花丸「恋の魔力」

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145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:29:43.04 ID:l8lGRxzr0
花丸「ねえ、曜ちゃん――」



千歌「できた、出来たよ!」

 でもそれを提案しようとしたタイミングで、一段と大きく響く千歌ちゃんの歓声。


果南「千歌!」

千歌「ねえ、今の見たでしょ!」

果南「うん! 流石は私の恋人だよ!」



花丸「えっ!?」

 恋人、恋人ってどういうこと?

 抱き合って喜ぶ二人の姿に、頭が混乱する。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:31:49.52 ID:l8lGRxzr0
曜「……花丸ちゃんには、話してなかったね」

曜「付き合ってるの、あの二人」

 千歌ちゃんの恋人は、果南ちゃんってこと?


『その人は私も知ってる、素敵な人』


 思い出す、曜ちゃんとの観覧車での会話。

 確かに果南ちゃんなら、以前の曜ちゃんの言葉に当てはまる。


 それに以前、ルビィちゃんと沼津で千歌ちゃんを見かけた時。

 一緒にいた相手が、髪を下した果南ちゃんなら、特徴と合致する。


曜「行こう、花丸ちゃん」

花丸「曜ちゃ――」

曜「これ以上、ここに居たくないから」

 曜ちゃんはマルの手を取ると、強引に引っ張って歩き出す。

 急なことで驚いたし、痛かったけど、何も言えずに、マルはそれに従うしかなかった。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:41:48.70 ID:l8lGRxzr0
―――
――



「「…………」」


 沈黙が続く。

 ただ二人並んで歩き、一度落ちつこうと、近くの公園のベンチに腰を下ろしたのに、何を言えばいいのか分からず、黙り込んだまま。


曜「千歌ちゃんがバク転するの、果南ちゃんの提案だったよね」

 曜ちゃんが唐突に、口を開く。

花丸「うん、そうだね」


曜「なんで、私に任せてくれないんだろう」

曜「私だったら、バク転なんて簡単にできるのに」

花丸「それは……」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:43:47.16 ID:l8lGRxzr0
 確かに千歌ちゃんが苦労して練習しなくてもいい。

 運動神経のいい曜ちゃんか果南ちゃんがやれば済む話。

 やっぱり、千歌ちゃんがセンターだから?

 その辺りの話は果南ちゃんと千歌ちゃんで決めていたことだから、分からない。


曜「絶対、二人三脚で、恋人同士でやりたいからだよ」

曜「なんかさ、誇示されているみたいで嫌なんだよね、自分たちの関係を」

曜「失敗、しちゃえばいいのにな」

花丸「だ、駄目だよ、そんなこと言ったら」


 曜ちゃんの気持ちは、少し分かる。

 でも本当に失敗したら、今までAqoursで頑張ってきた事が台無しになってしまう。

 そんなこと、口に出してはいけない。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:45:25.30 ID:l8lGRxzr0
曜「なんで、そんなことを言うの」


 だけど、曜ちゃんの言葉で気づいた。

 今の状況での否定の言葉、それもまた、口に出してはいけない事だと。


花丸「ご、ごめん、曜ちゃん」

曜「黙って!」


 慌てて謝るけど、遅かった。

 突然逆上した曜ちゃんに首を絞められる。

 鍛えられた腕力で締め上げられると息ができない、苦しい。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:47:29.15 ID:l8lGRxzr0
曜「黙れ、黙れ……」

花丸「っ……」


 でも、どんなに苦しくても抵抗はしない。

 受け止めるのが、曜ちゃんを落ち着かせる一番の手段だから。

 信じてる、我を失っていても、最後には冷静さを取り戻してくれると。


曜「ぁ、ぁぁ」

 でも、段々意識が無くなってきた。

 これは少し、マズいかも。


 頭の中が真っ黒になっていく、意識が落ちる、落ちる――
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:50:06.49 ID:l8lGRxzr0
  ※


