ギャルゲーMasque:Rade まゆ√

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

249 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:12:20.03 ID:YiJviGoJ0


P「ただいまー姉さん」

加蓮「おかえりー鷺沢」

P「あれ姉さん、髪型変えた?」

加蓮「それ以外にも変わってる場所あるでしょ!」

P「キレ方理不尽だしそもそもお前姉さんじゃないだろ」

文香「では……私が北条加蓮です」

P「まじか加蓮、なんか頭良さそうになったな」

加蓮「私がバカっぽかったって言いたいの?!」

P「現在進行形でバカだろお前」

加蓮「バカって言う方がバカなの知ってる?」

P「はいお前の方がバカって言った回数多いー」

ははーん、さては俺たちバカだな?

P「……で、なんで加蓮が居るんだ?」

加蓮「私が来たからだけど?そんな事も分からないの?」

P「へーへー。で、何の用だ?」

文香「……P君に、お話があって来たそうです」

P「通話かラインで良いじゃん」

加蓮「……はぁ」

文香「……はぁ」

P「え、なんで俺呆れられてるの?」

文香「…………はぁ」

加蓮「…………はぁ」

P「ため息で語るな」

文香「……通話やラインではダメだから会いに来た、とは考えられないんですか……?」

加蓮「あんたほんとそういう所からっきしダメだよね」

通話やラインじゃダメって事は……

P「……盗聴されてるって事か」

加蓮「んな訳……まゆなら無いって言い切れないけどさ」

P「にしてもわざわざこんな夜に来なくたって良いだろ」

文香「………………はぁ」

加蓮「………………はぁ」

P「えぇ……」

250 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:12:59.93 ID:YiJviGoJ0


加蓮「取り敢えずあんたの部屋行くよ」

手を引かれ、俺の部屋に拉致された。

言ってる意味が自分でも分からないけど大体そんな感じだ。

加蓮「……盗聴器とか無いよね?」

P「怖い事言うなよ」

加蓮「……なんで私がわざわざ二十時回ってから来たのか、本当に分かんないの?」

P「……二十時……」

二十時と言えば……なんだ?

あと四時間で日付が変わるが……

加蓮「……門限だからに決まってるでしょ」

P「加蓮のか?」

加蓮「だとしたら私今此処に居ない訳だけど」

P「確かにそうだな……っあー!」

寮の門限って事か。

成る程……成る程?

P「だから何なんだ?」

加蓮「夜の二十時から朝の五時まで」

P「おやすみからおはようまで?」

加蓮「健康的な生活だね」

P「老後はかくありたいものだな」

加蓮「ってそうじゃなくて、その時間はいくらまゆでも毎日は自由には動けないって事」

P「……まゆ?」

加蓮「最近、まゆって四六時中鷺沢と一緒に居るじゃん」

P「……まぁ、そうだな」

加蓮「背後霊みたいだよね」

P「生き霊じゃん」

加蓮「この時間帯にならないと、鷺沢と二人きりでは話せないって事。理解出来た?」

二人きりで話したい内容で。

電話やラインじゃダメで。
251 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:13:39.67 ID:YiJviGoJ0


P「……えっと……それは……」

加蓮「……なに?やっと分かってくれた……?」

途端に恥ずかしくなったのか、少し目を逸らす加蓮。

加蓮「……なんとか言ってよ」

P「えーっと……察しが付いたって言うか、まぁ……」

加蓮「……うん、えっと……そういう事なんだけどさ……」

声がどんどん尻すぼみになっていく。

加蓮「ってか鷺沢、あんた相変わらず隙だらけだよね。彼女居るのに部屋に別の女招くとかバカなんじゃないの?!」

P「逆ギレすんなよ。あと招いてねぇよ拉致られたんだよ!」

加蓮「……まゆに言っちゃうよ?」

P「大変申し訳ございません、全面的に此方の責任でございます」

加蓮「ふんっ、よろしい」

えへんっ!といった顔をして。

それから大きくため息を吐いて、加蓮は話を続けた。

加蓮「……まゆに、鷺沢と二人きりになった時に告白するって言ったらさ。あれからそんな機会失くなっちゃって」

P「……だから、最近まゆずっと近くに居たのか」

加蓮「買い物してたり散歩してる鷺沢に偶然装って話しかけようとしたら、近くにまゆが居たりしてさ」

まゆ、なかなかアクティブだな。

P「……ん?偶然装って話しかけようとした……?」

加蓮「えっ?あ、あっははっ……聞かなかった事にしてくれたり……しない?」

P「……まぁ、それで俺に何か被害がある訳でも無いしいいか」

加蓮「……ごめん、やっぱりちゃんと話すね?」

話すのか。

加蓮「街で鷺沢見掛けたりするとさ、ついつい追っちゃうんだよね」

P「目で、だよな?」

加蓮「その言い方、まるで私が恋する乙女みたいじゃん……」

P「……目で、だよな?」

加蓮「……バレない様に尾行しちゃったりしてさ」

P「目だけじゃなかったかー……」

加蓮「普段どんな事してるか気になるんだからしょうがないでしょ?」

P「尾行をしょうがないで済ますな」

加蓮「それくらい好きって事なんだから!」

P「……えっと、すまん……」

加蓮「……ごめん、今のもナシで。ううん、本音なんだけどさ……」

顔を真っ赤にする加蓮。

いやまぁ、好きな人が普段どんな事してるのか気になるのは分かるな、うん。
252 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:14:23.44 ID:YiJviGoJ0


加蓮「……まゆはさ、怖いんじゃない?」

P「……怖い?俺に振られるのがか?」

加蓮「あんたがまゆを振らないって事くらい、もうみんな分かってるでしょ」

それを、加蓮が言うって事は。

一体加蓮は、俺に会いに来るまでにどれだけの葛藤と覚悟をしてきたんだろう。

加蓮「そうじゃなくて、鷺沢が他の子を振る事。もちろん鷺沢が辛い思いをしちゃうのが嫌ってのもあると思うけど……」

P「……俺は、それでも」

加蓮「まゆはさ、弱いんだよ……多分、鷺沢が思ってるよりも、ずっと」

P「……そうなのか?」

加蓮「それと、優しいから。自分のせいで仲の良い友達が振られちゃうのが、すっごく辛いんだと思う」

P「別にまゆのせいじゃ……」

加蓮「って割り切れる程、まゆは強く無いんだって。もしそれに、自分が嫌われちゃったり恨まれちゃったりするのが怖い……仲の良い友達だったとしたら尚更ね」

P「……だから、か」

加蓮「うん。だからまゆは、他の子に告白させない為に四六時中鷺沢の近くに居ようとしてた。ストーキング紛いの事をしてでもね」

P「……そう言ってくれれば……」

加蓮「言ってたとしたら、鷺沢は何をしてたの?何が出来たの?別に鷺沢を責める訳じゃないけど、あんたに出来る事なんて無かったんじゃない?」

P「……そうだな」

きっと、出来る事なんて何も無かった。

それでも、まゆが悩んでるのに。

そもそも悩んでる事すら知らなかったなんて嫌だ。

加蓮「それにまゆも、鷺沢に迷惑掛かる様な事は言おうとしないし。美穂の時に何も出来なかったからこそ、それ以降は全部自分だけでなんとか済ませようとしてる」

そうは言っても、何も相談されないってのもまた悔しい。

なんてワガママな考え方なんだろう。

加蓮「これから同じ様な事があった時に、同じ様にならない様に……一回、ちゃんと話してみたら?」

まぁ私はそんな事関係ないんだけどね、と笑う加蓮。

それが本当な筈が無い。

本当なら、ここまでまゆの事を話す意味が無い。
253 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:15:04.91 ID:YiJviGoJ0


加蓮「……まぁまゆが勝手にそうしてるだけだから、私も好き勝手に好きにやるし、好き勝手に好きになる」

P「……好きに、か……」

酷な事だけど、言葉にするのはとてもしんどいけれど。

それでも、きちんと伝えなければ。

P「……なぁ加蓮、大前提として俺は加蓮とは付き合えないんだぞ?」

加蓮「それくらい知ってるけど?私が勝手に好きになってるだけだから、あんたも振れば良いんじゃない?」

アッサリとそう言う加蓮。

ほんと加蓮は、素直で……強いな。

加蓮「伝えないままでいるなんて嫌だし。まぁ一回諦めといて何を今更って感じなら、今のうちに追い返しても良いけど?」

P「いや、ちゃんと聞くよ」

加蓮「……あと安心していいよ。振られようが、私が鷺沢とまゆを嫌いになったり恨んだりなんてしないから」

P「……安心しろ。嫌われようが恨まれようが、俺は加蓮と友達でい続けたいと思ってるから」

加蓮「さて、保険を掛けるのは終わり。これ知られたら智絵里に笑われそうだけど……そうでもしないと。私は……弱いから」

ふぅ、と。

大きく息を吸い込んで。

加蓮「ねぇ、鷺沢」

P「なんだ?加蓮」

加蓮「……好きだよ。私と付き合って」

P「ごめん。俺、まゆの事が好きだから」

加蓮「……ふふっ、知ってる」

呆気なく終わった恋に対し、軽く笑う加蓮。

……こいつは、ほんっとうに……

P「……なぁ、加蓮」

加蓮「何?」

P「……ごめん」

加蓮「そんなに謝らなくて良いって。あと見送りも要らないから」

P「……やっぱり俺さ、加蓮に嫌われてもいいや」

加蓮「えーひっどい。突然どうしたの?」

P「だから……加蓮も、こっちの気持ちなんて考えずにもっと好き勝手言ってくれよ」

加蓮「……私、帰るから」

P「俺やまゆの事なんて、気にしなくていいからさ」

加蓮「ほんっと、しつこい男は嫌われるよ?」

P「嫌われてもいいって言っただろ」

加蓮「……何?もっと熱烈な告白を期待しちゃってたの?きもっ」

分かってる。

俺やまゆに辛い思いをさせない為に、あっさり引き下がろうとしている事くらい。

それで良いじゃないか、それで終わりに出来るんだから。
254 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:15:54.90 ID:YiJviGoJ0



