雀明華「不思議の館」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 19:19:51.86 ID:G0uMQTf20
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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 19:20:20.71 ID:G0uMQTf2o
 幽霊屋敷と聞けば私には一つだけ思い出があります。
 あれはフランスに住んでいた時の事。
 当時の私は綿毛のようにぷかぷかとした、地に足のついていない地面から5センチほど宙へと浮ついた小娘でした。
 隣の家に住む年下の女の子と一緒に、フランスの片田舎の野山を駆け巡るカントリーガールだったのです。
 小さいな子供にとっては、家の近所でも大冒険です。
 良く吠える犬は猛獣であり、森の中は神秘のジャングルであり、川は海原で、対岸は未知の大陸でした。
 そして――森の中の廃墟は、幽霊屋敷でした。
 その廃墟は森に入ったすぐの所に建っていました。くすんだ窓ガラスはガムテープで補強してあり、灰色の壁はひび割れ蔦が巻き付き、とても人が住めるような建物ではありません。
 それでも、真夜中になると、二階の隅の部屋から明かりが漏れているので、誰かが住んでいたのでしょう。
 友達と共に、あそこに住んでいるのは魔女だの悪の科学者だの色々と妄想を膨らませて楽しみました。
 地下室には凶暴なケルベロスがいたり人魚がを飼っていたりと妄想の種は尽きません。
 やがて、いつの間にかあの家は忽然と消えていました。いつ取り壊されたのかもわかりません。
 そして、あれほどよく見かけた印象的な家だったはずなのに、今となっては朧げな光景でしか思い浮かびません。
 長々と語ったけれど、要するにただの廃墟を幽霊屋敷だと妄想して楽しんだというお話です。
 世の中の大半は妄想と机上で成り立っているのです。

       ○

「ミョンファ―! ミョーンファー!」
 私が臨海女子寮の自室でジュール・ヴェルヌの世界一周旅行を読んでいると、バタン。と扉を開けてネリーちゃんがパタパタと部屋に入ってきました。
「どうしたんですか、ネリーちゃん」
「お金がいっぱい貰えるアルバイトを頼まれたんだけど、一緒にやろ!」
 ネリーちゃんは時たまこうして儲け話を持ってきては私を一緒に誘います。しかし半分くらいはロクなものがありません。
 最初こそよくわからない仕事内容に驚いたりもしましたが、もう私は慣れっこなので、誇り高きフランス淑女としてどーんと構えて話を聞くことにします。
「どんな仕事内容ですか?」
「ふっふっふ。聞いて驚かないでね――幽霊屋敷の調査だってさ!」
 どーんと驚きました。
 ネリーちゃんが語るところによると、依頼主は某大学の生物学教授らしいです。
 この教授は死後の人間の意識とそれが原子に及ぼす作用と物理的現象がどーのこーの……要するに心霊現象に興味を持ち、研究をしています。
 しかし名のある大学教授という立場から表立ってオカルトの研究する事ができません。大学や学会での立場が危うくなってしまいます。
 そんなわけで、こうしてアルバイトを募ってはフィールドワークを依頼しているそうです。
 「幽霊屋敷に入って、探し物をしてくるだけでいいんだよ。簡単でしょ!」
 支給品らしきデジカメを掲げてぴょんぴょこ跳ねるネリーちゃん。かわいいですね。
 正直、幽霊屋敷に行く事はこのうえなく躊躇してしまいます。恥ずかしい話、私はかなりの怖がりです。この前、皆と仄暗い水の底からを見たときも、あまりの怖さに悲鳴をあげてネリーちゃんに抱きついてしまいました。
 しかし、私の目の前にいるのはお金への期待を胸にくるくる躍り回るネリーちゃん。こんなかわいい子を幽霊屋敷に一人で放り込むなどという事ができるでしょうか。いいえ。そんな事をすれば誇り高きフランス淑女としての沽券に関わります。悪い子にはおしおきを。可愛い子には寵愛を。私の舌にはプチプチしたものを。
「わかりました。私も行きます」
 私が重い腰を持ち上げると、ネリーちゃんは諸手をあげて喜びました。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 19:21:14.01 ID:G0uMQTf2o

