清霜「Saxophone Colossus 」

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86 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/05(水) 13:02:24.10 ID:KRLgOxRn0
>>85
正直に申し上げますが2週間でやるのはかなりの無茶ぶりです、摩耶はそれを承知でどこまで出来るかをはかってます
セッションは習うより慣れろが割とあるのであえて茨の道を歩ませました
私がいたバンドも楽器始めてちょっとの人にソロ合宿中に作って最終日に発表しろ という無茶振りがありましたが、おそらくそれ以上の無茶振りな気がしました

サムとジョンストンにやらせたい楽器となると、もし上達したら
サムはトランペットでこんな感じで吹いてそうなイメージがあって(サドジョーンズ)
https://music.apple.com/jp/album/three-and-one/159415204?i=159415415

ジョンストンはベースでこんな感じで弾いてるイメージがなんか勝手についてます(ヴィクターウッテン)
https://m.youtube.com/watch?v=fFzZXvivo4c

87 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/05(水) 13:09:45.52 ID:KRLgOxRn0
あと流石にコード全部は2週間は無理なので今回課題に出したCandyに出てくるコードを覚える感じになります、まず感覚をつかむことが大事です
こんな感じでセッションは進むんだって事で
88 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/06/05(水) 13:42:48.12 ID:dH9Gsf1AO
(´-`).。oO(次のお話のネタバレになりますがこのお話の摩耶ちゃんはツンデレですので割と助けてくれます)
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/05(水) 14:29:05.08 ID:QBWxJ+Ls0
(知ってる)
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/06(木) 10:58:33.35 ID:wHvAfOcuO
やっぱキツいんすね…、ガンビーふぁいとー!
(さすが摩耶様w)
91 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/13(木) 18:04:02.53 ID:M3psUymc0
ちょっと大学の方がやばいので更新来週になります
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/14(金) 09:09:43.97 ID:YNP3GIi+0
舞ってる
93 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/06/27(木) 01:52:42.61 ID:acb8+0fFO
テストとライブが被って更新遅れました... 再開します
今回割とがっつり音楽理論について触れてますので何かあったら質問をしていただいてもかまいません
94 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:53:09.84 ID:acb8+0fFO
第7話
Three And One(中編)


4月12日 午後9時00分
バー「Lazy Bird」


ガチャ


「お、おはようございます...」

「あらおはよう、今日は非番かしら?」

「あ、早霜... おはようございます」

朝のLazy Bird 今その場にいるのはガンビアベイと早霜の二人だけであった
昨日は演習などで練習を始めることができず今日から練習をすることとなっていた
しかし大きな不安も抱えていた


「うう〜... 本当に一人でできるのかな... やっぱり無理...」



そうこぼす彼女の前にあるものが目につく
ピアノの椅子の上に紙の束が置かれていた


「これ... なんだろ?」

「見ればわかるわ」

「へ?」

手にとって確かめてみる
95 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:54:06.34 ID:acb8+0fFO
「!! これって...!」

「ピアノの練習用の資料よ」

「ええっ!? どうしてそんなものがここに!?」

「さあ...? 誰か... 妖精さんが作ってくれたんじゃないかしら」

「これすごい... いっぱい書いてある」

「あとはそれを活かすかどうかはあなた次第よ、がんばって」

「...頑張ってみる! よし! やろう!」

(さて、摩耶さん 約束は守ったわよ でもここまでしてあげるならいってもいいと思うのに)




同時刻
演習場


「あー...」

「ま、摩耶さん大丈夫?」

「おう清霜... 昨日ちょっと徹夜しちまってよ...」

「すごい体調悪そう...」

「ね、ねみい...」




96 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:55:09.11 ID:acb8+0fFO
午後9時02分
バー Lazy Bird



「なになに...『ジャズピアニストに欠かせないのがバッキング それをするためにまずはコードについて学びましょう』」

「そういえば色々英語が書いてあったけど... 最初のいーふらっと... えむせぶん?(E♭M7) とかのことだっけ? なんて読むのかわかんないけど」


『コードを覚えるためにまずはスケールという概念を覚えましょう』


「すけーる...?」


「えーっと『一番最初に覚えるのは メジャースケールです』」


https://i.imgur.com/6JjUYMu.jpg


『メジャースケールとは全音 全音 半音 全音 全音 全音 半音の一定の間隔で音が並んでいます この図で言うとCメジャーは CDEFGAB の順番で並んでいます』

※ざっくりいうと全音が鍵盤二個分、半音は一個分飛ぶ

「ふんふん」


『ではこれはCからだけなのかというと実はCからB♭まで12個の鍵盤全てでこの間隔は使えます』


「あ、そうなんだ...」
97 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:56:02.82 ID:acb8+0fFO
『では今回はE♭を例に見ていきましょう』


「あ、ちょうどさっきでてきたE♭だ」


『E♭から始めてさっきの間隔を考えると...』

https://i.imgur.com/X07yyrh.jpg


『図のようにE♭ F G A♭ B♭ C D と並びます これは12個のキーすべてに応用できます』


「おおー... でも覚えるの大変そう...」


『そこで覚えるためのコツは黒鍵の位置と数です』


「黒鍵の位置と数?」


https://i.imgur.com/yGo8bSx.png


『譜面をよくみると左側に♯や♭が何個か付いていることがあります、Gメジャーでは♯が一個、Fメジャーでは♭が一個付いています しかしこれには法則があります』
98 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:56:30.33 ID:acb8+0fFO
『まずは♯を見ていきましょう 一個増えるたびに始まりの音がC G D...とよくみると音が5度(鍵盤7個分)の間隔で最初の音が変わっています』


「本当だ...」


『そして♯がついて変わる音も注目してみましょう、Gメジャーの時に使う♯の音はGの半音下のF♯です』

『Dメジャーの時はさっきのF♯に追加でDの半音下のC♯をつかいます』


「あ! もしかして!」


『♯が増えるときは、さっきまで♯がついてた音に加えてそのスケールの始まりの半音下の音を使います』


「そっかどんどん重ねていくんだ...」
99 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:56:56.20 ID:acb8+0fFO
『では♭はどうでしょうか ♭が1個つくのはFメジャースケールです FメジャースケールはBにフラットがついて F G A B♭ C D Eの並びです』

『♭2個はB♭メジャースケール さっきはBに♭がついていましたね つぎのスケールの出発点はそこです』

『そして♭はさっきのFの全音下、鍵盤を見ながら確認してください、E♭を使います』

『♭が3個、さっきのE♭が出発点 そしてB♭の全音下のA♭が使われます』


「これも積み重ね!」


『このように♭がついた音がつぎのスタートで♭を追加する位置は前のスタート地点の全音下となります』

『なのでスケールを覚えるときはスタート地点と使う黒鍵を覚えましょう』


「頑張って覚えよう... ! ううでもまだ続きがいっぱいある...」


『今日はここまで!』


「あ、あれ?」


『まずはゆっくり! 時間はかかってもいいのでスケールを弾けるように練習してみましょう!』


「...そうね! ゆっくりやっていこう! がんばろう!」



自分を奮い立たせるガンビアベイを早霜は見守っていた



(摩耶さん焦らないようにゆっくり指導するつもりね)

(さて、あの人は伸びるかしら...)
100 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:57:58.08 ID:acb8+0fFO
4月16日 午前9時30分


「よし! ゆっくりだけど... なんとなくは覚えた! つぎはコード!」


『ではスケールを理解した上でコードというものを考えてみましょう』

『スケールは特定の音の並びということがわかりましたね、数え方もあります これも頭に入れましょう』


https://i.imgur.com/Q7ynTPX.jpg



『Cというコードが出てきたらCメジャースケールの1度 3度 5度、つまり C E Gを弾きます』

『Cm(Cマイナー)というコードが出たら3度の音を半音下げて C E♭ Gを弾きます』

『この3和音の事トライアドと言います』


「やっと意味がわかった...」


『しかしジャズではほとんどこのトライアドは出ません』


「えっ」


『実際に出るのは7(セブンス) M7,△7,Maj7と書かれたメジャーセブンス、m7,min7,-7と書かれたマイナーセブンスなどがよく出てきます』


「えっ ええ!?」
101 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:58:52.68 ID:acb8+0fFO
『7は 1 3 5 ♭7 M7は 1 3 5 7 m7は1 ♭3 5 ♭7が構成音です』

