【二次創作】ダンガンロンパ Re:MIX【オリロンパ】

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10 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 21:50:46.99 ID:ajbDX1DiO

「大丈夫か!?」
「あはっ、起きたみたいだねぇ」
「にひひっ、やーっとおっきしたみたいっすね!」

「えっ!?何々、なんなの貴方達!?」

目の前の女の子以外にも、人はたくさん居た
あんな狭そうな所に何人もいるなんて……と思ったけれど、よく見たらここは結構広い場所だ
黒板に机に椅子。どれもこれも、毎日飽きるほどに見たことのある物ばかり
どこかの教室……なのかな。それにしては、窓には有刺鉄線が張られ、床には雑草が大繁殖している
今から目を瞑って確認しても、ここをさっきの場所だと判断する事はないだろう



「えっと……私の入っていた箱は?」
「……箱?何の事か、私には要領を得ない」
「恐らク、夢の中の存在だろウ。うなされていた様だしナ」


確認をとってみても、誰も答えてはくれない
夢……だったのかな?でも、やけに冷たい感触がハッキリしていた気もするけど……

「……って!そんな事は重要じゃないよ!貴方達は誰!?ここは何処!?」
「ヒッ!?そそ、そんなにキレんなよな……!」
「いやー、それがな、ウチらにもわからんのや」
「わからない……?何それ、拐ってきた癖に……!」
「なら、貴様はアレの中から出てきましたと言えば素直に信じるのか」
「アレ……?」

一人の女の子が、竹刀で後ろを指し示す
身体を捻って振り向くと、そこには教室らしき場所には相応しくない、異形のモノが鎮座していた
11 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 21:51:34.16 ID:ajbDX1DiO

「な……何?あれ……ゲーム?」
「驚くわよね……あんなモノがこんな場所にあるなんて……」
「ここ、一応学校っぽいけどな。なんであんなけったいなモンがあんねん!」
「な、なな、何で学校にアーケードがあるんだって話だよな……」

チカチカと明滅する電光パネル。それとは対称的に頑なに沈黙を貫いている液晶画面
付けられているのは、古臭いレバーとチープなボタン。錆び付いていて、まともに動くかも疑問だ
それは、捨てられたアーケードゲームをそのまま教室に持ってきた。と言わんばかりのガラクタだった
機体は完全に壊れてる。なのに、光続けるパネルはまだ生きている事を強調するみたいに脈打っていた



「あのオンボロゲームの中から嬢ちゃんは出てきたんだ。信じられるか?」
「え?どうやって?画面から?」
「どこのホラー映画なの!?」

いきなり宣告された奇妙な出来事に、私は理解が追い付かなかった
まさか私は死んだの?なら、もしかして私は今絶賛大流行中の異世界転生を?
だとしたら、女神様なりチートスキルなり…せめてスマートフォンくらいは欲しいんだけどな

「それでは語弊を招くでござろう。その筐体の側面に人一人が入れそうな隙間が見えるでござるな?」
「キミはその中より出でたのだよ。レディ……まさに!ミステリアス!」

「そうなんだ……かがくのちからってすげー!」

……もうなんだかよくわからなくなってきた。ここは適当に話を切り上げちゃおう
皆もこの話はあまり気乗りしなかった様で、納得したと見るや安堵の雰囲気が流れていた

12 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 21:52:30.74 ID:ajbDX1DiO

……それでも、本当に私があのゲームから出てきたという確証は無い
そもそも、この人達が誰なのかもわからないし……

「……ねえ、もし良かったら……自己紹介しない?」
「え?……自己紹介?」
「ええ。どうやら私達は同じ境遇みたいだし……」
「ナルホド。我々は一蓮托生。最低限の相互理解は不可欠という事だナ」
「そんなに大袈裟な事でござろうか……?」
「どうせその内なんとかなるって!」
「でもでもぉ、私は他の皆の事も知りたいなぁ♪」
「……くたばれ。変質者が」

そんな事を考えていたら、女の子の一人がそう提案してきた
女の子の一言で、周りがぱっと明るくなる。……一部怪しい所もあるけれど
でも、確かにこの人達の事を知っておくのは悪い事じゃないと思うのも確かだよね
ここが何処なのかも解らない上、この人達が誰かも解らないなんて詰んでるも同然だもん

「あー……で、誰からやんだよ?」
「言い出しっぺの法則っす!とゆーワケでどぞ!」
「わかったわ。私は……」
「……あ!ちょっと待って!私からやる!」
「えっ?君から?さっき起きたばっかでしょ?」
「無理せんでええねんで?今は休みぃ、ウチらの後にゆっくり聞くわ」

自己紹介される前に、咄嗟に声を挙げていた
別に始めは私じゃなくてもいいのはわかっていたけれど、それでもこれだけは譲りたくなかった

「だって……一番始めって主役っぽくない?」
「何だそりゃ?」
「な、中々に変わった御仁でござるな……」

一番変わった格好の子にそんな事を言われてしまう
でも、いちいち挫けていられない。アンチの批判は今更なんだ
大きく息を吸い込んで、私は、私を口にだした




「私の名前は瀬川千早希!超高校級のコスプレイヤーなんだ!皆、よろしくね!」


【超高校級のコスプレイヤー】
  瀬川 千早希(セガワ チサキ)



13 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 21:53:24.61 ID:ajbDX1DiO

「瀬川さんって言うのね。此方こそよろしく!」
「うん!まだ会ったばっかりだけど、これからも仲良くしてね!」

にこやかな笑みを浮かべる女の子の手を握る
少し力を入れて握ると、向こうも私の手を優しく包み込んでくれた
……妙にこなれている様に感じたのは何故だろう

「コスプレイヤー……って、何?」
「コスプレとは、ズバリ時代劇の事でござる!」
「それは原語の意味だナ」
「時代劇?瀬川の嬢ちゃんがか?」
「ん、んなワケねーだろ……コスプレイヤーって言うのはな……」
「あ、コスプレイヤーって言うのはね……」

トンチンカンな事を言い続ける一同に向かって話しかける
確かにあまりメジャーな才能じゃないから、皆にもしっかり教えてあげないと
コスプレイヤーのなんたるか。それを説明出来ずして、いったい何が超高校級か!


「コスプレイヤーって言うのは、簡単に言えばアニメや漫画のキャラクターになりきる人の事を言うんだけど最近では現実でバズった出来事や人物とかの物真似みたいに扱われているんだけどね」

「は?」

「それって正確にはコスプレじゃないよね?コスプレって言うのは非実在の存在を自分を使って実現させる行為の総称であって自分の自己顕示欲や承認欲求を満たすためのものじゃないのにさ!」

「な、何言ってるんすか?」
「何かの呪いでござろうか……?」

「あ、私は知名度を上げるの為に有名なキャラのコスプレとかもするんだけど、でも調べてからしているから決して同人175とかじゃないよ?それに知名度を上げる事も活動には必要で……」
「「「………………………………」」」

〜〜〜〜〜


「って、こんな感じなんだけどわかった?」
「いや、何言ってるかさっぱり……」
「あー充分だ。ありがとうな」
「……個性的な人」

一通りの私の持つコスプレイヤーへの話を吐き出す
急激な情報を受け取ったからなのか、それとも単に興味がないのか、皆の表情は良くは無かった
でも、今は私の事なんかよりも知りたい事がある。それを聞き出すために、喋りすぎて渇いた喉を動かした

「それで……今ってどうなっているの?」

14 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 21:54:39.13 ID:ajbDX1DiO
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15 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 21:55:23.37 ID:ajbDX1DiO

「……えっ皆ここで起きたの?駆村君、月神さん」
「おまけに、全員が超高校級と呼ばれているんだ。なんだか妙だと思わないか?」
「全員にここに来るまでの記憶も無いし……なんらかの事件に巻き込まれた可能性もあるわ」

【超高校級の地域振興委員】
  駆村 沖人(カケムラ オキト)

【超高校級のアイドル】
  月神 梓(ツキガミ アズサ)

一通りの事情を、場を仕切っていた男の子と女の子から聞いておいた
長靴や軍手。手拭いを首から下げた駆村君は農家みたいな……というより実際に農業もするらしい
寂れた故郷の時雄島(トキオジマ)を、一躍、人気観光名所まで押し上げた事から地域振興委員に任命されたみたい
噛み砕いて言うなら……親善大使かな、多分。俺は悪くねぇっ!

で、もう一方の女の子。さっき私と握手した子が、この月神さん
藍色のボブカットをヘアピンで整えた月神さんは、今人気急上昇中のアイドルグループのセンターに抜擢された時の人
歌、ダンス、トークセンス。そして一番大事なルックスも上位に君臨する、一般人から羨望の眼差しを一身に受ける恵まれた天才だ
……正直、私も少しだけ羨ましく思ったりもする

16 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 21:56:14.19 ID:ajbDX1DiO

「そうかあ?俺の邸宅の警備は厳重だぜ。そう易々と賊が入れねえ位にはな」
「それは竹田殿の家は、でござろう。拙者は元より、他の生徒では比較にならぬでござるよ」
「…竹田さんと臓腑屋さんはどう考えているの?」
「そりゃあ、何かのイベントだろ。アポが無いのがちっと不思議だけれどな」
「拙者も概ね同意でござる。これだけの人数を拉致監禁する事は現実的ではないでござるものな」
「一番現実的じゃないのは臓腑屋の格好だけどな」
「にゃあぅ!拙者は忍者では無いのでござる!」

【超高校級の玩具屋】
  竹田 紅重(タケダ ベニシゲ)

【超高校級の家事代行】
  臓腑屋 凛々(ゾウフヤ リリ)

月神さんの話に割って入る、和服を着崩した男性と忍者装束の女の子の二人組

変な格好だけど無下には出来ない。二人はこの中でもとんでもない経歴の持ち主だったりもするからだ

竹田さんは老舗玩具店の代表取締……社長で、現在は海外進出も果たしている凄腕の経営者
中でも、『BEIGOMA』や『MENKO』は最近若い子の間でも流行中で、私も販促アニメのコスプレをしたような……してないような……
因みに、とっくに二十歳を過ぎてて今は三十間近のアラサーなんだけど、本人は切実に超高校級と呼んで欲しいそう

臓腑屋さんは口調からも分かる様にニンジャ……ではないらしい。服はバッチリ忍者装束の癖にね
家事代行という職業は聞き馴染みがないけれど、様は派遣で動く家政婦やメイドみたいなものらしい
彼女は世界各国から依頼が飛び交う程人気があるらしく、過去にはホワイトハウスの家事もしたとか
理由は、『ジャパニーズニンジャは珍しいから』。不服そうにぷくっと膨らませた頬が結構可愛かった

17 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 21:57:49.94 ID:ajbDX1DiO
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18 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 21:58:39.95 ID:ajbDX1DiO

「ク、ク、ク!JAPANのイベントは実にcrazy、ワタシも気分が高揚するナ」
「密室された空間に、年頃の飢えた男女……これで何も起きない訳ないっすね!にひひっ!」
「おうおう。若いモンは気楽でいいねえ」
「ですが、デイビットと照星は腕っぷしや頭脳ならばこの中でも随一。多少は安心出来ますね」
「恐悦至極。ワタシも協力は惜しまぬつもりダ」


【超高校級のプロファイラー】
  デイビット・クルーガー

【超高校級の柔道家】
  照星 夕(テルホシ ユウ)


竹田さんと駆村君が、新たにやってきた二人と話している
眼鏡をかけた、如何にもインテリそうな外国人は、高校生ながらも警察と一緒に前線で働くプロファイラーのデイビット君
なんでもお父さんがFBIの捜査官で、そのツテでプロファイラーになったそうだ
現に、この中では一番冷静な視点を持っているからか月神さんや竹田さんと一緒に場を纏めていた

で、もう一人のは短いヘソ出し制服に、これまた短めのスカートにスパッツを履いた活発そうな女の子
全国女子柔道大会を、一度も投げられずに無敗で勝ち抜いた柔道界きっての天才少女らしいけど……


「せーんぱいっ!何をぼーっとしてるんすかっ!」
「わわっ!?ちょ、抱きつかないで、重……っ!」
「いひひー、どこが重いんすかー?」


なんというか、照星さんは対人距離……所謂パーソナルスペースが凄く狭い
さっきから男女問わずに抱きついているし、今も私の首筋をくんくんと嗅いでいる
その様子は子犬みたいだけど……色々と大きいからヘンな誤解をされないといいんだけれどね

「ま、またやってやがるよ。あのビッチ……」

19 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 21:59:33.82 ID:ajbDX1DiO
「むっ、女の子を軽々しくビッチ認定するのは童貞の証拠っすよ!吊井座先輩!」
「う、うるせえ!どどど、童貞じゃねえ!お、お、俺だって超高校級だからな……っ!」
「……なんの関係が?」


【超高校級のイラストレーター】
  吊井座 小牧(ツルイザ コマキ)


照星さんにからかわれているのは、超高校級の神絵師ことイラストレーターの吊井座君だ
本人曰く、ラノベやアニメのキャラデザにゲームのイラストも寄稿している売れっ子のレーター
仕事の予約も六ヶ月待ちで、今も幾つかの仕事を掛け持ちしているって言っていたけれど……
私、吊井座君の名前を聞いたことが無いんだよね。ペンネームでも使っているのかな……?