 目が覚めると、目の前には曜ちゃんの泣き顔。

 安堵と罪悪感が入り混じった、なんて綺麗な顔なんだろう。


曜「ごめんね、ごめんね」

花丸「……大丈夫だよ、変なことを言ったマルが悪かったんだから」


 落ち着かせるための言葉。

 でも掠れた声では逆効果のようで、涙がさらに溢れる。


曜「私、花丸ちゃんを傷つけた」

曜「八つ当たりみたいに、こんなことっ」

 言葉に詰まり、嗚咽も漏れる。

152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:55:17.56 ID:l8lGRxzr0
花丸「大丈夫、曜ちゃんの為になれるなら、マルは幸せだから」

 そんな曜ちゃんを、包み込むように、ゆっくりと抱き寄せる。

花丸「このぐらい、平気だから」

曜「花丸ちゃん……」

 少しずつ、涙の勢いが弱まっていくのが分かる。

 良かった、落ち着いてくれたんだ。


 辺りを見回すと、空は暗くなっている。

 時計を見ると、既に常識的な帰宅時間は過ぎている。


花丸「もうこんな時間なんだね」

曜「ごめんね、せっかくのデートが」

花丸「大丈夫だよ、膝枕してもらって、ちょっと得した気分だもん」
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:58:30.73 ID:l8lGRxzr0
曜「でも、せっかく家に誘ってくれたのも」

花丸「大丈夫だよ、家にくる機会なんて、またあるだろうし」

曜「……そうだね」

花丸「じゃあ、そろそろ帰ろう――」


 言い終わる前に、キスをされる。

 曜ちゃんは寂しくなると取る行動だと、最近になって分かった。


花丸「もう少しだけ、ここにいる?」

曜「……うん」

 心細そうに、マルの袖を掴む。

 守ってあげたくなる、王子様の弱気な姿。


 マルは曜ちゃんの傍を絶対に離れない。

 例え死んでも、霊的な存在になって彼女を支え続ける。

 だから、曜ちゃんもマルから離れないでね。


 約束だよ。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 02:01:36.88 ID:l8lGRxzr0
   ※


 Aqoursのラブライブは、廃校の阻止という目標は、あっさりと終わってしまった。


 原因は明白だった。

 千歌ちゃんが気になって演技に集中できない曜ちゃんと、何度もダンスでミスをしたマル。


 そしてリズム乗れず、バク転を失敗してしまった千歌ちゃん。



 あの時の冷え切った会場の雰囲気は忘れられない。

 必死に立て直そうとみんなで頑張ったけど、無理だった。

 身体が重い、応援の歓声もない、途中から、早く曲が終わることだけを祈っていた。

 
 結果発表で本選に進めないことが確定した瞬間、千歌ちゃんは膝から崩れ落ち、涙を流した。

 それを慰めながら、自分でも泣く果南ちゃんや梨子ちゃん。


 その中で曜ちゃんだけは、不思議な顔をしていた。

 歓喜と悲しみが入り混じったような、複雑な顔を。
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 02:05:24.94 ID:l8lGRxzr0
また予告より投稿が遅くなってすみません
既に最後まで書き溜めてありますが、時間も時間なので一度休みます

明日の昼過ぎの予定ですが、早ければ朝の早い時間、遅くても夜には続きを投稿して完結させます
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 21:46:34.71 ID:l8lGRxzr0
  ※


善子「暇ね」

花丸「……」

 教室、ルビィちゃんがダイヤさんの元へ行っている状況で、久しぶりに善子ちゃんと二人の放課後。


善子「元気出しなさいよ」

花丸「うん……」

善子「仕方ないわよ、最終予選になればみんな緊張であんなもんなんだから」

花丸「そうだね……」

花丸「花丸……」
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 21:48:04.58 ID:l8lGRxzr0
 大衆の前で盛大なミス、それで入学希望者が増えるわけがなかった。

 ライブ後、全員が集まって状況を見たけど、目標の人数に達するどころか、むしろ希望者が減ってしまったぐらい。

 廃校は決まり、ラブライブも敗退。

 目標を一気に失い、メンバーはみんな、どうすればいいのか分からなくなってる。


 リーダーの千歌ちゃんはふさぎ込んでしまい、学校にもほとんど来ていないらしい。

 みんなが心配してお見舞いに行くけど、受け入れるのは果南ちゃんだけど、それ以外の人は拒否された。

 そう、幼馴染で親友のはずの、曜ちゃんまでも。


 当然、曜ちゃんは荒れた。

 精神的に安定する事は無くなり、常に余裕がなくなっている。

 そしてそのしわ寄せは当然、マルに来る。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 21:50:09.98 ID:l8lGRxzr0
花丸「ごめん善子ちゃん、ちょっとお手洗いに行ってくるね」

