とある魔術の聖杯戦争

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174 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/23(火) 23:16:59.77 ID:wBugTRVD0
上条「勝負は簡単、ブランコを5往復まで漕いでどちらが遠くまで跳べるかで決める」

要するに、少し変則的な立ち幅跳びのようなものである。
そしてその勝負内容を告げる上条に一切の遊びの気持ちなどない。
はたから見たらふざけてようとも、彼にとっては真剣勝負と変わらないのだから。
しかし、高校生と小学生だ、肉体的な差が大きすぎる。
そう考えた上条は、

上条「俺は3往復までしか漕がねぇ。それで対等だ、桜」

そう言いながら桜を見つめる。

桜「…………」
桜は何も言わない。
代わりに自身の乗るブランコをすこし下げて、力を加える為の体勢を作っていた。
要するに、準備万端である。

それを見た上条もブランコの上に座る。

そして、勝負が始まった。
175 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/23(火) 23:18:17.72 ID:wBugTRVD0
言わずもがな、この勝負に大きく影響するのはどれだけブランコによる遠心力を生み出せるかどうかだ。
その点、自らハンデを課した上条が少し不利なのは明白である。
しかし。

上条「甘く見んなよぉぉぉぉっ!」

そう吠えると上条は、ブランコの上で立ち上がった。
そう、立ち漕ぎである。
確かに上条のハンデは大きい。
だが、脚力を全力で使うことの出来るこの漕ぎ方ならば、そのハンデを覆せるッ!

上条(ハッ!これならハンデがあっても十分に勝算はある!今すぐそのクールな面を暴いてやるぜぇぇぇぇぇ!!!)

そして脚力を全開にしてブランコを漕ぎ出す上条。
その過程で膝が真っ直ぐになり、限界まで足が伸びる。

上条(ふはははははーっ!!!こっから上条さんの脚力を見せてやるぜぇぇえーーーっ!!!)

意気揚々とブランコに力を加えていく上条。
そして。


ゴンッッッッッ!!!、という音が人のいない公園に響いた。


上条「あ、が……っ!?」

そして驚愕の声が上がる。
理由は単純明快。
上条が立ち漕ぎ出来るほど、この子供用のブランコは大きくなかった、ということである。

さらに率直に言うなら、骨組みに頭ぶつけた。
176 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/23(火) 23:20:48.69 ID:wBugTRVD0
上条「〜〜〜っっっ!!!?」

声にならない叫びを上げながら後ろに倒れる上条。
皆も経験はあるかもしれないが、不意の一撃だったからこそ、痛みを強く感じていた。
どうすることも出来ずのたうち回る上条などお構いなしに、桜はギーコギーコ、とブランコを漕いでいた。
そして、ブランコから跳ぶ。

スタッ、と危なげなく着地する桜。
その距離、目算で約2メートル。

上条「あ」

桜が地面に着地した音で我に帰る上条。
対する上条は、目算で−1メートル。


上条の、完敗であった。
177 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/23(火) 23:22:10.79 ID:wBugTRVD0
ブランコ勝負が終わり、「負けたままじゃいられねぇーーーっ!」と意気込む上条であったが、その後の勝負も転んだり、滑ったりと、多くの不幸っぷりを桜に見せつけ次々と敗北した。
そうしている内に今更になって虚しさを感じて来た上条は、勝負などせずに純粋に桜と遊ぶ方針へとシフトした。
「別に勝算がねぇ訳じゃねぇからな」などと悪役でも今時言わないであろう台詞を吐きつつ桜との時間を過ごして行く。
しばらくすると、

上条(うーん、遊具を使うとどうしても2人で遊んでる、ってよりは一人で遊具と遊んでるって感覚が拭えないんだよな)

そんなことを考えながらどうしたものかと公園を見渡していく上条。
シーソーは体重差がありすぎるし、アスレチックも前述した通りの理由で好ましくない。
すると、ある物が目に留まった。

上条「ん、これって」

それはベンチの上に置いてあった。
つい先日も目にした物だった。

上条(野球のグローブ、か。誰かが忘れていったのか?)

グローブは二つ置いてあり、ボールを掴む部分にはボールが収められている。
少し借りて、使い終わったら元の場所に戻しておこう。そう考えてグローブを二つ手に取り、その片方を桜に渡した。
そしてもう片方を手に嵌めながら、

上条「よし、桜。キャッチボールってやったことあるか?」
178 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/23(火) 23:30:28.36 ID:ppy8TkC1O
そんなこんなで、キャッチボールが始まった。

上条「おー、結構良い球投げるな」

桜「………」

相変わらず桜の口数は少なかったが、返ってくるボールの感触からして、割と楽しんでいる……と感じている上条。

上条(でも、そろそろ暗くなり始めるだろうし、コレが終わったら桜を家に送るか)

