勇者「彼は正しく英雄だった」

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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:43:55.66 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「依頼者の判断ってわけ?」

受付嬢「いいえ、此方の判断です」

魔法使い「なっ、ふざけないでよっ!! 報酬が減るじゃない!!」

受付嬢「貴女が死亡、または依頼失敗した場合、此方に損害が出ます。これは当然の判断です」

魔法使い「そんなに危険な依頼でもないでしょ!! 私一人で出来るってば!!」

受付嬢「声を荒げても契約は変わりませんよ。これは既に決定したのですから」

魔法使い「だったら私に協力者を選ばせてくれても良かったじゃない!!」

受付嬢「仮に協力者を募ったとして、貴女と組む者がいると思いますか?」

魔法使い「それはっ……」

受付嬢「ですから、此方で決めたのです。御心配なく、彼は頼りになりますよ」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:45:00.38 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「……どんな奴なのさ」

受付嬢「彼は傭兵と呼ばれています。傭兵稼業で傭兵と言うのも可笑しな話ではありますが」

魔法使い「聞いたことないよ? そいつ、実績あるの?」

受付嬢「勿論です。経験は豊富ですよ? 今のように魔物が現れる以前から傭兵として」

魔法使い「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなの二十年は前の話じゃない!!」

受付嬢「そうですね」

魔法使い「そうですねじゃないよ!! その頃から傭兵って、もう四十、五十のオッサンなんじゃないの!?」

受付嬢「正確な年齢は存じ上げませんが、四十代ではないと思いますよ? まあ、貴女からすれば、私もオバサンなのでしょうけれど」

魔法使い「いや、流石に受付さんをオバサンとは言わないよ。私とそんなに歳変わらないし」

受付嬢「そうですか。それはありがとうございます。それで、依頼は受けますか?」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:46:44.40 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「まあ、受けるけどさあ……」スッ

受付嬢「やけにあっさりしていますね」

魔法使い「お金がいるからね。それじゃあね、受付さん」

受付嬢「まさかとは思いますが、今から行くつもりですか? お一人で」

魔法使い「二人で行けとは書いてない。悪いけど、私一人でやる。で、報酬は全部貰う」

受付嬢「……」

魔法使い「その傭兵って奴がよっぽど厚かましい奴じゃなきゃ、金を分配しろなんて言わないでしょ?」

受付嬢「御安心を、彼はそのような人物ではありません」

魔法使い「それなら良かったよ。そいつには適当に言っておいて」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:48:40.69 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「分かりました。では、お気を付けて」

魔法使い「ありがと。受付さん、またね」スタスタ

ガチャ バタンッ

受付嬢(……こうなるとは思っていました。でもまさか、こんなにも早く単独行動を選ぶとは)

カチッ

カチッ

カチッ…

受付嬢「……」

ガチャリ…

受付嬢「お待ちしておりました。お久しぶりですね。お元気でしたか?」

受付嬢「それは何よりです。しかし、貴男がこの街に戻ってくるのは何年振りになるでしょうか」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:50:50.66 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「二年? いいえ、違います。二年と三ヶ月と四日です」

受付嬢「それより、また傷痕が増えたようですね相変わらず、無茶な依頼ばかり……」ポツリ

受付嬢「いえ、何でもありません。早速ではありますが、此方に拇印をお願いします」

受付嬢「ありがとうございます。依頼内容に変更はありませんが、念の為確認しますか?」

受付嬢「必要ない?」

受付嬢「そうですか、分かりました。それから、少々問題が起きました」

受付嬢「ええ、そうです。彼女、魔法使いが想定していたより早く単独で現場に向かってしまったのです」

受付嬢「ええ、場所はそう遠くありません。事は急を要します。急ぎ、向かって下さい」

受付嬢「ご心配なく、馬は既に用意してあります。借りたものですが、とてもよい馬ですよ?」

受付嬢「いえ、料金は必要ありません。貴男の報酬から天引き致しますので」

受付嬢「……あの、今のは冗談ですよ?」

受付嬢「分かりづらい、ですか? そうですか、それは失礼致しました」ペコリ
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:53:19.20 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「では、彼女を宜しくお願いします。彼女はまだ若く、才能のある貴重な存在です」

受付嬢「彼女を失うのは此方にとっても大きな損失。近頃は妙な失踪も相次いでいます」

受付嬢「……ええ、そうです」

受付嬢「失踪したのはいずれも魔力が特級の者。やはり、ご存知でしたか」

受付嬢「簡単な依頼内容で高い報酬。つまり今回のような依頼に釣られて、と言うものもあります」

受付嬢「既に調査はしています。しかし、依頼者に訊ねても名前を貸しただけだと……」

受付嬢「その影にいるのは魔術結社という話もありますが、未だ全容は見えていません」

受付嬢「だからこそ貴方に協力を仰いだのですが、何もなければそれで構いません」

受付嬢「……分かりました」

受付嬢「もし何者かが現れた場合、その際の判断は貴方に任せます」

ガチャ…

受付嬢「あの」

クルッ

受付嬢「……いえ、何でもありません。引き留めて申し訳ありませんでした。お気を付けて」

バタンッ…


受付嬢「お帰りなさい、傭兵さん……」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:54:39.21 ID:RoJmAbMAO

第一話 帰還

終わり
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:57:04.74 ID:RoJmAbMAO

第二話 

魔法使い(この辺りでいっか。双眼鏡、双眼鏡)

ガサゴソ

魔法使い(ん〜っと? 確認出来るだけでも五匹か。なんだ、下級も下級じゃん。野犬みたいなものだけど、一応様子見とこ)

魔法使い(……変化ナシ)

魔法使い(何だかなぁ。あの数は少な過ぎる。群れからはぐれたのかな)

魔法使い(ま、そんなのどうでもいっか。さっさと終わらせよ)

ジャリッ

魔法使い「!!」バッ

魔法使い「……誰よ、アンタ」

魔法使い「傭兵? あ〜、そう、アンタがねぇ……」ジロジロ

魔法使い「ふーん。思ったより若いんだね。って言うかさ、折角追い掛けて来たのに何だけど、アンタは必要ないから」

魔法使い「それにアンタ、魔術使えないでしょ? それで良く私に協力するだなんて言えた……え?」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 00:58:58.06 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「何で分かるかって?」

魔法使い「だって、アンタから魔力を一切感じないし。って言うか、私くらいの子は普通に出来るよ、これくらい」

魔法使い「魔術は日々進歩してんの。魔力の探知なんて今は当たり前なの」

魔法使い「まあ、アンタみたいな旧世代のオッサンには分からないだろうけどね」

魔法使い「って言うかさ、アンタの世代だって魔法使い使えて当たり前だったでしょ?」

魔法使い「この際だから言うけど、今時魔術使えないとか有り得ないから」

魔法使い「多少は鍛えてるみたいだけど、筋肉なんて必要ないの。今は魔術主体なの、分かる?」

魔法使い「はぁ……」

魔法使い「大体さ、今の時代に魔術も使えないのに傭兵やってるのってアンタくらいじゃない?」

魔法使い「そうそう、この世界は世代交代も入れ代わりも激しいしさ」

魔法使い「それにさ、魔術使えないってだけで依頼受けられないこともあるんじゃないの? 受けたくても依頼者から弾かれたりさあ」

魔法使い「そんなことない? あっそ、まあ別にアンタのことなんてどうでも良いけどさ。んじゃね」スタスタ
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:00:04.46 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「あ、そうだ」クルッ

魔法使い「受付さんには言っておいたけど、私一人でやるわけだから報酬は全部貰うよ?」

魔法使い「……しつこいな」スッ

ボゥッ!

