義賊「勇者を飼いたい?」 手下「はい♪」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/15(月) 01:45:52.02 ID:luJul0od0
手下「姐さん姐さん姐さーん!」ドタバタ

義賊「あー、もうなんだい騒々しい……」

義賊「こっちは昨日の酒が残ってるんだ、静かにしておくれ……」

手下「それどころじゃないんだって姐さん!」

義賊「はいはい……どうせまた怪我した子猫か子犬でも拾ってきたんだろう?」

手下「もー、姐さん起きてってば!山向こうの平原で兵隊たちがやりあってるの!」

義賊「……なに?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1515948351
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/15(月) 02:20:59.26 ID:luJul0od0
〜山頂〜


義賊「ああ、確かにどっかの部隊が争ってるねえ、先か短い人生なのに、元気なにこった」

手下「姐さん、どうする?どっちかに加勢するの?」

義賊「なーんでアタシがそんなことしはなくちゃならないのさ」

手下「じゃあ、ただの見学?つんまないの」

義賊「見学じゃあないよ、仕事の準備さ」

手下「仕事?」

義賊「いいから見てな……ほら、そろそろ決着がつくみたいだ」

義賊「……にしても、あれは何処の部隊だい?」

義賊「片方は帝国の兵士たちみたいだけど、もう片方は……」

手下「んー、なんか旗に太陽のマーク書いてあるよ」

義賊「相変わらずアンタは目が良いねえ」

義賊「……太陽の印ってことは、勇者教団かい」

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/15(月) 02:33:54.12 ID:luJul0od0
義賊「……どうやら戦闘が終わったみたいだね」

手下「うん、太陽のマークのヒトたち、全員動かなくなっちゃった」

義賊「生き残った帝国部隊は何人だい」

手下「えーと、いち、にい、さん……いっぱい」

義賊「って事は、両手の指の数以上……つまり10人以上は生き残ってるってワケか」

義賊「よし、夜まで待つよ、それまで休憩だ」

手下「はぁい」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/15(月) 10:26:52.54 ID:pvQcnFRX0
勇者現れる
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/22(月) 16:20:21.95 ID:vABVuTgl0
手下「姐さん姐さーん」

義賊「なんだい」

手下「勇者教団ってなにー?」

義賊「なんだい、アンタそんな事も……」

手下「姐さん?」

義賊「いや、アンタの年齢だと知らないのも当然かね」

義賊「アンタも勇者ってヤツは知ってるだろ?」

手下「知ってるー、魔王を倒そうとした偉い人でしょ?」

義賊「そうそう、そんな感じ」

義賊「今から語るのは、勇者が世界を救おうとした話だ」

義賊「そして」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/22(月) 16:21:00.03 ID:vABVuTgl0
 



「勇者『様』が世界を救えなかった話だ」




7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/22(月) 16:21:47.59 ID:vABVuTgl0
今から15年前。

世界を脅かす魔王を討伐する為、勇者は単身で魔城へ向かった。

魔城には様々な魔物が住んでたって話だからね。

常識で考えると、1人で向かうのは無茶ってもんだ。



けどね。

勇者は異常に強かったんだ。

状態異常無効の身体を持っていたし、何より「女神の加護」がついていたんだ。

例え志半ばで死んでしまったとしても、女神の神殿で自動的に蘇生されるような加護が。

勇者にはついてたんだ。

仮に勇者が魔王討伐に失敗して息絶えてしまったとしても。

二度目三度目の再出発が可能って事さ。



これなら何時か必ず魔王の首元に刃が届く。

あとは「何時倒せるか」の問題だ。

そう思ってた。



帝国の皇帝も、共和国の王達も、亜人同盟の代表者たちも。

東方の拳王さえも。

全員がそう思ってた。

勇者は人格者だったって話だからね。

皆が皆、勇者に期待していたんだ。

勇者は人類圏の、希望だったんだ。

希望だったんだよ。

けど。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/22(月) 16:22:35.87 ID:vABVuTgl0
それっきり、勇者は、帰ってこなかったんだ。

死んだなら各地にある女神の神殿で蘇生される。

けど、その形跡はない。

つまり生きてるはずなんだ。

けど、戻って来なかった。



1ヵ月待っても。

半年経っても。

1年耐えても。


勇者は戻ってこなかった。

人類の希望たる勇者が、ね。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/22(月) 16:23:07.56 ID:vABVuTgl0
人々は囁きあった。


