阿良々木「忍野が怪談を解決して行く?」

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68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:35:29.03 ID:pV04h44/0
阿良々木「いやいや、いくら妹のおっぱいとは言え昏睡している時に触るほど僕も無粋じゃない。意識がなければ反応が楽しめないじゃないか」

火憐「誰がおっぱいを触れなんて言ったんだよ…。普通におデコで熱を測るみたいにしてみろって意味だっつーの」

妹に下ネタを振った挙句冷静に突っ込まれてしまった。
何これ死にたい。

阿良々木「…ん?特に熱もないんじゃないか」

何なら、ひんやりとしているくらいだ。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:36:27.27 ID:pV04h44/0
火憐「熱が無さすぎるんだよ。体温計で測ったら、20度だった」

でも心臓は動いてるし呼吸もしているんだよ、と困った様な表情で言う。

阿良々木「何があったか、知ってる事を教えてくれないか」

火憐「あぁ、兄ちゃんに電話した後、私の方でも色々調べて見たんだけど。どうやら、呪いの家の調査に出向いた直後、こうなったらしい」

火憐「何とか敷地の外まで這って出てきた所を通行人に保護された、って聞いてる」

呪いの家の住所を聞き出してから、火憐を一旦部屋の外に出した。
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:37:33.76 ID:pV04h44/0
阿良々木「忍、これはお前なら何とか出来そうか?」

忍は、にゅっ、と影から姿を現わすと、月火の様子を細かに見ていく。

忍野「これは不味いぞ、お前様よ。いや、状況の悪さと味をかけた訳では無いのだが、皮肉にもどちらも当てはまろう」

阿良々木「何だ?つまり、どう言う事なんだ?」

忍野「こやつは増殖していくタイプの呪いじゃ。呪い殺した相手を呪いの一部として吸収していく」

忍野「これを儂が食おうとすれば、この娘ごと食わねばならんし、仮に食べ切ったとしても、この呪いに儂が飲み込まれん保証はないの」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:38:41.80 ID:pV04h44/0
阿良々木「そんなレベルの怪異が、まだこの街に居たのか!?」

忍野「個人の呪いがここまで厄災クラスのものになろうとは、専門家どもも思わんじゃろうて。この件でか奴らを責めるのは酷というもの」

阿良々木「…どうすれば、月火ちゃんは助かるんだ?前みたいに、僕に移したりとかは…」

忍野「オススメはせんの。今回はしでの鳥じゃからこそ、なんとか吸収されておらんだけで、この状態も長くは続かんし、生半可な吸血鬼であるお前様が引き受けたりすれば、即座に呪いをばら撒く側に堕ちてしまうわい」

忍野「やはりこの場合、根元を叩くしかなかろうよ」

事も無げに言ってはいるが、それが難しい事だと言うのは僕でも解る。
忍を飲み込みかねない程の呪いをばら撒いている本体ともなれば、最早怪異なんて生易しいものではなく、ただの化け物だろう。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:39:40.97 ID:pV04h44/0
忍野「言っておくがお前様よ、儂はお前様の為になら如何なる力も貸すつおりではおるが、妹御の為に死のうなどと考えておる様なら、儂は全力で邪魔翌立てをするぞ」

阿良々木「可愛い妹のためだ、命くらい投げ出したって惜しくはないさ」

けれど。

阿良々木「僕は戦場ヶ原と生きたいし、死ぬなら羽川の為に死にたいと思っている。もっと言えば、忍が生きている限り僕は[ピーーー]ない」

忍野「かかっ。命が幾つもある吸血鬼ならではの約束の仕方じゃの」

阿良々木「しまったな、格好つけるのが早すぎた」

忍野「…おい、儂の感動を返せ。なんじゃその膝は…。カタカタ言っとるではないか」

阿良々木「仕方がないだろ!怖いもんは怖いんだ!」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:40:31.74 ID:pV04h44/0
結局余り締まらないまま、僕は阿良々木家を後にした。
扉の外で待機していた火憐にだけは「後は兄ちゃんに任せろ、前もそうだっただろ?」とちょっとだけ格好つけて出てきたが。

