勇者「彼は正しく英雄だった」

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351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:42:45.53 ID:8oN8VcFcO

魔法使い「負けないよ、絶対」

武闘家(私から学んだのね。この短時間で遠隔発動させるなんて、子供の成長って怖いわぁ)

▼戦士は隙を見逃さず一気に間合いを詰めた!

▼一撃狙いから切り替え、連続攻撃を仕掛ける!

武闘家「元気いっぱいね」

戦士(こんだけ手数を増やせば、気流操作だけじゃ防げねえはずだ)

武闘家(流石に押されてきたわね。ちょっと距離を取らないとマズいかしら)

▼武闘家は砂を巻き上げて飛び退いた!

▼戦士は砂煙に飲み込まれてしまった!
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:43:25.48 ID:8oN8VcFcO

戦士(逃がすかよ)

▼戦士は刃を伸ばし、砂煙の中から何度も振り抜いた!

武闘家(無茶苦茶だけど、こういう攻撃が一番厄介だわ。もう少し離れましょ)

魔法使い「……」

武闘家「ふぅ」スタッ

魔法使い「今」

▼武闘家が着地した瞬間、足下から火柱が上がった!

▼飛び退いて躱したが、着地するたびに火柱が上がる!

武闘家「か、可愛い顔してえげつない魔術使うわね!?」

魔法使い「アンタのお陰だよ。勉強になった」

武闘家(一度の戦闘で此処まで……才能もあるんでしょうけど、伸びが速過ぎる)
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:44:16.90 ID:8oN8VcFcO

武闘家(上に逃げるしかないわね)

▼武闘家は宙に浮いた。

武闘家(でも、飛んだら飛んだで……)

戦士「……」

武闘家「そうよね〜」

▼戦士は容赦ない連撃を繰り出した!

▼出鱈目な太刀筋が襲い掛かる!

武闘家(これはもう、私じゃ無理ね……)

▼武闘家は胸を切り裂かれ、地に落ちた。

武闘家(血が……でも、当然の報いよね。沢山悪いことしたんだもの)
 
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:45:47.50 ID:8oN8VcFcO

戦士「……」

魔法使い「……」

武闘家「さあ、殺しなさい。殺して、彼の所に行きなさい。まだ、間に合うわ」

魔法使い「殺さないよ。これは仕事じゃないし、殺したってお金にならないし、得るものないし」

武闘家「そう言えば、傭兵だったわね……」

戦士「魔法使い、このままだと死んじまう。傷口を焼いてやれ」

魔法使い「うん。行くよ、オカマ」

武闘家「……彼は貴方達を待ってるわ。私には分かるの。きっと、本当は、そうなることを望んでる。そういう、目をしてたわ」

魔法使い「……」

▼魔法使いは傷口に燃え盛る炎を押し付けた!

▼武闘家は気を失った。

戦士「……行こうぜ」

魔法使い「うん、行こう」

▼二人は走り出した。
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:48:54.83 ID:8oN8VcFcO

第三話 講座

終わり
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:55:20.24 ID:8oN8VcFcO

第四話

「ハァッ、ハァッ」

戦場は死に溢れていた。魔術師は今尚も突撃を繰り返し、命を散らし続けている。

恐怖も、戸惑いも、躊躇いもない。軍勢の意思は死に向かっている。

兵士達もその異常性に心を挫かれつつある。無感情に突撃を繰り返す様は、悪夢に違いなかった。

賢者は今や狂ったように魔術を連発し、敵が滅び去ることのみを欲している。

それは勝利の為ではなく、戦を終わらせる為でもなく、この地獄から一刻も早く抜け出す為に藻掻いているようだった。

(酷い、酷過ぎる。この戦には何もない。意志も目的も野望も未来も見えない。ただの殺戮だ)

監視者はその有り様を眺めるしか出来なかった。血止めはしたものの、体は自由に動かない。

霞む目を凝らして辺りを見渡すが、彼女の姿は見当たらない。
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:56:36.70 ID:8oN8VcFcO

軍勢の魔術に巻き込まれてしまったのだろうか、それとも既に逃げ出したのだろうか。

監視者は後者であることを祈りながら戦場を這い回り、何処にも彼女の姿がないことを確認しようとした。

這い回る彼を気にする者は一人もなく、彼だけが戦場にいながら戦場を眺めていた。

軍勢でありながら、まるで一つの意思を持つ生物のように魔術師達は突撃を繰り返す。

命に尊さなどないと、命に価値などないと、それを命を以て証明しているかのようだった。

「君たち、もうやめたまえ。やめたまえよ」

監視者には、最早耐えられなかった。

彼は人間が幾ら死のうと自分の心が動くことはないと、そう思っていた。

どの生物より知性がありながら、どの生物よりも野蛮で愚かな人間が心底嫌いだった。

彼女だけが心の拠り所だった。彼女の自由を尊敬し、羨望し、時には癒されもした。

そんな彼女を脅かし、下らぬ戦にさえも巻き込む人間を、彼は更に嫌った。

だがそれでも、ざまあみろとは思えなかった。何故なら、彼はまだ人間であるからだ。
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:57:04.43 ID:8oN8VcFcO

「頼む、やめたまえ……」

最早、戦場に人の声は届かない。命を擲つ獣と、命を奪う獣しか存在しない。

「君たち、もう、死ぬのはやめたまえ」

「命は美しい。それを捨てるなど、あってはならないよ」

「だから君たち、やめたまえよ」

戦場にあって命の尊さを説くなど馬鹿げていると彼自身も思った。しかし、言わずにはいられなかった。

五体を投げ出して懇願を繰り返す彼を、無感情な魔術師達が見ていた。

彼はそれに気付かず懇願し続けたが、耳を傾ける者はない。彼は遂に諦めかけた。

その時だった。

何処からか彼女の声が聞こえた。か細く、弱々しく、今にも息絶えそうな声がした。

監視者は声のする方向へ向かおうとしたが、今や正確な方向など分かるはずもなかった。

視界はぼやけ、音もはっきりとは聞こえない。さっきの声も幻聴である可能性がある。

(あれは確かに彼女の声だった。こっちだ、きっと、こっちから聞こえた)
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:59:23.57 ID:8oN8VcFcO

彼女がいるなど信じたくはなかった。

しかし彼は、彼女もこの地獄に囚われ、血肉と骨の海で藻掻いていることを確信した。

(あの声はきっと助けを求めているに違いない)

彼には満足な防具も武器もないが、医療箱ならあった。

中には万が一彼女が傷を負った時の為に作った物が入っている。監視所で日夜作り続けた治療薬。

様々な生物に試したが、彼女に効くかどうかなど分からない。それでも作ったのは、こんな時が来ると分かっていたからかもしれない。

一心不乱に這い続け、彼は遂に彼女の下へ辿り着いた。彼女も彼同様、地に伏している。

「ああ、なんてことだ……」

胸には槍で貫かれたであろう深い傷がある。他にも傷はあるが、これが致命的な一撃だったのだろう。

彼は彼女に寄り添い、体に巻き付けていた医療箱から小瓶を取り出した。
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 02:00:02.78 ID:8oN8VcFcO

「許してくれ」

調合した薬を傷口に垂らすと、体がびくんと跳ねた。彼はそこに、そっと手をかざした。

すると、傷口に垂らした液体は弾力性と粘着性のある膜のようなものに変化した。

それは傷口を被い、血止めの役割も果たしている。彼は他の傷も同様に治療した。

更には新たな薬品を垂らし、膜の成分を変えたりもした。それは彼女の反応を見て下した決断だった。

実際に医療経験はなく勘に頼っただけの治療だったのだが、奇跡的にその全てが的中したようだ。

最後は懐から水筒を取り出し、その全てを彼女に飲ませた。これが、彼の精一杯だった。

彼女は少し楽になったのか、彼の顔を見つめている。彼も、彼女を見つめ返した。

しかし、彼女はふいと目を逸らした。
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 02:01:03.43 ID:8oN8VcFcO

「君よ、どうした?」

彼女はじっと一点を見つめている。視線の先には狐と大猿がいた。

此処から程近い場所に倒れていることから、三体には何か特別なものがあったのだろう。

狐と大猿は彼女同様に深く傷付き、この地獄の更に底へと誘われようとしている。

「酷い……」

彼が気付いたのを見て彼女はもう一度、彼を見つめた。その双眸には強い願いがあった。

「彼等を救えと、君はそう言うのかい?」

彼女は答えない。ただ彼を見つめている。魂に訴え掛けるように。

「……分かった。やってみるよ。君が望むならば、私はそれを叶えよう」

彼は彼女の下を離れ、這って彼等の下へ向かった。満身創痍ではあるが、気力はかつてない程に漲っていた。

彼女に託された願いを叶えんと使命感に燃え、激しい痛みすら気にならなくなった。
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 02:02:10.00 ID:8oN8VcFcO

