千歌「勇気は君の胸に」

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70 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:43:10.70 ID:NB9lY4tt0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



曜「あの人歩くの速過ぎ……あっという間に街まで来ちゃったよ…」

千歌「あ、あれ? どこに行っちゃった??」キョロキョロ


曜「今日に限って人が多い。探すにはちょっと厳しい条件だね」

千歌「だよね……いくら何でも見つけるのは無理か」シュン…

曜「諦めるにはまだ早いよ。この街に居るのは分かっているんだから、しらみつぶしに探せば可能性はある」

千歌「分かった! なら二手に分かれて探そう」

曜「なら私はあっち、千歌ちゃんは向こうを探して!」

千歌「うん!」




千歌「……ん? 分かれたのはいいけど、どうやって合流するんだ??」



この作戦の致命的な欠陥に気が付いてしまった。

曜は自前のスマートフォンを持っているが千歌にはそれが無い。

連絡を取り合う手段を持ち合わせていないのだ。


急いで振り返り曜を呼び止めようとするも

既に曜の姿は見えなかった。
71 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:44:06.07 ID:NB9lY4tt0


千歌「ど、どうしよう……」


方向は分かっているから追いかける?

それとも果南ちゃん探しを優先?

どちらにしても曜ちゃんと合流出来なきゃ意味が無い……。


千歌「仕方ない……大人しくこの場所に居た方がいいよね。もしかしたら気が付いて戻って来てくれるかもしれないし」



邪魔にならないよう、一先ず近くのお店の屋根の下に移動する。

街を行き交う人々をボーっと眺める千歌。


千歌「……独りかぁ」
72 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:47:50.19 ID:NB9lY4tt0


……よく考えれば、この世界に来てから初めて独りぼっちになった。

飛ばされてすぐに曜ちゃんに出会えたから別に何とも思わなかったけれど
ここに私を知っている人間は誰一人いない。

誰一人……いない。


―――…そうだ、元の世界ではどうなっているのだろう?

もしかしたらこの世界の私と入れ替わっているのかな?

そうじゃなかったら私は行方不明になっているんだよね。

連絡なんてする暇なんて無かったからきっとみんな心配してるだろうな……。


まだ一日だけだけれど、いつ帰れるか見当もつかない。


明日なのか

一週間後なのか

一年後なのか

それとも―――


千歌「……っ、うっ、うぅ…!」


我慢できなかった。

一生帰れないかもしれない。
考えないようにしていたこの可能性が頭をよぎってしまった。

一度考えてしまったらもう止まらない。
悪い思考がぐるぐると巡って抜けられない。


どうして私なの。

ただの女子高生の私に一体何が出来るのさ。

今すぐにでも帰りたい。



千歌「………帰りたい……お願いだから帰してよぉ…」






「―――大丈夫…ですか?」






千歌「……えっ?」
73 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:48:59.42 ID:NB9lY4tt0
「こんな所でうずくまって……あ、もしかして具合が悪いんですか!?」アセアセ

千歌「………」




曜『ええっとね、平行世界では同じ人物でも姿や性格はちょっとずつ違ったりするんだけど、出逢ったり友達になったりする人間はどの世界線でも大体一緒なの』




「ど、どうしよう……よしみさんは今は居ないし、お薬も持ってない……あ、近くの病院を探した方が―――」アワアワ

千歌「……大丈夫。どこも悪くないよ」

「え、あ、そ、そうなんですか……? でも、泣いていました……よね?」

千歌「うん……ちょっと色々あって」

「色々ですか……」
74 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:49:49.12 ID:NB9lY4tt0


「あ、あの! もし良かったなんですけど……るび、わ、私とお話しませんか?」

千歌「お話?」

「し、初対面なのに何言ってるんだって思われるのは分かっています。でも……そのぉ―――」

千歌「…千歌です」

「へ?」

千歌「私の名前。私は高海千歌。折角だから少しだけ一緒に居て欲しいな」

「そ、そうですか!!」パアァァ

千歌「あなたの名前も聞いていい?」

「あ、そうですよね。私の名前は―――」


――赤い髪、ツーサイドアップ、青緑色の瞳

そしてこの声、間違いない。
名前を聞くまでも無くこの子は……




降幡(?)「―――…降幡です。降幡 愛です」

千歌「……へ?」

75 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:51:08.54 ID:NB9lY4tt0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



曜「どこだ? 一体どこに行っちゃったんだ??」


こんなに走り回って見つからない事ってある?

絶対に近くに居るはずなのに。



曜「うーん……写真を見る限り結構特徴的な人なんだけどな。髪形も色もこれと同じだったし」


青い髪なんてすぐ見つかりそうなのに。


……あ、でもよく見たらこの街の人達は赤とかピンクとか結構奇抜な色の髪色が多いや。

これじゃ見つけるの無理っぽくない?


曜「……あっ」



果南(?)「………」



曜「……なんだ、やっぱりすぐ近くに居たじゃん」ニヤッ


諦めかけたその時、彼女は近くの店から出てきた。


曜「髪の色も同じ……何よりも右眼に包帯が巻かれている。これは間違いない」
76 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:53:04.59 ID:NB9lY4tt0

早速千歌ちゃんを呼ばなくちゃ―――ってあれ?


曜「……やっば、連絡手段がないじゃん!?」


すっかり忘れてたよ…初歩的なミスだ。

どうする……このままじゃまた見失っちゃうよ!


曜「……仕方ない、このまま追いかけて引き留めよう」



人混みをかき分けて距離を詰める。


一方、曜の追跡に気が付いていないのか

彼女は全く歩く速度を上げる気配が無い。


―――よし、これなら追いつく!


追うスピードが徐々に上がる。



―――…しかし



曜「あれ……裏路地に入ったぞ?」


追いかけているのがバレた?

でも一度もこっちを見ていなかった……

しかもこれだけの人混み
見つかる訳がない。

目的地がそこにあるって事なのかもしれない。

いやいや、そもそも捕まえる為に追っているわけじゃないから別にいいじゃん。



曜はそのまま彼女の後を追った。

二、三回路地を曲がるとそこは―――

77 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:54:22.01 ID:NB9lY4tt0



曜「っ!? 嘘、行き止まり!!?」



曲がる方向を間違えた?

そんなはずはない……だってここまで一本道だったんだよ!?

急いで駆け寄って壁に手を当ててみるけど
隠し扉がある訳では無く、何の変哲もない壁だった。



曜「そんなバカな……どうやって消えたのさ?」ペタペタ




「―――…私に何か用?」




曜「ッッ!!!?」ビクッ!!



振り向くとそこには深々とフードを被り
ペストマスクで顔を隠した不気味な人が立っていた。



曜「ええっと……その…」



「まあ、理由なんて一つしかないよね―――!!!」ダッ!!!


曜「んな!!!!?」



こっちの話を聞くそぶりも見せず、急接近して来る。

曜は反射的にポケットから匣を取り出し、炎を注入しようとする。



「させないよ!!」ビュン!!!!



袖に潜ませていた二本のナイフを投擲。

曜の左眼と喉元を寸分の狂い無く狙う。


ギョッとした曜はこのナイフを紙一重でなんとか避けきる。
78 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:55:34.29 ID:NB9lY4tt0

彼女の攻撃は止まらない。

この隙に曜の懐まで接近、左手に握られていた匣を弾き飛ばす。

そのまま今度はフィンガージャブで直接目潰しを狙った。



曜「んにゃろおおおお!!!!」



曜は体勢を後ろに大きく反らして回避。

だがこの躱し方では体勢が崩れ過ぎてしまっている。

これでは次の攻撃は避けられない。


曜の“右手”が地面に着く。



―――バシュッ!!! バシュッ!!! バシュッ!!! バシュッ!!!



「ッ!!?」



彼女の四方を囲むように水の壁が生成された。

しかし、千歌と離れ離れになっているので厚さは非常に薄い
曜が本来扱える規模のものとなっていた。
79 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:58:41.13 ID:NB9lY4tt0



―――…でも、それで問題無い!

相手はこの技が一体どんな効果があるか知らない。
だから対処する為にどうしたってワンテンポ遅れる。

この隙に逃げる!

話も聞かずに襲ってくるような人だ。
この場は一旦逃げた方が絶対にいい!!

急いで立ちあ―――



―――キュイィィィン!!!



甲高い音と共に曜が発動させた『水の壁(ムーロ・ディ・アクア)』が一瞬でかき消された。

突き出された右手が曜の首を捕らえ、壁へ体を押し当てる。



「―――…捕まえた」グググッ

曜「かっ、ごッ……こほっ!!?」ジタバタッ



必死に右手で壁を叩くが、技が発動しない。

それ以前にリングに炎が灯らなかった。



―――…な、何で灯らないの!?
そもそもどうやって私の技をかき消したの!!?

いくら威力が弱いっていっても、素手で消滅されるようなものじゃない!!


や、やばい……意識が………と……ぶ………



白目を剥き、気絶しかかったところで

ふっと首から手を放される。



曜「かはっ……ごほっ、ごほっごほっごほっ!!!!」


「立ちな。場所を変えるよ」
80 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 00:59:49.01 ID:NB9lY4tt0
曜「ごほっごほっ……か、変える?」

「あなたが一体何者か聞く必要があるからね。ここじゃ安心して尋問が出来ない」

曜「っ!!」


「ああ、下手に抵抗しないでね。私が触れている限りリングの炎や技は使えないけれど、格闘なら可能だからさ」

曜「……」

「―――…もっとも、格闘術で私を上回れる自信があるなら挑戦してみてもいいけど?」フフフ

曜「分かった……何もしません」

「うん、賢明な判断だね」





「―――…高槻!!」





彼女の呼びかけで、出口の方向から同じくペストマスクを被った仲間が現れた。



高槻(?)「終わったの? 諏訪さん」


曜「!」


諏訪(?)「まあね。一旦場所を変える」


―――…諏訪だって?
この人の名前は“松浦”じゃなくて“諏訪”なの……?

まさか私の勘違い!?