阿良々木「ここが、その呪いの家…?見た所普通だけどな」

忍野「何処に目をつけておるのだ我が主様よ。普通の家はこんな夜更けに入り口という入り口を全開にしたりはせんじゃろう」

阿良々木「うん、でもそれにしたって幽霊が出そうな感じには…っ!」

よく見ると、開け放たれた玄関先に1人の少年が倒れ込んでいた。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:41:34.05 ID:pV04h44/0
阿良々木「大丈夫か!」

返事はしない、が意識はあるようで、ぼんやりとした視線で僕を見ていた。
よく見ると、全身痣だらけだ。明らかに転んでできる様なモノじゃない。
彼は虚ろな視線で僕を捉えたまま、何か口にしようと藻搔いていたが、パクパクと口が動くだけで一向に声にならない。

阿良々木「えぇと、こう言う場合、どうしたらいいんだ!?警察?先に救急車か!?」

忍野「落ち着け、お前様よ。厳しいことを言う様じゃが、全てを救える等と驕るなよ?今お前様が最優先すべきは妹御よりもそこの少年なのか?」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:42:51.92 ID:pV04h44/0
阿良々木「だけど!このままこんな所にいたらいつ呪いに襲われるかっ!」

忍野「じゃから落ち着けと言うておるじゃろ。今通報した所で、駆け付けた人間もこの敷地に入らざるを得んのじゃぞ?そうなれば其奴らも呪いに襲われる羽目になるぞ」

阿良々木「……だからって見殺しには____」

忍野「被害を最小にするなら、ここは賭けに出るしかあるまいよ」

阿良々木「大元を叩いて、呪いを消す……?」

忍野「あぁ、そうじゃ。幸いにも、今はこの家、空き家のようじゃ。この敷地内に今現在、人間は1人も居らん。肝試しに来るような連中も含めての」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:43:52.87 ID:pV04h44/0
忍野「やるなら今が絶好の機会じゃな。最悪妖怪大戦争になっても巻き込まれるのは儂らだけじゃ」

阿良々木「精々そうならないように頑張るよ、まだ死にたくはないし、お前を死なせたくもない」

忍野「かかっ。嬉しい事を言ってくれるわい。心配せんでも、お前様がやられたなら儂が仇を取ってやる。流石に全盛期の儂なら負けることは無かろうて」

忍とお互いに鼓舞しあっている間に、気付けば少年の姿が消えていた。頭のおかしい大人と金髪幼女が現れて変な話をし出したので、恐ろしくなって逃げたのだろうか。
だとすれば、恐ろしく真っ当な判断だ。逆の立場なら即110番している。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:45:26.46 ID:pV04h44/0
阿良々木「あれ?何だこれ」

先程まで少年が倒れていた辺りに、焦げた紙切れの様なものが落ちていた。
燃えかすにしては量があるので、ひょっとすると燃やす前はノート1冊分くらいはあったのではと思われる。

忍野「それより、気付いておるか、お前様」

阿良々木「え?」

忍野「二階の窓の奥、暗闇の中から誰かが見ておる」

誰かって。
さっき自分で「人間の気配はない」って仰ってましたよね?
それはつまり、その視線の主も人間じゃないという事?
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:46:18.03 ID:pV04h44/0
忍野「取り敢えず、入るしかあるまい。これだけフルオープンにして歓迎モードなのじゃからな」

かかっ。と楽しそうに高笑いして見せるが、彼女の両手にはしっかりと妖刀心渡が握られていた。
いや、僕の分も出せよ。

阿良々木「忍ちゃん、何で刀を持つ手が震えているのかな?」

忍野「……儂だって怖いもんは怖いんじゃー!」

そう言って泣きながら僕に飛びつこうとしてくる。

阿良々木「わっ、忍!刀装備で抱き着いてくるな!僕を[ピーーー]気か!?」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:47:19.13 ID:pV04h44/0
忍野「…むぅ。刀を握ったままではお前様を抱き締められない、刀を握らなければ儂を守れない」