善子「……分かったわ」




 
 鏡に映る自分の姿。

 首には絞められた跡、服をまくると、節々に残る痣。


 曜ちゃんはマルに、日常的に暴力を振るうようになった。

 そしてマルもそれを止めるどころか、むしろ積極的に受け入れた。

 そうすれば、曜ちゃんは一時的に落ち着きを取り戻してくれるから。



 身体中が、痛くて、痛くて、仕方がない。

 でも誰にも言えない。薬を買ったり、病院へ行くこともできない。

 そうすれば、曜ちゃんの行動が周囲に知れ渡ってしまうかもしれないから。

 曜ちゃんは悪くない、あんなに辛い想いをしているんだもの。


 それに、どんなに酷いことをしても、その後に謝ってくれる。

 泣きながら、ごめん、ごめんと。

 そんな彼女を、どうして貶めることができるだろうか。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 21:52:15.83 ID:l8lGRxzr0
花丸「はぁ」

 漏れる小さなため息。

 髪で首を隠し、制服をきちんと着直す。


???「マルちゃん」

 トイレを出たタイミングで、後ろからかけられる声。


マル「ルビィちゃん」

 マルちゃんと呼ぶ人は、一人しかいない。

 見なくても分かる、そこには久しく話していない、親友の姿。


ルビィ「ちょっと時間いいかな」

 突然の誘い。

 今まで会話どころか、ほとんど目を合わせることもなかったのに、何で。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 21:54:08.62 ID:l8lGRxzr0
 嫌な予感がする。


花丸「ごめん、ちょっと今は――」

ルビィ「待って、マルちゃん」

花丸「いっ」
  
 腕を掴まれる。ちょうど痣になっている部分で、痛みで足が止まる。


ルビィ「少し、お話できないかな」

花丸「でも早く行かないと――」

ルビィ「待ってくれないなら、みんなに話しちゃうよ」

ルビィ「マルちゃんが、曜ちゃんから受けている行為について」

花丸「なっ」

 鎌をかけてる? 

 それとも、本当に何かを知っての質問?
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:18:48.70 ID:l8lGRxzr0
ルビィ「ちょっとごめんね」

 考えている間に、制服をまくられると出てくる痣。

ルビィ「こっちも、だよね」

 髪を寄せられ、露わになる首。

 間違いなく、ルビィちゃんは知った上で、質問してきたんだ。


花丸「なんで、気づいたの」

 ルビィちゃんとはまともに会話もしてないのに。


ルビィ「そりゃ、気づくよ」

ルビィ「三年間、ずっと二人だけで過ごしてきた相手のことだもん」
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:45:20.16 ID:l8lGRxzr0
 やさしく、労わるようにルビィちゃんに抱きしめられる。

ルビィ「ごめんね、気づいていたのに、何もできなくて」

ルビィ「自分の我儘で、マルちゃんを曜ちゃんから救えなくて」

花丸「救うって、そんな――」


ルビィ「無理しなくていいよ、ルビィの前では」

花丸「だけど、曜ちゃんは辛い想いをしてるのに」

ルビィ「辛いのは、花丸ちゃんも一緒だよね」

花丸「っ」


ルビィ「もう無理はしないで」

ルビィ「ルビィはマルちゃんの『親友』で、『味方』だから」


『親友』、『味方』、その言葉に、心を何とか支えていた柱が崩れ落ちる。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:47:49.12 ID:l8lGRxzr0
花丸「あ、あれ」

 自然と涙が溢れ出る。

 ぽろぽろと、零れ落ち、地面を濡らす。


 蘇る記憶。

 痛みを、苦痛を、次から次へと思い出す。

 濁流にのみ込まれ、自分が崩壊していく。


 嘔吐する、抱きしめてくれているルビィちゃんに向かって。

 それでもルビィちゃんは手を離さない。

「大丈夫だよ」とささやき、そっと頭を撫でてくれる。


 そのやさしさに甘えて、マルはあらゆるものを、吐き出し続ける。

 一人で溜めこんでいた黒い物を、全て外へ放出するように。
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:49:42.95 ID:l8lGRxzr0
―――
――




