清霜「Saxophone Colossus 」

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29 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:38:01.87 ID:cs33ogthO
2019年2月5日午後2時02分
早霜のバー「Lazy Bird」


「さて、音はもう覚えたわね じゃあ今日からタンギング(※)を」

※舌で息を調節する技術

「はい!」

「じゃあメトロノーム鳴らすからそれに合わせて音を区切って」


カチカチカチカチ


(やるぞ!)

ババッバババーババババ

(あ、あれ? できない!?)

「一音一音に意識を向けすぎね、長い音を区切るイメージを持ちなさい」

「長い音を区切る?」

「そうね... うーん... 金太郎飴みたいな感じかしら?」

(リシュリューさんから金太郎飴なんて言葉が出てくるなんて思わなかった)

「ま、ともかく 長い音が元なの、それを意識しなさい」

「どんな感じになるんですか?」

「...サックス、貸しなさい」

「え? あ、はい」


楽器を清霜から受け取り楽器を構える
どこかその雰囲気は達人のようだった


「じゃ、テンポ150まであげて」

「えっ!?(ひゃ、150!?)」

「...」


カチカチカチカチカチカチカチカチ


(リシュリューさんサックス出来るの...?)


バババババババババババババババ


「!? す、すご...」

「こんなかんじで吹いてみなさい」

「あの! もっと何か吹いてください!」

「いいわ」


バラバラー ババラバラララ
バーーーラバラバラ


30 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:38:50.75 ID:cs33ogthO
「!!」


たった数フレーズであったが清霜は感じ取った、この人は只者じゃない
どこか丸く優しい音だったがそれでも力強さを感じた


「すごい! リシュリューさんすごい! 何者なんですか!?」

「昔サックスをやってた、それだけよ」

「あのなんていうか... 丸くて優しい音、スタンゲッツみたい!」

「っ!?」

「すごく好きです! リシュリューさんの音! 私もそんな風になりたーー」


言いかけた瞬間リシュリューが遮る


「私じゃあダメなの」

「リ、リシュリューさん...?」


予想外の言葉に清霜は狼狽える
清霜はリシュリューの目からは悲しみ、怒り、無念、これらの言葉で言い表せないものが感じとった


「私になっちゃ... ダメ」

「それってどういう...」

「私もかつてジャズの巨人を目指したわ」

「リシュリューさんも?」

「私は... そう、あなたの言ったスタンゲッツに憧れてサックスを始めたの」

(意外、マイケルブレッカーみたいな音が好きかと思ってた)

「あの丸い優しい音... そして彼がよく吹いてたボサノヴァも私は好きになった」

「ボサノヴァ好きなんですか?」

「あら、フランス人は枯葉ばっか聴くわけじゃないわ」

「あ! いやそういうわけじゃなく...」

「冗談よ、話は戻るけど...」


どこか遠くを見るように顔を向けてリシュリューは語った
31 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:39:25.09 ID:cs33ogthO
「私はプロを目指していた、世界で活躍できるような」

「だから私は名門の音大にも行った...」

「そして在学中レコード会社の役員の前で私は演奏する機会があった」

「そして演奏が終わった後こう言われたわ」


ため息を漏らしこう言った


『君の音は古すぎる』


「ふ、古すぎるって...!」

「ええ、そう言われたわ」

「どうして!? いい音なのに!」

「違うの清霜、私が長年やってきたのはただ巨人の足跡を辿っただけだったの」

「足跡を?」

「『君は場末のパブで演奏をしたいのか、第一線に立って世界で活躍したいのかどっちなんだ? 今の君の音はただの模倣に過ぎない』」

「...」


思わず清霜は黙り込む、培ったものを根底から否定されたリシュリューの事を思うと胸が締め付けられたからだ


「私はプロの道を諦めたわ... 私はなぞっていたに過ぎない、そう思ったの」

「そんな...」

「だから清霜」

「は、はい!」

「わたしにはなっちゃダメ」

「...」
32 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:39:54.93 ID:cs33ogthO
2019年3月5日 午後2時00分
早霜のバー「Lazy Bird」


この時間のバーには二人しかいない
楽器を持った清霜とそれを見るリシュリュー
清霜の特訓は今日も続く

「よろしくお願いします!」

「じゃ、スケール(※)のテストするわ メジャー、マイナー(ナチュラルマイナー)、ハーモニックマイナーはまずは覚えてきたわね?」

※音階、音の並び

「た、たぶん...」

「はい?」

「お、覚えました!」

「よろしい、じゃ Fメジャー!」

バラララララララ

「次! Dマイナー!」

バラララララララ

「日和らない! 一瞬でも迷うな! さっきやったFメジャーと使うキー同じでしょ!(※) もう一回! 」

※平行調と呼ばれる関係にある、メジャースケールの6番目の指から始めるとマイナースケールになるのでFメジャーとDマイナーは使うキーが同じである

バラララララララ

「そう! それでいい! 次! Gハーモニックマイナー!」


ーーーーーーーー
ーーーーーーーー


「はい、今日はここまで」

「あ、ありがとうございました...」

「ま、覚えてはきたわね」

「頑張ります!」

「じゃあこの次はディミニッシュと教会旋法全部とオルタード...オルタードはとりあえず7thで、今言ったのをやってもらうわ」

「ひええ...」

「楽譜も読めるようになったし進歩はしてるわ、この調子で」

「リシュリューさんが褒めた...!?」

「失礼ね」
33 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:40:29.50 ID:cs33ogthO
2019年3月23日 午後11時15分
鎮守府 埠頭


「よし! メジャーとマイナーのペンタ(※)も迷わなかったしブルーノートスケールも覚えたぞ!」

※ペンタトニックスケール 1、2、3、5、6度の音で構成されるスケール

「こんな時間だけど、ちょっとだけ... 暖かかくなってきたかな?」


この数年間清霜は四季をこの場所で感じてきた
春は桜が、夏は暑い日差し、秋は紅葉、そして冬には雪
この場所で彼女はいくつもの練習を積み重ねてきた


「あー明日は遠征かー... ううん! じゃあ帰ったらいっぱい吹くぞ!」


時間を幾重にも積み重ね、そして彼女はあることに気づくこととなる


(最後ちょっと練習してから帰ろう)


バーバララバラバラバラ


(よし! いい感じに指が動く!)

(いける! このまま!!)


その瞬間だった


ババラバラバラバラバラーーー!!


「!?」

(い、今の... 何?)


あまりの衝撃に思わず手を離す


「頭の中で思い浮かべた事とサックスが繋がった...?」


ついに彼女はサックスを自分の体の様に操ることができた

34 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:40:55.12 ID:cs33ogthO
2019年4月8日 午後2時30分
早霜のバー「Lazy Bird」

ババババラバラバラバラー

(この子も楽器を手足みたいに操れる様になったわね)

(そろそろ頃合いかしら)


壁を超えた清霜からいくつものフレーズが飛び出してくる
リシュリューはそれを聞きあることを考える


ーーーーーーーー
ーーーーーーーー



「はい、じゃあ今日はここまで」

「ありがとうございました!」

「ところで清霜」

「何ですか?」

「そろそろあなたは誰かと合わせてもいい頃ね」

「合わせるって... まさか!?」

「そう、セッション」


思ってもいない単語が師匠の口から飛び出してきて清霜は驚きを隠せなかった
長年挑戦したかった事に、ついに挑める
だが一つの疑問が浮かぶ


「あ、でもリシュリューさん」

「何?」

「メンバーってどうすれば...」

「自分で探しなさい」

「え」

「ここ」

「へ?」

「ジャズバーよ? 何人プレーヤーいると思ってるの」

「あっ...」


自分以外のプレーヤーに一度もあったことがないし、そもそもこの時間以外は埠頭で吹いている彼女には会う機会が全くなかった


「そうね... 明日から毎日夜にここに来れば見つかるんじゃないかしら」

「うん! 探してみます!」


着実に、一歩一歩踏み出していく
35 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:41:24.01 ID:cs33ogthO
2019年4月9日 午後9時21分
早霜のバー「Lazy Bird」

「し、しまった〜! 練習に夢中で今日ライブあるの忘れてた!」

「えっと、今日は確か... 妙高さん(Tp)と摩耶さん(B)と愛宕さん(Drs)と羽黒さん(Pf)、栗田艦隊カルテットかあ」

リシュリューの言いつけ通り行く事に決めた清霜、開演は9時だったがすっかり過ぎてしまっていた
店のドアをそっと開け中の様子を伺った


パラパラー


(へえ、こんな感じ...)


そしてソロ回しが始まったあたりで何かがおかしい事に気づいた
ステージ上で言い争う声が聞こえる


「おい、いつまでつまんねープレーすんだ?」

「ちゃ、ちょっと摩耶! 今ライブ中よ!」

「姉貴は黙ってな、そろそろうんざりなんだよ! いつも似たフレーズ! 同じ展開! 挑戦する気はねーのかよ!」

「摩耶!」

「アタシはもう抜ける! 世話になったな」


摩耶が足早に楽器を抱え立ち去り会場がどよめく
出口に立っていた清霜のことは気にも留めなかった


「ごめんなさいね、あの子気難しい子だから...」

「同じプレーね... いや間違ってはいないわ、事実客席が埋まらなくなってきてる」


その言葉通り客席は半分ほどであった
おそらく昔はもっと居たのだろう


「姉さん...」

「同じことの繰り返しに私たちは満足していたのかもしれないわね...」
36 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:42:00.73 ID:cs33ogthO
午後9時37分
鎮守府中庭


早歩きでウッドベースを背負いながら摩耶が中庭を通る

(あークソが! 腹たつ! 何で姉貴たちは変わってくれないんだよ!)

