【艦これ】漣「ギャルゲー的展開ktkr!」2周目

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165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/18(月) 19:11:17.78 ID:Cm7Sqf+t0
今更新キャラはないだろうし漣…
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166 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:27:39.03 ID:iqh1xvMV0

『嫌です』

 と、漣は念を押すかのように、もう一度繰り返した。

 俺は動けない。全身が麻痺してしまっていて、指一本どころか、声を絞り出すことさえ困難だった。

『……お嬢ちゃん』

 どすの利いた声で龍驤が詰め寄る。いまは冗談を言っている場合じゃないぞ、と言外に威迫している。

『どういう意味や?』

 それはある意味で猶予でもあった。龍驤は、同時にこうも伝えているのだ。撤回するならいまのうちだ、と。一時の気の迷いで、あるいは戦闘の興奮が冷めやらず、血気に逸ったことを言ってしまったのならば、何も聞かなかったことにしようと。
 ぴりりとしたものが空気を伝播する。映像は龍驤の見ているものが、俺にも伝わってくる。漣も、それ以外の全員も、もしかすると戦闘以上に剣呑なのかもしれなかった。

167 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:28:37.25 ID:iqh1xvMV0

『こんな土壇場で帰投をするつもりは、漣にはないって言っているんです』

『龍驤ッ!』

『漣!』

 一歩踏み出した龍驤の肩を最上が掴み、その間にヴェールヌイが割って入る。

『いいか、お嬢ちゃん。あんたとごちゃごちゃやってる時間はない。あと少しでウチの艦載機は全機紙っぺらの式神に戻る。それでおしまいや。雷巡棲鬼を抑え込んどくことはできん。
 帰投や。これ以上、敵にかかずらわっとく理由がないからな』

『漣の指揮権はご主人様にあります』

『……なるほどな』

 無所属。識別番号なし。

 漣は俺の直属の部下で――漣だけが、俺の指揮下にある。逆説的には、それは漣は龍驤の指揮下にいないということで、帰投命令をシステム的にはいくらでも無視できる。

『おっさん、帰投命令をお嬢ちゃんに出しぃ。それで「しまい」や』

 あぁ、そうだ。確かにそうなのだろう。龍驤の言っていることになんら間違いはなく、判断だって正常で……。
 だからきっと、おかしいのは、狂っているのは、俺と漣のほうなのだ。

「……」

『……おっさん?』

 怪訝そうな龍驤の声。

168 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:29:02.76 ID:iqh1xvMV0

 瞳を通して、漣の映像が見える。

 口を真一文字に結んで、決死の覚悟というふうに、けれどどこか満足そうに、佇んでいる。
 俺はその姿を見たことがあった。それは自らの目的のためならば死んでもいいという者の立ち振る舞いに酷似していた。

 それは赤城であり。

 そして……比叡だった。

『ご主人様』

 呼びかけられても、声は出ない。喉が渇き、咽頭が引き攣っている。

『ご主人様は言ってくれましたね。普通だとか特別だとかに意味はないんだと。普通だからできないだとか、特別だからできるとかじゃなくて、結局、結果を振り返って「特別」っていう称号が与えられるだけなんだって。
 じゃあなんで? どうして? って漣は思うわけです。田舎の学校で一番をとっても、地元でただ一人艦娘になっても、漣は満たされませんでした。だってもっと上には上がいるわけじゃないですか。特別には程遠い。
 なんで、どうして、漣は特別になれないんですか。別にちやほやされたいわけじゃない。自分に自信を持って強く生きたいだけなんです』

169 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:29:30.54 ID:iqh1xvMV0

 最早俺にとっては漣の言動にさして意味はなかった。価値がないのではない。俺は、これから彼女が紡ぐであろう言葉、口にするであろう決意、為すであろう行動、全てに予想がついていた。
 だから、きっと、ここで彼女を諌めないのは、止めないのは、甚だしいほどの怠慢に違いない。

『特別なひとは、ただタイミングがよかっただけ。その場にいただけ。ご主人様は、あの言葉をどんなつもりで言いましたか? 本心からですか? それともごまかしの、取り繕いの言葉ですか?
 どっちだっていいです。漣は、結構あの言葉、好きなんです。心の中に落っこちたんですよ、すっぽりと』

 やはり、と思うほどには俺は自信過剰にはなれなかった。自意識過剰ではなかった。
 それでも、俺の言葉には力があって、漣の意識を少しでも変えてやれる程度には意味があって――それ自体は無論嬉しくもあるのだが、それがこの事態を引き起こす引き金になったことを考えれば、悔やみもする。

『ご主人様! 漣はいま! ここにいる!』

 強い敵がいて、あと一歩で倒せるという状況に直面している。

 だからやる。

170 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:30:47.13 ID:iqh1xvMV0

『結果が全てに先立つんなら! 漣がここにいるってことは! それは運命ってことじゃないんですか! 漣にもやっと、ようやく特別になれるチャンスが回ってきたってことじゃないんですか!
 ご主人様!』

 ねぇそうでしょ、と漣は叫ぶ。

 見ているこちらが悲しくなるほどに、幸せを希求するその姿は、痛々しい。同時に美しくもある。自分の中できちんと優先順位が決まっていて、なんのために生きているかをはっきりしている人間は、決してくじけないことを俺は知っている。
 欲望の炎がその身を焦がしても、燦然と輝く太陽に手を伸ばさずにはいられないのは、もしかしたらひとの業なのかもしれない。

 比叡もそうだった。

 だから、漣、こいつもそうだ。

「……」

 比叡のことを想う。
 狂おしいほどに胸が痛んだ。

 これは神の悪戯なのだろうか。それとも、慈悲なのか?
 あの局面。比叡と俺が指をあわせた瞬間。決断。後悔しなかったことがないとは決して言わない。しかし、そうすべきだったんじゃないかと思うときもまた多い。結局のところ結論はいまだに出ていない。
 いまは繰り返しだった。寒気がするほどに、状況は似ていた。

171 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:32:36.32 ID:iqh1xvMV0

 漣は勝ち目のない戦いに身を投じようとしている。死ぬことに恐れがないわけではないはずだ。ただ、死ぬよりも怖いことはいくつもあって、自分が自分であるための行動は止められないから。
 だから比叡はあのとき海に出た。家族のもとへと帰るために。

 そして漣も往こうとしている。自らの脚で歩くために。

 もし、過去に取り返しがつくのだとしたら、この瞬間だった。
 後悔も、肯定も、全てを上書きできる。塗り返せる。
 嘗ての失敗を教訓にして、今度こそ後悔しない、迷わない、正しい選択を択べ。もしこれが神によるものだとすれば、そう言っているのだ。

 言っていやがるのだ。
 言ってくださるのだ。

 どちらで表現すべきかは、今の俺には到底わかりようもなかった。

172 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:33:14.21 ID:iqh1xvMV0

『おっさん! あんた、何考えとるん!? なんか言いぃや!』

 龍驤の怒声。

『このお嬢ちゃんがあいつとサシでやりあったって、勝機は万に一つもない、それがわからんほど頭がパーになっとるわけやないやろ!? 意味もない戦いして、意味もなく沈んで、そんなのまったくウチは許容できんよ!』

『龍驤さん、あなたが漣にとって意味のあるなしを決めないでください』

『あほう! 命あっての物種や、生きてこそや! 違うか!』

「……龍驤」

 思わず吹き出してしまいそうになる。

「お前、最初に会ったときと、言ってることが真逆だぞ」

 満足に死ねるならそれでいい。本懐を成し遂げた上で沈むなら十全。お前らはそう言っていたじゃないか。

『……あんたこそ、変なこと考えとらんよね』

 反対に指摘されてしまった。

『生きることがなにより大事やと説法くれたんはあんたやで。それ忘れて、今更なにしに死ににいくつもりや』

173 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:33:58.78 ID:iqh1xvMV0

 それはまったくの事実だった。龍驤たちが過去の自らの言葉を翻したように、漣もまた、自らの言葉を翻している。
 そして俺は。

『ご主人様』

 漣が俺を――龍驤の瞳の向こうに俺がいることを理解して、言う。

『おっさん!』

 そうはさせじと龍驤。

「……」

 胃が、むかむかする。

 比叡のことを考えるのは辛いことだった。昔から。いまも、やはり、変わりはしない。
 後悔は先に立たない。先に立つのは常に結果だ。なにかがあってからでなければ――言ってしまえば、手遅れになってからでしか、俺たちは動けない。
 俺のこれまでの人生は全てが後手後手だった。そのたびに俺は、ああしておけばよかったんじゃないか、こうすべきだったんじゃないか、そんなことばかりを考えて、悩んで。

174 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:34:30.27 ID:iqh1xvMV0

『なにを黙っているのよ』

 通信――大井。

『ちゃっちゃと済ませましょう』

『大井ッ、あんたは黙っとれ!』

『生憎そういう性分じゃないのよね。いちいち一言多いたちだから』

 単装砲の握りを確かめて、大井は自嘲じみた笑みを浮かべる。

「そうですね」

 重い腰を上げながら、赤城。

「まぁ、矢の二、三本なら、どうにかなりますし」

「……気まぐれか?」

 赤城、どうしてお前が立つ。立てる。その怪我を押して、立つ理由がある?

