【艦これ】ex.彼女

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

853 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:45:34.51 ID:77LxSYSIO

「へえ?ショーカク、あたしのsculptureでも作ってくれんの?」

食堂はさながら冷凍庫。
一触即発の空気の中、アトランタと元カノは静かに睨み合っていた。
元カノは完全にブチ切れた笑み、それに対して…アトランタは、余裕ありげな微笑みだ。

正直あまりにもな急展開に、俺自身理解が追い付いていない。
だがこれだけは言える…このまま行くと、俺は何らかの形で召されてしまうと。

そうだ、俺は憲兵。まずはこの場を止めなくちゃならねえ。
そして意を決して動こうとすると…

854 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:47:06.81 ID:77LxSYSIO

「はーい、ストップー。」

「…提督…!?」

「なんか面白そうな事してるねー。でも演習場は僕の許可ないと使えないよ?」

「提督さん、じゃあリアルファイトでもいい?それこそあたしの勝ちだけど。」

「ふふ…あまり弓使いの地力を舐めない事ね。
分かりにくいけれど、これでもインナーマッスルには自信があるのよ?」

「待った待ったー。それも面白そうだけど、君らに始末書出ちゃうよー?
ただ…どうしてもって言うなら、許可出してもいいよ。僕プロデュースの演習ならね。」

「…乗った。」「乗りましょう。」

「くす……じゃあ2時間後、執務室においで。あ、瑞鳳は今着いてきて貰っていいかな?」

「……はい、分かりました…。」

「………!?」

そう提督に着いていくづほの目からは、静かな殺気が放たれていた。
な、何であいつもあんな…呆気に取られている間に、気付けば4人ともいない。
その場に残されていたのは、俺と眼鏡だけだった。


855 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:49:02.06 ID:77LxSYSIO

「……くくく…リョウ、面白い事になったじゃないか。
なるほどな、アトランタは『そういうタイプ』だったか。」

「ど、どういう事ですか…?」

「基本クールでドライではあるが…その分一度気に入った人間には、とことん執着するタイプと見た。
貴様は相当お気に召されたようだな?」

「えー…んな馬鹿な…。」

「……ついでに、ひとつ私の中で確信を得た事がある。」

「……は?」

「リョウ、世の中にはいるんだよ…貴様のようなタイプが。
どういう訳だか、ぶっ飛んだ女にばかり好かれる男と言うのがな…。

それがどういう事かと言うと…つまり、貴様にはまともで優しそうなお姉様どころか、普通の神経の女にモテる日など永遠に来ないのだ…!」

「…………!!!」

な、何だって……!

だが、ショックを受けてる場合じゃない。
俺を巡って演習バトル…下手すりゃ、否応無しにどっちかと付き合えって話になりかねねえじゃねえか…!
こうなりゃ善は急げだ…先手を打つ!多分今なら部屋に…。

856 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:50:32.76 ID:77LxSYSIO

『アトランタ!』

『…なぁにダーリン。シェリーって呼んでくれないの?』

『冗談はその辺にしとけ、何考えてんだおめえは!!』

『ふふ…提督さん、なかなかショーカクとやり合わせてくれないからさ。
まぁ理由は聞いてたけど、あたし的にはそろそろいいかな…ってね。』

『…どういう事だ?』

『…ここの工廠、本当凄腕だね。艤装が使いやす過ぎて、逆に慣れるの手間取っちゃった。
あたし自身まだ時差や気候に慣れてなかったし。

でも、それも慣れてきたから…やっと本来のあたしが出せるかなってね。
慣らしが終わるまで待てって、ずっと止められてたんだ。

あんたなら分かるでしょ?でかい鳥こそ喰ってみたくなるって…!』

その瞬間の笑みを見た時、正直ゾッとした。
うわ…こいつとことん戦闘狂だ。これからの事を心底楽しんでやがる。
でもそれ以前に、巻き込まれた俺はたまったもんじゃねえわけよ。
焚き付ける為でも、アレはよ…。