       ○

 幽霊屋敷までの道すがら、私はネリーちゃんから屋敷の資料を渡されました。しかし日本語で書かれているためほとんど読めないので、結局口頭で説明をしてもらいました。
「なんかこのお屋敷には数年前まで夫婦と四人姉妹の六人で住んでたんだって。でもある日、父親と上の三人の姉がスイジャクシ? チュードクシだったかな? で死んじゃって、残された母親と末っ子は家具とかをそのままににして家を売りに出してどこかに引っ越したんだってさ」
 なるほど。確かに四人同時に亡くなるのは不思議です。
「それで、その家は変な噂がたって幽霊屋敷って呼ばれるようになったんだけど、この前、肝試しに行った人たちが生き残った末っ子の日記の切れ端を見つけて、それを読んだ大学教授が興味持って家を買い取って本格的に調査することにしたんだって」
 そう言ってネリーちゃんは資料の後ろのページを捲ります。そこには日記のコピーと思しきものが載っていました。
 その末っ子ちゃんは随分と幼い少女だったようで、すべてひらがなで書かれていました。これなら私にも読むことができます。


『あいびさんがきょうもきた。でもわたしにはなしかけてくれない』
『おかあさんのおかあさん、おばあちゃんがいってた。わたしたちのかけいには、とくべつなまもりがみがついているから、わざわいをよせつけない。って』
『ひいおじいちゃんはながいきした。よめにきたひいおばあちゃんはじこでしんじゃった』
『おばあちゃんはすっごくげんき。でも、むこにきたおじちゃんはびょうきでしんじゃった』
『さいきん、おとうさんとおねえちゃんたちのげんきがない。あいびさんがきてからだ』
『まいばんあいびさんは、おとうさんのへやとおねえちゃんたちのへやにいく』


「これで全部ですか?」
「ううん。もっとあるけど、今のところ気になるのがこんなけ。ってだけ。もし家の中に他にも日記の切れ端があれば持って帰ってきてってさ」
「なるほど。日記探しが今回のアルバイトですか?」
「まーね。でも、もしここに書かれてる「あいびさん」や「守り神」の手掛かりを見つけてくれば、特別ほーしゅーをくれるって」
 なるほど。
 あいびさんというのはこの家にきたお客さんでしょうか。けれどただのお客さんが毎晩部屋にやってくるのはおかしいです。となるとやはりそれこそ幽霊なのでしょう。
 家系に憑く守り神。確か日本にはイヌガミツキやヘビガミツキのような、血筋に宿る何かしらがあったと聞いたことがあります。となるとその類なのでしょうか。嫁に来た曽お祖母さんと婿に来たお爺さんが亡くなった事から、やはり家ではなく家系――血に憑いているのでしょう。
「ほら、もうすぐだよ!」
 考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか幽霊屋敷の近くに来ていたようです。
 そして、気が付けばさっきまで晴れていた空は曇り空になり、歩行者は消え、民家はほとんど見かけなくなっていました。果たしてどこからこの寂れた場所が始まっていたのでしょうか。幼いころに外で遊んでいたら、いつの間にか空が暗くなっていた時のことを彷彿させます。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 19:21:52.09 ID:G0uMQTf2o
 林に挟まれた郊外の道をネリーちゃんと一緒に歩いていくと、やがて一軒の廃墟が見えました。
「ほら、あの家」
 その家は、一見普通の洋館でした。
 しかし、周りに家がなく、木々に囲まれ日の射さないその家は、寂しそうに、あるいは獲物を待ち伏せているかのように佇んでいます。
 私たちは荒れ果てた雑草だらけの庭を通り過ぎます。放置されて錆びついた子供用自転車が退廃さに拍車をかけます。
 そして、白い扉の玄関の前に辿り着きました。
「それじゃあ、今から探索を開始する! 私の事はネリー隊長と呼ぶように!」
「はいはい」
 ネリーちゃんが鍵を取り出し、ガチャりこと音を立てて開錠します。そしてギィィィと不気味な音を立てて扉を開きました。