そんなことも考えつつ、キャッチボールを続ける。
黙っているだけというのも気まずい、そう考えて上条は、

上条「中々上手いなー。誰かとやったことあんのか?」

桜「………はい、何回か…」

そう答える桜の表情が少し陰る。
近くにいれば上条もその変化に気づいたかもしれないが、キャッチボールの性質上、桜との距離は離れていた。
そのため、

上条「へぇー、っていうと、お父さんとかか?」

そんな質問を、桜に投げかけていた。
179 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/23(火) 23:34:48.59 ID:ppy8TkC1O
その質問が桜にどんな心情を引き起こしたのかは分からない。
しかし、少なからず桜は動揺していた。

桜「…………あ」

小さな声と共に放たれたボールは、上条を大きく超えて公園の茂みへと転がっていった。

上条「おっとと、気にすんな桜。取ってくるよ」

呑気にそんな事を言いながら茂みの方へと歩いて行く上条。
桜は、じっとその背中を見つめていた。
いつかの記憶と、その背中を重ねるように。
しかし、その思考は途中で中断される。


なぜならーーー

180 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/23(火) 23:38:55.57 ID:ppy8TkC1O
上条「あれ、どこにいったんだ」

茂みの中をしばらく探しても、中々ボールが見つからないでいた上条。

上条(そんな遠くまでは行ってないと思うんだけどな、っと)

そんな事を考えていると、視界に白い球体を見つける。
思ったよりは遠くにあったそれに手を伸ばそうとする上条。

上条(あったあった)

暗くなって来たのも、ボールを見つけづらかった理由かもしれない。そろそろ桜を帰す時間だろう、上条はそう考え、ボールへと手を伸ばしていく。

上条「………?」

しかし、その手は途中で止まった。
理由は特にない。
ただ、なんとなくという理由で上条は手を止めたのだ。
代わりに、それを見つめた。
すると、いくつかの疑問が湧いて来る。

あのボールは、あんなに土で汚れていただろうか。
あのボールは、こんなに遠くまで転がるほど勢いがあったのだろうか。
あのボールは。



こんなにも、球体の原型を崩した形をしていただろうか?
181 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/23(火) 23:41:26.69 ID:ppy8TkC1O
上条(なん、だ?何か、ヤバい………ッ!?)

思わずその場から飛び退くように離れる上条。
すると、数瞬前まで上条が立っていた場所に、


べチャリ、と。


粘質な音と共に、『何か』が飛来した。
いきなり現れたソレに驚きながら視線を向ける。すると、


海魔「ギギギィィイイイイイイイイ!!!」


ソレは。
地面に着地してすぐに奇声を上げ、上条の方へと向き直った。
複数の脚、毒々しい容姿、そして軟体生物を思わせるその動き。
見る者達に生理的嫌悪を与える『何か』が、そこには居た。


上条「なんだ、こいつ…!?」
思わず呟く上条。
相対する存在の正体も分からず、急な事態に動揺を隠せない。
だが、突如現れたソレはそんな上条を気にも留めず。

海魔「ギィィィィィイイイイイ!!!」

不快な奇声を上げ、上条へと飛びかかった。
182 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/23(火) 23:44:49.55 ID:ppy8TkC1O
距離を詰めて来るソレに、恐怖心を煽られる上条。
だが、

上条「うおおおおおッ!!!?」

大きな声を上げ、自らを奮い立たせる。そして、その右拳を突き出した。
得体の知れない存在に対して行う行動には到底思えないが、もはや反射的に繰り出されたその右手を今更止めることは出来ない。
しかし、その判断は吉と出た。
上条の右手がその海魔に触れた途端、

海魔「ギ………ッ!?」

海魔は奇声を上げたまま、ボッ!!!と音を立てて、その体を爆散させたのだ。
散り散りになった海魔は、そのまま宙に溶けるように消えていく。
そんな様子を見て上条に浮かぶ感情は、安堵でも、安心でもない。

上条「魔術……ッ!?」

それは、驚愕だった。
そう、上条の幻想殺しが効果を発揮したということは、今の得体の知れない海魔は魔術によって生み出されたモノだということである。

上条「何でこんな場所に……?」

混乱が止むことはなく、思考を続ける。今の海魔に異能の力が加わっているとして、その動きは随分と生物的なものだった気がする。
となるとさっきの海魔は魔術で出来た使い魔といった存在、ということになるのだろうか。なら、操っている術者というのが存在するのだろう。

上条(……ってことは操ってるソイツには何か目的があったはず。そうでなきゃこんな所に使い魔を送る意味がねぇ)

なら、その目的とは一体何だ?
この公園に、それだけの理由があるというのだろうか?
183 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/23(火) 23:49:43.30 ID:ppy8TkC1O
使い魔という言葉を聞くと、アイリとの会話が頭によぎる。