「さぁ? 本土から来た人間に借りを作るのも気色が悪いですし。それに……」

 海の先を見た。

「子供を応援するのは大人の役目でしょう?」

175 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:34:59.63 ID:iqh1xvMV0

『司令官、私も行くよ。漣はずっと私に付き合ってくれた。いまここで出ないと、何のために強くなったかわからない』

『……変に突出されて沈まれるのは気分がよくないです。弱っちいやつのおもりは慣れてます、雪風も……手伝ってやりますよ』

 互いが隣にいることを確かめ合うかのように、二人は一歩前に出る。

『なぁんでどいつもこいつも、戦いたがるんでちかねぇ』

 58は口の中に溜まった血反吐を吐き捨てながら、へっ、と笑い飛ばす。

『戦いをなくすためには、戦いが必要ですから』

 神通も、ぽつりと零す。58は受けて「なーるほど」と呟いた。

『龍驤』

 鳳翔さんと夕張が、龍驤に寄り添った。龍驤は周囲を見回しながら、まったく面白くなさそうに顔を顰めていたが、観念したのか嘆息する。

『ぼろぼろが集まってどうするつもりや。ったく、愚かもんが雁首揃えて、滑稽やね』

176 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:35:30.45 ID:iqh1xvMV0

『ご主人様』

 漣がもう一度俺の名を呼ぶ。
 その大きな瞳が、真っ直ぐに俺を射抜く。

『指示を』

 大井は俺に救いをくれた。俺が自問自答し続けた事柄でも、あいつを助けることができたのならば、それは俺にさす一条の光に他ならなかった。それは意図せざる結果だった。
 意図せざる結果に価値がないと唾棄できるほど、俺は禁欲的ではない。だからこそ、大井の言葉は覿面に効いたのだ。どんな些細なことでも誰かを助けることができる。幸せにすることができる。

 ならば、俺は俺の思うとおりに行動すべきだ。そうだ。やっと確信が持てた。

 もとよりそれは望むところだった。到底困難な崖に臨むことこそが、俺のトラックへ来た理由そのものだから。

 トラックの艦娘たちを幸せにしてやると心に決めたのだ。

「……約束したもんな」

 弱者を見捨てないと。手を差し伸べると。
 助けることを諦めないと。

 水底から響くような唸り声。喊声。龍驤の艦載機が続々式神に戻り、雷巡棲鬼がその爆撃の圧から解放されつつあるのだ。
 どのみち最早撤退の余地はなかった。申し訳ない、と思う。それ以上に、これで後には引けなくなったとも。

177 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:36:00.08 ID:iqh1xvMV0

「漣」

『はい』

「頼む」

 それは奇しくも、あのとき比叡にかけた言葉と同じだった。

『はいっ!』

178 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:36:44.47 ID:iqh1xvMV0

 一際大きな水飛沫が舞った。

 爆撃の豪雨から解放された雷巡棲鬼の姿は、ところどころの艤装が捥げ、黒い体に赤い亀裂がいくつも入っている。魚雷発射管もかなりの数がひん曲がっていた。しかし、その瞳には爛々と輝く赤く黒い光が、天まで届けと言わんばかりに立ち上る。
 何事かを雷巡棲鬼が叫んだ。それは最早、単なる威嚇と鼓舞以上のなにものでもないように思われた。

 雷巡棲鬼が腕を振る――と同時に巨大な悪鬼が三体、海中から姿を顕す。無尽蔵に湧いてくるのか、そうでないのか。ただ、先ほどよりも目に見えて動作性が悪い。重力が邪魔だとばかりにのろのろと動いている。

 魚雷が放たれた。夥しい射線数。悍ましい殺意。

 最上と大井が魚雷を応射。いくつかの撃ち漏らしはあるものの、水柱と爆炎の中に、艦娘たちは飛び込んでいく。
 巨大な悪鬼が迎撃に向かう。夕張が連装砲を連射、口の中の魚雷発射管を叩き折りながら、砲火を一気に浴びせかける。
 悪鬼の横っ面を蹴り飛ばしたのは神通。そのまま顔面に跳び移り、眼窩へ、そして口内へと魚雷を投擲したのちに術式展開、魚雷を巨大化させて爆散させる。

179 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:37:52.71 ID:iqh1xvMV0

 漣は走っていた。悪鬼に砲で対抗し、魚雷をばら撒きながら突破を試みる。しかし直撃以外で沈むことを許すほど、その装甲は薄くはなかった。

『漣!』

 ヴェールヌイが叫んだ。特大の魚雷を三発顕現し、直接手で繰りながら、悪鬼へと叩きつける。
 装甲の真上で炸薬が爆ぜた。しかしそれは致命傷に僅か届かなかったようで、怒りに狂った悪鬼が大口を開け、ヴェールヌイを噛み砕こうとする。

『下品でち』

 水面下から58が現れた。口の中に即座に手を突っ込んで魚雷を召喚、それをつっかえ棒として、一気に海の下へと引きずり込んだ。
 空中に魔方陣。そこから魚雷の弾頭が、ゆっくり、ゆっくりと現れてくる。
 おおよそ三十。それら全てが悪鬼に向かって。

 爆裂。

 光と水と熱と風と、あらゆるものの中を漣は駆け抜けていく。またも悪鬼、三体目のそれに阻まれるも、艦載機の混成部隊が片っ端から爆弾を投下。着弾するたびに炎の花が咲く。
 苦し紛れの声を悪鬼が挙げた。漣は魚雷が魚雷を放つ――命中。悪鬼の頬から頭部にかけての半分ほどを大きく吹き飛ばし、悪鬼が泥濘にも似た何かになって溶けていく。

180 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:38:53.90 ID:iqh1xvMV0

『突破! 突破しました!』

 雪風が叫ぶ。だが、それで終わりなわけでは、ない。

 雷巡棲鬼が、そこにいる。

 眼を疑うほどの魚雷を展開しながら。

 海に走る白い軌跡は、波濤と見紛うほどに多く、あるいは波打ち際のそれと同じように、激しい勢いで漣へと向かっている。雷巡棲鬼の体から生えた魚雷発射管から、いまこの瞬間にも大量の魚雷が海へと生み落されているのだ。
 雪風が応射した。しかし、彼我の物量差は圧倒的だ。雪風が三発撃つ間に、雷巡棲鬼から放たれる魚雷は十を超えている。

 だが、敵とて完全ではない。こちらが疲弊しているように、あちらが負った被害も甚大。深刻な亀裂はいくつも赤い組織を見せ、魚雷を撃つたびに、黒いタールのような粘液が振りまかれているのが見えた。
 金属の破片が雪風の頬に刺さる。鎖骨に刺さる。肩に刺さる。しかし前髪を焦がし、粘膜を焼き、それでも雪風は、魚雷の撃ち合いを止めない。

 そうしなければ道が作れないと知っているから。

 海水が絶え間なく蒸発。水柱。爆炎。煙。水蒸気。波の音。爆裂音。

 それら全てを置き去りにして、漣は跳んだ。

 魚雷。魚雷。魚雷。

 力の限り、目一杯のそれを顕現して、漣は手を振りかざした。

『徹底的にっ!』

 振り下ろす。

『やっちまうのねっ!』

181 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:40:07.63 ID:iqh1xvMV0



 急角度からの魚雷が漣に直撃した。



182 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:41:19.47 ID:iqh1xvMV0

「漣ィイイイイッ!」

 脳内でアラートがうるさい、大破、大破だって、わかってるよくそ!
 爆炎が漣の全身を包み込み、右肘と右膝が逆の方向に曲がっているのが、煙に包まれた中でもわかった。
 距離的に最も近いのは雪風、しかし広範囲に放たれる魚雷の始末で手いっぱい。次いでヴェールヌイと58だが、それよりも先に雷巡棲鬼が漣へと向かって!

