一ノ瀬晴「黒組reverse」

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31 : ◆y/UloXui6w [saga]:2018/04/05(木) 06:29:52.04 ID:TFASBBen0


 兎角「……何だ、用事って」

 目一「ごめんなさいね、お忙しい所に呼び出して」


晴から逃げるように立ち去った後、兎角は最上階にある理事長室へとやってきていた。

それも、先ほどのホームルーム中に届いた一件のメールのせいであり、晴を避けていたのもコレのせいであった。


 目一「今回の特別学級。確かに原因は待機中だった十一年黒組のメンバーが、"候補"を殺めてしまったのも一つあるのよ?」

 兎角「候補?」

 目一「しかし、本当の意図は違います。それは、『新たな女王蜂候補』の選定」

 兎角「女王蜂……」

 目一「分かりやすく言うと、一ノ瀬さんは私と同じ血族の一人、他者を誘惑する特殊なフェロモンを無意識に発するプライマーという存在よ。

    貴女は、この二日程で彼女と共に過ごす間、何を感じたのかしら?」

 兎角「……自分でも、おかしいとは思っていた。異常な程に、アイツと話すほどに引き込まれた」

 目一「ただの暗殺対象であった筈の彼女を、普段からクールな貴女がなぜそこまでに好意を抱いたのか。その理由は、理解してもらえたかしら」

 兎角「……」


会って間もない人間の印象など、よくわからないとしか言いようがない。

しかし、他人に興味を抱かない兎角ですら、一ノ瀬晴という人間から感じたモノはあまりにも多く、言葉が湧き上がってくる。

その理由が、特殊な能力によるモノだった、と言われれば確かに納得がいく。


 目一「彼女がこれまで幾人もの刺客に襲われ、その度に命を繋いでいるのも大きな要因としてはプライマーとしての力があります。

    惹き込まれた人間は刺客からの盾……文字通り人間の盾となり、果てていった」

 兎角「お前の話が全て本当だとして、つまり私に何を言いたい?」



 目一「貴女達十年黒組を見届けるのも良かったけれど。今回は、貴女に"直接"依頼したいと思っています」


椅子に座っていた目一は立ち上がると、困惑した表情で入口に立つ兎角の元へと歩み寄り、


 目一「一ノ瀬晴の暗殺。受けてくださるかしら?」

 兎角「……この感情の理由を知る為だ」


差し出された手を払いのけながらも、兎角はその"依頼"を受ける事にした。

それは、今伝えられた晴の経緯や、それまでひっきりなしに届いていたカイバからのメールが途絶えている事も理由にあったが、東兎角として晴の敵側につくことを意味していた。

振り返り、立ち去るためにエレベーターへと向かう兎角に、ちょうど上がってきていた鳰が目の前に現れる。

気色の悪い、張り付けたような笑顔をニコニコと浮かべながら、


 鳰 「あ、兎角さんは晴ちゃん殺す側につくんスねぇ。てっきり守る側につくのかと」

 兎角「依頼は依頼として遂行するまでだ。お前達の都合で変わった特殊学級に興味は無い」


すれ違う鳰に対し、変わらず無表情のまますれ違い、消えていく兎角を眺め、


 鳰 「(……ま、いずれ決着は着けるッスよ)」

 目一「鳰さん、お疲れ様。日月さんの件は見ていたわ」

 鳰 「も〜、理事長も人が悪いッスよぉ。あの人、ウチを本気で獲ろうとしてたッスから」

 目一「あら、私の守護者様がそんなに簡単にやられるとは思っていないわ」

 鳰 「当たり前ッスよ。百合さんより先に死ぬなんてウチはごめんッス」


32 : ◆y/UloXui6w [saga]:2018/04/05(木) 06:31:03.99 ID:TFASBBen0
※ミスで前回投稿した分を纏めて書き込んでしまったので、>>30のレスは無視して頂けると助かります