『聞くまでもねえけど、アレは嘘だよな?
いくらなんでもやり過ぎだ、フォローしきれねえぞ。』

『へぇ……嘘だと思う?』

「……!?」

俺の肩にしがみつくように、また無理矢理唇を奪われた。
思わず押しのけちまったが、アトランタはそれでも楽しそうな笑みを浮かべている。

857 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:52:22.61 ID:77LxSYSIO

『……言ったでしょ?あんたはもうあたしのもの。』

『ごめんなさい無理ですって言ってもか?
この際はっきり言っとくが、お前に恋愛感情は抱けねえな。』

『そりゃ今はそうだろうね、あんたからしたら当然。でもこれからは分からない。嫌よ嫌よも好きのうち…ってね。
色々あっても、明日はいい日になるもんだよ…あんたがあたしに堕ちれば。』

『…しつけえ女はもう間に合ってるんでな、お引き取り願うぜ。
いいか、お前が勝とうが負けようが付き合わねえからな。
演習はこの際仕方ねえが、それ以上のゴタゴタ起こすんなら容赦しねえぞ?』

『くす…容赦なく押し倒してくれんの?』

『あー言えばこう言う。もうちょっとお淑やかになって出直してこい。』

「darling,i love you.」

「thank you,fxxk'n nuts.」(ありがとよ、イカレ女)

ダメだ、ラチがあかねえ。
話にならねえと思った俺は、そのまま一旦部屋から出た。

はぁ…どうもあの様子じゃ、本当に俺に対してガチくせえな。
何度でも口説いてくるなら、何度でも振るしかない。長期戦かよ…。

…あいつ、今まで付き合った奴全員、あの手でかっさらって来たんじゃねえだろうな?


「…………。」


廊下を歩きながら、ふと乱暴に口を拭った。
説明し難い違和感が、どうにも取れなかったんだ。

858 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:53:23.91 ID:77LxSYSIO






“へえ、まずあたしの所に止めに来るんだ……。

余計やり合いたくなったよ、ショーカク。”






859 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:55:32.11 ID:77LxSYSIO

「で、来いとは言われた訳ですが……提督、それは無いんじゃないですか?」

「ん?大丈夫大丈夫、実戦ならよくあるパターンだし。」

いざ演習場にボートで乗り付ければ、アトランタに対するはづほと元カノコンビ。
1対2、どう見てもアトランタがボコられる未来しか見えない構図だ。

「今回はアトランタの防空力を見る意図もあるからね。
エース級の空母に補助の軽空も相手して、どれだけ落とせるかと。
逆に、空母コンビの攻撃力の見直しにもなるしさー。

あ、今回はインカムであの子達と会話出来るからねー。」

「……何でそんな余計な事したんですか?」

「そっちの方が燃えるかなってね。」

「提督、後で工廠裏行きましょう。」

「さて、始めようか。」

インカムはあるが、会話は一切無い。
アトランタは不敵な笑み…そして空母コンビからは、ガスバーナーみてえな殺気が放たれていた。

860 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 20:02:26.24 ID:77LxSYSIO


「始め!」


号令と共に、艦載機が一斉に放たれる。
前見た時に比べると少ない…様子見か?
しかしそれでも2人分、1人でこなすには多すぎる攻撃がアトランタに降り注ぐ。

爆煙がアトランタを覆う…だが、直後にインカムから聞こえた声に、耳を疑った。


「fxxk you thunder,you can suck my dxxk…♪
…ま、あんたたちのなんて、神様の屁にすら値しないけどね。」

余裕気な歌声と共に、爆煙が晴れていく。
そこには無傷のアトランタを、海面に浮かぶ艦載機の残骸が取り囲む光景。

あいつ…全部落としたってのか!?

「へぇ…やるわね。前は私にボコられてたのに。」

「ええ、小手調べに…と思ったけど、そんな必要は無かったわ。
瑞鳳ちゃん…これで全力で“殺れる”わね…!」

「翔鶴さん、どうどう。“楽しい後輩の歓迎会”だよ?
ここは一つ、私達と同じラインに上げてあげないと…。

ねえ、アトランタちゃん。」

「何?」

「そのほっぺたって自前?かわいいね、カ〇ビィみたい。アメリカでも有名だよね?
…いっぱい吸い込んだから、そんなに良い乳になったのかな?」

「そうね、よく似てるわ…ただ、頭には必要なものを吸収出来なかったようね?人前でいきなりあんな事…。」

「……Kixxby?
…fxxk…!人が気にしてる事を…!
c'mon!bunny boiler and pancake!!」

あー…言っちゃったよあいつら…。
悪口ってのは理解出来たんだろう、空母コンビの冷気が高まる。
そして俺のインカムに、地獄への誘いが来た。

861 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 20:05:09.30 ID:77LxSYSIO

