シャロ「もう嫌だ。働きたくない……」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/09(土) 23:54:14.19 ID:DIKu5dC60
―バイトの帰り道―

シャロ「はぁ……疲れた……」

シャロ(バイト、増やしたの失敗だったかしら……)

シャロ(でも仕方ないわよね。給料が下がっちゃったんだから。生活を維持するためには、今までより働かないと)

シャロ(にしても、最近のお客さんは怖いわ。なにかにつけて文句言ってくるし。他の店員もピリピリしてて、店の雰囲気が悪いのよね)

シャロ(みんな、なんでイライラしてるのかしら。不景気の所為?)

シャロ「はぁ〜……」

シャロ(最近バイトばっかりで、みんなと会ってないなぁ。学校とバイト先、家の往復って感じね)

シャロ(隣に住んでる千夜とすら、あんまり話してないわ)

シャロ(朝に会っても急いでたりして長々とは話せないし、お風呂も借りなくなったから)

シャロ(バイト増やした所為で夜遅くなることが多くなって、借りづらいのよね。お風呂)

シャロ(代わりに銭湯に行ってるけど、あまりいい噂を聞かないわ)

シャロ(サウナに入ってる間に服を盗まれた人が居るらしいし、気をつけないと。ロッカーくらい用意してくれればいいのに)

シャロ(明日もバイト。土曜日だから学校が休みなのが救いね……)

シャロ(さっさと銭湯に行って、帰って寝よう)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1528556053
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/09(土) 23:55:01.04 ID:DIKu5dC60
―土曜日・バイトの帰り道―

シャロ(はぁ……今日もバイト疲れたわ……)

シャロ(また理不尽なことで文句言われたし、最悪)

シャロ(明日は日曜日だけど、夜までバイトなのよね。さっさと帰ろ。お風呂は……面倒くさいし、いいや。1日くらい入らなくたって大丈夫でしょ)

リゼ「おーい、シャロ!」

シャロ「あっ、リゼ先輩! こんばんは。バイトの帰りですか?」

リゼ「ああ。シャロもか?」

シャロ「はい」

シャロ(久し振りにリゼ先輩と喋ったわ。はぁ〜やっぱり先輩、格好いい……)

リゼ「そうか、頑張ってるなぁ」

シャロ「あ、ありがとうございます!」

シャロ(先輩に褒められたぁ〜。えへへ、ちょっと気分が晴れたかも)

リゼ「そうだ、メール見たか?」

シャロ「メール?」

リゼ「ああ。ココアが送ったと思うんだが」

シャロ「……あ、本当だ。気づきませんでした」

シャロ(今日はお客さんが多くて、休憩する暇なかったから……)

リゼ「読んでみてくれ」

シャロ「はい。えっと『明日、みんなで遊びに行くことになったんだ! シャロちゃんも来ない?』か……」

リゼ「どうだ、来られそうか?」

シャロ(行きたい……でも)

シャロ「明日は夜までバイトが入ってて……」

リゼ「そうか……残念だ。また今度、行こう」

シャロ(そうシュンとされると罪悪感がー!)

シャロ(でも仕方ないわよね。生活が懸かってるんだもの)
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/09(土) 23:55:30.02 ID:DIKu5dC60
―シャロの家―

シャロ(リゼ先輩たちは明日お出かけかぁ。羨ましいなぁ……)

シャロ(私は勉強とバイトの日々で、遊ぶ暇なんて全然ないわね……)

シャロ(でも、頑張らなきゃ。決して楽な生活じゃないんだから)

シャロ(それに、せっかく学費免除してもらってるんだし、頑張っていい大学に行って、いい会社に入らなきゃ)

シャロ「よーし、明日も頑張るわよ!」

シャロ(……私、なんのために、いい大学や会社に行けるように頑張ってるのかしら?)

シャロ(生活のため、ひいてはお金のため……よね?)

シャロ(お金を得るには働かなきゃいけないから、働くためでもあるわね)

シャロ(……働くために、バイトしたり勉強したりしてるってこと?)

