【SW】姫「私を弟子にしなさいな!」ジェダイ「ええっ!?」【オリキャラ】

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76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/27(金) 13:00:34.61 ID:DU3yLuuF0

観客A「おい、10番の『ジョン・ドゥ』とかいうのは何者か知ってるか?」

観客B「いいや知らねえな、おおかた新参だろう。スタートはうまくいったみてえだが――」


 レースで優秀な結果を残してきたドライバーには優良なスポンサーがつき、優良な部品を購入して優良な機体を構築することができる。
コーナーを曲がって最初の障害に突入する段階においても、すでにそのスペック差は現れ、早くも集団が二つに分かれつつある。
すなわちオルフェ、セブルバJr、カスタム兄弟の先頭集団と、それ以外の6機の後続集団である。

 最初の障害は「スラローム」――林立する石柱が致死的な相対速度をもってレーサーに立ちふさがる。
先頭集団は危なげなくすり抜けていくが、後続集団先頭の機体が石柱に掠め、スピンして、別の石柱に激突し爆発四散した。
しかし二人の観客が注目するエントリーナンバー10番の選手「ジョン・ドゥ」は巧みなドライビングテクニックで機体を操り、最小限の減速で危険地帯を通過してみせた!


観客A「ヒューッ!見たかよ今のハンドリングを……こいつはやるかもしれねえぜ!」

観客B「しかしよ、オルフェには勝てねえぜ。見ろ!」


 片割れが指さすオーロラビジョンには先頭集団の様子が映されていた。
危険なショートカット・ジャンプ台を素通りしてデッドヒートを続ける三機。
カスタム兄弟がアウトコースから追い抜きを図り、セブルバJrがこれに幅寄せして阻止を図る一方で、白と金の機体フェザリオンは悠然とリードを広げていく。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/27(金) 13:02:06.24 ID:DU3yLuuF0

シンノ(早くも二機脱落とは、思った以上にハードだな……!)


 「ジョン・ドゥ」選手の正体はシンノであった。
レース出場は初めての経験だったが、念入りに調整とテストランを重ねたポッドレーサーは彼の操縦によく追従していた。
スラロームで手間取った後続を引き離し、集団先頭を行くウーキーの機体に追いすがる。


ウーキー「ムオオーン…!」


 ウーキーは苛立った様子でそれを見やると、思い切りハンドルを切った。
クラッシュ攻撃か――否!その先にはショートカット・ジャンプ台!


実況『おおーっと!ここでブラブランダ選手ジャンプ台に挑戦だーっ!』


 実況の煽りとともにウーキーはアクセルを踏み込み、その傾斜に沿って機体を空中へと躍らせる!


実況『飛んだあああー!』

ウーキー「ムオオーン!」カチッ


 続いて機体後方からドラッグシュートが展開!
ショートカット・ジャンプ最大の鬼門である着地に備え機体を減速するが――空気抵抗が過大!


ウーキー「!?」


 空中姿勢が乱れ――もんどりうった機体はコースを飛び越え、観客席に着弾!
エンジンが爆発し、爆風と破片が観客を襲う。
悲鳴と怒号が上がるが、被害の及ばない観客はむしろ興奮して歓声を上げた。
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/27(金) 13:03:11.97 ID:DU3yLuuF0

シンノ(ああーっ、やりやがった!――しかし……)


 シンノはそれを後ろから見ていたが、ジャンプ台への誘惑にかられつつあった。


シンノ(このショートカット・ジャンプを決められれば、先頭集団にくらいつける……!)


 その葛藤がコース構築者の狙い通りであることを自覚しつつも、シンノは機体をジャンプ台へと向けた!


実況『ブラブランダ選手脱ら――おおっ!じゅ、10番ジョン・ドゥ選手がジャンプ台にっ!』


 ジェダイの駆るポッドレーサーは危険なジャンプ台に突入し、テイクオフ!
機体は放物線を描いて先頭集団直後の空白地帯に飛んでいくが、その速度は明らかに過大――


シンノ「――今だ!」ドウンッ


 フォース!ポッドレーサーが空中で急制動!
ついで着地し再度加速、先頭集団を追う!


実況『ジョ、ジョン・ドゥ選手ジャンプに成功――ッ!一体なんでしょうかあの動きはッ!?リパルサー・リフトを仕込んでいるのか――ッ!?』


 実況の興奮は観客へ伝播し、あっという間に10番は注目の的となる。
シンノはオーディエンスの狂熱を感じつつ、さらにアクセルを踏み込んだ。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/27(金) 13:05:23.62 ID:DU3yLuuF0

イシュメール「いいぞシンノォー!」ヤンヤヤンヤ

サラスタン「お、おいイシュメール……俺たち友達だよなあ?だからよ、やっぱりこの勝負は……」

イシュメール「うるせえ!黙って見てろ!」

ネーア(シンノめ、こんなバカバカしい見世物にフォースを使いよって……)ケッ

ミコア「ああ、でも、私……ユスカさんは彼のこと、心配ではなくって……?」ハラハラ

ユスカ「私?私は……あのポッドレーサー、私も一緒に整備したし……信用してるよ。シンノはジェダイだし、仲間だから」


 ユスカは思うままに答えていたが、その言葉は自分にとっても腑に落ちた気がした。


ユスカ「きっとお互いに信じ合えるから、どんな危ないことでも、辛いことでもできるんだと思う」

ミコア「信じあえる、仲間……仲間、ね。とてもいい言葉だわ」


 ミコアは目を伏せた。


ミコア「……かつて私のために死んだ者がいたけれど、彼と私は主従ではあっても仲間ではなかった……」

ユスカ「……もう、何黄昏てるのよ、お姫様」


 ユスカは彼女の手を握った。


ユスカ「ブラスター撃つしか能のない私にできたんだから、仲間なんてすぐ作れるよ。友達だって、ボーイフレンドだって、ね!」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/27(金) 13:05:57.33 ID:DU3yLuuF0

シンノ(見えた!先頭集団!)

カスタム弟「!兄者!」

カスタム兄「10番?何者だあいつは」

セブルバJr「ケエーッ!邪魔者が増えやがったか!」

シンノ(カスタム兄弟……セブルバJr……その先……)

オルフェ「……!」

シンノ(オルフェ……!)


 二人の視線が一瞬交錯したかに思われたそのとき、レーサーたちの視界が円形に狭まる。
コースを壁が塞いでいる。
そこに空いた狭いトンネルを通れというのだ!


オルフェ「……」グインッ

セブルバJr「ファック!」グインッ

カスタム兄「チッ」グインッ

シンノ「くそっ!」グルンッ


 四台はそろってトンネルに突入した。
焼けつくような日差しが一瞬遮られ、蒸し暑い空気に包まれる。


シンノ(こう狭くちゃあ追い抜きなんてできない、ただただ差が開くばかりだ……二週目のトンネルまでにオルフェを抜かなければならない!)


 先頭集団がトンネルを通過し、そのままスタートラインを通過する。
ワースト2位の選手がトンネル内で無謀な追い抜きを試み、周囲の二機を巻き込んでクラッシュ。
後続集団は全滅した。


実況『さあレースも後半戦!1位オルフェ、2位セブルバJr、3位カスタム兄弟、4位ジョン・ドゥ!勝負はこの四人のデスマッチに突入だーッ!』
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/04(土) 23:15:55.86 ID:NDUS5Wus0

シンノ「せえいッ!」グインッ!


 シンノは機体をほとんど横倒しにして石柱の間をすり抜け、スラローム地帯を減速無しで通過してみせた!


カスタム兄「馬鹿な!」

セブルバJr「何だとーッ!?」

実況『ジョン・ドゥまたもウルトラC!カスタム兄弟とセブルバJrをやすやすと抜き去ったーッ!』

オルフェ「……!」

シンノ(あとはジャンプ台でオルフェを抜いてトンネルまで逃げれば……!優勝は目前だ!)

オルフェ「フフッ……!」グインッ


 しかしそのとき、シンノの予測を裏切ってオルフェがジャンプ台へ向かう!


シンノ「な!?」

実況『おおーっとジョン・ドゥの成功に目がくらんだか!?オルフェがジャンプ台に挑戦だ!しかしこれはやや無謀――』


 フェザリオンが宙を舞う!
白と金の機体が穢れた大地を離れ飛翔する姿は荘厳ですらあったが、機体はやがて重力に引かれ、地表は殺人的な相対速度で迫る!


オルフェ「フンッ!」グインッ


 だがオルフェは巧みにハンドルを操り、絶妙な加減でスラストリバーサ装置を発動!
機体は地面に衝突して砂煙を上げるが再度浮遊し、白と金の機体は疾走する!
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/04(土) 23:18:51.14 ID:NDUS5Wus0

実況『オーマイゴッド!オルフェ選手のフェザリオン、ジャンプに成功!技量だけで危険なジャンプを成功させてみせましたーッ!』

シンノ「ク……クソッ!」グインッ


 シンノも悪態をつきつつジャンプ台に突入、1週目と同じくフォースで着地をこなしオルフェを追う。
その心中はひたすらの焦燥であった。
いくら睨みつけてもフェザリオンは走り続け、リードはいっこうに縮まらない!


シンノ(まずい、この先は追い抜き不能のトンネルがあるきりだ!この機体は所詮借り物、アフターバーナーなんかの尖った加速装置は積んじゃいないってのに……!) 

オルフェ「フッ……」


 そしてその後方では――


セブルバJr「オ、オルフェ……オルフェーッ!待ちやがれえーッ!」グインッ

実況『ジョン・ドゥに続いてセブルバJrが突入!行け!飛べ!レーサーたちよ!』


 セブルバJrがジャンプ台で飛翔!
無骨な機体を空中に躍らせたが、彼の操縦は繊細さを欠き、着地時の姿勢制御が不完全!
機体は思い切り地面にたたきつけられ爆発!
彼のかけていたゴーグルがポンと飛んで観客席に当たり、レンズを粉々に散らした。


実況『あああーっセブルバJrはジャンプに失敗!カスタム兄弟は――』

カスタム弟「やめておこう、兄者」スイー

カスタム兄「そうだな」スイー

実況『と、飛ばない……この慎重さが三位の秘訣……この臆病さが三位の原因!』
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/04(土) 23:20:22.60 ID:NDUS5Wus0

 平然と地上ルートを通るカスタム兄弟に観客からブーイングと罵声が浴びせられた。
それを聞いて、焦燥のうちにあったシンノがかろうじて理性を取り戻す。


シンノ(そうだ、俺は……俺はジェダイなんだ。最後まで真剣に戦わなければ……それでこそ、万に一つの――)


 シンノはアクセルを目いっぱいふかしてフェザリオンに食らいついた。
機体の性能差はいかんともしがたく、白金の機体はすでにトンネルに進入しつつあった。


オルフェ「!?」


 しかし途端にその機体はガタつき、一塊の煙を吹いて、後ろから引き戻されたかのように減速する。
ジャンプ着地時にエンジンが破損していたのだ!


シンノ(万に一つのチャンスを、ものにできる!)


 シンノはここぞとばかりに追い抜きをかけた。
狭いトンネル内、下手をすればクラッシュのところ、彼の選んだ道は壁!そして天井!
彼の機体は巧みな操縦技術のもとトンネル壁面を駆け上がり螺旋状にダッシュ、ついにはフェザリオンの前に着地!


実況『ジョ、ジョン・ドゥ、壁に張り付いてオルフェをかわしたーッ!』

シンノ(そしてこのまま!)

実況『そしてそのまま――』


 シンノの機体はゴールラインを通過。
フラッグが打ち振られる!


実況『ッゴーーールッ!謎の新星ジョン・ドゥ、ハナンカップを絶対王者からもぎ取ってみせましたーッ!』


 実況の絶叫とともに観客は完成の渦に包まれ、レース会場そのものが熱狂した。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/04(土) 23:22:02.45 ID:NDUS5Wus0

 同時刻、ハナン・シティ郊外の放牧地に一隻の宇宙船が着陸した。
刀剣じみたシャープな銀色のボディが、南国の日差しを眩しく照り返している。

 好奇心旺盛なクイナワ牛たちが、モウンモウンと鳴きながらそれに近づく。
そのうち一頭は船体の隅に刻まれた文字を見つけて臭いを嗅いだ。
古代ヤマタイト文字で「クラウソラス」とある。
この船の名前だ。

 やがて、何らかの噴出音とともに「クラウソラス」のランプドアが降りた。
クイナワ牛たちは興味深そうに視線を向けたが、たった一人の乗員がそこから姿を現したとたん、怯えて散り散りに逃げ去ってしまった。

 降りてきたのは、黒いローブに銀色の仮面の男。
照りつける太陽を見上げ、四つの黄色い目を不快そうに細める。


テイティス「……」


 そして浮遊するプローブ(探索)・ドロイドが三機、彼に続いて船内から出てきた。
事前に施されたプログラムに従って、空へ――ハナン・シティへと飛んでいく……
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/05(日) 02:12:12.93 ID:UbXsuFPV0
熱い展開だった
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/23(木) 19:12:50.04 ID:F3HiSG6V0

サラスタン「ケッ、面白くねえ!」ガチャッ!