曜「嘘……じゃああなたは松浦じゃ……無いんだ」

高槻(?)「え!?」

諏訪(?)「……へぇ、どこでその名前を知ったのかなん?」

曜「………」 


諏訪(?)「いいや。その辺も含めて詳しく聞かせてもらおうかな」
81 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/19(木) 01:00:52.15 ID:NB9lY4tt0
ここまで。
もう少しペース上げたいですね……
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/19(木) 02:56:51.91 ID:V23xik1v0
諏訪さん、いったい何浦果南なんだ?
乙です
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/19(木) 19:49:27.68 ID:8wbJBb9+0
偽名で草
のんびりでも良いから続けてくだち
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/29(日) 15:47:48.26 ID:LLKGT0Tqo
まだ?
85 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:29:59.93 ID:oz8e5HJr0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




千歌「―――…私の話は以上です」


降幡(?)「………」

千歌「………」


色々と会話をしてこのルビィちゃんそっくり(?)の降幡さんは私より年上だと分かった。
やっぱり別人なのかな?

初対面の人に別世界から来ました!
……って言っても信じるわけ無いし。

色々とぼかして話したんだけど……伝わった、かな?


降幡(?)「……」

千歌「あ、あの……」


降幡(?)「色々と話せない事もありますよね……」

千歌「えっ」

降幡(?)「あ、いや、当然ですよね! そりゃ初対面なんですし、ぼかすのは当たり前です」

千歌「す、すみません……せっかく話を聞いてもらっているのに」


あれ、バレてる?

まさかそんなわけないか……


千歌「降幡さん……」

降幡(?)「何ですか?」
86 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:31:15.51 ID:oz8e5HJr0
千歌「………」


この人は自分を“降幡 愛”と名乗った。

年齢は違うけれど見た目は完全に“黒澤 ルビィ”ちゃんなのに……


この世界ではこれが本名なのかな?

でも、曜ちゃんと梨子ちゃんは同じ名前だった。

ルビィちゃんだけ違うなんて事があるの?

試してみよう―――


千歌「黒澤ルビィ……」


降幡(?)「っ!?」ピクッ

千歌「私の友達にルビィちゃんって子がいるんです。降幡さんがその子にそっくりなのでびっくりしちゃったんですよね」


……どうだ?


降幡(?)「……」

千歌「……」ゴクッ

降幡(?)「………」


う、うぅん?

この表情は……どっちだ?

全然分からない……


降幡(?)「―――……ルビィを知っている…?」

千歌「!」
87 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:32:48.40 ID:oz8e5HJr0
降幡(?)「その友達の“ルビィ”とは一体どこで出会ったの?」

千歌「……内浦にある学校です」

降幡(?)「内浦?」


ウソはついてない。

この世界にも内浦は存在している。

ちゃんと調べた。


千歌「はい、ダイヤさんという姉がいて―――」




降幡(?)「ッッ!!!!!!?」ガタンッ!!


千歌「ひっ!?」ビクッ


降幡(?)「どうして!!? どうしてその名前知ってるの!? 一体どこで……っ!!!」

千歌「へ、ど、どうしてそんなに取り乱して……」

降幡(?)「本名は一般に公開されていない! 私もお姉ちゃんもあなたと会った事は一度もないのに何で!!」


千歌「―――…お姉ちゃん?」


降幡(?)「……あっ」


千歌「やっぱりあなたは―――」



―――プルルルル、プルルルル……



千歌「……電話、鳴ってますよ?」
88 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:34:14.91 ID:oz8e5HJr0
降幡(?)「……ちょっと外します」


ダイヤさんの名前を出した時のあの反応……
この人は間違いなくルビィちゃんだ。

でもどうして偽名なんかを……?

何とか聞き出してみる?

電話から帰って来る前に考えなきゃ―――


降幡(?)「お待たせしました」

千歌「えっ!? は、早かったですね……」


ヤバッ、まだ全然考えてないよ!?


降幡(?)「悪いんですけれど、これから私と一緒について来てもらえますか?」

千歌「へ?」



降幡(?)「―――渡辺曜ちゃん」

千歌「っ!?」

降幡(?)「千歌ちゃんのお友達の身柄をるび……私の仲間が預かってます」

千歌「どうして曜ちゃんを? 無事なんだよね!?」

降幡(?)「さぁ? 何とも言えません。大人しくこちら側の言う事を聞いていれば大丈夫だと思いますよ」

千歌「……っ」

降幡(?)「千歌ちゃんにも聞きたい事が色々あるから絶対について来てもらいます」

千歌「……分かってる。断れるわけないじゃん」

降幡(?)「じゃあ行きましょう。こっちです」

89 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:36:12.68 ID:oz8e5HJr0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜???〜



「―――…お、来た来た」

「遅いよ愛ちゃん」


降幡(?)「……またそのマスク被ってるの?」

「まあね。この怪しい子が尾行してきたからさ」

曜「………」

千歌「曜ちゃん!!」


連れてこられた雑居ビルの一室には両目を隠され、椅子に縛り付けられた曜ちゃん
それとペストマスクを被った二人が居た。

良かった……見た限り痛いことはされてないみたい。


曜「ぁ! この声は……千歌ちゃん!?」

千歌「そうだよ! 大丈夫!?」

曜「う、うん……私は大丈夫。ごめんね、話の流れで千歌ちゃんの名前出しちゃった……」

千歌「ううん、そのおかげでこうしてまた合流出来たからいいよ」

曜「ぅ……結果オーライ……」



諏訪(?)「さてと……軽く自己紹介しようか。私は諏訪。そっちの子は高槻ね」

高槻(?)「どーも」
90 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:39:50.48 ID:oz8e5HJr0
千歌「諏訪……高槻………?」


フルフェイスのマスクを付けていて顔は分からないけど
この声は間違いなく果南ちゃんと花丸ちゃんだ。

でもルビィちゃんと同じように偽名を使ってる。


諏訪(?)「没収したリングと匣を確認したけれど、どっちも軍が支給している物じゃなかった。念のため身元を調べている最中」

高槻(?)「でも、愛ちゃんが来ればもう解決だよね」

千歌・曜「「?」」



諏訪(?)「―――…さて、これからさっきと同じ質問をするよ。ただし、返答に関しては慎重にすることをおススメするよ」

曜「……?」

諏訪(?)「どれだけ言葉巧みにウソを織り交ぜてもこっちにはそれを見破る術がある」

曜「……マジか」



諏訪(?)「じゃあ最初の質問。君達は軍の人間なの?」



曜「いいえ」

千歌「違う」


諏訪(?)「……愛」

降幡(?)「……っ」コクッ


諏訪(?)「―――よし、次の質問だよ。どうして私を追いかけて来たの?」


曜「さっきも話したけど、あなたが松浦果南だと思ったからだよ」

諏訪(?)「松浦果南を追いかけている理由は?」

曜「そ、それは……」

千歌「それは私が果南ちゃんを探していたからだよ」

諏訪(?)「……君が?」

千歌「うん、果南ちゃんは私の幼馴染だからね」

諏訪(?)「はぁ?」
91 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:41:35.87 ID:oz8e5HJr0
降幡(?)「………」

高槻(?)「どうなの、愛ちゃん?」

降幡(?)「ウソは憑いてない……本当の事を言ってる」

諏訪(?)「……君の知っている松浦果南はどんな人物?」



私は自分の知っている果南ちゃんの事

性格、家族構成、私との関係、今までの思い出。

事細かに全部話した。

マスクをしている二人の表情は全く分からなかったけれど

ルビィちゃん……降幡さんは動揺を隠せていなかった。


暫くの沈黙後

降幡さんが会話を切り出す。



降幡(?)「―――全部本当。何一つウソは無い……よ」

諏訪(?)「……」

高槻(?)「ど、どう言う事? だってこの子の話は全部デタラメじゃ―――」

諏訪(?)「そっか……」



諏訪(?)「―――君は……別の世界から来たんだね」



千歌「!」

高槻(?)「べ、別世界? そんな小説みたいな事がある訳が―――」

千歌「ウソじゃない! 私は本当に別の世界から来たの!!」ガッ!!

高槻(?)「うっ……圧が凄い、ずら」タジッ

諏訪(?)「なるほど……だからルビィや花丸の名前も知っているわけ、か」

千歌「な、なら私の話を―――」

諏訪(?)「だったら一度考え直した方がいい」
92 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:44:43.01 ID:oz8e5HJr0
千歌「えっ」

諏訪(?)「この世界の松浦果南は君の知っている人物とは立場がかなり違う。……悪い方にね」

千歌「悪い、方……」

諏訪(?)「彼女と関わるつもりならそれ相応の覚悟が必要だよ。言うなれば、この世界の大多数を敵に回すくらいの覚悟がね」

千歌「………っ」

諏訪(?)「君の知り合いは彼女だけじゃ無いでしょ? わざわざ敵の多い方を頼らなくてもいい」

千歌「他の知り合いって言われても……」



諏訪(?)「よし……君達が敵じゃないならこれ以上拘束する必要は無いか。愛、解いてあげて」

降幡(?)「はい」シュルシュル

高槻(?)「リングと匣も返すね」

曜「……どうもッ!」ギロッ

高槻(?)「おお怖い怖い。そんなに睨まないで欲しいずら」

諏訪(?)「あんまり敵意剥き出しだとこっちも“対処”しないといけなくなるよ?」

曜「……ッ!」ビクッ


諏訪(?)「千歌……だったっけ?」

千歌「うん」

諏訪(?)「考えた結果、それでも松浦果南に会いたいって思うなら……旧虹ヶ咲領の南にある街においで。そこに彼女は居る」

千歌「南の街……?」

高槻(?)「具体的な場所は内緒ずら。理由は……察してね」

曜「旧虹ヶ咲領って……そんな危険な場所に行けっていうの!?」

諏訪(?)「だから言ってるじゃん。“覚悟”が必要だってさ」

降幡(?)「千歌ちゃんは匣どころかリングも持ってないから、一人で行くには相当危険だと思う」

高槻(?)「千歌ちゃん一人で来るのか、曜ちゃんも一緒か、それとも行かないか。よーーーく話し合うのをおススメするずら」

93 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/07/31(火) 01:47:02.92 ID:oz8e5HJr0
色々と忙しくて遅れ気味になってます……
エタらせないので気長に待って頂けると幸いです
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/31(火) 06:51:44.54 ID:SbXP/BiSo
乙待ってる
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/31(火) 16:56:56.74 ID:Jm0lD+K80
乙ゆっくり待機してます
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 20:02:14.63 ID:YGM57hgd0
いいのよ
97 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:37:22.51 ID:XZZbtofl0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜同刻 王都内〜



