清霜「Saxophone Colossus 」

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1 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/09(木) 17:31:18.38 ID:0g5bjTyFO
ジャズに、恋をした


2019年1月21日 午後5時17分
鎮守府 埠頭

「...」

「よし!」

夕雲型の最終番艦、清霜
彼女は一人、鎮守府の誰も来ない埠頭に立っていた
聞こえるのは鳥の鳴き声と波の音
そして手にしてるのはーーー

「絶対に... 絶対に...」

金色に輝く、テナーサックスだった

「ジャズの巨人になる!」

埠頭に、彼女のサックスがこだまする

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1557390678
2 : ◆0rjCWOlcd8we [sage saga]:2019/05/09(木) 17:33:11.18 ID:0g5bjTyFO
第1話
Stairway to the Stars

2015年4月13日 午後3時02分
鎮守府 間宮の食堂

「ねえ武蔵さん! 今度どこか一緒にお出かけしようよ!」

そう武蔵に持ちかけたのは彼女を慕う清霜だった
同席していた大和と朝霜は興味ありげに話かけた

「武蔵さんとでかけんのか! どこ行くんだ?」

「あら、水族館とかに行くの?」

「え? うーん... 場所は特に決まってなくて... いろんなところ行きたいなーって」

清霜は場所などは決めていなかったようだった、同じ時間を過ごすということに意識が行き特に考えていなかった

「...ならば清霜よ、今度ライブハウスに行かないか」

「ライブハウス...?」

「ああ、最近外でいい店を見つけてな よかったら一緒に来ないか?」

憧れの大戦艦からの誘い、しかも自分の知らない世界に連れて行ってくれる
このことだけで彼女は舞い上がってしまった

「いいいいいいんですか!?」

「はっはっはっ 今週末時間が合えば夜にでも行こうと思うんだがどうだ?」

「ぜ、ぜひ行かせてください!」

「よかったな清霜!」

「ふふ、大和たちもどこか行ってみる?」

「いいぜー! 大和さんなんかおすすめあんの?」

「ラーメン博物館」

「まさかの飯だった」
3 : ◆0rjCWOlcd8we [sage saga]:2019/05/09(木) 17:33:48.23 ID:0g5bjTyFO
2015年4月18日 午後6時00分
ジャズバー「Nomad」

「おおーここが...」

目の前には自分の知らない世界へと通じる扉
それを武蔵と共有できるという期待で彼女の胸はいっぱいだった

「入るぞ」


ガチャ

ガヤガヤガヤガヤ...


(思ったより人いる...)

20代から60代まで、男女様々な人たちだいた
しかしその場にいた子供は彼女だけ、本当にここにきてよかったのかと一瞬彼女の脳裏をよぎる

「さ、席につこう ここでいいか」

真ん中のやや後ろの席、ここが一番よく聴ける場所だと武蔵は言う

「何か飲むか? ジュースとかはこっちだぞ 私も今日はジュースにしておこう」

「え、えっと... じゃありんごジュースで...」

「じゃあ私はジンジャーエールでも」

注文を待っている間武蔵は清霜がどこか落ち着かない様子であることに気づいた

「どうした、清霜よ 落ち着かないようだが」

「う、うん なんか落ち着かなくって...」

「ははは、初めて来るから緊張してるだけだ すぐに忘れるさ」

ウェイターが注文の飲み物を持ってきた

「ご注文承りましたりんごジュースとジンジャーエールでございます」

「ああ、ありがとう おや、髪型変えたのか?」

「ええ、昨日変えたばかり あら? その子は? はじめましてようこそNomadへ」

「は、はじめまして!」

「まあ妹みたいなもんだ、今日はちょっと一緒に連れてきたんだ」

「まあ! 今日はどうぞごゆっくり楽しんでいってくださいね」

「は、はい!」
4 : ◆0rjCWOlcd8we [sage saga]:2019/05/09(木) 17:34:17.75 ID:0g5bjTyFO
午後6時30分

「お、始まるぞ!」

拍手とともにプレーヤーたちが舞台に上がる
ピアノ、ベース、ドラム、テナーサックス、トランペットのクインテット

「ワン、ツー、ワンツー」

ドラムがカウントを始める


バーバー バッバー!!


5人が一つのサウンドを奏でた


バラッバッバババー! パーーーー!


(すごい... なにこれ...)

初めての体験だった、皆が演奏したかと思えばテナーサックスだけが、今度はトランペット、そしてピアノベースドラムの掛け合い
音を、生で作り出していた


ウォーッ! ヒュー! パチパチパチパチ


ソロの度に歓声があがる


(こんなものがあったなんて...)


まるで音で会話しているようだった

そしてこの体験は彼女にある考えを浮かばせた



私もやってみたい





ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
5 : ◆0rjCWOlcd8we [sage saga]:2019/05/09(木) 17:34:56.87 ID:0g5bjTyFO
4月31日 午後3時20分
鎮守府 間宮の食堂

あの日以来清霜はどこか上の空だった
同室の朝霜も、食堂でよく一緒に甘味を食べる大和も武蔵もそれに気づいていた


「清霜、最近様子が変だぞ どうかしたのか?」

「そーだぜー なんか上の空ってかなんてゆーか」

「清霜ちゃん... 何か悩みあるの?」

「...」

「清霜?」

「ねえ武蔵さん」

「なんだ?」

「私...」

息を呑み彼女は言った

「ジャズやりたい」

「!!」

「はあ!?」

「えっ!?」

この返答には皆驚きを隠せなかった

「わたしね、この前の演奏見て思ったの」

「...」

「私もああなりたい、音で自由に表現したい! 世界一のプレーヤーになりたい!」

彼女は武蔵に真剣な眼差しを向ける
この目は本気だと武蔵は感じた、だからこそこう言った

「清霜、あの道はやめたほうがいい」

「えっ...?」

「お前の思っている以上に茨の道だ 何百人、いや何万人もその道を目指したが... 達成できるのはほんの数人だ」

「それでもお前はやりたいのか? 投げ出さないんだな? 途中で泣きつけないぞ?」

「私... あの音楽が好きになっちゃったの」

「ほう?」

「あの日以来頭から離れなくて、毎日聴くようになってそれで思ったの」

「私、ジャズ好きなんだって」

「...そうか」

「武蔵さん、私どうしたらいいいかな? どうやったら私はなれるの?」

「...清霜、今すぐ私の部屋に来い」

「へ?」

「いいもの見せてやる」

おもむろに武蔵は席を立ち部屋に戻っていった

「あっ! 武蔵さん待って!」

慌てて清霜も席を立ち追いかけていった


「...武蔵さんなに見せんだろ?」

「あのね朝霜ちゃん」

「ん?」

「実は武蔵は...」
6 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/09(木) 17:35:27.61 ID:0g5bjTyFO
午後3時32分
武蔵の部屋


「さて、確か持ってきてた筈だ...」

「お、お邪魔します」

「ん、あった! こいつだ」

そう言うと清霜の前に一つの大きなケースを出した

「ねえねえ武蔵さん、なにこれ?」

「開けてみろ」

「へ? う、うん」

ガチャ ガチャ ガチャ ギイ...

「!! こ、これって...!」

「ああ、そうだ」

清霜の目の前に現れたのはーーーー

「テナーサックス...!」

使い込まれていてなおも金色の輝きを失っていない
セルマーシリーズ2テナーサックス

「お前に託す」

「えっ! でもこれって武蔵さんの...」

「いいんだ、もう」

「もう...?」

「私はもう... いいんだ」

その目はどこか哀しみに満ちていた
なにがあったのか聞こうと清霜は好奇心に駆られたが、すぐにやめた

「ジャズが好きって言ったな」

「う、うん」

「だからお前にあげたいんだ、お前はきっと私よりもジャズを好きでいてくれる」

「武蔵さん...」

「なれよ」

「え?」

「世界一のプレーヤーに、ジャズの巨人になれよ」

「はいっ...! グスッ...! 頑張ります...!」

「はは、泣くんじゃない 可愛い顔が台無しだ」

「武蔵さーーん!!」



その日から清霜に「戦艦になる」と言う目標に並んで新たな目標が生まれた


『ジャズの巨人になる』


7 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/09(木) 17:36:04.50 ID:0g5bjTyFO
2017年3月18日 午後10時11分
鎮守府 埠頭

星が輝く時間、清霜はこの日も懸命に吹いていた

バーバー バラララララ

「ふう... あっ! もうこんな時間!」

「おーい清霜ー!」

「ん? あっ! 朝霜!」

「お前いっつもこんな時間まで吹いてたの?」

「うん!」

「サックスもらった日から?」

「そうだよ!」

「うへえ...」

「毎日吹いて、それで上手くなるの!」

「武蔵さんには教わってないのか?」

「最初教わろうと思ったんだけど... もう情熱を失ったから教えられないとかなんとか」

「なんか複雑なんだな」

「うん、だから独学 運指とか音の出し方とかメロディーとかも」

「...一回さ、聴いてみていい?」

「へ?」

「アタイ清霜の音、ちゃんと聴いたことなくって」

「...いいよ、何聴きたい?」

「アタイジャズわかんないからお任せで」

「うーんじゃあ... チュニジアの夜でいい?」

「いいぜ」

「いくよ」

「...」スウ


バーラバラバラ バーラバラバ
バーラバラバラ バーラバラバ

「...!」

(今の私の出せる音を...!)