阿良々木「何処までも自分本位なポエムになってる!?久保先生に謝れ!」

阿良々木「大体、怪異の王がお化けにビビるってどうなんだ?」

忍野「それについては全面的にお前様が悪い。今の儂は『お前様のせいで』力を失って幼女化しておるし、『お前様のせいで』精神まで幼くなってきておるし、『お前様のせいで』…」

阿良々木「もういい、解った。僕が悪かった。帰ったらドーナツを買いに行こうか」

忍野「わーい!……ってお前様がそう言うことをするから余計に儂の精神年齢まで退行を始めておるんじゃろうが」

阿良々木「……さて、そろそろ気を引き締めて行くか」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:48:09.08 ID:pV04h44/0
忍野「確かに正論じゃが、このタイミングでは話を逸らした様にしか思えんぞ」

阿良々木「誤解を招く発言があったことは陳謝致します…が、発言内容については撤回すべき点は無いと存じております」

忍野「何処ぞの政治屋が口にしそうなセリフじゃの。なんじゃ、将来は議員にでもなって不倫報道されて破滅するのが夢か?」

阿良々木「確かに僕が議員になったりしたら週刊誌にでっち上げられそうだけれど!そんな嫌な未来設計図まで夢に組み込むか!」

忍野「…さて、お互い怖いのは解るが、いい加減踏み出さんとの。お前様の極小の妹御も夜明けまで持つか解らんのだぞ」

阿良々木「……あぁ、解ってる。行こう」

そう言って、開け放たれた玄関から一歩、中へ踏み入れた。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:48:53.27 ID:pV04h44/0
膝だけでなく、腰の辺りまでガクガク言わせながら入った割には、肩透かしを食った気分だった。
入っても物音一つせず、シンと静まり返っている。

僕としては、入った瞬間に髪の毛に巻き付かれたりだとか、真っ白なモノが目の前を横切ったりだとか、そう言ったある種の出落ちみたいなものを覚悟していたのだが。
出落ちどころか出ないし落ちない。

このまま玄関で「出て来いや!」と叫び続けるのも埒が空かないので、仕方なく部屋を順番に見て回ることにした。
違和感があったのは、ある和室を開けた時だった。
和室自体には特に変わった所がある様には見えなかったが。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:49:58.17 ID:pV04h44/0
忍野「気付いておるかの?」

忍はちらり、と視線を動かしながら問いかけてくる。
静かに首を振った。確かに違和感はあるが、それが何かまでは判らなかった。

忍野「背後に意識を集中してみぃ。おっと、間違っても振り向くで無いぞ。相手の正体が解らぬ以上、不用意に視線を合わせたりせんほうが良いじゃろ」

言われた通り、部屋の中を見回すフリをして、背後の気配を探ってみる。
判らない、が、見られている様な気はする。

阿良々木「どうだろう。視線を感じる様な気もするけれど…。階段の上か?」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:52:02.70 ID:pV04h44/0
忍野「そうじゃな。恐らくお前様の感じたものと、儂の感じたものは同じじゃ」

忍に言われたから、そう感じるだけの気もするけれど。
しかしこれは、考えようによっては運が良いのかもしれない。
僕には集中しないと感じられない程度の存在という訳でもあるのだ。

忍野「ここに怪異が一匹だけならの。寧ろこの場合、下級の怪異を使役していると考える方が妥当じゃろうて」

さながら斥候か。

阿良々木「そんなに頭を使ったプレイイングをしてくるとなると、厄介だな…」

忍野「それはどうかの。確かに儂らの戦力を計っているとも捉えられんこともないが」
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:52:57.16 ID:pV04h44/0
忍野「儂らがここの扉を潜ってから、すぐに現れた所を見るに、この部屋に何かあるだけかも知れんぞ」

