【バトルロワイヤル】十二大戦、前哨戦【安価】

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62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 00:38:24.09 ID:nDcnjJVu0

シェルターソーダは、何気に
重装備の拠点 + 重曹 + 重要拠点のトリプルミーミングやね
63 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/27(水) 21:49:48.82 ID:WuM5OigP0
第1話、「爪の垢を煎じて飲ます」

終了。


−−


生爪の戦士、澱雨


本名:柳沢 流々(やなぎさわ るる)
身長151センチ、体重43キロ。

元・母子家庭、一人っ子。父親は軍人で、流々が5歳の頃に戦死した。
小学校卒業を機に母親を殺害。
動機は「自分みたいな奴と二人暮らしなんて可哀想だから」。
背後から忍び寄って、カミソリで頸動脈を一撃だった。

その後は精神病院内の中学校へ進学。
持ち前のやる気と明るさで学級委員長の座に就く。

しかし院内学級の中でいじめが発生。
『可哀想な子供達だから』という理由で誰もいじめを咎めない状況に憤慨する。

その日の内に、友人でありいじめの首謀者だったクラスメイトを呼び出して椅子に縛り付け、
盗んだラジオペンチを用いて、約5時間にも渡る拷問を行う。

四零前戦の戦士は、戦闘の才能よりも、人間性を選抜の基準に置いているようである。
64 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/27(水) 21:52:12.29 ID:WuM5OigP0



 第2話、「物も言いようで角が立つ」



65 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/27(水) 21:53:14.24 ID:WuM5OigP0
一角の戦士、棄輪

本名:ハンス・ユニバース
身長180センチ、体重85キロ。

傷痍軍人、図体と真面目さが取り柄の男。
3人兄弟の次男で、他の兄弟は文字通り兄と弟。

その生真面目さと温和な性格を買われ、比較的若い年齢で軍曹の地位を得る。
しかし部隊長に就任して僅か一週間後、『獣のような獰猛さを持った少女』に遭遇。
部隊を壊滅させられ、自らも利き手を欠損するという重傷を負う。

その後は傷痍軍人手当に頼って細々とした生活を送っていた。
しかしそんなどん底の生活の中でも軍人としての誇りは失っていなかったようで、
厳しいトレーニングを重ね、いつか戦場に復帰することを目標にしていた。
66 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/27(水) 21:58:37.73 ID:WuM5OigP0

 −−


 甲羅の戦士、『暦』。

 彼のルーツを探るには、『平和主義者』の存在は避けて通ることはできないだろう。

67 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/27(水) 22:19:46.25 ID:WuM5OigP0

「横暴です、いくらなんでも」


 暦(このタイムラインではまだ甲羅の戦士にはなっていないが、便宜上、彼の名前は『暦』としておく)は抗議の声を上げた。

 平穏だった彼の職場に、突如として『平和主義者』を自称する女性が殴り込んで来たのだ。


「横暴で横紙破りなのは承知しています。ですが、あなたのやっていることは明確な戦争犯罪です」


 返ってきた正論に暦は唸った。

 イリーガルでアンモラルな人体実験施設。

 暦が現在、所長を務めている職場はそういう場所だった。


『安価に強力な兵士を作り出す』、もっと言うならば市街に簡単に潜伏できる『特別な才能を持った兵士を作り出す』。

 暦の職場の目的は、そんなテロリズムまっしぐらなものだ。

 それでも、彼にとってはれっきとした仕事であることには変わりない。


 自分がこの座に就く前の所長が、戦争犯罪どころか人道犯罪染みたことをしていて、暦ですらドン引きしていたとしてもだ。


「ぼく達はちゃんと、政府の承諾を得て研究活動を行っています」


「国家の承諾は得られていても、国連の承認は得られていないんです。

 あなた達が海外では何と呼ばれているのか知っていますよね」


「・・・」


 平和主義者は狡猾に目を光らせた。


「わかりませんか? 今なら穏便に事を運んであげようって言ってるんです。

 話し合いで済ませてあげようって言ってるんです」


 暦は察した。

 この平和主義者は交渉をしに来たのではなく、脅迫をしに来たのだ。

 平和主義者、平和のためなら何でもする女。

 平和の為なら、国すらも殺す女。


 暦達の界隈では、この平和主義者は死神よりも恐れられていた。
68 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/27(水) 22:39:42.68 ID:WuM5OigP0