20 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:01:39.51 ID:ajbDX1DiO

「にひひっ!イケナイ先輩にはオシオキっすよ!」
「やっ、止めろ!骨が折れぁああああああ!?」
「照星さん!?吊井座君を離してあげて!」
私に構うのに飽きたのか、悪態をついた吊井座君の方へ去っていく照星さん

照星さんに絡まれている吊井座君を遠巻きに眺めていたら、急に声をかけられていた

「えへへぇ。皆楽しそうだねぇ」
「え?あ、うん。そうだね」
「最初は私も不安だったけどぉ、瀬川さんもきっと皆と仲良くなれるよぉ」
「そうだね」

甘ったるい声色に、とろりと蕩けた様な視線。そして目の前で動く度に漂う、甘くて濃密なココアの香りがくすぐったい
要素の一つ一つが蠱惑的で、扇情的……それこそ、誘っていると思われても仕方無い程に
それでも、女子はおろか男子も特に興味が無さそうにスルーしていた。何故なら……

「……お前が皆と仲良くなれる訳が無い。味覚的にも性的にも破綻した変態女装倒錯趣味の癖に」
「うぇえん……酷いよぅ、月乃ちゃあん」
「……泣きたいのはこっち。毎度毎度朝日のせいで私まで偏見の目で見られるハメになっているのに」


【超高校級のショコラティエ】
  御伽 朝日(オトギ アサヒ)

【超高校級の童話作家】
  御伽 月乃(オトギ ツキノ)

21 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:02:46.81 ID:ajbDX1DiO

そう、この子は男の子。いや、男の娘なのである
そして、その朝日君を無言で威圧しているのは、彼の双子の妹さんである月乃さんだ
二人の顔つきは双子という事を差し引いてもとても良く似ている。……一部の主張の違いで判るけど

お兄さんの朝日君はショコラティエで、全国で最も栄誉ある大会で最年少で優勝した経歴もあるらしい
彼のチョコレートは見た目がとても可愛くて、特に女性に大人気。バレンタインシーズンには血で血を洗う抗争状態になるくらいだ
因みにこれはどうでもいいけど、血のバレンタインという話は実際にあったりする

妹の月乃さんは童話作家。古典に寓話、民話……特に創作童話をメインに活動しているんだって
メルヘンなファンタジーをベースに、現代的な要素を含ませたそのお話は、一見奇抜に見えて、実際は王道と評価されている
本人は誰かに評価される事を嫌っているみたいだけれどね……主にお兄さん関係で

「頭ぐりぐりするの痛いよぉ〜月乃ちゃあん」
「黙れ」

……色々と複雑な関係なのか、月乃さんは朝日君にあまりいい感情を抱いていない
兄妹仲良く……って、一人っ子の私が言えた事じゃないけれど、身内に男の娘がいるって事は相当苦労しているんだね……

22 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:03:41.36 ID:ajbDX1DiO
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23 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:04:25.44 ID:ajbDX1DiO

「……くだらないな」

弛緩した空間に、刃の様な声が刻まれる。声の主は目を瞑り、視界に入れたくないと言わんばかりのオーラを隠すことなく放っている
日本人形の様な楚々とした顔つきとは裏腹に、その眼からは冷たい軽蔑の感情……作り物の方が遥かに暖いと感じる視線を向けていた

「超高校級。その称号はただの飾りか?所詮は才能ありきの人間という事か」
「な……なんだよっ!才能ありきって、キミだってそうじゃないか!」
「僕が何もせずにここにいると思っているのか。貴様の様な能無しには判らないだろうな」
「能無し!?そんな言い方は無いだろ!?」
「はいストーップ!それ以上はダメーっ!」

言い言葉に買い言葉。ヒートアップしそうな口喧嘩を仲裁したのは、この中でも一際小柄な女の子
その小さな身体を存分に動かし、その影響で頭につけた大きなリボンがぴょこぴょこと跳ねていた

「口喧嘩なんて見過ごせません!りぼんちゃんの目の黒い内はらーぶらーぶして貰います!きりっ!」


【超高校級の家庭教師】
  天地 りぼん(アマチ −−)

24 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:05:18.11 ID:ajbDX1DiO

その体躯と幼げな雰囲気からは想像出来ないが、彼女は家庭教師として世間から評価されている
子どもと同じ目線で立つ事が出来るので、教え子も大人に抱く抵抗が無く彼女と勉強出来るという
そう考えてみると、彼女の小さな身体と大きなリボンという特徴は、覚えやすいので家庭教師として理に敵っているのかもしれない

「はいっ!二人とも、仲直りのーあ、く、しゅ!」
「断る」
「即答!?」

……とはいえ、相手は先生も形無しの問題児。喧嘩を吹っ掛けられた男の子は相手にされてすらいない
ニット帽にベストを着た男の子は、天地さんや他の皆と比べても、これと言った特徴が見当たら無い。それもそうだ。彼の才能は……

「ボクは超高校級の幸運なんだぞっ!さっさとボクに謝れよ!」
「謝罪の強要は良くないよ!御影くん!」


【超高校級の幸運】
  御影 直斗(ミカゲ ナオト)


超高校級の幸運。その実態は、単なるくじ引きで選ばれただけの抽選枠だ
御影君は正真正銘の一般人と言っても過言じゃないだろう。それ位彼には超然的なオーラを感じない
なのに、彼は女の子に向かって強気な態度を崩さない。度胸があるのか、身の程を知らないだけか……

25 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:06:43.78 ID:ajbDX1DiO

「あーハイハイ!御影はもう黙っとき!」
「何でさ!?悪いのは陰陽寺さんの方だろ!?」
「何故か?それは彼女が麗しい乙女。穢す事すらも赦されぬ聖域……レディーファーストだからさ!」
「飛田もや!お前が話に入るとめんどいねん!」
「オゥ、ゆめみ……そんな怒りに歪んだ顔では持ち前の美貌が台無しに……」
「誰のせいやと思っとんねん!このボケナス!」
「フゥ……美しい声だ……グロリアス……」


【超高校級のヒーロー】
  陰陽寺 魔矢(オンミョウジ マヤ)


【超高校級のダンサー】
  飛田 弾(トビタ ハズム)


【超高校級のスタイリスト】
  古河 ゆめみ(コガ −−)


先程の少女……陰陽寺さんが生んだ緊迫した雰囲気を壊したのは、派手な見た目の男女
飛田君はダンサー。極度の目立ちたがりで、自分がメインでないバックダンサーは決してやらない程にプライドが高い
それに比例しているのか美意識も高く、今も海草の様な艶の髪を、手鏡と櫛で直している

対する古河さんは、呆れたようにこめかみを押さえて難しそうな顔をしている
ギャルの様な華麗な衣装に、流れるような滑らかな金髪をサイドに纏めたその姿は、モデルと言っても疑う人はいないはず
スタイリストとしての押しの強さか、はたまた目の前の難敵のせいか……今はその美貌を、酷く苦悶に歪めていた


「……………………もういい。僕に近づくな」
「ゴメンな、陰陽寺。御影もしっかり謝っとき!」
「はーい……ごめんなさーい……」

26 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:07:48.47 ID:ajbDX1DiO

どうやら、騒動は御影君の敗北で決着がついたらしい。当の本人は、つまらなそうに竹刀を弄っていた
陰陽寺さんはあの竹刀で、今までに何人もの悪人を叩き伏せたと言われている程の剣豪だ。抜き身の刀の様な印象は、潜り抜けてきた修羅場で磨き上げられたものなのかもしれない
彼女自身にも謎が多い。幾ら立ち振る舞いが冷たくても、一目で女の子と分かるのに自分を僕と呼んだり、才能も女性系であるヒロインで無かったり……

ぼんやりと隅っこで皆を観察していると、既に打ち解けている人や積極的に関わりにいく人のお陰か、少しずつ信頼してきている
謎の多い陰陽寺さんだけど、いつかは仲良くなれる日が来るのか。でも、彼女が笑顔になる姿はどうしても想像出来なかった
そんな事を妄想していると、見過ごしてしまうのが不思議な違和感に気がついた



「……あれ、スグル君はどこ?」

27 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:09:08.32 ID:ajbDX1DiO

「……あっ!?本当だ!」
「スグル君……?どこにいったの?」
「少し目を離した隙に……どこに消えた?」

先程までそこにいたのに、まるで蜃気楼の様に何処かへ消えてしまった男の子

「フム、先程まで朝日氏の近くにいたはずではないのかネ?」
「えへへぇ、もうスグル君とは仲良しだもんねぇ」
「……見ていない。知らない」
「そのゲーム機の裏にいないか?ロッカーの中はどうだ?」
「…いないで、ござるな。神隠しでござるか……?」
「んなバカな訳ある訳ないやろ!」

世界から抹消されてしまったかの様に、消しゴムで擦ったかの様に跡形も無く消された存在

「扉は……開いていない、だとぉッ!?」
「あ、アイツが出た後、鍵かなんかで閉じ込めたんじゃねえのか……!?」
「誰にも気づかれずにか?そんな事は不可能だ」
「おいおい……俺がボケている訳じゃあねえよな」
「スーグールーん!出ーておーいでー!!!」

……違う。もしかして、世界から消されたのは―――





「……私達の、方?」

言い様のない不安感。彼方に放り棄てられたかの様な、世界から取り残された様な疎外感が狭い空間に満ちていく
小さな焦りは大きな恐怖へ、恐慌はどんどん空間に伝播していく。そうして絶望が溢れてくると―――


28 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:10:11.67 ID:ajbDX1DiO






『テッテレーン♪』







「…………え?」

世界が孤独感で満ちてきた頃に、そんな間の抜けたファンファーレが反響した








29 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:30:06.89 ID:ajbDX1DiO

「「!?」」

突然の変化。周囲の動きに一瞬の空白が生まれる
唐突な音で発生した空白は、冷静さを取り戻すのには十分な猶予を与えてくれた
全員の思考が切り替わる。失せ物探しから、原因の追求へと転換していく
その成果なのか、それとも狭い教室だからかは不明だけれど……原因は驚くほどあっさりと見つかった

「あっ!?……このゲーム、動いてるよ!?」
「んなバカな!電源は死んどったはずやろうが!」
「だが、確かに、確かにッ!モニターが動いているではないかッ!」
「えっとえっとぉ、これってどう動かすのぉ?」
「……勝手に触るな」

死んでいたと思われていた筐体が、今、沈黙を破りここに動き出した
だけど、画面は依然として砂嵐。何かが映りそうで映らないのがもどかしい
ゾクリ。と身体が射抜かれる。砂嵐の奥の底から、何かが除いている様な……


「えーい、ここはりぼんちゃんにお任せあれー!」
「ダメよ!迂闊に触ったら……!」
「ならぁ、どうしよっかぁ?放っておくぅ?」
「詳しい奴が操作すればいいだろう」
「しゃーねえ、ここは俺が……」
「あ、待って!私にやらせて!」
「……瀬川さんが?」
「こう見えてレトロゲーはやり込んでいるからね。筐体の操作なんて慣れっこだよ」
「で、でもよ、なんだか危なくねえか……?」
「大丈夫だって!私を信じてくれないの?」
「そういう訳じゃ……」


私はただゲームがやりたい訳じゃない。私が皆の役に立てるのなら、やりたいだけだ
全員が私に注目する。その目には、私への懐疑や不安が宿って不安定に揺れて光っていた
でも、それでも引くわけにはいかない。ここで皆に私という存在を示していかないと……!


「……じゃ、動かすよ」
視線を振り切って、試しに強引にレバーを下げる
がちゃり、と音を立てて筐体が震える。途端に画面に色が灯っていく
……瞬間、大きな音が流れ出す。それはさっきの音と間違いなくおんなじものだった
映し出された画面と流れ続ける軽いBGM。そして、意味不明な映像が流されていた

「……『ココロオドルTV』?」


30 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:31:11.00 ID:ajbDX1DiO



〜〜〜♪


『あーあーあー……赤巻き紙青巻き紙黄巻き紙……』
『隣の客はよく柿食う客だ……隣の客は習だと思って!』
『馬鹿野郎。前を見ろ。何がある?』
『やだなあヨウくん、そんなの見ればわかるよ。カメラでしょ?』
『そうだ。そしてカメラの電源は点いているな?』
『うん。点いてるよ?』
『そう。つまり今はあのカメラは動いているんだ。それがどういう事か分かるか?』
『……今、オンエアしてる?』
『正解だ。そら、練習の成果とやらを見せてみろ』


『うん!わたしの名前は赤巻き紙!好きな食べ物は隣の客をよく食う柿です!』
『混ざってるじゃないか。なんだ隣の客を食う柿って。ただのホラーじゃないか』
『てへへ……失敗失敗!それじゃあリテイク2!』



『わたしの名前はアシタバ・ハルカ!よろしく!』
『ミトドケ・ヨウだ。別に覚えなくても構わんぞ』



『わーい!ココロオドルTV、初放送開始だよー!』
『初っぱなから放送事故だがな。それで今回のミッションの内容はなんだ?』
『それは……じゃじゃーん!”体育館に行く”!!』
『一番始めだからな。これくらいで充分だろう』
『体育館は、この教室を出て道なりに進んでいけばちゃんと到着するよ!』
『報酬と言うのはなんだが、粗品を用意してある。ついでにオマエラの探し物もだ』

『それじゃあ本日はここまで、この番組の合い言葉で締め括るよー!』

『『鮮やかな!!』』
『遥かな明日を!』『見届けよう!』

『バイバーイ!』

31 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:33:27.53 ID:ajbDX1DiO

「「…………………………………………」」
「……何、今の」


開いた口が塞がらないとはこういう事を言うのだろうか。既に砂嵐に戻った画面をみて虚しく思う
MCらしき女の子は制服を着ていた。けれど私にはわかる。あれは適当な似非制服だという事を
アシスタントの男の子は白のTシャツ……に、何故か漢字で『不毛』と書かれていた。正直センスを疑う

内容、画質、キャラクター……どれをとっても低品質過ぎる。ハッキリ言ってクソアニメだ
今のアニメ擬きのくだらな過ぎるノリで全員の士気も大幅に下がった様で、誰も彼もが唖然としていた


「え、えっと、ハルカさんとヨウ君の言う事は信じてもいいのかしら?」
「ナチュラルに受け入れてるの!?ボクあんなのに従いたくないよ!?」
「だガ……今のテレビでは体育館には粗品と探し物もあると言っていたナ」
「それにぃ、その探し物がスグル君の可能性もあるよねぇ♪」

32 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:34:23.69 ID:ajbDX1DiO

確かに、あのアニメではこう言っていた。体育館には粗品と探し物が置いてあるって
どうしてそんな事を言ったのかはわからないし、そもそもスグル君が何処にいったのかもわからない
こんな場所に拐った目的が、まさかあのクソアニメを見させる事だったとはとても思えないけれど……

「……罠の可能性も、無いことは無い」
「そもそもの話っすけど、さっきからずっと扉には鍵がかかってるっすよ?」
「わかった!ゆうっちと、ついでにこまっち!扉を開けてみるのだー!」
「な、な、なんで俺もなんだよ!?」
「ええからはよやれや!」

天地さんの号令で、照星さんとついでに吊井座君が扉に手をかける。二人がぐいっと力を入れると、すとーんという音と一緒に吊井座君が飛んできた

「ぎゃあああああ!!!!」
「え……きゃあっ!?」
「っとと……大丈夫か?腰は打ってねえよな?腰は本気でヤバいからな。ここだけの話」
「何故急に吹き飛んできたのでござるか!?」
「俺には照星が放り投げた様に見えたが……」
「にひひっ、さーせん!自分のおっぱいに免じて許してくださいっす、先輩!」