「やはり、酷いな」

辿り着くと、彼女と同様の治療を開始した。

極度に集中している為か戦場の音は消え去り、負傷した彼等以外の者は目に入らない。

彼は治療を終わらせると、直ぐさま彼女の下へと戻った。

「終わったよ。きっと助かる。少し、休ませてくれないか」

触れられる距離にありながら彼女には一切触れず、傍らに横たわった。

彼女の傍らにいられるだけで彼は満足だった。

彼女も何をするわけでもなく、ただ彼の様子を眺めている。

「何だ?」

先程まで治療に集中していたため気が付かなかったが、周囲に魔術師達が集まっていた。

何も言わず、彼と彼女に背を向けながら取り囲むようにしている。

「君たち、私達を守っていてくれたのか?」
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 02:02:48.13 ID:8oN8VcFcO

答えはない。

魔術師達の輪は幾重にも重なっているようで、兵士達の姿は確認出来ない。

音も止んでいる。どうやら突撃も停止しているようだ。

監視者は不思議に思ったが、もう一度だけ言ってみることにした。

「君たち、もうやめたまえ。命は、こんなにも美しいのだから」

すると、魔術師達が一斉に振り向いた。足音が何重にも重なって聞こえるのは気のせいではない。

彼の言葉に全ての魔術師が振り向いた。彼は心底驚いたが、不思議と怖ろしさはなかった。

「分からないが、終わったのか? であれば、こんな所にはいない方が良い。もう沢山だ」

魔術師達は何も言わず、彼を見つめている。

何かを求めているような目で、彼の言葉をじっと待っている。

「……良ければ、私達を安全な場所に送ってくれないか? 彼女を休ませてやりたいんだ」

すると、数名の魔術師が彼を担ぎ、更に数名が彼女を丁重に持ち上げた。

そして魔術師達は、彼と彼女を担いだまま何処かへと向かって歩き出した。
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/27(日) 02:03:35.92 ID:8oN8VcFcO

第四話 伝導

終わり
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/27(日) 02:04:06.03 ID:8oN8VcFcO
ここまでです、ありがとうございます。
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 03:17:12.47 ID:ZeZyagcDO
乙乙
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 06:35:03.14 ID:VpbOJ85HO

今1番面白いSSだわ
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:04:23.80 ID:IrdoZQX9O

第五話

爆音轟く戦場の反対側、塔の西側では、剣の鳴らす金属音だけが響いていた。

そこは無数の岩石が転がる足場の悪い岩山。

二人は岩から岩へと飛び移り、鮮やかに舞いながら幾度も衝突する。

一人は消極的に避けながら戦っているが、もう一人がそれを猛追し、決して逃がそうとはしない。

回避、追跡、衝突を繰り返す。そのたびに足場の岩は崩れ落ち、狙いの逸れた剣が岩を割った。

一人が再び回避を試みる。しかし、もう一人が回避方向にある巨大な岩の上に降り立った。

両者は向かい合って剣を構えた。その構えは鏡に映したかのように酷似している。

両者の剣を見ると僅かな刃毀れしか確認出来ない。おそらく、特殊な方法を用いて作成されたのだろう。

剣の強度に差は見られないが、その所持者には明確な差が出始めていた。
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:06:30.31 ID:IrdoZQX9O

(このままでは……)

幾度の衝突と激しい攻防の中で、勇者は徐々に傷を負い始めていた。

傷は浅いものの、それは防具に助けられた結果であり、胸当てだけを見ても夥しい数の傷跡が刻まれている。

今のところ体力が尽きる心配はないが、一度でも下手を打てば死に直結する逼迫した状況下では、それも時間の問題と言えた。

経験に差はあれど技術面では決して劣っていない。にも拘わらず、ことごとく打ち負けている。

(何故、何も言ってくれないのですか)

その最大の要因は、勇者の迷いにあった。

彼は傭兵を師として信頼し、慕っている。過ごした時は戦士や魔法使いと比べものにならない。

その師が自分と同年齢にまで若返り、言葉なく襲い掛かって来たのだから動揺するのも当然のことだろう。

何を問おうと答えてはくれないが、師が自分を殺そうとしていることだけは否定しようのない事実だった。
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:07:27.51 ID:IrdoZQX9O

一方の傭兵には傷一つなく、巨大な岩の上から悠然と勇者を見下ろしている。

ほんの一瞬、何処か遠くを見るように目を細めたが、すぐに視線を戻した。

その表情は冷酷で無慈悲。一見すると心ない人形であるかのように見えるが、瞳の奥には窺い知れない何かがある。

そんな彼を見上げる勇者の姿は、父に突き放された息子のようであった。

悔しさ、歯痒さ、苛立ち、悲しみ、様々な感情が綯い交ぜになって表れている。

その姿は父である国王と決別した時以上に苦悩し、打ち拉がれているようにも見えた。

(師よ、教えて下さい……こうなった理由、戦う意味を……でなければ、俺は……)

父と気軽に話すことの出来なかった彼にとって、傭兵はかけがえのない存在だった。

幼い頃から剣術の師として傍におり、おそらく、父である国王よりも多くの言葉を交わしただろう。

幼かった彼は、父にはない気軽さで接してくれる傭兵を大いに慕った。
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:08:58.59 ID:IrdoZQX9O

兄とも父とも呼べない師という存在が、父の愛を求める少年の支えになったのは想像に難くない。

そして年齢を重ね、師は国王によって祖国を滅ぼされた傭兵、亡国の傭兵であることを知った。

素性を知っても師への信頼が揺らぐことはなく、祖国を滅ぼした憎き国王、その息子である自分に笑いかける師を、彼は敬った。

それと同時に、何かを守る為には如何なる屈辱や苦痛にも耐えなければならないと知ったのだ。

(そうだ、どんな痛みにも……)

勇者は遂に迷いを振り払った。自分にも守らなければならないものがあると意を決した。

攫われた僧侶と子供達。狂った国王に生贄として差し出された民を一刻も早く救い出さなければならない。

そして、その狂った王を打倒する為には此処で終わるわけにはいかない。

勇者は逃げ回るのを止め、師に立ち向かうべく駆け出した。
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:13:39.31 ID:IrdoZQX9O

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戦士「見えるか」

魔法使い「うん、見つけた。今は離れてるっぽい。って言うか、何でセンセは勇者だけを?」

戦士「そうしなけりゃ人質殺すって言われたのかもな」

魔法使い「……受付さん、無事だよね?」

戦士「無事だからこそ先生は従ってる。そう思いたいけどな」

▼二人は双眼鏡で勇者と傭兵の姿を確認した。

▼岩場に身を隠し、飛び出す機会を窺っている。

魔法使い「あのさっ、あれは本当にセンセなのかな? もしかしたら別人かも」

戦士「魔力を欠片も持たない人間が二人もいるかよ。動きを見たろ、あれは先生だ」

魔法使い「でも、勇者と同い年くらいだよ? 勇者は王様が若返ったとか言ってたけど、何でセンセまで……」
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:15:53.60 ID:IrdoZQX9O

戦士「分からねえ。つーか、問題はそこじゃねえ」

魔法使い「分かってる。勇者が魔術を使ってないんでしょ?」

戦士「そうだ。勇者が消えた直後の雷鳴以降、音は一度もしなかった。今も使う気配がない。それが引っ掛かる」

魔法使い「確かに不可解だけど勇者は押されてた。単に使えないのかも知れない。戦士、行こう? もう考えてる時間はないよ」

戦士「待て、どう加勢するかが問題だ。判断を間違えると大変なことになる。それに、先生は俺達に気付いてる」

魔法使い「は? なわけないじゃんか、気付かれないようにこうやって離れてるんだよ?」

戦士「さっき大きな岩の上に立った時、こっちを見た。一瞬だけ、ちらっとな」

魔法使い「さすがに考えすぎじゃない?」

戦士「そうだと良いんだけどな……」
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:18:08.21 ID:IrdoZQX9O

▼戦士は思案している。

魔法使い「戦士、勇者が!!」

戦士(勇者、何故向かって行く。あのまま逃げ回ってりゃ……)

▼勇者は振り下ろされた剣を防いだ!