『では今回はCandyという曲を例に見てみましょう』


「あ、ちょうどこの曲...」


『最初に出てくるのはE♭M7です、では構成音はなんでしょうか?』


「えっと1 3 5 7だから... E♭ G B♭ Dかな?」


ボーン


「あ...それっぽい響き...」


『あなたは今初めてコードを弾くことができました、その調子です』


「わ、私... 弾けたんだ...!」


『次に出てくるE♭m Dm7も同様に弾けます』


「よし! わかってき... あれ? なにこれ?」


『次にD♭dimと書かれたものが見えるはずです、これはなんでしょうか?』


「??」
102 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 01:59:52.18 ID:acb8+0fFO
『これはディミニッシュと呼ばれるもので短三度(鍵盤3つ分)づつの音を使っています、dim,○などと表記されます』

『実はdimには3種類しかありません』


「へ?」


『dimは短3度の関係にあると言いました Cdimは C D♯ F♯ A、D♯dimはD♯ F♯ A C 実は構成音が同じです』


「あっ!」


『なので覚えるべきはCdim C♯dim Ddimの3つで済みます』


「なるほど...」


『さっきのD♭dim、つまりC♯dimは構成音はC♯ E G B♭です』


「こうかな?」


ボーン


「な、なんか不安定な響き...」


『あとはハーフディミニッシュと呼ばれるものもあります、m7♭5,øと表記され構成音は 1 ♭3 ♭5 ♭7、時々出てくるので出てきた時焦らないようにしましょう』


「これっていちいち数えるのできないよー...」


『さてここまではコードの意味を教えましたが... はっきりいって数こなして暗記したほうが早いです』


「えっ」


『今回課題になっているCandy、これのコードをまずは弾けるように練習してみましょう』


「う、うーん...」


『この時重要なのはコードを見て弾けるようにする事です、音符を書き込んで覚えるのはNGです』

『今日はここまで! 頑張れ!』


「...ところでなんでこれ書いた人Candy課題なの知ってるんだろ...?」



第7話
おわり
103 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2019/06/27(木) 02:01:17.93 ID:acb8+0fFO
一旦ここまで、ガンビーと学ぶ音楽理論の基礎って感じでお送りしました 私も今勉強中です...
ありがとうございました、質問などありましたらどうぞ
104 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/06/27(木) 02:04:24.60 ID:acb8+0fFO
言い忘れました次回はテンション(コードに付け加えてさらに上の音を追加する事)と代表的なコード進行について一応応用編としてお話しします
この辺は今回Candy弾くだけなら要りませんが今後のためにって事で一応ガンビーに学ばせたいなと思いました
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/27(木) 09:08:05.19 ID:lsD9sH4T0
乙乙
106 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/28(金) 19:48:49.90 ID:Mc8saiRy0
(ガンビーがちゃんと勉強してますよ!って事の説得力持たせるために一応理論のお勉強シーン入れたんですけど読者を置いてきぼりになってないか心配になってきた)
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/29(土) 13:06:29.57 ID:cVGA4hUQ0

ガンビーが頑張ってるのが可愛かったから全然おっけー!
108 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:55:42.40 ID:E4DX+2kO0
第8話
Three And One(後編)

4月19日 午後9時10分
空母寮ガンビアベイの部屋


「ふー演習終わった... あれ? 荷物が届いてる? あっ!」

「も、もしかして!!」


大きな箱を抱え急いで部屋に入るガンビアベイ
彼女は大きな買い物をしていた
部屋に入るとプレゼントを待ちわびる子供のように目を輝かせながら彼女は箱を開けた


「つ、ついに買っちゃった...! 電子ピアノ!」


Lazy Birdのピアノは一台しかなくまた他のプレーヤーもくるためずっとそこで練習するわけにはいかなかった
そこで彼女は大きな決心をし電子ピアノを買うに至った


「もう引き返せない...! あとは練習するだけ!」

「よし! まずはコードを弾けるように練習しなきゃ!」
109 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:56:17.98 ID:E4DX+2kO0
午後11時56分

「こんな遅い時間だけど... 明日の演習の連絡しなきゃ」


大鷹がガンビアベイの部屋の扉の前に訪れる
明日の演習の内容が変わったため同じ演習メンバーの大鷹がそれを伝えにきた
扉をノックする

コンコンコン

「ガンビーさん? 起きてますか?」


返事はなかった


「寝ちゃったのかな...? でも明かりは付いてる...」

「入りますよ?」


ガチャ


「ガンビーさん...?」

「Cm7... F7... B♭... B♭7...」

「!?」



ヘッドホンをしながらガンビアベイは懸命にピアノを弾いていた
ここまで集中している彼女を大鷹は見たことがなかった
声をかけていいのか少し迷ったが決心して声をかけた


「が、ガンビーさん!」

「へ!? わあ!? び、びっくりした...! ノックしてくださいよ...」

「したんですけど返事がなくて... 明かりがついてるからまだ起きてるのかと」

「あ... そっかヘッドホンしてたから...」

「ピアノ... ですか?」

「うん、ちょっと始めようと思って」

「そうだったんですか」

「ジャズ、やってみたくなったんです」

「ジャズを?」

「はい! 初めてジャズ聞いた時...すごい衝撃で、それで自分もやってみたくなって」

「すごい行動力ですね...」

「へへへ...」

「私、音楽はよく知りませんけど ガンビーさんの事応援します!」

「ほ、ほんと!?」

「だって、なんでも一生懸命になれるってすごいことじゃないですか さっきの集中っぷりみて思いました、ガンビーさんならできます!」

「ありがとう! 頑張る!」

「あ、それで本件を話したいんですけど...」
110 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:56:49.43 ID:E4DX+2kO0
4月20日 午前9時30分
ガンビアベイの自室


「えーっと『今日はテンションについて学びましょう』」


『テンションとはコードトーンの他に自由につける音のことです』

『7には9 13(11はダメ!) M7には6 9(これも11はダメ!)m7には9 11(13はお好み)』


「なんで11はダメな場合があるのかな?」


『なんで11がダメなのか、と思いましたか?』


「なんでわかるの!?」


『11は鍵盤のどこかを考えてみましょう、高さは違いますが4度と同じです』

『これが7とM7の構成音である3度と半音の関係にあり音がぶつかって不協和音になります、実際にC7と11度を弾いてみてください』


「え、えっと...」

ボウーン

「う、うわ...」


『このように非常に気持ち悪い音になります、なのでコードトーンと半音ずれた音はアボイドノートとも呼ばれます ソロを取る際は覚えておきましょう』


「なるほど... ってそういえば左手全部使うの手の大きさ足りないよ...」


『前回言い忘れましたが基本的にピアノはルート音、つまり1度の音は弾きません」


「へ」


『なぜならベースがルートを弾くためです』


「それ先に言ってよ〜!」


『なので左で1度を除いたコードトーン、右手でテンション 又は左でコードトーンとテンション、右手でメロディを弾く場合があります』


「なるほど...」


『では実際にコードトーンとテンションを弾いて一曲通してみましょう! 余裕があればメロディも!』


「よし! 頑張ろう!」
111 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:57:16.85 ID:E4DX+2kO0
4月21日 午後3時01分
ガンビアベイの自室