ルビィ「落ち着いたかな」

花丸「うん」

 すっかり汚れてしまった制服から、置いてあった練習着に着替えたルビィちゃんは笑顔だ。


ルビィ「少しは楽になれた?」

花丸「おかげさまで」

 少しだけ、噛みあわない会話。

 まるで数ヶ月もまともに会話していなかったことの証明みたい。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:51:57.89 ID:l8lGRxzr0
ルビィ「ねえ、マルちゃん」

花丸「うん」

ルビィ「曜ちゃんと、別れなよ」


花丸「……」

ルビィ「もう限界だよ、このままだとマルちゃんは壊れちゃう」

ルビィ「もし何かあっても、ルビィが守ってあげるから」
 

 もうマルは限界、そんなことは分かっている。

 溺れてしまいたかった。

 彼女のやさしさに、このまま。

 
 でも、それだと曜ちゃんは――
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:53:45.70 ID:l8lGRxzr0
ルビィ「踏ん切りがつかないなら、無理にでも別れさせる」

ルビィ「お姉ちゃんや鞠莉ちゃんに事情を話せば、何とかなるはずだから」


 ルビィちゃんは嫌われるのを覚悟で、マルの為に言ってくれているんだ。

 そうしないと、マルは曜ちゃんから離れられないって分かっているから。


花丸「お願い、曜ちゃんのことは誰にも言わないで」

 それでも、マルは曜ちゃんと別れられない。

花丸「今の曜ちゃんを見捨てることなんできないよ」

 恋の魔力から逃れることができない。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:55:56.52 ID:l8lGRxzr0
ルビィ「いいの、それで」

花丸「うん」

ルビィ「……分かったよ」

 ルビィちゃんは諦めたように、少し目を伏せる。

花丸「本当に?」

ルビィ「こうなったらマルちゃんを説得する大変さは、よく分かっているから」


ルビィ「でも、辛くなったら今みたいに吐き出しに来てね」

ルビィ「一人で溜め込んじゃ駄目だよ」

花丸「うん、ありがとう」
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:59:54.33 ID:l8lGRxzr0
  ※



 冬休みが迫った頃、浦の星の統廃合が決まった。

 Aqoursも、当然解散。

 マルたちのスクールアイドルは終わった。


 ルビィちゃんや善子ちゃんとの関係は、以前のよう仲良しに戻った。

 そして曜ちゃんとの関係も変わらない。

 Aqoursがなくなったけど、日常は続いている。

169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:03:21.08 ID:l8lGRxzr0
  ※


ルビィ「またね、マルちゃん」

花丸「うん、また明日」


 今日は放課後の教室に残るよう、曜ちゃんに言われている。

 告白されて、初めてのキスをされた場所。

 最近、曜ちゃんが忙しいらしく会う機会が減っていた。

 その分、何か特別なサプライズがあるのではないか、そんな予感に、ちょっとワクワク。
 




曜「ごめん、待ったかな」

 本を読んで待っていると、約束より早めの時間にやってくる。曜ちゃん。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:04:38.21 ID:l8lGRxzr0
花丸「ううん、さっきHRが終わったばかりだよ」

曜「それならよかった、待たせたら悪いから」


花丸「曜ちゃん、今日はどうしたの?」

曜「報告があってね、花丸ちゃんに」

花丸「報告?」

 なんだろう、全く心当たりがない。



曜「私ね、千歌ちゃんに告白してきた」



花丸「へっ」

 前兆のない、予想外の言葉。
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:06:50.85 ID:l8lGRxzr0
曜「それでフラれた、当然だけどね」

 告白、フラれた、理解が追い付かず、言葉が出ない。


曜「でもさ、フラれたらスッキリしたんだ」

曜「これ以上、誰かの支えがいらないぐらい」

 だけど曜ちゃんは、それを好都合と言わんばかりに言葉を続ける。



曜「だから別れよう、花丸ちゃん」



 別れる?