(全部をぶつける...!)


バラララララバラッバー! バラババ


ひたむきに、真っ直ぐに吹いてきた清霜の音は朝霜の心を揺れ動かした

(すげえんだなあ...清霜って)

バーバラバラバラバラ

(そうか、真っ直ぐなんだ どこまでも)


ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー


8 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/09(木) 17:36:43.44 ID:0g5bjTyFO
「プハーッ! ハアハア... どうだった?」

「清霜」

「なに?」

「世界一になれよ、アタイは応援する!」

「うん!」

(ジャズかあ... アタイもいつかやってみたいな)
9 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/09(木) 17:37:35.62 ID:0g5bjTyFO
3月20日 午前9時00分
鎮守府 講堂

朝9時には鎮守府の全員が集まり朝礼を行う、今日も普段と変わらないそう思っていた
提督、この鎮守府における最高権限を持つ彼の口からあの言葉が出るまでは

「えーおはようございます、早速ですが今年の10月における民間との交流会について元帥閣下からの指令が下りました」

講堂内が若干のざわつきを見せる、一体何が来るのかと皆が思っていた
清霜と朝霜も疑問を抱いていた

「なんだろね? 一体?」

「さあ? アタイには分からん」


そして提督の口から思いもよらない発言が飛ぶ


「ビッグバンド、ジャズをやることになりました」


その瞬間 講堂内はどよめいた


「ジャ、ジャズ!?」

「元帥閣下は何を...」


周りの艦娘から驚きの声が上がる、当然である 楽器経験のあるものなどほとんどいないからだ


「えーともかく! そのための人員を募集したいと思います この作戦に参加の意思を示してくれる者はこの後執務室まで来るようにお願いします、以上」

ザワザワザワザワザワザワ

「私...やってみようかな」

「吹雪ちゃんやってみるっぽい?」


「出来るわけないよ... パスパス」

「私もー」


「フルート昔やってたしやろうかな...」
10 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/09(木) 17:40:14.03 ID:0g5bjTyFO
午前9時15分
朝霜と清霜の部屋

「なあ清霜は朝のアレ、やるのか?」

そう持ちかけたのは朝霜 楽器を、それもテナーサックスを清霜がやっているのだから当然の疑問だった

「私は...」

「やらない」

「はあ!?」

「ビッグバンドもたしかに好きだけど... やってる自分が想像できないの」

「そう言うもんなのか?」

「うん、単純に 想像できないから私はやらないかな」

「そっか... あのさ清霜」

「何?」

「アタイやってみようと思う」

「!!」

「この前の演奏聴いたらアタイもジャズやってみたくなんたんだよ」

「本当に!?」

「ああ! アタイもさ、あの世界に入ってみたい」

「じゃあさ! 朝霜!」

「ん?」

「お互い上手くなったら一緒にやろう!」

「...! いいぜ!」

「あ、清霜がサックスやってるのはまだ内緒ね」

「なんでさ? もう2年も隠してるけど言っていいんじゃねえの?」

「まだ秘密にしておきたいの」

「秘密?」

「そう、秘密 ジャズバーとかで吹けるようになるまでまだ修行したいの」

「そっか... いいぜ! 守ってやる!」

「じゃあその時まで! お互い頑張ろう!」

「ああ!」

※ビッグバンドのお話はこちらです
秋月「Strike Up The Band」
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1497697402/
11 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/09(木) 17:43:10.06 ID:0g5bjTyFO
2019年1月21日 午後6時35分
鎮守府 埠頭

「ふうー 喉乾いちゃった」

日も沈み、夜が訪れる頃になっていた
吹くのを止めればあたりに響くのは波の音だけであった

(もうこんな時間! そろそろ戻らなきゃ!)

「相変わらずやってるな、もうご飯だぞ」

「!! 武蔵さん!」

ちょうど戻ろうと思っていた矢先に武蔵が迎えにきた
たったそれだけだが彼女にとっては大きな喜びだった

「どうだ、サックスの方は」

「うん! 吹けるようになってきたよ!」

「だろうと思った」

「一緒に帰ろ! 武蔵さん!」

「その前に清霜、一ついいか?」

「なに?」

「...明日の午後9時 早霜のバーに楽器を持っていくといい」

「へ?」

「きっといいことがある」

「いいこと?」

「ま、お楽しみだな ご飯に行くぞ」

「あっ! 待って!」


その時の清霜には分からなかったが、彼女にとって大きな転換点となることはまだ知らなかった...
12 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/09(木) 17:43:53.32 ID:0g5bjTyFO
1月22日 午後8時56分
早霜のバー「Lazy Bird」

「えーっと本日貸切... ここでいいのかな?」

ドアの前に立ち中に入ろうか迷っていたが他ならぬ武蔵の言いつけともなれば彼女が動くのも容易かった

「よし! 入ろう!」

ガチャ

「こ、こんばんわー...」

「あら、いらっしゃい」


店内は音一つなく、そこにいたのは清霜と店主である早霜とーーー


「...」


グラスを片手に持つリシュリューだった


「朝霜姉さん、武蔵さんは?」

「今日は来ないわよ」

「えっ!?」


あまりに予想外なことに清霜は素っ頓狂な声をあげた
それを意に介さないようにリシュリューが言葉を発する

「...早霜、その子かしら?」

「ええ、そうよ」

「ふうん... えーと... キヨシモ? 楽器出してステージに来なさい」

「へ? は、はいっ!」

思わず身構えてしまう

(い、今から何やるの!?)

リシュリューがピアノの椅子に座り鍵盤の様子を確かめる

「いいわ、調律はされてる」

「この前弦を変えたばっかりよ」

「よろしい、さて清霜」

「は、はい!」

「吹きなさい」

「...へ?」

「なんでもいいわ、早く」

「え...」

「ええっーーっ!?」


第1話
おわり
13 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/05/09(木) 17:44:32.93 ID:0g5bjTyFO
第1話はここまで、まさか公式でジャズ漫画来るとは...
すごく楽しみです
ありがとうございました
14 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/05/09(木) 17:48:11.32 ID:0g5bjTyFO
おまけ
A Night in Tunisia/Sonny rollins
https://m.youtube.com/watch?v=oLCiiVei_8o
15 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/05/09(木) 18:39:22.03 ID:0g5bjTyFO
一応前作
秋月「Strike Up The Band」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1497697402/

秋月「Seventeen Girls Swinging」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1547209835/
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/10(金) 12:19:12.47 ID:CeYLDhVjo
1おつおつ
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/10(金) 20:06:21.07 ID:ORJJ7CwCO
新作乙!
続きをお待ちしています
18 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/10(金) 21:35:32.89 ID:RBNle47i0
第2話
Blue Getz Blues(前編)

2019年1月21日 午後9時00分

「ふ、吹くって... 今ですか?」


リシュリューに突然告げられ困惑する清霜
しかしそれに対しリシュリューは全く気にも止めることなく続けた


「そう、今 吹きなさい なんでもいいわ あなたの好きな曲で」

「うう...」


困惑するのは当然だった、何しろ彼女は今まで一人で吹いており誰かと合わせることをしてこなかった


「私、いつも一人で吹いてて誰かとやるなんて...」

「私が合わせるわ、心配しないで で、何の曲?」


腹をくくるしかない、そう覚悟した
そしてその目には迷いが消えていた


「じゃあ... Moment’s Noticeを」

「いいわ、そっちがカウントして 合わせる」

「...わかりました」

「いつもの」

「へ?」

「いつもあなたが吹いてるように、ここを練習場所と思いなさい」

「...行きます」
19 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/10(金) 21:36:04.35 ID:RBNle47i0
深呼吸をする
自分の呼吸の音がいつもよりも大きく聞こえるように彼女は感じた
そして呼吸を整えカウントをする


「ワン、ツー、ワンツー」


バーッバッバッバーラバラッバー!!


