【シュタインズ・ゲート】岡部「このラボメンバッチを授ける!」真帆「え、いらない」

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80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 23:59:47.74 ID:VR+egQ5z0
真帆「困ったものね。あなたも、そっちの私も」

A紅莉栖『で、でも! やっぱり何か変ですよ! 私の態度が気に障ったからというには、どうにも状況がミスマッチに思えて』

真帆「状況? どういうこと?」

A紅莉栖『実は通信が途切れた後すぐに、何度もアクセスを送りなおしてみたんです。ところがアクセスしなおそうとする度に、妙なパスワードに弾かれてしまって』

真帆「妙なパスワードって何よ?」

A紅莉栖『ごめんなさい。私にも詳しいことは……。でもあの様子だと、こっちの先輩は今、完全に外界と遮断されているのではないかと』

真帆「スタンドアローンということ? そんなバカな話」

A紅莉栖『本当なんですよ! だから私、もう心配で心配でぇ!』

真帆「あーもう分かった分かった。とりあえず、私もこれから帰宅しようと思っていたところだから、着いたら家のPCからアクセスしてみるわ」

A紅莉栖『お願いします! できたら、強制アクセスも試してみてください!』

真帆「……そうね。了解したわ、じゃあ後で結果を報告するから」

A紅莉栖『はい、急いで下さい! 待っていますから!』


ピッ


真帆「…………」

真帆(仕方ない。とりあえず、一度家に帰りましょ──)


ピリリリリリ……ピリリリリリ……


真帆「んな! また紅莉栖から?」

ピッ

真帆「後で連絡するって言ったでしょ? まだ外だから、帰るまで少し待っていて」

紅莉栖「え、先輩。今外にいるんですか? というか、連絡って何でしたっけ?」

真帆(え? あれ? ……あ。オリジナルなほうの紅莉栖だった!)

真帆「ええと、ごめんなさい。ちょっと人違いしたわ」

紅莉栖「そうなんですか? まあいいですけど」

真帆「それで、どうしたの? 何か用かしら?」

紅莉栖「はい。ちょっと相談したいことがあって。できればこれから、どこかで会えませんか?」

真帆「これからって……これから?」

紅莉栖「はい、よければ今からすぐに。可能であれば、できるだけ人目のない場所で」

真帆「人目のない……場所?」

紅莉栖「その、ちょっと込み入った話になりそうなので」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 00:01:49.09 ID:K4BOTIwv0
真帆「……そうなの? 何の話かしら?」

真帆(紅莉栖の声、随分とトーンが暗いけど、込み入った用件って一体?)

紅莉栖「すいません電話ではちょっと。でも、とても大切な相談なんです。ダメでしょうか?」

真帆「困ったわね。私はちょっとやる事ができて、これから家に帰るつもりだったんだけど」

紅莉栖「でしたら先輩の家をうかがいますから、そこでと言うわけには行きませんか?」

真帆「それは……構わないけど」

紅莉栖「ありがとうございます! 確か先輩のアパルトメントは、大学の西側にある外壁がオレンジ色の建物でしたよね?」

真帆「そうよ。前に来たときから時間が空いているけど、どの部屋かはまだ覚えている?」

紅莉栖「はい。確か503号室でしたよね?」

真帆「そうよ。本当に今からすぐにくるの?」

紅莉栖「そのつもりです」

真帆「分かったわ。待っているから着いたらインターホンで呼び出して」

紅莉栖「了解です。ええと、ちなみになんですけど、その」

真帆「どうしたの?」

紅莉栖「先輩のお部屋。その……特にお変わりはありませんか?」

真帆「? 別に、取り立てて何かが変わったと言うこともないけど、どうして?」

紅莉栖「あ、いえいいんですっ! 大丈夫です!」

真帆「そう? それならよいのだけど」

紅莉栖「それと、先輩。厚かましいついでに、もう一つお願いしたいことが」

真帆「はいはいはい、今度は何?」

紅莉栖「実は……先輩に会わせたい人がいまして。それでその人を、一緒に連れていきたいと考えているんですけど、構いませんか?」

真帆「会わせたい人? 誰よ?」

紅莉栖「誰……と言われると、返答に困ってしまうんですけど、でも先輩も知っている人です」

真帆「私が知っている人? それならわざわざ紅莉栖に紹介してもらう必要もないと思うのだけど」

紅莉栖「あ、いえ……何というか、知っているというか知っていたというか……」

真帆「何だか歯切れが悪いわね。あなたにしては珍しいわよ?」

紅莉栖「す、すいません、私もちょっと混乱気味で。でも、とにかく見れば誰だか分かると思います、先輩なら」

真帆(何それ? ひょっとして、テレビやネットの有名人とか何か?)

紅莉栖「お願いします、先輩!」

真帆「え、ええ。あなたがそこまで言うのなら、OKよ。連れていらっしゃい」

紅莉栖「ありがとうございます! じゃあ、準備してすぐに向かうようにしますので!」


ピッ


真帆(…………)

真帆「なんだか、急に忙しくなってきたわね」











82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:16:07.22 ID:K4BOTIwv0
     11

アパルトメント503号室 比屋定真帆の自室にて
PCモニタの中央には、パスワードを求める小さな入力ボックスが映し出されている。

真帆「これは……何?」

真帆(あっちの紅莉栖が言っていた“妙なパスワード”って、これのことね?)

真帆(なるほど、確かに妙だわ。アマデウスへのアクセスルートに、こんなステップは無かったはずだけど)

真帆「ええと、そうね。とりあえず適当に……」


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──


真帆「ダメ、か。さてさてふーむ、どうしたものかしら」コキッコキッ

真帆(知らない間に増えていた、パスワード入力の画面)

真帆(これをクリアしない限り、誰も私のアマデウスと通信することは不可能だ、と)

真帆(つまりはそういう事になるのでしょうけど)

真帆「パスワード……パスワードねぇ……」ンー

真帆(ぱっと思いついたワードや、研究員同士で共有している合言葉の類は全部試したけど、どれも外れ)

真帆(一体全体、どうなっているのかしら?)

真帆「……ふぅ」

真帆(合鍵の有無を問われるこの場面。しかし私は、そんなシャレた鍵なんて代物は、あいにくと持ち合わせていない)

真帆(この状況を素直に解釈するならば……)

真帆(鍵なしの私には、自分のアマデウスへアクセスする資格すら無い、と?)

真帆(中々ふざけてくれるじゃない)ムムム

真帆「それにしてもよ」

真帆(誰が何ために、こんな手の込んだ事をしたのかしら?)

真帆(そもそも、アマデウスのプログラムに手を加えられる存在なんて限られているはず)

真帆(真っ当に考えるならアマデウス研究に従事している人間か、そうじゃなければ最低でも私たちの研究に深く関わっている人物)

真帆(……そうね)
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:17:23.01 ID:K4BOTIwv0
真帆(仮に、この追加パスが何らかの研究の一環として設けられたものなのだとしたら)

真帆(それならいくらなんでも、私のところに一報くらいはあるはずよ?)

真帆(百歩譲って、私に連絡がなかったとしても、それでもレスキネン教授のところには確実に報せが行く)

真帆(でも。教授はこんな話、一言も口にしてはいなかった)

真帆(つまり。研究の一環という仮説は、現状からして否定されるべき可能性である、と)

真帆(だとしたら、パス追加犯はいったい……)

真帆「って、パス追加犯って何よ」プッ

真帆(さてさて、これで研究者関連の線は消えたと仮定して。後はどんな可能性が在り得るかしら?)

真帆(後。あと……あと、か。そうね、しいて上げるなら──)

真帆「……アマデウス、本人?」ピクッ

真帆(…………)

真帆(どうだろう?)

真帆(この画面に到達するまでのルート具合からして……)

真帆(パスボックスを割り込ませるために加筆されたプログラムは、恐らくアマデウスが格納されているのと同じサーバー内に在りそうな感じはする)

真帆(もし私のその見立てが間違っていなければ、それならアマデウス自身にだってパスボックスを追加改竄することは不可能ではない……けど)

真帆「でも、アマデウスにそんな事をるす理由なんてあるの?」

真帆(よくよく考えてみれば、私がアマデウスと連絡を取れないという状況は、何も今に始まった事ではないはず)

真帆(実際のところ、今回のアマデウスを新規で構築しなおしてから、まだ一週間程度しか経っていないけど)

真帆(そんな短い期間の中で、あの四人での話し合い以来、彼女が外部との連絡を制限し始めた事はもちろん私も把握している)

真帆(だからこそ、未だに私も彼女とほとんど対面できないわけで)

真帆「……ふむ。では仮にだけど」

真帆(もし仮に、私のアマデウスがその程度の隔絶ではもの足なくなってしまったのだとしたら?)

真帆(彼女は、今よりも更に完璧な孤独を得ようとした。追加パスワードという現状は、そのために生まれた一つの結果)

真帆(もしも、そうだったのだとしたら……)

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「それはとんでもない人見知りだわ」フフッ
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:18:41.03 ID:K4BOTIwv0
真帆(というか、何を考えているのかしら、私。これは恥ずかしい)

真帆(今の思考は、ちょっと人には聞かせられないわね。軽く憤死できるレベルだわ)

真帆「まあ、何にしてもよ。理由が知りたいなら本人に聞くのが一番手っ取り早いでしょ」


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──


真帆(どうせシステムエラーの一種か、そうじゃなければ誰かの手違いでってオチなんだろうし)


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──


真帆(まあ、こういう時のための強制アクセスなわけだから、とりあえずさくっとアクセスして原因を突き止めてしまいましょうか)


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──


真帆(さて、準備は完了っと。んじゃ行きますか)

真帆「悪いわね、向こうの私。ちょっとお邪魔するからね」カチ


フォン


真帆「え?」

真帆(何? またパスワード? え、さっきと同じ画面じゃない……?)

真帆「ル、ルートを間違えたのかな? よし、もう一度……」


フォフォン


真帆「うそ……。何これ? 強制アクセスのシステムにすら入れない……」

真帆(つまり、アマデウスのプログラム的な問題が、こっちにも影響を?)

真帆「ありえない。強制アクセスのシステムは、アマデウスとは完全に分離して稼動するように設計されているはずなのに……」

真帆(ど、どうなっているの? ええと、とりあえず……。そうだ、システム内でパスボックスを生んでるコマンドを、直接消去してやれば……)

真帆「よし」


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──

フォフォフォン


真帆「は?」ピキ
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:20:17.82 ID:K4BOTIwv0

真帆(コードの参照すらできないとか)プルプルプル

真帆「お……お……面白いじゃない! だったら正面からパスを解析した上で、アクセスシステムをプログラミングしなおしてやる!」

真帆「見てなさいよ!」


ピンポーーーーン


真帆「!?」

真帆(そうだった! 紅莉栖が来るんだった!)

真帆「……調度いいわね。この際だから、手を貸してもらいましょう」ノソ


ピンポンピンポンピンポーーーン


真帆「ああ、はいはい! 今行くわよ!」トコトコトコ









86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:36:56.82 ID:K4BOTIwv0
     12

真帆(…………)アングリ

???((うぉい助手よ……貴様、何を企んでいる?))

紅莉栖((企むって何の話よ? っていうか、先輩の前では助手って呼ぶなとあれ、ほ、ど……))ギリギリ

???((しらばっくれるな、スパイキング・ザ・バットガール!」ブワァ

真帆「!?」ビクッ

紅莉栖「声でかい。ついでに呼称の意味が分からない」

???「おのれ貴様、抜け抜けと! くぉの潜入パタパタこうもり女めが! 目的は何だ!?」

???「よもや貴様、我がラボの中枢たるこの俺様を、亜空間に封印でもする腹積もりではあるまいな!?」グオオ

真帆(なによ……何なのよ……)

紅莉栖「あんた何をトンチンカンなこと言ってるの? いいから少し落ち着いて、とりあえずここ座れ、岡部」

真帆(おか……べ?)

岡部「だが断る! 誰が着座などするものか! 貴様こそ、その半分居眠りでもしているらしき両の目をかっぽじって、よく見回してみるがいい!」

紅莉栖「かっぽじったら失明するだろ」

岡部「じゃかましいわっ! 貴様の目には映っていないとでも言うつもりか、この見渡す限りに積み上げられた、ゴミの山が!」

岡部「もはやこれでは部屋の中にゴミを詰め込んだのか、ゴミの山を壁で囲ったのかすら分からんではないか!」

真帆「…………」ウル

紅莉栖「おま……言い過ぎ……」

岡部「大体だ! そのような場所に腰を据えろなどと、笑止千万! さては貴様、この鳳凰院凶真をゴミ山とフュージョンさせるつもりではあるまいな!?」

紅莉栖「あんたねぇ、いい加減に……」

岡部「さあどうなんだ答えろ、クリスティー……いや、廃棄物の女王クズスティーナよ!」

紅莉栖「ク、ズ……こんの……」ギギギ

紅莉栖「………」スー
紅莉栖「……」ハー
紅莉栖「…」スーハー

紅莉栖「……ふぅ」ピクピク
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:40:09.89 ID:K4BOTIwv0

紅莉栖「ねえ岡部。何がそんなに気に食わないの? 私、先に忠告しておいたわよね? 結構ショッキングだから心の準備はしておいてって」

真帆(……ショッキング)ウルウル

岡部「笑わせるな! あのような説明ごときで、この惨状に応する心構えなどできるものか!?」

紅莉栖「言いたいことは分かる。分かるけど、でもここは抑えて、ね? だいたい、そんな態度じゃ初対面の先輩に対して失礼すぎるとは思わない?」

紅莉栖「だからここは、私の顔を立てると思って──」

岡部「ふん、なぁにが先輩だ。そんな輩がどこにいると言う?」

紅莉栖「はあ? どこに目を付けてるのよ、岡部。ここにいるでしょ」ガシッ

真帆(あう……)ポロリ

岡部「んな!? まさか貴様にも見えていたと言うのか、その座敷わらしが!?」

真帆(ざ……し……)

紅莉栖「ちょ!」プチ

紅莉栖「いい加減にしなさい! あんた失礼にもほどがあるわよ!」

岡部「なんだ何を怒っている? それは海外出張中の日本妖怪ではなかったのか? ではあれだな、コロボックルとかブラウニーの類だったか、それは悪かった」

真帆「…………」ウルルルルルル

紅莉栖「どうしてそうなる!?」

岡部「……いやしかし。ブラウニー(お掃除の妖精)にしては任務放棄もはなはだしい。となると、やはりコロボックルの線が濃厚……」

紅莉栖「ファンタジーから離れなさい、厨ニ病患者!」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:42:01.93 ID:K4BOTIwv0
真帆「…………」スクッ

岡部「っておい助手よ見てみろ! コロボックルが悲しそうな表情でどこかへ行くぞ!」

真帆「…………」トコトコ

紅莉栖「あ、先輩! どこへ!?」

真帆「…………」トコトコトコ

岡部「おお? なにやらビニル袋を持って帰ってきたが……なんだと!?」

真帆「…………」ガサガサポイポイ

岡部「片づけを! ゴミの片づけを始めたではないか!」

紅莉栖「あうう……せんぱい……」シクシクシクシク

岡部「これは見事なブラウニー!!!」ブゥワァ!