 暦は額を掻くと、小さくため息をついた。


「とにかく、ぼくの一存で決めるわけにはいきません。

 あなたがぼく達をどう処断しようと考えているのかは関係なく、です」


 平和主義者は瞳を閉じて聞き入っていた。


「ぼくは所長ですが、政府から予算をいただいて活動しています。いわば雇われている身分です。

 上に話を通しますから、とりあえずそこで判断を仰がないと――


「あなたの部下も、同じことを言っていました」


 平和主義者は、暦の話の終わりを待たずに口を挟んだ。

 痛々しい笑みを浮かべながら。


「そして、私の力が及ぶ最後の領域は、あなたが限界なんです。

 私はあなたより上の立場の人間を動かすことができないんです」


「・・・」


 なんだそれは。

 なんだ、それは・・・。

 それではまるで、暦が研究に関わる人々の命運を握っているかのようではないか。


「正直なところ、私はあなたが所長になるのを待っていました。

 あなたの先代の所長が、失脚してしまうのを待っていました」


「あなたの先代はあなたと違って、情に流されてくれる人ではありませんでしたから」


 平和主義者は席を立って、床に三つ指をついた。

 人目も憚らず、土下座をした。

 その気になれば一国の軍隊さえも滅ぼせる恐るべき怪物が、震える声を上げて床に額を擦り付けていた。


「お願いします! どうか、どうか!

 この国の暴走を止めてください! あの子達にこれ以上戦争の業を押し付けないでください!

 あなただけが頼りなんです、あなたが最後の砦なんです!」
69 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/27(水) 22:55:54.37 ID:WuM5OigP0

 ・

 その後、暦は政府に対して、研究所の破産申請を提出した。

 元々イリーガルでアンモラルな施設、綻びなんていくらでも見つかった。

 死ぬ気になれば、なんでもできた。


 それから後は、壮絶なバッシングとメディアリンチの嵐だった。

 数えきれない数の罪状を受け、3桁を超える年数の懲役を受けた。

 それでも暦は耐えた。

 自分は正しいことをしようとして、正しいことをしたのだと。

 そう言い聞かせることで、必死に耐えた。

 自分の犯してきた過ちを、自分を殺して受け入れた。


 そして罪悪感も自己嫌悪もまるごと背負い込み、彼の人格は真っ二つに分裂した。

 過去の自分の罪を全部『ぼく』へ押し付けて、『俺』はいけしゃあしゃあと生きていた。

 そして被害者ぶった偽善者面をして、この世の全ての戦争を憎む人間達へ宣言したのだ。

「過去の罪を償うために、戦争をこの世から無くすために、俺はこの命を使い切ることを誓います」と。
70 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/27(水) 23:20:44.68 ID:WuM5OigP0