阿良々木「じゃあこれ以上ここを捜索するのは……」

止めよう、と言おうとしたら膝を蹴られた。
何故仲間同士で攻撃するんだ。ツッコミならもっと優しくでも出来るだろうに。

忍野「たわけた事を言うでない、我が主様よ。無事の帰りたいだけならそれでも良いかもしれぬが、今回の目的は妹御の解呪じゃろ」

そうだった。
ならば、彼らが嫌がる所こそ調べて行く方が良いのか。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:53:57.43 ID:pV04h44/0
忍野「ま、余り逆鱗に触れてお前様が呪われては元も子もないがの」

がさごそと、前住人が残して言ったであろう荷物の中から、何かないかと探して行く。
忍も妖刀を畳に突き立て、辺りを探っている。

阿良々木「そん時は仕方ない。流石に緊急事態だ、久し振りに血を吸ってくれ」

忍野「……良いのか?もうその手は使わぬと誓ったではなかったかの」

僕の言葉を聞いて、一瞬彼女の手が止まった。
阿良々木「まぁ、臥煙さんにはあぁ言ったけれど、内心では『多分ピンチになったらやっちゃうだろうなぁ』と思ってたし」

忍野「寧ろあの専門家との約束を破る事の方がお前様にとってピンチになりそうじゃが……」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:54:58.14 ID:pV04h44/0
阿良々木「違うよ、忍。僕のピンチはどうだって良いんだ。ここで僕がやられれば、月火ちゃんを助けられない」

それだけだ、と本日何度目かの格好つけをして見せたが、「かかっ」と凄惨な笑顔を見せる彼女の方が数段格好良かった。

忍野「どちらにせよ、そんな状況に追い込まれた時点で、お前様に危機が及んでおるではないか」

忍野「儂は、お前様を守る為ならどんな手も貸す覚悟じゃ。故に、そんな事にはさせぬよ」

阿良々木「ったく、主人より格好良くなるなよな」

忍野「ふん、それはうぬが格好悪すぎるのが悪いじゃろ」

阿良々木「あのなぁ!シリアス時だからって僕が何言われても流すと____」

思うなよ!と続けようとした言葉は飲み込まれた。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:56:03.37 ID:pV04h44/0
忍の方を振り返った時、キラリと妖刀が光を反射した。
切れ味の良いその刀は、磨きに磨かれ、まるで表面が鏡の様に光沢を帯びて居たのだ。
そこに、映っていた。
僕がではない。僕の背後にある階段が。より正確には、その手すりの間からこちらを覗く真っ白な少年の姿が。
忍野「何じゃお前様、どうかしたのか?」
言葉が出なかった。
今まで散々、正真正銘の化物と渡り合ってきた。
だから、どこかで「今更幽霊なんて」と言う思いが無かったとは言えない。
それが打ち砕かれた。
今まで相手にしてきた怪異とは、恐怖の種類が違った。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:58:31.55 ID:pV04h44/0
背筋を、スゥーっと汗が流れて行く。
下着のゴムに行き着いて、ジワリと左右に広がる感じが、どうにも気色悪かった。
それでも何とか絞り出して、忍にこの事を伝えようと彼女の目を見る。
そして口を開きかけた途端、何処からともなく『ミャー』と猫の鳴き声が聞こえた。

忍野「……儂は余り猫に良い思い出が無いんじゃがの」

その、緊迫感の中に流れた鳴き声が、僕に言葉を取り戻させた。

阿良々木「残念な事に、僕も散々痛い目に遭わされてる」

黒い白猫に、嫌という程痛めつけられている。
とある世界では僕が殺されたこともあったらしいし。

忍野「当然じゃが、周囲に動物の気配なんぞ感じられんかった」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 04:59:32.90 ID:pV04h44/0
阿良々木「そもそも、動物は本能ってヤツでこんなとこには入ってこないんじゃないか?」

ならば、今の鳴き声は。
悪寒が加速する。
思わず、さっと周りを見渡す。
何も感じない。
背後の気配以外は。

忍野「この部屋であと見ていないのは、あの中だけじゃ」

彼女が指差したのは、襖だった。
幽霊屋敷の襖なんて、それこそ絶対開けたくないものだけれど。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 05:01:39.01 ID:pV04h44/0
ゆっくりと開けられる程、僕のハートは強くなかった。
取手に手を添えると、半ば焼け糞気味に思い切り開け放つ。
その隣で、忍は畳から抜いた刀を構え、臨戦態勢をとっていた。
しかし、すぐに腕を下ろした。