 空母たちの艦載機は数が足りない! 間に合わない!

 漣が着水――と同時に、雷巡棲鬼の!

 放った魚雷が!

 眼を瞑ることは簡単だった。しかし、先ほどと同じように、俺の体はすっかり麻痺してしまっていた。それとも、やはり神とやらが、この惨状を目に焼き付けておけと言っているのだろうか。
 爆風に煽られる漣の体。鳴り響くアラート。ステイタスウインドウは自動的に立ちあがり、漣の情報を大破から轟沈へと変化させる。

 海へと飛び込むには、致命的な距離があった。

183 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:41:46.94 ID:iqh1xvMV0

 ……あぁ。

 不思議なことに吐き気はなかった。涙も出てこなかった。

 あったのは、底なしの暗闇。どこまででも沈んでいける絶望。
 あぁ、やはり、俺は。
 間違えて、間違えて、間違えて、間違え続けて、間違えつくして、来てしまったのだ。

 比叡は俺の犠牲になったのだ。

 そして、漣もまた。

 あぁ。

「あぁあああああぁあっ!」

 俺なんて生きているべきではなかった。

184 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:42:14.89 ID:iqh1xvMV0






――緊急ダメコンが発動しました。





185 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:43:32.66 ID:iqh1xvMV0





 え?





186 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:44:09.57 ID:iqh1xvMV0

『うぉおおおりゃあああっ!』

 黒煙から飛び出した漣は、今度こそ、魚雷を、そのあらんかぎりの力を籠めて、雷巡棲鬼へと叩きつけた。

 轟音。超至近距離からの爆発は、当然漣も吹き飛ばすが、無論それ以上に雷巡棲鬼へ値致命的な効果を与えていた。
 右肩から左の脇腹、右の太もも部分までがごっそりと消失している。頭部は首と、左の鎖骨部分で何とかつながっているような状態だ。

 雷巡棲鬼はバランスを崩し、蹈鞴を踏んで堪えようとするも、ついに脚が根元から崩壊した。黒い粒子が断面から溶け出して、肉と血と、金属と油と、それらが交じり合った奇怪な混合体が、ぐずぐず海に混じり合っていく。

『アァ……』

 通信に介入。あるいは雑音が、空耳に聞こえるだけか。

『イヤダ……マタ、クライ、クライ……デモ……ライセハ……ウマレカワッタラ……きっと、あたしは……!』

 断絶。

187 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:45:21.61 ID:iqh1xvMV0

「……」

『……』

『……』

『……』

 脳の、処理が。
 追いつかない。

『……やったの?』

 誰かが、言った。

「……どういう、ことだ」

『……ご主人様』

 当事者の漣でさえも、茫然としている。自分の両腕と両足を触って、頬を触って、手を握って、開いて、生の感触を確かめている。

『あれ、なんや……?』

 龍驤が指さした先には、海上をふわふわと漂い、天に昇っていく四つの光があった。
 一際大きい光と、その周囲に三つの小さい光。よく見れば、単なる光の珠なのではなく、何か浮遊しているもの自体が光っているらしかった。

『……妖精さん』

 呟いたのは、夕張。

 その呼称が正しいのかは、俺にはわからなかった。二頭身の、子供? 人のかたちには見えるが、かといって一見して人間とは違う、形容できない存在。青い法被をきたやつと、付き従っている残りの三つ。

188 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:49:52.09 ID:iqh1xvMV0

『あ、あれ、もしかして』

「漣、心当たりがあるのか」

『だ、だって、ご主人様が言ったんじゃないですか!?』

 俺が?

『ドックの片づけをしてるとき! 中に入ってるものは、なんでも持って行っていいって!』

 確かに、それはまぁ、そうだが。
 状況の整理はいまだならない。

『……ご主人様』

「……なんだ」

 頭がくらくらする。

『漣、やりました。ご主人様の、おかげです』

 何を言ってるんだ。俺がしたことなんて、お前自身が決断して、行動に移したことに比べたら、本当に微々たるものだ。
 漣、まずはそんな自分を誇ってくれ。

189 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:50:50.75 ID:iqh1xvMV0

『ご苦労さん。結果オーライ、やったね。色々言って、悪かった』

「いや、きっと、俺はやっぱり、間違ってんだろうな。偶然が重ならなければ、漣は沈んでた。また。また、俺は、沈めるところだった」

『でも、沈まんかった。あのお嬢ちゃんの笑顔は、あんたのものや。勲章にしとき』

 ……そうなのだろうか。そんな自己肯定をするには、少し潜ってきた修羅場が足りないように思う。

「漣」

『はいっ!』

 だが、なるほど確かに。龍驤の言ったことは間違いではないのだろう。
 漣の爛漫とした、花の咲くような笑顔は、激痛や疲労を吹き飛ばして余りある価値があったから。

『おっさん』

「なんだ?」

『はぁ? 「なんだ」やないよ。作戦は完了や。っちゅーことは、言うべきことがある。やろ?』

「……いいのか?」

『ええよ。ほら、はよしぃや』

 どくん、どくん。心臓の音が、自分でわかる。潮騒に負けないほどに主張している。

「全体」

 間違っても噛まないように、上ずらないように、極力注意しながら通達する。

190 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:52:33.75 ID:iqh1xvMV0

「作戦完了。これより泊地に帰投せよ」

『了解!』

 十三人の声が重なって、俺の心にすとんと落ちた。

191 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/21(木) 13:58:13.43 ID:iqh1xvMV0
――――――――――――――――
ここまで

最終決戦おしまい。結局一ヶ月くらい戦わせっぱなしになってしまった。
あと2話です(多分)。最後までお付き合いください。

まて、次回。
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/21(木) 14:05:39.46 ID:m24jL/ERO
おっつおっつ
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/21(木) 14:43:49.23 ID:71fW47bZO
乙!待つぞ!!
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/21(木) 16:15:07.44 ID:3AmKqbRZ0
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/21(木) 17:14:04.37 ID:cuzIKgLZo

戦闘中にダメコン発動は強い
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/21(木) 18:14:53.93 ID:vB4n0EEPo
おつ
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 01:15:40.02 ID:nxdwEyQA0
おつおつ
とてつもない引きだな漣w
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 11:40:37.04 ID:A+zsEFDJ0
おつです
199 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:30:54.63 ID:HAhQglRp0

 眼を覚ませば白い天井が見えた。

 ……眼を覚ました?

 起き上がろうとして――起き上がる? どこから?
 なんだこれは。一体どういうことだ。どうなっている。

「ぐっ、う……!」

 腕に激痛が走った。見れば俺の腕は首からぶら下げた包帯でつられており、何重にもあてられたガーゼで二の腕が随分と丸くなっている。
 痛みは、けれど曖昧な俺の意識を賦活させるには十分だった。ずきずきと神経がこねくりまわされ、まぶたの裏で火花が散って、視界が晴れる。

 泊地の医務室だった。扶桑が寝ていたあの部屋に、今俺は横たえられているのだった。

「あ、やっと起きた」

 声の方を振り向けば、そこには林檎を齧りながらの漣がいた。丸まんまにかぶりついて、しゃくしゃくしゃりしゃり、音を立てている。口の周りをハンカチで拭いて、また食べる。

「メシウマ!」

200 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:31:36.29 ID:HAhQglRp0

「なにやってんだ?」

 思わず訊いてしまった。

「なにって、お見舞いですよ。いや、看病かな?」

 俺は包帯に巻かれた腕を見た。と、ようやく遅れて認識が追いついてくる。

「被弾箇所の止血が甘かったみたいですね。ご主人様、ボートで岸まで辿り着いたのはいいけど、すぐにぶっ倒れちゃって」

「……そうか」

 おぼろげながらも記憶はあった。よく陸まで戻ってこれたものだ、と思う。

「他の奴らは?」

 部屋にはベッドが一つきりで、それは俺が使っている。俺よりも酷い怪我を負ったやつは他にもいるはずだ。霧島などは見るに堪えない状態だった。
 経過した時間は身についていないが、まさか全員が完治するまでの長期間、俺が昏睡していたというわけもないだろう。

「あぁ、みなさんは艦娘ですから。高速修復剤のところでゆっくりしてます。湯治みたいなもんですね」

 その例えは果たして適切なのか?