「ふう今日は早く終わってよかった... えーっと『代表的なコード進行を勉強しましょう』」


『ジャズには2-5-1と呼ばれる基本的なコード進行があります』

『またまたCandyを例に見ていきましょう、調はB♭ですね Cm7→F7→B♭という進行があります』

『B♭を基準に考えるとCは2度、Fは5度になっています』

※ 重要なのは2度はマイナーセブンス、5度はセブンスになっていることです ダイアトニックコードで検索

『今回T7ですが、Um7→X7→TM7という進行はかなり出てきます、全部のキーでできるようにアドリブを取る際もこの進行を意識するといいでしょう そうすると12×3=36のコードを覚えられます、さらに手を動かす練習にもなります』


「が、頑張ろう...」


『次にアドリブについてです、これは習うより慣れろの部分が大きいです』

『なので... Candyのコードを弾きながらB♭メジャースケールの音だけを使って弾いてみてください』


「へえ!? 無理無理!!」


『がんばれ!』


「だからなんでこの人私の考えわかるの!?」
112 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:57:42.74 ID:E4DX+2kO0
4月23日 午後10時20分
バー Lazy Bird


「なあ... あいつうまくやってるかな」


榛名と清霜と曲の合わせをしていた摩耶
ガンビアベイの様子が気になっていたようだった


「ガンビーさんかしら?」

「...ああ」

「そんなに心配なら一回見てあげたらいいのに、練習資料もあげたんでしょう?」


榛名の言葉にすこしばつが悪そうな顔をした


「...そうはしてやりてえけどさ、あいつが自分でやったってのが大事なんだよ 教えるのはできるけど、学ぶのは自分だ」

「それもそうね...」

「本当にやりたいなら、結局は自分でどうにかするしかねえんだよ」

「うーん...」

「なんだよ清霜」

「摩耶さんってやっぱりツンデレなの?」

「な!? ば、ばっきゃろう!! んなわけねえだろ!!」

「榛名さん、あれ図星だよね」

「ふふ、そうね」

「あーもうクソが! さっさと練習戻るぞ!」

「はーい」
113 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:58:09.44 ID:E4DX+2kO0
4月24日 午後11時39分
ガンビアベイの自室


夜になり静まり返った空母寮
その一室では打鍵音だけが響いていた


「よし...! コードは弾けるようになった...! アドリブは...」

「うう... やっぱり怖い...」


ピアノを初めて2週間弱、わずかな時間ではあるが真摯にピアノと向き合っていた
アドリブは彼女にとって大きな壁であった


「B♭で... アドリブ...!」

114 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:58:38.85 ID:E4DX+2kO0
4月25日 午後10時30分
バー Lazy Bird


本日は貸切となっているLazy Bird
扉の前にガンビアベイが立っていた


「ううやっぱり怖い... 練習してきたけどほんとにできるかな...」

「おっす、ガンビー」

「わあ!?」

「そんな驚くなよ... 二人はもう中いるぜ 入りな」

「あ、あの...」

「ほら、行くぞ」

「ひゃあ!?」


115 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:59:23.35 ID:E4DX+2kO0
午後10時40分

(す、座っちゃった... ピアノの椅子に...! 私これから弾くんだ...!)

「さて... ガンビー、練習の成果見せてもらうぜ」

「は、はい...」

「ガンビーさん! 頑張ろう! 私も初めてやった時は少し緊張したけどすぐ慣れるから!」

「清霜ちゃん...」

「ガンビーさん、榛名たちがしっかり支えるから大丈夫よ」

「...はい!」

(覚悟を... 決めなきゃ!!)


顔つきが変わったのを摩耶は感じた


(あいつ...腹括ったな)

「うっし、じゃCandyやるぞ テンポはこんくらいで」


指を鳴らしテンポを伝える


「うん! いいよ!」

「ええ、それで」

「はい!」

「じゃ、榛名! カウント!」

「ワン、ツー ワンツースリー」


バー バー バラババッバッバーバー
116 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 00:59:54.34 ID:E4DX+2kO0
(大丈夫! 練習通りに! バッキングを!)


三人に比べて拙いものだったが摩耶は彼女の本気を感じた


(へえ、ガンビーのやつきっちりやってきてるな)

「よし! 清霜! ソロいけ!」

(わかったよ摩耶さん!)



ババラバラッバー!! ババラー!


(え!? 急に激しく! ど、どうしよう! どう弾けば!)


清霜のソロに驚き調子を崩すガンビアベイ
しかし榛名も摩耶もそれを助けることはできない


(ちょっと飛ばしすぎた... ガンビーさん! これでついてきて!)

(あ...! さっきより合うように!)


この変化に摩耶は気づいた


(へえ清霜のやつ... 下手な奴にも合わせられるのか)

「さて... ガンビー! ソロやれ! 1周でいい!」

(え!? そ、ソロ!?)


思わず榛名が声を上げる


「摩耶さん!? それはちょっと無茶...」

「いいから! やってみろ! 当たって砕けろ!」

(や、やるしかない!!)


逃げることはできない 彼女は腹を括り、ソロが始まった
117 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 01:00:20.33 ID:E4DX+2kO0
ポポロポポン


(うう... やってやる...! 今できる精一杯を!)

(ぶつける!!!)


ポポポッポポポロポロ


(ガンビーさん... ほんとに初心者...?)


まだまだ拙く、必死に食らいついていた
しかし清霜はそんな彼女を見て思った

この人とならやれる



ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
118 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 01:00:49.57 ID:E4DX+2kO0

「はあはあ... ひ、弾けた...!」

「ガンビーさん! すごい! 弾けたよ!」

「初めて2週間なら上出来ね」

「...まだまだでした」

「へ?」

「私、もっと上手くなりたい! もっとピアノで表現したい!」


間をおいてはっきりと言う


「私、ジャズがやりたい!」


それを見て摩耶が笑みを浮かべこう言った


「そのことなんだけどよ... やろうぜ、一緒に」

「ま、摩耶さん 本当に?」

「おう、今日のでお前が本気かどうかがわかった だから、やろうぜ」

「摩耶さん...! 私! 頑張ります!」


この言葉に清霜と榛名も祝福をした


「やった! おめでとうガンビーさん!」

「ガンビーさん、おめでとう」


三人と一人が、一つになった





「あ、そうだ摩耶さん練習資料ありがとうございました」

「な、なんでわかったんだよ!?」

「摩耶さん、あれはわかるよ...」




第8話
終わり
119 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/06/30(日) 01:04:43.21 ID:E4DX+2kO0
今回はここまでです
当たって砕けろは大事です割と

訂正があるのでお知らせします

>>20
誤 ドミナントにミクソリディアンスケール、トニックにドリアン... 完全にコルトレーンを意識してる

正 ドミナントにミクソリディアンスケール、トニックにアイオニアン... 完全にコルトレーンを意識してる


トニックにドリアンが使えるのはマイナー調の時でした、清霜がリシュリューの前で吹いたMoment’s Noticeはメジャーなので当てはまりません


ありがとうございました
120 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/06/30(日) 01:28:08.66 ID:qJnXpNKqO
おまけ
現在連載中のBLUE GIANT SUPREMEのイベントBLUE GIANT NIGHTS 2019がブルーノートで行われます
オーディションを勝ち抜いたグループがブルーノートで演奏する機会を得るとても面白い企画です
今回は課題曲がCherokeeとの事でした、楽しみです

https://www.universal-music.co.jp/blue-giant/news/event2019/

いろんなバージョンがあるので是非聴き比べてみてください
Cherokee
https://youtu.be/M283JFxesic

https://youtu.be/uon2Gu6jgf8
121 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/07/08(月) 15:12:55.69 ID:7PNoV9zW0
昨日ライブあったので更新は日曜になります...
ガンビーの応援をしながらお待ちください
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 01:01:41.73 ID:8Z30j3ua0
ギャー!更新してたの気付いてなかった!
おつ
123 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/07/16(火) 22:34:25.36 ID:ZfbL7gDA0
すみませんやっと暇になったので更新します
124 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/16(火) 22:35:01.79 ID:ZfbL7gDA0
第9話
Mayden Voyage(前編)