人を放り投げておいて、けろりと笑う照星さん。これには告発した駆村君も苦笑いするしかない
一方で、投げ飛ばされた当の本人の吊井座君は酷く怒っていた、急に手伝えと言われ、従ったら投げられる。そりゃ一言くらい言いたくももなるよね……

「お、お、おい!お前、俺に……!」
「さて……行こうじゃあないか!麗しのレディ!」
「時間が惜しい。黙っていろ」
「……ごめんね!」
「………………………………お、置いていくなよぉ!?」


33 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:35:23.52 ID:ajbDX1DiO

一悶着ありながらも、教室の外へと足を踏み出した私達
荒れ果てた教室の中とは裏腹に、廊下は普通の学校然とした清潔な様相だった
窓と思わしき場所に、テレビ画面の様なモニターが取り付けられている事を除けば……だけど
身体中にまとわりつく様な視線を感じる。見られる側のモニターが私達を品定めしている様な、不可思議な錯覚に揺られていた


「……道、間違って無いよね?」
「あのテレビの指示通りに動いているのダ。間違いなく正しいだろうヨ」
「こうして歩いてみると……本当に、普通の学校の中みたいね」
「色々と謎のあるものはあるでござるが、構造自体は特に変わった部分は見当たらぬでござるな……」
「一番気になるのは、このモニターだな……」
「なんでモニターがこんなトコにあるのかなー?」
「な、なんだか……き、気持ち悪くなってきた……」
「おっと……吐くのは止めてくれ。美しくない」
「大丈夫ぅ?私は吐いても嫌いにならないよぉ」
「……お前は嫌われものだけれど」
「こん時くらい兄妹喧嘩は止めときや……」

不安に襲われている私と違い、皆は余裕綽々そうに廊下をカツカツと歩いていく
モニターに映る顔を見る。幾つもの画面に映るソレは、普段の私の顔かもわからなくなって……

34 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:36:13.83 ID:ajbDX1DiO

「……瀬川さん?どうしたの?」
「え?……あ、うん。ごめんね。ちょっとふらってなっちゃった」
「うーん、少し休憩しちゃう?結構長く歩いたし」
「そんな暇は無い。黙って足を動かせ」
「陰陽寺……少しは人の気持ちを考えてやれよ?」
「喧嘩すんなよ、若いんだからよ……そら、ゴールは目の前みてえだぜ?」
「……体育館。本当にあった」
「信じてなかった訳じゃないっすけど、あのテレビの言う通りだったんすね!」

歩き続けて約数分。壁に当たってようやく終わりが訪れた
行き止まりには『体育館』と点滅しているパネルと扉。ここが体育館である事は間違いない

「そんじゃ、開けるっすよ!」
「ま、待ってよ!まだ心の準備が……!」
「確かに、この中にウチらを拐ったヤツがいるかもしれへんな」
「なら、まずは俺が開ける。陰陽寺と照星。二人は何かあったら皆を守ってくれ!」
「ラジャッす!」
「………………………………………………」
「……陰陽寺さん?」
「………………分かっている」
「ありがとう。……駆村君、お願い!」
「よし、いくぞ……!」

月神さんの号令で、閉じていた扉が開かれる。この未知のダンジョンの最深部。求めていたモノがある場所へと進んでいった

35 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:37:13.28 ID:ajbDX1DiO

シン。と静まり返る開けた空間
ステージの檀。その後ろに置かれた大きなモニター
何処にでもあるような模範的な体育館の中で、奥の異物だけが禍々しい存在感を放っていた

「ここが……体育館?」
「またモニターかよ!ボクもう今日だけで二桁近く見たよ!?」
「そ、それよりもスグル殿はどこでござるか!?」

臓腑屋さんの声でハッと意識が戻る。最大の目的である探し物は、随分あっさり見つかった

「……皆さんっ!」
「す、スグル君!?何処にいたんだよ!?」
「そもそもの話になるが、お前はいったい何時からどうやってこの場所に来たのかね?」
「ごめんなさい……気がついたらここに……」
「……本当にごめんなさい。僕には、記憶も才能も無いのに足を引っ張ってしまって」


【超高校級の???】
  神威 優(カムイ スグル)


「き、気にしてないよ!元気出して、ね!」
「ごめんなさい……」
私の励ましにも伏し目で謝る男の子。色素の薄い髪に幸の薄そうな表情が弱い小動物みたいで、庇護欲をくすぐる小さな子だ
本人曰く記憶も才能も無いって言っていたけれど、それならどうして、超高校級である私達の中にいるんだろう?
デイビット君が言うには、『急激なショックで記憶が飛んでしまう事はままあル。彼もそういった類いの症状だろウ』らしいけど……

「な、なあ、もういいだろ?さっさと戻ろうぜ?」
「そだねー!りぼんちゃんもうくったくたー!」
「ざっと見た感じ、特に怪しい人影は無いな……」
「んじゃさっさと戻るか。誰もいなさそうだしよ」
「なら、戻りましょうか。皆、早く教室に……」





『あああああああああああああああ!!!!マイクテスっ!マイクテスっ!マイクテスっっっ!!』

36 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:38:21.55 ID:ajbDX1DiO

「っ!?」
「きゃああっ!?」
「な、何だこれは!?」
「み、耳がぁ……!!」

いきなり大音響で声が響く。激しく音割れした不快な声で、頭が大きく揺さぶられる

「だ、誰だよ今の……っ!頭おかしいだろっ……!」
「……御影直斗?」
「それは違うよ!?ボクじゃないって!」

『そうそう!ボクだよ!』

「なんだ……って、え?」
「………………は?」
「……誰なのかなぁ?今の声ってぇ」
「今のは誰だ。姿を見せろ」

御影君が否定した瞬間、聞いたことの無い声が木霊する。陰陽寺さんが私達の前へと動いた時……



「いいでしょう!何だかんだと聞かれたら……」
答えてあげるが世の情け!って危ない危ない、空気を読んで……!




「答えてあげるが世の情け!とうっ!」

「オマエラ始めまして!そしてドーモ、今後ともよろしく!ボクの名前はモノクマ!」
「この彩海学園(さいかいがくえん)の……学園長でーーーっす!!!」

白黒のクマのヌイグルミが、その姿を現した

37 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:39:11.13 ID:ajbDX1DiO

「………………は?」
「彩海……学園……?」
「そそ、彩る海と書いて彩海学園。間違っても最下位学園じゃないからね」

……嫌な名前。って今大切なのはそこじゃない!

「あ、貴方がここに私達を連れてきたの!?」
「え……あ、そうだよ!貴方が私達をここに連れてきたの!?」
「あ、わかっちゃう?照れますねぇ〜」

月神さんに一歩遅れて、全く同じ疑問を提示する
モノクマと名乗った白黒のヌイグルミは、得意気に笑った様な気がした

「因みに、あのアニメもボクが作ったんだけど、どう?円盤売れそう?」
「売れるワケねーだろ……!あんな出来でアニメを名乗るとか舐めてんのかよ……っ!」
「……まごう事なきクソアニメ」
「つまらなかったです!以上!」
「えぇーしょんぼり、せめて努力くらいは認めて欲しいんだけどなぁ……」
「努力してもそれが叶うとは限らないのだよ。美しくないのだから仕方ないだろう?」

飛田君を筆頭に、手作りアニメボロカスに貶されてしょげるモノクマ。つまらないんだから仕方ないね

「で?この際どうやって拐ったかは聞かねえ。何が目的だ?」
「そうでござる!拙者ら超高校級の生徒をかき集めて、何をするつもりでござるか?」
「これだけ大人数。そして知名度のある人間ばかりを集める目的……興味があるナ」
「目的?ボクの目的はただ一つ!」





「オマエラには、コロシアイをしてもらいます!」





38 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:40:30.91 ID:ajbDX1DiO

……今、モノクマは何て言ったの?
コロシアイ?それって、この中の誰かが誰かを……

「ふ……ふざけないでっ!貴方の本当の目的はなんなの!?」
「あのさぁ……今言ったよね?オマエラにコロシアイをしてもらう事だよ。一度言った事を二回言うのは嫌いなんだよね」
「そそそ、そもそも!いきなり集められても人を殺せなんて出来っこないよ!!」
「頑張れ頑張れ出来る出来る絶対に出来る気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこで諦めんなって積極的にポジティブに頑張れ!」
「根性論!?」

月神さんの怒りに冷たい返答を、御影君の困惑には無理矢理な位熱く答えたモノクマ。その歪さは二つに別れたシロとクロの様で……

「……付き合っていられないナ。ワタシはもう帰るとしよウ」
「か、帰るって……どないする気や?」
「何もここは牢獄という訳ではなイ。モニターの位置が本来窓ならば、モニターを叩き割れば外にも出られるだろうヨ」
「そんな事をせずとも、手っ取り早い方法がある」

デイビット君の純物理的な手段を切り捨てた陰陽寺さん。つかつかとモノクマの前へと進んでいくと…

「え?何々?キスしてくれるの?駄目だよ……キスしたヌイグルミはちゃんと買い取らないと……」

モノクマが話している途中で、パァンと何かが破裂した
陰陽寺さんがその竹刀で、目の前のモノクマを叩き伏せたんだ……!

「消えたか。出てこい。どうせ替え位あるだろう」
「……まさかと思うっすけど、今から残機を片っ端から叩き潰していくんすか?」
「そうだが」
「とんでもないゴリ押し手段でござったーー!?」

デイビット君を上回る物理的な手段を容易く敢行した陰陽寺さん。その読みは当たったらしく、奥の檀からモノクマが再登場してきた

「ちょっと!いきなり何するのさ!人が話している時は、何と言うか救われてないと……」
「黙れ。人でなしの化け物風情が言葉を話すな」
「……あ、そう。まあ丁度いいかな。現実を分からせる為にねっ!」



「出でよ!エグイサル戦闘モード!!」


39 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:42:28.86 ID:ajbDX1DiO


『ガシャン!』


「ヒッ……!?う、うああああああっ!?!?」
「何だありゃあ……ロボット……か……?」
「ロボットなんてロケットパンチしか能の無い鉄屑と一緒にしないでください!これはエグイサル。伝説上の生き物がモデルの戦闘兵器さ!」
「……伝説って?」
「ああ!それってエグイサル?」

突然、何処からともなく巨大な機械が落ちてきた
それはテレビアニメでよく見る有名な機動戦士や、ゲームでも出てくるゴーレムみたいなもので……
決定的に違うのは、手に当たる部分には巨大な機関銃が取り付けられているという事だった

「えーそれではただ今よりエグイサルのお披露目も兼ねた試射会を開始したいと思いまーす!」
「ちょちょちょちょっと待ってよ!?あんなんに狙われたら陰陽寺さんでもひとたまりも無いよ!?」
「ま、待って!お願い!謝るから、謝るから陰陽寺さんを許してあげて頂戴……!」

「いやぁ月神さんはいい人だねぇ。許したらコロシアイしてくれる?」
「それは……っ」

「ふ、不可能だッ!人殺し等美しい訳が無いッ!」
「コロシアイなんて、自分達には無理っすよ!」
「まやっちを殺すなんてダメだよ!りぼんちゃんが代わりになるから許してよ!」
「成る程、その手があったか……」
「だ、が、断る!ぶっちゃけ誰が相手でもいいんだけれどね。うぷぷぷぷ」
「ま、待て!まだ話は終わって……!」
「ええいしつこーい!そろそろ殺るとしますか!」
「それでは試射会を始めまーす!良い子は部屋を明るくして近づきすぎない様に見てくださーい!」
「っ!」

「陰陽寺さん、逃げてーっ!」
「消えてなくなれーーーっ!!」



精一杯の応援。それでも声は届かなくて
思わず耳と目を塞ぐ。最後に見えたのは竹刀を構えて身体を強ばらせる陰陽寺さん
閉じた世界の奥では、規則的な稼働音と、眩い閃光が瞬いていた

40 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:43:50.25 ID:ajbDX1DiO

……どのくらい時間が経ったんだろう
一分にも満たない気がするし、もう何時間も目を閉じていた気もする
耳も塞いでいるから、周りがどうなったのかも、皆がどうなったのかも理解できない

「あ、あああ……!」
「ヒデェなこいつは……ズタズタだぜ……」
「う、嘘、嘘……!」

恐る恐る目を開くと、そこは地獄だった
体育館の床は捲れ上がる程に吹き飛ばされ、空洞がはっきりと確認できる
その犯人であるエグイサルの腕からは、幾つの弾丸を使ったのだろう。今もなお煙が燻っていた
そして、標的にされた陰陽寺さんの姿は……既に、どこにも無かった

「オゥマイガーッド……ジェノサイド……」
「ぶひゃひゃひゃひゃっ!これがボクの自慢のエグイサル殺戮モードだよ!」
「……あの」
「これだけの兵器を個人で所有出来る筈がなイ。裏にはどんな組織がついているのカ……」
「……途方もない組織力。並大抵の人間や企業では不可能なはず」
「……あのっ」
「あ、が、な、なんで、なんでこんな事になってんだよ……っ!?」
「こんなん、ありえへんやろ……!」
「あのっ!」
「さっきから何だよスグルクン!今大変な事に…」


「あのっ!臓腑屋さんはどこですかっ!」


41 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:45:01.65 ID:ajbDX1DiO

「……………………ふん」
「あ、危ない所でござった……!」
「え!?陰陽寺さんと臓腑屋さん!?どこ!?」
「ここにござる!とうっ!」

突然、天井から陰陽寺さんを背負って飛び降りてくる臓腑屋さん
すたりと着地する臓腑屋さんからは、重力の抵抗を一切感じる事は無かった

「まさか、あの一瞬で陰陽寺さんを背負って天井に飛び乗ったの!?」
「そうでござる。一か八かでござったが……」
「僕は助けてくれとは一言も頼んでいないがな」
「もう、そんな事言わんとき!助かったんなら御の字やろ!」
「良かった……!陰陽寺さんが生きていてくれて、本当に良かった……!」
「ふん」
「でも、流石は忍者だよね!あの一瞬であれだけ軽い身のこなしが出来るなんてさ!」
「だ、か、ら!拙者は忍者ではないのでござる!」

間一髪。陰陽寺さんを殺させる事は防がれた。当の本人……本クマ?は、ぷりぷりと小さな身体を揺らして抗議する

「ちょっとちょっとー!何してくれんのさ!!」
「それはこっちの台詞でござる!いきなりガトリングガンをぶっぱなすとか正気でござるか!?」
「うぷぷ……っ!狂気の沙汰ほど面白い……っ!」
「……全く面白くないのだけれど」
「まあ、これでわかったでしょ?ボクがその気になればオマエラなんてイチコロって事にさ!」
「今度は邪魔なんて入らせないよ。絶対に、確実に逃げられない様に処刑してあげるからね」
「っ……」

モノクマの声色が冷たくなる。きっとこれを操っている人は、本当に躊躇い無く私達を殺す……!