201 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:32:13.69 ID:HAhQglRp0

「お前は、その……」

 大丈夫なのかと尋ねようとして、俺にそんな権利があるか迷いが生まれた。
 漣が自ら志願したこととはいえ、あのときこいつは確かに一度沈んだ。そして、どういうわけか、また戻ってきた。自力で。俺が助けたわけでなく、誰かが助けたわけでなく、加護としか思えないなにかによって。
 結局俺は艦娘を沈めることしか能のない男だったというわけだ。それはあまりにも認めたくない、けれど突きつけられた事実だった。

「ご主人様はすぐに怖い顔をしますねぇ」

「……」

 眉根を揉んだ。寄っていたか?

「漣は、とても満ち足りてますよ」

 芯だけになった林檎をゴミ箱へと放り投げて、漣は立ち上がった。
 甘酸っぱい芳香が鼻を衝く。

「こんな気持ちになれたのは初めてです。漣にも、こんな漣でも、あんなに強い敵を倒すことができました。勿論それは漣だけの力じゃなくて、みんなの助力があってこそ、なんですけど」

「……幸せか?」

「はい」

「……そうか」

 体の力が抜ける。

「なら、よかった」

202 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:33:11.63 ID:HAhQglRp0

「ご主人様のおかげです」

「俺は大したことをしちゃいない」

「そうですかね? 漣はそうは思いませんけど、まぁご主人様がそういうなら、そういうことにしておきます」

「生きていけそうか?」

「すっごく」

 それはあまりにもふわふわした回答だったが、逆にこの場にはそぐうような気がした。

「……なぁ、お前は本当に、生きてるのか」

「生きてますよ。脚もあります」

「……あのとき、なにがあった? 俺にはよくわからん」

「漣だってよくわかんないです。でも、あのとき、漣は神様を見たんだと思います」

「神様?」

「はい。漣たちに憑いてる船の神様の、大本っていうか、神様って概念っていうか。よくわかんないんですけど、見守られてる感じがして」

「ドックにいたのか?」

「……多分。見間違いかと思ってたんですけどね。箱を空けて、すぐに消えちゃったから。きっと、漣と一緒に、ずっとついてくれたんですかね」

 オカルト極まりない話だった。眉につける唾が足りなくなるくらいの。
 しかし、事実俺は見てしまったのだ。漣が轟沈から復活し、そして空へと登っていく、ひとのかたちをした超常の存在を。あの体験にノーを突きつけるということは、自分の感覚を否定することと同じだ。それはとても難しかった。

203 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:45:20.09 ID:HAhQglRp0

「……漣」

「なんです?」

「こっちに来い」

「え? え? なんですか」

「いいから」

 俺が手招きすると、漣は怪訝な顔をして俺のもとへと寄ってくる。

「ほれ」

 そうして胡坐をかいたそこを示してやった。
 俺の意図することがわかったらしく、漣は「えー?」と声をあげたが、表情を見るにどうやら嫌がっているようではなさそうだった。よかった。ここで全力で拒否でもされようものなら、俺は立ち直れないに違いない。

 漣は少し悩んで、誤魔化すように笑う。

「あの、じゃあ、失礼して」

 ちょこん。そんな擬音が似合うくらいにつつましく、漣は俺の脚の間に座した。
 いつぞやの外でのやりとりと同じ体勢である。

 小さな背中だった。海の上に立ち、戦いに赴く存在のそれではない。誰かを到底守れそうにないこの体で、深海棲艦と戦っている。
 俺は後ろからゆっくりと抱き締めてやった。

204 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:45:55.37 ID:HAhQglRp0

「あ、うぇっ? なな、なんですかっ」

「いや、本当に生きてるのかなと思って」

「いっ、生きてます! 死んでないです! 勝手に殺すなー!」

「生きててよかった」

「……うー」

「生きてくれてよかった」

「そういう言い方は、ずるいです」

 保身だと思われてもいい。戦いに臨ませておきながら、そんなことを言うのは八方美人過ぎるのもかもしれない。それでも、俺は心からのその言葉を、漣に向けて言わなければならなかった。
 言いたくてたまらなかった。

 漣が生きているからこそ、俺もいま、そしてこれから、人並みに生きていける。そんな実感があった。そしてそれは事実だった。確信があった。

 漣は、回された俺の指に自らの指を絡ませて、少しだけ力を込める。くすぐったくなるような、むず痒くなるような、弱弱しい、少女然とした力加減。
 暖かい掌と指先。猫のように、俺の手の甲へ、頬を擦り付けてくる。すげぇ気持ちいい。ビーズクッションもかくやといわんばかりの柔らかさ。

205 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:46:47.89 ID:HAhQglRp0

「ごしゅじんさま」

 溶けた声。

「ん?」

「す――」

「淫行?」

 扉のところに大井が立っていた。

「んなわけねぇだろうが」

 反射的に漣は手の甲から頬を外したが、体勢はいまだに俺が漣を後ろから抱き締めているかたちになっている。
 大井はそんな俺たちを、まるで夜叉のような瞳で矯めつ眇めつしていた。視線で人が殺せるならば、俺は間違いなく死んでいただろう。

「……いいなぁ」

 ぼそりと零れた呟きを、俺はなにも聞かなかったことにした。

 だいたい、お前、大井……あぁもう。
 初対面の時の舌鋒の鋭さはどこへいったよ。そんなキャラじゃねぇだろう――いや、俺が大井の、いったいなにをどれだけ知っているというのだ。くそ。急にそんなことを言われたって困るぞ。
 顔が火照る。心臓がうるせぇ。

 思わず視線を外してしまう。

206 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:50:52.68 ID:HAhQglRp0

「……生きてるか確かめてただけだよ」

「は? 馬鹿じゃないの?」

 どすの利いた声。馬鹿らしいことは否定できない。言い逃れにしたって苦し紛れだ。

「悪かったよ。用件はなんだ」

「龍驤からの伝言でね。『明日の夜にぱーっとやる』そうよ。体調を万全にしておいて」

「他の奴らは? もう治ったのか?」

「そんなわけないでしょう。でも、あなたの怪我よりはよほど治りが早いわ。一番ひどいのは霧島だけど、集中して治療すれば、自力で立てるくらいにはなるでしょうね」

 さすが、艦娘だな。

「飲み物や食べ物は各自で用意しておいて、だそう。それじゃあよろしくね」

「あ、おい」

 引き止める間もなく大井は部屋から去っていった。ようやく向けることのできた視線は、虚しく大井の背中に突き刺さるばかりで、相手はちらりともこちらを見ようとしない。
 廊下を曲がって、ついに見えなくなった。

「悪いことしちゃいましたかね」と漣。その「悪いこと」の解釈が難しくて、俺は言葉を返せなかった。下手をすれば、自惚れが過ぎる。かといって見てみぬふりをすればするほど、半ば自覚的に大井を傷つけることになるような気もして。
 かぶりをふった。答えを出すには、俺にはどうしようもなくありとあらゆるものが不足している。

207 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:53:10.20 ID:HAhQglRp0

 頬を抓ってみた。

 痛い。

 やはり、これはどうやら夢ではないようだった。

208 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:54:57.37 ID:HAhQglRp0

* * *

 次の日の夜まではあっという間だった。俺は泥のように眠り続けていたからだ。

 腕の痛みなどまるで意に介さず、肉体的にも精神的にも疲労困憊。漣の生を確認して、自らの生もまた確認して、トラックの艦娘たちの無事も知り……一気に腑抜けてしまったのだ。
 漣の差し出してくれた林檎も口にせず、俺は丸一日眠り続けた。

「提督? 提督?」

 俺を起こしたのは最上。声だけでは意識を取り戻す気になれず、布団をはぎ取られてようやく覚醒する。
 眠りすぎのためか頭が重たい。体も、重力に負けている。体調は万全には程遠かったが、体力は回復していた。ぼやけた意識や視界は時間経過でじきに戻るだろう。それを思えばかなりよくなったと思う。

「もうすぐパーティだよ。早く行かないと」

「パーティねぇ」

 横文字を使うほどの規模ではないだろうに。まぁ心持ちの問題か。
 最上に連れられて向かった一室には、既に艦娘たちが軒並み座っていた。地べたにビニールシートに座布団。そしてお菓子の袋と一升瓶と缶ビール。ペットボトルのお茶やジュースも申し訳程度に。

 漣が手招きして俺を呼ぶ。神通との間に座った。

209 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:55:33.78 ID:HAhQglRp0

 上座には龍驤がいて、鳳翔さんにお酌されている。58も一緒にワインの栓抜きにてこずっているようだった。
 夕張はどちらの塩とコンソメ、どちらのポテチを開封するか迷っており、雪風とヴェールヌイは和気藹々と談笑している。