 −−


 甲羅の戦士、暦は悪態をつきながら工場の内部へ入っていた。

 彼の才能『炭酸拠点』によって、

 炭酸水の浸み込んだ衣服は防弾の役目を果たし、そして落下の衝撃から彼の身を守っていた。


「とんでもない戦士がいたものだ、名乗りもせずに撃ってくるなんて」


『まあ、やるかやられるかの戦場で、お互いに名乗ってから戦うって方が異常なんだけれどね』


 暦は炭酸水の入ったペットボトルを開け、それを頭から被りながら会話していた。

 もう一人の自分と。

 愛すべき戦争犯罪人である『ぼく』と。


「それはそうだが、これは十二大戦の前哨戦の四零前戦だぞ。全く・・・」


 厳密には、彼女は名乗っていた。

 生爪の戦士、『澱雨』とちゃんと名乗っていた。暦には聞こえなかっただけで。

 つまり暦の憤慨は、ノーサイドなのである。


 工場の扉を開けた時、暦はふと不安に駆られた。

 この工場の内部に他の戦士が潜んでいる、そんな予感がした。


『気を付けなよ、ぼく。確実になんかあるよ、この中』


「言われるまでもない、俺は最初から最後まで油断はしていないつもりだよ」


 高台に陣取って狙撃された過去から暦は目を逸らした。

 いつものように、自分の過失から逃げた。
71 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/27(水) 23:36:09.00 ID:WuM5OigP0

 暦は忍び足で油断なく、建物の中を進んでいく。

 こういう戦場では、普通自分からこういう逃げ場の限られた屋内に進むべきではないのだが。

 5時間のタイムリミットがある以上、そうも言っていられない。

 そんな悠長なことをしていられない。


 ましてや煙突から落ちた衝撃でまる1時間も身動きが取れなかった暦には、そんな余裕は全くないのである。

 なんとか追い打ちを食らわないよう、這い這いでその場から逃げ出したはいいものの。

 徐々に締まっていく首輪をつけながら1時間近く休息をとるのは、中々に来るものがあった。


 致命的すぎるタイムロス。

 そして他の戦士も動き出している以上、更に休んでいるわけにもいかなかった。

 それこそこういう屋内にトラップを張って籠城でもされたら、

 その時点で暦の勝ち目は完全に消えてしまうのだから。


 籠城しなくては、相手に籠城される前に。

 後ろを向いて前進するような思考で、暦は工場の中を探索していく。

 するとふと足元に、何かが落ちているのが見つかった。


「これは・・・、ネズミの死骸?」


 罠か、もしくは――。

 一つだけ息をつき、暦は部屋の扉を開けた。

 もしも何もなければ、暦はこの部屋で籠城をするつもりだった。
72 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/27(水) 23:48:16.66 ID:WuM5OigP0


 勢いよく扉を開けた暦は目を見開き、

 とっさに扉の裏の壁へ身を隠した。


(戦士の死体・・・!?)


 暦が籠城をしようとした部屋には先客がいたのだ。

 すでに息絶えて、床に倒れ伏した先客が。


――Drop out 【棄輪】


 暦は荒い呼吸を何とか鎮め、すぐに思考を開始する


(おかしい、あんないかにも戦い慣れてそうな戦士があっさり死んでいるなんて・・・)

『ねえ、ぼく。あの死体、違和感がなかった?』

(違和感? 一体何が・・・)


 暦は推理する。

 人体実験施設の所長を務めていた聡明なる『ぼく』と一緒に。

 二人分の人格で、事のいきさつを推理する。


『綺麗すぎるというか、そう――』


(目立った外傷がなかった?)


 暦は恐る恐る扉越しに、改めて死体をもう一度確認すると。

 恐るべき考えが頭をよぎった。


『逃げろ! その場から離れろ、今すぐ!!』

「っ!!」


 暦は血相を変えてその場を離れ、曇った窓を叩き割ってその場から飛び出した。

 ここは2階だったが知ったこっちゃない、煙突のてっぺんから突き落とされるのに比べたらかわいいものだ。


 転がるように地面に着地した瞬間、

 暦は激しく咳き込み、足元が揺らめくような回転性の目眩に襲われた。


「少し『吸って』しまった・・・!!」


『ネズミの死骸! 外傷のない大男の死体! 変色した皮膚!