「この、バケモンが……」
「クマだからね!それじゃあこれにて入学式を閉会しまーす!」
「オマエラ、良いコロシアイライフを〜!」

ケタケタと笑いながら舞台の裏に消えるモノクマ
シロとクロのクマが去った後には、先程の狂騒が嘘の様な静けさしか残っていない

42 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:46:11.89 ID:ajbDX1DiO

「ちょ……ちょっと待てよ!?ボクらはまだ納得なんてしてないぞ!?」

「何シカト決めこんでんねんこのクマ!はよ出てきて説明し直せぇや!」

「なおっち、ゆめっち!怒らないでよーっ!」

「いきなり集められ、殺し合わせるとはナ……理解が出来ないのも無理は無いカ」

「あは、デイビット君は落ち着いているねぇ」

「朝日殿はのんびりし過ぎでござるよ!?」

「こ、こんなもの……美しくないじゃないかッ!」

「畜生が……どうなってやがる?」

「わからないわ……返事をしなさい!モノクマ!」





混乱、怒号、焦燥、制止、懇願

そのどれにも、何の返答も寄越さないモノクマ

様々な感情が入り交じるこの混沌の中、私の頭は妙に冴えていた

……ここまでが、今までの日常の終幕で

ここからが……未知の世界のオープニングだって

虚無の返信が木霊する。悪意と疑念が渦巻く、漫画やアニメが嘘の様な世界で

43 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:47:11.20 ID:ajbDX1DiO









【PROLOGUE】
  Re:Re:Re 【END】











 
44 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:48:24.21 ID:ajbDX1DiO
【彩海学園 生徒名簿】
【女子】
※身長や胸囲はフィーリングなのでおかしい部分は目を瞑ってください


【名前】瀬川 千早希(セガワ チサキ)
【才能】超高校級のコスプレイヤー
【身長】167cm
【胸囲】87cm
【好きなもの】クレープ
【嫌いなもの】カメラ

【名前】天地 りぼん(アマチ −−)
【才能】超高校級の家庭教師
【身長】154cm
【胸囲】64cm
【好きなもの】プラネタリウム
【嫌いなもの】宝くじ

【名前】御伽 月乃(オトギ ツキノ)
【才能】超高校級の童話作家
【身長】165cm
【胸囲】95cm
【好きなもの】雲
【嫌いなもの】尖ったもの

【名前】陰陽寺 魔矢(オンミョウジ マヤ)
【才能】超高校級のヒーロー
【身長】160cm
【胸囲】71cm
【好きなもの】竹刀
【嫌いなもの】ハムスター


45 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:49:10.85 ID:ajbDX1DiO

【名前】古河 ゆめみ(コガ −−)
【才能】超高校級のスタイリスト
【身長】170cm
【胸囲】84cm
【好きなもの】流行りもの
【嫌いなもの】水たまり

【名前】臓腑屋 凛々(ゾウフヤ リリ)
【才能】超高校級の家事代行
【身長】163cm
【胸囲】74cm
【好きなもの】干したての布団
【嫌いなもの】火事

【名前】月神 梓(ツキガミ アズサ)
【才能】超高校級のアイドル
【身長】168cm
【胸囲】82cm
【好きなもの】ぬいぐるみ
【嫌いなもの】パクチー

【名前】照星 夕(テルホシ ユウ)
【才能】超高校級の柔道家
【身長】158cm
【胸囲】92cm
【好きなもの】マット運動
【嫌いなもの】避難訓練

46 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:50:04.14 ID:ajbDX1DiO

【男子】


【名前】御伽 朝日(オトギ アサヒ)
【才能】超高校級のショコラティエ
【身長】170cm
【胸囲】76cm
【好きなもの】ハートマーク
【嫌いなもの】猫

【名前】駆村 沖人(カケムラ オキト)
【才能】超高校級の地域振興委員
【身長】187cm
【好きなもの】時雄島
【嫌いなもの】嵐

【名前】神威 スグル(カムイ −−)
【才能】超高校級の???
【身長】160cm
【好きなもの】マカロン
【嫌いなもの】抹茶ラテ

【名前】竹田 紅重(タケダ ベニシゲ)
【才能】超高校級の玩具屋
【身長】196cm
【好きなもの】狩猟
【嫌いなもの】ハイテクノロジー

47 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:50:50.01 ID:ajbDX1DiO

【名前】吊井座 小牧(ツルイザ コマキ)
【才能】超高校級のイラストレーター
【身長】176cm
【好きなもの】日陰
【嫌いなもの】〆切間近

【名前】デイビット・クルーガー
【才能】超高校級のプロファイラー
【身長】184cm
【好きなもの】統計学
【嫌いなもの】イエダニ

【名前】飛田 弾(トビタ ハズム)
【才能】超高校級のダンサー
【身長】190cm
【好きなもの】美しいもの
【嫌いなもの】もんじゃ焼き

【名前】御影 直斗(ミカゲ ナオト)
【才能】超高校級の幸運
【身長】168cm
【好きなもの】醤油ラーメン
【嫌いなもの】ピーマン

48 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/04(日) 22:52:04.09 ID:ajbDX1DiO
プロローグ終了です
プロローグはどこで再開してもいいよう地の文がメインでしたが、次回からは通常の台本形式に戻します
49 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:38:24.02 ID:pbv3TYAMO

「どうするつもりだ」

混乱に溢れた体育館。この混沌にトドメを刺したのは、またしても陰陽寺さん

呆れたような無表情をピクリとも動かさず、私達に核心を突く問いを切り込んだ

陰陽寺「奴の言う通り、コロシアイに乗るつもりはあるのか。これからどう行動する気だ?」

御影「ど、どう行動するかって……知らないよ!」

古河「せや!こんなアホ臭い事やってられんわ!」

竹田「あー……ドッキリの可能性はねーのか?」

デイビット「それは無イ。臓腑屋女史が助けなけれバ、陰陽寺女史は蜂の巣になっていただろうナ」

朝日「でもでもぉ、臓腑屋さんがぁ、番組の仕込みなら大丈夫だと思うんだけどなぁ」

臓腑屋「違うでござるよ!?陰陽寺殿を助けたのは純粋な善意でござるからね!?」

駆村「そもそも、助けに向かって失敗していたら、臓腑屋まで死んでいたんだぞ?」

口々に意見を話始める皆。これじゃあ落ち着いて考えられない……

飛田「そ、そもそもここは何処なのかね!オレは今何処にいるのかね!」

月神「それは……わからないわ。とにかく一度、あの教室に戻りましょう」

月神さんの一言で騒ぎが収まっていく。とにかくここは戦術的撤退で話が纏まったみたいだ

何人かが体育館の扉に手を掛けたその時……

『テッテレーン♪』

”ソレ”は流れ始めた

50 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:39:29.76 ID:pbv3TYAMO


〜〜〜♪

『よい子の皆ー!ココロオドルTVの時間だよー!』

『学園長先生のありがたいお話、個性的でキラキラした級友……』

『これぞ青春!って感じだよね!皆は話をちゃんと聞いてた?ちなみに私は寝てたけど』

『そんなキラキラした雰囲気に冷水をぶっかけるのが俺達のスタンスだ。理解してくれ』

『さて、いい機会だ。俺達も名乗り直すとしよう』

ハルカ『私はアシタバ・ハルカだよ!この番組のメインMCを務めていまーす!』
ヨウ『ミトドケ・ヨウだ。このボンクラのアシスタントを渋々担当している』


【MC&アシスタント】
  アシタバ・ハルカ&ミトドケ・ヨウ


ヨウ『本題に入るぞ。ますばこの番組の目的だ』

ハルカ『この番組の最大の目的!それは、この彩海学園での共同生活をサポートする事!』

ハルカ『それが、代わり映えさない毎日のマンネリ打破の為のミッション!これをこなしていく事で、皆の仲も深まる……はず!』

ヨウ『そういう事だ。早速今回のミッションを発表させてもらうぞ』

ハルカ『今回のミッションは……”探索する”!』

ヨウ『これから過ごす場所になる。せめてどこに何があるかくらいは把握しておけ』

ヨウ『ついでに、このモニターの裏にオマエラ用の電子生徒手帳を用意した。名前入りの封筒に入っているから間違う事はないだろう』

ハルカ『手帳には校則も書かれているから注意してね!確認してから探索しよう!』

ハルカ『これから、皆の彩り豊かな未来が始まるんだね……。1から、いいや0から!』

ヨウ『まあ、なんだ。心機一転。今までの事は忘れてここでの生活を楽しんでくれ』

ハルカ『それじゃあ本日はここまで!番組の合言葉で締め括るよー!』

『『鮮やかな!!』』

『遥かな明日を!』『見届けよう!』

ハルカ『バイバーイ!』

51 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:40:53.47 ID:pbv3TYAMO










【Chapter1】
  イロドリミライ










52 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:42:00.18 ID:pbv3TYAMO

「「……………………」」

瀬川「……え、えーと」

瀬川「探索、する?」

とりあえず。思い付いた案を口にしてみる

あのアニメの言う事に従うのは癪だけど、この学園に何があるのか調べるのはいい事だと思う

おずおずと問いかける私に、虚を突かれた様な顔を見せる皆。……また私、何かやっちゃいました?

スグル「そう、ですね……僕は賛成です」

古河「せやな。ここがどこかもわからへんけど、何があるかは知っといた方がええやろ!」

天地「よーし!そうと決まれば探索探さ……」

デイビット「待ちたまエ。忘れている物があル」

走り出そうとする天地さんをデイビット君が押し留める。そう言えば、何か言ってたっけ……

照星「んっ?忘れ物ってなんっすか?」

デイビット「電子生徒手帳なる物ダ。どうやらあのモニターの裏にあるそうだガ……」

吊井座「め、面倒臭え……後ででもいいだろ……」

駆村「そうはいかないだろう。郷に行っては郷に習え。ここでのルールは把握しておくべきだ」

月乃「……なら、私が取りに行く。全員分ここに運べばいい?」

瀬川「っ!わ、私が行くよ!」

月乃「…………そう?」

ぽかんとする月乃さんを押し退けて、一目散にモニターの裏側へ回る

段ボールに無造作に突っ込まれた幾つもの封筒。私達の探し物は予想していたより質素だった

53 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:42:51.39 ID:pbv3TYAMO

段ボールを開くと、私の本名が書かれた封筒を手に取る

直ぐ様封筒を破いて、残骸はポケットに突っ込む。中身は薄型のタブレットだ

タブレットの電源を起動させると…そこには、間違いない。紛れもない私の本名が書かれていた

吊井座「お、おい……どうなんだよ?それ……」

瀬川「きゃっ!?ちょ、何するの!?」

吊井座「ヒィッ!?たたた、ただそのタブレットはお前のか聞いただけだろ……!?」

飛田「全く、美しくない。レディに対して背後から近寄るのは痴漢と相場が決まっている!」

月乃「……今回は、吊井座が悪い」

天地「はいはーい!これが皆さんの電子生徒手帳みたいでーす!一列に並んで!ぴしっと!」

臓腑屋「そう張り切らずとも、一人一人に手渡ししていけば良いでござろうに……」

陰陽寺「……………………」

臓腑屋「……陰陽寺殿?もしや並んでいるのでござるか!?」

月神「うふふっ、何だか握手会を思い出すわね。こうして並ぶのは新鮮な気分……」

竹田「ま、並んだ方が短くてええわな。んじゃまあさくっと確認しておくぜ」

竹田さんの主導の元、体育館にイベント待ちの列が出来る

吊井座「な、なんだよ。ったく……」

……どうやら、私のプライバシーは守られた様だ

全員に手帳が行き渡った事を確認すると、私も手帳を操作して校則と書かれた部分をタッチした

54 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:43:41.87 ID:pbv3TYAMO

『〜彩海学園 校則〜

彩海学園での共同生活に期限はありません

学園内で殺人が起きた場合、全員参加による学級裁判が行われます

学級裁判で正しいクロが指摘できれば、殺人を犯したクロだけがおしおきされます

学級裁判で正しいクロを指摘できなかった場合は、クロ以外の生徒であるシロが全員おしおきされます

クロが勝利した場合は彩海学園から卒業し、外の世界に出ることができます

夜10時から朝8時までの「夜時間」は、食堂と体育館が封鎖されます

彩海学園の学園長であるモノクマへの暴力は固く禁じられています

モノクマが殺人に関与する事はありません

「死体発見アナウンス」は3人以上の生徒が死体を発見すると流れます

彩海学園について調べるのは自由です。行動に制限は課せられません

モノクマの私物を破壊した場合は、如何なる都合であれ処罰の対象になります

なお、学園長の都合により校則は順次増えていく場合があります 』


55 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:44:42.23 ID:pbv3TYAMO

御影「お……多くない!?」

照星「むむむ、覚えきれるか不安っすね……」

デイビット「そうでも無イ。肝心な部分のみ抑えておけば支障は無いだろウ」

竹田「もし俺らん中で事が起きたらこの学級裁判っつーのでホシを見つけろってこったな」

陰陽寺「そして、おしおきか。どうせろくなものでは無いだろうな」

スグル「そう……ですよね」

天地「殺し合いなんてする訳ないし関係なーし!それよりもー、こ、こ!見てよー!」

天地「調べるのは自由で制限が無いんだって!早く行こーよー!ごーごー!」

タタタッ

駆村「あっ、おい!……行ってしまった」

朝日「えっとぉ、私達も速く行った方がいいと思うなぁ」

月神「そうね……なら、天地さんに追い付いた人は天地さんと。他の人は自由に探索しましょう」

月神「頃合いを見て私がまた集めるわ。それじゃあ解散!」

月神さんがぱちんと手を叩くと、皆はそれぞれに探索へと向かっていく

一人でいく人、グループでいく人。私はその流れを無視して、ぽつんと一人で立っていた



56 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:45:33.86 ID:pbv3TYAMO

「……あのっ」

瀬川「?」

ぼーっと天井を眺めていたら、隣から声が聞こえた

この声は、確か……

瀬川「……スグル君。だよね?」

スグル「は、はい。そうです……」

振り向いてみると、スグル君が瞳を潤ませて私の顔を除き込んでいた

綺麗な髪に透き通った肌……よく見てみたら顔立ちも結構可愛いな……

スグル「大丈夫ですか?さっきから心ここに有らずでしたけど……」

瀬川「うぇっ!?あ、ああうん!大丈夫!」

っといけないいけない。妄想の世界に浸るのは私の悪い癖だ。切り替え切り替え……

瀬川「えっと……もしかしてスグル君って一人?」

スグル「え?ええ。僕は一人で探索しようと……」

瀬川「なら良かったら私と一緒に行かない?私、君の事結構気になってるんだ」

……我ながら酷い誤魔化し方。これなんて逆ナン?