       ○

「ふわ……」
 玄関ホールを眺めてネリーちゃんが感嘆の声をあげます。
 綺麗な絵がかけられ、靴箱の上には西洋人形が飾られ、大きな柱時計と西洋甲冑が置かれた吹き抜けの立派な玄関ホールは、確かに感嘆に値するものでした。
「さーて、探索探索」
 ネリーちゃんは靴箱や壁に飾られた額縁の裏を探します。ホラーアドベンチャーゲームではあるまいし、果たしてそんな所に手掛かりがあるのか甚だ疑問ですが、私も探索をすることにしました。
 西洋甲冑を眺めてみます。バイザーの隙間から中の暗い空洞を見ていると、吸い込まれそうな気分になります。そして、剣を持ち凛々しく佇んでいるその姿は、今にも剣を振りかぶり襲いかかってきそうで怖いです。
 甲冑から目を逸らして、今度は柱時計を調べてみる事にしました。
 ゼンマイが切れているのか、針も振り子も動きを止めています。7匹の子ヤギを思い出して試しに振り子の裏を調べてみましたが、何もありませんでした。
 止まった針がこの家の停滞した時間を表しているようで寂しくなったので、床に置いてあった螺子でゼンマイを巻くと、針と振り子が動き出しました。
「ミョンファ!あったよ!」
 私が謎の達成感に浸っていると、靴箱の中を探していたネリーちゃんが声をあげ、ついでに頭もあげてゴツンと脳天をぶつけました。
「ほら、見てこれ!」
 頭をさすりながら私のところに来て、古ぼけた紙切れを二枚、差し出しました。日記の切れ端のようです。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 19:22:50.75 ID:G0uMQTf2o
『わたしはおやゆびひめ。おねえちゃんたちは、しらゆきひめと、はいかぶりひめと、いばらひめ』
『あいびさんはあさのろくじにかえる』


「白雪姫はわかるけど、灰被り姫と茨姫ってなあに?」
「シンデレラと眠れる森の美女の事ですよ」
「ふーん。お姉ちゃんたちがその三人のお姫様で、自分は親指姫。小ちゃいって事なのかな」
 末っ子ですからね。
「一枚目はいらないけど、二枚目の方は大切な情報だね。これでお金がもらえるよ。ミョンファは何か見つけた?」
「いいえ。柱時計には何もありませんでした」
「ふーん。じゃあここは探すとこもないし、他のとこを探そっか」
 次の探索場所……順当に行けば、一階のリビングやキッチンでしょうか。
 けれど、一番手掛かりがありそうなのは、末っ子ちゃんの部屋です。資料の地図によると、末っ子ちゃんの部屋は二階にあるそうです。
 なんとなしに、吹き抜けから二階の廊下を見上げた時でした。
「あら?」
「どうしたの、ミョンファ」
「今、あそこの廊下に誰かが立ってこちらを見ていませんでした?」
 玄関ホールの上をぐるりと囲む二階の廊下の手すりの向こうに、何やら黒い人影が立ってこちらを見下ろしていたように見えたのです。
「んー。ぜんぜん気付かなかったけど」
「そうですか……じゃあ、見間違いですね。次は末っ子ちゃんの部屋を調べませんか?」
「そうそう。私も隊長としてそれが言いたかった」
 私たちは気を取り直して二階に上がる事にしました。
 手すりも瀟洒な階段を上がり、大きな姿見の飾られた踊り場を通り過ぎて二階の廊下に出ました。
「うわぁ!」
 廊下にあがったネリーちゃんが悲鳴をあげました。私も廊下に上がってネリーちゃんのちっちゃな頭越しに廊下を見ると、手摺を背に、黒い服を着た赤い髪の男性のマネキンが廊下側を向いて椅子に座っていました。
「びっくりしたー」
 マネキンの傍から玄関ホールを見下ろすと、先ほどまで私たちが立っていた場所が見えます。どうやら私が見た黒い影は、この人形だったようです。
 そしてこの人形の視線にある扉。この扉こそが末っ子ちゃんの部屋のようです。
「よーし、開けちゃうよ」
 ネリーちゃんが扉に手をかけます。ホラーアドベンチャーゲームならこの部屋に鍵がかかっていて、中に入るのに色んな部屋を探索して謎を解き鍵を見つけなければいけないのでしょうが、現実ではそのような事はおこらず鍵のかかっていない扉はあっさり開きました。
 部屋の中は子供らしくてかわいい部屋でした。学習机には教科書類の他にファンシーな小物と女の子の人形が置かれ、動物がプリントアウトされたシーツの引かれたベッドの上には、剣を持った可愛らしいライオンのぬいぐるみが置かれています。本棚の上には弦楽器を持った人形と磁石性のピエロの人形が飾られ、中にはアメリカヒーローもののDVDが並んでいます。
「なにかないかなー」
 クローゼットをがさごそと漁るネリーちゃん。冷静に考えれば既に手放されたとはいえ他人のプライベートな空間を漁るのはいかがなものかと思わなくもありません。
 机の上に目を向けると、バットマン&ロビンのDVDが置かれていました。Mrフリーズのいかつい顔がこちらを睨みつけています。
 私は机の上に置かれた女の子の人形を手に取りました。
 金髪で桃色のワンピースを着て赤色のカーディガンを羽織った可愛い女の子の人形です。
「あら?」
 私は人形のスカートの裏に、折りたたまれた紙が貼りつけられている事に気が付きました。ちなみに人形のスカートの中を覗いてたという変態的な行為をしたわけではありません。本当に偶々です。
 スカートの中から紙を剥がし拡げてみます。どうやら日記の切れ端のようです。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 19:23:34.93 ID:G0uMQTf2o

