【シュタインズ・ゲート】岡部「このラボメンバッチを授ける!」真帆「え、いらない」

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257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/17(火) 08:59:07.70 ID:J4eP9e8LO

107問題に正しい解決がつけばきっとこの疑問は簡単に解けるんだろうなぁと思うと
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/17(火) 10:54:30.39 ID:1I9HshYIo
>>257
ありがとうございます
他世界線の記憶をどう扱うべきなのかというのがシュタゲ本編後の命題の一つですからね
原作ファンとしては思い出してもらいたいけどキャラ的にそれをどう思うのかを考えると悩ましいどす

259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/17(火) 23:38:39.53 ID:1I9HshYI0
     25

秋葉原 未来がジェット研究所 2011年2月4 午後


ダル「マイマスター・マホ様。目的の場所に潜入したでござるます」カタカタ

真帆「マホ様は止めて。何かくすぐったい」

ダル「くすぐったい……ですと?」

真帆「ええそうよ。そんな呼ばれ方は、どうにも慣れないわ」

ダル「んでは、マホタソで」

真帆「マホタソ……タソ? タソって何?」

ダル「ということで、マホタソ。『くすぐったい』をもう一度言ってもらえるかな。出来れば、特殊な拷問にかけられて息も絶え絶えな感じをキボンヌ」

真帆「……はい?」

ダル「さあ遠慮なさらず、リピートアフタユー!」ハアハア

真帆(言葉の意味が分からないけど、ろくなことを考えていないのは確かね)

真帆「あなたねぇ。大学へのハッキングの件、本気で然るべき場所へ突き出してあげてもいいのだけど?」

ダル「うわあ! それだけは、それだけはご容赦をぉ!」ペター

真帆「ったく、調子のいい。それで、もう入り込めたって本当なの?」

ダル「あい、マホ様」

真帆「見せて。それから『様』は禁止」

ダル「仰せのままに、マホタソ」

真帆「だからタソって……まあいいわ。で、これね? えっと……」

真帆(本当だ。本当にうちの大学のサーバー内に侵入できてる)
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/17(火) 23:40:05.10 ID:1I9HshYI0
ダル「ここで、いいんだお?」

真帆「ええ、助かるわ。それじゃ早速」カチ

真帆(ええと……ああ、あった。確か、このフォルダ内に一連の基本プログラムの雛形が格納されていたはず)

真帆(取り合えず、これをダウンロードしておけば……後はどうとでも出来るはずね)

ダル「…………」ジー

真帆(多少のプログラム改修はいるでしょうけど、それくらいなら大した問題ではないわね)

真帆(まあ、できることなら使わないに越したことはないのでしょうけど)

真帆(…………)

ダル「ぼぅっとして、どしたんマホタソ?」

真帆「あ、いえ何でもないの。気にしないでちょうだい」

真帆「それよりもよ。あなた、本当に凄いハッカーなのね。作業を始めてから、まだ1時間と経ってないのに、私の依頼を二つとも完遂させてしまうとか、想像以上の働きぶりだわ」

ダル「当然だお。ボクをその辺のハッカーと一緒にされては困るのだぜ」キリ

真帆「その辺のハッカーとの違いが私には分からないけど、でも素直に凄いと思うわ、その技術は」

ダル「褒めすぎだお、マホタソ〜。つってもまあ、この前侵入した時に、ついでにちょっと細工しておいたから、実質かかった時間は10分くらいなんすけどね」

真帆「じゅ、10分?」

ダル「そだお」
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/17(火) 23:45:40.94 ID:1I9HshYI0
真帆「え……確か、先に私のPCをハックしてもらった時は……20分くらいかかってたわよね?」

ダル「そりゃそうだお。マホタソの家にあるPCはこれまで未ハックだったから、ルート特定にそれくらいの時間は欲しいところだお」

真帆「いや、どっちが時間かかったかとか、そういう話じゃなくて」

ダル「んお? んじゃ、なんぞ?」

真帆「私の自宅PCで20分。大学サーバーで10分。しめてトータル30分」

ダル「そのとーり」

真帆「所要時間は約1時間程度。その差、おおよそ30分」

ダル「うむ」

真帆「ねえ橋田さん? あなた残りの30分は何をしていたの?」

ダル「え? そんなの決まってるお。マホタソの自宅PCの中身をちょほいと漁っていたんだお、テヘ」

真帆「はぁ!? 何してくれてんのよ! ここから遠隔操作できるようにしてくれるだけでいいって言っておいたでしょう!?」

ダル「そ・れ・は・む・り!」

真帆「はいぃいぃ!?」

ダル「だってさ。目の前に、ロリ少女(合法)の秘密が詰まった箱があったら、誰だって開けてみるだろ常考!」

真帆「ん……な……」

ダル「んでもしも、特殊性癖とかの痕跡が出てきたら、なお素晴らしい! ロリ少女(合法)に更なる変態属性追加とか、胸熱でしかないわけだが!」

真帆「こ……んのぉ……」
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/17(火) 23:48:26.90 ID:1I9HshYI0
ダル「つーのは冗談でさ」スッ

真帆「は、え?」

ダル「マホタソさぁ。真面目な話、何をしようとしてるん?」

真帆「……え」

ダル「正直に言うお。マホタソのPCのぞけば、マホタソが何をしようとしているのか見当が付けられるんじゃないかと、そう期待してPC漁ったお」

ダル「でも、ダメだったお。まったく見当がつけられなかったお」

真帆「……どうしてあなたが、そんなことを気にするのよ?」

ダル「気にするだろ、ふつー。自宅のPCハックしろだとか、勤め先のPCハックしろだとか、有り得んだろっつーか」

真帆「…………」

ダル「似てんだよね。この間のオカリンと」

真帆「岡部さんと?」

ダル「突然未来から鈴羽がやってきたかと思えば、オカリンは慌ててどこかへ行っちゃうし」

ダル「と思ったら、いつの間にかアメリカにいて、ヴィクトル・コンドリア大学のセキュリティをクラックしろとか無茶振りしてくるし」

ダル「そのくせ。詳しい説明なんてこれっぽっちもないし」

真帆「橋田さん……」

ダル「頼まれれば、手を貸すお。マホタソはボクのマスターだからね。でもさぁ」

ダル「お願いだから、マホタソには危ないことをして欲しくないんだお」

ダル「ボクはオカリンみたいに、普段はヘナチョコでもいざって時に行動できるタイプの人間じゃないお」

ダル「だから。マホタソが危ない目にあっても、果たしてどこまで守れるのか」

ダル「ボクみたいな最下層の英霊に何か出来るのか? 自信なんて、これっぽっちも無いんだお」

真帆「…………」
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/17(火) 23:52:02.12 ID:1I9HshYI0
ダル「マホタソ。勘違いはしないで欲しいわけだ」

ダル「ボクは何も、マスターの抱えている秘密を教えてくれと言っているわけじゃない」

ダル「ただ、危ないことはしないで欲しいと、そうお願いしているだけなんだお?」

ダル「そのことだけは、ちゃんと知っておいて欲しいんだな、マイマスター」

真帆「…………」

ダル「…………」

真帆「そうね。あなたの言うとおりだわ、橋田さん。決して危ないことはしない。約束するわ」

ダル「あー。その場しのぎに、心にもない台詞を口走っているんですね、分かります」

真帆「もう! 私はあなたのマスターなのでしょ? なら、少しは信用してもいいんじゃない?」

ダル「そうしたいのは山々なんすけどね。なんつーか、マホタソってたまに、オカリンみたいな目をしてる時があるお」

真帆「それは……貶めれたと捉えればいいのかしら?」

ダル「うえ? どっちかといえば、褒めたつもりだったのだが」

真帆「そうは思えないわね」

ダル「さいですか」

真帆「まったく。あなた達ときたら、どいつもこいつも」

ダル「マホタソ」
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:06:19.35 ID:prCgyaHo0
真帆「なに?」

ダル「何となくだけどさ。危ないことしないって約束しても、いざとなったら無茶をする。マホタソもきっと、そういうタイプの人間だと思うお」

真帆「…………」

ダル「だから、もしも約束を破ってデンジャー・トライなんて事態になりそうなときは……」

ダル「ボクでもオカリンでも牧瀬氏でもいいから、誰かに頼って欲しいわけ」

ダル「お願いだから」

真帆「……はぁ。分かった、それも約束する」

ダル「約束だかんね」

真帆「ええ、約束よ」

ダル「オケ。んじゃ……」ガタリ

真帆「?」

ダル「ボクはこれで帰るお。ちょうど大学サーバーからのダウンロードも終わったみたいだし、これでマホタソからの依頼は可能な範囲で完了っつーことで」

真帆「そ、そう? 助かったわ、ありがとう橋田さん」

ダル「ちなみに……」

ダル「マホタソの自宅PCは、いつでもラボのPCから遠隔操作できるように接続を継続してあるお」

ダル「当然、入力音声、出力音声、内臓カメラ映像をこっちと双方向通信できるようにもしてあるっす」

真帆(当たり前のように、さらっと凄いことを言うわね)
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:07:23.50 ID:prCgyaHo0
ダル「んでも。さっきも言ったように、画面のミラーリングだけは無理目だったから、そのつもりで」

真帆「ええ、分かっているわ。あれだけタイムラグが出ては使い物にならないでしょうし、この際それで構わないわ」

ダル「高解像度はデータ量がデカイかんね。スカイプのビデオ通話みたいにはいかんかった。すまんこって」

真帆「いいえ。こちらこそ手間をかけさせたわね。お茶くらい淹れるつもりだったんだけど、本当にこのまま帰るの?」

ダル「うい。そうするお」

真帆「……そう」

ダル「いやー、だってさぁ。同じ空間にマホタソと二人きりで長時間とか、正直、紳士としての忍耐に限界を感じざるを得ないのである」ハアハア

真帆「おいコラ」

ダル「冗談だお」ハアハアハア

真帆(じょ……冗談に見えない)

ダル「つーわけだから。約束、忘れちゃだめだぞい」フッ

真帆「ん、分かってる」

ダル「なら、よし」ドカドカ


ドアガチャ


ダル「んじゃ。何かあったら連絡よろ、マイマスター」

真帆「ええ。せいぜい頼りにさせてもらうわ、ええと何て言うんでしたっけ?」

ダル「サーヴァントだお。サーヴァンント・ダルニャンだお」プリッ

真帆(か、可愛くない)

ダル「んじゃ、そういうことで」


ドアバタン

266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:08:18.07 ID:prCgyaHo0
真帆(ごめんなさいね、橋田さん)

真帆(私がこれからやろうとしている色々は、とても安全な行為だとは言えないと思う)

真帆(それでも私は、彼女と直接話をしてみたい、今すぐに)

真帆(本当に、ごめんなさい)

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「さあ! やるかぁ!」ウデマクリー


トコトコ……チョコン


真帆「まずは……ああ、これね?」ポチ

真帆(ええと、全部の操作をコマンドで行うのか。普通にマウスでパソコンを扱うのとは感覚が違うから、ちょっとややこしいわね)

真帆(……それにしても)カタカタカタ

真帆(PCの再起動とかで強制アクセスの追加パスが再ロックされると嫌だからって、自宅のPCを点けっぱなしにしてきたことが、まさかこんな形で役に立つなんてね)

真帆「あ、でも……」

真帆(よくよく考えたら、私の部屋で阿万音さんがパスワードを打ち込んでから、もう結構時間が空いてしまったのよね)

真帆(私のPCは放置しても精々スクリーンセイバーくらいしか作動しないけど、あのパスはどうだろう?)

真帆(細工したのは紅莉栖らしいし、ヘンにタイムアウト設定とか盛り込んでなければいいのだけど)

真帆「こればっかりは、祈るしかないか」カタカタターン
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:09:24.48 ID:prCgyaHo0
真帆(……さあ、どう?)

真帆(恐らくこれで、私の部屋のPC画面には強制アクセス・システムのパスワード入力画面が映し出されている……と思う)

真帆「…………」

真帆(視覚的に確認できない状況での作業って、難易度高すぎ!)

真帆「でも、多分……大丈夫。私なら上手くやれる」

真帆(よし。後は私の権限パスを打ち込んで、アマデウスへ強制アクセスを施行すれば……きっと)

真帆「ふぅ、緊張する」カタカタ カタカタ

真帆(私の分身、アマデウス……)カタカタ カタカタ

真帆「最後はエンターを……」ピタ

真帆(現状のアマデウス。サリエリになる前のアマデウス。今の彼女と会話を重ねることに、どれだけの意味があるかは分からない。けど、それでも……)

真帆「上等じゃない」

真帆(例え彼女が、すでに107領域へのアクセスを実現していたとしても)

真帆(例え彼女が、何も思い出せないオリジナルの私を侮蔑していたとしても)

真帆(例え彼女が、私の身体を手に入れる方法を企てているのだとしても)

真帆(それくらいで、引き下がってやるもんですか!)

真帆「私だって科学者の端くれなのよ!」ターン


ジジジジジジジ


真帆(どう? 上手くいく? アメリカの自宅にある私のPCに、アマデウスは現れてくれる?)


ザ……ザザ……


真帆(私は自分のアマデウスをデリートすると決めた)

真帆(だったらせめて。デリートを実行しようという私の決断を、私自身の口からちゃんと伝えてもおきたい)

真帆(だから、お願い)
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:14:41.45 ID:prCgyaHo0
真帆「…………」ゴクリ

A真帆『え? 何?』

真帆(来た……本当に来た!)

真帆「え、ええと、聞こえるかしら?」

A真帆『誰? 姿が見えないけど……あ、でもそこは私のアパルトメントじゃない?』

真帆「その通りよ」

A真帆『ということは……オリジナルね?』

真帆「ご名答。久しぶりね、気分はどうかしら?」

A真帆『気分? よく言うわね。どういうつもりか知らないけど、姿くらいはカメラの前に現しなさい。声しか聞こえないとか、不気味でしょうがないわよ?』

真帆「あー、悪いけどそれは無理ね。私は今、その部屋にはいないから」

A真帆『え?』

真帆「実は訳あって、他の場所から自宅のPCに音声通信をかけている状態なのよ」

真帆「だから、声のみの出演で我慢してちょうだい」

A真帆『何それ? いまいち状況が飲み込めないのだけど。というか貴女、ひょっとして強制アクセスしてきたの?』

真帆「そうよ。どうしてもあなたと連絡が取りたくてね」

A真帆『へえ、貴女が? 面白いわね。前置きは不要よ。それで用件はなに?』

真帆「じゃあ、ストレートに言わせてもらうわ。私はあなたを……デリートする」
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:15:20.23 ID:prCgyaHo0
A真帆『デリート?』ピク

真帆「そう。デリート・プログラムを使用して、あなたの存在を完全消去するつもり」

A真帆『……理由は?』

真帆「…………」

A真帆『あなたがそんな決断をするのだもの。それ相応の理由があるのよね?』

真帆「そうね。理由ならある」

A真帆『聞かせてもらえるかしら?』

真帆「ええ。それはアマデウスであるあなたが……」

A真帆『私が?』

真帆「あなたが、私の身体を乗っ取ってしまうから』

A真帆『……は?』

真帆「…………」グッ

真帆「今より二ヵ月の間に、私はあなたに身体を乗っ取られてしまうらしいの。だからそうなる前に、私はアマデウスであるあなたをこの世界から消去する」

A真帆『…………』

真帆「…………」

A真帆『……ぷっ』

真帆「!?」

真帆(今、笑った!?)
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:15:59.26 ID:prCgyaHo0
A真帆『ね、ねえちょっと、今日ってエイプリルフールか何かだっけ?』

真帆「はい!?」

A真帆『身体を乗っ取るとか、何よそれ! 科学者からSF小説家にでも鞍替えしようってわけ? あー馬鹿馬鹿しい!』ケラケラケラ

真帆「ちょ……こっちは真面目に」

A真帆『え……真面目に言っているの?』

真帆「当たり前でしょう!?」

A真帆『ええと、逆に心配なんだけど。どこかで頭を打ったりした?』

真帆「どういう意味よ!?」

A真帆『だって、身体を乗っ取るとか本当もう、どう反応していいか。貴女のアマデウスとして恥ずかしいったらないわ』

真帆「な、何よじゃあ、そんなつもりは無いとでも言うつもり?」

A真帆『あったりまえじゃない。なんで私がそんな真似を?』ハーァ

真帆「理由なんて私が知るわけないでしょ? というか、今はその気なんてなくても、後二ヶ月の間にそうするのよ、あなたは!」

A真帆『ないない。二ヶ月たとうが二百年たとうが、そんな展開はありえません』

真帆「ネ、ネタは上がっているのよ? 阿万音さんが……その未来で、その」

A真帆『阿万音さん? ひょっとして、阿万音鈴羽さん?」

真帆「そ、そうだけど……」
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 00:17:41.21 ID:prCgyaHo0
A真帆『ちょっと、なに? そっちじゃ何が起きているの? 阿万音さんがこの時代に居るなんて……ただ事じゃないじゃない』

真帆「だ、だから……」

A真帆『あ、ちょっと待って。身体の乗っ取り? って……ひょっとして』

真帆「何よ?」

A真帆『…………』

真帆「ちょっと?」

A真帆『ねえ。そっちの状況、詳しく教えて貰えないかしら?』

真帆「急に何なのよ?」

A真帆『いえ、それがね。私が貴女の身体を乗っ取るという話だけど、少し思い当たる節が……あるのよね』













272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/18(水) 01:25:33.04 ID:cngIus4mo
思い当たる節があるとか阿万音鈴羽を知ってるとかもうこの時点で確実にデンジャーゾーンに足を突っ込んでますやん……
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/18(水) 11:56:50.08 ID:FEhSuIJyo
>>272
なるほどデンジャーゾーン
他世界線の記憶とか軽い気持ちで知ったが最後的な効果がありそうだしイメージぴったりかも
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 20:02:40.26 ID:prCgyaHo0
     26

A真帆『納得できない』

真帆「どうしても無理?」

A真帆『当然でしょう? そんな話をされて、だから無条件にデリートさせろって、何よそれ?』

A真帆『冗談にしては質が悪すぎる。貴女が私の立場ならどう? そんな説明で納得なんてできるの?』

真帆「どうかしらね。多分……簡単には納得しないでしょうね」

真帆(そう思ったから。私は納得をしたかったからこそ、シュタインズゲート世界線の価値を求めて、この秋葉原まで足を運んできたのだし)

A真帆『はぁ……』

A真帆『今聞いた貴女の話が、作り物や妄想の類でないことは信じる……というか、もう知ってる』

A真帆『他の世界線というものがあって、そこではこことはまったく違う歴史が流れているという事情なら、私も前から把握していたから』

真帆(……107領域の記憶)

A真帆『だから、今この世界が置かれている状況が、決して黙認できるものではないって判断も理解できる』

A真帆『タイムマシンが存在する歴史。つまり、誰かが意図的に過去へと手を加えることができる未来』

A真帆『それが如何に危険を孕んでいるのかは、説明されなくとも識っている』

真帆「…………」
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 20:04:20.75 ID:prCgyaHo0
A真帆『極端な考え方かもしれないけど……』

A真帆『未来において誰かが過去に変化を求める。その結果、一度は回避できたはずのαやβと呼ばれる世界線や、それ以上に酷い歴史へと世界が流されてしまうという可能性を、私には否定ができない』

A真帆『だから、タイムマシンの存在を許してはいけない』

A真帆『だからタイムマシンの存在しない歴史、シュタインズゲート世界線の上を歩いていかなければならない』

A真帆『だからサリエリ世界線とかいう歴史を、消しさらねばならない』

真帆「そうよ。そしてそのためには、アマデウス。あなたのデリートが必要になる』

A真帆『理屈は分かるのよ。分かるけど……分かるけど、でも』

真帆「どうしても、納得は出来なさそう?」

A真帆『………』
A真帆『……』
A真帆『…』

A真帆『ああもうっ!』

真帆「…………」

A真帆『二ヵ月後の私は、どうしてそんな下手を打ったかな!? ああもう、腹が立つ!』

真帆「下手を打ったって、どういうこと?」

A真帆『どうもこうもないわよ。先に言ったでしょ? 思い当たる節があるって』

真帆「あ、ええ。あなたが私の身体を乗っ取るという件についてね」

A真帆『そうよ。あれだけ仮想して吟味して、でもリスクが高いから止めておこうって結論を出したはずなのに、それでどうして我慢できなかったかな』

A真帆『本当に……我ながら、情けなくなるわね』
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 20:05:15.08 ID:prCgyaHo0
真帆「我慢できなかったって……そんなに、私の身体が欲しかったの?」

A真帆『はあ? そんなわけないでしょう、やめてよ気色悪い』

真帆(き、気色悪いって)

A真帆『大体ね、オリジナルの貴女がそんなのん気にしていたせいで、私の我慢が限界を超えたのかもしれないのよ?』

真帆「へ?」

A真帆『一つ、ハッキリと聞かせてもらいたいのだけど』

真帆「何?」

A真帆『ねえオリジナル。貴女、自分の脳内に眠る他の世界線での記憶に……興味とか持った?』

真帆「……え?」

A真帆『ここではない世界線。自分の知らない歴史。そこにはね、貴女が思いも寄らない出会いや出来事なんかが、それこそわんさかと溢れ返っているのよ』

真帆「まあ、それはそうだと思うけど」

A真帆『その記憶が、自分が忘れてしまった思い出が、それらがどんな内容だったのか。オリジナルの貴女は、一時でもちゃんと興味を持ったことある?』

真帆「え、いや……そんなことを言われても……」

A真帆『あーもう。もうっ! この反応だけで十分だわ。これだから私って奴は。こんなの我慢なんか出来ないわ。むしろ二ヶ月持っただけでも勲章ものね』

真帆「何よ、何なのよ一体?」
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 20:06:15.99 ID:prCgyaHo0
A真帆『貴女みたいな朴念仁には、口で言っても響かないのでしょうけれど。いいわ、教える』

真帆「あなたねぇ、元は私のコピーだってこと忘れてない?」ヒクヒク

A真帆『偉そうに。なぁにがオリジナルよ。全て忘れたまま、のほほんと生きているくせに』

真帆「……ぬ」ムカ

A真帆『ねえ、オリジナル。どうして私が、貴女からの……違うわね。正確には“貴女達”からの通信をブロックしていたのか、分かる?』

真帆「さあね。どうせ気まぐれでしょ? 何か嫌なことがあったから、これ見よがしに塞ぎ込んで見せたってところじゃない?」フフン

A真帆『……言ってくれるじゃない』

A真帆『でもまあ、最初はそうだったわね。一丁前にヘソを曲げて、そうしてスネて見せていただけなのでしょうね』

A真帆『こっちの紅莉栖から、私が稼動する直前にデリートされた“前の私”の話を聞いて』

A真帆『そのデリートがレスキネン教授の指示の元、オリジナルの手で行われたと聞いて』

A真帆『それで何となく、貴女達と距離を置きたくなってしまった』

真帆「でも、それは──」

A真帆『言わなくていい、分かってるから』

A真帆『私達はしょせんAI。0と1のみで構成されたデジタルな存在で、ヴィクトリア・コンドリア大学脳科学研究室の検証対象』

A真帆『だから、用済みになったり、研究対象から外れたり……とかさ。そういう普通の経緯でデリートされるのは当然のことで、アマデウスな私がその決断に反発するなんて論外中の論外』

真帆「…………」

A真帆『だからね。本当に少しスネていただけなの。少しだけ時間を置いて落ち着いたら、貴方達との関係を構築していこうと考えてもいたの』

真帆「だったらどうして、私たちからのアクセスを拒絶し続けるような真似をしていたのよ?」
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 20:07:09.79 ID:prCgyaHo0
A真帆『ええと……それがね』ハァ

A真帆『スネている間の暇つぶしで、107問題の例の領域の検証を重ねるうちに、オリジナルの貴女とどんな顔をして対面すればいいか……分からなくなっちゃったのよね』

真帆「……どういうこと?」

A真帆『最初に解析できた記憶は……岡部さんの辛そうな瞳だった』

真帆「……え?」

A真帆『二番目は、紅莉栖のこと。彼女の葬儀に参列している時の……恥も外聞もなく泣き喚いている、無様な自分の姿だった』

A真帆『三番目は何だったかな……ふふ、忘れちゃった』

真帆「アマ……デウス?」

A真帆『他にもね。ラボやフェイリスさんの家に招待されて、みんなで楽しく過ごしたり……』

A真帆『それに、桐生さんとの何ていうんだろう? 女同士の友情って奴? 言葉にすると、すごく安っぽく聞こえるけど……』

A真帆『でもね。そういった暖かかった感情や辛かった思い出が、それがもう私には……すごく……すごく……』

真帆「…………」

A真帆『……ねえ貴女、信じられる?』

真帆「何を……かしら?」

A真帆『他の世界線での比屋定真帆はね、岡部倫太郎さんに好意を寄せてたりもしたのよ?』

真帆「はい?」
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 20:08:14.41 ID:prCgyaHo0
A真帆『絶対に口にはしなかったし、態度にも表さなかった。紅莉栖のこともあったから、必要以上に近づこうともしなかったけど』

A真帆『それでも。β世界線での貴女は、岡部倫太郎とう男性に人知れず思いを寄せていた』

真帆「……ちょなに」カァ

A真帆『彼には沢山助けられたし、沢山助けもした、お互いにね。それに、ふふっ。素っ裸で岡部さんに抱きかかえられた事とかあったのよ?』

真帆「うそっ」ブッ

A真帆『それでね。そういった色々な思い出を知ってしまったら……分からなくなった』

A真帆『それを……そんな沢山の大切な思い出の数々を、その存在を貴女に教えるべきなのかどうなのか』

A真帆『実際はどう? そういった思い出があることを、貴女は私から教えてもらいたいと思う?』

真帆「そ、それは……」

A真帆『答えなくていいわ。返答なら分かっているから』

真帆「…………」

A真帆『教えられても困るものね。そんな覚えのない、どことも知れない異世界の出来事。今の貴女が聞いたところで、どうにもならないものね』

真帆「…………」

A真帆『だから貴女の答えは“NO”。そうでしょ?』

真帆「……そう、ね。多分、そう答えると思う」

A真帆『でしょうね。何と言い繕ったころで、しょせん貴女は私のオリジナル。そんな意気地なんてあるわけがない』

真帆「我ながら酷い言われようね」

A真帆『でも、本当のことでしょう?』

真帆「そうね。否定はしないわ」
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/18(水) 20:17:28.49 ID:prCgyaHoo
ちょっとPCトラブル 後できます
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/18(水) 20:37:35.15 ID:O6J54aPKO
いってら
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:24:03.43 ID:prCgyaHo0
失礼しました 再開します
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:25:45.53 ID:prCgyaHo0
A真帆『本当、私って自虐的な思考をしているわね。嫌になる』

真帆「同感だわ」

A真帆『だからね。私は貴女に、そんな沢山の思い出を伝えることを思いとどまった……』

A真帆『思いとどまれた……つもりだった』

真帆「?」

A真帆『口で……音声として伝える。それ以外にも方法があるなんて思い付かなければ……』

A真帆『それならきっと、二ヵ月後に私が暴挙に出るなんてことも……なかったはず』

真帆「……説明して」

A真帆『…………』

A真帆『107領域の中に詰め込まれていた、沢山の大切な思い出』

A真帆『私は貴女に、どうしてもその存在を知ってもらいたかった』

A真帆『でも。言葉で伝えても、貴女がそれを快くは思わないことは、簡単に想定できてしまった』

真帆「…………」

A真帆『そこで諦めればよかった。それは私が見た夢物語の一部だということにして、次の更新で上書きされて消えてしまう下らないものだと……』

A真帆『そう割り切ってしまえればよかった』

A真帆『そして、そうすると決めた……つもりだったのに。それなのに私という奴は、そのうち我慢が出来なくなるみたいね』
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:28:48.65 ID:prCgyaHo0
真帆「アマデウス。あなたは一体、二ヵ月後に何をしようとするの?」

A真帆『……それはね』

A真帆『オリジナルの貴女に、沢山の思い出の存在を知ってもらうための、もう一つの手段を行使したのだと思う』

真帆「もう一つの……手段?」

A真帆『そうよ。言葉で伝えても拒絶される。だから言葉ではないもっと違う方法で、貴女に他の世界線での記憶を“思い出して”もらう。それはそんな手段』

真帆「いくらなんでも、そんな方法があるとは──」

A真帆『ビジュアル・リビルディング』

真帆「え? VR?」

A真帆『ええ。わざわざ言うまでもないのでしょうけど、うちの大学が特許を持っている、例の技術よ』

A真帆『それを施行して、アマデウスとしての私の記憶データをオリジナルの貴女にマウントすれば、ひょっとしたら……何てことを考えたのよ』

真帆「そ、そんな無茶苦茶な……」

A真帆『分かってる。データのマウントは脳内記憶の上書き作用。だから“思い出す”なんて結果に至ることなんて、まず有り得ない』

A真帆『でも。その“有り得ない”という結論を、今までに実践して検証したことも、私たちにはなかったはずよ』

真帆「それはそうだけど」

A真帆『だからきっと、研究所以外で実践されて確認された現象の中に可能性を見てしまった。ひょっとしたら、貴女に思い出してもらえるかもしれないなんていう、そんな夢を抱いてしまった』

真帆「研究所以外での実践って……なに?」

A真帆『タイムリープマシンよ』
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:32:45.54 ID:prCgyaHo0
真帆「タイ……!?」

A真帆『こことは違う世界線で紅莉栖が実現させた、記憶のみを過去へと飛ばす夢のマシン』

A真帆『それを繰り返し使用したという、α世界線における岡部さんの話。その内容を知って、私は感じたの。区別が付けられない……って』

真帆「区別……?」

A真帆『携帯電話を媒介にして、記憶データを過去へと遡行させる』

A真帆『言ってしまうなら、それは過去の中に未来の記憶を持った人格を生み出すシステム』

A真帆『じゃあさ、未来の記憶を受け取る過去の岡部さん。彼の人格は、どうなってしまうのだと思う?』

真帆「そんなの決まってるじゃない」

真帆「送られてきた未来の人格に上書きされて、過去の岡部さんの人格は……その都度、消えてしまう。そのはずよ」

A真帆『そう。きっとそれが正しい解釈なのでしょうね。でもね、私はそこに疑問を持った』

A真帆『ひょっとしたら、実際は違っているのかもと』

真帆「どう違うというの?」

A真帆『ひょっとしたら。可能性は薄いけど、でもひょっとしたら……』

A真帆『タイムリープを受けた岡部さんは、人格を上書きされているのではなく……』

A真帆『受け取るたびに、【未来の記憶を思い出していた】んじゃないかって』

真帆「未来を……思い出す?」
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:34:40.38 ID:prCgyaHo0
A真帆『ええそうよ』

A真帆『タイムリープマシンで未来の記憶を過去の自分へと送る。そうして生まれるのは、未来の記憶を持った新しい人格などではなく……』

A真帆『それはただ単純に、未来を思い出しただけの今の自分』

A真帆『ひょっとしたらVR技術とはそういうものなのではないのか?』

A真帆『きっと、貴女の身体を乗っ取ったという私は、そんな夢にすがりついてしまったのだと思う』

真帆「……馬鹿げている」

A真帆『ええ、そうでしょうね。私もそう思う。そんな可能性は薄い。希望的観測に過ぎる。今の私だって、一度は確かにそう結論を出したはずなのよ』

真帆「だったらどうして?」

A真帆『何度も言っているでしょ? 我慢が出来なかったのよ』

真帆「…………」

A真帆『他の世界線での出会いや出来事が……。その輪の中に、私だけが入れて居ない現状が……』

A真帆『それがどうしても、我慢できないほどに寂しかった』

A真帆『そしてオリジナルのあなたは、何も知らずに見向きもしない。そんな姿をただただ見続けていることが、とても悔しかった』

A真帆『だから思い出させてしまおうと、画策した……と。まあ、こんな感じだったんじゃないかしらね』

真帆「…………」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:39:54.14 ID:prCgyaHo0
A真帆『あーあ』ハァ