「…ねえ、リョウちゃん。アレ何て言ったの?」

「……無理、訳せねえ。あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ。」

「リョウ… い い か ら 訳 し て ? 」

「……まずpancakeは、スラングでド貧乳って意味だ。」

「ふうん? じ ゃ あ 私 だ ね 。
翔鶴さんのは?」

「bunny boilerは……。
…スラングで、ヤンデレとかメンヘラって意味だな…。」

「…………。

…瑞鳳ちゃん、ちょっと耳を貸して。」

そのまま2人は、こそこそと何か話し始めた。
そして改めてアトランタの方に、仁王立ちで向き直る。

その時、妙な既視感と悪寒が俺を襲った。

元カノ169cm…づほは143cm。
立ち位置はそれぞれ左と右、結構な身長差のシルエット。

あれ?何かこの構図どっかで見た事ある。
そして2人とも、突然ものすごーく可愛く、にっこりと笑った。
それに気付いた時、悪寒は更に激しさを増し…



『大変お見苦しいエヘ顔ダブルファ〇クが発生しております。』



ポップでチームなエピックウウウゥ!!!???



862 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 20:08:02.40 ID:77LxSYSIO

だめー!ネイティブ相手にそれはだめー!!
本当に発砲事件になるわ!!死体になっても文句言えねえ奴だぞそれ!!

そして今度は、強烈な熱気が反対側から放たれる…その元は勿論…!


「ショーカク…ズイホー……てんめえら…。

fxxk……fxxk……fxxxxxxxxxxxxxxxxxxxk!!!!!!

i'll kill you all!!kiss my ass!!
you guys are dingleberries!!!you despicable fxxk'n cxxts!!

fxxk youuuuuuuuuuuuuuu!!!!!!」



おウ〇コ おウ〇コ
おウ〇コー

あなた達を殺してあげます。くたばってください。
あなた達など拭き残しのトイレットペーパーです。絶対に許しませんよこのクサレ[検閲により削除]達よ。

おウ〇コどもめーーーー。



えー…何とか伏せて訳してもダメ。
余りにも肥溜めのような言葉の羅列に、意識が南国に逝きかけた。

呆然としてる間に、続けてまた通信が入る。


863 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 20:09:50.42 ID:77LxSYSIO

「リョウちゃん、アレなんて言ってるの?」

「ダメ!汚すぎて本当に訳せない!!」

「リョウ!!ねえ教えてよ!!」

「無理だっつってんだろ!!」

「はぁ…はぁ……あーあ。リョウ、本当下品だねあいつら。
待っててね、全部ハエ叩きしてやるから…!」

「アトランタ、鏡見てこい。心でな。」

「なあに?あたしはパス。
どうせ世界一美しい心が映ってるだけだと思うよ?」

「hehe…please go to psychiatry!!fxxk!!」(はは…精神科行ってこい!!ボケ!!)

「あはは…いいねー君達、そう来ないと楽しくないよ!!
3人とも!!思いっきりやっていいからねー!!」

「「「yes sir!!」」」

「油注ぐな責任者!!」


演習場の熱気は急上昇、これには提督も思わずニッコリだ。
この人が楽しそうにしてる…つまり、この演習が更に泥沼と化すのは確定したのである。


神様、マトモな神経の彼女を僕に下さい。

864 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 20:11:06.44 ID:77LxSYSIO
今回はこれにて。
世の中大変な事になってしまっていますが、少しでも笑ってもらえれば幸いです。
865 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/21(火) 20:47:38.82 ID:ZGcaIBLpO
おつおつ
アトランタって原作でもこんな感じなんすかね
866 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/21(火) 23:34:42.86 ID:kjLgK/gmO
せやで
867 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/23(木) 15:53:21.26 ID:VAhvK7SI0
らんらんがんばれー
いや、マジでがんばれー
868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/03(日) 21:02:38.97 ID:YXdvG2YC0
この小説2年超えの大作なってるがな...次も楽しみ
869 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sega]:2020/07/31(金) 04:57:11.92 ID:lfMRttIX0
作者、コロナでイッた説
870 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/04(金) 19:34:53.25 ID:RTk4vpvQO
ゆっくり待ってる
871 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 00:57:17.88 ID:I69bmT020