(毎日同じじゃ何も変わらねえんだよ! 客だって飽きる!)

「...」

「はあ...」

「だからって言い過ぎたな...」


楽器をそばに置き木に寄りかかる、明日のことも考えずに飛び出してしまいどう謝ろうかを考える


「明日からどうしようかな... アタシ、合わせる顔もない...」

「ねえ摩耶さん!」

「おわーーーっ!!??」


突然話しかけられ思わず声を上げる、そして清霜から思いもよらない言葉が飛び出す


「私と組まない?」

「...」

「どう!? どう!?」

「お前何言ってんだ?」


第3話
終わり
37 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/13(月) 01:44:12.10 ID:cs33ogthO
今日はここまで、リシュリューが言われた言葉は実際にプロの人がアマチュアのバンドに言い放った言葉です
古いものをなぞるだけならあなたは第一線には立てない、新しいものを作らないといけない
模倣は第一歩ですがそこからが本当の勝負になります

ありがとうございました
38 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/05/13(月) 01:53:04.98 ID:cs33ogthO
(ちなみに私は模倣すらできてねえ始末です)
39 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/05/14(火) 11:10:47.76 ID:RdKWX7jEO
ジャズSSってもしかしてニッチ過ぎましたかね...
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/14(火) 12:54:19.75 ID:rPaFEDM90
好きよ
41 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/05/14(火) 16:14:25.39 ID:penqAI0K0
レスがないものでなんか読んでる人居ないのかと思ってました... 好きって言って頂けるなら幸いです
精進します
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/17(金) 23:36:06.43 ID:++3162MQO
摩耶さまか
凸凹コンビ、身長がな!
更新乙です
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/18(土) 00:28:10.52 ID:xDQkF67A0
久し振りにSS速報来たら、新作じゃないか!
超楽しみに続きを待つ!
44 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:41:28.31 ID:SC9Xen1eO
第4話
High Maintenance



2019年4月9日 午後9時38分
鎮守府中庭


「へ?」

「いやおかしいだろ、いきなり組まないかなんて」


突然清霜から誘いが来たことに摩耶は驚きというより呆れていた
いきなり何を言い出したんだこいつは?
そんな目で清霜を見る


「えーだって摩耶さん今誰とも組んでないんでしょ? だから私とーー」

「あのなあ、あれは勢いで言っちまっただけで...」

「勢い?」

「うう... てかそもそもお前楽器やってんのかよ! まさか何もなしにーー」

「テナーサックス」

「あん?」

「私、サックスやってる!」

「はーんサックスねえ...(どうせへたっぴだろ)」

「じゃあ摩耶さん! 私の演奏聴いてそれで決めてよ!」

「お、おう...(何だこいつ? 自信あんのか?)」
45 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:42:02.11 ID:SC9Xen1eO
いそいそと楽器を組み立てる清霜
灯りに照らされた楽器を見て摩耶は驚きを見せた


(こいつ... 相当やりこんでる...?)


そんな摩耶に意も介さず清霜はセッティングを終える


「じゃ、いい?」

「いいぜ、好きにやんな」

「じゃあジョンコルトレーンのMr. P.C.を...」



呼吸を整え、リシュリューに叩き込まれた基礎を思い出しながらゆっくりと楽器を構える
いま目の前にいる一人に認めてもらうために全力を出そうとしていた
静寂が消える


バラバラバラバラバーラバラッバーラーラ


「!!(こ、こいつ...!)」


あの使い込まれた楽器に相応しい音が清霜のサックスから飛び出してくる
かつての荒削りなものでなくより研磨され、洗練された音
そしてなおも人を圧倒させる音を...



ーーーーーーーー
ーーーーーーーー


46 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:42:48.35 ID:SC9Xen1eO
「はあ... はあ... どうだった?」

「...一つ聞いていか?」

「うん、いいよ! 何?」

「何でアタシを選んだ?」

「摩耶さん言ってたでしょ、挑戦する気は無いのかって」

「お、おう...(見てたのかよ...)」

「だから選んだの」

「あん?」

「新しいこと、やろうよ」

「...!」



摩耶にとって思いがけない言葉だった
しかし心残りもあった



「そのことなんだけどさ...」

「何?」

「姉貴たちに酷いこと言っちまった、もともと姉貴たちスタンダードナンバーやるのがすごい好きで... アタシもそうだった」

「うんうん」

「だからアタシも一緒にやって楽しかった、でも2年前... 間宮さんの食堂で駆逐艦の連中がコンボ演奏してたろ?」

「あのビッグバンドやってる子達の?」

「そう、そこで確か朧とかがやってたやつ あれ見てジャズってこんな激しい音楽だったんだって思ったんだよ」

「ジャズってもっとゆったりとしてさ、落ち着いたもんだとばかり思ってた」

「あれ、すごかったよね!」

「だからアタシも新しいジャズやってみたくなった」

「あれ? そういえば摩耶さんっていつからベースやってるの?」

「10年」

「へ!?」

「意外とここいるんだよな、楽器やってたやつ」

「ビッグバンドの方には行かなかったの? まあ私も行かなかったけど...」

「意外と行かないもんよ、これが」
47 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:43:16.27 ID:SC9Xen1eO
「ああ、話ずれちまったな ともかく姉貴たちに悪いことしちまったし、まだ本当に抜けるかは分かんねえ」

「え、じゃあ乗ってくれないの?」

「ああ、悪いな」

「うーんそっかあ...」

「まあお前の腕ならすぐ見つかるだろ、別にきにするこたあーー」

「せっかく見つかったと思ったのに...」

「うっ!?」


誰がみても今の清霜は不幸のどん底という表現がぴったりであろう
近寄りがたい、というより近寄ったら何か起きるかのような落ち込み度合いであった


「セッション... できるのかなあ...」

「お、おい! なんだよ! これじゃアタシが悪いみたいじゃねえか!」

「いいよ摩耶さん... 自分で探すから...」

「あーもうわかったよ! 一回! 一回だけだからな!」

「!! ほ、ホント!?」


かと思えば今度は幸福の絶頂にいるかのような輝きを見せた
側から見ればこの二人はとても気妙に見えたかもしれない


「ゲンキンなやつだな... じゃあその代わりなんだけどよ...」

「何!? 何!?」

「姉貴たちに謝るから、ちょっとついてきてほしいんだよ やってもらいたいことがある」

「うん! 清霜に任せて!」

(なんか急に心配になってきたぜ...)

48 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:43:51.70 ID:SC9Xen1eO
午後10時00分
Lazy Bird 控え室

ジャズバーLazy Bird
早霜が秘密裏に建てたバーであったが今では多くの艦娘が利用している
数は多くはないがプレーヤーも居て多くの特別な一夜を作り上げてきた
しかし今日はそうはいかず悪い意味で特別になってしまった



ガチャ

「姉貴たち... いるか?」

「摩耶!」


声をあげたのは愛宕、この中で摩耶を一番心配していたのは彼女だった


「...今日のはどう言うことかしら」

「そ、そうですよ摩耶さん、急に抜けるなんて」


それに続いたのは妙高と羽黒、納得のいかない様子だった


「たしかにあなたの言う通り私たちのプレーは停滞してた、これは否めない... でも放棄するのはプレーヤーとしてどうなのかしら」

「それを謝りに来た」

「!!」

「謝ってすまねーかもしれねーけどさ、アタシは新しいことに挑戦したかったんだよ」

「新しいこと... ですか?」


羽黒が恐る恐る聞く
それに摩耶が答える


「そ、新しいこと そこでなんだけどよ... 入ってくれねーか?」
49 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:44:25.52 ID:SC9Xen1eO
ガチャ


ドアを開けて入ってきたのはテナーサックスを持った清霜
摩耶が続ける


「今からこいつも入れてセッションしてくれねーか」

「清霜ちゃん...? あなたそれって...」

「うん、妙高さん 私もプレーヤーなの」

「...驚いたわ」

「アタシは、新しいことをやりたい 今からそれをみんなに伝えたい」

「...いいかしら愛宕、羽黒」

「私は構わないわ」

「だ、大丈夫です」

「二人ともいいみたい いいわ、やりましょう」

(頼んだぜ、清霜)



50 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:44:51.40 ID:SC9Xen1eO
午後10時10分
Lazy Bird ステージ上

客のいないバー、居るのは早霜だけ
彼女は、ただ見守っていた


「よし... セッティングは終わった」

「こっちも出来たわよ〜」

「で、出来ました!」

「...いいわ、ところで清霜ちゃん」

「何? 妙高さん」

「曲、決めていいわよ」

「じゃあ『A列車で行こう』で」

「いいわ、愛宕 カウントして」

「わかったわ」


緊張が走る
摩耶の言っていた新しいこと、それを今から清霜と摩耶は示さなければいけない


「清霜」

「なに、摩耶さん」

「新しいこと」

「...」

「見せるぞ」

「...オッケー!」

「ワン、ツー ワンツー」

51 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:45:33.58 ID:SC9Xen1eO
パー パーパッパパラー


(音は重厚なのに鋭さがある! この子一体!?)