 霧島はまだ万全の体調ではないようだったが、それでも包帯や湿布があてられているくらいで、俺のように腕を吊ったりなどはしていない。缶チューハイを持った扶桑と何やら神妙に話をしていた
 缶ビールを両手で握った大井は、俺をちらりと見るとすぐに視線をビールへ落とす。

 漣から缶ビールを手渡された。気づけば最上も、手に日本酒の入ったコップを持っている。
 既に酒は全員に行き渡っていて……

 ……赤城だけがいない。

 ぐるりと見回した後の俺の表情は、どんなものだっただろう。「勿論声はかけたんだけどね」と最上が言い訳を言う子供のように呟いた。
 龍驤と58が落ち着かなさそうにしているのはそのせいか。

210 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:56:00.58 ID:HAhQglRp0

「あー、とりあえず、大体は揃ったね」

 立ち上がって、龍驤が音頭をとる。

「みんな、ご苦労やった。怪我の治りきってないやつやら、疲れの抜けきってないやつやら、まぁ大なり小なりみんなそうやと思うけど、まずは喜びと達成感を分かち合いたいと思って、この場を開かせてもらった」

「いつものことでち」

「ははは、58、まぁそう言うなや。おっさんと嬢ちゃんは初めてやからな」

「作戦行動のあとは、いつも飲み会を?」

「まぁな。一応な。あいつンときから、ずっとや」

「なら、流儀に従わせてもらおう」

 郷に入っては郷に従え、というわけではないが。
 確かに節目節目の区切りをきちんとつけるのは大事なことのように思えた。お疲れ様。ありがとう。次もよろしく。常日頃顔を合わせる仲であれど、そういったやりとりは欠かせない。
 それになにより、あくまで有志の集いであるこの場に、俺と漣が呼ばれたことがとにかく嬉しかった。

211 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:56:36.95 ID:HAhQglRp0

「各自飲み物は持ったか?」

 はーい、と声が上がる。漣、雪風、ヴェールヌイ……まぁこの際気にはするまい。無礼講に水を差すのも気が退ける。俺だって「お酒は二十歳を過ぎてから」をくそまじめに守ったわけではないのだし。

 グラスを、缶を、それぞれ高く掲げて、

「私の席はありますか」

 がらがらがらりと引き戸を開けて、一升瓶を小脇に抱えたその人物は、

「すいません。一番いいやつをと思って、色々選んでいたら、遅くなってしまって」

 漣が俺の手をちょんちょんと触る。龍驤を指さして、口元を手で隠し、悪戯っぽく笑った。

「鬼の目にも涙」

「そうだな」

「席があるわけないやろうが! ウチの隣で地べたや! このあほ!」

「はい、はい、そうですね、そうでした……! いま、隣に」

 どっちが、だろうな。

 俺は闖入者の方を指さして、笑った。

212 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:57:29.86 ID:HAhQglRp0

「お前らさっさとするでち! こんなんじゃ酒がぬるまっちゃうよ! ほらほら、皆様、お手をはいしゃーく!」

「58さん、それはお開きでは?」

「いいから! グラスちゃんと持ったぁ!?」

「はーい!」

「じゃあ一番年長者の、扶桑さん、お願いします!」

「えぇ、私……?」

「はやくしましょーよー、ボクもうお腹ぺこぺこだよー」

「っていうか、年長者なら、ご主人様では?」

 鶴の一声に全員がこちらを――俺を見る。

「よっしゃ、新参者が挨拶するでー! ご清聴や、ご清聴!」

「まともに喋れるのかしら?」

「こら、大井ッ」

 俺はわざとらしく咳払いを一つして、

「積もる話はあるだろうが、まずは酒を呑んで口の滑りをよくしてからにしよう。
 せーのっ」

「かんぱーい!」

 ちりん、ちりんと軽やかに鳴るのは、浮き立つ俺たちの心そのもの。

213 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:58:13.65 ID:HAhQglRp0

 騒ぐ。はしゃぐ。酒を呑んで浮かれ、陽気に歌い、生を噛み締める。

 神通がしきりに俺へと感謝を述べるのを押し留め、なんでもします、お好きな時にお呼びくださいと頬を紅潮させながら叫んだところで、大井が肘で俺の脇腹を強く打つ。それを見て龍驤が笑う。漣が頬を膨らませる。

 ヴェールヌイは日本酒に舌鼓をうち、雪風が一口貰って顔を顰めた。巨峰の缶チューハイで口を洗い流す。小さな体ではアルコールの巡りは早いのか、眠そうに眼をとろんとさせて、相方へとうつらうつら何かを言っている。

 龍驤が注ぎ、赤城が呑む。赤城が注ぎ、龍驤が呑む。そこに58も混じって、ついにはわんわんと声をあげながら抱き締めあう。

 最上と扶桑は酔いつぶれてしまった夕張に毛布をかけていた。鳳翔さんが酔いに効く簡単なサラダを作って現れる。群がる駆逐艦。それを見て笑う龍驤と58。霧島は壁に背中を預けて、微笑ましそうにその光景を眺めている。

 全てが満ち足りていた。

 この世の幸せはここにあった。何一つ欠けることがなく。

 あぁ――俺は、一生このときが続けばいいと、こいつらの笑顔の奪われることがあってはならないと、まるで少年のような青臭いことを思った。そのためなら何でもする覚悟があった。全てを擲つ決意があった。

214 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 22:59:10.57 ID:HAhQglRp0





 俺の本土への転属が決まったのは、それから四日後のことだった。





215 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/23(土) 23:00:46.64 ID:HAhQglRp0
―――――――――――――
ここまで

ギャルゲー要素補充。
遅い……遅すぎない?

次回でラスト。投下分は既に完成してありますが、推敲と手直しのため、明日の朝になるかなー?

待て、次回。
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 23:05:09.14 ID:BNRBLDYc0
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 23:21:08.81 ID:9aceSdR70
おつおつ
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 00:59:34.75 ID:iXZ849E8o
待つぞ

もう終わってしまうのか…
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 02:26:42.51 ID:AHgYONUEo
おっつおっつ
220 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:14:36.34 ID:hgLBEw7t0

 エックス・デイが来た。

 黙っていようが、泣き叫び喚こうが、時は誰にでも等しく流れる。その日は誰にでも等しく訪れる。

 ならば行動に意味はないのか。覚悟に意味はないのか。違う、そんなことはない。俺はそのことを本当に知っているつもりでこの島に来て、本当は知っていなかったのだと知って、本当のそれを知り、いま、この島を出ていく。
 トラックを。

 水平線の上に一隻のフェリーが見えた。あれに本土からの新しい将校が乗っているのだと、龍驤は伝えてくれた。
 そして俺が帰るためのフェリーでもある。

 到着まで、あと十分強、といったところか。

「ご主人様ァ……」

 漣が俺の手をぎゅっと掴んでいる。泣き腫らした目は兎よりも赤い。俺はせめてもの慰めとして、彼女の手を握り返してみるが、帰ってきた返事は洟をすする音だけだった。

221 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:15:06.28 ID:hgLBEw7t0

「早いね。本当に早いよ。あっという間だ」

 最上は漣の頭を撫でていた。最上の言うとおりに、体感は光速を超えていた。船に乗り、龍驤たちとの邂逅を果たした日からこれまで、いくつもいろんなことがあったが、全てが昨日のようにさえ感じられる。
 そしてその僅かな時間で、成すべきを成せたという実感もまた、内側に確かにあった。

「提督が来なければ、ボクはきっと浜辺で今も釣りをしていたと思う。そして、そうしている間に、全てが手遅れになっていたんじゃないかって……」

 買い被りすぎだった。俺はきっかけを与えただけだ。そのことに感謝されることはあっても、こいつらの頑張り全てが俺の勲章になるのは、間違っていると思った。

「これまでお疲れさん。本当に感謝しとる」

 龍驤が握手を求めてきた。片方は漣に塞がれているので、空いた右手でそれに応じる。
 腕の傷は経過良好。たまに寝返りうつときに痛むくらいで、日常生活には支障はない。後遺症の心配もないそうだ。

「人生辛いことばっかりやない。きっと、今後はいいこともあるやろ」

「……そうだといいな」

「そうに決まっとるわ、あほ」

 笑いながら言う龍驤だった。

222 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:16:50.62 ID:hgLBEw7t0

「あたしたちも尽力するからさ、絶対になんとかなるから」

「横暴は許せませんしね。上意下達は軍の常、とはいえ誤った上を正すのも下の責務だと思います」

 夕張と鳳翔さんの笑顔が眩しい。最初の邂逅を思えば、こんな顔を見せてくれることが、そもそもの奇跡。
 いや、胸を張ろう。この結果は俺たちのものだ。俺だけではなく、彼女たちだけでもなく、俺たちのもの。