 曜ちゃんは今、確かにそう言った。


花丸「なに言ってるの、冗談だよね」

曜「ううん、冗談じゃないよ」
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:08:07.93 ID:l8lGRxzr0
 真顔で語る曜ちゃんの言葉に、嘘があるようには思えない。

 まさか、本当に。


花丸「嫌だよ、マルは別れたく――」

曜「わかった、言い方を変えるよ」

花丸「曜、ちゃん」


曜「もういらないんだよ、花丸ちゃんは」

曜「不要なんだ、私にとって」


 冷たく言い放たれる言葉。


 不要。

 マルは曜ちゃんにとって、不要。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:09:45.77 ID:l8lGRxzr0
花丸「なんで、なんで、そんなこと」

曜「……もう限界だったんだよ、花丸ちゃんも、私も」

 マルも、曜ちゃんも、限界。


曜「ごめん、私が花丸ちゃんにやったことは、どんなに謝っても取り返しのつかない事だと思う」

曜「でもね、それを償う方法が、私にはわからない」

曜「だからもう、私は消えるよ」


花丸「消えるって、どこに」

曜「みんな沼津の学校に行くだろうけど、海外に行く」

曜「そこで本格的に飛び込みをする」

曜「二度とここでの事を思い出さないように、それだけに集中する」
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:10:42.65 ID:l8lGRxzr0
花丸「そんなの、ズルいよ」

曜「そうだね、卑怯だと思う。責任も取らずに、逃げ出すなんて」

花丸「嫌だよ、マルから逃げないでよ」


曜「ごめんね、もう無理なんだ」

 曜ちゃんはそう言い残し、教室を出ていく。


花丸「待って、待ってよ」

 必死に追いすがろうとするけど、ショックで身体が動かない。

 這うように扉まで行き、外を見ると、そこにはもう姿はなくて。


 へたり込む、曜ちゃんはもう消えてしまった。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:13:00.98 ID:l8lGRxzr0


ルビィ「終わった、かな」

 入れ替わるように入ってくる、ルビィちゃんの姿。

 彼女のしたり顔は、すぐにこの出来事の裏側を理解させる。


花丸「話したんでしょ、ルビィちゃんが全部」

ルビィ「うん」

花丸「マルは言ったよね、曜ちゃんには言わないように」

ルビィ「そうだね」


花丸「ふざけるな!」

 頭にきて、勢いのままに掴みかかる、


ルビィ「……」

 でもルビィちゃんは、表情一つ変えない
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:15:17.57 ID:l8lGRxzr0
花丸「マルは曜ちゃんと居られればよかったの」

花丸「例えどんな目に遭っても、曜ちゃんと2人で居られれば――」


ルビィ「駄目だよ」

ルビィ「それだと、マルちゃんは絶対に幸せになれない」


花丸「黙れ!」


 思いっきり、首を絞める。

 曜ちゃんに刷り込まれた、無意識の行動。

 強く、強く、何も考えずに、力を入れる。


 それでも、ルビィちゃんは抵抗しない。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:18:01.62 ID:l8lGRxzr0
ルビィ「ぅ、っ」

 でも表情は本当に苦しそうで、


 白い肌が変色していく、徐々に感じる、生命の力が弱まっていく感触。


 苦痛に歪む顔、声、目にするだけで辛くなる。

 曜ちゃんはずっと、こんな光景を見ていたんだ。


 マルの行動は、曜ちゃんの為になっていると思っていた。

 でももしかしたら、さらに曜ちゃんを苦しめるだけで――。


ルビィ「……ぁ…………」

花丸「!」


 考えている間に、ルビィちゃんの反応が鈍くなっている。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:19:26.42 ID:l8lGRxzr0
ルビィ「…………」

 手を離しても、ルビィちゃんはぐったりとしたまま。


花丸「あ、あぁ」


 息、してない?