アイリ『使い魔っていうのは、生物を模したモノが多いの。でも、それほど大きな力を保有する存在ではないから多くの魔術師はそれを使って実験対象の観察、監視をすることが多いのよ』

アインツベルンの城、そこで切嗣がカメラ以外の機材でどこか遠くの景色を観察しているのを見てアイリに質問した時に帰ってきた台詞だ。
そのせいか使い魔、と聞くと「監視」というイメージが強く引き出される。

上条(監視って、一体何を?ここは普通の公園で、何かあるにしてもどこにでもある遊具と子供くらいしか……)

そこまで考えて、思考が止まった。
何か、違和感を感じる。
小さいけれど、見方を変えるだけで大きくその意味を変えるような。
絶対に見逃してはいけないような、僅かな違和感を。
それの正体はまだ分からない。
だから、今述べた自分の言葉を一つ一つ振り返る。

ここに、監視する様なモノは何もない。
あるとしても、どこにでもあるような遊具、そして。




どこにでもいるような、子供達が来るだけだ。
184 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/23(火) 23:53:33.63 ID:ppy8TkC1O
上条「…………まさ、か」

呆然と呟く上条。
体は強張っていて、少しも動くことはない。
だが、思考は止まらない。

もし先程の海魔を放った術者の目的がこの公園の、「この公園に訪れる子供達の監視」だとしたら?
そもそも、上条は何故単独でアインツベルンの城を抜け出した?


無関係の子供達を襲うキャスターを倒す為だった筈だ。


つまり、この海魔の術者とは。

上条「キャスター……ッ!!!」

その声は驚愕よりも、怒りに包まれていた。
この公園に最初に訪れた時、上条はキャスターが居ない事からまず確認した。しかし、考えてみればキャスター本人が子供達を攫う必要など、何処にもないのだ。
自らの使い魔を放っておいて、標的が来たら勝手に襲わせてしまえば良いだけのこと。
そんな簡単な事にも気づけなかった自分に腹が立つ。
185 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/23(火) 23:57:49.83 ID:ppy8TkC1O
怒りで歯を噛みしめる上条の視線が、ある物を捉える。
それは、自分の左手に嵌めたままのグローブ。
誰かが忘れたのだろうと先ほど借りたモノだ。

しかし、本来の持ち主は今何処に行ったのだろうか?
本当に忘れただけなのだろうか?
もしかしたら、この持ち主達も。
などと良くない想像ばかりしてしまう。

上条(こんな所に長居する訳にはいかねぇ…ッ!)

焦りが上条の胸中に広がる。
今上条は一人ではない、桜の身を危険にさらす訳にはいかないのだ。
素早く茂みから抜け出し、公園の中心へと向かう。
他にも海魔が居ないか、茂みを見つめ、後ろ向きに歩きながら声を掛ける。

上条「桜!もう帰るぞ、ここに長居してると危ない!」

そんなことを言いながら茂みから目を外し、桜が居た場所へと振り返る上条。
するとそこには、



誰も、居なかった。

186 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/24(水) 00:01:53.81 ID:uWcEG3GtO
上条「さく、ら………?」

もう一度声を出す。
しかし、少女は現れない。

上条「おい…桜!!!何処にいるんだ!?」

声を荒げる。
それでも、結果は変わらない。
視線を巡らすが、依然として人っ子一人いない公園があるだけだった。
何処か別の場所で遊んでいるかもしれない、もう一人で家に帰ったのかもしれない。
そんな楽観的な考えも一瞬浮かぶ。
しかし、そんな訳がない。
あれほど大人しい少女が上条に何も言わずに何処かへ消えてしまうなど、考えにくい。
さらに言うならば。
キャスターの海魔が一匹しかいないと、誰が言った?
つまり。

上条「ち、くしょう……ッッッ!!!」

間桐桜は、キャスターの海魔によって攫われた。
そして上条当麻は、それを止める事が出来なかった。
ただ、そんな事実だけが残っていた。



上条「桜ァああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」



その声に応える者は、もう居ない。
そんな上条を嘲笑うかのように、風に揺れたブランコがギィイ、と錆びた音を立てた。
187 : ◆qYcHZpJYdQ :2018/10/24(水) 00:06:09.26 ID:uWcEG3GtO
今日はここまでです。
サーバーが落ちたのもあり、本当に更新に時間がかかってしまいましたが、引き続き見ていただいてくれてる方には本当に感謝しかないです。
今回の分は本当に展開で迷いましたが、こんな形になりました。楽しんで頂ければ幸いです。
また更新していきたいと思うので、その時も是非見に来てください。
ありがとうございました。
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/24(水) 00:58:19.44 ID:adcWnv8Lo
おつなーの
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/24(水) 01:21:28.11 ID:o2ux5iAB0
190 : ◆qYcHZpJYdQ :2018/10/29(月) 17:57:24.64 ID:xccUK9H4O
今夜少し書き込みます。よろしくお願いします。
191 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/29(月) 23:54:55.41 ID:3pZglRt60
ーーーアインツベルン城