梨子「―――うーん…どうしよう……」


むつ「……」

梨子「『壁クイ Vol.100 数量限定版』と絶版になったはずのカーボン先生の同人誌……どっちも今買わなければもう二度と手に入らないのは明白……」

善子「……っ」イライラ

梨子「うーん…うーーーーん……」チラッ

むつ「……?」キョトン

梨子「欲しい……死ぬほど欲しいぃぃ!!! ……欲しいなぁ」チラッ

むつ「え、わ、私ですか?」アセアセ

梨子「上司命令よ! 私の為にあの二冊を―――」

善子「人の部下に何を命令してるの!? 自分で買いなさいよ!!!」

梨子「自分で買えるならそうしてるわよ!! でも…これを買っちゃうと今月の生活費が……っ」

善子「はぁ!? だってまだ中旬よ! これっぽちの金額も払えない程切羽詰まってるとかあり得ないでしょ!?」

梨子「分かって無いわね、趣味にはお金が掛かるのよ」
98 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:40:12.75 ID:XZZbtofl0
むつ「とは言ってもそれなりに収入はありますよ……ね?」

梨子「……ピュゥ〜〜〜♪」

むつ「あ、なるほど……あればあるだけ使うタイプですか」

善子「はぁ、だらしない先輩よね」

梨子「な、何よ! 善子ちゃんだってどっちかっていうと“コッチ側”の人間じゃない!! なのにどうして出費が少ないのよ!!」

むつ「占いグッズとか堕天使グッズとかいっぱい持ってますよね。この前お店で値段を見ましたが結構しますよね、アレ」

梨子「でしょ! あれだけの物をいくつもポンポン買えば預金の底だって尽くはずよ!!」

善子「堕天使グッズねぇ……例えばこんなローブとか、禍々しい杖とかの事を言ってるのかしら?」ニヤ



―――シュウゥゥ……



梨子「あ゛あ゛!!?」

善子「どやぁ」ニタァ
99 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:41:46.08 ID:XZZbtofl0
むつ「あー、その手がありましたね」

善子「クククク……私を誰だと思っている? 天才術師の津島善子様よ。欲しいモノは自らの力で作れるわ♪」

梨子「ズルい! 霧の炎で作るのは反則よ!! ちゃんと実物を買いなさいよ!!」

善子「へへーんだ! 悔しかったら梨子も幻術を使えるようになればいいのよー」

梨子「出来るわけないじゃない! 生意気な奴は消し炭にしてやる……!」

善子「お、お? やるか? 問題起こしてさらに減給かしらん?」ニヤニヤ

むつ「桜内さんダメですからね!? 津島さんもそんなに煽らないで下さい……」


梨子「……」ジッ

善子「……」ジッ


むつ「な、何ですか? 二人して私を見て……もしかして顔に何か付いてます?」

梨子「“桜内さん”ですって?」

むつ「……あっ」

善子「オフの日は上下関係は無しだって言ってるじゃない。もっと気楽にしてよねー」ムスッ

むつ「も、申し訳……ごめん梨子ちゃん、善子ちゃん」

梨子「ええ」ニコッ

善子「うんうんそれでいいのよ」

梨子「よし、さん付けした罰として むっちゃんには限定版の壁クイ本を―――」

善子「いやそれは無い」

むつ「ええ、買いませんよ」

梨子「」
100 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:45:33.28 ID:XZZbtofl0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




善子「―――明日からだっけ、むっちゃん?」

むつ「何がです?」

善子「例の殲滅作戦の準備よ」

梨子「殲滅作戦……あー、音ノ木坂の元守護者の生き残りがリーダーをやってるあの組織のか」

むつ「確かに明日からだけど……なんで善子ちゃんが把握してないの?」

梨子「そうよ、何で上司のあなたが分かってないわけ?」

善子「寧ろお二人は私がちゃんと把握してるとお思いで?」

むつ「まぁ……そっか、うん、そうだった」

梨子「それで納得してしまうのが悔しいわね」


善子「敵はこっちが未回収のモーメントリングを所持してるのよね?」

むつ「ええ。でも属性は晴で専用の匣兵器も失っているから問題無いかと」

善子「そもそもさ、なんでこっちが既に回収したモーメントリングを支給しないんだろうね?」

むつ「正直、Aqoursリングと同等の力を持っているから使えれば相当楽なんだよね……」

善子「強力な武器があるってのに……女王の考えは理解できないわ」
101 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:50:29.19 ID:XZZbtofl0
梨子「二人とも知らないの? 音ノ木坂の七つのリングは限られた一族にしか使えない代物なのよ」

善子「えっ?」

むつ「そ、そうなの?」

梨子「具体的には『高坂』『絢瀬』『南』『園田』『星空』『西木野』『東條』『小泉』『矢澤』の九つの一族ね。だから国王とその守護者もこの中から選ばれるの」

むつ「つまりこれら一族の血を引いていなければならないのかぁ」

梨子「その通り」

善子「へー、知らなかったわ……詳しいのね?」

梨子「……まあね」


善子「使えないなら仕方ないか……やっぱりAqoursリングの捜索は続けるべきだったのかしら。現状、霧と嵐しか無いし」

梨子「今更言っても遅いわよ。女王の決定はそう簡単に変わらない」

むつ「そもそもAqoursリングが無くても私は強いよ?」

梨子「そうだよ。それに、むっちゃんの実力は善子ちゃんが一番知ってるじゃん。過剰な心配は寧ろ失礼よ」

善子「そうだけどさぁ……うん、そうだね。むっちゃん、サクッと終わらせて帰って来なさい」

むつ「任せてください! あ、私が居ないからって仕事はサボらないで下さいね。津島さん♪」

善子「ったく……うるさい部下ねっ!」プイッ
102 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:54:04.56 ID:XZZbtofl0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




〜同日 夜〜



曜「んん! このハンバーグ美味しいね!」

千歌「……」モグモグ

曜「本ッ当に美味しくてジューシーだよねー。値段の割にサイズも大きくてさ!」

千歌「……ん」モグモグ

曜「どこ産の鶏肉なんだろうねー? どう思う千歌ちゃん?」

千歌「……」モグモグ

曜「……」モグモグ


少ししてから小声で『ハンバーグに鶏肉は無いだろー……』っと言っているのが聞こえた。

ゴメン曜ちゃん、重い空気を和ませようとしてくれたのは分かってるけどさ

正直それどころじゃないし、そもそもボケがよく分からなかったよ。


曜「―――行くんだよね?」

千歌「えっ」
103 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:56:48.33 ID:XZZbtofl0
曜「あれ、違うの?」

千歌「い、いや……それは…」

曜「覚悟がどうとか怖いこと言っていたけれど、千歌ちゃんからしてみれば行く以外選択肢が無いもんね」

千歌「そうかな…まだ会ってないメンバーも居るし、そのメンバーと会ってからでも遅くないんじゃないかな?」

曜「偽名を使っていた三人を除くと、あと会ってないのは『ダイヤさん』、『マリさん』、『ヨシコちゃん』だったっけ?」

千歌「うん」

曜「確かにこの三人に会うまで考えるのもありだとは思う。でも、いつ会えるの?」

千歌「いつって……そんなの分かる訳ないじゃん」

曜「だよね。千歌ちゃんはいつ会えるか分からない人をずーっと待ち続けるつもり? 間違いなく果南ちゃんはいつまでも同じ場所には居ない。数日もしたらどこかに行ってしまう」

千歌「……」

曜「行くなら出来るだけ早い方がいい。何なら明日の朝一で行く方が―――」



千歌「……何さ、曜ちゃんはそんなに早く私から別れたいんだ」
104 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 00:59:02.93 ID:XZZbtofl0
曜「はい?」

千歌「まぁそりゃそうだよね。曜ちゃんは王都に行くのが目的だもん。このまま大人しく過ごしていれば普通に入れる」

曜「あ、あの……」

千歌「わざわざ“世界を敵に回すかもしれない”なんてとんでもない危険を冒す必要も無い……」

曜「ちょっとあの……」

千歌「だからさ、果南ちゃんには私一人で会いに行くよ」

曜「……!」

千歌「これ以上曜ちゃんを巻き込むわけにはいかない。私は元の世界に帰れば終わりだけれど、曜ちゃんにはその後がある。仮に果南ちゃんに会った事で曜ちゃんの立場が悪くなっちゃったら嫌だもん……だから―――」



曜「―――いやいや、私も一緒に行くけど?」



千歌「……は?」

曜「って言うか、さっきの一言は心外だなぁ。私が早く千歌ちゃんと別れたい、だなんて思う? ……って、思われたから言われたのか」ガックシ

千歌「そ、そうじゃないけど……私の話本当に聞いてた!?」

曜「私の立場が悪くなるってやつ? 大丈夫大丈夫、 千歌ちゃんが気にする事じゃないよー。王都に行くのだって今は別にって感じだしさ」ニヘラッ

千歌「……笑い事じゃないよ!!!」ガタンッ!!

曜「うぉッ!!?」ビクッ!!