魔法使い「あのさ、私の邪魔しないでくれる? それ以上付いてきたら、次は当てるから」

魔法使い「はあ? 終わるまで此処で待ってる? 何それ、保護者気取り?」

魔法使い「……約束?」

魔法使い「あぁ、そう言うことね……受付さんから頼まれたんだ。だったら好きにすれば?」

魔法使い「言っとくけど、一緒に戦っただなんて嘘は吐かないでよ?」

魔法使い「そんな嘘は吐かない? ま、アンタが何を言おうが金は私が貰うから別に良いけどさ。んじゃね」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:01:02.27 ID:RoJmAbMAO

第二話 時代遅れ

終わり
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:03:21.31 ID:RoJmAbMAO

第三話

魔法使い「五匹目っと」スッ

ボゥッ!メラメラ…

魔法使い(まだいるみたいだけど、こいつら相手なら余裕でしょ。なんか大人しいし)

魔法使い(でもまあ、こんなのが相手でも報酬が高いんだから魔物討伐はやめられないんだよね)スッ

ボゥッ!メラメラ…

魔法使い(八匹、九匹、今ので終わりかな? 固まってるから焼きやすくていいや)

魔法使い「……あ、そうだ、アイツは」チラッ

魔法使い「……………いないし。何が約束だよ。ま、そんなもんだろうと思ったけどさ」


「いやいや、遅れて申し訳ない申し訳ない」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:05:11.35 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「!?」クルッ

「ああ、驚かせて申し訳ありません。私は呪術師と申します」

魔法使い(コイツ、どこから……)

呪術師「いやいや、お手並み拝見しましたよ。貴方には才能があるようですね。どうです? 私と共に来ませんか?」

魔法使い「あのさ、いきなり現れた奴に付いていく奴がいると思う? 馬鹿言わないでくれない?」

呪術師「まあまあまあ、聞いて下さいよ。近頃の魔術の進歩は凄まじいですが、魔術師の社会的地位はまだまだ低い」

魔法使い(同業者っぽいなあ。魔力は私の方が上だ。どうする、一発かますか)

呪術師「古い価値観に囚われ、魔術師を差別する老人達は大勢いる。まあ、その老人達が国を動かしているのだから当然ですがね」

魔法使い「……だから?」

呪術師「貴方の世代は特に魔術に優れている。世代を重ねるごとに体内魔力も上がっているという統計も出ています」

魔法使い「話が見えないんだけど」

呪術師「私はね、近々優れた魔術師が世界を動かすと思うのですよ」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:07:23.43 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「何それ、国盗りでもする気?」

呪術師「乱暴な言い方をすれば、そうなりますかね。だからこそ、貴方のような優れた魔術師が必要なのです」

魔法使い「アホらし、付き合ってらんない。悪いけど他を当たってくれる?」ザッ

呪術師「貴方、魔力判定は特級でしょう?」

魔法使い「……だったらなにさ?」

呪術師「なのに何故、傭兵紛いのことをしているのです? もっと違った道があったのでは?」

魔法使い「そんなの私の勝手でしょ?」

呪術師「確かにそうですね。あぁ、そう言えば魔法使いさん。貴方、両親を火事でなくしていらっしゃる。そう、火事で」

魔法使い「……」

呪術師「貴方のような境遇にある者は此方に沢山います。居場所の失った、才能溢れる子供達……」

魔法使い「そうやって口説いて、体良く使い捨てられる奴を集めてるわけ?」

呪術師「使い捨てだなんてそんな。同志ですよ、同志。私達は魔術師への正当な評価が欲しいだけです」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:08:22.15 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「悪いけど興味ない。もう行くから」

呪術師「もう戻ることは出来ませんよ? 貴方は罪人なのですから」

魔法使い「………はぁ。あのさ、アンタって頭おかしいんじゃないの?」

呪術師「頭がおかしいのは、罪のない子供達を殺した貴方の方ですよ」

魔法使い「何言って……!!」

魔物の死体が転がる場所を指差してそう言った。

しかし、そこにあるはずの魔物の死体はなく、そこには幼い子供の遺体があった。

炭化したそれは抱き合うようにして身を寄せ合っている。

その有様を見て、魔法使いの意識は子供の遺体に大きく傾いた。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:11:50.23 ID:RoJmAbMAO

魔法使い(そんな、何で……)

呪術師「子供は容易いな」

魔法使い「しまっ」

ガツン! ドサッ…

呪術師「戦いってのは魔力の大きさじゃあないんだよ。しかしまあ、子供ってのは楽でいい……」

魔法使い「」

呪術師「全く全く可愛げのないガキだ。大人しく口車に乗れよ。運ぶ身にもな」

ドンッ…

呪術師「……?」

突如、右肩に殴られたような衝撃。

その衝撃に肩を持って行かれ倒れ込み、続いて焼けるような熱、肩から突き出た矢尻が目に入る。

そこでようやく、矢で射られたのだと理解する。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:18:28.73 ID:RoJmAbMAO

呪術師「ッ!!」

すぐさま体を起こして振り返ると、朽ちかけた民家の影から男が現れた。

剣と弩、肩当て胸当て、これといって特徴のない装備、魔力を一切感じさせない、ただの男。

呪術師「……あぁ、そうですかそうですか、なるほど、貴方でしたか。状況は把握しました」

呪術師「魔力を欠片ほども持たないと言うのは話に聞いていた以上に厄介ですね……」

男は無言のまま剣を抜き、呪術師に詰め寄る。

奇襲には慣れているようで、汗一つない。

呪術師(やれやれ、これだから傭兵って生き物は……躊躇いなく背後を刺しやがる)

呪術師に動く様子はない。

それどころか頭を垂れるように膝を突き、再び倒れ込んだ。

多量の発汗、体は忙しなく震え、涎を垂らしている。矢尻には毒が塗り込まれていたのだろう。

男は、既に眼前に迫っていた。

呪術師「亡国の傭兵、魔術師を愛する赤い羊よ、お目にかかれて光栄です」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:20:28.19 ID:RoJmAbMAO

その声は明らかに震えている。

痙攣が引き起こした不規則な笑み、居心地悪そうに動き回る眼球。

その様を見ても、亡霊の傭兵と呼ばれた男は呪術師に一切の関心を払うことはなかった。

傭兵はやはり無言のまま呪術師を見下ろして、肩の矢をゆっくりと引き抜く。

呪術師「ぐっ、うぅっ…」

呪術師(……矢の一本でさえも私にくれてやるつもりはないと言うことか。けちな奴だ)

矢尻が引っ掛かったが無理矢理に引き抜かれ、更に大量の汗が流れる。

呪術師「……一つ、お訊ねしたいのですが」

今まさに剣が振り下ろされようとしているのだが、呪術師には見えていなかった。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:21:25.53 ID:RoJmAbMAO

視界は毒によって既に奪われていた。

この様子では、首など刎ねなくとも数分の内に死亡するだろう。

呪術師「貴方は私を追っていたのですか? それとも偶然に?」

答えはない。

呪術師「もし偶然なのだとしたら、私も運が悪」

全てを言い終える前に首が舞った。

呪術師「る ぃ」

亡国の傭兵。

そう呼ばれた男は、やはり無言のままだった。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:22:19.85 ID:RoJmAbMAO

第三話 亡霊

終わり
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:33:56.34 ID:RoJmAbMAO

第四話

あれから数日後

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

ガチャバタン!

魔法使い「受付さん!! アイツは!?」

受付嬢「……静かに入って来て下さい。この部屋には私しかいませんが、待合室とは名ばかりの酒場に入り浸るお客様もいらっしゃいますので」

魔法使い「いるのはお客様なんかじゃなく、どいつもこいつも私と同じ、傭兵兼賞金稼ぎだよ」

受付嬢「一応、お金を払ってお酒を飲んでいますからお客様です」

魔法使い「そんなことはいいの、アイツは何処にいるのか教えてよ」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:35:33.40 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「アイツ、とは?」

魔法使い「傭兵だよ、傭兵、オッサン」

受付嬢「傭兵もオッサンも酒場に腐るほどいますよ」

魔法使い「いやいやいや、そうじゃなくってさ。って言うか分かってるでしょ?」

受付嬢「……はぁ、会ってどうするつもりですか? 金を渡せとでも?」

魔法使い「違うよ。助けてもらっといてそんなこと言わない。寧ろ逆だよ、逆」

受付嬢「逆? それはどういうことでしょうか」

魔法使い「このお金、私の分の報酬を渡す」

受付嬢「はい?」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:36:39.92 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「あの、さ……」モジモジ

受付嬢「何でしょう」

魔法使い「なんか、さ……」モジモジ

受付嬢「はぁ」

魔法使い「あんな醜態を晒しといて金を受け取るのってさ」

受付嬢「ええ」

魔法使い「めちゃくちゃダサくない?」

受付嬢「それが我慢ならないわけですか」

魔法使い「そうなの……だからさ、これを渡したら少しは楽になるかなって思ってさ」

受付嬢「そういうことでしたら良いでしょう。彼はこの街に暫く滞在します。立ち寄る場所はある程度決まっているので、お教えします」

魔法使い「ホントに!? いや、って言うか何で……」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:38:05.53 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「何でしょう?」

魔法使い(受付さん、何でそんなことまで知ってるんだろ? 仲介業だし色々詳しいのは分かるけど、そんなことまで知ってるってちょっと変じゃない?)