「本当に考え直さないのですか?」

 神通が一歩前に出てくる。不躾ながら、と前置きして、

「相手の言いなりになる必要はありません。トラックの艦娘は、勿論私を含めて、あなたに与する所存です。少なくとも交渉の余地はあります」

 その話は何度も聞いた。神通だけではなく、龍驤にも、大井にも。漣なんかは泣いて泣いて大変だった。行かないでと、どうして行っちゃうんですかと。
 果ては漣のことが嫌いになったんですかだなんて言うものだから、俺はめっきり参ってしまった。

223 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:17:20.93 ID:hgLBEw7t0

 正直なところ、ここを離れることに未練がないわけでは、当然ない。この数か月の間の出来事は掻い摘んでも莫大だし、詳細に話そうとすればそれこそ一日では収まらないくらいだ。
 少なくとも、俺は俺なりに尽力してきた自負がある。勿論それは全てがトラックのため、トラックに住む艦娘のためというわけではなかった。ここにやってきた理由も含めて、俺は自分の人生を懸けられるなにかを探し求めていたから。

 それでも、俺は軍人の端くれだった。人としての矜持が欠片くらいは残っていた。
 比叡の姿を忘れることはできなかった。

 だから、で繋いでいいものか。

「俺の我儘でお前らを振り回すわけにもいかんしな」

「違います! 私の我儘です!」

「……ははっ」

 その言葉がどれほど嬉しいか、神通、お前はわからずに言ってくれているのだろうな。

 これからもトラックは幾たび襲撃に見舞われるだろう。その時に必要なのは、本土との太いパイプであり、団結した仲間。俺にはどちらも提供してやることができない。
 ここでまた一悶着を起こせば、立場の弱いトラックのことだ、どうなることか想像もつかん。わかってくれ。

 俺がそう言うと、神通は不承不承を顔に滲ませつつも、一歩退いた。

 ……悪いな。

224 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:17:52.34 ID:hgLBEw7t0

「司令!」

「……これ」

 雪風とヴェールヌイが握った手をそれぞれ差し出してくる。ゆっくり開かれたその中には、ざらざらした表面の、石にしてはカラフルな、それにしては石にしか見えない……なにかが握られていた。
 あげる、と雪風。ヴェールヌイも追随して、ん、と。

「あら、シーグラスですか。随分きれい、こんなものもあるんですね」

 覗きこんできたのは霧島だ。眼鏡越しの瞳は興味津々といった様子。
 シーグラス。聞き慣れない単語だった。

「浜辺に流れ着いたガラス片ですよ。研磨されてくうちに、こんなきれいになるんです」

「色々、お世話になりました。散々痛めつけたことは、ごめんなさいって思ってます。本当ですよ」

「これを見て、思い出してほしい。私たちのことを」

 胸の中が暖かさで満たされていくのを感じた。決して言葉にはできないであろう、俺にしかわからない、俺だけの、感情だった。
 ゆっくりと手を伸ばしてそれらを摘まむ。軽く、硬質で、太陽を反射し輝いている。まるで二人そのものだ。

225 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:18:45.90 ID:hgLBEw7t0

「右往左往ですね。行ったり来たり」

 ふ、と霧島は笑う。変に同情されるよりは笑い飛ばしてくれる方が、こっちとしても相手はしやすい。

「上に嫌われてるからな」

「元帥まで上り詰めればいいのでは?」

「無茶を言うんじゃねぇよ」

「無茶を通さずに無茶を通せますか。現状が不満なら、偉くなって変えてしまえばいいんですよ」

 まったく難しいことを容易く言ってくれる。トートロジーも、かなり厳しい。だが真実でもあった。ありとあらゆるものに抜け道が付随するわけではないのだから。
 確実に、着実に、一歩一歩を踏みしめる。誰にもできることではあるが、誰もがやり続けられるかと言えば……。

「ついにこの日が来てしまうなんて、不幸だわ」

「仕方がないことだ」

「えぇ、仕方がないことよ。でも、到底看過できることじゃない。結果だけを掠め取られるなんて、そんな不幸なことがあっていいと思う?」

226 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:19:13.83 ID:hgLBEw7t0

 扶桑の口調は依然として諦念の中に沈んでいるが、同時に怒気も孕んでいるように感じられた。怒りの対象は大本営でもあるのだろうが、それ以上に社会だとか運命だとか、そういった巨大なものに向いているようだった。
 霧島もそうだが、やはり年長者は、理不尽を前に思考停止をしない。理不尽から先、ならばどうして理に沿うか、それを考えるくせがあるようだ。

「偉くなれ、と?」

「さぁ? そこまでは言ってませんが」

 嘘つけ、目がそう言ってるぞ。

「実際どうするんですか。やはり、これからも軍に身を置くのですか」

 真っ直ぐ射抜くような目の赤城だった。一切のはぐらかしや誤魔化しを許さない、張り詰めた雰囲気を携えている。
 実際のところ、何も決まっていないのだ。当たり前だが辞令は下った。俺はトラック泊地の提督業を解かれ、防衛省の海防局、沿岸警備部へ配属されるのだという。そこで何をするかを、俺は知らない。

227 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:19:43.05 ID:hgLBEw7t0

 提督から平への降格。一般的には有り得ないし、恐らく今後二度とこんな人事は起こり得ないだろう。
 海軍を辞めることは難しくなかった。手当はたんまりつくはずだ。引き止められるわけもない。人権派の人間は、依然俺へのマークを緩めることはないだろうが、そんなものは海外へ飛んでしまえばどうにでもなる。

 最悪、漣を伴って隠遁してしまえばいい。

「どこかの泊地に潜り込めれば、願ったり叶ったりだけどな」

 とはいえ、雲隠れにはまだ早いような気がした。
 そんなのは敗北だ。俺はまだ、自らの負けを自らで選ぶほどには、打ちひしがれていないのだ。
 自分でも不思議なほどに。

 ……それはきっと、恐らく、こいつらがいたからなのだと思う。
 こいつらがいるからなのだと思う。

 トラック泊地の艦娘たちが。

「……そうですか。もし、戦力が足りなければ、御一考くださいね」

「っちゅーか、まじか?」

「ん?」

 なにがだ。

「あんた、まだ提督やる気、あったんか。うちはてっきりのんびり余生を過ごすもんだと思っとったで」

「……さぁ、どうかな。そればっかりはその時にならねぇとわからんさ」

「……ふぅん。そ。まぁ、ならいいけどね。うちも大助かりや」

 なんだ? 何を言ってるんだ、こいつ。

228 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:20:29.59 ID:hgLBEw7t0

 フェリーが汽笛を鳴らした。もう船は着岸している。小さい船の中に、二つ、人影が見える。一人が運転士なのだとして、がたいのいい方が新しい提督に違いなかった。
 ……そろそろ、タイムリミットか。

「……」

 沈黙を保つ大井が、しかし、船の中の俺の代わりよりも、よほど恐ろしかった。押し黙る大井、それは幽鬼じみている。
 怒ったときに激昂する人間と無言になる人間の二種類がいて、確実に大井は後者。俺には手がつけられない。

 何かを言うのか、それとも言わないのか――言ってくれないのか。そこまで考えて俺は大井との間の絆を自らが信じていることに気が付いた。
 きっと大井は何かを言おうとしている。

「……」

 脚を止めて、待った。

「……」

 沈黙。長いようで、短いような。

「あの、ね。耳を貸してもらえないかしら」

「? おう」

 言葉の意味は明確だったが、目的はあまりにも不明瞭。けれど難しいことではない。俺は軽く膝を曲げ、大井に耳を向ける。
229 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:21:12.38 ID:hgLBEw7t0

 ぐっと袖がつままれて、頬に手が添えられて、

 大井の顔が近づいて、

 唇に、

「あーっ!」

 漣の絶叫。

 周囲のざわめき、嬌声。あるいは、絶句。

「こらこら大井さん、それ、それはっ! もー!」

 漣が叫ぶが、大井は一顧だにせず、真っ赤にした顔を俯かせてむりやり俺から視線を切った。

「……忘れらんないようにしてやったわ。ざまぁみなさい」

「ご主人様! 漣にも!」

 なに言ってんだお前は。

 大井が龍驤や最上や夕張や、いろんなやつからやいのやいの言われている間に、俺は自分の顔の火照りを落ち着かせるという意味もあって、軽く辺りを見回した。
 やはり、58の姿はついぞ見当たらなかった。面倒くさがったか。その程度の信頼しか得られなかったか。

 残念だったり寂しく思わないと尋ねられれば嘘だ。だが、それを表に出すのも格好つかないような気がして、俺は毅然ぶってみる。今更センチメンタルな気分になっても、遅きに失した感もある。
 それとも、こういう時にこそ感傷に浸るべきなのだろうか?