(!! いいわね、音に厚みがあって艶がある)


1音目を聞いた瞬間からリシュリューは理解した
清霜はしてきたことは並大抵の努力ではないことを
そしてーーーー


(この子には... 芽が出ている)


清霜の方もいつもと違うことに気がついた


(すごい...! このピアノ私を支えてくれる! もっと...! もっと吹ける...!)


そしてテーマが終わる
20 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/10(金) 21:36:50.77 ID:RBNle47i0
「さあ! ソロ行きなさい!」

(よし! 行くぞ!)


バラバラバーッバ バーラバラバラバラバラ


(なるほどそれなりに研究しているようね、ここはコルトレーンのソロを真似てる)

(いける! よし! ここからは...!)


バッバラーバラバラバラバラ バラバラー バーババラバラ


(へえ一丁前に独自にソロを...)

(ドミナントにミクソリディアンスケール、トニックにドリアン... 完全にコルトレーンを意識してる)(※)

※スケールの種類のこと


バラバラバラバラ


(!! さっきのフレーズを転調!? きっちり転調したと見なしてX-Tの進行に合わせてる! まさかこの子コルトレーンチェンジ(※)を理解してるの!?)

※ コード進行が長3度づつ転調しているように見える進行、このMoment’s Noticeの一部でそれが使われている

(今度はドミナントの7thに半音上のディミニッシュ! 何者なのこの子!?)

(そう思ったら今度はコードを無視... いや違う! E♭7にB♭7をぶつけた! まさか!?)

(トニックにドミナントをぶつけるなんて... 面白い... ふつうはやらない、なのにこれは何?)

(それでも時々コード無視をしてる... だけど理論を超えた躍動感がある!)

(面白いわこの子! まるで恐れていない!)


清霜は無我夢中に、自分の全てを出すように吹き続けた
初めてやるセッション、それがこれほどのものとは まるで知らなかった
21 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/10(金) 21:37:22.48 ID:RBNle47i0
(すごい...! いける! もっと! もっと吹ける!)

(ありったけをぶつける...!)


リシュリューのピアノが全てを包み、清霜のサックスがそれを引っ張る
もう清霜に恐れはなかった


バーラババッバー バラバラバーーー!


(いいわ! もっと全力でぶつかってきなさい!)

(吹き続けたい! こんなに楽しいなんて!)



バーーーーー!!






22 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/10(金) 21:37:53.23 ID:RBNle47i0
「はあ... はあ... だ、出し切れた...」

「...コードも無視、はっきり言ってめちゃくちゃな音運び」

「え...」

「指回しもまだまだ、多分アンブシュア(※)もダメね」


※マウスピースに対する口の形


「うっ...」

「でも」

「でも?」

「あなたの音は心を動かせる」

「心を...?」

「そうでしょ、早霜」


ふと清霜が早霜に目をやると、彼女はーーー
泣いていた


「...今日の日のために、この店を作ったのかもしれないわ」

「さて、清霜」

「は、はいっ!」

「あなたジャズの巨人になりたいんですって?」

「...はい」

「よろしい」


一呼吸置きリシュリューが続ける



「私があなたにサックスを教える」

「...へ?」

「返事は?」

「へっ...? は、はい! よ、よろしくお願いします...」


清霜の巨人への一歩が踏み出された



第2話前編
おわり



23 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/10(金) 21:40:22.89 ID:RBNle47i0
コルトレーンチェンジの勉強したんですが付け焼き刃なので間違ってたらごめんなさい
とりあえず次からリシュリューにバシバシ鍛えられる感じになります、清霜は多分めちゃくちゃジャズ聴いてきたので色々フレーズ飛び出してきそうだなって感じがします
ありがとうございました
24 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/05/10(金) 21:44:24.34 ID:RBNle47i0
おまけ

Moment's Notice/John coltrane
https://m.youtube.com/watch?v=VV0nMkeXtr4

ちなみにこの曲はBLUE GIANT NIGNTという学生のみが応募できるブルーノートでライブできる権利を勝ち取るための企画がありその課題曲でした
25 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/05/11(土) 02:13:31.06 ID:F2P4sD470
なんかもう森きのこさんの方でまとめられとる まあいいか
26 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/05/11(土) 12:29:07.06 ID:OgmeEWtTO
(´-`).。oO(渋の方でもまとめてるのでよかったらどうぞ)
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 13:18:31.09 ID:iG0Dmaru0
おつ
今回も楽しみにしてますぞ
28 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:36:49.76 ID:cs33ogthO
第3話
Blue Getz Blues(後編)

2019年1月22日 午後1時56分
早霜のバー「Lazy Bird」

バーのドアには「CLOSED」の看板
本来なら早霜以外は入れないはずだが練習のために鍵を渡されている
同じようにこのバーを練習場所にしている艦娘は何人かいると清霜は聞いたが具体的誰だかは聞いておらず、いつか会うのだろうと若干の期待を清霜はしていた
鍵を挿し、防音のドアを開ける 今店にいるのは清霜一人だった


「さてと... リシュリューさん来るまで音出ししておこうかな」


そう思った矢先に先ほどの防音扉が開く、リシュリューが店に入ってきた


「ちゃんと時間にいるわね、よろしい」

「あ! リシュリューさん! あの、今日はよろしくお願いします」

「いいわ、じゃあ楽器出して」

「はい!」


清霜が楽器を組み立て、リシュリューがピアノの椅子に座る


「あなたにはまず音を覚えてもらう、多分あなた譜面も読めないでしょ?」

「よ、読めません...」

「いいわ、じゃあこの音吹いてみて」


ポーン


(えっと... この音かな?)


バーーー


「違うわそれはAの音、今やったのはG」

「A... G...?」

「ああそこからね... じゃあドレミファソラシドはわかる?」

「一応は」

「じゃあ『ソ』を吹いてみて」


バーーー


「それがテナーサックスの『G』、ピアノだと『F』になるわ」


※ドレミファソラシドはCDEFGABと表記されます そしてテナーサックスとピアノでは同じドレミファソラシドでも音が違います
例えばテナーサックスでGを吹いてもピアノで同じ音を出そうとするとFを弾かなければいけません


「あなたにはまず音を覚えてもらうことから始める」

「音を覚える...」

「そう、あなたは今『G』という目印を見つけた、それを広げていくわ」

「はい!」
29 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:38:01.87 ID:cs33ogthO
2019年2月5日午後2時02分
早霜のバー「Lazy Bird」


「さて、音はもう覚えたわね じゃあ今日からタンギング(※)を」

※舌で息を調節する技術

「はい!」

「じゃあメトロノーム鳴らすからそれに合わせて音を区切って」


カチカチカチカチ


(やるぞ!)

ババッバババーババババ

(あ、あれ? できない!?)

「一音一音に意識を向けすぎね、長い音を区切るイメージを持ちなさい」

「長い音を区切る?」

「そうね... うーん... 金太郎飴みたいな感じかしら?」

(リシュリューさんから金太郎飴なんて言葉が出てくるなんて思わなかった)

「ま、ともかく 長い音が元なの、それを意識しなさい」

「どんな感じになるんですか?」

「...サックス、貸しなさい」

「え? あ、はい」


楽器を清霜から受け取り楽器を構える
どこかその雰囲気は達人のようだった


「じゃ、テンポ150まであげて」

「えっ!?(ひゃ、150!?)」

「...」


カチカチカチカチカチカチカチカチ


(リシュリューさんサックス出来るの...?)