シャロ(これじゃまるで、働くために生きてるみたいじゃない)

シャロ(終わりなき労働の日々。友人と遊ぶこともできず、働いて勉強して働いて勉強して)

シャロ(そんな人生の先に待ってるのは、職を奪われた上に老いた身体だけを残されて『後はご自由に』と放り出される未来?)

シャロ(……なんか嫌になってきた……)

シャロ(私、そこまでして生きたくないかも……)

シャロ(とはいえ、そうとも言ってられない。頑張ろう……)
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/09(土) 23:56:00.46 ID:DIKu5dC60
―日曜日・バイトの帰り道―

シャロ(また仕事で怒られた……)トボトボ

シャロ(やりたい仕事でもないのに。一生懸命やってるのに。頑張ってるのに……)

シャロ(他にもっと駄目な奴、居るじゃない。なんで私だけ?)

シャロ(仕事が嫌いなら、仕事のことでいちいち他人に怒ったりしないわよね)

シャロ(そんなに働くのが好きなの? 理解できないわ)

シャロ(他人を傷つけることには無類の才能を発揮する労働者共め……全滅してくれないかしら)

シャロ(……労働者なんてありきたりね)

シャロ(もっと独創性のある呼び方がしたいわ。千夜のメニューじゃないけど)

シャロ(そうね……奴らは会社に魂まで売り渡した畜生だから『社畜』なんていいかも)

シャロ(でもそれだけじゃ弱いから『奴隷』もつけて『社畜奴隷』!)

シャロ「ハッ! お似合いの情けない名前! ぷっ、くくく……」

シャロ「社畜奴隷共、死ね! あっははは!」

シャロ「あはは、いひひ……はぁ……」

シャロ(アホらし……)

シャロ(他の店員も大概だけど、客も客よ。常連客じゃなければ知り合いでもないのに、あんたたちのことなんて知らないっての)

シャロ(なのに「いつもより遅い」だとか「いつもと味が違う」だとか……知るか!)

シャロ(どうせあいつも社畜奴隷よね。日々の労働で溜めたストレスを、弱そうな私で発散してるんだわ)

シャロ「ムカつく……」ギリ

シャロ(社畜奴隷ってキチガイしか居ないのかしら……)

シャロ(特に飲食店の民度は、客も店員も本当に低いわね。飲食店なんて、誰でもできて誰でも入れるからかしら)

シャロ(でも、高校生の私にできる仕事なんてそれくらいしか……)

シャロ(今や、そこそこ上の大学を卒業していてもバイトに困る時代らしいし、生活が懸かってるから選んでられないわよね。働けるだけマシか……)

シャロ(明日は久し振りにバイト休みだし、学校終わったら、ゆっくり休んで気分転換しよっと)
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/06/09(土) 23:56:28.30 ID:DIKu5dC60
―月曜日・学校―

シャロ(やっと授業が終わったわ。さっさと帰ってゆっくりしよう。……ん?)

担任「桐間さん、少しお話があるのだけれど、いいかしら?」

シャロ「はぁ……大丈夫です」

シャロ(久し振りのバイト休みの日に、先生に呼び止められるなんて……ツイてないわ)

担任「あなた今回の期末テストの成績、あまり良くなかったでしょう?」

シャロ「あ……はい」

シャロ(バイトが忙しくて、あまり勉強できなかったのよね……)

担任「このままの成績だと学費免除、取り消されることになるかもしれないの」

シャロ「えっ? で、でも今回は平均点も凄く低かったし……。私は平均、上回ってましたよね」

担任「そうね。でも、学校としては学費免除までしてる特待生の成績が、平均を少し上回ってるくらいじゃ困るらしいのよ」

シャロ「そんなぁ……」

担任「まだ決定したわけじゃないから、次、頑張れば大丈夫よ。そろそろ夏休みだから、きっと取り戻せるわ」

シャロ「はい……頑張ります……」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/09(土) 23:57:03.76 ID:DIKu5dC60
―帰り道―

シャロ「生活費だけでもキツいのに、学費まで払わなくちゃいけなくなったら、どうすればいいの……」ブツブツ

シャロ「いっそバイトを減らして……。でも、そうすると生活が……夏休みは稼ぎ時だし……」ブツブツ

シャロ「なんで私がこんな目に……あーもう! イライラするわ! クソッ!」ガンッ!