「ふふ…さーて、あの3人どう出るかなー?」

「はは…楽しそうっすね…。」

「まあね。提督の僕からしたら、こういう時こそあの子達の日々の進歩が見られる訳だし。
演習は本人達のセンスでやらせておけば、作戦も立てやすいしねー。」

「……本音は?」

「格闘技観戦みたいな気持ち。」

……ああ、サイコだわ。

楽しそうな提督とは裏腹に、俺の気分は冷えて行く一方。
ガキの喧嘩レベルじゃねえ、殺し合いの宣言が行われたようなもんだ。
双方のいよいよ収拾つかないブチ切れ具合に、どうしようも無い絶望感を抱えていた。

元カノとづほが矢を構え、アトランタは再度迎撃の態勢に入る。
容易に想像出来る、戦闘の激化……だが、少し予想外な闘いがここから起こって行くのだった。



872 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 00:58:32.00 ID:I69bmT020







第40話・深刻なモザイク不足な奴ら、伏字も特盛-7-








873 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:00:30.33 ID:I69bmT020


「行くわよ瑞鳳ちゃん!」

「うん!!」

小手調べ無し、初撃より遥かに多い爆撃がアトランタを狙う。
しかしアトランタも負けちゃいない。爆煙は海面じゃなく上空で巻き起こり、それは撃ち合いが拮抗している事を表していた。

「あんた達そんなもん!?まだまだあたしには届いてないね!」

上がった声のトーンからは、アトランタにも最初程の余裕は無いのが見て取れた。
どちらも本気。均衡が崩れるまでのぶつけ合いの様相を呈している。

爆撃音は次第に減り、今二人が放った分が切れた事を告げる。
決着せず乗り切ったのかと思った、その時。

874 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:01:53.22 ID:I69bmT020


「……yikes!?」


一度アトランタが気を抜いた瞬間、背後から激しい水飛沫がアトランタを襲った。
あれは…低空飛行の飛沫か!? どこにいたんだ?

「ふふ…少しは頭が冷えたかしら?」

「fxxk…あんた最初から…!」

「……私だけじゃないわよ?」

「…………!?……ぶっ!!」


びたああぁあん……と言う音ともにアトランタの顔面に貼り付いたのは、でかい昆布一枚。

それをぶつけてきた艦載機は…


「ふっふー、昆布だしのお味は刺激が強かったかな?
まあでも、『牛』には相性いいよねえ…?」

「づほ…。」


あのドタバタの隙に、一機逃がして昆布探させてたのかよ…ムカつきすぎだろ、怖ぇなぁ。

してやったりと言わんばかりに、二人は悪そうな笑みを浮かべてる。
一方のアトランタは…顔面に昆布貼り付けたまま、微動だにする気配も見せずにいた。

875 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:05:10.58 ID:I69bmT020


「…思った通りね。防空力は大したものだけれど、手元と足元はそれに釣り合っていない。
いい?アトランタちゃん。鳥は撃てば終わりだけれど…艦載機には空母と言う撃ち手がいるのよ?それに他の艦もいる。
上ばかり見ていれば、横から心臓を撃たれても仕方ないわ。

今のは飛沫と昆布で済んでいるけれど…実戦ならとっくに死体よ?
あなた、よく今まで生きてこられたわね。」

「同感ね。煽り耐性も致命的に低いわ。
単にムカついて吠えるだけなら誰でも出来る…その怒りを、どう確実に殺る為の思考に変えられるか。そう言う最後の冷静さが足りない。

