い意味で」

店主「……リア充はしね」

勇者「おおい! 直球だな! いらっしゃいませな!」

店主「一晩100000万ゴールドになります」

勇者「たかいよ。足元見てるってレベルじゃねーだろ」

店主「ちっ、これだから陽キャは」

勇者「脈絡なくディスらないでいただけるかな。とにかくなんでも文句つければいいと思ってないか……部屋あいてる?」

店主「は? は? はぁ?」

勇者「……」

店主「部屋ぁ? リア充は外でキャンプファイヤーとバーベキューしてればぁ?」

勇者「……俺は、仲間だぞ」

店主「ケッ。あんたどう見ても女にかわいいとか言われる部類じゃん。心の中で哀れとかバカにしてんだろ。くっさ」

勇者「……」スッ

店主「なにを見せようって――」

勇者「これは、俺が無人島に持っていくバイブル。ToLOVEるという」

店主「……カジュアルオタか。そんなファンタジー漫画ぐらいで」

勇者「まだある」スッ

店主「……っ! こ、これは……っ⁉︎」

勇者「そう。この世界ではめったに手に入らない機械文明というファンタジーの金字塔――ガ○ダム」

店主「うぉ、おおおっ、あまりの売れ行きの悪さに絶版になっているあの……っ! し、しかもこれは……っ」ペラ

勇者「真っ先に確認するとは、おぬしもなかなかの通よ。そう、これは、幻の初版だ」

店主「……っ」ガタッ

勇者「値はつけられるものではない。欲しい人にとっては、価値がある。しかし、欲しくない人にとっては、ただの紙。お前はどっちだ? 価値を見出せる人間か?」

店主「……あ、あんた……どうやって、これを……」

勇者「答えは簡単だ。俺は、友達がいない」

店主「……あ、あぁ……あぁあああっ……」プルプル

勇者「実話の話だ。だから、心を癒してくれる、漫画の世界に逃げた。ありとあらゆるジャンルを読破した」

店主「そ、そんな見た目をしてるのに」

勇者「ふ、ふひひ。俺の纏う負のオーラにシンパシーを感じないのか?」

店主「……そ、そういえば……目が、ピュァだ」

勇者「(そっちかい!)……幻想を愛してるからな。二次元は俺の嫁。三次元はお断りします」

店主「……わかった。俺が間違ってた。ようこそ、ブサイクだらけの村。文字通りのブサイク村へ」

勇者「(とんでもねぇ村だな)」

店主「お前さんの容姿に嫉妬を禁じ得ない。我々のコンプレックスをあまり刺激しない方がいい」

勇者「はいはい。なんでここにはブサイクしかいないんだ?」

店主「この村はみーんな容姿を理由にいじめられた過去を持つコミュニティなのよ。イケメンや美女の前だと緊張しちゃったり構えたりするようなやつら」

勇者「また、なんとも……隠キャっぽい」

店主「あん?」ピクッ

勇者「なんでもない。とりあえず、宿をお願い」
673 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/19(月) 13:56:20.51 ID:cZuVtgYmO
【数時間後】