気恥ずかしい台詞を聞いたスグル君は、キョトンと目を開くと……

スグル「……はい!よろしくお願いします!」

にこっと柔らかな微笑みを向けてくれた。……きっと、こういうのを無垢って言うんだろうな

その綺麗な笑顔が、私には凄く眩しく見えて……どうしてか解らないけど、胸に変な痛みが走った

57 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:46:42.29 ID:pbv3TYAMO



瀬川「えーっと……ここが倉庫かな?」

地図を頼りに、まずは一番近い倉庫から覗いてみた

見渡す限りの物、物、物。流石にこれだけあると、逆に不便になる位の物量が制圧していた

デイビット「おヤ。スグル氏と瀬川女史かネ」

スグル「デイビットさん。今は何をしているんですか?」

デイビット「備品の確認ダ。扉の前に備品のリストがあったからナ」

そう言うデイビット君がヒラヒラと振っているのは数枚の紙。まさか全部一人で見るつもり……?

瀬川「それ、もしかして一人で……?」

デイビット「無論。……と言いたいガ、不可能ダ。それニ、ここには心強い助っ人がいる故ナ」

照星「どーんっ!元気っすか?せーんぱいっ!」

瀬川「きゃあっ!?」

スグル「わわっ、照星さん……?」

照星「いひひっ!いきなり逢い引きなんて、二人とも随分肉食っすね!」

唐突に後ろから抱きつかれる。この声と勢いは、間違いなく照星さんだろう

背中の柔らかな感触と、確かに伝わる重量感が、彼女の事を目一杯に主張していた

照星「羨ましいっすか?デイビット先輩!でも自分の胸はそう安くはないっすよ!」

デイビット「ハ、ハ、ハ。それはセクシャルハラスメントと見ても宜しいかナ?」

58 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:47:31.45 ID:pbv3TYAMO

照星「冗談っすよ……自分が走って、在庫を見てきてるんす!」

デイビット「彼女の体力は底無しダ。ワタシが一人で調べるよりも遥かに効率がいイ」

照星「下にあるのはともかく上にあるのは少し面倒っすけどね。瀬川先輩見て貰っていいっすか?」

瀬川「え、いいの?どうやって?」

照星「確か脚立があったっす。それで棚の上に何があるか見てほしいんすよ!」

瀬川「うん。わかった……」

照星さんが下で脚立を押さえている間に、手早く脚立を登って棚の上を覗く

棚の上には砲丸やら硬球やら……ボール類が箱の中に収まっているのが見えた

瀬川「うーん……砲丸は危なそうだけど、他は多分大丈夫じゃないかな?」

照星「そうっすか!あざーっす!」

カンカンと脚立を降りる。結構高さがあったから、押さえて貰わなかったら危なかったな……

照星「いやー助かったっす!色々な意味で……にひひひひっ!」

瀬川「?」

照星さんがニヤニヤと私の顔を見て笑っている。何しているんだろうと思った次の瞬間―――





照星「先輩……水玉のパンツ、可愛いっすね!」

瀬川「ふぁっ///!?!?」

59 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:48:37.73 ID:pbv3TYAMO



瀬川「はぁ、はぁ……」

スグル「だ、大丈夫ですか……?」

瀬川「……聞いた?」

スグル「え?……何をですか?」

……不毛な争いだった

『スグルんに言ってくるっす!』とのたまう照星さんを追い掛けて、体力を使い果たしてしまった

その失った体力を回復する為に来たのは……

朝日「はぁい。瀬川さんにスグルくん。いらっしゃあい」

月乃「……ここは食堂。簡単なカフェテリアになっているから座るといい」

倉庫から近い食堂だった。朝日君と月乃さんが、手にコップを持って座っている

朝日「そうそう、ココア淹れてみたんだぁ。なんだか疲れているみたいだしぃ、ちゃあんと甘いものを補給してねぇ」

適当な机に腰掛け、朝日君から渡されたココアを渇いた喉に流し込む

適度な甘さと芳醇な香りが全身を満たす。疲れた身体に染み込んでいくのを、はっきりと実感した

瀬川「はぁ……生き返る……」

朝日「はい、スグルくんにもあげるよぉ。私の愛情がたあっぷり入っているから飲んでねぇ♪」

スグル「あ、ありがとうございます……」

月乃「……次ふざけた事を言ったら辛うじて残っている男性機能を完全に潰す」

朝日「こ、怖いよぉ〜助けてぇスグルくぅん」

ああ……回復した体力がみるみる削れていく……

60 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:49:28.64 ID:pbv3TYAMO

吊井座「…………」

……あ、吊井座君いたんだ

よく見たら机にスケブがある……何か描いてるのなら見せて貰おっと

瀬川「ねぇ、何描いてるの?」

吊井座「うぉあああっ!?!?」

吊井座「お……お前かよ……驚かすなよな……!?」

瀬川「いや、そんな勢いで驚かれるとこっちも驚くんだけど……」

吊井座「べ、別に何も描いてねぇよ……描く物も特にねえしよ……」

瀬川「ふーん……」

確かに、スケブにはクルクルと丸が描かれているだけでイラストらしきものは無い

でも、せっかく超高校級のイラストレーター……神絵師がいるんだから何か描いて貰わないと勿体無いよね

瀬川「……そうだ!なら、私を描いてよ!」

吊井座「う゛え゛ぇ゛っ!?」

瀬川「大丈夫大丈夫!見られる事には慣れてるし、被写体位なんて事ないからさ!」

吊井座「い、い、いや、その……俺……」

……?どうしたんだろう。露骨に目が泳いでる

月乃「……何?絵なら私も描いて欲しい」

言い淀む吊井座君の目の前に、月乃さんがぐいっと身体を前のめりに傾ける

……余談だけれど、月乃さんの”アレ”は私達女子の中でもトップの質量を持つ豊満なものだ

たわわに実ったと表現するに相応しい”ソレ”は、今、吊井座君の目の前でずっしりと重々しく揺れていて……

吊井座「※X○☆∀〜〜〜!?!?」

バタッ

朝日「吊井座くん?あはっ、気絶してるやぁ。月乃ちゃん、何かしたぁ?」

月乃「……何もしていないのに、不思議」

ぽけっとした表情で答える月乃さんとは対称的に、顔を真っ赤にして気絶している吊井座君

……吊井座君は女の子に弱い。ちい覚えた

61 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:50:33.81 ID:pbv3TYAMO



スグル「吊井座さん。大丈夫でしょうか……」

瀬川「うーん……まあ役得だしいいんじゃない?」

駆村「いったい何があったんだ……?」

古河「どうせロクなモンやないやろ……」

ぶっ倒れた吊井座君は御伽兄妹に任せておいて、私達は探索を続ける事にした

今、私達がいるのは図書室。幾つもの本が置かれている蔵書庫だ

御影「あっ瀬川さんにスグルクン!ここ漫画とか結構置いてあるよ!」

瀬川「ちょ、それあの人気漫画『頭の中に爆弾』の最新刊!?私にも読ませて!」

御影「えっ!?今ボクが読んでいるから読み終わるまで待っててよ!」

スグル「その漫画、好きなんですか?」

瀬川「ううん。流行ってるから見ておきたいだけ」

スグル「そ、そうですか……」

御影「なら後でいいよね?今いいとこだから……」

古河「貸したれや!お前のモンやないやろ!」

御影「先に読んでたのはボクだよ!?」

そう言うと、また漫画を読み始める御影君。私の方が有効に活用出来るのに……

駆村「……瀬川は、漫画が好きなのか?」

駆村「この奥にあるAVルームには色々なアニメのディスクがあったぞ。もし良ければ……」

瀬川「えっマジ!?早く行こ!スグル君!」

スグル「えっ?あ、はい!」

タタタッ

駆村「あ、おい!……行ってしまった。月神もいるからなと言いそびれたが……まあいいだろ」

62 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:51:36.07 ID:pbv3TYAMO

瀬川「アニメ、アニメっ!」

スグル「あはは……瀬川さんはアニメが好きなんですね」

瀬川「そうだよ!一緒のアニメを見たら、すぐに仲良くなれるんだもん!」

スグル「へえ……そうなんですか?」

そうだよ。と胸を張って返答する

不思議そうな顔をしてるけれど、アニメは魔法みたいなものなんだよ?

私も、生まれて初めての友達はアニメが切っ掛けで仲良くなったんだし……

それから、漫画やラノベみたいなサブカルチャーにどっぷりハマって……

今こうしてコスプレを始めた切っ掛けも……

スグル「……あの、瀬川さん?」

瀬川「うぇっ!?ご、ゴメン!ぼーっとしてた!」

またぼーっとしてた……そう言えば、あの子は今、何をしているんだろう

ここから出る理由が一つ増えたけど、今はアニメを優先だ

まずは何のジャンルにしよう?ここは無難に日常モノで―――



月神「……あら?瀬川さんにスグル君、いらっしゃい」

63 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:52:26.90 ID:pbv3TYAMO

瀬川「あっ……月神さん……」

月神「二人ともここを調べに来たの?残念だけど、ここには手がかりは無いみたい」

スグル「そ、そんな事無いですよ!きっと、いつかは見つかるはずです!」

月神「ふふ、励ましてくれるのね。ありがとう」

月神「そうそう、ここには色々な音楽のディスクがあるの。気分転換に一曲聴いてみたらどうかしら」

スグル「あ、ありがとうございます……えっと、どれにしようかな……」

月神「スグル君、普段は音楽聴かないのね」

スグル「はい……あまり縁がなくて」

月神「なら、この曲はどうかしら?リズムも落ち着いているし歌詞も好きなの。はい」

スグル「えっと……そのヒモはなんですか?」

月神「イヤホンよ……知らないの?」

スグル「え、えっと……はい……」

月神「へぇ……今時珍しいわね。これで音楽を集中して聴けるのよ」

スグル「あ、ありがとうございます!」

月神「ふふ、どういたしまして!」





瀬川「………………………………」

…………はぁ、ツマラナイ。何のためにここに来たんだろう?

64 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:54:17.66 ID:pbv3TYAMO

スグル「えっと、それじゃ早速……」

天地「どーん!突撃ーっ!」バーンッ

瀬川「うわぁ!?」

イヤホンを耳につけて、いざ音楽を流そうとしたのを遮って天地さんが割り込んだ

そう言えば、何人か一回も会わなかったけど……その人達はどこにいたの?

天地「皆来てよ!外の景色スッゴいよ!」

瀬川「えっ……外に出られるの!?」

天地「あ……ううん。ちょっと違うかなー」

私が外に出られるのか。と聞くと、途端に顔色を曇らせる

けど、それも一瞬。天地さんはさっきの調子でニコニコと微笑んでいた

天地「……でも!きっとちさっちやあずにゃんも見ればきっと解ってくれる……はず!」

月神「あ、あずにゃん?」

天地「それいけー!俺達がビッグニュースだー!」

スグル「あっ!?…今は後を追いかけましょう!」

月神「そうね……!行きましょう。瀬川さん!」

瀬川「……あ、うん」

台風の様にやってきて、台風の様に出ていった天地さんを追っていく

……なんだかよくわからないけど、少しだけ面白くはなったかな

65 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:55:16.34 ID:pbv3TYAMO



天地「やっほー!まやっちごっめーん!」

陰陽寺「ふん」

月神「陰陽寺さんも一緒だったのね……」

瀬川「……あれ?臓腑屋さんと竹田さんは?」

確か、その二人とも一度も会ってないけど……

陰陽寺「知るか。どうせ外でへたっているだろう」

スグル「……竹田さんが動けなくなったから臓腑屋さんが介護しているんですね」

天地「でねでねー!今からりぼんちゃんが皆呼んでくるからまやっちが案内してくれるって!」

瀬川「え……陰陽寺さんが?」

月神「ありがとう、陰陽寺さん。嬉しいわ」

陰陽寺「さっさといくぞ」

そっけない返事で切り返される。つかつかと扉の前へ歩いていくと、無造作にノブを回した

陰陽寺「これが外だ。さっさと見てこい」

扉を開く。外からの光で、目眩がした気がした

66 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:55:58.80 ID:pbv3TYAMO



瀬川「…………え?」

スグル「うわぁ……!」

月神「凄い……こんなに、私……初めて……」

唖然とする月神さんに同意する

目の前に広がる光景に、思わず心と目を奪われる

瀬川「……花畑?」

学園の外に広がっていたのは、花だった

それも、一つだけとか一種類だけとかそんなチャチなもんじゃない

赤、橙、黄、緑、青、紺、紫。青空の光に照らされ輝く、まさしく虹の極彩色の花園だったんだ

でも、そんな心が洗われるような景色を異様なものにしていたのは……

月神「あの壁……まるでこの学園を取り囲んでいるみたい……」

スグル「あの高さじゃ誰も登れませんね…」

そう。この学園から円を描く様に延びている壁

まるで私達を逃さないかの様に、脱出を阻むかの様な悪意に満ちた高さと配置

美しい景色に、ドス黒い悪意。ここは、そんなアンバランスな世界だったんだ

67 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:56:40.64 ID:pbv3TYAMO

竹田「よう。来たみてえだな……おっと」ガクッ

臓腑屋「竹田殿、無理はなさらぬ方が良いでござるよ……足腰がガタガタでござろう」

竹田「ケッ、これしきの事で……ぐっ!」

スグル「竹田さん!?何があったんですか!?」

竹田「し、心配するな……このくれぇでくたばる様じゃ商社を引っ張れねえんだよ……」

瀬川「ほ、本当に何があったんですか!?」

臓腑屋「安心されよ。竹田殿はただ階段を踏み外して足を捻っただけでござるよ」

竹田「くそっ、後十年若けりゃあな……」

……ただの年のかい!