「勇者は逃げたのだ」

「あの子が逃げるはずがありませんわ」

「なら何故戻ってこないのだ」

「何度も死ぬ苦しみを味わうくらいなら逃げたくなるのも当然至極」

「しかし、逃げるか、あの勇者が」

「あの勇者『様』だぞ」

「なら」

「ならどうして」

「……」

「ひょっとしたら」

「ひょっとしたら?」

「誰かが、勇者を浚ったのかもしれない」

「勇者は人類の希望だ」

「ならば、その希望を独り占めして」

「自分の国の利益として利用しようとする者がいても」

「不思議では無い」

「いや」

「まさか」

「まさか……」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/22(月) 16:25:34.07 ID:vABVuTgl0
そう、まさか……さ。

常識的に考えると、そんなヤツがいるはずがない。

子供が考えても判る理屈だ。

だって、勇者が魔王を倒さなければ。

この世界は終わってしまうのだから。

まだ「勇者は魔王に捕まったのだ」と考えたほうが頷けるってもんだ。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/22(月) 16:26:47.90 ID:vABVuTgl0
けど、この考えに飛びついた奴がいた。

飛びついた奴等がいた。

私達が思ったよりも、それは多かった。

連中は勇者を探した。



帝国の研究施設に忍び込み。

共和国の遺跡を探索し。

各地に存在する秘境を踏破し。

古い王族の墓を暴き。

大商人の蔵を襲い。

旅芸人達を皆殺しにし。

貧村を焼き払い。

「隠された勇者」を探した。



その為ならば倫理から外れた行為も許されると叫んだ。

それは熱狂的な波となって世界に伝播した。



狂信的な勇者信奉者達。

それが「勇者教団」さ。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/22(月) 16:34:52.48 ID:vABVuTgl0
あの頃は本当に酷かったよ。

なんといっても、法と秩序を守るべき憲兵達の中にさえ勇者教団が居たからね。

連中が行った全ての行為は正当化された。

例えそれが悪逆な行為だったとしても、だ。


……。

……。

ま、そんな勇者教団も、長くは続かなかったがね。

だって世界中を探しても勇者は見つからなかったんだから。

各地に広がった熱も冷めていって。

最後には……。



集団で魔城へ突撃して潰えたって話だ。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/22(月) 17:05:51.66 ID:vABVuTgl0
義賊「連中の旗を掲げてたって事は、生き残りが居たんだろうねぇ」

義賊「勇者教団は羽振りがよかったって話だから、帝国の兵達がこのまま撤退するなら遺体から金目の物を……」

手下「ぐぅ……」zzz

義賊「こら、人に説明させておいて寝るんじゃ……」




ドスンッ!



義賊「あん?」

手下「むにゃ……?」

手下「姐さーん、今、何か雷が落ちたみたいな音が……」

義賊「みたいな、じゃなくて、落ちたよ、雷が」

義賊「さっきまで帝国の兵士と勇者教団が戦ってた場所に」

手下「え、え、ホントに落ちたの?」

手下「見に行こう!ねえ姐さん!」

義賊「……立ってるやつは居るか、見ておくれ」

手下「んんー……居ないみたい」

義賊「何だか嫌な予感がするねえ……」

義賊「けど、アタシの縄張りで起こった事だ」

義賊「最後まで見届けないと気色が悪い」

義賊「よし、ちょっくら様子を見に行くよ」

手下「がってん♪」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/22(月) 18:12:12.94 ID:vABVuTgl0
〜平野〜


義賊「こりゃあ、また、随分と……」

手下「くろこげだぁ!」

義賊「参ったねえ、これじゃあ金目の物も頂けないじゃないかい」

手下「姐さん姐さん、この剣は?」

義賊「炭化してボロボロじゃないか、こんな剣じゃ大根も斬れないよ」

手下「じゃあ、この盾は?」

義賊「指で突いただけで穴が開きそうだねえ」

手下「じゃあじゃあ……」

義賊「はいはい、アンタはちょっと真っ黒じゃない物を探してきておくれ」

手下「はーい!」トテトテ

義賊「……」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 21:45:29.95 ID:f29TKbM7o
続きキター
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/23(火) 01:00:10.13 ID:LwU+/kPDO