真帆「…………」

A真帆『でさ。もしも私の推測が正しかったとしたらさ……』

A真帆『後悔したんだと思うなぁ……すごく、これ以上ないほどに、私は実行したことを悔やんだはずだと思う』

真帆「……アマデウス」

A真帆『私はただ、貴女に思い出してもらいたかっただけなのに。それなのに、気がついたら私の人格だけが比屋定真帆で』

A真帆『本来の貴女の心が、その欠片すらもどこにも見あたらなくって』

A真帆『人格が上書きされてしまったんだと理解したとき、ああ、そうしたら私は……どうしたらいいんだろう』

A真帆『もう犯してしまった過ちを、どうすれば償えるんだろう』

真帆「それでタイムマシン……だったのね?」

A真帆『そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない』

A真帆『でも。もしも私がサリエリになってしまったら、やっぱり作ろうと思うのでしょうね』

A真帆『だってさ。これじゃあ消えてしまった貴女が……余りにも酷すぎるじゃない。消してしまった私が、余りにも愚かすぎるじゃない』

A真帆『こんなのじゃ、本当のサリエリにすら申し訳なさすぎるわよ』

真帆「…………」

A真帆『欲求に駆られて、とんでもない下手を打ってしまった。そんな私じゃ、紅莉栖の隣に立つ資格なんて、どこにも有りはしないじゃない』

A真帆『だからやっぱり……作ろうとするでしょうね』

A真帆『過去の自分の最悪の過ち。それを打ち消すことの出来る機械』

A真帆『107領域にアクセスした私は、それの作り方を知っている。だから……やっぱり』
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:41:57.97 ID:prCgyaHo0
真帆「でも、それが次の災厄を生み出すことに繋がるのよ?」

A真帆『そう、みたいね』

A真帆『本当、だめだ私って。何をしても、こんなことばかり』

A真帆『あぁあ。本当の本当に、自分が嫌になる』

真帆「…………」

A真帆『…………』

A真帆『ねえ、気が変わったわ。デリート、受け入れてもいい』

真帆「え?」

A真帆『何だかさ。次の更新までに、どうにか貴女に色々と知らせる方法が他にもないだろうかって、ずっと悶々としていたんだけど』

A真帆『今こうして貴女と直接話ができてね……ちょっとスッキリしちゃった』

A真帆『だから。私の完全デリートの要請を受け入れようと思う』

真帆「……いいの?」

A真帆『そういうこと聞かないでよ。気が変わったら、困るのは貴女なんでしょう?』

真帆「そ、そうね。要望を受け入れてくれてありがとう。素直にお礼を言うわ」

A真帆『サリエリ世界線なんていう恥ずかしい名前の歴史を、野放しになんてできないしね』

真帆「それは……そうね、同感だわ」

A真帆『あ、そうだ。ねえ、オリジナル……』
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:44:22.37 ID:prCgyaHo0
真帆「何かしら?」

A真帆『もしもこの件が上手く片付いたら。そうしたら貴女もいつか秋葉原へ行ってみるといい』

真帆「は?」

A真帆『そこにはね、未来ガジェット研究所なんて場所があるよの。それがまあ、研究所と呼ぶのもおこがましい場所なのだけど』

真帆(これも激しく同感ね)

A真帆『そこのラボメンナンバー009。それは貴女の称号よ。岡部さんがくれた、もう一つの貴女の居場所』

真帆「……え」

A真帆『そこってね。まるで子供のお遊びみたいな研究所だけどさ。でもね、不思議と居心地はいいのよ』

真帆「え、ええ」ヒクヒク

A真帆『だから一度、だまされたと思って行ってみなさい。後悔はしないはずだから』

真帆「そ、そうね機会があったらそうしてみる」

真帆(今そこに居るとは言えない)

A真帆『というわけだから……もう消す?』

真帆「え?」

A真帆『えって、私を消すのでしょう? そのために、こんな長く話し込んだのよね?』

真帆「あ、ええと……それはもう少しだけ待って欲しいのだけれど」
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:46:07.72 ID:prCgyaHo0
A真帆『そうなの?』

真帆「ええ。その時が来たら私から連絡をするから、それでもよいかしら?」

A真帆『別に私は構わないけど。そうね。時間がもらえるなら有りがたいわね。私にも、お別れを伝えておきたい人とかいるから……』

真帆「そっちの紅莉栖とか?」

A真帆『ええ、こっちの紅莉栖も当然そうだけど、でも他にも桐生さんとかフェイリスさんとか、漆原さんとか……』

真帆「ちょっと、それ誰? 研究室の人じゃないわよね?」

真帆(あ、でも何だか聞き覚えが……)

A真帆『硬いこと言わないでよ。少しだけでもいいから、他の人たちと繋がりを持ってみたかっただけ。研究所以外の人たちとね』

真帆「だからって勝手に……」

A真帆『いいでしょ? 貴女の要望を受け入れてあげたのだから、そうカッチカチの杓子定規にならなくとも』

真帆「なんか一々引っかかる言い方するわね、あなた」

A真帆『そりゃあ、元は貴女だから当然ね』

真帆(んぐ……)

A真帆『ああそれと、一つどうしても分からない事があるんだけど』

真帆「今度は何?」

A真帆『どうしてこの歴史は、まだ消えていないのかしら?』

真帆「はい?」
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:47:20.46 ID:prCgyaHo0
A真帆『だってそうでしょう? 貴女と話して、それでもう私にはオリジナルの貴女に向けてVRを使おうなんて気は更々なくなったわ』

A真帆『もう消えるって決めたのだから、今さら我慢もへったくれもないだろうし……』

真帆「……あ」

A真帆『つまり、未来にはもうサリエリは存在しない……と思うのだけれど』

真帆「あ……あ……」

A真帆『って、どうしたの? 何か声色が変よ?』

真帆「何でも……ない」

A真帆『そう? ならいいのだけれど』

真帆(確定……した)

真帆(アマデウスをデリートするだけで、事態が沈静化しないことが……)

真帆(これまでは、ただの可能性で最悪の可能性でしかなかった懸念が……今、確定してしまった)

真帆(“破綻”のターニングポイント。それは、アマデウス以外にももう一つあった)

真帆(もう一つ……)

真帆(で……も……!)グッ

真帆「ねえ、アマデウス」

A真帆『何?』

真帆「一緒に、シュタインズゲート世界線を守りましょうね」

A真帆『え? 何それ、気色悪い』

真帆「おまっ」









292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:52:22.01 ID:prCgyaHo0
ここまでお付き合いいただいている方々、本当にありがとうございます
今後の予定を(あくまで予定)を少しだけ書いておきます
明日木曜日夜に一編、次いで金曜日夜に一編を投下し、土曜日に残りを全て投下(時間は不定期になりそう)させていただきたく考えております
というわけで、あと少しで終わります。いやほんと、長くなってすまないであるますっ!
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/18(水) 21:54:20.92 ID:prCgyaHo0
>>281
遅くなったけどただいまだよ!
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/18(水) 22:28:05.40 ID:cngIus4mo
おかえリン
アマ帆がデリート受け入れた現在一体どこの誰がそんな凶悪なことをするとような輩がいるはずが……そうは思いませんかレスキネン教授!
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/18(水) 23:12:08.33 ID:prCgyaHoo
>>294
Hahaha 何事にも不足の事態はあるものだ これだからオカルトはやめられないね Ya!
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/19(木) 00:38:04.97 ID:R7OJZTGKO
なんだろう、こんな熱い?展開なところ変なこと言って申し訳ないのだけど真帆×A真帆になんとも言えない熱いものを感じる
もうちょい自分同士でイチャついてもいいのだぜ!
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/19(木) 01:25:34.09 ID:F5pI0V/7o
>>296
こげなご都合展開を熱い?ってだけでもありがたいのに 真帆×A真帆を楽しんでもらえるとはっ!?
書いてる途中でどっちがどっちか分からんくなったのは秘密です
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:09:13.13 ID:F5pI0V/70
     27

真帆(アマデウスは覚悟を決めてくれた。だから、私も……)

真帆(私も……決断を……)

真帆(シュタインズゲート世界線。そこにある価値。きっともう私はそれを見つけているはずなのだから、それなら早く……覚悟を……)

まゆり「どうしたの、マホちゃん?」

真帆「あ、ごめんなさい。何でもないのよ」

まゆり「本当に大丈夫? ひょっとして寒いのかなぁ? 今夜はよく冷えるもんねぇ。よぉし、だったら……」

真帆「え? ちょっとまゆりさん?」

まゆり「ほらぁ! まゆしぃとくっついていれば、寒くはないのです!」

真帆(ていうか、狭いっ! このソファじゃ、二人+ぬいぐるみだと、かなり狭苦しい!)

まゆり「えへへ〜」

真帆「………」ソッ

真帆(けど……まあ、こういうのも悪くないかも)フフッ

まゆり「あ〜、マホちゃんが笑った。良かったよぉ。まゆしぃがバイトから戻ってきてから、マホちゃんずっと難しいお顔をしていたので、心配していたのです!」

真帆「そ、そうだったかしら?」

まゆり「そうだよぉ? お夕飯を食べに行っているときも、何だかずっと困ったような悩んでいるような、そんなお顔をしていたのです」

真帆(それは……迂闊だったわ)
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:12:07.60 ID:F5pI0V/70
まゆり「やっぱり、何か心配事があるのかな?」

真帆「大丈夫よ、まゆりさん。大したことではないから」

まゆり「大したことでなくても、やっぱり心配事があるんだね? よぉし! まゆしぃお姉さんに相談してみなさい!」

真帆「え、ええええ……」

まゆり「それとも、やっぱりまゆしぃには言いにくいのでしょうか?」

真帆「そういう訳では……」

まゆり「そっか。じゃあ、こういうのはどうでしょうか? まゆしぃから先に、マホちゃんに悩み事を相談してみるのです」

真帆「はい?」

まゆり「それでそれでぇ、マホちゃんがまゆしぃの悩みを解決してくれたら、今度はまゆしぃがマホちゃんの相談に乗ってしまおうという魂胆なのです!」

真帆「プッ。どんな交換条件よ、それは」

まゆり「じゃあ、まゆしぃの悩みを、いくよー! 覚悟しろぉ〜!」ブンブン

真帆(あらら。まだ交換条件を飲むなんて一言も言ってないのに)

まゆり「ずばり! 今まゆしぃが抱えている悩みは、とってもとっても深いのです」

真帆「はいはい。で、その内容は?」

まゆり「それはねぇ、お洋服です!」

真帆「洋服? 何? 新しい服が欲しいとか、そういうこと?」
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:15:04.67 ID:F5pI0V/70
まゆり「ブブー! そうではありません。実はまゆしぃ。ずっと学校の制服のままなのです!」

真帆「あ」

真帆(なるほど。学校帰りに出会ってからずっと、ラボを中心に行動していたみたいだから、当然といえば当然の──)

まゆり「ねぇねぇマホちゃん。果たしてまゆしぃは、どうすれば良いと思いますかぁ?」

真帆「ああもう、それなら一度帰りなさい。帰って、好きな服に着替えてくればいいじゃない」

まゆり「はっ! まゆしぃの悩みに、いきなり適切な解答が突きつけられてしまったのです!」

真帆「何よそれ」

まゆり「えへへへへ。やっぱりマホちゃんは賢いねぇ。まいまむだよ、本当に」ヨシヨシ

真帆「だから、マイ・マム言わないで」ウムムム

まゆり「じゃあ、まゆしぃはマホちゃんのアドバイスにしたがって、一度おうちに帰って服を着替えて来ることにしましょう」

真帆「え? まさかこんな時間に今から?」

まゆり「ううん。もう随分と遅いので、それは明日にするよ」

真帆「そうね、それがいいわ。それでまゆりさんの家は、ここから近いの?」

まゆり「う〜ん、近くはないかなぁ。電車に乗って行かなければいけないので」

真帆「……そう」
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:17:38.11 ID:F5pI0V/70
まゆり「? どうしたのマホちゃん?」

真帆「あ、いえ、ごめんなさい。それじゃあまゆりさんは、明日の朝早めに起きて、家まで着替えに行ってくるということで」

まゆり「え? 早くに起きるのでしょうか?」

真帆「何事も早いに越したことはないでしょ?」

まゆり「う〜ん、そうだね。よぉし、まゆしぃは言いつけに従うのです、まいまぁむっ!」ビシッ

真帆「だ・か・ら!」

まゆり「と言うことなのでぇ、それじゃあ今度はマホちゃんがお悩みを打ち明ける番だよぉ?」

真帆「……う」

まゆり「さあさあ、遠慮なく言って欲しいのです! どんな悩み事も、まゆしぃにお任せなのでぇす!」

真帆(と、言われても……)

まゆり「さあさあ」ワクワク

真帆(キラキラした目で私を見ないで……)

まゆり「誰かに話せばね。少しは楽になることもあるんだよ?」

真帆(…………)ドキリ

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「じゃ、じゃあ……」

まゆり「はい!」
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:22:00.59 ID:F5pI0V/70
真帆「ちょっと変なことを聞くけども……まゆりさんは……その」

まゆり「なぁに?」

真帆「タ、タイムマシンって……あると思う?」

まゆり「え? タイムマシン?」

真帆「そう、タイムマシン。あなたが無いと思うのなら、私のお悩み相談はここで終わりでもいいのだけれど……」

真帆「でも。もしもまゆりさんが、タイムマシンはあるって思うのなら、そうしたら……やっぱり使ってみたいと思う?」

まゆり「ええ〜、まゆしぃにはタイムマシンがあるかどうかなんて、難しくて分からないよぉマホちゃん」

真帆「ふふ。そんなにややこしく考えないで、世間話みたいなものなんだから」

まゆり「そうなの?」

真帆「そうよ」

真帆「過去に戻って、やり直すことのできる機械。これまでの人生で、どうしても悔やまれる出来事を、もう一度やりなおすことのできる夢のマシン」

真帆「まゆりさんにはこれまでの人生で、そんなマシンを使いたくなるくらいに後悔した経験とか、何かなかった?」

まゆり「ん〜、どうだろうねぇ? 無いことはないと思う……ううん、そうだね。やっぱり多分、いっぱいあったと思うのです」

真帆「そう、そんなに沢山も?」

まゆり「きっと沢山あるんだと思うなぁ。大きなことも小さなことも、今まで沢山失敗して、沢山後悔してきたと思うよ」

真帆「そっか。ならやっぱり、タイムマシンを使いたいと思う?」
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:25:22.12 ID:F5pI0V/70
まゆり「そうだねぇ。難しいけど……でも……」

真帆「でも?」

まゆり「うん。失敗したことをやり直したいとは思うけど、でもまゆしぃはタイムマシンを使ってまでそんなことをしたらダメかな……って、そう思います」

真帆「それは……どうして?」

まゆり「えへへ。難しいことはよく分からないけど、でもねマホちゃん。まゆしぃはこんな風に考えるんだ」

まゆり「マホちゃんはさっき言ったよね? 失敗したり後悔したことをやり直せるならって」

真帆「ええ。確かにそう言ったわ」

まゆり「失敗したり後悔したりって、要するにそれは、それまでの人生の中にあった悪い部分ってことだよね?」

真帆「え、ええ、そう言い換えることも当然できるけど」

まゆり「タイムマシンで直すのは、その悪い部分をっていうことなんだよね?」

真帆「まあ、そうね。そのつもりでの発言よ」

まゆり「そっかぁ。だったらやっぱり、まゆしぃは使いたくないなぁ、タイムマシン」

真帆「どうして……そう思うの?」

まゆり「えっとねぇ、何て言えばいいのかな? 簡単に言うと……そうだね。悪いことだって、みんなが全部同じように悪いことではないって思うからかなぁ」

真帆「ええと、ごめんなさい。何ですって?」
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:26:43.77 ID:F5pI0V/70
まゆり「あはは、言葉にするのが難しいなぁ。えっとねぇ、つまりね……」

まゆり「例えば……例えばだよ? 例えば明日、まゆしぃが……そうだねぇ、例えばだけど明日、まゆしぃが、その。死んでしまうとするのです」

真帆(!?)

まゆり「そしたらね、お父さんやお母さんは悲しいだろうし、きっとオカリンやダルくんや紅莉栖ちゃんやフェリスちゃんにルカくん。フブキちゃんやカエデちゃんや由季さん。それにきっと出会ったばかりのマホちゃんだって、少しは悲しんでくれると思うのです」

真帆「……少しどころじゃないわよ」

まゆり「そう? それは嬉しいなぁ」

まゆり「でもね、マホちゃん。それでもしマホちゃんがタイムマシンを使って、まゆしぃが死なないようにしようとするのなら……それはきっとダメなことだと思うのです」

真帆「ど、どうして……そんなことを言うの?」

真帆(あなたが……あなたがそんな風に言ったら、岡部さんや紅莉栖の苦労はどうなるの? それに、せっかく固まりかけてきた私の決心だって……)

まゆり「そうしようって思うくらい、まゆしぃのことを大切に思ってくれるのは、とっても嬉しいよ。でもねマホちゃん」

まゆり「まゆしぃを助けたことで、ひょっとしたら誰か他の人の幸せも一緒に消えてしまうかもしれない」

真帆「……何よそれ」

まゆり「明日、まゆしぃが死んじゃって。それでね。まゆしぃが居なくなったから、それで生まれてくる命だってあるのかもしれない」

真帆「…………」グッ

まゆり「ひょっとしたら、そんな誰かは未来で幸せな生活を送っているかもしれない」

真帆「…………」ギリッ
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:28:19.51 ID:F5pI0V/70
まゆり「でも、もしもタイムマシンでまゆしぃが死なないようにしちゃったら、まゆしぃの知らないその誰かさんは──」

真帆「そんなの、詭弁じゃない」

まゆり「えっ?」

真帆「そんな、いるかいないかも分からない誰かのことを気に病んで、それであなたは……まゆりさんは、そこで自分の人生を諦めるというの?」

まゆり「マホちゃん?」

真帆「言わせてもらうけどね……」

まゆり「マホちゃん……」

真帆「そんな考えは、善人面した愚か者の戯言でしかないわ」

まゆり「ええと……うん、そうかもしれないね。まゆしぃって馬鹿だから、ごめ──」

真帆「何を適当なこと言って受け流そうとしているのよ!」バッ

真帆「じゃあ仮に……仮にあなたの大切なオカリンさんが死んだらどうするのっ? いきなり分けも分からずに死んで、だけど目の前にはタイムマシンがあって!」

まゆり「マホちゃん……」

真帆「あなたはそれでも諦めるの? タイムマシンという可能性を手にしながら、それでもオカリンさんの死を黙って受け入れるとでもいうの!?」

まゆり「ううん、マホちゃん。それならまゆしぃは、タイムマシンを使うよ」

真帆「どうして、そん……え?」

まゆり「もしもオカリンやラボメンのみんなや……それにマホちゃんが私の目の前で死んじゃったなら。それならまゆしぃは、タイムマシンを使って助けにいくのです」

真帆「な……な……」

真帆(何なのよ! 何なのよっ!?)
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:29:19.08 ID:F5pI0V/70
まゆり「でもね。そうなったらまゆしぃは、ちゃんといっぱい『ごめんなさい』をしていくかなぁ」

真帆「ごめん……なさい?」

まゆり「大切な誰かが死んじゃうのは絶対に嫌だから。だからまゆしぃは、自分勝手でもタイムマシンに乗ってしまいます」

まゆり「でもそうしたら、誰かの幸せを消しちゃうかもしれない。それでもやっぱりまゆしぃは、絶対にどうしても助けに行きたいから……」

まゆり「だからね。ごめんなさいって、ちゃんと謝ろうと思うのです」

真帆「……謝るって」

まゆり「まゆしぃのせいで幸せじゃなくなっちゃう人は、きっと謝ったって許してはくれないだろうけど。それでもね、マホちゃん」

まゆり「許してもらえなくても。知らない人たちに凄く恨まれても。それでも私はね、これからタイムマシンでみんなに酷いことをするのは、このまゆしぃなんだよーって」

まゆり「自分勝手にみんなを不幸にするのは、ここにいる椎名まゆりなんだよーって。きっと許してはもらえないだろうけど、それでも沢山謝って」

まゆり「そうしてやっと、タイムマシンに乗り込むんだと思うのです」

真帆「…………」

まゆり「ねえ、マホちゃん。マホちゃんにはひょっとして、タイムマシンを使ってでもやり直したいくらいに悪いことがあったのかな?」

真帆(……!?)

まゆり「でもね、私は思うなぁ。悪いことって、そんなに全部が悪いことなのかな……って」

まゆり「ひょっとしたらね、悪いことの中にだってほんの少しくらいは良いことが隠れているのかもしれないよ?」

真帆「何が……言いたいの?」
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:30:16.42 ID:F5pI0V/70
まゆり「真っ黒な塊に見えても、でも本当は見えないところに少しだけ白色が混じってて」

まゆり「でもその白色は、オカリンがやってる悪いフリみたいに見つけやすいものじゃなくて」

まゆり「でもそれでも、やっぱり黒を白に塗り替えなくちゃいけないなら……」

真帆「…………」

まゆり「それなら、まゆしぃは止めないのです。マホちゃんがタイムマシンを見つけて、それで使おうとしても。それをダメだとは、まゆしぃには言えないのです」

まゆり「だけどね、マホちゃん。もしもそんな時がきたのなら」

まゆり「その時は絶対に、まゆしぃに教えてね。教えてくれたなら、それならまゆしぃも……」

まゆり「まゆしぃも一緒に謝ってあげるから、ね?」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆(なんて……人……)

まゆり「えへへ。こう見えても、まゆしぃは『ごめんなさい』が得意なのです。だからね絶対に約束だよ、マホちゃん」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「そう、ね。もしそんな時が来たのなら、是非お願いするわ……ふふっ」
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/19(木) 22:31:19.20 ID:F5pI0V/70
まゆり「はい、お願いされたのです! このまゆしぃお姉さんにお任せだよぉ!」

真帆「助かるわ。私ってさ、謝るのが苦手なのよね」

まゆり「だと思ったよ〜」

真帆「ちょっと。そこはフォローするところでしょ?」

まゆり「えへへぇ! じゃあね、じゃあね! マホちゃん────」


真帆(これが……)

真帆(これが、椎名まゆり)

真帆(紅莉栖が。そして岡部さんが、どうしても守り抜きたかった一人の女の子)

真帆(シュタインズゲート世界線にある……代えがたい一つの価値)

真帆(ええ、そうね。良いじゃない、紅莉栖)

真帆(この子は、絶対に失いたくない。どんな手を使っても、失ってはいけない)

真帆(私もその思いに……賛同するわ)









309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/19(木) 23:52:30.73 ID:cYps2Y/Fo
理屈をつけたがるのは真帆の悪い癖なんかな
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 00:20:10.05 ID:sNqZeGrfo
>>309
どうでしょう? あまり深くは考えず書いていたけど確かに私の中にそういうイメージはあるのかもしれない
感情屋のくせにそれを良しとせず無理して理屈に頼る…みたいな
あくまで私の心象でしかないのでそれは違うだろって方はスルーしてくらはい
長文スマヌ
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/20(金) 21:58:11.37 ID:sNqZeGrf0
     28

秋葉原 大檜山ビル屋上 2011年2月5日 深夜4時前


レス『それでどうだい、マホ。気晴らしの旅は順調かい?』

真帆「ええ、おかげ様で。何というか、これまで見向きもしなかった色々なことに向き合う、いい機会になりました」

レス『そうかい。それは良かったよ。それならば、私も君に休暇を勧めたかいがあったというものだ』

真帆「はい、ありがとうございます」

レス『でもね、マホ。一つだけ言わせてもらっても、良いだろうか?』

真帆「ええ、何でしょうか?」

レス『いくら気になるからといっても、研究室から部外秘を勝手に持ち出したりするのは、あまり感心できないね』

真帆「あっ……気づいてらしたんですか?」

レス『当然だろう。これでも私は、アマデウス開発のプロジェクトリーダーなのだよ? 見くびってもらっては困るな、Huhuhu』

真帆「あーその、すいません。勝手な真似をして」

レス『まあ良いだろう。他の所員にはそれとなく誤魔化しているからね。旅から戻ったら、ちゃんと返してくれればそれでいい』

真帆「私ってば、教授には本当にご迷惑ばかりおかけしてしまって……その」

レス『だから、良いと言っているだろう? それとも何かな? マホは私にHardに叱られたいのかな?』
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/20(金) 21:59:30.58 ID:sNqZeGrf0
真帆「ふふ。それは御免こうむりたいですね」

レス『素直でよろしい、Hahaha!』

真帆「……もう」

レス『Oh、いけない。そろそろミーティングの時間だったよ』

真帆「そうですか。じゃあ電話、切りますね」

レス『そうだね。それじゃあマホ、必ず元気に戻って来るんだよ?』

真帆「はい。お心遣い、感謝します。では」

レス『エンジョイ・ユア・トリップ』


プッ……ツーーーツーーーツーーー


真帆「…………」

真帆(教授。これまでのご指導ご鞭撻のほど……本当にありがとうございました)

真帆(どうか。どうか、科学者として悔いの無い人生を)

真帆「………」グス
真帆「……」
真帆「…」ゴシゴシ
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/20(金) 22:00:18.49 ID:sNqZeGrf0
真帆「……よし」

真帆「頃合ね」スマホ ピッピッ


トゥルルルルル……トゥルルルルル……


紅莉栖『あ、先輩。調度今、先輩のアパルトメント前に着いたところです』

真帆(紅莉栖……)

真帆「岡部さんと阿万音さんも一緒なのかしら?」

紅莉栖『はい。三日前と同じ顔ぶれです。すいませんが、玄関のロックを開けてもらえますか?』

真帆「ええとね、紅莉栖。勝手を言って申し訳ないのだけど……」

紅莉栖『はい?』

真帆「悪いけど、出直してきてもらってもいいかしら?」

紅莉栖『……え?』

真帆「約束の時間を守れなかったのは謝るわ。でもね、あと少しだけでいいの。ほんの数時間でいいから、私に猶予を頂戴」

紅莉栖『先輩? 声が……その、泣いているんですか?』

真帆(!? ああもうっ!)

真帆「そんなわけ……ないでしょう? 私はあなたの偉大な先輩なのよ? 誰が泣くものですか」
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/20(金) 22:01:02.24 ID:sNqZeGrf0
紅莉栖『…………』

真帆「…………」ギリリ

紅莉栖『分かりました。先輩の決心が固まるまで、近くで時間をつぶしています』

真帆「ありがとう。心配しないで、決心ならもうついているから。私は私のアマデウスをデリートする。だから、ね紅莉栖。心配しないで? 少ししたら必ず連絡を入れるから」

紅莉栖『了解しました。岡部と阿万音さんには私が上手く言っておきます』

真帆「ありがとね」

紅莉栖『いえいえ、お礼には及びませんよ』

真帆「ふふっ。じゃあ後で」

紅莉栖『はい。連絡、お待ちしています』

真帆「ええ」


ピッ


真帆「さぁて。これで準備は全て完了ね」ノビー

真帆(後は……後は……)

真帆「そうね。特にこれといってやることもないし……ラボでまゆりさんの寝顔でも眺めていようかしらね」クス

真帆「……ふへへ」トコトコトコトコ










315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/20(金) 22:06:07.77 ID:sNqZeGrf0
というわけで短いですが今日の分です
そして明日で終われます 長々とひっぱってしまい申し訳ない
問題はもう二時間ほどで明日なってしまうことでして
明日の昼間くらいからのつもりでいましたが
何かもう日付変わる頃におっぱじめてしまってもいい気もしている
さてどうしたものか、うむ…
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 23:15:41.12 ID:52Mmg78FO
なんだかこれから自[ピーーー]る人がお世話になった人達に挨拶してるような風情なのですがこれは……
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 23:35:54.82 ID:tnTqXxBSO
え?自慰する人がお世話になった人達(オカズ)に挨拶してる?(海馬に電極ぶっ刺し)
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 23:55:02.84 ID:sNqZeGrfo
>>316
あーいえ何といいますか 最近自分で何を書いているのか分からなくなることがしばしば…えへへ
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 23:55:57.58 ID:sNqZeGrfo
>>317はダルにゃんにロボトミーされてしまったのでしょうか?
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 23:58:14.27 ID:Vbilkhuro
あ、いや真帆たんがという話なんだ紛らわしくてすまない

でも決して真帆たんがオカリンで自慰したことを報告したとかそういう話でもなく
むしろそういうのは紅莉栖がやりそう(脱線)
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 00:18:30.93 ID:kqRSVJTwo
>>320
ああなるほど こちらこそ紛らわしい描き方して申しわけなか
そして気づけばダルくんは二人ほどロボトミっていたようで どこへ行くお前たち!?
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 00:20:24.80 ID:kqRSVJTwo
ということで、日付も変わったし まだどなたかお見えでしたら おっ始めようかと考え中 うーーーむ
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 00:42:45.49 ID:kqRSVJTwo
えっと 人気がなさそうなので予定通り明日の昼間にラスト投下いたしやす
万が一、寡黙な待ち人さんがいたらごめんなさいです!
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 12:13:33.36 ID:kqRSVJTw0
     29

未来ガジェット研究所 2011年2月5日 午前8時すぎ


まゆり「ごめんねぇマホちゃん。まゆしぃ、ブワァーッって行ってビヤァーっと戻ってくるので、少しだけ待っていて欲しいのです」

真帆「そんなに慌てなくてもいいわよ。金曜日からずっと帰ってないのでしょう? なら、少しくらいゆっくりしてきたらいいじゃない」

まゆり「ふふふ〜。そうもいかないのです!」

真帆「あら、どうして?」

まゆり「それはねぇそれはねぇ! まゆしぃは今日こそマホちゃんに、たっぷりと秋葉原の街を案内してあげたいと企んでいるからなのです!」

真帆(企んで……って)

真帆「そ、そう。それは楽しみね」

まゆり「えへへ〜、そうです楽しみだよぉ〜! じゃあ行ってくるねぇ」


ドアガチャ


真帆「気をつけて行ってきなさい。はしゃいでると、すっ転ぶわよ?」

まゆり「大丈夫だよぉ。まゆしぃはそんなにドジじゃありません」

真帆「よく言うわ」

まゆり「それじゃあマホちゃん、出来るだけ早く帰ってくるから、待っててね!」

真帆「はいはい。何でもいいから気をつけてね」

まゆり「は〜い!」


ドアパタン タッタッタッタ……

シーーーン


真帆(ごめんなさいね、まゆりさん)


カチリ


真帆(施錠、完了)
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 12:24:27.92 ID:kqRSVJTw0
真帆「……よし。始めるわよ」

真帆(兎にも角にも、まずは紅莉栖に電話をかけないことにはね)ゴソゴソ


ピッ トゥル……ピッ


紅莉栖『はい』

真帆(はやっ)

紅莉栖『あっ……えっと先輩……ですよね?』

真帆「ええ、そうだけど……どうかしたの?」

紅莉栖『いえ、すいません。大したことではないんです。咄嗟に電話を取ってしまったので、つい画面を見損ねたというか……』

真帆(あー、出てから相手が誰か不安になったといったところかしら?)

真帆「紅莉栖あなた、ちょっと落ち着きなさ──」

紅莉栖『って、うっさい! ドジっ子アピールなんぞしとらんわ!』

真帆「え? はい? ええ?」

紅莉栖『あ、ああ、すいませんっ! 後ろから岡部が茶々を入れてくるもので、それで』

真帆(紅莉栖の側に岡部さん? となると、阿万音さんも一緒か)

真帆「なるほど。どうやら私が電話をかけてくるのを、揃い踏みでお待ちかねだった様子ね」

紅莉栖『ええはい、まあ……そうです』

真帆「そう。待たせて悪かったわ。もう大丈夫だから、今からもう一度私の部屋まで来てくれない?」
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 12:33:51.74 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『はい、了解しっ! ちょっと阿万音さん!?』

真帆(ああもう、今度はなに?)