 あー、あー、もうっ! なんで気付かないかなー、すぐにわかることだろうに!!』


「うるさいな、仕方ないだろ!」


 暦はゲホゲホと咳きこみながら、遮蔽物となりそうな倉庫の裏に身を隠した。


(間違いない、あれは化学兵器による攻撃・・・)


『状況から判断するに、おそらく毒ガスだろうね』
73 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/27(水) 23:58:09.48 ID:WuM5OigP0

「あれ、生きてた」


 その声に暦の方はビクリと跳ねた。

 とっさにその方を振り返ると、ポンチョのような白い外套を羽織った女性がにんまりと笑って立っていた。


「羽根の戦士。羽休めに殺す、『報応』」


「甲羅の戦士。豪華に焼き殺す、『暦』」


 機械的に歴はそう答えると。

 一つ息をついて、なんとかその場に踏みとどまった。

 目眩の悪化は何とか収まっていたが、相変わらず足元はトランポリンのように揺れていた。


「ずいぶんな余裕だね、あれをやったのは君だろう?」


 暦はどうにか余裕の笑みを浮かべ、先ほど自分が飛び降りた階を親指で指さす。

 額には脂汗が浮いていた。


「思うに、君が使っているのは暗殺や奇襲に向いている武器だ。

 こんな風に堂々と敵の前に現れるのは、慢心としか言いようがないんじゃないか」


「俺がもし拳銃やナイフのような、直接戦闘向きの武器を持っていたら、

 君は殺されても文句は言えないよ」


「やれば? どうせ無理だから」


 報応は両手を広げてくるくると回る。

 よく見てみると、体のあちこちに黒いベルトが巻かれていた。

 もしかしたら彼女が来ているのはポンチョではなく、拘束衣なのかもしれない。


「だーれも私を殺せない。私が持っているのはそういう才能だから」


「・・・」


『まさか運命干渉系の才能の持ち主・・・? だとしたら激レアだね』


 暦は自分の中で、もう一人の自分と作戦会議をする。


(ああ、彼女のデータは何が何でも欲しい。死んでも手に入れたい、文字通りに)
74 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/28(木) 00:09:08.43 ID:VTfF7Q+i0

「あれ、生きてた」


 その声に暦の方はビクリと跳ねた。

 とっさにその方を振り返ると、ポンチョのような白い外套を羽織った女性がにんまりと笑って立っていた。


「羽根の戦士。羽休めに殺す、『報応』」


「甲羅の戦士。豪華に焼き殺す、『暦』」


 機械的に歴はそう答えると。

 一つ息をついて、なんとかその場に踏みとどまった。

 目眩の悪化は何とか収まっていたが、相変わらず足元はトランポリンのように揺れていた。


「ずいぶんな余裕だね、あれをやったのは君だろう?」


 暦はどうにか余裕の笑みを浮かべ、先ほど自分が飛び降りた階を親指で指さす。

 額には脂汗が浮いていた。


「思うに、君が使っているのは暗殺や奇襲に向いている武器だ。

 こんな風に堂々と敵の前に現れるのは、慢心としか言いようがないんじゃないか」


「俺がもし拳銃やナイフのような、直接戦闘向きの武器を持っていたら、

 君は殺されても文句は言えないよ」


「やれば? どうせ無理だから」


 報応は両手を広げてくるくると回る。

 よく見てみると、体のあちこちに黒いベルトが巻かれていた。

 もしかしたら彼女が来ているのはポンチョではなく、拘束衣なのかもしれない。


「だーれも私を殺せない。私が持っているのはそういう才能だから」


「・・・」


『まさか運命干渉系の才能の持ち主・・・? だとしたら激レアだね』


 暦は自分の中で、もう一人の自分と作戦会議をする。


(ああ、彼女のデータは何が何でも欲しい。死んでも手に入れたい、文字通りに)
75 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/28(木) 00:13:35.73 ID:VTfF7Q+i0