隣で吹いてる妙高はすぐにわかった、この子は手練れであると
一体どこまで積み上げればここまで行くのか想像ができなかった
テーマが終わり摩耶が囃し立てる


「よし清霜! ソロいけ!」

(よし!)


ババラバラッバー! バラバラバラ


(いいねえ! 見せつけてやれ!)

(よし! 手が動く!)


バッババラー! バラバラバー!


(いいわね! 引っ張ってく感じがいい!)


ドラムの愛宕も思わず釣られる


(つ、ついてかないと...!)


ピアノの羽黒は少し遅れ気味になる


(みんな引っ張られてる! サックスってこんな力強い楽器だったのか!?)

(楽しい! こいつ本当に楽しい!)


新しいことをやる、そう言っていた摩耶が一番驚いていた
そして摩耶は今までで一番たのしい、そう思いながらベースを弾き続ける




そして妙高のソロが始まる
52 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:46:10.78 ID:SC9Xen1eO
(今度は私のソロ... この子に勝てるかはわからない、けどやってみせる!)



パッパパララー


手堅く、安定感のある妙高のソロ
しかし今日のことを思い出す


『いつも似たフレーズ! 同じ展開! 挑戦する気はねーのかよ!』


(そう、私は... 停滞していた)

(今日はそれを超える日!)


パパラー パッパラー


(くっ...! だめ! これじゃあいつもと同じ!)

(どうして...! どうして停滞するの!)

53 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:46:36.19 ID:SC9Xen1eO
(姉さん、迷って吹いてる...?)


異変に気付いた羽黒であったがどうすることもできない、ただただ見守るしかなかった
しかし摩耶は違った


「妙高!」

(!?)

「考えずに吹け!」

(か、考えずに!? 何を言ってるの!?)

「好きな風に! 自分の好きな音出せ!」

(好きな...音?)

(自分の好きなように...)

(思うままに...!)


パッパラー! パパパラパラー!!


(!! 妙高さんのソロが急に!)


思わず驚く清霜
一瞬だけであったが妙高のソロに頭で考えたものでない、超自然的に湧き出てきたフレーズが飛び出した


(そうだ... 私、こう言うのがやりたかった!)


思わず笑みがこぼれる清霜、当の本人である妙高にそれを見る余裕はなかった
しかし一瞬、ほんの一瞬であったが巨人の片鱗を見せようとしていた



(今のは... なんだったの?)

(勝手にフレーズが飛び出してきた...?)


理論ではない、それ超えた音の運びを見せた






ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
54 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:47:17.41 ID:SC9Xen1eO
演奏が終わり摩耶が三人に話しかける


「どうだったよ、姉貴、妙高、羽黒」

「新しいことね... 面白かったわ!」

「一瞬だけど、考えずに思うがままに吹けたわ」

「わ、私は精一杯で...」

「アタシたちさ、こう言うのを今度からーーー」

「摩耶」

「なんだよ妙高」

「あなたは清霜ちゃんと一緒にやるのがいいわ」

「なっ!?」

「ちょ、ちょっと妙高!?」

「姉さん!」

「...どうしてそう思ったんだよ」


思わず聞き返す摩耶
当然である、いきなり清霜と組んだほうがいいと言われ困惑してしまった

55 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:48:01.44 ID:SC9Xen1eO
「楽しそうだったからよ」

「アタシがか?」

「そう、清霜ちゃんのソロの時... あなた今までで一番幸せそうな顔してた」

「...」

「私は... 今まで先人たちが作ってきたフレーズをなぞることしかできない、でも清霜ちゃんはどう? 彼女は違う 清霜ちゃんが吹いてる時、本当に楽しそうな顔してた」

「いいのかよ...」

「いいの、私たちはもっと研鑽する それでもっと上手くなったら... その時またやりましょ」

「...ああ!」

「いいかしら清霜ちゃん、摩耶のこと頼んで」

「いいよ! 摩耶さんとならやれそう!」

「ふふ、そう言うことで... 今までありがとう 摩耶」


妙高からそう言われ思わず涙が出そうになる摩耶


「な、なんだよ! 別に寂しくなんかねーし...」

「ふふ、泣きそうになってるわよ 摩耶」

「るせーな姉貴! 泣くわけねーだろ!」

「あの、摩耶さん! またやりましょう!」

「羽黒も! ちくしょう... グスッ... 泣かせにくるんじゃねーよ...」

「うふふ♪ 可愛い妹ねほんとに」

「うるせーな!」


目をこする摩耶 かつてのメンバーは微笑ましくそれを見守っていた
そしてーーー


「摩耶さん!!」

「なんだよ清霜」

「これからよろしくね!」

「...おうよ!!」


新しいメンバーと共に旅立つこととなった



56 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:48:44.26 ID:SC9Xen1eO
4月10日 午後6時00分
ジャズバー「Nomad」


「さてと、アタシたちはメンバーを増やさなければいけない」

「うんうん」

「だからここで探そうぜ」

「Lazy Birdでもよかったんじゃない?」

「いやそれがよー艦娘がLazy Birdじゃなくて外のライブハウスで演奏してるって噂あるからここにきたんだけどさ...」

「うーん...」

「ここじゃなかったな...」

「だねー メンバーみても一般人だけだったね」

「帰るか?」

「ううん、せっかくだし聴いていきたい」

「あっそ、じゃせっかくだし... !?」

「どうしたの摩耶さん」

「おいあそこのドラムって...」

「へ?」

「よ、よく見ろよ!」

「え、あれって...」


開演時間になり、MCがトークを始める


「えー今日は松田祐一クインテットの演奏を聴きに来ていただきありがとうございます」

パチパチパチパチ

「ちょっと先に連絡することがありまして今日はドラムの橋本くんがお休みで... 急遽代打で彼女に乗ってもらうことになりました、艦娘の榛名さんです どうか大きな拍手を!」


パチパチパチパチ



「まじかよ...」


第4話
終わり
57 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:51:14.61 ID:SC9Xen1eO
今日はここまで

本編と関係ありませんが摩耶ってなんかこう反抗期終わりかけって感じで可愛いですよね
ジャズ研入ってる人がビッグバンドにいくケースはあまりみませんが逆のケースはうちのバンドではよくありました、多分コンボ演奏やってる人はそんなにビッグバンド興味ないんだと思います
ありがとうございました
58 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/05/18(土) 23:52:09.80 ID:SC9Xen1eO
おまけ
Take the A Train/Don Menza
https://m.youtube.com/watch?v=zADUXI7hlv8
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 19:18:14.50 ID:6WYaFkwi0
おつ
はるにゃんの、ドラム…!?うーわ、聞きたい〜〜!!!(ダンスも踊っていいのよ?)
60 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/05/22(水) 19:03:32.65 ID:EQ9iNIzgO
やばい好きなビッグバンドが来日するのが決まってめちゃくちゃ嬉しい、5話書いたら露骨に宣伝します
61 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/05/27(月) 00:32:42.74 ID:IVrzwXfN0
(´-`).。oO(艦これのイベと大学が少し忙しいので来週に第5話あげます)
62 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:39:08.20 ID:dqNIgeJS0
第5話
カンティーナ・バンド


4月10日 午後6時01分
ジャズバー「Nomad」


「あいつ... なんでここに...?」

「わかんないけど、急に代打で乗るくらいだから上手いのかな?」

鎮守府の外で演奏している艦娘がいる、そんな噂を聞き清霜と摩耶はライブハウスやジャズバーを探していた
そして偶然にも訪れたジャズバー、そこに居たのは榛名だった


「じゃあカウントお願いね」

「はい」


このカルテットのリーダーであろうテナーサックスの松田と名乗っていた男が榛名に指示を出す
63 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:39:41.44 ID:dqNIgeJS0
「ワン、ツー、ワンツー」


パパーラー バラッバー


テナーサックスに続きトランベットも力強くテーマを吹いていた
ピアノとベースもそれにつられるように弾く
そしてドラムは...


「榛名さん、そつなくこなしてるって感じ?」

「ま、始まったばかりだし聞こうぜ」

「うん」


まだこの時二人は榛名の腕前に気づくことはなかった




(よし! 俺のソロだ!)


ピアノがソロに入る、しかしフレーズが堂々巡りになっていた

ポーンポポポポポロ


(... くそ! ダメだ! さっきからフレーズが同じになってる!)

(周りは何回もやってるかもしれない! けど俺にとっては初めてのライブ! 失敗するわけには...!)


これに真っ先に気づいたのが榛名だった


(石村さん、緊張で同じフレーズに... よし!)


それに気づくや否や叩き方を変えた
アクセントの位置を変えたり、フィルインを加えるなどをし変化を与えた


(さ、これでどう?)


これにピアノの彼は気づいた


(!! 変わった!? いや! こうすれば!)


ポポポポポポロン


(よし!)


窮地を脱することが出来た
そしてトランペットソロに入る
64 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:40:07.20 ID:dqNIgeJS0
(よし! 今日は調子がいい!)


パッパラー!! パパパー!


(お、おい! あいつめっちゃ走ってるぞ!)


ベースが思わずつられる


(ああもう! ソロがうまくいったと思ったら!)