▼しかし、傭兵は剣に体重を掛けて押し込んだ!

▼勇者は何とか耐えているものの、身動きが取れない!

魔法使い「センセは本気だよ!? あのままだと勇者が殺される!!」

戦士(勇者が魔術を使わないのは何故だ。それが分からないままコイツを連れてくのは危険じゃねえのか?)

魔法使い「戦士ってば!!」

戦士「……俺が引き付けて勇者を逃がす。お前は後から来い、様子を見ろ。迂闊に飛び出すな、いいな」
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:19:10.60 ID:IrdoZQX9O

魔法使い「はあ? 逃がすなら一緒にやった方が」

戦士「勇者が魔術を使わない理由を確かめたい。勢いに任せて出て行くべきじゃない」

魔法使い「でもっ!!」

戦士「魔法使い、頼む。今だけは俺の言うことを聞いてくれ」

魔法使い「……っ、分かったよ」

戦士「ありがとよ……じゃあな」

▼戦士は勇者を救出すべく駆け出した!
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:20:22.44 ID:IrdoZQX9O

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勇者(剣を、逸らさなければ……)

▼しかし、剣はぴくりとも動かない!

▼ぎりぎりと音を鳴らし、剣が押し込まれる。

▼勇者の左肩に刃が深くめり込み、血が流れた。

勇者「ぐっ……」

傭兵「……」

勇者(これが、亡国の傭兵………!?)

▼傭兵の背後に戦士が現れた!

▼戦士は首を打ち据えようと剣を振った!

▼しかし、傭兵は勇者を蹴り付けて前に飛んだ!
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:21:47.82 ID:IrdoZQX9O

戦士(背中に目玉でも付いてんのかよ)

勇者「戦士、すまない。助かった……」

戦士「遅れちまって悪い。じっとしてろよ」

▼戦士は勇者の左肩に傷薬をかけ、破った布できつく縛った。

戦士「ひとまずは大丈夫だ」

勇者「それより魔法使いは?」

戦士「様子を見るように言ってある。あんたが魔術を使わないのは妙だと思ってな。使わない理由は何だ」

勇者「見せた方が早い」

▼勇者は傭兵に向けて雷撃を放った!

▼しかし、雷撃は傭兵の体を通過した。
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:22:41.04 ID:IrdoZQX9O

戦士「冗談だろ……」

勇者「変な表現になるが、魔術が認識していないように思える。そこに何もないかのようにすり抜けるんだ」

戦士「なら魔術は」

勇者「意味を成さない。物質を伴う魔術ならば可能性はあるが、俺と魔法使いの魔術では無理だ。剣で対抗する以外に術はないだろう」

▼傭兵は剣を構えた。

▼徐々に速度を上げて向かって来る。

戦士「行け」

勇者「何?」

戦士「先生の狙いはあんただ。俺が来た以上、あんたが馬鹿正直に戦う必要はない。
   そもそも俺達は救出に来た。先生を倒す為に此処へ来たわけじゃない。だろ?」
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:23:16.21 ID:IrdoZQX9O

勇者「それはそうだが……」

戦士「勇者、他の奴等は塔にいる。俺が足止めするから魔法使いを連れて塔へ行け。
   あいつは渋るだろうが、その時は髪を引っ掴んでも連れて行け。いいな」

勇者「戦士、聞いてくれ。師は本気だ。君一人に任せるより、共闘して無力化を狙った方がいい。
   俺は距離を取りながら戦えたが、足止めする以上、君は攻め続けるしかなくなる」

戦士「大丈夫さ、魔術込みならあんたに譲るが剣術だけなら俺に分がある。大体、傷だらけのあんたに何が出来る」

勇者「……」

戦士「迷っちゃ駄目だ。あんたにはこの後もやるべきことがある。そうだろ?」

勇者「…………分かった。だが用心しろ。正直な話、まだ底が見えない」

戦士「俺にも見えねえよ。ほら、さっさと行け。さっさと行って人質を救い出せ。それが馬鹿げた戦を終わらせる近道だ。頼んだぜ」
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:25:00.29 ID:IrdoZQX9O

▼勇者は頷き、走り出した!

▼傭兵は直ぐさま勇者の後を追った!

▼しかし、戦士が立ちはだかった!

傭兵「……」

戦士「させるかよ」

▼傭兵は激しく斬り掛かった!

▼戦士は剣を受け止め、逆に押し込んだ!

傭兵「……」

戦士(……受付さんは幸せ者だな。こんなにも必死になってくれる人がいるんだからよ)

▼傭兵は戦士の剣を弾き、斬り掛かった!

▼戦士は紙一重で躱した!

戦士(半端な攻撃じゃ止まらない、殺す気で行って何とかってとこか)
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:26:08.08 ID:IrdoZQX9O

▼戦士は斬り掛かった!

▼しかし、傭兵はそれより早く喉元を突いた!

戦士(あ、危ねえ……)

傭兵「……」

戦士(つーか、あんだけ勇者と戦った後だってのに疲弊した様子がねえ。体力どうなってんだ? 若返ったからか?)

▼傭兵は剣を振り下ろした!

▼戦士は身を躱し、なんと剣を踏み付けた!

▼戦士はそのまま横一線に振り抜いた!

▼しかし、傭兵は身を捩って躱した!

傭兵「……」

戦士(何だよ今の動き……でも、嬉しくて笑っちまいそうになるな)
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:29:24.64 ID:IrdoZQX9O

傭兵「……」スッ

戦士(何だ?)

▼傭兵は腰に手を回し、短剣を取り出した。

▼傭兵は左手に短剣を持ち、逆手に構えている。

戦士(もう駄目だ、耐えられねえ。自然と顔がにやけちまう。もう受付サンのことも、何もかもがどうでもよくなっちまってる)

傭兵「……」

戦士(俺の望みは断たれちゃいなかった。もう一度、亡国の傭兵と戦える。戦って死ねる)

▼傭兵が一気に間合いを詰める!

▼傭兵は剣と短剣の連撃を繰り出した!

戦士(余力があるな。まだ、上があるってのかよ)

▼連撃は更に激しさを増す!

▼戦士は攻撃を防ぎきれない!

戦士(……どうせ死ぬなら)
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:31:14.68 ID:IrdoZQX9O

▼戦士は構わず前に出た!

(どうせ死ぬなら、あんたがどれだけ強いのか、最期に教えてくれ)

▼戦士の体がたちまち傷だらけになっていく!

傭兵「……」

戦士(あんたを止める。俺の全てを擲っても)

▼戦士は剣に魔力を篭めた。

▼すると、刃から刃が次々と枝分かれし、爆ぜるように咲き誇った!

戦士(どうだ、これは一度も見せてねえ)

▼傭兵は複数箇所を貫かれた!

▼身を捩り急所を外したようだが、傷は深い。

傭兵「……」

▼しかし、傭兵の動きは止まらなかった!

戦士(ハ、ハハハッ、何だよ、これでも止まらねえのかよ、俺にはもう打つ手がねえんだぞ……)
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:32:53.24 ID:IrdoZQX9O

▼傭兵は刃の華を剣で叩き割った!

▼刃の破片が宙を舞う!

▼傭兵は戦士に斬り掛かった!

戦士「ぐっ……」

▼戦士は右瞼を切り裂かれた!

▼流れる血液が視界を染める。

戦士(あんだけやっても届かねえのかよ、止めるだけなら何とかなると、そう思ったんだけどな……)

▼傭兵は尚も攻め続ける!

▼戦士の体が、瞬く間に血に染まっていく!

戦士(やることはやった。俺にはもう何もない。もう、死に怯える必要もない……)

▼その時、攻撃がぴたりと止んだ。

▼傭兵が何かに気が付いたようだ。

▼戦士は傭兵の視線を追った。
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/03(日) 23:34:03.90 ID:IrdoZQX9O

魔法使い「戦士!!」

戦士「……馬鹿野郎」

▼魔法使いが現れた!

▼魔法使いは傭兵に数多の火球を放った!

▼しかし、火球は傭兵の体を通過した……

魔法使い「センセ、もうやめてよ……戦士が死んじゃう……お願い……」

▼魔法使いは泣いている。

傭兵「……」

▼傭兵は何も答えない。

戦士「ッ、この大馬鹿野郎!! 手を出すな!! 殺されるぞ!! さっさと逃げろアホ!!」

魔法使い「嫌だ!! 絶対に誰も死なせない!!」

▼魔法使いは滅茶苦茶に火球を放った!