P「……俺さ、友達少ないんだよ」

加蓮「知ってるけど?唐突な自分語りとかうざいんだけど」

P「母親が亡くなって、それから一人で本ばっかり読んでてさ。おかげで小学生の頃からぜんっぜん友達出来なくてさ」

母親がいなくて、家が古書店という事もあり本ばかり読んでて。

小学校の頃からクラスの男子と全然仲良くなれなくて、時にはイジメの的にされた事もあったけど。

そんな時に仲良くしてくれた、助けてくれた李衣菜にすっごく感謝してるし。

加蓮「だから何?」

P「だから、さ。少ないからこそ……大切にしたいんだよ」

加蓮「そんな相手に嫌われてもいいとか言っちゃうんだ」

P「……嫌われるのは嫌だよ。怖いし、しんどいし。でも、それくらい大切だからこそ……真正面から向き合いたいって思ってる」

加蓮「……振った癖に、よくそんな事言えるね」

P「あぁ、全部俺が悪い。もし俺が辛い思いをしたとしても、それは全部俺のせいだから……言いたい事があるなら、全部話してくれ……!」

加蓮「ばっかじゃないの?!ほんっと、ワザワザ色々話してあげて損した!あんたなんて……!」

さっきまでの調子とは打って変わって、肩を震わせて声を大きくする加蓮。

あぁ……これは本当に、嫌われたかもしれないな……

加蓮「鷺沢の事なんてさ!私は……!」

目に涙を溜めて。

言いたく無かったであろう想いを。

加蓮「……嫌いになんて、なれる訳無いじゃん……っ!」

加蓮は、言葉にしてくれた。

P「……ありがとう、加蓮」
255 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:16:42.63 ID:YiJviGoJ0



加蓮「私が勝手に好きになってるだけだから、あんたも振れば良いんじゃない?って……そんな訳無いじゃん……嫌だよ、振られるなんて……」

加蓮「追い返しても良いけど?なんて……本当は、私が怖かっただけで……!」

加蓮「……来なきゃ良かった!告白しようなんて思わなきゃ良かった!!いいじゃん、さっきので終わりにしておけば!!」

P「良い訳無いだろ!まだ言いたい事があるって事くらい分かってんだよ!!」

加蓮「私だって辛かったんだよ?だからもう終わりにしてよ!」

P「さっきので諦められるのか?」

加蓮「諦められる訳無いじゃん!!」

P「だったら言えよ!ちゃんと諦めて貰わないと俺も加蓮もしんどいだろ!!」

加蓮「諦められるんだったらとっくに諦めてるから!」

P「分かんないだろ!言っても無いのに!」

自分がどれだけ酷い事を言っているか、よく分かっている。

本音を言ってくれよ、俺は振るけど、だぞ?

加蓮「……私が……私が!どれだけ悩んだと思ってんの?!」

P「分かるわけ無いだろ!言われて無いんだから!」

加蓮「好きなんだよ?諦めたくても諦められないくらい大好きなんだよ?!本音で想いを伝えて、それで振られるなんて嫌だから!!」

加蓮「初めてあんたみたいな優しい人に会えて!嬉しかった!すっごく嬉しかった!好きになっちゃうに決まってるじゃん!!」

加蓮「それでも、振られるのが怖かったから!誰かに取られちゃうよりも、鷺沢に振られちゃう方が怖かったから!私にはあんたしかいなかったから!だから……私は諦めようとしたのに!」

加蓮「会う度に嬉しくなっちゃってさ!バカみたいに舞い上がってさ!もし付き合えてたら、もっと幸せだったんだろうなって思うと……悔しかった!すっごく辛かった!!」

加蓮「なのに!ずっと後悔してたのに!それでも私は、やっぱり振られるのが怖かったから……!だから、誰かの為にって言い訳して、やっぱり本音は言えなくて!!」

加蓮「でもまゆがあんたの事束縛して、私と鷺沢が二人で笑い合える日が失くなっちゃうのも怖かったから!!」

P「……ごめん、加蓮……!」

俺が思っていた以上に、加蓮は悩んでたのに。

それなのに、俺は……

加蓮「いいよもう!私の想い、あんたが傷付こうが構わず言ってやる!!」

256 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:17:42.56 ID:YiJviGoJ0
加蓮「鷺沢!私は、鷺沢の事なんて……鷺沢の事なんて……!」

それを口にするのは、とても勇気が必要で。

結末が分かっているからこそ、苦しくて。

それでも加蓮は、最後まで……

加蓮「私は……大好きだから……っ!だから、P!私と……私と……!付き合って!!」

溢れる涙を零しながらも。全部、言葉にしてくれた。

P「……ごめん、加蓮……っ!」

加蓮「付き合ってよ!」

P「ほんとに……ごめん……っ!」

加蓮「泣くなんてズルいよ!あんたが辛い思いしてる事くらい分かってるんだから!私も余計に辛くなるじゃん!!」

P「辛くて泣いてるんじゃない!断るって分かってたのに言わせた自分に……!」

加蓮「辛いんじゃん!」

P「辛くない!」

加蓮「私も素直になったんだから鷺沢も素直に言ってよ!」

P「うるせぇ!くっそしんどいよ!申し訳無さで押し潰されそうだよ!」

加蓮「ほら辛いんじゃん!!」

P「辛いとは言ってないだろ!!」

加蓮「……確かに」

P「……急に冷静になるなよ」

加蓮「……ふふっ、バカみたい。こんなムキになって……それだけ、悔しかったって事なのかな……」

P「……ガキみたいな言い合いしてたな」

加蓮「……保険掛けて、言い訳して、八つ当たりまでして……でも結局、言っちゃったな……」

P「……ありがとう、言ってくれて」

加蓮「気分はどう?」

P「悪く無いな。最悪な気分だ」

加蓮「……ふふっ、何それ」

P「……」

加蓮「私には聞いてくれない?」

P「聞くまでもないよ、顔見てれば」

涙で顔が大変なことになってる。多分、俺も同じだろう。

加蓮「言われなきゃ分かんないんでしょ?」

P「……気分はどうだ?」

加蓮「……うん、清々しいくらい最っ悪な気分。あーあ、振られちゃった……」

P「……俺もう少し泣いていい?」

加蓮「ダサっ」

P「今更だろ」

加蓮「それもそうだね……しょうがないから、私も泣くの付き合ってあげる」

P「……ありがとう、加蓮」

加蓮「……っあぁぅ……っ!うぅぅぅぅぁぁっっ!!」

P「……っ!ごめん…………っ!」

加蓮「あぁぁぁぁぁっ!うぁぁぁぁぁっっっ!!」

あーあ、ほんっとうに。俺は、友達に恵まれてるな。

P「……ありがとう……っ!加蓮っ!」
257 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:18:41.92 ID:YiJviGoJ0


『おーい、まゆー』

『はぁい、あなたのまゆですよぉ』

まゆにラインを送ると、一瞬で既読と返信が来た。

まるで俺とのトーク欄を常に開いてるかの様な超速反応だ。

『明日祭りだけど、空いてる?』

『勿論ですよぉ』

『なら、十六時過ぎくらいに寮行くから』

『分かりました。浴衣を着て待ってますよぉ』

『それじゃ、頼んだ』

『(((o(*゚▽゚*)o)))♡』

さて、と。

デートの約束をして、喜びの舞を踊りながら考える。

加蓮が言っていた事が本当なのだとしたら、まゆは誰かが告白するのを阻止しようとしていた筈だ。

それに関してまゆを責める訳じゃないし、もしかしたら恋人として当たり前な事なのかもしれないけど。

と言うか俺だって他の男子がまゆに告白しようとしてたら、持ち有る限りの語彙力と土下座を総動員して止めてたと思うけど。

それ以前に俺に男子の知り合いなんていないけど。

……ごほんっ、話が逸れた。

兎も角、だ。

ならなんで、美穂は告白してきたんだろう。

美穂が俺の家に来る前は、まゆと一緒に居た筈だ。

まゆなら引き留める事が出来ただろうに、何故しなかったのか。

何故、きちんと告白したらどうですか?って言ったんだ?

……いや、出来なかったのか?