ピアノもつられそうになる


(リハの時より走ってる... 落ち着いてもらわなきゃ)


ドラムとして榛名はテンポを戻す事を考えた


ツタンタンタン タタタン


(戻って)

(!! やべえ! 走り過ぎてた!)


走ってることに気づき少し冷静になったせいか、フレーズも音も冴え渡る物に変わった


(あぶねえあぶねえ! 落ち着いていこう!)
65 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:40:33.70 ID:dqNIgeJS0
(さて、次は私の番か)


テナーサックスのソロが響き渡る


(...いつもより支えられてる感じがする、何故だ?)

(安心して吹ける...!)


支えられているはずなのに何に支えられているかわからない奇妙な感覚を、彼は覚えていた
その正体に、誰一人として気づくものはいなかった

彼女を除いて


「...榛名さんだ」

「あん?」

「この演奏、榛名さんが支配してる」

「どういうことだよ」

「全てを支えてるの、だけど... それに気づけない」

「...」

「まるで、影みたい」



ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー



パチパチパチパチ


「にしてもあいつ、結構上手いな」

「誘ってみる!?」

「明日鎮守府でな、今行くと迷惑だろ」

「そっかあ... うん! じゃあ明日!」

「いい感じに揃って来たぜ...!」



66 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:41:06.19 ID:dqNIgeJS0
4月11日 午前7時15分
鎮守府 間宮さんの食堂

朝の食堂は人でごった返しだった
訓練、出撃、遠征、この後の予定は様々だろう
清霜と摩耶はその予定よりも今はある事をするのが最優先だった

「榛名のやつ、どこいんだ?」

「この時間混むからねー... あ! いた!」

「あん? お、本当だ 行ってみっか」

「まって! まだデザート取ってない!」

「後にしろよ!」
67 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:41:33.23 ID:dqNIgeJS0
「...」

(一人で朝ごはんなんて久しぶりね)


榛名は一人、どこか寂しそうに座っていた
金剛型の他の姉妹は出撃や夜間演習があったためまだ戻っていなかった


「えっとこの後の予定は確か0800から演習だけで2100から新宿のAvenue Cで演奏で...」

「おう邪魔するぜ」

「榛名さん隣いい!?」

「きゃっ!?」


突然の襲来に驚きを隠せなかった榛名、摩耶が構わず言葉を続けた


「なあ榛名、お前ドラムやってんだろ」

「え、ええ やってるけど...」

「アタシ達と組もうぜ」

「榛名さん! 一緒にやろ!」

「え...?」


あまりにも唐突で榛名は言葉が出なかった


「ねえ摩耶さん、もしかしたら唐突すぎたかな?」

「いいんだよこんくらいで! ぐいぐい行こうぜ! で、どうなんだ榛名」

「...別にいいけど」

「ほ、本当!? やったあ!」

「ただし」

「ただし?」

「ずっとはやらないわ」

「あん!? なんでだよ!」

「いろんな人とやりたいから」

68 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:41:59.52 ID:dqNIgeJS0
言葉の意味がわからなかった清霜は思わず聞き返す


「それってどういうこと?」

「榛名は...好きにジャズをやって、それで上手くなりたいから」

「好きに...?」

「そう、特定の誰かとじゃなくて常にいろんな人とやっていきたいの それで楽しくやって、上手くなって行く」

「うーん...」

「ごめんなさいね」

「じゃあよ、もしアタシ達と一緒に演奏して気が変わったら?」

「...気が変わるかは分からないわ、でも 演奏はする」

「榛名さん」

「何? 清霜ちゃん」

「私ね、艦娘の仕事もあるけど本気でジャズやりたいの」

「本気で?」

「うん、世界一に ジャズの巨人になりたいの」

「...」

「昨日の榛名さんの演奏聴いて思ったの、一緒にやりたいって」

「聴いてたのね、昨日の」

「うん、摩耶さんも榛名さんも一緒にやれたらきっと目指せると思うの」

「目指す...」

「世界一になりたい」

「!!」

「私ジャズが大好きなの!!」


榛名は感じ取った、この目は本気であると


「わかったわ、それじゃあ早霜ちゃんのバーに1500に来て貰っていい?」

「うん!」

「いいぜ!」

「それじゃあ1500で、よろしく頼むわね」
69 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:42:57.75 ID:dqNIgeJS0
午後2時50分
早霜のバー「Lazy Bird」

ガチャ

防音の扉を開け榛名が店の中に入る
すでに清霜と摩耶は店内にいたが店主である早霜は居ない
練習を希望するものに鍵を渡しており、早霜が居なくても自由に入ることができる



「あ! 榛名さん! こんにちは!」

「うーっす」


準備はすでにできていたようだった


「もう準備できていたのね」

「うん! 後は榛名さん待ち!」

「アタシ達とやるか決めてくれよ!」

「...わかったわ」


持っていたスティックケースからスティックを取り出す
ドラムの椅子に座りタムやシンバルのチェックを始める


「問題ないわ、何やるの?」

「何やる? 清霜?」

「Caravan、テンポはこのくらい」


そう言いながら足踏みをする、150ほどであった


「おっけ 榛名、それでいいか?」

「いいわよ」

「榛名さんカウントお願い!」

「ワン、ツー ワンツー」
70 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:43:23.75 ID:dqNIgeJS0
バーー バララバラバラバー


(!! やっぱり! 噛み合う!)

(私の吹いてるフレーズに的確に... 合わせてくる!)


清霜は榛名に底知れぬものを感じた、只者ではないと


(まだきっと榛名さんは余力がある! なら!)


バラババー! バッババババラー!


(すごい! 全部包んでくる! 目立つわけじゃないけど的確に支えてくる!)


一方で摩耶も驚いていた


(こいつ、かなりやるな... アタシと清霜の音が前よりもカッチリハマる! 合わせてくるんだ!)


そして榛名もまた驚いていた


(清霜ちゃん... 面白い子ね、まるで恐れていない この子どんどんフレーズ湧いてくるのね まっすぐな子...)

(そして摩耶さんも力強いベース... 今までずっと一人で支えてきた、そんな感じね)

(今日は榛名も支えます!)


三人は、ジグソーパズルのピースが埋まるように噛み合った



ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー



71 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:43:50.63 ID:dqNIgeJS0
「...どうだった榛名さん」

「アタシ達、割と良かったと思うぜ」

「...」


清霜達の言葉に榛名は少しの迷いも見せることなく告げた


「ごめんなさい」


二人は思わず面を食らう


「え...?」

「なっ!? なんでだよ!」

「...やっぱり誰かと組む気は起きないの」

「起きないって...」

「榛名は... 自由に、いろんな人とやる、そう決めてるの」

「どうしてなの?」

「ジャズって自由な音楽でしょ? だから自由であるべき、そう思って榛名はドラムを叩いてるの 誰かのためじゃなくて、結局自分が満足するために」

「榛名さん」

「何?」

「榛名さんは自分が満足するためにやってると思えないの」

「え...?」

「だって、榛名さんのドラム すごく優しいんだもん」

「優しい...?」

「うん、みんなのために叩いてる 自分勝手な人に叩けるドラムじゃなかった そんなこと言ったら私の方が自分勝手だよ、私は自分の好きに思うがままに吹いてるから」

「...」

「みんなのために、榛名さんはやってる 人のためにやってるよ」

「人のために...」

「でも、榛名さんがやらない理由もわかったから私は止めない」

「お、おい! 清霜!」

「引き止めてもいいものはできないから、私は止めない」

「...こめんね清霜ちゃん、摩耶さん」

「別に平気だよ!」

「納得してんじゃ、こっちは止めようがねえよ」

「...ごめんなさい」


そう言いながら榛名はバーを去った
振り返りそうになったが、寸前で彼女はやめた


「おい、本当にいいのかよ」

「引き止めてもしょうがないよ、別の人探そう!」

「...そうだな」
72 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:46:08.04 ID:dqNIgeJS0
午後11時00分
ジャズバー Avenue C


榛名が今日乗ったバンドの演奏が終わり、彼女は帰る準備をしていた


(今日は終わり、帰ろう)


そこに同じバンドのメンバーの会話が聞こえてきた


「今日のテイクどうよ?」

「覚えてないな、今日は退屈だった」

「おいそんなこと言うなよ! それよりも今日はライブよりもみんなで飲みに来たんだろ?」

「はは、そうだったな あ、ドラムのあの子どうすんの?」

「あの可愛い子? どうせ来ないんじゃないか? なんかよそよそしかったし」

「だな、埋め合わせだったし 別にいいか」

「あーあ、客も渋かったしさっさと飲むぞ」



「...」

(帰ろう)
73 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:46:34.25 ID:dqNIgeJS0
午後11時20分
電車内


「...」


榛名は電車に揺られ帰路についていた
そして清霜の言葉を思い出す



『私ね、艦娘の仕事もあるけど本気でジャズやりたいの』

『世界一になりたい』

『私ジャズが大好きなの!!』


「...」

「ジャズが好き、ね...」


74 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:48:52.11 ID:dqNIgeJS0
4月11日 午前7時01分
鎮守府 間宮さんの食堂