千歌「何で……何でそんなに能天気なの!? もっとよく考えてよ……!!!」

曜「……考えたよ」
105 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 01:00:16.21 ID:XZZbtofl0
曜「考えて考えて考えて、出した答えがこれ」

千歌「どう、して……だって…」

曜「逆に聞くけどさ、千歌ちゃんはどうして私の心配をしてくれるの?」

千歌「どういう意味?」

曜「私は千歌ちゃんの知ってる『渡辺 曜』じゃないからどうでもいいじゃん。別人なんだから帰った後の心配までする必要無いでしょ?」

千歌「違う…違うよ!! 確かに曜ちゃんは私の知ってる曜ちゃんとは違うかもしれない……でも幼馴染みじゃなくても、友達じゃなくても、私にとってはどの曜ちゃんも大切だもん!!」

曜「……」

千歌「だから、その、ええっと……ああもう上手く言えない! とにかく私はどうでもいいだなんて一ミリも思ってないんだから!!!」

千歌「…はぁ、はぁ、はぁ」

曜「……ふふ」ニコニコ

千歌「な、何さ……」

曜「いやー、千歌ちゃんは優しいなって思って」

千歌「優しいって……私は当たり前の事を言ってるだけだよ…」

曜「ううん、千歌ちゃんは優しいよ。私にはこんなに自分の事を想ってくれる友達は居ないから」

曜「……そっちの私がちょっと羨ましいな」ボソッ

千歌「曜ちゃん……」



曜「昨日も言った通り、私はどんなことがあっても元の世界に帰るまで千歌ちゃんを守るよ」

千歌「……本当にいいの?」

曜「勿論! たとえ火の中水の中、私はどこへでもついて行くであります♪」ニッ

106 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/09(木) 01:01:48.71 ID:XZZbtofl0
ここまで
コメントありがとうございます!
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/09(木) 14:49:26.99 ID:sRwPMWvh0
おっ、続き来てた

無理しないでまたよろしく
108 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 00:40:15.46 ID:z49Th79Z0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





〜旧虹ヶ咲領 南部〜



この島は元の世界の静岡県とほぼ同じ形をしている。

曜ちゃんの説明によれば、私が最初に目を覚ました場所の浦の星王国は元の世界で言う所の『伊豆』

音ノ木坂王国は『遠江』

そしてこれから向かう虹ヶ咲王国は『駿河』にあたる場所に領土を持っていたらしい。

ただ写真で見た限り地名や街並みまで一致している場所はほとんど無かった。

今は島全体が浦の星王国となっているから名前の最初に“旧”と付いている。


私達はバスをいくつも乗り継ぎ、半日かけてこの終点まで訪れた。

バスでの移動はここまでで後は徒歩での移動になる。



千歌「ねえ、曜ちゃん」

曜「ん?」

千歌「果南ちゃんの居場所が旧虹ヶ咲領だって知った時にさ……」




曜『旧虹ヶ咲領って……そんな危険な場所に行けっていうの!?』




千歌「―――って言っていたじゃん? だから、その、何と言いますか、風景ももっとこう…世紀末感が漂っているイメージをしていたんだよね」

曜「世紀末って……一応浦の星の管理下に置かれているわけだから整備はされているよ」

千歌「でも浦の星と比べると文化的な建物が少ない気がする」

曜「確かに昔ながらの作りの建物ばかりだね。森や畑、田んぼばっかり」

千歌「前からこんな感じの場所だったの?」

曜「小さい頃パパと一緒に来た時はもっと栄えていたよ。多分先の戦争で全部壊れちゃったんだと思うよ」

千歌「戦争……そうだったね」
109 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 00:46:42.36 ID:z49Th79Z0
曜「でも危険なのは違いないと思う」

千歌「何があるのさ?」

曜「ここには浦の星に敵対する勢力が多く潜伏しているって噂があるの」

千歌「数多く? 敵対組織は一つだけじゃ無いの?」

曜「らしいよ」

千歌「本気で倒すつもりなら力を合わせた方が……」

曜「どの勢力も最終目標は女王を倒してその座を奪う事のはずだから、同盟を組むと後々面倒なんじゃない?」

千歌「そういうものなの?」

曜「さあ? 流石に私も詳しくは分からないよ」

千歌「果南ちゃんのグループには一体誰がいるんだろう……?」

曜「とにかく南に向かおう。街があったら手あたり次第探す作戦で!」

千歌「それは作戦になってるのかなぁ」ウーン



私達は取り敢えず南へ向かって歩き出した。

歩いても歩いても見渡す限り田んぼと畑しかない。


それに空気もやたら重く感じる。

畑仕事をしている人、稀にすれ違う人、家の庭で座り込んでいる人

どの人も酷く疲れ切っていて全く活気が無かった。


浦の星を少し離れただけでこれ程までに変わってしまうものなの?

扱いの差が明らかに激しい。

いくら昔争っていたとは言っても、今は同じ国民なのに……



千歌「―――女王様はどうしてこの現状を放っておいているのかな…?」

曜「……」

千歌「……ごめん、曜ちゃんに聞いても仕方ない事だよね」

曜「へ? 何か言った??」

千歌「あー…聞いてなかったのね」

曜「ごめんごめん、ちょっとあそこに居る二人が気になってさ」

千歌「あの正面の木の下に居る小さい女の子達の事?」



少女A「大丈夫!?」

少女B「……うぅ、い、いたい、痛いよぉ」ポロポロ

少女A「だから危ないって言ったじゃん!」

少女B「う、うええぇぇぇん」



千歌「―――様子を見に行った方がよさそうだね」

曜「だね。おーい、君達どうしたのー」
110 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 00:56:09.25 ID:z49Th79Z0
少女B「……ひっく、ううぅぅ?」

少女A「だ、誰ですか!?」ビクビク

曜「怖がらなくていいよ、私達は怪しい者じゃ無いからさ」ニコニコ

少女A「怪しい人はみんなそう言って近づいて来ます!」

少女B「ホシゾラさんから教わったもん!」

千歌「“ホシゾラ”?」


ホシゾラって、あの星空……? まさかね。


曜「あはは……ちょっとその足見せてね」スッ

少女B「ッ!! 痛ッ!!」ズキンッ!!!

曜「うーん、この腫れ方だと折れてるかもしれない」

千歌「この木で遊んでて落っこちちゃったの?」

少女B「…うん」

曜「結構な高さから落ちたんだね。頭からじゃ無くて良かったよ」ホッ

千歌「何とか出来そう?」

曜「簡単な応急処置と痛みを和らげるくらいなら出来るかな。ねえ、近くに病院はある?」

少女A「ううん。でもホシゾラさんの所に行けばきっと治してくれます!」

曜「そっか。よーし、ちょっと我慢してね」カチッ!!



―――バシュッ!!



少女B「箱から何か出てきたよ!?」

少女A「綺麗な青い炎……!」パアァ

千歌「匣兵器を使うの?」

曜「うん。雨コテ(サルダトーレ・デル・ピオッジャ)っていう医療用の匣兵器だよ」

千歌「医療用もあるんだ」

曜「これは雨の鎮静で痛みを抑えるだけだけどね。何もしないよりはマシでしょ」



曜は先端に青い炎が灯ったコテを変色した患部へ押し当てる。

一瞬、ジュッっと肉が焼けるような音がしたが少女は熱がる素振りは見せなかった。



少女B「凄い……もう全然痛くないよ!」ブンブン!

曜「こらこら、治った訳じゃ無いんだから! しっかり固定するまで動かさないで」
111 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 00:59:15.57 ID:z49Th79Z0
少女A「お姉さんはホシゾラさんと違って青い炎なんですね!」

千歌「ホシゾラさんは何色なの?」

少女A「黄色です。ホシゾラさんはどんな怪我でもすぐに治してくれるんですよ!」

曜「黄色、黄色かぁ……黄色は確か『晴』だった気がするな」

千歌「『晴』ねぇ。話を聞く限り、治療に関する特性があるみたいだね」



曜「―――これでよし! 手当は終わったよ」

少女B「ありがとう、お姉ちゃん!」ニッ!

曜「どういたしまして♪」ニコッ

千歌「ホシゾラさんの所まで私がおぶって行くね」

少女A「そんな! そこまでしてくれなくても……」

千歌「いいのいいの。もうこの子も乗ってるし」

少女B「えへへ」

少女A「いつの間に……」

曜「ホシゾラさんはどこに居るの?」

少女A「あの森を抜けた先にある町です」

千歌「ほぇ〜、結構距離ありそうだね」

曜「私達が行こうとしていた方角と同じだし丁度いいね。そのまま今夜はその町で休もう」

千歌「うん、そうしよっか」

112 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:02:48.03 ID:z49Th79Z0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




千歌「―――なら、二人は姉妹なんだね」

姉「はい。妹がお転婆でいつも大変なんですよ……今日だって大怪我するし」ハァ

曜「言われてるぞ〜」ニヤニヤ

妹「う、うるさいなぁ」プイッ

千歌「仲良くしなよ? 姉妹なんだからさ」

姉「私達は仲良しですよ」

妹「仲良し仲良し♪」

千歌「ならよろしい」フフ


姉「そう言えば千歌ちゃんと曜ちゃんはどこから来たんですか?」

曜「そうだねぇ……空、かな?」

姉「そ、空??」

妹「ならお姉ちゃん達は天使様なの?」

曜「そうだよ〜、私達は天使なのだ!」

妹「まっさかー、流石にウソだよ〜」

曜「んん〜どうだろうねぇ」ニヤニヤ

千歌「……」

曜「ホシゾラさんはどんな人なの?」

妹「優しい人!」

曜「ざっくりだね!」

妹「でも本当の事だもん」

姉「一か月くらい前から町に住み始めた人なので私達もそこまで詳しくは知らないんです」

千歌「最初から住んでいた人じゃ無いんだ」

姉「噂によれば隣の国から来た人みたいですよ?」
113 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:04:34.78 ID:z49Th79Z0
曜「隣の国って言うと浦の星王国?」

妹「それは無いよー」

曜「なんでさ?」

妹「もし浦の星の人だったらあの町からすぐに追い出されるもん。みーんな嫌いだからね」

千歌「ッ!」

曜「へぇ…そうなんだ」

姉「ええ。ですから噂通りならホシゾラさんは音ノ木坂王国の方だと思いますよ」



曜ちゃんが自分達の出身を誤魔化したのは正解だった。

私もうっかり口を滑らせないようにしないと……。


この姉妹の話す“ホシゾラさん”

珍しい苗字

音ノ木坂王国


もしかしたら本当に私の知ってるμ'sの星空凛さんなのかも……?