68 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:57:20.17 ID:pbv3TYAMO

御影「うわぁ!?何だこれ!?」

飛田「foo……うつくしい……」

月乃「……綺麗な花園」

デイビット「フーム……あの壁を攻略する手立てが無い以上自力での脱出は困難だナ」

月神「……皆も来たみたいね」

天地「全員集合!それで、これからどうする?」

吊井座「ど、ど、どうするって……」

月神「そうね……ここは好きに探索してみたらいいと思うわ」

月神「いきなりこんな事になって皆も混乱しているだろうし……」

デイビット「それに賛成しよウ……嗚呼、夜時間前に食堂に集まって貰おうカ」

瀬川「えっと、他に何か決める事は……」

陰陽寺「もういいだろう。僕はいくぞ」

古河「あ、待てや!ああもう!お高く止まりおってアイツ、ホンマムカつくわ!」

吊井座「お、おっかねえよ……どっちも……」

古河「なんやて!?」

吊井座「ヒイッ!?」

……どうやら、今から自由に行動してもいいらしい

特にやる事は無いけれど……どうしよっかな?

69 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:58:08.05 ID:pbv3TYAMO



と、言ってもやる事ないなぁ……

花畑でも散歩してよ。暇だしね

照星「くんくん……」

瀬川「って照星さん!?」

首筋に吐息がかかる。振り向くとしなやかな少女が私の後ろで匂いを嗅いでいた

瀬川「な……何?花の匂いでも嗅いでるの?」

照星「んー……先輩、何か匂うっす!」

瀬川「えっ、ウソ!?もしかして汗臭い!?」

さっき走り回ったから……?うわぁ、最悪……!

照星「うーん、そうじゃなくてなんか、甘い匂いがするっす!」

瀬川「へ?」

朝日「あはっ、それ、ココアじゃないかなぁ?」

瀬川「きゃっ!?」

花畑の中から朝日君がやってくる。手には花を幾つか摘んでいた

朝日「えへへぇ、チョコの香り付けにいいかなって思って少し摘んじゃったぁ」

朝日「今日、夜に皆で集まるでしょお?その時に何か出そうと思ってるんだぁ」

照星「楽しみっす!夜に皆と乱こ……いひひっ!」

瀬川「言わせないからね!?」

……仲良くなれた。のかなぁ?

70 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/10(土) 21:58:52.68 ID:pbv3TYAMO
探索編終了
次回は夕食会です
71 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/12(月) 21:57:29.44 ID:KynyB89NO

キーンコーンカーンコーン

瀬川「あ……もうこんな時間」

適当にほっつき歩いていたら、既に時計は夜時間を指していた

食堂で皆待ってるはずだし早く行こう。イベントは遅刻厳禁だもんね


瀬川「……もう皆集まってるかなぁ」



瀬川「ごめーん。遅れ……」

臓腑屋「にゃああぅ!?落ち着くでござるよ月乃殿!?」

月乃「……止めないで。これは必要な事」

古河「アカンアカン!誰かこっち来てえなー!」

スグル「は、はい!朝日さん、大丈夫……」

朝日「あはぁ、スグルくぅん。怖かったよぉ」

臓腑屋「火に油でござったーーー!?」

飛田「……我慢出来ぬ!オレを見ろぉぉぉ!!」

月神「きゃあああ!!」

駆村「うおっ!?いきなり服を脱ぐな!」

陰陽寺「はっ」スパーンッ

飛田「ガッ……ガッ、デ、ム……」バタッ

月神「あ……ありが、と……?」

……現在、食堂は大惨事でした

月乃さんが朝日君の髪を引っ張って引きずろうとしているのを止めたり、飛田君を陰陽寺さんがシバき倒してたり……

……なんか、もう既に帰りたい

72 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/12(月) 21:58:33.08 ID:KynyB89NO

デイビット「ハ、ハ、ハ。戯れはそこまでにしておきたまエ」

天地「お料理持ってきたよー!りりっちとあさっちとおきっちに手伝って貰ったんだー!」

天地「だから皆!三人には特に感謝して食べてください!きりっ」

吊井座「は……?え、誰の事だよ……」

確かに誰の事なんだろう…えっと、確か、私の事はちさっち?だったよね?

月神「えっと、臓腑屋さんに朝日君、駆村君ね」

月神「皆を代表してお礼を言わせてもらうわ……ありがとう」

臓腑屋「や、忝ない。拙者は拙者の為すべき事をしただけにござるよ」

朝日「えへっ、なんだかくすぐったいなぁ」

駆村「俺は本当にただ見ていただけだがな……だけどありがたく受け取ろう」

わかったんだ……

御影「ね、ねえ!そろそろ食べてもいいよね!?」

天地「駄目です」

御影「何でさ!?」

天地「ちゃんといただきますってしてから!はい、皆手を合わせてー!」

「「いただきまーす!」」




陰陽寺「………………………………」


73 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/12(月) 21:59:28.80 ID:KynyB89NO

古河「おぉ!ウチ好きなんよ!だし巻き卵!」

臓腑屋「それは何よりでござる!今回は好き嫌いが少ない物を選んだのでござるよ」

竹田「いやー胃に優しいモンが多くて助かるねぇ。俺みてぇな年寄りには和食が合うぜ」

臓腑屋「先に言っておくでござるが、拙者は和食しか作れない訳では無いでござるからな!」

御影「言ってないよ!?」



飛田「…………皿が地味だ。ここにオーロラソースでもかけてみるか!?」

駆村「止めてくれ!全員の皿にそんなものをかけたら味が滅茶苦茶になるだろう!?」

飛田「味などどうでもよい!美しくなければ、それは失敗なのだよ!!」

照星「ちょ、マジなんすか!?こうなったら自分の夜の極め技四十八手で……」

朝日「はい。飛田くんあ〜ん」

飛田「あ〜ん……むがぐっ」

朝日「甘ぁい甘ぁいチョコだよぉ。お口の中でゆっくり融かして食べてねぇ」

駆村「……大人しくなったか?」

照星「戦わずして勝つ……これぞ柔よく剛を制す。なんすかね?」

74 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/12(月) 22:00:48.84 ID:KynyB89NO

瀬川「えっと、スグル君は……あ、いた」

スグル「……大丈夫でしたか?吊井座さん」

吊井座「あ、ああ。なんとか、な……」

月乃「……急に倒れて心臓に悪い。低血圧?」

吊井座「そ、そ、それも、あるけどよ……」

月乃「……?」

スグル「もしかして、女の人が苦手なんですか?」

吊井座「あ、ああ……」

瀬川「なーんだ!それならそうって言ってくれればいいのに!」

ガシッ

吊井座「おああああ!?!?」バターンッ

月神「きゃっ!どうしたの!?吊井座君!?」

瀬川「え、えーっと、これはその……」

月乃「……あんまり気にしなくていいと思う」

スグル「でも、放っておく訳には……僕が吊井座さんを見ているので、皆さんはお食事をどうぞ」

瀬川「え……あー、うん……」

倒れた吊井座君を安静な体勢にして、近くに座る

この中では一番話しやすい子だし、一緒に食べたいと思ってたんだけどな……
75 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/12(月) 22:01:36.08 ID:KynyB89NO

月神「……はい。二人ともどうぞ」

瀬川「あ、ありがと」

月乃「……どういたしまして」

近くのテーブルから、幾つかの料理を運んでくれた月神さん。にこりと笑う姿は、とても輝いていた

因みに、さっきの騒ぎは皆気にしていないみたい。今も、御影君と古河さんが何か喧嘩してるし……



御影「だから、目玉焼きには醤油だろ!?」

古河「何言うとんねん!ソースに決まっとるわ!」

臓腑屋「統一する訳ではござらんし、別にどうでもよいのでは……?」

竹田「わかってねえなあ。漢にはな、譲れねえ一番勝負ってのがあるモンさ」

天地「先生ストーップ!喧嘩するなら、二人の目玉焼きにはケチャップかけちゃいます!」

御影、古河「「それは無いだろ(やろ)!?」」



月乃「……騒がしい人達」

瀬川「あはは……アクが強いよね」

月神「でも、皆いい人よ?なんとなくだけど、私達はきっといい友達になれる」

月神「私はそう思っているの。瀬川さんに、月乃さん。これからもよろしくね」

グラスを傾けて微かに笑う。これは…乾杯って事?

月乃「……ん、兄はともかく、私も良好な関係を築きたいとは思っている」

瀬川「……私もだよ」

それに合わせる様に二人でグラスを重ね合わせる。約束の乾杯は、私の予想以上に軽い音がした

月神「それじゃ、乾杯。これからの私達の―――」





デイビット「……でハ、本題に入らせて頂こウ」


76 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/12(月) 22:02:46.72 ID:KynyB89NO

デイビット君が厳かに切り出す

決して大きな声では無いはずなのに、不思議と皆が静まり返った

デイビット「さテ、我々は今極めて異常な状況下に置かれている事は承知だろウ」

デイビット「でハ、その上で現在の我々に必要なものは何カ?それは秩序ある統率ダ」

デイビット「その事を留意した上で提案ダ。今後、我々の中で行動を纏めるリーダーを選出したイ」

リーダーの選出……つまり、今から私達のリーダーを決めたいって事?

古河「そんなん。オマエがやればええやろ!」

デイビット「無論、ワタシもその役割を担うつもりではあル。しかシ、単独でのリーダーは独裁となる危険もある故ニ」

竹田「一理あるな。いつ上がくたばってもいい様に指揮権限は複数に分割するべきだぜ」

御影「た、竹田さんはボク達が殺し合いをするって言いたいんですか!?」

竹田「そうじゃねえよ。あくまで一般論のつもりで言ったんだけどな」

デイビット「ご理解頂き感謝すル。でハ、我こそはという者はいないのかネ?」

デイビット「自薦、他薦は問わなイ。必要なのは責任感だからナ」

77 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/12(月) 22:03:41.46 ID:KynyB89NO

照星「はいはーい!天地先輩はどうっすか?」

天地「指名ありがとーっ!でもりぼんちゃんは先生なので辞退します!面倒だからじゃないよ」

朝日「本当かなぁ?」

駆村「竹田さんはどうだ?最年長だし、社長なんでしょう?」

竹田「別に俺は構わねぇけどよ。オメェらは年上に素直に従う様なタマじゃねえだろ」

月乃「……否定はしない」

御影「ならボクが!」

飛田「いや……ここは最も美しきオレこそが……」

古河「オマエらはダメや!拗れるやろ!」

御影「そんなー!」





…リーダー決めは難航中。推薦されては辞退され、立候補すれば返り討ち

終わりの見えない喧騒の中、私の心には、ある欲望が芽生えていた

もし、私が……私が、皆のリーダーになったら?


78 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/12(月) 22:04:24.57 ID:KynyB89NO

もし、私がリーダーになったら……



きっと、皆とはもっともっと仲良くなれる



私の事を信頼してくれるし、私の事をもっと好きになってくれる



そうだ、そうだよ!今ならいける。私が皆の中心に立てる!もっと人気になれる!



瀬川「ね……ねぇ!私……!」

意を決して声を上げる。私が、私が―――っ!

79 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/12(月) 22:05:17.81 ID:KynyB89NO








「なら、私がやるわ」






80 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/12(月) 22:05:54.60 ID:KynyB89NO

瀬川「………………………………ぇ」

私と同じ……ううん。私より少し遅いタイミングで誰かが立候補した

月神「私は、皆と友達になりたい。その為に、少しでも皆の力になりたいの」

月神「きっと、こんな状況じゃなかったら、皆とはきっと友達同士になれた筈だから……」

その人は、朗々と明るい声で、振り返る程愛らしい顔で、眩しい位の夢で語る

月神「だから、私は皆と一緒にここから出たい。外の世界で、もっと仲良くなる為に!」

月神「……ダメ、かしら?」

……月神さんの問いに、誰も答えない

嫌だ。私もやりたい。その一言すら言えなかった

陰陽寺「どうでもいい」

古河「どうでもいいってお前……まあ、熱意あるんやし任せてもええやろ!」

竹田「ま、嬢ちゃんが適役だわな」

飛田「美しい……」

駆村「賛成……なんだよな?」

次々に月神さんを推していく皆。このままだと、私は……私が……

スグル「……あの、瀬川さんはどうですか?」

瀬川「え?」

月乃「……もう、全員の意見は聞いた。後は千早希だけ」

デイビット「もシ、君に異論が無いならば月神女史がリーダーとなるガ……」

……今だ。今なら言える。たった一言、それだけを

瀬川「……私は」

81 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/12(月) 22:07:01.53 ID:KynyB89NO

瀬川「……月神さんがリーダーでいいよ」

瀬川「寧ろ月神さん以外にいないって言うか、月神さんなら任せられるよ!」

デイビット「フーム、ならバ、満場一致で月神女史で決定だナ」

月神「皆…ありがとう!これからもよろしくね!」

……終わった。何事も無く、波乱も無く。リーダー決めは順当に流れていった

取り合えず今日はゆっくり休んで、またこうして集まろうという事で今日は解散となった

外にあった寄宿棟の部屋に向かう。中はシンプルなホテルの様だった

……今日は本当に色々あったなぁ。拐われたり、コロシアイとか言われたり、探索したりと忙しかった

でも、きっとなんとかなるよね?皆と友達になれたらいいな……




…………本当に?

82 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/12(月) 22:08:02.22 ID:KynyB89NO


なら、どうしてこんなに胸が苦しいんだろう

私は、どうしてこんなに悩んでいるんだろう

リーダーになれなかったから?ううん。皆が月神さんがいいって言ったんだ

なら、これは正しい事なんだ。私がリーダーになるよりも、よっぽど

でも、なら、どうして……

こんなに、胸の奥がズキズキするんだろう?