上条が城を離れてから数時間後。
招かれざる客が、この城には居た。

ケイネス「………」

その男、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは瓦礫の上に一人佇んでいた。
そこはアインツベルン城の大広間だった場所。今では見る影もなく、無残な破壊跡が残っているだけの空間と化している。

ランサー「マスター」

そこに、音も無く一人の男が現れる。
ケイネスに仕えるサーヴァント、ランサーが霊体化を解き、主人の前へと参上したのだ。

ランサー「城の内部、周辺の捜索を行いましたが、上条当麻及びそのマスターの姿はありませんでした」
192 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/30(火) 00:01:21.63 ID:0C3RUet00
ケイネス「………鼠風情が。逃げ足だけは速いようだな」

そんなランサーの報告に怒りを含めながらそう返答するケイネス。
数時間前、ケイネス達の工房はホテルごと破壊された。自らの礼装で身を守ったケイネスだったが、そのような行為をされて黙っている男ではない。
襲撃者を使い魔によって追跡し、報復としてこの郊外の城ごと逃げ込んだであろう敵を叩き潰そうと目論んで訪れたケイネスだったが、そこに標的となる者達は既にいなかった。
最初はどこかに忍んでいるのかと考え、城の中を破壊しながら捜索を行ったが、ランサーの報告からある事実が浮かび上がる。

ケイネス「城を捨てて逃げた、ということか」

ランサー「十中八九そうでしょう。しかし、気になることが一つあります」

そう言ってランサーは続ける。

ランサー「自らの拠点を放棄してまで逃走に徹した点ではありません。逃走を始めたタイミング、それが速すぎるということです」

ケイネス「…続けろ」

ランサーの発言に思う所があったのか、ケイネスは話を促した。

ランサー「はい。もし敵が探知の魔術などを使っていたとしてもその範囲は精々この森一帯が限界。しかし、我々がこの森に踏み込んでから城を出た者は誰一人いません。それはマスターの使い魔の監視からも明らかです」

ケイネスは敵を確実に逃さぬよう森の外周には予め使い魔を放っていた。それに反応がなかったからこそ、敵は城内にいると考え、城に踏み込んだのである。
193 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/30(火) 00:11:36.77 ID:0C3RUet00
ランサー「ここから考えられるのは二つ。元々この城は敵の拠点ではないダミーの隠れ蓑だった。もしくは」

ケイネス「何らかの理由で本命の拠点であった城を放棄した後だった、ということか」

ランサー「その通りです、マスター」

ふむ、と顎に手を当てしばらくの間思考に耽るケイネス。
この二つの違いは大きい。
前者であればケイネス達は敵の策略に嵌められた、ということになり今の状況はケイネス達にとって不利、ということになる。
つまり、この二つの見極めは現時点での状況を把握するために、必須なことなのだ。

傍にいるランサーは、己が主人が結論を出すのを見守っていた。
そして足元に視線を向けたまま、

ケイネス「前者…つまりこの城がダミーだった、という可能性は考えにくいな」

と、結論づけた。
194 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/30(火) 00:13:11.33 ID:0C3RUet00
ランサー「と、いいますと?」

そんな風に尋ねる自分のサーヴァントに思考を整理しながらケイネスは続ける。

ケイネス「理由はいくつかある」

そう言いながらケイネスは無残な姿となった大広間に目を向ける。
その破壊は何もケイネスが全て行った訳ではない。敵が予め仕掛けていったのであろう罠が行ったものも含まれている。そのどれもが不意打ちを狙い、ある程度の脅威を持ったものではあった。が、

ケイネス「迎撃を目的とした罠だろう。しかし、あまりにもお粗末過ぎる。もしこの城がダミーだとするなら一体どのような罠が最も効果的か?私ならこの周囲一帯を吹き飛ばす魔術礼装を仕掛けるくらいはするだろうな」

そして、ケイネスは違和感の正体を浮き彫りにしていく。
一つ一つ、絡まった糸を解いていくように。

ケイネス「奴はそれをしなかった。何故か?それはこの城こそが奴らの本命とする拠点だったからだろう。拠点を巻き添えにするような破壊をもたらす罠など仕掛けては本末転倒だ。奴らの基盤が一気に揺らぐことになるからな。もし、私が現れるような事があれば最低限の罠を活かしつつ、生意気にも直接私との決着を着ける腹だったのかもしれん」
195 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/30(火) 00:15:30.98 ID:0C3RUet00
つまり、とケイネスは続ける。

ケイネス「この城が私達を貶めるダミーの拠点だったとして、余りにも手ぬるい。敵の前にさえ現れず、ビルごと吹き飛ばすような人間だ。こんな手の抜いた罠など仕掛けまい。つまり、ここはそういった目的を持つ場所ではないということだ」

