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王族林檎とうさ耳の魔法使い
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102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:04:25.95 ID:o/WkcT2/0
王「なんだ騒がしい!」
兵隊長「報告します! な、何故か取り押さえられないほどの大勢の民が城の門前に集まり……」
門番「た、隊長〜! 無理やり突破されました!」
王「なぜじゃ! 槍でも銃でも使って今すぐやめさせい!」
迫ってきている。数えきれない程の足音と、怒号の応酬。庭を埋め尽くすその一つ一つに集中して耳をかすと微かにその集団の目的が聞こえてきた。
「生物兵器を作るなー!」
「戦争を起こすなー!」
「処刑を取り消せ国王ー!」
「そーだそーだ!」
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:05:04.80 ID:o/WkcT2/0
王「なんだ騒がしい!」
兵隊長「報告します! な、何故か取り押さえられないほどの大勢の民が城の門前に集まり……」
門番「た、隊長〜! 無理やり突破されました!」
王「なぜじゃ! 槍でも銃でも使って今すぐやめさせい!」
迫ってきている。数えきれない程の足音と、怒号の応酬。庭を埋め尽くすその一つ一つに集中して耳をかすと微かにその集団の目的が聞こえてきた。
「生物兵器を作るなー!」
「戦争を起こすなー!」
「処刑を取り消せ国王ー!」
「そーだそーだ!」
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/12/14(金) 02:05:51.52 ID:o/WkcT2/0
遣い「なぜっ……!」
王「な、なぜなんじゃ……このことは城の者のごく一部にしか……」
ロー(も、もしかして……)
一人、いる。俺とナブ以外にこのことを知っていた街の住民が……
ドルチェ「なにあっさり捕まっちゃってるのよばかロー!!!」
扉の向こう側で怒号に紛れて聞こえる聞き慣れた甲高い声
ロー(あ、あいつ! 結局口を滑らせたのか!)
やはりドルチェは信用ならかった。そう思うと呆れて緊張していた筋肉が蕩けるようにして弛緩したが今はそんな彼女の軽口に希望を貰った。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:06:37.07 ID:o/WkcT2/0
そうして扉側の民たちに恐れおののくようにして後ろ足で退く国王は背後にいた青年にぶつかった。
王子「終わりだね。父上……」
遣い「あ、あなたは」
王「王子! まさか口外したのは貴様かッ!」
王子「まさか。僕にそんな度胸はなかったさ。だがこうして機を得てしまうと調子付いて父上に逆えなかった自分が憎たらしくも思えてくるよ」
彼は自らの父の肩に叩いてそう言うと気迫のある命令口調でローブの集団に一括した。
王子「お前たち! 彼らを解放しろ!」
その声にどよめきお互いに困惑した表情で顔を合わせながらも対魔部隊は魔法陣を消滅させた。
対魔部隊「「「はっ……」」」
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:07:12.40 ID:o/WkcT2/0
王子「きっかけを作ってくれた君たち二人には感謝するよ」
ロー「え」
ナブ「こ、こちらこそありがとうございます!」
王子「さあ父上、邪悪な企てをした罰として責任をとるんだ。今ここで」
王「ヌ、ヌゥ……」
王子「それとも、自分が用意させた明日の処刑台に自ら立つかい?」
遣い「……国王」
王「わ、分かった」
国王は項垂れると威厳の欠けらもない声量で呟いた。
王「私の、負けだ……」
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:08:02.52 ID:o/WkcT2/0
その後は王子が庭に集められた民たちの前に現れ自らが新国王に就任することと現国王と今回の恐るべし計画に参加していた者たちを王都から永久に追放することを告げその場を収めた。
それと同時に俺の罪は帳消しにされ晴れてナブも尊厳を取り戻し、俺たちは囚われの身から解放されることとなった。
数日後には改めて王子の国王就任、そして新政府発表のパレードが開かれるようだ。
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:09:32.01 ID:o/WkcT2/0