忍野「ぱっと見、何も無いの」

阿良々木「やっぱりこの部屋に何かあるって言うのは思い過ごしだったのかな?」

一応、中を確認して見る。
覗き込んで、反対側の奥まで見てみるが、何もなかった。

忍野「いや、そうでもない」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 09:52:36.74 ID:pV04h44/0
足元から聴こえてきた声に、下を見ると、忍は屈んで下段の天井板を見ている様だった。
スカートの中が見えそうで見えないのは流石だと思いました。

忍野「下らん事考えておるんじゃ無かろうな。良いから見てみぃ」

阿良々木「スカートの中をか!?」

忍野「叩っ斬るぞ」

どうやら悪い知らせの様だ。
忍が冗談に対して本気で返してくるのは珍しい。
逆なら良くあるのだけど。

忍野「面倒臭いバロメーターチェックも今は控えよ。ここから先、そんな事ではやられるかも知れんぞ」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 09:53:55.46 ID:pV04h44/0
一体、何がこんなに忍を焦らせているのか、戦々恐々しながら、下を覗き込んだ。
そこには、何かが滲んでいた。
血液、だろうか。

既に黒いシミとなっているので、他の何かかも知れないけれど、黒々としつつも何処か赤みを感じるそれは、恐らく血液なのだろう。
ただ血の痕があるのではない。
おびただしい量の血痕だ。

そして、それらは複雑な、どうしたらこんな跡になるのか分からない程複雑に、痕跡を残していた。

忍野「『ママ 助けて』と読めん事も無いの」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 09:55:06.28 ID:pV04h44/0
阿良々木「さっき見た子供か…?」

だとしたら、ここの怨霊は、母に助けてもらえなかった子の無念からなるのだろうか。
どう言った事情があったのかは解らないけれど、母への想いを残して幽霊になってしまうというのは、些かならず、僕の心に訴えるものがあった。

忍野「迷子娘と同一視してやるなよ?あの娘の場合はここまで悲惨ではなかったし、既にお前様によって救われておるのじゃからな」

阿良々木「僕は…この子の事も救える…のかな?」

忍野「最初に言ったじゃろ。そんな傲慢な考えは捨てろ、と」

厳しい言葉だったが、彼女は努めて優しく言っていた。
忍も、見捨てて当然、とは思っていないはずだ。
全盛期の頃ならいざ知らず、今の彼女は存在自体が人間に近いから。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 09:56:50.93 ID:pV04h44/0
阿良々木「……ごめん」

いつかの、北白蛇神社を思い出した。
今回は、色んなことを思い出してばかりだ。

忍野「良い、特別にマフィン3つで許してやろう」

忍野「……そうこうしている内に、階段の気配が消えた様じゃぞ」

阿良々木「今度は、二階に行くか」

そう言って廊下に出、階段を見上げる。
吸血鬼の視力をもってしても、薄暗く感じられた。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 09:58:04.23 ID:pV04h44/0
忍野「どうやら歓迎ムードは絶頂の様じゃ。先程までどうやって隠しておったのか、不思議な位に、霊気と言うのかの、良くないモノが充満しておるわ」

阿良々木「あぁ、僕達を殺そうという意思はヒシヒシと伝わってくるよ」

グッと、足を踏み出す。
とっくに、覚悟は決まっていた。
ギシギシと音を立てる階段を、一段一段踏みしめて登って行く。
少し造りが古いのか、一段の幅は狭く、角度も急だ。
無意識に、息も潜めてしまう。
幽霊相手では、そんな姑息な手に意味は無いのだろうけれど。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 09:59:35.35 ID:pV04h44/0
僕の覚悟とは裏腹に、階段は何事もなく登り切れた。
階段の途中ならば、高低差が相手に有利してしまうので、警戒が必要だと思っていたのだが、杞憂だったらしい。