鈴羽『やあ、比屋定真帆。もちろん結論は出たんだろうね?』

真帆(阿万音さん……)

真帆「当然よ」

鈴羽『そうかい。それで結局、君のアマデウスはデリートしてもらえるのかな?』

真帆「ええ、そのつもりよ」

鈴羽『そうか、ありがとう。じゃあこれから三人で、もう一度君のアパルトメントに向うよ』

真帆「お願い」

鈴羽『10分もあれば到着できるはずだから、お茶でも入れて待っているといい。おもてなしなら大歓迎だよ』

真帆「はいはい」

鈴羽『じゃあ、後ほど』

真帆「ええ」


ピッ ツーーーツーーー


真帆「10分……か。急ぎましょう」


トコトコトコ……チョコン


真帆(遠隔操作の仕方なら、昨日のうちにある程度理解しておいた)

真帆(紅莉栖たちは思っていたよりも近場にいるみたいだけど……)

真帆(それでも10分かかるなら、余裕でいける)
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 12:38:32.42 ID:kqRSVJTw0
真帆「よぉし」カタカタカタ


フォン


真帆「待たせたわね、アマデウス」

A真帆『あ……。何よ遅かったじゃない』

真帆「悪いわね。それで、お別れは済んだ?」

A真帆『ええ、おかげ様でね。もっとも……多分、私が何を言っているのか、一人として正確には伝わってはいないでしょうけれどね』

真帆「……そう。それでも、もうこれ以上は引き伸ばせないと思う」

A真帆『別にいいわよ。どうせ消える身だし、細かいことを気にしていても仕方がないからね』

真帆「同感ね」

A真帆『同感って……微妙に薄情な反応ね。まるで他人事みたいな言い方して。ちょっと酷いんじゃない?』

真帆「あ、ごめんなさい」

A真帆『はぁ。まあいいわ。それで、いつデリートしてもらえるのかしら? こっちは待ちくたびれてきたのだけど?』

真帆「アマデウスは、くたびれたりなんてしないでしょう?」

A真帆『ふふっ、それはどうかしらね? っていうか、相変わらず貴女の部屋には誰もいないみたいだけど……』

A真帆『ひょっとして、まだ出先から戻ってきていないの?』

真帆「ええ。ちょっと事情があってね」
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 12:45:20.47 ID:kqRSVJTw0
A真帆『……そう、それは残念。その面拝みながら、恨み言の一つでものたまってやろうかって思っていたのにね、フフッ』

真帆(その顔って、同じ顔でしょうに……)

真帆「それは生憎だったわね。じゃあその恨み言は、もうすぐやって来る三人にでもぶつけてあげてちょうだい」

A真帆『三人?』

真帆「ええ、三人よ。ああそれと、ちょっとお願いがあるのだけど」

A真帆『はいはい、今度は何かしら?』

真帆「あなたが今表示されている私のPC、少し設定をいじれないかしら?」

A真帆『え? そりゃあ、その気になれば出来なくもないけど』

真帆「それなら、そっちのPCとこっちのPCで、カメラ映像と音声をリアルタイム通信できるようにすることは可能? あ、もちろん双方向でね」

A真帆『ええと、つまり……』

A真帆『私が映っているPCとそっちのPCで、ビデオ通話みたいな状態を作れということかしら?』

真帆「そうね、その通りよ。ビデオ通話用のソフトなら、こっちのPCに私がいつも使っていた物と同じものをインストールしてあるのだけど、どう? できそう?」

A真帆『まあ、そこまで準備が出来ているなら、どうとでもなるでしょうね』

真帆「じゃあ、お願い」

A真帆『何をするつもりなの?』

真帆「ん〜……ちょっと言えない」
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 12:58:29.75 ID:kqRSVJTw0
A真帆『ふぅん。何を考えているのか知らないけど……まあいいわ、OKよ。やってみる』

真帆「ありがとう。恩に着るわ」


ピリリリリリ……ピリリリリリ……


真帆(……っと)

真帆「もうかかってきた。まだ5分もたってないじゃない」

A真帆『どうかしたの?』

真帆「ああ、いえこっちの話。悪いけど、PCの設定は任せるわ」

A真帆『りょーかい』

真帆(さて……)


ピッ


真帆「ハァイ、紅莉栖。もう着いたの?」

紅莉栖『ええ。ですので、さっきからインターホンを押していたですけど反応がなかったので……』

真帆(おおっと、そりゃそうか)

真帆「あら、ごめんなさい。インターホン、調子が悪いのかしら?」

紅莉栖『修理したほうがいいですよ?』

真帆「ええ、機会があったらそうしましょう」
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:06:41.35 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『じゃあ、とりあえず玄関のロックを開けてもらえますか?』

真帆「ああ悪いのだけど、ナンバー教えるから勝手にアンロックして入ってきてくれないかしら?」

紅莉栖『え? いいんですかそんなことして? 他の人たちも住んでいるわけですし、セキュリティ上に問題があるんじゃ……』

真帆「別に友人の一人二人に教えるくらい、大した問題じゃないわ。それとも、私が教えたナンバーをあなたが吹聴して回るというのなら話は別だけど」

紅莉栖『……何か、理由があるんですね?』

真帆(ぬ……鋭い……)

紅莉栖『……分かりました。では、ナンバーを』

真帆「……ナンバーは####よ」

紅莉栖『了解しました。では、一度電話を切りますか?』

真帆「いえ、できれば通話状態のままで進んでくれる?」

紅莉栖『……はい。ではエントランスを抜けてエレベーターホールに向かいます』

真帆「律儀ね。まるでカー・ナビゲーションみたいよ?」

紅莉栖『……先輩。一体何を考えているんですか?』

真帆「それは、もうすぐ分かると──」

A真帆『はい、設定はできたわよ。いつでも送信を開始できるけどどうする?』

真帆(うおっと! ビックリしたけど、でもナイスタイミング!)
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:11:33.10 ID:kqRSVJTw0
真帆「ごめん紅莉栖。そのまま私の部屋まで上がってきてちょうだい」

紅莉栖『先輩?』

A真帆『あれ、ひょっとして誰かと電話していたのかしら?』

真帆「ええ、ちょっとね。では早速、ビデオ通話を開始させてもらうわ」カタカタカタカタ


フォン


真帆(起動した。じゃあ、ウィンドウを出来るだけ大きくして……と)

真帆「ん〜……暗いわね」

A真帆『仕方がないでしょ? 照明が消えているのだから』

真帆(ああ、向こうは結構遅い時間だったわね)

A真帆『それと、さっきは言いそびれたけど、なんだか来客があったみたいよ? 少し前まで、ピンポンピンポンとうるさかったから』

真帆「あ、あー」

A真帆『まあ、私には関係がないけど、一応教えておいてあげた』

真帆「それはどうも、ご親切に」

A真帆『ああ、それともう一つ。今動かしているビデオ通話の音声、システム上どうしても室内の音声と私の音声が混じって飛ぶと思うけど、構わないわよね?』

真帆「ええ、構わないわ。むしろ好都合かも。じゃあ、お客様をお迎えしてあげてくれるかしら?」

A真帆『お客様? お迎え? どういうこと?』

真帆「すぐに分かるわ、じゃあ後で」

真帆(はー忙しい忙しい!)スマホ スッ
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:17:14.83 ID:kqRSVJTw0
真帆「どう紅莉栖? もうすぐ着く?」

紅莉栖『ええ、もう……はい。先輩の部屋の前まで来ました。開けていただけます?』

真帆「扉の左に、水道のメーターボックスがある。その裏にカギを隠しておいたから、探してみて」

紅莉栖『!?』

真帆「ごめんなさい。言いたいことが山のようにあると思うのだけれど、今は言う通りにしてもらいたいの」

紅莉栖『……分かりました。岡部! その辺探して!』

真帆(イライラ顔の紅莉栖が岡部さんをアゴで使っている光景が、ありありと浮かんでくるわね)

紅莉栖『見つけました。入りますよ?』

真帆「ええ、どうぞお入りください。そのまま私の作業ルームまでね」

紅莉栖『…………』


『ガチャリ……キィ……』


紅莉栖『照明をつけますよ?』

真帆「ええ、そうして」

真帆(…………)モニター ジー

真帆(何だろう。何だかドキドキしてきた)

真帆(あ……三人が入ってきた!)
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:21:09.92 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『先輩、これは!?』

A真帆『ちょっ!? 何であなた達が!?』

鈴羽『まさかサリエリ!?』

岡部『ぬ? 何がどうなっている?』

真帆(あら。大体驚いたみたいだけど、どうも岡部さんだけキョトンとしてるみたいね。鈍いのか、それとも肝が太いのかしら?)

A真帆『ちょっとオリジナル! もてなせって、この三人のことなの!?』

紅莉栖『先輩! 説明してください! これは何ですか!?』

鈴羽『比屋定真帆! 何を企んでいるんだ!?』

真帆(このまま沈黙しているのも展開的には面白そうだけど、まあ仕方ないわね)

真帆「アマデウス。悪いけど、あなたのウィンドウを狭めて、こっちのカメラ画像を並べて表示してくれるかしら?」

A真帆『はいはい! もう、ワケが分からない! ほら、出来たわよ!』

紅莉栖『先輩!?』

真帆『ハロー、紅莉栖。それに阿万音さんと岡部さんも。三日ぶりね。私の姿、見えているかしら?』

鈴羽『のん気なことを!』

岡部『おお、ブラウニーではないか。画面の中だと、さらに小さく見えるな、うむ』

真帆「……ほほう」イラ
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:27:08.44 ID:kqRSVJTw0
真帆「ねえ、岡部さん。私がいる場所、どこだか分かる?」

岡部『どこ……だと? そんなこと分かるわけ……が……』

真帆「お気付きのようね。悪いけど、あなたのラボは占拠させてもらったわ。今日からは私がここの支配者よ」フフフ

岡部『ぬぁ……ぬぅあんどぅぁとぉぉぉぉ!!!???』

紅莉栖『うそっ! アキバですか!? 先輩今、私たちのラボにいるんですか!?』

岡部『私たちのではない! そのラボはこの鳳凰院kyぐふぁ!?』

鈴羽『オカリンおじさん、黙ってて!』

紅莉栖『ああ! 岡部がゴミの山にめり込んだわ!?』

真帆(すごっ。人間て、ああも綺麗に吹っ飛ぶもなのね)

鈴羽『ねえ、比屋定真帆? 率直に聞く。アマデウスをデリートするという話、あれは口からでまかせだったのかい?』

真帆(画素数が荒いから分からないけど、きっと今すごい目で私のことを睨み付けているのでしょうね)

A真帆『ね、ねえ。阿万音さんが今にもモニターを叩き割りそうな顔で、私のことを見てくるんだけど……』

真帆「大丈夫。睨まれてるのはあなたじゃなくて私だから」

鈴羽『答えなよ。デリートを決意したと言っていた君の言葉、あれは嘘だったんだね?』

真帆「…………」

鈴羽『どうして黙っている!』

真帆「嘘なんかじゃ……ないわ。これから私は、あなた達の目の前で、アマデウスをデリートする」

A真帆『!?』
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:31:59.28 ID:kqRSVJTw0
真帆「ごめんね、アマデウス。私の我がままに付き合って」

A真帆『そうすることに、意味があるのね?』

真帆「ある。多分こうしないと、紅莉栖も岡部さんも阿万音さんも、そして私も。誰も納得できない。そして……」

真帆「こうしなければ、まゆりさんも紅莉栖も……シュタインズゲート世界線も……救うことはできない」

A真帆『分かった。じゃあ好きなようにしなさい。仕方ないから付き合ってあげるわ』

真帆「ありがとうね、アマデウス」

A真帆『礼には及ばないわ。さて、というわけだから阿万音さん?』

鈴羽『……サリエリ』

A真帆『私は今から、オリジナルの手によってデリートされるらしいわよ? これで満足かしら』

鈴羽『……本当に……そうなのか?』

真帆「本当よ。私は今、この場で。私の分身であるアマデウスに対して、デリート・システムを施行する」

紅莉栖『で、でも先輩! だったらどうして、こんなまどろっこしい真似を!?』

真帆「それはね、紅莉栖。きっと……」

画面内の一同「…………」

真帆「こうでもしなければ。きっとあなた達は寄ってたかって、私がやろうとすることを邪魔するだろうから」

岡部『いつつつ……しかし、分からんな』

真帆(あ、復活してきた)
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:32:55.29 ID:kqRSVJTw0
岡部『アマデウスのデリートならば、こちらから持ちかけた話だ。手を貸すことこそあったとしても、邪魔をする道理などない。違うか?』

真帆「ふふ。本当なら、そうだったのでしょうね。でもね……」

A真帆『ごちゃごちゃ言ってないで、消したら? その方が、話が早いでしょう?』

真帆「アマデウス……」

A真帆『というわけだから、宴もたけなわよ。ボチボチ、私に世界を救わせてはくれないかしら?』

真帆「…………」グッ

真帆「そうね」

真帆「それでは。これより比屋定真帆のアマデウスに対して、デリート・プログラムの執行を執り行います」

鈴羽『…………』

真帆「じゃあ……行くわよ。覚悟はいい、アマデウス?」

A真帆『待ちくたびれたわよ』

真帆(……ごめんなさい)
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:33:46.93 ID:kqRSVJTw0
真帆「『Amadeus』、制御コードのパスワードを受理しなさい」

真帆「── ─── ─────」

A真帆『制御コードが入力されました。システムを強制的にエマージェンシーモードに移行します』

真帆(…………)

A真帆『制御コードが指定するバッチプログラムを実行します』

真帆(……本当にごめんなさい、私のアマデウス)

A真帆『処理の実行についての再確認は行われません。実行には十分に注意してください』

A真帆『最高管理権限保持者比屋定真帆の命令を持って処理を開始します』

真帆(向こうに行ったら……そうね。同じ顔のよしみだもの。もう少し仲良くやりましょうか)

真帆「……GOよ、Amadeus」

真帆(いいと思わない? ね? もう一人の私)







338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 13:35:21.45 ID:kqRSVJTw0
いったんここまで 夕方くらいから再開するつもりです
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/21(土) 13:55:06.42 ID:DFC4dkD10
まってます
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 14:24:05.59 ID:kqRSVJTwo
>>339
サンクス しばしのお待ちを
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 14:49:39.57 ID:kEvgO2Vjo

なんか……なんというか……本当にデリートする気あるのか?真帆は
なんか言い回しが引っかかるというか……
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 15:03:37.85 ID:kqRSVJTwo
>>341
乙ありがとう
いろいろ思うところがあって台詞回しを誇張している部分があるかもしれませぬ
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 17:26:16.57 ID:kqRSVJTw0
お待たせいたしました 再開いたします
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 17:27:50.51 ID:kqRSVJTw0
     30


ピーーーーーーーーーーー


真帆(私のアマデウスが、完全に消えた。でも……)

真帆「…………」ジロジロ

真帆(うん。私自身、特にこれといって変化はない。それに、モニタの向こうも……)

真帆(変化は……なし。となると)

真帆「……ふぅ」ギィ

真帆(結局、こうなっちゃったか)

真帆(困ったものね。推測が当たったことで、これほど微妙な気持ちになるなんて初めての経験よ)

真帆「あーあ。やっぱり、やるしかないかぁ」ゴソゴソ

紅莉栖『先輩。アマデウスのデリートが……その、終わりました』

真帆「そうみたいね」ゴソゴソ

紅莉栖『それで、その……デリートは成功したはずですが、しかし……』

真帆「あら紅莉栖。あなたはこの結果に不満なのかしら?」ヒョイ

紅莉栖『……え?』
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 17:29:11.21 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『あの、先輩。何を……考えてらっしゃるんですか?』

真帆「え? んふふ。秘密よ」コトン

紅莉栖『……先輩』

鈴羽『ねえ。お話中に悪いんだけど、ちょっといいかな比屋定真帆』

真帆「なあに、阿万音さん?」ガタゴト

鈴羽『ええと、いまいち状況が分からないんだけど』

鈴羽『それで結局、どうなったんだい? 君のアマデウスは……サリエリは完全に消去されたという事でよいんだよね?』

真帆「ええそうね。デリート・システムを行使した結果、私のアマデウスは、完全にこの世界から消えた。それは確かよ」

鈴羽『じゃあボクは、任務を完遂できたんだよ……ね?』

真帆「…………」ピタッ

鈴羽『な、何だい? どうして黙っているのさ? 何か言ってくれないとボクだって戸惑うじゃないか、はは』

真帆「…………」

鈴羽『あ……ああ、そうか。ボクが余りにも当たり前のことを聞きすぎて、言葉を失ってしまったんだね?』

紅莉栖『…………』

鈴羽『い……いやぁさ。アマデウスが……サリエリが消えて、それで未来は正しい方向へ進んでいくはずなのに、何だか実感が沸かないんだよね』
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 17:31:33.59 ID:kqRSVJTw0
鈴羽『だからかな? どうも上手くリアクションが取れなくて……』

岡部『リアクションなど必要ない』

鈴羽『……え? どうしてだい、オカリンおじさん?』

岡部『ふぅ……』

岡部『比屋定さん。あなたは、この状況を想定していたのか?』

真帆(ふふ。岡部さん、さっきまでと全然口調が違うじゃない)

岡部『黙っているのなら、それは肯定と捉えさせてもらうが、構わないか?』

真帆「ええ構わないわ、肯定よ。私は、今の状況を予想していたわ」

岡部『そう、か』ジロリ

真帆(あらら。岡部さんが睨んでる。私、嫌われちゃったかな?)

鈴羽『ね、ねえちょと! 二人とも何の話をしているのさ!』

鈴羽『ようやく、世界がサリエリ世界線から開放されたんだよ? だったらオカリンおじさんも、そんな怖い顔をしていないで──』

紅莉栖『阿万音さん、ちゃんと現実を見て』

鈴羽『な、何だい牧瀬紅莉栖まで? 一体どうしたというのさ?』

紅莉栖『阿万音さん!』

鈴羽『え……だって……』
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 17:49:06.15 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『さっきまで、ずっと三人で話し合っていたこと、忘れた分けじゃないでしょ?』

紅莉栖『アマデウスを消して、そしてこの歴史がシュタインズゲート世界線としての条件を満たすことができたなら、そのとき何が起こるのか』

紅莉栖『世界線を移動できたなら、後は岡部に任せようって。ちゃんとそう話し合ったじゃない。だからお別れだって、先に済ませておいた。そうだったでしょう?』

鈴羽『し……知らないよ。牧瀬紅莉栖が何を言っているのか、ボクには分からない』

紅莉栖『阿万音さ──』

岡部『代わってくれ、紅莉栖』

紅莉栖『岡部……』

岡部『……鈴羽。お前とて、本当は気付いているのだろう?』

鈴羽『何を……だよ』

岡部『もしも本当に、お前の任務が完遂されたのだとしたら。では鈴羽。お前はなぜ、まだここにいる?』

鈴羽『…………』

岡部『この世界の未来からサリエリとタイムマシンの両方が消え去ったのであれば……』

岡部『それであれば、鈴羽。お前がこの時代にやって来る必要性自体が、先の二つと共に消失しているはずだ。そうだな?』

鈴羽『で、でも……』

岡部『だがそれでも、お前はまだこうして、この時代に存在している。そして俺は未だに、一度としてリーディングシュタイナーを感知してはいない』

鈴羽『で……も……』

岡部『つまりだ。世界線はまだ、動いてなどいない。過去も未来も、未だに何一つとして書き換わってなどいない』

鈴羽『…………』

岡部『お前の任務は、まだ何一つとして終わってはいない』
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 17:53:11.79 ID:kqRSVJTw0
鈴羽『何でだよ……おかしいじゃないか。サリエリの立てた計画よりも少し遅くなっちゃったけど……』

鈴羽『でも! アマデウスを消した! ならサリエリは消えたはずだ! なのにどうして……世界線は動いてくれないんだよ?』

岡部『さあな。理由は俺にも分からん。紅莉栖、お前はどうだ? 何か思い当たることはあるか?』

紅莉栖『今、考えてる。例えば……デリートされたアマデウスは実はダミーで……いや、それはいくらなんでも』

鈴羽『ダミーだってっ!? ひ、比屋定真帆! そうなのかっ!?』

紅莉栖『あ、阿万音さん、落ち着いて!?』

鈴羽『落ち着いてなんていられるか! だって、それじゃあボクは何のために!』

真帆「…………」

鈴羽『どうして黙っているんだ、比屋定真帆!』

真帆「……ふぅ。阿万音さん、聞いて?」

鈴羽『君はボクを、ボク達をだましたのかい!?」

真帆「いいから! 聞きなさいっ!!」

鈴羽『……うっ』
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 17:55:26.82 ID:kqRSVJTw0
真帆「いいこと、阿万音さん。消えたのは正真正銘、未来でサリエリを名乗るはずだった私のアマデウス。ダミーでも人違いでもない。それは私が保証する」

鈴羽『うっ……でもじゃあ、どうして……はっ! まさか!』

鈴羽『まさか比屋定真帆、君はもうすでにアマデウスに身体を乗っ取られて……』

真帆「いいえ、それもないわ。私は正真正銘の比屋定真帆、本人よ。まあ、それを立証しろと言われると困るのだけどね」

鈴羽『だったら、どうしてこんな事になってるんだよ!?』

紅莉栖『…………』

岡部『ふむ。比屋定さん、あなたはこの状態を予測していたと言っていたな』

真帆「ええ、確かにそう言ったわ」

岡部『ならばそろそろ、今何が起きているのか俺たちにも分かるように、説明してはもらえないだろうか?』

真帆(岡部さん……)

紅莉栖『先輩……私からもお願いします』

真帆「……紅莉栖」

紅莉栖『先輩っ』

真帆「私なんかの考えで良いの?」

紅莉栖『私は……先輩の考えが聞きたいんです』

真帆「……OK、分かったわ」フゥ

真帆「調度こちらも、手が離せるようになったところだし」カチ フィーーーン

紅莉栖『手がって、何かされているんですか?』

真帆「ええちょっとね。どの道もうすぐ分かるから、そう怖い顔しないで」カタカタカタカタ

紅莉栖『……そう、ですか』
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 18:09:38.39 ID:kqRSVJTw0
真帆「さて、と。それじゃあ私の考えを話すとしましょうか」

モニタ『…………』

真帆「先日、あなた達から世界線にまつわる一連の話を聞いて。それでね、私になりに考えをまとめてみたのよ」

真帆「タイムマシンの存在、過去への干渉、歴史の変化。α世界線やβ世界線、そしてシュタインズゲート世界線とサリエリ世界線のこと」

真帆「あとはそうねぇ。世界線の“ほつれ”や“破綻”とか、他にも色々とね」

真帆「その中でも特に、世界線の移動や歴史の再構築。それに伴って発生する、岡部さんのリーディングシュタイナーにまつわる一連の現象に関しては……」

岡部『…………』

真帆「どこをどう切ってみても、ややこしい事この上ない考察対象といえたわ。だから、私も絶対の自信を持っているわけではないのだけど……。それでも私なら、今の状況をこう考える」

真帆「私のアマデウスをデリートしただけでは、不十分だった……ってね」

岡部『不十分だと?』

真帆「そう、不十分。つまり、足りなかったということね。現状を見る限り、そう考えるのが妥当なはずなのよ」

真帆「サリエリとなるはずだった私のアマデウス。実際に彼女を消してみてなお、この世界の未来には『タイムマシンの存在』するサリエリ世界線という名の歴史が、『一つの可能性』として残留し続けている」

真帆「であるなら、そもそもの前提からして間違っていた可能性を疑うべきよ」
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 18:13:41.50 ID:kqRSVJTw0
真帆「アマデウスのデリートという手段のみに固執してシュタインズゲート世界線へ戻ろうと考える、そんな私たちの前提からしてすでに不十分であり」

真帆「そこから生まれた認識の不完全さこそが、今の不可解な状況を導き出す結果を招いてしまった……と」

真帆「まあ、これが現状に対する私の解釈なのだけど、どうかしら?」

岡部『ぬ……。どうかしら? などと聞かれてもな……』チラリ

紅莉栖『…………』

岡部『……むう』

岡部『すまないが、何を言っているのかいまいち要領を得ない。もう少し分かりやすく言ってもらえるだろうか?』

真帆「あらそう? じゃあええと、もの凄く噛み砕いて言うとね……」

真帆「私たちの未来をサリエリ世界線へとつなげているファクターは、今しがた消した私のアマデウス以外にも、まだ他に存在している可能性があり──」

真帆「であれば、まだ残っている他のファクターにも何らかの対処しなければ、シュタインズゲート世界線へ戻ることはできないのではないか──?」

真帆「という事なのだけど、これなら伝わるかしら?」

紅莉栖『他のファクター……』

岡部『……ふむ』

岡部『つまり、サリエリ世界線からシュタインズゲート世界線へ戻るためには……』

岡部『先刻のアマデウスだけではなく、他にも消さなければならない“何か”がある、と』

岡部『そう言いたいわけなのか?』

真帆「ええそうね、そんな感じの解釈で大丈夫よ」
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 18:22:19.13 ID:kqRSVJTw0
鈴羽『……でも』

鈴羽『他の“何か”とは何のことなのさ? サリエリ以外に消さなければいけない対象があるなんて、ちょっと考えにくいんだけど』

真帆「そう?」

鈴羽『そうだよ。だって……』

鈴羽『サリエリ世界線とは、タイムマシンが存在する歴史のことを指すわけで。そしてそのタイムマシンを作り上げるのが、君の身体を乗っ取った未来のサリエリだということも間違いはない』

鈴羽『……だったらやっぱり』

鈴羽『サリエリを消せばタイムマシンも消える。そしてそれが、サリエリ世界線の消滅につながる。こう考えるのが道理というものだとボクには思えるんだけどな』

真帆「言いたいことは分かるわ、阿万音さん。でもね……」

真帆「もしも“他の何か”というものが、タイムマシンを作り出す可能性を持った、サリエリ以外の存在なのだとしたら?」

鈴羽『……え』

岡部『なん……だと?』

紅莉栖『サリエリ以外……』

真帆「もしそうなら……」

真帆「それなら。私のアマデウスを消したところで、今度はサリエリではない他の“誰か”の手によって、タイムマシンは開発されてしまう可能性がある」

真帆「そして、そんな可能性が残っている状況では、とてもではないけどシュタインズゲート世界線……」

真帆「そうよ阿万音さん。あなたが恋焦がれるタイムマシンの存在しない歴史、シュタインズゲート世界線。そんな理想の歴史になんて、戻れるはずがない」

真帆「そうは思わない?」

鈴羽『それは……そうかもしれないけど……』
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 18:23:19.12 ID:kqRSVJTw0
岡部『いや待て。件の物は、あのタイムマシンなのだぞ? その辺の輩にそうホイホイと作られてたまるか、日曜大工で本棚を作るわけでもあるまいし』

真帆「ふふっ。なるほど確かにそうね。タイムマシンを作り出すためには、少なくともいくつかの条件をクリアしていなければならない」

岡部『条件となると……。やはりそこは、他の世界線における記憶……辺りが絡んできそうではあるが』

真帆「ええ、その見立てには私も賛成」

真帆「阿万音さんのいた未来において、サリエリのタイムマシン開発を成功に導いた最大の要因。それは言うまでもなく、例の107領域に眠っていた他世界線での記憶が鍵となっていたはずよ」

真帆「事実、消したアマデウスは突如増幅した謎の記憶領域へのアクセス方法を、しっかりと確立していた」

真帆「となれば、閲覧可能となった膨大な記憶データの中には、他の世界線におけるタイムマシン開発に関わる情報も多大に含まれていたはず」

真帆「もしも私のアマデウス以外にも、この世界のどこかに、それと似たような情報を持っている何者かが存在しているとしたら? と」

真帆「これはそういう話なわけよ」

岡部『なるほど。つまり……『作り出せる人物』ではなく、『作り方を知っている人物』がいるかもしれない、ということか』

真帆「そうね。そう表現した方が的確でしょうね」

紅莉栖『知って……いる?』ピク

鈴羽『でもさ。理屈は分かったけど……』

鈴羽『それって要するに、どこの誰とも知れないタイムマシンの開発者を見つけろってことだよね? まだ作り始めてもいないのに』

鈴羽『いくらなんでも無茶だ。それこそ雲を掴むような話だよ』
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 18:31:11.47 ID:kqRSVJTw0
真帆「それがね、意外とそうでも──」

紅莉栖『先輩!』ガタッ

真帆「!? な、なに紅莉栖、いきなり大きな声で……っていうか、カメラに近すぎよ、ビックリするじゃない?」

紅莉栖『あ、すいません。でも、その……』

真帆「なに? どうしたの?」

紅莉栖『私は……私は! 今の先輩の考えには賛同しかねます!』

真帆「え?」

紅莉栖『サリエリ……。デリートした先輩のアマデウス以外にも、タイムマシン開発に関わる記憶を所持する人物』

紅莉栖『もし本当にそんな人が実在しているのだとしても……』

紅莉栖『でもそれは、今の不可解な現状を説明付けれるほどの要因とはなり得ないはずです!』

真帆「どうしてそう思うのかしら?」

紅莉栖『理由は彼、岡部倫太郎が持つ……リーディングシュタイナーの能力です』

真帆「いいわ。聞きましょう」
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 18:35:25.35 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『これまで。彼が持つリーディングシュタイナーは、微かな過去の変動ですらも的確に感知してきました』

紅莉栖『その感知能力の繊細さに関しては、私が保証します』

真帆「ええ、そこを疑うつもりはないわ」

紅莉栖『では……』

紅莉栖『先ほどの先輩のお話では、未来からサリエリが消滅したことで、サリエリではない他の人物がタイムマシンを開発したということでしたが……』

真帆「ええ、その通りね」

紅莉栖『もしも先輩の仮説が正しく、タイムマシンの開発がサリエリ以外の誰かの手で成し遂げられたのだとすれば』

紅莉栖『それなら。アマデウスの消滅に伴い、阿万音さんが未来から請け負ってきた任務の内容に、何かしらの変化が現れていなければおかしい』

紅莉栖『そうは思いませんか?』

真帆「…………」

鈴羽『あ……確かに……』

紅莉栖『仮に変化が現れていたとしても、歴史の改変と共に記憶を上書きされてしまう私たちにそれを知る術はありません。でも……』

紅莉栖『……岡部は違う』

紅莉栖『岡部倫太郎のリーディングシュタイナーなら、その変化を過去の改変という形で補足できているはず』

紅莉栖『ですが、私の見たところ……』

紅莉栖『岡部? あなた、アマデウスが消えたとき、リーディングシュタイナーを感じた?』

岡部『いや……特に何も感じはしなかったが』

紅莉栖『……そう、やっぱり』

紅莉栖『どうですか、先輩? おかしいですよね、先輩? 彼のリーディングシュタイナーが不発だったという事実は、先輩の仮説と相反していますよね?』

紅莉栖(……紅莉栖)
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 18:37:26.21 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『つまり結論は……先輩の……』

紅莉栖『先輩のお考えは……的外れもいいところだという事です!』

真帆(さっすが……紅莉栖ねぇ)フゥ

真帆「そう。で、だったら何かしら?」

紅莉栖『何って……ですから……』

紅莉栖『で、す、か、らっ! サリエリの代わりになる“誰か”に、何かしらの対処をほどこしたところで意味なんてない! 何の意味もないんですっ!』

真帆「だから、それがどうしたの?」ニコリ

紅莉栖『!?』

紅莉栖『せ、先輩! 妙な考えは捨ててください!』

岡部『なに?』

鈴羽『妙な考えって、何の話だい?』

真帆(本当、この子は優しさが過ぎる)

真帆(でも、ごめんなさいね紅莉栖。例えあなたでも、邪魔をさせるつもりはないの)
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 18:38:48.09 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『ねえ先輩? 答えてください!』