ランサー「…なるほど、理に適っています」

ケイネス「それだけではない」

感心するランサーをよそにケイネスは話を続ける。
推測を、確信へと変えるために。

ケイネス「探知の魔術がこの森一帯に仕掛けてあるが、もしこの城が現れた敵対者に向けた罠だった場合、そこまで広い範囲を探知する必要はない。せいぜい城の内部に踏み込んだものを感知する程度で十分だ、その方が精度も上がり、敵対者に余計な警戒を抱かせずに済むからな」

そして、ケイネス一つの仮説から一つの考えを導き出す。

ケイネス「この一帯の森に探知の魔術があるということは、この森を出入りする者を逐一警戒する必要があった、ということだ。つまり、ここが本命の拠点だということに他ならん。臆病者である程安心を求め、過剰な警戒を行うものだからな」
196 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/30(火) 01:56:19.59 ID:0C3RUet00
ふん、と鼻で笑いながらケイネスはそう言った。
しかし、話はここで終わらない。
ここが敵対者を貶めるダミーの拠点でない場合、もう一つの可能性について考える必要がある。

ランサー「ならばこの城は私達が来る前に放棄された、ということになるのでしょうか?」

ケイネス「そう考える他ない、が……」

真剣な面持ちで問いかけるランサーにケイネスは複雑な表情を浮かべながら、

ケイネス「本命の拠点を放棄するほどの事態とは、一体何だ……?」

答える者などいない問いを、一人呟いていた。
197 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/30(火) 02:04:02.04 ID:0C3RUet00
ーーー新都某所

そこは、暗いビルの一室だった。
電灯は付いていない、しかしその部屋はある光によってぼんやりと照らされている。
その光源は、部屋の壁に取り付けられている大量のモニターであった。
とはいっても、正常な映像を写しているのはそのモニターの内半分もない。
大半のモニターはノイズ音を撒き散らしているだけだった。
その部屋に無表情で佇む男、衛宮切嗣は大量にあるモニターの内の一つに目を向けていた。

切嗣「…………」

そのモニターに映るのは、とある場所での映像。
つい数刻程前のアインツベルン城を映し出していた。
その映像に映っているのは、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
切嗣が工房ごと仕留めた筈の魔術師だった。

切嗣(……なるほど。半自動的に発動する水銀を媒介とした魔術礼装、か。攻撃だけでなく防御、索敵まで行えるとはな)

ビルの崩落から逃れる事は難しいと考えていたが、これ程の礼装があれば納得だ。
並みの魔術師では、あの礼装を突破することさえ難しいだろう。
198 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/30(火) 02:04:41.07 ID:0C3RUet00
切嗣(だが、僕にとっては好都合だ)

そして切嗣はモニターの電源を切り、懐に忍ばせていた通信機器に手を伸ばす。

切嗣「舞弥、そちらはどうだ?」

そう言うと、しばらくして返答が返ってくる。

舞弥「問題ありません。他のマスターに気づかれている様子もありません」

切嗣「了解した。もう伝えているが、ここから先は下手な行動は一層禁物だ。お前には援護を任せていたが、ここから先はそうもいかない。アイリの事は任せた」

舞弥「はい、あなたも気をつけて。切嗣」

その言葉を最後に、通信は途切れる。
今現在、切嗣、舞弥とアイリは別行動を取っていた。理由は一つ。
上条当麻の離反だ。
昨晩の会合のあと、アインツベルン城に上条当麻の姿はなかった。理由はいくつか考えられたが、サーヴァントが消えたと言う事態に対する対処をする方が優先された。
そして切嗣達はアインツベルン城を即座に離れる事とした。
索敵としての魔術などを仕掛けていたが、上条当麻が消えた以上、侵入するサーヴァントに対抗する策はない。ならばここから先の戦いは切嗣一人で戦わなければならない。
そう考えての行動だ。
199 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/10/30(火) 02:05:23.37 ID:0C3RUet00
それが決まってからアイリは舞弥に任せた。だが、先程の会話にもあったが彼女ではサーヴァントを倒せない。そのために隠密行動を義務付けている。

上条当麻を呼び戻すには、令呪を使う手もあった。
しかし、奴がアインツベルン城を離れた理由は何となく目星がついている。
おそらく、昨晩話したキャスターについてだろう。
その問題が解決しない限り、何度令呪を使おうと逃れられる可能性が高い。
そうなっては令呪の無駄になる。
ならばキャスターを追う上条を狙った他の陣営を狙う他ない、そう考えた切嗣の手の甲にはまだ三画の令呪が残っていた。

切嗣(全く…厄介なサーヴァントを引いたものだ)