『おとうさんとおねえちゃんたち、つちになっちゃった』


 ドサリ。と背後で音がしました。
 振り向くと、クローゼットを調べていたネリーちゃんが倒れています。
「ネリーちゃん!」と叫ぼうと息を吸い込んだ時、くらり。と眩暈がしました。
 頭の中に靄がかかったように何も考えられなくなり、眠気が襲い掛かり瞼が重くなってきます。
 私は膝をつき、床に倒れこみました。
 意識を失う直前、閉じていく視界の端では、黒い人影が私たちを見下ろして――――――。

       ○

 何かに呼ばれた気がして目が覚めました。
 上体を起こしましたが、頭の中がぼんやりとしているのでしばしぼーっとして過ごします。
 そして意識を失う直前の事を思い出して立ち上がります。
 ここは末っ子ちゃんの部屋。私が倒れた場所です。
 慌ててクローゼットの方を見ると、ネリーちゃんが倒れていました。身体を丸めてスヤスヤと可愛い寝息を立てています。
「ネリーちゃん。ネリーちゃん」
 私がゆっさゆっさと身体を揺らすと、「むにゃ……」と声をあげてネリーちゃん が瞼を開きます。
「あれ……なんでミョンファが私の部屋にいるの?」
「ここは臨海女子の寮じゃなくて、アルバイトで調査にきている幽霊屋敷ですよ」
「ん……あ、そっか。クローゼットを探してたら、急に眠くなっちゃって……」
 瞼をごしごしと擦るネリーちゃん。私はハンカチを取り出して涎を拭いてあげます。
「私も急に眠くなって倒れこんでしましました」
「へー。さすが幽霊屋敷。不思議な事が起きるね」
 実害すらあったこの怪奇現象を「不思議な事が起きるね」で済ませるネリーちゃんはなかなか大物です。
「ネリーちゃん。さすがにちょっと怖くなってきたので、調査を切りあげませんか?」
「んー、そだね。もう時間も遅いし帰ろっか」
 意識を失っていたハズなのに時計もなく時間がわかるのかはさておき、私たちは探索を切り上げ部屋を出ます。
「うわぁ!」
 そういえばさっきのマネキンは、扉を開けると真正面に座って向かい合う位置に配置されているのでした。とても心臓に悪いです。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 19:24:34.91 ID:G0uMQTf2o
 それにしても、心なしか館の様子が……。
「ひっ……」
 廊下を見渡して私は驚愕しました。
 

 廊下、壁、天井――あらゆるところにツタが張り付き、そこから様々な植物――蠅地獄ディオネア、壺葉セファロタス、骸華スタぺリア、捕縛花弁ネンチャクスミレ、迷宮ゲンリセア、瓶茎サラセニア、包拘束ダーリングトニア、粘着毛ビブリス、蟲飼ロリドゥラ、溶解壺ウツボカズラ、傀儡蟲オフリス――蠱惑的なほど色鮮やかで、そして不気味な食虫植物がそこかしこにひしめき合っているのです。