P「……分からん」

自分で考えたところで、答えなんて出ない。

よくよく考えなくても、そんなのまゆしか分からない事だし。

だから明日のデート前に話を聞こうと思ってる訳だし。

だからこそ今、実は少し心が重かったりする訳だけど。

P「……はぁ」

窓を開けると、心地よい風が吹いてきた。

八月の昼は暑いけど、その分夜風は涼しく感じる。

P「おっ」

夜空に、一筋の光が煌めいた。

それが流れ星だと認識して、なら願い事を唱えようかと思った時点でもう既に消えてしまったけど。

今から唱えて、間に合ったりしないかな。

P「……友達が増え……なくていいから減りませんように」
258 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:19:30.83 ID:YiJviGoJ0


李衣菜「その願い、叶えてしんぜよう」

P「まじか」

李衣菜「まじまじ」

P「……なんで居んの?」

窓から覗く道路に、自転車に跨った李衣菜が居た。

李衣菜「朝ご飯たかりに来たんだけど?」

P「知ってるか?今二十一時なんだぜ?」

李衣菜「だから来たんだ」

P「すげえ、なんも理由が説明されてねえ」

李衣菜「冗談だって、たまたま買い物の帰りに通ったら窓からPの顔が生えてただけ」

P「じゃあな」

李衣菜「ちょっとちょっとちょっと!窓閉めたらお話出来ないじゃん!」

P「早く帰らないと親御さん心配するぞ」

李衣菜「確かに」

P「だろ?」

李衣菜「Pの家に泊めて貰うって連絡しとかないと」

P「おいおいおいおい!余計に心配されるしまゆに怒られるし色々とよろしく無いからやめろ!」

李衣菜「そんなに叫ぶと近所迷惑だよ」

P「誰のせいだと思ってんだよ」

李衣菜「人のせいにするなんて……Pをそんな風に育てた覚えは無いけど?」

P「俺も李衣菜に育てられた覚えがねぇよ」

李衣菜「だから覚えは無いって言ってるじゃん」

P「確かに間違っては無いな……」

李衣菜「まぁいいや。それじゃ、私帰るから」

P「ん、なら送ってくぞ?」

李衣菜「いいよ別に。明日は夏祭り行くよね?」

P「もちろんだ」

李衣菜「じゃ、また明日ね」

ばいばーいと手を振って自転車を漕ぎだす李衣菜。

そういえば最近、李衣菜は朝飯たかりに来なくなったな。

そんな事を考えながら、俺は床に就いた。

259 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:19:57.42 ID:YiJviGoJ0



金曜日、夏祭り一日目。

三日に渡って行われる夏祭りに、町はかなり騒がしくなっていた。

こういう時甚平とかあれば雰囲気出るんだろうが、残念な事に自分の格好は半袖Gパン。

もうちょっとお洒落な格好もあるんだろうが……そのうち加蓮にコーディネートして貰おう。

遅めの昼飯を済ませて、ゴロゴロと部屋で転がる。

……約束の時間まで、暇。暇でしかない。

床から虚無が伝わってくる。

まぁいいか、少しくらい早く行っても。

文香「あ、P君……そろそろ、お出かけですか?」

P「もう少ししたら、まゆに会いに行ってくる」

文香「その後は、夏祭りでしょうか?」

P「うん。姉さんは?」

文香「私は、そういった騒がしい場所は……それと、夕方過ぎ頃から、雨が降るかもしれないそうです」

P「え、マジか……」

文香「出かける時、窓は閉めて行って下さいね」

P「了解。んじゃ、そろそろ出掛けるか」

まだ十五時半くらいだけど、行くか。

ドアを開けると、暑過ぎて部屋に戻りたくなった。

やっぱり屋外にも冷房を設置するべきだと思う。

260 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:21:10.06 ID:YiJviGoJ0


俺はまゆに会いに、学生寮まで来た。

まゆ「あ、こんにちは。Pさん」

P「よ、まゆ」

俺の姿を見つけ、花が咲くように微笑むまゆ。

浴衣に身を包んだまゆは、物凄く可愛かった。

やばいな、可愛いな、今すぐにでも抱き締めたくなる。

まゆ「どうですか?まゆの浴衣姿」

P「とても良いと思う」

小学生の感想文みたいな言葉しか出てこなかった。

っとそうじゃないそうじゃない。

聞きたい事があるんだった。

……どう切り出せば良いんだろう?

まゆ「ところでPさん、少しお話したい事があるんです」

P「ん、なんだ?」

まゆ「……加蓮ちゃんとは、どうなったんですか?」

P「……えっ?」

まゆ「加蓮ちゃんから、『鷺沢の家に行って告白した』とだけラインが送られて来たんです」

まゆ「聞き返しても、それ以降返信が一切無くて……既読無視は凶器ですねぇ」

まゆ「断りましたよね?断ってくれましたよね?」

にっこにこの笑顔で聞いてくるという事は、俺が信頼されているという事なんだろう。

P「あぁ、もちろんだ」

まゆ「……ふふ、良かったです。もちろん、まゆも信じてましたから」

P「それは良かった」

さて、それじゃ。

俺も、まゆに聞くとしよう。

P「……なぁ、まゆ」

まゆ「はい、なんでしょう?」

P「……修学旅行から帰って来た日に、美穂に告白された時の話なんだけどさ」

まゆ「……やっぱりOKしよう、なんて話じゃありませんよね?違いますよね?!」

P「んな訳無いだろ……」

まゆ「ふぅ……驚きましたよぉ……驚き過ぎて心臓が動くところでした……」

P「止まってる方がまずく無い?」

違う違うそうじゃない。
261 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:22:07.58 ID:YiJviGoJ0



P「あの時さ、まゆが美穂の背中を押したって言ってたけど……なんでた?」

まゆ「なんで、ですか……それは当然、美穂ちゃんがまゆの大切な友達だからです。背中を押そうとするのは当然だと思いませんか?」

P「じゃあ加蓮は?」

まゆ「加蓮ちゃんは大切なお友達ではありませんから」

P「……本当に?」

まゆ「……本当ですよぉ」

……嘘だな。

P「加蓮から聞いたんだ。まゆは、えっと……誰かが自分のせいで振られるのを怖がってるって」

まゆ「まゆの言葉より、加蓮ちゃんの言葉を信じるんですか?」

P「そういう事じゃないよ。だからこそ、まゆから聞きたかったんだ」

まゆ「……まゆは、Pさんさえ幸せならそれで十分ですから。Pさんに辛い思いをさせない為に、他の子からの告白を止めたいとは思っていますけれど」

P「別に気にしなくていいのに。俺が辛い思いをするだけじゃん」

まゆ「Pさんが辛い思いをするのが、まゆも嫌なんです」

P「……でも、美穂は応援したんだな」

まゆ「まゆのせいで、美穂ちゃんには色々と迷惑をかけちゃいましたから」

P「……加蓮もさ、色々と考えててくれたんだよ。俺やまゆが出来るだけ辛い思いをしない様に、自分の気持ちを押し殺してさ」

まゆ「だったら、告白なんてしなければ良かったんですけどねぇ」

P「……まゆ」

きっとまゆは、そんな事本気では思ってないんだろう。

それでも、俺が言えた事じゃないのは百も承知だけど。

加蓮の想いを踏みにじる様な言葉が、看過出来なかった。

P「……今の言葉はよろしく無いと思うぞ」

まゆ「……Pさんは、加蓮ちゃんに告白されたかったんですか?」

P「そういう訳じゃない。そうじゃなくってさ」

まゆ「Pさんは、誰かに告白されて嬉しいんですか?本当は嬉しかったんですか?だから、いつでも側に居るまゆが邪魔なんですか?」

P「んな事言ってないだろ!」

まゆ「まゆは加蓮ちゃんが告白しない様に、出来る限り二人きりになる状況を作らない様にしてました。Pさんも気付いてましたよね?それを鬱陶しいとも思ってたんですよね?!」

P「ずっと側に居てくれて嬉しかったけどな!」

時折びっくりする事はあったけど、嬉しいって気持ちも嘘じゃない。

でも、出来ればそんな理由抜きにして側に居て欲しかった。
262 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:22:33.86 ID:YiJviGoJ0



まゆ「なら、どうして加蓮ちゃんを家に入れたんですか?!」

P「それは……きちんと断りたかったから……」

まゆ「だったら、まゆがしていた事なんて完全に無駄じゃないですか……!」

無駄、だって?

いつも家に来てくれたのは。

買い物や散歩に付き合ってくれてたのも。

全部、加蓮が告白するのを止める為だけだったのか?

P「……まゆ。その為だけに、ずっと俺の家に来てたのか?」

まゆ「本当は加蓮ちゃんから告白されるって分かって嬉しかったんですよね?だからまゆの居ないところで告白させたんですよね?!」

P「違うに決まってるだろ!まゆと一緒だよ!加蓮は大切な友達だから……!」

まゆ「恋人がいるのに、女の子に告白はされたいだなんて……」

P「そうじゃない!加蓮と正面からちゃんと向き合いたかっただけで……」

まゆ「加蓮加蓮って……!そんなに加蓮ちゃんの事が好きなら、もう付き合っちゃえば良いじゃないですか!!」

まゆの声が、道に響いた。

P「……まゆ……」

まゆ「…………あ……」

分かってる。

まゆがそれを本気で言ってる訳じゃ無いって事くらい。

勢いで、つい口から出てしまったって事くらい。

分かってる、頭では理解している。

きっとまゆはそんな事を思ってないし、俺だってそれでまゆと別れて加蓮と付き合うなんて選択肢は選ばない。

……分かっては、いるんだ。

P「…………そっか。ごめん、まゆ」

まゆ「……あぁっ……あぁぁぁぁぁぁっ……!」

寮へと走り去って行くまゆ。

そんなまゆに対して、俺は。

手を伸ばす事すら、出来なかった。

263 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:23:26.91 ID:YiJviGoJ0


P「……消えたい」

財布を覗けば樋口と福沢が一枚ずつ。

これで出来る限り遠くに旅立つとしたら、やっぱり青春18きっぷだろうか。

青春の終わりの旅になんて皮肉だろう。

ゴロンと寝返りを打って、ベッドから落ちた。

痛く無い、痛いのは心だけだ。

まゆから連絡は一切無い。

俺からも、なんて言えば良いのか分からなくて何も送信出来てない。

あの時、俺はあんな事を聞かなければ良かったのに。

後悔が膨れ上がって部屋を埋め尽くす。

なんだかやけに天井が高く感じるのは、それだけ心が沈み込んでいるからだろう。

P「……今日、お祭りだったんだよな……」

浴衣姿のまゆ、すっごく可愛かったな。

俺が何も言わなければ、今頃二人並んで露店を満喫してたんだろう。

窓を開けて、空にため息を飛ばそうとする。

ポツンッ

雨が降ってきやがった。

どうやら空は俺のため息なんて御免らしい。

もうこのまま永遠に雨が降ってればいいのに。

窓を閉めて、再びベッドに崩れ込んだ。

コンコン

P「……はーい」

ガチャ

文香「……ふふっ」

文香姉さんの微笑む声だけが聞こえてきた。

ベッドに沈み込んでる俺が珍しくて笑ってるんだろうか。

P「……なに?」

文香「お祭り、行かなくていいんですか?」

P「雨降ってきたから今日は休み」

文香「……そうですか」

P「多分明日も明後日も雨だから休み」

文香「予報では晴れですが……」

心は土砂降りだよちくしょう。
264 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:24:13.77 ID:YiJviGoJ0

文香「……ところで、この雨のなかわざわざP君に会いに来たお客様がいらっしゃるのですが……」

P「……今は誰にも会いたく無い」

文香「……だそうです。では李衣菜さん、後はごゆっくり……」

李衣菜「……やっほ、P」

俺の話聞いてた?