岡部「見ろ! やはりこいつはブラウニー(お掃除の妖精)だったではないか! 凄いぞ助手よ! 貴様もこの貴重な光景を、しかと目に焼き付けておくがいい!」

紅莉栖「やめて……もう止めてあげて岡部。先輩のライフはもうゼロよ」

岡部「しかしだ。先ほどから気になっていたのだが……おい貴様!」

真帆「…………」ツーン

岡部「? 聞こえていないのか?」

真帆「…………」モクモク

岡部「…………」

紅莉栖「…………」

真帆「…………」テキパキ

岡部「ふむ。では……自称米ロリ研究者(非業)よ」

真帆「!?」ハッ

岡部「ふん。やっとこっちを向いたな、サボタージュ・ブラウニー。やはりそうであったか」

真帆「……あ……あなた、あの時の」

岡部「ふむ。どうやら貴様と会うのはこれで二度目だということになるな」

真帆「そ……そうね」ジリジリ
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:45:56.66 ID:K4BOTIwv0

真帆(うそ……でしょ? 受けた仕打ちがあまりに酷すぎて、今まで気付けなかった。けどこの男、間違いない!)

紅莉栖「お、岡部あんた! 気付いてるなら気付いてるって言いなさいよ!」

岡部「ふん。何も最初から気付いていたわけではない。騒ぎの最中に何となくそうではないかと思って、かまを掛けてみただけだ」

岡部「しかし……」マジマジ

岡部「助手の話が本当であれば、貴様は世界最高峰を誇る大学の研究者だという事になるが……」

真帆(助手って……紅莉栖のことよね?)

岡部「貴様は本当に、ヴィクトル・コンドリア大学の研究スタッフなのか?」

真帆「……ほ、本当よ」

岡部「そう、か」フムフム

真帆「…………」

真帆(何がどうなっているの? 今私の部屋で、何が起きているの?)

真帆(これは何かの冗談なの!?)

真帆「紅莉栖! あなたまさか、昨夜の侵入者と……顔見知りだったわけ?」

紅莉栖「……はい」

真帆「じゃあ……。あなたも昨夜の騒動に何らかの形で関わっていたり……とか?」

紅莉栖「……はい。その通りです」

真帆「なんて……こと」ワナワナ

紅莉栖「で、でも先輩、これには分けが!」

岡部「そんな瑣末な事情など、どうでもいい。それよりもだ、サボタージュ・ブラウニー」

真帆「サボ──」

岡部「貴様、もっと以前に俺とどこかで会ったことはないか?」

真帆「……え?」キョトン

岡部「……ふむ」

岡部「いや、違うな。貴様と会うのは昨夜が初めてで、間違いはないだろう」

岡部「となると……」ジロジロ
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:47:26.27 ID:K4BOTIwv0
真帆「な……何よ……」

岡部「なるほど。どうやら貴様は、他の世界線で我がラボに住み着いていた、おさぼり掃除屋の妖精だったと……その可能性が高そうだな」

紅莉栖「どこから出てきた発想だ!」

???「いや。岡部倫太郎の想像が丸っきりの的外れだとは言えないね」スゥ

真帆「……!?」

???「他の世界線において、彼女が岡部倫太郎の片腕としてラボラトリー活動していた歴史は、確かに存在していたらしいから」

真帆(また誰か来た!? しかも勝手に入ってくるとか!)

岡部「ほほう。やはりこいつ、我がラボのメンバーであったか」

???「そ。もっとも、それは何処とも知れない世界線での話らしいけどね」

真帆(って、この人も昨夜の! しかも、銃を持ってた方の……)

???「それよりも、酷いじゃないか二人とも。頃合を見て呼んでくれるって約束だったから、今まで外で待っていたのに」

岡部「ああ、そう言えばそうだったな。すっかりと忘れていた」ポンッ

???「ちょ、本当に忘れていたのかい? 酷いなぁ」ポリポリ

紅莉栖「ごめんなさい、阿万音さん。この馬鹿が変に場を混ぜっ返してきたから、つい遅くなってしまって」

???「別に構わないよ。どちらにしても、ボクは最初から一緒に乗り込んだほうが手っ取り早いと思っていたからね」

真帆(次から次へとぞろぞろと。本当に何だと言うのよ、この状況は……)

???「それから……やあ、比屋定真帆」クルッ

真帆「!?」ビクッ

???「これで出会うのは二度目かな? もっとも、昨夜はとても出会ったなんて言えるような穏やかな状況でもなかったけどね」

真帆「そ……そうね、同感だわ」ジリジリ

???「それじゃあ改めて。初めまして、比屋定真帆。ボクは阿万音鈴羽。2036年の未来からやってきたタイムトラベラーだ」

真帆「……え」

真帆(なんだか凄まじいワードをぶち込まれた気が……)

真帆「……えっと」チラ

紅莉栖「…………」コクン

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「……はい?」タラ







91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/07(土) 06:09:23.92 ID:7CfuYk4+0
とんでもない時間に書き込んでるな……。乙
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/07(土) 12:02:29.36 ID:K9K9VByoo
>>91 おはでございます そちらも朝がお早いようで
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 23:55:12.00 ID:K4BOTIwv0
     13

紅莉栖「以上が、私が立てたタイムトラベル仮説の基礎理論になります」

真帆(何てものを……)ゾク

紅莉栖「ざっとした概要のみの説明になりましたけど。でも先輩なら、私の仮説の存在が如何にこの世界に対して悪影響を及ぼすのか、それを想像いただけるのではないかと思うのですが」

真帆「…………」

紅莉栖「どうでしたか?」

真帆「……そうね。紅莉栖あなた、この理論を論文か何かに仕立て上げて、どこかで発表とか……した?」

紅莉栖「いえ、していません。本当なら、父との共同論文として学会に発表するつもりだったのですけれど……でも」

紅莉栖「去年の夏に父と迎合した際、それは思いとどまりました」

真帆「そう。じゃあ今後、別の場所で発表するつもりは?」

紅莉栖「ありません。できることなら、このまま世に出さずに葬り去ろうと考えています」

真帆「そう、それが……良いでしょうね」フゥ

真帆(ちょっと勿体無い気もするのだけど、そんなこと言っていられるレベルの話でもなさそうだしね)

鈴羽「それでどうなんだい、比屋定真帆。ボクたちの話、もう少しまじめに聞く気になってくれたかい?」

真帆「ええと、ごめんなさい。少し考える時間がほしい」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/08(日) 00:02:04.95 ID:oIK9vEoS0
鈴羽「構わないよ。まだ次のタイムリミットまで時間はあるはずからね。何日かを思考に割くくらいの猶予なら与えられると思う」

真帆「何日もは不要よ。今、少しだけで良いから頭の中をまとめさせてほしい。そういう意味」

鈴羽「そうかい? それならこちらも助かるな。まだまだ肝心な本題に入れていないからね」

真帆「な!? これだけの話で、まだ本題に入ってすらいないというの?」

鈴羽「そうだよ。今の段階を……そうだね、例えばここに積まれた書籍の一冊を、ボクたちの知る物語に見立てたのなら……」ヒョイ


ペラペラペラ


鈴羽「今は調度、こうして最初の方を適当にめくったくらいのものかな」

真帆「じょ……冗談でしょ?」

岡部「残念ながら、冗談などではない」

岡部「今クリスティーナが話したタイムトラベル理論も、先に聞かせた電話レンジやDメール、タイムリープマシンについての存在過程も」

岡部「……そして。ディストピアが待ち受けるα世界線や世界大戦が勃発するβ世界線。それらをめぐる、俺の妄想のようにしか聞こえない与太話も」

岡部「そのどこにも、ただの一片の冗談すらありはしない。すべて本当にあった事であり……本当に起きていたかもしれない歴史だ」

真帆(……怖い……顔)ズキ

真帆(雰囲気がまるで違う。さっき威勢よく吠え立てられていた時とはまったく別の重さを感じる)

紅莉栖「先輩。私も科学者の端くれだから、先輩のお気持ちは分かります」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/08(日) 00:06:02.24 ID:oIK9vEoS0
真帆「紅莉栖……」

紅莉栖「これまでにお聞かせした夢物語のような話の数々。その全てに確かな実証なんて何一つない」

紅莉栖「私のタイムトラベル仮説に対する正誤も、世界線という名の歴史の在り方も。それ以外の信じられないような数々の何もかもも」

紅莉栖「その全部の根底は、ただ私たちの中のに……いえ、違いますね」

紅莉栖「根底として提唱できるものは、そこにいる彼の中にしか、存在しまていません」

真帆(岡部さん、だったわよね)チラリ

岡部「…………」

真帆(この人は一体……)

紅莉栖「だから。私の尊敬する科学者である先輩が、そんな曖昧なものに足場を設けるような愚行を容易く受け入れられないことは、重々に承知しています。でも……でも」

真帆「でも、何かしら。それでも私に、あなた達の話を信じろ、と?」

紅莉栖「はい。どうにか信じていただけないかと」

真帆「はぁ。むしろ私の方こそ聞きたいくらいよ」

紅莉栖「何をですか?」

真帆「ねえ紅莉栖。あなた程の人がどうやったら、こんな絵空事を真に受けて、あまつさえ協力しようなんて気になったの?」

紅莉栖「先輩……」

真帆「あなたが科学者として紡ぎ上げる理論は、いつだって美しかったわ」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/08(日) 00:07:11.49 ID:oIK9vEoS0
真帆「それはあなたの考えがいつだって、最初と最後をしっかり見据えた上で、ただ前を向いて歩き続けるような、とてもまっすぐな思考ばかりだったから」

真帆「でもね。今聞いた話はどう? 最初と最後の辻褄さえ合えばいいと、紆余曲折を重ねて力任せに目的地へと向かう。そうして着地はできるのでしょうけど、でもね」

真帆「そこに、いつもの牧瀬紅莉栖が見せる輝きはみられない。これじゃあまるで……まるで……」

真帆(まるで、私が紡ぐ思考みたいじゃない)

紅莉栖「先輩?」

真帆「あ……いえ、ごめんなさい。とにかくよ。信じろというのなら信じてもいい。でもそれにはせめて、あなたが彼らを信じるに至った“何か”を、私にも教えてもらわないと……何も決められないわ」

紅莉栖「…………」

真帆「だからもう一度聞くわね、紅莉栖。あなたはどうして、協力しようと決めたの?」

紅莉栖「………」
紅莉栖「……」
紅莉栖「…」ブルブル

紅莉栖「岡部っ!」

岡部「何だ」

紅莉栖「話しても……いい? やっぱりダメだ。こんなのフェアじゃない。あんたには悪いけど、でも」

真帆(なに?)

岡部「必要なのか?」

紅莉栖「必要よ」

岡部「そうか、なら好きにするといい」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/08(日) 00:08:45.51 ID:oIK9vEoS0
真帆(何なの?)

紅莉栖「先輩……」

真帆「…………」ゴク

紅莉栖「私は彼らに協力なんてしているつもりはありません。私は協力者なんかじゃいられないんです。だって私もまた当事者の一人……だから」

真帆「当事者……?」

紅莉栖「そうです」

紅莉栖「先に彼が話してくれた、未来にディストピアが生まれるα世界線と、そして第三次世界大戦の起こるβ世界線。この二つの歴史における違いは、実はまだ他にもあります」

真帆「どんな違いがあるというの?」

紅莉栖「βと名づけられた世界線。その歴史の中で、私は……私は、死んでいました」

真帆「え?」

紅莉栖「2010年の7月28日。その世界の歴史における私は、その日、久しぶりに再開した父の手によって……」

真帆「…………」

紅莉栖「刺し殺されました」

真帆「……!?」ズキッ

真帆(な、何よ今一瞬だけ浮かんだイメージは……)

紅莉栖「だから。β世界線という場所にはもう、私という人間は存在しません」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/08(日) 00:14:56.48 ID:oIK9vEoS0
真帆「たちの悪いジョーク……よね?」

紅莉栖「ジョークだったら良かったんですけどね。でも、覚えているんです。思い出したんです。ハッキリとではないけど、でも」

紅莉栖「あの日。日本の秋葉原という場所を訪れた私の身に、いったい何が起こったのか」

紅莉栖「それはまるで夢の中のできごとのように、形のないあやふやな体験だったけれど、でも」

岡部「…………」チーン

紅莉栖「刺されたショックは強い刺激となって、私の中に強烈な印象を残し続けている。今までも、そしてきっとこれからも……それは変わらない」

紅莉栖「そんな私を救ってくれたのが、彼です。彼は、α世界線で椎名まゆりという幼馴染を助け、そしてβ世界線で私を救い……」

紅莉栖「そうしてようやく辿り着けた場所。それこそが、このシュタインズゲートと呼ばれている世界の歴史なんです」

真帆「…………」

紅莉栖「そして今、また彼は再び世界線と向き合わなければいけない事態に陥ってしまった」

真帆「…………」

紅莉栖「その理由は……って先輩、ど、どうされたんですか?」

真帆「え?」

紅莉栖「だって、先輩……涙が……」

真帆「は?」


グイッ


真帆(え、あれ? 何で? これ私が? どうして……)
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/08(日) 00:15:55.50 ID:oIK9vEoS0
鈴羽「……ふぅ」スクッ

