すんどる村ぁ老人ばかりで未来がねぇだ

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1 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/22(日) 06:21:27.88 ID:LhNo9Rd30


この村は年寄りばかり。

外を歩けば、腰の曲がった老人が穏やかな顔で散歩している。

言い過ぎかもしれないけど、一度も見かけない日が無いくらいだ。

村ぁどうなるん? と村長に聞いた事もあるが……


「子供が減って過疎化が進んでいるので、いつか消えてしまうかもしれないね」

「でも、それは避けようのない事だ。仕方ない事だよ」


半ば諦めたような表情でそんな言葉を口にしていた。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1524345687
2 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/22(日) 06:23:04.26 ID:LhNo9Rd30


そんな村にある日、若い男女と女の子の3人がやって来た。

元々住んでいた場所を捨ててこの村へ移住したいらしい。


「どうしてまたこの村へ? この子もまだ小さいでしょうに……」

「込み入った話になりますが、私達は娘が苦しまないで済む場所を探していました」

「……そうでしたか。さぞかしそれは辛かったでしょうね?」


村長は多くを聞かず、女の子に微笑みかけて彼等を受け入れた。

どうやら村はずれにある物置小屋を住めるように改装したようだ。

3 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/22(日) 06:26:11.86 ID:LhNo9Rd30


村における自分の扱いは変わり者。

成人してもなお村から出て行かずぼーっと過ごしている変人。

そう言った事を臆面もなく口にするから、この村の老人は長生きしているのだろうか。


「シゲッちゃん! きょうばなんしょっとね?」

「そんな大きな声で言わんでも聞こえとるが」

「あらま。すまんのぅ! ……で、なんしょっとね?」

「竹で水筒を作り終った所や」

「おーおーおー! こらよう出来とるわ!」

「1つやる。試しに使ってみぃ」

「えんか? なら貰おかのー!」


作業をしていると、よくこんな風に道端から声をかけられる。

物をいじったり作ってればいつの間にか誰かが近くに居たりするしな。

不思議に思う所もあるけど、この村は何時もこんな感じだ。

4 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/22(日) 06:26:56.06 ID:LhNo9Rd30


新しく来た住人は全く問題を起こさなかった。

場所が変わった事による不安も無く、上手く村と適応している様だ。

最初に見た時よりも随分と顔色が良い。

あの女の子も元気に暮らせているのかもしれないな。

5 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/22(日) 06:36:39.42 ID:LhNo9Rd30


趣味でやってる竹細工で細々と金子を稼ぐ日々。

あまりに売れないと、その辺の雑草を食べなきゃならんのが辛い。


「良かったらどうぞ」

「ん、おぉ? あ、ありがとな」

「ふふ、どういたしまして」

「……煮っ転がしか。こらご馳走や」


縁側で作業していると、村に新しく来た女の方が差し入れを持って来てくれた。

途中だった竹細工をほっぽり出して一つ頬張ってみると程よい甘さが舌に残る。

その日は腹が膨れた事でよく眠れた。

6 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/22(日) 06:37:51.41 ID:LhNo9Rd30


今日は近くの山へ朝から筍を掘りに行った。

ひんやりとした風がそこらに吹いているのが心地良い。


「爺さん。はよう」

「おうおうシゲ坊、おまんもか?」

「せや」

「あんま大きなんはとるなや。ハラぁ下すで」

「何を。爺さんやなし、いらん気遣いや」

「よういうのぉ」


その日の夕方、筍を食べて腹を下した。

爺さんの忠告を素直に聞いておくべきだったかと今は後悔している。

7 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/22(日) 06:40:56.22 ID:LhNo9Rd30


村の川は汚れが無く澄んでいる。

魚の姿形がくっきりと水面に浮かぶ程だ。


「シゲさんですか?」

「え、あ……ども」

「今日は釣りをしにここへ?」

「そですわ」

「足を滑らせないように注意して下さいね」

「……はいな」


ハハッ、こら爺共にゃ刺激が強すぎるな。

若い女が水浴びをしとるところに出くわしたら発作もんや。

8 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/22(日) 22:45:56.72 ID:LhNo9Rd30


遠くを見渡すと山の枝葉が色付き始めていた。

そろそろあの家族が来て半年。ここにも大分慣れた事だろう。

彼等の住処へ目をやると、男が何やら種を地面に蒔いているではないか。

こちらに気付いたので会釈して声をかけた。


「今ぁ種蒔いとるん米か?」

「どうも。これはお米じゃなくて麦です」

「麦? なんでまた」

「はは、ここの食べ物ってあまり甘味が無いじゃないですか。それでちょっと」

「せやな。んでも小豆があるじゃろ?」

「おはぎも悪くは無いと思いますよ」

「滅多に食べへんけどな」

「来年を楽しみにしていて下さい。きっと驚きますよ」


自分とそう年も変わらないのに男は訛りが全然無い。

元居た所はどんな場所だったのかとても気になった。

9 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/22(日) 22:47:52.69 ID:LhNo9Rd30