運転手「ダイド様?」


 下卑たデザインのリムジンにサラスタンの男が乗り込み、シートに身を沈める。
憤懣やるかたないといった様子で近くの酒瓶を掴んで煽った後、運転手に向かってぼやく。


サラスタン「まさか……まさか勝ちやがるとは……約束は約束だが、よりによってイシュメールのツレにこんな大金を……!」

運転手「例の賭けに負けられたのですか?」

サラスタン「うるっせえ!早く金寄越しやがれ!」


 運転手は今一つ釈然としない顔で、助手席に置いてあった二つのカバンをサラスタンの男に渡した。


サラスタン「それも何かでけえことに使うならともかく、こんなハンマーヘッド野郎の店で戦闘機のエンジンだか何だか買うだけってんだからいよいよやりたくねえが……くそ!」


 やがてサラスタンの男は悪態をつきつつも、しぶしぶリムジンから降りて「賭けの勝者たち」のもとへ向かった。


運転手「……」


 運転手の男はそれを見送った後、ひそかに通信機を取り出す……
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/23(木) 19:13:40.13 ID:F3HiSG6V0

 サラスタンの男は憮然とした表情のまま、駐車場からジャンク屋の入口に向かう。
そこにいるのはシンノ、ユスカ、ネーア、イシュメール、ミコア、そしてアイソリアンの店主。
横ではクレーンに吊られたエンジンがスピーダートラックに積み込まれつつあった。


イシュメール「おっダイド、さすがにバックれて逃げ出すほど腐っちゃいなかったようだな」

サラスタン「うるせえ!勝手に持っていきやがれ!」ポイポイッ


 サラスタンの男は二つのカバンを彼らの足元に放り出し、そのまま踵を返してリムジンに戻る。


サラスタン「俺はもう帰るぜ、面白くねえ!呪われろ!地獄に落ちろ!」ズカズカ

ネーア「おお、どっしりしとるのう!重そうじゃのう!」ワクワク

ユスカ「一ついくら入ってんの、これ!?」ワクワク

ミコア「ネーアさん……ユスカさん……」シラー

イシュメール「エンジン代はカバン一つでいいかな。釣りはとっとけ、マスター!」ポイッ

アイソリアン『それはどうも』パシッ

シンノ「おい!勝手なことを!」

イシュメール「いいじゃねえか、天下のジェダイ様がケチケチすんなよ!」

アイソリアン『ジェダイ?』
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/23(木) 19:14:50.57 ID:F3HiSG6V0

クイナワン傭兵「「「ジェェェ――ダァァ――イッ!」」」キキキーッ!


 唐突に恨みのこもったシャウトとスピーダーのブレーキ・ターン音が鳴り響く!
一同がぎょっとしてその方向を見やると、そこにはテクニカル・スピーダーに分乗して猛然と迫るザイン軍団の姿!


シンノ「ザイン軍!?バカな、どこでここを!」

クイナワン傭兵A「てめえらのせいで俺たちのギャラがどれだけ!下がったと!思ってんだーッ!」ガチャッ ズドーンッ!


 やたら遠くから景気付けじみて発射されたロケット弾が煙を引いて飛来し、そそくさと逃げ出そうとしていたリムジンに着弾し爆発!
オモチャのように宙を舞う車体!ドアから飛び出して地面に転がったきり動かない二つの焼死体!


ユスカ「ぎゃああ!?あのキチガイサザエども!」

イシュメール「マ、マスター!その釣りでこのトラックも買うぜ!」

アイソリアン『少し足りませんな』

イシュメール「野郎、足元見やがって!もう一つ持ってけ意地汚いハンマーヘッドめ!」ポイッ

アイソリアン『これはどうも。キーです』パシッ ポイッ

イシュメール「よおしっ!皆荷台に乗れ!早く!」パシッ ガチャッバタンッ!

ネーア「やれやれ、あんなレースまでして真っ当に買い物したのに結局ドンパチなんじゃな……」ピョンッ

ユスカ「ブラスター突き付けてかっぱらうのと変わんないじゃない!」ピョンッ

ミコア「い、いけませんよそんなことは!?」ピョンッ

イシュメール「言ってる場合かああ――!」

シンノ「いいぜッ、出せ!」ピョンッ


 間髪入れず運転席のイシュメールが思い切りアクセルを踏み込み、猛然と走り出すスピーダートラック!
それを追うザイン軍のテクニカルスピーダー部隊!カーチェイスの始まりだ!


アイソリアン『……またどうぞ』
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/23(木) 19:16:24.59 ID:F3HiSG6V0

 疾走するスピーダートラック、それを追う三台のテクニカルスピーダー!
馬力は互角だが、後者は荷台にヘヴィブラスターを備えている――それが今、火を噴く!


クイナワン傭兵A「死ね――ッ!」ドガガガガガガガガ!

シンノ「せいっ!はあっ!こなくそ!」ブオンブオンチュインチュインチュイン!


 シンノはライトセーバーを扇風機のごとく振り回して飛来する光弾のことごとくを弾き飛ばす。
しかし一発一発の衝撃と発射ペースはブラスターピストルのそれを大きく上回っており、とても反射する余裕はない!


クイナワン傭兵A「フハハア!いつまで続くかな――ッ!?」ドガガガガガガガガ!

シンノ「うおおおお!ユスカッ!」ブオンブオンチュインチュインチュイン!

ユスカ「あたぼうよっ!」ジャキッ バシュバシュバシュ!


 ユスカの銃撃が先頭のテクニカルスピーダーの燃料タンクを撃ち抜く!
スピーダーはたちまち炎に包まれる!


クイナワン傭兵A「うおお!?バカなーっ!」


 先頭車両はスピンし脱落!あやうく回避する後続車両!


ユスカ「やったあ!お次の弾、っと!」カチャカチャ

ネーア「シンノ!今じゃ、お前もブラスターを!」

シンノ「ジェダイが銃なんて使えるか!」

ネーア「はあ!?ハクカじゃ使っとったじゃろそなた!」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/23(木) 19:20:19.00 ID:F3HiSG6V0

クイナワン傭兵B「野郎!もう容赦しねえ!」ジャキン ズドーンッ!


 再度放たれたロケット弾がスピーダートラックをめがけて飛来する!


ユスカ「わあああ!?シ、シンノ――っ!」

シンノ「フンッ……!」ググッ


 しかし荷台上のシンノが手を差しのべるやいなや、ロケット弾はその軌道をゆるやかに曲げる!
フォースの作用はその軌道をさらに曲げて……曲げて……


クイナワン傭兵B「な、何ィ――ッ!?」


 射手のテクニカルスピーダーに着弾した!
二台目のテクニカルも炎上し、後続の三両目を巻き込んでクラッシュ!


ミコア「ミサイルを操るだなんて……!」

ユスカ「さっすがあー!」ハイタッチ

シンノ「ざっとこんなもんよ!」ハイタッチ

ネーア(……シンノはこの二、三年で、思った以上にジェダイとしての自分に自信を持った……持ってしまったようじゃの。とりあえずこの場は凌げたからよいが……)

イシュメール「浮かれるのも結構ですがね、お客様方!このルートがバレた以上Wウィングの隠し場所は簡単にアタリつけられちまうぜ!すぐに次の追っ手が来ちまう!」

ネーア(言うほど凌げとらんようじゃのう)

シンノ「俺がどうにかする!とにかくWウィングに直行してくれ、一秒でも早く離陸するんだ!」


 スピーダートラックはハナン・シティ市街地を脱して郊外を走り抜ける。
近くを浮遊していた一機のプローブ・ドロイドがそれを探知して、不可解な暗号通信を発信した……
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/23(木) 19:41:56.53 ID:0V0xKqJ8o
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/23(木) 19:48:51.23 ID:F3HiSG6V0


 ――十分後、ハナン・シティ郊外の廃墟地帯!


セントリードロイドA『バンザイ!ザインサマ!』グオオッ

シンノ「ええい!」ブオンッ!

セントリードロイドA『ピガガー!』ズバッ ガラガラガシャ

セントリードロイドB『ザインサマ!バンザイ!バンザイ!』グオオッ

シンノ「次から!」ブオンッ!

セントリードロイドB『ピガガー!』ズバッ ガラガラガシャ

セントリードロイドC『バンザイ!バンザイ!ザイン・ザ・ハット!』グオオッ

シンノ「次へと!」ブオンッ!

セントリードロイドC『ピガガー!』ズバッ ガラガラガシャ


 シンノはザイン軍のドロイド部隊を相手取っていた。
その背後のビルの残骸の陰からはWウィングの尾翼が覗いている。
エンジン接続作業中のWウィングを守って戦っているのだ!


ネーア「気味の悪いドロイドどもじゃ!」バシュバシュ!

イシュメール「木偶人形どもが!食らいやがれ!」バシュバシュ!

セントリードロイドD『ザイン!ザ!ハットー!』チュインチュインチュイン!

イシュメール「効かねえ!?」

シンノ「やたら頑丈だなっ!」ブオンッ!

セントリードロイドD『ピガガー!』ズバッ ガラガラガシャ

シンノ「R3!ユスカ!エンジンの接続はまだか!?」

R3-C3『ピポポ ピポポ ポポピーポ』カチャカチャ

ユスカ「ごめん!あと一分だけ!」カチャカチャ

シンノ「くそっ!……ん!?」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/23(木) 19:49:44.85 ID:F3HiSG6V0

セントリードロイドE『ザ!ザ!ザ!ザイン!ザ!ハット!』グオオッ

セントリードロイドF『バンザイ!バンザイ!バンザイ!』グオオッ

セントリードロイドG『ザイン・ザ・ハット!バンザイ!ザイン・ザ・ハット!バンザイ!』グオオッ

セントリードロイドH『バンザイ!イダイナルザイン・ザ・ハット!』グオオッ

セントリードロイドI『イダイナルザイン・ザ・ハットニエイコウアレ!』グオオッ


 五機のセントリードロイドが徒党を組んで襲い来る!


シンノ「うおおおおッ!」ブオンブオンブオン!

セントリードロイドE『ピガガー!』ズバッ ガラガラガシャ

セントリードロイドF『ピガガー!』ズバッ ガラガラガシャ

セントリードロイドG『バ!バ!バ!』ガシッ

セントリードロイドH『バンザイ!』ガシッ

シンノ「しまった!」ググッ

シンノ(こ、こいつら頑丈なだけじゃなく力もやたら強い!)

イシュメール「やべえ!逃げろジェダイ!」バシュバシュ

セントリードロイドI『イダイナルザイン・ザ・ハットノタメニ!』チュインチュイン グオオッ

シンノ「うおっ……うおおおおッ!」ジタバタ


 シンノはクイナワに来て以来最大の危機に直面していた。
しかし次の瞬間!
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/23(木) 19:50:33.04 ID:F3HiSG6V0

セントリードロイドI『ピガガー!』ボカーンッ


 ブラスターキャノンの光弾が飛来し、ドロイドを吹き飛ばした!


シンノ「!?――今だ!」ゲシッ

セントリードロイドG『ピガッ!?』ズテッ

シンノ「食らえ!」ブオンッ

セントリードロイドH『ピガガー!』ズバッ ガラガラガシャ

シンノ「フンッ!」ドスッ

セントリードロイドG『ピガッ……』ガクッ

シンノ(ふう……しかしさっきのあれは、Wウィングの後部銃座か?いったい誰が操作を?)チラッ


 Wウィングの機体尾部、後部銃座に目をやるシンノ。
驚くべきことに、そこに座っていたのは荒事に疎いはずのミコア姫だった!


ミコア「当たった……!シンノ!これで私もあなたたちの仲間になれたかしら!」

シンノ「……!ああ、最高だ!」

ユスカ「シンノ!エンジンが付いたわ、私がブラスターで援護するから早く乗って!」タタタ

シンノ「わかった――!?」


 すべてがトントン拍子にいきかけたとき、シンノは駆け寄るユスカの背後から高速で接近する何かを見とめた。
――彼の鋭敏なフォース感覚は、「それ」の冷たく危険な気配を明確に察知していた。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/23(木) 19:51:08.06 ID:F3HiSG6V0

シンノ「伏せろォッ!」

ユスカ「!?」バッ


 地面に伏せたユスカの上を駆け抜ける「何か」――スピーダー・バイクに跨った黒いローブの男。
そのままシンノのほうへ来襲し、スピーダー・バイクから飛び降りて斬りかかった!赤い刃のライトセーバー!


シンノ「うおおっ!貴様は!?」チュインッ バチバチバチ!