受付嬢「何か」

魔法使い「ううん、なんでもない(ま、別にどうでもいっか)」

受付嬢「では、此方が彼の立ち寄る場所の一覧になります」

魔法使い「うわ、こんなにあるの?」

受付嬢「上から順に、居る確率が高い場所になります」

魔法使い「はぇ〜、凄いね」

受付嬢「それから、貴方は休日を過ごす傭兵の後を付けるわけですから、注意して下さい」

魔法使い「はいはい、分かってます。これ、ありがとね。それじゃ、ささっと渡してくるよ」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:38:55.03 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「お待ち下さい」

魔法使い「な〜に?」

受付嬢「聞くのが遅れましたが、もう大丈夫なのですか? 杖か何かで殴られたと聞きましたが」

魔法使い「……うん、もう大丈夫。あのさ」

受付嬢「はい」

魔法使い「私を襲った呪術師って奴は?」

受付嬢「貴方が生きて帰って来たと言うことは、そういうことです」

魔法使い「……だよね。ごめん、変なこと聞いた」

受付嬢「……」

魔法使い「んじゃね」

コツコツ ピタッ

魔法使い「……」クルリ

受付嬢「まだ何か?」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:40:08.78 ID:RoJmAbMAO

魔法使い「ありがとう……」

受付嬢「お礼は私にではなく彼に言って下さい」

魔法使い「アイツに頼んだのは受付さんなんでしょ?」

受付嬢「違います」

魔法使い「何で嘘吐くのさ」

受付嬢「嘘ではありません」

魔法使い「別にそれでもいいよ。ありがとうって言いたいの、気持ちくらい受け取ってよ」

受付嬢「受け取れません」

魔法使い「あっそ! ならいいよ!」ガチャ
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/24(月) 01:47:33.69 ID:RoJmAbMAO

受付嬢「魔法使い」

魔法使い「なにさ!」

受付嬢「お帰りなさい」

魔法使い「ぁ………………っ、ただいま!!!」

バタン!

受付嬢「……」

シーン

受付嬢「……」

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「………………魔法使いがいないと静かですね」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/24(月) 01:50:32.93 ID:RoJmAbMAO

第四話 嵐の後に

終わり
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/24(月) 01:51:52.32 ID:RoJmAbMAO
ここまで
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/24(月) 02:48:21.38 ID:/jQ/X7bVo
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/24(月) 19:07:03.12 ID:ZEG6M4HT0
乙期待
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/24(月) 19:27:54.29 ID:iH5wbd9A0

傭兵の見た目をゲラルドさんにして読んでる
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:33:02.99 ID:hSRFEIsWO

第五話

魔法使い「此処も外れか……」

傭兵を捜し歩き、此処で三ヶ所目。

見慣れた街並み、数多く立ち並ぶ店、普段は便利で何の不足もないが、今はその街並みが意地悪く思えた。

魔法使い「この街、こんなに広かったっけ……えっと、次は」カサッ

魔法使い(教会か。ああいう静かな場所って苦手だ……って言うかお腹空いてきた)チラッ

魔法使い(……まだお昼になってないし、教会行ってからにしよ)

テクテク
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:34:00.34 ID:hSRFEIsWO

>>>>教会

魔法使い(やっぱり、この雰囲気って苦手だ)

魔法使い(結構人もいるし、ぐるっと回って顔見よう)

コツコツ

魔法使い(足音響くなぁ……)

コツコツ

魔法使い(ふむ、誰も彼も神妙な顔をしてますな。くすぐってやりたくなるぜ)

コツコツ

魔法使い(………不思議なものだ)

コツコツ

魔法使い(こうして静かな場所に来ると、何故だか無性に大声を出したくなる)
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:35:28.65 ID:hSRFEIsWO

魔法使い(やらないけどさ……ん?)

周囲とは様子の違う男がいた。

その男は椅子の背もたれにだらしなく体を預け、足を投げ出し、明らかに眠っている。

魔法使いはその男を見付けると笑みを浮かべ、教会内を颯爽と駆けた。

そして人違いを避ける為にしっかりと男の顔を確認すると、言った。

魔法使い「起きろ!!!」

それによってその男、傭兵は目を覚まし、魔法使いはそれに満足したようだった。

傭兵は訳が分からないと言った様子、間の抜けた顔で魔法使いを見ている。

魔法使いはその様を見て、けらけらと笑った。


二人は教会から追い出された。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:37:16.16 ID:hSRFEIsWO

>>>>お食事処

魔法使い「いや、だから悪かったってば」

魔法使い「私だって、教会の中で大声出すなんて思わなかったんだよ」

魔法使い「だ、だって三ヶ所も回ったんだよ? あっち行ったり、こっち行ったりさ」

魔法使い「うん? 結局何の用かって?」

魔法使い「それは、え〜っと……そ、その前に食べてよ。お代は私が払うからさ」

モグモグ

魔法使い「どう? 美味しいでしょ?」

▼傭兵は満足そうだ!

魔法使い「でしょ? 初めて来た? ってことは、前にもこの街に来たことあるの?」

魔法使い「ふーん、何度か来てるんだ」

魔法使い「私? 私はこの街出身だよ。歳? 十六だけど? アンタは?」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:38:35.56 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は正直に答えた!

魔法使い「……ふーん」

魔法使い「見た目よりも歳行ってるね。受付さんに聞いた時は、もっとオッサンだと思ってたけどさ」

魔法使い「え? いや、まあ、オッサンと言うほどオッサンではないけどさあ」

魔法使い「もしかしてオッサンって言われたの気にしてた? 傭兵って呼ぼうか?」

魔法使い「でもそれだと分かりにくいか。二つ名とかないの? アンタって有名なんでしょ?」

魔法使い「ないの? でも、そういうのって誰が付けるのかな。やっぱり自分で付けたり……ん?」

魔法使い「ああ、ごめん」

魔法使い「えっと、その、この前はありがとう。助けてくれたって聞いた」

魔法使い「なんていうか、お礼がしたくてさ。それと、これを受け取ってよ。私の分の報酬」スッ
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:39:42.54 ID:hSRFEIsWO

魔法使い「え? それは確かに魔物を倒したのは私だけどさ」

▼傭兵は遠慮している……

魔法使い「い、いいから受け取ってよ。そうしないと私の気が済まないの」

魔法使い「ん、これで良し……え?」

魔法使い「そんなの気にしなくても大丈夫だよ。お金はまた稼げばいいしさ」

魔法使い「後、アンタに頼みがあるんだ」

魔法使い「え〜っと、何て言うか、その……」

魔法使い「ち、違う違う! お金のことじゃないよ」

魔法使い「頼みって言うのは、アンタがこの街にいる間、依頼を手伝わせて欲しいんだ」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:41:09.73 ID:hSRFEIsWO

魔法使い「理由?」

魔法使い「魔物が子供に変わったのは見たでしょ。あれは幻なんかじゃなかった……」

魔法使い「何をしたのか分からないけど、絶対に許されないことだってのは分かる」

魔法使い「何とかしたいって、そう思うんだ。きっと、呪術師みたいな奴は一人じゃない」

魔法使い「アンタ、あいつらを調べてるんでしょ? 私を助ける為だけにこの街に来たわけじゃない。そうでしょ?」

▼傭兵は迷ったが頷いた。

魔法使い「お願い、私にも手伝わせて」

魔法使い「危険なのは分かってる。助けられたクセに厚かましいって分かってる。迷惑なのも分かってる」

魔法使い「だけど、何かしたいんだ。あれを忘れられる程器用じゃないし、あんなのを受け入れられる程腐ってない」

魔法使い「だから……え、いいの?」

魔法使い「本当に? 後からやっぱり無理とか言ってもついて行くからね?」

魔法使い「……明日の昼に酒場ね、分かった。あ、うん、もっと食べても大丈夫だよ」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:43:03.42 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は料理に夢中だ!

