【安価】京太郎「派遣執事見習い高校生?」いちご「その45じゃ」【咲-Saki-】

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248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/28(月) 20:17:35.77 ID:Vb8WuwhJ0
乙ー
やっぱりたくさんキャラが出てるのを見るのは楽しい
…書くのは大変だろうけど
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/28(月) 21:35:28.81 ID:Lo2o5q3Eo
乙です
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/29(火) 10:13:54.82 ID:TtGteo8Zo

はるる見たさに過去スレ読み返してます
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/29(火) 15:04:35.93 ID:FMiq8T52o
乙!!
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/29(火) 16:25:55.39 ID:xi9hHuD90
乙!
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/30(水) 10:31:14.56 ID:e+FiVunZ0
はるるかわいいな
254 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/03/03(日) 19:00:47.84 ID:C92gNRTN0

〜二年目9月二週連休二日目

〜海 デート2回目

京太郎「うーん、波が高くなってきたな」

春「そろそろ帰る?」

京太郎「まぁ……そうだな、そうするか。ある程度は釣れたし、夕飯には十分だろ」

春「よかった……泳げなかったのは残念だけど」ピラッ

京太郎「スカートをめくらない!」

春「水着だから平気」

京太郎「スカートをめくるのは平気じゃないから!」

春「京太郎になら平気。下から覗いてもいい」ピラピラ

京太郎「………………」

京太郎「い、いやいや……春、恥じらいをもってくれ。心配になるから」

春「京太郎にしかしない……」

京太郎「えーっと……は、恥じらってるほうが、その……可愛いぞ?」

春「!」

京太郎「そういうことだから、こういうのはあんまり――」

春「恥ずかしい、けど……京太郎のためなら……」モジモジ ピラッ

京太郎「そういうことじゃなくて!」

春「せっかく京太郎がくれた水着なのに、一回しか見せてないから、見せたかった」

京太郎「う……ま、まぁあれだ。そのうちまた、時期がきたらな……なんだったら、温水プールにでも行けばいいし」

春「……嬉しい」

京太郎「ん?」

春「約束……あの……次は、京太郎から誘ってくれるって……」

京太郎「ああ――そうだったな。なら、来週にでも行ってみるか?」

春「行く。でも温水プールなら、お風呂でも同じ……いっそ家で、水着に混浴――」

京太郎「よし! その辺の計画のためにも、早いとこ帰るか! さ、支度するぞー」

春「はい」

京太郎(ふぅ、危ないところだった……しかし、なんというか……最近の春は、いままでにも増して無防備というか……)チラッ

春「…………(黙々と作業中)」

京太郎(……懐かれてるというか、その……意識させられるというか、なんというか……)

春「どうかした?」

京太郎「っ……いや、別に――ん?」

春「ん?」
255 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/03/03(日) 19:01:17.67 ID:C92gNRTN0

京太郎「なぁ、春……あれ――」

春「――っ! 京太郎、これ見て!」グイッ

京太郎「うおっ!?」グリンッ

春「……落ち着いて、あっちを見ないで。大きな声もださないように」

京太郎「あ、ああ……なんか、やばいやつか?」

春「京太郎が見たのは倒れた石碑? それとも――」

京太郎「…………子供だ」

春「絶対に見ちゃダメ。このまま、なにもなかったように支度して、見ないように帰る……できれば意識もしないで」

京太郎「……わかった。その、帰ったあとは……」

春「お父さんたちに伝えれば、対応する人たちが動いてくれる。私たちは無事に帰れば大丈夫」

京太郎「わかった……そんなにまずいのか?」

春「よくて死ぬ。悪くて――」

京太郎「いい、言わなくていい。荷物はまとまったし、急いで帰ろう」

春「ん」

京太郎「手、繋ごう」

春「ん」キュッ

 京太郎の目に見えたのは、倒れた石碑の上に座る、年端もいかない少年だった。
 すでに暗くなった海辺に一人でいる、そんな少年に違和感を覚えたのだが――いわゆる、見えてはいけない相手だったらしい。

京太郎「……これ、春のおかげってことだよな」

春「見えるようになっただけで、見分け方を教えなかった私のミス。反応したらだめなのは教えてたのに」

京太郎「……春がいてくれてよかったよ」

春「ごめんなさい」

京太郎「謝らなくていい。あと、なにかあったら指示してくれ……絶対に、春だけは守るから」

春「私より、京太郎は自分を大事にして。私は一人でも――」

京太郎「死ぬのがマシって相手に、なにもできないだろ……それより、スマホとか通じないのか?」

春「影響が出て、こっちの察知が知られたらおしまいだから……」

京太郎「わかった」

 黙々と歩く二人の視界に、少年は映っていない。
 けれど強い視線は横から、そして歩くうちに斜め後ろから、痛いほどに感じられる。
 知らず、握り合う手には力がこもり、じっとりとした汗が滲んでいた。

京太郎(いざとなったら、飛雷神……いや、神威で飛ぶか? けど、二人で飛んだことはないからな……)

春「――京太郎」

京太郎「お?」

春「なにか方法があるなら、一人でも逃げて。二人で逃げられないなら、一人でも帰らないと大変なことになる」

京太郎「……ああ、わかってる。けど、いきなり動いたら気づかれるだろ。しばらくは普通にしてよう」

春「ん……ありがとう」

 春の声と手の平の温もりが、心に余裕を与えてくれていることに、京太郎は気づいていた。
 だが、安堵しているわけにはいかない。
 視線は斜め後ろから真後ろへ――それも、すぐ後ろに移動し、張りついてきたからだ。

春「…………」ギュッ
256 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/03/03(日) 19:01:51.32 ID:C92gNRTN0

 春の手に力がこもったことで、京太郎は察することができた。
 ここからは彼――子供についての話はできないこと。
 会話をするなら、他愛のない話に限るということ。

京太郎「ゆ――夕食、手をかけないとな」

春「うん。お魚屋さんに寄る?」

京太郎「いや、俺が捌くよ。タコは時間がかかるだろうから、明日に回すけどな」

春「じゃあスズキとサヨリ」

京太郎「ああ。あとはキスだな」

春「キス」

京太郎「スズキは香草焼きにしよう。で、サヨリでお吸い物と刺身――炊き込みご飯もいいかな」

春「キス」

京太郎「キスは天ぷらかな、やっぱり」

?「キス」

京太郎「あとは唐揚げなんかも――え」

春「京太郎――」

?「キス、しないの?」

京太郎「しねぇよ! あ――」

?「…………」クスクスクスクス

春「京太郎、逃げて!」

 ドクンッ――と鼓動が跳ねる。
 そのとき聞こえた声は、京太郎のすぐ耳元だった。
 振り返らずにはいられない位置と距離、そこにやった視線に移り込む、少年の真っ赤に裂けた口――。

春「京――」

京太郎「春、離れるな!」

 強く手を握り締めた瞬間、京太郎のチャクラが二人を包み、その身体を移動させようとする。

 傍目には一瞬のワープと見える術式だ。
 実際に、時間も経過することはない。
 けれど術者にとっては、異空間のようなトンネルを経て、別の場所へ向かうような移動方法である。

 その空間に他者を伴うのは初めてのこと、どんな異常が起きるかはわからない。
 けれど――。

京太郎(あれの気配はついてきてない……なら、なんとか……家まで、帰れれば――)

 これなら逃げ切れる、であればやるしかない。
 その一心で京太郎はチャクラを練り、自分と春を自宅へと飛ばす。

京太郎(っ……ぅっ、おぉ……これは、きつ……いっ……)

 チャクラの消耗は二倍どころではなく、秒単位で数十倍もの量が削られていた。
 視界が眩み、霞み、意識が遠のきかけるのを必死に繋ぎ止め、京太郎は転移先を目指す。

 ここで意識を失えば術は途切れ、二人はあの場所へ取り残される。
 あのおぞましい人外のいた場所で、無責任に気絶し、春を一人にしてしまうことになる――。

 そのことへの恐怖が京太郎の意識を繋ぎ止め、暗がりを抜けさせ、見慣れた光景へと誘っていた。

京太郎「――がっっ! はぁっ、はぁっ……やった、か……?」

春「あ……えっ!? なんで、家に……きょ、京太郎……?」

 春の戸惑った声が、心に安堵を与えてくれる。
 狭まり霞んだ視界に映るのは、いつしか見慣れていた門構え、古いながらも立派な和風建築。

 なんとか無事に、彼女を連れ帰ることができたようだ。
 そのことに胸を撫で下ろしつつ、京太郎は足を進めようとし――。

京太郎「ぁ――ぅ……」

春「京太郎っっ!!」

 敷地の砂利石を踏みしめたところで、京太郎の意識はプツリと、電源を切られたように途絶えた。
257 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/03/03(日) 19:02:45.34 ID:C92gNRTN0

〜二年目9月三週月曜

〜早朝

京太郎「――ん……お……?」

 自然な目覚めのようにパチリと目が開き、身体を起こそうとするが、妙に関節が硬かった。

京太郎「ここは――そ、そうだ、確かっ……つぅっ……」

 固まった関節をギシリと軋ませ、布団から起き上がろうとする。
 それを押し止めるのは、目の前に伸びた白い手。

霞「無理しないで。そのまま寝ていてちょうだい。必要なものがあれば、私たちが用意するから」

京太郎「霞、さん……それじゃ、ここは……」

霞「ええ、霧島――滝見家よ。どうやら、帰ってきたことも記憶に残ってないようね」

京太郎「いえ、それは、なんとか……一瞬、夢だったんじゃないかと思っただけで……」

霞「それを覚えてないって言うのよ」

 クスクスと笑う霞だが、その顔には色濃い憔悴が滲んでいた。

京太郎「寝てないんですか……?」

霞「ええ、一番年上だもの。だけど、おかげで得しちゃったわね」

京太郎「はぁ……そうなんですか?」

霞「……目が覚めた京太郎くんと、一番に会話できたじゃない」

京太郎「あ、と……お、おはようございます……で、いいんですかね? 時間……」

霞「ええ、おはよう……いまは、四時半かしら」

京太郎「ちょっと早めですね……あっっ……つぅっ!?」

霞「ちょっ……だ、だめよ、急いで起き上がろうとしちゃ! なにかいるなら、私に言ってちょうだい……」

京太郎「じゃなくて――春っ……春は、無事ですかっ……それに、あいつは――」

霞「……春ちゃんなら、ついさっきまで目に隈こさえて看病していたわよ。仮眠を取るように言いつけて、さっきようやく寝てくれたの」

京太郎「そ、そう、ですか……よかった、春っ……あいつにもしものことがあったら、俺はっ……」

霞「………………もう一つの心配事のほうだけれど」

京太郎「あ、はい! その、それは……うまくいった、ん……ですよね?」

霞「ええ。春ちゃんが相手の正体をきちんと教えてくれたから……封じの石碑も戻されて、周辺区域も立ち入り禁止になっているはずよ」

京太郎「………………ありがとうございました。それと――」

霞「もし謝ろうとしているなら、その必要はないわ。というより……お礼を言いたいのも謝るのも、むしろこちらのほうね」

京太郎「いや、俺はなにも……」

霞「春ちゃんを連れて帰ってきてくれた。おかげで情報が伝わった……迅速に術士が動けて、被害が出る前に事態を収拾させられたわ」

霞「あなたのおかげよ、全部……本当に、ありがとう――ありがとうございました、須賀様」

京太郎「……その呼び名は、あんまり好きじゃないです」

霞「色んな人に言われるだろうから、慣れておいたほうがいいわよ?」

京太郎「ほかの人はいいですけど……永水のみんなに呼ばれると、寂しくて泣きますね」

霞「そう……なら、京太郎くん……ありがとう。春ちゃんと、霧島を守ってくれて……ね」

京太郎「いえ。なんていうか……俺も、この町が好きですから……できることをやって、その結果で守れたなら……やったかいがありました」

霞「……霧島は、あなたを遠ざけた場所なのに?」

京太郎「はは……そっちは覚えてないことですから。俺にとっては、いま生活しているこの霧島が、俺の好きな霧島です」

霞「っ……ありがとう、京太郎くんっ……」ギュッ

京太郎「………………」
258 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/03/03(日) 19:03:21.50 ID:C92gNRTN0

京太郎(おもちに顔が挟まってる。これは死んだね、俺)

春「……………………………………なに、してるの、霞さん」ゴッ

霞「え」ビクッ

京太郎「え――は、春っ!?」グイッ

春「京太郎……霞さんと、抱き合ってた……なに、なにがあったの?」

京太郎「そんなことより、春! 大丈夫なのかっ、身体――なんともないか!? それに、さっき寝たとこだって……まだ寝てたほうが――」

春「え、あ、あのっ……だい、じょうぶ……です……寝たのも、仮眠で……二時間も寝たら、スッキリで……それより、京太郎のことが……」シンパイデ

京太郎「……大丈夫、なんだな?」

春「…………ん」コクン

京太郎「よ……かった……よかった、春っ……」ググッ

霞(あらあら)