瀬川「……気持ち悪い」

そう呟いて、目を閉じる

胸のズキズキとは裏腹に、私の意識は、暗闇にドロドロと溶けていった

…………………………

…………

……


83 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/12(月) 22:09:20.06 ID:KynyB89NO
一日目終了です
次回からは二日目なので、少しペースアップ出来たらいいなと思います
84 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/16(金) 23:49:29.80 ID:0IKWFY9nO



……頭が重い

というか、身体全体が怠い……

「……今何時?」

グラッ

「あれ……きゃあっ!?」ドサッ

枕元に置いてある時計を見ようとして、手を伸ばしたら……身体が下に落下した

痛みで思考が覚醒し始める。そうだ、私は……

「……夢じゃなかったんだ」

いきなり拉致されて、彩海学園なる所に監禁され、コロシアイしろと言われ……

あんまりに荒唐無稽な出来事は、私の期待していた結末……夢オチじゃなかったんだね

「って、服着替えるの忘れてた……」

そうだ。昨日は物凄く疲れたから、ベッドにすぐに横になったんだっけ

おかげで服もグチャグチャ……クローゼットから、何か着替えを探さないと……

85 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/16(金) 23:50:23.41 ID:0IKWFY9nO

「……うわっ、どれも同じ」

クローゼットを開けた瞬間、思わず目にした光景を素直に口に出してみる

服を揃えるのが面倒だったのか、あるいはこのコロシアイの首謀者は余程ファッションに疎いのか……

どれも、私の着ている服と同じものしか入っていなかった。ご丁寧にパンツまで同じ柄を完備してる

「まあいっか。急いでるし、めんどいし」

手早く服を脱いで、適当な一着に手をかける。それを引き抜くと、奥に何かが仕舞ってあった

「あっ、違うのもある、の、か……」

……これは

「……同じ種類のにしよーっと」

うん。これを着るのは勇気がいる。昨日と同じものが無難だよね

軽めにシャワーを済ませて服を通す。昨日着ていた服は、備え付けの洗濯機に放り込んだ

「よし……行ってきます!」

決意を固めて、ドアを開ける。ここからは、皆の為に頑張る”瀬川千早希”になるんだから!

86 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/16(金) 23:51:18.96 ID:0IKWFY9nO



瀬川「おはよー。遅れた?」

月神「いいえ、そんな事無いわ。おはよう!」

臓腑屋「む、瀬川殿!朝食は拙者が用意しておいた故、是非食べてほしいのでござる!」

瀬川「これは……おむすび?シャケある?」

臓腑屋「シャケでござるか?ええと……多分これでござるな」

手渡されたおむすびを頬張る。うん。これは間違いなくシャケだ

周りの皆も、思い思いのおむすびを頬張って、緑茶を片手に談笑していた

……いや、一人足りない?

天地「それでは朝のご挨拶!皆揃ってるので……」

朝日「あれぇ?陰陽寺さんがいないねぇ」

飛田「な、なんと!オレとした事が可憐なる乙女を見逃していたというのか!?」

御影「えぇー?どうせ一人で一匹狼気取っててるだけでしょ?放っとこうよ」

月乃「……まだ昨日の喧嘩を引きずってると見た」

古河「ホンマちっさい男やで……」

御影「うるさいな!?関係ないからね!?」

デイビット「だガ、彼女一人の独断行動を許容すべきでは無いのも確かダ」

月神「やっぱり放っておけないわ。私、陰陽寺さんを探してくるわ!」

天地「りぼんちゃんも行くー!」

どうやら、陰陽寺さんを探しに月神さんと天地さんが寄宿棟に向かったみたい

待ってる間暇だな……誰かと話でもしてよっと

87 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/16(金) 23:52:20.90 ID:0IKWFY9nO



御影「別にいいじゃんあんな奴……何でそんな……」

スグル「御影さん……まだ怒っているんですか?」

御影「何だよその言い方!まるでボクが延々と引きずってるみたいじゃないか!」

スグル「ご、ごめんなさい……」

御影「ったく……スグルクンはさぁ、もっと言葉に気を使って話しなよ!」

御影君はまだ怒っているみたい。どうやら近くにいたスグル君に当たっているけど……

瀬川「待ってよ……八つ当たりは良くないよ?」

御影「瀬川さん!?八つ当たりじゃないよ……ボクはただスグルクンに口の聞き方を……」

瀬川「それが八つ当たりなんだってば!スグル君が泣きそうになってるじゃん!」

御影「わ、わかったよ……ゴメン、スグルクン……」

スグル「あ、いえ!大丈夫ですよ、御影さん」

よし、これで一件落着。なんて事は無かったね

……でも、泣きそうなスグル君も可愛かったなあ

御影「でも陰陽寺さんって性格悪いよねー。愛想は無いし喋らないし」

瀬川「あ、それはわかるかも」

スグル「瀬川さん……?」

……少しは仲良くなれたよね。うん

88 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/16(金) 23:53:17.01 ID:0IKWFY9nO

タタタッ

天地「やっほー!ただいまーっと!」

駆村「お、戻ってきたか」

飛田「おお!待っていたぞ!で、レディは……」

竹田「ん?嬢ちゃんの二人だけか?陰陽寺の嬢ちゃんはどうした?」

月神「それが……」

天地さんと月神さんが戻ってきた……けど、何だかあんまりいい雰囲気じゃなさそう

陰陽寺さんもいないし、何かあったのかな?

天地「実はねー……」



陰陽寺「お前達と共に行動する事に、僕には何の理由も感じない」

陰陽寺「邪魔をするなら斬り捨てる。他の奴等にもそう言っておけ」



天地「……だって!」

古河「いや、だってやないやろ!?」

吊井座「き、斬り捨てるって、どうすんだよ……」

月乃「……触らぬ神に、祟りなし」

照星「確かにそうっすね。余計な事して激おこファイアーになるのは困るっす!」

デイビット「彼女の力は我々にとって極めて有用なのだガ……残念だナ」

……陰陽寺さんは独りで行動するんだ

皆も陰陽寺さんには関わらない方針にしたらしい

私も出来れば関わりたく無いけど……

でも……

89 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/16(金) 23:54:15.13 ID:0IKWFY9nO



竹田「全く、陰陽寺の嬢ちゃんにゃあ困ったもんだねぇ」

デイビット「ああも協調性が無いト、此方としても対応しかねル」

デイビット「一番なのハ、彼女から我々に協力してくれる事なのだガ……」

竹田「そりゃあ無理だな。けんもほろろに追っ払われるのが目に見えらぁ」

……食堂を通りかかったら、竹田さんとデイビット君が話し込んでいるのが聞こえた

やっぱり二人とも、陰陽寺さんの扱いに困っているみたいだね……

竹田「しゃあねぇ。月神の嬢ちゃんにでも頼んで説得させてみっか?」

デイビット「それが一番だろウ。彼女程信頼のある女性もいるまイ」

……え?

竹田「んじゃ、早速月神の嬢ちゃんを探して……」

瀬川「ま、待って!」

竹田「ん?瀬川の嬢ちゃん。何か用か?」

瀬川「えっと……陰陽寺さんの事だよね?」

デイビット「おヤ。聞いていたのかナ?それが何かあるのかネ」

瀬川「え……えっとね……」

別に、私が彼女をどうこうする事にメリットなんて無い

だけど、私だってリーダーをやりたかった。私からリーダーを奪った月神さんには……




瀬川「もし良ければ…私に任せてくれないかな?」

……負けたくない。それだけだ

90 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/16(金) 23:55:16.29 ID:0IKWFY9nO



陰陽寺「……………………」

瀬川「……いた…………」

陰陽寺さんを探すこと数十分。彼女は校舎の影で目を瞑り、微動だにせず佇んでいた

まるで抜き身の日本刀の様な、触れるだけで傷つきそうな鋭利な空間。眺めているだけで心が強張る

でも……じっとしてはいられない。一歩、勇気を振り絞って……!

瀬川「お……陰陽寺さん!」

陰陽寺「……………………」

瀬川「えっと……その……み、皆と一緒に」

陰陽寺「失せろ」

瀬川「早っ!?」

どうしよう。予想以上に対応が塩だ

だけど、ここで引くわけには……!

瀬川「な、何でそんなに頑なに独りで行動しようとするの?一人より皆と行動した方がいいじゃん!」

陰陽寺「僕の足手まといになるからだ」

瀬川「そんなのわからないじゃん!陰陽寺さんは自分勝手な事しかしてないのに、皆の事がわかる訳ないよ!」

瀬川「皆で仲良くしようよ!ここから一緒に出る為にもさ!」

陰陽寺「……………………」

こっちをじっと見つめてる……?これはチャンス!

瀬川「だからさ、まずは明日の朝、皆で朝ごはん食べようよ!そうすればきっと仲良くなれるから!」

瀬川「まずは私と友達になろう!はい、握手……」

91 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/16(金) 23:56:01.50 ID:0IKWFY9nO






パァンッ!





92 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/16(金) 23:56:52.00 ID:0IKWFY9nO

瀬川「……え?」

差し出した手に、強い衝撃と激痛が走る

見てみると、掌は真っ赤に腫れていた。何かで手を叩き落とされたんだ

陰陽寺さんの手には竹刀……あれで、私の手を……!

瀬川「な、に、するの……!」

陰陽寺「もうその手は伸ばさないのか。さっきまで綺麗事を吐いていた癖に諦めが早いんだな」

陰陽寺「お前の言葉は何もかもが薄っぺらい。お前の様な嘘つきに関わるだけ、僕の時間の無駄だ」

冷たくそう吐き捨てられる。その目に映る感情に、心の奥から、何かが芽生えるのを感じた

瀬川「何が……薄っぺらい……嘘って……!」

陰陽寺「皆と仲良くなりたい。友達になりたい。か、随分と素晴らしい話だな」

陰陽寺「なら聞かせてもらおうか。お前は何故友達になる事に拘る。その目的はなんだ」

瀬川「えっ……」

陰陽寺「なんだ、言えないのか。それとも、僕には言いたくないのか。どっちだ」

淡々と此方に疑問を投げ掛ける。何で私が皆と友達になりたいかって

そんなの……

瀬川「そんなの……皆と仲良くなって、もっと皆の事を知りたいから……」

陰陽寺「違うだろう」

93 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/16(金) 23:57:42.97 ID:tecaRhpkO

陰陽寺「お前は誰にも興味は無い。ただ、自分の事を押し付けているだけだ」

陰陽寺「大方、自分を良く見せようとして孤立している僕に話しかけたんだろう」

陰陽寺「お前は”自分のプライドの為に他人を利用している”んだろう。それも、故意にな」

陰陽寺「お前みたいな奴の事を、何と言うか知っているか」

陰陽寺「……偽善者が」

混じりけの無い言葉が、私の心を切り刻む

……そう。私は、本当は別に皆と仲良くなろうなんて思っていない

このまま、私が皆から見棄てられるのが嫌だから。何か役に立って、好かれないといけないから

だから陰陽寺さんを利用した……私が、彼女を説得したと思わせる為に

陰陽寺「偽善者の言葉に従う理由は無い。わかったのならばさっさと消えろ」

陰陽寺「今度は顔を狙うぞ」

そう宣言する陰陽寺さんからは、既に私との会話を続ける意思は無い

瀬川「……そ、ごめんね。またね」

だったら、こっちももう話す事はしない。踵を返して、彼女の元から去る事にしたんだ





瀬川「だったら、殺されても文句言わないでよね」

頭の中で巡る、彼女への憎悪を抑えながら

94 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/16(金) 23:59:32.57 ID:tecaRhpkO



瀬川「……〜〜〜っっ!!」

今、私は自分の部屋にいる

食堂へ向かうと、誰かから聞いたのか、他の人が様子を聞いてきた

『ごめんね』と言ったときの、哀れむような視線。他に何か言ってた様な気もするけど、どうでもいい

喉が渇いたからと適当な缶ジュースを手にとって、逃げるように部屋に戻ってきたんだ

瀬川「何なの……何なの、何なの、何なのッ!!」

瀬川「良く見られたいって…当たり前じゃん!何で私があんなに言われないといけないの……っ!?」

一人きりという安心から、心の奥底から感情が爆発する

この感情は……憎悪、憤怒、激昂

色々な感情がグチャグチャに溶け合って、私にも、既に意味がわからなくなっていた

瀬川「あんな奴……本当に死ねばいいのにっ!!」

そのグチャグチャをいっきに飲み込む。残った缶を備え付けのゴミ箱に放り投げた

クルクルと綺麗な放物線を描いたゴミは、すとんと円形の箱の中に落ちていく

ゴミ箱の中を確認する。缶は、ティッシュやお菓子の包装のゴミ等に埋もれていた

瀬川「はぁ……はぁ、はぁ……!」

瀬川「…………寝てよ」

まだ日は高いけど、今は動き回る気分じゃない

ベッドに横たわると、胸のドロドロは、少しだけ収まった気がした

95 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/17(土) 00:00:37.30 ID:PepwUPEkO



瀬川「……………………」

「うぅん。駄目だったみたいだねぇ」

「せ、瀬川の奴……やっぱ落ち込んでるよな……?」

「アホ!こういう時はそっとしておくねん」

夜時間になった。食欲は無いけど、一応食堂には顔を出しておこう

案の定陰陽寺さんはこなかった。あれだけ言ったんだから、来てほしくもないけど

もう、何もかもがどうでもいい。誰かの話に相槌を打つのも面倒くさい……

「嬢ちゃんでも無理なら、こりゃもうダメだな」

「あーあ!信じてたんだけどなぁ」

「お前……そんな事を言うもんじゃないぞ」

聞こえているよ。でも、それを言って何になるの?

瀬川「……私もう寝るね!お休み!」

「……おやすみ。あまり気にしない方がいい」

「また明日ダ、それから今後の事を決めよウ」

誰かが、私に何か話しかけてきた

けど、正直反応する余裕なんてない。面倒だし

ああ、今日は最悪だ。全部が上手くいかない。イヤになってくるからもう寝よう

こんなんじゃダメってわかっているのに、心が言う事を聞かない感覚

それから逃げるみたいに、食堂を立ち去ろうとした


96 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/17(土) 00:01:33.50 ID:PepwUPEkO






「……あの!」

瀬川「ん?」

誰かに呼び止められた。この声は……スグル君?

スグル「えっと……僕はお二人の間に何があったのかはわかりませんけど……」

スグル「それでも……僕は信じてますから」

スグル「きっと、全員揃ってここから出る事が出来るって」

スグル「……それだけです。すみませんでした」

……本当にそれだけ。それだけ言って食堂に戻った

どうせ、君も私の事を馬鹿にしているんでしょ?