魔法使い「あのさ、今更だけど、ごめんなさい」

魔法使い「だってあんなに馬鹿したのに、手伝わせてとか頼んでさ。嫌だよね、普通に……」

魔法使い「うん、今まで一人でやって来たのもあったし、意地になってたのもあったんだ」

魔法使い「そう。今まで組んだことない……仕方ないよ。私、こんなんだしさ」

魔法使い「そ。魔力評価は特級だけど、だから嫌われてるってのもある」

魔法使い「それにほら、魔術師って昔から嫌われてるでしょ?」

魔法使い「昔よりは理解されてるっぽいけど、やっぱり消えないよ。そういうのは……」

▼傭兵は心配そうな顔をしている……

魔法使い「いや、別にそこまで悩んでるわけじゃないよ。慣れてるし」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:46:02.76 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は再び料理に夢中になった。

魔法使い「アンタって変わってるね」

魔法使い「きっと強いんだろうけど、無害そうって言うか、傭兵っぽくないって言うかさ」

魔法使い「分かってる」

魔法使い「傭兵は汚い真似だってする。勝手に期待して、勝手に幻滅したりしない」

魔法使い「でも、やっぱり傭兵っぽくないよ。その辺歩いてても気付かないと思う」

魔法使い「子供と歩いてても不思議じゃないって言うか、そんな感じがする」

魔法使い「そうかな? 案外、親子に見られてるかも知れないよ? そこら辺にいる普通のお父さん……」

魔法使い「……」

魔法使い「あ〜、ごめん。私、そろそろ行かないと、お金は払っておくから食べてて大丈夫だから。明日の昼に酒場ね? それじゃっ!」


▼傭兵はぼーっとしている。何かを考えているようだ。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:49:16.79 ID:hSRFEIsWO

>>>>応接室

受付嬢「……」ペラッ

コンコンッ

受付嬢「はい、どうぞ」

▼傭兵が現れた。

受付嬢「あっ……」

受付嬢「いえ、まさか貴方が来るとは思っていませんでした。それより、魔法使いが貴方にお金を渡すと言って捜しに行きましたが」

受付嬢「そうですか、無事に会えたようで何よりです。はい、何でしょう?」

受付嬢「魔法使いが?」

受付嬢「……へえ。協力、ですか。魔法使いも強引ですね。勿論、断ったのでしょう?」

▼傭兵は首を横に振った。

受付嬢「……………はい?」

受付嬢「つまり貴方は、娘と言われても不思議ではない年頃の子供に押し切られたわけですね?」

▼傭兵は否定した!

受付嬢「言い訳は結構です」

受付嬢「貴方も随分と変わったのですね。まだ傭兵として経験が少ない者と組むだなんて」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:50:54.95 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は優しく指摘した!

受付嬢「はい? 私はもう大人ですが?」

受付嬢「……別にいいです。貴方からすれば、私など子供でしょうから」

受付嬢「なんでもありません」

受付嬢「それで、彼女を頼みを受け入れたのは何故ですか? まさか若い子に迫られて気を良くしたわけではないでしょう」

▼傭兵は事情を説明した。

受付嬢「……確かに。彼女の場合、断っても素直に聞き入れるとは思えません」

受付嬢「しかし危険ではありませんか?」

受付嬢「魔法使いには才能があるとは言え、経験が足りません。はい? 後進の育成ですか? 貴方が?」

受付嬢「いえ、駄目というわけでは……貴方が決めたのなら文句はありません」

受付嬢「魔法使いは、私にとってただの傭兵ではないのです。騒がしい方ですが、嫌いではありません」

▼傭兵は約束した。

受付嬢「……そうして下さると助かります。彼女を守って下さい。再び狙われる可能性もあります」

受付嬢「申し訳ありません。こんな体でなければ、お手伝い出来たのですが……」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:53:42.45 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は深く謝罪した……

受付嬢「貴方は謝らないで下さい」

受付嬢「これは貴方の責任ではありません。貴方には感謝しているのです」

▼傭兵は悲しそうだ。

受付嬢「……相変わらず、おかしな人です、貴方は。私のことなど、忘れてくれても良いのに」

受付嬢「だってもう、母はいないのですよ?」

受付嬢「……」

受付嬢「貴方は変わりませんね……」

受付嬢「時代はこんなにも動いているのに、貴方だけが変わらない。それがよいことなのか悪いことなのか、私には分かりません」

受付嬢「いつか貴方が傭兵ではなくなったら、その時は、会いに来てくれますか?」

受付嬢「……ごめんなさい。忘れて構わないなんて言いながら、こんな事」

受付嬢「っ、はい、分かりました。では、明日の昼に。お待ちしております」

▼傭兵は立ち去った。

受付嬢「……」

受付嬢「……分かっています。貴方が傭兵ではなくなる時、それはきっと……」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:54:56.48 ID:hSRFEIsWO

第五話 彼女達の依頼

終わり

47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:56:43.68 ID:hSRFEIsWO

第六話

>>>>翌日

魔法使い(暇だな。お酒飲めないし……)

一応早めには来たものの酒場に彼の姿はなく、隅っこの席で待つことにした。

出来ることなら受付嬢の所で時間を潰したかったのだが、応対に追われているようだった。

予想していた通り、先日のことを聞きつけた同業者に笑われたりもした。

彼女を妬む者にとって、若く才能ある者が躓いた姿はさぞ愉快だったのだろう。

(ま、別にいいけどさ……)

彼等が向ける好奇の眼差しも、先のような嘲笑も、彼女にとっては特別なものではない。

風景の一部、同じ顔をしたその他大勢、誰かを見下すことでしか安心を得られない大人達。

嫌なら酒場を出れば良いのは分かっている。だが、逃げたと思われるのは我慢ならなかった。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:58:01.94 ID:hSRFEIsWO

魔法使い(あんなの、退屈なだけだ……あっ)

その時、酒場の扉が開いた。

喧騒は止み、誰もが息を呑んだ。

その傭兵はこれといって大した特徴のない男だが、それ故に特徴的と言えた。

若くはないが、それほど老けてもいない。

気の抜けたような、隙なく構えているような、強いような、弱いような、温和そうであり、冷酷そうでもある。

よく分からない男だが、その矛盾した印象が与えるのは恐怖によく似たものだった。

彼に関する尾ひれのついた噂や伝説。

それが尊敬や畏怖、疑念を煽り立て、場の空気は更に凍り付く。

今やたった一人の男に、酒場にいる屈強な傭兵達は呑まれていた。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 21:59:26.55 ID:hSRFEIsWO

「あ、来た来た。遅かったね」

唯一、魔法使いを除いては。

「いいよ、別に遅れたわけじゃないしさ。それより早く行かない? 此処、煙たくてちょっと苦手なんだ……」

そう言って連れ立って出て行こうとする二人を見て、一人の傭兵が声を上げた。

「亡国の傭兵、あんたもまだまだ若いんだな」

それが嫌味、或いは挑発だと分かるのに、それほど時間は掛からなかった。

「……最っ低」

「最低? 事実だろう? 役に立たない若い傭兵、女を連れて行く理由が他にあるのか?」

手を引いて店を後にしようしたが、魔法使いはその場を動こうとはしない。

「依頼を遂げる。それ以外に理由なんてない」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:01:46.78 ID:hSRFEIsWO

魔法使いの答えに、大きな笑いが起こった。

「お前が相棒に選ばれたってのか? 笑わせるなよ、小娘」

「……あ〜、そっか、そういうことか、なる程ね。アンタ、私に嫉妬してるんだ」

笑い声がピタリと止んだ。

その場の誰もが息を吸い込む。次の瞬間には罵詈雑言として吐き出されるだろう。

それを察した傭兵は素早く魔法使いの手を引いて今度こそ酒場を後にした。

扉を閉じたと同時に、爆発したかのような怒号が響く。

傭兵はそのまま手を引いてその場を後にしたが、魔法使いは酒場の扉の先にいるであろう輩を睨み続けていた。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:06:29.84 ID:hSRFEIsWO

暫く歩くと背後で響く怒号が止んだ。

おそらく、受付嬢が酒場に顔を出したのだろう。

魔法使い「ああいう奴が嫌いなんだよ……」

▼傭兵は穏やかに注意した。

魔法使い「分かってるよ。賢い人なら相手にしないんだろうけど、私にそれは無理っぽい」

魔法使い「一回は我慢しろ?」

魔法使い「分かった分かった、次は我慢する。出来るか分かんないけど努力はする」

魔法使い「真面目に聞いてるよ」

魔法使い「今は一人じゃないんだ。ああいうのは避けるべきだってことは分かってる。だけど、我慢出来なくってさ」

▼傭兵は優しく微笑んだ。

魔法使い「うるさい、子供扱いすんな」

魔法使い「って言うか、若いなあ、とか言わないでよ。それは流石にオッサンっぽいよ?」

▼傭兵は少し落ち込んでいる……

魔法使い「ご、ごめんて。そんなに落ち込まなくてもいいじゃんか……」

魔法使い「でさ、調査って何するわけ?」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:08:12.90 ID:hSRFEIsWO