…………………………
ナブ「はい。上手くできたか分からないケド……」
ロー「ドルチェにも少し教わったんだろ? 大丈夫だろ」
香ばしいアップルパイの香りが部屋に立ち込めて鼻腔をくすぐる。もちろん俺の自宅……なのだがそれを作ったのはエプロンを着たナブだった。
ロー「なんか世話焼いちゃって悪いな」
ナブ「ううん。まだ両脚とも怪我したままなんだから気にしないで。それにわたしがしてもらったことを考えればこれくらい……」
今回の一件で両脚に全治二ヶ月程度の怪我を負った俺は車椅子で生活していた。ナブはそのことに罪悪感を感じたのか今は住み込みで俺の世話をしてくれている。
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:10:52.42 ID:o/WkcT2/0
ロー「でも王子が正式に国王になったらまたナブの仕事も忙しくなるだろうし……たしか新しい対魔部隊に誘われたんだろ?」
ナブ「あー……ううん。その話は断っちゃった」
ロー「え!?」
ナブはけろりとした顔で首を横に振りながらそう言った。まるでなんの迷いも後悔も感じられない。そのことはぴんと立った彼女の耳を見たらなんとなく感じ取れた。
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:11:50.63 ID:o/WkcT2/0
ロー「いや、やりたかった仕事なんじゃないのか? 上級魔法職だし……」
ナブ「そのことなんだけど……わたしね? 今日で上級魔法職じゃなくなっちゃったの。辞めちゃった」
ロー「は!? や、やっぱり今回の件のせいで……」
ナブ「そうじゃないわ。自分で辞めたの。べつにもう魔法職に就きたいなんて思ってないし」
ロー「なにか他にやりたいことでも見つけたのか?」
そう言った瞬間ナブは出来立てのアップルパイをフォークにさしそれに一息もかけずに俺の口に押し込んだ。
ナブ「ふんっ!」
ロー「あづっ!?」
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:12:34.37 ID:o/WkcT2/0
ナブ「あのあと少しドルチェさんと話したけど、本当に鈍感なのね」
ロー「う?」
ナブ「……ローと一緒にここで林檎を育てたいの。でも王族林檎は魔法職には任せてもらえないから……だから魔法職を辞めたの」
ロー「ごゥ!? ゴホッ! ゴホッ!」
思わずアップルパイを喉に詰まらせてしまった。
ナブ「ロー!? だいじょーぶ!?」
ナブに渡してもらったティーカップを受け取るとそこに入っていた紅茶を全て流し込み事なきを得た。
ロー「びっくりした」
ナブ「もー……」
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:15:01.28 ID:o/WkcT2/0
ナブ「で、ね? だから、その……ローに追い出されちゃったらわたし住む場所もなくなっちゃうっていうか……」
人差指どうしをこねるナブの頭に手を置いた。
ナブ「まふっ」
ロー「うん。一緒に暮らそう」
ナブ「……なんかあっさりじゃない?」
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:16:01.17 ID:o/WkcT2/0
ロー「え、駄目なのか?」
ナブ「……むぅ、もうわたしからは言わないから!」
今度はツンとそっぽを向いてしまった。丸々とした尻尾がヒクヒクと動いて可愛らしい。
ロー(じゃなくて)
全くもって理解不能だ。共に暮らしたいと言われ、俺もそれは嫌ではなく……むしろ嬉しく思ったので受け入れたつもりだったのだが……
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:16:42.65 ID:o/WkcT2/0
ロー「なんでそっぽ向くんだよ」
ナブ「だって……」
ロー「車椅子さ、動かすの面倒なんだよ」
ナブ「どういう意味?」
ロー「もし普通に歩けるならまわりこんでるってこと。……見たいんだよ。ナブの顔が」
ナブ「やだ」
ロー「なら仕方ないな」
車輪に手をかけたとこでまたナブがいじけた声でつぶやく
ナブ「なんで顔がみたいの?」
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:17:10.49 ID:o/WkcT2/0
ロー「かわいいから?」
ナブ「ぅ、そういうことは簡単にいうくせにさっ」
ロー「じゃあ好きだから……ダメか?」
ロー(あ)