 とっさにライトセーバーで受け止めるシンノ!
鍔迫り合いの向こう、ローブのフードの陰に光る銀色の仮面と四つの黄色い瞳!


テイティス「……我が名はダース・テイティス」バチバチバチ

テイティス「正統の、シスの暗黒卿が一人」バチバチバチ

シンノ「――シス、だと……!?」バチバチバチ
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/23(木) 22:54:27.86 ID:epv6DeUB0
なんか増えた
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/24(金) 19:20:54.00 ID:37Wy7K8v0

 シンノは敵を強引に押し返し、バックステップを踏んで間合いを取る。


ネーア「ややっ!?シンノ、そやつじゃ!そやつが、前に言ったザインの城に居た怪人ぞよ!」

シンノ「何!?こいつが……?」

テイティス「……」ユラリ


 シスを名乗る男はゆらりと両手を広げ、シンノを半身に迎え撃つ構えをとった。


シンノ(……あの構えは?マスター・ウィンドゥが似たような型を使っていたような……)

ネーア「シンノ!そやつの構えは『フォーム7』、『ジュヨー』!ダークサイドの力を引き出す攻撃的な構えじゃ!」

テイティス「……解説、ご苦労……次は、身をもって、知るがいい」ザッ


 テイティスは唸るような妙な声で言い捨て、幽鬼のごとくローブをはためかせて再度斬りかかった!


テイティス「フンッ!」ブオンッ

シンノ「くっ!」チュインッ

テイティス「フンッ!」ブオンッ

シンノ「ふっ!」チュインッ

テイティス「フンッ!ハアッ!」ブオンブオンッ

シンノ「チイッ……!」チュインチュインッ


 その口ぶりはハッタリではなく、熾烈な連続攻撃にシンノは防戦一方に追い込まれる。
攻撃偏重の戦闘は脇が甘くなりがちなものだが、幽鬼の太刀筋は苛烈でありながら緻密で、付け入る隙などまるでない!
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/24(金) 19:21:48.89 ID:37Wy7K8v0

ネーア(あやつ、なんという手練れ……攻めだけで言えばジェダイマスター級か?)

ネーア(シンノは防御重視のフォーム3の熟練者ゆえなんとか捌けておるが、リズマであればとっくに三枚おろしにされているところじゃろう……!)

イシュメール「ネーア!先にWウィングに乗れ!」

ネーア「む、わかったぞよ」ピョンッ タタタ


 ジェダイとシスの丁々発止のさなか、シンノを除いた一行の面々はWウィングに乗り込んだ。
操縦席のユスカがイグニッションスイッチを押すと、新しいエンジンは快い駆動音を上げて起動する。


ユスカ「よし、いい子。前よりいいくらいねっ!」グインッ


 ユスカが操縦桿とスロットルレバーを操作すると、Wウィングはぐんと上昇した。
機体は隠れ場所から脱して、加速しつつ緩やかにターンする。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/24(金) 19:23:23.41 ID:37Wy7K8v0

テイティス「フン!ハッ!」ブオンッブオンッ

シンノ「くうっ!」チュインチュインッ

テイティス「ぬうんッ」ゲシッ

シンノ「ぐはっ……!」ガクッ


 シンノがライトセーバーに気をとられた瞬間、鳩尾にテイティスの蹴りが食い込んだ。
シスは思わず片膝をついたシンノにライトセーバーを突きつけ、唸るような声で宣告する。


テイティス「これまでだな、ジェダイ……『ホロクロン』はいただいていくぞ」

シンノ「ホロクロン、だと……?」


 絶体絶命の瞬間、エンジン音が急速に接近した。


イシュメール「あそこだ、低く飛べ!」

ユスカ「わかってる!」グインッ


 ジェダイを救うべく、Wウィングが超低空で突入したのだ!
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/24(金) 19:24:26.50 ID:37Wy7K8v0

テイティス「何……!?」

シンノ「今だッ!」ドウンッ


 テイティスがそちらに目を向けた隙に、シンノがフォース・プッシュを放つ!


テイティス「貴様……!」ズザザザザッ

ネーア「シンノ!乗れーい!」

シンノ「はっ!」ピョーンッ


 テイティスを押しのけた後、間髪入れずフォース・ジャンプ!
直情を通り過ぎるWウィングの機体尾部、ネーアが手を振るランプドアに着地!


テイティス「ジェダイ……!」スッ


 テイティスは立ち上がり、飛び去るWウィングへ向け左手を突き出す。
すわ、フォース・ファイアーか?


テイティス「……」


 ……だが、何もしないまま手を下ろした。
シスは遠ざかっていくWウィングの機影を前にただ立ち尽くし、思い出したようにライトセーバーの刃を収めた。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/24(金) 19:25:13.69 ID:37Wy7K8v0

イシュメール「逃げ切ったか……!一体何だってんだ、あいつはよ?」

シンノ「……わからない……しかしジェダイの武芸に精通していた」

ネーア「決まっとるじゃろうが、シスぞよシス!妾以外にも傍流のシスがモゴモゴ」

シンノ「しいーっ……!」グイグイ

ユスカ「まさかとは思うけど、帝国の手先だったり……?」

シンノ「いや、もしそうだったらあいつ一人で襲ってくるはずはない。TIEファイターが二、三ダースはついてくるはず――」


 そのとき、タイミングよく対空レーダーが警報音を鳴らした!


シンノ「TIEファイターか!?」

ユスカ「違う!この反応は……スカイホッパー!」

イシュメール「ザイン軍の戦闘機だ!数は!?」

ユスカ「えっと、二機――うわっ、後ろにもう一機!」

シンノ「急降下で振り切れユスカ!」

ユスカ「了解っ!」グインッ


 泡を食ったように急降下に入るWウィングに、ザイン軍の戦闘機が追いすがる!
反乱軍の精鋭パイロットであるユスカとクイナワ人の傭兵では力量差があるが、ユスカは大型機の操縦に不慣れでありなかなか振り切れない!
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/24(金) 19:26:16.31 ID:37Wy7K8v0

ユスカ「ああもう、しつこいなあ!」グインッグインッ

シンノ「ユスカ!操縦を替わ――うおおっ!」


 シンノが急降下する機内を苦労して歩き始めたとき、背後のザイン軍スカイホッパーがめくら撃ちした光弾がリフレクターを掠めた!
機体が振動し、シンノは転倒し頭をシートの肩部分に強打!


シンノ「ぐおおおお!痛ってえ!」ジタバタ

ユスカ「シンノ!?」

イシュメール「集中しろユスカ!」

ユスカ「えっ!?うわあっ!」


 ぴったりと後ろについたスカイホッパーがWウィングに照準を定める――
しかしその刹那、Wウィングの後部銃座が火を噴いた!
スカイホッパーは主翼の一部が弾け飛んで、黒煙を引いて墜落していく……


ミコア「やった!また当たったわ!」

ユスカ「ミコア姫!?――よおし、私だって!」


 しばしの猶予時間を得たユスカは機体の姿勢を立て直し、巧みなローリングで残る二機の背後に回り込む!


ユスカ「いい加減この飛行機にも慣れたんだからっ!」カチッ


 二手に分かれて回避しようとしたザイン軍機だったが、ユスカの的確な射撃は二機を立て続けに撃ち抜いた。
一機はその場で木っ端みじんに吹き飛び、もう一機は羊雲を突き抜けてゆっくりと海面に墜ちていった……
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/24(金) 19:28:49.94 ID:37Wy7K8v0

ユスカ「やった!撃墜マークプラス2、っと!」キャッキャ

イシュメール(……こいつ、カタギ相手の殺しはあんだけ嫌がるわりに、兵士が相手だと全然罪悪感無いんだな……)

ネーア「やったな!……ん?何か忘れとるような」

ユスカ「あっそうだ、シンノ!シンノ、大丈夫!?」

シンノ「な、なんとか……スカイホッパーは全部撃ち落としたか、よかったよかった……痛てて」ズキズキ

ユスカ「頭打ったの!?ほんとに大丈夫!?」

シンノ「基地に戻ったら、一応医者に診てもらうとするよ……」

イシュメール「ん?このまま基地に戻るのか?」

シンノ「ああ。今のところ調子はいいが、新しいエンジンに不具合が出たりしたら困るからな……途中でよけりゃ下ろしていくが?」

イシュメール「おいおい勘弁してくれ、ハナン・シティとリシュー以外の田舎町からじゃこの星から出ることだってできねえ!ザイン軍に捕まって殺されるかこの暑さで行き倒れて死ぬかがオチだ!……そ、れ、に!」


 イシュメールはシートに腰かけ、チッチッチと人差し指を動かしてにやりと笑う。


イシュメール「忘れてもらっちゃ困るが、あんたらにはまだ借りを返してもらってないからな」

シンノ「借り?助けたことなら気にしないでくれていいぞ、俺の趣味だ」

イシュメール「かっけえ!って、そうじゃねえ!あんたらから俺への借りだ!ハナンであんたらに金づるを斡旋した分だよ!」

ユスカ「ッはあああ〜〜〜!?あんた、命救ってもらった相手にまだそんなケチな言いがかりつけようっての!?本っっっ当真性のバカね!?」

イシュメール「何とでも言え!だが俺を放り出そうもんならあんたらの情報を帝国軍にタレこむかもな!?」

ネーア「もう駄目じゃこいつ、殺そう」

シンノ「お前は俺に似たような脅迫してきたことあっただろうが」

ネーア「記憶にないぞよ☆」キャルン

ミコア「今更投げ出すなんて許しません!イシュメールさんを下すなら私も下ろしてもらいますよ!」プンスカ

イシュメール「ほら、プリンセスもこう仰ってる」

ミコア「だまらっしゃい!あなたはあなたで大問題です!恩義というものが解せないのですか、この下衆!恥を知りなさい恥を!」プンスカ

イシュメール「うおおい!?ちょ、ちょっと待ってくれ!わかった、俺が言葉足らずだったぜ、話を聞いてくれ!あとユスカちゃんブラスターは駄目だ、やめてくれ!」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/24(金) 19:30:05.17 ID:37Wy7K8v0

 ユスカはホルスターに伸ばしていた手をしぶしぶ操縦桿に戻した。
イシュメールはシートに座りなおしてから、再度交渉に臨む。


イシュメール「な、何も金目のもんをタダで寄越せって言うつもりはねえんだ。ただ、商売の相手になってほしいのさ」

シンノ「商売?」

イシュメール「俺はスパイス商人を名乗ってたが、スパイスはビジネスの選択肢の一つにすぎねえ。取引の材料はどこにでも転がってるってのが俺の信条だ」

イシュメール「これからおたくらの基地に行くらしいが、その基地にゃ何か売れそうなものがあるんじゃないのかね?」

ユスカ「戦闘機を売れとでも?」スッ

イシュメール「だからブラスターはやめろ!必要なもんを売れとは言わねえ、使わねえもんで売れそうなもんがねえかって言ってんだ!」

ユスカ「はあ……あのねえ、この際だから言うけど、私たちは国家予算使い放題の帝国軍とは違うの。生活だって毎日毎日カツカツなんだから」

シンノ「そうだな……売れそうなものなんて何も……」

ネーア「え?あの基地の外に山積みになってる角材とかは売れんのか?」

イシュメール「それだっ!ネーアちゃん!それだよ!」スック


 イシュメールは唐突に立ち上がり、ネーアの肩をばんばん叩いた。


ネーア「何じゃそなた、ウザいな」

イシュメール「クイナワで角材って言ったらチュクチャク木材だろ!?俺はそいつを高値で買ってくれる業者を知ってるぜ!」

ミコア「あの、チュクチャク木材とは……?」

シンノ「半導体か何かの原料になるらしい、特別な木だよ。クイナワにしか生えてないとかなんとか」

シンノ「……しかし、本当か……?」ヒソヒソ

ユスカ「なんか胡散臭くない……?」ヒソヒソ

イシュメール「シャラップ!あんたらが俺のコネで木材を売る、あんたらは金を手に入れ、ついでに俺はその船に乗ってこの星からおさらばする!完璧な計画だろうが!」

シンノ「マージン取るんじゃないだろうな」

イシュメール「当然取る!」

ユスカ「もはや清々しいわねこいつ……」

イシュメール「まあまあ、哀れな俺っちに当座の生活資金を恵むと思って!」

ミコア「手切れ金、かしら」ハア

イシュメール「なんだっていいさ!さあ久々の商いだ、気合入ってきたぜえ〜!」

シンノ「言っとくが、まだやると決まったわけじゃない!俺たちの上司、シカーグ将軍の許可が出たらだからな!」

シンノ(……ミコア姫を無事に救出したはいいが、厄介者を招き入れてしまったかもしれん。ままならんものだ……)ハア

イシュメール「がっはっはっはっは!いざ!ビジネース!」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/24(金) 22:08:34.65 ID:HRZmP4tx0
更新あってうれしひ
ネーアの出番よもっと
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/29(水) 19:20:15.00 ID:ohoPmnm60