それはまぁ置いといて、部屋に李衣菜が入って来た。

残念ながらいつも通りの対応を出来る程の余裕が今は無いけど。

P「……よう、李衣菜。出口は後ろだぞ」

李衣菜「今日、お祭り来るって言ってたのになんで来なかったの?」

P「しばらく俺は世捨て人になるから」

李衣菜「友達の約束は守るべきじゃない?」

P「すまんて……で、なんで来たんだ?わざわざ約束を破った俺にお説教か?」

李衣菜「……えっと、その……Pに言わなきゃいけない事があるんだけどさ」

珍しく、李衣菜が真面目な口調になる。

P「……なんだ?」

李衣菜「……本当に、ごめんなさい」

……え?

突然の謝罪に、置いてけぼりを食らった。

困った事に、謝られる様な事をされた覚えが無い。

李衣菜「ほんとに、今思い返すと凄く自己中な事言ってた」

P「俺に?」

李衣菜「まゆちゃんに」

ベッドから飛び上がった。

P「李衣菜が、まゆに何か言ったのか?!」

李衣菜「目が怖い目が怖い……やっぱり、まゆちゃんと何かあったんだ」

P「さっき振られた」

言ってて消えたくなった。

李衣菜「……え、ほんとに?」

P「……振られて無いと信じたい」

さっきの出来事を、李衣菜に話した。

だからまぁ祭りにも行かなかったと弁明も含めて。

李衣菜「……そっか」

P「今もライン出来なくてさ。まゆからも来ないし、寝てるのかな」

李衣菜「私はまゆちゃんからラインきてここに来たんだけどね」

P「おぉい!」

まゆ……まじか。

本格的に俺は嫌われてしまったのかもしれない。
265 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:24:46.64 ID:YiJviGoJ0



李衣菜「それで、その……さ。美穂ちゃんが、Pに告白した話なんだけどさ」

P「……何かあったのか?」

李衣菜「美穂ちゃんにちゃんと告白させて欲しいって、まゆちゃんに言ったの……私なんだよね」

P「……だから、か」

でも。

李衣菜にそう言われただけで、まゆは行動を変えるだろうか。

李衣菜「元々、まゆちゃんも悩んでたんだよ……美穂ちゃんは大切な友達だから、きちんと向き合って欲しいって……」

P「……それで、李衣菜が頼んだのか」

李衣菜「……ひっどい手段を取ったけど、それで結果的に美穂ちゃんはちゃんと告白出来たし、それで良かったって……そう思ってた」

P「……まゆに、なんて言ったんだ?」

李衣菜「……Pは、聞かない方が良いと思う」

P「……李衣菜が言いたくないだけじゃ無いんだな?」

李衣菜「……どっちも、かな」

諦めた様に微笑んで、李衣菜は目を逸らした。

P「だったら、聞きたい」

李衣菜「……はー……私も後悔塗れだよ。あんな酷い事、言うんじゃなかった」

そう言って、李衣菜はスマホを取り出した。

まゆとのトーク欄を表示して、それを此方に向ける。

そこにあった、まゆの言葉は……

『もう、告白しちゃえば良いと思います』

P「……なぁ、李衣菜」

李衣菜「……ごめん、P」

しちゃえば良いと思う、という事は。

まゆは以前から、それを知っていたという訳で。

李衣菜「……悩んでる美穂ちゃんにきちんと告白させてあげて。じゃないと、私が告白しちゃうよ?って……まゆちゃんに、私がそう言ったんだ……」

P「……おい、李衣菜」

李衣菜「ごめん……Pとまゆちゃんの気持ちなんて、私は考えて無かった……私はただ、美穂ちゃんが……」

P「……俺はそういう事を言いたいんじゃ無い」

李衣菜「……なんて、酷い言い訳だよね。私がなんとかすれば良かったのに、まゆちゃんに押し付けて……あんなに友達想いの子を苦しめてさ……」

P「違うよ、李衣菜。俺は……」

李衣菜「まゆちゃんが悩んでるのも、今こんな状況になってるのも……きっと全部、私のせいだから……」

P「そうじゃない!李衣菜!お前は……!」

李衣菜「……うん。私はね……」

Pの事が、ずっと好きだったんだ。

ポツリ、と。

李衣菜は、そう呟いた。
266 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:25:33.02 ID:YiJviGoJ0


P「……隠し事は無しなんじゃなかったのかよ……」

李衣菜「恋愛に関してはその限りでは無いとも言ったよね?」

そっか。

そういう意味も含まれてたんだな。

李衣菜「……分かってると思うけど、まゆちゃんはPの事をまだ大好きだと思うから。もう一回、話し合ってみて?」

李衣菜「あんなに一生懸命な子を……諦めさせないであげて」

李衣菜「自分のせいでって悩んじゃうくらい友達が大好きで、優しくて、その為なら自分が悪役になってでもってくらい……強い子だから」

李衣菜「Pの為って、そう言い訳してる自分に耐えられない弱い子だから」

李衣菜「……私からの、最後のワガママだから……っ」

李衣菜「お願いだから……っ!まゆちゃんを、諦めないであげて……っ!!」

声を震わせながら、誰かの為のワガママを叫ぶ李衣菜。

それが元々は自分のせいなのかもしれないし、違うのかもしれないけど。

誰かの為に、涙を流して。

そんな友達ばかりな俺は……本当に、幸せだ。

言いたい事は沢山ある。

文句も感謝も謝罪も山ほどある。

それでも今、俺がするべき事は……

P「……んじゃ、行ってくるか」

今日守れなかった約束を果たす為にも。

幸せを手放さない為にも。

P「……明日のお祭りはさ。みんなで、楽しみたいな」

李衣菜「……うん、ありがと」

P「それと、李衣菜」

李衣菜「……なに?」

P「俺からのワガママだ。これが終わったら、もう今度こそ隠し事は無しだぞ。恋愛に関してもだ」

李衣菜「……うん、分かってる」

267 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:26:20.73 ID:YiJviGoJ0



ピンポーン

P「すみませーん、宅配便です」

『……Pさんですよね?」

P「……宅配便です」

『……帰って下さい』

P「真心込めた想いをお届けに来ました」

言ってて恥ずかしくなってきた。

『……今日は、帰って下さい』

P「……今日は帰りたくないって言ったら入れてくれたりしない?」

プツッ

インターフォンを切られた。

普通にショックだけど、よくよく考えなくても言葉を間違えてたと思う。

……帰るか。

つい勢いで傘を差さずに走って来ちゃったが、普通に考えてずぶ濡れの男子なんて部屋にあげたくないよな。

『……傘、持って来て無いんですか?』

P「……家出た時は雨降って無かったんだよ」

『……風邪、ひきますよ』

P「大丈夫だ。俺は多分風邪ひかないから」

『……傘とタオル、お貸ししますから……』

ガチャ

鍵とチェーンが外され、ドアが開いた。

俯きながらも出迎えてくれたまゆは、目が真っ赤に腫れている。

268 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:27:07.21 ID:YiJviGoJ0


まゆ「……あがって下さい」

P「お、お邪魔します……」

こんな状況じゃなければ、きっとテンション上がってたんだろうな。

なんせ、初めて恋人の部屋にあがったのだから。

まゆ「……タオル、使って下さい」

P「すまん、助かる」

まゆ「……こんな時間に、連絡も無しに突然来るなんて」

P「明日まで待つなんて嫌だったんだ」

まゆ「……せめて、連絡くらいして下さい」

P「してたら入れてくれなかっただろ?」

まゆ「……はい」

渡されたタオルで軽く拭く。

まゆ「……着替えた方が良いかもしれません」

そう言って、替えのシャツを出してくれた。

ありがたいけど、これ俺のシャツだ。

失くしたと思ってたけどこんな場所で見つかるなんて。

P「……なぁ、まゆ」

まゆ「っ!……ごめんなさい……!本当に、ごめんなさい……!!」

急に、泣きそうな表情になるまゆ。

まゆ「これで、最後ですから……お願いだから、今だけは何も言わないで……」

だが、此処で言わないと。

今後もまた、こういう事になってしまうかもしれないから。

P「人の私物を勝手に持って帰るな。せめて一言言ってくれれば探さずに済んだのに……」

まゆ「え……その、怒ってるポイントが斜め上過ぎて……」

P「まゆだって俺に勝手にスカート持ち帰られたらどう思う?」

まゆ「そういう趣味が芽生えたんだと思います」

P「すまん、例えが悪かったわ」

……さて、と。

ふざけるのもこれくらいにしておかないと。
269 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:27:51.29 ID:YiJviGoJ0