姉「―――あっ! 町が見えてきました!!」

曜「おお、あの町か!」

千歌「中々大きな町だね」

姉「ホシゾラさんのいる宿はすぐそこです」

千歌「もうちょっとだから待っててね」

妹「うん!」


114 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:12:03.72 ID:z49Th79Z0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



私はホシゾラさんが泊っている部屋のベルを鳴らす。

「はーい」と言う声が室内から聞こえ、すぐにドアが開いた。



姉「ホシゾラさん!!」

「あれ、いつもの姉妹ちゃんだ……ちょっ、その足どうしたの!?」

妹「木から落っこちちゃったの……」

姉「そしたらこのお姉さん達が助けてくれたんです」

「ええっと……そのお姉ちゃん達はどちら様?」

千歌「ホシゾラ……星空、凛さん……?」

「にゃ!?」


星空凛という名に反応した。

でも目の前のその人は私の知る星空凛では無かった。

ぱっと見で年齢は二十代後半という感じ。

いつきちゃんやルビィちゃんも年齢は違っていたけれど

間違いなく元の世界の二人と同一人物だった。


髪形、髪色、目元などなど

若干似ている部分はあるはあるけど、年を重ねての変化では無い。

可愛い顔なのは同じだけど、明らかに骨格が違う。


「君達は一体……」

曜「私は渡辺曜です。この子は高海千歌ちゃん。この子達が困っている所を偶然通りかかって―――」

「曜……千歌…ああ、なるほどそう言う事か」フム

曜「ん?」

「そっか、思っていたより早く来たから驚いちゃった」

千歌「驚いた? 何の話ですか?」




「―――諏訪ちゃんから話は聞いてるよ」




115 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:13:52.58 ID:z49Th79Z0
曜・千歌「「!!?」」

「取り敢えず今はこの子の治療からだね。曜ちゃんと千歌ちゃんは部屋に入って待っててよ」

千歌「……分かりました」

妹「ええー! 私も入りたーい!!」

「今日はダーメ。怪我がちゃんと治ってからね」

妹「ぶぅ…」ムスッ

姉「我がまま言わないの」

妹「分かったよぉ……」

「いい子だね♪ 今度遊びに来るまでに美味しいお菓子を用意しておくね」

妹「いやったあ!! 約束だよ?」

「うん、約束にゃ」ニコッ


姉「曜ちゃん、千歌ちゃん、妹の為にここまでありがとうございました」ペコリ

曜「ふふ、すぐに良くなるといいね」

妹「また会おうね〜」

千歌「うん、今度は一緒に遊ぼうね!」ニコッ

「じゃあ早速治療を始めるよ―――」



―――ボッ!!


116 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/20(月) 01:17:29.56 ID:z49Th79Z0
ここまで。
そろそろ平和な時間には飽きた頃合いですよね……
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 18:35:11.49 ID:eC9NZ2PM0
おっつおっつ、いいゾ〜これ

ところで、形は静岡と同じだとして、面積も同程度と考えていいの?
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/21(火) 02:31:46.61 ID:2rvFMqZPO
遂に匣を交えた戦いが始まってしまうのか…滾る
乙です
119 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/08/29(水) 23:57:20.02 ID:jTdyOm030
島の面積に関しては物語の進行にそれ程影響しないので細かくは設定していませんが、脳内では約二倍のイメージで書いていました。

次回の更新は二日以内にする予定です。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/30(木) 01:22:03.31 ID:vD7mFNlu0
戦闘楽しみにしてるよー
121 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/01(土) 17:27:18.53 ID:XsrhOzqf0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「―――お待たせ。意外と時間掛かっちゃった」

千歌「あの子の足はもう大丈夫なんですか?」

「うん、晴属性の『活性』で自然治癒力を高めてある程度は治したよ」

千歌「晴の特性は『活性』なんだ」

曜「完治させなかったんですか?」

「細胞組織の強制超活性は寿命を縮めちゃうからね。若いからそれ程影響は無いとは思うけど、万が一って事もあるし」

千歌「へ、へぇ〜……それは大変ですもんね??」

曜「あの、ホシゾラさんが付けているそのリング、見覚えがあるんですがもしかして……」

「……それも踏まえて私の自己紹介をしようかな」



星空「―――私の名前は『星空 リン』。以前、音ノ木坂王国で晴の守護者として王に仕えていたよ」



曜「星空リンって……あの凛さんと同じ名前ですね」

星空「お婆ちゃんの事知ってるんだ」

千歌「お婆ちゃん?」

曜「音ノ木坂の初代女王とその守護者は有名ですから」

星空「確かに初代晴の守護者の『星空 凛』と同じ名前だよ。私はカタカナだけどね」


―――どうやら私の知っている星空凛さんはこの世界では大昔の人物らしい。

この感じだと他のμ'sのメンバーも凛さんと同じ時代に生きていたのだと思う。

元の世界で関わりが無かったものの、もしかしたら力になって貰えるかもと期待していた分

会う事すら出来ないから少しだけ残念だな。


星空「このリングはモーメントリング。君達の国のAqoursリングと同等の力を持っているリングだよ」
122 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/01(土) 17:31:22.59 ID:XsrhOzqf0
曜「やっぱりそれはモーメントリングだったんだ」

千歌「Aqoursリングと何か違いはあるのですか?」

星空「性能の違いは全く無いよ。差があるとしたら、モーメントリングは使える人間がかなり限られるくらいかな」

星空「初代女王、守護者だった九つの一族の血を引いていないと使えない」

千歌「九つの一族……」

曜「そんな制約があるんですね」

星空「それに比べてAqoursリングにはその縛りは無いの。ただ、全員が使えるわけじゃ無いみたいだけど」


千歌「他の守護者の方がどこに居るか知っているのですか?」

星空「……」

千歌「?」

星空「――モーメントリングを所持している守護者は私以外はもう居ないよ」

千歌「ッ!?」

曜「みんな……死んでしまったのですか?」

星空「ほとんどが殺されたり行方不明になっている。生きている守護者も居るけれど、怪我が酷くてもう戦える体じゃない」

星空「今現在、浦の星王国に抵抗している組織で最も力を持っているのは諏訪ちゃんのところくらいだと思う」

曜「人数が多いって事ですか?」

星空「人数なら私の所の方が多い。対して向こうは五人しか居ないよ」

千歌「人数が少ないのに強いんだ」

星空「そうだよ。なんてったって二種のAqoursリングと守護者専用の匣兵器を持っているから」

曜「えっ!? どうして反逆者が守護者の装備を持っているの!?」

星空「さぁ? 方法は分からないけれど奪い取ったんでしょ。持っているのは『雲』と『雷』。私と違って攻撃向きの属性で羨ましいよ」

123 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/01(土) 17:33:51.25 ID:XsrhOzqf0

千歌「かな……諏訪さんとはどんな関係なんですか?」

星空「うーん……一応、協力関係って事になってるけど未だに顔が分からないのがイマイチ信用に欠けるんだよねぇ」

曜「あぁ、あのペストマスクのせいですね」

星空「そうそう。いつも被っているから不気味なんだにゃ」

千歌「諏訪さんから話を聞いているって事は私達の目的も知っているのですよね? 」


千歌「――果南ちゃんは今どこにいますか?」


星空「……カナンちゃん? 君達は諏訪ちゃんに会いに来たんでしょ?」

曜「はい?」

星空「そもそもカナンちゃんって誰の事? 聞き覚えのある名前だけど、流石にこの街には……ねぇ」

千歌「あの……諏訪さんから連絡を受けたんですよね?」

星空「そうだよ。私は諏訪ちゃんから近い内に君達がこの街に訪れると思うから見かけたら声を掛けて欲しいって言われただけ」

千歌「……」


果南ちゃんを知らない?

私はてっきり『諏訪=果南』は星空さんも知っているものだと……

いや、会う時は必ずあのマスクを被っていたのなら知らなくても不思議じゃない。


それに果南ちゃんの名前を出した時、ほんの少し怖い顔になった気がする。

気のせい……かな?


星空「暫くしたら諏訪ちゃんもこの街に来ると思うから、その時にカナンちゃんの所に案内されるんじゃないかな。それまではここで過ごすといいにゃ」

千歌「そうですか……」
124 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/02(日) 00:04:08.06 ID:jTiiZbdq0
投稿中にパソコンの調子が悪くなってしまい、続きが消えてしまいました。
もう一度書き直しているので、続きは今日中に投稿します。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 21:30:14.38 ID:MXXEsJLco
まってる
126 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:28:10.65 ID:bPNo+YOG0



曜「あの、これまでの話とは全然関係ないんですが……いいですか?」

星空「ん? 何?」

曜「さっきから気になっていたんですが、星空さんの『にゃ』って語尾は――」

星空「………にゃ!?///」

曜「あ、また」

星空「い、いや、その……いい大人が恥ずかしいよね/// 何と言うかこれは星空一族の特性を言いますか呪いと言いますか……気を抜くと猫語になっちゃうんだよねー///」

曜「……ふっ、の、呪いですかぁ?」プルプル

星空「わ、笑うな! 私だってちょっと気にしてるんだにゃ!! ……あっ」


我慢の限界を迎えた曜ちゃんはお腹を抱えながら笑い始めた。

顔を真っ赤にしてうつむく星空さん。
あ、ちょっと涙目だ。


いやいや、曜ちゃん流石に笑い過ぎでしょ?!

怒らせたらどうなるか分からないんだよ!!?


そんな私の杞憂はお構いなし。

そのまま気が済むまで笑い終えた曜ちゃん。

星空はご立腹だった。


曜「ごめんなさい。気を悪くしないで下さい」

星空「……」ムスッ

曜「反逆者はみんな怖いイメージがあったんです。でも、実際は星空さんみたいな可愛い人も居るんですね」

星空「可愛いなんて言葉に惑わされないんだからね!」プンプン

曜「あははは! ほっぺた膨らませて怒るなんて年上の女性には全然思えないや」

星空「……シャアァァ!!!!!」ガッ!!!

曜「うおっ!? 襲い方も猫みたいですね!?」

千歌「あ、あははは……」ハァ



127 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:38:47.33 ID:bPNo+YOG0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜翌朝〜



曜「――……ふわあぁぁ、おはよう千歌ちゃん」ゴシゴシ

千歌「曜ちゃんおはよう……くんくん、この匂いはまさか……?」

曜「うん、間違いなくアレだよね」



星空「――あ、二人共おはよう。朝ご飯出来たよ〜」ゴトッ

曜「こ、これは……っ」

千歌「朝、ご飯……?」

曜「ラーメンだね。しかも豚骨」

千歌「昨日の夜は醬油ラーメンで、今日の朝は豚骨ラーメン」

星空「にゃ? もしかしてラーメン嫌いだった?」

曜「いえいえ、ラーメンは好きですよ? 昨日のラーメンも凄く美味しかったです。ただ、朝からこってり系はちょっと……」

星空「ふむ、だったら塩ラーメンにしておくべきだったかぁ」

曜「いやいや……」

千歌「曜ちゃん曜ちゃん、豚骨だけど意外といけるよ」ズルズル

曜「え゛え゛!!?」

星空「だよねだよね♪ 私は毎朝作って食べているから」

曜「これを、毎朝!?」

千歌「んん〜〜ん、美味しい♪」ウットリ

星空「ドンドン食べてね〜」
128 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:40:38.37 ID:bPNo+YOG0



千歌「――ふ〜う、お腹いっぱいだよぉ」

曜「ご馳走様でした」

星空「いい食べっぷりだったね」ニコッ


星空「それで、今日はどうする予定なの?」

千歌「うーん……どうしよっか」

曜「諏訪さんが来るまでは何も出来ないし、取り敢えずこの町の散策でいいんじゃないかな?」

星空「それがいいと思うよ。私も一緒に案内するよ」

千歌「じゃあ、お言葉に甘えて―――」



―――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!