店主「ようこそブサイク村へ御一行様ですかお風呂にしますかそれともお食事にしますかなんなりとなんかりとお申し付けくださいむしろ豚とののしってください――」

魔法使い「……っ」ビクゥ

店主「(びびびびっ、美女集団が、この村にっ、やっ、やってきたぁああっ!)」ガクガク

魔法使い「早口すぎて聞きとれなかったからもう一度言ってくれない?」

店主「あひっ、あのっ、やど、やどになりましゅ」プルプル

僧侶「……あのぉ〜」ピトッ

店主「ひゃ、ひゃわっ、て、ててて手ぇをにぎって、なにをっ」

僧侶「ゆっくりで大丈夫ですからぁ〜」ニコ

店主「(……て、天使……?)」クラァ

戦士「勇者が来てるか聞けばいいだけだろう?」

勇者「おーう、やっぱり追いかけてきたのか」トントン

魔法使い「あっ!! あんた今までどこでなにやって――」

僧侶「……っ」タタタッ

勇者「ん?」

僧侶「勇者さまぁっ」ボフッ

勇者「お、おい」

僧侶「すみません、なにもお力になれず、申し訳、ありません」ギュウ

勇者「……な、なんだぁ?」

魔法使い「僧侶、そんなに心配してたの……」

戦士「あたしたちだって心配しなかったわけじゃない!」

武闘家「腕、聞いたよ。どうなのさ?」

勇者「聞いたって、誰から――」

僧侶「……」ソッ パサッ

戦士「……ほ、ほんとに、腕が、ない……」

勇者「まぁ見たまんまなんだけど」

魔法使い「どうするつもりなのよぉっ! 誰にやられたのっ⁉︎」

武闘家「勇者が腕を持ってかれる相手なんて想像もしたくないが、負けたの?」

勇者「んー」ポリポリ

戦士「両手で剣を使えないなんて死活問題だぞっ⁉︎」

勇者「質問はひとつずつにするのと俺の質問が先! なんでリリムがここにいるの?」

リリム「……」プィ

魔法使い「勇者を襲いにきてたのよ」

勇者「あらー、そっか。とりあえず部屋いくべ」

店主「(このくそやろぉおおおおっ!! やっぱりリア充なんじゃねぇかおまええぇぇっ!!)」ゴゴゴッ

勇者「この村には、あまり長居できねーな……はぁ」
674 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/19(月) 14:24:40.35 ID:cZuVtgYmO
【宿屋 部屋】

勇者「とりあえず、僧侶は俺の腰から離れろ」

僧侶「……いやです」ギュウ

勇者「離れろ」グイッ

僧侶「今回は次がある。でも次は、その次がないのかもしれないから」ガッシリ

勇者「(なんじゃこいつ)……離れんかい」ググィッ

僧侶「いや、です」ググッ

勇者「いだい。まって、いだっ! いだだだっ⁉︎ なにこの馬鹿力っ⁉︎」

僧侶「離れまっ、せんっ」ギリギリ

勇者「お、おぉぉぉっし、締まる、さば折りになってきてるっ! タップ!」パン

僧侶「四六時中、ずっとそばについてます。喉が乾いたりしたら言ってください。ちゃんと水差しは用意してあります。ご飯なら食べさせてあげます。トイレも片腕では自由もあるでしょうから私が手伝って」

勇者「ヤンデレか! お前らも見てないで止めんかい!」

魔法使い「いい気味よ」

戦士「お灸が必要だ」

武闘家「……異議なし」

勇者「お前らなぁ、こういうやつが一番ぶっとんでるとセオリーがあるんたぞ! その内パーティ内で血みどろの殺人事件が!」

魔法使い「私、別に勇者個人を男として見てないから。僧侶と争うのもない」

戦士「同じく」

武闘家「……誰にやられたのか言いなよ」

僧侶「私、これまで実のところ我慢していたんです。普段から色々してやりたかったから、都合が良いぐらいで。勿論、勇者さまの腕がこのようになって喜ばしいと言う訳じゃなく、でも、これからは心置きなくやれる理由ができたというのもあって」

勇者「ほらぁ! もうやばいってこいつ! なんかあったら俺刺されるやつだってこれぇっ!!」

魔法使い「刺されたら? バカは死ななきゃ治らないって言うし」

勇者「切り捨てないで⁉︎」
675 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/19(月) 14:58:28.07 ID:cZuVtgYmO
僧侶「……そんなに、そんなにっ、信用、できないですか……」

勇者「……はぁ?」

武闘家「通訳してやる。なんで個人行動をしたがるのさ? こう言ってる」

勇者「いや、俺は俺のしたいようにしてるだけで」

僧侶「腕をなくされるのもですかっ⁉︎ 私は、そんなに頼りになりませんかっ⁉︎」

魔法使い「私じゃなくて、私たちでしょ」

戦士「前にも話したが、このパーティのこと、もう一度、話し合いする機会が必要なんじゃないか?」

リリム「……ばっかみたい」

魔法使い「三下魔族がしゃしゃりでてくんな」

リリム「ニンゲンってホントバカよね。頼りない? そんなこと聞かずとも、それしかないでしょ」

戦士「……黙ってろ」

リリム「魔族はその点わかりやすい。なんていったって力がすべてだから。それでぜぇーんぶ決まっちゃう。勇者に、相手にされてないのは、アンタ達だよ。キャハハッ!」

僧侶「……」ユラァ

勇者「まて」ガシッ

僧侶「なぜ、止められるのですかぁ? 用済みなので殺してしまいましょう」

リリム「やれば?」

勇者「……はぁ、解放してやれ」

魔法使い「……っ! いい加減にしてよっ!!」バンッ

勇者「……」

魔法使い「こいつは、敵っ!! てきてきてきてきっ!! 敵なのよ! 野放しにしてどうするつもり⁉︎ 人間に害をもたらす! 罪のない人が殺されちゃってもいいのっ⁉︎」