6月15日 午後11時08分
空母寮 ガンビアベイの自室


「ふう... まだまだだけど...コードは覚えてきた...!」

(そういえばいろんなピアニストの曲聞いてみたけど... バドパウエルって人、なんかいいな)


あれから1ヶ月半、演習や出撃が終わると彼女は必ずピアノに向かうことを習慣にしていた
この前の初めてのセッション、あの感覚が忘れられなかった
もっと上手くなりたい
彼女は胸にその思いを秘めていた


コンコンコン


そう思う彼女の元に誰かが訪ねてきた
こんな遅い時間に? と疑問に思いながらも返事をする
125 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/16(火) 22:35:49.44 ID:ZfbL7gDA0
「へ? あ、はーい!」

「おう、ガンビー 入っていいかー?」

「あ、摩耶さん どうぞー」


ドアを開け入ってきたのは摩耶だった
なにかの打ち合わせだろうかと彼女は考えた


「どうしたんですか? こんな時間に?」

「ああ、それがな 今度お前もいれてライブをすることが決まった」

「へ!? ええ!?」

「んな驚くなよ、やりたがってたろ?」

「うう、でもまだへたっぴだし...」

「で? それだったらいつまでやらないつもりだ?」

「え...」

「下手だからやらない、上手くなるまで、じゃあずっとやらないのか?」

「うう...」

「一回、人前で弾いてみろ」

「やっぱりむ...」


そう言いかけたガンビアベイ
だがすぐに思い立った


(無理っていうのは簡単だけど... ここで逃げたら... たった一ヶ月ちょっとでもピアノと向き合って自分を裏切ることになる...!)

「...摩耶さん、私やってみます」

「そうこなくっちゃな!」

「頑張ります!」

「で、これがセトリ(※)」

※セットリスト 曲目のこと
126 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/16(火) 22:36:21.29 ID:ZfbL7gDA0
「えっとやるのは4曲...」

「で、やるのはLazy Birdでじゃない」

「え」

「鎮守府の外でやる」

「え、ええっーー!? 無理無理無理!」

「んだよ! さっきやるって!」

「だって外でやるなんて思わなかったし!!」

「アタシらの演奏もうみんな知ってるから外でやった方がいいだろ? 2週間後、D♭って店でやるから」

「ええ...」

「来週一回合わせるから練習しとけよ! じゃあな!」

「え、あっ! ちょっと!」





言い終わるより前に摩耶は足早に去っていく
部屋にはガンビアベイ一人が残されていた


「どうしよう...」


コンコンコン
ガチャ


「あの... ガンビーさん、毎日頑張ってるみたいですし大福の差し入れ...」

「春日丸さん〜!!」

「ふえっ!?」

「た、助けて〜...」

「ど、どうしたんですか...」
127 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/16(火) 22:37:00.67 ID:ZfbL7gDA0
「...なるほど今度ライブが」

「そうなんです... でも自信なくて」

「それは大変ですね...」

「怖くって...」

「...でもガンビーさん、それってすごいことなんじゃないですか?」

「へ?」

「だって初めてまだ間もないのに一緒に本番やろうだなんて、普通言われませんよ」

「え...」

「ガンビーさんが頑張ってるところ、きっと伝わってるんですよ だから胸を張ってみましょうよ!」

「ま、まるさん〜(※)」

※春日丸

「私、応援しますね!」

「うう〜 ありがとうございます〜!」
128 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/16(火) 22:38:55.50 ID:ZfbL7gDA0
6月22日午後9時00分
Lazy Bird


練習日として貸し切られている今日、ステージには四人
清霜、摩耶、榛名、そしてガンビアベイ
何度かセッションは行なっていたがライブに向けて合わせるのはこれが初めてだった
店での誰かに向けての演奏、特に清霜とガンビアベイには初めての経験となる
これがどう転ぶかは、まだ誰にもわからない



「さて... 一曲目から合わせるぞ 榛名、カウント」

「ワン、ツー ワンツー」


バッバラー バラバラ


必死に食らいつこうとするガンビアベイを見て摩耶はふと思った


(ガンビーのやつ、前に比べて... なんつーか 掴んできたな)


ーーーーーーーー
ーーーーーーーー


「ふー吹いたー!」

「清霜ちゃん、なんか前より抑え気味な気がするけど... 気のせいかしら?」

「へ? 清霜が?」

「あー言われてみりゃ、どうしたんだ?」

「うーん... 言われてみれば... なんでだろ? なんかこう... いまいち枠から出られないのかも」

「枠だあ?」

「うん、なんかね 出られる時と出られない時があって... どうしてだかわからないけど」

「本番で枠から出なかったらぶっ飛ばすぞ」

「摩耶さんも、榛名のドラムだけじゃなく他の人の音聞いてね」

「あん!? んだよ!」

「清霜ちゃんの音も、ガンビーさんの音もちゃんと聞いて あなたはベースなんだから」

「わかったよ...」

「もー 本番大丈夫かなー...」

そんなやりとりを側から眺めるガンビアベイ
弾くことに必死で他人の様子なんてまるでわからなかった


(あんな風に... 言い合えるんだ)

(でも、私は...?)
129 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/16(火) 22:39:41.29 ID:ZfbL7gDA0
6月23日 午後7時00分
Lazy Bird


客で賑う店内、今日は艦娘による演奏が開かれる
それを聞きに今宵も人が集まる


「ねーねーそういえばさー 私たちバンド名決めてないよね?」

「あら、そういえば決めてなかったわね」

「あーすっかり忘れてたな」

「どうするんですか?」


バンド名、結成してまだ間もない彼女たちは全くそのことを考えてなかった
皆アイデアを出し合うがいまいちピンとくるものがなく難航していた
そんな時に早霜のかけるレコードからある曲が流れる





Blue7/Sonny Rollins
https://youtu.be/59aXJ8GvMYE



(あ、Blue7...)


聞き慣れているこの曲、そしてそれを聞いた瞬間思いついたように清霜は言葉を発した


「Blue4!!」

「あん?」

「へ?」

「ブルー4...?」

「そう! 四人だし! ちょうどいいかなって!」

「おい清霜、お前まさか今Blue7が流れてるからそういったな?」

「うん!」

「うふふ、清霜ちゃんらしいわね」

「おい、もうちょっと考え――」

「あ、あの! いいと思います!」


ガンビアベイの声に思わず驚く摩耶と榛名
摩耶は何か言いたげだったが彼女は続ける


「なんていうか... たしかにその場の思いつきかもしれないけど... でもなんかそれもなんていうかジャズっぽいなって... 勝手に思ったり...」


ジャズっぽいね... と口をこぼす摩耶
しかし先ほどとは打って変わって笑みを浮かべていた


「即興って意味じゃあってるかもな」

「榛名も、その名前いいと思うわ」

「ふふーん! 言ってみるもんだね!」

「Blue4かあ...」


一歩、たった一歩だが進んだ気がする
そしてその一歩はいつか巨人の一歩となる


第9話
おわり
130 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/16(火) 22:41:05.13 ID:ZfbL7gDA0
今日はここまで
おかしい前書いたSSの時と同じで違う子が主人公みたいになりかけてる(前々作は吹雪で前作は初月)けどまあいいか
ありがとうございました
131 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/07/22(月) 22:25:53.36 ID:L7q+K0RE0
時間できたので明日更新します
132 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/07/24(水) 10:47:47.59 ID:WuVlszLmO
復旧したので貼っておきます
133 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/24(水) 10:48:13.44 ID:WuVlszLmO
第10話
Mayden Voyage(後編)