千歌「ん? 何の音だろう?」

曜「外から聞こえるね」

星空「工事でも始まったのかな?」



三人は外の様子を見る為にベランダに出た。

そこで目にしたのは、町の中心部の上空に浮遊している大きな円盤状の機械のような物体だった。
音の原因はこの飛行物体だ。



千歌「ほぇー、あんな大きな物が浮かんでいるよ。凄いなぁ」

曜「あれって乗り物なの? 見た事無いな……星空さんは知ってます?」

星空「……そ、そんな、まさか」ゾッ
129 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:45:47.29 ID:bPNo+YOG0
曜「星空さん?」

星空「二人とも伏せ―――」



星空が言い終わるより先に飛行物体に変化があった。

カッと眩い光を放ち、真下に向けてレーザー光線を照射したのだ。

直後に発生した衝撃波で三人はベランダから屋内に吹き飛ばされた。



曜「……ぁ……か、はぁっ……っ」

千歌「う……ぁあ……ぁ」

星空「ぐっ……ふ、二人共無事!?」

千歌「な、なん、とか……」

曜「今のは一体……?」

星空「さっきのあれは『超炎リング転送システム』。リングの炎を使って大量の人や物を瞬間移動させる装置だよ!!」

曜「瞬間移動? ビーム砲に見えましたけど!?」

星空「あのビームそのものに破壊効果は全く無いよ。ただ、転送には膨大な炎圧が必要だから、その余波で私達は吹き飛ばされた!」



「――ぎゃあああああああああぁぁぁぁ!!!!!」

「やめろ!! やめてえええ!!!!!!」



千歌「今度は悲鳴!?」



急いで立ち上がり、再びベランダに出る。

外では逃げ惑う人々とそれを追う奇妙な人型の何かで溢れていた。


頭部は真っ黒なフルフェイスのヘルメットで覆われ

胸部には大きくて綺麗な石が埋め込まれている。

また、個体によっては手足が機械仕掛けになっていて

そこから出る炎や刃物で人々を無差別に攻撃していた。




曜「何!? あれは何なのさ!!?」
130 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:48:18.82 ID:bPNo+YOG0
星空「――人形兵(マリオネット)だよ……っ!」

曜「人形兵(マリオネット)?」

星空「浦の星王国が開発したサイボーグ兵器の一種だよ。あのヘルメットから下される命令プログラムに忠実に従って行動するんだ」

千歌「ちょっと待って……じゃあ、今この町の人を襲っているのって――」

星空「浦の星王国の軍だよ……私と私の組織を殲滅しに来たんだと思う」

曜「も、もしかして……私達のせい……?」

星空「違うと思う。ただ君達がこの町に来た日、浦の星で動きがあったのは把握していたんだ。私の見立てでは準備が整うのにあと数日は掛かると予想したんだけど……まさか一晩で済ませるとはね……っ!」


星空「私は仲間と合流して町の人を助ける。君達は裏口から出て、今すぐこの町から脱出して!」ダッ!


そう言い残し星空はベランダから飛び降りた。


曜「……行こう、千歌ちゃん!」

千歌「わ、分かった!」

131 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:51:14.13 ID:bPNo+YOG0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



裏口が建物を出て、昨日町に入ったルートから脱出を試みた。

しかし、その道は既に人形兵によって封鎖されていた。

強行突破するにも数が多すぎる。



千歌「ど、どうする……?」

曜「別の出口を探すしかない。こっち!!」



「――おや? 見覚えのある顔ですね」



逃げようとした先に、黒いスーツを着た女性が立っていた。

他の人形兵とは違って生身の人間。


千歌達もこの女性に見覚えがあった。

それは、千歌がこの世界に来た初日

あのバスで出会った人物――



千歌「――むっちゃん……だ」

曜「むつ……? どこかで……」

むつ「ああ、そうだ思い出した。あの時バスで会ったんだ」

曜「あっ」

むつ「そもそも、どうして浦の星の国民がこんな場所に居るの? 危ないからこっちに来なさいな」

曜「え、いいんですか?」

むつ「いいも何もうちの国民なんだから当然じゃない」ニコッ

千歌「……っ」ゾワッ

むつ「さあ早くおいで」

曜「……」



むつ呼びかけに対し、二人は逆にじりじりと後ろへ下がった。



むつ「……どうして離れるのかな?」
132 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 00:56:28.07 ID:bPNo+YOG0
曜「いやー……だって、ねぇ」

千歌「うん、近づいたらダメな気がするんだよね……」



ニヤリと怪し気に微笑む むつ。

その邪悪な笑みに千歌と曜はたじろぐ。



むつ「――ふむ、意外と察しはいいんだね。私の嫌いなタイプだよ」

曜「私達、何かしました?」

むつ「そうだね……星空リンと接触してしまったのがダメだった。それだけで拘束するには十分なんだよ」

千歌「どうして私達が星空さんと会っていると知っているの?」

むつ「ふふふ……浦の星の監視網を甘く見ない方がいいって事」


むつ「さて、これから君達を拘束させてもらう。怪我をしたく無ければ抵抗はしないでね」

むつ「――行け!」



むつの命令で人形兵二体が襲い掛かる。

今から背を向けて走り出しても数秒で追いつかれてしまうだろう。



千歌「うわああ!!?」

曜「ッ!! 千歌ちゃん!!!」ボッ!!



やるしかないと悟った曜は千歌を自分の背後に押しのける。
リングに炎を灯し、技の準備を整えた。



―――ゴキャアアァァッ!!!!



曜・むつ「「!!?」」



空から落ちてきた人物の拳により、二体の人形兵は頭部から地面にめり込む。



星空「――……むつ!!!!」
133 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 01:05:48.84 ID:bPNo+YOG0
むつ「ターゲットの方から出向いてくれるとは……手間が省けたよ」

曜「星空さん!」

星空「交戦中の仲間から連絡を受けて急いで戻ってきたんだ。間に合って良かったよ」


星空「曜、千歌、ここは私に任せて」

千歌「ひ、一人でこの数を相手するんですか!?」

曜「人形兵も合せて十は居ますよ!? 私も一緒に戦います!!」

星空「私を誰だと思っているの? 悪いけど、君達が居たらかえって足手まといだよ」

曜「ぐっ……」

星空「守護者の私が任せろって言ったんだ。黙って任せればいいんだよ」ニッ

千歌「……行こう、曜ちゃん」

曜「うん……お願いします!」




むつ「流石、音ノ木坂王国の元守護者様ですね。人形兵を一撃で潰すとは……しかも素手で」

星空「あなたに褒められても嬉しくないな。そもそも、どうしてあなたなの?」

むつ「守護者では無い私が相手じゃ不満ですか?」

星空「当たり前だよ。舐めてるの?」

むつ「とんでもない。でも、わざわざ津島さんや桜内さんが出る幕じゃないのも確かですが」

星空「……ッ」イラッ



むつは匣兵器を開口する。

緑色の炎を注入して出てきた武器は日本刀だった。


……星空はその匣兵器を知っていた。

匣兵器の固有名詞は『雷電(らいでん)』

園田家が開発した日本刀型の匣兵器の一振りである。


星空と同期の雷の守護者は園田家であり、これはその彼女が使用していた匣兵器であった。



星空「その匣兵器を持っているって事は……っ!!」ギリッ
134 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 01:09:23.35 ID:bPNo+YOG0
むつ「ええ、その通りです。私が園田を倒しました。雷のAqoursリングさえあれば私も守護者になってますよ」



「まあ、仮にリングがあってもなりませんが」とぼやきながら刀身に炎を纏わせる。


雷属性の特性は『硬化』

雷に酷似したその炎は属性中最高の硬度を誇り、『雷電』はその特性を最大限に引き出せる。

よって、炎を纏わせた『雷電』の斬撃は例え鋼であっても紙と同様の強度となる。

仮に炎を纏わせたとしても並の炎圧では防御は不可である。


むつの匣を目の当たりにし、星空も対抗する為の武器を取り出す。

勿論、使うのは匣(ボックス)兵器だ。

出てきた武器は『指だしのグローブ』である。


むつ「……グローブ、ですか」

星空「何? そんなに意外でもないでしょ?」

むつ「ええ、ただ、匣兵器は持っていないと報告を受けていたので」

星空「最近手に入れたんだ。前の匣よりも性能は劣っているけど、そこは実力でカバーするさ」

むつ「……」


念のために様子を見た方がいいかな……?

もう三、四体の人形兵をぶつけてみよう。


むつ「――人形兵(マリオネット)!!!」



襲い掛かる四体の人形兵。

星空は「ふぅ……」と軽く息を吐くと、力強く拳を固める。


高純度の晴の炎を右手のグローブに纏わせ、目にも止まらぬ速さで拳を振るう。

上、正面、左右から襲い掛かってきた人形兵の頭部が同時にはじけ飛んだ。



むつ「……」ジッ
135 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 01:29:08.48 ID:bPNo+YOG0
星空「――性能を観察しようとしているなら無駄だよ。このグローブは炎を灯しても消滅しない以外に何も無いから」

むつ「みたいだね。一撃必殺の拳を四方向に同時に繰り出せるのか……恐ろしい」

星空「怖気づいたかにゃ?」

むつ「……ふっ」

星空「……」



むつと星空、二人のリングの炎が更に大きくなる。

その余波で近くの壁や地面の表面が削れ、黒く焦げる。



むつ「ぜーんぜん。残念ながらあなたじゃ私に勝てないよ」ニコッ

星空「……変わった遺言だね―――!!!」
136 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/09/03(月) 01:30:15.94 ID:bPNo+YOG0
今回はここまで。
土曜前後までには更新したいです……
137 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:27:49.17 ID:CPlG3n340

138 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:30:56.30 ID:CPlG3n340

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「???あああああぁぁぁぁぁっ!!? があぁ…!!??」ブシュゥッ!!