▼しかし、傭兵には何も届かない……
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:35:56.61 ID:IrdoZQX9O

傭兵「……」

魔法使い「センセ……もうやめよ? ねえ、こんなの嫌だよ、一緒に帰ろう?」

戦士「いいから逃げろ!! 何もしなけりゃ」

▼傭兵は魔法使いに向かって走り出した!

魔法使い「ひぅっ……」

▼魔法使いは恐怖でへたり込んでしまった!

傭兵「……」

魔法使い「あ、あぁ……」

戦士「やめろ!! おい、ふざけんな!! そいつには何も出来ねえんだ!!」

▼戦士は動けない。

▼魔法使いは震える手でボウガンを構えた!
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:37:09.77 ID:IrdoZQX9O

傭兵「……」

▼傭兵は魔法使いをじっと見ている。

魔法使い「うっ、うぅっ……」

▼魔法使いは意を決して矢を放った!

▼しかし、矢はあらぬ方向に飛んでいった!

▼すると、傭兵は悲しげに魔法使いの首筋に手刀を

魔法使い「今」

傭兵「!?」

勇者(卑怯であることは承知の上。師よ、どうか許して下さい)

▼勇者は傭兵の背中に矢を突き刺した!

傭兵「……」

魔法使い「センセ、ごめんね……」

▼傭兵は蹌踉めき、膝を突き、倒れた。

▼すると、傭兵の呼吸は荒くなり、体は忙しなく震え、多量の汗を吹き出した。
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:45:25.87 ID:IrdoZQX9O

魔法使い「服を破いて!!」

勇者「あ、ああ!!」

▼勇者は急いで傭兵の衣服を破いた!

魔法使い「いくよ、センセ」

▼魔法使いは傭兵の左胸に何かを打ち込んだ!

▼すると体の震えは徐々に治まり、呼吸も少しずつ安定の兆しを見せ始めた。

勇者「どうなんだ?」

魔法使い「かなり早めに解毒薬打てたから大丈夫。でも毒が毒だし、しばらくは目を覚まさないと思う」

勇者「……そうか。しかし魔法使い、いつ解毒薬を?」

魔法使い「街を出る前に買ったの。毒薬を預かった時、必要になる気がしたんだ……上手く言えないけど、何となく、そんな気がした」

勇者(何となく……予感と言うやつか、馬鹿には出来ないな)
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:46:24.36 ID:IrdoZQX9O

魔法使い「勇者、ごめん……」

勇者「突然どうした?」

魔法使い「だってさ、後ろから刺すなんて嫌な役目を押し付けちゃったし……」

勇者「君が策を授けてくれたから戦士も師も死なずに済んだ。必要なことだったんだ、気にするな」

▼魔法使いは瞼を擦っている。

勇者「……さあ、早く戦士の所に行ってやれ。俺は此処で師の様子を見る。まずは傷を塞がないと」

魔法使い「そ、そうだね。傷口にはこれを貼り付けて縛って、何かあったらすぐに言ってね」

勇者「ああ、任せてくれ」

▼勇者と魔法使いは戦士の下へと駆け出した。
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:47:15.91 ID:IrdoZQX9O

魔法使い「戦士!!」

▼戦士は岩に背を預け、空を見上げている。

魔法使い「戦士、生きてる!?」

戦士「……おう、見た目ほど悪くねえ。それより先生は?」

魔法使い「いいから、じっとしてて」

▼魔法使いは治療を開始した。

▼服を切り、傷口を消毒し、瞼には薬を塗り込み、傷口を縫い始めた。

戦士「こんなの、いつ覚えたんだよ」

魔法使い「アンタの見張りをしてた時、センセが教えてくれた。色々勉強したんだ」
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:49:46.80 ID:IrdoZQX9O

戦士「……なあ」

魔法使い「なあに?」

戦士「先生は最初から分かってたのか? だから毒薬を?」

魔法使い「それは本人に聞いてみないと分かんないよ。でも、使って欲しいから渡したんだと思う」

戦士「俺達に殺されたかったのか、だから自分を確実に殺せる術を俺達に授けた……」

魔法使い「さあね……でも、センセは死なない。解毒薬打ったし、死なせないよ」

戦士「……」

魔法使い「どしたの?」

戦士「………さっきの嘘泣きか?」

魔法使い「使えるものは使おうと思ってさ。当たりもしない魔術よりは役に立ったでしょ?」

戦士「女は怖ぇな……」

魔法使い「うっさいな、私はどんなに不様でもセンセを止めようと思っただけだよ。
     あ、でも、女の人って本能的に涙の使い方を分かってるって聞いたことある」
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:51:18.70 ID:IrdoZQX9O

戦士「それは肝に銘じとく」

魔法使い「……ねえ、戦士」

戦士「あん?」

魔法使い「次に死のうとしたら許さないから。アンタは生きるの。生きなきゃダメ、死のうとしたって私が死なせない」

戦士「どんだけわがままなんだよ、人の気も知らないでよく言うぜ」

魔法使い「死ぬのが怖いなら、私が傍にいる」

▼魔法使いは戦士の目を見て言った。

▼すると、戦士の鼓動がどくんと跳ねた。

戦士「お前は怖ろしい女だな……」

魔法使い「うっさいな。はい、終わったよ」

戦士「ありがとな」

魔法使い「さ、センセのとこに戻ろ? 勇者も待ってるしさ」

▼二人は勇者の下に向かった。
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/04(月) 08:23:08.57 ID:LZUBm7yuO

勇者「来たか。戦士、傷はどうだ?」

戦士「あちこち縫われて調子が良くなった。あんたはどうだ?」

勇者「別れてすぐに魔法使いが治療してくれた。さっきよりは随分と楽になったよ」

▼魔法使いは傭兵に寄り添っている。

▼呼吸は先程よりも落ち着いていて、まだ発汗はあるものの出血も抑えられている。

戦士「どうだ?」

魔法使い「今のところ大丈夫そうだけど、こんなに冷えるとこで寝かせてたら悪くなる。傷も深いし、お医者さんに見せた方がいい。戦士」
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/04(月) 08:25:05.54 ID:LZUBm7yuO

戦士「何だ?」

魔法使い「センセをお願い」

戦士「でもお前」

魔法使い「次はアンタが言うこと聞く番だよ。そんな体で戦わせるなんて出来ない」

戦士「なのに先生を背負わせんのか、人使い荒いな……」

魔法使い「あ、そうだね。勇者も一緒に行く?」

勇者「いや、そうなると君が……」

戦士「お前が一人になるだろうが……」

魔法使い「私はどっちでも良いよ? 皆が心配だし早く決めよう?」

戦士「……分かった。俺一人でいい。勇者、そいつを頼む」

勇者「分かった。戦士、少し休んでから行くと良い。まずは監視所を目指して、馬に乗るんだ」

戦士「ああ、時間は掛かるだろうが出来るだけ急ぐさ」
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/04(月) 08:26:00.07 ID:LZUBm7yuO

勇者「戦士、師を頼む」

戦士「……おう、任せとけ」

魔法使い「んじゃ、もう行くね?」

戦士「早く来いよ? 先に街に行って待ってるからよ」

魔法使い「うん。勇者、行こう」

勇者「そうだな、随分と時間を食ってしまった。急ごう」

▼勇者と魔法使いは塔に向けて駆け出した。

▼戦士は二人の背中を見送った。
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/04(月) 08:31:26.12 ID:LZUBm7yuO

戦士「……」

戦士「先生、大丈夫さ。きっと上手く行く」

▼傭兵は気を失っている。

戦士「……さてと、行くか」

▼戦士は傭兵を背負って歩き出した。

戦士「……」

戦士「にしても、あいつも頼もしくなったもんだ」

▼その時、塔の頂上から眩い光が溢れた。

▼放出された光の柱は闇夜を切り裂き、天を突き、やがて消え失せた。

戦士「……何だ?」

▼一粒の光だけが残った。

▼塔の上空でたゆたう光は何度か明滅し、消えた。
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/04(月) 08:39:16.32 ID:LZUBm7yuO

第五話 救出

終わり
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/04(月) 08:56:32.66 ID:/oncBman0
乙!
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/04(月) 23:42:53.75 ID:bye2y3JdO

続きが気になって眠れねぇ
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:06:17.75 ID:ltwtokG1O

第六話

錬金術師「んん、着いたな」

踊り子(教会、でしょうか……)