「ドラム、見つかんねーな」

「ピアノも探さなきゃねー...」


食堂で悩む二人、そこに...
榛名がやってきた


「ここ、いいかしら」

「あれ? 榛名さん?」

「なんだよ、冷やかしか?」

「榛名も一緒にやるわ」

「!!」

「なっ!?」


思わず驚く二人、摩耶が理由を聞く


「なんで急に思ったんだよ?」

「ジャズに... 真摯だったから」

「真摯?」

「そう、榛名も本気でやりたくなったの」

「本当!?」

「二人を見て思ったの やっぱり、本気でジャズやりたいって... ジャズ好きだから」

「やった! やったね摩耶さん! 榛名さん! これからよろしく!」

「何があったかは聞かねえけど、よろしくな」

「ええ!」
75 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:49:24.21 ID:dqNIgeJS0
同時刻
間宮さんの食堂


「うう〜 やっぱり話しかけるなんて無理だって〜」

「Gamby! 大丈夫! 私たちがいるから!」

「そうよ! 話しかけてみなさいって!」

「うう〜...」


清霜達の後ろにGambier Bay、Samuel B.Roberts、Johnstonの三人がいた
なにやら話しかけようとしているが一向に進まない様子だった


「ラチがあかないなあ... よし! Hi! 清霜!」

「あっ! Sam!」


しびれを切らしたのかサムが話しかけそれに清霜が答えた


「うん? あっ! サムちゃんおはよう! どうしたの?」

「さ、Gamby! 言ってみて!」

「う、うう〜...」

「? どうしたのガンビーさん」


ここまできたらもう後戻りできない、意を決してガンビアベイは言った


「あ、あのっ! 私! ジャズやってみたいんです! 私に教えてください!」

「へ...?」


しばしの沈黙の後摩耶が言葉を発する


「お前何言ってんだ?」

「AAAAGGGHHH!! 栗田艦隊!」

「今更かよ!」



第5話
終わり
76 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:51:41.31 ID:dqNIgeJS0
今日はここまで
ジャズは楽しくやるのもアリだし楽しいからこそ本気でやるのもアリだと勝手に思ってます
ジャズって楽しいですよ
77 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/02(日) 01:56:05.14 ID:dqNIgeJS0
露骨な宣伝

ゴードングッドウィンの率いるビッグバンド、Big Phat Band来日決定! Web予約は6/18 電話予約は6/21から!


http://www.bluenote.co.jp/jp/sp/artists/gordon-goodwin-big-phat-band/


The Jazz Police
https://m.youtube.com/watch?v=SV1juxVlpic

High maintenance
https://m.youtube.com/watch?v=Y1KKwk5JWQg
78 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/06/02(日) 01:59:47.95 ID:dqNIgeJS0
露骨な宣伝その2

ビッグバンドの神様とも言われるカウントベイシー率いるカウントベイシーオーケストラが来日、スウィングジャズが好きな方は是非


http://www.bluenote.co.jp/jp/sp/artists/count-basie/


In a mellow tone
https://m.youtube.com/watch?v=-0v0RJqpu0g


79 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/02(日) 02:04:01.01 ID:dqNIgeJS0
(´-`).。oO(ちょっと裏話ですが摩耶はチャールズミンガス、榛名はシャドウウィルソンをちょっとだけイメージしながら書きました)
80 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/05(水) 00:26:14.91 ID:KRLgOxRn0
第6話
Three And One(前編)



4月11日 午前7時01分
鎮守府 間宮さんの食堂


「やっぱり話しかけるんじゃなかったやっぱり怖いし無理い〜...」

「失礼だなお前!」


清霜達に話しかけてきたガンビアベイ、勇気を出したものの怖さの方が上回ってしまった
ジャズをやりたいと言う言葉に清霜は反応した


「ねえガンビーさん、ジャズやりたいの?」

「へ? う、うん... あ、あの清霜がサックスやってるの知ってて... そ、それで...」

「えっ!? 私まだお客さんの前でやったことないよ! なんで知ってるの?」

「あのね、この前鎮守府で迷子になっちゃって...」


思い出すようにガンビアベイは続ける


「その時音が聞こえたの」

「音?」

「うん、力強くて... どこか人を惹きつけるそんな音... 誰かいるのかなって思ってそっちに行ったら... あなたがいて」

「見られてたんだ...」

「その音聞いて、私もジャズやってみたいって!」

「でもそれ言うまで2週間はかかったよね」

「もう! Sam! 言わないでよ〜!」

「私の音で始めたいって思ってくれたの!?嬉しい! じゃあガンビーさんも一緒にやろうよ!」


清霜の中で感情が込み上げていた
私の音でジャズを始めたいと思ってくれた、早くいろんな人の前で吹きたい、不思議な高揚感に包まれていた
81 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/05(水) 00:26:57.28 ID:KRLgOxRn0
(やっぱりこいつ『特別』なんだな)

(こいつの音は... 人を動かせる、そこらのプレーヤーとは格が違う)


摩耶はそう考えた後ガンビーに疑問を投げかけた


「ところでよ、お前ジャズやるって楽器何やるんだよ」

「へ? あ、まだ何も...」

「お前なあ... ジャズやりたいとか言ってるのになんも考えてねえのかよ」

「ひっ! ごごごめんなさい!!」

「あたしはこんな奴と...」


遮るように清霜が言った


「別にいいじゃない」

「はあ?」

「へ?」

「なんで? 最初は誰だって知らないし、やってみたいって気持ちからジャズ始めてもいいじゃない」

「でもよお...」


榛名もまた制するように言う


「榛名もいいと思うわ」

「お前まで!」

「ただし、本気でやってもらうわ」

「ほ、本気で ですか...?」

「そう、最初は下手でもいい でもその分本気でやってもらうわ それでいい? 清霜ちゃん、ガンビーさん?」

「うん! いいと思います!」

「は、はい!」

「ね、いいでしょ 摩耶さん」

「はあ... わかったよ、ただし! ついていけないならやめてもらう! アタシ達は上目指したいからな」

「ひ〜... が、頑張ります!」

「ねえ! ガンビーさんにピアノやってもらおうよ!」

「ピアノ!? 誰が教えんだよ!」

「あっ...」

「アタシは教える気ないからな、独学でやってもらう」

「ど、独学!?」

「ま、どうせ無理だろうけ...」

「や、やります!」

「おう!?」


思わず声を出して摩耶は驚いた、ジョンストンとサムもまた驚いていた
それに対し清霜と榛名はどこか微笑んでいた
82 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/05(水) 00:27:39.78 ID:KRLgOxRn0
「ちょ、ちょっとガンビー! 大丈夫なの!?」

「そうだよ! 大丈夫なの?」

「サム、ジョンストン 私なら大丈夫 やってみる!」


こんなガンビーはみたことない、そんな顔をする二人だった
いつもは無理無理という彼女、しかし今回彼女は逃げなかった
そんな彼女をみて摩耶はあることを思いつく


「そうか... いいぜ、じゃあ宿題出してやる」

「ほい、これ 譜面」

「へ...?」


https://i.imgur.com/9OGpxOS.jpg
引用元 http://jazzpiano.space/2018/06/10/post-217/


「あの、摩耶さん... 音符の他にあるこのアルファベットってなんですか?」

「コード」

「こ、こーど...?」

※コード 和音のこと、ルート音(根音)を基準に音を重ねることによって音に厚みが生じる

聞いたことのない単語に彼女は頭をひねった

「簡単に言うと和音、音重ねてる」

「う、うん...?」

「書いてある音符が主旋律(メロディー)、でコードがバッキング(伴奏)、2週間でアタシ達に合わせられるように弾けるようになってこい」

「へえ!? に、2週間!?」

「ああそうだ、それでお前の本気をはかる」

「そ、そんなの無理...」

「じゃ? やめるか?」

「うう... い、いや! やります!」

「よーしそれでいい!」

「榛名さん、摩耶さんなんかノリノリだね」

「ふふ、そうね」

「ツンデレって言うのかな?」

「おいそこうっせーぞ!!」


本気でやることを条件にバンドの加入を許可されたガンビアベイ
第一歩を踏みだす
三人と一人が、一つになるように



第6話
終わり
83 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/05(水) 00:31:04.04 ID:KRLgOxRn0
一旦早めに区切ります、次回はガンビーがすごく頑張る回です(情報量が多いので区切りました)
2週間でコード覚えたりは大変ですが(かなり)頑張れば多分できるかもしれません
ガンビーならきっとどんどん吸収して成長してくれるかなと思います
ありがとうございました
84 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/05(水) 00:31:32.76 ID:KRLgOxRn0
(´-`).。oO(私も素人ですが何か質問あったら受け付けます)
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/05(水) 12:25:54.63 ID:625lD/UyO
おつです
楽器できない勢からすると、二週間でコードとか覚えて且つ、指も動かせるようになるって無茶苦茶ハードなら気がする…
艦娘さんたちも仕事は普通にあるだろうし…

ちなみにサムやジョンにジャズしてもらうとしたら、楽器は何を担当させたいです?
86 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/05(水) 13:02:24.10 ID:KRLgOxRn0
>>85
正直に申し上げますが2週間でやるのはかなりの無茶ぶりです、摩耶はそれを承知でどこまで出来るかをはかってます
セッションは習うより慣れろが割とあるのであえて茨の道を歩ませました
私がいたバンドも楽器始めてちょっとの人にソロ合宿中に作って最終日に発表しろ という無茶振りがありましたが、おそらくそれ以上の無茶振りな気がしました

サムとジョンストンにやらせたい楽器となると、もし上達したら
サムはトランペットでこんな感じで吹いてそうなイメージがあって(サドジョーンズ)
https://music.apple.com/jp/album/three-and-one/159415204?i=159415415