「このっ!? 数が多……ぎゃぁ!!?」グシャ


「早く逃げろ!!! 長くは持たない!!」


「助けて!! お願い助け???こ゛お゛お゛ッッ!!?」



町中から聞こえる怒号や断末魔。

人形兵を撃退すべく奮闘する者も多く居るが、次々と倒される。


それを横目に、曜は千歌の手を引いて走る。

倒れている人、殺されそうになっている人

全て無視して走り続ける。



139 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:32:18.60 ID:CPlG3n340
曜は葛藤していた。


千歌による補強があれば人形兵とも十分戦える。

今、目の前で殺されそうな人々を救う力を持っているのだ。

しかし、それは曜一人で戦う場合の話。

千歌との力のリンクを維持するには、お互いに目視可能かつ一定の範囲に居る必要がある。

故に、戦闘能力が皆無の千歌を危険な戦場に置き去りにしなければならない。

前回のいつき戦とは異なり、どこから敵が襲って来るか分からない今回の状況で
自分の実力では千歌を守りながら戦うのは困難だと自覚している。







千歌「……うちゃん」
140 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:34:06.02 ID:CPlG3n340
曜「……はぁ、はぁ、はぁ」タッタッタッ

千歌「ねえ、曜ちゃん!!」

曜「何ッ!!?」



精神的に余裕の無かった曜は強い口調であたる。

その反応と鬼気迫る表情と声に一瞬気圧されるが
構わず言葉を続けた。



千歌「あそこ! あそこで倒れている子!!」

曜「誰が倒れているって???……ぅ!!!?」ゾワッ



千歌が指さす場所には小さな二人の少女が倒れていた。

昨日、この町に来る前に出会った姉妹だった。



千歌「しっかりして!! ねえ!!」
141 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:35:36.20 ID:CPlG3n340
妹「ぁ……っ、ち、か……ちゃん……?」

千歌「そう、そうだよ!!」

妹「ど、こ……、真っ暗で……何も、見えない……よ?」

千歌「ッ!? ここだよ! 私はここに居るよ!!」ギュッ



少女の体は無数の鋭利な刃物で切り刻まれたかのように全身ズタズタに引き裂かれており
地面には既に大きな血の池が出来ていた。

千歌は血塗れになった少女の手を握る。



妹「……ぁ、温かい……なぁ」

千歌「どうしよう……このままじゃ死んじゃう」

妹「ね、ぇ……お姉、ちゃん……は?」

千歌「お姉ちゃんなら曜ちゃんが???」チラッ

曜「……」

千歌「……曜ちゃん?」
142 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:37:19.05 ID:CPlG3n340


目線を下げ、曜が抱えている姉の体を見る。

姉のお腹の中心部に地面がハッキリと見えるほど大きな穴が開いていた。

微かに意識はあるものの、絶対に助からない事は素人目でも分かってしまった。



妹「いた、い……いたいよぉ……」



かすれ声で痛みを訴える。

少女にはもう泣き叫ぶ体力すら残っていのだ。


千歌はただただ泣く事しか出来なかった。



千歌「……ぅ、うぅぅ」ポロポロ

曜「千歌ちゃん……ちょっと代わって」
143 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:38:39.82 ID:CPlG3n340
千歌「……何をするの?」


妹「…っ……はぁ……はぁっ……っ」

曜「もう少しだけ頑張ってね? 今、星空さんが治療を始めるから」

千歌「!?」

妹「……はぁ……はぁ……本、当……?」

曜「うん、本当だよ。ほら、だんだん痛く無くなってるでしょ?」



そう言いながら、曜はリングの炎を少女の全身に浴びせる。



妹「……ぁぁ、本当だぁ……もう、痛くない……や」

曜「そうでしょう?」

妹「……ん、ん……なんだか、眠く…なって……きちゃった」


曜「……」
144 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:40:12.34 ID:CPlG3n340
妹「明日……に、なったら……治って……る……かな?」


曜「……うん」


妹「じゃあ……治ったら、一緒に……遊んで、く……る………?」


曜「勿論だよ。約束する」ニコッ



妹「……え、えへへ、楽し……み……だ……な……ぁ」


妹「……??????」

曜「……っ」
145 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:41:34.34 ID:CPlG3n340
???『星空リンが助けに来た』

目が見えない事を利用した曜の嘘。

曜を信じ、明日が来ることを信じて眠りについた少女。

だがもう二度と目覚める事は無い。


助からないのならば、せめて痛みを取り除いて楽にしてあげよう。

雨属性の炎を持つ曜が少女にしてあげられる最善の策だと判断したのだ。

既に姉の方も同様の処置を施していた。



千歌「??……曜ちゃん」

曜「……ごめんなさい」

千歌「……」


曜「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」ポロポロ
146 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:42:48.34 ID:CPlG3n340
千歌「……ぁ」




……かける言葉が見つからなかった。

痛みから解放してあげた曜ちゃんの判断は間違っていないと思う。

それでも、結果的には二人の命を奪ってしまった。


私には想像も出来ない人の命の重み。


無力な私は泣き崩れる曜ちゃんを抱きしめる事しか出来なかった。




……ごめん。


曜ちゃんに十字架を背負わせてしまった??。




暫くすると曜ちゃんはグイっと私を押しのけた。

さっきまでの沈痛な表情とは一変
激昂した面持ちで辺りを見渡していた。



曜「??……囲まれている」

千歌「えっ、に、人形兵がこんなに沢山……!?」
147 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:43:46.08 ID:CPlG3n340
目の前に現れた人形兵は五体。
全員、服やヘルメットは真っ赤な血で染まっていた。

私達の元へゆっくりと近寄って来る。



千歌「逃げなきゃ……急ごう曜ちゃ???」



???トンッ



千歌「へ?」



後ろに突き飛ばされる千歌。

同時に千歌と曜の間を遮るように水の壁が出現した。



千歌「これって……どういうつもり!?」

曜「ごめん千歌ちゃん……悪いけど、ここでお別れだよ」

千歌「はあ!!?」
148 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:44:45.03 ID:CPlG3n340
曜「このまま真っ直ぐ走れば町を抜けられる。私がそれまでの時間を稼ぐから千歌ちゃんは先に行って」

千歌「曜ちゃんが戦うなら私だって???」

曜「黙って言う事を聞いて」

千歌「た、確かに私は曜ちゃんみたいに戦えないよ…でもあの時みたいに力になれる!!」

曜「……」

千歌「ねぇ、何か言ってよ!」

曜「……いいから行けって言ってるんだよ!!」

千歌「な、なん、でよ……」

曜「この数が相手じゃ千歌ちゃんを守りきれない。もうこれ以上目の前で誰も死なせてくないんだよ……」


??声が震えている。
水の壁で見えないけれど、曜ちゃんはきっと……


曜「それに、私はあの子達を……この町の人々を襲ったコイツらを許せない。全員倒さなきゃ気が済まないんだよ」

千歌「……"お別れ"って言った。曜ちゃんはここで死ぬ気なんでしょ!?」
149 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:46:34.62 ID:CPlG3n340
曜「死ぬ気なんて全然ないよ。"お別れ"っていうのは"一旦"って意味。終わったらちゃんと追いかける」

千歌「ホント? 信じていいの……?」

曜「千歌ちゃんは私の事信じられないの?」

千歌「……」


千歌「??分かった。約束だよ! 絶対に追いかけて来てね!!」

曜「うん……また後でね」
150 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:48:28.31 ID:CPlG3n340
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



曜「??”終わったらちゃんと追いかける”か」


よくもまあ平然と嘘をつけるもんだよ。
自分の実力は自分がよく分かっているじゃないか。

人形兵(マリオネット)は国が造った兵器
まだ一度も戦った事は無いけれど簡単に勝てる相手では無い。

それを一度に五体も相手にしなければならないんだ。
怪我だけじゃ済まないんだろうな……



??ギチッ、ギチギチッ!!



曜「全く動けないでしょ? 出力最大の『水の鎖(カテーナ・ディ・アクア)』は結構凄いんだ」
151 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:49:46.10 ID:CPlG3n340
曜「そのおかげで攻撃に割く力が残ってないのが欠点だけど……こればっかりは仕方ないね」

人形兵「??ッ!!! ???ッッ!!!」ギチギチ

曜「ん? 何を言ってるか全然分からないけど、慌てなくても大丈夫だよ。もう時期この鎖は解けるからさ」


五体同時に縛る事が可能なのは千歌ちゃんとのリンクが有効な時だけ。

千歌ちゃんとのリンクを維持できる範囲から出た瞬間
鎖の拘束力は極端に下がって、一秒も封じる事は出来ない。

開戦の合図は拘束が解けた瞬間だ

……やっば、ちょっとお腹痛くなって来たかも。
152 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:50:53.40 ID:CPlG3n340
曜「ふぅ……もう後には引けない、やるしかないんだ」


??バキンッ!!


曜「来るッ!! 覚悟を決めろ、渡辺曜!!!」ボッ!!
153 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/11/25(日) 01:53:45.12 ID:CPlG3n340
三カ月振りの投稿と遅くなりました…
本日よりまた再開しますので、どうかよろしくお願いします。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 05:36:22.92 ID:2WsJIHo90
楽しみにしてる、
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/30(金) 07:12:39.05 ID:krubLPNd0
おー、良かった
マイペースに続けてくれ
156 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 00:50:49.73 ID:OGx6MZSd0
鎖を引きちぎり一斉に襲いかかって来る人形兵

曜はトンファーに炎を灯し、迎撃態勢を取る。



曜「弱点とかはよく知らないけど、きっと胸元にある大きな石そうでしょ!! 如何にもって感じだし!!」


近づいて来た人形兵の胸元へカウンター気味にトンファーを叩き込む。



―――ガキンッ!!!!