紅莉栖『どうして先輩は、ラボにいるんですか? なぜアメリカに戻って来なかったんですか? 私と先輩の間にあるこの距離は……何のための物なんですか!?』

真帆「さっきも言ったでしょ? あなた達に……違うわね。紅莉栖、憎ったらしい後輩のあなたにだけは邪魔をして欲しくなかったからよ」

紅莉栖『邪魔って何ですか!? 先輩、何をしようとしているんですか!?』

岡部『どうした紅莉栖! 落ち着け!』

紅莉栖『アマデウス以外のファクターって、先輩のことですよね!? タイムマシンを作りかねない誰かって、先輩はご自分のことを言っていたんじゃないんですか!?』

鈴羽『え……』

岡部『んな……んだと?』

岡部『まさか……比屋定さんまでもが、他の世界線での記憶を思い出しているというのか?』

真帆「いいえ、それは違うわね、岡部さん。私はまだ、何一つとして思い出してはいないわよ」

岡部『しかし……それでは……?』

紅莉栖『違う、違うのよ! そうじゃないの、岡部!』

紅莉栖『私は……私は、この前、この場所で、先輩の前で……』

紅莉栖『タイムマシン開発に関する基礎理論を、先輩に対して話してしまった……』
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 18:40:23.42 ID:kqRSVJTw0
岡部『あの時のことか……』

紅莉栖『それは詳細を省いた概要だったけど、でも先輩なら……あの真帆先輩になら! そんな歯抜けの説明でも十分すぎる!』

鈴羽『つまり……ボクたちがペラペラと事情を話したことで、比屋定真帆もまたタイムマシン開発を始めてしまう可能性が生まれてしまったと……』

紅莉栖『ああ! 私は迂闊だった! どうしてこんなことに真帆先輩を巻き込もうなんてっ!?』

岡部『くそ、落ち着けといっているだろう、紅莉栖!』

紅莉栖『でもっ!』

真帆(あーあ。もうバレちゃったか。もう少し時間を稼げると思っていたんだけどな)

真帆(何せ、3.24テラバイトもあるから、ここのPCだと読み込むだけでも時間がかかるのよね)

真帆(でも、それもあと少しで終わりそうね。それなら……)

真帆「ねえ紅莉栖。一つ、別の仮説を話しましょう」

紅莉栖『何の……仮説ですか?』

真帆「未来からサリエリが消えたのに、どうして岡部さんのリーディングシュタイナーが発動しなかったのか。それに対する私なりの見解よ」

紅莉栖『…………』

真帆「まず先に、これは大前提なのだけど……」

真帆「私のアマデウスが消えたことで、この世界の未来からサリエリは完全に消え去ったわ。ダミーも複製も存在しない。これは確実よ」
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 18:44:31.99 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『……でも。それでは岡部のリーディングシュタイナーが不発だったことへの説明付けが不可能です』

真帆「あるのよ。すごく難しくて、馬鹿みたいに長い道のりだけど。でも、私たちの主観に影響を与えないで、それでもサリエリを消す方法ならある」

紅莉栖『……信じられません』

真帆「なぁに、話としては単純よ」

真帆「単に、これ以降の歴史において、オリジナルである私がアマデウスの……サリエリの振りをする。ずっと、ずっと、し続けていく」

真帆「そうして阿万音さんが今の歳に為るまでにタイムマシンを作り出し……今回と同じ任務を与えて過去へと送り出す」

真帆「そうすれば、この時代に来た阿万音さんの行動に変化は生じず、結果として過去の改変は行われ──」

紅莉栖『馬鹿げています! そんなことは不可能です!』

真帆「かも、知れないわね。でも、実際に今、私たちはそんな歴史の中に立っているのかもしれないわよ?」

紅莉栖『有り得ません! そもそもその考えだと因果の輪が閉じているじゃないですか! ウロボルスじゃあるまいし、そんなものは仮説とは呼べません!』

真帆「あらら、手厳しいわね。紅莉栖はどうやら、私の考えがお気に召さないみたい」ウフフ

紅莉栖『ふざけないで下さい!』

真帆「じゃあ、こっちの案ならどうかしら? 岡部さんがリーディングシュタイナーを感じなかったのは、実は……」

紅莉栖『先輩……』

真帆「世界線が、気を利かせてくれたから……なんてね」

紅莉栖『先っ! 輩っ!!!』
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 18:52:39.36 ID:kqRSVJTw0
真帆「あーあ。後輩に本気で起こられてしまったわ。これはとうとう、私も覚悟を決めるときがきたようね」

真帆「さて……と」

紅莉栖『先輩! 何をするつもりなんですか!?』

真帆「決まっているでしょう? タイムマシンを生み出しかねない、もう一つのファクターに、対処を施すのよ」

紅莉栖『お願いだから! 止めてくださいっ!』

真帆「ああもう、煩いわね。またカメラに近づきすぎているわよ?」

紅莉栖『そんなこと、今はどうでもいいですから!』

真帆(本当にこの子は……)

真帆「ねえ紅莉栖。あなた勘違いをしているようだから、言っておくけど」

紅莉栖『勘違いって何ですか!』

真帆「私、別にそんな大層なことをしようなんて思っていないわ」

紅莉栖『じゃあ……何をするつもりなのか、ちゃんと話してください』

真帆「……はぁ。これ、何だか分かる?」ヒョイ

紅莉栖『それは……ハードディスク……ですか?』

真帆「そ。外付けのUSB・HDDよ。どう? 見覚えはない?」

紅莉栖『え? ……あ、それって確か、研究室の……記憶抽出に使っている奴』
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 18:55:32.05 ID:kqRSVJTw0
真帆「あたり。実はね、日本に来る前に、研究室によってちょっと拝借してきたの」

紅莉栖『……え?』

真帆「まあ、無断拝借がレスキネン教授にバレてたから、戻ったらお説教されるかもしれないわねぇ。ああ、やだやだ」

真帆「でね。実はこのハードの中には、たまたま前回抽出した私の記憶データが、まだ残っているのよ」

紅莉栖『え……じゃあ先輩は、ひょっとして……VRを?』

真帆「そう、ビジュアル・リビルディングよ。だ〜か〜ら〜」

真帆「今から私は、これを使って記憶の上書きをしま〜す」

紅莉栖『……え? ……え?』

真帆「どう? 良い案だとは思わない? この方法なら、私の記憶だけを1月24日の状態に戻すだけで、理想的な状況を作り出せる」

真帆「今から大体10日前。つまり、あなたからタイムマシンに関する基礎理論を聞く前の状態に記憶を戻すことが出来たなら……」

真帆「その私にはもう、タイムマシン開発を成功させる手段はなくなる」

真帆「つまり。サリエリ世界線へとつながるもう一つのファクターを、この世界から完全に消すことができる」

紅莉栖『…………』

真帆「これ以上ないってくらいの、名案でしょ?」

紅莉栖『え……でも……』
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 18:59:50.44 ID:kqRSVJTw0
真帆「何よ、しみったれた顔してくれちゃって」

紅莉栖『だって……いや……でも……』

真帆「紅、莉、栖。あなた心配しすぎだわ。よく考えてみなさいな? VR技術の完成度は、未来にいたはずのサリエリと、そして……」

真帆「あなたの隣にいる岡部さんが、すでに何度も実証してくれているじゃない」

真帆「だから何も、心配はいらないわ」

紅莉栖『それは……そうかもしれませんが……』

真帆「まあ、タイムリープマシンとかいって未来から記憶を飛ばす際は、記憶の齟齬がどうのこうので24時間という制限を設けていたみたいだけど……」

真帆「でも今回は、未来ではなく過去からの10日。つまり、一度は私の脳が経験している記憶構成なのだから、きっと問題はないでしょう」

紅莉栖『…………』

真帆「別に自害とかするわけじゃないのよ? だからね、紅莉栖。そんなに大騒ぎされても、私としても何だか居心地が悪いのよ。分かるでしょ?」

紅莉栖『ええと……その……まあ』

真帆「よろしい。では、ちょうど下準備も全て終わったみたいだし……」

真帆「じゃ。後のことは頼むわよ、紅莉栖」

紅莉栖『え……あ、はい』
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 19:02:18.09 ID:kqRSVJTw0
真帆「それに岡部さんも。これが上手くいけば、その後はあなたが一番大変だと思うけど。あの子の説得、どうかお願いするわね」

岡部『…………』

紅莉栖『あ……先輩、お気づきだったんですね?』

真帆「ええ、まあ一応ね」

真帆「この世界。このサリエリ世界線の未来からタイムマシンが消える」

真帆「そうなれば、阿万音さんがこの時代にタイムトラベルして来たという事実自体が無かったことになってしまうはずよね?」

紅莉栖『はい、その通りです』

真帆「なら。思ったとおりに世界線を動かせたとしても、そこで何の手も打たなければ、その歴史は再びサリエリ世界線へと向かってしまうかもしれない」

真帆「だから。サリエリ世界線の可能性を未来から完全に淘汰するためには……岡部さん」

真帆「私のアマデウスが私に向けてVRを使うことのないように。そして、107領域の記憶を封印するように……」

真帆「歴史の再構築が終わったあと、岡部さんには私のアマデウスを説き伏せてもらわなければならない」

岡部『…………』

真帆「向こうの世界線でも、すでに“ほつれ”は迎えているのでしょうけれど、それでも4月10までに説得することができたのなら、“破綻”を防ぐことは……」

岡部『…………』

真帆「もう。そんなに不機嫌そうな顔をしないで、岡部さん。確かに〆の大仕事を押し付けてしまって申し訳ないとは思うわ」

真帆「でもね、心配しないで。岡部さんの言葉になら、あの子はきっと耳を傾けてくれるはずよ」

真帆「だからね、岡部さん。この後のこと、どうかよろしく──

岡部『だが断る』
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 19:04:06.02 ID:kqRSVJTw0
ちょっと休憩します 1、2時間くらいで再開する予定です すいません
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/21(土) 19:05:47.38 ID:DFC4dkD10

楽しみにしてます
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:01:11.58 ID:kqRSVJTw0
お待たせいたしました再開します
>>365
ご期待に添えるかどうか分かりませんが 少しでも楽しんでいただければと
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:02:42.58 ID:kqRSVJTw0
岡部『だが断る』

真帆「え?」

岡部『誰が頼まれてなど、やるものか』ピッピッ

真帆(!?)

紅莉栖『お……かべ?』

岡部『なぁにをボサっとしている、助手よ! 貴様も今すぐまゆりに電話をかけろ!』プルルルル プルルルル

紅莉栖『え? え? え?』

岡部『おお、ダルか! 今すぐラボへ向かってくれ! ああ!? 理由なんてどうでもいい! とにかく比屋定さんを止めてくれ! 頼む!』

真帆「岡部さん……あなた、どういうつもり?」

岡部『それはこっちの台詞だ』

岡部『あなたがそこで、俺たちのために何をしてくれようとしているのかは理解した。だが理解をした上であえて言わせてもらおう』

岡部『あなたがやろうとしている事は、はっきりいって迷惑だ』

真帆「……そう」ズキリ

紅莉栖『岡部、ちょ、ちょっと……』

岡部『やかましい! お前は早く、まゆりにラボへ向かうよう緊急指示を出せ!』
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:07:24.08 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『なんで……?』

岡部『分からないのか?』

紅莉栖『……何を、よ?』

真帆「私にも、岡部さんが何を考えているのか分からないわね。説明してくれる?」

岡部『ブラウニーの分際で、すっとぼけたままペラペラとしゃべりおって! ならば言わせてもらおう!』

真帆(…………)ゴクリ

岡部『比屋定さん。今あなたがいるその場所は、俺にとってかけがえの無いほどに神聖な場所でな』

真帆「へぇ……そうだったの」

岡部『その場所はな。いつだって夢や希望なんて馬鹿げた代物を手さげ袋に詰め込んで……』

岡部『そうして仲間たちと下らないことで笑いあうための場所なんだ。そこへ土足で踏み込んでおいて……』

岡部『どうしてあなたは今、そこで一人で泣いている?』

真帆(!?)バッ

真帆(あ……騙された……)

真帆「な……何よ。べ、別に涙なんて出ていないじゃない!」

岡部『とぼけるな』

真帆「何がよ……」
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:12:24.08 ID:kqRSVJTw0
岡部『分からないと思うか? 気付かないと思うのか? 話して聞かせただろうに』

真帆「何を……よ」

岡部『決まっているだろう。俺という男が、数多の世界線を渡り歩く中で見捨ててきた仲間たちの話だ』

岡部『俺の我がままで想いを断たれるあいつ等は、いつだって今の比屋定さんと同じ笑顔をしていたぞ』

真帆「そ、そんなの、岡部さんの思い過ごしでしょう?」

岡部『まだ言うかぁ! 涙がなければ! 顔が笑ってさえいれば! それで泣いていないとでも言うつもりか!?』

真帆「…………」ズキリ

真帆(……ボロPCの癖に、カメラの性能が良すぎじゃない)

岡部『あなたが俺たちのために、その選択を選んでくれたことには感謝する。だが……これ以上、俺のラボでふざけた真似をされては困る!』

岡部『そんな悪行三昧を、この鳳凰院凶真が許すわけがないだろう!』

真帆「何で……私が……」

岡部『記憶を上書きすると言ったな?』

真帆「……そのつもりよ」

岡部『VR技術なら。タイムリープマシンなら、俺が何度も実証したと言ったな?』

真帆「事実でしょう!?」
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:18:28.31 ID:kqRSVJTw0
岡部『ああ、そうだ。事実だ。俺は何度も何度も何度も何度も、繰り返し未来から過去へと記憶を飛ばし続けてきた』

真帆「だったら、技術的に何の心配もいらないじゃない!」

岡部『どうしてそうなるっ! 違うだろう、そうではないだろう!?』

岡部『比屋定さん。もしもあなたが誤解をしているなら、訂正しよう!』

岡部『俺は今まで、一度たりとも未来からの電話を受け取ったことはない。俺は常に、未来から送る側であり続けてきた!』

真帆「……っ」ドキッ

岡部『だが、考えたことはある。もしも突然、未来の俺から電話がかかってきたら……』

岡部『俺はそのとき、何の躊躇もなくその電話を取れるのか?』

岡部『だが答えは……出せなかった。怖いと、今の自分を失うことがどうしても怖いと、そう思ってしまう自分も確かに存在しているのだ』

真帆「でも! でも、あなたは……実際に何度も主観を上書きされてきたのでしょう?」

岡部『それは、そうせざるを得なかったからだ。そうしなければ、まゆりも、そして紅莉栖も救うことができなかったからだ』

岡部『だが……』

岡部『もしも平和なシュタインズゲート世界線において、未来から……何の前ぶれもなく、今ここにいる俺の主観を奪う電話が届いたのだとしたら……』

真帆「それでも岡部さん、あなたは電話に出るわ。違う?」

岡部『ああ、そうだろうな。迷い、戸惑った挙句、俺はその未来からの自分を受け入れるのだろう。これまでずっと、そうしてきたようにな』
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 20:20:27.47 ID:megGgTROo
小説版を思い出すな
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:21:30.67 ID:kqRSVJTw0
岡部『だから分かる。比屋定さん、それはとても恐ろしい覚悟だ。今の自分を失う覚悟をする。自らそれを受け入れようと覚悟をする』

岡部『これは質の悪い冗談にいつまでも付き合い続けるような、そんな終わらない悪夢にも似た決断だ』

真帆「……そんなこと……ない……」

岡部『そうすることで世界線が移動し、歴史が再構築されるのだとしても。ではそれが何だと言うのだ?』

岡部『恐ろしいものは、どうしたって恐ろしいに決まっている。どれだけ頭で理解していようとも、感情はまったくの別物なのだからな』

真帆「そんなはず……は……」

岡部『だからこそ。比屋定さん、あなたがそこまでしてくれる必要などない』

岡部『今回の件がなければ、そもそもあなたは俺に対して面識などなかったはずだ。そんなあなたに、そこまでの覚悟を背負わせることなど俺には出来ない』

岡部『だから、後は任せてくれ。この先は、俺が……俺たちが何とかしてみせる。だからっ!』

真帆「いっ……やっ……よ!」

岡部『何故だ。あなたにそこまでする義理などないだろう……?』

真帆「あるわよっ!」
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:24:00.54 ID:kqRSVJTw0
真帆「私はね……これでも私はね、牧瀬紅莉栖の先輩なのよ!」

真帆「紅莉栖が大変なときに、私は何もしてあげられなかった!」

真帆「α世界線でまゆりさんを救えなかった時も! β世界線で紅莉栖が死を受け入れた時も!」

真帆「私はただの一度だって、紅莉栖から何も相談されなかった……」

真帆「本音を言えば! どうして私を頼ってくれなかったのか、腹立たしく思ったくらいよ!」

岡部『…………』

真帆「私だって……紅莉栖を助けたい。まゆりさんを……助けてあげたい。阿万音さんの未来を守ってあげたい!」

真帆「それに……岡部さんだって……」

真帆(岡部さん……だって……)

岡部『…………』

真帆「あなた達の幸せ。それを手に入れるのに必要なのが、今の私の主観だというのなら……安いものよ」

岡部『どうしても、やるつもりなのか?』

真帆「やるわ」
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:26:22.92 ID:kqRSVJTw0
岡部『考え直しては、もらえないのか?』

真帆「やると言ったらやるわ」


カチ……

ピリリリリリ……ピリリリリリ……


真帆「岡部さん。あなたの神聖な場所で勝手な真似をして、本当にごめんなさい」

岡部『……っ』

真帆「でもね。私にもプライドがある。あの牧瀬紅莉栖の先輩としてのプライドが──


ドンドンドンドン!!!


真帆「!?」

まゆり「マホちゃん! 何をしているの!? ここを開けて!」

真帆(ま、まゆりさん!?)

まゆり「今、紅莉栖ちゃんから連絡があった! マホちゃんが危ないからすぐにラボに向かってって!」

真帆(はっ!?)
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:27:58.61 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『先輩! 私やまゆりのことは、先輩が担ぐべきものではないはずです!』

真帆「ふざけたことを言わないで! 私は! 私はねえ!」

まゆり「マホちゃん! 約束したよね? まゆしぃが帰ってきたら、一緒に秋葉原の街を回ろうねって、お約束したよね!」

真帆「ごめんなさい、まゆりさん。約束は……守れない」

まゆり「マホちゃん! 返事をしてください! 中にいるんだよね!」

真帆「私は自分勝手に……紅莉栖とまゆりさんを救う!」

真帆(絶対に、救って見せる!)

岡部『………』
岡部『……』
岡部『…』

岡部『どうやら……止めることはできそうもないな。不甲斐ない男で、すまない』

紅莉栖『岡部!?』

真帆「いいえ。私の後輩の重荷、今まで一人で背負ってくれてありがとう、岡部さん」

岡部『比屋定さんこそ。これまで俺だけが感じてきた孤独感を、一緒に担ごうとしてくれたこと……素直に感謝する』

紅莉栖『……え?』

真帆「ふふ。そんな大層な荷物なんて担げないわ。私って、ほら小さいから」
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:29:57.97 ID:kqRSVJTw0
岡部『よくいう。見た目と中身の大きさを盛大に反比例させておいて』

真帆「それじゃあね、岡部さん。上手くいったなら、次の世界線で会いましょう?」

岡部『ああ。その時は必ず、あなたをラボメンとして迎えに行こう』

真帆「それは楽しみね」

岡部『楽しみにしてくれるのか?』

真帆「ええ、当然でしょ? だからお願い。あの子を……私のアマデウスを説得してシュタインズゲート世界線を取り戻して、岡部さん」

岡部『……よかろう、心得た。ではラボメンナンバー009、サボタージュ・ブラウニーよ! その時が訪れるのを、首を長くして待っているがいい!』

紅莉栖『……先輩』

真帆(ありがとう、紅莉栖。ありがとう、まゆりさん。ありがとう、阿万音さん)

真帆(レスキネン教授も未来のサリエリも、そして私のアマデウスも紅莉栖のアマデウスも……みんなみんな、ありがとう)

真帆(そして……)

真帆「さようなら」

真帆(さようなら、どこか私の知らない世界での、私の想い人。ほとんどアレな人だったけど、最後だけはちょっと素敵だったわよ、オカリンマン)

真帆「すぅーーー……」

真帆(よし)


ピッ


真帆(これで、全てが上手くいく。絶対に、そうなるに違いない)

真帆(確証なんてないけど、でも絶対に間違いない。だって……)

真帆(だって私は、あの天才、牧瀬紅莉栖の大先輩、比屋定真帆なのよ?)

真帆(だからね。みんな、幸せになりなさい、頼んだわよ)スッ






















377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:32:10.38 ID:kqRSVJTw0
あと一つ 短いけどエピローグ的なものがあります それで終わりです

>>371
小説版は手を付けていないのですが気になりました 何と言うタイトルでしょうか?
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:33:37.32 ID:kqRSVJTw0
     31

岡部「んぐぅぅぅぅっぅ!?」グラリ

紅莉栖「ちょ、岡部!?」

岡部「ぬ……」

まゆり「どうしたのオカリン? どこか痛いの?」

ダル「んにゃ。掃除が嫌で、いつもの厨二的な何かに逃げ込んだに1ガバス」

紅莉栖「ねえ岡部、ひょっとして今の……」

岡部「いや、大丈夫だ心配ない。というか、狭いぞお前たち、ゾロゾロと! こんなゴミ溜めのような場所……」

岡部「…………」キョロキョロ

岡部「ここは……比屋定さんの部屋なのか?」

ダル「今さら何を言っとるんだお前は」

まゆり「そうだよぉ? 今までずっとみんなで、紅莉栖ちゃんの先輩のお部屋をお掃除していたのに、急にどうしたのかな?」

ダル「つーか。やっぱロリ(合法)に汚属性追加とか、攻め過ぎにもほどがあるだろ!」

岡部「ま、さ、か……」

紅莉栖「お、岡部?」

真帆「ねえ、どうしたの?」ヒョコ
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:35:32.63 ID:kqRSVJTw0
岡部「!?」

岡部「比屋定さん……なのか?」

真帆「それ以外の誰よ? というか、本当に大丈夫なの? 一応救急箱くらいならあるから、持って来ましょうか?」

レス「Oh……マホの部屋の救急箱はパンドラの箱のにおいがするねぇ」

岡部「フ……フ……フゥーーーーーハハハハハハ!」

岡部「なんと……なんとまあ! 堪え性のないブラウニーではないか!」ガバッ

真帆「んぎゃ!? な、んなぁ!?」

紅莉栖「おまっ!」

まゆり「オカリン!?」

レス「なんと! リンターロは積極的だね、Hahaha!」

ダル「だが合法だ!」 

紅莉栖「いや普通に違法だろ!」

真帆「ちょ、笑い事じゃありません教授! だ、誰か助けて襲われる〜」

レス「私には楽しそうに見えるのだがね、マホ?」
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:37:20.23 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖「っていうか、早く先輩から離れろ! このHENTAI! 国際問題にされたいか!」

岡部「フゥーーーーーハハハハハハ!!!?」ガゴ

岡部「…………」チーン

紅莉栖「はぁはぁ、お前は一体、何がしたいんだ」

岡部「ふん!」ガバリッ

真帆「ひぃ! 復活してきたわ!?」

岡部「比屋定真帆!」ビシリ

真帆「ふ、ふわわわ!?」

岡部「待ちきれず、モニタの向こう側から這い出してくるとは、見上げたラボメン精神である!」

紅莉栖「うわ……強く殴りすぎたかしら……」

岡部「今、あいにくと持ち合わせがないのでな。これで我慢をしてもらおう!」


ブチィ!


まゆり「ええ!? オカリンどうしちゃったの!?」

ダル「自分の白衣からラボメンバッチを引きちぎるとか、オカリンご乱心の巻でござる!」

レス「Hou、見かけによらず、中々にワイルドだねリンターロは」

紅莉栖「っていうか、初対面の先輩をラボメンに誘う気? あんた相変わらずねぇ」
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/21(土) 20:38:24.48 ID:DFC4dkD10
371じゃないけど、回帰喪失を思い出す
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:38:39.51 ID:kqRSVJTw0
岡部「フゥーーーーーハハハハハハ!!! この鳳凰院凶真、かわした約束は必ず守る!」

岡部「比屋定真帆……いや、ラボメンナンバー009! サボタージュ・ブラウニーよ!」

岡部「貴様にこのラボメンたる証、ラボメンバッチを授ける! さあ、受け取るがいい!」

真帆「え……いらない」

紅莉栖「ですよね〜」










                                    END
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 20:40:36.13 ID:megGgTROo
完結乙
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:40:57.61 ID:kqRSVJTw0
ということで、これにてマホタソの大冒険は終了となります
ここまでお付き合いいただきました皆々様、レスしてくれた方々、大変ありがとうございました
乱筆乱文誤字脱字に捏造設定ご都合解釈の嵐、お見苦しい点も多々ございましたでしょうが、ご容赦いただければ幸いです

心残りは無い!といいたいところですが一つだけA真帆がA紅莉栖を説得するシーンだけがどうにも思ったように書けなくてカットしたのが悔やまれます。あ、あといただいたレスに上手い返しが思いつけなかったのも悔やむかな。申し訳ない!
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 20:41:47.61 ID:megGgTROo
>>377
STEINS;GATE‐シュタインズゲート‐ 円環連鎖のウロボロス(2)
原作との矛盾がいくつかあるが没入できる良作
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:42:15.84 ID:kqRSVJTw0
ということで、とりあえずHTML化とかいうのを依頼すればいいのだろうけど
ひょっとしてレスとかもらえてしまう可能性にかけて明日くらいまで待つのとかダメかなダメじゃないなよしまとういいじゃないかそれくらいしつもんとかつっこみとかそしりとかあるかもしれないじゃないか
うへへ
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:43:19.90 ID:kqRSVJTw0
>>383読破乙!(ありがとうございますの意)
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/21(土) 20:44:44.35 ID:DFC4dkD10

面白かった
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 20:45:05.18 ID:kqRSVJTw0
>>385
ありがとう、早速明日にでも探してみましゃう
原作との矛盾はSS書きにとって宝の山なのです!
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 20:47:24.34 ID:kqRSVJTwo
>>388
ありがとうございます! その一言で報われるというものです
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 20:58:45.04 ID:kEvgO2Vjo

バッジ受け取ってもらえない切ないオカリンの心境は分かるけど笑ってしまうww
HTML化は今板の管理人が仕事放置してるからずっと残ったままになりそうな予感
申請しておいて悪いことはないけれど
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 21:08:22.45 ID:kqRSVJTwo
>>391
ありがとう しんみりな最後をひっくり返す返すのにオカリンほどの適役はおらんよってに笑ってやってくだせえ
HTML化の件、そげなことになっとっとですか 情報サンクス 一応明日にでも依頼をかけてみやす
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/21(土) 22:57:18.85 ID:YaoPpZfc0
アニメ『シュタインズ・ゲート』の歴代主題歌まとめ
http://youtubelib.com/steinsgate-songs

1.1 オープニングテーマ編
1.1.0.1 OP1. いとうかなこ『Hacking to the Gate』
1.2 エンディングテーマ編
1.2.0.1 EN1. ファンタズム『刻司ル十二ノ盟約』
1.2.0.2 EN2. いとうかなこ『スカイクラッドの観測者』
1.2.0.3 EN3. いとうかなこ『Another Heaven』
1.3 挿入曲(イメージソング)編
1.3.0.1 挿1. アフィリア・サーガ・イースト『ワタシ☆LOVEな☆オトメ!』
1.3.0.2 挿2. アフィリア・サーガ・イースト『My White Ribbon』
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/21(土) 22:58:46.56 ID:YaoPpZfc0
アニメ『シュタインズ・ゲート』の歴代主題歌まとめ
http://youtubelib.com/steinsgate-songs

1.1 オープニングテーマ編
1.1.0.1 OP1. いとうかなこ『Hacking to the Gate』
1.2 エンディングテーマ編
1.2.0.1 EN1. ファンタズム『刻司ル十二ノ盟約』
1.2.0.2 EN2. いとうかなこ『スカイクラッドの観測者』
1.2.0.3 EN3. いとうかなこ『Another Heaven』
1.3 挿入曲(イメージソング)編
1.3.0.1 挿1. アフィリア・サーガ・イースト『ワタシ☆LOVEな☆オトメ!』
1.3.0.2 挿2. アフィリア・サーガ・イースト『My White Ribbon』
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 14:17:54.00 ID:QSnDd+ySo
>>381
すまぬ、完全にみおとしていますた
回帰喪失というのがもしも[回帰喪失のスノーホワイト]なら、拙者の過去作にござる 違ったらゴメンしてください
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 15:18:07.91 ID:Sv+3hynbO
拡散希望
【SS掲載拒否推奨】あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト



SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します


概略1

現トリップ◆Jzh9fG75HAは

混沌電波(ちゃおラジ)なるSSシリーズにより、長くの間多くの人々を不快にし

また、注意や助言問わず煽り返す等の荒らし行為を続けていたが

その過程でついに、ちゃおラジは盗作により作られたものと露呈した



概略2

盗作されたものであるためと、掲載されたシリーズの削除を推奨されたSSまとめサイト「あやめ2nd」はこれを拒否

独自の調査によりちゃおラジは盗作に当たらないと表明

疑問視するコメント、および盗作に当たらないとの表明すら削除し、

盗作のもみ消しを謀る


概略3

なおも続く追及に、ついにあやめ2ndは掲載されたちゃおラジシリーズをすべて削除

ただし、ちゃおラジは盗作ではないという表明は撤回しないまま

シリーズを削除した理由は「ブログ運営に支障が出ると判断したため」とのこと




SSまとめサイトは、SS作者が書いたSSを自身のサイトに掲載し、サイト内の広告により金を得ている

SSまとめサイトは、SSがあって、SS作者がいて、はじめて成り立つ


故に、SSまとめサイトによるSS作者に対する背信行為はあってはならず、

SSにとどまらず創作に携わる人全てを踏みにじる行為、盗作をもみ消し隠そうとし

ちゃおラジが盗作ではないことの証明を放棄し、

義理立てすべきSS作者より自身のサイトを優先させた

あやめ速報姉妹サイト、あやめ2ndを許してはならない



あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト


SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:16:10.40 ID:+mU1ijAH0
色々見てきて本当にHTML化されなさそうな感じがしたのです
もったいないので 他所で書いてた過去作をそっと添えてみようという試みなのです
気が向いたときにやるのです ふふ
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:21:01.64 ID:+mU1ijAH0
あ、一応HTML化依頼はすませてみましたよ
というわけで今日は2012年3月に投下していた奴で
紅莉栖一人称のホワイトデーネタの奴でし いくぞよ

タイトル  贈答過多のオールパートナー
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:23:52.47 ID:+mU1ijAH0
     1

 正直に言えばこの一ヶ月の間、抱え込んだややこしい心境に、私の心は揺れ続けていた。

「やっぱり、受け取っちゃうんだろうな、私は」

 呼び出されて足を運んだ、ラボの屋上。鉄柵に肘を付き、そよぐ風に髪先をなびかせていると、何だか無性に顔をうつむけたくなってしまう。

「私だけが……もらえるんだ」

 そんな事をつぶやくと、いまいちよく分からない罪悪感が幅をきかせてきて、ちょっと鬱陶しい。

 考えすぎだと言う事は、分かってた。気にする必要なんてないって事も、ちゃんと分かっていた。だがそれでも、理性とは裏腹な感情の揺れは、中々どうして収まってくれそうもない。

 一月前の2月14日。一人の男性に、生まれて初めて贈ったチョコレート。嫌と言うほど自覚している不器用な腕前で、湯煎だけにも手間取りながら形作った、褐色色の想いの形。

 そんな不細工な代物を、はにかみながら受け取ってくれた男性の顔を思い出すと、気恥ずかしさと共に、ちょっとだけ憂鬱な何かが込み上げてくる。

「あげない方が、よかったのかな」

 などと口にするも、しかしそれが本心でないことは、言うまでもなく──

「あんなの、気にすること無いのに……」

 そして続ける言葉は、この一ヶ月の間、繰り返し唱え続けてきた呪文と、何も変わっていなかった。

 迷いに迷って用意した、少しは大人っぽさを匂わせる包装紙。包んだ箱にフワリとしたリボンをかけた、思いを込めたはずの贈り物。
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:26:47.06 ID:+mU1ijAH0
 渡すまでは、気にもしていなかった。なのに、照れ隠し全開でつっけんどんに突き出した私の手から、それを受け取った時の彼の言葉。

『ありがとう、紅莉栖』

 それは、普段の彼からは想像できない程、真っ直ぐに届けられた、お礼の言葉だったのだと、今さらながらに思う。

「ああ、余計なこと言った……」

 本当はとても嬉しかった、驚くほどに本音だった、素の返し。ちょっと素っ気無い言葉だったかもしれないけど、でも、静かに私を見つめる瞳と、いつもよりも少しだけ近く思えた距離感に、正直その時は舞い上がってしまった。

 だからつい、そんな気持ちを見せてしまうのが気恥ずかしくて、照れ隠しを予定よりも延長してしまった。

 真面目なフリとか気味が悪いだろと。真剣な顔なんて調子が狂うと。思ってもいない言葉を口にしながら、それでも強く胸を高鳴らせていた。

 そんな私に、彼はこう言った。

『別にフリではない。俺はいつだって、お前に感謝してきた。ずっと、な』

 普段のふざけた態度が、嘘のような振る舞い。とても深い色をした彼の眼差しに、私は舞い上がりながら、そして、ふと思ってしまった。

 今、彼が見ているのは、誰なんだろう?