忍野「あの部屋じゃの、外から見た時に視線を感じたのは」

階段を登りきった反対側、外向きの窓が付いている部屋は二つあった。
その左側の部屋、そこを忍は指差す。
どういう訳か、その部屋だけは扉が閉まっていた。

阿良々木「解った」

それだけ言うと、ズンズンと周囲を気にすることなく、真っ直ぐとその部屋の前まで行く。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:00:22.24 ID:pV04h44/0
忍野「開けたら何が起こるか解らんぞ」

阿良々木「あぁ、あの子の為にも、早く終わらせよう」

ガチャリ、とノブを回す。
一瞬で何も見えなくなった。
目の前が真っ白になったのだ。
しばらくして、目が慣れるまで、それが光に依るものだとは解らなかった。

阿良々木「…これは、どう言うことだ!?」

光の正体は、窓から差し込む陽の光だった。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:01:25.77 ID:pV04h44/0
僕は直前まで、真夜中の廃屋に居たはずだ。
それが何故、こんなにも明るくなっている?

忍野「解らん。しかし気を付けろよ、お前様。何をされたか解らん時と言うのが1番怖いぞ」

半ばパニックに陥りかけていると、隣の部屋から何か物音が聞こえた。
僕達は咄嗟に扉の陰に隠れる。
暫くガンガンと何かを叩く音と、ガサガサというゴミ袋を触っている様な音がしていた。
数分後、物音が止んだ。
隣の部屋に居た人物は、大きく足音をたてながら階下に降りて行く。

阿良々木「何だったんだろう…?」

小声で忍に問いかけて見るが、返事はない。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:02:21.57 ID:pV04h44/0
もう暫く静かにしていると、誰かが玄関から出て行く音が聞こえた。

忍野「取り敢えず、人間の気配は無くなったぞ。隣からもっとマズイ気配がしておるが」

阿良々木「行ってみよう」

僕達は部屋を出て隣の部屋へ移動した。
一見、特に変わった所は見られない。

忍野「血の匂いがするの」

彼女は敏感に、元食糧の匂いを嗅ぎ分けた。

忍野「天井裏からじゃ」

言われて、見上げてみるも、特に天井裏に続きそうな入り口は見たらない。
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:03:26.65 ID:pV04h44/0
阿良々木「あぁ、そっか」

言われてみれば、そうかも知れない。
こう言った襖のある様なタイプの家に住んだことがないので、すぐには思い至らなかったが、祖父母の家はそうだったかも知れない。
襖を開けてみると、真新しい木屑が散らばっていた。

阿良々木「…ビンゴ。みたいだけど」

屋根裏から血の匂いなんて、嫌な予感しかしない。
考えたくもない可能性が、1番現実味がある。
覚悟を決めて、天井を見上げる。

阿良々木「ッ!?」
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:04:32.52 ID:pV04h44/0
目が合った。
口を大きく開けてこちらを見ていた。
まだ血が通っていそうに見える肌。
目はそこに眼球が有るのかも解らないくらい虚ろだ。
ボタタッ、と押入れの中床に血液が垂れてきた。

忍野「お前様!退け!」

忍に引っ張られ、背後に倒れこむ。
「それ」は、ドン、と先まで僕の立っていた位置に着地した。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:05:41.29 ID:pV04h44/0
「あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"……」と叫んだ。
素早い動きで這いずりつつ、階段を降りて行った。

忍野「いい加減儂の上から退いてくれんかの」

阿良々木「ごめん、腰が抜けて……」

忍野「嘘を吐け。そんなもん、お前様なら数秒で治るじゃろ」

から笑いをしながら立ち上がる。

忍野「アレが何者かは知らんが、追い掛けるしかないじゃろうな」

阿良々木「あぁ、そうする以外の選択肢があっても、アレを放っておくわけにはいかないし」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:06:44.32 ID:pV04h44/0
後を追うのは楽だった。
階段から眺めるだけで、何処へ行ったかは一目瞭然だった。
多量の血液が、「それ」の動線を表していたのだ。