第六話 子知らず

終わり
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:11:47.11 ID:hSRFEIsWO

第七話

街の外れ。

二人は双眼鏡を手に屋根に寝そべり、幾つかの空き家が立ち並ぶ一画を監視していた。

受付嬢に会うことは出来なかったが、傭兵は既に依頼内容に目を通していたようだ。

魔法使い「戦士? 誰それ?」

魔法使い「へ〜、私と同期なんだ。いや、知らん。他の街の傭兵とか気にしたことないし」

魔法使い「で、そいつがどうしたのさ」

▼傭兵は説明した。

行方不明になったはずの傭兵、戦士が、最近この街で目撃されている。

腕は立つらしく早々に国から引き抜かれたという噂もあったが国はそれを否定している。

特に依頼を受けたりするわけでもなく、この街に潜んでいるらしく、この辺りにいる可能性が高い。

戦士に何が起きたのか、その真意を確かめるのが今回の依頼である。


魔法使い「国にも聞いたんだ。その依頼って国側から? それともこっち側、請負業界から?」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:13:46.96 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は答えた。

魔法使い「こっち側の依頼か……」

魔法使い「そりゃそうだよね。国は傭兵がどうなったかなんて気にしないよね」

魔法使い「で、どうするの? 空き家を片っ端から調べてく?」

魔法使い「は? 夜まで!? まだ昼だよ!? 夜からで良かったじゃんか……」

魔法使い「はいはい、まずは何時何処に出入りしてるのか調べるわけね。分かりましたよ」

魔法使い「……あっ!!」

魔法使い「あそこの空き家を見て下さい!! 若い男女が入って行きました!!」

魔法使い「う〜ん、女の子は渋々って感じだねえ。男に押し切られたのかな。まったく最近の若いもんは……」

▼傭兵は双眼鏡を取り上げた!

魔法使い「なにさ、別にいいじゃんか」

魔法使い「だって見られる覚悟あってのことでしょ? だったら果てるまで見届ける責任があると思わない?」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:15:40.75 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は魔法使いの頭をぺちんと叩いた!

魔法使い「あいたっ、冗談だってば……」

魔法使い「でもさ、欲望に忠実そうで羨ましいな。ある意味真っ直ぐじゃん」

魔法使い「ああいう熱を保つのって難しそうだけど、見てる分には楽しいしさ」

魔法使い「……あのさ」

魔法使い「あの二人、引っ付いて出て来るのかな。それとも口も利かないで出て来るのかな……」

▼傭兵は慎重に言葉を選んで答えた!

魔法使い「男の子次第か、まあそうだよね」

魔法使い「アンタはどっちだと思う? さっきの男の子は終わった後に愛を囁くと思う?」

魔法使い「……現実的だね。でも、私もそう思うよ。あの女の子には気の毒だけどね」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:17:07.78 ID:hSRFEIsWO

魔法使い「冷めてる?」

魔法使い「そうかなぁ、多分これくらいが普通だよ。恋に恋する女なんてとっくに絶滅してる」

▼傭兵は現実に絶望した。

魔法使い「いや、まだ絶滅してないか。少なくとも、あの空き家の中に一人いるわけだし」

魔法使い「出て来る頃には冷めてるかもだけど今はまだ……あ……絶滅しちゃった」

上着を手に足早に立ち去る同じ年頃の女性を、魔法使いは気の毒そうに見つめている。

魔法使い「アンタの言う通りだったね……」

魔法使い「いや、男はああいう奴ばかりじゃないとか言われても説得力ないって。あれが現実なんだからさ」

▼傭兵は何故か謝罪してしまった!

魔法使い「何でアンタが謝るのさ……」

魔法使い「あ〜、もしかしてそういう経験がおありで? 若い頃は遊んでたんだ?」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:19:25.58 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は咄嗟に否定した!

魔法使い「ふーん。まあいいけどさ」

魔法使い「あっ、男の子が出て来たよ!?」

魔法使い「何してんのかな? 落ち込んでる暇があるなら何でさっさと追い掛ければ良いのに」

▼傭兵は答えに窮した!

魔法使い「そしたら、まだ望みはあったかも知れないじゃん。すぐ諦めるからダメなんだよ」

魔法使い「アンタだったらどうする? って言うか、今の若い子とアンタが若い頃って何が違うの?」

▼傭兵は矢継ぎ早の問いにたじろいでいる!

魔法使い「あっ、でも世代が違ってもやることは同じか。人間って進歩しないね」


▼傭兵は世代の違いに衝撃を受けた。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 22:21:08.80 ID:hSRFEIsWO

>>>>数時間後

魔法使い「……」カクンッ

ゴチン!

魔法使い「あいたっ……あ、ごめん。うとうとしてた。覚悟はしてたけど中々現れないね」

魔法使い「あっ」

魔法使い「え? 違う違う。今度はまぐわい目的の男女じゃないってば! ほら見てよ」

魔法使い「あれが戦士? どうするの?」

魔法使い「まだ様子見? さっさと取っ捕まえた方が早くない?」

魔法使い「あ、そっか。他にも現れるかも知れないもんね。でも、こういうの苦手だなあ」

その後も監視を続けたが戦士の他には誰も現れず、その日は戦士が出て来ることもなかった。

傭兵は引き続き監視することを決め、慎重な姿勢を示した。

魔法使いは不満そうであったが逆らうことはせず、それに従ったのだった。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:16:16.90 ID:hSRFEIsWO

>>>>時は過ぎ、それから七日後

魔法使い「ふあぁ、やっぱり今日も同じだよ」

魔法使い「行動するのは日没から夜明けまで、それ以外は空き家にいる」

魔法使い「外出中に空き家を調べたけど目立ったものは何もなかったしさあ」

魔法使い「それに他の奴が出入りしてる様子もないし、街から出てる様子もない」

魔法使い「かと言って何をするわけでもなく、ああやって深夜の街をぐるぐる回るだけ」

そう言って戦士の背中を指差した。

魔法使い「確かに気味は悪いけど、悪さはしてない。声掛けても大丈夫じゃない?」

魔法使い「勿論、慎重にさ」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:18:57.63 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は思案している。

魔法使い「もう監視で得られる情報はないよ。慎重過ぎると逃げられるかもよ?」

魔法使い「それに、最近同じ姿勢ばっかで体がバキボキ言うんだよね……んっ」

ポキポキッ

魔法使い「ふ〜っ。で、どうする?」

▼傭兵は決断した。

戦士を尾行、比較的開けた場所で接触。

傭兵が話し掛け、魔法使いは念の為に離れた位置からそれを監視する。

もしもの時は、魔法使いが援護することとなる。

魔法使い「分かった。じゃあ、行こう」

尾行に問題なく、戦士にも変化は見られない。

だが、街には変化があった。

魔法使い「あ、馬車……あれって兵士だよね。あの兵士達も調査に来たのかな」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:20:31.16 ID:hSRFEIsWO

▼傭兵は走り出した!

魔法使い「え、えっ、ちょっと待っ……!?」

そう言い掛けて、魔法使いは傭兵の後に続いた。傭兵が走り出した理由は直ぐに分かった。

これまで目立った動きのなかった戦士が馬車の進路を塞ぎ、剣を抜いている。

魔法使い(今まであんなことしなかったのに、何でいきなり……)

傭兵は馬車と戦士の間に割って入り、馬車には迂回するように指示を出す。

訳が分からない様子ではあったが、一人の兵士が傭兵の顔を見ると何かを察し、馬車を走らせその場を去った。

戦士「騒ぎを起こすつもりはなかった。ただ、いい加減、待つのも限界だったんだ」

通常よりも刀身に厚みのある剣を構えながら、特徴的な犬歯を覗かせにやりと笑う。

野生的なその笑みは不敵で挑戦的、その様は若く精力に満ち溢れた獣のようだった。
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:23:06.88 ID:hSRFEIsWO

魔法使い「……」

魔法使いは手筈通り戦士の背後で杖を構える。

戦士「亡国の傭兵、慎重なのは歳だからか?」

構えを解いてだらりと腕を垂らすと、上半身をゆらゆらと揺らしながら、ゆっくりと傭兵に近付く。

やや細身で長身、すらりと伸びた手足、前傾をとる姿はしなやかだった。

戦士「確かめさせてもらうぜ。あんたより強くなったのかどうかをな」

魔法使い(悪いけど、させないよ)