戦士「残念だが、あたしもそう思う。綺麗事だけでは被害をとめられない」

武闘家「……わかった。勇者ができないっていうのなら、アタイが」

勇者「やめろって」

魔法使い「我慢できるとかできないとかじゃない! それ以前の問題なのっ!」バンバンッ

戦士「あたし達の旅の目的は魔族の首領、魔王なんだ。遅かれはやかれ、殺すことになるんだぞ」

勇者「今は無力だろ。そこまで必死にならんでも」

魔法使い「今はね! 回復したらまた人を襲う! ねえっ、あんた……ほんとに勇者っ? そんなんで魔王討伐なんかできるつもりでいるの? こいつは、害虫!」ズビシ

リリム「が、害虫だと……っ?」

勇者「やめろっつうのに。縄といてやっから」シュルシュル

リリム「甘い……とろけるような甘さのおぼっちゃま。クックックッ」ニヤァ

魔法使い「勇者っ! やめなさいってばぁっ!」グィッ

勇者「頼むっ」ドゲザ

魔法使い「うっ……え……?」

勇者「こいつの命、助けてやってくれ。この通りだ」

魔法使い「ま、魔族の為に、土下座……こ、こんなやつ、勇者じゃ、ない」

戦士&武闘家&僧侶「……」

魔法使い「無理。あんたみたいな腰抜けが魔王と渡り合えるわけない。伝説は所詮伝説なのよ……」クルッ

戦士「魔法使い、どこいくんだ」

魔法使い「抜ける! 私もうこのパーティにいたくないっ!!」

武闘家「……」

魔法使い「魔族は、お母様の仇なのに……っ! 勇者についてけば……っ、無念をはらせるって……なのにっ」ギロ

勇者「すまん」

魔法使い「あんたには心底失望したわ。二度と顔見たくない」スタスタ
676 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/19(月) 15:15:52.89 ID:cZuVtgYmO
勇者「じっとしてろ」

リリム「ありがとぉ〜♪」

戦士「勇者……いいのか、これで……パーティメンバーよりも、魔族をとるのが、答えなのか……?」

勇者「そうだ」

戦士「……っ、そ、そんなっ、馬鹿げた話があるかぁっ! 長いとは言えない期間だが、苦楽をともにしてきた仲間だろう! 魔族はお前になにを……なにもしてくれるつもりなんかないだろっ⁉︎」

リリム「あはっ♪ ほんとに縄といてくれたぁ」

戦士「こ、こんなバラバラのパーティで、この先もやってくつもりなのか? なぁ、答えてくれよっ!!」

勇者「……ついてきたいと言ったのはお前たちだ。合わないのなら、戦士、お前も抜けろ」

戦士「……っ」

勇者「リリム、さっさと来た元へ帰れ。ニンゲンは襲うなよ」

リリム「はぁ〜い♪ お優しい勇者さまぁ〜、感謝しますぅ〜……い・ま・だ・けっ♪ キャハハハハッ!」バサッバサッ

戦士「……勇者……あんた、間違ってる。間違ってるよ」スタスタ

勇者「ふぅ……武闘家と僧侶はいかなくていいのか」

武闘家「正直、なにがしたいのか理解できない。でもアタイは師匠との約束があるから」

僧侶「聞かれるまでもありません〜。雲を貫く天でも地獄の底でも、お供いたしますぅ〜」
677 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 18:28:15.55 ID:TJ/NBe2S0
C
678 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 19:19:21.10 ID:9qdj/pIWO
おつ
あれ、僧侶さんかわいい?
679 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 19:22:03.23 ID:/XJY5P4EO
680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 21:18:46.45 ID:AYd/rRzGo
681 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 21:40:52.38 ID:L6dC0IWWO
682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 23:32:51.21 ID:mrYYructo
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/20(火) 01:33:24.91 ID:hH+GfZMO0
この世界では俺らの世界が漫画として描かれてるのか
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/23(金) 02:57:59.69 ID:7OmcXd4+0
更新が待ち遠しい
685 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/23(金) 21:01:46.54 ID:O8NYHVvjO
【宿屋 外】