アトランタちゃん、向こうじゃ随分周りに助けられてたんじゃない?
仮にも軽巡が前を不得手にしてるんじゃ、前衛じゃなくて浮き砲台だよ?」

うわ…ちょっと言い過ぎじゃねえ?
確かにど素人の俺からしても、前後は劣って見えたけどよ…。



876 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:08:06.49 ID:I69bmT020

「あー…先走っちゃったかー、あの二人。
後で僕から筋道立てて言おうと思ってたんだけどねぇ。」

「空手に置き換えると、気配の察知と動体視力の甘さ…って所ですかね。
ただ、アトランタの性格にあの言い方は…。」

「うん……ちょっとまずいかもね。」

現状の構図だけで言えば、イキった後輩が先輩にやられてる図だ。
元はと言えば、元カノキレさせたのはアトランタな訳で。

しかし、奴らはもうお釣りが来るレベルでアトランタを煽り返し、そして心身共にボコボコにしてる。


そんな中、元カノは更に口を開いた。

877 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:11:38.32 ID:I69bmT020

「……艦娘の先輩として言えるのは、ここまでね。
ここからは、個人的な話をあなたにさせてもらうわ。

所詮私はあの人の元カノ…しかも振られた身なの。
実際の所、あなたや他の子に対してガタガタ言う権利なんて無い…リョウが誰に選ばれるかも、誰を選ぶのかもね。

それでもね、あなたはちょっと許せないのよ…あなたと私は、よく似ているから。
人への甘え方も上手くなくて、その癖甘ったれで。
あの人はそれを受け入れてくれる度量があったから、ただ無理矢理縋りつこうとしているだけ。

ふふ…本当に、私達はよく似てるわ。
結局、自分の事しか考えていないもの…あなたも私も。
私のエゴだけど…少なくとも、2回もそんな女に引っかかって欲しくないの。

似た者同士としてはっきり言うわ。
あなたは私と同じで、リョウを不幸にするだけなのよ。」


…………!?

ショウノ…今、なんて…。


878 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:15:30.09 ID:I69bmT020


「………リョウ君、アトランタを見て。」

「……!」


怒りに震える気配もなく、アトランタは顔面の昆布を鷲掴み、海面に叩き付ける。
その時顕になった顔には、さっきまでの怒りすら見えないポーカーフェイスが浮かんでいた。


「shut the fxxk up…shit,so smells fishy…(うるさいな…ちっ、磯臭い…)

In short…『お前は自分と同じで、優しくしてもらえれば誰でも良かったんだろ?』って言いたいの?

ふー……そうだね…日本語でサゲマンって言うんだっけ?あたしらみたいなの。
確かによく似てるよ……Cognate aversion…ドーゾクケンオって奴?

だからムカつくんだよね…。
似てても他人…勝手に同じ道辿るなんて決め付けんじゃねえよ…!
あたしは冷めてるかもしんないけど…あんたみたいなウジウジした奴とは違う!!

kill you…old battleaxe of a fxxk'n cakeface!!」

雄叫びを上げ、初めてアトランタがその場から動いた。

機銃の持ち方を変えた……あの持ち方は…!
やべえ!!あいつ機銃で殴る気だ!!

879 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:17:04.83 ID:I69bmT020






「……old battleaxe…聞いた事があるわね。」





だがその緊張感は、元カノのこの一言で凍り付いた。






880 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:20:18.91 ID:I69bmT020


「………リョウ。あの子、何て言ったのか訳せる?」

「……要は、ぶっ殺してやるって事だよ。」

「…………。

ねえ……正 確 に 訳 し て も ら っ て い い か し ら ? 」

「…………。

……”ぶっ殺してやる、厚化粧のクソババアが“……だな。」

「ふふ…… そ う 。 」


その瞬間、あいつが見せた笑顔。
それはさながら、氷の女王と呼ぶに相応しい恐ろしさを放っていた。

唯一その空気に殺られていなかったのは、アトランタのみ。
怒りのままに突進するあいつに反し、元カノは笑顔のまま拳を握り、そして姿勢を下げた。

あいつは高校の頃から、大人びて見られるのを相当気にしてた…アトランタは間違いなく、踏んではいけない地雷を踏んだ。
俺の空手家の本能が告げる。渾身のカウンターの後、アトランタは数mは確実に吹っ飛ぶと。

艤装ありきでも、間違いなく歯と骨の4~5本は逝く未来しか見えない。
あと数秒…提督けしかけて止めさせる時間は無い……。


………ならば!!


881 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:22:40.84 ID:I69bmT020

「………ショウノ。」

「………何かしら?」

「……降参しろ。でなけりゃ俺と二人の時の事をここでばらす。」

「………ど、どう言う時のかしら?」

「………。

……部屋の中、或いは街中や学校。
屋内外問わず、とにかく周りの誰にも見られない、正真正銘俺と二人っきりの時のお前をだ。」

「……………。」


その瞬間。
元カノが耳まで真っ赤になったのを、俺は見逃さなかった。





「ま……参りましたあああああ!!!!!!」




はは…まさか水上土下座なんて、生涯の中で見るとは思わなかったよ…。



882 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:25:38.89 ID:I69bmT020

『………よう。』

『何?また監察?』

演習の片付けも終わり、アトランタの部屋に様子を見に行った。
不機嫌そうにベッドに不貞寝してたが、服装はホットパンツにキャミ。
もうタトゥを隠す気はさらさら無さそうだった。