 目も閉じている、ピクリとも動かない。


花丸「ルビィちゃん、ルビィちゃん!」

 身体を揺する、でも反応はない。


 こういう時、どうすればいいんだろう。

 分からない、本で知識は持っているはずなのに、何も出てこない。
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:21:25.40 ID:l8lGRxzr0
花丸「ねえ、起きてよ」

 嫌だ、自分の衝動的な行動で、大切な人を失うなんて。


花丸「起きてよ、ルビィちゃん」

 ルビィちゃんは目を開けない。


花丸「謝るから、何でもするから、お願いだから――」



ダイヤ「ルビィ!」

花丸「だ、ダイヤさん!?」


花丸「な、なんでここに」

ダイヤ「話は後です! とにかく今は処置を!」
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:25:06.48 ID:l8lGRxzr0
善子「あなたはこっちに来なさい!」

 遅れて入ってきた善子ちゃんに、腕を引かれる。


花丸「い、嫌だ」

善子「一度落ち着いて」

花丸「でも、でも」

善子「いいから、今のあなたが居ても何の役にも立たない」


 引きずられるように、教室の外に出される。

 遠ざかっていくルビィちゃんの姿と、気丈に振る舞いながらも泣き出しそうなダイヤさんの顔。

 外から響く救急車のサイレンに、現実を突きつけられる。


善子「なんで、何であんなことをしたのよ」

 善子ちゃんも泣いている。

 悲しそうに、マルを見つめている。


花丸「……そっか、マルが間違っていたんだ」

 今さら理解しても、もう遅い。

 今はただルビィちゃんの無事を祈る、それしかできなかった。
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:29:56.61 ID:l8lGRxzr0
―――
――



善子「ダイヤ!」

 善子ちゃんと2人、遅れて病院へ着くと、入り口でダイヤさんが待っていた。


善子「ルビィの状態は?」

ダイヤ「幸い、一命は取り留めました」

ダイヤ「意識もあり、状態は良好です」

ダイヤ「しかし少なくとも数日間は入院が必要だそうです」


花丸「入院……」

 マルの行為の結果が、入院。


ダイヤ「あと、ルビィから花丸さんへ伝言です」

ダイヤ「『ルビィは大丈夫だから、安心して』と」


 この状況でも、ルビィちゃんはマルの心配をしてくれる。

 自分ではなく、マルの事を考えてくれる。
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:32:45.40 ID:l8lGRxzr0
花丸「ダイヤさんは、何であそこに居たんですか」


ダイヤ「詳しい話を聞いていたわけではありません」

ダイヤ「ただルビィに頼まれていました」

ダイヤ「あの時間の教室に様子を見に来てほしいと」

 そっか、ルビィちゃんは分かってたんだ、こうなることを。
 

ダイヤ「ここは黒澤家に縁のある病院、多少の誤魔化しは可能です」

ダイヤ「貴女を責めることはしませんし、何かの罪に問うこともしません」

ダイヤ「それがルビィの希望ですから」


ダイヤ「けど私は、ルビィの姉として貴女を許さない」

ダイヤ「それは覚えておいてください」
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:45:43.08 ID:l8lGRxzr0
   ※



 入院から数日後、ルビィちゃんに呼ばれてお見舞いにやってきた。

 ダイヤさんは否定的な反応を示していたけど、ルビィちゃんが強く望んだらしい。



花丸「ルビィちゃん……」

ルビィ「来てくれたんだね」

花丸「よかったのかな、入院させる怪我を負わせた張本人が」

ルビィ「いいんだよ、その原因を作ったのはルビィだから」


花丸「……やっぱり、分かっててやったんだね」

ルビィ「うん」
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:47:03.71 ID:l8lGRxzr0
花丸「怖くないの、そんなことをされて」

ルビィ「怖いよ、もちろん」


 手を掴まれ、ルビィちゃんの首元へあてがわれる。

 数日前に触れた細い首が、そこにはある。


ルビィ「でもいいの、マルちゃんがそれを望むなら」

ルビィ「首を絞めても、叩いても、ルビィは何も言わない」

ルビィ「抵抗せずに、それを受け入れる」


 にっこりと微笑むルビィちゃん。

 その笑顔から感じられるのは、狂気。

 

ルビィ「ほら、力を入れて」

 ルビィちゃんが掴む手の力を強める。

 すると、首にマルの手が食い込んで――
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/16(水) 23:49:07.88 ID:G+Hp1F+BO
花丸「えんま大王様がやってくる」