バババババババババババババババ


「!? す、すご...」

「こんなかんじで吹いてみなさい」

「あの! もっと何か吹いてください!」

「いいわ」


バラバラー ババラバラララ
バーーーラバラバラ


30 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:38:50.75 ID:cs33ogthO
「!!」


たった数フレーズであったが清霜は感じ取った、この人は只者じゃない
どこか丸く優しい音だったがそれでも力強さを感じた


「すごい! リシュリューさんすごい! 何者なんですか!?」

「昔サックスをやってた、それだけよ」

「あのなんていうか... 丸くて優しい音、スタンゲッツみたい!」

「っ!?」

「すごく好きです! リシュリューさんの音! 私もそんな風になりたーー」


言いかけた瞬間リシュリューが遮る


「私じゃあダメなの」

「リ、リシュリューさん...?」


予想外の言葉に清霜は狼狽える
清霜はリシュリューの目からは悲しみ、怒り、無念、これらの言葉で言い表せないものが感じとった


「私になっちゃ... ダメ」

「それってどういう...」

「私もかつてジャズの巨人を目指したわ」

「リシュリューさんも?」

「私は... そう、あなたの言ったスタンゲッツに憧れてサックスを始めたの」

(意外、マイケルブレッカーみたいな音が好きかと思ってた)

「あの丸い優しい音... そして彼がよく吹いてたボサノヴァも私は好きになった」

「ボサノヴァ好きなんですか?」

「あら、フランス人は枯葉ばっか聴くわけじゃないわ」

「あ! いやそういうわけじゃなく...」

「冗談よ、話は戻るけど...」


どこか遠くを見るように顔を向けてリシュリューは語った
31 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:39:25.09 ID:cs33ogthO
「私はプロを目指していた、世界で活躍できるような」

「だから私は名門の音大にも行った...」

「そして在学中レコード会社の役員の前で私は演奏する機会があった」

「そして演奏が終わった後こう言われたわ」


ため息を漏らしこう言った


『君の音は古すぎる』


「ふ、古すぎるって...!」

「ええ、そう言われたわ」

「どうして!? いい音なのに!」

「違うの清霜、私が長年やってきたのはただ巨人の足跡を辿っただけだったの」

「足跡を?」

「『君は場末のパブで演奏をしたいのか、第一線に立って世界で活躍したいのかどっちなんだ? 今の君の音はただの模倣に過ぎない』」

「...」


思わず清霜は黙り込む、培ったものを根底から否定されたリシュリューの事を思うと胸が締め付けられたからだ


「私はプロの道を諦めたわ... 私はなぞっていたに過ぎない、そう思ったの」

「そんな...」

「だから清霜」

「は、はい!」

「わたしにはなっちゃダメ」

「...」
32 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:39:54.93 ID:cs33ogthO
2019年3月5日 午後2時00分
早霜のバー「Lazy Bird」


この時間のバーには二人しかいない
楽器を持った清霜とそれを見るリシュリュー
清霜の特訓は今日も続く

「よろしくお願いします!」

「じゃ、スケール(※)のテストするわ メジャー、マイナー(ナチュラルマイナー)、ハーモニックマイナーはまずは覚えてきたわね?」

※音階、音の並び

「た、たぶん...」

「はい?」

「お、覚えました!」

「よろしい、じゃ Fメジャー!」

バラララララララ

「次! Dマイナー!」

バラララララララ

「日和らない! 一瞬でも迷うな! さっきやったFメジャーと使うキー同じでしょ!(※) もう一回! 」

※平行調と呼ばれる関係にある、メジャースケールの6番目の指から始めるとマイナースケールになるのでFメジャーとDマイナーは使うキーが同じである

バラララララララ

「そう! それでいい! 次! Gハーモニックマイナー!」


ーーーーーーーー
ーーーーーーーー


「はい、今日はここまで」

「あ、ありがとうございました...」

「ま、覚えてはきたわね」

「頑張ります!」

「じゃあこの次はディミニッシュと教会旋法全部とオルタード...オルタードはとりあえず7thで、今言ったのをやってもらうわ」

「ひええ...」

「楽譜も読めるようになったし進歩はしてるわ、この調子で」

「リシュリューさんが褒めた...!?」

「失礼ね」
33 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:40:29.50 ID:cs33ogthO
2019年3月23日 午後11時15分
鎮守府 埠頭


「よし! メジャーとマイナーのペンタ(※)も迷わなかったしブルーノートスケールも覚えたぞ!」

※ペンタトニックスケール 1、2、3、5、6度の音で構成されるスケール

「こんな時間だけど、ちょっとだけ... 暖かかくなってきたかな?」


この数年間清霜は四季をこの場所で感じてきた
春は桜が、夏は暑い日差し、秋は紅葉、そして冬には雪
この場所で彼女はいくつもの練習を積み重ねてきた


「あー明日は遠征かー... ううん! じゃあ帰ったらいっぱい吹くぞ!」


時間を幾重にも積み重ね、そして彼女はあることに気づくこととなる


(最後ちょっと練習してから帰ろう)


バーバララバラバラバラ


(よし! いい感じに指が動く!)

(いける! このまま!!)


その瞬間だった


ババラバラバラバラバラーーー!!


「!?」

(い、今の... 何?)


あまりの衝撃に思わず手を離す


「頭の中で思い浮かべた事とサックスが繋がった...?」


ついに彼女はサックスを自分の体の様に操ることができた

34 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:40:55.12 ID:cs33ogthO
2019年4月8日 午後2時30分
早霜のバー「Lazy Bird」

ババババラバラバラバラー

(この子も楽器を手足みたいに操れる様になったわね)

(そろそろ頃合いかしら)


壁を超えた清霜からいくつものフレーズが飛び出してくる
リシュリューはそれを聞きあることを考える


ーーーーーーーー
ーーーーーーーー



「はい、じゃあ今日はここまで」

「ありがとうございました!」

「ところで清霜」

「何ですか?」

「そろそろあなたは誰かと合わせてもいい頃ね」

「合わせるって... まさか!?」

「そう、セッション」


思ってもいない単語が師匠の口から飛び出してきて清霜は驚きを隠せなかった
長年挑戦したかった事に、ついに挑める
だが一つの疑問が浮かぶ


「あ、でもリシュリューさん」

「何?」

「メンバーってどうすれば...」

「自分で探しなさい」

「え」

「ここ」

「へ?」

「ジャズバーよ? 何人プレーヤーいると思ってるの」

「あっ...」


自分以外のプレーヤーに一度もあったことがないし、そもそもこの時間以外は埠頭で吹いている彼女には会う機会が全くなかった


「そうね... 明日から毎日夜にここに来れば見つかるんじゃないかしら」

「うん! 探してみます!」


着実に、一歩一歩踏み出していく
35 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:41:24.01 ID:cs33ogthO
2019年4月9日 午後9時21分
早霜のバー「Lazy Bird」

「し、しまった〜! 練習に夢中で今日ライブあるの忘れてた!」

「えっと、今日は確か... 妙高さん(Tp)と摩耶さん(B)と愛宕さん(Drs)と羽黒さん(Pf)、栗田艦隊カルテットかあ」

リシュリューの言いつけ通り行く事に決めた清霜、開演は9時だったがすっかり過ぎてしまっていた
店のドアをそっと開け中の様子を伺った


パラパラー


(へえ、こんな感じ...)


そしてソロ回しが始まったあたりで何かがおかしい事に気づいた
ステージ上で言い争う声が聞こえる


「おい、いつまでつまんねープレーすんだ?」

「ちゃ、ちょっと摩耶! 今ライブ中よ!」

「姉貴は黙ってな、そろそろうんざりなんだよ! いつも似たフレーズ! 同じ展開! 挑戦する気はねーのかよ!」

「摩耶!」

「アタシはもう抜ける! 世話になったな」


摩耶が足早に楽器を抱え立ち去り会場がどよめく
出口に立っていた清霜のことは気にも留めなかった


「ごめんなさいね、あの子気難しい子だから...」

「同じプレーね... いや間違ってはいないわ、事実客席が埋まらなくなってきてる」


その言葉通り客席は半分ほどであった
おそらく昔はもっと居たのだろう


「姉さん...」

「同じことの繰り返しに私たちは満足していたのかもしれないわね...」
36 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:42:00.73 ID:cs33ogthO
午後9時37分
鎮守府中庭


早歩きでウッドベースを背負いながら摩耶が中庭を通る

(あークソが! 腹たつ! 何で姉貴たちは変わってくれないんだよ!)

(毎日同じじゃ何も変わらねえんだよ! 客だって飽きる!)

「...」

「はあ...」

「だからって言い過ぎたな...」


楽器をそばに置き木に寄りかかる、明日のことも考えずに飛び出してしまいどう謝ろうかを考える


「明日からどうしようかな... アタシ、合わせる顔もない...」

「ねえ摩耶さん!」

「おわーーーっ!!??」


突然話しかけられ思わず声を上げる、そして清霜から思いもよらない言葉が飛び出す


「私と組まない?」

「...」

「どう!? どう!?」

「お前何言ってんだ?」


第3話
終わり
37 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:44:12.10 ID:cs33ogthO
今日はここまで、リシュリューが言われた言葉は実際にプロの人がアマチュアのバンドに言い放った言葉です
古いものをなぞるだけならあなたは第一線には立てない、新しいものを作らないといけない
模倣は第一歩ですがそこからが本当の勝負になります

ありがとうございました
38 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/05/13(月) 01:53:04.98 ID:cs33ogthO
(ちなみに私は模倣すらできてねえ始末です)
39 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/05/14(火) 11:10:47.76 ID:RdKWX7jEO
ジャズSSってもしかしてニッチ過ぎましたかね...
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/14(火) 12:54:19.75 ID:rPaFEDM90
好きよ
41 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/05/14(火) 16:14:25.39 ID:penqAI0K0
レスがないものでなんか読んでる人居ないのかと思ってました... 好きって言って頂けるなら幸いです
精進します
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/17(金) 23:36:06.43 ID:++3162MQO
摩耶さまか
凸凹コンビ、身長がな!
更新乙です
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/18(土) 00:28:10.52 ID:xDQkF67A0
久し振りにSS速報来たら、新作じゃないか!
超楽しみに続きを待つ!
44 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:41:28.31 ID:SC9Xen1eO
第4話
High Maintenance