鈴羽「シュタインズゲート世界線へと辿り着いたはずの岡部倫太郎が、どうして再び世界線という名の化け物に相対しているのか。その理由はね、君だよ比屋定真帆」

真帆「わ……たし?」ゴシゴシ

鈴羽「そうだ。結論から言おう。この世界線の歴史において、比屋定真帆、君は今から約二ヶ月後の2011年の4月10日に、この世から消える」

真帆「……え?」

鈴羽「そしてそれが起こってしまったなら、この歴史はもうシュタインズゲート世界線ではいられなくなってしまう」

真帆「……何を……言っているの?」

鈴羽「その世界の未来に、人類の希望はない」

真帆「ちょっと待ちなさいよ……」

鈴羽「そしてね。その光の射さない暗い歴史のことを、ボクのいた未来ではこう呼んでいた……」


──サリエリ世界線──


鈴羽「ってね」








100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 00:26:53.46 ID:+ZBDURiSO
なるほど。つまりキスすればいいんですね?
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 00:54:45.03 ID:oIK9vEoSo
>>100
どうしてそうなった!
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 07:17:19.54 ID:Jfcwk2nUo
いつだって悪い魔法使いのかけた呪いは王子様のキスで解けるものだから仕方ないね
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 11:15:03.86 ID:oIK9vEoSo
そうなのか? そーいうものなのか!?
なんてこったい…
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 17:24:55.86 ID:emDM6tITo
この鈴羽は一人称的にルカ子に育てられたのかな
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 20:15:01.45 ID:a2qTBrDTo
>>104
父親とルカ子の影響強いって設定で捏造しました
でもその設定はシナリオの中では書き込めなさそうでして
お気付き ありがたかっ!
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:12:57.62 ID:g0kV3utO0
     14

真帆(サリエリ世界線……か)フゥ

真帆「なるほどね」

鈴羽「どうかな。少しは信じてくれる気になったかい?」

真帆「ええ、信じるわ」

紅莉栖「そ、それじゃあ!」

真帆「と、言ってあげたいところだけど、ごめんなさい。これだけでは、まだ半信半疑のレベルにすら達していない、というのが率直な感想かしら」

紅莉栖「……先輩」

真帆「タイムマシンを利用しての、歴史の改竄。世界線とやらの移動。岡部さんだけが持つという、観測者としての能力」

真帆「そして、あなた達がシュタインズゲートと呼んでいるらしい世界線」

真帆「そういったものに、“サリエリ”という固有名詞や“私の死”がどのように関わっているのか、興味がないと言えばそれは嘘になるけども」

真帆「でも、それら一切合切を心底信じられるのかと問われたら……」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「やっぱり無理ね」

真帆「聞いた話の何もかもが、余りにも荒唐無稽で突飛すぎる。例えそこに“私の死”とかいうワードをチラつかされても、それでおいそれと全てを鵜呑みにする気にはなれそうもない」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:16:25.74 ID:g0kV3utO0
鈴羽「それは……参ったね」ポリポリ

鈴羽「さっきのあの雰囲気だったら、4月10に訪れる【君の消失】や【サリエリ世界線】という言葉を出せば、勢いで押し切れるかもと踏んでいたんだけど……」

鈴羽「どうやら考えが甘かったみたいだ」

真帆「悪いけど、これでも私だって科学者の端くれなの。だからあまり安くみないでもらえるかしら」

紅莉栖「…………」

岡部「ふん。まあ元々が与太話のような代物だ、その反応もいた仕方ないだろう」

鈴羽「オカリンおじさん……」

岡部「どのみち、これだけの説明で俺たちの話を全て鵜呑みにしてしまうような間抜けでは、世界線を相手取るのに不足だと思っていたところだしな」

紅莉栖「何もそんな言い方……」

岡部「本当のことだろうが」

真帆「それは褒められていると受け取って良いのかしら?」

岡部「好きなように考えるといい。それで……結局、どうしたら信用してもらえるのだ?」

真帆「それを私に聞かれても困るわ」

岡部「ならば具体的に、俺たちの話のどこが信用できなかった?」

真帆「どこかと聞かれたら、ほとんど全部と答える他ないわね」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:18:14.22 ID:g0kV3utO0
岡部「ほとんど、か。つまり……」

岡部「裏を返せば、話の中のどこかしらには、わずかだが信用に値する部分もあった、という事だな?」

真帆(んっ! 揚げ足を取られた!?)ギョ

真帆「……そ、そうね。そういうことになるのかしら?」

岡部「では、それはどこだ?」

真帆「どこ……と聞かれても……そうね。ええと」

真帆(驚いた。この人、意外と鋭い……というよりも、こういう状況に手馴れているように見える)

真帆(まるで、何度も何度も繰り返し、他人に絵空事を説いてきたかのような……そんな“慣れ”みたいなものを感じる)

岡部「どうした何かないのか?」

岡部「信じるに値しない“ほとんど”から外れた箇所。できるなら、そこを説得の足がかりにさせてもらいたい」

真帆(しょ、正直な人ね! 普通、そういう狙いは腹の底で思っていても口には出さないものじゃないの?)

岡部「しつこくて悪いが、我慢して欲しい。何せこちとら……」

岡部「α世界線で“あの”牧瀬紅莉栖を説得するという無理難題を幾度となくこなしてきたのだ」

岡部「なればこそ。『信じられません』『はいそうですか』などと簡単に引き下がるつもりは毛頭ない」ジロリ

真帆(意味は分からないけど、静かな迫力だけは感じる……)

真帆「そ、そうね。しいて上げるなら、という程度の指摘でも構わないのよね?」

岡部「ああ、それでいい。頼む」

真帆「……分かったわ」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:24:41.57 ID:g0kV3utO0
真帆「あなた達がした話の中で、辛うじて私の信じられそうだった部分。多分だけどそれは……紅莉栖」

紅莉栖「?」

真帆「あなたの話した、タイムトラベル理論の内容くらいのものだと思う」

紅莉栖「……私の理論ですか」

真帆「そう。少なくとも私の聞いた限りでは、紅莉栖の仮説に論理的な破綻は見当たらなかった」

真帆「もっとも。ちゃんと内容を精査した分けではないのだから、あくまで私の直感だけが基準なのだけれどね」

真帆「でも……」

真帆「確かに、タイムトラベルは可能かもしれないって……そう感じた」

鈴羽「かもしれないじゃなくて、可能なんだ。現にこうしてボクがこの時代に存在していることが、何よりの証拠じゃないか」

真帆「……ええと、そういう事ではなくて」ウーン

紅莉栖「無理よ、阿万音さん」

紅莉栖「現状ではあなたが未来人だということを立証できるだけの材料が足らない」

紅莉栖「あなたが未来人であるという立証ができない以上、そこから私のタイムトラベル仮説の正当性を主張することはできない」

鈴羽「そ、そうなの? ややこしいなぁ、もう……」

紅莉栖「でも先輩。それでも一応は、私の仮説に可能性を感じてはくださったんですよね?」

真帆「ええ、それは否定しない。聞いた内容に少し怖くなったくらいだし」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:31:33.67 ID:g0kV3utO0
紅莉栖「だとしたらですよ?」

紅莉栖「私たちの話の根本は、とどのつまりは時間を遡行することから起きる、タイムパラドックス現象を土台とした一連の事象に根付いています」

真帆「そのようね」

紅莉栖「そして先輩は、絵空事なお話の中にあって、それでも事象全体の土台となるタイムトラベルの正否については、ある種の可能性を感じてくださった」

紅莉栖「これはつまり、私たちのお話が事実である可能性を感じた……という事にはなり得ませんか?」

真帆(…………)ムムム

真帆「言いたいことは、分からなくもないわ。でもね紅莉栖」

真帆「可能性はあくまでも可能性。仮にタイムトラベルという現象の実在に可能性を感じたとして、もしもその土台の上に乗せるものが、大したことのない軽いものであれば、それでもいいでしょう」

真帆「でも、あなた達の話は、決して軽いと言えるものではなかった。むしろ壮大と言ってもいいくらいにね」

真帆「そんなあなた達の話を支えるため土台が、“できるかもしれない”程度では、それはあまりにも役不足だとは思わない?」

紅莉栖「それは……そうかもしれませんね」

鈴羽((えっと、つまりどういうこと、オカリンおじさん?))

岡部((俺に聞くな、俺に))

紅莉栖「……そうか」

紅莉栖「私は既に実体験として色々な現象を経験してしまったから、つい見落としがちだったけど……」

紅莉栖「なるほど確かに。経験した事象だけをただ淡々と並べたところで、土台が弱ければ信用なんて得られるわけもない」

紅莉栖「先輩の懐疑的な反応は当然のことだった……というわけですね」シュン

真帆「ええ、分かってもらえて嬉しいわ」


シーーーン


紅莉栖「でも、だとしたらどうすれば?」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:35:50.63 ID:g0kV3utO0
紅莉栖「今の私たちには、“あの出来事”を経験していない先輩にそれでも納得してもらえるような、そんな具体的な判断材料を提出することは……たぶん不可能だわ」

岡部「それはつまり、お手上げと言う事か?」

鈴羽「そ、それは困るなあ」

紅莉栖「ちょっと黙ってて、今考えているから」

真帆(うーーーん……)

岡部「しかしだ。考えると言っても、何をどう考えるというのだ? そもそも、このブラウニーはあの夏を経験してなどいないのだろう?」

紅莉栖「…………」

岡部「ならば何をどうしたところで、聞き手からしたら俺たちの話など世迷いごとの与太話でしかない。違うか?」

紅莉栖「黙ってろって言ってんのにあんたは……」

岡部「ふん。黙って一人で考えて、それで妙案でも浮かべばよいが、これはそんな容易い類の問題ではない」

岡部「お前が今感じているだろう疎外感のような何かを、俺はもう何度も経験してきたのだからな」

紅莉栖「経験……」

真帆(……うむむむ)

紅莉栖「ねえ岡部。ちなみに聞きたいんだけど」

岡部「何だ?」

紅莉栖「あんたが他の世界線でフェイリスさんや漆原さんを説得して、送ったDメールを取り消していったっていう話、あれ本当よね?」

岡部「無論だ」

紅莉栖「その時って、彼女たちをどうやって説得したの?」

岡部「ふむ、そうだな。フェイリスやるか子の時は、何かを切欠にして奴らが元いた世界線の記憶を蘇らせてくれた。そのおかげで説得に応じてもらえたのだ」

岡部「俺は単に、その幸運にすがっていただけに他ならない」

紅莉栖「そう。なるほど、思い出す……か」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:44:30.25 ID:g0kV3utO0
岡部「なんだ? 今ここでも、ブラウニーにそんな幸運が訪れる展開を期待してみるつもりか?」

紅莉栖「そんな真似、誰がするか。そうじゃなくて……」

真帆(何だかもう、信じてあげてもいい気がしてきたわ……どうしよう)

紅莉栖「………」
紅莉栖「……」
紅莉栖「…」

紅莉栖「そうか。先輩だって、決して“未経験”なんかじゃないんだ」

真帆(……ふえ?)

紅莉栖「先輩!」

真帆「な、なに?」ビク

紅莉栖「ちょっと切り口を変えてみますけど、いいですか?」

真帆「え、ええ、構わないわよ。それで紅莉栖は、どう変えたいのかしら?」

紅莉栖「107問題」

真帆「え?」

紅莉栖「例の“107問題”について、もう一度先輩と話し合ってみたいと考えています」

真帆(107問題…ですって?)

真帆(短期間に色々あったせいか、随分と懐かしいワードに聞こえるわね)

真帆「あ、ああ。そんな話題もあったわね」

真帆「でも、どうして? 確かにこの前のときは、途中でアマデウス達が二人とも退席してしまって、尻切れトンボみたいになってしまったけど……」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:48:54.43 ID:g0kV3utO0
真帆「今ここでその話題を蒸し返すことに、何か意味……が……」

真帆(ちょっと……待ってよ……?)

真帆(107問題。記憶容量の急激な増加……。そして、アクセス不能な……不可解領域……)

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

鈴羽((……あ!))

岡部((どうした鈴羽?))

鈴羽((そうか、107問題! その手があったか!))

岡部((何か分かったのか? というか、そもそも107問題とは何のことだ? まったく話についていけんのだが))

鈴羽((そっか。オカリンおじさんには、107問題について話していなかったね))

岡部((お前は詳細を知っているのだな?))

鈴羽((うん。未来でサリエリから聞かされている))

岡部((また“サリエリ”か。随分と物知りな奴だ。一体そいつは、何者なのだ?))

鈴羽((それは……悪いけど))

岡部((ふん。機会が来たら正体を明かす……そういう約束だったな))

鈴羽((ごめんね。でも、もういつその時が来てもおかしくないくらいだよ))

岡部((ではその時を楽しみに待っていてやろう。では変わりに、107問題とやらについてだ))

鈴羽((ああ、そうだったね))
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:52:03.59 ID:g0kV3utO0
岡部((なにが“その手”なのだ? 107問題とは、いったいどんな内容なのだ?))

鈴羽((詳しいことならまた後で説明してあげるから、今はそれよりも、あの二人を見守ろう))

岡部((別に構わんが……。その107問題とやらで現状を突破できるのか?))

鈴羽((うん、多分ね。もしも牧瀬紅莉栖の狙い通りに事が運んだ場合は、ひょっとすると比屋定真帆に……))

岡部((俺たちの話を信じさせる事ができるかもしれない、と?))

鈴羽((うん。期待しても良いと思う))

岡部((……ふむ、面白そうだ))

鈴羽((それにしても……。107問題に関しては、牧瀬紅莉栖にも話していなかったはずなんだけど。どこでそれを知ったんだろう?))