『…………腐っても先輩だね、あいつら。
あたしの艦娘としての欠点、全部見抜かれてた。』

『あの後あいつらにも言ったけど、他に言い方あったろって思うけどな。キツすぎだよ。』

『……ううん。アレで良かったんだよ。
何かさ、ムショのババアに怒られてる時思い出した。
いつもぐうの音も出ないぐらい痛い所突かれて…でも、大体後でそういう事かって分かるんだ…ムカつくけどね。』

『………日本酒みてえなもんだよな。』

『あの二日酔いはキツかったよ。

ねえ……。』

『いって!?』

ベッドの端に座ってた俺の膝に、アトランタは思いっ切り頭を乗せてきた。
太ももに痛みが響くが、そんな俺を無視するように、こいつはそのまますがり付いて来る。

883 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:27:39.27 ID:I69bmT020

『…………ごめん。ショーカクの言う通りだ…。
一旦これでおしまい。だからその前に、ちょっとだけ甘えさせてよ…。』

『…………。』




………いや、あいつをそうさせたのは…。

変われてねえのは、きっとよ…。




『……リョウ。ここがお前の家だって言ってくれたよね。
じゃああんたから見たら、あたしはどんなポジション?』

『……すっげー手のかかる妹分。』

『…なるほどね。』

『………へ……!?』

完全に油断してた。
一瞬だったが、またしても強引に唇を奪われちまったんだ。


……こ、こいつ…懲りてねえ……。



884 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:34:13.81 ID:I69bmT020


「………I'm gonna be your lover someday.
And then I'll make you the happiest man in the world.

…So I'll let you off the hook for now.
You'll have to wait for them to shoot you down.」



「Good luck on that,genius.」(言ってろ、ばーか。)



885 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:37:39.43 ID:I69bmT020

………恋愛対象に無い奴を振り続けなきゃなんねえのは、変わんねえのか。
引き取ってくれる男が出てくるまで、この新しい妹分の面倒見なきゃなんねえな…。


『………ところでさ。』

『ん?』

『あんたと二人の時のショーカクって、実際どうだったの?』

『………。

…でかくて白い犬。』

『犬。』

『これ以上は黙秘な。』


…まぁ、言えねえよな。
誰もいなけりゃ本当にずーっと、抱きついてきたり手ぇ繋いできたりな甘えん坊だったとは。


886 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:41:03.49 ID:I69bmT020

「………おはよう、アトランタちゃん。」

「ショーカク…おはよ。」

次の日の食堂は、朝から緊張感が走っていた。

昨日の大立ち回りは皆の知る所、バトルが始まらないか身構えるのは当然か。
しかし俺や提督は、少しも心配しちゃいない。

「その…昨日はすみませんでした。センパイ。

えーと、コ、コンゴトモ、ブシド…no…!ゴ、ゴシドーゴベンタツ!!よろしくお願いします!」

「いえ…私の方こそごめんなさい。言い過ぎだったわ。
…大丈夫、あなたはきっと強くなれるから。」

「…ショーカク。」


……まぁ、少しは頭冷やしてくれたか。
ん…?何かアトランタの後ろに…。


「ほほーう?いい乳してるわねぇ…。」モニュンモニュン

「…ズイホー!て、てめえ…!」

「私も昨日はごめんね。あ、おっぱい揉ませてくれたから謝らなくていいよ。
昨日はぶつけちゃったけど、昆布って本当は美味しいんだ。

……昆布だしの卵焼き、食べりゅ?」

「……!…Taberyu!」

はは…卵焼き美味そうに食ってたもんなぁ。

づほの奴、わざわざ早起きして焼いてたのか。
……巨乳相手は若干態度ひねくれてる気もするけど。

雨降って地固まったと思いてえな。
後で提督に聞いたけど、艦娘の喧嘩に限っては俺ら呼ぶまでもなく、大体演習やらせれば収まるんだとか…道理で率先してた訳だ。
しかし憲兵としちゃ、ちょっと情けなくなる案件だった…。

あ、そうだ。仕事と言えば、今日は後でアレ書かねえとだ。
本当は昨日付けにする気だったけど、あいつらと仲直りするまで保留にしてたんだ。


『防空巡洋艦・Atlantaは監察解除に値すると本官は判断せり。』ってな。


これで晴れて、あいつも普通のここのメンバーだ。
もう札付きなんて言わせねえからな。


887 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:42:35.73 ID:I69bmT020



「翔鶴さん!さっきのどう言う事!?」


あの演習の後、私は寮の裏に翔鶴さんを呼び出した。

あの発言に、どうしても納得が行かない。
この時冷静さを欠いていた私は、思わず激しく詰め寄っちゃったんだ。


「どうって…そのままの意味よ?