春「京太郎、無理に動いちゃだめっ……」スッ

京太郎「なら、こっちに……」グッ

春「わ、わかったから……本当に、動かないで……休んでて、京太郎……」ウルッ

京太郎「ちゃんと、確かめさせてくれ……春っ……」ダキッ

春「はうっ……あ、あのっ……」ダカレッ

京太郎「あぁ――ちゃんといる、春……無事で、よかった……春ぅ……」ギューッ

春「京太郎の、おかげ……ありがとう……」ギュッ

霞(………………)スススッ スー パタン

春「…………私はここにいるから。京太郎、もう少し休んでて」

京太郎「あ、ああ……そうだな……そうするか」ギュー

春「…………あの……」ギュッ

京太郎「……すまん、もうちょっとだけ」ギュー

春「…………はい」ギュッ スリスリ


京太郎「…………釣ってきた魚、どうなったんだろ」ギュー

春「……たぶん、冷凍されてる」スリスリ

京太郎「解凍してから捌く、しかないか……」

春「捌かれたあとだと思う」

京太郎「ん……そか」

春「うん……」

京太郎「……治ったら、ってか……動けるようになったら、ちゃんと料理するからな」

春「うん……それまでは、寝てて」

京太郎「ああ、そうする……春も、ちゃんと寝てくれよ」

春「…………ここで寝ていい?」

京太郎「ああ……そうしてくれたほうが、俺も嬉しい」

春「はい……じゃあ、失礼します」ススッ

京太郎「手だけ、握っててくれな……」キュッ

春「うん」キュッ

京太郎「おやすみ、春……」スヤァ

春「おやすみなさい……」ウトウト
259 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/03/03(日) 19:03:53.31 ID:C92gNRTN0



初美「……これはもう、はるるの優勝では?」

小蒔・霞『まだです!』

湧「……まぁ、そう思われるならそうなんでしょうね」

明星(お二人の中ではね)

巴(スカイプ)『それより、すみません……大変なときに、いられなくて……』

霞「どちらにせよ、動くのは私たちではなかったから……やることといったら、京太郎くんの看病だけだったわよ」

巴『……なおさらだなぁ』

小蒔「ともかく、京くんと春が無事でよかったです!」

巴『はい、ですね』

霞「お昼頃になったら、もう一度起こしてあげましょう」

初美「それまでは、私たちもひと眠りですかねー」ファー

小蒔「そうですね。おそらく、忙しくなるのはそれからですから――しばらく、英気を……」ウトウト

明星「あ、私たちはさっき休ませていただいていたので……」

湧「姫様たちは、ごゆっくりお休みください。6時間後に起こしますので」

霞「お願いね。それじゃ、巴ちゃんも、またね」

巴「はい。こっちも一応、モーニングコールしますから」

初美「よろしくですよー」

小蒔「おにゃ……しゅみ、なひゃい……」カクンッ



※怪異解説
 昔の戦乱や飢餓による犠牲者らの怨念が形を成したもの。
 神代のご先祖が数百年前に退治し、封印した。
 意思を持って間もなく封印されていたので、子供の姿。
 無邪気さと残虐さと好奇心の同居した性質は子供そのもの。
 主食は人間の魂。好物は魂を食べたあとの肉体。

 その正体に気づいてしまったあなたはSANチェック、1or1d10
260 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/03/03(日) 19:05:50.43 ID:C92gNRTN0

先月は全然書き溜められてないので、在庫がピンチです
もう更新2回分くらいしか残ってません

よし、更新期間遅らせよう(延命措置)
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/03(日) 19:28:10.74 ID:SzktCVAUo
待 っ て た
落ちさえしなければへーきへーき
チャクラ持ち前提なのはちょっと草
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/03(日) 19:53:59.04 ID:roW+Uzt40
乙ー
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/03(日) 20:47:07.50 ID:CBfikoydo
乙〜
てけり・り
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/03(日) 22:47:50.78 ID:A05/+Lkh0
乙!
執事になると忍術が使えるのかw
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/05(火) 01:12:28.00 ID:AboGNXFz0
おつおつ
割とホラー展開に力入ってて驚いた。京ちゃんあんなに修行したけどまだ複数人の避雷針はキツイか
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 20:10:22.90 ID:RUwnWTOCo
乙です!
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/16(火) 02:18:07.36 ID:xSvm78cto
保守
268 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/05/02(木) 16:04:51.52 ID:dop3vfBI0

〜二年目9月三週金曜

京太郎「っ……降参です」

滝見父「うむ、いい手合わせだった。体調はすっかり戻ったようで、なによりだな」

京太郎「おかげさまで……学校への手続きや事後処理など、ご尽力くださってありがとうございました」

滝見父「はっはっは、なんのなんの! それはそもそも、我々の義務というものだからな。おかげで助かったとは、こちらの言葉だとも」

滝見父「まぁ、どうしても礼をというなら……回復まで付きっきりで世話をしていた、春に伝えてやってくれい!」

京太郎「そ、それはもちろん……春には本当に、足を向けて寝られません」

滝見父「はっはっは、ならばよし! 春も果報者だ……おっと、そうだった。回復したところで悪いが、少し頼まれてもらえるかな?」

京太郎「はい、なんでしょう?」
269 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/05/02(木) 16:05:18.07 ID:dop3vfBI0

滝見父「明後日――つまり日曜日の昼、大事な客人が家に参られる。接待というわけではないが、もてなしをしたいのでな……料理を頼みたい」

京太郎「えっ……お、俺の料理ですか?」

滝見父「うむ、その通り。ただ、いわゆる家庭料理でなく、松花堂風の弁当を頼みたいのだが……可能かな?」

京太郎「……お相手の好みや、口にできない食材などをお聞かせくだされば、献立は作れると思います。ただ――」

滝見父「ただ?」

京太郎「――それほど大事なお客様なら、俺ではなく、プロの料理人をお招きするほうが確実ではないでしょうか?」

滝見父「うむ、確かに……我々が懇意にしている、料亭や旅館に頼むのが筋ではある」

京太郎「では――」

滝見父「だが、今回はあくまで内々の席でな……あまり多くの者、部外の者に知らせるわけにはいかんのだ」

京太郎「……わかりました。そういうことであれば、料理長を務めさせていただきます」

滝見父「おお、ありがたい! それでは、よろしく頼む。食材の好みなどについては、メモを用意しておこう」

京太郎「ありがとうございます。ただ――」

京太郎「用意が難しそうな食材があれば、調達をお願いするかもしれませんので……その旨だけ、ご承知くださいますか?」

滝見父「うむ、心得た。しかしまぁ、なんだ……もてなしとは言ったが、気楽に臨んでくれて構わんのだぞ? 私的な客人であるわけだからな」

京太郎「それでも、大事なお客様と仰ったからには、心よりのもてなしをして然るべきです。そう教えられてきましたし、俺もそう思いますから」

滝見父「……ふむ、なるほど……いや、ならば重ねては言うまい。その気持ちはきっと、料理から客人らにも伝わるだろう」

京太郎「そう言っていただけると励みになります。それで――客人『ら』ということは、複数名いらっしゃるんですか?」

滝見父「ああ、私を含めて7――いや、6人分だな。そうか、となると一人での準備は難しいか……」

京太郎「……いえ。料理のほうは、俺一人で用意するべきかと思いますので、そうさせていただきます。給仕のため、2名ほど人をお願いできましたら」

滝見父「……む?」

京太郎「あ、いえ……料理の提供が遅くなるとか、そういったことは決してありませんので……」

滝見父「はは、そういうことではないのだがな……うむ、やはり聞いておこう。なぜ、自分一人でやるべきと思ったのかね?」

京太郎「それは――小父さんが、俺に頼まれたからですよ。部外の者に話せないなら、俺にこそ話すべきじゃありません」

京太郎「腕が確かで口も堅く、信頼の置ける料理人を付近で探すほうが、滝見家にとっては容易なはずです」

京太郎「にも拘らず、俺にお話をくださったということは、俺に料理を作らせる必要があるってことでしょう」

京太郎「その理由はわかりませんけど……誰かの手を借りず、俺だけの手で作ることが、そのご依頼に応える誠意かと思いました」

滝見父「――――ふっ……ふははははははっ!」

京太郎「えっ」ビクッ

滝見父「いやぁ、慧眼よ! そこまで言い当てられるとは、いやはや、恐れ入った!」

京太郎「い、いえ、そんなことは……お相手のことも、理由も、何一つわかっていませんし……」

滝見父「そこまで見通されては、京太郎くんがエスパーであると疑わざるを得なくなるなぁ」

京太郎「すみません。でも、詮索するつもりなんかは、本当にありませんので……」

滝見父「うむ、そうしてもらえるとありがたい。が――そうだな、もしかするとその辺りは、その席で明らかになるかもしれんぞ」

京太郎「はぁ……えっと、それは俺が知っておくべきことでしょうか?」

滝見父「どうだろうな……知らぬほうがよいこと、かもしれん。だが、知って損はないはずだ。先方も、その機会が欲しいのかもしれん」

京太郎「…………そうですか」

滝見父「ふむ、依頼したばかりで脅かしてしまったかな……支度に影響がなければよいのだが」

京太郎「はは、大丈夫ですよ。そういうの気にして料理ができるほど、俺は器用じゃありませんので。そのときは、料理に集中するだけです」

滝見父「ははは、それは頼もしい。では、よろしく頼む」

京太郎「はい、お任せください」

270 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/05/02(木) 16:06:05.55 ID:dop3vfBI0

〜二年目9月三週土曜

京太郎(……明日が当日、メニューはできた。食材のほうも、明日の朝には届く……さて、あとは――)

春「……京太郎?」

京太郎「お、おう、どうした?」

春「休憩、そろそろ終わり」

京太郎「そうか、なら練習再開――の前に、明日の練習のことなんだけど」

春「うん」

京太郎「あー、えっと……俺はちょっと用事があるから、休ませてもらいたいんだけど、いいか?」

春「…………どんな用事?」

京太郎「え」

小蒔「私も、気になります!」

京太郎「うお! こまちゃんどこから!」

明星「京太郎先輩がぶっ飛んだこと言うから、部員みんな気にしてますよ」

京太郎「えぇ……いや、みんなもよく休んでるじゃん?」

湧「須賀さんが休むというのが異常事態なんです」

京太郎「」

初美「で、用ってなんですかー?」

京太郎「あー……最後の検査? みたいな感じです。時間がかかるんで、日曜にやってくれるってことになったらしくて……病院側から」

春「……それなら仕方ない」

小蒔「ですね! 京くんにはお世話になりましたから、後遺症がないようしっかり見ていただかないと!」フンスッ

明星「私たちは聞いてませんけど、上のほうで病院に手配してたんでしょうか?」

初美「そうじゃないですかねー」

湧「付き添いなどは、必要じゃありませんか?」

春「やる!」

小蒔「私が!」

京太郎「あー、いや……送迎も兼ねて、人をつけてくれるってことらしい。みんなは練習しててくれたほうが、俺としても助かる」

春「むぅ……わかった」

小蒔「そうですね、大会も近いわけですから……でも、なにかあったら連絡してください!」

明星「姫様は電話をお持ちでないのでは……」

初美「まぁ、私たちの誰かにかければいいですよー」

京太郎「はい、そうさせてもらいます。それじゃ、練習の続きを始めましょうか」

271 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/05/02(木) 16:07:08.09 ID:dop3vfBI0

〜二年目9月三週日曜

〜食後

滝見父「いやぁ、いつも以上にうまかったぞ! 急に頼んでしまってすまなかったな、京太郎くん」

京太郎「いえ、とんでもありません。それでは、ただいま水物をお持ちしますので、失礼します」

滝見父「う、む……あー、ゴホン……その前に、だな」

京太郎「はい?」

滝見父「その、なんだ……皆が、聞きたいことがあるそうでな」

???「お、おい待て、どうしてそういう流れになるのだ」

???「そうですよ。滝見さんのほうから話をしていただくということでは……」

滝見父「ははは、まぁいいではないか! まずは自己紹介から、というのがお約束だろう。どうかな、京太郎くん」

京太郎「は、はぁ……では――はじめまして、皆様。今月より滝見家に居候しております、須賀京太郎と申します」

京太郎「本日は、このような貴重な機会を与えていただいたこと……それと、えーっと――」

滝見父「うん?」

京太郎「……また、皆様のお嬢さま方より、日頃からご指導いただいておりますこと、深く感謝いたします」

滝見父「――京太郎くん、それをどこで?」

京太郎「すみません、確信できたのは、いましがたです……けど、いらっしゃるのが6人ということで、そうじゃないかな、と」

京太郎「あとは――先ほどの言葉に、一つだけ嘘がありました。こちらにいらっしゃるお一方だけは、はじめましてではありませんから」

???「………………」

京太郎「今年の春に、一度だけお目にかかりました。霞さんのお父様……石戸家のご当主様、ですよね?」

石戸父「……その通りだ」

滝見父「おいおい、その反応はなかろう。なにか挨拶はないのか、自己紹介でもいいのだぞ?」

石戸父「……原作で名前が出てない以上、名乗ることができん」

京太郎(メタぁい!)

薄墨父「まぁそもそも、当主が男かどうかって話もありますけどね。六女仙という以上、女系家系でもおかしくないわけですし。あ、僕は薄墨です」

京太郎「初美先輩のお父様ですか。いつもお世話になっております」フカブカー

狩宿父「私は狩宿。こちらは十曽。そして――」

京太郎「………………」

神代父「………………」

滝見父「神代――霧島の当主、小蒔様の父上でいらっしゃる」
272 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/05/02(木) 16:07:35.56 ID:dop3vfBI0

京太郎「は……はじめまし――」

神代父「いや……はじめてではない。その意味は、わかるね?」

京太郎「……はい」

神代父「すでに記憶も戻っていると聞いた……簡単に破れる術式ではなかったはず、だがな」

石戸父「須賀のご老公肝煎りと聞く。術式を破っても不思議はない」

京太郎「その、俺は本当に、なにも……」

狩宿父「ああ、その点はわかっています。申し訳ないね、彼は少し頭が固いというか……保守的というか頑固というか、融通が利かないというか……」

滝見父「真面目というか、生真面目というか、クソ真面目というか、親バカというか、過保護というか――」

薄墨父「可愛い娘に虫がつくのが気に入らないんですよー。困った父親です、本当に」

石戸父「そんなことは言っていないっっ!!!」ドンッ

京太郎(シロさんのお父さんかな?)