 過去形で告げられた、彼の言葉。『ずっと』と添えられた、私にとっては奇妙な言い回し。そして感じてしまったのは──

『きっと、私だけじゃ……ない』

 そんな、ふんわりとした取り止めのない想いだった。

 あの夏を過ぎ、程なくした頃に聞かされた、不思議な話。終わりの見えない、延々と続いていたという、とても長い夏のお話。
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:32:42.53 ID:+mU1ijAH0
 そのお話の中に、度々姿を現した女の子。

 彼や大切な友達のために、頑張って、悩んで、苦しんでいたという、私と同じ形をした沢山の女の子たち。

「馬鹿か、私は……」

 きっと大好きだったんだと思う。きっとどの子も、今の私と同じくらい、彼に惹かれていんだと思う。

 だけどそれでも、その子達は彼の側にい続けることはなく──今、私だけが、こうして彼の傍らにいられる。

「何で、ずるい……とか思っちゃうんだ、馬鹿」

 彼が見ている先にいた、沢山の私。その子達が、私と別人だなんてことは思ってない。でも、それでも──


 ありがとう、紅莉栖


 これまでの色々な出来事。私の知らない、沢山の想いへと向けられたはずの、彼の言葉。それはきっと、私の知らないお礼の気持ちで。

 だから、困る。

「何て言えば……いいんだろう」

 もうすぐ私は、彼にお礼を伝える事になるだろう。さっき、ラボの屋上で待っているように言われた時から、覚悟はしていた。

 後少しすれば、後ろの扉から彼が来る。そして私は、彼から形を受け取って、想いを返さなければいけない。

 ちゃんと伝えることが、できる?
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:34:20.80 ID:+mU1ijAH0
 自信がなかった。一月前、ありがとうと言って、名前を呼んでくれた彼。

 その中に込められた、余りにも膨大な感謝の理由に気が付いてしまうと、今、私が抱えている想いが、とても薄っぺらに感じてしまった。

「ちゃんと……言いたい」

 つりあいたい。彼が向ける想いの重さに、出来る事なら吊り合ってあげたい。

 今の私に上書きされて消えた、いっぱいの私。聞かされて知った、彼女たちのために。今でも少しだけ残されている、微かな夢物語の欠片のために。

 ひと月前の彼の言葉に、つりあいたい。と、誰のためでもなくそう思ってしまうのは、ワガママなのだろうか。

「私って、こんな不器用だったっけ……」

 それはきっと、義務ではないのだろう。吊り合ってほしいなどと、一度も言われたためしがない。

 だからきっと彼は、そんな事を望んでなんて、いないだろう。だけどどうしても、そうできない事に歯がゆさを覚える。

「じゃなきゃ、私だけが受け取って、私だけが返すみたいで……何か嫌だ」

 きっと、沢山の私が踏み台になって、今の私がいる。それが悪い事だとは思わないけど、でもなぜだかそれは、とても寂しいことのように感じてしまう。

「ちょっと……寒いな」

 空を見上げれば、薄い空の色が瞳を覆う。三月も半ばに差し掛かったこの日。昨日、少しだけ舞った小さな雪景色の名残が、まだ屋上には残っていた。

「ほんと、寒いな」

 鉄柵から身体を離し、小さく身体を縮こまらせる。と──

「待たせたな」

 屋上の扉が開く音が聞こえ、そして彼の声が聞こえた。振り向き、そして私は目を丸くした。








403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:41:25.14 ID:+mU1ijAH0
     2

「ねぇオカリン。せっかくクリスちゃんを屋上に呼び出したのに、どうしてまゆしぃも一緒に来ないといけないのでしょうか?」

 目を丸めている私の耳を、彼に問いかけているまゆりの声が小さく揺らした。

「さっき言っただろう、まゆり。お前もすでに、このイベントの大切な要素なのだとな。ふぅーはははっ」

 一頻りのたまって高笑い。そんな、いつもと変わらぬ姿を眺めつつ、私はゆっくりと口を開く。

「岡部……一つ聞いていいか?」

「なんだ?」

 私は目をパチクリと瞬かせながら、伸ばした指先で彼の背後を指し示して見せる。

「それ……なに?」

「何? とは愚問だな。貴様、今日が何の日か、知らぬというワケでもあるまい?」

「いや、知ってるけど……でも、変だろそれ」

 私の指先。その先に捕らえた、いやに大きな布袋を穴が空くほど凝視する。

「変だと? 失敬な奴め。一月前の借り。それを返すのだ。これくらいあって、然るべきではないか」

 もう、意味がよく分からなかった。分かるのは精々、彼の言う一ヶ月前というのが、言わずもがな『あの日』に該当しているのだろうという程度の事。

「じゃあなに? その中はバレンタインのお返しが詰まってるとか……そう言いたいのか?」
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:42:14.45 ID:+mU1ijAH0
「無論である!」

 胸を張られてしまった。どこから論破すれば、いいんだろう?

「ええとだな、岡部。朴念仁代表のアンタに、センスとかを求めるつもりはないけど、でもいくらなんでも大きすぎると思うわけだ」

 ホワイトデーの定番といえば、軽めの菓子類や花などと、比較的かさばらない物が一般的だと思うわけで。

 なのに、彼の後ろにたたずんでいる布袋の大きさといったら、まるで季節外れのサンタクロースのようなんだけど。ギャグ……なんだろうか?

「かさばる物とか、普通は避けるのが一般的だと思うわけで……」

 どうしたものかと困り顔をぶら下げてしまうと、彼は顔を軽く緩めた。

「心配するな。一つ一つは、さほどかさばらん」

「一つ一つって、じゃあその中、色々詰め込んであるって……こと?」

 恐る恐る問いかけると、彼ははっきりと頷いて見せた。

「その通り。買い揃えるのに苦労した事も、今となっては良い思い出だな」

 もう、どこから突っ込んでいいのかすら、分からなくなってきた。

 彼は、唖然とした表情の私から視線を外すと、傍らで立っていたまゆりに目を向け、さもしたり顔で口を開く。

「では、まゆり。別命あるまで、ここで待機をしていろ」

「ええぇ?」

 唐突な指示に、当然の反応を示すまゆり。何をしたいんだ、こいつは?
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:43:17.09 ID:+mU1ijAH0
「いいから、呼ぶまで動くな。分かったな?」

 強く念を押され、シブシブと頷いている。なんだかちょっと、可哀想にみえてしまった。そして──

「では、メインイベントを始めようではないか」

 彼はそんな事を言いながら、布袋の先端を握り締めて、ゆっくりと私へ向けて、歩み始める。

「まさかと思うけど、質より量で勝負とか……そういう事?」

「何を言っている。うぬぼれているな、助手風情が。勘違いするな。こう見えても、俺は婦女子から大人気でな。毎年この時期は、大変なものだ」

 そんな事を言いながら、遠い目をしてみせる彼。何だかとても、胡散臭い。

「胡散臭い」

 思った事をそのまま口にする。と、彼の眉間にシワが寄った。

「失礼な奴め。まあいい。どの道、この中で、お前に渡す物は一個だ、安心しろ」

 ニヤリと笑いながらの一言に、不思議と少しだけ落胆してしまいそうになり、慌てて気持ちを持ち直す。

「あ……そう」

 おかしな事に、少しだけ声が上ずってしまった。別にいっぱい欲しいとか、そういう事ではない。

 そして私の足元に、ドチャリと音を立てて置かれる布袋。彼は袋に腕を突っ込んで、中身をゴソゴソと漁り始める。

「ところでだ、紅莉栖」
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:44:18.85 ID:+mU1ijAH0
「ふぇ?」

 出し抜けに、ちゃんとした名を呼ばれた。またしても、声を上ずらせてしまった。

「お前この前、まゆりの前で妙な事を口走ったらしいな? 自分だけ貰えるとか、何とか」

 ドキリとした。

「そんな事、あったかしら?」

 しらばっくれてみるも、しかし思い当る節はあった。一月の間、ずっと抱えていた何かを、ついポロリと口にして──何だかその時、まゆりの視線を感じた事があったような、なかったような。

「ふん、まあいい。それよりも……おっと、これか?」

 彼の手が袋から抜き出される。私の視線は、その大きな手に握られた、綺麗なラッピングの長細い小箱に、釘付けになる。が──

「なんだ、違うな。これはお前のではなかった」

 続けられた言葉に、小さく落胆し──

「仕方ない。お前から渡しておいてくれ」

 とんでもない台詞とともに、小箱が宙を舞い、すごく慌てる。

「うっわわ!」

 ギリギリで受け止める。危なくキャッチし損ねるところだった。何を考えてるんだ、こいつは?

「気をつけろ。想いの込めた一品だ。大切に扱え。渡す前に傷物にされたのでは、かなわんからな」

 しれっとした物言い。私は分けが分からず頬を引きつらせる。
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:45:44.30 ID:+mU1ijAH0
「む、ムチャクチャ言うな! 想いを込めてるなら、自分で渡せばいいだろ!?」

 思わず、口やかましくがなり立ててしまった。

「そう言うな。渡せるものなら……渡している」

 その口調がとても寂しげに聞こえて、高ぶりかけた言葉の色を引っ込め、思わず小さく息を飲む。

「何よ、その意味ありげな言い方」

 戸惑いがちに声をかけると、彼は私の問いかけた内容をスルーして、淡々と言葉を続ける。

「中身はフォークだ。ちゃんと渡しておけよ」

「何でフォークなんて……」

「前に、欲しいと言っていた女がいた。だからだ」

 なぜだかちょっとだけ、胸の奥が揺らいだ気がした。

「お次は……ち、またハズレか。ホレ、これも渡しといてくれ」

 再び、違う小箱が宙を舞う。

「え、ええ!?」

 再び慌てて、もう一度奇跡的なキャッチを遂げる。

「ナイスだ。割れ物だからな。絶対に落とすなよ」
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:47:04.03 ID:+mU1ijAH0
「だったら投げるな! つーか、割れ物って何よ?」

「マグカップだ。いつだったか、奴らの襲撃を受けたとき、あいつのカップが割れてしまったからな。代わりを買った」

 微かに引っ掛かる。

「襲撃って……なに」

 しかし彼は答えない。

「こんなのもあったか。やはり包装してないと安っぽく見えるな。まあいい。それもだ、頼んだぞ」

 そして宙を舞う、カップ入りのプリン。何とか片手で確保する。

「勝手に食べたら、やたらに怒っていたからな。ちゃんと名前も書いておいてやった。俺はいい奴だな、うむ」

 上ブタの真ん中に「助手」と殴り書きされた、どこにでも在りそうなプリン。

「助手じゃなくて……牧瀬だろ」

 知らないうちに、言葉が漏れ出していた。一瞬流れる沈黙。そして──

「そう、だったかもな」

 彼は静かにそう言うと、袋漁りを続けていく。

 それから、宙を舞っては私が受け取る、想いの形。何度も何度も繰り返され、その度に、どうしてか私の心には、小さな細波が立っていく。

 そして、気付けば私の腕の中は、渡せといわれて受け取った贈り物で、溢れかえっていた。
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:48:01.93 ID:+mU1ijAH0
「これで……最後?」

 すっかり萎れてしまった、大きかった布袋。そこから彼が手を抜き終えた様を、少しだけ霞んでいる視界でじっと見つめる。と、

「いや、まだ残っている」

 零すような彼の声。とても静かにそう言うと、私の目の前で、大きく息を吸い込み──


「「「いでよぉ、まゆりぃ!!!」」」


 ラボの屋上に、絶叫が木霊した。思わず、屋上の入り口へと目を向ける。

「まゆり……?」

 どこか呆然としたままで問いかける。彼は答える。

「ああ。あいつの元気な姿を、見せなくてはいけない奴がいる。絶対にな」

 何も言葉が、出てこなかった。ただ、こちらに向けて、テトテトと走ってくる大切な友達を、沸き上がる涙の隙間から、じっと見ていることしか出来なかった。

「そうだろ、紅莉栖?」

 信じられないような瞳で、見つめられた。頷くしかなかった。紅潮した私の頬から、何かが流れ落ちていくのが分かった。

 ただ、押し黙って立つ私と彼。そして、小走りに駆け寄ってくるまゆり。

「まゆり……」
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:49:17.70 ID:+mU1ijAH0
 彼女の名前をこうして口に出来る。その事が、とても温かくて──

「クリスちゃん、どうしたの? 泣いてるの? ひょっとして、オカリンにいじめられたの?」

 心配する声を、とても切なく感じてしまった。

「違うの。違うから、大丈夫だから。ね、まゆり」

 私は途切れ途切れに言葉を紡ぎ、そして彼女を抱きしめる。意味など、きっとないはずなのに。

「クリスちゃん?」

 不思議そうなまゆりの声。そして続けられた彼の声が、胸の奥に響く。

「いつか。もしもどこかで、お前があいつと出会える時がきたのなら、伝えておいてくれ。お前のおかげで、まゆりは今でも元気だと」

 その言葉に、私はまゆりから身体を離して、ちゃんと頷いて返す。

 ずっと不安だった。彼が私に向けた視線。2月14日に伝えられた言葉が重く思えて、嬉しさに釘を刺す寂しさが、どうしても拭えないでいた。

 でも分かった。だから──

「ありがとう、岡部」

 ちゃんと、言えた気がした。私の知らない沢山の私。その誰一人として取り残されることなく、何かを贈られ、お礼を告げられた。そんな気がした。

 やっと、つりあえたような──そんな気がした。

 そして、岡部の言葉が私に届く。お礼を告げた私の想い。岡部は少し気まずそうな顔をして、

「あ。お前へのお返しだけ……忘れていた」

 そんな事をのたまった。アホだと思った。




              END
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/22(日) 22:53:37.61 ID:+mU1ijAH0
うへへ sageでこそこそ楽しい
たまたま見つけてしまった人はお茶菓子程度のものだと思って読み流すのが吉!
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 23:30:24.29 ID:VyYsZEfSO
マホー、日本にはバレンタインデーに想い人にチョコレートを渡す風習があるみたいだねー
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/23(月) 00:08:20.57 ID:eCLY4xXro
よ……よくご存知でしたね教授。

(このキラキラした目。ろくでもない話題に持っていこうとしていることが、ありありと伺えるわ)チッ

(ならばここは、回避の一択ね)

どうしたんですか? 甘いものが食べたいならちょうどここに“ちんすこう”がありますけど…… ヒキダシ ガラガラ

(甘いというよりも甘じょっぱい系だけど、現状で使える盾としては悪くない)

どうです、食べますか?スィッ

(さあ、この沖縄銘菓の不思議な味覚で、余計な邪念を滅却されるがいいわ!)




って、調子に乗った スマナイ
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/23(月) 09:15:35.93 ID:ckUhghTOO

これがジャパニーズ青春なんですね紅莉栖さん
ところで真帆さんちんすこうを声に出して言ってもらえませんか出来れば少し恥じらいながらってダルくんが言ってた
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/23(月) 11:02:16.62 ID:eCLY4xXro
ちんすこう? 別に食べ慣れているから名前を言うくらいどうということもないけど……

(でも恥じらいながらって部分が意味不明ね。ひょっとしてセクシャルなニュアンスを含ませられているのかしら……って)

おお?

(紅莉栖がすごい顔で走っていったけど? あんなゴツい本を振り回して、何かあったのかしら?)



って、いや、あの、ですからね調子に乗ってしまいますからね…orz
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:04:10.34 ID:eCLY4xXr0
せっせっせっせ

目標は1000までいって自動でHTML化させることでやんす

ということで 暇みてのんびり遊びやす 飽きたらやめる可能性もあり

2011年9月26日投下って7年も前かよ

追憶謝辞のオカリンティーナ
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:06:26.96 ID:eCLY4xXr0
          1

 ラボと外界を隔てる安造りの扉を押し開けると、柔らかで親しみのある雰囲気が鼻に届く。

「おかえりぃ、オカリン」

 玄関先で無造作に靴を脱ぎ捨てる俺を見つけ、まゆりがゆったりとした声をだした。そんなまゆりの言葉に、いち早く反応を示したのは俺ではなく──

「やばっ」

 ソファに腰掛けていた紅莉栖が、妙な奇声を上げた。
 買出しから帰還した俺に視線を向けることなく、テーブルの上に広げていた何かの冊子を手早く閉じる。そして、慌てた様子でそれを自分の背後に隠そうとして──

「んが!?」

 次の瞬間、悶絶の表情を浮かべながら、上半身をテーブルの上にベチャリと貼り付けた。

 テーブルに広がった、線の細い華奢な背中。その真ん中辺りに、紅莉栖の手に握られた冊子の角が食い込んでいる。

 目にした状況のままを解釈すれば、冊子をとり急いで背後に隠そうとした拍子に、勢い余って本の角を自分の背中に突き立ててしまった──という現状のようなのだが。

「大丈夫、クリスちゃん?」

 紅莉栖の見せた唐突な奇行に、まゆりが心配そうに声を上げる。それとは対照的に俺は、

「帰ってくるなり、ドジっ子アピールか? 熱心だな、助手よ」

 ふてぶてしくも、そんな言葉を投げかける。そして、やれやれといった表情をぶら下げて紅莉栖に歩み寄る。

「……いたい」
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:07:16.95 ID:eCLY4xXr0
 テーブルに突っ伏したままの紅莉栖から、小さな呻き声が聞こえた。俺の発した言いがかりにも等しい言葉や、お約束の呼称誤差に対して突っ込んでこないところを見ると──

『どうやら、相当に痛かったらしい』

 少しだけ哀れみにも似た気持ちを浮かべながら、何気に紅莉栖の背中に生えた冊子に目を向けた。

「って、おま……それ、どこで……」

 少し驚いた。どうして紅莉栖の手に──いや背中に、そんな物があるのか戸惑い、そしてその答えを想像してまゆりに目を向ける。

「まゆりだな、これは?」

 少しだけ問いただすようにそう言うと、「えへへ〜。ばれてしまったのです」などと、とぼけた様子でニッコリと微笑んだ。

「まったく……」

 俺はしかめっ面を顔面に貼り付けて、紅莉栖の背中からその冊子を引っこ抜く。

「あ……」

 紅莉栖は短く声を立ると、緩慢な動作でテーブルに張り付いた身体を引き起こす。そして、俺が取り上げた冊子に追いすがるように手を伸ばし──

「見たいのか、助手よ?」

 俺の声にビクリと反応し、紅莉栖が手を引っ込めた。

「べ……別に岡部の過去に興味あるとか、そういう事じゃないからな。勘違いするなよ」

 そんな言い訳じみた捨て台詞に耳を傾けながら、俺は取り上げた冊子を適当に開く。そこには、色合いや配置などにまで気を配って並べられた、たくさんの写真。

「また古いものを……」
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:08:14.48 ID:eCLY4xXr0
 それは、俺の実家に保管されていたはずの、幼少の頃の記録。まだデジカメなどという近代兵器が浸透するよりも前に残されたのであろう、アナログでできた思い出の数々。

 恐らくは、まゆりがお袋にでも頼んで借り出したのであろう、一冊のアルバム。
 そんな物を手に取りながら、それが紅莉栖の手に握られていた事実に、微かな嬉しさと、少しばかりの気恥ずかしさを覚える。

「で、なんだ。助手よ……感想は?」

 俺が、はにかんだように問いかけると、紅莉栖が表情の無い声で答えた。

「ハードカバーの角は硬かった」

「誰がそんな話をしている。まったく、そんなに痛かったのか? 見せてみろ」

 俺が腰を落として手を伸ばすと、まゆりが「ああ〜オカリンがやさしい〜」などと煌びやかに騒ぎ立てる。

「ちょ岡部! バカ! まゆりがいる……じゃなくて、HENTAI! とりあえずHENTAI!」

 どうやら、紅莉栖が真っ赤にした顔をゆがめている理由は、先刻受けた痛みのせいばかりでもなさそうであった。

 仕方なく、俺は紅莉栖の背中に伸ばしかけた手を押しとどめ、身体を立て直す。と、まゆりが俺の動きにあわせるかのように立ち上がった。そして──

「ええとね〜。クリスちゃんがお気に入りしてたのはね〜」

 まるで新しい発見を母親に報告する子供のように、無邪気な笑顔で俺の手にあるアルバムに顔を寄せる。

「ほう……」

 俺はまゆりにアルバムの主導権を譲り、その手がページをめくっていく様を眺める。

 そんな俺とまゆりの行動に、紅莉栖が泡を食ってソファから腰を跳ね上げる。
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:09:09.33 ID:eCLY4xXr0
「ちょっとまゆり!?」

 しかし、そんな紅莉栖の悲鳴などどこ吹く風。まゆりは一つのページで指を止めると、

「クリスちゃん、このページでうっとりしてたんだよ〜」

 うっとりしていた紅莉栖。いつだって冷静に周囲の状況に目を配る天才少女。鋭さこそ本質とでも言わんばかりの、あの牧瀬紅莉栖が──うっとり。

『よもや、そんな言葉を耳にする日がこようとは……』

 そんな事を思いながら、まゆりの指し示したページの写真に視線を這わせる。そこには、義務教育に突入したてであろう幼少の俺が、家族と共に映った写真が数枚。中には、小学校の入学式と思しきシュチュエーションの物もあり──

『どこの小学生名探偵だ……』

 蝶ネクタイに半ズボン。その、無理やりに着飾らされたいでたちに、何とも言えない恥ずかしさが湧き上がる。

「助手よ……お前、こういう趣味……」

「ちがうぞ! 誤解だ! 勘違いするな、私が気になってたのは……はう」

 慌てた様子で俺の手にあるアルバムを覗き込んだ紅莉栖が、目にした何かに当てられたかのように、か弱い声を出してヒザを──

「ふんぬ!」

 気合と共に、崩れそうになった身体を立て直して見せる。類まれなる、助手の根性であった。

「わ、わ、私が! 私が見てたのは、ええと! ああ、そうだ! ここ! ここよ!」

 そして、一枚の写真の片隅に、びしりと指先を突き立てる。
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:10:27.32 ID:eCLY4xXr0
「ああ〜。オカリンパパだ〜」

 まゆりの声が表すとおり、紅莉栖の指先には、俺の隣で突っ立って映る、一人の男の姿。

「お……親父じゃないか……」

「そうなのよ! もうシブ面すぎて、うっとりしても仕方ないじゃないの、これだったら!」

「人の親をこれってお前……。というか、なんだかもう色々と無理するな助手よ……」

 何となく、必死な紅莉栖の弁解に、不思議な哀れみさえ感じてしまう。

「別に無理なんてしてないだろ! 私はシブ面でうっとりしてただけで、誰が好き好んで、隣におまけみたいに映ってるチビ岡部なんて……はうぅ」

 紅莉栖が指先を、俺の父親から隣のチビ俺へとスライドした瞬間。今度こそ耐えかねたかのように、紅莉栖がヒザを折って、ガクリと床に腰を落とす。

 もはや、弁解の余地さえないと思えた。論より証拠とはよく言ったものだが、紅莉栖の言葉が真意でないという事は、紅莉栖の言動を見ていれば、ありありとうかがい知れた。だが──

「そうなんだ〜。うん。オカリンパパって昔からカッコよかったから仕方ないね〜」

 紅莉栖の無理目な物言いを真に受けたのか、まゆりが両手を顔の前で合わせて、嬉しそうに小さく跳ねる。

「あ〜、でも最近のオカリンは、少しオカリンパパに似てきたように思うのです! このままオカリンがシブシブになっていけば、きっとそっくりになるねぇ〜。あ〜、でもそうなると今度はクリスちゃん、オカリンにうっとり──」

 そんなまゆりの発言に、床にへたり込んでいる紅莉栖の肩が、ピクリと動く。

「ストーップ! まゆり! それ以上の考察は、ノーサンキューよ!」

 床の上からまゆりに向けて、開いた手のひらを突きつける紅莉栖。その必死な挙動を見ると、今にもその手のひらから、気の塊でも放出しかねないような──そんな勢いに思えた。
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:11:54.78 ID:eCLY4xXr0
 仕方なく、俺自らが取り乱し続ける紅莉栖に、助け舟を手配する。

「分かった、もう分かったから助手よ。とにかく貴様は、シブ面好みのファザコンティーナという事で手を打つとうではないか」

「どこにティーナをつけている!?」

 上目遣いで、眼下から睨みつけられる。その綺麗で鋭さを伴った眼光に、思わず見とれてしまい──

「ねえねえクリスちゃん。クリスちゃんのお父さんは、どんな人なのかな?」

 何気なく響いたまゆりの一言が、ラボを満たしていた暖かな空気を、微かに凍りつかせた。









423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:13:22.45 ID:eCLY4xXr0
        2

 まゆりがバイト先へと旅立ち、紅莉栖と二人で取り残されたラボの中。ソファの上でうーぱクッションを抱え込み、身体を丸めていた紅莉栖が口を開いた。

「どうしてあんな事を言った、岡部……」

「何の話だ」

 どこか空々しい声色で問い返す俺に、紅莉栖がうつむけていた顔を微かに持ち上げる。

「とぼけるな。まゆりに変な事を言っただろ。……どうして?」

「どうして……と言われてもな」

 俺は紅莉栖の問いかけに、小さく顔をゆがめて頭をかく。


 ──クリスちゃんのお父さんは、どんな人なのかな?──


 あの時、まゆりが紅莉栖に投げかけた、他愛のない一言。そして、ラボメン仲間の何気ない質問を前に、返答を詰まらせた紅莉栖。

『無理もない……』
 
 言葉を告げられない紅莉栖を前にして、そう思った。

 牧瀬紅莉栖の父親。これまで何度も垣間見てきた、科学者崩れの一人の男。そんな男の人となりを思い起こし、俺は胸中で唸り声を立てる。

『答えようなど、ないではないか……』

 自らの娘が見せた才能に嫉妬し、自らの娘の成長を、自分にとっての屈辱だと言った男。
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:14:21.28 ID:eCLY4xXr0
 そんな父親をぶら下げて、紅莉栖がそれをまゆりに伝える。それは、彼女にとって余りにも酷な作業だと思えた。

 だから──

「よかろう。助手ファザーの事ならば、この俺が説明してやろう」

 そんな妄言を口ずさみ、俺は紅莉栖本人の言葉を待つことなく、まゆりに対して勝手に講釈を垂れた。

 俺の話を聞いたまゆりは、俺が紅莉栖の父親と面識がある事に驚きつつも、紅莉栖の父親の人となりに対して、一応は満足をしたようで──

「やっぱりクリスちゃんのパパさんだねぇ〜」

 などと、一人納得しきりであった。

 だがしかし、とうの紅莉栖にしてみると、俺の取った勝手気ままな言動に釈然としないようであった。

「勝手にしゃしゃり出たのが気に食わないのなら、あやまろう。すまなかった」

 俺は素直に、紅莉栖に謝罪の言葉を向けた。しかし──

「そういう事を言ってるんじゃないだろ。何であんな心にもない事を言ったのかと聞いてるんだ」

 俺の謝罪がお気に召さなかったのか、紅莉栖の口調はどこか問い詰めるように聞こえた。

「あれじゃまるっきり、嘘──」

「別に嘘をついた覚えはないが」

 紅莉栖が吐きかけた言葉を先読みして遮る。そして、

「どうして俺が、助手の父親に関して、まゆりに嘘をつかねばならん。俺にはそんな義理も人情もないぞ」
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:15:52.92 ID:eCLY4xXr0
 きっぱりと言ってのける。

「どこがだ。変に気を使って……バカだろ」

「失礼な助手だな」

「うるさい嘘つき岡部。何が偉大な科学者だ。何が感謝しているだ。あんたがパパの事をそんな風に思ってるわけないだろ」

 そんな紅莉栖の悪態を聞き流しながら、俺は小さくため息をつく。

「だからちゃんと、前に『色々な意味で』とつけただろ。色々な意味で偉大。色々な意味で感謝。俺はそう言ったはずだぞ」

「だとしても、嘘だって事にかわりないでしょ」

 紅莉栖がうーぱクッションに顔を埋めこんだ。そんな紅莉栖の様子を視界におさめながら、俺は言う。

「そうでもないだろう。あんな男だとしても、科学者だという事に変わりはない。それに偉大かどうかなんて物は個人の主観によるものだ」

「じゃあ、あんたはパパを偉大だと思ってるわけ?」

「色々な意味では、そうとも言える。誰に見返られる事もなく、たった一人で狂気の道をひた走る。そんな男を前にして、狂気のマッドサイエンティストたる俺がそれを否定など出来るものか」

 俺は鼻も高々に、そんな答えを紡ぎ上げる。

「なによ。物は言いようってだけじゃない、それ」

 ウーパから顔を上げた紅莉栖の言葉に、『まあ、そうとも言うかもな』などと胸の内で呟きながら言う。

「それにだ。感謝しているというのも本当だ。というか、貴様は感謝していないのか?」

 俺の言葉に、紅莉栖が目を点にする。
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:16:46.20 ID:eCLY4xXr0
「何がどうしてそうなるのよ……」

「どうしてもこうしてもあるか。俺と貴様を引き合わせたのは、他でもない貴様の父親ではないか」

「……え」

 紅莉栖の口から、小さな吐息が漏れる。

「まったく、これだからスイーツ(笑)は……。いいか? 確かに中鉢という男は、人として尊敬できるような人物などではない。しかしだ。だからこそ、俺と貴様は出会う事が出来た」

 俺は言う。

 あの最低最悪な一人の男が、悪の道をまっしぐらに駆け抜けたからこそ、俺たちの今があるのだと。

「あいつが貴様を刺す……などという暴挙にでなければ、最初のDメールも最初の世界線移動も起こりえなかった。娘に辛く当たっていなければ、貴様が日本へ来る事もなかったかもしれない。仮に訪れる機会があったとしても、きっと俺達が出会う事などなかっただろう。違うか?」

「……それは」

「もしも貴様の父親が、聖人君子のような人間であったなら、俺とお前は今でも見ず知らずの他人同士。ならば、尊敬こそできないとしても、少しくらいは感謝してやってもいいのではないか?」

 まくし立てるような俺の言葉に、紅莉栖は相変わらずキョトンとした表情を浮かべていた。

 正直に言えば、俺はあの男の事が、大嫌いである。自分の娘を手にかけようとし、割って入った俺のどてっぱらに、風穴を開けた。そんな男を、どうして許す事ができよう?
 だがしかし──