上条との繋がりは随分と希薄なのか、どこに居るのか把握することが出来ない。ぼんやりと方向くらいは分かるが、その距離などはさっぱりだ。

ダメ元で自らの令呪に少し、意識を向ける。
すると三時の方角、丁度冬木の街を見渡すことの出来る窓枠がある方から自らのサーヴァントの気配を感じていた。



その先にいる男が何をしているのか。
それを問うかのように、切嗣は窓の外にある風景を睨んでいた。
200 : ◆qYcHZpJYdQ :2018/10/30(火) 02:36:20.67 ID:0C3RUet00
今日はここまでです。ありがとうございました。
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 16:50:52.29 ID:vJXNlmR0O
おつりんこ
当麻じゃ鯖相手は無理やろと思ったが鯖自身が魔術によるものって裁定なのね
202 : ◆qYcHZpJYdQ :2018/10/30(火) 17:20:30.26 ID:0C3RUet00
>>201
そうですね。異能の力が関係してるってことで、一発で完全に消す事は出来ないけど、相手の存在に干渉する事はできるって感じにしてます。
203 : ◆qYcHZpJYdQ :2018/11/01(木) 14:51:11.19 ID:o9l6EcpVO
多分今日書き込みます。
よろしくお願いします。
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 23:36:45.68 ID:u56rnzmXo
結局書いてないよぉ
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/03(土) 05:01:27.97 ID:h2Ko1G140
面白いな
テスト期間とか言ってるけど高校生か? だったら凄いな
206 : ◆qYcHZpJYdQ :2018/11/04(日) 07:21:30.32 ID:fw7VrKylO
>204
ごめんなさい。遅れちゃいましたね。
>205
そう言ってもらえると嬉しいです、完結まで頑張るのでよろしくお願いします。
207 : ◆qYcHZpJYdQ :2018/11/04(日) 07:23:45.16 ID:fw7VrKylO
>>204
遅れちゃいましたね。ごめんなさい。
>>205
そう言ってもらえると嬉しいです。完結まで頑張るのでよろしくお願いします。
208 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/11/04(日) 07:25:42.53 ID:fw7VrKylO
ちょっと遅れましたが、よろしくお願いします。



ーーー冬木市、某所

凛「何……これ」

呆然と呟く。
そこは、深夜の冬木。彼女が生まれ育った地であり、つい先日までは普通に生活をしていた場所だ。
しかし、それを疑いかねない程にこの街の雰囲気は変化していた。

空気が、重い。
凛は電車からここに降り立ってすぐにそう感じた。確かに深夜に外出した経験などほとんどない。昼間とは少し違う街の顔に驚いているだけかと最初は思った。しかし、それだけでは説明出来ない程の「何か」を凛は感じていた。
正直、少し怖い。
冬木がこんな場所になっているとは予想外の事であった。母にこの行動がバレたら大目玉を喰らうだろう。
しかし、彼女には立ち止まれない理由がある。

凛「……コトネ」

無二の友人。
彼女を救う為に凛はこの土地へ戻って来たのだから。
209 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/11/04(日) 07:31:07.87 ID:fw7VrKylO
凛(……急ごう)

グズグズしていられない。
こんな時間に子供である自分が一人で居たら、おそらく補導されてしまうだろう。
それでは意味がない。
ここまで来て、コトネを助けだせなかったら、きっと自分が嫌いになる。
そう考えながら、凛は手の中にある物を覗き込んだ。

魔力計。
父である時臣から預かった、魔力を感知する道具だ。
コトネを攫った相手はおそらく魔術に関係している。
なら、その痕跡を辿って居場所を突き止めようとした凛だったが、

凛「何、これ………」

手の中にある魔力計は、壊れたかのようにその針を色んな方向へと向けていた。
一瞬、故障したのだろうかと考えるが、即座にその考えを切り捨てる。
冬木に来る前にこの魔力計がちゃんと使えるかどうかの点検はしてきている。
つまり、これは魔力計の故障などではなく。



無数の魔力の痕跡が、この冬木にあるという事実を示していた。
210 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/11/04(日) 07:42:07.91 ID:fw7VrKylO
凛(止まってても、仕方ない…!)

魔力計の反応に少し焦る凛だったが、まず足を動かし始めた。
今この一瞬にもコトネは苦しんでいるかもしれないのだ。
一見壊れたように見える魔力計もデタラメを教えている訳ではない。
魔力の反応がより強い方へと向かって歩いて行く。

凛(こっち……今度はあっちか)

少しの変化も見逃さぬよう、魔力計と睨めっこしながら進んで行く。

凛(………ッ)

魔力計から顔を上げると、思わず息を飲む。
正面からパトカーが走って来ていたのだ。
今見つかってはマズイ、そう考えて咄嗟に路地裏へと入り込む。
心臓の音が大きくなるのを感じながらパトカーをやり過ごす。
これでもう3台目にもなる。恐らく誘拐事件の騒動で警戒が大きくなっているのだろう。市民にとっては安心できる事なのかもしれないが、今の凛にとっては迷惑でしかない。

凛(周りにも注意しないと……)

パトカーと十分な距離が取れたのを確認してから再び動き出す凛。
しかし手元にある魔力計を見て、その動きは止まる。


今自分が入った路地裏。
その奥から強い魔力を感知していると、魔力計が訴えていた。
211 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/11/04(日) 07:44:02.34 ID:fw7VrKylO
凛「…………」

無意識にゴクリ、と喉を鳴らす。
緊張が高まる。
今まで以上に慎重に、その足を動かしていく。
魔力計は、この先に強い魔力があると言っている。しかし、それはコトネがいるという事を証明する訳ではない。
だが、

凛(コトネ……!)