地中から突き出たツタの中から、二人は現れた。

半壊した教会に人影はなく、夜更けということもあり静寂に包まれている。

穴の空いた天井から降り注ぐ月明かりを見て、踊り子は夜が明けていないことを疑問に思った。

砂漠の塔から都までは半日は掛かるはずなのだが、それ程時間が経過している様子はないからだ。

瞬間的に移動する魔術など存在しない、もしあるのならば広く普及しているはずである。

それとも錬金術師のみが可能にした魔術なのだろうか、だとしたら錬金術師とは何者なのか。

あの塔も、明滅する物体も、死をも怖れぬ軍団も、人々が魔物と呼称する生物も、全て彼が作り上げたのだろうか、踊り子の疑問は膨らむ。
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:07:51.01 ID:ltwtokG1O

錬金術師「兵の気配でも感じるのか?」

踊り子「いえ、便利な魔術だと思っただけです」

錬金術師「仕組みは実に簡単なものだ。そうだな、動きがあるまで少し話さないか」

▼錬金術師は壊れた椅子に腰掛けた。

▼その表情はとても穏やかで、塔で見せた冷酷非常な顔とは異なっている。

踊り子「動きとは? 他にも仲間がいるのですか?」

錬金術師「私に仲間などいない。すぐに分かる。さあ、君も座れ。待つのは退屈だろう」

踊り子「……」

錬金術師「私と話すのが嫌か?」

踊り子「はい、嫌です」

錬金術師「君は実に正直な子だな。では、これは命令だ。私の話に付き合ってくれ」
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:08:46.41 ID:ltwtokG1O

▼踊り子は心底嫌そうに椅子に腰掛けた。

▼錬金術師は満足そうに微笑み、語り出した。

錬金術師「時に、栂という木を知っているか」

踊り子「栂とは、咎人を磔にする際に使用されたと言われている木です」

錬金術師「その通りだ。若いのに良く知っているな。父親より頭の出来が良いようだ」

踊り子「……それで、その栂と貴方の魔術にどうのような関係があるのでしょう」

錬金術師「この杖は栂で出来ている。長い時の中で最も多くの咎人が磔にされた栂の木だ。では次に、人類に共通するのは何か」

踊り子「魔力でしょうか」

錬金術師「素晴らしい、実に模範的な不正解だ。答えは罪だ」
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:10:20.55 ID:ltwtokG1O

踊り子「罪」

錬金術師「罪とは普遍であり何処にでも存在する。どんな人間にも罪はある」

錬金術師「教会も罪を象徴する一つと言えるだろう。人は此処で祈り、告白する。人はいつも苛まれている」

踊り子「人そのものが罪であると言いたいのですか?」

錬金術師「それは行き過ぎだ。私はただ、罪は誰の心にもあると言っているだけだ。
     人はほんの些細な間違いをすら後悔し、己を縛り付ける。罪の芽生えは必ず起こる」

錬金術師「先程の魔術はそれを利用したものだ。関連付け、意味を持たせ、魔術とする。この栂の杖は、正に最適な素材だった」

踊り子「罪は何処にでもある、ですか」

錬金術師「少し違う。咎は何処にでも生える」

踊り子「では、貴方の考えでは栂の生らない場所などないと言うわけですか」

錬金術師「遙か昔、私はそう考えた。あの頃は楽しかった。新たな発見に満ちた日々だった。
     私は知識を独占せず、人々に役立てた。だが、人は更に魔術を嫌った」

▼錬金術師は寂しげに笑った。
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:12:16.34 ID:ltwtokG1O

踊り子「……」

錬金術師「……私はね、これは非常に傲慢な言い方になるけれども、魔術に愛されていた。
     当時としては魔力に恵まれていたし、比類なき魔術師であると自負していた」

錬金術師「だからだろうな。人々がそれを享受しないことが耐えられなかった。魔術を忌み嫌う、排他的な人々に暗い怒りを燃やした」

錬金術師「若かった私は、魔術を嫌う世相を変えようとした。魔術には有用性があり、人々の暮らしを豊かにする。そう信じていたからだ」

踊り子「貴方は戦ってしまった?」

錬金術師「怒りに任せてな。結果、私は全てを失い、魔術師は危険な存在であると決定付けられた。
     私が招いたのは理解からは程遠い、更なる不信と差別だった」

踊り子「それはきっと、遠い昔なのでしょう」

錬金術師「そう、遠い昔だ。国は数多くあり、戦はなく牧歌的で、和やかに停滞していた時代。今よりも遙かに平和だった」

▼錬金術師は杖を弄びながら遠くを見た。

▼遠い過去に思いを馳せているようだ。
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:14:19.31 ID:ltwtokG1O

踊り子「平和だからこそ、魔術が忌み嫌われたのでしょうか」

錬金術師「そうだな、戦があれば違っていただろう。当時、魔術に傾倒するのは愚か者のすることだった。
     そもそも異端であったし、悪魔と取引きしただとか根も葉もない噂も信じられていた」

錬金術師「魔術は世を乱す術、使用者は皆悪人であるとも言われた。実際、その通りになってしまったのだから間違いではないのだろうが」

▼錬金術師は自嘲的に笑った。

▼杖を握る手には力が篭もっている。

踊り子「それなのに再び戦うのですね。私には理解出来ません」

錬金術師「戦わなければ自由を掴めない。これだけは変わらない。その為に戦う理由を作った。これは贖罪であり、過ちを雪ぐ為でもある」

踊り子「そうまでして魔術師の支配する世を目指す意味が分かりません」

錬金術師「私が招いた結果とは言え、自由を奪われたままでは時代も魔術も進歩しない。それに、私個人としても王家には貸しがある」
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:16:28.73 ID:ltwtokG1O

錬金術師「王家に限った話ではないがな」

踊り子「やはり、私には理解出来ません」

錬金術師「それでいい、私は誰かに話したかっただけだ。今夜は特にそんな気分だった」

踊り子「気紛れに付き合わされる身にもなって下さい。答えのない会話は疲れます」

錬金術師「……」

▼錬金術師は踊り子をじっと見つめている。

踊り子「何でしょうか」

錬金術師「初めて会った時にも思ったが、君は母に似たな」

踊り子「はい?」

錬金術師「君の家系とは縁が深い。君の母があの男と結ばれたと知った時は驚いた」

踊り子「父は既に他界していると言ったはずです。私は彼の子ではありません」

錬金術師「君がどう認識していようと両親が誰であるかは変わらないぞ」

踊り子「私の両親が誰であろうと貴方には関係ないでしょう」
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:21:17.05 ID:ltwtokG1O

踊り子「違いますか」

錬金術師「そうだな。君の両親が誰であろうと私には関係ない」

▼錬金術師は息を吐いた。

錬金術師「そして、君が誰を愛そうとも」

踊り子「貴方が嫌悪された理由が良く分かりました。世相を変えるより、その傲慢で人を見下した態度を矯正した方がよいと思います。少しは自分を見つめ直したら如何でしょうか」

錬金術師「……」

▼錬金術師は顎を摩っている。

踊り子「聞く耳など持たないでしょうね。貴方のような人間は変わらないですから」

錬金術師「いいや、聞いている。ただ懐かしくてな、昔を思い出しただけだ。君との会話は想像していた以上に楽しい」

踊り子「意味が分かりません。不愉快です」

錬金術師「嫌われたものだな。私のお陰で脚が治ったと言うのに」
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:25:37.53 ID:ltwtokG1O

踊り子「私の脚を治したのは貴方ではなく僧侶という女性です。そういう所が気に嫌悪される原因なのではないですか」

錬金術師「それも良く言われた。恩着せがましく知りたがりで、傲岸不遜で厚顔無恥な最低の男だとな」

踊り子「そうですか、その方とは気が合いますね。とても仲良くなれそうです」

錬金術師「……やはり、よく似ているよ」

▼その時、足音がした。

呪術師「いやいや、お待たせしました」

踊り子「呪術師……」

呪術師「私をご存知で?」

踊り子「貴方は彼に殺されたはずです。遺体もこの目で見ました。焼かれる瞬間も」

呪術師「私が亡国の傭兵に? あ〜、アハハハハ、成る程成る程、そうですか、そういうことですか」

錬金術師「報告しろ」

呪術師「申し訳ありません。そろそろ城が慌ただしくなる頃です。確か魔術騎士団でしたか? 彼等が脱走します。しかし、このような手間を掛けなくとも直接玉座の間に移動すれば容易く」
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:28:56.30 ID:ltwtokG1O