神代父「ともかく――」

京太郎「はい」ピシッ

神代父「過去に、私とも面識があった……すでに、その辺りの話は知っている、そうだったかな?」

京太郎「はい、一応……俺の――私の曽祖父と、小蒔先輩のおじい様が友人だったとか」

神代父「普段の言葉遣いで構わないよ。そう……それで、だ……その……君は、どうしてここに戻ってきたのかね?」

京太郎「それは――やはり、俺がここにいるのは、まずいということでしょうか」

石戸父「質問に質問で返すものではない」

京太郎「っ……すみません……」

滝見父「あー、京太郎くん、こいつの言うことは気にしなくて構わん」

石戸父「なんだとっ……」

狩宿父「いえ、実際そうでしょう。ご当主も、そうした意味で問われたわけではないですし、あなたがいると話が進みません」

薄墨父「やっぱ呼ばないほうがよかったんじゃないですかねー。毎日毎日、あんなやつが霞に霞にって、うるさくてかないませんでしたし」

石戸父「貴様ぁ!」

京太郎(えぇ……)

十曽父「お、落ち着いてくださいっ! ご当主が京太郎くんとお話しているわけですからっ……」

石戸父「くっ……」

神代父「……京太郎くん」

京太郎「は、はい!」

神代父「……私はここに、当主として来たわけではない。君からすれば、友人の父親と話しているのと同じだ、そう考えてほしい」

京太郎「はい……」
273 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/05/02(木) 16:09:35.62 ID:dop3vfBI0

神代父「先の質問は、少し言葉が足りなかったな……どう言うべきか――よい思い出のないこの地にいて、辛いとは思わないか、ということだよ」

京太郎「…………そういう意味でしたら、辛いと感じたことはありません。それ以前に、よい思い出がないとも思いません」

神代父「大人たちの身勝手な思惑に巻き込まれ、幼い記憶を奪われ、約束されていた輝かしい未来を奪われたというのにかね?」

京太郎「確かに……昔の記憶がなかったことで、こまちゃ――小蒔先輩に申し訳ないことをした、とは思っています」

京太郎「でも、それを思いだすより前に、俺はここで色々な思い出を作りました。多くの人のお世話になり、自分を成長させることができました」

京太郎「記憶が戻っても、その頃とのギャップを感じても、それ以上にいい思い出が、この地にはあるんです……だから、俺はここにいます」

京太郎「この場所が好きなんです、ここに住む人たちが……とても」

神代父「……だが、それでもだ。あの頃、私たちがもっと冷静で分別がついていれば、君はより多くのものを手にしていたはずだ。違うかね?」

京太郎「……違います。そのことで手にしたものがあったとしても、手にしていなかったものも、同じくらい――それ以上にありました」

京太郎「麻雀の腕も……今日提供した料理も、俺がこの地を離れたからこそ、得られたものです」

京太郎「確かに、一時期は……俺にはなんの力もない、才能もないと打ちのめされて、ヤケになりかけたこともありました」

京太郎「そんな俺に差し伸べられた手と、そのことで得られたいくつもの縁や経験は、俺がこの地を離れて得られたものです」

京太郎「いま、俺の周りにいる人たちが与えてくれたものです。胸を張って誇れる、俺の宝物です」

京太郎「その一つが、この場所と、この地にいる人たちなんです。俺がここにいる理由も、ここにいたいと俺が思うから――それだけです」

神代父「…………ああ……ああ、そうか……そう、なのだな――」

京太郎「あの……?」

神代父「いや、すまない……この地を、そのように思ってくれていることを、この地に根ざすものとして、心から嬉しく思う」

神代父「確かに、君の言う通り……君はここを離れ、よい経験をし、よい成長をしたようだ。私たちの過ちを正当化するわけではないが、本当に……」

神代父「…………なぁ、京太郎くん」

京太郎「はい」

神代父「先はああ言ったが……これは、神代の当主からの言葉として、聞いてほしい」

京太郎「はい」

神代父「私たち大人の間違った行いが、君と小蒔……幼い子供の心を深く傷つけたことを、心から詫びさせてもらう。本当に、申し訳なかった」フカブカ

狩宿・薄墨・滝見・十曽『………………』フカブカ

石戸「………………」シブシブ
274 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/05/02(木) 16:10:02.13 ID:dop3vfBI0

京太郎「っ――と、とんでもありません! どうか頭を上げてください、お願いします!」

神代父「うむ、すまないな……こんな大人に頭を下げられても、心苦しいばかりだろう。これは、私たちの自己満足に過ぎない」

神代父「ここからは、少し建設的な話をしよう……私たちが今日、このような場を設けたこと、少し急に思わなかったかな?」

京太郎「そう、ですね……言われてみれば。ただ、俺と小蒔先輩の記憶が戻ったことを知られたのであれば、遅かれ早かれ動かれたのではないかと」

神代父「ふむ、話が早い……そう、君らの記憶が戻ったことが、すべてに起因すると言える。が、これでも少し、時間のかかったほうでね」

神代父「あの事故の日より、神代と須賀の間には亀裂が入ったわけだが、それは宗家の本意ではなかった」

神代父「だが、そうせざるを得ない理由があった……そこで双方の宗家は、まず分家の掌握に尽力することにした」

神代父「宗家の失脚を目論む、いわゆる反乱分子を燻りだし、掌握し、場合によっては――」

石戸父「ゴホンッ」

神代父「……うむ、まぁ、それはさておいて……要するに、宗家主導にて統制を取れるよう、今一度引き締めにかかっていたわけだ」

神代父「それには多大な時間を要したわけだが……それを果たさんとした目前、君らの記憶が戻ったわけだな」

神代父「そのことは、連中も知ることとなり――思わぬ事態に浮足立ったことで、連中にも隙が生まれた。おかげで、よりスムーズに事は運んだよ」

京太郎「はぁ……それは、おめでとうございます……?」

神代父「ふふ、ピンと来ないかな? まぁ、直接には君に関わりのないことだ。だが、その件に関わり、重大な失態が発覚した……わかるかな?」

京太郎「んー……俺にわかる範囲で、重大な――あっ! この前の、石碑の!?」

神代父「ご明察だ。あれの管理を務めていたのは、反乱分子の主犯となる力を持った分家でな。対処が遅れれば、家の取り潰しだけでは済まされない」

神代父「その危機を、自分たちが貶めた少年に救われたとあっては、もはや立つ瀬はない……彼らの発言権、影響力は地に落ちたも同然だ」

京太郎「……救われたってことは、やっぱり被害はださずに済んだってことですよね? 一応、そう聞いてはいるんですけど……」

神代父「うむ。迅速な対応ができたおかげでね……今後は宗家の管理にて、厳重に監視することになるだろう」

神代父「君のおかげで被害はなく、今後、被害をだすこともないはずだ……本当にありがとう」

京太郎「そう、ですか……はぁ、よかった……」

神代父「まず気にするのは、周囲の被害か……ああ、まったく……須賀のご老公、実に慧眼であらせられたな」

京太郎「?」

神代父「いや、その心根が素晴らしいと思ってね……さて、話を戻そう」
275 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/05/02(木) 16:10:55.31 ID:dop3vfBI0

神代父「そうして君らの記憶が戻り、分家の掌握もできたことで、ようやく準備が整ったのだ。当時の非礼を詫びる、その準備がね」

京太郎「…………えっと、つまり……今日来られたのは、俺に謝るため、ということですか?」

神代父「ふふ、まぁそういうことだ。料理については、滝見からは聞かされていなかったがな……サプライズのつもりだったのだろう」

滝見父「あの日から今日まで、京太郎くんがいかな薫陶を受けてきたか……それを感じてもらう趣向にしたかったのですよ。すまんな、京太郎くん!」

京太郎「は、はぁ……その、なんというか……すみません、わざわざ足を運んでいただいて……」

薄墨父「はー、確かに……初美の言ってた通り、腰が低すぎるねー、これは」

狩宿父「……やるときはやる男、と聞いてはいますけどね」

十曽父「ちょっと待ってください、皆さんそんなに話を聞いてるんですか? うちの娘、全然話題にしてくれないんですけど!」

滝見父「ははは、いかんなぁ十曽。娘とのコミュニケーション不足ではないか?」

石戸父「なにを言うか! 嫁入り前の娘が、男の話題を口にするなど……はしたない、けしからん! 霞にも、十曽の娘を見習わせてやらねば!」

京太郎(……俺が聞いちゃダメな話じゃないか、これ?)

神代父「まぁ、石戸の娘の反抗期はともかく――」

石戸父「は、反抗期ではありませんっ」

神代父「ともかく――無論、我々もただ、謝りにだけ来たわけではない」

京太郎「……察するに、そちらが本題ということでしょうか?」

神代父「いかにも。それで、だ――単刀直入に言わせてもらう。京太郎くん、小蒔ともう一度、婚約する気はないかな?」


京太郎「は………………はいいいぃぃぃっっっっ!?」


神代父「おお! そこまで快く応じてくれるとは……感謝するぞ、京太郎くん! いや、息子よ!」

京太郎「違います! いまのは聞き返しただけでっ……って、冗談ですよねっ?」

神代父「……真面目な話、冗談ではない。君と小蒔が婚約、婚姻ということになれば、我が家も霧島も安泰。須賀との関係も改善される」

神代父「もちろん、そういった政治的な話は抜きにしてもだ。君のような青年が娘婿となってくれれば、これほど喜ばしいことはないのだが」

京太郎「そ、そんなこと仰られても……その、小蒔先輩もお困りになると思いますし!」

薄墨父「……あー、はいはい。なるほどですよー」

狩宿父「これは……思っていた以上ですね」

滝見父「ははは、これだからいいのだよ、これだから!」

京太郎(え、なにその反応)コワイ
276 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/05/02(木) 16:11:41.73 ID:dop3vfBI0

十曽父「うちは構わないのですが……お三方は、言い分があったのでは?」

薄墨父「あ、ああ、そうでしたよー。京太郎くん、姫様のお相手は荷が重いと言うなら、うちの初美なんかどうですかー? お買い得ですよー?」

京太郎「娘を差しだすのに軽い! っていうか同じですよ、初美先輩がなんて仰るか――」

狩宿父「では、うちの巴はどうですか? すでに聞いておいたのですが、京太郎くんのほうが構わないなら、私のほうは――と」メガネクイー

京太郎「えっ?」

狩宿父「ですから――おや、電話ですね。すみません、失礼します」

『ちょっとお父さん、なに勝手なこと言ってるの!?』
「覗き見とは感心しませんね……はしたないですよ?」
『六家が集まろうとしてたから、つい……って、そうじゃなくて! 勝手になんの話してるの!』
「やれやれ、わかりませんか? 彼の血を入れることが、どれだけ有益か……巴もまんざらではないはずですよ?」
『そ、それとこれとは別! 親のほうから圧力かけるとか、色々な協定に引っかかるの!』
「やれやれ……巴、こういうのはですね、やったもの勝ちですよ」メガネクイッ
『お・と・う・さ・ん!』
277 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/05/02(木) 16:12:09.86 ID:dop3vfBI0

十曽父「……揉めてるみたいですし、放っておきましょう」

京太郎「は、はぁ……」

神代父「それより、滝見はどうなのだ? なにかあるなら、言っておくほうがいいぞ?」

滝見父「そうですな――」

京太郎「っ…………」ソワソワ

滝見父「ふっ……いや、私からは特には。こうしたことはやはり、若人同士で話すべきことですからな」

石戸父「わ、私は許さんぞ! どうせ貴様も、霞のことを不純な目で見ておるのだろう、許すものか!」

京太郎「ゆ、許すもなにも(見てないとは言ってない)……霞さんほど大人びた人に、俺みたいな子供は不釣り合いというか――」

石戸父「貴様ぁ! うちの霞がお前には不釣り合いだと!? 言わせておけばっ……」

京太郎(どうしろっちゅーねん)

神代父「ふふ、人気者だな、京太郎くん」

京太郎「そんな、他人事のように……」

神代父「まぁ、しかしだ――まだ高校生という若い身空でもある、話が急すぎたのは確かだね」

京太郎「そ、そうですよ……」

神代父「我々も、ここですぐ結論をもらいたいわけではない……ただ、そうした話があるということを、意識しておいてくれたまえよ」ポンポン

京太郎「そう言われましても……というか明日から、どういう顔でみんなと会えばいいのか……」

薄墨父「ああ、そうそう。僕たちがこういう話をしたってことは、娘たちには内緒で頼みますよー?」

京太郎「思いっきりバレてる人がいるんですが、それは……ん?」

メール『私はなにも見てないし聞いてないし言わない』

京太郎「巴さん……」

狩宿父「まぁそういうことですから、ご安心を」

京太郎「アッハイ、ご安心です」

滝見父「さて、それでは今日のところは、これで解散としよう。まぁただ、一つだけ言えることは、だ――」

京太郎「はい」

滝見父「我々は、そしてこの土地は、これからも君を歓迎する――ということだ。どうか末永く、誼を通じてくれたまえ」

京太郎「……はい、こちらこそ。これからも、よろしくお願いします」

石戸父「ふんっ……」

京太郎(やっぱり……前に会ったときより、なんか当たりがキツい気がする) ※その19、レス777参照

神代父「では、いずれまた、顔を合わせる機会もあるだろう。そのときは、もっとゆっくりと話せればよいのだが」

京太郎「そうですね。ですが、さすがにお忙しいでしょうから……お気持ちだけで十分です、ありがとうございます」

薄墨父「この気遣いですよー」

狩宿父「うちの役割と、相性がよさそうなんですけどねぇ」メガネクイッ

石戸父「なにがあろうと、私は認めん……認めんぞっ……」

十曽「最後までこれですか……では、失礼しますね」ハァ

京太郎「はい。それでは皆様、どうぞお気をつけて」

278 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/05/02(木) 16:12:56.05 ID:dop3vfBI0