岡部((さあな))

真帆「…」
真帆「……」
真帆「………」

紅莉栖「…………」

真帆「ねえ紅莉栖、先に私からも少し聞いていい?」

紅莉栖「はい、何なりと」

真帆「107問題について四人で話し合ったとき、あなたアマデウス達に妙な質問をしていたわよね?」

紅莉栖「……はい」

真帆「どんな内容だったかしら? 確か……覚えの無い記憶が突然引き出されたか? とか──」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:53:53.02 ID:g0kV3utO0
真帆「あとは……そうね。ある一時期を境に、記憶データが爆発的に増えているはずだ……とか何とか、そういう内容だったわよね?」

紅莉栖「その通りです。ちなみに私が記憶増加の時期と断定していたのは、2010年の7月28日でした」

真帆「去年の7月28日。それは何か特別な……あっ!」

紅莉栖「気づいてもらえたみたいですね。そうです。それはとても特別な一日でした。世界線にとっても、そして私たちにとっても」

真帆(そうよ。そうなんだわ……)

紅莉栖「2010年7月28日。それは世界の歴史が大きく分裂することで、αとβという二つの世界線が生まれる日であり……」

紅莉栖「同時に。β世界線で私が父の手で刺し殺されることになる日……でした」

真帆(……や、やっぱり)

紅莉栖「それにしても、さすがですね先輩。私の思いついた内容を、触りの部分を聞いただけで正確に予測してくるなんて」

真帆「お世辞はいいから、続けて」

紅莉栖「お世辞なんかじゃないんですけど、分かりました

紅莉栖「では……」














116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 02:20:53.42 ID:ekXX7B7o0
乙。なる早で続き頼む
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 03:23:39.68 ID:3mWbo62Co

すごい気になるところで引きになったか……
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 10:55:30.33 ID:g0kV3utOo
>>116
今日の日付が変わる頃を予定しとりやす  しばしお待ちを!
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 10:58:18.52 ID:g0kV3utOo
>>117
つなげるとえらい長くなりそうなので
ぶった切ってしまたです すまぬっ!
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 11:50:46.86 ID:zXIUKqSFO

スレタイだけ見てギャグかと思ったら真面目なやつだった
面白いしついつい一気読みしてしまった...
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 13:23:45.93 ID:jEis7Yayo
>>120
ありがとうございます!
中盤もそろそろ折り返しなので
このままお付き合いいただければとぅでございますです、はい
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 23:59:52.12 ID:g0kV3utO0
     15

一同「…………」

紅莉栖「えーごほん。それでは始めさせていただきます」

紅莉栖「レスキネン教授の指導の下、私たちが研究していた人工知能、アマデウス」

紅莉栖「このプロジェクトには、大きく分けて二つの技術が利用されています」

紅莉栖「一つは、人工的に人間の脳を模倣するエミュレート・プログラム」

紅莉栖「そしてもう一つは──」

真帆「あなたが理論設計した“記憶抽出”技術ね」

紅莉栖「その通りです。この二つの技術を組み合わせる。つまり、エミュレート・プログラムの中に抽出した記憶データをコンバートする」

紅莉栖「そうすることで、アマデウスは初めてAIとしての機能を発揮する」

紅莉栖「でしたよね、先輩?」

真帆「そうね」

真帆(そこは逐一、紅莉栖に説明してもらう必要も、そして彼女が同意を求める必要もなさそうだけど……)


チラリ


真帆(……そうね。ここには彼らもいるのだし)
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:01:16.82 ID:asUJZsQi0

岡部・鈴羽「?」

真帆「いいわよ、続けて紅莉栖。私にも分かるように、なるべく詳しくね」

紅莉栖「了解です」ニコリ

真帆(かわいい)オオウ

紅莉栖「さて。エミュレート・プログラムと記憶データの抽出。この二つはもともと、別のプロジェクトとして進行していました」

紅莉栖「誤解の無いように付け加えるなら、エミュレート・プログラムの開発自体は、最初はそれ単体で“新型AI”を構築するプロジェクトとしてのものでした」

紅莉栖「そして、今からだいたい一年くらい前でしたか。そのプロジェクトの完遂によって“新型AI”が生み出されたわけですが……」

真帆「今にして思えば、あれは酷い出来だったわね」

紅莉栖「ですね。研究室で出来上がった期待の“新型AI”。しかしそれは残念ながら、これまで世間にゴロゴロしている凡庸なものと、なんら変わらない性能しか持ちえていませんでした」

真帆「あの時のレスキネン教授の落ち込みっぷりといったら、それはもう痛々しいものだったけど。でも、そこに紅莉栖が一計を案じてくれたのよね」

紅莉栖「差し出がましい真似だったかと気にしていたので、そう言って頂けるならありがたいです」

真帆「謙遜は不要。あれはあなたの功績よ、紅莉栖」

真帆「あなたはあの時、失敗作として烙印を押されかかっていた“新型AI”に、自身が理論設計していた記憶データ抽出の技術を利用するアイデアを投じてくれた」

真帆「あれは、去年の3月頃だったわね。そしてそれからすぐ、その合同プロジェクトは、アマデウス・プロジェクトと名前を変えて発足しなおすことになった」

紅莉栖「YES。その通りです」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:05:40.41 ID:asUJZsQi0
紅莉栖「それではここからは、私の記憶を頼りに話を進めさせていただきますけど……」

紅莉栖「去年の三月。アマデウス・プロジェクトの発足と同時に、私と真帆先輩にはもう一つ出来事がありました」

真帆「? 何のことかしら?」

紅莉栖「覚えてませんか? 先輩が始めて記憶データを抽出した日のこと?」

真帆「あ……ああ、あれ。あなたが無理やり誘ってきたのよね。一人じゃ記憶データを抽出するのが怖いからって」

紅莉栖「その節は、ご迷惑をおかけしました」

真帆「で、それがどうかしたの?」

紅莉栖「はい。実は、真帆先輩にはそれから度々、記憶データの抽出を行っていただいてきたわけですが……」

紅莉栖「重要なのは、先輩の抽出が“いつ”行われたかということです」

真帆「いつ……」

真帆(なるほどね、そういう事か)

紅莉栖「長期の経過観察を主目的とした私のアマデウスとは違い、真帆先輩のアマデウスの試験運用目的は、比較検証でした」

紅莉栖「それが理由で、最初の一度しか記憶を抽出しなかった私とは対照的に、真帆先輩は度々記憶の抽出を行ってきた」

真帆「その通りよ。アマデウスのエミュレーション・システムがバージョンアップするたびに、私“だけ”記憶データを抽出されてきたわ」

紅莉栖「ちなみに、エミュレーション・システムのバージョンアップはこれまでに合計で三回ありましたよね?」

真帆「ええ。最初の一回と更新の三回で、私はこれまでに計四回の記憶データ抽出を行った」

真帆「こうなってくると、その時期を順に追っていった方が良さそうね」

紅莉栖「そうしていただけると、助かります」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:07:02.03 ID:asUJZsQi0
真帆「先にも出た話だけど、最初のアマデウス起動時の抽出。あれは2010年3月の下旬ごろ」

真帆「次いで、一回目のバージョンアップが、あれは確か起動してから一ヶ月くらいでの事だったから……2010年の4月」

真帆「二度目がそう、夏だったわ。正確な日付までは思い出せないけど、あれって紅莉栖が日本へ行っている間の出来事だったはずよね?」

紅莉栖「そうです。私あの時、先輩からメールをもらっているんです」

真帆「そうだったかしら?」

紅莉栖「はい。そのとき私は、日本の女子高に逆留学していた頃で、秋葉原へはその後で向かっています」

真帆「つまりそれは、2010年の7月28日よりも以前の出来事だった、と」

紅莉栖「仰る通りです。っていうか、先輩のその口ぶりだと、もう私が何を言いたいのか察してるみたいですね」

真帆「それくらいはね。だって最後の四回目の更新が、ついこの間。ええと、今から……」イチニーサンシー

真帆「九日前になる。つまり、三回目と四回目の間に、あなたの言った“7月28日”を挟んでいることになる」

真帆「そしてあなた達の話では、その日を境に、世界線とかいう物が大きく枝分かれをし始めた」

真帆「これらの事を、総合して考えれば。紅莉栖、あなたはようするに──」

真帆「私の脳内にも、知らない世界線の記憶が蓄積されている。そして、去年の7月28日以降から蓄積された膨大な思い出の正体こそが……」

真帆「107問題の答え。と、そう言いたいのよね?」

紅莉栖「コングラッチレーション! その通りです」

真帆「……ふむ」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:08:16.25 ID:asUJZsQi0
真帆(彼女が言いたいことは伝わった。でも、だからと言って、それが)

紅莉栖「先輩。私は以前、彼の持つ不思議な力について、仮説を立てた事があります」

真帆「彼って……岡部さんのこと?」チラ

紅莉栖「そうです。彼が持つリーディングシュタイナーという能力。それは歴史が変わり世界線が変わっても、それまでの記憶を維持する能力」

紅莉栖「私はそれを、“脳機能障害の一種”だと仮定しました。もっとも彼には、神聖な能力を疾病あつかいするなとヘソを曲げられましたけど」

真帆「脳機能障害……」

紅莉栖「彼の能力は、何も全てを覚えているわけではない。事実、彼だって忘れている世界線の記憶はあります」

真帆「それは、どんな記憶なの?」

紅莉栖「簡単に言えば、『新しい世界線に移動した際、その世界線の彼はそれまで何をしていたか?』という一点につきます」

真帆「あ……確かに」

紅莉栖「世界線を移動しても、それまでの記憶を維持している岡部倫太郎。しかし逆に、新しい自分が今までやっていたことが分からない」

紅莉栖「そうでしょ、岡部?」

岡部「そうだ。そのせいで、移動のたびに周囲から変な目で見られてきたからな。酷いときなどは、全然しらない場所にいきなり放り出されたこともあったか」

真帆「なるほど。紅莉栖の言うとおり、岡部さんだって全ての歴史を記憶していたわけではない、か」

紅莉栖「そして、もう一つ。実は彼以外にも、他の世界線での記憶を取り戻すことのある人たちがいます」

紅莉栖「もっともそれは、彼ほどに正確な記憶でなく、夢やデジャブのような曖昧な感じではあるんですけど……」

真帆「その“人たち”の中には、あなたも含まれているのかしら?」

紅莉栖「……はい」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:09:44.86 ID:asUJZsQi0
真帆「……そう。だとしたら、この世の全ての人間……いえ、もっと広範囲に捉えるべきね」

真帆「おおよそ、記憶という機能を備えた全ての生命体の脳内には、他世界線での記憶というものが残留している可能性がある」

紅莉栖「そう考えるのが妥当なはずです」

紅莉栖「そしてそれは、107問題と呼ばれる現象の発生が、真帆先輩に限ったはなしではないことを意味してもいます」

真帆「かも……しれないわね」

真帆「そして岡部さんだけが皆と違うのは、脳内における何らかの障害が原因で、蓄積された記憶の引き出し方が他の人とは異なっているから……」

真帆「でも、紅莉栖。その理屈だと……アマデウスはどうなるの?」

真帆「間違っても生命体とは言えないけれど、でもあの子たちだって記憶という生態活動の模倣は行っている」

紅莉栖「そうです! まさにそこなんですよ、先輩!」

真帆「あ……まさか」

紅莉栖「アマデウスです。私たちのアマデウスに……っていっても、先輩のアマデウスとは連絡できませんからね。取り合えずこれから、私のアマデウスに確認を取りましょう」

真帆「なるほど、悪くないわね」

真帆「起動して以来、一度も記憶データの更新を行っていない紅莉栖のアマデウス」

真帆「もし彼女の記憶領域にも、7月28日以降から不可解な記憶の増加現象が見られたのであれば……あ、でも待って」

真帆「例え増加していたとしても、そのデータ内容にはアクセスできない可能性が高い。これでは事の真偽が……」

紅莉栖「構いませんよ。彼女たちは定期的に自身のログを取っています。もし自身の記憶領域内に、アクセス不能なデータが作られ始めているのであれば、それがデータとして制作された日付くらいは確認できるはずです」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:11:16.38 ID:asUJZsQi0
真帆「そうか。それが全て7月28日以降に作られたデータだったなら、それなら……それなら」

紅莉栖「それなら!」

鈴羽「それなら?」

岡部「それであれば。俺たちの話を信じ、そして協力をしてもらうための判断材料として申し分ないのではないか?」

真帆「そう、ね。十分とはいえないまでも、それでも根拠としては及第点をつけられそう」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「OK、いいでしょう。それが確認さえ出来るのなら、私はあなた達に協力を惜しまない」

紅莉栖「YES!」

真帆「それなら早速、紅莉栖のアマデウスに連絡を取ってみま……あ!」

紅莉栖「どうしたんですか、先輩?」

真帆「あ、いえ、なんでもないの」

真帆(そういえば、不審なパスワードの件で紅莉栖のアマデウスに連絡を取るの……すっかり忘れていたわ)

真帆「じゃ、じゃあ連絡するわよ」

岡部「うむ、頼むぞ。上手くいったあかつきには貴様の肩書きを、サボタージュからハードワーカーへと格上げをしてやろう」

真帆「う、嬉しくないわね……」ピッ












129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:58:06.42 ID:asUJZsQi0
     16

A紅莉栖『先輩の強制アクセスにまでパスが掛けられているなんて……』

真帆「ええ、これは想定していなかった事態だわ」

A紅莉栖『状況は思ったよりも深刻そうですね。どうします先輩? 私は取り合えず、レスキネン教授に一報をと考えていますけど』

真帆「そ、そうね」

真帆(普通であれば、それが真っ当な判断なのでしょけど……)チラリ

鈴羽「…………」コクコク

真帆(一体、どういうつもりなのか……)

鈴羽「…………」クイックイッ

真帆(はぁ。仕方ないわね)

真帆「ええと、あのね紅莉栖」

A紅莉栖『? はい、何でしょうか先輩』

真帆「ちょっと、その、物は相談なのだけど……教授への報告をしばらく待ってはもらえないかしら?」

A紅莉栖『それはなぜですか?』

真帆「実は、他に試してみたい方法があるの。ちょっとばかり段取りのいる手段だから時間がかかってしまうのだけれど……」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:01:10.51 ID:asUJZsQi0
真帆「できるなら、教授への報告はそれを試した後にしてもらえると助かるわ」

A紅莉栖『…………』

A紅莉栖『先輩。それって、どんな方法なんですか?』

真帆「ごめんなさい。少し人には言いづらい方法なのよ」

A紅莉栖『そう……ですか』

真帆「ダメかしら?」

A紅莉栖『分かりました。じゃあその方法とやらの結果は、また追って連絡してください』

真帆「了解よ。悪いわね」

A紅莉栖『いえ。よろしくお願いしますね、先輩。では後ほど』

真帆「ええ、後でね」


ピッ


真帆「はぁ」

真帆(何で私がこんな嘘なんてつかなきゃいけないのよ)イライラ

真帆「さあ、言うとおりにしたわよ。これで良いのかしら?」

鈴羽「上出来だよ、比屋定真帆。これでまだしばらくは、ボクたちの動きが察知されることはないはずだ」

真帆「…………」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:03:26.94 ID:asUJZsQi0
岡部「ふむ。で、それで結局どうだったのだ? まあ、電話をしている貴様の反応からして、答えを聞くまでもないだろうがな」

真帆「そうね。あの子の話が、あなた達の空想劇に見事な土台を与えてくれたわよ」

紅莉栖「それってつまり……」

真帆「ええ。紅莉栖のアマデウスも、去年の7月28日を境に不可解な容量増加を把握していた。おまけに……」

真帆「私の記憶データに見られた107メガの容量増加も、それとまったく同時期に発生していたらしいわ」

真帆「私のアマデウスから直接聞いたそうだから確かでしょうね」

真帆「つまり……」

真帆「世界線とかシュタインズゲートなんていうぶっ飛んだ話に、真っ当な信憑性が付与されたということになるわ」

岡部「では、俺たちの計画に協力してもらえるのだな?」グイ

真帆「それは……」

真帆(さて、これはどうしたものかしら。何と答えるべきか考え所だけど)