拳大の火球を一瞬にして作り出し、戦士の背中に向けて躊躇いなく放つ。

魔力は抑えているものの、容易に避けられる速度ではない。

戦士「魔法使い、お前も我慢出来なかったんだろ。分かるぜ」

背後から迫っていた火球を事もなげに避けて見せると、戦士は傭兵に斬り掛かった。

火花、軋る金属音。戦士は長身を生かし傭兵に被さるようにして圧を掛ける。

競り合いは戦士が優勢、迷わず押し込み体を入れ替えると、更に続けた。

戦士「逸るのは分かるが終わるまで邪魔はするな。まあ、邪魔したくても出来ねえだろうけどな」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:25:41.08 ID:hSRFEIsWO

両者の動きは明らかに違っていた。

戦士の繰り出す素早く重い攻撃に対して、傭兵は防御に徹することしか出来ていない。

初見ながらに防いでいるのは、並外れた経験あっての業だろう。

しかし押し切られるのも時間の問題。

尚も苛烈な攻撃を仕掛ける戦士は先程と変わらぬ獰猛な笑みを浮かべている。

一方、魔法使いは焦っていた。

(人間相手に何も出来ないのは初めてだ。ううん、これで二度目……)

これまで協力して戦った経験は一度もなく、無論、援護に徹したこともない。

才能はあるが経験がない。攻撃以外に魔力を生かす方法を知らない。

受付嬢が危惧した通り、経験不足。

このままでは二対一で戦うことすら出来ない。

数の優位を一切活かせないまま、実質一対一で勝敗は決する。

(密着してる。距離を取ろうとしてるけど、すぐに詰められてる。あれじゃ火球を放ってもオッサンに当たる。攻撃じゃダメなんだ)

魔法使いは考える。

自分が攻撃せずに戦士を倒す方法、傭兵に戦士を倒させる方法を。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:26:27.38 ID:hSRFEIsWO

第七話 逸る若者達

終わり
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:28:35.55 ID:hSRFEIsWO

第八話

戦士「亡国の傭兵、何故再び現れた」

戦士「伝説のまま消えていれば、無様な姿を晒さずに済んだはずだ」

至近距離の攻防から一転、戦士は大きく飛び退き距離を空ける。

やや前傾の半身になり、刀身を体で隠すように剣を構えた。

「実を言うとあんたに憧れてたんだぜ? いつかは俺もって、そう思ってた」

どう考えても届くはずのない距離から剣を振り抜くと再び火花が散った。

目を凝らすと暗闇に薄い銀色の糸が引いている。細く引き伸ばされたような何かだ。

魔法使い(今のは何?)

魔法使い(魔力で刀身を引き伸ばしてるの? それとも刀身自体が魔術? アイツ、見掛けに寄らず繊細な魔術を……)

相変わらず、傭兵は防戦一方。

頬や腕にうっすらと血が流れている。それだけで済んでいることが幸運と言えた。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:30:47.59 ID:hSRFEIsWO

しかし、更に速度が上がる。

どうやら、傭兵が反応出来る速度を見極めていたようだった。

傭兵の胸当てに深い傷がつく。敢えてそうしたのか、戦士には明らかな落胆の色が見えた。

「憧れてたよ。今は悲しいだけだけどな」

急激に距離を詰めて一層強く振り下ろされた戦士の剣は、傭兵の剣を叩き落とした。

傭兵はただじっと戦士の瞳を見つめ、何かを察したようだった。

「覚悟は出来てんだな」

「あんたには憧れのままでいて欲しかった。安心しろ、このことは話さない。あんたは伝説のままだ」

喉元に切っ先を突き付けながら、落胆と後悔が入り混じった声で戦士は言った。

攻め続けた結果戦士は肩で息をしており、額から頬に幾筋もの汗が伝っている。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:36:13.30 ID:hSRFEIsWO

「……冗談だろ」

異様だった。

傭兵の額には汗一つなく、じっと戦士を見つめている。それは観察しているようにも見えた。

幾ら防御に徹していたとしても重圧はある。当然、しくじれば死ぬ。

にも拘わらず、汗一つない。

表情にも一切変化はない。戦士にも、自分の生死にさえも関心がないように見える。

と言うことは、既に死を受け入れていたのか。或いは体質という可能性もある。

前者だとしたら疑問が残る。

何故、亡国の傭兵は攻撃を防ぎ続けたのか。

本当に防戦一方だったなら、顔に出さないとしても冷や汗の一つは流れるはずだ。

その時、戦士の脳裏に一つの仮説が浮かび上がる。

(なら、俺は最初から……)

その時視界の隅、傭兵の後方に何かが浮かび上がった。ぼんやり光る、真ん丸の何かだ。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:38:01.58 ID:hSRFEIsWO

魔法使い「オッサン、ごめんっ!!」

戦士「バカかテメエは!!」

決着が付き気を抜いたのか反応は遅れ、疲労に足が縺れたのか動き出しも遅れた。

(巻き込まれるなんて冗談じゃ)

傭兵の背中目掛けて放たれた火球は寸分の狂いなく向かってくる。

だがそれは着弾目前に上昇して爆ぜた。威力はないが発する光は尋常ではない。

「何だよ、邪魔出来たのかよ、魔法使い……」

眩い光の中、戦士は視界を奪われ膝を突く。

瞼を開くと、そこには想像通りの光景があった。

見上げる自分、それを見下ろす傭兵と喉元に突き付けられた切っ先。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:40:30.17 ID:hSRFEIsWO

戦士「……殺せよ。亡国の傭兵」

戦士「俺はそうするつもりだったんだ。そうされる覚悟は出来てる」

その声に偽りはなく、これから起きるであろうことに納得もしている様子だった。

だが満足はしていない。

憧れに挑み、憧れを超える。その望みは叶うことはなく心残りだけがあった。

「あんたがどれだけ強いのか、ずっと知りたかったんだ。最後に教えてくれねえか」

傭兵はやはり無言だった。

「あの野郎が言った通り、けちだな」

振り上げられた剣を眺めながら、傭兵の傍らに立つ魔法使いを見つめた。

「お前は良い先生に恵まれたなあ、魔法使い。まあ、精々大事にしろよ。年寄りなんだからな……」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:44:16.90 ID:hSRFEIsWO

魔法使い「……殺すの?」

▼傭兵は答えない。

戦士「殺すさ」

魔法使い「アンタは黙ってて!! オッサン、生け捕りにしよう。何か分かるかも知れない」

▼傭兵は答えない。

戦士「亡国の傭兵に挑んで生きてる奴はいないんだ。そんなことも知らねえのかよ」

魔法使い「知るか、そんなのに興味ない」

戦士「先生のことくらい知っとけよ。亡国の傭兵は凄かったんだぜ?」

魔法使い「知らん。誰が強かったとか誰が凄かったとか、そんな『かった』に私は興味ない」

戦士「……」

▼傭兵は無言のまま剣を振り下ろした!

魔法使い「!?」

戦士「じゃあな、楽しかったぜ」

▼傭兵は戦士を倒した。

戦士の望みは傭兵によって絶たれた。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:45:22.63 ID:hSRFEIsWO

第八話 先生の教育方法

終わり
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/27(木) 23:46:01.63 ID:hSRFEIsWO
ここまで
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/28(金) 10:29:47.56 ID:PY+CfOPCo
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:43:22.61 ID:YK9aznjmO

第九話

翌日早朝

受付嬢「ですから、戦士は昨晩に死亡しました」

将校「ならば遺体を引き渡せ」

受付嬢「遺体を? 何故でしょうか?」

将校「貴様には関係ない。遺体は何処にある」

受付嬢「存じ上げません。遺体の処理は依頼を担当した傭兵に任せております」

将校「いい加減にしろよ、小娘。俺の部下が此処に戦士を担ぎ込んだ所を見ているんだよ」

受付嬢「だったら何だと言うのです。我々には貴方に協力する義務はありません」

将校「国の庇護を受けていながらその言い分は通用しない。薄汚い傭兵にも、それを斡旋する貴様等のような乞食にも、国に協力する義務がある」

受付嬢「その薄汚い傭兵と乞食があなた方に代わってこの街を守ってきたのです」

受付嬢「貴方は庇護と口にしましたが、戦時のどさくさで奪われた時から今まで庇護を受けた記憶はありません。母にも、私にも」

将校「貴様が国を恨んでいようが関係はない。こうして兵を引き連れてやって来たのが庇護でなくて何だ」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:46:57.57 ID:YK9aznjmO

