【ミリマスSS】千早「重なった鼓動と、新しいスタート」

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1 : ◆uYNNmHkuwIgM :2018/02/25(日) 00:00:16.35 ID:6Xf+W2fS0

ずっと私は過去に縛られてきた。幼い過去に背負ってしまった罪、その罪を償うために歌を歌うことだけに生きてきた。

歌っても歌っても、私を縛る鎖はきつく私の肉体を締め上げていった。やがて、その締め上げられた部分から血が流れ始めた。

それでも私は歌い続けた。それしか罪を償う方法が思いつかなかったから。そのまま朽ちても構わないと、ただ愚直に歌を歌い続けた。

しかし、大切な仲間と出会って、共に歩いて、私はその過去から解放された。仲間が私に、自分を縛り続けた鎖を断ち切るだけの勇気をくれた。

そこから私の歌は劇的に変わった。縛り上げられた喉から祈りを絞り出すような歌が、柔らかい朗らかな歌へと変わっていった。

 

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1519484416
2 : ◆uYNNmHkuwIgM :2018/02/25(日) 00:03:21.55 ID:6Xf+W2fS0

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レコーディングスタジオ
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私は新曲のレコーディングを行なっている。765プロがさらに高みを目指すための大事な曲。私たちを導く輝く夢の美しさをまっすぐ伝える歌。

その歌詞とメロディーに呼応して、私の歌も大きく高く弾むように響く。

千早「We can do it now♩」

ディレクター「オッケー!お疲れ様。良い音撮れたよ」

千早「はい!お疲れ様でした!」

新曲のレコーディングが終わりブースを出ると、スタッフさんの拍手が私を迎えてくれた。

私はその拍手にお辞儀をする。良い歌が歌えたと自分でも確信できて、とても満足な心地だ。

ディレクター「千早ちゃんの歌、すごく柔らかくなったね。聞いててすごく良い気持ちになったよ」

その言葉に安堵する。このディレクターさんは、ずっと前からお世話になってる方だ。私の歌をずっと聴き続けて、導いてくれた方。

初めは少しの不安があった。私の変化した歌は、この方にどのように聞こえるのだろうと。

だけど、笑顔で私の歌を褒めてくださるこの方をみると、自信を持って良いのだと思う。私の歌は良い方向に変化したのだと。

だから私はその気持ちを真っ直ぐに伝える。

千早「はい!私も歌っていて凄く楽しかったです。次の機会もよろしくお願いします」

 
3 : ◆uYNNmHkuwIgM :2018/02/25(日) 00:05:23.77 ID:6Xf+W2fS0

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765プロ 事務所
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そんな良い気分で事務所に戻ると、プロデューサーと音無さんが難しい顔をして手に持った紙を見つめていた。

2人の前には「如月千早」と書かれた箱が見える。この箱には見覚えがある。ライブの時に入場口のすぐ近くに置かれるプレゼントBoxだ。

だとすれば、2人が手に持っているのはファンの人からの手紙なのだろう。会場まで足を運んでくれて、わざわざ私のために筆をとって記してくださった、ファンの方々のこころが詰まった贈り物。

過去に縛られていた頃の私でさえ、その手紙たちには心を揺さぶられた。私がきちんと歩みを進めていると確信できる一番の贈り物が、その手紙だ。



じゃあ、なぜ2人はそれを見てそんなに難しそうな顔をしているのだろう?

2人はまだ私に気がついていないようなので、びっくりさせないように声を調整して尋ねる。

千早「あのー、お疲れ様です。どうかしましたか?2人ともなんだか困ったような顔をして」

私の問いかけにギョッとした表情をする2人。音無さんがさっと手に持った手紙を背中の方に隠して答える。

小鳥「ぴよっ!?千早ちゃん帰ってきてたの!?おおおおおおお疲れ様ですピヨピヨ」

明らかにおかしな態度。それを見てうっすら気がつく。きっと手紙に書かれてあることは、あまりよくない内容なのだろう。

じーっと音無さんが隠した手紙の方向を見つめていると、プロデューサーはその注意を遮るように私と音無さんの間に入り込んで言った。

P「おー、お疲れ。レコーディングは上手くいったか?疲れたろう?ほら、ソファーに座って休んでいろ。ココア淹れてやるから」

なんとなくいつもより早口のプロデューサー。それを見て疑念が確信に変わる。やはり、2人が見ていた手紙は私に見られると不都合なものなのだろう。

 
4 : ◆uYNNmHkuwIgM :2018/02/25(日) 00:06:26.59 ID:6Xf+W2fS0

私はもう新人ではない。私の歌を聞いた全ての人が、ポジティブな関心を寄せることなどないことを知っている。

誹謗中傷めいた反応も少ない数あって、できる限りそれが私の目に触れないようにプロデューサーや音無さんが守ってくれていることも知っている。

もし音無さんが隠した手紙がその類のものであるならば、捨ててしまえばいいだけの話だ。あんな困った顔で、手紙の内容を眺める必要はない。

きっとその内容がネガティブであっても、私にとって大事なものだったから2人はその扱いに困っていたのだと思う。

だから、私はそれを読みたかった。私がさらに高みに進むために。



千早「あの、音無さんが今隠したもの、私に見せてくれませんか?」

音無さんは私の意図を汲み取ってくれたいで、おそるおそる背中に隠していた手紙を机に置く。プロデューサーの意思を確認するように、視線を動かす。

プロデューサーは困った顔を強めて逡巡した後、こくっと音無さんにうなづく。それを見た音無さんは、ゆっくり私の方に手紙を差し出してくれた。

私はそれを手に取り、書かれている内容に目を通す。綺麗な字で書かれた文章。きちんと丁寧に、私に気持ちを伝えようとしてくれたのだと感じる。

手紙を読みすすめると、ある文が目に留まりズキッと胸のあたりに痛みが走った。



-----千早ちゃんの歌、変わってしまいましたね。私は前の千早ちゃんの歌の方が好きだっなぁ。

 
5 : ◆uYNNmHkuwIgM :2018/02/25(日) 00:07:46.96 ID:6Xf+W2fS0

なるほど。これは確かに2人があんな顔をした理由がわかる。ネガティブな気持ちが顔に出てしまっていたのだろうか、プロデューサーが私に言葉をかける。

P「...千早の歌は変わったよ。でも、俺は凄く良い方向に変わったと思う。前までの歌は他の歌手にはない胸を刺す鋭さがあったけど、あまりに鋭すぎて悲しくなることもあったから」