阿良々木「あの部屋だ」

「それ」が移動した先は、押入れにメッセージが残されていた部屋だった。

忍野「のう、ここらで1つ、儂の推理を聴いて行かんかの」

阿良々木「どうした、そんなに勿体ぶって?と言うか、そんな余裕があるのか?」

忍野「儂の考えとる通りならの」

阿良々木「…解った、聴かせてくれ」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:08:09.87 ID:pV04h44/0
僕が聴く姿勢を示すと、階段の1番上の段に腰掛け、隣をポンポンと叩いた。
座れと言うことか。
それ程長い話になるのだろう。

忍野「まず、今の儂らが置かれとる状況じゃが、これは家そのものの記憶ではないかと思うておる」

阿良々木「家の記憶?」

忍野「まぁ、擬似的な付喪神じゃと考えい」

阿良々木「…いや、そもそもなんでそんな考えに?」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:09:59.87 ID:pV04h44/0
忍野「最初のお前様の叫び声じゃよ。誰も居ないと思っておったから、つい声を上げてしもうた様じゃが、隣の部屋にアレが聴こえんわけなかろう」

阿良々木「たまたま気のせいだと思った可能性は?」

忍野「無くはない。じゃが、根拠はまだある。あの押入れから飛び出してきたナニか。あ奴は何故目の前の儂らを無視して階段を降って行ったのか」

阿良々木「僕が避けたから、とか…?」

忍野「かかっ。あれを避けたとは言わんじゃろ。隙がありすぎて、第2撃を食らわすのも容易だった筈じゃ」

阿良々木「つまり?」

忍野「アレはお前様を狙って飛び降りたのではなく、偶々飛び降りようとした所に直前までお前様が立っておったんじゃよ」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:11:16.59 ID:pV04h44/0
阿良々木「じゃあ、奴に僕達は見えていないって事になるのか?」

忍野「そうじゃな。過去の映像を見ているのと同じで、儂らはこの世界に介入出来んものだと考えておる」

阿良々木「……ちょっと待てよ。過去の世界って事は、これはまさか、呪いが生まれた瞬間を目撃しているって事か?」

忍野「うむ、恐らく、じゃがの。アレは、今日この時、何者かに惨殺されて、この家の屋根裏に隠された挙句、呪いと成り果てた」

忍野「しかし、残念ながらここで介入は出来ぬ。だから、あの部屋へ行く前に話しておきたかったのじゃ」

忍野「恐らく、あの部屋の光景は、お前様には堪えるものになるだろうよ」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:12:34.51 ID:pV04h44/0
阿良々木「そっか……。母親に助けを求めた少年、それが最初の犠牲者なんだな」

忍野「お前様が気に病むことではない。ただ、母子の事を思うなら、戻ってちゃんと供養してやらんとの」

阿良々木「……それで、あの親子は呪いから解放されるのか?」

忍野「それは無理じゃ。特に母親の方は、最早呪いそのものになってしまっておる。退治するしかあるまい」

阿良々木「そんな救われない結末がっ……」

忍野「いや、救いというなら、これ以上呪いをばら撒かずに済む、と言うのは充分に救いじゃと思うぞ」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:13:30.72 ID:pV04h44/0
忍野「それに、これは恐らくあの少年の意思でもある」

阿良々木「……?」

忍野「『ママ 助けて』というメッセージじゃ。儂らはアレを、勝手に母親に助けを求めるもの、と認識したが」

忍野「考えてみれば、あの文字を刻む時、既にそやつは死んでおるのじゃ。あの出血量では即死じゃろう」

忍野「そんな状態で何を求めていたんじゃろうな」

阿良々木「『ママを助けて』…だったのか」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:14:41.01 ID:pV04h44/0
忍の話を聴いたあと、件の和室に入ってみた。
すると、開いた襖から部屋全体に血飛沫が飛んだ痕跡が残っていた。
所が、肝心の親子の姿は見えず、僕達は諦めて部屋を後にした。