シンノ「――『フォース・ファイアー』?」

ネーア「うむ、ダークサイドの奥義の一つぞよ。例の謎のシス――テイティスが、ザインの城で使ってみせた技じゃ……モグモグ」


 数日後、反乱軍秘密基地。
資材置き場の隅、防水シートのかかったチュクチャク木材の山の上にジェダイとシスが腰かけていた。
敷地の外に茂る木の枝葉の陰が二人を南国の日差しから隔てていて、ネーアは涼しげな顔でチョコレート・バーをかじっている。
相変わらず口の周りはベトベトだ。


シンノ「だから汚ねえって」ゴシゴシ

ネーア「モゴモゴ」

シンノ「……それで?どんな技なんだ、その何とかファイアーってのは」

ネーア「その名の通り、ダークサイドのフォースを炎に変えて放つ技じゃ。『フォース・ライトニング』――わらわがよく使うやつじゃ――と違って、ライトセーバーで防ぐことができん……モグモグ」

シンノ「ライトセーバーが通用しないのか……!?」

ネーア「うむ、いくらセーバーを振りかざそうが二、三秒でローストジェダイにされてジ・エンドじゃろうな……モグモグ」

ネーア「……というと最強の必殺技みたいじゃが、実際はライトニングより無駄が多くて燃費が悪いし、何より扱いが物凄く難しいんじゃ」


 ネーアはチョコレート・バーの最後のひとかけらを口に放り込むと、手のひらを上向けて何やら力みだした。


ネーア「ふうんっ!……ぬううんっ!……駄目じゃ、出んわ。昔はライター代わりくらいにはなったんじゃが」

シンノ「……奴がそんな技を持っていたとは……なぜハナンで俺に使わなかったんだろう?そんなとんでもない隠し玉を出されていたら、それこそ俺は今頃ローストジェダイだ」

ネーア「出し惜しみしたか……いや、わらわには軽々しく使っとるな。手加減されてたとかじゃろうか?」

シンノ「手加減?なぜだ?」

ネーア「知らん、適当に言っただけじゃ……まあ、いかな『ファイアー』といえど常に動き回っていれば当たらんし、物陰に隠れれば凌げる。『ライトニング』のように壁を素通りしたりはせんからのう」

シンノ「『ライトニング』は壁を貫通するのか!?」

ネーア「あー、この前貫通しないようになったんじゃった。大丈夫ぞよ」

シンノ(わけがわからん)

ネーア「……とにかく、もしテイティスとまた戦うことになったら、『ファイアー』に十分注意することじゃ」

ネーア「かといって怯えるな、炎は奴の手からしか出ないのじゃ。尻から出たりはせん。相手の動きをよく見れば十分対応できる技ぞよ」

シンノ「わかった……しかし、奴はどうやってそんな技を習得したんだろう?」

ネーア「……うーむ。とにかく難しい技じゃからホロクロン使って独学で、とはいかんじゃろうな」

シンノ「ホロクロン……」


 シンノの脳裏にテイティスの言葉がフラッシュバックする。
ホロクロンとは、ジェダイやシスが用いる情報記憶装置である。
通常手のひら大のアーティファクトで、フォースを用いることで内部の情報を引き出すことができるのだ。
ジェダイやシスがその中に教習動画を込めるのはよくあることだった。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/29(水) 19:21:25.73 ID:ohoPmnm60

シンノ「……というと、誰かに教わったってことか?つまり……他のシスに」

ネーア「じゃろうな。しかしとにかく難しい技じゃからな、あれほど火力のある『ファイアー』を教えられるというのはとんでもない使い手じゃろう」

シンノ「あいつのほかにもそんな強者が……!?」

ネーア「もう死んどる可能性もあるがのう」

シンノ「……反乱軍のデータベースで『モール』とかいうダークサイダーの情報を見たことがあるが……奴は皇帝に使い潰されたようなものだったはず。そんな高等技術を持っていたとは思えん」

ネーア「ふうむ……そういえば、二代前の『ダース・グレイヴス』は『ファイアー』が得意じゃった、というのは先代から聞いた覚えがあるな」

シンノ「お前の二代前……お前、五百年眠ってたんだよな?」

ネーア「うむ。その二代前となると、ざっと六百年以上前じゃな」

シンノ「ううん……グレイヴスがマスター・ヨーダ並みに長寿な種族だったならギリギリ、テイティスにバトンタッチできるか……?」

ネーア「グレイヴスはヒューマノイド、人間だったらしいぞよ。だいたい、どんな長寿な種族でも六百年経てばヨボヨボじゃ。新しく弟子をとるなんて無理じゃろ」

シンノ「じゃあ年代が合わないな、グレイヴス黒幕説はないか……」

ミコア「お二方?」


 不意に声がかけられる。
二人が木材の山の上から見下ろすと、ぶかぶかの作業服に身を包んだミコア姫がいた。


ミコア「なんの話をしていらっしゃるんですの?」

シンノ「ああ、例のテイティスとかいう妙な男の正体について推理を……それより、その格好は?」

ミコア「この服は反乱軍の方からお借りしましたわ。木材搬出作業の手伝いを買って出ましたの!」


 ミコアはえへん、と誇らしげに胸を張った。
 

ネーア「へええー、プリンセスが!感心なことじゃの!」

ミコア「特別扱いされるのは嫌なのです。ザインの城から救い出してもらった御恩、一人の仲間として働くことでお返しします!」

シンノ「はは……怪我だけはしないよう気を付けてくださいよ、大切なお体だ」


 シンノの胸にちくりと罪悪感が差す。
反乱軍はなにも正義感だけで動いたわけではなく、彼女を外交カードとして確保した一面もあるのだ。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/29(水) 19:22:05.82 ID:ohoPmnm60

ミコア「心配ご無用ですわ。シカーグ将軍にも話は通してありますの」

ネーア「ははあ、いかにもあのマンダロリアンが喜びそうな話じゃの」

シンノ「あの人も戦いになれば真っ先にジェットパック背負って飛び出すような行動派だからな……」

ミコア「あら、アグレッシブな方なのね……さあ、そこから降りてくださいな!防水シートをどけますから」

シンノ「はいよ」ピョンッ

ネーア「張り切っとるのう」ピョンッ

イシュメール「積み込み遅いよ!何やってんの!」


 二人が木材の山から下りたとき、資材置き場の対角のあたりから催促の声が聞こえてくる。


ネーア「……あっちも張り切っとるのう」

シンノ「……なんだかなあ……」


 シンノはそちらを不安げに見やる。
そこにはイシュメールが呼び寄せた闇商人の宇宙船が着陸していて、フォークリフトに似た搬出機械が出入りしていた。
その近くではイシュメールがメガホンで反乱軍兵士たちに指示を飛ばしていて、宇宙船の横ではシカーグ将軍とバヤット副官が何やら言い争いをしている。


バヤット「こんな取引は絶対に反対です!どこから帝国軍に情報が洩れるか……今すぐこの胡散臭い商売人どもを拘束しましょう、そうすれば安全は保たれる!」

シカーグ「ええい、そもそもこの基地は恒久的な拠点の候補地を探すまでの仮住まいに過ぎないんだぞ、バヤット」

シカーグ「その候補地はもう二つ三つ見つかっている、もし露見すればすぐにケツをまくる準備だってしてある。問題は新しい基地を設営するための資金が不足していることなんだ」

バヤット「金のために仲間を危険にさらすのですか!?」

シカーグ「考えてもみろ、ハクカを出て以来我々に安息の地はなかった。いかに南国でバカンスをしようと、この流浪の旅が続く限り士気はある程度で頭打ちだ。それが解決するチャンスなんだぞ」

シカーグ「一つ本格的な拠点を構えられればQC星系の同盟軍の活動も一本化され、ベース1の部隊とも連携が図れる。ここはリスクを冒すべきなんだ……」


 以前はバヤットが攻撃を主張し、シカーグがそれを否定していたが、今回は保守・革新が逆転した形らしかった。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/29(水) 19:23:14.52 ID:ohoPmnm60

 やがて、シンノたちが腰かけていた材木もフォークリフトめいた運搬機械によって宇宙船に運び込まれていく。
ジェダイはそれを見やりつつ、シスを相手に不安を漏らした。


シンノ「……今回ばかりはバヤットにも一理あるな。イシュメールを連れ込んでしまった俺が言うのもなんだが……」

ネーア「だからとっとと殺してしまえばいいというに……」

シンノ「ダークサイドを抑えろ。……しかしどうも、反乱同盟軍内部の政治も絡んでるらしいぞ」

ネーア「内部の?……ふむ、反帝国勢力も一枚岩ではない、ということか」

シンノ「ああ。ソウ・ゲレラやらジッキンデンやら、テロまがいの暗殺と破壊工作をホイホイやるような連中もいる」

シンノ「シカーグ将軍はそういう連中と距離を置いているからな、他の穏健派との兼ね合いの都合上、あまりあくどいことはできんのさ」

ネーア「はあー、面倒くさいのう。その点シスはスマートじゃがな、二人しかおらんから政治なんぞ必要ないぞよ」

シンノ「その二人で殺しあってりゃ世話はない……ん?」


 材木の積み込みが終わったころ、思いがけずイシュメールがシンノのほうへ近づいてきた。


イシュメール「ジェダイ殿!いやあ世話になったな、お暇を言いに来たぜ!」

シンノ「まったくだ、ザインの城で助けてやったばっかりにここまで面倒なことになるとは……」ハア

イシュメール「そう言いなさんなって!あんたらはゴミをはけて金をゲット、俺はマージンと脱出手段をゲット!誰も損なんてしてねえだろ!」

シンノ「これからするかもしれないだろう……とにかく、取引に応じたんだからな。帝国軍にここのことを喋ってくれるなよ、絶対に!」

イシュメール「わかってらあ、それじゃあな!」


 イシュメールはやたら軽い口調でそう応じて、宇宙船のほうへ駆け戻る。
紙幣が詰まっていると思しきジュラルミンケースを船内から持ち出して、シカーグとバヤットの間に割り込みそれを押し付けた。


シンノ「……いくら抜かれているかな」

ネーア「半分残ってりゃいいんじゃが」


 イシュメールと闇商人たちが乗り込むと、宇宙船はすぐに離陸した。
シンノとネーア、シカーグとバヤット、そのほか多くの反乱軍兵士が見上げる中、宇宙船は高度を上げて空の高みに消えていく。


シンノ(イシュメール……いくらかの金と、たっぷりの不安を残していったな……)

シンノ(……そして……ホロクロン、か……)
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/29(水) 19:24:23.42 ID:ohoPmnm60

 惑星ヤマタイティア衛星軌道上、帝国軍要塞「ダン・ザ・フロー」の一室。


マーズ「ぐはっ……!」ドタッ


 ジヒス・マーズは足を払われ転倒した。
ぱっと後転して間合いを取り立ち上がろうとするが、それを見透かしたように赤いライトセーバーが突きつけられ、彼女は思わず動きを止める。


マーズ「……!」

ナイン「……」


 ライトセーバーの主は黒い装甲服の男、帝国尋問官ナインス・ブラザーだ。
ダークジェダイ同士のスパーリングは彼に軍配が上がった。


タクージン「――ワハハ、勝負あったな!」パチパチ

ワイマッグ「そのようですな……いやはやさすがは尋問官殿です」


 傍から見ていたタクージン提督が喜色満面で手を叩く。
その横でセード・ワイマッグがおだてるような口を利いた。


マーズ「まったくお強い……」


 マーズも追従したが、その言葉はまったくの世辞というわけでもなかった。
彼女は全力でこの立ち会いに臨んだが、ナインに一太刀も入れることは叶わなかったのだ。
対してマーズの軍服はあちこちにうっすらと焦げ跡を残している。
ライトセーバーの出力が抑えられていなければ、彼女はすでに細切れにされていただろう。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/29(水) 19:25:27.16 ID:ohoPmnm60

タクージン「しかしワイマッグ、お前の子飼いもなかなかのもんじゃないか、ええ?」

ワイマッグ「ははは、ラグナロク戦以来私が直々に鍛えなおしましたので」

サギ「失礼しますゥ……提督、興味深い情報が手に入りましたァ」


 そのときトレーニング・ルームに入ってきたのは、帝国保安局のエージェント・サギだ。


タクージン「サギか。興味深い情報だと?」

サギ「はいィ……ヤマタイト王国の諜報機関からなのですがァ……」

タクージン「ヤマタイトの?バカな!帝国の操り人形が、人形師である我々を出し抜くなど……まあいい。どういう情報だ?」

サギ「『惑星クイナワのマスドライバー施設跡地に反乱軍の基地がある』……とォ」

タクージン「……何?」


 マンダロリアンの将軍の目がきらりと光った。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/31(金) 23:20:10.37 ID:jx0aYwHh0

ドロイド「」ピュン!ピュン!ピュン!