P「……今日はさ、本当にすまなかった。加蓮加蓮って、確かに恋人相手に別の女子の名前言うもんじゃないよな……」

実際俺だって、まゆの口から別の男子の名前が出まくったらイラっとするかもしれない。

まゆ「いえ……悪いのはまゆの方です。八つ当たりしてしまったのは、まゆですから……」

P「確かにそうかもしれない」

まゆ「うっ……うぅ……っうぁ……」

P「ごめんごめんごめんごめん!流石に冗談だって!」

まゆ「でも、本当に……まゆはPさんの為、Pさんの為って……ずっと言い訳してましたから……」

まゆ「……他の誰がどんな思いをしようが、Pさんさえ幸せならそれで良いって……以前は、そう思っていました」

まゆ「だから……Pさんが他の子に告白されて、辛い思いをするなんて事にならないように……そう思ってたんです」

まゆ「でも……美穂ちゃんと、智絵里ちゃんと、李衣菜ちゃんと……加蓮ちゃんと。みんなと仲良くなって、大切なお友達になって」

まゆ「……まゆも、辛くなったんです。自分のせいで、大切なお友達が辛い思いをするのが……耐えられなくなったんです」

まゆ「だから、Pさんの為にって自分に言い聞かせて、束縛しようとして……言い訳してる自分にも、耐えられなくて……」

まゆ「……だから、真正面から向き合って断ろうとするPさんを止めたくて……でも、まゆは……みんなが大好きで、みんなの気持ちも大切にして欲しくて……」

まゆ「……どうすれば良いのか、分からなくなっちゃったんです」

P「……そっか」

まゆ「……ごめんなさい。本当に……面倒な女で。一番迷惑を掛けたくない、大切な人だったのに……思ってもない、心にもない事を言っちゃって……」

P「割と辛かった」

まゆ「……はい、分かっています。Pさんがまゆの事を、大切に想っている事。だからこそ……あんな事を言ってしまった自分自身が、許せなくて」

きっと、本当に自分を許せなかったんだろう。

加蓮ちゃんと付き合えばなんて言った後のまゆの表情は、今までに見た事無いくらい苦しそうだったから。

まゆ「……此処へ来たって事は……李衣菜ちゃんと、会いましたか?」

P「……あぁ」

まゆ「……李衣菜ちゃんの想いも、知りましたか?」

P「……あぁ」

まゆ「……付き合っちゃえば良かったんです。そうすれば、まゆは諦められたのに……」

P「……って事は、まだ諦められて無いんだろ?」

付き合っちゃえば良かったなんて、思ってないだろうに。

……思ってないよな?

まゆ「……はい」

P「だったら、そんな事言わないでくれ。言ってて辛いだろ?」
270 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:28:36.71 ID:YiJviGoJ0


まゆ「……やっぱりPさんは、優し過ぎるんです。まゆは、Pさんに何もしてあげられないのに……空回りして、傷付ける事しか出来ないのに……きっとまゆは、貴方に相応しく無いんです」

P「……相応しいも何も無いだろ……好きだから一緒に居るんじゃないのか?少なくとも俺は、まゆが好きだから一緒に居るんだぞ」

こんな可愛い子と付き合うなんて、自分は釣り合ってないだろって思う事もあるにはあったけど。

それでも一緒に居たいんだから、いいじゃないかそれで。

相応しさで恋人を選ぶなんて、そんな考えは、嫌だな。

P「明るくて、可愛くて、優しくて、友達思いで……そんなまゆが大好きで、一緒に居たいって……俺はそう思ってる」

まゆ「……笑顔じゃなくて、良いんですか?」

P「どんな表情だって好きだよ。まゆだから」

まゆ「……面倒だって、思いませんか?」

P「正直思ってる!何が言い訳だよとか許せないだよとか思ってるし、八つ当たりであんな事言われたんだとしたらすげー辛かったからやっぱ怒っていいだろって思ってる!」

まゆ「……あ……まゆは……」

P「でもさ、それでも大好きなんだよ!そんなところも全部ひっくるめて、俺は佐久間まゆって女の子が大好きなんだ!!」

まゆ「……えぁ……あ、ええと……ありがとうございます……」

P「だからこそさ!相談して欲しかった!悩んでるんなら、迷惑だろうが言って欲しかった!弱くていいから!絶対そんなところも好きになるから!」

まゆ「まゆは……Pさんに迷惑を掛けたく無いんです」

P「俺は迷惑掛けられたいんだよ!だって好きなんだから!色々頼られたいし相談されたいんだよ!なんならクリスマスプレゼントや誕生日プレゼントは迷惑でいい!!」

まゆ「……バレンタインは……?」

P「そこは普通にチョコが欲しい」

まゆ「……まゆは……」

P「だったら……迷惑掛けたくなって思いは迷惑だからやめろ」

まゆ「パラドックスじゃないですか……」

P「迷惑掛けようが迷惑掛けなかろうが迷惑だよ!だから少しでも……お互い幸せになれる方を選んでくれないか?」

迷惑掛けないだけが恋人として相手にしてあげられる事じゃない。

そんなところに執着するまゆもまた可愛いけど。

それよりももっと、大切にして欲しい事だってある。
271 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:29:14.65 ID:YiJviGoJ0


まゆ「まゆが、Pさんに他にしてあげられる事なんて……」

P「側に居てくれ!」

まゆ「それだけじゃ……足りません」

P「足りてるよ!超満足だよ!すげー幸せだよ!出来ればその上でいちゃいちゃしたいけど!」

側に居たい。

出来れば他に理由なく、側に居たいから側に居る。

そんな風に考えてくれるなら、俺は十分だから。

P「側に居てくれるなら……迷惑なんて、迷惑じゃないからさ」

まゆ「……そんな風に言って貰えるなんて……まゆは、幸せですね」

ふぅ、と。

大きく息を吸って、まゆは微笑んだ。

まゆ「それだけじゃ、足りないんです……まゆは、Pさんから色々な物を貰い過ぎましたから」

P「……そんな事ないよ、多分」

まゆ「そんな事あるんです。ねぇ、Pさん……始業式の日、ぶつかった事……覚えてますか?」

P「あー、走ってたら偶然曲がり角でぶつかった日か」

まゆ「はい……でも、それは偶然じゃないんです」

P「偶然じゃない……?」

まゆ「意図して、まゆが自分からワザとぶつかったんです」

なんでそんな事を。

遅刻の言い訳を用意する為……じゃないよな?

運命的な出会いを演出する為だとしたら、なかなか策士だと思う。

まゆ「……思い出して欲しかったんです」

P「……思い出す?」

まゆ「まゆとPさんがぶつかったの……あの日が初めてじゃ無いんです」

P「……マジで?」

まゆ「……もっともっと前に、一度だけ。まゆが、Pさんに出会った日です」

いつだろう。

俺が以前、誰かにぶつかったのは……
272 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:29:53.51 ID:YiJviGoJ0


まゆ「……少し、昔話をします。まゆがまだ小学生で、暗くて、鈍臭くて、友達がいなくて、一人ぼっちの日々を送っていた頃のお話です」

まゆ「まゆはあまり、明るく自分から誰かに話しかける様な子ではありませんでした。小学生ですから、暗いというだけでイジメられる事もありました」

まゆ「そんな事を両親に言ったら心配掛けちゃうから、って……気付かれてたかもしれませんけど、自分から言えなくて。先生に言っても、きっと良い結果になる事は無いって思ってて……」

まゆ「自分の事が大嫌いで、それでも変わる勇気も切っ掛けも無い……そんなある日の、通学中の時の事です」

まゆ「俯いて歩いていたら、前から来た自転車にぶつかりそうになってしまったんです」

まゆ「なんとかぶつからずには済みましたけど、その時驚いて転んじゃって……手首を、少し怪我してしまったんです」

まゆ「まゆは凄く焦りました。手首の傷なんて……誰にも見られる訳にはいきませんから」

まゆ「今思えば、明らかに違うと分かりますけど……誰かに見られて、リストカットの痕だと思われるのが……怖かったんです」

まゆ「クラスの誰かに見られて、よりイジメられるのも……両親に見られて、イジメられて耐えられなくなったと思われるのも……」

まゆ「まゆは焦りました。これから学校に行かなきゃいけないのに、早く傷を隠さないといけなくて……でも、絆創膏なんて貼ったら余計に怪しいですから」

まゆ「焦って、どうすれば良いのか分からなくなって……がむしゃらに走って、曲がり角を飛び出した時に」

まゆ「……運命の人に、出逢ったんです」

あぁ、思い出した。

俺はあの日遅刻しそうで、普段の通学路とは違う道を全力疾走してて。

あの手首の傷は、俺とぶつかった時に出来たものだと思っていたが。

まゆ「運命の出会いなんて、信じて無かったんですけどね……神様に謝らないといけません」

まゆ「自分のせいで怪我をさせたと勘違いした誰かさんは、手持ちの何かでそれを覆おうとして……」

まゆ「偶々図工か家庭科の授業で使う予定だったんでしょう。ランドセルから赤いリボンを取り出して、まゆの手首に巻きました」

まゆ「大して血は出ていませんでしたが、止血にしてもお粗末ですね。殺菌もしていないリボンを傷口に当てるなんて危険です」

まゆ「ですが、小学生にそんな事なんて分かりませんから。まゆは、ホッとしたんです。これで上手く隠せる、って」

そうだ。

安心した様に微笑む女の子が。

思ったよりもリボンが似合ってて。

なんだか、すっごく可愛く見えたから。
273 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:30:41.36 ID:YiJviGoJ0