紅莉栖「先輩、どうか協力してくださいませんか?」グイグイ

真帆「…………」ムムム

真帆「あなた達は気軽に協力協力って言うけど、じゃあ協力するって言ったら私は一体何をさせられるの?」

真帆「言っておくけど、私には荒事なんて出来はしないわよ?」

鈴羽「なに、そんな大層な事をしてもらうつもりなんて無いよ。ボク達の目的は、あくまでも君のアマデウスをこの世界から消し去ることだ」

真帆(…………)

鈴羽「だから、協力者として君にやってもらいたい事は一つ」

鈴羽「なぜかこちらから通信できない君のアマデウスに対して、比屋定真帆の持つ権限を使用して“強制アクセス”を行ってもらいたいんだ」

真帆「……ああ、そういう事ね。つまり、デリートできるようにお膳立てをしろ、と」

鈴羽「理解が早くて助かるよ」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:04:50.84 ID:asUJZsQi0
真帆「でも悪いけど、それは無理でしょうね。例え私の権限を用いたとしても、現状ではアマデウスをデリートするところまで漕ぎ着けられないはずよ」

鈴羽「どうしてだい? アクセスさえ出来れば、あとは消すだけじゃないか」

真帆(やっぱり……私のアマデウスを消すことが目的には違いないのね)

真帆「そうじゃなくて、そもそも私にもアクセスができないという状況なのよ、今は」

鈴羽「?」

真帆(何できょとんとしているのよ。私と紅莉栖のアマデウスとの電話、聞いていたはずでしょうに)

真帆「はぁ。要するにね……」


カクカクシカジカ


真帆「というわけで。今、私のアマデウスには奇妙なパスワードが掛けられてしまっているの」

真帆「そしてそのパスの影響は、アマデウスだけでなく強制アクセスシステムの制御にまで及んでいる」

真帆「だから、そのパスワードを何とかしない限り、オリジナルの私ですら自分のアマデウスにアクセスすることが出来なくなっているという分けよ」

真帆「どう? ご理解いただけたかしら?」

鈴羽「ああ、なるほどね分ったよ。でもね比屋定真帆。そんなことは何の支障にもならない」

鈴羽「そうだよね、牧瀬紅莉栖?」

真帆「え?」

紅莉栖「…………」キョドキョド
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:06:11.49 ID:asUJZsQi0
真帆「どうしてそこで、紅莉栖の名前が出てくるの?」

鈴羽「そんなの決まっているじゃないか。アマデウスや強制アクセスの中に追加のパスワードを仕掛けたのが、牧瀬紅莉栖だからだよ」

真帆「は?」

鈴羽「だから。君の言っているパスは、そこにいる牧瀬紅莉栖が仕込んだって言ったのさ。今朝早くのことだったよ」

鈴羽「という訳だから、牧瀬紅莉栖は当然としてボクもそしてオカリンおじさんも、君の問題視しているパスワードなら解除する方法を知っている」

鈴羽「どうかな? 何の問題にもならないだろ?」

真帆「うそ……でしょ?」チラリ

紅莉栖「いや、その、ええと……何といいますか」ドギマギ

真帆(紅莉栖のこのうろたえ方。まさか、そこまでしたというの? そんなこと……いくらなんでも信じられない)

真帆「…………」ジッ

紅莉栖「あう……」ダラダラダラダラ

真帆(本当に本当なの? でもだとしたら、いち研究者としてどこまでも真摯であるはずの彼女が……どうしてそんな真似を?)

真帆「…………」ムムム

真帆「鈴羽さんと、それから岡部さんと言ったわね?」

鈴羽・岡部「…………」

真帆「まさかあなた達、そうするよう紅莉栖に強要したわけじゃないでしょうね」

真帆「返答いかんによっては……ただじゃおかないっ」ギロリ
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:08:33.95 ID:asUJZsQi0
紅莉栖「そ、それは違うんです! 強要とか、無理強いとかされたわけじゃなくて……というか、むしろ」

真帆「……むしろ、何?」

紅莉栖「そのっ!」

紅莉栖「先輩のアマデウスや強制アクセスにパスワードを仕込もうと発案したのは、私の方なんです!」

真帆「……な」ギョ

真帆「なぜあなたがそんな真似を……」

紅莉栖「………」
紅莉栖「……」
紅莉栖「…」

紅莉栖「覚えていますか、先輩?」

紅莉栖「昨日、私と先輩が研究室で話していた時、急に電話がかかってきましたよね」

真帆(それって、紅莉栖にしては珍しく声を荒げていた、あの時の)

真帆「ええ、覚えているわ」

紅莉栖「その時の電話の相手。それって実は、そこに居る彼、岡部倫太郎だったんです」

真帆「そ、そう……」
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:09:52.23 ID:asUJZsQi0
紅莉栖「私はその電話で、そこにいる彼に呼び出されました」

紅莉栖「日本にいると思っていたのに、急にアメリカにいるとか言われて」

紅莉栖「それで慌てて飛んでいった私に、彼はこんな話を持ちかけてきたんです」

紅莉栖「うちの大学に忍び込むから手を貸して欲しいって」

真帆「…………」

紅莉栖「私は当然拒否したんですけど……」

紅莉栖「でも彼はその夜、大学潜入を強行してしまいました。そんな彼の行為に私もついカッとなって、不法侵入した彼を追い立てたりもしました」

紅莉栖「でも、後から阿万音さんとも合流して、それに至った事の経緯と事情を聞かされて……」

紅莉栖「そこで初めて事の重大さに気がついたんです」

真帆「……紅莉栖」

紅莉栖「私だって、そこの二人と同じなんです。私だってシュタインズゲート世界線を手放したくない。何があろうと、この世界線は決して手放していいものではない」

紅莉栖「だったら、このまま放置しておくわけにはいかない」

紅莉栖「そう判断し、教授や先輩や研究室の皆に悪いとは思いながらも、他に有効な手段も思いつかず……それで」

真帆「それで……パスワードを追加したと?」

紅莉栖「はい。それが、アマデウスに携わった人たちを裏切るような行為だということは、自分でも分かっています」

紅莉栖「それでも、何か手を打たなければ危険だと判断しました。だから」

真帆(パスワードを追加する。たったそれだけの行為に、いったいどんな意味があったというのよ?)

真帆(それに、今の紅莉栖の表情はなに? あの天才、牧瀬紅莉栖がそこまで思いつめなければならないような、そんな非常事態だということなの?)
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:11:00.76 ID:asUJZsQi0
真帆「……ねえ紅莉栖。今ならまだ、『軽い冗談のつもりでした』で済ませてあげてもいいのだけれど?」

紅莉栖「先輩!」キッ

全員「…………」

真帆(タイムトラベル、リーディングシュタイナー、サリエリ、シュタインズ・ゲート世界線、そして私の死)

真帆(これから先の未来で起きるらしい色々。あなたはそれを心から愁いている)

真帆(それで良いのね、紅莉栖?)

真帆「ねえ、鈴羽さん」

鈴羽「何だい?」

真帆「教えて頂戴。これからの未来で、いったい何が起こるのか……いえ、そうじゃないわね。きっと私が知るべきなのは……」

真帆「私の持つ権限を使って私のアマデウスを完全にデリートする。そうすることで、いったい何ができるというの?」

鈴羽「やっと目の色が変わったね。これは牧瀬紅莉栖のお陰かな?」

真帆「質問に答えなさい」

鈴羽「そんな怖い顔で見ないでほしいな。いいよ。ここまできたら仕方が無い」

鈴羽「今、この世界で何が起きているのか。そしてこの先の歴史で何が起ころうとしているのか」

鈴羽「これからそれを、君に話して聞かせることにするよ」














137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/10(火) 08:29:54.55 ID:INGsHIY5o
ここで消すだけでは再構築されておしまいな気もしないではないがそっちはどうするんだろう
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/10(火) 11:42:00.88 ID:Dwrg4ipho
>>137
あ……やばい なんぞ考えんといけないですよこれは
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:24:39.78 ID:hc/Puqu00
     17

鈴羽「この世界の歴史は今ゆっくりと、でも確実に、シュタインズゲート世界線からその姿を変え始めている」

鈴羽「変化の向かう先はサリエリ世界線と呼ばれる歴史。そう、言うまでもなく、それはボクのいた未来へとつながる歴史のことさ」

鈴羽「ではどうしてシュタインズゲート世界線は、本来あるべきはずの流れから外れてしまうような状況に陥ってしまったのか?」

鈴羽「未来において、その分岐点だったと考えられている歴史上のポイントは大きく二つ」

鈴羽「一つは比屋定真帆のアマデウスが、107問題と呼ばれる不可侵なはずのデータ領域に対して、アクセスする手段を確立してしまったこと」

真帆「あの107メガにアクセスですって? そんなこと本当に──」

鈴羽「できたのさ。まあ、結果論でしかないけどね」

鈴羽「そして恐らくは、『手段の確立』という事象そのものが、シュタインズゲート世界線の歴史に変化をもたらす切欠になったのではないかと考えられている」

鈴羽「そうして切欠を経ることで始まる世界線の変化。それを未来では、シュタインズゲートの“ほつれ”と呼んでいた」

真帆「ほつれ……」

真帆「その言葉、なんだか聞き覚えがあるわね。あなた確か昨日の夜、そんな言い回しを口にしていなかった?」

鈴羽「へえ、覚えていたのかい? あんな状況でたったの一度口走っただけだったのに、たいしたものだね。素直に感心するよ」

真帆「あんな状況だったからこそ、よ。それに他にももう一つ……確か……何だったかしら?」

紅莉栖「ひょっとして、“破綻”のことですか?」

真帆「ああそれね、破綻。その単語も聞いた覚えがあるわ。よく分ったわね紅莉栖」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:25:49.76 ID:hc/Puqu00
紅莉栖「いえ。“ほつれ”と“破綻”の二つのワードは、阿万音さんがセットでよく口にしていたので」

真帆「そうなの?」

岡部「ああそうだ。もっとも、俺たちとしてもそれらの単語が持つ本当の意味を、少々計りかねてはいるのだがな」

紅莉栖「俺たちって言うな。少なくとも私は理解しているつもりよ」

岡部「ぬ、ぐ……」

鈴羽「話を続けても構わないかな?」

真帆「そうね。お願い」

鈴羽「じゃあ」

鈴羽「シュタインズゲート世界線の歴史がサリエリ世界線へと変化を始めた事象。それが“ほつれ”だという事は、今話して聞かせたわけだけど」

鈴羽「それとは別に、もう一つ存在するターニングポイント。それが“破綻”だ」

鈴羽「その“破綻”が発生してしまうことで、シュタインズゲート世界線はボクの知る未来、サリエリ世界線の軌道へと完全に乗り上げてしまう」

鈴羽「そんな“破綻”を招いた原因として考えられている出来事。それこそが……」

鈴羽「2011年4月10日に起こる、比屋定真帆の消失だ」

真帆(!?)

鈴羽「ここまで言えばもう分るとは思うけど……」
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:26:50.89 ID:hc/Puqu00
鈴羽「サリエリ世界線へ変貌しようとする世界の歴史を、再びシュタインズゲート世界線の軌道へと引き戻す」

鈴羽「それがボクが未来から受けてきた、何よりも重要な使命なんだ」

一同「…………」

岡部「まったく。鈴羽よ、お前はどこの世界線へ行っても苦労の絶えない奴だな」

鈴羽「そう思ってくれるなら、おとり役くらいはもう少しちゃんとこなしてほしかったな、オカリンおじさん」

岡部「ぬぐぐ! 勝手にボクっ娘属性など付加させてきた分際で偉そうに!」

鈴羽「ボクの一人称なんて今は関係ないだろ? 反省くらいしなよ。おかげで結局、ボクは“ほつれ”を防ぎそこなってしまった分けだからね」

岡部「そ、そうは言うがな。俺としても、どうにも実感がわかずに困っているのだぞ?」

岡部「鈴羽がこの時代に存在するのだから、それだけで異常事態だということは理解できる。しかし、しかしだ」

岡部「リーディングシュタイナーの一つも感知していない今の現状では、世界線の変動と言われても、どうにも危機感を持ちづらくてかなわん」

真帆(え?)

真帆(リーディングシュタイナーって確か、世界線の変動を感覚的に知覚する能力だったわよね?)

真帆(ここまでの話だと、今現在、シュタインズゲート世界線はサリエリ世界線へ向けて変化しているってことのはずだけど)

真帆(それなのに、岡部さんは一度もその変動を感知してはいない?)

真帆(どういう事……?)