リズマ「ふっ!ふっ!ふんっ!」ピシピシ!ピシッ!

ドロイド「」ピュン!ピュン!ピュン!

リズマ「ふんっ!はっ!はあっ!」ピシ!ピシピシッ!


 いつも変わらない南国の日差しの下、リズマはトレーニング・ドロイドを相手にライトセーバーを振るう。
その剣さばきはシンノの教練とここ数日の自主練習により、以前のそれより格段に洗練されたものとなっている。


ドロイド「」ピュン!

リズマ「これで最後!」ピシンッ!

ドロイド「!」バチッ ボトリ


 反射した訓練用レーザーがドロイドを撃ち落とし、トレーニングは終了する。
リズマはドロイドを拾い上げ、パラソルの下に座っているマスターのほうへ向き直った。


リズマ「どうでしょうか、マスター……?」

シンノ「……うん、仕上がったな」


 シンノはそう言って感慨深そうに頷き、立ち上がった。
服の裾を払い、咳ばらいを一つして、しかつめらしい顔で告げる。


シンノ「……リズマ・ショーニン」

シンノ「お前を正式に、ジェダイ・ナイトに任ずる」

リズマ「……!」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/31(金) 23:21:25.10 ID:jx0aYwHh0

シンノ「……フフ、ハハハ」


 告げてから少し気恥しくなり、誤魔化すように笑って。


シンノ「マスターじゃなく一介のナイト……それも俺のような不甲斐ない奴から認められても嬉しくないかもしれないが、ほかに認めてやる奴もいないだろうしな。とりあえずの一区切りってとこだ」

リズマ「いえ、そんな……そんなこと!嬉しいです、とっても嬉しいです!マスター!」ギュッ


 リズマは喜びのあまりシンノに抱きついた。


シンノ「お、おい……!」

リズマ「ありがとうございます、マスター……!」ギューッ

シンノ「わかった!わかったから離れろ!」

リズマ「あっ……!も、申し訳ありません……」パッ


 リズマはようやく我に返ってシンノを離し、照れくさそうに顔を赤らめる。


シンノ「ざ、残酷なようだが、ジェダイは喜びの感情も制御しなければならないんだ……」

リズマ「……面目ないです……」


 シンノは彼女をたしなめたが、彼自身の胸の鼓動もかなり早まっていた。
幼い頃からジェダイ騎士団で禁欲生活を送ってきた彼にとっては、リズマの体の感触一つでさえ強すぎる刺激なのだ。


リズマ「……ああ!やっとナイトになれたのにこんなことでは……!もう少しドロイドを使わせていただきます!」

シンノ「う、うん。あまり根を詰めすぎるなよ……」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/31(金) 23:24:00.54 ID:jx0aYwHh0

 リズマがドロイド・トレーニングを再開するいっぽう、シンノはその場を後にする。
パラソルの下を通り過ぎ、高い空を飛ぶ四枚羽根の海鳥シイヨークを見上げつつ、古い防波堤に飛び乗って南国の風に身をさらした。


シンノ「……」

ネーア「おいシンノ」


 パラソルの下から這い出したシスが、下からじろりと睨む。


ネーア「今のラブコメを見せるために妾をクイナワくんだりまで連れてきたのか?」

シンノ「んなわけあるか!今のあれは……ちょっとしたトラブルだ」

ネーア「やっぱりラブコメぞよ。ていうかまたジェダイナイト増えとるし!もうジェダイはいいじゃろ、何百年天下とってたんじゃ!」

シンノ「シスにだけは言われたくない。今のお前らの天下は一秒でも早く終わらせてやるからな!」

ネーア「そーんなこと言っちゃってェー。そなたもシスになればその股座でビンビンになってるブツを解き放てるというに――」

シンノ「ビンビンなもんか、俺はジェダイだぞ!……ん?」


 シンノがシス・ジョークをはねつけたとき、遠くに臨む反乱軍基地に見慣れない宇宙船が着陸しているのが彼の目に入った。
チュクチャク木材を買いつけたものとは違うが、同じような闇商人の船だろう。
シンノはその積み荷に見当がついた。


シンノ「ターボレーザー・ジャマーが届いたみたいだな」

ネーア「ターボ……何じゃって?」ヒョコ

シンノ「ターボレーザー・ジャマー、特別な加工がされた大量の金属片だ。宇宙にばらまいて敵のレーザー砲を散らす防御兵器らしい」

シンノ「シカーグ将軍がこないだの臨時収入の一部を使って闇マーケットから買いつけたんだとよ」

ネーア「すごいもんが手に入るもんじゃのう。帝国軍の横流し品か何かじゃろうか?」

シンノ「いや、主に出回ってるのは分離主義者が作ったもんらしいな。戦時中か、戦後残党が作ったもんかはわからないが」

ネーア「残党?……ああ、そういえば、QC星系はブンリシュギシャとやらの残党が多いとは聞くのう」

シンノ「ああ、それもジャマーみたいな高度な兵器を作れる連中がうじゃうじゃいる。そういう物騒なところだからこそ、俺たちも隠れていられるんだろうが……」

シンノ「じゃあ俺は、ちょいとジャマーの実物を見に行ってくるかな」ピョンッ

ネーア「ふーん……妾はパスぞよ」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/31(金) 23:25:21.99 ID:jx0aYwHh0

 つまらなそうな顔でパラソルの下に戻るネーアを置いて、シンノは海岸の道を歩いて反乱軍基地に向かう。


シンノ「……ん?」


 しかしその途中で彼は足を止めた。
海岸に座って、一人で海を眺めている人影。
作業着姿のミコア姫だ。


シンノ「ミコア姫!」

ミコア「!ああ、シンノですか」

シンノ「その恰好からすると、今日も何かお手伝いをしてらっしゃったので?」

ミコア「ええ、今は少し休憩しているところで」ニコリ

シンノ「そうでしたか。隣、失礼しますよ」


 気品のいい笑顔を浮かべるミコア姫。
シンノはその横に座ると、気になっていたことを尋ねることにした。


シンノ「……ミコア姫。『ホロクロン』をご存知ですか?」

ミコア「!……ホロクロン……」


 ミコア姫はそれを聞くと、胸元を探った。


ミコア「こういうもののこと、でしょうか」スッ


 そこから取り出したのは、緑色のガラスめいた物質で造られた三角錐型のアーティファクト。
まぎれもなくホロクロンだった。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/31(金) 23:26:08.79 ID:jx0aYwHh0

シンノ「やはりあなたがお持ちでしたか……」

ミコア「やはり、とは?」

シンノ「……ハナンを出発する直前に襲ってきた謎のライトセーバー使い、覚えておいでですか?」

ミコア「……ええ。黒いローブに、銀の仮面の……」

シンノ「あやつが自分の目的は『ホロクロン』であると漏らしていたのです。しかし私や仲間は持っていませんし、イシュメールも持っていそうにありませんでしたので……」

ミコア「……黙っていたことは謝ります」

シンノ「いえ、そういうわけではありませんが……」

ミコア「これのことはザインにも隠し通しました……しかしこの際です、お話ししましょう」


 ミコアはホロクロンを握ったまま、遠く、海の向こうを見やった。


ミコア「このホロクロンには、ヤマタイトの秘密が詰まっているのです。ヤマタイト王族の、フォース感応者としての技術が」

シンノ「……フォース感応者としての……!?それはジェダイの――」

ミコア「ジェダイと、シスの技です」

ミコア「そしてヤマタイトの始祖は、そのシスの暗黒卿が一人――ダース・グレイヴス」

シンノ「な……」

ミコア「……当然、このホロクロンに記録された技術は暗黒面のもの」

ミコア「死者の意識を大いなるフォースから呼び戻し、蘇らせる技さえ収められていると伝わっています……かの襲撃者は、それを狙っていたのかと」

ミコア「もっとも、王族のフォースの適性は代を重ねるごとに衰え……もはや今の私には、これを使いこなす力はありませんが」


 シンノは絶句した。
ヤマタイトの起源。ホロクロンに収められた禁断の技。
そして再び彼の前に現れた、ダース・グレイヴスの名前。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/31(金) 23:27:10.04 ID:jx0aYwHh0

 ――その衝撃も冷めやらぬうちに。


ミコア「――!」パッ

シンノ「――!?」パッ


 二人は同時に上を見上げた。
雲のない晴れた空のかなたに、クサビ形の物体が八つ、唐突に出現した。
シンノの脳裏にかつて惑星キイで見た景色が浮かび、重なった。


シンノ「――スター・デストロイヤー……帝国軍だ!」


 それも八隻となれば、インペリアル級四隻からなる第一艦隊と、ヴェネター級四隻からなる第二艦隊の全力出動だ。
なぜ奴らがここに来る?どこからここの情報が漏れたのか?
シンノに推測しうる情報源は一つしかなかった。


シンノ(……イシュ、メール……イシュメール!ここを、帝国に喋ったのか!)


 ジェダイとしての自制心が怒りに塗りつぶされ、胸の中で激情が燃え上がる。


シンノ(おのれ……!あいつなど、あいつなど助けなければ……)

シンノ(あいつを、ザインの城で、殺しておけば!)

ミコア「シンノ!基地に戻りますよ!」

シンノ「ッ……わかっています!」


 二人は海岸の道を走り、にわかに騒がしくなった基地の中へと駆け戻る……
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/01(土) 02:55:33.09 ID:ju5KDimp0
ティンティンから怒りを解き放ちそうでつね
今日から君もシスに
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/01(土) 05:23:06.18 ID:yH0rLV3mO
風花「副作用には気をつけて下さいね!…シモッチって何かしら?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1530920009/
茜「不屈の魂、夢ではありません!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1531525117/
摩美々「まみみのホーム・アローン、始まるよー」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1533339190/
のり子「青コーナー、キィィングティィレッスルゥゥゥ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1533946743/
里美「お、お兄様…?里美はここにいますよ〜?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1535154609/
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 19:32:30.40 ID:8EnIZkzC0

 クイナワ上空に展開する艦隊のうちの一隻、インペリアル級スター・デストロイヤー「インフェルノ」。
この艦は銀河帝国QC方面軍第一艦隊の旗艦であり、タクージン・シカーグ総督が座上している今、その艦橋はQC帝国軍の最高司令部に等しい。


航海科士官「ハイパードライブ冷却完了。エネルギー系統、戦闘態勢へ移行」

砲科士官「ターボレーザー、ミサイルランチャー、全砲門準備よし。リフレクターシステムオールグリーン」

タクージン「ぬっふっふっふっふ、よしよし……戦闘準備完了、今やこの艦隊は抜身のカタナ同然。使いどころさえ間違えなければ、一撃で奴らの首を切り落とす……」


 艦橋前面の大窓からクイナワを見下ろすタクージン総督。
彼は赤いマンダロリアン・アーマー姿で、同じ鎧の近衛兵を四人従えていた。
その横には尋問官ナインス・ブラザーもいる。


タクージン「さて、衛星軌道上からの砲撃でやつらを巣穴ごと消毒してやりたいところだが……」

ナイン「……しかし総督、QC反乱軍の首領は……」

タクージン「おうとも。テダッフ・シカーグ――最高に愛おしく最高に憎たらしい、我が弟よ」

電子科士官「敵拠点上空にリフレクターの展開を確認!」

タクージン「おやおや、言わんことじゃないな。手際のいいことだ」

ナイン「……この規模での奇襲を想定し、事前に対応を定めていた……」

タクージン「やはりそう簡単にはいかんか、弟よ……面白くなってきた!マンダロリアンの血がうずくわ!」


 タクージン総督は興奮を露わにしつつも的確に指示を飛ばす。


タクージン「第二艦隊を大気圏内に降下させ、エージェント・サギ指揮下のウォーカー部隊を発進させろ。地上戦でリフレクター発生源を破壊するんだ!……ホイゼル艦隊司令!」

ホイゼル「はっ!」

タクージン「我々とナインス・ブラザーは『ゾディアック』で出る。指揮は任せたぞ!」

ホイゼル「お任せください!」


 タクージン総督はT字スリットのヘルメットを被り、近衛兵とナインス・ブラザーを引き連れて艦橋を出た。
帝国の高官である彼自身が前線に出るつもりなのだ!


タクージン(シカーグ……我々の因縁は戦場でしか解決されない。我々はマンダロリアンなのだから!)