2019年4月9日 午後9時38分
鎮守府中庭


「へ?」

「いやおかしいだろ、いきなり組まないかなんて」


突然清霜から誘いが来たことに摩耶は驚きというより呆れていた
いきなり何を言い出したんだこいつは?
そんな目で清霜を見る


「えーだって摩耶さん今誰とも組んでないんでしょ? だから私とーー」

「あのなあ、あれは勢いで言っちまっただけで...」

「勢い?」

「うう... てかそもそもお前楽器やってんのかよ! まさか何もなしにーー」

「テナーサックス」

「あん?」

「私、サックスやってる!」

「はーんサックスねえ...(どうせへたっぴだろ)」

「じゃあ摩耶さん! 私の演奏聴いてそれで決めてよ!」

「お、おう...(何だこいつ? 自信あんのか?)」
45 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:42:02.11 ID:SC9Xen1eO
いそいそと楽器を組み立てる清霜
灯りに照らされた楽器を見て摩耶は驚きを見せた


(こいつ... 相当やりこんでる...?)


そんな摩耶に意も介さず清霜はセッティングを終える


「じゃ、いい?」

「いいぜ、好きにやんな」

「じゃあジョンコルトレーンのMr. P.C.を...」



呼吸を整え、リシュリューに叩き込まれた基礎を思い出しながらゆっくりと楽器を構える
いま目の前にいる一人に認めてもらうために全力を出そうとしていた
静寂が消える


バラバラバラバラバーラバラッバーラーラ


「!!(こ、こいつ...!)」


あの使い込まれた楽器に相応しい音が清霜のサックスから飛び出してくる
かつての荒削りなものでなくより研磨され、洗練された音
そしてなおも人を圧倒させる音を...



ーーーーーーーー
ーーーーーーーー


46 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:42:48.35 ID:SC9Xen1eO
「はあ... はあ... どうだった?」

「...一つ聞いていか?」

「うん、いいよ! 何?」

「何でアタシを選んだ?」

「摩耶さん言ってたでしょ、挑戦する気は無いのかって」

「お、おう...(見てたのかよ...)」

「だから選んだの」

「あん?」

「新しいこと、やろうよ」

「...!」



摩耶にとって思いがけない言葉だった
しかし心残りもあった



「そのことなんだけどさ...」

「何?」

「姉貴たちに酷いこと言っちまった、もともと姉貴たちスタンダードナンバーやるのがすごい好きで... アタシもそうだった」

「うんうん」

「だからアタシも一緒にやって楽しかった、でも2年前... 間宮さんの食堂で駆逐艦の連中がコンボ演奏してたろ?」

「あのビッグバンドやってる子達の?」

「そう、そこで確か朧とかがやってたやつ あれ見てジャズってこんな激しい音楽だったんだって思ったんだよ」

「ジャズってもっとゆったりとしてさ、落ち着いたもんだとばかり思ってた」

「あれ、すごかったよね!」

「だからアタシも新しいジャズやってみたくなった」

「あれ? そういえば摩耶さんっていつからベースやってるの?」

「10年」

「へ!?」

「意外とここいるんだよな、楽器やってたやつ」

「ビッグバンドの方には行かなかったの? まあ私も行かなかったけど...」

「意外と行かないもんよ、これが」
47 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:43:16.27 ID:SC9Xen1eO
「ああ、話ずれちまったな ともかく姉貴たちに悪いことしちまったし、まだ本当に抜けるかは分かんねえ」

「え、じゃあ乗ってくれないの?」

「ああ、悪いな」

「うーんそっかあ...」

「まあお前の腕ならすぐ見つかるだろ、別にきにするこたあーー」

「せっかく見つかったと思ったのに...」

「うっ!?」


誰がみても今の清霜は不幸のどん底という表現がぴったりであろう
近寄りがたい、というより近寄ったら何か起きるかのような落ち込み度合いであった


「セッション... できるのかなあ...」

「お、おい! なんだよ! これじゃアタシが悪いみたいじゃねえか!」

「いいよ摩耶さん... 自分で探すから...」

「あーもうわかったよ! 一回! 一回だけだからな!」

「!! ほ、ホント!?」


かと思えば今度は幸福の絶頂にいるかのような輝きを見せた
側から見ればこの二人はとても気妙に見えたかもしれない


「ゲンキンなやつだな... じゃあその代わりなんだけどよ...」

「何!? 何!?」

「姉貴たちに謝るから、ちょっとついてきてほしいんだよ やってもらいたいことがある」

「うん! 清霜に任せて!」

(なんか急に心配になってきたぜ...)

48 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:43:51.70 ID:SC9Xen1eO
午後10時00分
Lazy Bird 控え室

ジャズバーLazy Bird
早霜が秘密裏に建てたバーであったが今では多くの艦娘が利用している
数は多くはないがプレーヤーも居て多くの特別な一夜を作り上げてきた
しかし今日はそうはいかず悪い意味で特別になってしまった



ガチャ

「姉貴たち... いるか?」

「摩耶!」


声をあげたのは愛宕、この中で摩耶を一番心配していたのは彼女だった


「...今日のはどう言うことかしら」

「そ、そうですよ摩耶さん、急に抜けるなんて」


それに続いたのは妙高と羽黒、納得のいかない様子だった


「たしかにあなたの言う通り私たちのプレーは停滞してた、これは否めない... でも放棄するのはプレーヤーとしてどうなのかしら」

「それを謝りに来た」

「!!」

「謝ってすまねーかもしれねーけどさ、アタシは新しいことに挑戦したかったんだよ」

「新しいこと... ですか?」


羽黒が恐る恐る聞く
それに摩耶が答える


「そ、新しいこと そこでなんだけどよ... 入ってくれねーか?」
49 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:44:25.52 ID:SC9Xen1eO
ガチャ


ドアを開けて入ってきたのはテナーサックスを持った清霜
摩耶が続ける


「今からこいつも入れてセッションしてくれねーか」

「清霜ちゃん...? あなたそれって...」

「うん、妙高さん 私もプレーヤーなの」

「...驚いたわ」

「アタシは、新しいことをやりたい 今からそれをみんなに伝えたい」

「...いいかしら愛宕、羽黒」

「私は構わないわ」

「だ、大丈夫です」

「二人ともいいみたい いいわ、やりましょう」

(頼んだぜ、清霜)



50 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:44:51.40 ID:SC9Xen1eO
午後10時10分
Lazy Bird ステージ上

客のいないバー、居るのは早霜だけ
彼女は、ただ見守っていた


「よし... セッティングは終わった」

「こっちも出来たわよ〜」

「で、出来ました!」

「...いいわ、ところで清霜ちゃん」

「何? 妙高さん」

「曲、決めていいわよ」

「じゃあ『A列車で行こう』で」

「いいわ、愛宕 カウントして」

「わかったわ」


緊張が走る
摩耶の言っていた新しいこと、それを今から清霜と摩耶は示さなければいけない


「清霜」

「なに、摩耶さん」

「新しいこと」

「...」

「見せるぞ」

「...オッケー!」

「ワン、ツー ワンツー」

51 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:45:33.58 ID:SC9Xen1eO
パー パーパッパパラー


(音は重厚なのに鋭さがある! この子一体!?)


隣で吹いてる妙高はすぐにわかった、この子は手練れであると
一体どこまで積み上げればここまで行くのか想像ができなかった
テーマが終わり摩耶が囃し立てる


「よし清霜! ソロいけ!」

(よし!)


ババラバラッバー! バラバラバラ


(いいねえ! 見せつけてやれ!)

(よし! 手が動く!)


バッババラー! バラバラバー!


(いいわね! 引っ張ってく感じがいい!)


ドラムの愛宕も思わず釣られる


(つ、ついてかないと...!)


ピアノの羽黒は少し遅れ気味になる


(みんな引っ張られてる! サックスってこんな力強い楽器だったのか!?)

(楽しい! こいつ本当に楽しい!)


新しいことをやる、そう言っていた摩耶が一番驚いていた
そして摩耶は今までで一番たのしい、そう思いながらベースを弾き続ける




そして妙高のソロが始まる
52 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:46:10.78 ID:SC9Xen1eO
(今度は私のソロ... この子に勝てるかはわからない、けどやってみせる!)