ルビィ「手首から糸が出てくる」

ダイヤ「壁に引き出しがある」
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:54:34.61 ID:l8lGRxzr0
花丸「止めて!」


 身体に走る、ゾクリとした感覚。

 思い出す、苦しそうなルビィちゃんの顔。


花丸「嫌だ、マルは、マルはやりたくない」

花丸「ルビィちゃんを傷つけたくない、ルビィちゃんの苦しむ顔を見たくない」

花丸「こんな恐ろしい事、望んでないっ」




ルビィ「……そうだよ、やりたい人も、やられたい人も、本当はいないんだよ」

ルビィ「それを望んでいると、必要だと、思い込んでいるだけ」

ルビィ「必死に自分の置かれた状況を正当化して、心を誤魔化しているの」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:56:57.18 ID:l8lGRxzr0
 ルビィちゃんは手を離し、マルの頭をそっと撫でる。


ルビィ「疲れたね、大変だったね」

ルビィ「もういいの、苦しまなくて」





 どうすればいいか、分からなくなっていた。

 だから抗わないという、楽な方向へ逃げて。


 それがむしろ曜ちゃんを苦しめていた。

 今さら気づいた、そんな当たり前のことに。



花丸「ごめんね、曜ちゃん」

 止めてあげなきゃいけなかった。きっとそれを望んでいたはずなのに。


花丸「ありがとう、ルビィちゃん」

 マルを、曜ちゃんを、救ってくれて。
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/17(木) 00:00:46.28 ID:MBHs/vGf0
  ☆



 春になり、マルは二年生になった。


ルビィ「おはよう、マルちゃん」

花丸「ごめん、待った?」

ルビィ「ううん、大丈夫だよ」


 浦の星は統廃合になり、マルたちは一人を除いて、みんな沼津の高校へ。


 あの後、曜ちゃんとは一度も話を出来ていない。

 周囲に行先を告げることもせず、連絡手段も絶っていた。

 それらはきっと、曜ちゃんの強い意志表示なのだろう。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/17(木) 00:02:40.80 ID:MBHs/vGf0
 千歌ちゃんと、一度だけ話をした。

 曜ちゃんからの告白の際、彼女の抱いていた感情、行動、洗いざらい話されたらしい。

 全部話しちゃうのは、やっぱり曜ちゃんらしい。

 それで告白を受け入れてもらえるわけないのにね。


 千歌ちゃんは謝ってくれた、『巻き込んでごめんね』と

 でもマルはそれを否定して、お礼を言った。

 曜ちゃんとの縁を繋いでくれて、ありがとうと。



 善子ちゃんと梨子ちゃんの関係も続いている。

 日頃から仲良しのところを見ると、簡単には崩れそうにない。

 いつまでも、そんな関係を続けるんだろうな。

 マルと曜ちゃんが築けなかった、素敵な関係を。
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/17(木) 00:09:52.90 ID:MBHs/vGf0
 曜ちゃんにもう一度、会いたい。

 会って、ちゃんと話したい。

 お互いに謝って、あんなこともあったねと笑い話にして。


 二度と、恋人になることはないと思う。

 それでも、あの日々を無かったことにしたくはない。

 辛い日々だったとしても、楽しい思い出もたくさんあったから。



花丸「……ルビィちゃん、マルの事、好き?」

ルビィ「うん、大好きだよ」


 でも今は、この子との時間を大切にしよう。

 身を挺してマルを守ってくれた、この大切な人との時間を。




 さようなら、マルの初恋。


 恋の楽しさも、怖さも、全部教えてくれて、ありがとう。
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/17(木) 00:10:31.29 ID:MBHs/vGf0




最後まで読んでいただき、ありがとうございました
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/17(木) 07:09:12.25 ID:9w79fjUB0
このお話だと、恋の怖さじゃなくて単に曜個人がクズで頭おかしかっただけじゃないのww
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/17(木) 12:37:11.36 ID:TeYqiCSDO

曜も恋に狂わされていたってことなのかな
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/18(金) 09:30:02.81 ID:PZ6PQBDf0


ルビィいい子や…
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