まゆ「笑ってる方が可愛いよ、って……そう、言ってくれたんです。気障な小学生ですねぇ」

おかげで、リボンは忘れ物扱いにされたけどな。

李衣菜にまた忘れ物してるーって笑われたのを覚えてる。

まゆ「それはさておき……人に可愛いって言われたの、まゆ、初めてだったんです。それまでは、無愛想だの暗いだの言われていましたから」

まゆ「……すっごく、嬉しかったの……まゆにとって、記念すべき日です。こんなまゆでも、誰かに可愛いって言って貰えるんだ、って。変われるんだ、って。そう、気付いたから」

まゆ「それからまゆは、出来るだけ明るく振舞いました。よく笑う様になりました。たったそれだけで、友達が出来る様になりました」

まゆ「リボンなんて着けてたら目立ちますから、逆に突っかかってくる子もいましたけど……まゆの色々な想いの詰まった思い出のものですから、何を言われても気にせず外さずにいました」

まゆ「そして、思ったんです。もう一度彼に会って、きちんとお礼を言いたい、って。おそらく学校は違いますけど、名前だけは知る事が出来たので」

そう言って、まゆは引き出しから赤いリボンを取り出した。

その端には、度重なる洗濯に薄れて消え掛けているけど。

俺のフルネームが書いてあって。

まゆ「……ずっと、大切にしてきました。あれから一度も、あの日を忘れた事はありません」

まゆ「同じ街に住んでいれば、いずれ出会えると……そう信じていました」

まゆ「ですがまぁ、そう上手く出会える訳もなく……だからまゆは中学生になってから、読モを始めたんです」

まゆ「少しでも、あの人がまゆを見つけてくれる様に……そしてあの時リボンを巻いてあげた子だと気付いてくれる様に、いつでも赤いリボンを着けて」

まゆ「……まぁその誰かさんは、そういった雑誌は読まなかった様ですが……恩返しでもありました。誰かさんが可愛いと言ってくれた子は、今はこんな風に読モをやるくらい可愛く振舞っているんです、と」

まゆ「そして高校生に上がるとき、仙台に引っ越す事になりました。ですがまゆは……この街を離れたくなかったから。誰かさんの事を、諦めたく無かったから……一人、この街に残る事にしたんです」

まゆ「……それでも……やっぱりまゆは、乱暴な男子が苦手で……元女子校で、その年から共学になる高校を選んだのですが……」

まゆ「高校に入って……本当に、泣きそうになりました。クラスは違えど、同じ学年にその誰かさんの名前があったんですから」

まゆ「……ですが、会いに行った時……誰かさんは、可愛い女の子とお喋りしていて……あぁ、きっとあの二人は付き合ってるんでしょうね、って……」

まゆ「どちらも明るくて元気な、お似合いなカップルに見えて……まゆは、声を掛けられ無かったんです」

まゆ「……悔しい、って……そう感じた時、まゆは誰かさんに恋をしていたんだと気付きました。あの日は一晩中枕を濡らしましたねぇ」

まゆ「それでも、誰かさんが幸せな日常を送っているなら、と。そう自分を納得させて、ただ眺める日々を送っていたんですが……」

まゆ「……ですがしばらく観察しているうちに、その二人は付き合ってる訳では無いと気付きました。チャンス到来です。まゆに希望が舞い降りました」

まゆ「……まぁ今度はまた別の女の子と仲良くしてるのを眺めて、ハンカチを噛む事になりましたが。それでも楽しそうな日常を邪魔したくなくて、まゆは待つ事にしたんです」

まゆ「二年生になっても、まだ彼が誰かと付き合っていなければ……まゆが、彼と付き合おう、って。一年経って誰かと結ばれていなければ、きっと彼は周りの女子に対して恋愛感情なんて覚えていないんだろう、って」

まゆ「まゆなら、きっと彼を幸せにする事が出来る。迷惑を掛けずに、楽しい日々をお届け出来る……そう思っていました」

まゆ「二年生の始業式の日に、わざとぶつかって……まぁ思い出しては貰えませんでしたが、同じクラスになれましたし、そのままゆっくりと距離を詰めていけば……」

274 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:31:28.61 ID:YiJviGoJ0



まゆ「……ほんと、甘かったですねぇ。二年生になって、あんなイレギュラーが現れるとは思いませんでした」

P「……加蓮か」

まゆ「はい……加蓮ちゃんは、本当に電光石火の勢いで彼と距離を詰めて……あまつさえまゆより先に唇を奪うなんて……!今思い出しても怒りで噴火しそうです」

まゆ「焦って、まゆもPさんにキスをして……それを美穂ちゃんに見られてしまい、後はPさんのご存知の通りです」

P「……そんなに前から、俺の事を想ってくれてたんだな」

知らなかった。

きっとまゆが話してくれなかったら、俺はずっと知らずにいたんだろう。

まゆがここまで、俺を想っていてくれた事を。

まゆ「……はい。貴方はまゆの、運命の人なんです。運命の出会いに、運命の再会。感謝してもし足りない、まゆの人生を変えてくれた人」

まゆ「……ですから……それだけじゃ、足りないんです。まゆが貴方に貰った幸せは、一生を掛けても返し切れないものだから……」

P「まゆが幸せに思ってる以上に、俺はまゆに幸せを貰ってるよ」

まゆ「……嬉しい……そう言って貰えて、本当に嬉しいのに……っ!」

まゆ「それで良かった筈なのに……!今では……まゆは、もう……」

まゆ「……大切な恋人と……大切なお友達ができてしまったんです……!」

まゆ「ただの恋敵だったら良かったのに……みんな優しくて、まゆの事を大切なお友達だって言ってくれて……!」

まゆ「今まで、いなかったから……可愛いって言ってくれるお友達はいても、怒ってくれたり励ましてくれたり……そんなの、大好きになっちゃうに決まってるじゃないですか……!」

まゆ「……だからまゆは……大切なお友達がまゆのせいで振られるのが……とても辛いんです」

まゆ「美穂ちゃんを説得しようとしてた時……すっごく辛かったんです。本当に、苦しかったんです……もう、あんな思いはしたくありません」

まゆ「加蓮ちゃんだって、とっても大切なお友達だから……まゆが弱いだけなのは分かってます。それでも、優しくて強い加蓮ちゃんが羨ましくて……嫉妬しちゃって……」

まゆ「……それでもPさんは、ちゃんと向き合う道を選ぶのを……止めたくなくて、止めたくて……!」

まゆ「……ねぇ、Pさん…………まゆは、どうすれば良いんですか?」

P「……ありがとう、言ってくれて」

そして、俺が出来る事は……
275 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:31:57.69 ID:YiJviGoJ0


P「俺が、ずっと一緒に居るから」

辛い思いをするのは、もうどうしようもない。

俺はきっと、友達と向き合わないなんて選択肢は選べないから。

まゆには申し訳ないけど、それは変えられなくて。

だからこそ。

P「……まゆが一人で悩まない様に、俺が側に居るからさ。辛い思いをする時は、乗り越えるまで……心の整理が着くまで、一緒に居よう」

ずっと一人で抱え込んできたからこそ。

まゆにそんな選択肢は用意されて無かったんだろう。

だから、俺が作る。

辛い思いをして、苦しい思いをして。

そんな時、一人じゃ耐えられなかったかもしれないけど。

誰かが側に居て、一緒に進む道を。

P「……それじゃ、ダメか?」

まゆ「……はぁ」

ため息を吐かれてしまった。

些か以上に自信過剰だっただろうか。

まゆ「全く……Pさん、さっきまでのまゆの言葉を聞いて無かったんですか?」

P「聞いた上で言ってるんだ」

まゆ「……まゆの返事なんて、決まってるんです」

P「……そうか」

まゆ「言ったじゃないですか。まゆは耐えられないって……」

P「言ったな」

まゆ「まゆは、弱いんです」

P「それも聞いたな」

まゆ「迷惑を掛けたく無いんです」

P「……全部聞いたよ。まゆの、返事以外は」

まゆ「……Pさんにとって、とても辛いお返事になると思います」

P「返事を貰えないよりはいいさ」

まゆ「Pさんを苦しめる様なお返事になっても……それでも、いいんですか……っ?」

P「あぁ。どんな返事でも、俺は受け止めるよ」

まゆ「……Pさん」

P「なんだ?」

ようやく首をあげてくれた、まゆの表情は。

涙に濡れて、本当に辛そうで。

それでも、真っ直ぐ俺の目を見つめて。

まゆ「……ダメじゃないです……!まゆの、側に居て……っ!」


276 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:32:42.74 ID:YiJviGoJ0


李衣菜「おかえり、P。あとこんばんは、まゆちゃん」

P「ただいま……って、待ってたのか」

まゆ「こんばんは、李衣菜ちゃん」

まゆを寮から連れ出して自宅へ戻ると、前で李衣菜が待っていた。

待っていてくれた。

李衣菜「明日のお祭りは一緒に遊べそうだね」

まゆ「まゆはPさんと二人きりが良いんですけどねぇ」

P「で、李衣菜は待っててくれたんだな」

李衣菜「……うん」

俺たち二人が手を繋いで戻って来たのを見て、溜息を吐く李衣菜。

李衣菜「まゆちゃん、寮の門限過ぎてるけど大丈夫なの?」

まゆ「後で謝れば問題ありませんから」

それはそれで問題な気もする。

連れ出した俺が言えた事じゃないが。

まゆ「さて、李衣菜ちゃん。約束通りぎゃふんと言わせに来ましたよぉ」

李衣菜「ぎゃふん」

まゆ「ふふふっ、見てくださいPさん!まゆの勝利ですよぉ!」

P「おう、良かったな」

李衣菜「……良かったね、P」

P「全くだ」

李衣菜「じゃ、私は帰ろっかな」

P「おい」

李衣菜「だって私、まゆちゃんと約束してるし」

まゆ「あ、あれは既に無効です。だって、美穂ちゃんを説得したのは智絵里ちゃんですから」

李衣菜「いやほら、誰がとかは指定してないし」

まゆ「……ふふっ、もう言い訳する気も逃げる気も無いくせに」

李衣菜「あー、バレた?」
277 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:33:22.60 ID:YiJviGoJ0