パッパパララー


手堅く、安定感のある妙高のソロ
しかし今日のことを思い出す


『いつも似たフレーズ! 同じ展開! 挑戦する気はねーのかよ!』


(そう、私は... 停滞していた)

(今日はそれを超える日!)


パパラー パッパラー


(くっ...! だめ! これじゃあいつもと同じ!)

(どうして...! どうして停滞するの!)

53 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:46:36.19 ID:SC9Xen1eO
(姉さん、迷って吹いてる...?)


異変に気付いた羽黒であったがどうすることもできない、ただただ見守るしかなかった
しかし摩耶は違った


「妙高!」

(!?)

「考えずに吹け!」

(か、考えずに!? 何を言ってるの!?)

「好きな風に! 自分の好きな音出せ!」

(好きな...音?)

(自分の好きなように...)

(思うままに...!)


パッパラー! パパパラパラー!!


(!! 妙高さんのソロが急に!)


思わず驚く清霜
一瞬だけであったが妙高のソロに頭で考えたものでない、超自然的に湧き出てきたフレーズが飛び出した


(そうだ... 私、こう言うのがやりたかった!)


思わず笑みがこぼれる清霜、当の本人である妙高にそれを見る余裕はなかった
しかし一瞬、ほんの一瞬であったが巨人の片鱗を見せようとしていた



(今のは... なんだったの?)

(勝手にフレーズが飛び出してきた...?)


理論ではない、それ超えた音の運びを見せた






ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
54 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:47:17.41 ID:SC9Xen1eO
演奏が終わり摩耶が三人に話しかける


「どうだったよ、姉貴、妙高、羽黒」

「新しいことね... 面白かったわ!」

「一瞬だけど、考えずに思うがままに吹けたわ」

「わ、私は精一杯で...」

「アタシたちさ、こう言うのを今度からーーー」

「摩耶」

「なんだよ妙高」

「あなたは清霜ちゃんと一緒にやるのがいいわ」

「なっ!?」

「ちょ、ちょっと妙高!?」

「姉さん!」

「...どうしてそう思ったんだよ」


思わず聞き返す摩耶
当然である、いきなり清霜と組んだほうがいいと言われ困惑してしまった

55 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:48:01.44 ID:SC9Xen1eO
「楽しそうだったからよ」

「アタシがか?」

「そう、清霜ちゃんのソロの時... あなた今までで一番幸せそうな顔してた」

「...」

「私は... 今まで先人たちが作ってきたフレーズをなぞることしかできない、でも清霜ちゃんはどう? 彼女は違う 清霜ちゃんが吹いてる時、本当に楽しそうな顔してた」

「いいのかよ...」

「いいの、私たちはもっと研鑽する それでもっと上手くなったら... その時またやりましょ」

「...ああ!」

「いいかしら清霜ちゃん、摩耶のこと頼んで」

「いいよ! 摩耶さんとならやれそう!」

「ふふ、そう言うことで... 今までありがとう 摩耶」


妙高からそう言われ思わず涙が出そうになる摩耶


「な、なんだよ! 別に寂しくなんかねーし...」

「ふふ、泣きそうになってるわよ 摩耶」

「るせーな姉貴! 泣くわけねーだろ!」

「あの、摩耶さん! またやりましょう!」

「羽黒も! ちくしょう... グスッ... 泣かせにくるんじゃねーよ...」

「うふふ♪ 可愛い妹ねほんとに」

「うるせーな!」


目をこする摩耶 かつてのメンバーは微笑ましくそれを見守っていた
そしてーーー


「摩耶さん!!」

「なんだよ清霜」

「これからよろしくね!」

「...おうよ!!」


新しいメンバーと共に旅立つこととなった



56 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:48:44.26 ID:SC9Xen1eO
4月10日 午後6時00分
ジャズバー「Nomad」


「さてと、アタシたちはメンバーを増やさなければいけない」

「うんうん」

「だからここで探そうぜ」

「Lazy Birdでもよかったんじゃない?」

「いやそれがよー艦娘がLazy Birdじゃなくて外のライブハウスで演奏してるって噂あるからここにきたんだけどさ...」

「うーん...」

「ここじゃなかったな...」

「だねー メンバーみても一般人だけだったね」

「帰るか?」

「ううん、せっかくだし聴いていきたい」

「あっそ、じゃせっかくだし... !?」

「どうしたの摩耶さん」

「おいあそこのドラムって...」

「へ?」

「よ、よく見ろよ!」

「え、あれって...」


開演時間になり、MCがトークを始める


「えー今日は松田祐一クインテットの演奏を聴きに来ていただきありがとうございます」

パチパチパチパチ

「ちょっと先に連絡することがありまして今日はドラムの橋本くんがお休みで... 急遽代打で彼女に乗ってもらうことになりました、艦娘の榛名さんです どうか大きな拍手を!」


パチパチパチパチ



「まじかよ...」


第4話
終わり
57 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:51:14.61 ID:SC9Xen1eO
今日はここまで

本編と関係ありませんが摩耶ってなんかこう反抗期終わりかけって感じで可愛いですよね
ジャズ研入ってる人がビッグバンドにいくケースはあまりみませんが逆のケースはうちのバンドではよくありました、多分コンボ演奏やってる人はそんなにビッグバンド興味ないんだと思います
ありがとうございました
58 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:52:09.80 ID:SC9Xen1eO
おまけ
Take the A Train/Don Menza
https://m.youtube.com/watch?v=zADUXI7hlv8
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 19:18:14.50 ID:6WYaFkwi0
おつ
はるにゃんの、ドラム…!?うーわ、聞きたい〜〜!!!(ダンスも踊っていいのよ?)
60 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/05/22(水) 19:03:32.65 ID:EQ9iNIzgO
やばい好きなビッグバンドが来日するのが決まってめちゃくちゃ嬉しい、5話書いたら露骨に宣伝します
61 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/05/27(月) 00:32:42.74 ID:IVrzwXfN0
(´-`).。oO(艦これのイベと大学が少し忙しいので来週に第5話あげます)
62 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:39:08.20 ID:dqNIgeJS0
第5話
カンティーナ・バンド


4月10日 午後6時01分
ジャズバー「Nomad」


「あいつ... なんでここに...?」

「わかんないけど、急に代打で乗るくらいだから上手いのかな?」

鎮守府の外で演奏している艦娘がいる、そんな噂を聞き清霜と摩耶はライブハウスやジャズバーを探していた
そして偶然にも訪れたジャズバー、そこに居たのは榛名だった


「じゃあカウントお願いね」

「はい」


このカルテットのリーダーであろうテナーサックスの松田と名乗っていた男が榛名に指示を出す
63 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:39:41.44 ID:dqNIgeJS0
「ワン、ツー、ワンツー」


パパーラー バラッバー


テナーサックスに続きトランベットも力強くテーマを吹いていた
ピアノとベースもそれにつられるように弾く
そしてドラムは...


「榛名さん、そつなくこなしてるって感じ?」

「ま、始まったばかりだし聞こうぜ」

「うん」


まだこの時二人は榛名の腕前に気づくことはなかった




(よし! 俺のソロだ!)


ピアノがソロに入る、しかしフレーズが堂々巡りになっていた

ポーンポポポポポロ


(... くそ! ダメだ! さっきからフレーズが同じになってる!)

(周りは何回もやってるかもしれない! けど俺にとっては初めてのライブ! 失敗するわけには...!)


これに真っ先に気づいたのが榛名だった


(石村さん、緊張で同じフレーズに... よし!)


それに気づくや否や叩き方を変えた
アクセントの位置を変えたり、フィルインを加えるなどをし変化を与えた


(さ、これでどう?)


これにピアノの彼は気づいた


(!! 変わった!? いや! こうすれば!)


ポポポポポポロン


(よし!)


窮地を脱することが出来た
そしてトランペットソロに入る
64 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:40:07.20 ID:dqNIgeJS0
(よし! 今日は調子がいい!)


パッパラー!! パパパー!


(お、おい! あいつめっちゃ走ってるぞ!)


ベースが思わずつられる


(ああもう! ソロがうまくいったと思ったら!)


ピアノもつられそうになる


(リハの時より走ってる... 落ち着いてもらわなきゃ)


ドラムとして榛名はテンポを戻す事を考えた


ツタンタンタン タタタン


(戻って)

(!! やべえ! 走り過ぎてた!)


走ってることに気づき少し冷静になったせいか、フレーズも音も冴え渡る物に変わった


(あぶねえあぶねえ! 落ち着いていこう!)
65 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:40:33.70 ID:dqNIgeJS0
(さて、次は私の番か)


テナーサックスのソロが響き渡る


(...いつもより支えられてる感じがする、何故だ?)