京太郎「……あ、水物だすの忘れてたな」

滝見父「なに、夕食のデザートにでもすればよかろう」

京太郎「それもそうですね……あ、そうでした。給仕の人手を貸していただいて、ありがとうございました」

滝見父「いやいや。こちらこそ……頼みを聞いてもらっただけでなく、汚い大人たちの悪だくみに付き合ってもらって、本当にありがとう」

京太郎「……俺がお聞きした限りでは、どなたも汚い大人には思えませんでしたよ。ご自分の子供を案じられる、いいお父さんばかりでした」

滝見父「そうか……ありがとう」

京太郎「ただ、その……本人に無断で、意思を無視して、結婚の話をするのはどうかと思いましたけどね」

滝見父「ははは、確かにな! だが、意思を無視していたかどうかは、わからんぞぉ?」ニヤッ

京太郎「? えっと、どういう意味でしょうか……」

滝見父「ははははは、気にするな! 中年の戯言と聞き流してくれい!」ポンポン

京太郎「は、はぁ……」

滝見父「まぁ、なんにせよだ……君がもし、麻雀部の誰かとそういった仲になったとしても、反対する親は一人しかおらんということだ」

滝見父「そう考えれば、彼女らと深い仲になるということにも、現実味が出てこないかな?」

京太郎「……そう……かも、しれませんね」

滝見父「だろう? まぁ、まだ君らは若い……そうした悩みこそ、青春の華よ! 大いに悩め、若人!」バンバンッ

京太郎「そうします……」

滝見父「さて、それでは中に戻ろうか。外はまだまだ暑いからなぁ」

京太郎「あの……もし……俺と、春が――」

滝見父「うん?」

京太郎「……いえ、なんでもありません」

滝見父「そうか……どうだね、片づけが終わったら、道場で一勝負といかんか?」

京太郎「は――いえ、学校に行きます。みんな練習中でしょうから、少しだけでも顔をだしたいので」

滝見父「……うむ、そうだな。そうするといい。皆も喜ぶだろうからな」ポンポン

279 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/05/02(木) 16:14:38.37 ID:dop3vfBI0

令和になったので、初投稿です

まぁ書き溜めはこれでほぼなくなったので、次は同じくらい間を空けて、かなり短めのを一つ
そこから最終章です
最終章はあと90%くらい書けば終わりのはずです
夏くらいに終われたらいいなぁ
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/02(木) 16:55:21.78 ID:KIzjD0Dh0
乙!
待ってるぜ!
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/02(木) 18:50:44.17 ID:eHfew1d/0
乙ー
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/02(木) 22:18:20.92 ID:uvctQukLo
乙〜京ちゃんもはるるに惹かれてるかんじがみえてうれしい
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/02(木) 22:27:20.89 ID:UJiBZl2SO
……つまり修行ダイスで熱烈出しまくれば強キャラが出来る?
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/02(木) 22:27:58.86 ID:UJiBZl2SO
誤爆すまぬ
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/03(金) 01:38:14.68 ID:bcergcdMo
乙です
最終章も次のキャラも期待
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/03(金) 07:48:53.83 ID:eAH+GPpY0

おっさん回
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/03(月) 00:40:29.19 ID:dRvpq1X/o
保守
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/03(月) 01:25:23.78 ID:8FKsPW86o
積んできたものをじわじわと確認していくようなこの感じが尊い、たまらない
乙です
289 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/07/05(金) 13:01:52.32 ID:0kuyUivE0

〜二年目9月四週月曜

〜部活中


京太郎「なんだかんだで、あと一週間だな……」

春「帰らないで」

小蒔「そうです!」

京太郎「……こればかりは逆らえないんだよ」

湧「仕方ありませんよ。あと一週間もいてくださると考えて、練習に励みましょう」

明星「湧は前向きだなぁ」

初美「でも湧の言う通りですよー」

霞「そうね。幸い、京太郎くんの健康にも問題はなかったようだし、いつもと同じように頑張りましょう」

巴「そうですね、あまり思い詰めても調子が狂いますし」

春・小蒔・湧・明星・初美・霞・京太郎『……………………』

巴「な、なにかな?」

小蒔「巴ちゃん!? どうしているんですかっ?」

巴「えっ? えっと……ほら、大学はまだ夏休みですから。久々に里帰りでもと……お盆に帰りそびれたわけですし」

初美「まぁ、私たちもみんな、東京でしたからねー」

霞「……本当にそれだけかしら?」ジー

巴「や、やだなぁ、本当ですよ……強いて言うなら、あれですかねー? ほら、前の騒ぎがありましたから……」

春「……一週間も経って?」

巴「う……その、あの……わ、私も予定があったので、やむを得ず……」

明星「怪しい……」

湧「そういえば……昨夜の話なんですけど、父が狩宿のご当主と夜遅くまで電話していましたが、それと関係がおありですか?」

巴「――――――ないよ?」

霞「間! いまの間はなにかしら?」

巴「いや、本当になんでもないんですって!」

京太郎「ま、まぁいいじゃないですか。仮になにかあったとしても、言いたくないってことですし、無理に聞きださなくても……」

小蒔「つまり――京くんは、知ってるんですね?」ジッ

京太郎「え」ビクッ

初美「ほほう……そういえばですねー、うちの父様も昨夜はあれですよ、石戸の家で遅くまで飲んでたみたいなんですよー」

巴「う、うちとは関係ないんじゃないかなー」

霞「……時々、狩宿がどうこうって聞こえていたのだけれど?」

巴「ち、父がなにか、ご無礼を働いたんでしょうかね……娘として謝罪いたします」

春「ダウト。巴さんはそんな、お父さんの代わりに謝るようなことはしない」

巴「いや、するよ!?」

京太郎「そ、それよりあれですよ、練習しましょう! ほら、もう一週間しかいられないわけですし――」

春「京太郎、正直に教えてほしい」

小蒔「そうです! 巴ちゃんがそうまでして隠すだなんて、心配になってきました!」

霞「私たちの親が絡んでいるとなると、家のこと……引いては霧島のことかもしれないわ。巴ちゃんだけが抱えておくには、あまりに大きいことよね」

初美「ほれほれ、そういうわけですからねー、観念するですよー」
290 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/07/05(金) 13:02:47.31 ID:0kuyUivE0

巴「う、うぅぅ……違うんです、私は……私は本当に、なにも――」

明星「……あー、私、もしかしたらわかっちゃったかもです」

湧「ちょ、ちょっと明星……」

霞「言ってごらんなさい、明星」

明星「はい。実は私も、少し叔父様たちの話を聞いてしまったんですけど――あんなやつに霞を、って言ってたんですよね」

初美「……えっと、それはつまり――」

明星「お従姉さまのお見合いが決まったか、少なくともご当主たちが揃って、誰か男の人に会ったってことじゃないでしょうか」

京太郎「………………」ヤッベ

巴「………………」シー

霞「…………私に、お見合い?」

小蒔「か、霞ちゃん、どうするんですかっ?」

霞「ど、どうと言われても……まだ決まったわけではないし……」

春「でも、年齢的にも立場的にもあり得なくない。まだ学生の身分ならともかく、受験組だったのになぜか社会人にされた霞さんなら」

霞「>>1の取り返しがつかないミスはともかく、具体的な話どころか、ほのめかされてもいないのよ? 考えすぎじゃないかしら」

湧「そうですね、お見合いは飛躍させすぎだと思います……ただ、ご当主たちが密に連絡を取り合っているようなのは、気になりますね」

明星「誰かに会ってたのは間違いないと思うんです。それで、その人と霞さんが、それなりに近しいんじゃないでしょうか」

初美「…………いや、いやいやいや、待ってくださいよ? 霞と距離が近くて、おそらく男性って、そんなの一人しか――」

明星「――あ」

京太郎「………………」ダラダラダラ

巴「………………」マッサオ
291 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/07/05(金) 13:03:16.66 ID:0kuyUivE0

小蒔「――京くん?」

春「京太郎、どういうことなの」

京太郎「いや違う、そうじゃない! お見合いとか、そんな話はしてないから! むしろ俺、石戸のご当主にめっちゃ嫌われてたから!」

巴「ちょっと京太郎くん!」

京太郎「しょうがないじゃないですか、こうなったら! っていうかこれもう、半分以上、巴さんのせいですからねっ!?」

巴「そ、それは……確かに、帰ってくるのはまずいかなーって思ったけど、京太郎くんが余計なこと言っちゃわないか心配で……」

京太郎「言いませんよ!」

巴「いま言ったじゃない!」

京太郎「巴さんが先に余計な行動したんでしょうがああああああああああ!」

初美「…………あー、もしもし?」

明星「夫婦漫才はその辺で――」

小蒔「明星。誰と誰が夫婦ですか?」ギロッ

明星「ぴっ!」ビクッ

春「根拠のない出鱈目を吹聴するのはよくない」ゴゴゴゴゴ

明星「申し訳ありませんでした!」ブルブル

湧「よしよし……そ、それで、結局どういうことなのでしょう……」

霞「……私も、聞きたいことが多すぎて、どれから手をつければいいのかわからないわ」

初美「巴、それか京太郎……順番に、説明したほうがいいですよー」

巴「……京太郎くん、お願い」

京太郎「ここにきて俺!? い、いや、けど俺はほら、口止めされてますし……」

湧「――でしたら、皆さんで家にいらしてください。父の口から、すべて話してもらいましょう」

京太郎「いや、それはまずいんだって!」

巴「そ、そうだよ! 私たちが話したせいだって、バレちゃうし――」

霞「だったら、ここで内密に話してしまったほうが、お互いにメリットがあると思わない?」ニコッ

京太郎「」ヒエッ

小蒔「――巴ちゃん」

巴「は、はひ……」

小蒔「――命令です。知っていることをお話しなさい。すべて、包み隠さず」

春「京太郎でもいい。どうしても無理なら、私も家でお父さんに聞く」

京太郎「春……ああもう、わかったよ! 巴さん、俺から話します……いいですよね?」

巴「う、ん……そうね……冷静に考えれば口止めも、あの人たちの名誉のためみたいなとこあるし……そこまで義理立てしなくていっか」

京太郎「確かに……」

初美「だーかーら! 二人だけでわかる会話やめてください、なーんかイラッとするんですよー!」

小蒔「結局、なにがどうなってるんですか!」

春「もしかして、昨日なにかあったの?」

京太郎「ああ、実は――」
292 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/07/05(金) 13:04:26.32 ID:0kuyUivE0

 そこから京太郎が説明したのは、日曜日に客が来るからと、昼食の支度を頼まれたこと――。
 その客人が、いわゆる六女仙の父親である、各家の当主たちだったこと――。
 彼らが京太郎の過去に対する謝罪と、先日の行動に対する礼賛を伝えに来たこと――。
 というわけで、病院に行ったというのは嘘だったこと――。
 以上、であった。

京太郎「――と、そんなことがありました……」

小蒔「父様たちが、そんなことを……」

霞「――確かに、一族の大失態まで考えれば、そうしないとおかしいくらいだものね」

初美「当主が揃って一高校生に頭を下げたなんて、確かに口止めしたくもなりますねー」

春「……巴ちゃんは、どうして知ってたの?」

巴「え゙っ」

明星「あ、確かに。口止めしてたなら、狩宿の小父様もそんなこと教えませんよね」

巴「え、えーっと、それは……きょ、京太郎くんから聞いて!」

京太郎「嘘吐かないでくださいよ!」

霞「巴ちゃん?」ニコッ

巴「あ、あは、あはははは……その、部屋に張ってる式神が、父の不審な外出を見たもので……なにかあっては一大事と、こっそりあとを――」

霞「なるほど、出歯亀していたのね」

巴「か、霞さんが教えてくれたやり方じゃないですか!」

霞「なっ――人聞きの悪いこと言わないでちょうだい!?」

初美「醜い争いは置いておいて――いまの話、なにか気になることはありましたかー?」

湧「あの、よろしいですか?」

小蒔「どうぞ」

湧「口止めされてたからって、巴さんがそこまで黙っておく内容でしょうか? それに、わざわざ帰ってくるほどのことでもないかと――」

巴「そ、そんなことないよ、湧ちゃん!」

春「そんなことはある。湧の言うことは一理ある」

霞「ふむ……ねぇ、京太郎くん?」

京太郎「――ひゃ、ひゃい」

霞「まだ、隠し事があるわよね?」ゴッ

京太郎「」ヒッ

巴「………………あの、さすがに京太郎くんからは言いにくいと思いますので、私からでいいですか?」

小蒔「許可します」

明星(さっきから姫様が怖い)

京太郎「と、巴さん……」

巴「京太郎くんは悪くないんだし、堂々としてていいよ。なにかあったら、お父さんたちがコソコソしてたのが悪いって、みんなで言ってあげるから」

京太郎「…………はい、お願いします」

巴「では、ご説明します。実は――」
293 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/07/05(金) 13:06:36.17 ID:0kuyUivE0

 そうして告げられたのは、すべてが片づいたところで神代の当主から告げられた、京太郎と小蒔の婚約話のこと――。
 京太郎が即座に色よい返事をしなかったことで、付け入る隙があると見た他の家の当主が、こぞって娘を宛がおうとしたこと――。
 十曽と石戸、滝見の当主はそうした動きを見せなかったということ――以上である。

巴「――と、まぁこんなところでしょうか」

初美「………………はぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ、あっきれますねー、本当にっっ!」