シャロ「〜ッ!? 痛ぁ!」ピョンピョン

シャロ(街灯なんか蹴るんじゃなかった……)

リゼ「……? あれ、シャロじゃないか。今日も会うなんて奇遇だな」

シャロ「リ、リゼ先輩っ!? お疲れ様です……」

シャロ(もしかして今の見られた?)

リゼ「ああ、お疲れ。どうしたんだ、そんな浮かない顔して」

シャロ(ほっ……見られてないみたいね)

シャロ「じ、実は……今の成績だと学費免除が取り消しになるかもしれないんです」

リゼ「それは大変だな。勉強で躓いている所があるのか?」

シャロ「そういうわけではないんですけど、バイトが忙しくて、なかなか勉強できないんです」

リゼ「バイトか……」

リゼ(そういえば最近、シャロはバイトを理由に遊ぶのを断ることが多いな。ちょっと訊いてみるか)
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/09(土) 23:57:34.91 ID:DIKu5dC60
リゼ「なあシャロ、もしかして無理してないか」

シャロ「えっ」

リゼ「私の勝手な想像だが、ずっと働き詰めなんだろ。バイトを減らすことも考えた方がいいんじゃないか? 身体を壊したら元も子もないぞ」

シャロ「でも、生活が懸かってるので……。バイトの給料が下がっちゃったんです。だから他で埋め合わせしないと」

リゼ「そうだったのか。なんで下がったんだ?」

シャロ「最近、正社員と非正規社員の賃金格差をなくそうって話になってるじゃないですか」

リゼ「ああ、そうらしいな」

シャロ「私の働いてる所でも、それが行われたんです。でも……」

シャロ「正社員の賃金を非正規社員と同じにする、という方法で格差がなくなっちゃって」

リゼ「なんだそれは。酷いな」

シャロ「それで、正社員の人たちが怒ってしまって。『バイトより働いてるのに、なんで正社員だけが損をするんだ』って」

リゼ「……まあ、そうなるか」

シャロ「でも店側も、バイトの給料を正社員並みに上げる余裕はない、けど人手は足りてないからバイトを減らす、ってこともできなくて」

シャロ「結局、バイトの給料も下げて、正社員とバイトの両方が損をするからいいでしょ、ってことになって」

リゼ「あ、あまりに酷すぎるな……。結局、格差なくなってないし……。そんな所、辞めた方がいいんじゃないか?」

シャロ「私も辞めたいです。でも、今や高校生や高卒、Fラン大卒が働ける所なんて、どこもそんな感じなんですよ。だから逃げ場がなくて」

シャロ「さっきので納得する正社員もおかしいんですけど、その人たちも、まともな転職先がないのをわかってるんでしょうね」

リゼ「今の世の中はそんなことになっていたのか。ラビットハウスだけに居るとわからないもんだな」

リゼ「でも、それなら猶更、息抜きが必要だろ」

リゼ「今日はバイト休みか? 久し振りにラビットハウスに来ないか。ココアたちも寂しがってるぞ」

シャロ「そうですね……たまには」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/09(土) 23:58:02.70 ID:DIKu5dC60
―ラビットハウス―