錬金術師「もういい」

呪術師「もしかして、そのお嬢さんとお喋りしたくて」

▼錬金術師が苛立たしげに杖を突いた。

▼すると呪術師の体は粉々に砕け散った。

▼そこには何も残っていない。

踊り子「今のは」

錬金術師「作り物だ。気にするな」

▼その表情は、塔で見せたものだった。

▼人としての温かさは、最早感じられない。

錬金術師「今宵、我々は自由を手にする。君にも協力して貰うぞ。躊躇いなど見せてくれるなよ」

踊り子「分かっています」

錬金術師「では、行くぞ」

▼錬金術師は杖を突いた。

▼すると、二人はツタに飲み込まれて消えた。
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:30:12.42 ID:ltwtokG1O
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国王「今は放っておけ」

魔術騎士団の脱走について、国王は然したる関心を示さなかった。

何者かが脱走を幇助したのは明白であり、その目的が城内の混乱だろうということは容易に想像出来た。

(おそらく魔術師結社の差し金だろうが、兵は動かさん)

僅かでも城内の兵士を減らすべきではない。国王はそう考えた。

魔術騎士団は勇者が設立した部隊、大方、勇者の下にでも向かうつもりなのだろう。

それより気掛かりなのは現在の戦況である。国王は玉座の傍らに跪く女性をちらと見た。

更にその傍には大量の武器の束を持つ大男が立っているが、黙して動く様子はない。
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:32:19.32 ID:ltwtokG1O

「占い師、戦況はどうだ」

占い師と呼ばれた不惑の女性は黒い装束に身を包み、目隠しをしており、鼻と口元は薄手の布で覆い、手も同様に薄手の手袋で隠れている。

見えるのは目と鼻の僅かな隙間くらいだが、薄手の布は若干透けていて、見れば整った顔立ちであることが分かる。

全身を覆う黒い装束の上からでも胸の膨らみは見て取れ、彼女が豊満な肉体であることも想像出来た。

その極端に肌の露出を嫌ったような衣装が、却って彼女の妖艶さを際立たせている。

「賢者を通して見ているのですが、何者かに襲撃されました。どうやら一般人のようです。
 今新たに魔術師の軍勢が現れました。今のところ問題はありません。冷静に対処しています」

占い師は淡々と告げた。

国王「その一般人とは何だ」

占い師「何の力もない一人の男です。賢者にも傷はありません。余程の運がない限り、魔術に巻き込まれ死亡するでしょう」
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:34:03.52 ID:ltwtokG1O

国王「勇者の姿はあるか」

占い師「いえ、賢者の目からは見えません」

国王「彼奴のことだ。どこぞにいるのだろうが、魔術師と事を構えるのなら我々にも有利に働く」

占い師「……」

国王「どうした」

占い師「何かが来ます。剣士、構えろ」

占い師は素早く王の傍に立ち、剣士と呼ばれた大男は大楯を構えて王の前に立った。

周囲の兵士達も警戒しているが、何が起きようとしているかなど分かるはずもない。

すると突如、床から木の根が生え、そこから伸びる触手のようなツタが次々と兵士達を薙ぎ払った。
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:35:34.24 ID:ltwtokG1O

「初めて見る魔術だ」

とは言うものの王に驚いた様子はなく余裕を見せている。玉座から動く様子もない。

兵士達を貫いた触手に動く気配はない。すると中央の根が裂け、そこから錬金術師が現れた。

国王「最初からこうすれば良かったものを、随分と回りくどい真似をするものだな」

錬金術師「そう急がずとも今夜中に終わる。朝日を拝むのは魔術師だけで良い」

国王「抜かせ、貴様にもう価値はない。砂の城など一夜で崩れ去る」

▼国王は雷撃を放った!

▼しかし、木の根によって防がれた。

国王「魔術だけでは、一筋縄ではいかんか」
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:36:32.97 ID:ltwtokG1O

錬金術師「踊り子」

国王「何?」

▼玉座の背後から木の根が襲い掛かった。

▼剣士は木の根を大剣で受け止めた!

▼すると木の根が裂け、中から踊り子が現れた!

▼湾曲した二つの短剣が振り下ろされる!

踊り子「覚悟」

国王「フン」

▼剣士が身を挺して攻撃を防いだ!

▼短剣は鎧を貫いて突き刺さった!

踊り子(血が出ていない。浅かったのでしょうか、確かに手応えはあったのですが……)

▼踊り子は剣士の肩を蹴り、錬金術師の傍に降り立った。
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:38:31.60 ID:ltwtokG1O

国王「小賢しい真似はするな、望むならば此処でケリを付けてやる」

錬金術師「若いな、血気盛んなことだ。貴様が国を奪い尽くしていた頃を思い出す」

国王「……傭兵はどこにいる」

錬金術師「相も変わらず恐怖に取り憑かれているようだな。あの男は戦場で貴様に何を見せた。まさか壊されたのか、王が、たった一人の傭兵に」

国王「答えろ」

▼国王は再び雷撃を放った!

▼しかし、木の根が防いだ。

錬金術師「まるで赤子だな。だが安心しろ、此処には来ない。ただ殺すだけでは意味がないからな」スッ

占い師「剣士!!」

叫んだが間に合わない。錬金術師は既に杖を突いている。のたうつ木の根が全員を呑み込んだ。
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:40:06.65 ID:ltwtokG1O
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「此処は……」

気付けば都中央の記念広場にいた。

真夜中であるにも拘わらず、広場の外周、円形交差点に沿って多くの人集りが出来ている。

突如現れた若返った王の姿に民衆は一様に驚き、中には王子だと思い込む者もいた。

しかし、身に付けた装飾品と所持する杖は間違いなく王の物であり、その人物が王であることは明らかだった。

(何故、民が此処にいる。これも錬金術師の仕業か、何を企んでいる)

占い師と剣士の姿はない。おそらく錬金術師の魔術によって分断されたのだろう。

「民の前でこそ、王が戦う意味があるだろう」

国王は錬金術師の姿を確認すると、声に答えることなく雷撃を放った。

それは王の証とも言える雷の魔術、広場は一瞬にして光に包まれ、民衆は王の放つ威光に息を呑んだ。
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:41:50.09 ID:ltwtokG1O

だが、光はもう一つあった。

広場の両端から放たれた二つの雷撃は轟音を立てて衝突し、やがて消滅した。

「たかが雷だ。術式を学ぶことが出来れば、誰もが使えるようになる」

その光景を前に国王は唖然とし、民衆は酷くざわついている。

驚くのも無理はなかった。雷は王家の者のみが持つ魔力の性質によって発現可能とされている。

この四大属性に属さない非常に稀有な魔術体系は、正に王家の象徴とも言える。

それを何処の誰とも分からぬ老人が使用した。これは冒涜と捉えられて当然の行為であった。

錬金術師は意に介した様子もなく、頭痛に顔を顰め、眉間を押さえたまま語り出した。

「今も昔も、支配者という生き物は変わらない。
 魔術師から世界を守るなどと言いながら私の魔術を羨み、妬み、忌避し、その上で全てを奪った。
 何よりも許せないのは、奪った知識と魔術を民に分け与えずに秘匿したことだ。
 魔術と知識の独占、差別、統制の保持。魔術を怖れ、魔術に魅入られた権力者達。
 かつて王と呼ばれた連中も、今や統一王などと呼ばれる貴様も、私にとっては盗っ人に過ぎん」
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:49:33.43 ID:ltwtokG1O

「何を言っている……」

「元々、全ては自由だった。よって、支配者の束縛から解き放たれ自由意志の下に生きるべきなのだ。
 今宵、時は動くぞ。貴様等によって長らく停滞していた時が動き出す。そして、罪人には裁きが下るだろう」

捲し立てる錬金術師の言葉を聞いて、国王は一人の魔術師を思い浮かべた。

魔術がまだ浸透していない時代、偏見と差別に満ちた時代に現れた始まりの魔術師。

魔術の基礎を築きながら正当な評価されることなく蔑まれ、その結果当時の世相を変えるべく、たった一人で世界を敵に回し、敗れた男。

魔術に愛され、魔術に狂わされた男。ありもせぬ理想、幻影を追って破滅した狂騒の魔術師。

(そんなはずはない)

「さあ、戦え」

その言葉には有無を言わさぬ力があった。国王は弾かれたように錬金術師へと迫る。

雷の魔術を利用をした高速移動、錬金術師がツタを繰り出すものの全て回避され、瞬く間に接近を許し、あっという間に斬り裂かれ膝を突いた。
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:50:40.76 ID:ltwtokG1O