今日は騒々しい1日だった。

戸を叩く音で目が覚めたと思えば――


「まぁだ寝とったんか? シゲっちゃん」

「ドンドンすな。うるさいっちゅうに……」

「走ろや。村の端から端っこまで」

「絶対イヤや」

「そない言わんで。はよぅいこ」

「あんなぁ……」

「ダメ?」

「しゃあなしやぞ」

「ホント? ならいこいこ!」


とか訳のわからん誘いをしてくるし。

ほんま隣の家やからって乗り込んで来るのは止めて欲しいわ。

10 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/22(日) 22:49:55.20 ID:LhNo9Rd30


老人達が言っているシゲとは自分の仇名の事だ。

茂みに隠れてこそこそやってる姿が多かったから付けたんだとか。


「シゲ坊〜陽ぃ当たらんで籠りか〜」

「うっさいわ」

「やーいやーいモヤシー、しろのっぽー」

「子供か!」

「悔しかったら出てきぃ〜や」

「はぁ……も、ええわ」


戸をぴしゃりと閉めてもまだ外で言っている。

この調子だと1時間位は言ってそうだな。

11 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/22(日) 22:50:56.16 ID:LhNo9Rd30


縁側で涼んでいると足元に何かが飛んできた。

出来の悪い人形みたいなコレは……


「シゲ! そろそろ村の祭りや!」

「暑苦しい。詰め寄らんでくれやトシ」

「なぁに言うとる! お前はそうゆうていつも準備から逃げ出しとるやろうが!」

「んな事あったかいな?」

「11回や!11回! 12回目にはさせへんぞ!」

「へいへい……」


トシは同い年で村長の息子。小さい頃はよく村を一緒に駆けずり回る仲だった。

いつの間にか出て行ったヤツらと違って村を継ぐ為に残っているんだとか。

爺さん共に言わせれば自分とおんなじタイプの人間だろう。

……まぁ、実際の評価は全く逆なんだが。

12 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/22(日) 22:52:18.57 ID:LhNo9Rd30


小屋に所狭しと並べられた人形。

灯りに照らされて浮かぶ表情が不気味極まりない。

”住民が増えますように”と願いの込められたコレは、およそ400近くにも上る。


「村のあちこちに人形置いて、どんちゃん騒げば人が増えるとか迷信やろ?」

「願掛けやっから。昔から伝わっている事やしね」

「せなんか」

「しらんの? ヒトカタさまのお話し」

「人形を人と同じに扱ってたら知らん間に人が増えたっちゅうアレか?」

「そそ」

「怖いしなんか嫌やろ」

「夢があってええと思うけんどなー」

「それ夢は夢でも悪夢やないんか」


村で生活していると変な習慣が根付いているのに気付く事がある。

人が増えた時とか減った時がまさにそうだ。

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/23(月) 00:45:04.16 ID:wttxG0QJo
なかなか掴めなかったがオカルト系の話なのか
正直訛りと舞台だけで新鮮に見える
14 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/23(月) 05:08:37.50 ID:nndtyhAz0


祭りの前日には作った人形をあちこちに置いて回る。

それは若い人間が率先して行う事になっていた。


「なして俺がやらなあかんの」

「口ぃ開けばすーぐぼやく。しゃんしゃんやり」

「へいへい。解ってら」

「ほんにコイツは……解っとんかいなぁ」


隣で呆れた顔を浮かべているコイツはミシロ。

爺さん共が言う仇名の中で一番変な名前を付けられている。

身代と書いてミシロと呼ぶんだとか。

過去にも同じ仇名の奴が居たらしいけど、ホントかどうか怪しいもんだ。

15 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/23(月) 05:09:57.20 ID:nndtyhAz0


準備も終り、解放されるって所で面倒事がまた一つ。

村長からの呼び出しを受けてしまった。


「なんやなんや……」

「自分に心当たりないん? 窓ぶち割ったとか」

「お前じゃないけ。そないやるかっつの」

「なぁーにぃーよ! わたしだってやらへんわ!」

「どうだか」

「シゲの癖に生意気や! はよ行って絞られてき!」

「おーこわ」


トシが1言うならミシロは4つも言いよる。

老人達と比べちゃいかんけど、ずいぶん元気なこって。

16 : ◆eLtKVwiXAjxX [saga]:2018/04/23(月) 05:15:31.89 ID:nndtyhAz0


村長の家は他と比べて立派なもんだ。

他とは違って二階に手すりまで付いとるからな。


「村長ーおるかー」

「いらっしゃい。意外と早かったね」

「面倒なんはすぐ終らせたいしな。せやろ?」

「確かに君は昔からそうだった気がする。さぁ上がりなさい」


「……で、なん? 呼ぶからにはなんかあんねやろ」

「祭りの準備に参加してくれてありがとう」

「礼なんかいらんて。どうせやらな後でトシがうるさいし」

「それでもさ。ありがとう」

「んー、あぁ」

「………」

「村長まさかとは思うけど……そんだけ?」

「うん。それだけ」

「はぁ」

「わざわざすまなかったね」

「ホンマに大した事じゃないやん……」

「感謝の気持ちを伝えるのって大事だと思うんだ」

「立派やなー尊敬すらぁ」

「褒められると照れるよ」

「ほな帰るわ。じゃましましたー」

「……人形は大事に扱うんだよ」

「急になん? 粗末に扱う訳ないやろ」

「それなら良いんだ。それなら」


去り際に村長は気になる事を言っていた。

人形を大切に扱えだとかなんだとか。

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