カランカラン♪

ココア「あ! シャロちゃんいらっしゃい!」

チノ「ココアさん、声が大きいです。店の雰囲気に合ってません」

ココア「え〜? 明るい方がいいよ」

チノ「ラビットハウスはもっと落ち着いた雰囲気の店です。もう1年以上、ここで働いてるんですから、いい加減に察してください」

チノ「にしてもシャロさん、なんだか久し振りに会った気がします。今日はバイトないんですか?」

シャロ「ええ」

ココア「寂しかったよ〜」ギュー

シャロ「ちょっ、ココア、抱きつかないで! 苦しい!」

ココア「シャロちゃんも寂しかったでしょ?」

シャロ「ま、まあ……」

チノ「そんなに忙しいんですか?」

シャロ「うん……。生活が懸かってるから、いっぱい働かないと」

チノ「シャロさんは凄いです。ココアさんもシャロさんを見習ってもっと真面目に働いてください」

ココア「私、頑張ってるよ?」

チノ「なら、シャロさんを早くもてなしてください。今日のシャロさんはお客さんです」

ココア「わかった、完璧にもてなしてみせるよ! 1名様ごあんな〜い!」

チノ「居酒屋みたいなテンションで言わないでください」

リゼ「チノ、居酒屋の雰囲気を知ってるのか?」

シャロ(なんかこの感じ、久し振り。それだけココアとチノちゃんに会ってなかったってことか……)
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/09(土) 23:58:43.46 ID:DIKu5dC60
シャロ(窓際の席にしようかな)

ココア「お嬢さん、ご注文はいかがしましょう?」

シャロ「なに、そのキャラ? え〜っと、じゃあココアで」

ココア「わ、私っ!? 不束者ですが……」

シャロ「違うわよ! 注文を訊かれたんだから飲み物に決まってるでしょ! ミルクココア!」

ココア「あはは! やっぱりシャロちゃんのツッコミは効くね!」

シャロ「ツッコミ欲しさに仕事を疎かにするなっ!」

シャロ(あーなんか妙にイライラするわ。ココアが纏わりついてくるからかしら……)

ココア「……」

シャロ「ど、どうしたのよ。突然、黙り込んで」

シャロ(なんなの、もう……)イライラ

ココア「……ねぇ、最近そんなに忙しいの? やっぱりシャロちゃんも居ないと寂しいよ」

シャロ「……まあ、忙しいわね」

ココア「なんで?」

シャロ「なんでって……まあ色々あるのよ。給料が下がった所為でバイトを増やしたりしたから」

ココア「そうなんだ」

シャロ(尋ねておいて『そうなんだ』って、興味ないの? というか、あんたには関係ないでしょ)イライラ
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/09(土) 23:59:10.50 ID:DIKu5dC60
ココア「そういえば、そろそろシャロちゃんの誕生日だよね。盛大に祝うから覚悟しておいてね!」

シャロ「いいわよ、別に。どうせ誕生日もバイトなんだし」

ココア「えー!? シャロちゃん、誕生日にバイト入れちゃったの!?」

シャロ「別に入れたくて入れたわけじゃないわよ。強制的に入れられただけ」

ココア「バイト終わってからなら祝えるよね!」

シャロ「その日は遅くなるわ」

ココア「じゃあ……」

シャロ「誕生日前日も、誕生日の次の日もバイトだから」

ココア「うう……」

シャロ「なんでそんなに私の誕生日を祝いたいのよ。自分のでもないのに」

ココア「友達の誕生日を祝うのは当然のことだよ?」

シャロ「ありがと。でも、さっき言った通りバイトだから」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/09(土) 23:59:49.20 ID:DIKu5dC60
シャロ(そういえば、ココアってなんでバイトしてるのかしら。訊いてみようっと)

シャロ「ねぇココア」

ココア「なに? シャロちゃん」

シャロ「あんた、なんでここで働いてるの?」

ココア「シャロちゃんも、マヤちゃんとメグちゃんみたいに職業インタビューしてるの?」

シャロ「まあ、そんなところよ」

ココア「それはもちろん、街の国際バリスタ弁護士になるためだよ!」

シャロ「……」

シャロ(こっちは真面目に聞いてるのに、ふざけたこと言って……あー!)イライラ

シャロ「ふざけないでちゃんと答えてよ!」バンッ!