魔法使い「あああっ! もうっ!!イラつくイラつくイラつくイラつくっ! むきーーーっ!!」ダンダンッ

商人「お嬢ぉ〜さんっ♪」

魔法使い「……なに」

商人「こんなブサイクだらけの村にお嬢さんみたいなキレーな人がいるなんてぇ〜。ひょっとして、旅のお方?」

魔法使い「そうだけど? そちらは行商人?」

商人「行商人なんてそんなそんなぁ。ボクはしがない旅商人ですよぉ。なにお悩みみたいですね?」

魔法使い「関係ないでしょ」プイ

商人「先ほど、宿屋でチラッとみかけてしまったんですが、男女のモツレですか?」ニマ

魔法使い「……はぁ。そんなわけない」

商人「へ? そうなんですか? なにやら男性の方に詰め寄っているような会話が聞こえてきましたが」

魔法使い「聞こえてたのね。別に。あんまりにもだらしないから嫌になっちゃったってだけ」

商人「わかりますわかります。男ってのはなんで身勝手なんでしょうねぇ〜」

魔法使い「ボク……って言ってたけど、あなたは男じゃないの?」

商人「これは失敬! 帽子かぶったままではわかりませんよねっ。ちゃぁ〜んとした女ですよっ♪」パサ

魔法使い「あっそ」

商人「実はぁ〜……」ゴソゴソ

魔法使い「ねぇ、今は雑談とかする気分じゃな――」

商人「こちらっ! このおススメの商品がありましてぇ〜」スポンッ

魔法使い「うっ、くさっ⁉︎ な、なによっ⁉︎ なにだしたの⁉︎」

商人「お聞きになりたいですかぁ? コレ、惚れ藥になってますぅ」

魔法使い「ほ、惚れ薬ぃ?」

商人「女でも。男でも。みぃ〜〜んがほしいと一度は願うあの惚れ藥ですっ! だらしない男だと思っても見限るのはまだはやい!」

魔法使い「……?」

商人「そんな時はコレ! なぜなら! “惚れた異性”には死にものぐるいで頑張るものなんです!」

魔法使い「はぁ」

商人「“惚れた弱み”とよく言うじゃありませんかぁ? だらしないのならば、心底惚れさせればいいのです! 心の底の底からっ! 貴女以外なんて見えないように!」

魔法使い「……それはそれで重すぎるというか、めんどくさそう」

商人「うまぁく操ってやればいいんですよぅ。今なら一本買えば二本目は無料です」キリッ

魔法使い「原材料はなんなの?」

商人「マンドラゴラとドラゴンの涙です」キリリッ

魔法使い「……嘘ね。胡散臭すぎるからハナから信じちゃいないけど、両方とも入手困難な素材じゃない」

商人「ウソだなんで人聞きの悪いですね」ムッ

魔法使い「今は一人になりたいのよ。物売りなら他を当たってくれない?」

商人「あぁ〜そうですか。いいですよーだ。トルネコ印の商品なのに」

魔法使い「――トルネコ? トルネコって言った? いま」

商人「そうですよ。ウソだとか言われるのは心外なので、先に見せておきます。これです。これがトルネコの会員バッチ」キラン

魔法使い「へぇ……ホンモノ?」

商人「なっ、なななっ、なんですかあなたは⁉︎ 疑い深いにも程がありますね! ボクはちゃぁ〜んとした会員です!」

魔法使い「ふぅ〜ん」ジトォー

商人「これからクィーンズベルに向かう途中なんです! ホントのホント!」

魔法使い「……あっそ。興味ないからいっていいわよ」
686 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/24(土) 00:02:42.32 ID:/O8QslgN0
687 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/24(土) 07:11:12.02 ID:cYbqQsQ1o
688 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/24(土) 14:21:01.06 ID:uejYJ6hIo
クィーンズベル…惚れ薬…これは…
689 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/24(土) 18:07:11.91 ID:Z7Acm95GO
【数十分後 ブサイク村付近 丘】