6月24日 午後10時48分
Lazy Bird

「うっし! じゃあCherokeeの合わせは終わり!」


四人での練習は基本的に摩耶が仕切っている
演奏の指示や音楽的な指導はほとんど彼女が行なっている
そしてバンドの武器である『オリジナルの曲』も彼女が作った


「じゃ、最後『新曲』やるぜ」

「摩耶さん、その曲名前どうすんの?」

「考えてはいるんだけどよー いまいちピンと来ねーんだよ...」


曲を作ったものの、題名は決まらなかった


「あの... そういえばその曲は今度のライブではやらないんですか?」

「なんだガンビー? お前その曲こなせてんのか?」

「え!? い、いや... まだ...」

「そ、だからはえーんだよやるのは 今度のライブは場慣れだ、一回経験してもらうだけでいい」

「が、頑張ります!」


ガンビアベイはこの時自信に溢れていた
練習を積んできた、拙いけどきっと自分はできる
やる気と情熱に満ち溢れていた


(大丈夫! 初めてだけど! 練習してるからきっと大丈夫!)
134 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/24(水) 10:48:46.70 ID:WuVlszLmO
6月29日午後6時00分
とある駅前の広場


「7時からジャズやります! よろしくお願いします!」


広場に立ち、清霜はこれからやるライブの宣伝をしていた
しかし道行く人は誰も目に留めなかった


「おい清霜... そろそろ恥ずかしいからやめろ」

「うー... だって初めてのライブだし来て欲しいし」

「あのな、宣伝の方法間違ってるぞ? こんなんで来るわけねーだろ」

「うーん...」

「お客さんは演奏で集めんだよ、あと店が宣伝してくんないと人は来ねえ」

「やってみなきゃわからないもん! あ! お兄さん! ジャズ! 聞きませんか!?」

「へ? お、俺?」

「そうです! お兄さんです!」

「(あ、怪しいキャッチかな...? でも楽器持ってるし本物か...)ジャズをやるの?」

「はい! 今日初めてのライブなんです!」

「それは...すごいねライブやるなんて」

「それで! 来る確率何パーセントくらいですか!?」

「え!? い、いや それは... 」

「おい清霜、そろそろ迷惑だからやめろ すいませんうちのが...」

「い、いえべつに...」

「じゃあねー! 来てくださいねー!」

(変な子だなあ...)
135 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/24(水) 10:49:12.69 ID:WuVlszLmO
6月29日 午後6時45分
ライブハウス 『D♭』


「客の入りはどうだ?」


摩耶が清霜に問いかける、初めての外でのライブであったからか客の入りを気にしていた


「5、6人かあ」

「ま、そんくらいか」

「こういうものなの?」

「今日ははっきり言ってこれでも人が来てるほう、アタシらは無名も無名だからな 仕方ねえよ」

「そっかあ...」

「榛名が無理をしてこの店でやってくれるように頼んだんだよな」

「...でもさ、お客さん 居るんだね」

「あん?」

「私たち、カッコいいね!」

「...そうだな!」



午後6時47分
『D♭』 控え室

一方で榛名とガンビアベイは演奏のために精神を整えていた
榛名はリズムキープの練習のためにスティックでパッドを黙々と叩き、ガンビアベイは曲の進行を再確認していた


「わ、私たち 人前でやるんですね」

「そうね」


再び沈黙、響くのはトコトコとパッドを叩く音のみであった


「あ、あの 榛名さん 初めて演奏する時って... どんな気持ちでした...?」

「そうね... とても緊張したわ これが本番の空気なんだって思った」

「うう、やっぱり...」

「緊張してるの?」

「急に... どうしてだかわからないけど急に... 怖くなって...」

「...良くも悪くも今のあなたを出して」

「え...?」

「練習、してきたんでしょう?」

「...」

「練習してきたことを出す、それ以上でもそれ以下でもないの 大丈夫、やれるわ」

「...はい」
136 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/24(水) 10:49:45.37 ID:WuVlszLmO
午後7時00分
『D♭』ステージ


客はテーブル席に5人、カウンターに一人
店内の広さがその少なさをより際立てていた
四人がステージ上に立つが拍手は起こらない


(初めてのライブ...)

(この日は一生忘れないようにしよう)


清霜は心に誓った



「ワン、ツー、ワンツー」



ボーンバーンボボボン


摩耶のベースがリズムを作りそこにテナーサックスが乗る
榛名がスネア、ハイハット、タムでそれらを包み込む
だがピアノは... 乗れない


(あ、あ、あれ? な、なんで!?)


この時すでにガンビアベイは限界を迎えていた
客もその様子に気づく



「おいピアノのあの子... 大丈夫か?」

「ちょっと心配だな... でも他の3人は相当うまいぞ、どう見ても10代とかだよな...」


バラバーッバッバー!!
バラバラバラバラ


「あのテナー... 何者だ...?」






(クソ! ガンビー! 持ちこたえろ!)


摩耶が心配そうにガンビアベイを見るが当の本人はそんな摩耶を見る余裕はない


(E♭m7→A♭7→D♭7...)


コードを追うことに必死で3人の作るグルーブに乗れなかった
137 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/24(水) 10:50:29.44 ID:WuVlszLmO
午後7時20分
ライブハウス前

仕事終わりのサラリーマンと言った風貌の男が店の前に現れる
彼は夕方清霜から必死にライブの勧誘を受けていた男だった


「あのちっちゃい子の言ってたライブハウスここか...」

「ジャズなんて全くわかんねえのに... お人好しだな俺って」


店への階段を下り、防音扉を開けた
店の中は閑散としており、ちょうど演奏を終えた後だった



「ありがとうございました! 3曲目はIn A Mellow Tone でした!」

(あ、喋ってるのあの子だ...)


男がカウンター席に座り注文を取る

「注文は?」

「あ、バランタインを...」

「かしこまりました」

(ジャズかあ...)
138 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/24(水) 10:50:56.20 ID:WuVlszLmO
「次の曲で最後になります! やる曲は...」


最後の曲名を言おうとした時、どこか清霜は落ち着かない様子だった
心の奥に、このまま終わりたくない そんな気もちが宿っていた


「おい! 清霜! 早く!」

「...ねえ摩耶さん」

「あん?」

「『あの曲』やろう」

「ば、バカ! できるわけねーだろ! ガンビー見てみろ!」

「このままじゃ、終われない お客さんの心に火をつけたい」

「だからって...!」

「大丈夫、うまくいく」

「おまえなあ...!」

「新しい事、やろうよ」

「...あークソが! どうだ?」

「榛名は大丈夫です」

「や、やります...」

「クソ... 知らねえぞ」

「4曲目はベースの摩耶さんが作曲した曲です、名前は...」


清霜の考えていることはたった一つだった
『客の心に、火をつけてやる』


「IGNITION(点火)です、どうぞ」

139 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/24(水) 10:51:22.41 ID:WuVlszLmO
「ワン、ツー、ワンツー」


バーーーーー!!
バッバラバラババババラー!!




(え、なにこれ...)

(ジャズって... こんな激しいの..?)

カウンター席の男はジャズというもをの今までは静かなもの、年寄りが聴くものと思っていた
清霜の音を聞いた瞬間
彼の常識は覆った




バーラー ババラバラバラバラバラ
バッバー!


テナーが引っ張りベースが支え、ドラムが包む
摩耶はふと思う

(清霜のやつ、やっぱりそうだ)

(客の前、人の前だと枠を大きく超えられる)

(じゃあこっちも乗ってやる!)



バラバラッバー!!!!


ーーーーーーーー
ーーーーーーーー


140 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/24(水) 10:51:48.18 ID:WuVlszLmO
パチパチパチパチパチ


「ナイスプレー!」

「ヒューッ!」


客こそは少ないが歓声が上がっていた


カウンター席の男もスタンディングオベーションをする
思わず席を立ちステージに近づいていった


「ありがとうございました! Blue4でした!!」

「あ! サックスの子! 夕方の...覚えてる?」

「あ! お兄さん! 来てくれたんだ!」

「うん、ジャズって全くわかんない状態できてみたんだけど... なんていうか... ジャズってすごいんだね」

「あ、ありがとうございます!」

「また聞きに来ていいかな!?」

「ぜひ来てください!」


他のメンバーも質問責めにあっていた


「ねえベースの子! 君ほんとはプロなんじゃないの?」

「ドラムのお姉さん! かっこよかったよ! いつもどこでやってるの!?」



そんな中ガンビアベイは一人隅で佇んでいた


(そっか... これが差なんだ... やっぱりみんな積み上げてきたものが違う...)