「大口を叩いてその程度か」

「この私は前座だ。真打ちが現れる」

「誰であろうと、王を裁くなど出来はしない」

「この血に刻み付けられた苦痛が呼び起こす。それこそが、貴様を滅ぼすだろう」

錬金術師は不敵に笑って見せた。

その笑みがやけに似合って見えるのは、これまで幾度となく敵対者に見せてきたからに違いない。

唇の片端を吊り上げ、しぶとく、それでいて嘲るような笑みは、相手を煽り立てるに十分なものだった。

国王は膝を突く錬金術師に対して剣を振るい、今や容易く命を奪えるにも拘わらず、不必要なまでに切り刻んだ。

だが、錬金術師は呻き声一つ上げず、かっと目を見開き睨み付け、更に歪んだ笑みを浮かべた。

それは憎悪のようにも、嘲笑のようにも、挑発のようにも、憤怒のようにも見える。
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:52:08.78 ID:ltwtokG1O

(何だ、この表情は……)

国王は背筋に虫が這うような不気味な感覚に囚われたが、決して目を逸らすことはなかった。

それどころか睨み返し、目の前の存在が何者であるのかを探ろうとしている。

錬金術師の瞳の奥で煮え滾る感情の熱、それが十年二十年で作り出せるものではないことを、国王は即座に見抜いた。

(この目は、知っている)

国王は、以前にも見たことがあった。

それは遠い過去、統一戦争の折、一人の男が見せた眼差しに良く似ていた。

その男と一度目が合った時から危険な存在であると分かった。そして、その予感は的中した。

王でありながら先陣を切り、幾多もの戦いの全てに勝利した彼に、初めて敗北を与えた男。

喰われたのか、折られたのか、それ以降、王は以前のように戦うことが出来なくなってしまった。
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:54:21.62 ID:ltwtokG1O

その相手こそが亡国の傭兵。

拭えぬ怖れを刻み付けた男、国を滅ぼされて尚も戦おうとした不屈の男、王に傷を付けた唯一の存在。

やがて終戦を迎え、故郷の安全と引き替えに従えた後は、幾度となく亡き者にしようとした。

不可能と言える暗殺を命じ、ある時は特級と呼ばれる魔物の単独討伐を命じた。

だが死ななかった。そのどれもを成功させ、あろうことか信頼を勝ち取ってみせた。

最も怖れ、消し去りたい存在。それでいて臣下の誰よりも強く、頼りになる存在。

信頼と恐怖、羨望と嫉妬、怒り、憎しみ、複雑に絡む感情が、王を狂わせた。

そして今尚、それは王を縛り続けている。

(そうだ。彼奴と同じ目をしている。これは、私を脅かす者の目だ)

「どうした、亡霊でも見えたのか」

その言葉に、国王は我を忘れた。

「貴様など怖れはしない。怖れるものか、私は王だ。敵などいない。いるはずがない」
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/08(金) 00:03:35.21 ID:zmD8XSUAO

喚き散らし、剣を何度も振り下ろす。

その姿は癇癪を起こす子供のようだった。

焼き付いた恐怖を掻き消すように、塗り潰すかのように、振り払うかのように、ただひたすらに剣を振り下ろす。

剣技など一切なく、力の限り振り回すだけ。刃が血に塗れて斬れなくなっても叩き続ける。

それは、錬金術師の体がぼろ切れのようになっても続いた。

「王は怖れない」

どれだけの間続いたのか、国王は息を切らし、剣を握る手からは血が流れている。

最早、周囲に民がいることなどすっかり忘れ、国王は恐怖の虜になっていた。

「王が、怖れるものか」

だからこそ気付かない。

錬金術師から流れ出た大量の血液が、杖に埋め込まれた赤く輝く宝石へと吸い寄せられているのことを。

そして、それと同時に彼方で輝く巨大な光の柱、遺された一粒の光、それが都を見て消えたことなど気付くはずもなかった。
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/08(金) 00:07:06.46 ID:zmD8XSUAO

喚き散らし、剣を何度も振り下ろす。

その姿は癇癪を起こす子供のようだった。

焼き付いた恐怖を掻き消すように、塗り潰すかのように、振り払うかのように、ただひたすらに剣を振り下ろす。

剣技など一切なく、力の限り振り回すだけ。刃が血に塗れて斬れなくなっても叩き続ける。

それは、錬金術師の体がぼろ切れのようになっても続いた。

「王は怖れない」

どれだけの間続いたのか、国王は息を切らし、剣を握る手からは血が流れている。

最早、周囲に民がいることなどすっかり忘れ、国王は恐怖の虜になっていた。

「王が、怖れるものか」

だからこそ気付かない。

錬金術師から流れ出た大量の血液が、杖に埋め込まれた赤く輝く宝石へと吸い寄せられていることに。

そして、それと同時に彼方で輝く巨大な光の柱、遺された一粒の光、それが都を見て消えたことなど分かるはずもなかった。
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/08(金) 00:10:59.96 ID:zmD8XSUAO

第六話 恐怖の王

終わり
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/08(金) 00:12:06.04 ID:zmD8XSUAO
ここまでです。ありがとうございます。
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/08(金) 01:47:20.17 ID:V+AzBn8DO
乙乙
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/11(月) 08:19:58.26 ID:HdS9NzIuO
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/12(火) 14:14:39.73 ID:IOKbAzHD0
くそう続きが気になって仕方ない
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 01:55:38.99 ID:KrEyVsYMO

第七話

占い師「……っ」

木の根に吐き出され、占い師は膝を突いた。

辺りを見渡すと、どうやら郊外の原野のようだ。幸い、都はすぐそこに確認出来る。

(剣士はいる。しかし陛下のお姿が何処にも見えない。分断されてしまったか)

占い師は目を閉じ、何かに意識を傾けた。

(中央広場、敵の姿はない……)

占い師には国王の居場所が分かるようだった。占い師が立ち上がると、剣士も同じく立ち上がる。

二人が都に向かって走り出そうとした瞬間、新たに生えた木の根から踊り子が姿を現した。
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 01:56:52.32 ID:KrEyVsYMO

踊り子「お待たせしました」

占い師「意外だな、私を遠ざけ、二人掛かりで挑むものと思っていたぞ」

踊り子「私はそうした方がよいと言ったのですが、聞く耳を持ちませんでした」

そう言って腰に手を回すと、踊り子は二本の短剣を取り出した。

短剣と呼ぶには大きく、やや湾曲した鉈のような形状をしている。

それを逆手に持ち、構えは取らず両腕をだらんと下げ、占い師を真っ直ぐに見据えた。

直立不動、一見隙だらけであるが、それでいて隙の見えない独特の雰囲気がある。

踊り子「準備は宜しいですか?」

占い師「傭兵が敵を気に掛けるか」

踊り子「傭兵と言えど不意討ちや騙し討ちばかりではありません。正々堂々と戦うこともあります」

占い師「これが果たして正々堂々と言えるのか疑問ではあるが、まだ人間のようで安心した。
   (魔力は上級寄りの中級と言ったところか、聞き間違いでなければ踊り子と呼ばれていたようだが)」

踊り子「時にその装束……それは、家族や伴侶以外に肌を見せない為の物では?」
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 01:57:47.39 ID:KrEyVsYMO

占い師「そうだが」

踊り子「これは個人的な質問ですが、一線を退いて家庭に入ろうとは考えなかったのですか?」

占い師「先程から何だ、これから殺す相手への問い掛けとは思えんな」

踊り子「申し訳ありません。ただ、伴侶や家庭がありながら戦に身を投じるのは何故かと思いまして」

占い師「意味は分かるが意図が分からん。近々家庭を持つのか? まさか、腹の中に子がいるのではないだろうな?」

踊り子「子はおりません。私はただ、後学のために知っておきたいのです」

占い師「どうにもおかしな娘だ。ならば、まずは私の質問に答えろ。お主は、何故錬金術師に荷担する」

踊り子「どうしても欲しいものがあるからです」

占い師「今在る平和を脅かし、維持を司る王の命を奪ってもか」
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 01:58:53.08 ID:KrEyVsYMO