受付嬢「明確な協定違反です」

将校「貴様……」

受付嬢「彼が国の命に従うのを条件として、この街に自治を認め不可侵とする。私のような小娘は知らないと思いましたか?」

将校「『一定の自治権』だ。間違えるな。このような場合は適応されない」

受付嬢「では突然現れた挙げ句に何の説明もなく受け入れろと? そもそも、このような場合とは何でしょうか? あなた方の衣食住は誰が負担するのです?」

将校「負担? 守ってやると言っているのだ。提供するのは当然の義務だ」

受付嬢「口振りは略奪者のそれですね」

将校「何とでも言え。本来なら貴様のような輩に顔を出す必要などないのだぞ。こうして話してやるだけでも有り難いと思え」

受付嬢「貴方には呆れました」

将校「此方の台詞だ。さっさと戦士を引き渡せ」

受付嬢「そうですか、仕方ありませんね。いいでしょう。その代わり、この街から兵を連れて引き上げて下さい」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:49:19.36 ID:YK9aznjmO

将校「良いだろう」

受付嬢「随分と聞き分けが良いですね。最初からそれだけが目的ですか? 兵士を多く引き連れて来たのもこの交渉の為だけに?」

将校「答える必要はない。そんなことよりさっさとしろ。こんな街、一分一秒も早く出て行きたい」

受付嬢「ではどうぞ、此方が戦士になります」

ゴトンッ

将校「何だそれは……」

受付嬢「見ての通り遺骨です。捕縛することは叶わず、交戦中に放った魔術で燃えて尽きてしまったようです」

受付嬢「我々としては戦士がそれほど重要人物だと思っていませんでした。まあ、こうなっては仕方がありません。
    兵士を先に向かせるのではく上官である貴方が先に来ていればまた違った結果になっていたかもしれませんね」

将校「ふざけるな!!」

受付嬢「喧しいですね。これはお渡ししますので、約束通り街からお引き取り下さい」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:52:44.57 ID:YK9aznjmO

将校「認められか、こんなこと」

受付嬢「此方としては最大限譲歩したつもりです。各地の請負人、各地の傭兵と敵対することなく生きて帰ることが出来る。それだけでは不満ですか?」

将校「こんな街一つを落とすのは容易いぞ」

受付嬢「そうでしょうね。そして、彼が国に従う理由も失われる。そうなれば彼は王を殺すでしょう」

受付嬢「彼は執拗に王の命のみを狙う。何年何十年経とうと必ずやり遂げる。犠牲も出るでしょう。例えば唯一の男児であり、武勇で名を馳せている王子ですとか」

将校「……」ギリッ

受付嬢「王は死ぬまで怯え続けることとなる。つまり貴方は、王の平穏を脅かすと言っているのですよ?」

将校「…………っ、いずれは例の傭兵も死ぬ。この街の平穏など長くは続かない」

受付嬢「しかし、それは今ではありません。さあ、お引き取りを」

将校「後悔することになるぞ」

受付嬢「お気を付けて。この街には多く傭兵が暮らしています。大半は気のよい良識ある方々ですが、中にはそうでない方もいますので」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:54:18.79 ID:YK9aznjmO

将校「ッ、失礼する!!!」

ガチャバタンッ!

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……最近は噂や伝説ばかりが一人歩きして、約定を知らない方が増えましたね。兵士にも、傭兵にも、街の人々にも」

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「……」ペラッ

受付嬢「……」カリカリ

受付嬢「…………しかし、国があれ程まで躍起になっているのは少々気になりますね。何か情報は得られたでしょうか」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:55:12.00 ID:YK9aznjmO

第九話 枷

終わり
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/30(日) 00:55:59.07 ID:YK9aznjmO
短いけどここまで
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/30(日) 02:23:00.73 ID:NgD/Eq0/0
乙!
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/04(金) 00:56:07.12 ID:MmUC4cqDO

面白い
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/06(日) 14:28:49.76 ID:zW/Xmae9O

面白い最初から一気に読んだわ
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:17:31.28 ID:tKLIg0wqO

第十話

酒場の地下。

この机と椅子二つだけが置かれた狭い室内で、魔法使いと戦士は机を挟んで対面していた。

傭兵は戦士の背後に立ち、二人の様子を眺めている。口を出すつもりはないようだ。

壁に掛けられた光源がどこからか吹く隙間風でかたかたと揺れている。

魔法使い「もう話せる?」

戦士「……ああ、もう何ともねえ。ただ斬られた感覚が残ってるだけだ。首が妙にむず痒い」

魔法使い「アンタはどこも斬られてないし何もされてない。ただ気を失っただけだよ」

戦士「実際はそうなんだろうが確かに斬られた感覚があった。首を剣がするって抜けてくっつーか、首の中に冷たい息を吹き掛けられたみてーな」

魔法使い「ち、ちょっとやめてよ、聞いてるとゾワゾワしてくるから言わないで。そもそも聞いてないし」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:19:13.00 ID:tKLIg0wqO

戦士「なあ、どうやったんだ?」クルッ

▼傭兵は首を振り、魔法使いを指差した。

魔法使い「アンタに何が起きたのか、それが先だよ」

戦士「……分かったよ」クルッ

魔法使い「まず、失踪したって聞いたけど」

戦士「報酬貰いに行く前に宿で夕飯食ってた。そんで急に眠くなって、起きたら妙な場所に居た」

魔法使い「妙な場所?」

戦士「真っ暗な部屋で素っ裸で台に寝かされてたんだ。声がやたら響いてたから広かったのは分かる」

魔法使い「そこで何かされたの?」

戦士「何かをされたんだろうが何をされたのか分からねえ」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:23:21.85 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「何かされたって分かるのは何でさ」

戦士「感覚が冴えてんだ。調子が良いっつーか、絶好調の状態が続いてる。魔術も前より素早く使えるしな。大したことねえと思うかも知れねえが、これはかなり大きい変化だ」

魔法使い「……そこにいた奴は? 顔とか分かる?」

戦士「姿は見えなかったけど男の声だった。お喋りな奴だったよ。こっちは意識が朦朧としてんのにずっと喋ってた」

魔法使い「なんて?」

戦士「はっきり覚えてるのは、お前のことと亡国の傭兵のことだ。同志がお前を迎えに行ったら酷い目にあったと言ってた」

魔法使い「……(同志)そいつの名は分かる?」

戦士「いいや、名は言わなかった。分かるのはお喋りな男だったってことだけだ」

魔法使い「(呪術師の仲間か)それで、アンタはそこからどうやって逃げたの?」

戦士「逃げたんじゃない。また目が覚めたら野っ原に転がってたんだ。服と装備は戻ってた」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:24:39.52 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「この街に来た理由は?」

戦士「がらにもなく悩んだ結果、どうせ死ぬならやりたいことやって死のうと思ったんだ」

魔法使い「それ、どういう意味?」

戦士「近い内に死ぬ、そう言われた。何かされたのは事実だ。これも本当だろう」

魔法使い「何で分かるのさ。そいつの嘘かも知れないじゃん」

戦士「俺がそう感じるからだ」

おそらく本人だけが感じ取れるものなのだろう。

戦士の確信に満ちた表情を前に、魔法使いは否定することが出来なかった。

魔法使い「なら、アンタは死ぬ為にこの街に来たってわけ?」

戦士「そんな後ろ向きな理由じゃねえよ。悔いのない生き方をしようとしただけだ。本当なら素で挑みたかったけどな」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:26:39.32 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「他にはない? その真っ暗な場所には何かなかった?」

戦士「他にも俺のような奴がいると言ってたが、この目で見た奴はいねえな」

魔法使い「子供はいなかった? 小さな子供」

戦士「子供? そいつ以外には誰もいなかったぜ? 声も聞こえなかった」

魔法使い「……」

戦士「子供がどうかしたのか?」

魔法使い「私を襲った呪術師って奴は強い魔力を持つ子供を集めてるみたいだった。そいつらは多分、子供を攫って何かしてる」

戦士「何かってのは?」

魔法使い「それは分からない。でも、私が倒した魔物の亡骸が子供の遺体に変わった。何かしてるのは間違いないよ」

戦士「……チッ、何だそりゃ。俺ぁそんな奴等に体弄られたのか、ついてねえな」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:27:47.57 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「あのさ……」

戦士「何だ?」

魔法使い「アンタにその気があるなら、一緒にそいつらを追わない?」

戦士「急だな」

魔法使い「オッサンに頃合いを見て頼んでみろって言われたんだけど……下手くそだったかな?」

戦士「下手くそじゃねえけど唐突な感は否めねえな。つーか言っちまうんだな、そういうの」

魔法使い「こういうの慣れてないんだよね……」

戦士「下手に口が上手い奴よりはマシさ」

魔法使い「で、どうすんの? これは強制じゃない。断っても構わないよ?」

戦士「やるよ、断っても死ぬのを待つだけだしな。お前は良いのか?」

魔法使い「アンタは嫌な感じしないから構わないよ。オッサンも褒めてたし」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:28:43.76 ID:tKLIg0wqO