 暦は決意した。

 報応の才能を探ることに全てのリソースを投入することを。

 勿論そのリソースの中には、自分の命も四零前戦に優勝する可能性も含まれている。


「オーケー、わかった。信じよう。

 君がそういう才能の持ち主だってことをね」


「うん?」


 報応は首を傾げた。

 どうやら暦の反応は、報応にとって予想外だったようだ。


「もし君の才能が本当にそういうものなのだとしたら。

 君を攻撃するのは自殺行為にしかならないだろう、だから攻撃しない」


 暦は降参の意思を示すように両手を挙げた。


「それに君にばっかり構ってるわけにもいかない。

 一人は死んだようだけれど、君の後に戦士はもう一人控えているんだから」


「ふーん」


 報応は暦を値踏みするかのように見つめると、再びニンマリと笑みを浮かべた。


「じゃあ、もう一人を殺すまで共同戦線を張ろうか。和平協定。

 もう一人を殺したら即解除ってことで」


「うん。俺としてはそれは非常にありがたい提案だ。

 勿論、参加するからには俺も優勝を目指しているわけだけれど。

 俺の第一目標は、戦士達の情報収集だからね」


「決まり。じゃあ仲良くしようね、暦くん」


 報応は笑顔で利き手を差し出した。

 暦は引きつった笑みを何とか保ちつつ、その手を取って堅く握手をした。
76 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/28(木) 00:18:53.51 ID:VTfF7Q+i0

 暦はなんとか呼吸を保ち、報応の方を見返した。


「報応さん。君の信用を得るために、全て吐いてしまうけれど。

『どんな才能がこの世には存在するのか』。

 俺はそれを探るために、この四零前戦に送り込まれたんだ」


 もっと言うならば十二大戦へ向けての情報収集である。

 先んじて大戦の準備を始めた干支十二家の人間がいて、暦はその斥候として送り込まれたわけだが。

 今回の話にはあまり関わりがないので、その話は割愛する。


「そんな風に交渉を行ったっていうことは、

 君が持っているのは『直接戦闘に向いていない武器』ってことでいいのかな?」


「正解だよ、俺の武器は全く戦闘には向いていない。

 というか真っ当に勝負させる気のない武器を持たされている」


 加えて言うなら、自分は殺されても文句を言えないというか、

 殺されても文句は言わない人間でもあるけれど。

 これは聞かれてないので、敢えて言う必要はないだろうと暦は判断した。


「この四零前戦に参加する戦士は、みんな何か1つ武器を与えられているのは知ってるだろう?」


 暦は報応の武器が毒ガスだと知った上で交渉に臨む。

 それは彼なりのスタンスであり、処世術だった。


「俺の場合、それは『自爆スイッチ』なんだよ。

 まあ厳密には爆弾じゃないんだけれど、それでも発動したらほぼ死ぬっていうのは間違いない」


 報応は興味深そうに眼を見開き、首を突き出すかのように歴を見つめた。


「もっと詳しく聞かせてよ、私たち仲間でしょ?」
77 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/28(木) 00:23:49.06 ID:VTfF7Q+i0

「オーライわかった。じゃあこれを見て」


 暦はハンドマイクのような形状の、

 百人に見せたら百人がスイッチかリモコンと答えるような、あからさまなスイッチを公開した。


「これはボイスレコーダー兼、サテライトキャノンの発射ボタン。

 ただし装弾数は一発、そしてロックオン機能がついてない。この意味はわかるよね?」


「わかんない、教えて」


 一つ溜め息をついて、暦は続けた。

 それは自分で言っていて悲しくなるような事実だった。


「照準は俺なんだよ。

 これを押すと俺に向けて、高出力のマイクロ波レーザーが成層圏から発射される。

 俺ごと敵を焼き尽くすためにね」


 あからさまな嫌悪を示すように、報応は表情を顰めた。


「そんなの、自爆装置どころか自殺装置じゃない。

 非人道的だよ、戦争犯罪だよ、断固抗議するべきだよ」


「だろうね、向こうもそのつもりだろう。俺自身も生きて帰れるとは思ってないし」


 暦はまるで他人事のように肩を竦めた。


「なんでそんなに落ち着いてられるのかな?