 館中が植物の饗宴となったこの光景を目の前に、私は立ち竦んでしまいます。
「みょ、ミョンファ……このツタ、動いてる……」
 さすがにこの光景に怖気ついたネリーちゃんの言う通り、ツタはまるで蛇のように蠢いて……いえ、成長して伸びています。
「逃げましょう、ネリーちゃん!」
「うん!」
 私はネリーちゃんの手を取り、階段を駆け下ります。
 踊り場ではラフレシアが咲いていて思わず足を止めてしまいましたが、不気味な花弁の周りを迂回して一階へと下ります。
 階段を下りれば玄関ホール。玄関ホールもまた、そこかしこに食虫植物が咲き乱れる不気味な光景が広がっています。そして玄関が――。
「そん、な……」
 私たちが入ってくるときに使用した玄関。その扉はツタが絡まってがんじがらめになっています。
「うー! 開かない!」
 ネリーちゃんが扉に手をかけて必死になって開こうとしていますが、ビクともしません。
「ネリーちゃん、他に出口は!?」
「えっと、確か裏口が……」
 ガシャン。と、背後で音がしました。
 振り返ると、飾られていた西洋鎧が倒れて――そして動いています。
 這いつくばったまま、手足を小刻みに動かしながらこちらに近づてきているのです。
「どうして、鎧が動いて……」
 その答えはすぐにわかりました。兜のバイザーの隙間。さきほど空洞だったその場所から、ツタが伸びています。
 あの中に、ツタが入り込んで鎧を動かしているのです。
 ありえない関節の動きをしながら這い寄ってくる西洋鎧は、まるで壊れたマリオネットのようです。
 そして、私たちは開かない玄関の前に追い込まれてしまいました。
「どうしよう、ミョンファ……」
 万事休すかと思われた、その時。
 ボーン。と、低い鐘の音が響き渡り、ツタの動きが止まりました。
 さらにもう一度、ボーン。と、鐘の音が館中に響きます。
 その音は、私がネジを巻いた柱時計の鐘の音でした。
 そして六回目の鐘の音が響いたと同時に、植物たちは急に枯れ、霧となって消えてしまいました。

 あとには、茫然と立ち竦む私たちと、倒れた鎧が取り残されました。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 19:25:34.16 ID:G0uMQTf2o

       ○

「なるほど。時計が六時の鐘の音を告げたから、植物は消えた。と」
 ハオちゃんが納得したように呟きました。
 幽霊屋敷の調査の翌日。私はハオのアルバイト先である骨董屋にきていました。
 相変わらず暇そうに店番をしているハオちゃんに、私は幽霊屋敷の出来事を語ったのです。
 結局、あの出来事がなんだったのかはよくわかりません。今思い返しても、ぼんやりとした白昼夢のようで、いまいち現実感が湧いてこないのです。
 もしかしたら、私たち二人とも寝起きで頭がぼーっとして、幻覚を見ていただけなのかもしれません。それが鐘の音で正気に戻った。一番ありそうな話です。
 「あいびさん」の正体はよくわかりませんでした。家に住み着いているのか、土地に根付いているのか、あの家にある物の何かに宿っているのか。
 わかった事といえば、仮にあれが現実の出来事ならば植物を操るバケモノという事と、名前の由来です。
 「あいびさん」という名前は日記を書いた末っ子ちゃんが勝手につけたものでしょう。「あいびさん」は末っ子ちゃんに話しかけないそうなので、自ら名乗ったとは考えられません。恐らく、植物を操る姿を見て、彼女の好きなアメリカヒーロー映画の登場人物から名前をつけたのでしょう。
 それにしても、最後に見つけた日記。
「つちになっちゃった」。確か、日本では人が死ぬことを「土に還る」と表現すると聞いたことがあります。父親と姉たちが死んだことを、つちになった。と表現した可能性があります。
 もしくは、あまり想像したくはありませんが……幼い彼女が、植物が根を張るものを、土と表現しているとしたら――。
 頭をフルフルと振って嫌な想像を振り払い、別の謎に思いを馳せることにします。
「そういえば、どうして日記を書いた末っ子ちゃんと母親は助かったのでしょうか」
「それは逆ですよ、ミョンファ」
 ハオちゃんがワトソンに解説をするホームズのように人差し指をたてます。
「逆?」
「逆です。日記によると、彼女の家系には守り神が憑いていて災いを防いでくれたのでしょう? 確かそれを語った祖母は母親の母親なので、末っ子ちゃんと母親は助かったのです。ならば、逆になぜ姉たちは助からなかったのか。という事です」
「なるほど。ハオちゃんにはその答えがわかっているのですか?」
 ええ。と頷くハオちゃん。



「末っ子ちゃんが親指姫で、三人の姉が白雪姫と灰被り姫と茨姫だからですよ」


カンッ
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 20:28:30.08 ID:CgwqeO0Ao
行間もっと開けてくれ
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 23:15:50.37 ID:Pzq4qcC4o
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