ジョンストンはベースでこんな感じで弾いてるイメージがなんか勝手についてます(ヴィクターウッテン)
https://m.youtube.com/watch?v=fFzZXvivo4c

87 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/05(水) 13:09:45.52 ID:KRLgOxRn0
あと流石にコード全部は2週間は無理なので今回課題に出したCandyに出てくるコードを覚える感じになります、まず感覚をつかむことが大事です
こんな感じでセッションは進むんだって事で
88 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/06/05(水) 13:42:48.12 ID:dH9Gsf1AO
(´-`).。oO(次のお話のネタバレになりますがこのお話の摩耶ちゃんはツンデレですので割と助けてくれます)
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/05(水) 14:29:05.08 ID:QBWxJ+Ls0
(知ってる)
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/06(木) 10:58:33.35 ID:wHvAfOcuO
やっぱキツいんすね…、ガンビーふぁいとー!
(さすが摩耶様w)
91 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/13(木) 18:04:02.53 ID:M3psUymc0
ちょっと大学の方がやばいので更新来週になります
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/14(金) 09:09:43.97 ID:YNP3GIi+0
舞ってる
93 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/06/27(木) 01:52:42.61 ID:acb8+0fFO
テストとライブが被って更新遅れました... 再開します
今回割とがっつり音楽理論について触れてますので何かあったら質問をしていただいてもかまいません
94 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:53:09.84 ID:acb8+0fFO
第7話
Three And One(中編)


4月12日 午後9時00分
バー「Lazy Bird」


ガチャ


「お、おはようございます...」

「あらおはよう、今日は非番かしら?」

「あ、早霜... おはようございます」

朝のLazy Bird 今その場にいるのはガンビアベイと早霜の二人だけであった
昨日は演習などで練習を始めることができず今日から練習をすることとなっていた
しかし大きな不安も抱えていた


「うう〜... 本当に一人でできるのかな... やっぱり無理...」



そうこぼす彼女の前にあるものが目につく
ピアノの椅子の上に紙の束が置かれていた


「これ... なんだろ?」

「見ればわかるわ」

「へ?」

手にとって確かめてみる
95 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:54:06.34 ID:acb8+0fFO
「!! これって...!」

「ピアノの練習用の資料よ」

「ええっ!? どうしてそんなものがここに!?」

「さあ...? 誰か... 妖精さんが作ってくれたんじゃないかしら」

「これすごい... いっぱい書いてある」

「あとはそれを活かすかどうかはあなた次第よ、がんばって」

「...頑張ってみる! よし! やろう!」

(さて、摩耶さん 約束は守ったわよ でもここまでしてあげるならいってもいいと思うのに)




同時刻
演習場


「あー...」

「ま、摩耶さん大丈夫?」

「おう清霜... 昨日ちょっと徹夜しちまってよ...」

「すごい体調悪そう...」

「ね、ねみい...」




96 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:55:09.11 ID:acb8+0fFO
午後9時02分
バー Lazy Bird



「なになに...『ジャズピアニストに欠かせないのがバッキング それをするためにまずはコードについて学びましょう』」

「そういえば色々英語が書いてあったけど... 最初のいーふらっと... えむせぶん?(E♭M7) とかのことだっけ? なんて読むのかわかんないけど」


『コードを覚えるためにまずはスケールという概念を覚えましょう』


「すけーる...?」


「えーっと『一番最初に覚えるのは メジャースケールです』」


https://i.imgur.com/6JjUYMu.jpg


『メジャースケールとは全音 全音 半音 全音 全音 全音 半音の一定の間隔で音が並んでいます この図で言うとCメジャーは CDEFGAB の順番で並んでいます』

※ざっくりいうと全音が鍵盤二個分、半音は一個分飛ぶ

「ふんふん」


『ではこれはCからだけなのかというと実はCからB♭まで12個の鍵盤全てでこの間隔は使えます』


「あ、そうなんだ...」
97 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:56:02.82 ID:acb8+0fFO
『では今回はE♭を例に見ていきましょう』


「あ、ちょうどさっきでてきたE♭だ」


『E♭から始めてさっきの間隔を考えると...』

https://i.imgur.com/X07yyrh.jpg


『図のようにE♭ F G A♭ B♭ C D と並びます これは12個のキーすべてに応用できます』


「おおー... でも覚えるの大変そう...」


『そこで覚えるためのコツは黒鍵の位置と数です』


「黒鍵の位置と数?」


https://i.imgur.com/yGo8bSx.png


『譜面をよくみると左側に♯や♭が何個か付いていることがあります、Gメジャーでは♯が一個、Fメジャーでは♭が一個付いています しかしこれには法則があります』
98 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:56:30.33 ID:acb8+0fFO
『まずは♯を見ていきましょう 一個増えるたびに始まりの音がC G D...とよくみると音が5度(鍵盤7個分)の間隔で最初の音が変わっています』


「本当だ...」


『そして♯がついて変わる音も注目してみましょう、Gメジャーの時に使う♯の音はGの半音下のF♯です』

『Dメジャーの時はさっきのF♯に追加でDの半音下のC♯をつかいます』


「あ! もしかして!」


『♯が増えるときは、さっきまで♯がついてた音に加えてそのスケールの始まりの半音下の音を使います』


「そっかどんどん重ねていくんだ...」
99 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:56:56.20 ID:acb8+0fFO
『では♭はどうでしょうか ♭が1個つくのはFメジャースケールです FメジャースケールはBにフラットがついて F G A B♭ C D Eの並びです』

『♭2個はB♭メジャースケール さっきはBに♭がついていましたね つぎのスケールの出発点はそこです』

『そして♭はさっきのFの全音下、鍵盤を見ながら確認してください、E♭を使います』

『♭が3個、さっきのE♭が出発点 そしてB♭の全音下のA♭が使われます』


「これも積み重ね!」


『このように♭がついた音がつぎのスタートで♭を追加する位置は前のスタート地点の全音下となります』

『なのでスケールを覚えるときはスタート地点と使う黒鍵を覚えましょう』


「頑張って覚えよう... ! ううでもまだ続きがいっぱいある...」


『今日はここまで!』


「あ、あれ?」


『まずはゆっくり! 時間はかかってもいいのでスケールを弾けるように練習してみましょう!』


「...そうね! ゆっくりやっていこう! がんばろう!」



自分を奮い立たせるガンビアベイを早霜は見守っていた



(摩耶さん焦らないようにゆっくり指導するつもりね)

(さて、あの人は伸びるかしら...)
100 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:57:58.08 ID:acb8+0fFO
4月16日 午前9時30分


「よし! ゆっくりだけど... なんとなくは覚えた! つぎはコード!」


『ではスケールを理解した上でコードというものを考えてみましょう』

『スケールは特定の音の並びということがわかりましたね、数え方もあります これも頭に入れましょう』


https://i.imgur.com/Q7ynTPX.jpg



『Cというコードが出てきたらCメジャースケールの1度 3度 5度、つまり C E Gを弾きます』

『Cm(Cマイナー)というコードが出たら3度の音を半音下げて C E♭ Gを弾きます』

『この3和音の事トライアドと言います』


「やっと意味がわかった...」


『しかしジャズではほとんどこのトライアドは出ません』


「えっ」


『実際に出るのは7(セブンス) M7,△7,Maj7と書かれたメジャーセブンス、m7,min7,-7と書かれたマイナーセブンスなどがよく出てきます』


「えっ ええ!?」
101 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:58:52.68 ID:acb8+0fFO
『7は 1 3 5 ♭7 M7は 1 3 5 7 m7は1 ♭3 5 ♭7が構成音です』

『では今回はCandyという曲を例に見てみましょう』


「あ、ちょうどこの曲...」


『最初に出てくるのはE♭M7です、では構成音はなんでしょうか?』


「えっと1 3 5 7だから... E♭ G B♭ Dかな?」


ボーン


「あ...それっぽい響き...」


『あなたは今初めてコードを弾くことができました、その調子です』


「わ、私... 弾けたんだ...!」


『次に出てくるE♭m Dm7も同様に弾けます』


「よし! わかってき... あれ? なにこれ?」


『次にD♭dimと書かれたものが見えるはずです、これはなんでしょうか?』


「??」
102 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:59:52.18 ID:acb8+0fFO
『これはディミニッシュと呼ばれるもので短三度(鍵盤3つ分)づつの音を使っています、dim,○などと表記されます』