(夢みちゃってたんだ... 私)

141 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/24(水) 10:52:15.19 ID:WuVlszLmO
午後7時35分
控え室


「みんなお疲れ様!」

「おう、お疲れ」

「清霜ちゃん、今日はのびのび吹いてたわね」

「うん! なんだかもっと吹きたい気分!」

(そりゃそうだろうよ...)


そう思いながら摩耶はガンビアベイを見る


(あいつを置いてきぼりにしやがって...)

「ガンビーさん! お疲れ!」

「...」

「が、ガンビーさん?」

「...ごめんなさい」

「えっ!? あっ! ガンビーさん!」


そう言い残しガンビアベイは足早に部屋を出ていった


「榛名が追いかけていきます!」

「わ、私も...」

「お前は行くな」

「えっ...?」

「まだ未熟だったあいつをステージに上げたアタシも原因だけど、半分はお前のせいだからな」

「え...」

「自信喪失した状態で、お前が出来上がってもいない曲やらせたんだよ」

「あっ...」

「だから行くな」

「...」

142 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/24(水) 10:52:52.90 ID:WuVlszLmO
午後7時49分
公園

「...」

公園のベンチに一人座るガンビアベイ
月は雲に隠れ、街灯だけが彼女を照らしていた
今にも雨が降りそうだった

「...何やってんだろ私」

「ガンビーさん」

「わあ!?」


ガンビアベイのことを追いかけていた榛名がようやく追いついた
その目はどこか慈愛に溢れていた


「ガンビーさん... 今日はお疲れ様、色々思うことはあるかもしれないけど もう帰りましょう」

「...私、何かできると思ってました」


ガンビアベイは泣きながら吐き出すように己の心の奥底にあることを言う


「練習したんだから... 少しはできるって...! ぐすっ...」

「知ってるわ、あなたは頑張ってた」

「でも! 本番... あの舞台にたったら... 何も... 」

「...」

「ピアノだって買って... 練習しようって... 一人で舞い上がって...」

「...」

「でも私は何もできなかった...! やっぱりみんなは積み上げてきたものが違う... ジャズやりたいなんて夢みるんじゃなかった...!」

「...」

「私... もう抜けます... 迷惑だから...」

「ガンビーさん...」

「何ですか...? もういいんです... 間違ってたんです... 夢みてたのがバカだったんです...」

「プレイヤーが一番やっちゃいけないことってなんだと思います?」

「え...?」

「コードを間違える事? アボイドを弾く事? ロスト(※)する事? 違う...」

※ 自分がどこを演奏してるかわからなくなる事

「一番やっちゃいけないのは...」

「お客さんの前で『私の演奏は最悪でした』って顔をする事よ」

「!!」

「それに比べれば今日のことなんて全く気にしなくていいの」

「...!」

「あなたは、お客さんの前で演奏したの 結果はどうであれ これってすごい事だと思わない?」

「榛名さん...」

「また一緒に、ジャズやりましょう? ジャズって楽しいのよ?」

「榛名さ〜ん!!」

「よしよし」

「うわあああ〜ん!!」


雲は消え、いつのまにか月が出ていた


第10話
おわり
143 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/24(水) 10:56:28.91 ID:WuVlszLmO
今日はここまで、榛名の言っていた「お客さんに自分の演奏は最悪でしたという顔を見せる」は一番やってはいけない事です
あなたの調子が最悪だとしてもお客さんはその演奏しかあなたの事を知りません、なので顔に出してしまったら最悪というのは伝わります もしかしたらお客さんにはいい演奏だったかもしれないのです
結果は覆せないので胸を張るしかないと私は考えてます

ありがとうございました
144 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/07/24(水) 22:56:39.18 ID:IofAfu2n0
(運営ちゃん次のジャズイベメセニーかマイケルリーグかベイシービッグバンド呼んでくれないかな)
145 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/07/24(水) 22:57:33.41 ID:IofAfu2n0
sageミスした最悪...
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/25(木) 01:54:03.33 ID:QUaGtbRh0
乙でした
お客の前に出る以上、お客から見れば新人だろうがプロなんですよね
色んな所で言えることですな…
147 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/07/30(火) 21:33:54.83 ID:2ooxR6dFO
合宿の準備などあるので更新二週間後です、すみません
148 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/08/16(金) 18:14:40.95 ID:ge+gLBPN0
色々遅れました... 日曜に更新します
149 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/18(日) 22:14:40.61 ID:F8UcP6o90
第11話

Twin Tenors(前編)



7月14日 午後3時00分
Lazy Bird


「はいストップ! テーマもう一度さらうぞ、榛名! なんでもいいから7拍目にアクセントつけて、清霜もそれに乗っかる感じで! ガンビー! 13thの方が多分響きがいい! 変えて!」

客のいないLazy Birdに摩耶の指示が飛び交う
今日もまた彼女らは練習を積み重ねる
あのライブ以来彼女らはより一層励むようになった
特に彼女、ガンビアベイはあの日から何か変わった様子だった
そしてまたその影響を受けたのは...


「おうガンビー! 前よし良くなったけど自信持って弾け!」

「はい!」

「...」


清霜だった



150 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/18(日) 22:15:29.77 ID:F8UcP6o90

午後11時02分
鎮守府 埠頭

「...」


今日までのガンビアベイを清霜は振り返った
彼女はこの数ヶ月、たった一人で伸びてきた
だからこそ清霜は、絶対に負けたくなかった


「ガンビーさんは一人であそこまで伸びてきたんだ... 普通じゃない...」

「...よし! 私も頑張らなきゃ!」


楽器を構え一呼吸置いた


「すう...」


バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!



「ぷはあっ!! はあ... はあ... あ! 何秒吹けたか測り忘れちゃった...」

「よし! 今度こそ! もう一回!」



バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー.....





151 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/18(日) 22:18:48.08 ID:F8UcP6o90
7月31日 午後9時24分
Lazy Bird


客で賑わうLazyBird、今日のプレイヤーはBlue4の四人だった
はじめてのライブをあえて外でやる目論見が功を奏しこのライブはなにもなく終わるはずだった
清霜と同じく、テナーサックスを持った彼女が来るまでは...


「...」

「どしたのよ朧、神妙な顔してるけど」

「ねえ秋雲」

「あん?」

「一緒に吹きたいというか... 音であいつに勝って見たくて横で吹きたいって思った事ある?」

「あー... ちょっとまさか...」

「ひさびさに心を突いてくるプレーヤーに出会えた気がする」

「勝ちたいの?」

「勝ってくる」

「はあ... 行っておいで」

「ありがとう」

「朧」

「何?」

「勝てよ」

「... 言われなくても」


言うや否や朧は楽器を舞台裏にセットしに行ってしまった
もう彼女を止めるものはいない


「あ、ただいま二人とも... あれ? 朧ちゃんは?」

席に戻ってきたのは朧や秋雲と同じくビッグバンドをしている照月だった
いつもは秋月、朧、秋雲の3人だったが今日は秋月が夜間演習のため不在、チケットを非番だった照月が受け取る形になった


「あー照、それが朧のやつ『勝ってくる』なんて言って楽器持って...」

「え、ええっ!?」

「でもさ」

「へ?」

「見たくない?」

「見たくないって...?」

「あの二人がどんな世界作るかさ」


----------------
----------------


「...ありがとうございました! Tricotismでした! 続いてが最後の曲になります、ベースの摩耶さん作曲でIGNITION...」

「ねえ」

「!? お、朧ちゃん!?」


朧がテナーサックスを持ちステージに上がる
まるでこれから戦うかのような佇まいを見せていた
そして... 勝ちに行く そんな目をしていた


「一緒に吹かない?」


第11話
おわり
152 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2019/08/18(日) 22:21:18.81 ID:F8UcP6o90
すみません夏はゴタゴタしてたので更新遅れました
前書いてたSSの方の登場人物を呼びました、似てるようで似てない二人のぶつかりは果たしてどうなるのか
ありがとうございました
153 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/18(日) 22:23:08.93 ID:6LNgmsKVO
おまけ
ジャズピアノのバッキング講座が割と面白そうなのが見つかったのでよかったらどうぞ(英語ですみません)
https://youtu.be/DhJshy1Nfyg
154 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 00:04:24.55 ID:MxzcDZH50
書けたので続き貼ります
155 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 00:05:34.98 ID:MxzcDZH50
第12話
Twin Tenors(後編)
7月31日 午後9時24分
Lazy Bird