戦士「おぉ〜い、魔法使い」タタタッ

魔法使い「はぁ……なによ、もう連れ戻しにきたの?」

戦士「いや、残念ながらそうじゃない」ポリポリ

魔法使い「……引き止めるなんてするわけないか」

戦士「ああ……残念なことだ。勇者は、あたし達より魔族を選んだ。広義で言えば、人間よりもだ」

魔法使い「要するは“勝手についてきてるだけ”。それ以上でも以下でもないってだけでしょ、あいつにとって」

戦士「そう、かも……しれないな」

魔法使い「あんなのが勇者だなんて、人類全体が不幸だわ。魔王を討伐する。そのことを期待されてるのに」

戦士「……これから、どうする?」

魔法使い「さぁ? ただ、今は……“時間を無駄にしちゃった”。そう感じるってだけ」

戦士「酒でも、飲むか?」

魔法使い「ぷっ、気を使ってるつもり?」

戦士「いいや。やるせないのは、あたしも同じなんだ」

魔法使い「……」

戦士「まさか……まさか、勇者が魔族に肩入れするなんて夢にも思わなかった。アルデンテの村にいた偽勇者の方がまだマシかもしれない」

魔法使い「あの傲慢チキの女好きかぁ」

戦士「勇者としての役割を全うするのなら……だけどな」

魔法使い「私はどっちもイヤだな」

戦士「それは、そうだが。どっちかといえばの話だよ」

魔法使い「現実って、残酷よね。おとぎ話や、伝説みたいな花々しくて、冒険譚のような展開が待ち受けてるものだと思ってたのに」

戦士「儚い夢と消えてしまったな」

魔法使い「どうなるのかな、これから。魔王に、魔族に……人間は一生頭が上がらないまま、過ごさなきゃいけないのかな」ポロ

戦士「……」

魔法使い「うっ……ぐすっ、勇者ならっ、きっと、魔王を倒して、お母様の仇をっ、とってくれると思ってたのにっ」

戦士「……魔法使い……」

魔法使い「あは、あははっ、あ〜ぁ、ホントに、ぐすっ、なんでっ、なんで、現実って思うようにいかないんだろ、勇者も、なにもかも」
690 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/24(土) 18:35:34.62 ID:Z7Acm95GO
【宿屋 食堂】

僧侶「はい、あ〜ん」カチャ

勇者「あーん」

僧侶「おいちぃですかぁ?」

勇者「うんっ! おいちぃっ!」モグモグ

僧侶「よかったですぅ〜。はい、もう一口〜」

武闘家「――ええいっ! うっとおしいっ!」バンッ

勇者「こわぁい」

僧侶「よしよし、大丈夫でちゅからねぇ〜」ナデナデ

武闘家「勇者っ! アンタなに餌付けされてるんだよ! 最初はやめろとか言ってたじゃないさ!」

勇者「……餌付けじゃあない」

武闘家「はぁ?」

勇者「これは……そう、“バブみ”。バブみを感じたから、俺は漢(おとこ)として応えているまで」

僧侶「よしよしぃ〜」ナデナデ

勇者「見ろ。この女子力ではない、バブみ力の高さ。男ならおギャりたくなるってもんだろうが! シャア・アズナブルもララァは私の母になってくれるとか言うとった!」

武闘家「ま、また、わけのわからないことを」

勇者「おんぎゃああああああっ!!」

武闘家「な、なにっ」ビクゥ

僧侶「いいんですよぉ、い〜っぱい甘えてぇ、私が勇者さまの腕のかわりになりますからねぇ」

勇者「くるしゅうない」

武闘家「こ、このっ! だ、ダメダメ勇者がぁッ」ゴゴゴッ

勇者「まぁ、落ち着きたまえ。そうカッカすると人生――」

武闘家「正拳突きぃぃぃっ!!!」ズバァァァンッ

勇者「ぴっ⁉︎」ドゴーーーンッ

武闘家「ふーっ、ふーっ」

勇者「」パラパラ

店主「ひ、ひぃっ⁉︎ 壁がっ! リア充は場所と時を選ばないから嫌いなんだぁっ!!」

武闘家「立てッ! どうせたいしてきいちゃいないのはわかってるよッ!!」

僧侶「も〜。武闘家さんも遊んでもらいたかったら素直に言えばいいのに〜」モグモグ
691 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/24(土) 21:00:15.67 ID:s4iz5+H4O
【数日後 クィーンズベル城 姫の自室】