京太郎「す、すいませんでした!」

明星「いや、京太郎センパイは全然悪くないですから」

湧「……ほんっとうに、失礼を承知で言わせていただきますけど――ご当主様たち、おかしいんじゃないですか?」

巴「お恥ずかしい限りです……」

小蒔「あ、あの、その、えっと……ごめんなさい、京くん! 父様が――いえ、六女仙の家を預かる面々が、本当にお恥ずかしいことを!」フカブカー

京太郎「こまちゃんも悪くないから! まぁ、その、なんというか……俺みたいなのを気に入ってくださったってことは、素直にありがたいしさ」

霞「」

春「」

湧「あの、お二人が固まっていらっしゃるんですが」

京太郎「か、霞さん……それに、春……?」

霞「……大丈夫よ、京太郎くん。いざとなったら家を捨てるから」

京太郎「大丈夫じゃなくないですか!?」

春「私も捨てる。京太郎さえいてくれればいい」

京太郎「だから落ち着け! なんていうか、あれだ……滝見の小父さんは、子供の恋愛に親が口だすのはよくないってスタンスだったしさ」

春「そうなの?」

京太郎「ああ。昔の俺とこまちゃんのことで、色々考えたってことらしいけど……」

小蒔「……そうですね。肯定にしろ否定にしろ、大人の意見に私たちが翻弄されるなんて、もう二度と……」

霞「その通りだわ。京太郎くん、お父様がどんな態度だったかわからないけれど、なにも気にしなくていいわよ」

京太郎「は、はぁ……もちろん、それはそうですけど――」

京太郎「――ただ、誰かと結婚するならやっぱり、家族の方々には認めていただきたいですよね」

霞「」

初美「京太郎、なんてことを……」

明星「お従姉さま、お気を確かに!」

巴「これで霞さんは選考外……」ボソッ

霞「ちゃ、ちゃんと説得すれば問題ないでしょう! ねぇっ?」

京太郎「アッハイ」

霞「ほら!」パァァッ

湧「須賀さん、いい加減な返事で場を乱さないでください!」

京太郎「ご、ごめんなさい……」

初美「ともかく……父様たちにはきっちりお灸を据えたいところですけど、口止めされているなら、知らないフリをするしかないですねー」

巴「ごめんねー。うちのお父さん、私の言うことはあんまり気にしない人だから……お父さんからご当主たちに言ってもらうのも難しくて」

初美「まぁ巴が帰ってこなきゃ、私たちが知ることもなかったし、問題なかったと思いますけどねー」

巴「」

明星「ま、まぁまぁ!」
294 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/07/05(金) 13:07:23.09 ID:0kuyUivE0

湧「知っても知らなくても、私たちが変わるわけじゃありませんから……須賀さんが流されでもしない限りは」

京太郎「だ、大丈夫だから」

春「本当?」ジィッ

京太郎「……ああ、絶対だ。いい人たちだし、俺のことを認めてくださってるのは嬉しいけど、誰かに言われたから婚約、なんてのは御免だしな」

小蒔「……はい」

京太郎「ただ――」チラッ

春「……?」

京太郎「いや……俺だけじゃなくて、みんなも気にしないようにしてもらいたいな、って。妙に意識されたり、気を遣われたりすると、どうも……」

初美「え、いまさら?」

京太郎「えっ」

霞「コホン! とにかく、いつも通りにしていればいい、そうよね?」

京太郎「あ、はい。その通りです」

霞「みんな、聞いての通りよ。お父様たちに抗議できない以上、私たちにできることはなにもないわ。いつも通り、あと一週間を過ごしましょう」

全員『はい!』

巴「で、正確にはいつまでこっちにいられるんだっけ?」

春「確か……出立は、来週の月曜……?」

京太郎「だな。引っ越しの手配とかもあるけど、まぁ日曜まではいつも通り学校にも通える」

湧「では、それまでは引き続き、よろしくお願いします」

明星「そうですよ! 私は叔父様の意見とは無関係ですけど、気にしないでください♪」

京太郎「あ、うん」

霞「明星」ニコッ

明星「」

湧「学習しないなぁ……」ハァ

初美「人はそういう生き物なのですよー」

小蒔「……あと、一週間……月曜まで……」

春「……朝に出発とすると、もう六日と十数時間……」

京太郎「深刻に考えすぎ! ほら、練習するぞ、練習!」

295 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/07/05(金) 13:07:51.53 ID:0kuyUivE0

〜練習後、下校中

春「……京太郎」

京太郎「お?」

春「手、繋いでほしい」

京太郎「ああ……いいけど」ギュッ

春「……この手が、離れなければいいのに」

京太郎「ん……まぁほら、もしかしたら来月も、こっちかもしれないしさ」

春「……わかってる。でも、私は……ちゃんと、ずっと、京太郎と一緒がいい」

京太郎「春……」

春「京太郎を困らせる気はない。それが約束できないのはわかってる。ただ、言っておきたかっただけ」

京太郎「…………俺も」

春「え」

京太郎「……これ、内緒な?」

春「うん」

京太郎「いつもは一人暮らしだけど、今回は滝見の家に居候させてもらって、小父さんたちからもよくしてもらって……居心地がよすぎるくらいだ」

春「!」

京太郎「愛着もあるし、すごく離れがたい……もっと長くここにいられたらって……まぁ、その……わりと真面目に、考えたりしてるからな?」

春「京太郎!」ダキッ

京太郎「おっと……」ウケトメ

春「……嬉しい……ありがとう……」ギュー

京太郎「俺のほうこそな……春にも小父さんたちにも、感謝してる……ありがとな」

春「うん……」

京太郎「……そろそろ帰らないか?」

春「もうちょっとだけ……だめ?」

京太郎「……いや。それじゃ、もうちょっとだけな」ナデナデ

春「ん……」ギュー

296 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/07/05(金) 13:10:34.36 ID:0kuyUivE0

ということで、最終章前の骨休め回
ここからが本当の地獄だ(書き溜め的な意味で)

で、あれから一向に進んでません
しばらく仕事優先で動くので、年内に終わればいいなぁくらいの感覚で

宝くじ当たったら、春編一気に終わらせる
では、またいずれ
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/05(金) 14:41:13.79 ID:NyCJ8mm5o
おつおつ
ついに京ちゃんの想いが出だしたか
いつまでも待ってますので息災で頑張ってください
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/05(金) 15:31:15.57 ID:PFgA778o0
乙!
何時までも待ってるぜ!
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/05(金) 16:54:00.86 ID:4E4edtRk0
乙ー
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/05(金) 17:06:22.59 ID:C2/nCTHFo
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/21(水) 17:40:49.59 ID:sjCpW2Pno
保守
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/14(土) 15:10:08.59 ID:ru27B6dB0
保守
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/12(土) 22:49:58.12 ID:dnZeEt5a0
保守
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/19(土) 23:10:02.93 ID:tTQDE1Kd0
保守
春が終わって、次があるなら淡あたりかな?
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/21(月) 22:11:08.54 ID:Jm87o1P1o
シロが見たい(直球)
いやでも気が向いたらでほんと構わないし、今は春に全力投球してほしい
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/30(水) 09:13:38.43 ID:wY+0n0AXO
復活してるとは…待ってます!
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/20(金) 08:59:06.99 ID:lPrQEJ7e0
保守
308 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/12/24(火) 21:15:47.39 ID:xHPNQq1S0

〜二年目9月四週水曜

〜朝の鍛錬

春「――はい、今日はここまで」

京太郎「……ふぅ。ありがとうございました」

春「コントロールもうまくなってきた。これなら、見分けもできるようになってるはず」

京太郎「見分けってのは?」

春「前の京太郎は、見えるようにはなってるけど、それが人間なのかそうでないのか、危ないか危なくないか、その見分けができてなかった」

京太郎「あー、確かに……思いっきり見ようとしてたもんな」

春「私が教えなかったせいもあるけど、見分けそのものが難しい、ということもある」

春「だから、普段は私たちが一緒にいて注意していたたけど、そろそろ次のステップに移る時期……京太郎ならできるはず」

京太郎「なるほど……春がいつも隣にいたのは、そういう理由もあったんだな」

春「私が一緒にいるのは、それが理由じゃないけど」

京太郎「……そっか」ポリポリ

春「そう」

京太郎「……で、見分けってどうすればいいんだ?」

春「常に、視覚に力の影響を届かせておいてほしい。やってみて?」

京太郎「ふぅん……んー、こんな感じか……目が疲れそうだな」キアイー

春「慣れれば無理なくできるようになる……そうしてると、人間じゃないのは周囲にモヤが見えるはず」

京太郎「なるほど……」

春「色が緑なら安全。そこから黄色に近づいて、赤くなるにつれて危ない」

京太郎「ゲームの体力ゲージみたいだな……」

春「安全といっても、害がないわけじゃないのもいる。モヤが見えたら、そっちは見ないようにして」

京太郎「わかった」

春「じゃあ、今度こそ本当に鍛錬はおしまい。目の訓練だけは、忘れずに続けておいて」

京太郎「ああ、そうする……前みたいなことになって、春が危なくなるのは御免だからな。ちゃんと練習しとくさ」

春「私は大丈夫」

京太郎「大丈夫じゃないっての……あのときはなんとかなったけど、本当に危なかったし、起きたあとも心配したんだからな」

春「心配したのはこっち」

京太郎「う……ま、まぁほら、どっちも無事だったわけだし……」

春「うん……だから京太郎、あんまり無茶しないで。私も、京太郎が危ないのはいや……助かるなら、一緒に助かりたい」

京太郎「……ああ、そうだな。春だけじゃなく、自分もしっかり守らないとな」

春「うん、お願いします」

京太郎「……春のことも守りたいんだぞ?」

春「それは……そのくらいになったら、お願いします」

京太郎「手厳しい……」

春「ふふっ」
309 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/12/24(火) 21:16:29.34 ID:xHPNQq1S0

滝見父「はっはっは、おはようご両人。話は済んだかな?」

京太郎「――っ!? お、おはっ、おはようございます!」

春「おはよう。お務めと訓練は終わった。ご飯の準備はいまから」

滝見父「うむ。では、食事中に話すとしようか……」

春「なにを?」

滝見父「実はまた少し、頼みたいことがあってな」

春「……また料理? 今度は誰が来るの?」

京太郎「ちょ、春、それは――」

滝見父「なに、構わんよ。どうせ皆の娘らも知っているのだろう?」

京太郎「う……ええ、まぁ……すみません」

滝見父「はっはっは、気にすることはない! 皆もどうせバレるだろうと思って、あんなことを言っていたことだしな」

京太郎「そうなんですか?」

滝見父「うむ。それを知ったあとの娘たちの反応を見るのもまた一興、などと言ってな……いやはや、困った当主たちよ」

春「おまいう」

京太郎「いや、ほら、小父さんはなにも言ってなかったわけだし……」

春「どうせなら推してくれてもいいのに……」ブツブツ

滝見父「いかんぞ、春。欲しいものは自分で掴み取ってこそだ……違うか?」

春「利用できるものはなんでも利用する……」ゴゴゴゴ

京太郎「闇落ちしてる!?」

滝見父「はっはっは、頼もしいことだ! まぁよかろう……次の頼みは、そんな春にぴったりの頼みごとだぞ?」

春「本当かな……」

京太郎「え、俺じゃなくて、春ですか?」

滝見父「正確には、二人に――だな。ともかく話はあとだ、まずは汗を流してきなさい。まだ温かい時期だが、そのままでは風邪を引くぞ」

京太郎「そうですね、そうします」

春「じゃあ行こう、京太郎」

京太郎「順番にな!?」
310 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/12/24(火) 21:16:55.94 ID:xHPNQq1S0

〜朝食中

春「山陰にお遣い?」

京太郎「俺たち二人で、ですか?」

滝見父「うむ。恒例の挨拶回りと簡単な儀式の参列ではあるのだが、今回は色々な事情で、こちらも手が離せない時期になってしまったのでな」

春「あ、そうか。前の事件の後処理で……でも、いつもより遅い気がする」

滝見父「そうだな。本来ならもっと早い時期だが、天候の崩れや災害もあり、儀式の日程がずれ込んだらしい」

京太郎「それで、折り悪く今週末になったわけですか……」

滝見父「事情はわかってくれたかな。私と母さんは、こちらの事情ではあるが、手が離せない……そこで、二人に名代を頼もうと考えたわけだ」

京太郎「えっと……霞さんや初美先輩にお願いする、ということはできないんですか?」

滝見父「石戸と薄墨は、少し相性が悪い家でなぁ……ゆえに毎年、我が家か狩宿が挨拶に出向いているのだよ」

京太郎「なるほど……巴さんはもう帰っちゃいましたし、春しかいないわけですね。ただ、どうして俺も?」

滝見父「はっはっは、京太郎くんにしては察しの悪いことだ」

京太郎「え?」

春「!」ガッツポ

滝見父「知った土地とはいえ、遠方に娘一人で向かわせるのは、さすがに心配もしようというものだ」

京太郎「あ……た、確かにその通りです! すいません、俺としたことが……」

春「…………」ガックリ

滝見父「以前に奈良まで行ってもらったときは供をだせたのだが、今回は本当に人手が足りなくてなぁ……頼めるとありがたいのだが」

京太郎「そうですね……そういうことでしたら、謹んで」

春「私も大丈夫」

滝見父「おお、ありがたい! では土曜日、出発が早朝になって申し訳ないが、よろしく頼む。先方にも事情は話しておくので、気軽に行ってきなさい」

京太郎「はい。失礼のないよう務めますので」

春「宿はどうしたらいい?」

京太郎「!?」

滝見父「うむ、手配はできている――と言いたいところだが、夜には帰ってこられるはずだ。必要はなかろう」

京太郎「ですよね!」

春「ガーン」

滝見父「遅くなるからこそ、京太郎くんにも同行を願ったわけだ」

京太郎「納得です」

滝見父「春一人でというなら、宿の手配もやぶさかではないのだが――」

春「むぅ、一人旅でお泊りしても意味がない……わかった」

滝見父「だが、そうだな……不測の事態で帰れなくなる恐れもあるか。懇意にしている宿の連絡先を教えておく、いざというときは頼りなさい」

春「まかせて」

京太郎「はは……まぁでも、週末は天候も大崩れしないそうですし、大丈夫でしょうね」

滝見父「いざとなったら、京太郎くん……春のことをよろしく頼むぞ」

京太郎「は――えっ!?」

滝見父「……言葉が足りなかったな。なるべく守ってやって欲しい、ということだ」

京太郎「わ、わかってます! お任せください!」

滝見父「はっはっは! では改めて、よろしく頼んだぞ」
311 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/12/24(火) 21:18:19.24 ID:xHPNQq1S0