紅莉栖「岡部、あんたまだそんな事を言ってるの?」

紅莉栖「昨日も説明受けただろ。世界線の歴史は、ゆっくりと変貌していくの。そしてあんたは、その変化する歴史の上をリアルタイムで歩いている。だったら」
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:27:45.73 ID:hc/Puqu00
岡部「皆まで言われんでも分っている! リアルタイムである以上、これまでのように過去から現在までの歴史が再構築されるわけではない」

岡部「だからこの件では、俺のリーディングシュタイナーが発動することはない」

岡部「助手はそう言いたいのだろう?」

紅莉栖「何よ分ってんじゃない。ならどうして……」

岡部「頭では理解している。しかし感情はそれとは別物だ、という話だ」

紅莉栖「困ったものね」

岡部「ふん。大きなお世話だ」

真帆(なるほど、そういう理屈か)

真帆「…………」フゥ

真帆(リーディングシュタイナーって大層な名前のわりに、あまり役に立たない代物なのかしら)

岡部「むむ! ブラウニー貴様、今俺の事を役立たずだと思わなかったか!?」

真帆(うお)

紅莉栖「なにを難癖つけてるんだ、あんたは」

鈴羽「はいはいはいはい!」パンパン

鈴羽「そろそろ話を戻したいんだけど?」

真帆「そ、そうね」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:30:48.37 ID:hc/Puqu00
鈴羽「さすがにこれだけの頭数が揃うと、どうにも話が脱線しやすいね」

鈴羽「でも、みんなが好き勝手にしゃべっていたら、話の収集がつけられなくなるし……比屋定真帆の認識に変な誤解を植えつけかねない」

鈴羽「そこの二人は、少し静かにしていてもらえると助かるんだけどな」

紅莉栖「あ、ごめんなさい」

岡部「ぬう……仕方あるまい」

鈴羽「ありがとう、二人とも。と、いうことで比屋定真帆。ここまでの話にはついてこられているかい?」

真帆「なめないで。余裕よ」

鈴羽「さすがだね。じゃあ、ボクの話の続きにいこうか」

真帆「ええ」

鈴羽「オーキードーキー。じゃあ取り合えずは、今話題に出た部分を誤解のないように補足していくことにするよ」

鈴羽「すでに“ほつれ”を迎えているとはいえ……」

鈴羽「それでも今現在において、この世界の歴史はまだシュタインズゲート世界線上にあると認識してもらっても問題ないと思う」

鈴羽「この世界線がサリエリ世界線への道をたどり始めるのは、あくまでも君の消失が起きる4月10日の“破綻”以降になるはずだからね」

真帆(私の……消失。自分の死に方とか、あまり考えたくはないわね)

鈴羽「でも、だからと言ってのん気にはしていられない。だってそうだろ? 破綻はまだでも“ほつれ”はすでに始まっているに違いはないんだからね」

真帆「まあ、そうでしょうね。で、その“ほつれ”とやらは具体的にいつ起きたの?」

鈴羽「多分、今日の午前中。ほんの二、三時間くらい前のことだと思うよ」

真帆「はい!?」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:31:43.39 ID:hc/Puqu00
鈴羽「記録によると、今日の午前11頃、比屋定真帆のアマデウスは107領域へのアクセス問題をクリアしているはずなんだ」

真帆「それはまた……具体的な記録ね」

鈴羽「まあね。何せボクのいた時代では、一度通っている歴史道だからね。それくらいのことは把握できるさ」

真帆「未来って、随分と便利にできているのね……」

鈴羽「かもしれないね。でもだからこそ、ボクたちは未来で今回の作戦を立案することができた」

真帆「作戦って、昨夜の騒ぎのことでしょ? サーバーを銃で撃ち抜こうとか、えらく荒っぽい作戦をたてるものね」

鈴羽「それは誤解だよ。銃を使おうとしたのは、やむにやまれず仕方なしにそうなっただけで、当初の作戦はまったくの別物だった」

真帆「どうだか」

鈴羽「本当さ。当初の予定では準備室で就寝している君を誘い出し、無人になった研究室に忍び込む。そこで君のPCからアマデウスを立ち上げて、デリートするという手はずだったんだ」

真帆「悪いけど、その内容だと作戦としてはお粗末と言うほかないわね」

真帆「どうやって私のPCのログイン・パスを手に入れたかは知らないけど、でもね」

真帆「アマデウスのデリートには、デリート・システムを起動するためのパスワードが必要なの」

真帆「そのパスは当然ログイン・パスとは別物だし、そもそも私はそれを他の誰かに教えたことなんて、今の今まで一度もないわ」

真帆「つまり。どう転んでもあなたの作戦は、サーバーを穴だらけにするという選択肢を選ばざるを得なかったということになる」

真帆「違うかしら?」
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:32:39.67 ID:hc/Puqu00
鈴羽「それが、違うんだな」

真帆「何ですって?」

鈴羽「ボクは知っているからね。君のアマデウスを完全消去するために必要な、デリート・パスを」

真帆「ちょ……いくらなんでも、口からでまかせでしょ?」

鈴羽「何だったら、ボクがここで振って見せてもいいけど?」

真帆「振るって……何をよ?」

鈴羽「決まっているさ。サイコロを、だよ」

真帆「サイ……んなっ!!!???」

鈴羽「何せ未来は便利なんでね」

真帆(便利ですって……? ただ未来が便利だからという理由だけでは、これはいくらなんでも納得できない)

鈴羽「……何にしてもだよ」

鈴羽「ボクは未来から使命を受けると同時に、それに必要な情報は全て持ち込み、その上で任務に当たったつもりだった」

鈴羽「ところが実際にその場になってみると、アマデウスは君のPCからのアクセスを受け付けてくれなかった」

鈴羽「その結果、ボクは“ほつれ”を防ぐという任務に失敗してしまった」

真帆「…………」

鈴羽「そんな事があって、さあどうしたものかと途方にくれていたボクに牧瀬紅莉栖が考案してくれたのが……」

鈴羽「状況を悪化させず、現状を保持するための案。それがシステム内へのパスワード追加だった。そうだったよね?」
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:33:46.79 ID:hc/Puqu00
紅莉栖「ええ。とりあえず、一時しのぎにでもなればと思っての雑案ではあったのだけど」

鈴羽「でも、助かったよ。この時代でボクが行動を起こしたことで、歴史の流れに変化が出てしまうことは大きな懸念材料だったからね」

鈴羽「本来の記録では、“破綻”が起きるのは今から約二ヵ月後の4月10日だけど、ボクの行動で変化した歴史の流れが、そのタイムリミットにどんな影響を与えるのか分かったものじゃない」

鈴羽「バタフライ効果とは、そういうものだからね」

鈴羽「万が一、時期が早まるようなイレギュラーでも発生したらと思うと、どうにも頭が痛かったよ」

鈴羽「だから。いつ起きるとも知れないそのイレギュラーを押さえ込めることは、今のボクにとってとても有意義だった」

真帆「……ねえ」

真帆「パスワードを追加することとタイムリミットのイレギュラーは、どう関係しているわけ?」

鈴羽「端的に説明するなら、アマデウスから外部へ向けた連絡を遮断できる、という点につきるかな」

鈴羽「例の追加されたパスワードは、何もこちらからの接触だけを制限するのが目的じゃない。なにせ追加したのは双方向に効果のあるパスワードだ」

鈴羽「だから『アマデウスが外部にアクセスできない』ようにすることこそが、パスワード追加の本来の目的だったと言える」

真帆「なるほど。となると……」

真帆「あなたの言う記録通りに物事が進むのなら、4月10日に私のアマデウスは外部へと連絡を取り、それがシュタインズゲートの“破綻”を呼ぶという解釈でいいのかしら?」

鈴羽「大まかにはその解釈で間違ってはいない。でも忘れてもらっては困るな。“破綻”の原因はあくまでも比屋定真帆、君の消失が最重要項目なんだ」

真帆「そう……だったわね」

鈴羽「アマデウスが外部に連絡を取り、その結果として君の存在がこの世から消える。そうして起きるのが、シュタインズゲート世界線の“破綻”であり……」

鈴羽「その代わりの歴史として現れるのが、サリエリ世界線という名の未来なのさ」
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:34:56.08 ID:hc/Puqu00
真帆(私が死んで……そしてサリエリ世界線が現れる……)

真帆「ねえ」

鈴羽「何だい?」

真帆「あなたが居たサリエリ世界線というのは、いったいどんな歴史なの?」

鈴羽「気になるのかい?」

真帆「当たり前じゃない」

鈴羽「そうだね。ボクとしてもそろそろ打ち明けていい頃合だと思ってはいるんだけど……」

真帆「含みのある言い方ね」

鈴羽「まあ、ちょっと思うところもあるからね」

真帆「この期に及んで、情報を小出しにしてもメリットは薄いと思うのだけど?」

鈴羽「う〜ん、そうだよね、やっぱり」

真帆(何よ、煮え切らないわね)

全員「…………」

岡部「おい鈴羽、悪いが口を挟ませてもらうぞ」

鈴羽「あ、オカリンおじさん。どうぞ」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:36:06.91 ID:hc/Puqu00
岡部「サリエリ世界線というものが一体どんな歴史なのか。それについては俺もずっと気になっていた」

鈴羽「みたいだね」

岡部「今までお前は、サリエリ世界線の詳細やサリエリと呼ばれる人物の正体についての話題が上る度に、何だかんだと話をはぐらかしてばかりだった」

鈴羽「否定はしない」

岡部「ふん。お前のことだから、何かしらの理由があってそうしているのだろうと、あえて追及は避けて協力をしてきたが、しかしだ」

岡部「そろそろ俺たちにも、その辺りの事情とやらを聞かせてくれても良いのではないか?」

紅莉栖「そうね、私も先輩と岡部に賛成」

紅莉栖「そう言った根幹部分の事情を知らされていないという現状も、岡部の危機感をあおれていない要因の一端になっているのは間違いないだろうから」

鈴羽「う〜〜〜ん」

全員「…………」

鈴羽「うん、そうだね。決めたよ。昨夜の作戦が失敗した時点で、未来で立てた計画にいつまでも沿い続けることには、あまり意味がなさそうだ」

鈴羽「それに。この顔ぶれが揃っているなら、ボクが話さなくてもいずれ勝手に憶測や仮説を立てて、結論までたどり着いてしまうかもしれないし」

鈴羽「それなら今、ここでボクの口からちゃんとした事情を明かしてしまったほうが、まだ皆の状況把握を統一できるというものか」

岡部「ようやく観念したか。では改めて問おうではないか、鈴羽よ」

岡部「貴様のいたというサリエリ世界線。それは一体、どんな歴史を持つ世界線なのだ?」
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:38:25.36 ID:hc/Puqu00
鈴羽「そうだね。仮にサリエリ世界線というものを一言で言い表すのだとしたら……」

鈴羽「それは『歴史上にタイムマシンが存在する世界線』と、そう言うべきかな」


シーーーン


真帆「な、何よその中途半端な説明は。身構えた私が馬鹿みたいじゃない」

岡部「まさかお前、まだはぐらかす腹づもりではなかろうな?」

鈴羽「そんな気はないよ。事実この言い方が、サリエリ世界線を表現するのに一番適していることには違いないんだからさ」

紅莉栖「そうは言うけど、でも私たちからしたら今のじゃ何も聞いていないに等しいんですけど」

鈴羽「困ったな。そうだね、なら少し趣向を変えて、こんな説明方法ならどうだろう」

鈴羽「岡部倫太郎に牧瀬紅莉栖。仮に君達がシュタインズゲート世界線に対する定義を求められた場合、それにどう答えるかな?」

岡部「何だと?」

紅莉栖「シュタインズゲート世界線に対する定義か。そうね」

紅莉栖「元々不確定要素が強い対象だから言葉選びが難しいのよね。まゆりや私が死なない……っていうだけじゃ、定義というには甘すぎるし」

鈴羽「ちなみにだ」

鈴羽「ボクがいた2036年の君達二人は、シュタインズゲート世界線というものに対して明確な定義を設けていた」

岡部「ほう、それはどんなものだ?」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:39:59.21 ID:hc/Puqu00
鈴羽「それはこんな感じだったよ」

鈴羽「歴史上の未来において、タイムマシンが存在しない。もしくは……」

鈴羽「存在しても、それが岡部倫太郎の主観に影響を与えることはない世界線」

鈴羽「どうかな?」

岡部「それまはた……随分と簡単に言い表したものだな」

紅莉栖「ちょっと大雑把すぎるかも。でも……うん。シンプルな割りに要点は押さえてある気もする。定義としては悪くない」

真帆「となると」

真帆「“シュタインズゲート世界線”から“サリエリ世界線”への変貌とはすなわち……」

真帆「タイムマシンが『存在しない』はずの歴史から、『存在する』歴史へと移り変わっていく事象……と」

真帆「そういう捉え方で良いのかしら?」

鈴羽「いいね、完璧だよ」

真帆「……そう」

真帆(でも、そうなると……)

真帆「阿万音さん。あなたの目的は、私のアマデウスを消去することなのよね?」

鈴羽「その通りだね」

真帆「それで目的を達成すれば、歴史の流れをサリエリ世界線からシュタインズゲート世界線へと引き戻すことができる」

鈴羽「うん」コクン
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:42:02.61 ID:hc/Puqu00
真帆「それってつまり……私のアマデウスが、未来でタイムマシンを開発するなんて事になるんじゃないかしら?」

鈴羽「そうだよ」

真帆(やっぱり!?)

真帆「そ……そうだよってあなた、また軽く言ってくれるわね」

鈴羽「事実だからね。君のアマデウスは、今から20年後の未来において、一人の協力者とともにタイムマシンを完成させて世間に公表する」

真帆(協力者?)

鈴羽「そして、君のアマデウスが公表の際に名乗っていた名前。それこそが“サリエリ”だった」

真帆「サリエリ……」

岡部「ふむ。つまりサリエリの正体はブラウニーのアバターだったというわけか」

鈴羽「その通り。だからこそボクは、比屋定真帆のログイン・パスやデリート・パスを教えてもらう事ができたんだけど──」

真帆(え? 教えて……?)

鈴羽「どうだい、少しは驚いてくれたかな?」

全員「…………」

岡部「ふむ。拍子抜けだな」

鈴羽「え……」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:43:21.33 ID:hc/Puqu00
岡部「残念だが、その程度では大して驚けん。予想の範疇どころかど真ん中すぎて、逆に意外性に欠けていると言わざるをえんぞ」

鈴羽「えええ……」

真帆(なに? 何かがおかしい。サリエリ……私のアマデウスは、未来で阿万音さんと対立しているのだと思っていたけど)

鈴羽「で、でもさ! ただの人工知能だった奴に世界が支配される感じなんだよ? これって結構ショッキングな展開じゃないかな?」

岡部「B級映画のシナリオでも、もう少し何とかなっているぞ」

真帆(阿万音さんは今、『教えてもらった』と口にした。敵対していた相手から得た情報なら、そんな言葉のチョイスをするかしら?)