姫「……」ボー

妖精『うふっ、うふふっ。結晶の薔薇……。この薔薇見ていると、アナタはなにも考えられなくなる……』

姫「――……なにも……――考え……」

妖精『そぉ。なぁ〜んにも考えなくていいの」

姫「――……はい」

妖精『太陽と雨。対極に位置するその意味は……崩壊。この薔薇は、見た目は美しいけど、破滅を指している』

姫「破滅……美しい」

妖精『終わりって美しいよね? あなたがこの国を終わらせるのよ。呪われし姫君となるの』

姫「はい……」

妖精『さぁ、目を開けて。意識を取り戻すの。この会話をすっかり忘れて』

メイド「姫さま。失礼致します」ガチャ

姫「……」ボー

メイド「まだ寝ぼけていらっしゃるのですか? 器用に鏡の前で」

姫「え……?」

メイド「……? 姫さま? 顔色がすぐれぬようですが、どこかお体の具合でも」

姫「えっ? ……あ、あぁ。な、なんでもない。なにしてたのかしら、わたくしったら」

メイド「シーツを交換してします」

姫「ええ……」
692 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/24(土) 21:04:48.89 ID:s4iz5+H4O
〜〜第3章『砂漠の花と太陽と雨と』〜〜(後編)

693 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/02/24(土) 22:32:46.10 ID:s4iz5+H4O
最近忙しくなってしまって書いてる時間ろくにとれないのでここで一旦切ります。
694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 00:21:00.19 ID:YhPJFYtOo
695 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 01:02:45.45 ID:sZ1A/AwmO
仕事が忙しいなら仕方ない
696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 01:24:25.26 ID:fQdI67Z1O
待ってるぞ
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 03:52:32.97 ID:yvCWV0u20
頻度が落ちてると思ったが多忙か
仕方ないな
698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 12:15:51.60 ID:3iETMx5J0
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/25(日) 20:47:22.89 ID:3GZHJ2MGO
タイトルで「はぁ?」ってなって、第1章を読んで止まらなくなって、今や更新を待つのが生きがいになっています
頑張れ〜!
700 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 00:28:16.05 ID:Wco8Q2jzO
待ってるよ
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 22:58:08.42 ID:tsloeMaS0
待っています。
702 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 00:27:30.22 ID:G5D+z6Tc0
忘れてたけど、PV的なの作ってる人いるんだよね
どんな風な仕上がりになるのか
703 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 01:25:19.69 ID:CHVH+Wy2o
ほしゅ
704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/09(金) 12:54:07.68 ID:kv6bkwA4O
まだか
705 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/09(金) 18:48:00.56 ID:rSnnJETXO
はいエタった
706 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/09(金) 19:45:12.88 ID:tYvJlEqfO
最近の子供はすぐにエタるって言葉使いたがるんだな
まだ書いてるんだろ
辛抱強く待てよ犬みたいに
707 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/10(土) 21:16:31.51 ID:353lnxt/0
完結すればだがこんな傑作をリアタイで見られることに感激だ