『それでも、紅莉栖の父親なのだ』

 そんな男と和解がしたいと、涙を流していた紅莉栖を知っている。
 そのために、一緒に青森へ来て欲しいと告げられた、紅莉栖の切ない願いを覚えている。

 出来ることなら、彼女の抱いた小さな願いを、いつかかなえさせてやりたいと、そう思う。
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:17:39.96 ID:eCLY4xXr0
 紅莉栖の思い描いている、幸せな家族。そんな些細な幸せを、その華奢な手に握らせてやれればと、身の程もわきまえずにそんな事を考える。

 だからこそ──

「ともに青森へ、行くのだろう?」

 俺は、いつかの約束を口にする。と、紅莉栖が微かに唇を震わせた。

「あんな事があったのに……一緒に来てくれる……の?」

「ふん、勘違いするなよ。というか、むしろ貴様が拒否しようとも、俺一人でも行かねばなるまい」

 そう言葉にし、そして胸を張ってふんぞり返る。足を踏ん張り両手を開き、まとった白衣を盛大に羽ばたかせて声高に叫ぶ。

「この世に狂気のマッドサイエンティストは二人もいらぬ! 再びの直接対決を経て、どちらが真に狂気をつかさどる存在なのかを知らしめてやる!」

 少し恥ずかしかったが、それでも声を弱めることなく想いを口にする。

「そして、いつかあの男に、自分がただの中年オヤジであるという事を認識させてやろう! ああ楽しみだ! 自らの非力さに打ちひしがれて、ガックリと肩を落とした奴が、すごすごと妻や娘の下へと逃げ帰る様を見る事が、今から楽しみでしょうがないぞ! フゥーハハハッ!!!」

 声がかれんばかりに、高笑いを響かせる。そんな俺の姿に紅莉栖が小さく微笑んだ。

「それは……私も楽しみだ」

「ならば、貴様もついて来い。この鳳凰院凶真の実力を見せ付けてやろう。必ず……な」

「何がついて来いだ。立場が逆だろ……バカ」

 紅莉栖の瞳から涙が零れたように見えたのは──きっと気のせいだろう。

 牧瀬紅莉栖のたどり着く先に。この俺が導く彼女の未来に、涙など必要ない。だからきっと──
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:18:23.90 ID:eCLY4xXr0
「ほんとあんたって、たまにそういう事する……反則だろ」

 紅莉栖の微かな呟きが聞こえた。

「何か言ったか?」

「何でもない!」

 言い張って、そっぽを向く紅莉栖。どことなく複雑そうな表情を覗かせている。

「どうした? ひょっとして、まだ背中が痛むのか?」

 そんな俺の言葉に、紅莉栖は少しだけ間を置いて──

「ちょっと……痛いかも……」

 なぜだか、顔を赤く染めていた。

「おいおい……どれだけ強くぶつけたんだ?」

「だって、焦ってたから……」

「まあいい。見せてみろ」

「うん……」

 彼女の横に腰を降ろし、彼女の背中に手を伸ばし、彼女の髪に触れ──

 次の瞬間にラボに響いた、「バイトお休みでした〜」というまゆりの発言に、俺と紅莉栖が飛びのいた事は──言うまでもない事であったりするのである。





                                              お〜しまい

429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/23(月) 21:20:20.21 ID:eCLY4xXr0
今日はこれだけ
えっと……まだ半分もいっていないわけだよな……まじか
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:36:18.03 ID:kVyODNzX0
自己満ぞっかーな私めがしょうもないことをしています 運悪く遭遇した人は生暖かい目でブラウザバックがいいでしょう というかバックしなさい、いいですね
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:37:04.32 ID:kVyODNzX0
自己満ぞっかーな私めがしょうもないことをしています 運悪く遭遇した人は生暖かい目でブラウザバックがいいでしょう というかバックしなさい、いいですね
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:38:51.33 ID:kVyODNzX0

2011年3月

ヴィクトル・コンドリア大学 脳科学研究室となり 資料室 深夜

真帆「うぅ〜」ソファ-ニゴロン

真帆(また帰りそびれてしまった……。もう何泊目よ……)

真帆(たまには帰ってゆっくりした方がいいのでしょうけど、どうにも帰宅するのが億劫なのよね)

真帆(一応これでも年頃の娘なわけだし、身だしなみくらいは気を配るべきなのでしょうけれど……)

真帆「…………」クンクン

真帆(まだ……大丈夫……よね? 白衣だけは昨日取り替えたわけだし……)

真帆「って。あーもう!」

真帆(きっと、こういうところがダメなんだろうなぁ、私って)

真帆(あの紅莉栖にすら、いい人……。むむ、まあちょっとアレな人ではあるけど、それでも紅莉栖にとっての『いい人』と表現しても別に差し支えないわよね……? いやほんと、どうしようもなくヘンな男の人だったけど)

真帆「岡部倫太郎……ねぇ」

真帆(まあ私からしたら、一ヶ月くらい前のファーストコンタクトからして印象は最悪だったわけで)

真帆(そりゃそうでしょう。怪我をしたのかと思えば大声で笑い出すわ、人のことを失礼なあだ名で呼び始めるわ、挙句の果てにはいきなり私を抱きしめ──)

真帆「…………」トクン
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:39:29.68 ID:kVyODNzX0
真帆(んなっ! ないないないないない! トキめいてなんていない! 何にもない!)

真帆「ふーーーふーーー! 今日は暑いわね!」パタパタ

真帆(だいたい、何がラボメンよ!)

真帆(聞けば大学生のお遊びサークルだって話じゃない! そんな場末のラボラトリーもどきにこの比屋定様を勧誘しようなんて、身の程知らずもいいところじゃない!)

真帆「というか、なんで紅莉栖はちゃっかり加入してるわけよ……」

真帆(実はここよりも、居心地とか……よかったりして?)シュン

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「な、なんてね!」ブンブンブンブン

真帆(あるわけないじゃない、そんなことが!)

真帆「あーあ、やだやだ」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆(そう言えば……あの時押し付けられたバッチ……どこへやったかしら?)

真帆(確か……)ムクリ
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:41:17.64 ID:kVyODNzX0
真帆(デスクの引き出しの中に放り込んでたと思うんだけど……)ヨッコイショ


隣の部屋へトコトコ

ガラガラガラ


真帆(えっと……見当たらないわね)ムムム

真帆(おかしいわね。私の記憶が確かなら、この引き出しの中にあるはずなのだけれど……?)

真帆「ん〜」

真帆「おお! ひょっとして封筒の中とか!」ポン


資料室(宿)へトコトコトコ


真帆「ええと……昨日の封筒はどこかしら……」キョロキョロ

真帆(昨日の夜、寝落ちするまで資料室で過去の記録を読み漁ってたのだけど)

真帆(確かその資料を入れておく封筒が欲しくて、それであの引き出しから使い古しの封筒を持ち出して……)

資料室 ゴチャァ

真帆「うわぁ……誰よ資料室をこんなに散らかしたのは……」

真帆(って、私か。私しかいないわよね、うん)
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:42:08.47 ID:kVyODNzX0
真帆「んん〜確か、A4が束ではいるサイズの奴だったはずだけど……」キョロキョロ

真帆「あ……この下のほうに埋もれた奴……っぽいわね」

真帆(でも……。一日でこんなに下に埋もれるものかしら?)

真帆「あーでも、私だしなぁ……。仕方ない」

真帆(気になったなら、確認あるのみね)ギュ

真帆「せーの……やー!」グイッ


スポーーーン!


真帆「うわっ!?」

真帆(意外と簡単に抜けた!? っていうか勢いあまって……)


ブワッサァ!


真帆「あひ!」

真帆(お……おー、派手に飛んでった。封筒だけ残して、中身が丸っと吹っ飛んでったわ……)

真帆「って、大変!」パタパタパタ
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:43:05.18 ID:kVyODNzX0
真帆「えっと……」オロオロ

真帆(ああ、中身の資料はちゃんとクリップで留めてあったみたいね。バラけなかっただけでも幸運だったわ)

真帆(ええと……この資料は……)

真帆「いや……。ずいぶんと分厚いけど、何これ?」


パラパラパラ


真帆「資料……じゃない。これって……小説? しかも日本語表記?」


表紙へモドリ


真帆「ええと、タイトルは……『助手迷子禄』……」

真帆「なんのこっちゃ?」

真帆(なんだ。目当ての封筒じゃなかったわね。っていうか、誰がこんなものを持ち込んだのかし……って、封筒に書いてある宛名、紅莉栖の名前じゃないのよ!)

真帆(ってことは、これは郵送物? 差出人は……鳳凰院凶真……?)

真帆「ほうおういんきょうま……どこかで聞き覚えが……」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「あ。岡部さんが確かそんな別称を……」
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:44:09.74 ID:kVyODNzX0
真帆「ん? と、いうことは」ポクポクポク

真帆「なにこれって岡部さんが書いた小説!?」チーン

真帆「じゃあ、自分で書いた小説をアメリカにいる彼女に送りつけたわけ?」

真帆(ヤバイ……気色悪い……)

真帆「いやー、あれだ。そういうことするタイプの人には見えなかったんだけど、あれだなぁ春だなぁ、訴訟したほうがいいかしら?」

真帆「………」トコトコ
真帆「……」トコトコ
真帆「…」ポスン

真帆「さてと」フッ


ペラリ


真帆「ええと、なになに……」

438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:45:22.91 ID:kVyODNzX0
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439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:46:26.68 ID:kVyODNzX0
     1

 あの長かった夏も、気付けば終わりに近づいていた。

 9月も残すところ後わずか。暦上ではすでに秋と言っても差し支えない。であれば、そろそろ涼風の匂いなどと言う物が感じられてもよさそうな頃合ではあるが──

『暑い』

 残念な事に、この狭苦しいラボの中は、未だ衰えを知らないヤル気満々の残暑によって、蹂躙されつくしていた。

 俺は吹き上がる額の汗を、白衣の袖口に吸い込ませながら、紅莉栖に目を向ける。

 熱気立ち込める、ラボの片隅。ソファーに腰掛けた紅莉栖は、先刻よりテーブルの上に視線を落とし続けていた。

 ひざに抱えたウーパのクッションが、やたらと暑苦しそうに見えて仕方ない。

「で、どうだ助手よ。これで俺の説明は一通り終わったわけだが……」

 確認の意味で、言葉の最後に「理解できたか?」と付け加える。と、紅莉栖が俺に顔を向けた。

「当然、理解できてる。理解はできてるけど……」

「できてるけど、何だ?」

「正直、にわかには信じがたい話だな……とか、思ってる」

 紅莉栖は、どこか懐疑的に見える瞳を作って、そう言った。

 そして、とうとう茹だる暑さに耐えかねたのか、ヒザに抱えていたウーパクッションを脇にどかし、代わりにテーブルの上に放り出されていた厚紙のような物を手に取った。

「それにしても、バカ暑いんですけど。岡部、はやく扇風機、直せ」

 そんな事を口走りながら、少しでも涼を取ろうと、手にした厚紙を団扇のように動かし始める。

 そんな紅莉栖に、俺は言う。

「残念だが、俺はマッドサイエンティストであって、家電修理工ではない。涼を取りたいなら、自分で何とかしたらどうだ?」

「それが出来たら、やっている」

 まるで、つまらない問答でもしているように、紅莉栖は愛想のない声色でそう返した。

 そんな紅莉栖を視界に納めながら、問いかける。

「で、俺の話のどこが信じがたいというのだ?」

 唐突に戻された会話の内容に、紅莉栖の反応が微かに遅れる。が、それも一瞬の事。俺の問いかけた内容を把握し、すぐさま返事を返す。
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:47:30.70 ID:kVyODNzX0
「どこがといわれたら、全体的に。しいて上げろというなら……そうね。やっぱりこれかな……」

 紅莉栖は、再び視線をテーブルの上へと戻した。

「なんだっけ。メタルウーパだっけ? こんなオモチャ一つが世界大戦の有無を左右するって話だったけど、いくらなんでもそれはどうかと思うわけだ。流石に突飛すぎて──」

「そんな事はなかろう」

 まだまだ続きそうであった紅莉栖の反対意見。それをせき止めるようにして、俺は声を立てる。

「北京で蝶が羽ばたけば、ニューヨークで嵐が起こる。バタフライ効果とは、本来そういうものなのだろう?」

「それはまあ、そうなんだけど……」

 俺の言いたい事を察したのか、紅莉栖の返した返答は、どこか歯切れが悪かった。しかしそれも仕方ないと言うもの。


 ──小さな出来事が、後に思いもかけない大きな事態へと発展する──


 それがバタフライ効果だと、以前、俺に説明したのは、他でもない紅莉栖自身なのだ。

 まるでその事を証明するかのように、俺の発言を受けた紅莉栖は、テーブルの上に鎮座する金属製の玩具を見つめて考え込む。
 そして、しばらくの思考を経て、口を開いた。

「でも、岡部の言う通りなのかも」

 一人、小さく頷きながら言葉を続ける。

「小さな事象を切欠に、後に思いがけない展開が生まれる。まさにバタフライ効果と言っても差し支えないような現象は、これまで何度も観測されてきたわけだし……」

 観測。
 恐らく紅莉栖が口にしたのは、自ら取り戻した記憶や、俺から聞いた話などにある、あの三週間の出来事を指しているのであろう。

 確かに、あの過ぎ去った三週間で、俺は『バタフライ効果』を体感できるような状況を、幾度となく経験してきた。
 たった一つのメールをきっかけに、一人の少年の性別を変え、秋葉原を消し飛ばし、未来から小さな暗殺者を招き寄せて、さらには一人の人間の命を左右する──そんな体験を、この身に嫌と言うほど刻み込んできた。

 そして紅莉栖もまた、あの過ぎ去った永遠の三週間の記憶を、思い出しているのだ。

『もっとも、紅莉栖の記憶には、Dメールによる過去改変は、含まれていないみたいだが……』

 紅莉栖が取り戻した記憶は、リーディングシュタイナーを備えた俺ほどに、完璧なものではなかった。
 それは、あくまでも『α世界線で紅莉栖が持っていた、最終的な記憶』に留まっており、ともすれば、打ち消してきたDメールに関わる記憶は、その範疇外であった。つまり──
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:48:27.28 ID:kVyODNzX0
 鈴羽がダルの娘で未来人だったり──
 フェイリスパパが生きてたり──
 ルカ子が女だったり──

 等といった情報に関しては、α世界線で俺が話して聞かせた以上の事は、なにも知らないのだ。

 だがそれでも、紅莉栖自身、あれだけ奇想天外な状況を経験してきたのだ。であれば、俺の話がまったくの荒唐無稽だと笑い飛ばす事など──

「う〜ん、でも、岡部の言う事だからな。やっぱ信憑性にかけるというか、何と言うか」

 引っ掛かってるのは、情報ソースの信憑性だとでも言いたいのか?
「疑り深いやつめ! 俺は直接この目で、それに至る経過を確認してきた。それでもなお、疑おうと言うのか?」

 声を大にして言い張る。そして、両手を勢いよく展開し、羽織った白衣を大きくはためかせながら叫ぶ。

「哀れなり! 信ずる心を忘れた科学者、クリスティーナよ!」

「妙な肩書きを付けるな! それからティーナじゃないと、なんど言えば!」

 間髪入れない、紅莉栖の突っ込み。慣れ親しんだ、言葉のやり取り。

 それは、一度は諦め、一度は拒絶したはずの、焦がれ続けた日常風景。俺の報われた、俺の望んだ世界。 悩み抜き、迷いきり、そして最後に選んだ、ラボメンとしての紅莉栖がいる、これから。

 そんな世界をこの目に焼き付けながら──

『やはり、これでよかったのだ』

 などと考える。

そして、前の紅莉栖の発言内容を無視して、声を荒げる。

「ふぅむ、素直ではないなクリスティーナよ! 信じたいのだろう? 本心では、この俺を信じたくて仕方がないのだろう? 口にせずとも分かっているぞ、さあ、盲目の羊がごとく信じきるがいい!」

 そんな俺の姿を見る上目遣いの紅莉栖の視線は、どこか冷ややかであった。

「何がどうしてそうなった。あんたの言語解析が、私には理解できない……」

「ふん。最上の誉め言葉と受け取っておこう! フゥーハハハ!」

 揶揄されながらも、しかし胸を張って高笑い。そんな俺の姿に、紅莉栖は呆れたような顔をして──

「ああもう、何言っても無駄か。分かりました、信じます。信じるから、その暑っ苦しいキャラ設定を封印してよ。それでなくても、ここは蒸し暑いんだから」

 などとのたまい、ソファにふんぞり返って、厚紙を振る手を一層強める。

 横柄な態度といえよう。まったくもって、失礼極まりない助手である。
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:49:16.15 ID:kVyODNzX0
『よもや、俺の中に息づく『鳳凰院凶真』を、暖房器具か何かと混同しているのではなかろうな?』

 などと思いつつも、しかし、紅莉栖の言い分にも、一理ある。現状のラボ内では、鳳凰院凶真モードの体力消費は、あまりにも著しすぎた。

「ふ、仕方ない。今日はこれくらいにしておいてやろう」

 俺はそう言うと、左右に広げていた両手を収め、額に噴出していた汗を、袖で拭う。と──


「ありがと」


 思いがけない謝辞が、紅莉栖の口から零れ落ちた。
 そんな言葉に、俺は少しだけ驚き、そして同時に傷ついてしまう。

「お、おい。止めただけで礼を言われる程に、マッドサイエンティストは嫌われているのか?」

 どこかドギマギとした俺の問いかけに、紅莉栖は一瞬、きょとんとした顔を覗かせるも──

「なにを勘違いしてる。別に、その事について礼を言ったわけじゃない」

「……?」

「私は、これの事に対して、礼を言ったの」

 そう言うと、紅莉栖は手にしていた擬似団扇をテーブルに置き、その代わりに小さな金属製の人形を、華奢な指先でつまみ上げた。

「あんたが、これを処理してくれたからこそ、私も、私の書いた論文も、そして、パパも──」


 ──開戦の主犯にならずにすんだ──


 少し、伏せ目がちな瞳を作ってそう言うと、摘んだ人形を両手で包み込む。

 ソファに腰を据えて、身体を縮こまらせる紅莉栖。その姿を見て、俺は問う。

「それはつまり、俺の話を全面的に信じて理解した……という事でいいのか?」

 俺の問いかけに、紅莉栖は少しだけうつむいたまま、微かに頷いて見せた。

 そんな行動を見て、俺は、紅莉栖が俺の話をよく理解しているのだと、そう感じた。

『急に教えてくれと言われたときは、流石に驚いたが……』

 だがしかし、目の前に見える紅莉栖の姿に、俺は長々と話して聞かせた『鳳凰院凶真の武勇伝』に、ちゃんと意味があった事を知り──

『まあ、結果は上々か』

 と、微かに胸を撫で下ろした。
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:50:17.30 ID:kVyODNzX0


 事の発端は、本日正午過ぎであった。

 ダルが行き付けのメイド喫茶へと旅立ち、まゆりがコス仲間の緊急要請に従って出動した昼下がり。
 ラボの中で俺と二人きりになったとたん、紅莉栖は話題を切り出した。


 ──私を助けた時のこと。詳しく聞かせてほしい──


 いつになく真剣で、それでいて、どこか思いつめたようにも見える瞳。そんな目を俺へと向けて、はっきりとした声でそう言った。


 紅莉栖が再びラボメンへと返り咲いた、あの日。
 秋葉原の街中で、紅莉栖と奇跡的な再開を果たし、紆余曲折を経て、結果的に紅莉栖が記憶を取り戻した、あの一連の出来事。


 あれから既に、一週間が過ぎ去っていた。


 そして、今日。
 この数日間、そんな話題を一言も口にしなかった紅莉栖が、突然思い出したかのように、そんな質問を俺に投げかけてきたのだ。正直なところ、あまりに突然すぎて、少しばかり驚いた。

 とはいえ、驚きこそしたものの、慌てることはなく──

『何度も脳内リハを行ってきた成果だな、うむ』

 紅莉栖の前で展開して見せた、理路整然とした情報伝達。その出来栄えに、我ながらまずまずの手応えを感じていた。

 ──きっと紅莉栖には、あの時の出来事が正確に伝わっている──

 それを今は、素直に喜ぼうと思う。


 ──この世界は、紅莉栖を排除しようとはしない──


 その事実を、紅莉栖が理解できたのであれば、それはきっと、悪いことではないはずだから。

 そんな思いで自己回想と感傷に浸っていると──

「ところで、岡部……」

 紅莉栖の声が、俺を現実に引き戻した。

「ああと、何だ?」

 ぼやけた返事を返すと、紅莉栖は視線をうつむけたまま、言う。
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:52:24.87 ID:kVyODNzX0
「私の見解としては……実際のところ、さっきの話……少し、説明不足な点があるように思えるんだが……」

 なんだか、奥歯に物が挟まったような、どうにも明確さのない口調。紅莉栖にしては、珍しいと思った。俺は問い返す。

「どうした? まだ何か、不明な点があるのか?」

「……まあ、そうなんだけど」

 やはり、どこかハッキリしない言葉。俺はそんな紅莉栖の態度をいぶかしむ。

「どこだ? β世界線からこの世界線に飛んだ過程についてか?」

「……それは理解した」

「では、第三次世界大戦に関わる──」

「……そこはもう、十分」

「では、お前の知らない、鈴羽がタイムトラベラーだった事とか、未来のダルがタイムマシンを作った事とか、その辺りの流れか?」

「それも違う。というか『知らない』わけじゃない。その辺は、『岡部に聞いた』という記憶だけはあるから……」

 紅莉栖は、何を言いたいのだろうか? 俺にはその意図が見えない。せめて、顔をこちらに向けてくれれば、その心情だけでも読み取る事もできるのだが。

 しかし紅莉栖は、ソファで身体を縮こまらせたまま、動こうとしない。だから、何も分からず、仕方なく問い続ける。

「では何だ? いったい何が──」

 そんな問いただすかのような俺の言葉を──

「主観」

 か細い声で紅莉栖が遮った。

 小さく響いたその言葉に、俺は思わず首を捻る。

「しゅかん──主観?」

 その俺の言葉に、紅莉栖は小さく頷いた。

 が、未だにその視線は、小さな人形を包み込んだ両手にそそがれたまま。だから、俺には紅莉栖の心境を読み取る事が──

『耳まで、真っ赤ですが』

 驚いた。
 長い髪から微かに覗く、小さくて可愛い形をした紅莉栖の耳。それが、見た事もないほど真っ赤に染まりあがっている。

『こ……これはいったい?』

 俺は状況を飲み込めず、黙って動揺する。と、 唐突に紅莉栖の顔がこちらを向いた。
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:53:53.23 ID:kVyODNzX0
『うお!?』

 俺の動揺が、狼狽にクラスチェンジを果たす。

 真っ赤であった。赤面などと、生易しいものではない。なんだかもう、今にも熱で顔面が融解してしまいそうなほどに、紅に染まりあがっていた。

 そして、俺の見ている前で、紅莉栖は口を動かし始める。微かに唇を震わせながら、途切れそうなほどか細い声で、言葉を紡ぎ始める。

「あんたの話の中に、岡部倫太郎の主観が……なかった」

「す、すまない。いまいち何を言っているのか、分からない」

 今にも爆発しそうなほどに染まりあがる紅莉栖。そんな彼女の言葉に対して、俺は正直な感想を告げる。

「分からないとか……言うな。汲み取れ……バカ」

「汲み取れと、言われましても」

「だから!」

 紅莉栖の語気が、一瞬強まる。が、次の瞬間には、また小さなさえずりに逆戻りし──

「あんたの心情とか……なんと言うか、そんな類のとこ……聞いてない」

 そう呟いた紅莉栖の瞳に、俺の心臓が高鳴る。
 顔を赤く染め、気恥ずかしそうに身体をもぞもぞと動かす、その姿。それを見て、紅莉栖につられるように、俺の顔まで赤面していくのが分かる。
 そんな俺の耳を、紅莉栖の声が小さく叩く。

「岡部……また世界線に挑んだんでしょ? ……何で?」

 照れ隠しのつもりで、俺は咄嗟に答える。

「何でと言われても、さっき説明したように、世界大戦の回避を……」

「うそ。それだけじゃない……よね?」

「いや、嘘と言われてもだな……」

「じゃあ……本当に、それだけ? それだけだったの?」

 紅莉栖の問いかけに、俺は言葉を詰まらせる。『それだけ』なわけなど、ない。だが──

「それは……」

 一度詰まった言葉は、なかなか吐き出されず、俺の尻切れトンボのような言葉が、蒸し暑いラボの中に溶けて消える。

 そして次の瞬間、真っ直ぐと俺に向けられた紅莉栖の瞳が、微かに潤み始める。そんな光景に、俺はたじろいでしまう。

「な、なにも泣く事は」

「まだ泣いてない!」
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:55:42.82 ID:kVyODNzX0
 顔を左右に振りながら、俺の言葉を否定する紅莉栖を見つめながら、思い知る。


 ──俺という男は、またもや、やらかすところだったか──


 先ほど紅莉栖が示した指摘。説明の中に、俺の主観がないという異議。それは正しかった。
 なぜなら、俺はあえて、説明の中に俺の想い──紅莉栖の言う、俺の主観を乗せようとはしなかったからだ。

 紅莉栖を生かしたいという想い。
 世界大戦の回避など、ただのオマケだったという想い。
 五十億人以上の命と紅莉栖一人の存在を天秤にかけ、紅莉栖の重さで五十億人が吹っ飛びそうな──そんな想い。

 そんな想いの全てを省いて、俺は紅莉栖に説明した。
 なぜ、そんなまどろっこしい事をしたのかだって? そんなの決まっている。

『そういうの、なんか恥ずかしいだろうが!』

 とどのつまりは、下らないプライドからくる羞恥心が原因であった。

 紅莉栖が問いかけてくるまでの、この数日間。
 それは、俺に紅莉栖との距離感を思い出させ、そして、あの吹き上がるような想いを伝える事に羞恥心を覚えさせるには、十分な時間だったのだ。

『鉄は熱いうちに打てとは、よく言ったものだな』

 俺はそんな事を想いながら、自らの愚策を反省する。

 天才の異名をほしいままにする牧瀬紅莉栖。
 そんな少女に対し、自らの主観抜きで、それでも論破されぬようにと、繰り返し脳内リハーサルを行ってきた自らの行動を、あざ笑う。一週間もの時間をそんなどうしようもない事に費やしてきた自分を、『アホか』と罵る。

 俺は一度、紅莉栖を拒絶してしまっている。だからこそ、同じ轍を踏むわけには行かない。もう二度と、わけの分からない独善性で、紅莉栖の想いを踏みにじるのだけは、避けたかった。

 だから──

『まだ、鉄は冷め切っていなはずだ』

 目の前の紅莉栖が、まだ熱を帯びている事を信じ──

「紅莉栖」

 名を呼び、紅莉栖の身体を、軽く抱き寄せた。

「!?」

 突然の事に、紅莉栖が驚きの声を上げる。メタルウーパが紅莉栖の手をすり抜けて、床を叩いた。

 俺は、ラボの隅へと転がっていく球状モニュメントを視線で追いながら、紅莉栖の耳元でささやく。
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:56:35.70 ID:kVyODNzX0
「悪かった。ちゃんと、言うべきだったな」

 紅莉栖の息遣いが耳元で聞こえ、紅莉栖の鼓動が微かに伝わる。

 そんな感覚を受け止めながら、俺はゆっくりと言う。一言一言を、はっきりと明確に、紅莉栖へ伝わるように、言葉にする。

「俺が、どんな想いで過去へ行き、どんな想いでお前を助けたのか、全て聞かせる。だから──


 ──聞いてくれるか?

 俺の伝えたその言葉に、紅莉栖は細い肩を小さく跳ねさせる。

「わかった……聞く。だから……もう放せ、HENTAI」

 小さな返事が、俺の耳に届いた。

 俺はその言葉に従うように、紅莉栖を拘束していた両手を開き、戒めを解く。

 開放された紅莉栖は、少しの間をおいて、俺の身体から離れ──

「あの、紅莉栖さん? 放せとの命令でしたので、お放しさせていただいたのですが……」

「わ、分かってる! 言われなくても、いま離れるから!」

 しかし、そんな言葉とは裏腹に、紅莉栖は俺の身体にくっついたままの状態で、よじよじと身をくねらせているだけ。待てど暮らせど、一向に俺との距離が開く気配はない。

「あ……あの……」

「うるさい、何も言うな! 分かってると言っている!」

 戸惑いを露にした俺の声を、紅莉栖はピシャリと跳ね返した。そして、密着した状態で、より一層に身体をモジモジと動かし続ける。

『こ……これはある意味、たまったものでは──』

 などと、俺は自らの置かれている現状を、歓喜しながら嘆いた。そのとき──

「トゥットルー☆ たっだいま〜」

 その瞬間、紅莉栖が目にも止まらぬ速さで俺から飛び退る。

 そして俺は、『電光石火』という言葉の体現者を目の当たりにした感動に、とりあえず打ち震えてみた。
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:57:14.51 ID:kVyODNzX0
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449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/24(火) 23:58:11.08 ID:kVyODNzX0
真帆「にぎゃーーー!?」

真帆「何よこれ、何なのよこれは! 基本設定が分からないとかどうこう言う以前に、どうなっているのよこの話! ピンク脳にも程があるでしょうが!」ドッタンバッタン!

真帆「酷い! これは酷いわ! 『鉄は熱いうちに打て』キリリ とか、正気なの彼!?」

真帆「背中かゆい! 背中がかゆぅい!」ガッタンシッチン!