この先にいる、と。
彼女の勘がそう告げていた。
ならば引き返す理由などない。その為に自分はここまで来たのだから。
固まっていた足を動かす。
一歩ずつ、慎重に。

暗闇の先を見通すように目を凝らす。
何かが動いてもすぐに反応出来るように。全神経を集中させていた。

しかし、それが原因だった。
凛は魔力計が指している方向に気を取られすぎたのだ。
その結果。



「……誰か、居るのか?」



後ろから迫る影に、気づく事が出来なかった。
212 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/11/04(日) 07:55:19.25 ID:bQP7As24O

凛「…………ッ!?」

まずい、と思うのと同時に凛は声がした後方へと振り返る。
声をかけて来た人物を認識するためだったが、それは叶わなかった。
その人物はその手に懐中電灯を持っており、それに照らされるせいで顔がよく見えなかったからだ。

「子供、か?何でこんな夜中に…?」

だが、凛はその言葉を聞いてこの人物は悪人ではない、自然とそう考えた。ましてや誘拐事件の犯人だとも思わなかった。
なら、この男は何者か。
決まっている。今の冬木市でこんな夜中に不用心に徘徊するなどまともな人間ならしない。
おそらく、さっきのパトカーに乗っていた警察官だろう。おそらく路地裏に逃げ込んだ自分が見えて、様子を見に来たに違いない、そう凛は考えた。
しかし、状況は何ら良くない。
こんな時間に一人で出歩く自分を警察官が黙って見過ごす訳がない。
恐らく母の葵に連絡がされて、連れ戻されるのだろう。

「親はどこにいるんだ?迷子なのか?」

そんな凛の考えている事など分からないであろう男はそう続ける。その様子は、本当に凛のことを心配しているように思われた。
この男に悪意は無いのだろう。
でも、今の凛にとっては余計なお世話でしかなかった。
何故なら。


この男が自分を保護するということは。
自分がこの場から離れるということは。
コトネを、見捨てるということだからだ。

凛(……嫌だ)

恐らくこの男は凛を見つけてしまった以上、放っておくことなどしないだろう。
この路地裏の先に進む事を阻んでくる事だってあり得る。

凛がこの男に何かを言った所で状況は変わらないのかもしれない。
どんなに筋の通った『理由』を述べた所で子供の戯言だと聞き流され、結果は変わらないのかもしれない。

けれど。
だからこそ。

凛「………嫌、だ」

遠坂凛は。


凛「嫌だ……っ!!!」



自分の想いを、正直にぶつけた。
213 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/11/04(日) 08:04:03.86 ID:bQP7As24O
凛「……私の友達が、誘拐された大事な友達がこの街にいるの」

そうして凛は話し始めた。
何故、自分はこの土地に戻って来たのかを。
この男に話しても無駄かもしれないと、凛は分かっている。
それでも、凛は言葉を続けた。
続けるしか、なかった。

凛「理由は詳しくは言えないけど、普通の人じゃ絶対にコトネは見つけられないわ……!でも、私なら見つけられるかもしれない!今も苦しんでいるかもしれない友達を助けられるのは、私だけなの!」

客観的に見て、そんな言葉に説得力など微塵も無い。しかし魔術のことは一般人に話せない以上、凛にこれ以上の説明をする事など出来なかった。
この言葉を目の前の人物がどう受け取ったのかは分からない。
頭に?を浮かべて、聞き流しているだけかもしれない。
それでも、凛は言葉を紡ぐ。
自分の本音を、吐き出していく。
誰にも言えず溜め込んでいた、心の声を。


凛「だからお願い!私を家に連れて帰らないで!私にコトネを見捨てさせないで!!!こんなの子供の我儘だって思うかもしれない。でも、仕方ないじゃない!大切な人が苦しんでるかもしれないの!今にも助けを求めてるかもしれないの!!!それなのに、家でじっと過ごす事なんて出来ないのよ!!!」


普段の凛を知る者であれば、こんなに感情を表に出している姿を見て驚くかもしれない。
無理もないだろう、彼女の生まれた遠坂家には『常に余裕を持って優雅たれ』という家訓がある。そして、まだ幼い凛もそのような振る舞いを努めているのだ。

「らしくない」と。
そんな風に言う人もいるかもしれない。
なら、逆に問いたい。

この少女の「らしさ」とは。



『遠坂凛らしさ』とは、一体何なのだ?
214 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/11/04(日) 08:10:46.46 ID:bQP7As24O
誰もが「らしい」、「らしくない」を論じて他人を規定しようとする。
みんなが無意識に行うことだ。
他人を規定して、理解の範疇に押し込めようとする。
誰だって理解出来ないものは怖いから。
だから「らしさ」という言葉で安心を得ようとする。
しかしそれは、他人から見た人物像に過ぎないのではないか?
「らしさ」とは、その人物の本質を隠してしまうモノなのではないのか?