プロデューサーはひとつひとつ丁寧に言葉を紡ぐ。

P「でもな、変化についていけない人もいるんだ。自分の好きだったものが、形を変えてくことに強い不安を感じてしまう人が必ずいる。悪意があるわけじゃない。怖いんだよ。本当に好きであればあるほど」

音無さんがその言葉に悲しそうな顔をする。私の問題を自分のことのように悲しんでくれるその顔を見ると、少し安心感がわいてくる。

P「きっとこの人は本当に千早が好きだから怖いんだ。自分の好きな千早がいなくなってしまうんじゃないかって」

P「だから、千早を傷つけるかもしれないってわかってたとしても、大きな葛藤があって、それを伝えずにはいられなかったんじゃないかな」

そっと手紙を机に置く。なんだか手紙のファンの人の思いがズシンと肩に乗っかったみたいで、上手く前を向くことができない。

プロデューサーは「ココアを淹れてくる」と給湯室に向かった。私はソファーに座って、それを待つことにした。

ソファーに腰掛けると、肩に乗っかった重さが少し軽くなった気がする。

 
6 : ◆uYNNmHkuwIgM :2018/02/25(日) 00:09:03.89 ID:6Xf+W2fS0

天井をぼーっと見つめて考え事をする。

あの手紙は、私の抱え始めていた曖昧な疑念を文字にして、明確にしたようだった。

過去から解放されて私の歌は変わった。朗らかで柔らかくなった。でも、変わったのは歌声だけではなかった。

私の歌への心も変わった。きっと、歌声よりもずっと大きく変わってしまった。

以前までは、歌は私の存在そのものだった。歌を歌うことだけが、私の存在意義だった。

でも今は違う。私には大事な仲間がいて、ファンがいて、いつか取り戻したい家族もいる。

その沢山の人達のつながりの中に、私は存在している。きっと歌を歌わなくても、私はきちんとその中で生きていくことができる。

それを知った途端、私の歌が私の歌でなくなった。私を突き動かしていた、剥き出しの心臓の鼓動が聞こえなくなってしまった。

朗らかで柔らかい今の歌は、確かに心地が良い。手前味噌だが、ずっと聞いていたいとも思う。でも、心にあったはずの赤い炎はきっともう消えてしまった。

今の私の歌はちゃんと私の歌なのだろうか?根本的に「今の如月千早の歌」とはどんな歌だろう?

そんな疑念をあの手紙はシンプルに伝えていた。如月千早は今、如月千早自身の歌をきちんと歌っているのだろうかと。

モヤモヤ溜まった思いを吐き出すように、ひとつため息をつく。悲しいのか、不安なのか、恐れているのか、いろんな感情がごちゃごちゃしてしまっている。

ただ一つ確かにわかることは、あの手紙を読んで良かった。疑念が曖昧なままだと、問うことはできない。だけど、おかげで問うべき命題は明確になった。このごちゃごちゃした感情は、だからこそ生まれることのできた感情だ。

私はそれと向かい合わないといけない。自分の歌をきちんと歌うために。

 
7 : ◆uYNNmHkuwIgM :2018/02/25(日) 00:10:26.95 ID:6Xf+W2fS0

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765プロシアター
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『ありのままの自分を探す』

なんだかいろんなところでよく聞く言葉だけれど、現実はそんなに簡単ではなかった。

きっと、贖罪と宿命の鎖は私を縛り上げながらも、同時に突き動かしていたのだと思う。

私は、それに従っていればいいだけのマリオネットだった。いざ鎖が断ち切られてしまうと、自分で歩く方法さえ知らない空っぽのマリオネット。



そうやって動けずにいる私に、新曲の話が舞い込んだ。今日はその説明を聞くために、シアターを訪れた。

静香「千早さん!おはようございます!」

シアターの事務室に入ると、元気な声で最上さんが挨拶をしてくれた。いつもより半音高い声。きっといいことがあったのだと思う。

千早「おはよう、最上さん」

対照的に私の声は半音低かった。新しい曲を貰える日なのにもかかわらず、やっぱり肩にのしかかった重みはそのままに重い。

静香「千早さん!あの、新曲のデュエット、よろしくお願いします!」

最上さんはまっすぐ私の目を見てそう言った後、ぺこっとお辞儀をした。最上さんの目はワクワクが抑えきれないような、キラキラした目だった。

失礼な話だけれど、こんなに嬉しそうで楽しそうな最上さんは珍しい。いつも何かと戦って、ピリピリしている印象だから。

あれ?とその前に、今最上さん『新曲のデュエット』って...?

千早「最上さん...もしかして新曲をデュエットで歌うのは...?」

静香「あぁ、ごめんなさい!もしかしてまだプロデューサーから聞いていなかったですか?」

静香「次の新曲、私と千早さんでデュエットを歌うんです!憧れの千早さんと2人で歌える日が来るなんて、嬉しいです!」

 
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