 マンダロリアンたちとダーク・ジェダイを乗せたエレベーターは格納庫へ向け降下していく。
タクージン総督は血沸き肉躍る戦いへの期待に胸を高鳴らせ、自らの氏族に伝わる武器を取り出し、握りしめた。
――黄金の光刃がその先端から迸った。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 19:34:41.81 ID:8EnIZkzC0

シンノ「シカーグ将軍!」ガチャッ

リズマ「将軍!状況は!?」


 シンノとリズマはあわただしく司令部に駆け込み、帝国軍の襲来に騒然とする面々の中に指揮官の姿を探した。


シカーグ「シンノ!リズマ!」


 幸いシカーグ将軍のほうから彼らを見つけ、戦略テーブルから彼のほうへ向き直った。
青いマンダロリアン・アーマーを着込んだ物々しい姿だ。


シンノ「申し訳ありません、きっとイシュメールがここのことを……!」

バヤット「まったくだ!何がジェダイだ、厄介ごとを持ち込んで挙句この事態とは!どう責任を取るつもりなんだ!?」

シカーグ「やめろ!許した私も同罪だ。だがそれを非難するより先にやることがあるだろうが!」


 罵声を浴びせるバヤットをシカーグが制する。


シカーグ「バヤット、貴様は事前の手はず通りに艦隊の発進準備を進めろ。二十分以内にはテイクオフだ!」

バヤット「チッ……了解!」ダダッ ガチャッ バタン!

シンノ「将軍、我々は!?戦闘機で出たほうがいいか!?」

シカーグ「いや、すでにリフレクターが展開している。上空からの砲撃や敵機の侵入は考えなくていい!」

シカーグ「シンノ、リズマ!お前たちは第三小隊を率いて、南側の浅瀬を渡ってきているウォーカーどもをなんとか食い止めてくれ!」

シンノ「了解!行くぞリズマ!」

リズマ「はいマスター!」


 二人は最小限の指示を受け取り司令部から駆け出した。


リズマ「しかしマスター、敵は巨大なウォーカーです!どう対抗すればいいのでしょうか!?」タタタ

シンノ「俺にだってわからん!しかしあるものでどうにかするしかない!」タタタ

リズマ「あるもの……あるもの……南側の海岸にあるものといえば、サーフスピーダーでしょうか?」タタタ

シンノ「サーフスピーダー?あんなもの何の役に……いや、あれもフルスロットルなら弾幕を潜り抜けてウォーカーの足元に接近できるかもしれない!接近したら、あとは――」タタタ
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 19:35:25.31 ID:8EnIZkzC0

サギ「ひゃははァ!奴らのねぐらが見えてきたぞォ!」


 エージェント・サギはATAT(全地形用装甲歩行兵器)の操縦席からマスドライバー施設跡を目視して叫ぶ。
クイナワに降下した第二艦隊から出撃したATAT部隊は、浅瀬をザブザブと渡りながら反乱軍秘密基地に迫りつつあった。


サギ「進め進めェ!早く上陸して奴らを踏みつぶせェ!――ン?何だあれはァ!?」


 サギは操縦士の肩越しに身を乗り出し、外を注視した。
こちらをめがけ海面を滑走してくるビークルが四台、いや五台!


操縦士「サーフスピーダーです!」

副操縦士「サーフスピーダー!?あんなもので突っ込んできてどうしようっていうんだ、奴らトチ狂ったのか!?」

サギ「悪あがきだァ!とっととぶち殺せェ!」

操縦士「イエッサー!」カチッ


 サギの乗る機体がサーフスピーダーに砲撃を開始し、続いてほかの機体も砲門を開く。
サーフスピーダー部隊は右に左に蛇行してそれをかわすが、今、一台がかわしきれずに光弾の直撃を受けて爆散した。


サギ「よっしゃァ!」

操縦士「し、しかし……思ったより動きやがる!」


 だが残る四台がそれぞれ一機のATATの足元へ飛び込んだ。


操縦士「いかん、俺たちの下にも!」

副操縦士「ヘッ!だがよお、近づいたからって何ができるもんでもねえだろ」

サギ「そうだァ。出てきたらすぐ撃てるように準備を――」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 19:36:16.35 ID:8EnIZkzC0

 続けざま爆音が響き、猛烈な振動が操縦席に伝わる!


副操縦士「うおおっ!?」

サギ「な、なんだァ!?何しやがったァ!?」

操縦士「み、右前足に重篤なダメージ!バランサーパフォーマンス急激に低下!」


 ATATはつまずいたようにバランスを崩し、鉄の巨体はゆっくりと傾いていく。
操縦席の窓からはサーフスピーダーが逃げていくのが見えていたが、三人にはそれを気にする余裕はない。


サギ「早く回復しろォ!」

操縦士「無理です!奴ら、あんな小さなサーフスピーダーでどうやってこれほどの火力を!?」

副操縦士「エージェント・サギ!早く席へ!シートベルトを――」


 エージェント・サギの乗るATATはそのまま海面へ倒れ込んで、巨大な水しぶきと波を立てて水の下に沈んだ。
他のサーフスピーダーたちも攻撃に成功し、計三機のATATが転倒、一機が擱座した。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 19:37:19.54 ID:8EnIZkzC0

シンノ「やったぜっ!」

リズマ「やりましたねマスター!」


 シンノとリズマは沈みゆくサギのATATを尻目に、サーフスピーダー上で大いに喜んだ。


シンノ「非武装のサーフスピーダーも、時代遅れの対潜兵器も、使いようで役に立つもんだ!」


 シンノは荷台に積んであるドラム缶状の「対潜兵器」に目をやった。
なんの推進力も持たない旧式の爆雷だ。
彼らはATATに肉薄して足元にこれを投下し、その脚部や海底を破壊して転倒に追い込んだのだ。


シンノ「よし、あとはこれを何度か繰り返して奴らを片っ端から海の底に――!」

リズマ「!マスター!」


 空を高速で横切る影。
シンノとリズマはフォースを通して悪寒を覚えつつ、それを見上げる。

 ――見たことのない形の航空機。
エイを思わせる鋭角的な形状のそれがたった一機で、反乱軍基地めがけまっすぐに飛んでいく。


シンノ「……バカな……バカな!航空機はリフレクターを通過できないはず!あいつ、どうやってその内側に入った!?」

リズマ「帝国軍の……新兵器!?」

シンノ「基地に戻るぞ!第三小隊、ここは任せた!」

無線機『ガガッ、お任せください!』


 果敢にATATに立ち向かうサーフスピーダー部隊を残して、シンノとリズマは基地に引き返す。
蒸し暑い南国の風は、焦る彼らの肌を冷やしてはくれなかった。


シンノ(クソッ、もとはといえば俺の失態……取り返しのつかないことを起こしてたまるか!)
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/17(水) 22:22:51.93 ID:Zs/MGm7Q0

タクージン「――いやあ、実に久しいな。何十年ぶりだ?テダッフ、我が弟よ……」

シカーグ「……タクージン……」

ユスカ(シカーグ将軍の兄……タクージン・シカーグ総督……!)ギリッ


 数分後、すでに司令部は制圧されていた。
反乱軍兵士たちは死体になって床に転がるか、苦々しい表情で両手を上げている。
タクージン総督と四人の近衛兵がブラスターでそれを牽制していた。

 彼らは帝国軍の新兵器――リフレクターを通過する特殊輸送機「ゾディアック」で基地上空へ侵入。
ジェットパックで司令部施設に降下し、たった五人で奇襲をかけて制圧してみせたのだ。


シカーグ「なんのつもりだ、これは……殺すなら殺せ。ただ俺をどうしようと発着場の艦隊は逃げるぞ。そういう手はずになっているんだ」

タクージン「おいおい、衛星軌道上の艦隊が見えないのか?逃がしやしねえぜ」

シカーグ「俺が何の手も用意してないとでも思うのか」

ユスカ(ターボレーザー・ジャマー……)

タクージン「はあ……シカーグ、今お前を生かしてるのはそんな負け惜しみを聞くためじゃねえぞ?」


 ハンズアップのシカーグを前に、タクージン総督はブラスターをくるくると振り回す。


タクージン「お前には借りがある……親父を殺された借りがな。そいつを解消しないままここで一方的に撃ち殺せば、俺は一生モヤモヤを抱えたまんまだ」

タクージン「シカーグ、俺と決闘しろ。マンダロリアンらしく、一対一で決着をつけようじゃねえか」

タクージン「見返りも用意しよう。この近衛兵どもは俺が殺されたら引き上げる……お前は残りの連中と一緒に艦隊に合流しておさらばできるわけだ。どうだ、悪い話じゃねえだろ?」

シカーグ「……嫌だと言ったら?」

タクージン「こうする」バシュッ!

反乱軍兵士「ぐあっ……」ドサッ

ユスカ「貴様ッ!」

シカーグ「やめろユスカ!……わかった、その申し出を受けよう」

タクージン「賢い選択だ。外でやろうぜ」


 タクージンは戦略テーブルの上からシカーグのヘルメットとブラスターを取り、司令室を出る。
シカーグは陰鬱な気分でそれに続いた。


シカーグ「……言っておくが、あまり長くは遊んでやれんぞ。うちのジェダイたちがすぐに戻って来るだろうからな」

タクージン「ほう……それは、どうかな?」


 タクージンはシカーグのほうを振り返って意味ありげに答える。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/17(水) 22:23:31.15 ID:Zs/MGm7Q0

ナイン「フッ!」ブオンッ!

シンノ「くっ!」チュインッ!

リズマ「やあっ!」ブオンッ!

ナイン「フッ……!」チュインッ!


 ナインス・ブラザーはリズマの斬撃を受け流しつつ間合いを取り直した。
一人と二人の間に再び距離が生まれ、剣呑な緊張が生まれる。


シンノ「……また、尋問官か。お前ら一体何人いるんだ?」

ナイン「貴様らにはどうしようもない数だ」


 司令部襲撃を察知して帰還を急いでいたシンノとリズマは、基地ゲートの直前で足止めを受けていた。
タクージンと別れて降下したナインス・ブラザーに攻撃されたのだ。


ナイン「俺はナインス・ブラザー……」

シンノ「フン、『11』、『12』ときて、『9』か」

ナイン「ダブルナンバーどもと並べないでもらおう。もっとも、奴らを倒して粋がっているようならそれまで」


 ナインス・ブラザーは自分の得物を振りかざす。
「一桁」の尋問官のみに与えられる特殊なライトセーバーが円環状に変形。
さらには柄の下端からさらなる光刃が伸びて、二つの赤い刃がバズソーのごとく回転し始めた。


ナイン「俺が現実を教えてやろう。もはやジェダイなど存在しえない世界がやってきているのだと」

シンノ(――こいつ……テイティスほどじゃないが、マーズや『11』、『12』よりはるかに上の使い手だ)

シンノ(くそっ、司令部のほうからも戦闘音が聞こえていた……いちはやく向かいたいのにこれでは……!)
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/17(水) 22:23:59.47 ID:Zs/MGm7Q0

ユスカ(シカーグ将軍……)


 ユスカは背後に近衛兵の視線を感じつつ、司令室の窓から外を見下ろす。
10メートルほど離れて向かい合ったシカーグとタクージンはまだブラスターを抜かず、互いの隙を探りつつ、ジリジリと円を描くように動いている。


シカーグ(この余裕な態度……尋問官か何かがシンノたちを足止めに行っていると考えるべきか)ジリジリ

タクージン「……ククク、来ないのか?俺が怖いのか?」

シカーグ(他愛のない挑発だ。艦隊の脱出準備は進行中だ、時間はこちらに有利に働く)ジリジリ

シカーグ(そのうえで総督であるこいつを倒すことができれば――近衛兵への言いつけは嘘かもしれないが、敵軍も多少は混乱するはずだ。この状況はピンチではない、むしろチャンス!)ジリジリ

タクージン「……そうか。ならば、こちらから行くぞ!」ジャキッ バシュバシュバシュ!


 タクージンが目にもとまらぬ速さでブラスターを抜いたかと思うと、次の瞬間三つの光弾が飛んだ。
銃を抜いた直後腰だめで一発、腕を伸ばす途中に一発、伸ばしきった通常立射姿勢で一発発砲したのだ。
銃を構えるあいだに相手を三回殺すおそるべきクイックドローである!


シカーグ「ふんっ!」バッ ゴロゴロゴロッ


 しかしシカーグとて熟練のマンダロア戦士だ。
地面に倒れこんで一発目を回避、地面を転がることで二発目を回避、手の力だけで飛び上がって三発目を回避した。


シカーグ「そこだ!」バシュバシュ!


 さらに空中でさかさまのまま銃を抜いて銃撃!


タクージン「ハハア!」バッ ジャキッ


 タクージンはこのアクロバット射撃を側転で回避し、素早くブラスターを構える。


シカーグ「フッ!」バッ ジャキッ


 シカーグも空中でクルクルと回転し膝をついて着地、ぱっと立ち上がってブラスターを構える。


タクージン「くたばれ!」バシュッ!
シカーグ「喰らえい!」バシュッ!


 二者同時に発砲!
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/17(水) 22:24:26.61 ID:Zs/MGm7Q0

タクージン「ぬうん!」ゴオッ


 タクージン、ジェットパックで飛び上がり回避!
そしてシカーグも――


シカーグ「!?」プシューッ


 ジェットパックが動作不良!
光弾は無慈悲に彼の膝を撃ちぬく!