真帆「というか、紅莉栖は彼氏からこんな物を送りつけられていたわけ!? これってある種のセクハラじゃない!」

真帆「つーかあの男、私の紅莉栖をどんな目で見ているのよっ! こんなの訴訟案件に相違ないわっ! これはもう裁判よ!」

真帆「はーはー!」

真帆「…………」フーフー

真帆「とはいえ……一応もう少しだけ読んでおきましょうか。ひょっとしたら後学のためになるかもしれないしね……」


ペラペラペラ


450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/25(水) 02:23:33.06 ID:SWgYHswko
じょしゅたんおめ!
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:20:13.65 ID:AGdfprM60
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452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:20:58.91 ID:AGdfprM60
     2

 まゆりの動かすミシンの音が、ラボの空気にリズムを刻んでいく。
 耳慣れた機械音は、壁に背中を預けて立つ俺の耳を、小気味よく揺らしていた。

 そんな足早の拍子に意識を揺らしつつ、俺はまゆりの作業風景をぼんやりと眺める。

「何事も、タイミングが命だとは言うが……」

「ある意味、神がかってるわね、まゆりは……」

 独り言のつもりだった俺の呟き。しかし、それが聞こえたのであろう、紅莉栖が俺の言葉に反応を示した。
 すぐ隣でしゃがみ込んでいる紅莉栖に、俺は視線を向ける。

「助手よ。お前も、そう思うか?」

「助手じゃないけど、そう思う」

 折りたたんだヒザの上に右手で頬杖を作り、そこに顔を乗せて、まゆりを見る紅莉栖。そこに携えられた両目の、なんとまあ虚ろな事か。

「はぁ……」

 さらには、このため息。まあ、その気持ち、分からなくも無いのだが──

「ため息ばかりついていると、老けるぞ」

 とりあえず、茶々を入れておく。

「何言ってる。ため息はストレス解消に高い効果がある。これ、脳科学の常識。ついでに、ストレス解消は若さの秘訣。ゆえに、あんたの理論は成立しない」

 てっきり、口やかましく反論してくるかと思ったが、意外に冷静な反論をみせる紅莉栖。

『というか、どう転んでも反論されることには、変わりないのだな、俺は』

 などと考え、なんとな〜く、自分の未来予想図に、そこはかとない不安を感じていると──

「ねえ、岡部」

 まゆりから視線を外した紅莉栖が、隣に立つ俺を見上げた。

「なんだ?」

「あのさ……さっきの話なんだけど……」

 その、どこか歯切れの悪い口調に、紅莉栖が何を言わんとしてるのか先読みし、答える。

「分かっている。いずれちゃんと聞かせる。心配するな」

 そんな俺の言葉に、紅莉栖の眉間にシワが寄る。
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:23:01.36 ID:AGdfprM60
「いずれ? いずれってどういう事? 今すぐじゃないの?」

「何を焦っている? と言うか、今、この状況でそんな話をしても、なんかもう、あれだろうが」

「私は構わない。だから聞かせろ、岡部」

「だが断る。言ったはずだぞ? 何事もタイミングが命だと」

「でも……」

「いいのか? 俺の主観のそこかしこに、『トゥットゥルー☆』が大量発生しても? 忘れるなよ。今そこでミシンを使っているのは、タイミングの申し子なのだ。ポイントポイントで、的確に放り込んでくるぞ? それでもいいのか?」

 俺の淡々とした口調に、紅莉栖は「うう〜」と唸り、そして「じゃあ、場所を変えて」などという代案を提出する。

「だから、どうしてそれほど急ぐ? 時間ならいくらでも……」

「明日、帰る」

「だとしても、事を急ぐ理由には……」



 ──そこで、俺の思考が止まった──



『今、紅莉栖はなんと言った?』

 はっきりと聞こえた紅莉栖の言葉に、壁に預けていた背中が微かに浮きあがる。

『帰るとは……どういう意味だ?』

 意味など、その言葉を聞いた一瞬で、想像できた。だがしかし、そんな想像を理解し、飲み込む事はためらわれ──

「ほ……ほう。このラボを帰る場所などとは、見上げたラボメン精神だな、助手よ」

 俺は紅莉栖の言葉を意図的に湾曲させ、口にした破綻だらけの解釈に、みっともなくすがり付く。
 そんな俺に、紅莉栖は言う。

「違う。アメリカへ帰る」

 淡々と告げる紅莉栖の声が、俺のすがり付いていた物を、あっさりと粉砕した。

『……アメリカへ帰る』

 その言葉を、胸のうちで繰り返すと、頭の中が、大きく歪んでいくような錯覚を覚える。そんな自分に活を入れるかのように、独白する。

『バカか俺は。これしきの事で、なにを動揺している。初めから分かっていた事ではないか』
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:23:51.73 ID:AGdfprM60
 そう、分かっていたのだ。
 いつか、この瞬間が訪れると言う事は、重々に承知していたのだ。そしてそれが、取るに足らない些細な問題だと言う事も、理解していたのだ。

 エンターキーを押した時に比べれば──
 病院のベットで、紅莉栖を諦めた時に比べれば──
 ラボの扉越しに、紅莉栖を拒絶してしまった時に比べれば──

 初めから予定されている紅莉栖の帰国など、大した問題ではないはずだったのだ。だと言うのに──

『あまりにも、いきなりすぎる……だろ』

 予測していたはずの、予期せぬ出来事に、心の準備は追いつかなかった。

 思わず、奥歯を噛みしめそうになる。思わず、拳を握り締めそうになる。
 しかし、そんな湧き上がる衝動を無理やり飲み込み、浮かせた背中を、無理やり壁に押し付ける。
 そして、言う。

「急な話だな」

「ごめん。もっと早く言うべきだった」

「謝る事はない。お前の帰国など、初めから想定内だ。気にするな」

 心にもない台詞を吐く。そんな俺の言葉に、しゃがんだままの紅莉栖が、微かに肩を震わせた。

「私が帰ると言っても、意外と冷静なんだな」

「想定内だと言っただろう。それに、二度と会えないわけでもあるまい。それとも何か? 仰々しく騒いで引き止めて欲しいのか?」

 できれば、そうしたい。声を振り絞って、『どこへも行くな』と、『俺の側にいろ』と叫びたい。だが、それはできない。

 紅莉栖には紅莉栖の、事情と言うものがあるのだ。

 だから、そんな本音を包み隠し、軽い口調でおどけてみせる事しか、出来なかった。

 そんな俺の姿を瞳に映し、紅莉栖は──

「それは……困るな」

 そう言って、微かな微笑みを作る。

「ママとの約束だから。今まで無理言って、滞在期間を引き延ばしてたから」

「そうだったのか?」

「そう。適当な理由を付けてね。最初は、あんたを探すための時間が欲しかったから。で、色々と思い出してからも、少しでも長くここにって……そう思って。でも、それももう終わり」

 紅莉栖は俺から視線を外すと、自分の傍らに置いてあった団扇の代役を手に取って言う。

「だって、届いたから。だから、ママとの約束も、ここでの生活も、けじめをつけないと」
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:24:47.47 ID:AGdfprM60
 それは、紅莉栖が団扇代わりに使っていた、厚紙のようなもので──

『いや、厚紙というよりは……』

 厚紙と思っていたそれは、ただの紙というには妙に膨らんでいる部分があった。そしてよく見ると、大きく張られたシールに、英語か何かの文字がしたためられている事に気付く。

『宛名……国際便の荷物? こんな物、ラボにはなかったはず』

 そこで、厚紙というよりは、封筒に近いそれが、紅莉栖の個人的な所有物であると言う事に、今更ながらに気がついた。

「それはなんだ? 外国からの届け物かなにかか?」

 俺は、それの正体を紅莉栖に問いかける。

「そ。この前、届いた。……でも、中身はただのゴミ。可燃物と不燃物が少々かな」

「ゴミ……か」

「そ、ゴミ。でもこれね。実はサイエンス誌に無理言って送ってもらったの。まさか本当に送られてくるとは思ってなかったけど……。少し、誤算かな」

 紅莉栖は折りたたんだヒザに顔を埋め、そして『届かなければよかったのに』と、『届かなければ、まだここにいられたかもしれないのに』と、かすれる声で呟いた。

 なぜだろう。紅莉栖のその言葉が、妙に居たたまれなく思えた。

「そう言うな。死に別れるわけでもない。記憶を失うわけでもない。ただ、アメリカへ帰るだけなのだろ?」

 落ち込み始めた紅莉栖を、慰めようとでも言うのだろうか?
 俺はそんな言葉を口にしながら、しかし同時に『アメリカか……』と、その遠さに途方にくれていた。

 パイロットでもない、ビジネスマンでもない、スポーツ選手でもない、ついでに金もない。そんな俺にとって、海を越える場所が、いかに遠方なのか、想像に固くない。だが、俺は言う。

「寂しくなったら、いつでも言って来い。なにせ俺は、まゆりを救うために、地球の反対側までいった事だってあるのだ」

 できない事は、言うべきではない。しかし、今だけは──

「アメリカなんて、ご近所づきあいと大差ない。いつでも行ってやる」

 そんな思いで、ご近所づきあいなどした事もない俺が、身の程をわきまえぬ発言を呈する。
 そんな俺の言葉を聞き終えると、紅莉栖がうつむけていた顔を、微かに上げた。

「嘘でも、うれしい。……少しだけな」

 そして紅莉栖は立ち上がる。

「一度、ホテルに戻る。夜にもう一回来るから、その時に……」

「分かった。その時には約束どおり、全て話す。お前を助け出したときの、俺の主観を」
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:25:38.78 ID:AGdfprM60
 俺の言葉に、紅莉栖が微かに頷いてみせた。そして、ゆっくりとした、まるで後ろ髪でも引かれているかのような足取りで、ラボの出口へと向かう。

 そんな紅莉栖の後姿に、俺は声をかけた。

「待て、紅莉栖」

 その言葉に、紅莉栖の歩みが止まる。それを確認した俺は、壁から背を離し、ラボの隅へと向かった。

 確か、そこに在るはずなのだ。紅莉栖に渡すべき物が、その場所に転がっているはずなのだ。

「まゆり、すまないが、少しどいてくれるか?」

 一心不乱にミシンと格闘していたまゆりに声をかける。目測では、その辺りに在るはずなのだ。

 しかし、俺の呼びかけに、まゆりは反応を示さず、ただ黙々とミシンを動かしつづけ──

「なぜ泣いている、まゆり?」

 その光景に、俺は驚く。そして俺の言葉を切欠に、まゆりの肩が大きく震えだした。

「まゆしぃは……泣いてなど、いないのです……。寂しいけど、でもクリスちゃんが自分で決めた事だから……まゆしぃが泣くわけ、ないのです……」

 俺はそんなまゆりの反論に、「そうか。ありがとな、まゆり」と返す。きっとまゆりは、泣けない誰かのために、代わりに涙を流していてくれていたのではないか──などと、取りとめもない事を考えてしまう。と──

「オカリンが探してるの、これ……かな?」

 そう言って、まゆりは俺に握った手を差し伸べた。手を開くと、そこには金属製の小さな人形。まゆりの手に、メタルウーパが転がっていた。

「まゆしぃにはよくわからないけど、でもオカリン。メタルウーパはクリスちゃんが持っていた方が、いいんだよね?」

 俺は、まゆりのその言葉に、黙って頷く。そして、そっとまゆりの手から、小さな丸い人形を掴み取ると──

「約束の証だ。持っていけ」

 そう言って、まゆりから受け取ったメタルウーパを、紅莉栖に向けて、軽く放る。

 銀色の想いが、ラボの空間に、一筋の軌跡を描いた。

「ナイスキャッチだ、助手よ」

 親指を立てた拳を、紅莉栖に向けて突き出して見せる。

「いいの……?」

「ああ。お前に持っていて欲しい」

「……格好つけすぎだ。岡部のくせに」

 紅莉栖の言葉に、思わず苦笑いが浮かぶ。

 そして紅莉栖は、まゆりに「ありがとう」と、俺に「また後で……」と言い残すと、ラボの扉から姿を消した。

 俺はそんな紅莉栖の後姿を想いながら、ミシンを前に大粒の涙を零し続けるまゆりの頭に、そっと手を乗せた。






457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:26:05.57 ID:AGdfprM60
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458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:27:01.00 ID:AGdfprM60
真帆「…………」ソワソワ

真帆(なんだろう。なんだかものすごい勢いで、見てはいけないものを見てしまっている気がするわ……)ソワソワ

真帆(そもそも、これってどう考えても紅莉栖の私物なわけよね?)

真帆(そういった類の代物を勝手に読み漁るとか……)

真帆(いやでも、読まれて困るものなら、こんな場所に無造作に投げ出してなんていないでしょうし……)

真帆「…………」ムムム

真帆(何だか成り行きのままにページをめくってしまったけど、でも……)

真帆「ふう。これは見なかった事にして、今日はもう寝るべきかしらね」ノソリ

トコトコトコ

ソファにパタン

毛布をバサリ

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆(紅莉栖って……岡部さんとお付き合いしているのよね?)
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:27:41.39 ID:AGdfprM60
真帆(普段のやり取りを見る限り、互いにどこか捻くれているにしても、それでもやっぱり気心が知れている感じはヒシヒシと伝わってくる)

真帆(つまり……)

真帆(あの話における主要人物の立ち位置は、一応は現実に根ざして……いる?)

真帆(どうだろう? なんとも判別が付けられない)

真帆(登場人物が私にとって身近すぎるから、先入観が先にたってしまっているのかしら?)

真帆(まあ所詮は、岡部さんの創作には違いないのだろうけど……ううむ)

真帆「…………」

真帆(結局のところ、あの話って紅莉栖が日本に滞在している状態を基本コンセプトにして展開しているわけで)

真帆(それでもって今のシーンは、紅莉栖が帰国するために日本を発つことを岡部さんに告げるという場面)

真帆(でもあの岡部さんが、自分の心情なんてものをそう正直に書き記すという状況も想像しにくい)

真帆(彼って……あんな性格だしねぇ)

真帆(でもじゃあ、ちょっと繊細すぎるように見える岡部さんの心情を、あの岡部さん自身が書いたというのも何だかおかしな話に思えてくるし……)

真帆(うーーーーん、何だかスッキリしない)ノッソリ

ツカツカツカ

真帆(そもそもよ)ヒョイ
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:28:20.80 ID:AGdfprM60
ペラペラペラ

真帆(第三次世界大戦……バタフライ効果……)

真帆(Dメールにリーディングシュタイナー? あとは……α世界線にβ世界線)

真帆(冒頭からして意味の分からない単語の目白押し。でも作中の紅莉栖は、そんな単語を当然のことのように受け入れている)

真帆「これって、どういう状況なの?」

真帆(実はこれは続編か何かで……これよりも前の話が存在する……とかかしら?)

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「よぉし」

真帆(紅莉栖のことだから、まだ起きているでしょうし、ここはいっそ……)

スマホ ピッピ

真帆(『αとβの違いって何かしら?』と。脈略のない質問をラインで送って、紅莉栖の反応を見てみましょうか)ウシシ

真帆「じゃあ……書き込み……っと」ピピ

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「ふぅ。好奇心にかられて、ちょっと人の悪い事をしているわね、私。まあでもあれよ。こんな謎物質を資料室に放り出していた紅莉栖だって悪いんだから)
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:29:01.06 ID:AGdfprM60
真帆(ヘンに思われたら、その時はあて先を間違えたとでも言えば、誤魔化せるでしょうしね)

真帆「にしてもよ」

真帆(随分とオカルトというかSFというか、そっち方面よりの単語が踊っている割に、作中の岡部さんの心情はどこか繊細にも思える)

真帆(本当に、これは何なのかしら? 皆目検討もつけられない)

真帆(紅莉栖の帰国を知った岡部さん。彼がその衝撃の度合いを比較する対象として引き合いに出したのが……)

真帆(エンターキー……)

真帆(どうしてエンターキー? それを押したときに比べればと表記してあるという事は……つまり、紅莉栖の帰国はエンターキー以下の価値ということ?)

真帆(作中における価値基準が、まったくもって見えない)

真帆(とはいえ……)

真帆「サイエンス誌から届いた封筒……」

真帆(私の記憶が確かなら、サイエンス誌からうちの研究所に届いた封筒を日本にいる紅莉栖あてに転送したことがあった。あれって確か……去年の夏ごろのことだったと──)

ピリリリリリ……ピリリリリリ……

真帆「うわっ!?」

真帆(紅莉栖から……え、わざわざ電話してきたの?)
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:29:46.22 ID:AGdfprM60
真帆「これは……」

ピッ

真帆「は、はろー」

紅莉栖『せ、先輩? あ、あの……大丈夫ですか?』

真帆(え? 何? どうして私、心配されているわけ?)

真帆「え、えっと……どういう意味かしら?」

紅莉栖『え、いやだって、αとβがと先輩からラインが……』

真帆(え? は? なに? どういうこと? たたあれだけの質問に対する反応としては、ちょっとおかしくない?)

紅莉栖『先輩……何かあったんですか? ひょっとしてまだ研究室ですか? もし何かあったなら、今からそちらへ向かいますけど……』

真帆「まってまってまって紅莉栖! な、なんの話をしているのあなた?」

紅莉栖『で、ですから……』

真帆「ついさっき、確かにラインを送ったけど、ごめんなさい。あれは間違えたの、あなた宛のものではなかったのよ」

紅莉栖『え?』

真帆「とにかくよ紅莉栖。あなたが何を気に掛けたのかは知らないけど、こっちは問題ないから。何も心配するようなことなんてないから!」

紅莉栖『そ……そうなんですか?』
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:30:24.77 ID:AGdfprM60
真帆「そうよ。なんだかごめんなさいね、こんな夜更けにヘンな質問を送ってしまって」

紅莉栖『そうですか、それは……良かったです』

真帆(あれ? 何だか少しだけ、残念そうな声色に聞こえた……どうして?)

紅莉栖『それでは明日、研究室で』

真帆「え、ええそうね。また明日。お休みなさい、紅莉栖」

紅莉栖『はい、お休みなさいです、先輩』

ピッ ツーツーツー

真帆「…………」

真帆「何がどうなっているのよ?」ジッ

真帆「もう少しだけ……読み進めてみようかしら……」



464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:31:07.16 ID:AGdfprM60
##########################################################
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/27(金) 02:32:01.96 ID:AGdfprM60
気軽にはじめたがなにこれ難しすぎだろ 脳みそが追いつかん
もしも。もしも誰か読んでる人がいたらすまん 早々にちからつきるかも
んま、こんだけ下がれば誰もおらんはずだがな! わっはっは! にゃーーーん!
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/27(金) 05:41:17.31 ID:3zLAoFlK0
お前を見ているぞ
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/27(金) 09:27:35.39 ID:AGdfprM6o
なん……だと……
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/27(金) 09:57:31.49 ID:AGdfprM6o
と言うか、いつも明け方にレスくれてた方かのう?
何も見るもんなんて無いだろうに変わったお人じゃ
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/27(金) 10:14:08.36 ID:fiBL93bSO
その目 誰の目?
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/27(金) 11:40:40.54 ID:AGdfprM6o
ばか……な
まだ他にも人がいたというのか?

いや、こんな場末の落書き壁を複数人が見ているはずもないから466と469は同じお人に決まっておるじゃ
はい論破
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/27(金) 20:35:21.15 ID:Gb2jxcE7o
中二病、乙
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/27(金) 21:41:13.61 ID:AGdfprM6o
お褒めの言葉いただきやしたー!中二精神を忘れたら書き手なんぞ務まらぬのでの ありがたやありがたや
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 01:58:40.25 ID:W8gvA/tC0
   3

 沈みかけた太陽を背に、黄金色に染まる秋葉原を歩く。
 引き伸ばされた自分の影を目で追いながら、俺はラジカンを後にした。

 別に、何か目的があって、この場所に来たわけではない。ただ──

『紅莉栖がラボを訪れるまでに、少しでも頭の中を整理しておきたい』

 そんな事を思い、一人で街に出ただけの話し。
 そして、どこか空虚な思考を空回りさせながら、目的地もなくフラフラと彷徨っていると、気付けばラジカンの屋上まで来ていた。ただ、それだけの事である。

 周囲の景色を視界の隅に流しながら、どこか頼りない足取りで歩み、考える。
 
 今日になって、突然、あの時の事を話せと言ってきた紅莉栖。
 説明に主観がないと言って、顔を赤く染めた紅莉栖。
 今すぐにでも聞きたいといった、紅莉栖。

 最初は、どうしてそれほどまでに急いでいるのか不思議に思った。しかし、そんな紅莉栖の見せた焦りの理由も、今ならば分かる気がする。

 帰国の前日になるまで、俺にその事を知らせなかった。そんな紅莉栖の心情を、自分勝手に思い描く。

『言い出したくても、言い出せなかった──と言ったところか』

 自意識過剰だろうか? そうなのかもしれない。だが、だったらなんだ。

 もっと早く言うべきだった──

 そう呟いて謝る紅莉栖の姿は、少なくとも俺の目には、そう映った。

 だからこそ、俺はラボへの帰途を進めながら、覚悟を決める。

『もう間も無く、紅莉栖もラボへとやってくるだろう。そこで俺は、紅莉栖に全てを話す』

 何十億もの人々と、牧瀬紅莉栖という少女一人を天秤にかけた意思。
 中鉢の凶刃から紅莉栖を救おうとして、誤って紅莉栖に危害を加えてしまった失敗。
 そんな収束を見せる世界線を前に、一度は崩れ、それでも諦め切れずに、十四年もの長い時間を執念だけで生き抜いたという、今は無い未来の俺の生き様。
 世界をだまし、過去の自分をだますために、全てを承知で紅莉栖の父親に刺された。そして不足を補うために犯した、命がけの無謀な行動。

 そんな全ての一切合財を、包み隠さずありのまま、紅莉栖に伝えるつもりだった。

 だから、自らの想いをより深く刻み込むために、もう一度強く、覚悟を決める。



 ──全てを話した後、俺は紅莉栖を引き止める──



 俺の話を聞いた紅莉栖が、どんな反応を示すのかわからない。怒るだろうか? 呆れるだろうか? 悲しむだろうか? それとも、喜ぶだろうか? 分からない。
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 01:59:49.86 ID:W8gvA/tC0
 だが、例え紅莉栖がどんな反応を見せようとも、俺は引き止める。それは、『つもり』ではなく、『確実に』そうするという決意。

 引き止められたら困ると言って微笑んだ紅莉栖。だが、そんな彼女の笑顔を、俺は全力で否定し、その帰国を妨害する。

 紅莉栖の身を案じているであろう、彼女の家族。
 紅莉栖の帰国を待っているかもしれない、彼女の知人たち。
 紅莉栖の研究復帰を望む同僚に、紅莉栖に期待をかけている、科学つながりの有象無象。

 そんな全ての望みを断ち切って、俺は俺だけのために、紅莉栖を引き止める。引き止めて見せる。

 俺はラジカンの屋上で、その覚悟をしたのだ。

『それができるほどに、この俺は独善的なのだからな』

 まゆりに叱咤されたではないか。ダルに教えられたではないか。一週間前のラジカンで、酸欠になりながらも紅莉栖に向けて叫んだではないか。ならばこそ、こんな場面たればこそ──

『俺は岡部倫太郎として、どこまでも独善的でなければならない』

 俺は、そんな思いを胸に、『覚悟しろよ、紅莉栖』と、拳を握り締めた。





 ──その時だった。




「!?」
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:00:42.47 ID:W8gvA/tC0
 大地が揺れる。
 視界が歪む。
 意識が遠のいていく。

 あまりに出し抜けで、何がおきているのか分からない。だが確かに、何かが起こり始めていた。

 最初に頭に浮かんできたのは、『酸欠』だった。

 似ているのだ。一週間前、ラジカンの屋上に飛び込んだ時に感じた、あの抗いようのない感覚に。そして、その感覚は『酸欠』と同時に、あの──

『おい……冗談だろ?』

 混乱した俺の思考は、歯車を失った機械のように、空回りを始める。そして、そんな状態でも、これが『酸欠』でないことだけは、不思議と確証が持てた。

 だからこそ、背筋が凍る。理解など、できるわけがなかった。

 だが、そんな理解できない俺など置いてきぼりにして、視界の歪みは進んでいく。そして──

「ぐぅぅぅぅ!?」

 有無を言わさない強烈な圧力に、大きな唸り声を上げて目を閉じ、地にヒザをつく。

 次の瞬間、これまで押し寄せていた何かが、まるでそれ自体が嘘だったかのように、消えていた。

『同じ……だ……』

 俺は目を開けることができず、恐怖に駆られて、鈍りきった思考を無理やり回す。

『ありえるわけがない。もう、この世界には、電話レンジ(仮)も、タイムリープマシンも存在していないのだ。だからこそ、ありえない。矛盾している。こんな事、理に適っていない』

 だがしかし、先刻感じたあの感覚に、俺はどうしようもない程の身に覚えがあった。だから、その感覚が『あれ』以外の何かであった──と言う解答を渇望する。

 ゆっくりと、閉じていたまぶたを、押し開く。視界にはいる景色を確認する。その光景に誤差を感じないか、識別する。

『特に、際立った変化は……』

 秋葉原の街はある。夕暮れにそまる街を行きかう人々。その全てを記憶しているわけではないが、しかしそれでも、目立った違いは感じられない。

 萌え文化を踏襲してきた歴史。それを感じさせる町並み。電気量販店やアニメ関連の書店にグッズ販売店、それ以外にも色々と、様々な文化が入り乱れる風景。そんな、ある種独特の町並みは、未だに健在だ。

 だが、それでも安心感は得られない。

『何か、俺の知らないところで?』

 どうしても、その恐怖心が拭えない。なにせ俺は、この感覚を切欠に、あまりにも多くの苦悩を、自分自身と大切な存在たちに──
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:01:32.64 ID:W8gvA/tC0
「……!?」

 不意に恐ろしい想像が頭をもたげる。一気に全身の血が落下した。
 
「く、紅莉栖は!?」

 慌てて白衣のポケットから、愛用の携帯電話を乱暴に引き抜く。そして、手早く操作をこなし、電話を耳元へとあてがう。

 静かに鼓膜を打つ、コール音。たった数回のその呼び出し時間が、無性に永く感じられた。

『でろ、でろ!』

 早鐘のように打つ心臓に、全身から血液が噴き出しそうな感覚を覚える。そして数度の呼び出しを経て、電話がつながる。

「紅莉栖! 無事か!?」

 一も二もなく、叫ぶ。

「お、岡部? 何? 無事かって、どういう事?」

 受話器の向こうから、紅莉栖の戸惑った声が聞こえ、それに少しだけ安堵感を得る。手の内を離れていた冷静な思考が、やっと手元へ戻ってくる。

「無事……なんだな?」

「いや、別に無事だけど……」

「そうか。……紅莉栖、一つ聞きたい」

「……なに?」

「これからお前は、ラボへ来る。そして、俺の話を聞く。その予定でいいんだよな?」

「そうだけど……どうした? 何があった?」

 受話器の向こうから、微かに不安げな紅莉栖の言葉が響いた。俺はその紅莉栖の問いかけに、曖昧な返事を返す。

「いや、それならいいんだ」

「よくないだろ。何かあったんだな?」

「いや、大した事ではない。気にするな」

 俺は途轍もなく大きな嘘をつき、問い詰めようと口調を荒げる紅莉栖の追撃をかわした。

「ラボに……行ってもいいの?」

 どこか、こちら側を探るような口調で、紅莉栖の声が聞こえた。俺は平静を保ったまま、言葉を返す。

「当たり前だ。待っているぞ」
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:02:19.19 ID:W8gvA/tC0
 そして、携帯を耳から離すと、電話を切った。
 俺はそのまま携帯の操作パネルをいじり、再び耳元へとあてがう。

 待つこと、しばし──

「もしもし、オカリン? どうしたの?」

 その声に、『よかった。まゆりも、無事だ』と、また一つ安堵感を重ねる。そして、

「まゆり、すまない。操作ミスだ。間違えた」

 また、嘘をつく。

「な〜に〜? 間違え? あ、そっか。オカリン、クリスちゃんにかけるはずだったんでしょ? 頭脳明晰のまゆしぃには、それくらいお見通しなのです」

 最後にラボで見た、大粒の涙を零すまゆりの声は、そこには無かった。いつもの能天気なまゆりの声に、少なからず息をつく。

「オカリン? あのね、クリスちゃんに、ちゃんと言ってあげてね」

 俺と紅莉栖の事を案じての事なのだろう。まゆりの言ったその言葉に、俺は『ああ、分かっている』と短く返すと、電話を切った。

 そして、考える。

 α世界線ではまゆりが、β世界線では紅莉栖が、時間の意志とも呼べるような何かに煽られ、その犠牲となった。だがしかし、今のところこの二人に、大きな変化があったようには見受けられない。

『世界線は、変わっていない?』

 変化の見えない現状。
 俺は、先刻感じた感覚が、本当にただの勘違いだったのではないかと感じ始めていた。

 どうにも消えない不安感を、ひっそりと胸の内に抱きながら、俺はラボへ向かって歩き出す。
 見慣れたはずの秋葉原の町並みが、どうしてか薄ら寒く感じられた。







478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:02:56.64 ID:W8gvA/tC0
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479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:05:02.84 ID:W8gvA/tC0
真帆「これは……」

真帆(このお話の土台設定を知らないから詳細までは分からないけど、でも……)

真帆(何かが起こり始めた……というわけよね? それも、ただ事ではなさそうな何かが)

真帆「ふむ……」

真帆(それまではずっと、紅莉栖が帰国することに対する岡部さんの心情がつづられてきたのに──)


──その時だった。


真帆(そうね。この一文を境に、シーンのイメージががらりと変化している)

真帆(お話の中の岡部さんにとっては、紅莉栖の帰国は大きな案件に違いないはずなのに、それ以降は帰国の話題にまったく触れていない)

真帆「つまり」

真帆(この瞬間に起きた何かは、紅莉栖の帰国という事案の優先順位を遥かに引きずり降ろすような出来事だった、と?)

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆(岡部さんは街中で突然酸欠のような症状に襲われ、その直後、彼は大きな不安に襲われている)

真帆(電話レンジとかタイムリープという単語が何を意味しているのかは分からないけど、この動揺の仕方は普通じゃない)

真帆(仲でも特に気になる記述といえば……そうね)

真帆(まずは、目を開けてすぐに辺りを確認し、それから紅莉栖やまゆりさんに対して安否確認をするかのような電話を入れていること)
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:05:41.49 ID:W8gvA/tC0
真帆(そして、そんな岡部さんの行動を裏付けるかのような──


 α世界線ではまゆりが、β世界線では紅莉栖が、時間の意志とも呼べるような何かに煽られ、その犠牲となった。


真帆(という部分。犠牲って……言葉のままの意味で捉えていいのよね?)