また何も考えずにあっさり言ってしまった。こういうのはもっと日を改めて……そう、プロポーズとして……
ロー(はぁあ)
こんなんだからいじけられるのかと今さらになってやっと理解できた。
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:17:44.22 ID:o/WkcT2/0
ナブ「う、うーん。せいかいなんだけど、なんだかまけた気分……」
と思っていたのだがナブはしまらない表情をしつつもこちらに向き直ってくれた。
ロー(あ、正解だったのか)
ロー「でもさ、本当に良かったのか? 無理に林檎農家にならなくても俺は別にナブのこと……」
ナブ「だーかーらー! そういうとこがダメなのぉ!」
ロー「ぇ、あ……ごめん」
ロー(やはり口に出す前に一呼吸考える癖は今からでも努力してつけておくべきか)
痛感する。
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:19:02.98 ID:o/WkcT2/0
ナブ「わたしはね? わたしの魔法はローと出会うために、ローを守るためにあったんじゃないのかって考えたの」
ナブ「だからもう魔法にそれ以上は求めないし……もしかしたらわたしの子どもは魔法の才能があって魔法職に夢を見るかもしれないけど……それでもこの場所と林檎の良さをしっかりとその子に伝えていくつもり。ローが今ここを継いだ理由みたいに」
ロー「え、子ども……?」
ナブ「へ?? あ、うぅ……」
ナブは林檎そのもののように顔を染めると小さな身体で車椅子に乗りあげ俺の胸ぐらを掴みこんだ。
ロー「うわなに!? あぶないって!」
ナブ「ひつようでしょ!? だってローには子どもだって両親だっていないんだからわたしたちが死んだら誰がここを守ってくれるの!?」
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:19:47.41 ID:o/WkcT2/0
ナブ「それに『どうしても他のことがしたい』って子のために兄弟もいるし……」
ロー「ナ、ナブ? 何人作る気なの……?」
『……わたし、やっぱりうさ耳族だったのね』
あの言葉の意味が少し分かってしまったかもしれない。
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:20:41.32 ID:o/WkcT2/0
ナブ「そういえば今日はお風呂まだだったよね? ささっ、いきましょ」
ナブはするりと俺の身体から降りると後ろに回って車椅子を押し始めた。
ロー「いや俺は身体を拭いてもらえればそれで……というかまだアップルパイ食ってない!」
ナブ「あら、アップルパイは出来立てはもちろん美味しいけど少し冷やした後も美味しいのよ?」
ロー「怖い! ナブ怖い!」
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:21:49.38 ID:o/WkcT2/0
なす術なく浴室に車輪を転がされながら初めて彼女に恐怖心を抱いた。
ロー(な、なるほど)
これは確かに国が脅威を感じるわけだ。王族林檎の真実を知った今、それも重なりなんとなく自分が国にとって大きなものを背負ってしまっているような気がした。
ロー(あぁ、なんだかもう一つの夢も叶ってしまった気がする)
大冒険こそないもののこれはある意味……
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:22:21.11 ID:o/WkcT2/0
(国を支える『勇者』だな)
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/12/14(金) 02:23:05.81 ID:o/WkcT2/0
おわり
123 :
◆hs5MwVGbLE
[saga]:2018/12/14(金) 02:24:21.75 ID:o/WkcT2/0
今回はこれにておしまいです
ここまで読んでいただいた方はありがとうございました(-ω-)
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/12/14(金) 20:38:56.10 ID:bp3QIc+o0
おつおつ、よかったよ
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/12/14(金) 20:54:33.83 ID:5rhDX8uiO
おつおつ。さすがのいい締め方でした。
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