阿良々木「っ!」

流石に、2度目だったのでそこまで取り乱したりはしない。
昼間の惨殺現場から、深夜の幽霊屋敷へと戻ってきたのだ。
階段を見上げる。
そこには、無残な姿になってしまった女性がいた。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:15:31.64 ID:pV04h44/0
「あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"……」

もう、恐怖は感じなかった。
申し訳なさみたいなものさえ、感じていた。

阿良々木「ごめんなさい、僕達は…貴女を退治します」

階上から四つん這いで駆け下りてくる。
忍と僕とで一本ずつ持った妖刀心渡を、構える。
振り乱した髪の毛が伸び、僕達を捕らえようとする。
忍がそれらを全て切り落とし、僕に目配せをした。
「決めてこい」と。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:17:39.31 ID:pV04h44/0
階段を駆け上がり、彼女の目の前に立つ。
一息に、その頭目掛けて刀を振り下ろした。
せめて、苦しまぬ様に、一撃でかたをつけたかったのだ。
キラキラと砂粒が散っていく様に、彼女は崩壊して行った。
何処からともなく2人分の「ありがとう」が聴こえた気がした。

忍野「これで、呪いの被害者も回復するじゃろう。尤も、命まで奪われてしまった者はもうどうにもならんじゃろうが」

忍野「それでも、呪いを振りまくよりは幾らか救われた気持ちなのではないかと思うぞ」

阿良々木「……うん」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:18:40.45 ID:pV04h44/0
後日譚と言うか、今回のオチ。
その後、屋根裏を隈なく捜索し、遺体を見つけた。
こんな所で何をしていたのか、ご家族は?などと問い詰められては面倒なので、警察に通報した後、僕達はさっさとトンズラした。
後に聞いた話では、彼女の親類縁者は全員亡くなっており、無縁仏としてお寺で供養されるらしい。
これも呪いの影響なのか、偶然なのか、色々考えてしまう。
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:19:44.98 ID:pV04h44/0
月火「お兄ちゃん!何で私の体調が悪い間に帰ってきて、回復したと思ったらもう居ないの!?ウチに帰ってきたら私に挨拶するのが筋でしょ!」

幽霊騒動を片付けた後、一旦帰宅した僕は、火憐に「もう大丈夫だ」という事を伝えて、またすぐにアパートへと戻ったのだったが、翌朝一番に月火からそんなモーニングコールが来た。

阿良々木「うるせぇ!今何時だと思ってんだ!」

お前は極道の幹部かよ、などと下らない突っ込みも思い付いたが、生憎とそんなテンションではなかった。

月火「何よその態度!プラチナムカつく!」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:21:16.28 ID:pV04h44/0
阿良々木「僕はお前のその態度に常にムカついてるよ!」

月火「大学生なんてどうせ暇なんでしょ!?もっと私に顔を見せにかえって来てよ!」

阿良々木「お前、大丈夫か…?まだ体調悪いのか…?」

月火「まぁ、そうだね。昨日の今日だし、病み上がりで絶好調とは言えないかな」

絶好調の月火とは、僕の部屋で下駄と彫刻刀装備で暴れまわる状態を指すのだとしたら、もう暫くはそのままでいて欲しいものだ。

月火「…だから、これは弱った私が間違って漏らしちゃう言葉だからね?」

阿良々木「うん?」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/05(木) 10:23:28.84 ID:pV04h44/0
月火「…ありがとう、お兄ちゃん」

阿良々木「良いよ、気にすんな」

月火「大人ぶっちゃって、やっぱりムカつく!」

そう言って一方的に切られた。
一方的にキレられた。

阿良々木「プラチナ、じゃないって事は本気でムカついてたのか…?」

まぁ、いずれにせよ。
別に僕は誰かに感謝されたくてこんな事をした訳ではないのだ。
ならば、今回の報酬としては、3人分の「ありがとう」で充分だろう。

end
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 10:25:40.37 ID:pV04h44/0
本当はまだまだ書きたかったのですが
やはり今回ので自身の未熟さが身に沁みました
出直してきます
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 14:19:11.06 ID:P6c5szVA0
乙ですよー
物語シリーズは書く人少ないから嬉しい
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