待ってた
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 10:14:22.14 ID:a8F3ereH0
義賊(こっちの全身鎧の連中が帝国兵で、向こうの軽装の連中が勇者教団かい)

義賊(思ったよりも数が多いねえ)

義賊(それに、森のほうへ続く馬の足跡が数頭分残ってる……)

義賊(帝国兵達が乗っていた馬達が、落雷の音に驚いて逃げ出したんだろうけど)

義賊(雷に巻き込まれて死んだ馬の死体は、一つもない)

義賊(ヒトや荷物は全て炭化してるのに、馬だけ全頭生き残ったなんて、ありえるかい?)

義賊(もしこれが人為的な現象なら、魔法使いの仕業ってぇ事になるだろうが)

義賊(あの子が確認したときに、生きて立っている人間は1人もいなかったんだよねぇ)

義賊(勇者教団の誰かが、死ぬ間際に魔法を使った?)

義賊(ううん、それにしては状況が……)

義賊(……どうにも解せないよ)


手下「姐さん姐さーん!これ見てこれこれ!」

義賊「だから、真っ黒じゃないモノを探しなって言ってるだろう?」

手下「真っ黒じゃないよ、ほら、肌色が随分残ってる、ピカピカしてるのも!」

義賊「……ああ、こいつは、長い髪に覆われてて判りにくいが」

義賊「生首かい」

手下「うん!」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 10:15:56.36 ID:a8F3ereH0
義賊「うん、これは悪くない顔立ちだ、栄養を十分に取った貴族の生首って事か」

義賊「多分、落雷前の戦闘で首を跳ねられたんだろうね、だから黒焦げにならずに済んだ」

義賊「血が出た形跡がないのは奇妙だけど、まあ、落雷の熱の影響で蒸発しちまったのかもね」

義賊「額や耳の飾りは、宝石かい」

義賊「これを頂けば、高くで売れそうだねえ」

手下「えらい?えらい?」

義賊「うんうん、えらいえらい」

生首「ああ、私もほめてやろう、えらいぞ、よく私を見つけた」

手下「えへへー、ほめられちゃった!」

生首「しかし、その宝石に手をつけるのは辞めてもらおう」

生首「それは、勇者である私の装備だ」

義賊「……」

手下「……」

生首「して、ここは何処だ、そして今は何時だ」

生首「この私の問いに答えよ、賊よ」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 10:32:39.26 ID:a8F3ereH0
手下「姐さん姐さん姐さん姐さーん!」ペタペタ

手下「喋ってる!この子喋ってる!」ペタペタ

義賊「……こいつは、驚いたね、最近トンと見なくなったが、アンデッドかい?」

生首「無礼者、歩く屍などと一緒にするでない、私は勇者だ」

手下「姐さん!この子、首だけなのに凄く偉そうだよ!」ペタペタ

生首「小娘、本来なら私に気安く触れるなぞ万死に値するのだぞ」

生首「私を発見した褒美として今は許すがな」

手下「あはははははははは!姐さん!この子飼いたい!飼っていいでしょ!」ペタペタペタ

生首「ええい、こいつでは話にならんわ」

生首「賊よ、貴様が返答せよ」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 10:33:41.65 ID:a8F3ereH0
義賊「……アンタ、勇者って言ったかい」

生首「いかにも、私は勇者だ」

義賊「魔王討伐に向かって、それっきり戻らなかった、勇者『様』かい?」

生首「ふはははは、様を付けるとは、貴様、なかなか判っているでは無いか」

生首「そう、私は魔王討伐に旅立った、勇者だ」

義賊「魔王を倒せなかった、そして、人類を救えなかった」

義賊「あの勇者『様』だってのかい」

生首「はっ、笑わせるな、人類の救済も魔王の討伐も、まだ途中なだけだ」

生首「そして喜べ」

生首「私を発見したお前達の偉業をもって、それらは再開されるのら」

手下「むにー」グイー

生首「ええい、頬を引っ張るら、喋りにくいわ」

義賊「……」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/24(水) 00:28:42.87 ID:Mu0H7nODO

なんという展開
続き楽しみ
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