ココア「ひっ」ビクッ

チノ・リゼ「……?」

シャロ(……はっ、なんで私こんなに怒って……)

シャロ(ココアがこんなこと言ってるのはいつものことじゃない。明らかに過剰反応だわ。とりあえず、謝らないと)

シャロ「ご、ごめん。真面目に聞いてたから……本当にごめん」

ココア「そっ、そんなに謝らなくてもいいよ。ちょっとびっくりしただけだから」

ココア「働いてる理由、だったよね。えっとね……高校の方針で、下宿先では奉仕するようにって言われてるの」

シャロ「じゃあ、働きたくて働いてるわけじゃないのね」

ココア「まあね。でも楽しいよ!」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:00:28.87 ID:sWv6sJFD0
シャロ「……楽しい?」

ココア「うん。シャロちゃんはバイト楽しくないの?」

シャロ「全然。働かなくてもいいのなら、今すぐにでも全部のバイトを辞めて自由に過ごしたいくらいよ」

ココア「そうなの? でも、お客さんに『ありがとう』って言われた時とかに嬉しいと思わない?」

シャロ(私が始めた店でもないのに、そんなこと言われたって嬉しくもなんともない)

シャロ(その程度のことで労働という生き地獄に耐えられるなんて、まるで――)

シャロ「――社畜奴隷じゃない」

ココア「え? 今なんて……」

シャロ「あ……ごめん。なんでもない……」

ココア「それならいいけど……」

ココア「シャロちゃん、なんか今日おかしいよ? いきなり怒ったり、謝ったり……なにかあったの?」

シャロ(確かに今日の私は変だ……。これ以上、ここに居ない方がいいかも)

シャロ「ごめん、やっぱり今日はもう帰るわ」

ココア「もう帰っちゃうの? もう少し……」

シャロ「お金、置いとくわね。注文したココアはあんたが飲んでおいて」ガタッ

ココア「あ、うん。お大事に……?」

カランカラン

ココア「なんだったんだろう?」

リゼ「シャロのやつ、もう帰ったのか。新作ラテアート、せっかく作ったから見てもらおうと思ったのに」

チノ「遠くから見てましたが、今日のシャロさん変でした。余裕がないというか……。ちょっと怖かったです」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:00:57.34 ID:sWv6sJFD0
―帰り道―

シャロ(駄目だ……ココアに『社畜奴隷』なんて言っちゃうなんて)

シャロ(その前も街灯を無意識に蹴ったりして。よっぽどイライラしてるのね、私……)

シャロ「それもこれも全部、労働が悪い。理不尽なことでキレる客が悪い。私ばかりに文句を言ってくる社畜奴隷が悪い……」

シャロ「はぁ……」

シャロ(いつまで労働に苦しめられる惨めな人生が続くのかしら)

シャロ(死ぬまで? そうよね、お金がなくちゃ生きていけないんだから)

シャロ(……まあ、浮浪者みたいな生き方をするなら、なくてもある程度なんとかなるかもしれないけど)

シャロ(プライドを捨ててるわけじゃないから、私には絶対無理。文化的な生活がしたいわ)

シャロ(結婚すれば養ってもらえる? こんな考えの奴と結婚してくれる人なんて居ないわよね……。それに、結婚なんてまだ考えられないし相手も居ない)

シャロ(でも、たった1度の人生のほとんどを、労働で終えるなんて絶対に嫌)

シャロ(暇でいい。やることなんてなくていい。自由が欲しい……)

シャロ(はぁ……お金さえあれば解決するのに……)

シャロ(お金の心配、時間、職場の人間関係――全てから解き放たれて自分のためだけに生きてみたい)

シャロ(こんな願い、きっと労働に洗脳された社畜奴隷共には理解できないんでしょうね)
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:01:23.88 ID:sWv6sJFD0
シャロ(そういえば、みんなはお金どうしてるんだろ)

シャロ(千夜はあんまり苦労してなさそうよね。甘兎って老舗っぽいし。和菓子屋って儲かるのかしら)

シャロ(リゼ先輩はどう見てもお金持ちだし)

シャロ(チノちゃんはちょっと苦労してそうだけど、貧乏って感じじゃないわよね)