「お、おい!いまライブ中で...」

「いいの摩耶さん」


摩耶が制止にかかるが清霜はそれをはねのけた


「... ただ一緒に吹きたいって感じじゃないよね」

「勝ちに来た」

「いいよ... やろう 曲は?」

「Giant Steps」

「お、おい!マジで言ってんのか!? コルトレーン(※)の曲を!?」


※ジョンコルトレーン

156 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 00:06:00.92 ID:MxzcDZH50
「ふふ、朧ちゃん勝負しに来たわね」

「榛名! 呑気に言うなっての! おいガンビー! 行けるか?」

「ええっ!? いきなりやれなんて...」

「ほら言わんこっちゃねえ... また今度に...」

「あの! 私がやります!」


そう言いステージに上がったのは照月だった
彼女もまたビッグバンドをやっている、そして偶然にもピアノであった
あまりの事態に客席からどよめきが聞こえていた
一体これから何が起こるのか、ステージにいる彼女たちにも、神様にも分からなかった


「さ、ガンビーさん 変わりますね」

「照月ちゃん...」

「さ、揃った やるよ テンポはこのくらい」


朧が指を鳴らしテンポを出す
ピアノもベースもドラムも、そして2本のテナーサックスも準備は整った
榛名がカウントを出す

「ワン、ツー ワンツー」

157 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 00:06:31.26 ID:MxzcDZH50
※イメージ
Giant Steps/Bob Mintzer Michael Brecker
https://youtu.be/bhkb-_SEtxQ


バーラーラーバーラー!
バーラー バーラーラーバーラー!




(朧ちゃんの音! 鋭い! 突き刺さってくる!)

(清霜... この子、音に厚みがある!)



似ているようで似ていない二人の音、それらが混ざり合い化学反応を起こす
朧の技巧溢れる鋭いサウンド、対して清霜は重厚な音を出し、二人の音でバーを埋め尽くしていた



(アタシのソロ!)


バラバーバララーバラー!!



(す、すごい技術! 指回しもすごいけど上の音も下の音も全部に鋭さがある! 一体どうやったらこんなに!?)

真横で聞く清霜は朧の技術に圧倒されていた
サックスを操る正確無比な技術力、それによって可能となる数々の音が彼女の強みだった
そして技術だけでなく『心』も彼女には備わっていた


(もっと! ありったけ!! アタシはいま勝負をしにきている! 小手先のフレーズじゃ勝てない!!!)


バラバラバラバーーーー!!!


(まだ! 足りない!!)


バッバラババララーー!!


(もっとだ!!!)


バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ!!!!


(よし!! 行けた!! このまま照月にパス!!)

158 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 00:06:59.43 ID:MxzcDZH50
(朧ちゃん! ナイスソロ! よし! 照月も...!)


ポポポロポロロロ


(アドリブソロなんてひさびさ... やっぱり楽しい!!)


ポポロロロロロ


(おっと! あくまでもメインはこの二人... さ! 清霜ちゃん! 見せて!)

(清霜の番!!)



バララーラ バララーラ!!


(朧ちゃんはきっと全力で勝負しにきたんだ...!)


バラバラバラバラバラバババ!!
バーラッバーラッバーララー


(私も本気を出す!!)

バラッババラバラー!!


(... 違う いつもはこんなのじゃない! どうして!?)

(何か... 何か違う... わたしだけ... 一人...?)


バラバーバラッバー!


(...違う! 朧ちゃんと勝負することに夢中になってた! もっと後ろをきかなきゃ!)


バラバーバー バラバラバラ!!


(よし! 噛み合った! 基本を忘れてた!)


バラバラバラッバーラッバババ!!!


(行ける! もっと! フレーズが溢れ出る!)



清霜の重厚な音がバッキングと噛み合う瞬間だった
この変化を朧は感じ取り、それと同時に笑みを浮かべる


(清霜と勝負してみてわかった、やっぱり...)

(ジャズって楽しい...!)


ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー

159 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 00:07:33.76 ID:MxzcDZH50
パチパチパチパチパチ
ヒューッ!!



会場は二人の話題で持ちきりだった
どっちが良かったか? どっちがうまかったか?
しかし当の二人にはここまでくれば些細な問題であった



「朧ちゃん... すごいね!!」

「... 最初勝とうって思ってた」

「すごかったね、朧ちゃん」

「でも途中でそんなこと忘れて無我夢中で、自分をさらけだすことに夢中になってて... アタシはまだまだだった 清霜は途中からバッキングちゃんと聴いてたでしょ?」

「わ、わかっちゃうんだ...」

「アタシは... まだまだ自分勝手だった だからこの勝負はまた今度やりたい」

「...いいよ! もっと一緒にやろう!」

「またね! いこう照月」


そう言い残し客席に戻った



ーーーーーーーー
ーーーーーーーー





客席で秋雲は二人を迎えていた
茶化すように彼女は言う

「うっすヒーロー、勝負はどうだった?」

「負けたつもりはないけど...」

「ほう?」

「次は勝つ」




第12話
終わり

160 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 00:11:02.92 ID:MxzcDZH50
今日はここまで
Giant Stepsですが前半はマイケルブレッカー、後半はボブミンツァーだそうです(多分)
マイケルブレッカーは超絶技巧のサックス奏者として有名でした(白血病で死去)、死の間際に出したアルバム「聖地への旅」は命を削るように紡ぎ出された彼の音を聴くことができます、是非どうぞ
161 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 13:39:25.84 ID:MxzcDZH50
第13話
Speak Like a Child/kin(←→)



8月13日 午前9時07分
鎮守府 埠頭


非番の時清霜はいつもこの埠頭で吹いている
どんなことがあろうと彼女はいつも吹き続け、四季をここで感じ取っていた
ただ時折ハプニングも起きる
この日は雲行きが怪しく、ついにはポツポツと雨が降り始めた
天気予報じゃ曇りのままだったのにと愚痴をこぼす清霜だったがそれ言っても仕方がなく、急いで雨の日に練習するトンネルまで逃げていった
トンネルに入るや否や雨はザアザアと振りはじめる


「うう〜傘持ってくるの忘れちゃた... 今日曇りだってきいたのに...」


不幸にも傘すらなく、しばらくここで練習する以外何もできなくなってしまった


「...ううん! ここで練習しよう!」


トンネルに彼女のサックスが響き渡る
162 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 13:40:02.04 ID:MxzcDZH50
午後12時22分
トンネル


「もう戻らないといけない時間なのにまだ雨降ってる... 」


雨は依然勢いを増しとても帰れる状況じゃなかった
そんな中傘を持ち清霜を迎えに来る者がいた
武蔵だった


「清霜、迎えにきたぞ」

「あ! 武蔵さん!!」


清霜の憧れでもありサックスを与えてくれた武蔵が来たと言うことに喜びを隠せなかった


「武蔵さんが来てくれるなんて... すごく嬉しい!」

「清霜がいつも外で練習してるのは知ってたからな、それでなかなか帰ってこないから心配したんだ」

「本当にありがとう! 武蔵さん!」

「さ、帰るぞ」

「あ、ねえ武蔵さん」

「ん?」

「武蔵さんがさ、昔サックスやってた頃のお話聞いてみたいなって... 少し」

「... 昔の話か」

「うん」

「いいだろう」




ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
163 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 13:40:42.78 ID:MxzcDZH50

