車でGO!  木村夏樹&松永涼編

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1 : ◆u2ReYOnfZaUs [sage]:2018/06/06(水) 22:47:09.71 ID:Bb3Y7mn80
・ドライブです
・前作を読む必要はないです
・走り屋のはなしではありません
・時空についてはスルーしてください
・アタシ注意

前作

車でGO! 神谷奈緒&北条加蓮編
ファンとのふれあい! 片桐早苗編
ファンとのふれあい! 脇山珠美編
ファンとのふれあい! 向井拓海編
ファンとのふれあい! 中野有香編

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1528292829
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 22:59:45.68 ID:tBkXf0bkO
蘭子「混 沌 電 波 第 171幕 !(ち ゃ お ラ ジ 171回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1528107596/
3 : ◆u2ReYOnfZaUs :2018/06/06(水) 23:01:00.14 ID:Bb3Y7mn80
「ドライブぅ?

 ツーリングじゃなくて?」

「おう」

木村夏樹は逆立った髪をなでつけながら頷いた。

「ちょっと積もる話があるんだ」

「いつ積もらせたのさ」

松永涼は夏樹と仕事をともにすることが多く、

プライベートでの交流も深い。

改めて何を話そうというのだろうか。

「まぁその日は空いてるけど」

「じゃあ、家の前に車回すからよ」

「それにしても…車なんていつ買ったんだ?」

「今から」

「はぁ?」

「今から選ぶんだよ」

涼は夏樹の無計画さにあきれた。

だが、その無鉄砲さに心が弾んだりもした。
4 : ◆u2ReYOnfZaUs [sage]:2018/06/06(水) 23:01:37.65 ID:Bb3Y7mn80
1ヶ月と2週間後、涼の住むアパートの前に、鈍色の、無骨な四輪駆動車が現れた。

角ばった大小のコンテナを継ぎ合わせたような外観。

悪路を走破する高めの車高と、強靭なシャフト。

グリルと平行に設けられた、丸いライトには不思議な愛嬌がある。

夏樹が運転席から降りてきた。

折り目のない、清潔感のあるホワイトのTシャツ。

さらに分厚い牛革のライダースジャケットを着込み、

ボトムスは、まさに満身創痍といった具合のジーンズ。

おろした髪が、初夏のさわやかな風にそよいだ。

額にはうっすらと汗がにじんでいる。
5 : ◆u2ReYOnfZaUs [sage]:2018/06/06(水) 23:02:11.65 ID:Bb3Y7mn80
「おまっとさん」

夏樹がおどけたように、左手で敬礼をする。

「来たねジョニー木村」

「そういうお前はジョーイ松永か」

「上背がちょっと足りないね」

涼も夏樹と似たような格好をしている。

「あと2人は?」

「じゃあアタシがディー・ディー木村になってだな…」

「ファーストネームで合わせるとお笑い芸人みたいだね」

「転向するか?」

「考えとく」
6 : ◆u2ReYOnfZaUs [sage]:2018/06/06(水) 23:02:52.90 ID:Bb3Y7mn80
2人はしばらく、語り合った後、車に視線を移した。

「また渋いのを選んだね……いつの?」

「1996年」

「最後のゆとり世代か」

ほ〜っと涼は息を吐いた。

助手席の扉を開けると、中古車特有の、

なんとも言えない匂いがした。

「どこ行く?」

「どこでも」

「んじゃあ、適当に流すってことで」

予定ばかりの毎日に、久方ぶりに訪れた無計画な日。

だが涼は、それを心から満喫できそうにもない、という気がしていた。
7 : ◆u2ReYOnfZaUs [sage]:2018/06/06(水) 23:03:25.36 ID:Bb3Y7mn80
「結構いじってあるね」

車が動き出すと、涼が言った。

シートは新品でそこそこに柔らかく、座り心地がよい。

カーナビ、オーディオも最新のものが取り付けられており、

車内空間はなかなかに快適だった。

「違法にならない場所は全部やったかな。

 特に足回りを……」

夏樹がアクセルを軽く踏むと、ゆるやかに速度が上がる。

次にブレーキをかけると、ギッギッと軋んだ音が出るものの、

きちんと思ったところに止まるようになっている。

オフロード仕様ゆえに乗り心地が固めではあるが、

それも“若干”というレベルに調整されている。

その一方、大幅なタウンユース化によって、

オフロード車としての持ち味が死にかけていた。
8 : ◆u2ReYOnfZaUs [sage]:2018/06/06(水) 23:04:08.55 ID:Bb3Y7mn80
「それで」

涼は切り出した。

「アタシと、どんな話をしたいのさ」

「……涼は」

「うん」

「涼は、周りを滅茶苦茶にしたくなるくらい……

 キレたことはあるか?」

夏樹は2回ほど瞬きをして、尋ねた。

涼は質問の意図を理解しかねていたが、

少し過去をまさぐった後に答えた。

「アタシが、その……お嬢様育ちってのは知ってるよね」

「おう」

「で、アタシがロックンローラーになった経緯は話したっけ?」

「くわしくは…」
9 : ◆u2ReYOnfZaUs [sage]:2018/06/06(水) 23:04:41.42 ID:Bb3Y7mn80
涼は、んんっ、と咳払いをした。

「うちの親はさぁ…今思えば親心ってやつだと思うんだけど、

 アタシが、“あまりお上品でない”ものに近づけないようにしてたのさ。

 でもさ、オジョーサマ学校にもはねっかえりはいるし、

 送迎の車の窓を開けるだけでも……」

 涼は、通学路の途中にあったレコード店の記憶をなぞった。

「親がいくら遠ざけようとしたって、アタシが無視しようとしたって、

 ロックンロールは鳴り止まないのさ。葬り去ることなんて……」

 最後まで入ることはできなかったが、店から流れてくる、

 荒々しい、ハスキーな女性の歌声は鮮明に思い出せる。
10 : ◆u2ReYOnfZaUs [sage]:2018/06/06(水) 23:05:19.12 ID:Bb3Y7mn80
「そんで遂にアタシは親に言ったのよ。

 “あたくし、音楽で食っていきたいんですの!”」

「ンフっ」

夏樹が吹き出す。

「そしたらしばらく部屋から出してもらえなくなった」

「お前も親も極端だな」

「結局、親子ってことなんだろうね…」

涼はしばらく帰っていない実家を想った。

愉快ではない記憶の方が多いのに、忘れることができない。

「でもアタシはちぃ〜っとも反省しないで、ある計画を立ててたんだ」

「脱獄」

「退屈な日常からのね……。

 マンチェスターの泉から現れた口の悪い方の眉毛だって、

 はじめは暗い倉庫の中で、一人ぼっちで音楽と向き合ったんだ。

 アタシもやってやろうと思ったの」
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