一ノ瀬志希「今、まゆちゃんにキスしたら」

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5 : ◆FreegeF7ndth [saga]:2018/07/07(土) 09:45:13.81 ID:YKwXScl5o


――あとどれくらい進めばいいの?
――>もう 壊れそう

――この道を選んでひたすら突っ走ったよ
――>でも 苦しいの

プロデューサーのコトはスキ――熱く眩しいステージに導いてくれるから。
プロデューサーのコトはキライ――まゆちゃんを泣かせたから。

あたしたちの葛藤を餌に、“Going My Way”はどんどん大きくなっていく。
シングルは売れる。ライブも盛況。番組にも引っ張りだこ。プロデューサーは鼻高々だ。



――Tenderness 差しのべて
――温もりに触れたい

――ヘンだね この気持ち
――何か変わってる

なんか、腹が立ってきたよ。

そりゃあたしも、まゆちゃんも、プロデューサーのおかげでアイドルになれたし、
プロデューサーがいなかったらデビューができたか怪しいものだ。ソレは認める。

でも、アイドルはあたしたちの内心まで切り売りしなきゃならないのか。



まぁ、きっとそうなんだろう。
アイドルが恋愛禁止ってのはその現れだ。
ファン以外の誰かをスキでいちゃいけないんだ。



……
…………
………………ホントに?

ナニナニじゃなきゃいけないから、仕方なく……ってのが“あたしたちの道”なの?
科学者をほっぽりだしたり、読モをかなぐり捨てて自分の気持ち一つでアイドル界に流れてきたってのに。

ホントにプロデューサーはクズだ。
アイドルのステージというキラめきを餌に、うら若き乙女のココロを弄んで。
仕事やレッスンさぼって迷惑をかけてるあたしはまだしも、まゆちゃんはいつもキチンとしてたのに。

このままプロデューサーの思うママにアイドルやってたら、ホントのMarionetteだ。
アイドルプロデュース以外クズなあのヒトに一杯食わせてやりたい。

いやむしろ一杯食わせてあげよう。
それがあたしたちにアイドルを教えてくれたコトへの恩返しだ。
“他人を出世の道具扱いにするのも大概にしないと怪我するよ”って教えてあげよう。
ナニか。ナニかないかな……。



まゆちゃんはプロデューサーにもったいないぐらいイイ子だ。

まゆちゃんは。まゆちゃんは――そうだ。



「ねぇ、まゆちゃん。今、キスしてもいい?」



次の週刊誌に、あたしたちのディープな路チュー写真がうっかりバッチリすっぱ抜かれ、
事務所は大騒ぎになったらしい。『新鋭アイドルデュオ、禁断の愛か!?』なんて。

らしい、というのは、その頃あたしはまゆちゃんの実家に潜り込んで、
世間の雑音をシャットアウトしてたから、正確なところは知らないんだ。

「娘さんにはお世話になっております」

佐久間家の食卓にご相伴させてもらった。パパは苦笑いし、ママはニッコリ笑ってた。
まゆちゃんは母親似なんだと、あたしは初めて知った。

(おしまい)
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