〜学校、部活前

春「――ということで、土曜日はお休みします」

京太郎「滞在期間ギリギリなのに、申し訳ありません」

小蒔「」

湧「姫様、お気を確かに!」

明星「家の名代でお二人でって……え、大丈夫なんですか?」

京太郎「どういうことだ?」

春「これでも、挨拶回りは慣れてる」

明星「い、いえ、ではなくて……その、なんというか……」

小蒔「は――反対です!」

京太郎「えぇっ!?」

初美「いやー、これはあれですねー、完全に外堀埋めにかかってますねー」

京太郎「どういうことですか?」

霞「……まず、他家を招いての大事な儀式で、招かれるお客様も格式あるお家柄なわけでしょう?」

京太郎「ですね……」

湧「そんな皆様の前に、名代として――将来の当主として顔をだすご息女の春さま」

京太郎「うん……」

明星「その方が、同じ年頃の男性を伴って来られる、これはどういう意味になりますか?」

京太郎「………………あっ!?」

春「なんの問題が?」

京太郎「い、いや、これはちょっとまずいかも――」

春「落ち着いて。お父さんが相手にも話をしているはず、問題はない」

京太郎「……言われてみれば、確かにそうか?」

霞「ご、誤解を招くかもしれないわ」

小蒔「その通りです!」

春「誤解じゃなくすればいい」

霞「そうではなく!」

初美「必死すぎじゃないですかー? 滝見の小父さまが、そこまで考えてるとは思えませんけどねー」

湧「春さまの世話役とか護衛とか、そういった説明をされているでしょうし――」

明星「日帰りでは、邪推される余地もないのでは……」

霞「甘いわよ!」

小蒔「な、なにがあるかわかりませんしっ」

京太郎「なにがあるかわからないからこそ、俺がお供するんじゃないか?」

小蒔「そうではなく!」

春「ともかく――私たちが引き受け、先方にもお伝えしている以上、いまさらもう一回変更するわけにもいかない」

京太郎「そうだな、俺もそう思う。俺たちも向こうで自己紹介するし、誤解されそうなら否定すればいいだけだ」

春「む……否定はしなくても――」

小蒔「そ、そうですよね! 京くん、くれぐれも間違いのないよう、節度を持って役目を果たすように!」フンスッ

京太郎「ああ、もちろん……こまちゃんや大社の名前に傷をつけないよう、真面目にやってくるよ」
312 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/12/24(火) 21:18:45.42 ID:xHPNQq1S0

初美「ま、その辺りは京太郎なら、心配いりませんねー」

霞「春ちゃんより礼儀正しいまであるわね……」

京太郎「いや、そこまでは……なぁ?」

春「京太郎のほうが礼儀正しい。滝見の名代として挨拶してほしいくらい」キリッ

京太郎「それは春の仕事な!?」

霞「そうよ! 春ちゃんがしなくて誰がするの!」

小蒔「滝見の名に恥じない仕事をするように!」

春「はい」

明星(完全にからかわれてる……)

湧(春さま、お戯れを……)
313 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/12/24(火) 21:20:39.71 ID:xHPNQq1S0

〜二年目9月四週土曜

〜出発、道中

京太郎「さて――この電車なら昼前には着くかな。予定の確認だけ済ませとくか」

春「到着したら、あちらのお社でご挨拶。お供えをお渡しして、儀式が始まるまでは待機」

京太郎「ふんふむ」

春「お昼過ぎから始まって、長くとも二時間くらいで終わる。そこから遅い昼食と夕食を兼ねて、宴席がある予定」

京太郎「そこでなにかやることはあるか? 給仕したり調理したり」

春「私たちはゲストだから、なにもしないのが仕事」

京太郎「あ、はい……」

春「事前に挨拶できた人はいいけど、それ以外の人にはそこで挨拶に回る予定。京太郎は私の傍を離れないで」

京太郎「なるほど、了解」

春「同級生という紹介では不十分だと思うから、修行のために来た居候であることも強調しておくけど、それでいい?」

京太郎「ああ――いや、そうだな……」

春「なにか問題がある?」

京太郎「紹介内容はいいんだけど、名前をだしても大丈夫なのかと思ってさ。ほら、思いだしたといっても、そもそも俺もよくわかってなかったし……」

春「あ――そうだった、京太郎は須賀の御曹司」

京太郎「御曹司やめて! っていうか、忘れてたのかよ……」

春「私にとって、京太郎は京太郎だから……家がどこでも関係ない。私を……大きく成長させてくれた、大事な人、だから……」ポッ

京太郎「……やばい、嬉しい」

春「でしょ?」ピトッ

京太郎「……で、名前はどうする?」ナデナデ

春「京太郎に任せる」

京太郎「そうか――なら、名乗るだけ名乗っておくか」

春「須賀のことを聞かれたらどうする?」

京太郎「……俺には関わりのないことだって言っておく。いまの俺の身分は、永水女子の生徒で滝見の居候、それだけだ」

春「ん、わかった。京太郎は滝見で預かっている、神職の修行をしているだけの居候、それでいい?」

京太郎「ああ、そういう扱いで頼む――春お嬢様」

春「はうっ」キュンッ
314 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/12/24(火) 21:21:19.19 ID:xHPNQq1S0

京太郎「いかがされました、春お嬢様?」

春「……これは、命令していい流れ?」

京太郎「ご随意に」

春「では、京太郎……お茶の支度を」

京太郎「かしこまりました」シュバッ

春「早い!」

京太郎「こちら、本日はアッサムを――それに移動中の軽食にと、焼き菓子をいくつか……お取りしましょうか?」

春「……食べさせて」

京太郎「かしこまりました」アーン

春「あーん」モグモグ

京太郎「いかがでしょう?」

春「……好き」

京太郎「!?」

春「この味、好き……京太郎が作ってくれる、いつもの味……あれ、どうかした?」ニヤニヤ

京太郎「ぐっ……い、いえ、なにも……」カァッ

春「ふふ……うん、やっぱり好き……大好き……」モグモグ

京太郎「……光栄の至りです、お嬢様」

春「外では春と呼びなさい、京太郎」キリッ

京太郎「はい――春、嬉しいぞ」

春「ん」キュン


(なにあれ爆発しろ)
(滝見のお嬢さん……ま、まさか、あの男と!?)
(こりゃめでてえ! ご当主に祝言の日取りを確認しとかねぇと!)
(馬鹿なっ、霧島の巫女がこれほど早く、あんなイケメンを獲得するとはっ……)

315 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/12/24(火) 21:21:49.90 ID:xHPNQq1S0

〜到着

〜某所神社

京太郎「なんか車内と駅と、道中で妙な視線を感じたような」

春「気のせい」

京太郎「そうかな……」

春「旅行で気持ちが昂ってるだけ」

京太郎「そうか……」

春「それより、ここが目的地」

京太郎「着いたか……ここも大きい神社だな」

 荘厳な石造りの鳥居から、奥へ続く長い石畳。
 それを覆うように広がる林は、不気味さよりも神聖さを感じさせる。
 見た人間に威圧と慈しみを与える、まさしく神の住まう社といった印象だ。

春「大丈夫?」

京太郎「まぁ、霧島で空気には慣れてるからな」

春「頼もしい。じゃあ、まずは拝殿でご挨拶。それから社務所に行く」

京太郎「了解」


〜社務所

春「霧島の遣いで参りました、滝見家当主名代の、滝見春です」

「まぁ、ご丁寧に……すっかりいいお嬢さんになられて」

春「恐れ入ります」ペッコリン

「それで、その――そちらの方は?」チラチラ

春「当家の居候です。京太郎、ご挨拶を」

京太郎「お初にお目にかかります。現在は滝見家に居候させてもらい、修行に励んでおります。須賀京太郎と申します」フカブカー

「――須賀? ということは、あの……」

春「彼は――当家の居候です。それ以外のことは、申し上げられません」

「……そうなの?」

京太郎「なにぶん、こちらの世界には疎いものですから……不調法がございましたら、ひらにご容赦を」

「そうですか……いえ、わかりました」

京太郎(ふぅ……)

「本家ではなく、滝見に居候してるということは……ねぇ? あらあら、春ちゃんもそんな年に……おばさんも年取るわけだわぁ」

京太郎「……なんか誤解されてない?」

春「されてない」キリッ

「あらあら、でもでもそうすると、姫様を袖にしたということに……あなたすっごいわねぇ、大物になるわよ」

春「もちろんです」キリッ

京太郎「やっぱり誤解されてるよね!?」

316 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/12/24(火) 21:23:39.63 ID:xHPNQq1S0

〜式典後、宴席

京太郎「はぁぁ〜〜〜〜……一通り、挨拶は終わったんだよな?」

春「うん。お疲れさま」

京太郎「ああ、春のほうこそお疲れ……で、だ」

春「はい」

京太郎「全員、間違いなく誤解してたよな?」

春「してないと思う」

京太郎「……春がそう言うなら、それでもいいけどさ」チラッ

「あれがほら、須賀の――」
「ということは、例の不始末を一人で片づけたと――」
「だとしたら、須賀の跡取りは――」
「そちらとは無関係だと――」
「では本家の姫様と?」
「それが、ほれ――」
「なんと、滝見の……」
「おお、おお、ええ雰囲気じゃあないか……」

春「うん、いい」ムフー

京太郎「あんまりよくないような……」

春「確認されてもないのに、いちいち否定するほうが却っておかしなことになる」

京太郎「う、む……それは、確かに」

春「こういうときは事実だけ話して、あとは気にしないのが一番」

京太郎「そうだな……そうかも。ま、ここでの作法は春に任せてるしな」

春「うん、任せて」

京太郎「なら、俺は春お嬢様のお世話に徹することにしようか」

春「いい」

京太郎「ん?」

春「名代が付き人に甲斐甲斐しく世話されてたら、子供みたい……京太郎は隣にいてくれれば、それでいい」

京太郎「……いつも通りってことだな」

春「そう。いつも通り、隣に……」ピトッ

京太郎「…………」ナデナデ

春「んふぅ……」トローン

京太郎「って、いかんいかん! 名代で来てるんだから、シャンとしてるとこを見せとかないと」

春「確かに」シャキーン
317 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/12/24(火) 21:25:16.58 ID:xHPNQq1S0

「お? なんじゃ、やめちまいおった」
「最近の若いもんは、だらしないのう」
「ワシらの若い頃は、そのままおっぱじめたっちゅーのに」
「これもあれじゃのう……草食化の波、っちゅうかのう……」

京太郎「肉食系でもこんなとこでやりませんよ!」

春「私は一向に構わん」

京太郎「構って!」

春「もちろん冗談。京太郎以外の目がある場所では、隙は見せない」

京太郎「俺の目ならいいのかよ……」

春「うん、いい」

京太郎「いや、だからな――」

春「――いい。京太郎の目なら、京太郎の傍なら」ジッ

京太郎「っ……あのな、春……」

春「はい」

京太郎「その……そういうこと言われると、こっちもさ……色々あるわけでさ」

春「うん」

京太郎「だから、えーっと……軽々しく、そういうことを言うのは――」

春「うん、軽々しく言ってない」

京太郎「…………そう、か」

春「うん」ニコッ

京太郎(………………ああ、やばい)

京太郎(今日が泊まりじゃなくて、本当によかった)

318 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/12/24(火) 21:26:28.98 ID:xHPNQq1S0

〜宴席終わり、夜

京太郎「思ったより遅くなったな」

春「宴席は、全員が潰れるまで続くから」

京太郎「そのルール廃止にしたほうがいいだろ……さて、忘れ物はないか?」

春「ん、大丈夫」

京太郎「この時間だと、霧島に帰れる最後のになりそうだ……急ごう」

春「うん……ん?」

京太郎「あれは……ここの神社の人、だったよな」

春「そう……なにかありましたか?」

「ああ! よかった、まだこちらでしたか……」

京太郎「俺たちに用だったんですか?」

「いえ、用というか、お伝えしなければならないことがございまして」

春「お伺いします」

「はい、では――先ほど、線路内に不審物があると通報があったらしく、その調査と安全確保のため、明朝まで鉄道を封鎖するそうです」

京太郎「………………えっ」

春「なるほど」キランッ
319 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2019/12/24(火) 21:27:54.48 ID:xHPNQq1S0

次回、帰れなくなった二人
2020公開予定
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/24(火) 21:53:02.26 ID:4oxbk1Jvo
おつおつ
これはすばらなクリスマスプレゼントです!
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/24(火) 22:11:39.55 ID:ufzRix3f0

待ってたぜ!この瞬間をよぉ
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/25(水) 07:15:54.93 ID:YzMALC7co
乙です
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/25(水) 12:10:28.70 ID:GmY+a45xo
あーニヤニヤする
乙です
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/28(土) 16:27:56.39 ID:HWxeKnyBO

更新していた〜これは嬉しい!!
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/30(月) 01:49:25.81 ID:tqaJmhcv0
京ちゃんの鉄壁ぶり、他永水メンバーの包囲網、作者の思惑を超えて春エンドにたどり着けないまでありそう
ここから永水ハーレムエンドに方向転換しよう
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/07(火) 12:44:20.48 ID:CaPBKKigO
2020ガキタデー
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/18(火) 19:44:51.43 ID:rK2zHurEo
保守
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/04(土) 16:56:20.90 ID:8/3TK1Us0
まだか
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/05(火) 08:09:34.03 ID:X7fQvqhD0
ほしゅ
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/06(水) 01:42:45.19 ID:dDZJdg5no
保守
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/05/14(木) 00:51:51.86 ID:4TBBaTuj0
保守
気長に待つぞい
332 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:00:12.71 ID:+iCI4ZWo0