踊り子「はい」

占い師「お主に大義はないのだな」

踊り子「傭兵に君主は在りませんから」

占い師「私の知る傭兵は君主に仕え、君主に尽くした。傭兵だからと言うのは理由にならん」

踊り子「彼のことなら知っています。彼は仕えたわけではなく、そうせざるを得なかっただけです」

占い師「違う、奴自身がそれを望んだ」

踊り子「踊り子はそれを望んでいませんでした」

占い師「……やはりな、踊り子と聞いた時からそうではないかと思った。母の名を継いだか」

踊り子「母を知っているのですか?」

占い師「奴とどのような関係であったかも知っている。踊り子の望みは奴の自由か」
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:00:41.22 ID:KrEyVsYMO

踊り子「はい。後にも先にも、踊り子が望むのはそれだけです」

▼その答えに迷いはなかった。

占い師「戦場に舞い戻った踊り子は、再び同じ男を愛したか」

踊り子「かれは再びではなく一度目です。踊り子が愛したのは生涯唯一人なのですから」

▼踊り子は寂しそうに笑った。

▼何もかもを分かっているようだった。

占い師「……そうか、ならば何も言うまい」

踊り子「貴方の答えがまだです」

占い師「そうだったな……済まないが、質問の内容は何だったか」

踊り子「家庭がありながら何故戦うのですか? 手にした暮らしは自身が望んだもののはずです。
    そうであるなら、もう戦う必要などない。貴方は既に満たされたのではないですか?」
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:01:56.56 ID:KrEyVsYMO

▼占い師は顎に手を当てた。

▼これから口にする言葉を選んでいるようだ。

占い師「念願叶って平穏無事な暮らしを手に入れた。だがそれでも、心身は闘争を求めた。
    そして、生を実感出来るのは戦いの中だけだと気付いた。この欲求だけは如何に良き伴侶にも埋められない」

踊り子「戦などなくとも日々の暮らしの中で生を実感出来るでしょう?」

占い師「私もそう思うよ。だが不思議なことに、私は今もこうして此処に立っている」

踊り子「……」

占い師「私は何かを求めて此処に立つ。だが、未だに納得のいく何かを得たことはない。
    そういう人種は必ず此処に舞い戻って来る。何かを探しにな」

踊り子「何か……」

占い師「ごく少数ではあるが、戦を居場所にする人種はいる。理想の相手と結ばれ理想の家庭を築こうと、何かを求めて此処に立つ」

踊り子「そんなものなのでしょうか?」

占い師「そんなものさ。だから、あまり過度な期待はするな。その方が傷は浅く済むだろう。
    但し妥協はしないことだ。自分にも、相手にもな。その妥協は諦めだ」

踊り子「よく覚えておきます。貴重な御意見をありがとうございました」

占い師「何よりだ。それが今後の人生に役立つかは分からんがな」

踊り子「大丈夫です、決して無駄にはしません」
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:02:48.14 ID:KrEyVsYMO

占い師「気の強い娘だ」

踊り子「では、行きます」

▼踊り子は跳躍し、一気に距離を詰めた。

占い師「剣士」

▼そこに剣士が割って入り、攻撃を受け止めた。

▼踊り子は空中で器用に態勢を変え、宙に浮いたまま剣士に攻撃を繰り返す。

▼占い師はその様子をじっと見ている。

占い師「潰せ」

▼剣士は宙に浮く踊り子を弾き飛ばした!

▼そのまま距離を詰め、大剣を叩き付ける!

踊り子(やはり彼は何かがおかしい。違和感はありますが、今一つ掴めない)

▼踊り子は身を捩り、乱暴に叩き付けられる大剣の連撃を全て躱して見せた。

▼そのまま軽やかに跳んで距離を取ると、先程同様に都を背にして立ち塞がった。
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:04:01.73 ID:KrEyVsYMO

占い師「大した身の熟しだが魔術は使わんのか」

踊り子「病み上がりなもので、今少し調子を確かめたいのです」

占い師「それが本当ならば待ってやる必要はないな。剣士、武器を出せ」

▼剣士は背負った武器の束をばら撒いた!

▼大小様々な形状の武器が宙に放り出された。

占い師「……」スッ

▼手をかざすと、全ての武器が空中で静止した。

▼その切っ先は全て踊り子に向いている。

踊り子「……」

占い師「貫け」

▼宙に浮く大小様々な武器が一斉に動き出す!

▼複雑な軌道を描き、踊り子に襲い掛かる!

踊り子(少々不安ですが、やってみましょう)
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:04:58.54 ID:KrEyVsYMO

▼踊り子は瞳を閉じ、踵で地面を叩いた。

▼すると、地面から数多の氷柱が突き出した!

▼氷柱は周囲をぐるりと囲み、迫る武器の群れを弾いた。

踊り子(未だ、全身に魔力が通っていない気がします。まずまずと言ったところでしょうか)

▼踊り子は再び踵で地面を叩いた。

▼すると氷柱は浮き上がり、宙に浮く武器を弾きながら占い師に迫った!

占い師「……」スッ

▼占い師が手をかざすと氷柱は急激に反転、踊り子に向かった。

▼氷柱だけでなく、弾かれた武器も同様に踊り子に向かって発射された。
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:05:40.47 ID:KrEyVsYMO

踊り子(今ので見えた気がします)

▼踊り子はもう一度踵で地面を叩き、分厚い氷壁を生み出した。

▼氷柱と武器の群れが次々と衝突する。

▼所々が砕け、大きなヒビが入ったものの、氷壁は崩壊することなく耐えきった。

踊り子「……っ、はぁっ、はぁっ」

▼踊り子は膝を突いた。

踊り子(思った以上に消耗が激しいです。少しずつ馴らしていった方がよいでしょうか。
    脚が治ったからと言って、一日二日で数年の月日を埋めることは……?)

▼踊り子は突然その場から飛び退いた!

▼元いた場所に大剣が深々と突き刺さっている!

剣士「……」

踊り子(少しずつなどと、甘いことを言っている暇はないようです)
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:07:17.16 ID:KrEyVsYMO

▼踊り子は白く輝く息を吹き掛けた!

▼すると剣士は、凄まじい力で引っ張られたように後方に飛び退いた!

▼残された大剣はたちまち凍り付き、がしゃりと崩れ落ちた。

占い師「母娘揃って氷の魔術か、魔力の性質もよく似ているな」

踊り子「母と戦ったことが?」

占い師「戦時には嫌というほど戦った。あれはもう三十年以上前になるか、私も年を取るわけだ……」

▼そう言いながら、占い師は微笑んでいる。

占い師「氷上の踊り子、冷徹の仮面、内に秘めた燃え盛る激情、その魔術は凍て付いた炎のようだった」

踊り子「……」

占い師「母娘だものな、似るのも当然か……お主を見ていると、自分だけが年老いたような気にさせられる」
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 23:20:16.24 ID:bssPQvSRO
書き溜めが消えたので遅れます
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 23:38:39.15 ID:34085HTEo

まつよ
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/18(月) 00:55:50.86 ID:uGA6aDdDO

同じく
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/20(水) 02:30:24.45 ID:UalrgLo3O
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/22(金) 21:39:27.72 ID:qduBhYgQO
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/26(火) 23:24:24.90 ID:/1VnlhgoO

踊り子「……」

占い師「母娘だものな、似ないはずもないか……」

踊り子「踊り子はどのような関係だったのですか」

時間稼ぎが目的の問いではあったが、全く興味がないわけではない。

同じ男を愛した女が過去に何をしたのか、それが何よりも知りたかった。

占い師「年も考えずに言えば、恋仇か」

踊り子「……」

占い師「そう鈍い女でもあるまい? 剣士の顔を見て分からぬはずもなかろう」

▼剣士は、傭兵によく似ていた。

踊り子「何故ですか……」

占い師「なにゆえ? なにゆえに亡国の傭兵が私を抱いたのかと、お主はそう言いたいのか?」

踊り子「いいえ? 貴方を抱かざるを得ない状況を貴方が作った。私はそう考えています。
    例えば、踊り子を生かしたければ『そうしろ』と迫ったとか」

占い師「あはははっ!!! わけを探すか踊り子の娘よ、お主はそうであったら幸せか?」

踊り子「そうであったらと願っています。軽蔑したくはありません。母も、父も」
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 17:55:00.21 ID:ldkEdKhA0
頑張れ
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/14(火) 05:51:19.40 ID:yN0rdUazO
おーい竜馬
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/25(火) 21:01:38.18 ID:e+N2pAGRO
質問いいですか?
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/29(土) 23:08:32.27 ID:Wr/2PlgmO
どうぞ
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/10(月) 02:19:58.04 ID:/mOhNpbaO
おい
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