忙しいようだが健康に気を遣いつつ無理のない範囲で続けていってほしい
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/10(土) 22:13:56.17 ID:4mZckZA9O
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 23:49:59.33 ID:ETwFyM1wO
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 08:27:00.44 ID:17wOrfUmO
エタったな
711 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/19(月) 10:22:17.29 ID:Ts0df4L7O
まだ1ヶ月しか経ってないやろ
エタったうちには入らん
1年は待てるぞ
712 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/19(月) 10:50:11.82 ID:rhz/kLiwO
動画作成で忙しいから仕方ないね
713 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 12:33:34.45 ID:BZVtWJ7Y0
>>712みたいなアンチとも受け取れるやつはレスつくたびに見に来ててなにがしたいんだ
保守してるファンなんか
714 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/19(月) 20:12:58.73 ID:bxtCWYSA0
ageカスのゴミじゃなければなんでもいいわ
715 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/20(火) 00:25:01.76 ID:Fl1fyxVTo
期待
716 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/23(金) 00:42:31.72 ID:jDjQkAFSo
717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/29(木) 22:40:16.07 ID:V9r8kiCFO
しゅ
718 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/30(金) 16:44:57.64 ID:G0lmSIOT0
はーエタエタ
もう埋めようぜ?
719 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/31(土) 00:05:32.08 ID:0zB02zbA0
>>718
さっさとやれよ無能
720 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/31(土) 07:23:46.07 ID:Ad+HSD5c0
年度末と新年度でバタバタしてる間は更新無理だろうし4月入って落ち着いたらかね
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/31(土) 13:19:56.98 ID:CbeXd7Pc0
作者は学生なんじゃないかな
新学期の準備で色々と追われているんだろう
ちょっと間が空いたから埋めるとか、ここの民度も随分と落ちたものだな

722 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/31(土) 14:29:57.45 ID:doB9NFweo
作者「ニートになりたい」
723 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/04/03(火) 00:23:25.79 ID:piSX52fg0
酉チェックテスト
724 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/04/03(火) 00:31:17.81 ID:piSX52fg0
久しく板から離れていまして自分のトリすら忘れかけていました。ご無沙汰しております。
現在、私生活が環境が変わるなどで色々と慌ただしく、落ち着いて妄想する時間がろくにとれません。
いずれ続きを書こうと思います。
尚、ほかに書き散らしているものもあるのでそちらもちゃんと完結させます。
ご挨拶がてら報告を致しました。
725 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/03(火) 08:31:33.91 ID:XOfB/WJoO
おう、まっとるやで
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/03(火) 12:36:37.37 ID:kdZeW54zO
まってるよ!
727 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/03(火) 18:20:53.50 ID:25PExZ/90
気長に待つから完結だけはさせてほしい頼んだ
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/03(火) 18:57:22.67 ID:720DjhqP0
729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 03:56:19.26 ID:B0H6OpnK0
待ってます
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/29(日) 14:54:05.69 ID:H6kg9AMtO
731 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/03(木) 23:59:51.61 ID:FSqhkX3V0
待ってる
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/09(水) 01:11:09.25 ID:M3tg8XVQ0
こんなに面白いssを書けるなんて才能の塊だな。ゆっくりでいいから続きが読みたい
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/30(水) 12:58:31.44 ID:rZYmFu3lO
勇者「っでググッたらこのSSが1番上に出てくる
しかも勇者「魔王倒したし帰るか」を差し置いて
どういうことや……
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/02(土) 17:30:16.33 ID:EV83h2YU0
待ってる
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/16(月) 18:22:37.10 ID:oQ/gNR4u0
夏休み中盤までいったら余裕できるかねー
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 22:33:55.70 ID:SVbNw7k2O
まだかよ
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/20(土) 12:26:54.41 ID:9/YexxZAo
板も復活したぞー
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/10/21(日) 10:09:37.29 ID:kUGsweXBO
チーズ蒸しパンになりたい
739 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/05(水) 10:35:15.26 ID:ERCz0S8U0
まってるやで
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 17:44:23.16 ID:0P1nQL0nO
まだか
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/02/28(木) 19:40:14.69 ID:KU2WrJ9H0
[sage]
まだか
742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/11/26(火) 14:07:04.26 ID:Uvmmim6QO
あげ
743 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/03/14(土) 15:32:58.07 ID:ivgzjNqxo
ほっほ
744 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/02(土) 01:23:51.24 ID:/UXmdc/vO
頼む、書いてください
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/07/18(土) 10:32:31.93 ID:7BkPVb9JO
書いてくれ…ください……
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/10/21(水) 00:58:50.41 ID:/RT5txX6O
あげるぜ
747 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/11(火) 22:41:16.88 ID:lyAjLfNTo
あげ
748 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/09/20(火) 20:03:10.21 ID:iNnVJFxTo
あーげ
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