〜滝見家、懇意の宿

〜10畳の客室

春「ふぅ……今日は疲れた」ゴロン

京太郎「……こら、はしたない」

春「大丈夫、誰も見てない……」

京太郎「俺がいるだろ――にしても、なんとか一部屋だけでも空いててよかったな。こんな広い部屋なのは、ちょっと恐縮するけど」

春「うん、よかった……これも、日頃の行い」

京太郎「そうかもな。それじゃ、俺はロビーで寝かせてもらうから、春はここでゆっくり休んで――」

春「……待って」

京太郎「……まぁ、そう来るとは思ったけどな。でもだめだ、春……俺は小父さんに頼まれて来たんだ、その信頼を裏切るわけにはいかない」

春「……なんのこと?」

京太郎「だから、部屋には泊まれないって――」

春「うん、それはいい」

京太郎「………………ん?」

春「なに? もしかして……私と同じ部屋に、泊まりたかった?」ニヨニヨ

京太郎「……いや違うし? そんなこと言ってないし?」

春「でも勘違いはした」ニヤー

京太郎「ああああああああああああああ!」ゴロゴロゴロゴロ

春「京太郎かわいい」クスクス

京太郎「いや仕方ないだろ!? いつもの春なら、こう……なぁっ?」

春「うん、そう思う」ニヤニヤ

京太郎「いやああああああああああああ!」

春「まぁ落ち着いて――とりあえず休むにしても、お風呂をいただいてからにしたほうがいい」

京太郎「う、ぐ……まぁ、そうだな……俺もわりと、汗かいたし……」

春「で、お願いはそこから――そのあとでいいから、マッサージしてほしい」

京太郎「…………えっ」

春「マッサージ。京太郎は上手って聞いた……あと、人がいるところではしないほうがいいっていうのも。ここなら、平気」

京太郎「え、と……いや、まぁ……それは、そうなんだが――」

春「今日は疲れたから、ちゃんとほぐしておきたい……旅館のサービスでもいいけど、私は京太郎のほうが信頼できる。だめ?」

京太郎「だ……だめじゃ、ない……けど……」

春「じゃあ――お願いします」ペッコリン

京太郎「…………ああ、わかった。じゃあ、お風呂を上がったらここに戻ってくる。それから――マッサージしよう」

春「うん……ありがとう、京太郎」ニコッ


〜大浴場・男湯

京太郎(ふぅ……こんないい旅館で、春に……二人きりで、マッサージ……か)

京太郎「――俺も、覚悟を決めないとな」パシンッ

京太郎「……もうちょっとあったまってから、上がるとするか。女の子は長湯って聞くしな……」バシャバシャ


〜大浴場・女湯

春「……………………」ゴシゴシゴシゴシ

春「……………………」ゴシゴシゴシ……ザバー

春「……………………よし」グッ

333 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:01:39.43 ID:+iCI4ZWo0

〜再び、客室

春「……あ」

京太郎「おかえり」

春「ただいま……お待たせしました」

京太郎「いや、そんなに待ってないよ。それに、色々と準備もあったから、ちょうどよかったくらいだ」

春「それなら、よかった……」ドキドキドキ

京太郎「にしても、あれだな……やっぱり俺も、部屋に泊まると思われてたみたいだ」

春「あ、うん……」ドキドキ

京太郎「ほら、布団二組だろ?」

春「うん……うん……」スゥハァ

京太郎「ま、あとでロビーには声かけておくから。それじゃ、春はそっちの布団で横になってくれ」

春「はい……じゃあ、あの……お、お願いします……」トクントクン
334 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:02:06.68 ID:+iCI4ZWo0

京太郎「ん……あ、それは脱いだほうがいいな」

春「!?」ビクンッ

京太郎「まぁ9月の夜は、ちょっと肌寒いとこもあるけど……半纏があると、指が入りにくいからな。浴衣だけになってくれるか」

春「あ……あ、ああ、うん……そう、だよね……」ドキドキドキドキ

京太郎「………………」

春「………………」プルプル ピクンッ

京太郎「………………」ピトッ

春「ひぅっ!」ビビクンッ

京太郎「……ちょっと震えてるな。やっぱり、やめとくか?」

春「……ううん、平気。震えてるのは、武者震いだから」

京太郎「なんでだよ……まぁなるべく、力は抜いといてくれよ?」

春「ん……でも……リラックスさせるのも、たぶんマッサージ師の仕事」

京太郎「む……確かに」

春「でしょ?」フフー

京太郎「なら――身体のマッサージの前に、ハンドマッサージからしようか。手、貸してくれるか」

春「はい」

京太郎「手の平も、すぐに疲れて硬くなるからな……ちょっと指圧するだけでも、かなり違ってくるんだぞ」モミモミ

春「んっ……あっ……んぅっ……そ、そうなんだ……へ、えっ……んぅっ……くっ……」ピクピクッ

京太郎「でも――春の手は、このままでも柔らかいかな」

春「んっ……そう、かな……///」

京太郎「でも――疲れは溜まってる」グッ

春「んぴぃっ!?」ビビクンッ

京太郎「あれだけツモって捨てて、牌ばっか握ってるんだから、当たり前だよなぁ?」グッグッ

春「んひっっ!? いひゃっっ、いひゃいっっ!」バンバンッ

京太郎「もうちょっとだけな、もうちょっと――よっと!」ググーッ

春「あうぅぅぅぅっっ!」ジタバタッ

京太郎「はい、オッケー……あとは優しく、撫でるだけな」ナデナデ

春「ひぃっ、ふぅ……うぅぅ……聞いてた通り、京太郎はドS……」プルプル

京太郎「マッサージしただけダルルォ!?」

春「でも……はぁ、ふぅ……ちょっと、楽になった……」エヘヘ

京太郎「ならよかった……じゃ、本番だな。うつ伏せで、楽にしててくれ」

春「っ……ん、はぁい……」コロン

京太郎「それでは――マッサージのほう、始めさせてもらいます。痛かったり、嫌なところがあったりしたら仰ってください」ペコッ

春「……さっき言ったのに、止めなかった」ジロッ

京太郎「あれはノーカンでござます」ペッコリン

春「もうっ……ふふっ、じゃあ――お願いします、京太郎」

京太郎「はい――では、背中から失礼します」

335 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:04:43.52 ID:+iCI4ZWo0

「……んぅっ……」

 京太郎の手が浴衣越しに触れる、その力強い感触を味わっただけで、うつ伏せの春は思わず熱い吐息をもらす。
 続けざまに肌に食い込む圧は優しく、それがジワリと身体の内側を押し、絞るように擦り上げていく。

「んはっ……あ、んっ……」

 いけない――と思いつつも、指がグッグッと背中を押し、腰から肩まで這い上がってくると、声を抑えることができない。
 京太郎の身体が自分を組み伏せ、この切ない快感を注いでいるのだと自覚するだけで、身も心も蕩けそうだった。

「――思った以上に凝ってるな。腰も肩も……首も、相当ガチガチだぞ」
「そ、う……うぅ……んっ、あっっ……ぁんっ……」

 呼びかけに応じようとする、その瞬間に鋭い刺激が広背筋を突き押し、心地よい電流が背筋を貫いた。
 たまらずビクンッと腰が跳ね、春は背筋を反らせて喘ぎ、身を捩ってしまう。
 そんな春の反応をどう思っているのか――気配にも動きにも動揺を見せることなく、背後の京太郎は淡々と手を滑らせ、春の身体を揉みほぐす。

「痛かったら遠慮なく言ってくれよ――まぁ、優しくはするつもりだけど」
「んっ、ふっ……くっ、ふぅっ……んぅっ、うんっ……」

 なんとか返事はできたものの、痛いなどと訴える余裕はまるでない。
 そもそも痛くない、というのもそうだが――京太郎の指が肌に沈むと、それだけで心地よい波が全身に広がる。

(っ……す、ごいっ……聞いてたのと、思ってたのと――レベルが、違いすぎっ……るっ……んっ、ふぅっ!)

 指圧が肩から背中へ戻り、再び首筋へ上がっていく。
 その刺激だけで全身の筋肉が弛緩し、身体が布団へ沈み込むのを感じた。
 全身を擦りつけるように布団に身を委ね、脱力しきった身体を指で揉みほぐされる、夢のような快感と時間だ。

「あふっ、んっ……んふっ、んくっ……はぁっ、あっ……いぃっ……きょ、うぅ……んっ、あっっ……」
「……そっか、そりゃよかった」

 春の返事に安堵したかのように、彼の指技が滑らかに、そして大胆に背中へ食い込む。

「んふっっ、くうぅぅぅんっ!?」

 それまでより、わずかに深く指が食い込んだ瞬間、脊髄を電流が駆け抜け、視界が霞むのを感じた。

(なっ……ぁっ、んっ……んっ、ふっ……なに、いまぁ……あぅっ、んんぅっっ!)

 とっさに唇を噛むのが間に合ったからよかったものの、感覚にだけ集中していたら、間違いなく淫らな声が跳ねていただろう。
 自身の反応を恥じ、耳まで赤く染めて春は身を縮めるが、京太郎の指はそれを許さない。

「少し強めにするけど――あとちょっとだからな」
「わ……かっ、た……んっ、んくっ……はぁっ、んっ、ふっ……」

 答えた瞬間に閉ざした唇の奥で、カチカチと歯が打ち合わさった。
 身体の芯から揉みほぐすような指の刺激に、身体は蕩けるような快感で緩み、奥深くから熱が込み上げてくる。
 お風呂上がりの全身は、しっとりと汗で湿って浴衣を身体に張りつかせ、彼の目には、その肢体のラインが映り込んでいることだろう。
336 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:05:18.78 ID:+iCI4ZWo0

(……これは、本当……予想、外っ……外してきたの、失敗だった……かもっ……)

 京太郎をその気にさせるべく、下着を外しておいたせいか、指の感触がより鮮明に感じられるようだった。
 さらには、その格好で快感に身を捩り、全身を蕩けさせていることに、気づかれているであろう事実――それが、恥ずかしくてたまらない。

(っ……京太郎の指で、気持ちよくっ……されてる、とこ……見られてる、私ぃ……んっっ、んんぅぅっ……)

 意識すればするほど、身体の奥底から熱い感覚が波のように広がり、甘い声と吐息と、汗と――別のものが、ジワリと染みだしてくる。
 それを恥じ入る身体はますます敏感になり、京太郎の指が背中から首筋へ、そして肩へ滑ると、声が抑えられない。

「んくっ……んぅっっ、はぁぁぁっ!? あんっ、あはぁっっ!」
「お、痛かったか? でも、肩はこれだけだから――よっと」
「〜〜〜〜〜〜っっっ!? んふっ……んっ、ぐっっ……んんぅっ……はぁっ、あっっ……」

 親指だけに集中して咥えられた圧力が、最も気持ちいい部分の凝りをほぐし、頭が真っ白になる。

(ぁっ……んっ……だ、め……きちゃ、うっ……はぁっ、あっ……)

 ビクッ、ビクンッと全身が軽く震える、その感覚が燃えるような羞恥を煽った。
 ゆっくりと彼の指が離れていくが、それを名残惜しく思いつつも、追いかけることができない。

(き……気持ち、よすぎ……ぃっ……♪)

 自分の意思で身を捩ることすらできないほど、身体は快感を覚えて弛緩し、布団の上でゼリーのように蕩けきっていた。
 これを数名の女子部員が、同じ部屋で受けていたという事実に戦慄する。

 そういえば――従姉である戒能良子は、これをホテルで味わったと自慢もしていた。
 性的な意味で京太郎に狙いを定めていた良子が、よくも一線を越えずに我慢しきれたものだ。

(……あれ、ちょっと待って?)

 京太郎がいま施術を終えたのは、上半身のみ――腰から下には、一切指が触れていないことに気がつく。
 自慢ではないが、女性らしく肉のついた自分の身体が、浴衣一枚だけを羽織っているのだ。
 仮に下半身に触れていれば、布地に浮かび上がった尻房の形を目にし、彼の獣欲を少しばかりは刺激できていたはずだ。

 それを微塵も感じさせないほど、彼の精神力が張り詰めているという可能性はあるが――。

 彼がまだ、それを見てないということであれば、無反応にも納得いかないことはない。
 そして――戒能良子という性獣が、彼を襲うことすらできないほどに弱らされた原因が、この続きの行為にあるとしたら?

(まさか、これから――ぁうっっ!?)