(安心して吹ける...!)


支えられているはずなのに何に支えられているかわからない奇妙な感覚を、彼は覚えていた
その正体に、誰一人として気づくものはいなかった

彼女を除いて


「...榛名さんだ」

「あん?」

「この演奏、榛名さんが支配してる」

「どういうことだよ」

「全てを支えてるの、だけど... それに気づけない」

「...」

「まるで、影みたい」



ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー



パチパチパチパチ


「にしてもあいつ、結構上手いな」

「誘ってみる!?」

「明日鎮守府でな、今行くと迷惑だろ」

「そっかあ... うん! じゃあ明日!」

「いい感じに揃って来たぜ...!」



66 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:41:06.19 ID:dqNIgeJS0
4月11日 午前7時15分
鎮守府 間宮さんの食堂

朝の食堂は人でごった返しだった
訓練、出撃、遠征、この後の予定は様々だろう
清霜と摩耶はその予定よりも今はある事をするのが最優先だった

「榛名のやつ、どこいんだ?」

「この時間混むからねー... あ! いた!」

「あん? お、本当だ 行ってみっか」

「まって! まだデザート取ってない!」

「後にしろよ!」
67 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:41:33.23 ID:dqNIgeJS0
「...」

(一人で朝ごはんなんて久しぶりね)


榛名は一人、どこか寂しそうに座っていた
金剛型の他の姉妹は出撃や夜間演習があったためまだ戻っていなかった


「えっとこの後の予定は確か0800から演習だけで2100から新宿のAvenue Cで演奏で...」

「おう邪魔するぜ」

「榛名さん隣いい!?」

「きゃっ!?」


突然の襲来に驚きを隠せなかった榛名、摩耶が構わず言葉を続けた


「なあ榛名、お前ドラムやってんだろ」

「え、ええ やってるけど...」

「アタシ達と組もうぜ」

「榛名さん! 一緒にやろ!」

「え...?」


あまりにも唐突で榛名は言葉が出なかった


「ねえ摩耶さん、もしかしたら唐突すぎたかな?」

「いいんだよこんくらいで! ぐいぐい行こうぜ! で、どうなんだ榛名」

「...別にいいけど」

「ほ、本当!? やったあ!」

「ただし」

「ただし?」

「ずっとはやらないわ」

「あん!? なんでだよ!」

「いろんな人とやりたいから」

68 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:41:59.52 ID:dqNIgeJS0
言葉の意味がわからなかった清霜は思わず聞き返す


「それってどういうこと?」

「榛名は...好きにジャズをやって、それで上手くなりたいから」

「好きに...?」

「そう、特定の誰かとじゃなくて常にいろんな人とやっていきたいの それで楽しくやって、上手くなって行く」

「うーん...」

「ごめんなさいね」

「じゃあよ、もしアタシ達と一緒に演奏して気が変わったら?」

「...気が変わるかは分からないわ、でも 演奏はする」

「榛名さん」

「何? 清霜ちゃん」

「私ね、艦娘の仕事もあるけど本気でジャズやりたいの」

「本気で?」

「うん、世界一に ジャズの巨人になりたいの」

「...」

「昨日の榛名さんの演奏聴いて思ったの、一緒にやりたいって」

「聴いてたのね、昨日の」

「うん、摩耶さんも榛名さんも一緒にやれたらきっと目指せると思うの」

「目指す...」

「世界一になりたい」

「!!」

「私ジャズが大好きなの!!」


榛名は感じ取った、この目は本気であると


「わかったわ、それじゃあ早霜ちゃんのバーに1500に来て貰っていい?」

「うん!」

「いいぜ!」

「それじゃあ1500で、よろしく頼むわね」
69 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:42:57.75 ID:dqNIgeJS0
午後2時50分
早霜のバー「Lazy Bird」

ガチャ

防音の扉を開け榛名が店の中に入る
すでに清霜と摩耶は店内にいたが店主である早霜は居ない
練習を希望するものに鍵を渡しており、早霜が居なくても自由に入ることができる



「あ! 榛名さん! こんにちは!」

「うーっす」


準備はすでにできていたようだった


「もう準備できていたのね」

「うん! 後は榛名さん待ち!」

「アタシ達とやるか決めてくれよ!」

「...わかったわ」


持っていたスティックケースからスティックを取り出す
ドラムの椅子に座りタムやシンバルのチェックを始める


「問題ないわ、何やるの?」

「何やる? 清霜?」

「Caravan、テンポはこのくらい」


そう言いながら足踏みをする、150ほどであった


「おっけ 榛名、それでいいか?」

「いいわよ」

「榛名さんカウントお願い!」

「ワン、ツー ワンツー」
70 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:43:23.75 ID:dqNIgeJS0
バーー バララバラバラバー


(!! やっぱり! 噛み合う!)

(私の吹いてるフレーズに的確に... 合わせてくる!)


清霜は榛名に底知れぬものを感じた、只者ではないと


(まだきっと榛名さんは余力がある! なら!)


バラババー! バッババババラー!


(すごい! 全部包んでくる! 目立つわけじゃないけど的確に支えてくる!)


一方で摩耶も驚いていた


(こいつ、かなりやるな... アタシと清霜の音が前よりもカッチリハマる! 合わせてくるんだ!)


そして榛名もまた驚いていた


(清霜ちゃん... 面白い子ね、まるで恐れていない この子どんどんフレーズ湧いてくるのね まっすぐな子...)

(そして摩耶さんも力強いベース... 今までずっと一人で支えてきた、そんな感じね)

(今日は榛名も支えます!)


三人は、ジグソーパズルのピースが埋まるように噛み合った



ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー



71 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:43:50.63 ID:dqNIgeJS0
「...どうだった榛名さん」

「アタシ達、割と良かったと思うぜ」

「...」


清霜達の言葉に榛名は少しの迷いも見せることなく告げた


「ごめんなさい」


二人は思わず面を食らう


「え...?」

「なっ!? なんでだよ!」

「...やっぱり誰かと組む気は起きないの」

「起きないって...」

「榛名は... 自由に、いろんな人とやる、そう決めてるの」

「どうしてなの?」

「ジャズって自由な音楽でしょ? だから自由であるべき、そう思って榛名はドラムを叩いてるの 誰かのためじゃなくて、結局自分が満足するために」

「榛名さん」

「何?」

「榛名さんは自分が満足するためにやってると思えないの」

「え...?」

「だって、榛名さんのドラム すごく優しいんだもん」

「優しい...?」

「うん、みんなのために叩いてる 自分勝手な人に叩けるドラムじゃなかった そんなこと言ったら私の方が自分勝手だよ、私は自分の好きに思うがままに吹いてるから」

「...」

「みんなのために、榛名さんはやってる 人のためにやってるよ」

「人のために...」

「でも、榛名さんがやらない理由もわかったから私は止めない」

「お、おい! 清霜!」

「引き止めてもいいものはできないから、私は止めない」

「...こめんね清霜ちゃん、摩耶さん」

「別に平気だよ!」

「納得してんじゃ、こっちは止めようがねえよ」

「...ごめんなさい」


そう言いながら榛名はバーを去った
振り返りそうになったが、寸前で彼女はやめた


「おい、本当にいいのかよ」

「引き止めてもしょうがないよ、別の人探そう!」

「...そうだな」
72 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:46:08.04 ID:dqNIgeJS0
午後11時00分
ジャズバー Avenue C


榛名が今日乗ったバンドの演奏が終わり、彼女は帰る準備をしていた


(今日は終わり、帰ろう)


そこに同じバンドのメンバーの会話が聞こえてきた


「今日のテイクどうよ?」

「覚えてないな、今日は退屈だった」

「おいそんなこと言うなよ! それよりも今日はライブよりもみんなで飲みに来たんだろ?」

「はは、そうだったな あ、ドラムのあの子どうすんの?」

「あの可愛い子? どうせ来ないんじゃないか? なんかよそよそしかったし」

「だな、埋め合わせだったし 別にいいか」

「あーあ、客も渋かったしさっさと飲むぞ」



「...」

(帰ろう)
73 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:46:34.25 ID:dqNIgeJS0
午後11時20分
電車内


「...」


榛名は電車に揺られ帰路についていた
そして清霜の言葉を思い出す



『私ね、艦娘の仕事もあるけど本気でジャズやりたいの』

『世界一になりたい』

『私ジャズが大好きなの!!』


「...」

「ジャズが好き、ね...」


74 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:48:52.11 ID:dqNIgeJS0
4月11日 午前7時01分
鎮守府 間宮さんの食堂