『実はdimには3種類しかありません』


「へ?」


『dimは短3度の関係にあると言いました Cdimは C D♯ F♯ A、D♯dimはD♯ F♯ A C 実は構成音が同じです』


「あっ!」


『なので覚えるべきはCdim C♯dim Ddimの3つで済みます』


「なるほど...」


『さっきのD♭dim、つまりC♯dimは構成音はC♯ E G B♭です』


「こうかな?」


ボーン


「な、なんか不安定な響き...」


『あとはハーフディミニッシュと呼ばれるものもあります、m7♭5,øと表記され構成音は 1 ♭3 ♭5 ♭7、時々出てくるので出てきた時焦らないようにしましょう』


「これっていちいち数えるのできないよー...」


『さてここまではコードの意味を教えましたが... はっきりいって数こなして暗記したほうが早いです』


「えっ」


『今回課題になっているCandy、これのコードをまずは弾けるように練習してみましょう』


「う、うーん...」


『この時重要なのはコードを見て弾けるようにする事です、音符を書き込んで覚えるのはNGです』

『今日はここまで! 頑張れ!』


「...ところでなんでこれ書いた人Candy課題なの知ってるんだろ...?」



第7話
おわり
103 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 02:01:17.93 ID:acb8+0fFO
一旦ここまで、ガンビーと学ぶ音楽理論の基礎って感じでお送りしました 私も今勉強中です...
ありがとうございました、質問などありましたらどうぞ
104 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/06/27(木) 02:04:24.60 ID:acb8+0fFO
言い忘れました次回はテンション(コードに付け加えてさらに上の音を追加する事)と代表的なコード進行について一応応用編としてお話しします
この辺は今回Candy弾くだけなら要りませんが今後のためにって事で一応ガンビーに学ばせたいなと思いました
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/27(木) 09:08:05.19 ID:lsD9sH4T0
乙乙
106 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/28(金) 19:48:49.90 ID:Mc8saiRy0
(ガンビーがちゃんと勉強してますよ!って事の説得力持たせるために一応理論のお勉強シーン入れたんですけど読者を置いてきぼりになってないか心配になってきた)
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/29(土) 13:06:29.57 ID:cVGA4hUQ0

ガンビーが頑張ってるのが可愛かったから全然おっけー!
108 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:55:42.40 ID:E4DX+2kO0
第8話
Three And One(後編)

4月19日 午後9時10分
空母寮ガンビアベイの部屋


「ふー演習終わった... あれ? 荷物が届いてる? あっ!」

「も、もしかして!!」


大きな箱を抱え急いで部屋に入るガンビアベイ
彼女は大きな買い物をしていた
部屋に入るとプレゼントを待ちわびる子供のように目を輝かせながら彼女は箱を開けた


「つ、ついに買っちゃった...! 電子ピアノ!」


Lazy Birdのピアノは一台しかなくまた他のプレーヤーもくるためずっとそこで練習するわけにはいかなかった
そこで彼女は大きな決心をし電子ピアノを買うに至った


「もう引き返せない...! あとは練習するだけ!」

「よし! まずはコードを弾けるように練習しなきゃ!」
109 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:56:17.98 ID:E4DX+2kO0
午後11時56分

「こんな遅い時間だけど... 明日の演習の連絡しなきゃ」


大鷹がガンビアベイの部屋の扉の前に訪れる
明日の演習の内容が変わったため同じ演習メンバーの大鷹がそれを伝えにきた
扉をノックする

コンコンコン

「ガンビーさん? 起きてますか?」


返事はなかった


「寝ちゃったのかな...? でも明かりは付いてる...」

「入りますよ?」


ガチャ


「ガンビーさん...?」

「Cm7... F7... B♭... B♭7...」

「!?」



ヘッドホンをしながらガンビアベイは懸命にピアノを弾いていた
ここまで集中している彼女を大鷹は見たことがなかった
声をかけていいのか少し迷ったが決心して声をかけた


「が、ガンビーさん!」

「へ!? わあ!? び、びっくりした...! ノックしてくださいよ...」

「したんですけど返事がなくて... 明かりがついてるからまだ起きてるのかと」

「あ... そっかヘッドホンしてたから...」

「ピアノ... ですか?」

「うん、ちょっと始めようと思って」

「そうだったんですか」

「ジャズ、やってみたくなったんです」

「ジャズを?」

「はい! 初めてジャズ聞いた時...すごい衝撃で、それで自分もやってみたくなって」

「すごい行動力ですね...」

「へへへ...」

「私、音楽はよく知りませんけど ガンビーさんの事応援します!」

「ほ、ほんと!?」

「だって、なんでも一生懸命になれるってすごいことじゃないですか さっきの集中っぷりみて思いました、ガンビーさんならできます!」

「ありがとう! 頑張る!」

「あ、それで本件を話したいんですけど...」
110 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:56:49.43 ID:E4DX+2kO0
4月20日 午前9時30分
ガンビアベイの自室


「えーっと『今日はテンションについて学びましょう』」


『テンションとはコードトーンの他に自由につける音のことです』

『7には9 13(11はダメ!) M7には6 9(これも11はダメ!)m7には9 11(13はお好み)』


「なんで11はダメな場合があるのかな?」


『なんで11がダメなのか、と思いましたか?』


「なんでわかるの!?」


『11は鍵盤のどこかを考えてみましょう、高さは違いますが4度と同じです』

『これが7とM7の構成音である3度と半音の関係にあり音がぶつかって不協和音になります、実際にC7と11度を弾いてみてください』


「え、えっと...」

ボウーン

「う、うわ...」


『このように非常に気持ち悪い音になります、なのでコードトーンと半音ずれた音はアボイドノートとも呼ばれます ソロを取る際は覚えておきましょう』


「なるほど... ってそういえば左手全部使うの手の大きさ足りないよ...」


『前回言い忘れましたが基本的にピアノはルート音、つまり1度の音は弾きません」


「へ」


『なぜならベースがルートを弾くためです』


「それ先に言ってよ〜!」


『なので左で1度を除いたコードトーン、右手でテンション 又は左でコードトーンとテンション、右手でメロディを弾く場合があります』


「なるほど...」


『では実際にコードトーンとテンションを弾いて一曲通してみましょう! 余裕があればメロディも!』


「よし! 頑張ろう!」
111 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:57:16.85 ID:E4DX+2kO0
4月21日 午後3時01分
ガンビアベイの自室

「ふう今日は早く終わってよかった... えーっと『代表的なコード進行を勉強しましょう』」


『ジャズには2-5-1と呼ばれる基本的なコード進行があります』

『またまたCandyを例に見ていきましょう、調はB♭ですね Cm7→F7→B♭という進行があります』

『B♭を基準に考えるとCは2度、Fは5度になっています』

※ 重要なのは2度はマイナーセブンス、5度はセブンスになっていることです ダイアトニックコードで検索

『今回T7ですが、Um7→X7→TM7という進行はかなり出てきます、全部のキーでできるようにアドリブを取る際もこの進行を意識するといいでしょう そうすると12×3=36のコードを覚えられます、さらに手を動かす練習にもなります』


「が、頑張ろう...」


『次にアドリブについてです、これは習うより慣れろの部分が大きいです』

『なので... Candyのコードを弾きながらB♭メジャースケールの音だけを使って弾いてみてください』


「へえ!? 無理無理!!」


『がんばれ!』


「だからなんでこの人私の考えわかるの!?」
112 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:57:42.74 ID:E4DX+2kO0
4月23日 午後10時20分
バー Lazy Bird


「なあ... あいつうまくやってるかな」


榛名と清霜と曲の合わせをしていた摩耶
ガンビアベイの様子が気になっていたようだった


「ガンビーさんかしら?」

「...ああ」

「そんなに心配なら一回見てあげたらいいのに、練習資料もあげたんでしょう?」


榛名の言葉にすこしばつが悪そうな顔をした


「...そうはしてやりてえけどさ、あいつが自分でやったってのが大事なんだよ 教えるのはできるけど、学ぶのは自分だ」

「それもそうね...」

「本当にやりたいなら、結局は自分でどうにかするしかねえんだよ」

「うーん...」

「なんだよ清霜」

「摩耶さんってやっぱりツンデレなの?」

「な!? ば、ばっきゃろう!! んなわけねえだろ!!」

「榛名さん、あれ図星だよね」

「ふふ、そうね」

「あーもうクソが! さっさと練習戻るぞ!」

「はーい」
113 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:58:09.44 ID:E4DX+2kO0
4月24日 午後11時39分
ガンビアベイの自室


夜になり静まり返った空母寮
その一室では打鍵音だけが響いていた


「よし...! コードは弾けるようになった...! アドリブは...」

「うう... やっぱり怖い...」


ピアノを初めて2週間弱、わずかな時間ではあるが真摯にピアノと向き合っていた
アドリブは彼女にとって大きな壁であった


「B♭で... アドリブ...!」

114 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:58:38.85 ID:E4DX+2kO0
4月25日 午後10時30分
バー Lazy Bird


本日は貸切となっているLazy Bird
扉の前にガンビアベイが立っていた


「ううやっぱり怖い... 練習してきたけどほんとにできるかな...」

「おっす、ガンビー」

「わあ!?」

「そんな驚くなよ... 二人はもう中いるぜ 入りな」

「あ、あの...」

「ほら、行くぞ」

「ひゃあ!?」


115 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:59:23.35 ID:E4DX+2kO0
午後10時40分

(す、座っちゃった... ピアノの椅子に...! 私これから弾くんだ...!)

「さて... ガンビー、練習の成果見せてもらうぜ」

「は、はい...」

「ガンビーさん! 頑張ろう! 私も初めてやった時は少し緊張したけどすぐ慣れるから!」

「清霜ちゃん...」

「ガンビーさん、榛名たちがしっかり支えるから大丈夫よ」

「...はい!」

(覚悟を... 決めなきゃ!!)


顔つきが変わったのを摩耶は感じた


(あいつ...腹括ったな)

「うっし、じゃCandyやるぞ テンポはこんくらいで」


指を鳴らしテンポを伝える


「うん! いいよ!」

「ええ、それで」

「はい!」

「じゃ、榛名! カウント!」

「ワン、ツー ワンツースリー」


バー バー バラババッバッバーバー
116 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:59:54.34 ID:E4DX+2kO0
(大丈夫! 練習通りに! バッキングを!)