 そんな春の予想――期待に応じるように、長くも逞しい京太郎の指の感触が、腰のくびれからヒップのラインを這い下りた。

「じゃあ、次は腰回りと脚だな。こっちは、少し強くするけど――痛さ以外でも、気になることがあったらすぐに言ってくれ」
「まっ――ひっっ、んひぃっっ!? んふっ、ふぐぅぅっっ……」

 彼の指が肌を揉んだ瞬間、春は枕に顔を埋め、布団シーツにしがみつき、声を懸命に押し殺した。

(だ、めっ……んっ、だめっ、あぁぁ……だめっ、それぇ……それっ、反則っ……あぅっ、んんぅっっ……)
337 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:05:46.27 ID:+iCI4ZWo0

 京太郎の指は、尻房が見えないギリギリの位置まで浴衣の裾を捲り、太ももの付け根に深々と食い込んでいた。
 ともすれば尻肉か、Vラインではないかと思うようなくらい、深い付け根を指圧され、腰が大きく跳ね震える。

「ん……ちょい強張ってるかな。麻雀の最中は座りっぱなしだし、この辺とか――もうちょっと上の筋肉とかが、意外と凝りやすいんだよ」

 お尻の筋肉、そこから連動する太ももの外側やふくらはぎの外側が痛くなるのだと、指圧しながら京太郎が囁いてくれる。
 だが、そんな情報が入る余地は、春の頭に残されていない。

(だ、めぇぇぇっっ……はぅっ、うぅぅんっ……あぁぁっっ、そこぉぉ……そこっ、気持ちいいっ……京太郎の指、気持ちいいぃっ……)

 太ももを両手で握るように固定し、指が尻房の下側をグニグニと圧迫し、凝りをほぐしていく。
 その心地よさといったら、上半身の比ではない。
 わずかに指が緩められるだけで、春の身体は勝手に刺激を求めて腰を浮かせ、尻房を掲げてしまう。

(やっ……ぁっ……やめっ、あうぅっっ……お、お尻っ、浮いちゃ……ぁっ、んっっ……あぁぁっ、そこぉぉっ……)

 彼の前ではしたない姿を晒している自覚が、ジワジワと羞恥を煽る。
 けれど、掲げた場所を慰めるように指で揉まれると、羞恥がどうでもよくなってしまうほどの快感が迸った。

(そこっ、そこいいっ……もっと、してっ……指で、突いてぇ……グリグリ、してぇっ……)

 指にお尻を押しつけ、自らフリフリと揺すってしまっていることに気がつく。
 いや、大丈夫――浮かせているのは少しだけ、だからバレない。

(だ、大丈夫、これぇ……京太郎は、気づいてない、からぁ……ぁんっ、もっと……もっと、強くぅっ……)

 唇は半開きになり、表情は蕩け、それを埋めた枕は汗と涎でぐっしょりと濡れていた。
 浴衣の中も、間違いなく大惨事だ――ドロドロとした情欲の汗が溢れ、蒸れ、どう取り繕ってもその匂いを誤魔化すことはできないだろう。

 だが、そうした不都合な事実から目を背け、春は甘い快楽に溺れ、懸命に腰を引き、尻房を突きだしていた。
 こんな快楽を与えられて、自ら身を引き、心を律するなど不可能だ。

「んふぅぅぅっ……ふっ、ぐっ……んっむぅぅぅっっ! んふっっ、んふぅぅっ……ふぅぅっ!」

 太ももを扱くように両手が滑り、指圧が尻房から太ももへ、ジワジワと位置をずらしながら、そのすべてに快感を注ぎ込む。
 血行と凝りがよくなっているだけでは、断じてない。
 なにか、女の根源的な部分を彼の指に癒やされ、解放されていくような感覚だ。

「よし、だいぶ柔らかくなって、力も抜けてきたな……自覚あるか?」
「ぁっ……ひっ……ぅっ……んっ、あ……ありゅ、うぅ……んくっ、ふっ、うぅんっっ……」

 こちらが下着を穿いていないことを、自覚しているのか――と、問いたいくらいだ。
 彼の指が触れてくるわずかに上、そしてわずかに奥。
 そこがいま、どんな有様になっているのか――布団に密着するその部分は、じっとりとした粘つきと湿り気を孕み、春に実感させる。

 己の反応を、否が応にも、これでもかと。

(ぁっ……うっ、ふぅぅんっ……これ、絶対……見られたら、だめっ……)
338 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:06:14.46 ID:+iCI4ZWo0

 ただのマッサージ――本当に、これがただのマッサージなのかは疑問だが――を、受けているだけで。
 こんな反応をしてしまっている女子を、京太郎はどう思うだろうか。

(だめ……絶対、だめ……京太郎がそういう気持ちになって、私を求めるならいい……けどっ……私が、そんな、お……女の子、だって……あぅぅっ!)

 とにかく快感を求めているような、いやらしい女子だと思われたりしたら――もう生きてはいけない。
 普段の言動で、どこまでも彼を誘惑していた自分が思うのもなんだが、エロ女と思われることだけは避けたかった。

(で、もぉ……んっっ、あぁぁぁっっ! そこっ、そこだめぇぇぇっっ♪)

 膝からふくらはぎへ下りた指の刺激が、普段の立ち仕事で張り詰めた筋肉を芯からほぐしてくる。
 今日の儀式への参列も、粗相のないよう緊張して佇んでいたことで、負荷は随分と蓄積されていた。

(だめっ、だめっ、だめぇぇぇ……もっと、優しくぅぅ……ぁうっ、あっっ、あうぅぅぅっ!)

 ビクッ、ビクンッと震える脚が跳ね躍り、彼の手を押しのけて逃げようとする。
 けれど、力強い男の手はそれを逃さず、ガッチリと押さえつけ、容赦ない快楽を刻みつけた。

(だめっっ……あぅっっ、あうぅぅぅんっっ♪ きちゃ、うっ……んくぅぅっっ!)

 観念したように脱力した脚は、けれど足先だけをピンと張り詰めさせ、切ない痙攣をヒクヒクと繰り返していた。
 否、足だけでなく全身が小刻みな甘い痙攣を繰り返して、頭の中は真っ白に染め上げられている。

(はっ、あっっ……んっ……気持ち、いっ……京太郎っ……気持ちぃ、いいよぉ……)

 その余韻を味わわせるように――もしかして、わざとそうしているのだろか。
 鋭い指圧刺激とは異なる、柔らかく脚を包み込み、扱くだけの刺激が緩やかに与えられ、その心地よさは天にも昇るほどだった。
 揉みほぐされた脚は余計な力をわずかにさえ加えず、布団に沈んでピクリともせず、汗ばんだ紅潮を晒しているのが自覚できる。

「んー……おし、こんなもんか。それじゃ、反対側もするぞ?」

 その感覚が――もう一回、反対側の脚でも味わえるというのか。

「……っっ……は、いっ……お願い、し……しま、す……んっ♪」

 そう口にするだけで、春の身体は歓喜に蕩け、はしたなく跳ね躍り――奥深くから、熱い滴りをトロリと溢れさせていた。

339 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:06:48.94 ID:+iCI4ZWo0

春「はっ……あっ、んっ……あ、あぁぁ……」

京太郎「――お疲れ様でした」

 京太郎が施術の終了を告げる、それを聞いても春は、身体を動かすことができない。
 とはいえ、あくまで自発的には――というだけだ。
 快感に身を捩り、腰を振り続けた身体の反射によって、浴衣はもはや、取り繕えないほどに着崩れている。

京太郎「……で、だ。春?」

 ここまで――脚が完全に露わになり、尻房まで見えるほど裾が乱れていては、彼も無視できなかったのだろう。
 申し訳なさそうにそう切りだした彼の言葉に、春は億劫な身体に鞭打って、なんとかコテンと身体を寝返らせた。

春「は……い……どうか、した……?」

京太郎「っ……いや、どうかも、なにも……」

 乱れは下半身だけではない。
 帯は緩み、結びはほどけ、肌蹴られた浴衣は身体の前面を、ほぼすべて彼の目に曝けださせている。

 そのことに羞恥が込み上げ、鼓動が早鐘を打ち、汗があとからあとから湧いてくるが、もはや春は隠そうともしない。
 彼の手技に蕩かされ続け、理性が崩れてしまったためか、覚悟を決めていた。

京太郎「その……なんで、下着を――」

春「……見てもらうために、つけなかった。ちょっと、誤算はあったけど……」

 ここまですれば意図も伝わったらしく、京太郎は複雑そうな、逡巡するような表情を浮かべる。

春「……先に言っておくけど、誰にでもはしない。絶対に」

京太郎「……それはもう、十分すぎるくらいわかったけど」

春「わかってない。京太郎は、わかってない……私が、どれだけ……」

 その先を告げようとしたところで、京太郎の指がスッと伸び、唇を押し止めた。

京太郎「いや――わかってる。というより……わかってたのに、俺はずっと、目を背けてたんだと思う」

春「京太郎……? えっ――」

 引き締まった京太郎の顔が、春を真正面から見下ろし、のしかかるように身体の位置を変えた。
 その体勢の意味するところを悟り、春の表情に驚きと喜び、そして狼狽が浮かぶ。

春「あ、の……京太郎、これは……」

京太郎「俺も……ここ何日か、俺なりに考えてきた」


京太郎「俺と春の関係とか、滝見の家のこととか……今回のお務めのことも、ずっと考えてた」

京太郎「小父さんたちの信頼は裏切りたくない、そう思ってる一方で――春と二人で出かけることを、楽しみにもしていた」

京太郎「こういう機会になるかもしれない、そうしたらどうしようかって――こうしてもいいのかって、ずっと考えてたよ」

 京太郎の真剣な表情と語り口に、春は言葉が出なかった。
 ただ痛いほどに鳴り響く心臓の音が、その言葉の邪魔をしないかと、それだけが気がかりだった。

京太郎「春が、いつから俺のことを……そんな風に意識してたのかは、ちょっとわからないけど……」

春「うん、だと思う」

京太郎「えっ」

春「いい、続けて」

京太郎「あ、はい」
340 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:07:15.02 ID:+iCI4ZWo0

京太郎「と、とにかく……こっちに来て、一緒に暮らすうちに……」

京太郎「同じ家にいて、より近くにいるはずなのに――前よりも、春のことを考える時間が増えてきた」

京太郎「それがどういうことなのかって、さすがに俺もすぐ自覚したけど――」

春(それは嘘っぽい)

京太郎「春のことを考えると、どうしても踏みだせなかった」

京太郎「俺が思ってる春の気持ちが、もし勘違いだったら――」

京太郎「俺なんかが春を、そんな風に見ていいのか――」

京太郎「俺を信用して家に置いてくれているご両親に、顔向けできないんじゃないか――」

京太郎「だから――本当なら今日も、こんなことするつもりはなかった。ここに来るまでは、な」

春「つまり……私の身体の、勝利?」

京太郎「言い方ぁ!」

春「冗談」

京太郎「まぁ、でも……概ね、間違ってはいない……のか?」

春「胸だけに」

京太郎「やめなさい」

春「はい」

京太郎「……いや、マジでな? ちゃんと帰って、小父さんたちに筋通してから、正式にアプローチするつもりではいたんだよ」

京太郎「けど……こんなことになって、結局泊まりになって、春に触れることになるって考えたら――」

春「……辛抱たまらんくなった?」

京太郎「言い方ぁ! でも、否定はできん……」

春「正直でよろしい」

京太郎「……いや、いやいや……それでも、我慢はするつもりだったんだよ」

春「……そんなになってるのに?」

京太郎「こ、これはどうにでもなるから……」

春「それはそれで、興味深い……見てみたい」

京太郎「さすがにそれは……」

春「あ、すぐ見ることになるか」

京太郎「慎みぃ!」
341 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:07:43.40 ID:+iCI4ZWo0

京太郎「――いちいち話の腰を折らない」

春「ごめんなさい」

京太郎「けど……まぁ、その……俺だけじゃなくて、春の気持ちも考えてみたんだよ」

京太郎「俺は、俺なりに覚悟決めて、帰ってから動くつもりでいたんだけど――春はもう、今日動こうと考えてたろ?」

京太郎「それに気づいて、自分が情けなくなってさ……なんというか、なんにでも安牌を選ぶようになってる、みたいな――」

京太郎「最初に筋を通して、それからっていうのは、一見まともかもしれないけど――自分の素直な気持ちから逃げてるだけじゃないかって」

京太郎「春の気持ちに応えたいって気持ちはあったけど、それ以上に――」

京太郎「俺はいま、自分の気持ちに従うべきなんじゃないのかって、春を見て気づかされたんだよ」

春「京太郎……」

京太郎「春――」

342 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:08:15.39 ID:+iCI4ZWo0




京太郎「――結婚を前提に、俺とお付き合いしていただけませんか」

春「――――――っっ!」




343 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:09:28.77 ID:+iCI4ZWo0

京太郎「春のことが、好きだ……誰にも渡したくないって、そう思えるくらい……誰よりも好きだ」

春「きょ、うっ……ぐっ、うっ……」

京太郎「その証を……俺は今夜、お前に刻みつけるつもりでいる」

京太郎「もし嫌なら、そう言って――んっ、うっ!?」

春「んっ……ふっ……んむぅっ……ちゅっ……はぁっ……私もっ、好きっ……京太郎のこと、世界で一番っ……」

京太郎「春っ……んっ、むっ……」

春「――っ……ちゅ……んちゅっ、ちゅばっ……はぁっ、ふぅっ……嬉しい……すごく、嬉しいっ……」

京太郎「はぁっ、えっと……つまり、返事は――」

春「い、いまさら……聞かなくても、わかるはず……」

京太郎「……いや、聞きたい」

春「……もう……京太郎は、しょうがない……」

344 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:09:54.90 ID:+iCI4ZWo0




春「――はい、喜んで」

春「不束者ですが、どうか……末永く、京太郎の傍にいさせてください」




テーレーレーレーレッテッテー(某宿屋SE)
345 : ◆t2KkLw8Fc7QA [saga]:2020/05/16(土) 04:18:04.86 ID:+iCI4ZWo0


といったところで、とりあえず終わらせていただきます
おたのしみ部分については、余裕があったら書くつもりでしたが、ここに載せるのはいかんかなと思ったり、それなら渋とかにするかなとか思ったり
考えてるうちに面倒になったので、書かないことにしました(怠慢)

あとはエンディングだあああああああああああ
いつになるかは謎! ごめんなさい!
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/16(土) 07:25:53.71 ID:oboN8Dgro
乙〜ついに!ついに!ついに!結ばれたぁぁぁぁぁぁ!!いやっふぅぅぅ!
お楽しみも含めいつまでも待ってます
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/16(土) 10:13:15.05 ID:NTekMIzHo
何年ぶりのマッサージかな…とか思ってたらどでかい展開が来て頭バグりそうだった
やーめでたい
エンディング待ってます
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