「ドラム、見つかんねーな」

「ピアノも探さなきゃねー...」


食堂で悩む二人、そこに...
榛名がやってきた


「ここ、いいかしら」

「あれ? 榛名さん?」

「なんだよ、冷やかしか?」

「榛名も一緒にやるわ」

「!!」

「なっ!?」


思わず驚く二人、摩耶が理由を聞く


「なんで急に思ったんだよ?」

「ジャズに... 真摯だったから」

「真摯?」

「そう、榛名も本気でやりたくなったの」

「本当!?」

「二人を見て思ったの やっぱり、本気でジャズやりたいって... ジャズ好きだから」

「やった! やったね摩耶さん! 榛名さん! これからよろしく!」

「何があったかは聞かねえけど、よろしくな」

「ええ!」
75 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:49:24.21 ID:dqNIgeJS0
同時刻
間宮さんの食堂


「うう〜 やっぱり話しかけるなんて無理だって〜」

「Gamby! 大丈夫! 私たちがいるから!」

「そうよ! 話しかけてみなさいって!」

「うう〜...」


清霜達の後ろにGambier Bay、Samuel B.Roberts、Johnstonの三人がいた
なにやら話しかけようとしているが一向に進まない様子だった


「ラチがあかないなあ... よし! Hi! 清霜!」

「あっ! Sam!」


しびれを切らしたのかサムが話しかけそれに清霜が答えた


「うん? あっ! サムちゃんおはよう! どうしたの?」

「さ、Gamby! 言ってみて!」

「う、うう〜...」

「? どうしたのガンビーさん」


ここまできたらもう後戻りできない、意を決してガンビアベイは言った


「あ、あのっ! 私! ジャズやってみたいんです! 私に教えてください!」

「へ...?」


しばしの沈黙の後摩耶が言葉を発する


「お前何言ってんだ?」

「AAAAGGGHHH!! 栗田艦隊!」

「今更かよ!」



第5話
終わり
76 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:51:41.31 ID:dqNIgeJS0
今日はここまで
ジャズは楽しくやるのもアリだし楽しいからこそ本気でやるのもアリだと勝手に思ってます
ジャズって楽しいですよ
77 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:56:05.14 ID:dqNIgeJS0
露骨な宣伝

ゴードングッドウィンの率いるビッグバンド、Big Phat Band来日決定! Web予約は6/18 電話予約は6/21から!


http://www.bluenote.co.jp/jp/sp/artists/gordon-goodwin-big-phat-band/


The Jazz Police
https://m.youtube.com/watch?v=SV1juxVlpic

High maintenance
https://m.youtube.com/watch?v=Y1KKwk5JWQg
78 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/06/02(日) 01:59:47.95 ID:dqNIgeJS0
露骨な宣伝その2

ビッグバンドの神様とも言われるカウントベイシー率いるカウントベイシーオーケストラが来日、スウィングジャズが好きな方は是非


http://www.bluenote.co.jp/jp/sp/artists/count-basie/


In a mellow tone
https://m.youtube.com/watch?v=-0v0RJqpu0g


79 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/02(日) 02:04:01.01 ID:dqNIgeJS0
(´-`).。oO(ちょっと裏話ですが摩耶はチャールズミンガス、榛名はシャドウウィルソンをちょっとだけイメージしながら書きました)
80 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/05(水) 00:26:14.91 ID:KRLgOxRn0
第6話
Three And One(前編)



4月11日 午前7時01分
鎮守府 間宮さんの食堂


「やっぱり話しかけるんじゃなかったやっぱり怖いし無理い〜...」

「失礼だなお前!」


清霜達に話しかけてきたガンビアベイ、勇気を出したものの怖さの方が上回ってしまった
ジャズをやりたいと言う言葉に清霜は反応した


「ねえガンビーさん、ジャズやりたいの?」

「へ? う、うん... あ、あの清霜がサックスやってるの知ってて... そ、それで...」

「えっ!? 私まだお客さんの前でやったことないよ! なんで知ってるの?」

「あのね、この前鎮守府で迷子になっちゃって...」


思い出すようにガンビアベイは続ける


「その時音が聞こえたの」

「音?」

「うん、力強くて... どこか人を惹きつけるそんな音... 誰かいるのかなって思ってそっちに行ったら... あなたがいて」

「見られてたんだ...」

「その音聞いて、私もジャズやってみたいって!」

「でもそれ言うまで2週間はかかったよね」

「もう! Sam! 言わないでよ〜!」

「私の音で始めたいって思ってくれたの!?嬉しい! じゃあガンビーさんも一緒にやろうよ!」


清霜の中で感情が込み上げていた
私の音でジャズを始めたいと思ってくれた、早くいろんな人の前で吹きたい、不思議な高揚感に包まれていた
81 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/05(水) 00:26:57.28 ID:KRLgOxRn0
(やっぱりこいつ『特別』なんだな)

(こいつの音は... 人を動かせる、そこらのプレーヤーとは格が違う)


摩耶はそう考えた後ガンビーに疑問を投げかけた


「ところでよ、お前ジャズやるって楽器何やるんだよ」

「へ? あ、まだ何も...」

「お前なあ... ジャズやりたいとか言ってるのになんも考えてねえのかよ」

「ひっ! ごごごめんなさい!!」

「あたしはこんな奴と...」


遮るように清霜が言った


「別にいいじゃない」

「はあ?」

「へ?」

「なんで? 最初は誰だって知らないし、やってみたいって気持ちからジャズ始めてもいいじゃない」

「でもよお...」


榛名もまた制するように言う


「榛名もいいと思うわ」

「お前まで!」

「ただし、本気でやってもらうわ」

「ほ、本気で ですか...?」

「そう、最初は下手でもいい でもその分本気でやってもらうわ それでいい? 清霜ちゃん、ガンビーさん?」

「うん! いいと思います!」

「は、はい!」

「ね、いいでしょ 摩耶さん」

「はあ... わかったよ、ただし! ついていけないならやめてもらう! アタシ達は上目指したいからな」

「ひ〜... が、頑張ります!」

「ねえ! ガンビーさんにピアノやってもらおうよ!」

「ピアノ!? 誰が教えんだよ!」

「あっ...」

「アタシは教える気ないからな、独学でやってもらう」

「ど、独学!?」

「ま、どうせ無理だろうけ...」

「や、やります!」

「おう!?」


思わず声を出して摩耶は驚いた、ジョンストンとサムもまた驚いていた
それに対し清霜と榛名はどこか微笑んでいた
82 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/05(水) 00:27:39.78 ID:KRLgOxRn0
「ちょ、ちょっとガンビー! 大丈夫なの!?」

「そうだよ! 大丈夫なの?」

「サム、ジョンストン 私なら大丈夫 やってみる!」


こんなガンビーはみたことない、そんな顔をする二人だった
いつもは無理無理という彼女、しかし今回彼女は逃げなかった
そんな彼女をみて摩耶はあることを思いつく


「そうか... いいぜ、じゃあ宿題出してやる」

「ほい、これ 譜面」

「へ...?」


https://i.imgur.com/9OGpxOS.jpg
引用元 http://jazzpiano.space/2018/06/10/post-217/


「あの、摩耶さん... 音符の他にあるこのアルファベットってなんですか?」

「コード」

「こ、こーど...?」

※コード 和音のこと、ルート音(根音)を基準に音を重ねることによって音に厚みが生じる

聞いたことのない単語に彼女は頭をひねった

「簡単に言うと和音、音重ねてる」

「う、うん...?」

「書いてある音符が主旋律(メロディー)、でコードがバッキング(伴奏)、2週間でアタシ達に合わせられるように弾けるようになってこい」

「へえ!? に、2週間!?」

「ああそうだ、それでお前の本気をはかる」

「そ、そんなの無理...」

「じゃ? やめるか?」

「うう... い、いや! やります!」

「よーしそれでいい!」

「榛名さん、摩耶さんなんかノリノリだね」

「ふふ、そうね」

「ツンデレって言うのかな?」

「おいそこうっせーぞ!!」


本気でやることを条件にバンドの加入を許可されたガンビアベイ
第一歩を踏みだす
三人と一人が、一つになるように



第6話
終わり
83 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/05(水) 00:31:04.04 ID:KRLgOxRn0
一旦早めに区切ります、次回はガンビーがすごく頑張る回です(情報量が多いので区切りました)
2週間でコード覚えたりは大変ですが(かなり)頑張れば多分できるかもしれません
ガンビーならきっとどんどん吸収して成長してくれるかなと思います
ありがとうございました
84 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/05(水) 00:31:32.76 ID:KRLgOxRn0
(´-`).。oO(私も素人ですが何か質問あったら受け付けます)
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