まゆ「さ、どうぞどうぞ」

李衣菜「え、まゆちゃん見るの?」

まゆ「最前列で見学させて貰いますよぉ」

李衣菜「席外してくれたりしない?」

まゆ「上映中に席を立つのはマナー違反ですから」

李衣菜「まだ上映開始してないよ」

まゆ「出会った時点で物語は始まってますよね?」

李衣菜「それは確かに。まゆちゃんもなの?」

まゆ「えぇ、ずっと前から」

李衣菜「それじゃ、私でフィナーレ?」

まゆ「いえ、そろそろ幕開けです」

李衣菜「内容は?」

まゆ「まゆとPさんのラブストーリーですよぉ!」

李衣菜「……そっか」

まゆ「……はい。新しく、始まるんです」

李衣菜「私が横取りしちゃっても恨まないでね?」

まゆ「思う存分、思いの丈をぶつけて下さい」

李衣菜「ハンカチの準備はいい?」

まゆ「ハンカチを噛むのは李衣菜ちゃんですから」

李衣菜「……ニッコニコで言われると普通に凹むなぁ」

まゆ「信頼の裏返しですよぉ。Pさんに対しても、李衣菜ちゃんに対しても」

李衣菜「……緊張しちゃうな」

分かる、なんて軽々とは言えなかった。

分かる訳が無い。

李衣菜は、一年生の頃から美穂を応援してると言っていた。

きっと本気でそう言ってたんだろう。

だとしたら……

李衣菜「……ごめん、多分泣くけど気にしないで」

P「……いや、安心しろ。多分俺も泣くから」

李衣菜「そう言われると泣き辛いなぁ」

P「赤信号理論だ。みんなで泣けば怖くない」

そう言って、まゆの方を見る。

未だに握られている手は、より一層強くなった。
278 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:34:09.94 ID:YiJviGoJ0

李衣菜「……全部Pが悪い」

P「ひっでぇ!」

李衣菜「いやだってさ、普通気付くでしょ!こんだけ長い間一緒に居たのに!」

P「長い間一緒に居過ぎたんだよ」

李衣菜「とまぁ冗談は置いといて……あれ?もしかして昨日会いに来た時も、本当に買い物帰りに通ったと思ってた?」

P「え?違うのか?」

李衣菜「何処で買い物したら、ついででPの家の前通れるの?」

……確かに。

よくよく考えれば、自転車のカゴに何も入ってなかった。

李衣菜「それにさ、私朝弱くて朝ご飯食べないんだよね」

P「嘘つけ、お前ずっとうちに朝食たかりに来てただろ」

李衣菜「もう隠し事は無し、って。Pが言ったんだけど?」

P「……じゃあ、なんで毎朝……」

言いかけて、ようやく気付いた。

なんでわざわざ、毎朝家に来てたのか。

なんで最近、来なくなったのか。

李衣菜「……会いたかったからに決まってるじゃん……」

P「……そっか」

ストレートな言葉に、少し恥ずかしくなって。

まゆに手の甲を抓られて我に返った。

李衣菜「美穂ちゃんを応援するって言っておきながら、なかなか諦められなくてさ……でもま、隠し切れたし良しとしよっかな」

もちろん、それを俺から美穂に伝えようとは思わない。

李衣菜「……言いたい事は沢山あったんだ。まゆちゃんに対しても、Pに対しても」

拳を握り締めて、肩を震わせる李衣菜。

李衣菜「きっとPにとって、私は腐れ縁みたいな感じなんでしょ?好意を向けられてるなんて、思った事も考えた事も無いんじゃない?」

P「……あぁ。正直、思ってもみなかった」

李衣菜「気付いて欲しかった、なんて逆ギレするつもりは無いけど……全くそういう風に見て貰えなかったのは、辛いな……」

P「……すまん」

李衣菜「まゆちゃんはPの事なんでも知ってるみたいに言ってたけど、私の方が知ってるに決まってるじゃん!ずっと一緒に居たし、ずっと見てきたんだから!」

まゆ「……いえ、最初はそうだったかもしれませんけど……今はもう、まゆは負けません」

李衣菜「私とPが何年付き合ってきたと思ってるの?」

まゆ「何年付き合おうとも、まゆとPさんが共に過ごした時間は超えられませんから」

李衣菜「……強いなぁ。勝てる気がしないや」

まゆ「……不安だったのは本当です。Pさんがまゆを選んでくれる事は信じてました。けれど……Pさんが李衣菜ちゃんの想いを断るのは、きっと他の誰を断るよりも辛い事だと思いますから」

李衣菜「……変なところで信頼されちゃってるなぁ……」

まゆ「でも……辛い想いを、一人で抱える必要は無いんです。二人で分け合って乗り越えればいいんです」

李衣菜「私は乗り越えられちゃう訳だ」

まゆ「……はい」
279 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:34:41.88 ID:YiJviGoJ0