もし、「らしさ」というものがその人物の本質を語るものではないとするのなら。
他人から押し付けられる勝手な人物像であるとするのなら。


そんなものに従う理由など、遠坂凛には何一つない。


だから凛は、今までの振る舞いをかなぐり捨ててでも『自分の心』に従った。

誰にも規定する事など出来ない、『自分』の為に。

凛「子供は大切な人の為に何かをしちゃいけないの?子供は大切な人を自分の手で守ろうとしちゃいけないの?そんな訳ない!他の誰よりも私はコトネを救いたいって思ってるのに、何で私がコトネを助ける事を諦めなくちゃいけないの!!!?」

この少女の言葉に、飾りなんて無かった。
躊躇いなんて無かった。
羞恥なんて無かった。
戸惑いなんて無かった。
迷いなんて無かった。
美しさなんて無かった。

それは、綺麗なモノなんかじゃなかったのかもしれない。
我儘で、自分勝手で、独りよがりなモノだったのかもしれない。

でも。
だからこそ。


その言葉には、何よりも彼女自身の『想い』が込められていた。

そして、少女は叫ぶ。


凛「もう、我儘でも良い。何だって良いから……っ!」

誰にも打ち解けることのなかった、


凛「コトネに、会いたいよ……!」


少女自身の、本当の願いを。

215 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/11/04(日) 08:14:41.28 ID:bQP7As24O
そして、路地裏には静寂が戻る。

「………」

男は、凛の言葉を黙って聞いていた。
凛の言葉に困惑の表情を浮かべる事もなく、その声に耳を傾けていた。
その間、男が何を考えていたのかを知る者はいない。
そして。



「……ダメだ」



と、低い声でそう言った。
216 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/11/04(日) 08:15:31.15 ID:bQP7As24O
凛「…………っ」

その言葉を聞いた瞬間、凛は唐突な虚脱感に襲われた。
もう、無理なのだと。
もう、コトネに会う事は叶わないのだと。
そんな考えが、自然と凛の頭をよぎる。

「友達を大切にしている気持ちは分かる」

懐中電灯を消しながらその男は凛に少しずつ近づいていく。
そして、言葉を続ける。

「でも、自分の身はどうするんだ?そんな危険な場所にいって、無事に帰ることが出来なかったら両親がどんなに悲しむか、想像出来る筈だ」

その言葉は、凛の心にチクリと刺さる。
男の言い分に矛盾など無い。
凛自身も、それはずっと考えていた事だ。
だからこそ、凛に反論する事など出来なかった。
217 : ◆qYcHZpJYdQ [saga]:2018/11/04(日) 08:22:47.00 ID:bQP7As24O
座り込んでいる凛に男は近づいていく。

「気持ちは痛いくらい分かる。でも、一人で行かせる訳にはいかない」

そう言いながら男は凛の頭を撫でる。
そして、言葉を紡いだ。

「だから」

その少女に、言い聞かせるように。
自分自身に、誓うように。




上条「ここから先は、俺がお前を守ってやる」




ハッキリと。


上条「行こうぜ。友達を助けるんだろ?」


座り込んだ少女に手を差し出しながら。
上条当麻は、そう言った。
218 : ◆qYcHZpJYdQ :2018/11/04(日) 08:29:24.73 ID:bQP7As24O
今回はここまでです。
ちょっと書き込むタイミングズレちゃいましたが、見ていただけたら幸いです。
コメントしてくれる方もありがとうございます。
すごい嬉しいです。
次回もなるべく早く書きたいと思ってるのでよろしくお願いします。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/04(日) 09:57:42.94 ID:PO80f+V/o
おつーにゃ
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 08:42:57.42 ID:ZnH3BJzj0
221 : ◆qYcHZpJYdQ :2018/12/05(水) 15:03:59.00 ID:CFYnJVwgO
しばらく書き込んでないですが、死んでません…
お待たせして申し訳ないです…
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/05(水) 16:51:54.18 ID:h5p6cSCuO
イッチ生存報告乙です!
いえいえ、無理せずじっくり書いてもらって大丈夫ですよ
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/25(木) 23:45:47.87 ID:1lgZtQN40
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