三人に比べて拙いものだったが摩耶は彼女の本気を感じた


(へえ、ガンビーのやつきっちりやってきてるな)

「よし! 清霜! ソロいけ!」

(わかったよ摩耶さん!)



ババラバラッバー!! ババラー!


(え!? 急に激しく! ど、どうしよう! どう弾けば!)


清霜のソロに驚き調子を崩すガンビアベイ
しかし榛名も摩耶もそれを助けることはできない


(ちょっと飛ばしすぎた... ガンビーさん! これでついてきて!)

(あ...! さっきより合うように!)


この変化に摩耶は気づいた


(へえ清霜のやつ... 下手な奴にも合わせられるのか)

「さて... ガンビー! ソロやれ! 1周でいい!」

(え!? そ、ソロ!?)


思わず榛名が声を上げる


「摩耶さん!? それはちょっと無茶...」

「いいから! やってみろ! 当たって砕けろ!」

(や、やるしかない!!)


逃げることはできない 彼女は腹を括り、ソロが始まった
117 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 01:00:20.33 ID:E4DX+2kO0
ポポロポポン


(うう... やってやる...! 今できる精一杯を!)

(ぶつける!!!)


ポポポッポポポロポロ


(ガンビーさん... ほんとに初心者...?)


まだまだ拙く、必死に食らいついていた
しかし清霜はそんな彼女を見て思った

この人とならやれる



ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
118 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 01:00:49.57 ID:E4DX+2kO0

「はあはあ... ひ、弾けた...!」

「ガンビーさん! すごい! 弾けたよ!」

「初めて2週間なら上出来ね」

「...まだまだでした」

「へ?」

「私、もっと上手くなりたい! もっとピアノで表現したい!」


間をおいてはっきりと言う


「私、ジャズがやりたい!」


それを見て摩耶が笑みを浮かべこう言った


「そのことなんだけどよ... やろうぜ、一緒に」

「ま、摩耶さん 本当に?」

「おう、今日のでお前が本気かどうかがわかった だから、やろうぜ」

「摩耶さん...! 私! 頑張ります!」


この言葉に清霜と榛名も祝福をした


「やった! おめでとうガンビーさん!」

「ガンビーさん、おめでとう」


三人と一人が、一つになった





「あ、そうだ摩耶さん練習資料ありがとうございました」

「な、なんでわかったんだよ!?」

「摩耶さん、あれはわかるよ...」




第8話
終わり
119 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/06/30(日) 01:04:43.21 ID:E4DX+2kO0
今回はここまでです
当たって砕けろは大事です割と

訂正があるのでお知らせします

>>20
誤 ドミナントにミクソリディアンスケール、トニックにドリアン... 完全にコルトレーンを意識してる

正 ドミナントにミクソリディアンスケール、トニックにアイオニアン... 完全にコルトレーンを意識してる


トニックにドリアンが使えるのはマイナー調の時でした、清霜がリシュリューの前で吹いたMoment’s Noticeはメジャーなので当てはまりません


ありがとうございました
120 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 01:28:08.66 ID:qJnXpNKqO
おまけ
現在連載中のBLUE GIANT SUPREMEのイベントBLUE GIANT NIGHTS 2019がブルーノートで行われます
オーディションを勝ち抜いたグループがブルーノートで演奏する機会を得るとても面白い企画です
今回は課題曲がCherokeeとの事でした、楽しみです

https://www.universal-music.co.jp/blue-giant/news/event2019/

いろんなバージョンがあるので是非聴き比べてみてください
Cherokee
https://youtu.be/M283JFxesic

https://youtu.be/uon2Gu6jgf8
121 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/07/08(月) 15:12:55.69 ID:7PNoV9zW0
昨日ライブあったので更新は日曜になります...
ガンビーの応援をしながらお待ちください
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 01:01:41.73 ID:8Z30j3ua0
ギャー!更新してたの気付いてなかった!
おつ
123 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/07/16(火) 22:34:25.36 ID:ZfbL7gDA0
すみませんやっと暇になったので更新します
124 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/16(火) 22:35:01.79 ID:ZfbL7gDA0
第9話
Mayden Voyage(前編)


6月15日 午後11時08分
空母寮 ガンビアベイの自室


「ふう... まだまだだけど...コードは覚えてきた...!」

(そういえばいろんなピアニストの曲聞いてみたけど... バドパウエルって人、なんかいいな)


あれから1ヶ月半、演習や出撃が終わると彼女は必ずピアノに向かうことを習慣にしていた
この前の初めてのセッション、あの感覚が忘れられなかった
もっと上手くなりたい
彼女は胸にその思いを秘めていた


コンコンコン


そう思う彼女の元に誰かが訪ねてきた
こんな遅い時間に? と疑問に思いながらも返事をする
125 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/16(火) 22:35:49.44 ID:ZfbL7gDA0
「へ? あ、はーい!」

「おう、ガンビー 入っていいかー?」

「あ、摩耶さん どうぞー」


ドアを開け入ってきたのは摩耶だった
なにかの打ち合わせだろうかと彼女は考えた


「どうしたんですか? こんな時間に?」

「ああ、それがな 今度お前もいれてライブをすることが決まった」

「へ!? ええ!?」

「んな驚くなよ、やりたがってたろ?」

「うう、でもまだへたっぴだし...」

「で? それだったらいつまでやらないつもりだ?」

「え...」

「下手だからやらない、上手くなるまで、じゃあずっとやらないのか?」

「うう...」

「一回、人前で弾いてみろ」

「やっぱりむ...」


そう言いかけたガンビアベイ
だがすぐに思い立った


(無理っていうのは簡単だけど... ここで逃げたら... たった一ヶ月ちょっとでもピアノと向き合って自分を裏切ることになる...!)

「...摩耶さん、私やってみます」

「そうこなくっちゃな!」

「頑張ります!」

「で、これがセトリ(※)」

※セットリスト 曲目のこと
126 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/16(火) 22:36:21.29 ID:ZfbL7gDA0
「えっとやるのは4曲...」

「で、やるのはLazy Birdでじゃない」

「え」

「鎮守府の外でやる」

「え、ええっーー!? 無理無理無理!」

「んだよ! さっきやるって!」

「だって外でやるなんて思わなかったし!!」

「アタシらの演奏もうみんな知ってるから外でやった方がいいだろ? 2週間後、D♭って店でやるから」

「ええ...」

「来週一回合わせるから練習しとけよ! じゃあな!」

「え、あっ! ちょっと!」





言い終わるより前に摩耶は足早に去っていく
部屋にはガンビアベイ一人が残されていた


「どうしよう...」


コンコンコン
ガチャ


「あの... ガンビーさん、毎日頑張ってるみたいですし大福の差し入れ...」

「春日丸さん〜!!」

「ふえっ!?」

「た、助けて〜...」

「ど、どうしたんですか...」
127 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/16(火) 22:37:00.67 ID:ZfbL7gDA0
「...なるほど今度ライブが」

「そうなんです... でも自信なくて」

「それは大変ですね...」

「怖くって...」

「...でもガンビーさん、それってすごいことなんじゃないですか?」

「へ?」

「だって初めてまだ間もないのに一緒に本番やろうだなんて、普通言われませんよ」

「え...」

「ガンビーさんが頑張ってるところ、きっと伝わってるんですよ だから胸を張ってみましょうよ!」

「ま、まるさん〜(※)」

※春日丸

「私、応援しますね!」

「うう〜 ありがとうございます〜!」
128 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/16(火) 22:38:55.50 ID:ZfbL7gDA0
6月22日午後9時00分
Lazy Bird


練習日として貸し切られている今日、ステージには四人
清霜、摩耶、榛名、そしてガンビアベイ
何度かセッションは行なっていたがライブに向けて合わせるのはこれが初めてだった
店での誰かに向けての演奏、特に清霜とガンビアベイには初めての経験となる
これがどう転ぶかは、まだ誰にもわからない



「さて... 一曲目から合わせるぞ 榛名、カウント」

「ワン、ツー ワンツー」


バッバラー バラバラ


必死に食らいつこうとするガンビアベイを見て摩耶はふと思った


(ガンビーのやつ、前に比べて... なんつーか 掴んできたな)


ーーーーーーーー
ーーーーーーーー


「ふー吹いたー!」

「清霜ちゃん、なんか前より抑え気味な気がするけど... 気のせいかしら?」

「へ? 清霜が?」

「あー言われてみりゃ、どうしたんだ?」

「うーん... 言われてみれば... なんでだろ? なんかこう... いまいち枠から出られないのかも」

「枠だあ?」

「うん、なんかね 出られる時と出られない時があって... どうしてだかわからないけど」

「本番で枠から出なかったらぶっ飛ばすぞ」

「摩耶さんも、榛名のドラムだけじゃなく他の人の音聞いてね」

「あん!? んだよ!」

「清霜ちゃんの音も、ガンビーさんの音もちゃんと聞いて あなたはベースなんだから」

「わかったよ...」

「もー 本番大丈夫かなー...」

そんなやりとりを側から眺めるガンビアベイ
弾くことに必死で他人の様子なんてまるでわからなかった


(あんな風に... 言い合えるんだ)

(でも、私は...?)
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