李衣菜「……ねぇ、P」

P「おう、どんな長い言葉だって漏らさず聞いてやる」

李衣菜「ならお望み通り、長い長い告白をしてあげる」

李衣菜「……意識し始めたのは、中学入ってすぐくらいだったかな」

李衣菜「当たり前みたいにずっと一緒に居たから、最初は意識してなかったけど……背が伸びて、私よりおっきくなった頃から」

李衣菜「アホなとことか、会話してて楽しいとことか、多分友達の延長線上みたいな感じだった。最初はね?」

李衣菜「一緒に居る時の居心地の良さとか……他の男子じゃそんな事思わないのに、Pと居る時間が楽しくて」

李衣菜「ずっとこのまま続けばいいなーって思ってたし、ずっとそのまま続くと思ってた」

李衣菜「Pには私しかいなかったから、誰かに取られるなんて思いもしなかったし」

李衣菜「……それが恋だなんて、思いもしなかったな」

李衣菜「高校生になって、美穂ちゃんと出会って……三人で遊ぶようになったじゃない?」

李衣菜「しばらくして、美穂ちゃんからPの事好きって話された時……すっごく、モヤモヤした気持ちになったんだ」

李衣菜「それでも、応援するよって言った時に……なんだか泣きそうになっちゃって。あぁ、きっと私はPの事が好きだったんだな、って」

李衣菜「まぁでも美穂ちゃんを応援するって言っちゃったし、きっとPも美穂ちゃんみたいな可愛い子が好きだろうからって……諦めたんだ」

P「……諦めたんだな」

李衣菜「美穂ちゃんとPが付き合っても、二人とも私との距離感が変わる訳じゃ無いだろうし良いかな、ってね」

李衣菜「何回も何回も自分に言い聞かせた。きっと変わらないから大丈夫、って……」

李衣菜「……変わらない訳なんて無いよね……でも私は、Pに変わって欲しくなかった。もちろんそんな事を言える訳も無いし、想いを閉じ込めて黙ってたけど……」

李衣菜「…………うん、諦められなかったんだ……二人きりだった頃に戻りたくなった。Pに私しかいなければなんて、そんな酷い事を考えた時もあったな」

李衣菜「……私も、Pに想って貰いたかった……結ばれたかった!誰よりも側で過ごしたかった!誰よりも側で、頼って欲しかった!!」

目に涙を浮かべて、心を吐き出す李衣菜。

思っていた以上に、李衣菜の想いは大きかった。

280 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:35:41.28 ID:YiJviGoJ0



李衣菜「結局Pはまゆちゃんを選んだし、それに対して私が何か言える様な立場じゃないけど……」

李衣菜「Pだけ勝手に大人になって……まるで、私が置いてけぼりにされちゃったみたいだったのが……すっごく不安だった」

李衣菜「もう、私の知ってるPはいないんだろうな、って。そんな訳無いのにね……一人で不安になってさ」

李衣菜「今からでも告白したら、取り戻せるのかな、なんて……そんな風に思っちゃうくらい、私はPの事が好きだったんだ」

李衣菜「……私は……歳を取ってもまだ心が子供のままなんだよね、きっと。諦められないクセに、後悔だけ積み重ねてる」

李衣菜「でも、もう……子供でい続けるのも、終わりにしないとね」

俺にとって、李衣菜と出会ってからの日々が大切な宝物の様に。

李衣菜にとっても、俺と出会ってからの日々は大切なものだった。

それを知れて、俺はとても嬉しかった。

……だから。

俺は、きちんと……

李衣菜「……ねぇ、P」

李衣菜「……私は、あなたの事が……誰よりも大好きでした」

李衣菜「今からでも、私と……付き合ってくれませんか……?」

……あぁ、ダメだ。

返事をするまでは泣きたくなかったのに。

P「……っ、李衣菜……俺は……っ!」

溢れる涙が視界を覆う。

ボヤけた世界の中、涙が零れ落ちそうになって……

ギュッ、っと。

まゆが、強く手を握り締めてくれた。

まゆ「……ね?」

まゆの目にも涙が浮かんでいるのに。

それでも言葉は必要無く、まゆの気持ちは伝わって来た。

……ありがとう、まゆ。

281 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:36:14.66 ID:YiJviGoJ0


P「……ごめん、李衣菜。俺は……まゆの事を愛してるから」

李衣菜「……そっか。振られちゃったんだ、私」

P「……あぁ」

李衣菜「分かってたんだけどなー……心の何処かで、もしかしたら勝ち目があるかもなんて思ってたのかもしれない」

P「……ありがとう、李衣菜」

それだけ、李衣菜にとって。

俺と過ごした日々は大きな思い出だという事で。

李衣菜「……だから、かな……」

笑いながらも。

李衣菜の瞳からは、想いが溢れて零れ落ちていた。

李衣菜「やっぱり……っ、悔しいな……っ!っあー、もう!なんでよ!止まってよ!Pの前で泣きたくなかったのに……っ!」

振り返って、顔を隠す李衣菜。

P「……なぁ、李衣菜!」

李衣菜「……ごめんね、P……私、ちょっと今振り向けない」

P「そのままで良い!李衣菜から見たら、俺は変わっちゃったのかもしれないけど……李衣菜は俺にとって、本当に大切な友達なんだ!」

だから。

これは、ただのワガママだけど。

李衣菜もそう思ってくれてると、そう信じてる。

P「俺は李衣菜とこれからも、友達でいたい!それだけは最初から、ずっと変わらないから!!」

李衣菜「……っ!あったり前じゃん……!私だって、Pと離れたくないから……!」

零れる涙は三人分。

雨に濡れたコンクリートが、その跡を隠してくれた。

明日にはきっと、乾燥して消えてるんだろう。

P「明日、お祭り必ず来いよ!!」

李衣菜「奢ってくれるんだよね?!」

P「おう!ちくしょう!約束してやるよ!」

李衣菜「忘れないからね?!」

P「忘れんな!今日の事全部!」

李衣菜「っ!っぅあぁぁっ!諦めたく無いよ……っ!あぁぁぁぁっ!!」

P「……ほんっとうに……っ、ごめん……!!」

282 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:36:48.97 ID:YiJviGoJ0



泣き声を上げて、雨上がりの夜風が冷たくなった頃。

ポツリと李衣菜は、さよならと呟いて帰って行った。

まゆ「……大丈夫ですよね?」

P「大丈夫だよ、李衣菜なら」

まゆ「……酷い顔してますよ、Pさん」

P「奇遇だな、まゆもだぞ」

まゆ「そこはお世辞でも綺麗だって言うべきですよ?」

P「月が綺麗だな」

まゆ「月じゃなくてまゆを……え、ぁ……ありがとうございます」

P「まぁ今空曇ってるから月無いけどな」

まゆ「むーん……ツキがありませんねぇ……」

P「……ありがとな、まゆ」

まゆ「何がありがとうなんですか?」

少し意地悪な顔をして、此方を覗き込んでくるまゆ。

P「言わなくたって分かるだろ?」

まゆ「必要無くても、言葉にして欲しいんです」

そうだな。

それはきっと、とても大切な事だ。

P「……側に居てくれて、だよ」

まゆ「……はい、どういたしまして」

雲の切れ間から、月の光が射し込んできた。

照らされたまゆの表情は、とっても綺麗で。

P「……月、綺麗だな」

まゆ「……誤魔化すの、下手ですね」

P「……明日こそ、お祭り行くぞ!」

まゆ「はい……とっても、楽しみです……!」

今夜はどうやら満月だった様だ。

けれど、今は。

まゆの笑顔の方が、明るく輝いて見えた。


283 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:37:36.44 ID:YiJviGoJ0


まゆ「Pさぁぁぁぁんっ!!どこですかぁぁぁぁっ?!」

P「こっちこっち」

加蓮「あ、流されてった」

李衣菜「あれしばらく戻って来れなさそうだね」

人混みに飲まれ、まゆが祭りの渦に吸い込まれていった。

夏祭り二日目は、昨日雨だった分かなり盛り上がっていて。

多分手を繋がずに固まって移動は不可能なくらい、人の波が激しかった。

P「……手、繋いでたんだけどな」

加蓮「あんたが離したの?」

P「汗かいちゃいそうだから拭きたいってまゆが手離した瞬間にあれだよ」

みんなの浴衣姿もとても可愛い。

一番はまゆだけど。

李衣菜「Pがまゆちゃんの手を離す訳無いじゃん」

加蓮「だよね、磁石みたいなカップルだし」

李衣菜「温度下げたら弱らせられるっけ?」

加蓮「上げるんじゃなかった?」

まゆ「っふー……ふー……見つけましたよぉ……」

真後ろからまゆが現れて、ピタリと背中に張り付いて来た。

智絵里「おかえり、まゆちゃん……お湯、飲みますか?」

まゆ「さりげなくカップル引力を弱らせようとしないで下さい」

美穂「カップル引力」

加蓮「んふっ」

李衣菜「ネーミングセンス」

智絵里「……かわいそう」
284 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:38:32.00 ID:YiJviGoJ0


まゆ「びぇぇぇぇっ!Pさぁん!みんながまゆをイジメて来ますよぉ!」

P「……いや、俺も流石にカップル引力は」

まゆ「うぇぇぇぇんっ!うぅぅぅぅぅっ!!」

P「凄く良いと思う!広辞苑に載ってないのが信じられないくらい!」

まゆ「ふふっ、一人目の子供の名前はカップル引力に決まりですねぇ」

P「……」

まゆ「……冗談ですよ?」

周りの白い眼がとても痛い。

ドンッ!

加蓮「あっ、もう打ち上げ花火始まってるじゃん!」

李衣菜「はやく良いポジション探さないと!」

美穂「あっちの方は人少なそうですよっ!」

智絵里「あっ、待って美穂ちゃん……!」

四人が人混みを掻き分けて進んで行った。

まゆ「Pさん、まゆ達も行きますよ!」

まゆもそれを追おうとして。

そんなまゆの手を。

握り締めて、引き止めた。
285 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:39:18.09 ID:YiJviGoJ0



まゆ「……Pさん?」

P「せっかくだし、二人きりで見ないか?」

まゆ「……ふふっ、はいっ!」

別の方の人混みをかき分けて、神社の境内に辿り着いた。

ここなら、人が少なく花火もよく見える。

まゆ「……綺麗ですねぇ」

打ち上がった花火を眺めて、微笑むまゆ。

その横顔が綺麗過ぎて、俺は花火なんて見ていられなかった。

まゆ「まゆに見惚れちゃいましたか?」

P「あぁ、すっごく綺麗だなって」

まゆ「……ふふっ、ありがとうございます」

頬が赤く染まっているのは、きっと花火のせいじゃないだろう。

P「そう言えば、今日もリボン着けてるんだな」

両手を頬に当てるまゆの左腕には、赤いリボンが巻いてあった。

まゆ「はい、見覚えのあるリボンだと思いませんか?」

P「……あぁ」

それは、あの時のリボンだった。

まゆと初めて会った日の、端に名前の書かれたリボン。

P「……あれ?」

そこに書かれていた名前は、苗字は鷺沢だったけど。

名前の方は、まゆになっていて……

まゆ「薄くなってしまっていたので、まゆが上から書き直しちゃいました」

P「……ごめん、俺きっと今見せられない顔してる」

まゆ「どんな表情のPさんも、大好きですよ」

それでも、花火のせいにはしたくない。

だってこれも、幸せの証だから。

まゆ「……叶えてくれますよね?」

P「……あぁ!」
286 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:39:53.74 ID:YiJviGoJ0


ドンッ!

打ち上げられた花火が、夜空を真っ赤に染める。

それと殆ど同時に。

俺たちも、唇を重ねた。

まゆ「……うふふっ」

P「幸せだな、俺は」

まゆ「大切な人は沢山できましたけど……愛しているのは、あなただけです」

にこりと、優しく微笑むまゆ。

まゆ「これからも、あなただけのまゆですから」

それの笑顔が、愛が。

俺だけに向けられている事が。

堪らなく、幸せだった。

まゆ「これからも、まゆだけを愛して下さい!」




まゆ√ 〜Fin〜


287 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/03/04(日) 15:40:25.01 ID:YiJviGoJ0

以上です
文字数制限から解放されてついつい書き過ぎ、時間が掛かってしまいました
お付き合い、ありがとうございました
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/04(日) 15:45:08.16 ID:T7y1z44DO
乙です
残り√2つ楽しみにしてる
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/04(日) 16:20:09.47 ID:dHhX11hJo

4ルート目にしてようやく最後の李衣菜ルートが示唆されたか
そして隠しルートも…?
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/04(日) 17:36:35.95 ID:q9qfFuvu0
乙でした
李衣菜√も頑張って
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/04(日) 18:26:38.61 ID:I88FDReuo
乙。ボスにキングクリムゾンされた所の修正加筆はまだですか?
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/04(日) 22:06:27.21 ID:LsMHPfo6O
おつ
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/05(月) 01:22:04.59 ID:F3UF5GLZO
おつ。今回もすごくよかった。りーな√もすごい楽しみ
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/05(月) 02:50:21.28 ID:AcPgwGiD0

続きも期待してる
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/05(月) 16:55:53.46 ID:2LyDs/dbO
キンクリは渋…で待ってます!
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/06(火) 01:43:25.45 ID:302FDTMh0
>ピンポーン
>P「すみませーん、宅配便です」
 〜
>ガチャ
>鍵とチェーンが外され、ドアが開いた。
  
 
門限が有る様な寮じゃ無かった?
外部の者が部屋の前まで直で行ける様なシステムの
女子高生が住む寮とか有るの?
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/06(火) 03:29:20.79 ID:ChWzMHt6o
乙乙

無粋なことを聞いて悪いんだけど>>1は渋もやってるの?
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/13(火) 16:56:53.70 ID:5Pm+Qayk0
横から遅レスするけどやってるよ。この作品のタイトルで検索すれば出る
398.33 KB Speed:0.1   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)