戦士「褒めてた? 亡国の傭兵が俺を?」

魔法使い「うん。しっかり自分を理解して長所を上手く生かしてるってさ」

戦士「そうかあ、褒められると悪い気はしねえなあ……へへっ」

魔法使い「惚れ惚れするくらい単純だね 」

戦士「うるせえ。で、何すんだ?」

魔法使い「調査っていうか、そんな感じ。情報足りないしね。今回のも調査の延長だし」

戦士「調査ね。それって俺とお前の二人でやるのか?」

魔法使い「なわけないでしょ。私とアンタとオッサンの三人だよ」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:29:41.27 ID:tKLIg0wqO

戦士「亡国の傭兵も一緒にか!?」ガタッ

魔法使い「なに興奮してんのさ……」

戦士「お前、これがどれだけ貴重な経験なのか分からねえのかよ。伝説の存在なのに……」

魔法使い「助けてもらったから感謝はしてるけど憧れとかはないし、そもそも伝説とか知らん」

戦士「この機会に教えといてやる。いいか良く聞け、亡国の傭兵は」

魔法使い「それさ、長くない?」

戦士「あん?」

魔法使い「亡国の傭兵って呼び名だよ。アンタ、これから一緒に行動するんだよ?」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:30:38.19 ID:tKLIg0wqO

戦士「そ、そうか……」

魔法使い「どしたの?」

戦士「なあ」

魔法使い「なにさ」

戦士「……なんて呼んだらいいと思う?」

魔法使い「うわ気持ちわるっ!! 憧れの年上男子と付き合いたての女子かお前は!!」

戦士「うるせえ!! これはアレだ、憧れてるからこそのアレなんだよ!!」

魔法使い「いや、アレって言われても分からんし……あ、そうだ」

戦士「先に言っとくけど、お前みたいにオッサンとか呼ばねえからな。普通に失礼だから」

魔法使い「うっさいな、それくらい私だって分かってるよ。っていうか真面目か……」

▼傭兵は二人の様子を眺めて微笑んでいる。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:31:32.12 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「なに笑ってんのさ……」

戦士「で? 思い付いたやつは?」

魔法使い「先生だよ、先生。アンタもそう言ってたし先生でいいじゃん」

戦士「……」クルッ

戦士「先生、短い間でしょうがご指導ご鞭撻の程宜しくお願い致します」

▼傭兵は困ったように頬を掻いた。

魔法使い「堅苦しいよ。オッサンも困ってんじゃん……」

戦士「礼儀だよ礼儀。俺は先生に対して友達感覚で接するつもりはない」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:33:09.52 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「あっそ。で、この後はどうすんの、センセ」

▼傭兵は答えた。

魔法使い「受付さんに報告ね、分かった。じゃあ一旦上に戻ろうか」

戦士「何でお前が仕切ってんだよ」

魔法使い「オッサンに任されたの。不満ならオッサンに言ってよ」

戦士「なあ先生、何でこいつに任せてんだ?」

魔法使い「先生にタメ口かよ、礼儀はどうした」

戦士「あんなのは最初が良ければいいんだよ。細けえ奴だな」

魔法使い「……」イラッ

戦士「何だよ」

魔法使い「次、私に反抗的な態度取ったら追放ね」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:38:47.26 ID:tKLIg0wqO

戦士「ガキかよ……」ボソッ

魔法使い「はい追放」

戦士「横暴過ぎんだろ!!」

魔法使い「うっさいなぁ……」

▼傭兵はにこにこ笑っている。

魔法使い「ほ、ほらっ、さっさと行くよ!」

戦士「はいはい……」

▼傭兵は嬉しそうに眺めている。

戦士(……笑うんだな、この人も。つーか、もう二度と戦えねえのか。出来ることなら)

魔法使い「何してんの、行くよ」

戦士「おう」

戦士(出来ることならもう一度……いや、生かされといてそれはダセえ)

戦士(けど、戦って死にてえなぁ)
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:42:15.72 ID:tKLIg0wqO

>>>>応接室

▼傭兵は説明した。

受付嬢「話は分かりました。では、戦士も調査に加わるわけですね?」

▼傭兵はにこりと笑った!

受付嬢「そうするに至った経緯は後でしっかりと聞かせて下さい。良いですね?」

▼傭兵は真面目に頷いた。

受付嬢(この短期間に二人……きっと、何か考えがあってのことなのでしょう)

魔法使い「受付さん、そっちはどうだったの?」

受付嬢「変わったことはありません。将校は兵を引き連れて街を出ました。長居したくないというのは本当だったようです。安心しました」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:45:02.95 ID:tKLIg0wqO

魔法使い(冷たい声だ。嫌なこと言われたのかな……)

受付嬢「しかし、折角捕らえたと言うのに大した情報を得られなかったのは残念ですね」

戦士「そいつは悪かったな」

受付嬢「貴方の発言は許可していません」

戦士「え、酷くねえ?」

魔法使い「何か分かったことはある?」

戦士「無視すんな」

受付嬢「集団の仕業であるのは確実でしょう。魔術師が複数関与していると思われます」

戦士「なあ」

魔法使い「ん〜、戦士の話だと他にも何かされた傭兵がいるみたいだからね」

戦士「……」

受付嬢「ですが今のところ戦士以外にそのような存在は確認出来ていません」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:46:51.60 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「だけど、まだいるかもしれない」

受付嬢「念の為、各地の同業者には失踪後に現れた傭兵に注意するよう呼び掛けます。しかし、肉体を強化するなど……」

魔法使い「本当に出来るのかな、そんなこと」

戦士「嘘じゃねえからな。証明しろって言われても出来ねえけどよ」

受付嬢「本人が明確な変化を感じている以上、気のせいではないのでしょう。もし可能なのだとしたら現代の技術ではないことは確かです」

魔法使い「戦士に何をしたんだろ?」

戦士「それは俺も気になるとこだな」

受付嬢「将校は遺体でも構わないと言った風でした。その道に詳しい人物に依頼して解剖すれば分かるかもしれません」

魔法使い「解剖は止めとこう……ところでさ、国もそいつらを追ってるんだよね?」

受付嬢「はい、傭兵だけならば無視するでしょうが、子供の失踪事件とも関連性がある以上無視出来ないでしょう」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:48:09.09 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「それなのに将校って人は何も言わなかったわけ?」

受付嬢「向こうは向こうで解決するつもりなのでしょう。私のような請負業者や傭兵の手など借りたくないのですよ」

魔法使い「だとしても、何の説明もなく戦士を引き渡せってのは無理があるよ」

受付嬢「何か言えない理由があるのでしょうね。例えば、戦士に施されたであろう何かを流用しようとしているとか」

魔法使い「うわあ、だとしたら汚いなぁ」

受付嬢「そんなものですよ。たかが傭兵一人の為に大勢でやって来るなど絶対に有り得ませんから」

魔法使い(絶対、か……)

受付嬢「魔法使い」

魔法使い「なあに?」

受付嬢「まだ朝ですが、今日のところは休んで下さい。他の街の同業者などから情報提供があれば彼を通して報せます」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:48:57.69 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「え、でも……」

受付嬢「一週間続けての調査など初めての経験だったでしょう? この先も調査は続きます、無理は良くありません」

魔法使い「……ありがとう。あ、そうだ、戦士はどうなるの? 寝床とかさ」

受付嬢「此方で提供しますのでご安心を」

戦士「お、そりゃ助かるな」

受付嬢「監視は付けます。ご理解下さい」

戦士「構わねえよ」

受付嬢「ありがとうございます。では魔法使い、戦士を案内して頂けますか。場所はこの紙に書いていますので」
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/08(火) 01:50:14.77 ID:tKLIg0wqO

魔法使い「ん、分かった」

戦士「で? 今日はもう終わりか?」

受付嬢「ええ、二人は下がって結構です。貴男は残って下さい」

▼傭兵は頷いた。

魔法使い「……戦士、行こう。んじゃ、またね」

戦士「先生、またな」

ガチャ パタン

受付嬢「さて、魔法使いに続いて戦士ですか。依頼を受けた時からそうするつもりだったのですか?」

受付嬢「保護?」

受付嬢「確かに、将校の様子から察するに国に狙われる可能性はあります」

受付嬢「ですが、保護であれば此方でも可能です。貴男の傍に置く必要はないと思いますが」
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