シャロ(ココアはお父さんが大学教授で、お兄さんが弁護士と科学者の卵らしいし、お金持ってそうよね。学費もきっと払ってもらってるんでしょう)

シャロ「羨ましいなぁ……私もお金持ちの家の子供になりたかったわ。親からの仕送りなんてほとんどないし……」

シャロ「マッチ売りの少女みたいに、マッチ燃やしてれば夢くらいは見られるかしら」

シャロ「マッチ代がもったいないか……」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:01:56.30 ID:sWv6sJFD0
シャロ「はぁ……こんな生活から一瞬で抜け出る方法ってないかしら」

シャロ「あったら苦労しないわよね。空からお金でも振ってこないかな……」

シャロ「……ん?」

店員「本日抽選! 最大10億円、宝くじ発売中! 今日は大安、一粒万倍日。いかがですかー!」

シャロ「……宝くじ……」

シャロ「そうよ! 宝くじさえ当たれば、私は幸せになれる……!」

シャロ「時間をかけずに労働から解放されるには宝くじしかない。どうして今まで気づかなかったんだろう」

シャロ「宝くじこそが唯一、幸せになれる方法だったんだわ!」

シャロ「競馬とかと違って高校生でも買えるらしいし……。でも一応、大人っぽい恰好をして買った方がいいかな?」

シャロ「そうと決まれば、早く帰らなきゃ!」タッタッタッ
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:02:24.09 ID:sWv6sJFD0
シャロ(着替えてきたわ!)

シャロ「宝くじ10枚ください」←ちょっと大人っぽい声

店員「3000円になります。当たりますように……」

シャロ「ども」

シャロ「……」スタスタ

シャロ「……やった! 無事に買えたわ!」ピョンピョン

シャロ「抽選は今日……当たるかしら?」ワクワク

―シャロの家―

シャロ「もう結果が出てる頃よね。スマホで確認しよっと」

シャロ「当たったら美味しいものでも食べたいなぁ。ステーキなんかいいかも!」

シャロ「……」ワクワク

シャロ「……ハズレ……」ガックリ

シャロ「まあそう簡単には当たらないか」

シャロ「まだまだバイトの日々は続きそうね……」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:02:51.13 ID:sWv6sJFD0
―別の日―

シャロ(はぁ……まさかカップを置く瞬間に取っ手が折れるなんて……。なんてツイてないのかしら)

シャロ(熱湯を浴びた客に怒鳴られるわ、店長に呼び出されて説教されるわ……)

シャロ(私じゃなくて勝手に折れるカップに文句を言ってよ! 『注意しろ』って言われたって、折れるかどうかなんて、わかんないわよ!)

シャロ(社畜奴隷共に謝る度に、自分が酷く矮小な存在になったように感じるわ……)

シャロ(……そうだ、宝くじ買わなきゃ)

シャロ(今月も厳しいけど、宝くじが当たらなきゃ苦しいままだし……)

シャロ(こんな生活から抜け出すためには仕方ないわよ……ね?)

……

シャロ(ハズレだった……)
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/10(日) 00:03:21.90 ID:sWv6sJFD0
―別の日―

シャロ(眠い……バイトの所為だ……。学校で先生に注意されて恥かいた……)

シャロ(しかも、いつもと別のバイト先の食器棚が壊れてお皿が全滅したから、今月の給料は減るって……)

シャロ(お皿を買いなおさなきゃならないのはわかるけど、なんで私が損しなきゃいけないのよ!)

シャロ(『減った分は来月の給料に上乗せするから』って言われても……今月がキツいの!)

シャロ(不景気で儲かってないのはわかるけど……。はぁ、個人商店なんて選ぶんじゃなかった……。でも他に雇ってくれる所なかったし……)

シャロ(……あー、もう! なんでこう、嫌なことが続くのよ!)

シャロ(こうなったらヤケよ、ヤケ! 宝くじ20枚買ってやる! いつもの2倍よ!)

シャロ(これだけ買えばきっと当たるわよね!)

……

シャロ(かすりもしなかった……)
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