 死なない私が言えた義理じゃないけれど、そんな武器持たされて戦場に送られるなんて。

 遠回しに死ねって言われているようなものじゃない」


「そうだね。でも、その辺は俺もちゃんと納得しているよ。

 さて、それを納得してもらうにはどこから説明すればいいのやら――


 しかしその説明は中断された。

 納得のいく説明は果たされなかった。


 突如としてギロチンのように分厚い刃が、二人へ向けて放たれたからだ。
78 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/28(木) 00:33:06.06 ID:VTfF7Q+i0

「ご、あっ・・・!?」


 炭酸拠点は発動し、暦の衣服を防刃チョッキへと変えてその身を守ったが。

 果たして甲羅の戦士の才能は、暦を守り切ることはできなかった。

 左腕をザックリやられていた、その刃は防刃チョッキを貫通したのだ。


 馬の嘶くような声を響かせ、その刃の持ち主は二人を威嚇した。

 その巨体に、暦は見覚えがあった。


(あの部屋の戦士、死んでいなかったのか!?)


『いや、瞳孔は拡大が確認できる、皮膚の変色も見られる。死んでいるのは間違いないよ』


(となると、残る可能性は・・・)


『死体を操る才能、かな』


 暦はチラリと報応の方を確認すると、報応の衣服はザックリと切られていたが。

 報応の肌には傷1つ残っていなかった。

 彼女の言う『不死性の才能』が彼女を守ったのか、はたまた別の要因が絡んだのか。

 現時点では判断できない。


『操っているのは誰だろうね』


(この戦士を殺害した報応か? 開戦直後に俺を撃ってきた未知の戦士か? それとも・・・)


『この戦士が、自分自身の死体を操っている、とか?』


(ネクロマンシー。噂には聞いていたけれど、まさか実在していたとは)


 暦の中で、知識欲旺盛なぼくが舌なめずりをした。


『これも、貴重なデータだね』
79 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/28(木) 00:41:25.37 ID:VTfF7Q+i0


 死体の戦士の咆哮が響き渡り、刃を掲げて暦へ向けて突進する。

 暦は腰から炭酸水の入ったペットボトルを2本抜き取って投げつけると、

 死体の戦士の前で炸裂させた。


「報応さん、少し共同戦線の内容を変更しようか」


 炭酸水はまるで意思を持っているかのように死体の戦士へ纏わり付き、

 およそ炭酸水ではありえない粘着性を以って、死体の戦士の動きを鈍らせる。

 おかげで今度の刃は易々と回避できた。


「『もう一人を殺すまで』じゃなくて、『あと二人を倒すまで』に改訂しよう。

 この戦士に限っては、殺すだけでは戦うのをやめてくれなさそうだ」


「いいよー」


 報応はポンチョのような衣服を広げて答える。

 死体の戦士は炭酸水の拘束を引き千切るように振り返った。

 この様子だと、炭酸はあっという間に抜けてしまうだろう。


「甲羅の戦士。豪華に焼き殺す、『暦』」


「羽根の戦士。羽休めに殺す、『報応』」


 儀礼的な名乗りを聞き届けると、死体の戦士は譫言めいた声で答えた。

 まるで生物的な反射のように、応えた。


「一角の戦士。追い詰めて殺す、『棄輪』・・・」


『名乗ってくれるとは有り難い、解析班の仕事が楽になるだろうからね』


 死に体の戦士と、死ねない戦士と、死んでいる戦士の。

 四零前戦の中で初となる、まともな戦闘の幕がやっと開いた。
80 : ◆C9Xcl85GhhlD [saga]:2018/06/28(木) 00:42:09.86 ID:VTfF7Q+i0

 ――


カリタス「今宵はここまでです、続きはまた別の日に」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 01:16:35.22 ID:DRZzRRhDO
乙です
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