金属同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。

ビリビリと反動がダイレクトに腕に響き、思わずトンファーを手放しそうになるが
何とか堪える。

しかし、石には傷一つ付かない。


曜「かっっったいな!!? これ弱点じゃ無いの!?」
157 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 00:53:36.97 ID:OGx6MZSd0
曜の予想は間違っていない。

胸元に埋まっている石はリングと同じ素材であり、人形兵の動力源となっている。
破壊すれば当然、機能停止となるが弱点をむき出しのまま放置するほど間抜けでは無い。

石の表面は耐炎性、耐衝撃が極めて高い"ナノコンポジットアーマー"という物質で覆われている。

曜の炎圧でどうこう出来るレベルを遥かに超えているのだ。


攻撃を受けた人形兵は仰け反りながらも機械仕掛けの右手を曜の顔へ向ける。

高密度に圧縮された嵐の炎がレーザーのように照射された。



曜「熱ッッ!!!?」ジュッ!!



咄嗟に首を大きく傾ける

耳の一部を焼き切られたが紙一重で直撃は免れた。
158 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:01:06.81 ID:OGx6MZSd0
曜「この威力……私の技じゃ防げ無いよねッ!」ギリッ


――私の匣や技だとあの石を破壊するのは無理かな。

五体もいるから一体くらいは一撃で倒せれば楽だったんだけど。

奥にいる人形兵は大鎌を持っていたり腕がチェーンソーになってたりしてる。

灯っている炎色を見る限り、嵐が三体、雨が一体
後は緑色が一体だ。

緑色は確か……雷属性だったけ?
炎の見た目も電気っぽいし多分そうかな。

炎の大きさも純度も私の炎とは比べ物にならないくらいに高い。

これだけの差だと"鎮静"でも相殺しきれない。

一撃でも喰らえばお終い。

だったら敵の攻撃は回避一択だね。

こっちの攻撃は比較的脆そうな部位に集中させる……



曜「――先ずは手足を潰そう。攻撃を封じられればそれでいい」
159 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:03:54.27 ID:OGx6MZSd0
二体の人形兵が嵐の炎を纏わせた大鎌で斬りかかってくる。

首筋、左胸、内腿

人体の急所を目掛けての連続攻撃。

曜は冷静に軌道を見極め、全て回避する


曜「――くらえ!!!!」


大鎌を振り切り、体勢を崩した人形兵の右肩にトンファーを叩き込む。



――グシャッ!!!



曜「んな!?」ゾッ



肉と骨がひしゃげる嫌な音と感触。

想定外の手応えに一瞬怯むが、攻撃のチャンスを逃す訳にはいかない。


腰、膝、その他関節部と比較的脆そうな部位へ連続攻撃する。

可動部を破壊された二体の人形兵は地面に倒れ込み動かなくなった。
160 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:16:09.07 ID:OGx6MZSd0
曜「残り三体!!!」


曜の耳を焼き切った人形兵が同様の攻撃を仕掛けようとしていた。

発射まで数秒前―――



曜「二度も当たるもんか!!!」ボッ!!



水の鎖が人形兵の右手に絡みつき、引っ張り上げる
発射口を無理矢理隣に居る人形兵に向けさせた。

発射寸前のタイミングだ
緊急停止は間に合わない。



――ゴッ!!!!!!



放たれたビームは人形兵の胸元を貫いた。

すぐさま接近し、この人形兵も無力化する。



曜「――残り一体だ!!」
161 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:20:08.59 ID:OGx6MZSd0
視線を残りの人形兵の方向へ向ける。


……ここまでの流れは曜が脳内でシミュレーションした物と全く同じだった。

想定では残った人形兵との距離は数メートル。

水の鎖で足下を崩し、その隙に接近してトンファーで手足の関節を砕く算段だ。


だが、物事というのは想定通りに進む事の方が極めて少ない。
ここまで上手く進んだのは奇跡に近い。

実際は想定とは異なり人形兵は既に目の前に迫っていた

チェーンソーに改造された右腕を高々と振り上げている。



曜「やっば……これ避けられ――!?」グラッ



振り下ろされるチェーンソー。

雷の炎により切れ味が数段向上したこれは人の頭蓋骨程度なら一瞬で削り取るだろう。

一か八か、後方に倒れ込むように回避する。
162 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:24:25.07 ID:OGx6MZSd0



―――ブシャッ!!!!



チェーンソーの刃は曜の右肩を少し抉った。
多少血は出たが支障は無い。

しかし、咄嗟の事とはいえ避け方が致命的だった。

仰向けに倒れ込んでしまった故、次の攻撃を避ける事が出来ない。


――トドメの一撃が曜の顔面に襲い掛かる。



曜「うぅッ!!!!?」ゾワッ



無意味なのは分かっているが両手のトンファーで防御する。

死を覚悟した曜は思わず両目をギュッと瞑った。
だが……


曜「………あ、あれ……?」


お、おかしい……攻撃が来ない…?
チェーンソーの音も止まったぞ??


恐る恐る目を見開くと……



人形兵「……ガ、オゴ……ガガ……」

曜「な、なん……攻撃を止めた……?」
163 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:27:30.49 ID:OGx6MZSd0
人形兵「……ガ、オゴ……ガガ……」

曜「な、なん……攻撃を止めた……?」

人形兵「 ガ……ゴ、 ゴ……ジ………」

曜「何……何か言っているの?」

人形兵「 ォ……ド……ゥザ ……ン ………」

曜「……?」

人形兵「………………」

曜「……動かなく、なった」



曜「……はは、あははははは!!!」

曜「やった!! やった勝った! 私は勝ったんだ!!!」

曜「あはははは、ははは……は、は」

曜「そうだ……私は勝ったんだ。なのに――」


なのに何だろう……すごく嫌な感じがする。

この感覚……"何か取り返しのつかない事"をしてしまった気が……
164 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:34:41.42 ID:OGx6MZSd0


――そもそもどうして私の実力で人形兵を倒せたの?

星空さんの仲間が倒せなかった敵だよ?

それを一度に五体も相手にしたにも関わらず
大きな怪我を負う事なく私は倒せてしまった。

――この人形兵がたまたま弱かった?

……そんなはずは無い。

仮にも国が作った兵器だよ。

大きな個体差があるとは考えられない。

――なら、実は私の実力は星空さんの仲間よりもあったって事?

……一番有り得ない。



曜「……考えるのは後でいいや。今は一刻も早く千歌ちゃんに追いつかなきゃだよね」





「――凄いな、この数の人形兵を倒せるとは思わなかった」





バッと声のする方向へ振り向く。

そこには日本刀を握り、白ワイシャツを返り血で真っ赤に染めた むつ の姿があった。
165 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:35:28.70 ID:OGx6MZSd0
今回はここまで
166 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 02:06:40.18 ID:OGx6MZSd0
前回の文章はダッシュ記号が文字化けしちゃって「??」になってましたね……確認不足でした
167 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:25:52.19 ID:EDQYlBtw0


曜「っ!? どうしてあなたが……っ!? 星空さんと戦っているはずじゃ―――」

むつ「どうしてだって? それは愚問だよ」



そう言うと彼女は曜に切断された人間の右手を見せつけてきた。

その右手の中指には晴のモーメントリングがはめてあった。



曜「星、空……さん……ッ」

むつ「本当は人形兵にするつもりだったんだけどね……あの人、自殺しちゃったからさ」

曜「――人形兵にするつもりだった?」

むつ「はい?」

曜「ちょっと待ってよ……人形兵(マリオネット)はロボットなんじゃ無いの!?」

むつ「ロボットだって? いやいや、人形兵はサイボーグだよ」

曜「だからロボットじゃ……」



むつ「――あ、まさか君……なるほどねぇ」ニタァ



曜「な、何だよ!!」
168 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:28:12.32 ID:EDQYlBtw0

むつ「そうかそうか、こいつは傑作だ! そりゃ敵の正体を知らなきゃ普通にブッ壊せるわな!! いやー無知って本当に怖いなぁ!!」ケラケラ

曜「無知って……何を言ってるのさ!?」


むつ「ふふふ、いい? サイボーグっていうのは身体器官の一部を人工物に置き換えた"改造人間"の事なんだよ。君の言っているのは完全に機械化された"人造人間"だ」

曜「だったら何だって……」

むつ「まだ分からないの? つまりお前が今壊したそれは"元"人間って事だよ! もっと言えば"元"星空リンの仲間だった人間だ」



曜「―――――………は?」ゾッ



むつ「ふふっ、その顔、星空リンも全く同じ様に青ざめていたよ」

むつ「そりゃ当然だよねぇ? 知らなかったとはいえ自分の仲間の頭をぶっ潰しちゃったんだもんなぁ」

曜「じゃ、じゃあ……星空さんの仲間が一方的にやられていたのは……」

むつ「変わり果てた姿だったとしても、仲間は殺せなかった。最も、私達もそれを見越してこの人形兵達を連れてきたんだけど」

むつ「まだ調整段階だったから十分な性能を引き出せていないけど、この町の反逆者供を抹殺するには丁度良かった」


曜「わ、私は……知らないうちに……ひ、人を……」ガタガタ

むつ「今更気にしてどうするの? そもそも"あれ"はもう人じゃ無い。壊しても人殺しにはならないよ」

曜「そ、そんなの詭弁だ!!」

むつ「何さ……気を使ったのに」
169 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:29:53.42 ID:EDQYlBtw0


曜「うるさい!! そもそもなんで……なんでこの町の人を襲った!!」

むつ「国の治安を脅かす勢力を排除するのが私達の役目。敵の態勢が整う前に叩くのは当然でしょう」

曜「この町の人々が全員そうだと言うの?」

むつ「いいや、排除したのはこちらが把握していた反逆者と人形兵に抵抗した者のみだよ。無関係の人間の命は奪っていない」


曜「何を言っているの……?」


むつ「ん?」

曜「無関係の人間は殺していない? 何人も殺したじゃないか!!」

むつ「何をデタラメを……人形兵にその様な命令は出していない」

曜「実際に殺されているんだよ!! あの姉妹だってまだ子どもだったのに……っ!!」

むつ「こ、子ども……だって……?」ゾワッ

むつ「そんなバカな……調整段階とはいえ人形兵への命令プログラムは完璧だったはず……」



曜の聞いて、むつ はほんの一瞬だけ動揺した様な気がした。

しかしすぐに澄ました顔に戻り、信じられないセリフを言い放った。






むつ「……そう、ならその子達は運が無かったのね。だから死んだ」





曜「―――……は?」
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