そんな不貞腐れた考えが頭をよぎって……そんな自分が、更に嫌いになった








97 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/17(土) 00:02:45.85 ID:PepwUPEkO



陰陽寺「………………」

月神「……こんばんは、陰陽寺さん。隣、いい?」

陰陽寺「好きにしろ。僕は戻る」スッ

月神「……空、見ていたの?」

陰陽寺「………………」ピタッ

月神「綺麗な星空…それに満月。もう皆寝静まっているから、存分に見ていられるわね」

陰陽寺「何の用だ。また瀬川の様に、僕に貴様らと馴れ合えとでも言うつもりか」

月神「そうじゃないの。私もね、小さな頃は、よく弟と一緒に夜空を見ていたの」

月神「『いつかお月様に手が届きますように』ってあの子は言うの。遠い遠い宇宙への憧れを持って」

月神「私は、超高校級のアイドルなんて言われているけど……弟は、今でも私の手を握ってくれる」

月神「私は、それ位大切な人の身近にいたいのよ」

陰陽寺「何が言いたい」

月神「一緒に夜空を見ない?これ、臓腑屋さんのおむすびと、朝日君の淹れてくれたココアなの」

月神「夜は長いし……ね?」

陰陽寺「……好きにしろ」ストン




……………………

…………

……

98 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/17(土) 00:04:04.87 ID:PepwUPEkO
二日目終了
次回は動機発表になると思います
99 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:08:58.68 ID:BRLlteoAO

瀬川「……皆!おはよー!」

「……でさー」「そうなの?」「へー」

瀬川「……あれ?ねぇ、どうしたの?」

「だからさ……」「ああ」「ふーん」「なるほど」

瀬川「ちょっと……ねえってば!ねえ!」

「…………」「…………」「…………」

瀬川「……ねえ、何で黙るの?私、何かした?」

「……あいつウザいよな」ヒソヒソ

「影薄いくせに、出しゃばってきてさ……」ヒソヒソ

「ああいうのサムいよな」ヒソヒソ

瀬川「な、何で……何でそういう事言うの?」

瀬川「何か悪い事したなら謝るよ……それに、嫌いな所があるなら直すし……」

「そういえば、あいつに友達っていんの?」

「いるわけないじゃんwwwぼっちなんだしwww」

瀬川「何で……何で、何で、なんでよぉ……!」

瀬川「どうして……そんなこというの……!?」

瀬川「わたしは……みんなにすきになってもらいたいだけなのにぃ……!」

どうして……?私は、私を皆に好きになって貰いたいだけなのに……

私が好かれようと頑張ると、いつも、皆は私の事を嫌いになっていく

私の理想と私の現実。その二つの境界で、板挟みにされた私の心は静かにすり潰されていった


……………………

…………

……

100 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:10:02.67 ID:BRLlteoAO



瀬川「……………………」

……目を開くと、部屋の天井が目に入った

どうやら、あの光景は夢だったみたい……最悪な

汗で服がべっとり……しかも、まだ朝の五時。今から集まるには早すぎる時間だし……

瀬川「……シャワー浴びてこよ」

とにかく、今はこの不快感を洗い流してしまいたい

服と虚飾を全て脱ぎ捨て、身体と、夢の中の嫌な記憶をまとめて洗い流す

水を全体に浴びせると、何もかもが、溶けて、外へと流れ落ちる感覚に包まれた

「……………………」

深く息を吐いて、思考を冷静に戻す。まずは昨日の夢の原因を考えてみよう

何であんな夢を見たんだろう……きっと、昨日の事で心に結構ダメージを受けていたからかな?

でも、もう大丈夫だ。もうあんな事には絶対にならないし……させない

絶対に……絶対に絶対に絶対に絶対に絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対……







見棄てられて、たまるもんか


101 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:10:43.04 ID:BRLlteoAO



……とはいえ、ずっと部屋にいるのも退屈だし

昨日は夜ご飯食べてなかったから、食堂で軽く小腹でも満たしておこう

瀬川「……ふぁああ。でもやっぱり二度寝しとけば良かったかな……」

学園の中は照明が抑えられてて暗いし、何より一人きりの学校なんて、寂しくて嫌いだもん

ずっと、ずっと一人で……ここでなら誰かと仲良くなれるってずっと信じていたのに……

瀬川「……あー!リセットリセット!」

もやもやとした思考を打ち止めて、足早に歩く速度を速めていく

今朝から、ネガティブな事ばかり思い付いちゃう。こんな事じゃいけないってわかっているのに

そろそろ食堂に着くし、何を食べるか決めて……

「」ドンッ

瀬川「……きゃっ!?」

ぼんやりと考え事をしていると、何かにぶつけたのか、身体に軽い衝撃が走った

瀬川「痛ったいなぁ……誰、なの……!?」

ぶつかっといて、謝りもしないなんて。誰だろうと振り向いてみると……

陰陽寺「……………………」

よりにもよって、今一番会いたくない人に当たってしまったんだ……

102 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:11:36.55 ID:BRLlteoAO

瀬川「……陰陽寺さん」

陰陽寺「……………………」カツカツ

瀬川「ねえ、何処に行くの?食堂は逆だよ?」

陰陽寺「用は済ませた。僕はもう必要はない」

瀬川「ふーん……こんな朝早くからご苦労様」

瀬川「ならさっさと帰れば?どうせ皆と仲良くする気も無いんでしょ」

陰陽寺「そのつもりだ」

つかつかと歩いていく陰陽寺さん。その背中が無性に腹立たしくなって……

瀬川「……皆はこう言っているよ」

瀬川「『陰陽寺さんが、いつかコロシアイをするんじゃないか』ってさ!」

瀬川「確かに、人を殺せそうだもんね!きっといつか、誰かを殺すもんね!」

瀬川「人殺しなんかが、最初から私達の仲間になれる訳が無いもんね!」

陰陽寺「……………………」

思いっきり挑発してやった。陰陽寺さんは振り向いて、無表情で此方を見ている……

いや……何となく……気のせいかもしれないけど……

……睨んでいる?




陰陽寺「……」ガシッ

瀬川「ぐぅ……っ!?」

103 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:12:11.53 ID:BRLlteoAO

陰陽寺「調子に乗るな」グッ

瀬川「ぐぅ……っ!」

一気に距離を詰めた陰陽寺さんに、喉元を掴まれる

ギリギリと力を込めていく手から、彼女の静かな怒りを感じる

瀬川「そ……そうやっ、て、何でもかんでも、力で解決出来ると、思っているの?」

瀬川「ずっと貴女は一人ぼっちだから、わからないだろうけど……うぐっ!」

陰陽寺「黙れ」グググ

どんどん空気が入らなくなる。目がチカチカして世界が回る。あ、これマズイ……

陰陽寺「……」パッ

瀬川「ぐえっ!?はぁー……っ、はぁーっ……」

いきなり手が放される。肺のなかに、新鮮な空気がたっぷりと入る感覚に溺れそう

陰陽寺さんは気が済んだのか、手をふらふらと振りながら此方を見下ろしていた

背丈では私の方が高いのに、今は彼女が私を見下している

その蔑んだ様な視線に、落ち着き始めていた嫌な感情が膨れ上がってきた

瀬川「…………っ」

陰陽寺「なんだ、やる気か。受けてたつぞ」

瀬川「……っ!このっ!」

挑発され返されると、もう冷静に考える事は出来なくなった。立ち上がって睨み付けると……




「んっ?何してるんすか?にひひっ!」



104 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:13:16.90 ID:BRLlteoAO

瀬川「……!……照星さん?」

照星「あれ?陰陽寺先輩も一緒っすか?」

陰陽寺「何をしにきた」

照星「何って……朝の一杯っす!自分、朝は色んな運動するからいっぱい汗かくんすよね」

照星「なんで、シャワー浴びた後の一杯を飲みに来たんすよ。にひひっ」

確かに、照星さんの身体はうっすらと汗ばみ、ほこほこと湯気が立っている

彼女はにへらっと笑うと、おもむろに陰陽寺さんの手を取った

照星「せっかくの機会なんで、皆が来るまで食堂で話さねーっすか?勿論陰陽寺先輩もっすよ!」

陰陽寺「断る。離せ」

照星「嫌っすよーいひひひっ!」ガバッ

言うが早いか照星さんは陰陽寺さんに思いっきり抱きついた。これは……まさか、あすなろ抱き……!

流石に身体全体に抱きつかれて観念したのか、陰陽寺さんは渋々といった様に食堂へ歩こうとする

照星さんも抱きつくのを止めて、成り行き上三人で朝ごはんを食べる事になったんだ

瀬川「……ちなみに、今何時?」

照星「多分7時前じゃねーっすか?」

……そろそろ皆が来そうだけれどね

105 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:14:14.03 ID:BRLlteoAO



臓腑屋「ふんふふふーん……む?何奴……」

臓腑屋「……にゃあぁ!?お、陰陽寺殿!?」

ガッチャーン

臓腑屋「にゃあぅ!危うくお皿を落としそうになったでござるよ!?」

駆村「な、何だ!?何の騒ぎだ!?」

瀬川「あははは……お騒がせしまーす……」

陰陽寺「随分な挨拶だな。そんなに僕がここに来る事がおかしいか」

臓腑屋「そういう訳ではござらぬ。普段より拙者らを避けている陰陽寺殿が顔を見せた事に驚いたのでござるよ」

照星「そういや。お二人はどこから来たんすか?」

駆村「裏口からだな。朝食を作る時にはいつもここから通ってきているぞ」

臓腑屋「因みに、昨日は月神殿と朝日殿が手伝いに来てくれたのでござるよ!」

瀬川「月神さんが?ふーん……」

照星「何かあったっすか?」

瀬川「ううん。なんでもなーい」

月神さん料理出来るのかな……私?レンジでチンも立派な料理だよね……

瀬川「……私も、料理手伝うよ!」

臓腑屋「おお!それはかたじけないでござる!」

106 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:15:19.75 ID:BRLlteoAO



御影「おはよー!いやー寝坊しちゃった……」

御影「……うわあああ!?陰陽寺さんだぁぁ!?」

竹田「おうおう……この反応、今日で何回目だ?」

臓腑屋「もう何度も聞いているでござるよ……」

あれから朝の朝食まで、何度もおんなじ台詞を聞く事になるとはね……

陰陽寺「ふん。僕は居たいとは言っていないがな」

月神「もう、そんな事言って……」

朝日「皆で食べた方がぁ、絶対に美味しいよぉ?」

吊井座「べ、別に強制はしねえけどよ……」

月乃「……でも、来てくれて嬉しいのは確か」

デイビット「ハ、ハ、ハ。我々は勿論歓迎するサ」

陰陽寺「ふん」

月乃「……ところで、どうして千早希は指に絆創膏を貼っているの?」

瀬川「あはは……気にしないでいーよ……」

慣れない事はするもんじゃないね、本当……

月乃「…………?」

飛田「だが!しかし!これで麗しき花園は完成したと言えるのではないかね!?」

古河「それ、全員揃ったっつー事でええんやな?」

天地「そうだよー!それじゃあ!今日も一日……」





モノクマ「ちょっと待ったーーー!!!」

107 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:17:27.16 ID:BRLlteoAO

スグル「っ!?」

陰陽寺「貴様……」

月神「……モノクマ!?」

モノクマ「ハァイ、オマエラ。元気してる?」

吊井座「は?げ、げげ、元気かって……」

竹田「あん?てっきりくたばったかと思ってたぜ」

天地「おっひさー!りぼんちゃんは元気でーす!」

モノクマ「おっひさー!……じゃないよ!何でオマエラ全くコロシアイしないのさ!」

急に表れたモノクマは、ノリよく天地さんの挨拶を返した後、そんな事を言い出した

御影「だって……ねぇ?」

臓腑屋「やれと言われてコロシアイを始める様な輩はいないでござるよ」

朝日「それにぃ、ここって結構居心地いいしねぇ」

月乃「……それには同意する。珍しくだけれど」

当然、口々に反論される。でも、ここって確かに居心地がいいんだよね……

モノクマ「ちょっとちょっと!オマエラはなんでそんなに余裕ぶっこいてられるのさ!」

モノクマ「早く外に出ようとか、早く全員を出し抜こうとか考えないの!?先手必勝!必殺必滅!」

瀬川「でもさ、まだ三日しか経ってないんだよ?」

瀬川「それに、いつかは外から助けが来ると思うしさ……」

108 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:18:09.20 ID:BRLlteoAO

モノクマ「……助け?助けが来るって?」

瀬川「……?うん」

モノクマ「……うぷ、うぷぷ、うぷぷぷぷ…………」

モノクマ「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷっ!!!」

モノクマ「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!そんなものあるわけないじゃーーーん!!!!」

瀬川「えっ……?」

古河「な、何言うてんねや!このクマ!」

飛田「恐らく何らかの事情で未だ助けられぬだけだ!世界が、このオレを探しているのだからな!」

駆村「そうだ!今だって、きっと俺達を探しているはず……」

モノクマ「うぷぷ、オマエラおめでたいねぇ……」

朝日「わぁい。誉められちゃったぁ〜」

臓腑屋「バカにされているのでござるよ!?」

反論にも余裕綽々として返すモノクマ。モノクマは、どうしてそんなに自信があるの……?

デイビット「だガ、確かに常々疑問には思っていた事ではあるナ」

デイビット「我々は超高校級の才能の持ち主。世間が我々の失踪をどう考えているのカ……」

竹田「そもそも、この人数をどう拐ったのかってのも聞きてえもんだけどな」

月神「モノクマ……私達に何をしたの!?」

モノクマ「あ、気になる?気になっちゃう?ならば教えて差し上げましょう!」

モノクマ「オマエラ、モニターに注目してくださーい!」

モノクマがリモコンを取り出すと、ピピピッと電源を操作する

少しの砂嵐の後、モニターに写り始めたのは……

109 : ◆upV/60xbhSrj [saga]:2018/11/23(金) 21:19:10.49 ID:BRLlteoAO



〜〜〜♪



ハルカ『良い子の皆ー!ココロオドルTVの時間だよー!』

ハルカ『えーっと、今日で何日目?二日目?それとも三日目?もしかして……四日目以降?』

ヨウ『外が何日目だろうと関係ないけどな。俺達はアニメの住人だ』

ハルカ『それもそうだね!えっと、それじゃあ早速今日のミッションは……』

ハルカ『……あれ?ナニこれ?これ、”動機”って書いてあるよ?』

ヨウ『とうとう来たか。それは読んで字の如く動機だ、コロシアイの為のな』

ハルカ『こ、コロシアイ!?……あれ?でもそれって私達には関係ないよね?』

ヨウ『俺達の目的は生活のサポートだろって?そんな事を気にする様な奴はこの番組を見ていないさ』

ハルカ『それもそっか!それじゃあ早速動機を発表したいと思いまーす!』

ハルカ『動機は……お、おおお、オオオオ……!』

ヨウ『落ち着け。お前が動悸を発症してどうする』

ハルカ『動悸息切れには!救○!』

〜〜〜♪

ヨウ『さて、スポンサー(願望)の提供を終えた所で本題に入るとするか』

ハルカ『それじゃあ今度こそ発表しまーす!』


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