シカーグ「ぐおおっ……!」バスッ ガクリ

タクージン「フン、整備を怠ったか!」ブオンッ!


 タクージンは着地とともに金色のライトセーバーを抜いた。
シカーグ氏族に伝わる「セイントセーバー」である!


タクージン「こいつを喰らえば自分のバカさ加減が身にしみてわかるだろうよ!」

シカーグ「ぐっ……帝国の圧政の片棒を担ぐほうがよっぽど、底の知れんバカだ……!」

タクージン「ハッハッハ、最後の最後まで分かり合えんな愚弟!死ね!」ブオンッ!

シカーグ「うおおおおっ……!」ジャキッ バシュバシュバシュ!
 
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/17(水) 22:25:21.66 ID:Zs/MGm7Q0

シンノ「!」
リズマ「!」
ナイン「!」


 基地入口で丁々発止を続けていた三人も、フォースを通して「その瞬間」を感じた。


シンノ「バカな……シ、シカーグ将軍が……」

リズマ「……間に、合わなかった……」

ナイン「……ククク。これでわかっただろう。貴様らがどれほど愚かで、夢見がちで、周囲に災厄をもたらしているのかが!」

シンノ「……」

シンノ「貴様ら……」

リズマ「――」ビクッ

シンノ「貴様らああああああッ!」ブオンッ!

ナイン「ッ!?」チュインッ

ナイン(何だこいつ!?急に動きが――)

シンノ「ジェダイが!そんなに!悪いか!」ブオンブオンブオンッ!

ナイン「うおっ、うおおっ!?」チュインチュインチュインッ

シンノ「なら貴様はそれ以下のクズだ!生きる価値もない!」ブオンブオンブオンッ!

ナイン「な――ぐおっ!」ズバッ!


 ナインス・ブラザーの右手首が切り落とされてボトリと落ちた。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/17(水) 22:25:57.34 ID:Zs/MGm7Q0

シンノ「死ね!」ブオンッ

ナイン「おのれ……!」サッ


 それでも追撃は回避し、左手でライトセーバーを高く掲げる。
すると二つの刃が高速で回転し――ヘリコプターのごとく、彼の体が浮かび上がる!


ナイン「この借りは必ず返すぞ!」ブーンッ

シンノ「逃がすかッ!」

リズマ「マスター!やめて!」ガシッ


 シンノはそこをめがけてライトセーバーを投擲しようとしたが、リズマが背後から彼にしがみついた!
尋問官はみるみる高度を上げ、ジャングルの峰を越えて姿を消した。


シンノ「離せリズマ、なぜ止める!奴らは将軍を!」ジタバタ

リズマ「それ以上は『戻ってこれなく』なります!」

シンノ「え?……」

シンノ「――ああ」


 シンノは一瞬呆けたようになった後、ようやく理解した。
自分が再び暗黒面に足を踏み入れていたことを。


リズマ「お願いです、マスター……ジェダイが悪いなら、ジェダイでなくてもいいから……」

リズマ「私の……私の手の届かないところに行かないで……」

シンノ「……リズマ……すまない、もう……もう大丈夫だ」


 シンノは自分が嘘を言っていると思った。
いつかは「ジェダイでいたいから」と封じ込めた感情が、自分の胸の中に溜まって淀んでいるのがはっきりと意識できてしまっていた。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/17(水) 23:53:35.65 ID:guxPLg2V0
やっとサーバー復活したか・・・いきなりキツめの展開だが
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/17(水) 23:55:33.38 ID:xBOR0vyyO
ジェットパックの故障はマンダロリアンの伝統か何かか…
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:30:05.96 ID:NisYkdRk0

シンノ「!」


 目に入った光景が彼を心象風景の中から引き戻した。
ジェットパックを背負った二つの人影が司令部施設のあたりから現れ、飛び去ったのだ。


シンノ「――司令部に何かあったんだ。行くぞリズマ!」

リズマ「は、はい……!」


 二人は何とか戦意を奮い起こし基地に駆け戻る。
すっかり発進準備を整えた艦隊の横を走り抜け、司令部施設の入口へ。


シンノ「――ッ」

リズマ「――ああ……」

ユスカ「……」


 そして、反乱軍兵士たちの人ごみの中にユスカを見つけた。
彼女はしゃがみこんで、T字スリットのヘルメットに額を触れ合わせていた――そこに残された何かを感じ取ろうとするように。
ヘルメットから下は――シカーグ将軍の首なし死体は、その横に伏せっていた。


シンノ「……ユスカ。将軍は……」

ユスカ「……タクージン……タクージン・シカーグと決闘して……」

反乱軍兵士A「……しかし、将軍は最後の最後まで我々を助けてくれた」

反乱軍兵士B「ああ、将軍が窓越しにマンダロア兵を三人倒してくれたから、我々はその残りと総督を追い払うことができた……決闘に負けはしたが、彼は――」

ユスカ「負けてなんてない!」


 ユスカはヘルメットを置いてヒステリックに叫んだ。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:30:40.49 ID:NisYkdRk0

ユスカ「私には見えた!あのときジェットパックが壊れなければ将軍は勝ってた!」

ユスカ「整備不良?違う!私は弟子だから知ってる、将軍は武器の手入れを欠かしたことなんて無かった!」

ユスカ「誰かが、誰かがジェットパックに細工を――」

バヤット「ユスカ、やめないか!」


 モン・カラマリの将校が進み出てそれを叱りつける。


バヤット「今は仲間割れをしている場合じゃない、それに……」


 ついで、シンノのほうを横目に睨みつけた。


バヤット「……真に責任を問われるべき者は、別にいる……!」

シンノ「ッ……」


 シンノはその眼光に胸を深く抉られる錯覚を覚えた。


ユスカ「あんたが一番仲間割れしてんじゃんっ!」

リズマ「ちょっと、そんな言い方……!」

シンノ「やめろっ!……やめてくれ」


 かばおうとする姉妹を自ら制し、うつむいたまま、絞り出すように続ける。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:31:18.58 ID:NisYkdRk0

シンノ「全ては、イシュメールを連れ込んだ俺の責任だ……許されるなどと思ってはいないが……」

シンノ「……本当に、すまなかった……」


 シンノは反乱軍兵士たちに向けて深々と頭を下げた。


ユスカ「……違う、違うよそんなの……将軍、何とか言ってよ……将軍!」

リズマ「……マスター……」

バヤット「……」

反乱軍兵士たち「「「……」」」


 周囲の反応は悲嘆、困惑、失望、あるいは憤怒や憎悪か。
シンノは、積み上げた信頼とともに、自分の胸の中にあった輝かしい何かが不可逆的に崩れ落ちていくように感じた。


バヤット「……とにかく、船に戻れ。リフレクターはすでに破壊された。帝国軍の包囲が狭まる前に脱出する」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:32:39.96 ID:NisYkdRk0

 反乱軍艦隊の脱出はあっけないほど簡単に完了した。
帝国軍艦隊が地上にいるタクージンやナインス・ブラザーへの誤爆を恐れ、それを背にした反乱軍艦隊への砲撃を控えたこともある。
しかしターボレーザー・ジャマー等有事への備えを欠かさなかったシカーグ将軍の努力が大きいことに疑いの余地はない。

 艦隊は数日間欺瞞航路を取った後、カグマシャ星系の惑星ヤクシムに身を潜めた。
事前に隠れ家として目をつけていた、荒野の広がる無人の惑星である。


シンノ「……」


 シンノは一人、艦隊が身を隠している谷間を出て、荒野に突き出た巨岩の上に座り込んでいた。
惑星ヤクシムは自転と公転の周期の関係でつねに黄昏の世界である。
何時間、何日眺めても、オレンジ色の太陽は地平線上でうろうろしている。


「探したぞよ」

シンノ「……ネーアか」


 シンノは声のほうを見ることもせず、掠れた声で答えた。


ネーア「こんなところで黄昏おって……気持ちはわかるがな、ジェダイなんじゃし、もう少し気概をじゃな……」

シンノ「……無理だ」

ネーア「は?」

シンノ「俺にはジェダイなんて、はじめから荷が重かったんだ」

ネーア「そ、そなた何を……ラグナロクではあれほど熱っぽい決意表明を……」

シンノ「夢を見てたんだよ、身分不相応な夢を。この前ようやく目が覚めた……」


 シンノは無感動な目で夕日を見やった。


シンノ「俺は明日か明後日には、ここを出ていく」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:33:31.34 ID:NisYkdRk0

ネーア「な……!?何を言うんじゃシンノ!?塞ぎこんで閉じこもってるユスカはどうするんじゃ!?」

シンノ「リズマがいるだろう」

ネーア「リズマだって冬眠し損ねた熊みたいにうろうろ歩き回ってばっかりぞよ!?」

シンノ「バヤットがいるだろう」

ネーア「あの危なっかしい若造に何ができる!シカーグ将軍の仲間たちを見捨てていくつもりか、シンノ!?」

シンノ「危なっかしくたって若くたって俺よりマシだ、俺は役に立つどころか災難を呼び込む最低のクズなんだからな!さあ、こんな出来損ないは放っておいて船に戻れよ!」

「だまらっしゃい!」


 思いがけない第三者の声に、シンノは少し驚いて岩の下を見下ろした。
ネーアについてきたのか、その後ろにミコア姫がいた。
こちらを涙目で睨みつけ、肩をわなわなと震わせている。


シンノ「ミコア姫……」

ミコア「私を助けてくれたフォースの力は!私の憧れていた仲間の絆は!あなたにとってはそんなに簡単に捨てられるものなのですか!?」

シンノ「そうは言っても、シカーグ将軍が死んだのは……!」

ミコア「シカーグ将軍が望んだとでもいうのですか?あなたがここを出ていくことを!?」

シンノ「しかし、バヤットたちは……」

ミコア「悪いと思うなら働いて罪を雪ぎなさい!こんなところで日向ぼっこするのがあなたの償いですか!?」

シンノ「……俺は……俺には、できない……」


 どれほど言い負かされても、シンノはそう言って首を振るしかなかった。
ミコアは涙を拭い、ネーアを押しのけて進み出て、強い意志の光をたたえる目でそちらを見上げた。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:34:07.81 ID:NisYkdRk0

ミコア「……では私がなんとかします」ゴソゴソ

シンノ「……?」


 彼女が胸元から取り出したのは、緑色の三角錐型ホロクロン。


ネーア「!?ミ、ミコア!それは!」

ミコア「ヤマタイトに伝わるダークサイドのホロクロンです。ヤマタイトは元々シスの分流なのです!」

ネーア「ぎょええ!?」

ミコア「シンノ、私にフォースの扱いを教えなさい……弟子にしなさいな!」

シンノ「ええっ!?しかし、俺はダークサイドの力の扱いを教えることは……」

ミコア「そこまでは必要ありません。遠い末裔とはいえ私もヤマタイトの一族、きっとこのホロクロンを使いこなしてみせます。そしてその暁にはシカーグ将軍でも誰でも、黄泉の国から呼び戻してみせましょう!」

シンノ・ネーア「「!?」」


 ジェダイとシスは揃って戦慄した。
その行いが明らかに禁忌に触れていることは素人にもわかりそうなものだが、ミコア姫の目は本気だ!


シンノ「ちょ、ちょっと待て……わかった!とりあえず反乱軍を抜けるのは保留にするから……」

ネーア「……そんななまっちょろいこと言っててよいのか?そなたが教えなければ妾が教えるぞ」

シンノ「便乗して脅してくるんじゃない!……まあ、しかし、改めて考えれば将軍を失って辛いのはみんなも同じだ……」


 シンノは堂々巡りの自虐思考から脱し、少し考え込むような様子を見せた。
ミコア姫の爆弾発言が彼の鬱を一時的に吹き飛ばしたのかもしれなかった。
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:34:43.18 ID:NisYkdRk0

シンノ「俺が原因とはいえ、それを放り出すのは無責任、なのか……?」

ミコア「そもそも私は、イシュメールが反乱軍基地を通報したとは考えていません」


 ミコアは鼻を鳴らして、地平線の太陽を睨んだ。


ミコア「彼はたしかにちゃらんぽらんでしたが、それほど不義理なことをする人間には見えませんでした。きっと別のところから情報が漏れたのです」

シンノ「……」


 それはあまりにも優しすぎる推論だった。
シンノはその可能性が限りなく低いとは知りながらも、わずかに慰められて、ふっと笑った。


シンノ「……そうだな。どっちにしろ、不貞腐れていても始まらない。とりあえずユスカとリズマに一声かけてくるか」


 その言葉にネーアとミコアは表情を明るくした。
三人は黄昏の荒野を連れ立って歩き、艦隊が停泊する谷間に戻ろうと――

 突如谷間に閃光が走り、ついで爆炎と轟音が噴出した。


シンノ「な……!?」

ネーア「何事じゃ!?」


 響き渡る警報アラーム、ブラスター発砲音、そしてライトセーバーが金属を焼き切る音。
また爆発……黄昏の空を紅蓮の炎が炙る。
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:35:29.33 ID:NisYkdRk0

シンノ「!バカな……これは……!」タタッ


 谷間に駆け戻った三人を待っていたのは、圧倒的な殺戮の光景だった。
宇宙船の一隻が炎上し、薄暗い谷底に転がるいくつもの死体を不気味に照らし出している。
反乱軍兵士たちの死体だ。


ミコア「ひ、ひどい……!誰がこんな!」

ネーア「!シンノ、あっちじゃ!」


 炎上艦の向こう、駐機されたXウィングの近くの薄暗闇にライトセーバーの光があった。
青い光と……赤い光!