本当はね…もう一度あの人の隣に並べるなんて思ってないの。」

「……どうして!?あんなに必死だったのに!!
……それに……リョウちゃんだって、きっと心のどこかじゃまだ…。」

「…………瑞鳳ちゃん、それ以上は言っちゃダメ。

…そうね、また今度飲みにでも行きましょう。
その時話してあげる……何で私が艦娘として戦場にいるのかもね。」


チビの私でも見えないぐらい俯いていて…垂れた前髪で、翔鶴さんの目は隠れてた。

口元には薄い笑み。
それは自虐的で、卑屈に見えて……私をキレさせるには、充分過ぎて。

「いい加減にしなさいよ……言え!!今すぐよ!!」

両手で胸ぐらを掴んで、激しく揺さぶる。
その時やっと翔鶴さんは顔を上げて、そこに見えたのは…。

888 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:43:39.51 ID:I69bmT020








「…………ごめんなさい。今は上手く、話せないの…。」






そう悲しげに笑う翔鶴さんの目からは、ぽたぽたと涙が流れていた。


889 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:45:44.49 ID:I69bmT020

「…………。」

「……お疲れ様。また明日ね。」


翔鶴さんもいなくなって、誰もいない寮の裏。
夕暮れの鬱蒼とした影の中で、私は呆然と立ち尽くしていた。


…思えば初めて、あの子の本音に触れた気がする。

頭の中が上手く整理出来なかった。
どうしたいのか、どうすればいいのか。それすらも整理出来ないまま。

普通に考えたら、あの子が諦めればライバルが消えるって事だ。
だけどこの時、私はとにかく納得出来なくて仕方がなかった。
あの子を殴ってでも、諦めるなとどやしつけてやりたくなった。


「…………っ!!」


気付いたら近くにあった電柱を、思い切り蹴飛ばしていた。
足裏のびりびりとした痛み。嫌でも目をかっぴろげたくなる脳への刺激。


そんな最中にあっても、胸につかえたモヤモヤは晴れてくれなかった。



890 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:52:25.80 ID:I69bmT020
大変お待たせしたアトランタ編もようやく終了。あえて訳してない英文は、どうしても気になる方は翻訳サイトへどうぞ。
ちょっとこの作品の辛い部分も出てきました。

次回は寒い時期になりそうですが、納涼と言えば…なお話の予定です。
891 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/09(水) 06:20:46.89 ID:mr6R6MEdO
おつう
892 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/09(水) 12:07:40.44 ID:Q6mvB37nO
おつおつ
893 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/10(木) 11:03:51.52 ID:VyKuDg07o
おつおつよー
894 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/10(木) 11:16:57.49 ID:uTJcGDsKo
895 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/29(金) 10:14:05.62 ID:08HxJyE9o
待つわ
896 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/02/12(金) 17:09:40.74 ID:kGyRhf4r0
作者、コロナでイッた説
897 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 19:06:41.82 ID:iEx7fcoSo
898 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/07/17(土) 14:04:26.03 ID:yKEzjPov0
899 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/20(金) 02:27:40.37 ID:XIF9Yj5Q0
900 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/09/19(日) 19:57:30.14 ID:IK7Ahfm60
スパイクタンパク単体で心臓やその他臓器に悪影響を及ぼすことがわかっています

何故一旦停止しないのですか

何故CDCが接種による若い人の心筋炎を認めているのに情報発信がないのですか
20代はたった1ヶ月で接種後死亡がコロナ死と同等になってます
因果関係の調査は?
901 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/02(水) 22:10:12.27 ID:pFIuXi+uo
902 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/09/02(土) 00:54:32.86 ID:1Y/7oPbeO
もう3年も経つのかー…
完結しないまま終わるのは寂しいなぁ
645.83 KB Speed:0.4   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)