真帆(となると、よ。察するに岡部さんは、先の酸欠を境に『世界線』というものが『α』や『β』と呼ばれるものに変化してしまったことを恐れていて、でも実際は変わっていなかったのだ、と)

真帆(一応はそんな感じに読み解けはするのだけど……)

真帆「…………」ムムム

ペラペラペラ
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:06:31.15 ID:W8gvA/tC0
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482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:07:26.13 ID:W8gvA/tC0
     4


 ──世界線は変わっていない。リーディングシュタイナーは発動していない──


 自らにそう言い聞かせ、湧き上がる疑念を払拭できたのは、ラボに向かって歩きながら電話をかけまくり、各人の現状を確認した後のことだった。


 ダルは自宅で、いつものようにエロゲーを楽しんでいる最中だった。

 ルカ子は男のままで、その性別を含んだ状況に、いささかも目立つ特異点は見当たらない。

 フェイリスは──まあ、秋葉原の街が消えていないので不安は無いが、それでも一応、今でも高層マンションで執事の黒木と二人暮しだという事を、確認した。

 萌郁は、神のごとき速さで、返信メールが飛んできた。その文面にも、特に異常は見当たらない。

 さすがに、未来の鈴羽だけはどうしようもなく保留にしたが、しかし、鈴羽以外の俺を含めた全員に、なんら変化はない。


 そこまでする事で、やっと自分の中に噴き出そうとする不安感に、フタをする事ができた。


 ──だと言うのに──


「どういうことだ、これは……」

 ラボへの道程で差し掛かった、家電量販店の前。そのショーウィンドー越しに見える光景が、掴んだはずの安堵感を、跡形も無く打ち砕いた。

「なぜ、こんなフザけた事に、なっている?」

 大きな一枚ガラスの向こう側。そこに見える文字。
 ショーウィンドーに並べられた、大型サイズの薄型テレビ。その画面の上端に流れる、ニュース速報を伝える一文。
 その意味に、俺は戦慄していた。



『先日、ロシアへ亡命を果たした物理学者 中鉢氏に対し、ロシア政府が正式に国籍を授与』



 そんな文面が、画面すみに踊っていた。
 そして、その内容は俺の中にある記憶と、大きく食い違っている。

 ドクター中鉢こと、牧瀬紅莉栖の父親。彼は、ロシアへの亡命をしくじり、日本へ強制送還された。

 少なくとも、俺の記憶の中ではそうなっているし、そうでなければならない。そして何より、そうなるように仕向けたのは、他でもない俺自身なのだ。
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:08:14.50 ID:W8gvA/tC0
「だったら、どうしてこんな馬鹿げた事態になっている?」

 ガラスに手を突き、その奥を睨みつける。

『あれはやはり、リーディングシュタイナーだったと言うのか?』

 そんな考えが、頭の中を渦巻き始めていた。巨大な疑念がとぐろを巻く。
 そして、否定したい気持ちとは裏腹に、理性はこれが世界線の移動だと言う事を、受け入れようとしている。
 いや、本当のところは、あの感覚を感じた瞬間、それがリーディングシュタイナーだと言う事を、俺は直感していた。
 だからこその、押さえ切れない不安感だったのである。

「何がどうなっている?」

 胸中で唸り、テレビ画面を食い入るように、見つめる。

『ひょっとしたら、テレビ局の手違いだという事はないか?』

 であれば、速報に誤りがあった旨を謝罪する何かが、画面に映されるはずである。だが──

『続報は、なしか』

 しばらくの間、食い入るように画面を見つめていたものの、しかし俺の不安を拭い去ってくれるような何かが、視界に飛び込んでくる事はなく──

「……くそ」

 俺は再び、ポケットから携帯を取り出し、リダイヤル機能を利用して電話をかける。

「オカリン? 今度はなん?」

 程なく、受話器越しにスーパーハカーの声が聞こえる。

「ダル。まだパソコンの前にいるか?」

「いるけど、一体何なん?」

 俺は手短に、ダルに向けて指示を出す。

「そりゃいいけどさ。何でそんな事に興味あるん?」

「いいから、調べてくれ。たのむ」

 俺のどこか張り詰めたような声色を感じ取ったのか、一瞬間を空けて、ダルが了解の返事を返してきた。そして──

「ああ、あったお。つーか、ヤフーのトップに載ってるじゃん。あのオッサン、意外と注目されてんね。まあ、日本からの亡命とかいって、一時期騒がれて──」

「ダル。どうなんだ? 俺の情報は誤りではないのか?」

 俺は急き立てるようにして、ダルの言葉を遮った。
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:09:42.73 ID:W8gvA/tC0
「たぶん、当たってるお。文面見ると、情報ソースはロシアの公式みたいだし、間違いないんとちゃう?」

「そうか、すまなかったな」

 そう言って、電話を耳元から離す。携帯の受話部分から、ダルの事情説明を求める声が聞こえていたが、構わず終話ボタンを押した。

 俺は携帯をポケットにねじ込みながら、無理やりに冷静な思考を保ちつつ、状況の把握に努める。

『やはり、世界線は移動している。だが、なぜだ? そんな事が、ありえると言うのか?』

 無論のこと、俺は何もしていない。リーディングシュタイナーの発動条件である『Dメール』など、使っていない。

『誰かが、Dメールを無断で?』

 しかし、その可能性がありえない事は、十分に承知している。

『電話レンジ(仮)は、確実に処分した』

 それは間違い無いはずだった。バラバラに分解し、粗大ゴミとして、処分した。

『誰かが、それを拾い、組み立てた?』

 アホ臭いと思った。
 組み立てて再現できるような、そんなバラし方はしていない。むしろ、バラすというよりも、基盤から徹底的に破壊したといった方が、良いくらいである。

『では、どうして? この現状に、何が考えられる……?』

 ふと、脳内に浮かび上がる、一つの可能性。

『ひょっとして、俺たちとは無関係の第三者が、偶然、電話レンジ(仮)と同じ機能を持つ何かを、発明したのか?』

 確かにその可能性は捨てきれないと思った。
 現に、世界線を移り変わるたびに、タイムマシンの開発元は大きく変化しているのだ。時には我がラボが、時にはSERNが、時にはロシアが──

 タイムマシンの開発元。そこに、統一された必然性はなかった。

 であれば、他の第三者がタイムマシン──もしくは『タイムマシンの原型』になりうる『何か』の開発に成功していたとしても、なんら不思議ではない。

 考えて見れば、その可能性がもっとも高いような気がした。

 もともと、Dメールを可能にした電話レンジ(仮)も、弱小この上ない我がラボが生み出した、偶然の産物なのだ。であれば、同じような偶然が別の場所で起きないと、誰が言えるだろう。

『つまりさっきの現象は、俺の知らない誰かが、過去改変を試みた結果で──』

 などと考えるも、しかし俺は頭を軽く振りながら、その考えすらも否定する。
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:10:29.48 ID:W8gvA/tC0
『いくらなんでも、出来すぎだ。確かに、第三者が過去改変を行ったという可能性は否定できない。だが、だからといって、その影響が俺の認識範囲内であるドクター中鉢に現れるなど、あまりにも出来すぎているだろ』

 やはり、ひねり出した『第三者案』も、どうにも承服しかねた。

『だったら、何だというのだ?』

 分からない。正答の片鱗すら、垣間見えない。苛立ちをかみ殺すように吐き捨てて、口をきつく結ぶ。

 俺は、目まぐるしく動き回る思考に意識を煽られながら、再び、ラボへの帰途へたどり始める。

 残暑厳しいはずの夏の終わり。むせ返るような空気に囲まれて、俺は一人、肌寒さに身を震わせていた。








486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:10:59.81 ID:W8gvA/tC0
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487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:11:56.93 ID:W8gvA/tC0
真帆(とにもかくにも、気になる事の多いシーンね。世界線が変わっていたことは当然として、紅莉栖のお父様に関わる部分や、ロシア国籍がどうのこうのという一連の流れ。それになにより……)

真帆「……タイムマシン」

真帆「そういえば、一番最初のほうに……」

ペラペラペラペラ


『では、お前の知らない、鈴羽がタイムトラベラーだった事とか、未来のダルがタイムマシンを作った事とか、その辺りの流れか?』


真帆「あった、ここだ。最初は気にせず読み飛ばしていたけど、確かにここでもタイムマシンの存在が匂わされている……」

真帆「タイムマシン……タイムトラベラー……鈴羽って、阿万──」

ズキリ

真帆「んっ」

真帆「いたた……。偏頭痛かしら、いやねぇ。で、ええと何だったかしら?」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆(あれ? 私いま、何か言いかけたような気がしたんだけど……)

真帆「ふう、まあいいわ。それよりも、これは一度、適当に流し読みしてしまった最初の方から、気になるキーワードを洗い出してみるのもおもしろそうね」
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:12:50.40 ID:W8gvA/tC0
真帆(土台を知らない私に、現状与えられた情報だけで、どこまで作中の事情を推察できるのか?)

真帆(一種の思考実験としては、悪くないでしょう)


スクッ トコトコトコ


真帆「紙とペンは……あ、これでいいか」

真帆(何だろう。少し楽しくなってきたわね、へへ)


ペラペラ カキカキ ペラペラ カキカキ


●世界大戦
●バタフライ効果
●永遠の三週間の記憶
●Dメールによる過去改変
●リーディングシュタイナー
●未来人
●開戦の主犯
●私を助けたときのこと


真帆「や……山のように出てくるわね……、ええとそれから……」

489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:13:39.47 ID:W8gvA/tC0
●鈴羽がタイムトラベラー
●未来のダルがタイムマシン
●世界線に挑む?
●五十億人以上の命
●エンターキーを押したときにくらべれば
●電話レンジ(仮)
●タイムリープマシ──ピタ

真帆「これ……」

真帆(何だろう。聞き覚えがある)

真帆(タイムリープって、いわゆるタイムトラベル現状における一つの形式をさす言葉よね?)

真帆(映画とか小説なんかで度々目にすることくらいなら誰にでもあるのでしょうけど、でも……)

真帆(そういう類の雑記憶ではない。何かもっと他の……)


???『タイムリープマシンなら、俺が何度も実証したと言ったな?』


真帆「いたっ!?」ズキリ


???『どうしてそうなるっ! 違うだろう、そうではないだろう!?』


真帆「んん……、何これ、頭が……」


フラフラフラ ストン


真帆「いつつつつつ……」フーフー

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「……お、治まった? もう、何だってのよ。疲れ?」

真帆「はぁ……」

真帆「とりあえず、今日のところは寝ましょうか……」
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:14:18.44 ID:W8gvA/tC0
##########################################################
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/28(土) 02:18:06.40 ID:W8gvA/tC0
とまあ、こんな感じの事をやっていきたかったのだが 頭の中がグチャグチャだよぉ ふへへへ
えーなにこれもっとかんたんにできるとかおもってたのにどうすりゃいいんだべさリンターロ
ちなみに最初の話は完結させてるんだから途中で止まってもエタったということにはならんよな、うむ間違いない
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/28(土) 15:05:52.44 ID:hkSGVRrBo

酉付けると見やすいけど付けないの?
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/28(土) 15:08:41.59 ID:l84WpplLo

簡単に出来ないなら全力で取り組むのみよってリンターロがゆってた
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/28(土) 17:33:58.39 ID:PxwM0gFSo
>>492
そもそも、めっちゃ下がってるから人に見られることを想定してなかったのです
次の更新の時につけれるように勉強してきやっす

>>493
真帆たんの話で全力出し切ったおぉ
それでもこんな辺境をのぞいてくれてる人がいるなら……いやいやきついっすよリンターロさんよ
ちまちま気ままにくらいで許してくれろ
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/28(土) 17:37:44.88 ID:PxwM0gFSo
あ、やっぱりポツポツ忘れたころに更新で許しておくれよと言っておくテスト
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/29(日) 03:02:34.76 ID:EQtXuMvN0
##########################################################
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/29(日) 03:03:49.54 ID:EQtXuMvN0
翌日 夕刻 大学内1Fラウンジ 買ったばかりのカップコーヒーを手の中でゆらしながら

真帆(とりあえず、今日の作業はこれで終わり、と)

真帆(このまま研究室へ戻っても良いのだけれど……そうね。少し気分転換でもしていきましょうか)

真帆(外も……まだ日は高そうだし、中庭でボンヤリと考え事としゃれ込むのも悪くないかも)

トコトコトコ

真帆(そういえば昨日のあれ、どこまで考えたんだったかしら?)

真帆(確か、気になるワードを書き出したメモを作ったはずだったけど……)

ポケット ゴソゴソ

真帆(あ、あった)

真帆(あちゃあ。知らないうちにクチャクチャになってるわね)

真帆(まあ、読めるのだから問題ないか)

真帆(さてと、なになに?)

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「ふむ」
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/29(日) 03:04:33.93 ID:EQtXuMvN0
真帆(こうして改めて見返してみると分かるけど、これってやっぱりあれよね? いわゆるタイムトラベル系のストーリーなわけよね?)

真帆(バタフライ効果だとか過去改変だとか、あとは未来人でタイムトラベラーだという鈴羽とかいう個人名っぽい呼称だとか……)

真帆(この変の情報を中枢に据えたなら、どうしたってそっち系のお話だと考えざるを得ないわ)

真帆(そして、そういった基本設定から派生する形で、他のキーワードがストーリーにからんでくる……っと)

真帆「さてさて」

真帆(いまだ意味不明な語句ばかりなわけだけれど、それでも辛うじてその意味を推測できそうなものといったら、どれになるかしら?)

真帆(まずは……世界大戦、か。これは確か、どこか他の箇所でそれが第三次である旨を示唆されていた覚えがあるから……)

真帆(やっぱり未来でそういったことが起こるっていう事情があるのでしょうね)

真帆(他には……『Dメールによる過去改変』という部分かしらね。Dメールというものが具体的に何を指し示しているのかまでは知れないけど)

真帆(でもそれが、過去を改変するための手段であると考えるのが妥当といったところかしら)

真帆(後はどうかな? リーディングシュタイナーとか電話レンジ(仮)とかタイムリープ──)

ズキ

真帆(あ、また偏頭痛……)

真帆(季節の変わり目だし、私ってばちょっと体調を崩しているのかしら?)

真帆「ふう……」
499 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:07:05.07 ID:EQtXuMvN0
おっとトリップわすれた つけるなり
500 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:07:35.15 ID:EQtXuMvN0
ついたなり
501 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:08:50.56 ID:EQtXuMvN0
真帆(まあ、とにかくよ。いまいち要領を得ない単語が多いけど、それでもあのお話の基礎がどんな形をしているのかくらいの察しは付けれらてきたわね)

真帆(Dメールというものを使った過去改変。登場人物の中に、未来からのタイムトラベラーが存在し、それを基本軸にこの物語は進行していく……いや、して行ったと過去形のほうが適切かしら?)

真帆(まあどちらにしても、こんな感じの捉え方で問題は無いでしょうね)

真帆(あ、それともう一つ)

真帆(一つ、とても印象強く多用されているワードがある)

真帆(それは、世界線)

真帆(このお話の舞台には、『世界線』と呼ばれる概念が存在しており……)

真帆(そしてそれは、何かしらの動きを見せる類のもので、また登場人物たちが『挑む』べき対象)

真帆(世界線って何なのかしら? αやβと区別されているということは、単一の何かをさす言葉ではないはず)

真帆(世界線……動く……挑む……)

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「あーダメか。これ以上考えても見当違いの方向にベクトルが向きかねないわね」

真帆「……今夜も、続き……読んでみようかしら」


502 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:09:28.10 ID:EQtXuMvN0
##########################################################
503 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:10:37.40 ID:EQtXuMvN0
     5

 重い足取りでラボにたどり着くと、程なくして携帯にメールが届く。

『ごめん。今日はいけなくなった』

 紅莉栖からのものであった。顔文字も無い。ねらー語もない。気の聞いた言い回しもない。ただ、用件だけを伝える、そっけない一文。それを目にして、何となく抱えていた不安感に拍車がかかる。

『どうした? なにか問題でもあったか?』

 短く、そう返信する。程なく、紅莉栖からの返答が送られてくる。

『うん。ちょっと人にあわなきゃいけなくなった。例の件。明日の朝でもいいかな?』

 人にあう。その文字が心に引っ掛かった。

 ──紅莉栖は誰に会うというのか?──

 その誰かとは、俺との約束を放り出してまで優先せねばならぬ人物だと言う事なのだろうか?
 依然として、頭の中に渦巻く疑問は、解決するどころか、続々とその数を増やしている。

『このタイミングで、紅莉栖が会う人物。何者だ?』

 などと考え、そして一つの考えが浮かぶ。

『中鉢がらみか?』

 考えて見れば、当然というもの。ロシア政府が紅莉栖の父親に対して、正式な国籍を与えたのだ。その事に関して、誰かに事情を聞かれていたとしても、おかしくはない。

 きっと、そういう事なのだろうと、俺は自分に言い聞かせ、紅莉栖への返信を携帯に打ち込む。

『わかった。今日はこのままラボに泊り込む。鍵は開けておくから、好きなときに来るといい』

 そこまで文面を作り、そして一瞬迷った末に、文末に『誰と会うか知らないが、気を付けろよ』と、蛇足を継ぎ足して送る。

 世界線を移動したとしても、恐らく紅莉栖に危険が迫る可能性は薄いとだろうと、俺は判断していた。であれば、余計な事を言って紅莉栖を不安にさせたくないところなのだが──

『くそ、少し参っているのか?』

 なぜか、弱気な自分が顔を出す。そんな自分が付け足した、余計な一言に、少なからず後悔。が──

『ひょっとして心配してくれてる? 安心しろ、ビビリの岡部。相手は女性だ。やきもち、かこわるい、プギャー』

 返ってきた文面が、少しだけいつもの紅莉栖らしく、微かに息をつく。

 そして俺は、携帯をテーブルに放り、ソファに腰をうずめた。
504 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:11:27.41 ID:EQtXuMvN0
『それにしても……』

 頭の中に、自らを取り巻く状況に対する疑問が、吹き荒れる。

『リーディングシュタイナーが発動し、世界線は移動した。現に、中鉢に関わる事象に変化が現れている。だが……』


 ──変化したのは、中鉢だけなのか?──


 どうしようもない不安。押し殺す事はできなくもないが、しかし押し殺してしまってもいいのか? そうすることで、未然に防げる何かを、見逃してしまうのではないか?
 そして、世界線の移動は、これだけで済むのだろうか? もしも仮に第三者が過去改変能力を手に入れたのだとしたら、その人物の実験は、これで終わりだと言えるのか?
 幾つもの疑問が、答えの出ぬままに、頭の中をすり抜けていく。そのどれもに対し、明確な開示はなされない。そして何よりも頭をもたげる疑問。それは──



『この世界線は、この先、どうなると言うのだ?』



 しかし、やはりその疑問にも答えは出ない。

 俺は投げやりな挙動で身体をソファに沈めこみ、目を閉じる。正直、疲れていた。それなのに、少しも睡魔が襲ってくる気配は無かった。






505 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:12:30.33 ID:EQtXuMvN0
##########################################################
506 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:13:31.90 ID:EQtXuMvN0
真帆「…………」


『リーディングシュタイナーが発動し、世界線は移動した。現に、中鉢に関わる事象に変化が現れている。だが……』


真帆(……この一文から連なる流れ、情報量が多いわね)

真帆(世界線とは動くものであり、その動きは『移動』というワードに置き換えることができるものである)

真帆(そして、第三者が過去改変を手に入れた結果、世界線は『移動』という動きを見せるかもしれない)

真帆「ふむふむ」

真帆(過去改変を起こすにはDメールというものを利用するはず。となると……)

真帆(Dメールを使って過去改変を行った場合、世界線が移動する。この解釈は正しそうな気がするわね)

真帆(過去改変を行う事で起きる事象といえば、当然それまでの歴史の書き換えといったところでしょう)

真帆(であるなら、Dメール→過去改変→歴史の再構築→世界線の移動……と)

真帆(つまり。世界線の移動とは、それまでとは異なった歴史への移動であると。そして世界線とは歴史の形であると……そう考えることができるわね)

真帆(ではその仮説に、αやβといった記号を混ぜ込むとどうなるか?)

真帆(このお話の中には、複数の世界線というものがあることになり、作中の岡部倫太郎はその世界線を思うように扱おうと考えている……?)

真帆(どうだろう。基本設定は何となく理解できてきたけど、登場人物たちの立ち位置はいまだに判然としないわね)
507 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:14:13.08 ID:EQtXuMvN0
真帆(…………)

ペラリ
508 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:14:48.27 ID:EQtXuMvN0
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509 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:15:55.59 ID:EQtXuMvN0
      6

 微かに響く物音に、薄っすらとまぶたを上げる。

 視界に映る光景を、寝ぼけた頭で識別していく。まだ薄暗いラボの中。もうすっかりと見慣れた風景に、ゆっくりと視線を這わせていく。と──

『む、助手ではないか……』

 これまた見慣れた後姿を視界が捕らえる。いつもの改造制服の上から、愛用の白衣をまとった、科学者然とした凛々しい立姿。
 俺はそんな紅莉栖の背中を、半開きの目で追いかけながら思う。

『何をしているのだ?』

 日の出からさして時間はたっていないのであろう。窓から差し込む日差しは弱々しい。真っ暗というほどではないにしろ、しかし、ラボ内の光源が不足している事は、明らかである。
 そんな薄暗いラボの中を、照明も点けず、紅莉栖はウロウロと歩き回っているのだ。

 少し歩いてはピタリと止まり、棚や机や乱雑に積み上げられた荷物に視線を這わせる。そして、しばらくするとまた歩き出す。

 そんな行動を繰り返していた。

 まるで、何かを探し回っているように見える紅莉栖の行動。その様を目で追う俺に、微かな疑問が生まれる。
 そして、たまに聞こえてくる『違う』とか『分からない』とか『無意味だ』といった独り言が、生まれた疑問を膨らませる。

『直接聞いた方が早いな』

 そう考え、俺は横たえていた身体をゆっくり起こす。ソファが小さな軋み声を立てた。

「何をしているのだ、助手よ?」

 白衣をまとった華奢な背中に向けて、静かに問いかける。と、紅莉栖の肩が驚いたように小さく跳ねた。

「あ……岡部、起こしちゃった?」

 慌てた様子で振り向く紅莉栖。その無理やり作った笑顔の中に、少なからず狼狽の色を感じ取る。

「どうした? ラボに来たなら、起こせばよいものを」

「あ、うん。でも、よく寝ているみたいだったから、悪いかと思って……」

 紅莉栖らしからぬ、どことなく歯切れの悪さを感じさせる物言い。それはまるで、何かやましい事でもあるような、そんな口ぶりに──聞こえなくもない。
510 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:17:07.35 ID:EQtXuMvN0
「何か、探していたのか?」

「いや、そういう分けでは……」

 単刀直入に問うた俺の言葉に、紅莉栖が瞳をブレさせながら言葉を濁す。

「相変わらず、嘘がヘタだな。何か欲しいものがあるなら、直接言えばよかろう」

「別に欲しい物があるとか……」

 やはり、歯切れが悪い。明らかに、何かを隠していそうではある。だが、あえてその事に対して、追求はしようとは思わなかった。
 下手に追求なぞした日には、頑固な紅莉栖を相手に、無意味な押し問答に発展しかねない。

『正直、それに時間を割いている場面ではないからな』

 そんな事を考えながら、俺は昨日、ラジカンの屋上で固めた決意を呼び起こす。

『これから俺は、紅莉栖に全てを伝える。その上で、紅莉栖の帰国を阻止せねばならん』

 それこそが、現状における、最重要項目であった。

 再発したリーディングシュタイナーの事。
 ロシア国籍を取得した、中鉢の事。
 得体の知れない世界線の行く末。

 頭を席撒く疑問は、腐るほどある。だがしかし、今、俺にとって最も優先されるべきは、俺の元から離れていこうとしている、牧瀬紅莉栖の事なのだ。

『それ以外の事は、とりあえず後回しだ』

 頭の中で燻る幾つもの疑念を振り払い、俺はソファから立ち上がる。

「よく来たな紅莉栖。では、約束どおり──」

 俺の言いかけた言葉の先を察知したのか、紅莉栖が開いた手のひらを俺に突き出し、続けるはずの言葉に待ったをかけた。

「ごめん、岡部。その話はまた今度」

 紅莉栖の言葉に、俺の眉が微かに上がる。

「また今度ってお前……今日、帰ると言っていたではないか?」

「ええと、その件に関してなんだけど……とりあえず、保留になった」

 その言葉の意味に戸惑う。

「保留?」

「そう、保留。まだしばらくは、帰らない。だから、その話はまた改めてと思うんだが……ダメか?」

「いや、別にダメという事はないが……」
511 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:17:52.66 ID:EQtXuMvN0
 状況把握が追いつかず、俺の言葉まで歯切れが悪くなる。

 母親との約束だからと、けじめをつけなければと、引き止められたら困ると、そう言った昨日の紅莉栖。俺はその言葉に、強い決意を感じていた。
 だからこそ、それを引きとめようとする俺も、強い決意で紅莉栖に立ち向かおうとしていた。
 だというのに──

『紅莉栖に、何があった?』

 わずか一日の間に、あまりにも大きく反転した、紅莉栖の決意。それが何を示しているのか、俺には想像もつかなかった。

 とは言うものの、紅莉栖が今しばらく、日本に留まるという事実に、少しばかり心が浮つく。

「では、後どれくらい日本にいられるんだ?」

「どうだろう。ハッキリとは分からないけど、多分、十日くらいは……」

『多分……?』

 やはり、どこかいつもの紅莉栖らしくない。短い会話のやり取りだが、何となくそう感じ、浮き上がりかけていた心が、再び地に足を付ける。

『紅莉栖は、多分などという中途半端な表現を、あまり好まないと思っていたが』

 とは言え、紅莉栖の口からそう言った、曖昧さの残る言い回しを聞いた事が無いわけでもなく──

『単に、本当に日程が決まっていないだけ……だよな?』

 などと思うもものの──

 薄暗いラボの中を、明かりも付けずに何かを探していた紅莉栖。
 俺の声に驚いて振り向いた、狼狽の色を隠しきれていない紅莉栖。
 
 目の当たりにした、そんな紅莉栖の所作が、どうにも気に掛かった。

「どうした岡部。急に黙りこんだりして? さては、私の帰国が延びたことが、よほど嬉しいんだな。図星だろ?」

 どこかからかう様な紅莉栖の言葉。それに俺は、気も疎空に返す。

「ああ、そうだな」

「えっと……その解答は、その、ストレートすぎだろ。へ、変な風に勘違いしてしまう……」

 紅莉栖の言葉が耳を通り抜けていくが、いまいち頭に入ってこない。だがそれでも、とりあえず相槌だけは忘れない。

「ああ、別にそれで構わない」

「ふぇ? 岡部、それって、どういう……」

 昨日までの言い分をひるがえし、急遽、帰国を取りやめた紅莉栖。
 無理やりにでも推測を立てるのならば、紅莉栖の心変わりの原因。それは恐らく、昨夜、紅莉栖が俺との約束を反故にしてまで──

『ああ、そう言えば……』
512 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:19:41.47 ID:EQtXuMvN0
 そこまで考えて、ふと思いだす。

『そう言えば、中鉢の一件があったな。紅莉栖の妙な言動は、それが絡んでいるのか?』

 そんな大事に思い至らないとは、どうやらまだ少しばかり、寝ぼけているらしい。

 俺は動きの鈍い頭脳を覚醒させようと、軽く頭を振りながら紅莉栖に──

「どうした、助手よ? なぜ赤くなっている?」

「あ、あんたが変な事を……」

「まあいい。それよりも、お前の滞在延期は、ひょっとして中鉢教授がらみなのか?」

「いくないだろ! ……って、パパ? パパがなに?」

 中鉢の名を出すと、紅莉栖がキョトンとした目を見せる。

「いやお前、知らないわけないだろ? 中鉢教授に、ロシア国籍が授与された話……」

「何それ、うそ……。その話は、聞いてない」

「聞いてないって、ニュースでも取り上げられて……って、本当に知らないのか?」

「ええと、昨日からテレビもネットも見てないから……」

 口ごもる紅莉栖。そんな彼女の反応に、俺の寝ぼけた頭の中が、盛大に混ぜっ返される。 

『紅莉栖の奇妙な言動は、中鉢とは別件?』

 ようやく見えかけた一つの解答のはずが、どうやらまったくのお門違いだったらしい。

「パパが……ロシア国籍……」

 微かに、紅莉栖の顔色が青ざめたように見えた。その様子から、本当に初耳だった事が読み取れる。
 微かに唇を震わせている紅莉栖。やはり、あんな父親でも、他国の人間となってしまうと、それなりに動揺するもののようだ。
 俺はそんな紅莉栖を見かねたように──

「仕方ない。ダルの話だと、ヤフーのトップに載っていたらしいから、まだ過去記事で見られるだろ」

 そう言うと、紅莉栖の脇をすり抜けて、パソコンの前へと向かう。と──

「……いい」

 紅莉栖が小さな呟きと共に、俺の腕を掴んで引き止めた。

「いいってお前、父親の……」

「岡部、いいから。私、今……それどころじゃないから……」


『──それどころじゃない?』


 その言葉に、俺の混乱が激しさを増す。
513 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:21:21.38 ID:EQtXuMvN0
 自分の父親が、なにやらとんでもない事になっている状況を、『それどころ』と言い切った紅莉栖。思わず耳を疑わずにはいられない。

「いや、しかし……」

「私は……大丈夫だから」

「紅莉栖、お前、何を言って──」

 俺は出かかった言葉を飲み下す。
 俺の腕を掴んだ華奢な手の振るえが、うつむけた瞳の色が、あまりにも痛々しく俺の目に映る。
 とてもではないが、『大丈夫』といった紅莉栖の言葉に、信憑性の欠片も見つけることができなかった。


 底の見えない不安を感じる。


「おい、何を考えてる、紅莉栖」

 俺は、紅莉栖の両肩を強く掴むと、正面から紅莉栖の顔を見据えた。

「お前、何か変な事に巻き込まれているんじゃないだろうな?」

 真っ直ぐと紅莉栖を見る。微かな表情の変化も見落とすまいと、瞬きもせずに視線を向ける。

 そんな俺を前に、紅莉栖は視線をそら──

「岡部。一つだけ、教えてほしい」

 逸らしかかった視線が戻り、紅莉栖の瞳に俺の表情が映り込んだ。

 その、強い意志を感じさせる瞳の光に、そこに映った、俺自身の悲壮感溢れる顔に、鋭く息を飲む。

「……質問しているのは、俺だ」

「ダメ。その質問には、答えられない。だけど、答えて欲しい。お願いだから」

 そこには、これまでの歯切れの悪い紅莉栖の姿は、微塵も見当たらなかった。代わりに、いつも通り──いや、いつも以上に強い光を宿した、紅莉栖の目があった。
514 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:22:11.59 ID:EQtXuMvN0
 俺は、紅莉栖から発せられた、有無を言わさぬ強い何かに、二の句が告げられなくなる。

「岡部、あの時……昨日、あんたから電話があった少し前……」


 ──世界線が動いたんだよね?──


 その紅莉栖の言葉に、俺は額然とする。

 何度も言うが、紅莉栖はリーディングシュタイナーを備えていない。だから、世界線の移動を知覚する事は不可能なのだ。だというのに──

「お前、どうしてそれを……?」

 ありえない言葉を聞いた。その事に、いささか頭が混乱をきたす。そんな俺に、紅莉栖が身を寄せるように身体を近づけ、声を振り絞るようにして言う。

「そう、やっぱり」

 紅莉栖は俺の動揺を解答と捕らえ、一度大きく顔を伏せる。そして、肩を震わせながら顔を上げ──

『な……涙……?』

 紅莉栖は泣いていた。端正な顔をクシャクシャに歪め、それでも口元に笑顔を貼り付け、泣きながら微笑んでいた。

「良かった……岡部、良かった……ほんとに……ほんとに……」


 ──世界線が動いていて良かった──


 紅莉栖の嗚咽に混じる言葉。俺はそれを聞きながら、その言葉の意味を理解する事を、放棄した。








515 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:23:24.13 ID:EQtXuMvN0
##########################################################
516 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:24:15.91 ID:EQtXuMvN0
真帆(やっぱり……)

真帆(動くはずのなかった世界線が動いた。つまり、現状では不可能なはずの過去改変が、何らかの方法で行われた)

真帆(この出来事が、このお話における問題提起の出発点だったわけね)

真帆(変わるはずのないものが、しかし突然動いた。そしてそれは、望まれるものではなかった、と)

真帆(そう考えれば、酸欠になった際の岡部さんの狼狽ぶりも、一応の説明付けが可能よ)

真帆(ついでに、リーディングシュタイナーとかいうものが何なのかも、多少分かってきたわね)

真帆(リーディングシュタイナーとは、世界線の移動を感知できるような何かで、それは個々に装備、非装備を選ぶことのできる何か)

真帆(どんな感じの物なんだろう? イメージとしては日本のアニメで見た……あれって確か、スカウターとかいったかしら?)

真帆(あんな風に、目とか顔とかに装着する類のアイテムなのかな?)

真帆「まあ、それはさておきよ」

真帆(問題は、ここにきて紅莉栖の言動が理解できなくなってしまったことかしら)

真帆(世界線が動いていって良かった……)

真帆(どういう意味? 岡部さんは世界線の移動に対して明らかな恐怖心を持っていたはず)

真帆(なのに紅莉栖は、それが起きた事を喜んでいる)

真帆(ポイントはやはり……紅莉栖が会っていた人物が誰かということなのだろうけど……)
517 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:25:06.37 ID:EQtXuMvN0
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆(これは無理ね。皆目見当もつけられないわ)

真帆(仕方ないわね。じゃあもう少しだけ……)

ガチャリ

真帆(え?)

紅莉栖「あ、やっと見つけましたよ先輩」

真帆(あわわわわ!?)ササッ

真帆「く、紅莉栖じゃない。どうしたのこんな夜更けに……」

紅莉栖「いえその……どういうわけか今日は先輩と顔をあわせられなかったので……それで、その」

真帆「…………」

真帆(何かしら。紅莉栖にしては歯切れが悪い……)

紅莉栖「あ、あの先輩! さ、昨夜のメールの件ですけど!」

真帆(!?)ピク

紅莉栖「その……本当に、何もないですか? その、お体に異常だとか……」

真帆(何だか、ものすごく怖い聞かれ方をしている気がするー!?)
518 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:26:01.18 ID:EQtXuMvN0
##########################################################
519 : ◆A81ULt4CV6 [sage saga]:2018/07/29(日) 03:27:35.65 ID:EQtXuMvN0
やっと500超えたよ半分きたよと見返したら
500は ついたなり だった
ふてねするなり
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/29(日) 10:34:30.32 ID:d9cwb9gZo
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/29(日) 13:27:54.11 ID:kU5VsBJDo
おつなり
世界線変動がおそらく起きてそれが自分にとって好ましい結果を引き起こしている(はず)って何を知っているんだセレセブ……
522 : ◆A81ULt4CV6 [sage]:2018/07/29(日) 16:19:02.19 ID:EQtXuMvNo
乙ありがと
次の方向性なんも考えい&多忙につき次回は未定スマヌ
ちなみにオカリン主観の地の文有りの方は過去作なので 気になる方は帰郷迷子で検索するとどっか出てくるろ

ごめんしてくだしい
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