230 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:22:31.95 ID:hgLBEw7t0

 桟橋から代わりの提督がやってきた。俺より少し上、三十の半ば。柔和な笑みを浮かべてはいるが、瞳の奥は笑っていない。階級章を見る限りは俺よりずっと上、将校クラス。きっと防衛大学を出たエリートなのだろう。

「これまでご苦労だった」

 嫌味なくらいに正しい姿勢で、その男は俺に握手を求めてくる。一瞬で俺の周囲から不穏な空気、有体に言ってしまえば暴力の気配を感じたので、それを鎮めるためにもすかさず握手に応じる。
 変に力を籠める子供じみた真似はしたくなかった。握手自体は一瞬で済み、そいつは唇の端を釣り上げて笑う。

「指揮権を渡してもらえるかな? 随分と、色々なことがあったようだが」

「そうですね」

 階級の差は大きい。遜ることはないが、どうしても強く出られない。俺のようなはみ出し者であったとしても。

「ウチやで」

「……ん? どういうことだ」

 手を挙げた龍驤の言葉をいまいち理解できていないようだった。それに関しては、そうだろうな、というのが率直な感想である。

231 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:23:09.73 ID:hgLBEw7t0

「ウチが前の提督……死んじまったやつな、あいつから引き継いで、それっきりや。だからそこのおっちゃんは指揮権をもっとらんよ。
 色々なことっちゅーのは、全部ウチらが勝手にやったんや。あんたも聞いとるんとちゃうの?」

――トラック泊地では、艦娘たちが、やりたい放題やっている。

 龍驤は自虐的な笑みを浮かべて宣言する。

 そいつの顔が嫌な形に歪んだのを、俺は見逃さない。予定がずれたときの面倒くささがにじみ出る。

「……なら、譲ってもらおうか」

「ええよ。ちょっと待っててな」

 将校と龍驤が五本の指をそれぞれぴたりと合わせる。認証、IDとパスの入力、そしてまた認証。何かをしているのは見て取れるが、具体的な操作はまるでわからない。
 時間にして一分ほどだろうか。全ての移行は完了したと見えて、将校は満足そうにこちらを振り向いた。

「あまり船を待たせておくのも悪いな。きみはもういきたまえ」

 フェリーを顎で示される。
 ぎゅっと、漣の手が俺の手を強く握った。

 赤城と神通の重心が爪先寄りになるのを俺は見逃さない。注視していたのはどうやら霧島と扶桑も同じだったようで、二人の手首を寸前で掴んで止めた。

「……なんでしょうか」

「なんですか?」

 殺意を迸らせながら二人。

「いや、そう訊かれても」

「困るわ……」

232 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:23:45.48 ID:hgLBEw7t0

 これ以上引き延ばしても余計な諍いを生むだけか。そう判断して、俺は無言のままフェリーへと向かおうとするが、

 ぐっ、と左手が動かない。

 桃色の少女。体を全力で突っ張って、まるで楔のように。

「漣、離してくれ」

「……やだ」

「あのな」

「やだ。やです。やだもん!」

「漣」

「だって、だって、ご主人様は漣のご主人様だから、折角特別になれたのに、漣が、わたし、わたしだって、わたしでよかったって思えるのは提督のおかげなのに、こんなのってないもんっ!」

 涙をぼろぼろとこぼして、ついに漣は俺に抱きつき、軍服にいくつもの染みを作り始めた。洟をかんでいる音さえする。おいおい、すげぇな。
 そんな漣の桃色の後頭部を撫でてやることくらいしか俺にはできない。

「……船員を待たせるのは失礼だと思うんだがねぇ」

「――っ!」

233 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:24:20.62 ID:hgLBEw7t0

「神通ッ! 赤城ッ!」

 手首の拘束なぞ構わず、将校の制空権を侵犯する神通と赤城。彼我の距離は数センチに縮まり、すんでのところで二人の動きを止めたのは、龍驤の一喝。
 そのまま龍驤は一歩、二歩と歩みを進め、ぽっくりを鳴らしながら三人目、制空権を侵犯する。

 将校はとっさのことで対応に戸惑っているようだった。精一杯の虚勢なのか、顔面に引き攣った笑みが張り付いている。

「別れを惜しむ時間くらい与えてやれや。それともなにか? 本土のお偉いさんは、それくらいの余裕もないってか?」

「……」

「提督」

 軍服越しのくぐもった声で、漣が言う。

「好きです」

「……」

 重大な言葉に対する返事を、俺はもっていなかった。こいつのことを特別視しているのは認めるとして、それが所謂恋愛感情だとは、申し訳ないが思えなかったのだ。だってこいつはまだ中学生で、俺よりも一回り離れている。
 ツインテールを撫でてやる。柔らかく、熱を持っていた。

 あぁ、ここで「俺もだ」「愛している」「一生そばにいて欲しい」などとのたまえることができたなら、いっそどんなに楽だろう。愛おしいと愛の違いが、俺にはどうにもあやふやだった。
 あやふやなものに身を委ねるのは、この場においては漣に失礼な気がした。

 俺はこいつに、確固たるなにかでもって返さなければならない。

 惜しむらくは、こいつに対する確固たるなにか、その名前を見つけるには時間が足りなかったことだ。

234 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:25:00.34 ID:hgLBEw7t0

「悪いな、龍驤」

「ええってことよ」

 満足そうに彼女は頷く。





「時間稼ぎも終わったしな」





 ……ん?
 いま、なんて――

 閃光。
 熱風。
 爆裂音。

 水柱が立って、飛沫が舞って。

 ……雷巡棲鬼との戦いのときに、嫌になるほど見た光景。

 俺たちの背後、桟橋に接舷していたフェリーが、巨大な爆炎に包まれて跡形もなく消し飛んだのであった。

 すぐ脇では腰を抜かしたフェリーの運転士が、聞き取れない現地語で何かを叫んでいる。

235 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:25:52.51 ID:hgLBEw7t0

「あ、は、な、はぁっ?」

 声なのか、音なのか、判別のつかない誰かの声。そしてそれは誰しもの声でもあった。その場にいた全員が、理解をできていなかっただろうから。

 爆炎に包まれたフェリーは、轟々と燃え盛りながら、船体中央から真っ二つに割れて海へと沈んでいく。

「いやぁ、まさかこんなことになるとは思わんかったでちねー」

 俺の、隣、には。
 いままでいなかったはずの、58が、潜水艦が、立っていて。
 ずぶ濡れで。満足そうな顔をして。

 棒読み口調でそんなことを言うものだから、俺は。

「はぁあああああああっ!? なにやってんだてめぇ!」

「なーんも! なーんもだよ! ゴーヤ、なーんも知らないでち!」

「んなわけねぇだろ! 誰の差し金だ、大井か! 大井か!?」

「大井じゃないでちよ! りゅうじょ――」

「お二人さん、ちょーっち、黙ろうか」
236 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:26:40.58 ID:hgLBEw7t0

――っ!

 肩に手が回されて、俺と58の動きが止まる。肉へ龍驤のか細い指が食い込む。力を籠めているのではなく、それさえも自制の結果なのだと、すぐにわかった。
 見れば龍驤が地獄のような笑みを浮かべていて、その視線の先には、青白い顔をした将校が。

「いやぁ大変やなぁこれは。単純な船の故障か、それとももしや、海軍将校を狙った計画的なテロ事件かもしれんなぁ。ほうや、張作霖みたいやんか」

 妙に芝居がかった仕草と言葉で、龍驤はその先を紡いでいく。

「もしテロやったら一大事やで。どこから、あんたがトラックに来ることが漏れたんやろなぁ。大本営か、それともまさか、うちらの中にスパイがおる、なんて考えたくもないなぁ。だぁれが責任取らされるんやろなぁ。どう思います? 『提督』」

 びくり、と将校の肩が震える。ようやく彼も、そして俺たちも、進行している事態を呑みこめてきたようだ。
 神通と赤城が悪い顔をしていた。

「そういえば神通。本日、新しい提督が着任する予定だったと思うのだけれど……まだ着いていないの?」

「赤城さん、それがどうやら船の故障で、今日中の到着が難しいとお聞きしましたよ……?」

237 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:27:07.60 ID:hgLBEw7t0

「お、お前ら! おれをどうするつもりだっ!」

「別にどうするつもりもないよ? 荒事は嫌いや、殺しなんてもってのほか。まぁ、少し早目のリタイアだと思って、余生をトラックでのんびりと過ごしてよ。
 ただ、ちょーっち、わかってなかったんやないの? って思うなぁ」

 くつくつ笑いを噛み殺し、龍驤は将校の胸をとんと押す。
 前後不覚になっていた彼は、それだけで脚を縺れさせ、港の地面に尻もちをついた。

「トラック泊地では、艦娘たちが、やりたい放題やっているんよ。そこの認識が甘かったね。
――なぁあああああぁ? 『張作霖』ンンンンンッ?」

 そのあまりにも酷薄な表情に、将校のみならず、俺の背筋までもうっすらと寒くなる。

238 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:27:41.06 ID:hgLBEw7t0

「おっさん」

「……なんだ」

「挨拶し」

「はぁ?」

「残念やったな。本土までの連絡と、渡航が復活するまでには、そりゃもう、えらい時間がかかるで」

「龍驤、お前」

 悪人だな?