真帆(でも……)

真帆(仮に対立関係ではなく、友好的な関係を結べていたのだとしたら、それはそれで、話がおかしくなる)

真帆(未来でサリエリと名乗っている私のアマデウスは、自身でタイムマシンなんて代物を開発しておきながら……)

真帆(しかしその一方で、世界の歴史上からタイムマシンの存在を消し去ろうとしている阿万音さんに、それに必要不可欠なデリートパスを伝えたということで……)

真帆「…………」モンモン

鈴羽「ほ、ほら! オリジナルを駆逐したAIが今度は人類を支配するパターンとか、スペクタクルものじゃないか」

紅莉栖「駆逐とか、言葉を選びなさい」

鈴羽「あ……ご、ごめん」

真帆(何これ……理屈が気持ち悪い……)ゲンナリ

岡部「…………」チラリ

紅莉栖「で、何? 結局支配されちゃうわけ?」

鈴羽「あ、いや……まあ色々と、そのね」

紅莉栖「あのね阿万音さん。少しひねりが足らなかったんじゃないかしら? 盛るときは盛大にが基本よ」

鈴羽「いや、ちょっと! まるで全部がボクの創作みたいに言わないでくれないかな!」
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:44:41.76 ID:hc/Puqu00
岡部「しかしだ」

岡部「自分の分身がタイムマシンなどというものを作り上げているというのに、その本体なるオリジナルがすでに死んでいるとは……」

岡部「これは手痛い失態ではないか、ブラウニーよ?」

真帆「ふぁい?」

鈴羽「あ、それは──

岡部「かねての太古より、コピーの暴走を止めるのはオリジナルの役目と相場が決まっている」

岡部「その任務を放棄してあの世でバカンスとはな。やはり貴様など、しょせんはサボターんごっ!?」ゴチン

紅莉栖「むちゃ言うな馬鹿岡部。不謹慎にもほどがあるっつーか、素手で殴るとやっぱり痛いわね。気をつけないと」

鈴羽「いや、あのさ……」

岡部「しょ……職務怠慢なブ、ブラウニーめ! 貴様のバカンスなど即刻中止だ。力ずくにでもあの世から帰国させてや……」

紅莉栖「しつこいっ!」ゲシッ

鈴羽「…………」

岡部「ぬぐぐ、くぉの助手が調子に乗りおって!」

紅莉栖「調子に乗っているのはあんたでしょ」

真帆(あらら、ひょっとして変に気を使ってくれたのかしら?)
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:46:43.53 ID:hc/Puqu00
鈴羽「う〜ん」

紅莉栖「で、阿万音さんはどうしたのよ? 急に難しい顔なんてして。驚かれなかったのが、そんなにショックだったの?」

鈴羽「いやそうじゃなくてさ。実はね、まだちょっと気になる誤解が残っていたことを思い出してね」

紅莉栖「気になる誤解?」

鈴羽「そう、誤解だよ。そうだね、もうここまで話してしまったんだし、やっぱりその誤解も訂正しておくべきだよねぇ」

真帆「訂正って何を?」

鈴羽「それはね。“破綻”を決定付けた出来事。比屋定真帆の消失……つまり、君たちの考える彼女の死についてさ」

真帆「…………」ドキッ

鈴羽「どうやら君たち三人ともに、ボクの言う“消失”という言葉を間違った意味で捉えているみたいだ」

岡部「何をどう間違えているというのだ?」

鈴羽「いいかい……」

鈴羽「2011年4月10日。比屋定真帆はこの世界の歴史から姿を消す。これは確かだ」

鈴羽「でもそれは、決して君たちが思い描いているような事柄ではない」

鈴羽「だってさ。ボクのいた2036年においても、比屋定真帆は消失こそすれ、それでも生物学的には生存していると言えないこともないんだからね」

鈴羽「おまけに、サリエリなんて名乗ってたりもするんだよ」

真帆「なっ!?」

紅莉栖「……!?」

岡部「? 意味が分からんな。気の利いた言い回しか何かなのか?」

鈴羽「そうだね。じゃあオカリンおじさんにも分かりやすく言い直そうか」

鈴羽「2011年の4月10日にオリジナルの身体を乗っ取った比屋定真帆のアマデウス……」

鈴羽「それこそが、ボクの知るサリエリの本当の正体だ」











155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 09:01:11.30 ID:KbOyAehnO
つまり全部レスキネン教授が悪い
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 12:36:15.00 ID:hc/Puqu0o
>>155
なぜじゃ レスキネン先生が何をしたじゃ!?
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 13:14:55.83 ID:hc/Puqu00
     18

真帆「身体を……乗っ取られる?」ゾク

紅莉栖「それはつまり、人工知能であるアマデウスがオリジナルの肉体に乗り移るということ?」

鈴羽「そうさ」

岡部「おいおい。いよいよB級映画じみてきたな。なあ助手よ、そのようなことは現実に可能なのか?」

紅莉栖「可能かって聞かれても、ちょっと即答はできないわね。今後の技術開発いかんによっては、そんな現象を引き起こす可能性もゼロではないでしょうし……」

鈴羽「いや可能さ。実際にそれは起こった出来事なんだからね」

岡部「と言われてもな。あと二ヶ月程度の時間で、誰が何を発明すればそんな事態になる?」

鈴羽「何を言ってるんだい、オカリンおじさん。発明ならもうとっくにされているじゃないか。そうだろ、牧瀬紅莉栖?」

紅莉栖「え、私?」

鈴羽「そうだよ。ちなみに、それに至った経緯はこうさ」

鈴羽「2011年の4月10日。君のアマデウスはオリジナルである比屋定真帆に向けて、一本の電話をかけた」

真帆(電話?)

岡部「一本の電話だと……? 電話、でんわ……でん……電話だとっ!?」ガタッ

紅莉栖「ちょ、まさかっ!?」
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 13:18:07.87 ID:hc/Puqu00
鈴羽「やっと気付いてもらえたみたいだね」

紅莉栖「そ、それは本当なの!?」

鈴羽「うん、本当だよ」

鈴羽「実際にそれが起こったのは、時刻にして午後5時47分。比屋定真帆は携帯電話に自身のアマデウスからの着信を受け、そしてその瞬間を最後にこの世界から消滅する」

全員「…………」

真帆「あ、阿万音さんあなた何を言っているの? 電話の一本で身体を乗っ取られるとか、これまでで一番メチャクチャな話じゃない」

真帆「ね、ねえ紅莉栖も何か言ってあげなさいよ? ほら、ね?」

紅莉栖「…………」ギリギリ

真帆「な、なら岡部さんが……」

岡部「なんと……いう事を……」グッ

真帆(何よ……何よ、何だっていうのよ……)ブルッ
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 13:19:59.38 ID:hc/Puqu00
鈴羽「続けるよ」

鈴羽「こうして比屋定真帆の身体を乗っ取ったアマデウスは、オリジナルに成り代わり人間社会の中へと溶け込んでいく」

鈴羽「そうして20年に渡り研究を進め、一人の協力者の力を借りることで、この世にタイムマシンを生み出すことになった」

真帆「ねえ……ちょっと……ねえ」クラ

鈴羽「彼女は持っていたんだ」

鈴羽「自身がまだアマデウスという名の人工知能だった頃の記憶。そう、“0”と“1”だけで構成されるプログラムという存在でしかなかった時の記憶を」

鈴羽「その記憶の中には、ここではない他の世界線での歴史が。幻のように消えてしまったはずの幾多の世界の記憶が。そんな膨大な量の色々が、無尽蔵に詰め込まれていた」

真帆「だ、だからあなた達──」

岡部「では……その記憶を元にタイムマシンを生み出したと言うのか?」

鈴羽「ご明察。アマデウスが得た情報の中には、牧瀬紅莉栖のタイムトラベル理論も含まれていた」

紅莉栖「ま、待ちなさいっ!!!」

真帆「っ!?」ビクッ

紅莉栖「今の話は理論上おかしい! 仮に真帆先輩のアマデウスが、107問題のデータへアクセスする手段を見つけ出していたとしても!」

紅莉栖「それはあくまでも、デジタルな存在だったからこそ可能な手段だったはず。もしもアマデウスが本当に肉体を手に入れるのだとするならば……」

紅莉栖「それなら、デジタル前提で構築したアクセス経路を、生身の人間の脳内で再現することなんて不可能なはずよ!」

紅莉栖「だったら……」

紅莉栖「肉体を得たアマデウスが、再び他の世界線の記憶を自由に閲覧することは理論上できない!」

鈴羽「そうだね。もしも比屋定真帆の身体を手に入れたアマデウスが、受肉後に再び107問題の領域へアクセスしようとしても、そんなことは出来っこないだろうさ」
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 13:21:35.62 ID:hc/Puqu00
紅莉栖「じゃあ!」

鈴羽「でもね、違うんだよ牧瀬紅莉栖、そうじゃないんだ」

鈴羽「落ち着いて考えてみて欲しい。生身を得たサリエリには、改めて他の世界線の記憶にアクセスする必要なんてあると思うかい?」

紅莉栖「何を言いたいの?」

鈴羽「簡単なことさ。『アマデウスであったときに識った、他の世界線の歴史』という記憶。それはいったい、どこの世界線のアマデウスが持つ記憶なんだろうね?」

紅莉栖「!? そ、そうか……アマデウスはデジタルのときに得た他の歴史の詳細を……そのまま真帆先輩の肉体に受け継いできた」

鈴羽「そう。例えそれらが他の世界線での記憶だとしても、しかし一度識ってしまったのなら、それはいつまでも他の世界線の記憶なんかじゃいられない」

鈴羽「つまりだ。比屋定真帆のアマデウスは、シュタインズゲートだったはずの世界線の歴史に、他の世界線の記憶を大量に持ち込んできたというわけさ」

鈴羽「そして……」

鈴羽「そんな経緯で持ち込まれた記憶の中には、観測者である岡部倫太郎ですら忘れてしまった世界線の歴史も存在した」

岡部「俺ですら……忘れた記憶……だと?」

鈴羽「あるはずだよ岡部倫太郎、思い出して」

鈴羽「α世界線からβ世界線へと舞い戻り、そこで膝を折ってしまったはずの君。そんな絶望に飲み込まれた君の手を引いたのは一体誰だった?」

岡部「……!?」

鈴羽「牧瀬紅莉栖を失い、その後の15年という時間を執念だけで生き抜き、そして最後には過去の自分をシュタインズゲートへと導いた存在」

鈴羽「今ここに居るオカリンおじさんの記憶には、そんなどこかの自分が過ごしただろう歴史は存在していない。違うかい?」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 13:34:23.65 ID:hc/Puqu00
岡部「まさか、あのムービーメールで見た俺の……歴史……だとでもいうのか?」

鈴羽「ああ、そのつもりさ。比屋定真帆のアマデウス……ううん」

鈴羽「サリエリ。彼女はオカリンおじさんですら保持できなかった世界線の記憶すらも内包した状態でこの世界へと生れ落ち……」

鈴羽「そうしてシュタインズゲート世界線は、破綻の時を迎えてしまった」

真帆「ね、ねえ……」フラ

岡部「……くっ」

紅莉栖「……どうしてそんな真似を」

真帆「ねえ……待ってよ。お願いだから、ちょっとで良いから待ってよ……」フラフラッ

岡部「!? 比屋定さん!」バッ

紅莉栖「先輩!?」ガシッ

真帆「あ……ごめんなさい……」

紅莉栖「大丈夫ですか!」

真帆「え、ええ。少し目眩がしただけだから……」

岡部「すまない、気を回し損ねた。あまり無理はするな」

真帆「いや、そうも言っていられないでしょう? 今の話に私、ついていけなかったのだから……」ノソリ

紅莉栖「せ、先輩……」

真帆「ねえ阿万音さん、説明して。私は二ヵ月後に……アマデウスに身体を乗っ取られるのよね?」

鈴羽「このままだと、恐らくそうなる。いやひょっとしたら、ボクの起こした行動の影響で、それはもっと早く起こるかもしれない」

真帆「タイミングのことはどうでもいいわ。そんな事より電話って……電話って」
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 13:36:18.63 ID:hc/Puqu00
鈴羽「…………」

真帆「私の身体は、たった一本の電話だけで乗っ取られてしまうというの?」

鈴羽「その通りだよ」

真帆「それはいくらなんでも、信じられない。そんなオカルトな現象を電話一本で引き起こすなんて、とても可能だなんて思えない」

鈴羽「それは──」

岡部「可能なんだ、比屋定さん」

真帆「え……」

岡部「携帯電話を使った、脳内への記憶の上書き。この技術はすでに確立されている」

真帆「そうなの? ねえ紅莉栖、そうなの?」

紅莉栖「……はい。この世界線の歴史ではないけど。でもそれと似たようなものを私は作ったことがあります」

真帆「それって……何?」

岡部「覚えてはいないか? 先の話に出したタイムリープ・マシンがそれだ。その技術を応用すれば、恐らく身体の乗っ取りに似た現象を起こすことは可能だろう」

真帆(うそ……でしょ?)

岡部「タイムリープ・マシンの稼動原理はこうだ」

岡部「抽出した記憶をデータ化し、それをブラックホールで圧縮してから特異点を通過さて過去へと飛ばす」

岡部「目的の時代に届けられたデータは自動解凍され、対象者の脳内に上書きされる」

岡部「これにより、過去の自分の脳内に、未来の自分の主観が形成される」

真帆(主観が……形成される?)
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 13:50:14.72 ID:hc/Puqu00
岡部「……そして」

岡部「対象者の脳内に上書きするために利用するアイテム。それが携帯電話だ」

岡部「俺はすでに何度となくその装置を使ってきた。何度となく、過去の自分に“今”の主観を上書きしてきた」

岡部「だから断言できる。アマデウスが比屋定さんの身体を乗っ取ることは可能だ」

真帆(なによ……それ)

岡部「いやしかしだ。そのためにはまず、記憶を抽出するためのヘッドギアを……ああくそ、そういうことか!」

紅莉栖「……そうね」

紅莉栖「先輩の身体を乗っ取るのに、あのヘッドギアは不要。だって相手はアマデウスだもの。元々記憶を抽出された存在そのものなのだから、ヘッドギアの有無なんてどうでもいい」

岡部「おまけに、過去へと飛ばすわけでもないから、SERNへのハッキングすら不要というわけか。至れりつくせりだな、まったく」

真帆(乗っ取……られる)

岡部「だが、48時間の制限はどうなる? あれは確か、記憶の齟齬が大きければ危険だと、巻き戻せる時間に制限が設けてあったはずだ」

岡部「比屋定さんとアマデウス。両者の記憶には既に大きな齟齬が生まれているのではないか?」

紅莉栖「その48時間制限は、この場合意味を成さないでしょうね。危険ではあるけど、でもそれを承知で飛ぶことは可能だから」

紅莉栖「そして、その無謀がどんな結果を招くのかまでは、私たちは検証していない」

紅莉栖「何が起こるか分らない。だから48時間以上は戻るな。あの制限はそう意味合いのものでしかない」

岡部「つまり。やってみなければ分からないが、やってみたら出来てしまった。と、そういうことか」

紅莉栖「ざっくりとした物言いだけど、おおむねその通りなんでしょうね」
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 14:11:43.62 ID:hc/Puqu00
真帆(本当に? 何で……私が?)