リズマ「はあ、はあ、はあ……」

テイティス「……」


 息の荒いリズマと相対しているのは――ダース・テイティス!
フードの陰では仮面の奥の黄色い瞳が光り、その手には赤いライトセーバーが輝く!


ネーア「あやつ、ハナン・シティの!どうしてここを!?」

シンノ「貴様ーッ!」


 シンノは目をかっと見開き、自らのライトセーバーを鞘走らせた。


リズマ「!マスター!」

テイティス「!」

シンノ「貴様の仕業か、これは!」
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:36:09.27 ID:NisYkdRk0


 テイティスはリズマにライトセーバーを突きつけつつ、横目にシンノとミコアを見やった。


テイティス「……そうだ……何人殺せばホロクロンを差し出してくるかと思ってな……」


 フードの陰、仮面の奥で黄色い瞳が光る。


ミコア「……!」ギュッ


 ミコアは胸元のホロクロンを握りしめ、その眼光に押しやられたかのように後ずさった。


リズマ「みんなに手は出させない!」ブオンッ


 テイティスの意識が逸れたのを隙とみて、リズマが斬りかかる!


テイティス「こいつでは」グッ

リズマ「うぐっ!?」グイッ


 しかしテイティスはそちらを見もせず手をかざし、たちまちのうちにフォースでリズマを吊り上げた。


テイティス「相手にならん」ブンッ

リズマ「ぐあっ!」ドタッ


 そしてそのままXウィングの機体側面に叩きつける。
すでに相当やりあった後だったらしいリズマはそのまま意識を失い、ずるずるとずり落ちて倒れた。
シンノの頭の中で何かが切れた。
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:36:47.41 ID:NisYkdRk0

シンノ「ウオオオオーーーッ!」ダッ


 ライトセーバーを閃かせ、突撃!


シンノ「殺す!殺してやるーーーッ!」ブウンッ


 落ち着き払って向き直るテイティスめがけ、袈裟懸けに斬りつける。
その速さ、鋭さは暗黒面のパワーを孕んでいたが――


テイティス「ふん……」チュインッ


 テイティスはあまりにもたやすくその一撃を弾き、反らした。


シンノ「!?このッ!」ブオンッ

テイティス「やはり素質はあるようだが……」チュインッ

シンノ「どうしてッ!」ブウンッ

テイティス「何分粗削りだな」チュインッ

シンノ「くそーッ!」ブウンッ

テイティス「ライトサイドの枷も、取り切れていない」チュインッ ブンッ

シンノ「ぐうっ!」ドタッ


 続けざまの攻撃もことごとくいなされ、足払いを受けて倒される。
テイティスは無様に倒れ伏すジェダイの背中を踏みつけ、踏みにじった。
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:37:44.71 ID:NisYkdRk0

シンノ「ぐああっ……バカな!貴様、クイナワでは……!」

テイティス「まさか、あれが私の本気だとでも思っていたのか……おめでたい奴め」グリグリ

ネーア「シンノーッ!」ブオンッ


 ネーアが赤いライトセーバーを抜き、テイティスに襲いかかる!


テイティス「フンッ!」ブンッ

ネーア「ぐあっ!」ドタッ


 たやすく蹴り飛ばすテイティス!


テイティス「クネー。今だ、回収しろ」クンッ

クネー「いいだろう……」ヌッ


 さらにテイティスが顎をしゃくると、物陰から斬馬刀を差した女賞金稼ぎが姿を現した。
クネーは速足で一人きりのミコア姫のほうへ近づく。


ミコア「あ、あなたはザインの……連れ戻すつもりですか、クイナワに」

クネー「いや、今の雇い主はあそこのシス……テイティス卿だ。お前とお前の持つホロクロンを頂戴する。フンッ!」ブンッ

ミコア「ぐうっ……!」ドタッ


 そして手際よく気絶させ、担ぎ上げた。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:38:18.31 ID:NisYkdRk0

テイティス「先に行け。私の船を使っていい」

クネー「そうか……なら先に失礼する」


 クネーは少女を担いで姿を消した。
残されたジェダイとシスはむなしくそれを見送るしかなかった。


シンノ「ミ、ミコア姫ッ……!」ジタバタ

ネーア「テイティスと言うのか……あのホロクロンをどうするつもりじゃ」ヨロヨロ

テイティス「知れたこと。あれの中にはシスの失われた技の多くが遺されている……それをもって帝国を倒し私が正統のシスとなるまで」ゲシッ

シンノ「ぐうっ!」ゴロゴロッ

ネーア「シンノ!大丈夫か!?」


 テイティスはシンノをネーアのほうへ蹴り飛ばした。
その背後、谷の上から銀色の宇宙船が飛び立っていくのが見えた。
クネーがミコア姫を捕らえ、引き上げていくのだ。


シンノ(ミコア姫……!励ましてくれたばかりだというのに、俺は……!)
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:38:56.94 ID:NisYkdRk0

テイティス「だが、その前に」スッ


 テイティスは左手を高く掲げる。
その上に青白い炎の塊が生じたかと思うと、たちまち大玉めいた大きさに膨張した。


ネーア「フォース・ファイアー……!まさかこれほどの!」

シンノ「く、くそっ……!」

テイティス「貴様らに、真のダークサイドの力を見せてやろう!」ブンッ


 彼が左手が振り下ろすと、巨大火球はシンノとネーアのもとへ隕石のごとく落下する!


シンノ「くそーーーッ!」


 絶叫……爆発……奪われ、飛び去るXウィング。
すべてが黄昏の空の中に霞んで、消えていく……
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:39:37.00 ID:NisYkdRk0

クネー(フフフ、ボロい仕事だった……)


 テイティス所有の宇宙船「クラウソラス号」はハイパースペース・ジャンプ中であった。
女賞金稼ぎはコックピットでほくそ笑みつつ、助手席に縛り付けた少女――気絶したままのミコア姫を見やる。


クネー(テイティスからの報酬自体も悪くはないし、こいつを帝国軍に届ければ、ザインの城での不振を補って余りあるほどの賞金が手に入る……)

クネー(しかし不思議なのは、テイティス自身もおそろしく強かったことだな。私なんか雇わなくてもよかったんじゃないか?)

クネー(自分で帝国軍に届けるのが嫌だったのか……あいつもあいつでお尋ね者とか?しかしそれならそれで、賞金のうちいくらかを分け前に要求してきそうなものだが……!?)


 唐突な警告音と振動がクネーを思索の中から引きずり戻す。
コントロールパネルには、ジャンプへの深刻な障害が発生したことを告げる表示!


クネー(何だ!?ハイパードライブの故障……まさか、出発する前に私が自分の目で一通り点検したはず……!?)


 異常発生の表示はどんどん増え、揺れは増し、窓の外が不気味にちらつき始める。
やがてクネーの体をガクガクと揺すぶるまでになった振動の中、ハイパースペースの景色が薄れ、暗闇とそこに瞬く星々が見えてくる……!


クネー(ハイパースペースから……引きずり出される……!?)


 その直後、振動がぱたりと止んだ。
クラウソラスはハイパースペースを完全に脱していた。
否、無理矢理引きずり出されたのだ……
目の前の巨大な宇宙戦艦によって!


クネー(こ、この船はたしかサブジュゲーター級……分離主義者の船だ!)

クネー(何故分離主義者の残党がここに!?何故私たちを待ち構えていられた!?)


 彼女はまったくもって気づいていなかったのだ。
クラウソラスの天井の外側に一体の通訳ドロイドが張り付き、位置情報を発信していようとは!
間もなく宇宙戦艦からトラクター・ビームが発射され、軽武装のクラウソラス号はなすすべなく牽引されていく……
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:40:29.13 ID:NisYkdRk0

スターバル将軍「ウワハ、ウワハハハ!キャプチャーいたしました、セレノーラント公!」


 ブリッジからその光景を見ていたスターバル将軍は、大はしゃぎで背後を振り返った。
そこには白いマントに身を包んだ、眉目秀麗な若い男が立っている。


「ドロイドからの情報によれば……乗っているのは賞金稼ぎとヤマタイトのミコア姫だったな」

スターバル将軍「はい、奴らを捕らえることで我々はついにシスを出し抜いたのです!あなたの伯父上の無念を晴らす戦いの第一歩ですぞ!」


 然り、この若い男はかつての独立星系連合のリーダー、ドゥークー伯爵の甥……
QC星系分離主義勢力残党の首領、マクシャリス・セレノーラント・ドゥークーである!


マクシャリス「まあそう焦るな、スターバル。目の前のことから一つ一つだ……まずは姫君を歓迎するとしようじゃないか」


 マクシャリスはドロイドたちが詰めるブリッジを悠然と歩き、スターバルの横をすり抜けて、ビューポートから外を眺めた。
銀色の宇宙船はゆっくりと彼らの乗艦のドッキングベイへ吸い込まれていく。
この船はかつて分離主義勢力が建造したサブジュゲーター級重クルーザーの三番艦、「ヴェンジェンス」……
QC星系の残党の旗艦であり、敵をハイパースペースから引きずり出す「重力井戸発生装置」を搭載した一種のインターディクター・クルーザーである。


マクシャリス「ヤマタイト公国大執政官、ミコア・ルマ・ヤマタイト殿……ようこそ、独立星系連合へ!」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:41:16.57 ID:NisYkdRk0

 数日後、反乱軍艦隊は暗礁宙域に身を潜めていた。
テイティスの襲撃があった以上惑星ヤクシムも安全ではないからだ。
イシュメールがいなくとも情報が漏れていたことについて指摘する者もいたが、再び流浪の旅が始まる慌ただしさの中で霞んでしまった。


シンノ「……」


 シンノは反乱軍艦隊のうちの一隻、その艦内の自室で座禅を組んでいた。
痛々しい全身の包帯やギプスは、喫した敗北の無残さを物語っていた。


シンノ(リズマもネーアも重傷だ……テイティスは圧倒的だ。俺はまた、仲間を守れなかった……)


 何度目かもわからない悔恨に打ちひしがれ、うなだれる。


シンノ(ミコア姫のことは心配だ……しかし俺がどうしようと、状況を悪くするだけに違いない。この傷が治ったら今度こそ、反乱軍を離れて……)


(((……シンノ……)))


シンノ「……?」


 シンノはどこからともなく響く声を聞いたように感じて、顔を上げた。


(((……シンノ・カノス……迷えるジェダイ・ナイトよ……)))
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:42:16.58 ID:NisYkdRk0

シンノ「!」


 気のせいではない。
フォースを通して声が聞こえてくる!


シンノ「あなたは……あなたは一体!」


(((……私は、クワイ=ガン・ジン……かつてはジェダイ・マスター。今はフォースと共にある者……)))


シンノ(惑星ナブーで戦死したというジェダイ……!こんなことがあるだなんて!)


 シンノは驚愕と歓喜の中で絶望さえも忘れ、必死に呼び掛けた。


シンノ「マスター・クワイ=ガン・ジン!私は……私は、どうすればよいのですか!?」


(((……私は唯一の答えを教えることはできない……フォースの真実は存在さえ不確かだ……)))


(((しかしそれを探求し続けたいと願うなら……惑星ダゴバへ行くがよい)))


シンノ「惑星……ダゴバ……!?」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ saga]:2018/10/20(土) 22:48:29.22 ID:NisYkdRk0
以上で「EP3.5 ヤマタイトの姫君」完結となります
お読みいただきありがとうございました
感想レスは一つ一つ嬉しく読ませていただいております

かなり間が空くと思いますが、次回「EP3.6 運命の向こうに」でシリーズ完結となります
また似たようなタイトルで建てますので、見かけたら覗いていただけると嬉しいです
ハン・ソロは見損ねました

151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/20(土) 22:52:22.50 ID:Shu0v9MoO
クワイガンキター
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/20(土) 23:00:45.77 ID:Zyr1tn9c0
そうか、こういう終わり方か
帝国の逆襲を彷彿とするな・・・
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 02:16:34.47 ID:yPJ6405k0
もう次で終わっちゃうんか
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