33 : ◆y/UloXui6w [saga]:2018/04/16(月) 09:09:59.70 ID:Qmf+elFI0


 冬香「あ、お姉ちゃんおかえり!……え、と、その人は誰?」

 春紀「ただいま。こっちは伊介様。アタシの知り合いだよ」

 伊介「……どうも♥」


春紀は、伊介を連れて実家へとやってきていた。

奥から出て来た黒髪の少女を見下ろす伊介に、かつて弟の亡骸と共に数か月もの間過ごした日々が浮かび上がる。

あんな風に純粋な笑顔を浮かべる事は無かったが、背丈や髪型、声音がどこか近しいモノがあった。


 伊介「(……)」

 春紀「妹の冬香と、あと妹弟が結構居るんだ」


そう言いつつも、居間へと上がった伊介を待っていたのは、想像以上の人数。

それぞれが伊介を見て違った反応を返しながらも、春紀が促すと全員が行儀よく挨拶してきた。

生活感のある散らかった部屋を横目に、春紀は後ろ髪を掻きながらも伊介を自身の部屋へと案内する。

流石に、これから話す事は弟たちに聞かせられない。横にスライドさせた扉の鍵を閉める。


 春紀「汚くてごめんな」

 伊介「ま、こんだけ子供が居ればこうもなるわよ♥……それより、アンタの親は?」

 春紀「あー……親父は蒸発して、母親は今入院中なんだ」

 伊介「……なるほどね♥ アンタがどうして殺しをやっているのか、理由が良く分かった♥」

 春紀「……なぁ、伊介様。お前はどっちに着くんだ?殺す側か、守る側か。」

34 : ◆y/UloXui6w [saga]:2018/04/16(月) 09:10:35.56 ID:Qmf+elFI0


今回の核心となる話に踏み出した途端に、伊介は静かに春紀の至近距離に歩み寄る。

そして、いつの間に取り出したダガーナイフを春紀の首元に当て、

 
 伊介「殺すに決まってるでしょ♥ 何、アンタの家庭事情を見せれば伊介が協力するとでも?♥」

 春紀「……はは、やっぱりダメか?」

 伊介「アンタが例え一ノ瀬晴を殺す側に着いたとしても、伊介はアンタの身内の面倒なんて見る気はないから♥」


寸止めてはいるものの、春紀が余計な事を口走れば本当に切り裂く事が出来るというようにナイフを持つ手に力を込める。

自然と壁際に追い詰めるような体制になり、春紀は僅かに冷や汗を浮かべ、


 伊介「弱者は食われて当然。伊介はね、そんなゴミクズみたいな弱者から這い上がってきた。簡単に甘えてんじゃねぇよ?♥」

 春紀「確かにそうかもしれないな。だけど、アタシにはアイツらみたいに守るべき人間が居るから"生きて"るんだ。伊介様には、そんな人は居ないのか?」


思い浮かべるのは、愛するパパとママ。両方男だけど、命と愛をくれた大切な人。

しかし、伊介は手を緩めることなく、寧ろ侮蔑するような笑みをこぼして


 春紀「っ、ぐ、かはっ」

 伊介「パパとママはアンタの家族とは違う。そして、伊介も。アンタに依存して、アンタに縋り続けてるような―――――」

 
グッと力が更に込められ、ギリギリで抑え込んでいた春紀が押されると同時に首元へとナイフが食い込み、血の筋が浮かび上がる。

ぐりぐりと膝で春紀の腹を圧迫し、無理やりに息を吐き出させて力を緩める伊介の元へ、閉め切られていた筈の扉がこじ開けられ、黒い影が飛び出してきた。

反射的に蹴り飛ばそうと足を伸ばした所で、力をとりもどした春紀がなんとか伊介を跳ねのけた。


 冬香「お姉ちゃん!! 大丈夫!?」

 春紀「っ、冬香、どうして」

 冬香「……話、全部聞いてた。ねぇ、殺すって、どういう事? お姉ちゃんが言ってた仕事って、そんな危ないことなの!?」

 春紀「それ、は」

 伊介「春紀以外ならアンタが一番年上っぽいから言っとくわ♥」


受身を取って起き上がっていた伊介は、ナイフから滴る春紀の血を取り出したスカーフで拭い取りつつも、冬香へと視線を向ける。

じわじわと痛む鳩尾を抑えながらも、首元の傷も構わずに冬香の前に立つ春紀が構える。


 伊介「本当に春紀の事を思っているのなら、この家から離れた方がいいわよ♥ いずれ悲惨な事になる前に」


伊介なりの忠告を残して、彼女は春紀と冬香の横を当たり前の様に通り過ぎ、そして家を後にした。

それまで身構えていた春紀は、ようやく自分の喉から零れる血が床に染みを作っている事に気付く。

……これまで守り続けて来たこの家を、手放さなければならない時が来た。

それ以上に、隠し続けていた事が冬香に全て明かされてしまった事が何より辛い。




35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/16(水) 09:30:11.12 ID:cf3puTIk0
待ってるぞ
36 : ◆EtDBNAuDt. [saga]:2018/07/20(金) 07:19:25.95 ID:nn2rqiNX0
【トリップ変わりましたが本人です。何とか落ち着いてきたので、これから更新再開していきたいと思います】


京夢紫、黒栖麗亜、零咲薫子、日月氷影、粟津志麻、天邉光、紫雷イオ、沖田京子……そして瑪瑙椿姫。

名簿上は更に三名の生徒が居る筈だったが、彼女達は学園に入学する手続きを終える前に十一年黒組に問題が発生したため、ここに表記は無かった。

此処は待機室と称された、金星寮の対面に存在する寮の休憩所。


 麗亜「あっづ〜……ねぇ、志麻ァ。アタシ達いつまでここに居ればいいの」

 志麻「さぁね。長いこと軟禁されてるけど、アタシにとってはここは結構過ごしやすいからな」

 麗亜「なに適応しちゃってんの。色々漫画も読み漁ったけど、流石にそればっかりじゃ飽きちゃった〜」

 京子「……」

 薫子「……」

 志麻「あそこの二人、おっかないもん取り出して涼しい顔してるけど、アレに相手してもらったらどうよ」

 
ヴァンパイアの血族である黒須麗亜は、ガラス張りの休憩所に差し込む陽射しに目を細め、うめき声をあげていた。

寝そべるソファの隣にはサブカルチャー仲間の粟津志麻が様々なジャンルの漫画を読み漁っており。

騒がしい麗亜達とは少し離れた場所に複数設置されているソファにはそれぞれ本物の日本刀を、本物の銃火器を前のテーブルに広げている二人の姿があった。

沖田京子は、厳しい本家本元に仕込まれた剣術の為に刀を磨き、零咲薫子は軍隊上がりの傭兵として火器の整備は欠かさない。

黙々と作業する二人は見えない殺気の様なものを放っており、


 麗亜「いやァ〜、今行ったらアタシバッサリ切られて撃ち殺されそう」

 志麻「にしても、凄い集中力だな。あの二人もう一時間はあの体勢だぜ」
 
 麗亜「職業柄道具は大切だけどねぇ」


じゃ志麻の漫画見せて〜、とうっとおしく絡みつく麗亜に、志麻はもう慣れてしまった様にへいへいと漫画雑誌を大きく広げる。

一見平和そうにも見えるこの風景。一つ、異様な点と言えば。






この休憩場の中央、其処にはおびただしい量の血液が飛沫していたと思われるドス黒い染みが天井と床に出来ている事か


37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 15:12:33.12 ID:kE0HAYcJ0
もう落ちてるかと思った
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