「なーにを言っとるんや! こんな善良な、いち民間人をつかまえて!」

 いや、艦娘は軍人だから。民間人ではないから。

239 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:28:45.04 ID:hgLBEw7t0

「ご主人様!」

 漣が俺に抱きついてくる。少し痛くなるくらいに、強く、強く。
 それが、もう離すまいという意志の表れなのか、それとも自らの存在を主張するための行為なのかは、判断がつかない。そもそも俺にそんな余裕はない。目頭が熱くなって、こちらもただ力のままに、漣を抱きしめ返してやることだけが、今できることの全て。

 大井と目があう。

「あ」

「……」

 自らの行いを思い出したのか、大井は真っ赤な顔をさらに赤くした。自覚はあるのだろう、大きく深呼吸をして、表情はいつもの冷静なそれをつくる。
 今生の別れになると思っていたからこそ踏ん切りのつくこともある。龍驤はどうやら、本当に58との間でひそかに計画していたに違いない。敵を騙すにはまず味方から。そんなあたりだろう。

「帰るわ」

「はぁ?」

 龍驤が怪訝な顔をする。

「帰るから」

「ちょ、ちょっと待ちぃや大井! それはさすがに往生際が悪すぎるやろ!?」

「かえる! かーえーるのー! ほら、薬が、投薬の時間があるから!」

240 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:29:16.01 ID:hgLBEw7t0

 逃げ出そうとした大井をよってたかって艦娘たちが押し留める。腕を掴んで脚を掴んで、最終的には霧島が羽交い絞めにした。とても楽しそうな霧島の笑顔が眩しく、唇を噛んで泣きそうになっている大井の対比が面白い。
 ……とはいえ、あまり大井に不義理を働くのも、申し訳が立たない。いつか、なんらかの形で、話はしなければ。

 とはいえ、いまはまず、言わなければならないことがあった。
 龍驤にではなく、大井にではなく、漣にでもなく。

 全員に。

241 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:30:46.36 ID:hgLBEw7t0

 前を向いた。港があって、海が広がっている。抜けるように蒼い空。直視できない太陽の輝き。

 龍驤がいる。
 赤城がいる。
 神通がいる。

 最上がいる。
 夕張がいる。
 鳳翔さんがいる。

 58がいる。
 扶桑がいる。
 霧島がいる。

 響がいる。
 雪風がいる。

 大井がいる。

 俺の傍には漣がいる。

242 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:31:30.19 ID:hgLBEw7t0

「あー……」

 何を言うべきだろう。何を言えばいい?
 ありがとう。こんにちは。よろしく。開き直っていっそのこと、はじめましてからスタートしたっていいのでは。

 ええい、ままよと覚悟を決めた。自然と声が出るに任せる、それしかあるまい。

243 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:32:10.52 ID:hgLBEw7t0




 お前ら全員、幸せにしてやる。




244 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:32:50.68 ID:hgLBEw7t0




 比叡、見ているか。
 俺は生きているぞ。



245 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:33:23.71 ID:hgLBEw7t0




 提督が、トラック泊地に着任しました。
 これより艦隊の指揮に入ります。



246 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:42:59.16 ID:hgLBEw7t0
―――――――――――――――
ここまで。おしまい。

書きも書いたり30万字。大満足。
同語反復大好きなんで、くどさを抜けばもう少しスリムになったかなぁとも思いますが、まぁ野暮な話ですね。

思い入れの深い作品になりました。○○は俺の嫁、とは昔はよく聞きましたが、俺にとってはみんな娘のようなもの。
色々語りたいこともあるのですが、ここではきっと蛇足でしょう。後書きは別のところで。

次回作は未定。「潜水艦泊地」のほうが思わず好評をいただいたので、続けられたらいいなとは思います。
幼女戦記とガンスリンガーガールと孤独のグルメとトリコを足して割らないような話も書きたいけど、ここ向きではないかな。
まぁこの作品自体がここ向きかどうかは議論の余地がおおいにありそうですが……。

それではみなさま、長い長い物語を読んでくださって、ありがとうございました。
またの機会がありましたら、その際も一言「乙」を頂けると幸いです。

あー楽しかった!

待て、次作。
247 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/24(日) 06:45:50.26 ID:hgLBEw7t0
あと過去作の宣伝です。

【艦これ】「潜水艦泊地の一年戦争」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1525443266/
曙「百年早い」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1524740398/
【艦これ】大井「顔、赤いですよ。大丈夫ですか」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1524740398/
【艦これ】赤城「おいしいご飯を食べる方法」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1517407552/
【艦これ】加賀「幸福と空腹は似ている」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1518101886/
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 06:46:31.91 ID:hPRH5EaCo
よく書ききった!乙!
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 06:47:37.11 ID:tWRJMHnSO
潜水艦泊地の続きはよ
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 07:01:59.81 ID:1DO2f51Jo
乙、人生の楽しみだった
まだ3人くらいしかギャルゲー的展開に入ってないから残りもやろうぜ
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 07:35:57.94 ID:Zcp+SunZo
おもしろかった!

もっかい初めから読み通すわ
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 07:44:11.17 ID:X9hPIl890
乙でした!
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 07:49:10.98 ID:c/Ii5ZsF0
乙乙
終わる事に寂しさを感じるな
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 08:02:18.03 ID:kWuofy0y0
乙!
これから1人ずつルートを攻略するんですよね?ね?
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 08:16:27.37 ID:jBsk4gGO0
おつ素晴らしかった
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 08:27:23.96 ID:jBsk4gGO0
>>247
【艦これ】大井「顔、赤いですよ。大丈夫ですか」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1524740398/
これのリンク間違ってるよ
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 09:36:56.71 ID:umom0dq5O
控え目に言って最高だったぞ!
過去作を読みながら待ってるぞ!!
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 10:32:19.14 ID:qvR3vZl00

いいSSだった
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 11:37:51.54 ID:XGho/Wpj0
いやぁ面白かったわ……大作乙
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 11:49:33.27 ID:GkPROdnZO
おつ
後日談書いてもいいんですぞ
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 13:34:52.83 ID:jUACTCMz0
おつおつ。楽しく読めたでち。
よい作品をありがとう
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 14:41:17.81 ID:pxRn9f5/O
おっつおっつ
楽しい作品をありがとう
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 15:34:24.13 ID:ZwP2B5VAo
これはおつ
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 16:13:39.61 ID:tlE76my70

次回作も楽しみにしてる
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/25(月) 00:22:04.91 ID:9d2Dejrpo
おつおつ
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/25(月) 01:45:49.26 ID:Kt5Q1HIA0
本当にお疲れさまでした!
後任さんは可哀想だけど、このさきも本土とはチクチクやってくのかな?w
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/26(火) 00:20:22.97 ID:MOINOILU0
乙でした!
次回作も楽しみにしてます。
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/27(水) 00:39:11.36 ID:c6xt1Lpwo
乙でした!
一週目の

『だが、俺は知っている。知っているのだ。たとえどんな崇高な生き様だろうと、死した瞬間から風化していくことを。

 矜持や信念は剥奪され、十把一絡げにラべリングされ、加工を経て世間へと提供される。それは死者への冒涜だ。墓碑銘すらない無縁塚に、親しい人間を誰が入れたいものか。 』

このくだりがとても好きです
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/12(木) 00:22:19.96 ID:2mWFZ6Tr0
乙!

蛇足とは思いつつも提督と大井の後日談が読みたいな・・・
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