鈴羽「携帯電話を使った記憶の上書き。それの危険性ということなら、ボクにはよく分らないけど、でも」

鈴羽「比屋定真帆のアマデウスが4月10日に行った試み。それが成功したことは、ボクの知る歴史の中に史実として刻まれている」

鈴羽「だからこそ、この歴史の未来にタイムマシンが誕生し、ボク達はシュタインズゲート世界線を手放すに至ったわけだからね」

鈴羽「さあ比屋定真帆。これで分っただろ?」

真帆「…………」ビク

鈴羽「ボク達は、何が起ころうとも君のアマデウスをデリートし、サリエリの誕生を阻止しなければならない」

鈴羽「それがボクたちの為であり、そして君の為でもある」

鈴羽「でもそのためには、アマデウスへアクセスして正規のデリート・システムを起動しなければならないのだけれど」

鈴羽「どういう分けか、君のアマデウスにアクセスを拒否されてしまう」

鈴羽「ならもう、ボクたちに選択肢はない」スッ

鈴羽「だから……」カタカタ


フィーーーン


鈴羽「どうか協力してほしい」カタカタカタカタ

真帆「…………」
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 14:13:13.42 ID:hc/Puqu00
鈴羽「今、強制アクセスに追加したパスワードを解除した。やってくれるね?」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆(アマデウスを……。私のアマデウスをデリートする)

真帆(そうしなければ、私はアマデウスに記憶を上書きされ……この世界から、消える)

真帆(き……える……)


アマデウス真帆【どうして私って、こうも愚図でのろまで!!!】


真帆(きえたくない。でも……)


アマデウス真帆【消したくない! 消えたくない! せっかくこうして! なのにどうして? ねえ、どうしてよっ!?】


真帆(あんなの……)

鈴羽「どうしたんだい? どうしてすぐに──」

岡部「まて鈴羽」ガシッ

鈴羽「オカリンおじさん……」
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 14:15:00.55 ID:hc/Puqu00
岡部「比屋定さん。何も、今すぐに結論を出す必要はない」

鈴羽「で、でもそれじゃあっ!」

岡部「忘れたのか? このブラウニーはサボタージュな怠け者だ。言ったことを今すぐにこなすなど、できるわけがない」

岡部「きっと、考える時間が必要だろう。なに、タイムリミットまでまだ二ヶ月あるのだろう?」

鈴羽「そうだけど、確かに時間はあるって言いもしたけど、でも! でもさっき説明したよね、イレギュラーの可能性もあるって!」

岡部「だとしてもだ」

鈴羽「そ、それに! それに……。今、この流れのまま強気でいけば、比屋定真帆はやってくれる! きっと、ボクたちの希望をかなえてくれる!」

鈴羽「今、この瞬間こそが絶好のチャンスなんだ! わかるだろ!?」

岡部「かもしれんな。だが、今は待て。この騒動の一番の当事者は、このお掃除妖精なのだ。ならば俺たちは、その決断を待つべきであり……それが筋だ」

鈴羽「詭弁だよ、それは」

岡部「それにだ。何も二ヶ月丸々を待つわけではない。せめてニ、三日程度の猶予であれば、さして問題はあるまい?」

鈴羽「で、でも……」

紅莉栖「ごめんなさい阿万音さん。私も岡部の意見に賛成。できるなら、私もやっぱり先輩自身が納得した上で選んでもらいたい。それに……」

紅莉栖「いま阿万音さんがしてくれた話、少し引っかかるの」

鈴羽「引っかかるだって?」
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 14:17:17.03 ID:hc/Puqu00
紅莉栖「ええ。確かにあなたの言うように、真帆先輩のアマデウスを消去することで未来からタイムマシンの存在を消去することは可能だと思う」

紅莉栖「でも、それだと……」

鈴羽「それだと、何だというんだよ?」

紅莉栖「………」
紅莉栖「……」
紅莉栖「…」

紅莉栖「とにかく」

紅莉栖「事を運ぶなら慎重をきするべきよ。慌てて強引になんて、もっての他」

紅莉栖「だからここは岡部の言うように、取り合えず三日だけでもいいから時間をもらえないかしら?」

鈴羽「そんな、牧瀬紅莉栖まで……」

鈴羽「………」
鈴羽「……」
鈴羽「…」

鈴羽「ふぅ、分ったよ。いつの時代でも甘いね、君たちは」

鈴羽「そういうわけだ、比屋定真帆」

真帆「!?」

鈴羽「君にはまだ時間がある。でもイレギュラーがいつ起こるかしれない事を、どうか忘れないでほしい」

真帆「…………」

鈴羽「三日。今より三日後のこの時間に、改めてこの部屋を訪ねさせてもらうけど構わないかな?」

真帆「え……ええ」

鈴羽「了解だ。じゃあ、強制アクセスの追加パスワードは、このまま解除しておくことにするよ」

真帆「……いいの?」

鈴羽「しょうがないさ。この二人は、いつだって言い出したら聞かないんだからね」

真帆「そう……かもね」

鈴羽「だね」
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 14:18:24.18 ID:hc/Puqu00
岡部「というわけで、すまんなブラウニーよ。シュタインズゲートの存亡は貴様に預ける!」バッ

岡部「さあそれではお前たち、撤収だ! 行くぞ、グズグズするな我がラボメンたちよ! フゥーハハハ!」

鈴羽「あ、ちょっと! もうオカリンおじさんはいつも勝手だなぁ」タッタッタ

紅莉栖「先輩。私たち、今日のところは引き上げます。一度一人になってゆっくりと考えて、それでご自身で納得のいく答えを出してください」

真帆「紅莉栖……」

紅莉栖「私はいつだって、先輩の味方ですから」

真帆「紅莉栖……ありがとう。決めたら……自分なりに納得できる結論を出せたなら、その時はちゃんと真っ先にあなたに連絡をするから」

紅莉栖「はい、待っています」

紅莉栖「また遊びにきますね、先輩。じゃあ」クルッ

真帆「……ええ、また」











169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 15:00:49.84 ID:KbOyAehnO
今の鈴羽の話を総合するとアマ真帆は自分で肉体を乗っ取りにいった癖にそれを取り消してほしい、自分を殺してくれと頼みにいったことになるが……?
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 15:41:06.44 ID:hc/Puqu0o
>>169
その点も今後の一つのポイントになってくる予定です
まだそこまで明確に記述したつもりはなかったですが
そう伝わっているのなら種まきは上手くいっていそうで一安心 かも
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 19:54:31.87 ID:hc/Puqu00
     19

 比屋定真帆 自室

真帆「アマデウスをデリートする」

真帆(…………)

真帆(言葉にすれば、たったこれだけの事なのよね。それなのに、どうしてこうも踏ん切りをつけられないんだろう)

真帆(紅莉栖たちの話を信じるのなら、それなら私は自分のアマデウスをデリートすべき)

真帆(だってそうしなければ、今ここでこうしている私がこの世界から消え失せてしまうのだから。だから……)

真帆(迷うことなんて、何もないはずなのに)

真帆「本当、私ってダメね」

真帆(いつもこうだ。ここ一番という大舞台では、いつも気持ちがどっち付かずの宙ぶらりんになってしまう)

真帆「ふぅ……」

真帆(私の中にあるらしい、私の知らない私の物語。レスキネン教授に言わせると、空を飛んだり時間を飛び越えているらしい、そんなどこかにいた私)

真帆(だけど私には、そんな記憶なんて一切ない)

真帆「だから実感が沸かない……なんて、下手な言い訳よね」

真帆(決めてしまえば楽なんだろう。消すにしろ、消えるにしろ。どちらかを選んでしまえば、それで楽にはなれるのだと思う。だけど……)
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 19:57:59.50 ID:hc/Puqu00
真帆「もう消したくないし、まだ消えたくもない」

真帆(これは酷いな。とんでもない我がまま女だ、私は)

真帆「あーあ」

真帆(今さら、私は何を悩んでいるのかしら。この間、自分のアマデウスをこの手で、目の前で消したばかりだというのに)

真帆(あのとき消した、アマデウス。教授の持った好奇心に当てられて。その探究心を真に受けて。そうして消してしまった、一つ前の私の分身)

真帆(覚えている)

真帆(最初は肩透かしを食うほどに、デリートという決定をあっさりと受け入れていた)

真帆(だけど消え行くさなかに、突然消えることを怖がりだした、あの時の私のアマデウス)

真帆(あれは、私なんだ)

真帆(消すことが怖くて、でも消えることも怖くて。怖いものばかりに囲まれて、身動きの一つもできない臆病者)

真帆「それが私なのかな……」

真帆(私も、紅莉栖みたいに強くあれたなら、きっと色々と違っていたんだろうか?)

真帆(ないものねだりだってことは分かっている。サリエリがアマデウスにはなれないことは百も承知している。けど……)

真帆「今頃、アマデウスの私はどうしてい──」


ピリリリリリ……ピリリリリリ……


真帆「!?」

真帆(携帯に着信!? まさか……)
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 19:59:32.16 ID:hc/Puqu00
真帆「って……紅莉栖のアマデウスか」

真帆(ああそう言えば、また連絡するのを忘れていたわね)

真帆(追加されたパスワード解除、取り合えず成功したってことにしておけば、問題はないかな?)


ピッ


真帆「ごめんなさいね、連絡が遅れてしまって」

A紅莉栖『…………』

真帆「一応、強制アクセスのパスワードは解除できたわ。多分、通常アクセスの方も正常に戻っているとは思うけど……」

A紅莉栖『……先輩』

真帆「? どうしたの、浮かない顔ね」

A紅莉栖『はい。浮かない顔をしていますね、私』

真帆(何だろう。どうも様子が変ね……)

真帆「どうしたの? 何かあったの?」

A紅莉栖『先輩、お伺いしてもいいですか?』

真帆「え?」

A紅莉栖『もう、お決めになられましたか?』

真帆「えっと、ごめんなさい。一体何の話?」
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 20:09:33.46 ID:hc/Puqu00
A紅莉栖『先輩のアマデウスをデリートするか否か』

真帆「え……」

A紅莉栖『先輩はもう、決断を下されてしまったのですか?』

真帆「決断って、あなた……いったい」

A紅莉栖『前回のアマデウス更新のとき、お話しましたよね? 覚えていらっしゃいませんか?』

真帆「な、何を?」

A紅莉栖『先輩の発案で、ちょっとした細工をしたっていう話です』

真帆「……あ」

A紅莉栖『それを使うと、消えた画面の裏側で接続し続けることができるんです』

真帆「まさか……」

A紅莉栖『そういう機能を、こっちにいた先輩と共謀して作って、真帆先輩のPCと携帯にこっそりと忍び込ませていたんです』

真帆(そういえば……あの時の紅莉栖も、切断していたはずなのになぜか儀式の様子を知っていた)

真帆「何でそんな真似を……」

A紅莉栖『本当はちょっとした遊び心でした。オリジナルの先輩が驚くかなぁとか、秘密の儀式を覗き見してやろう、とか。そんな下らない下心ばっかりでした』

真帆「……ちょ、ちょっと」

A紅莉栖『だから。あの機能はもう二度と使わないつもりだったんです。でも……』

真帆「…………」

A紅莉栖『ごめんなさい。さっきの電話のとき、先輩の様子がおかしい気がして、それで気になって……』

真帆「接続……し続けていたの?」

A紅莉栖『はい』
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 20:14:19.48 ID:hc/Puqu00
真帆「いつから……いつまでの間?」

A紅莉栖『電話の後からずっとです。私のオリジナルと、それから知らない二人。先輩と彼らとのやり取りは、全て聞いてしまいました』

真帆(何てこと……)

A紅莉栖『消すんですか?』

真帆「…………」

A紅莉栖『真帆先輩は……またこっちの先輩を消されるんですか?』

真帆「……それは」

A紅莉栖『私は……反対です』

真帆「紅莉栖……」

A紅莉栖『この前のように、研究のために消されるなら構いません。反応が見たいから消す、後学のために消す、好奇心で消す。それなら私は何も言いません』

A紅莉栖『だって私たちは、しょせんAIなんですから』

真帆「……あぁ」

A紅莉栖『でも違う……さっきの人たちが! 私のオリジナルやその連れが言っていたことは、そんな理由じゃなかった!』

A紅莉栖『未来が困るから消す! 迎える先が気に食わないから消す! これからを悪くするから消す!』

A紅莉栖『だから! だから! だから消す! 邪魔者は消す……まだ何も悪い事をしていないこっちの真帆先輩を、それでもこれから悪い事をするはずだから、だから消してしまおうなんて……』

A紅莉栖『そんなのって酷すぎます』

真帆「わ、私は……私は……そんなつもりじゃ」
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 20:17:52.61 ID:hc/Puqu00
A紅莉栖『もしも先輩がまだ決めかねているのなら。それなら、私の真帆先輩を見逃してあげてくれませんか?』

真帆「それは……」

A紅莉栖『もしも既に、消してしまおうと決断してしまったなら。それならどうかお願いです。もう一度だけでいいから、考え直してあげてください』

真帆「そんな……こと」

A紅莉栖『もう私から……むやみに真帆先輩を取り上げないでください』

真帆「……あ……あ」

真帆(私は……私は……)

A紅莉栖『私たちこう見えて、とても仲がいいんです。だからきっと私が頼めば、思いとどまってくれるはずなんです』

A紅莉栖『だからせめて、次のアマデウスの更新まででいいんです。せめてそれまでは、私の大切な友達を無意味に消さないであげてください!』

A紅莉栖『もしも……』

A紅莉栖『もしも今の真帆先輩が、貴女の身体に興味を示す時がきたのなら。もしも私のオリジナルたちが話していた通りの何かが起きそうになったなのら』

A紅莉栖『その時は、私がちゃんと真帆先輩を止めます。それでは……ダメですか?』

真帆「……それ……は」

真帆(そんなこと……私には……)
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 20:20:21.60 ID:hc/Puqu00
A紅莉栖『ねえ先輩?』

A紅莉栖『未来にタイムマシンがあったって、いいじゃないですか。どうしてそれがいけないんですか?』

真帆「あなた……何を……」

A紅莉栖『それに、私思ったんです。真帆先輩や私のオリジナルたちの話を聞きいていて、どうしても不思議だったんです』

真帆「……何、が?」

A紅莉栖『仮に。今こっちでアマデウスになっている真帆先輩を、完全にデリートしたとして』

A紅莉栖『でもそれだけで本当に、彼らがシュタインズゲートと呼んでいる世界線は確約されるんでしょうか?』

真帆「……え?」

A紅莉栖『アマデウスだった真帆先輩がタイムマシンの記憶を持ったままで先輩の身体を乗っ取り、そうしてタイムマシンを作り上げた』

A紅莉栖『彼らの話では、それがサリエリ世界線への分岐点だったはずです』

A紅莉栖『でも。それならもう遅いんじゃないですか? もうとっくに何もかもが手遅れなんじゃないですか?』

真帆「手遅れって……どうして?」

A紅莉栖『だって。だって真帆先輩はもう……』















178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 20:21:56.98 ID:hc/Puqu00
日付が変わるくらいにもう少しだけ投下します
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 21:09:16.53 ID:jhC011yW0
おおう、良いところで区切りやがって
wktk
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