「私がサックスを始めたのは10歳の頃だった、父親がサックス、母親がピアノをやってて自然とサックスをやりたいと思うようになっていたんだ」

「練習を重ねて海外の音大に入学した、そこでリシュリューと出会ったんだ 」

「彼女はすごかったよ、スタンゲッツが相当好きで音もフレーズもそっくりだった」

「私は彼女をライバルでもあり目標にしていた、よく一緒にライブもやってたさ」


武蔵は目を輝かせ、子供のように話していた


「初めてのライブ! あれは良かった! 私とリシュリューがバトルソロ(※)をしたんだが客はみんなスタンディングオベーションだ、何もかもが上手くいってた」

※バトルソロ 二人で交互にソロを回すこと

「お互い馬があっていつも将来はどうしたいとかどう言うのをやりたいか、Blue Noteでいつか演奏したいとか色々語り合ってた!」

「でもある日だった...」


ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー

164 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 13:41:10.93 ID:MxzcDZH50
数年前
アメリカ ニューヨーク 武蔵とリシュリューのアパート


「アンナ(※)! 帰ったぞ! いいスコッチを差し入れでもらったんだ! 飲もうか!」

※リシュリューが艦娘になる前の名前と思ってください、今更ですが艦娘は人間設定です

「...」

「アンナ...? お、おい! どうした! なんかされたのか!!」

「私は... もうだめみたいね」

「何があったんだ!」

「私は... 古い人間だった...」

「な...」

「私はスタンゲッツが好きでこの世界に入った... なのにそれを根底から否定されたら... 私は何をしたらいいの?」

「...」

「『君の音は古すぎる』『君は場末のパブで演奏をしたいのか、第一線に立って世界で活躍したいのかどっちなんだ? 今の君の音はただの模倣に過ぎない』」

「そんな...」

「私は... 巨人の足跡をなぞっていただけだった...」



ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
165 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 13:41:37.97 ID:MxzcDZH50
「私もそんな彼女をみて、ジャズの世界で巨人を目指すのは無理だと思ったんだ」

「そうだったんですか...」

「二人で音大をやめて、新しいことをやろう、そこで艦娘募集の案内を見て今に至ったんだ」

「...」

「リシュリューは... 今でもサックスをやってるな」

「はい、教わりました」

「彼女の心は、今もきっとニューヨークにあるんだろうな... 」

「あの、武蔵さん」

「なんだ?」

「どうして私にそんな大事なサックス、渡してくれたんですか?」

「なんでだろうな... ただ...」

「ただ?」

「巨人になってくれると、直感で思ったんだ」
166 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 13:42:04.41 ID:MxzcDZH50
午後12時39分
トンネル外


先ほどまでの雨が嘘のように晴れ、水たまりが太陽を反射し、より一層輝きを見せた
二人は鎮守府へと帰ろうとしていた


「ねえ武蔵さん」

「なんだ?」

「ジャズの巨人になろうとして多くの人が失敗してきた... 私もなれるかどうかわからない」

「...そうか」

「でもね、私は毎日自分はなれるって信じて吹いてる」

「!!」

「だから、私 なるよ ジャズの巨人に」

「...ああ!! お前ならやってくれる!」


魂は引き継がれる、時代を超えて


第13話
おわり
167 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/19(月) 13:43:22.80 ID:MxzcDZH50
今日はここまで、清霜を主人公にしたのは真っ直ぐさを持っている子だと思ったからです
誰もがなれるわけではないジャズの巨人、本気で目指そうと思える、そんな子だと思ってます
ありがとうございました
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/23(金) 13:28:51.46 ID:59N+9OGiO
乙です
清ちゃんは真っ直ぐで我武者羅ってのがよく似合う
169 : ◆0rjCWOlcd8we :2019/08/26(月) 23:34:10.18 ID:EQy3bn6M0
大会近いので更新そこそこ遅れます... すみません
170 : ◆0rjCWOlcd8we [sage]:2020/05/10(日) 02:46:12.03 ID:EHuQkfzS0
色々あって更新止まってました、ごめんなさい
近いうちに更新します... テナー清霜描いたやつでお茶濁す
https://i.imgur.com/3ZvmsWg.jpg
https://i.imgur.com/KWpt3N4.jpg
171 : ◆0rjCWOlcd8we :2020/10/19(月) 11:57:09.75 ID:6wb3q4St0
久しぶりに更新します
172 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2020/10/19(月) 11:57:50.83 ID:6wb3q4St0
人生は夢だらけ

8月14日 午前7時01分
鎮守府 食堂

鎮守府の朝は早い、海の安全を守るため今日もまた艦娘たちは働く
間宮さんのおいしい朝食を食べ1日の活力を生み出すのだった
そしてそんな食堂の隅に彼女たちはいた


「ねえねえ、摩耶さんと榛名さんってどうしてジャズ始めたの?」


唐突に話を振ったのは清霜だった
あまりにも突然のことで摩耶は思わず顰めっ面をする


「お前... ほんと唐突だな」

「昨日ね、武蔵さんとちょっと話してて... だからちょっとみんなのも聞きたくなったの」

「私もちょっと気になるかも...」


ガンビアベイも少し気になる様子であった
彼女はつい最近ジャズの世界へ足を入れたばかりであったため気になるのも当然だったかもしれない


「じゃあ私からお話ししましょうか」


そこで口を開いたのは榛名だった


「...榛名はなんというか、自分の演奏で喜んでもらえるのが嬉しかったの」

「小さい頃にお父さんが持ってたドラムのセットで遊んだことがあるの」


ーーーーーーーーーーー
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173 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2020/10/19(月) 11:58:37.98 ID:6wb3q4St0
数年前 


「ねえお父さん、これ何?」

「これか? これはドラムっていうんだ」

「ドラム...?」

「そうだ、叩いてリズムを...いやそれだけじゃない、世界を作る楽器なんだ」

「へえ...」

「叩いてみるかい?」

「うん!」

「よし! じゃあ今から組み立てるぞ! ちょと待っててな...」



ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー

1週間後

初めてのお客さんはお父さんとお母さんだったわ


「パパ、ママ、行くよ!」

「いいわよ! あなた、ビデオ回ってる?」

「バッチリだ!」


ドツタンドツタン ドンタンドトタン...


「できた!」

「すごいな!もう8ビートが叩けた!」

「将来はドラマーね!」

「えへへ...」


ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
174 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2020/10/19(月) 11:59:17.39 ID:6wb3q4St0
そこから数年後

「やっぱり君とプレーするの楽しいよ!」




「なあ、うちのバンド入らないか?」




「明日のライブも叩いてくれよ!」






でもある日ふと思ったの、毎日が変化がなくてただ惰性で叩いてる...

だから一回ドラムから離れて別のことをやろう... そこで艦娘として働こうとした...



ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー



「でも結局は艦娘になってもまたドラムを叩いてた、やっぱり好きなのかもしれないわ 人とやるのが」

「そうだったんだ...」


清霜もまた人とやるのが楽しいという気持ちを持っていたからその気持ちが理解できていた
榛名の言葉にどこか親近感を覚えたのだった

「さ、次は摩耶さんの番よ」

「あ、アタシ!? いいよ別に...」

「摩耶さんの話聞きたいなー!」

「わ、私も...」

「ああん!?」

「ひいいい!! やっぱ無理無理い〜...」

「しゃーねえな...」

「え! 教えてくれるの!?」

「だいぶ昔の話だけどよ...」


ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
175 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2020/10/19(月) 12:00:39.95 ID:6wb3q4St0
数年前

ちっちゃい頃両親ともに働いててさ、よく親戚の家に預けられてたんだよ
その親戚のおじさんがベーシストでさ、よくライブとかやってて連れて行ってもらってたんだ


「おじさん! アタシもその楽器やってみたい!」

「お、やってみたいかい? そうだな... もうちょっと大きくなってからかな」

「今やりたいの!」

「はは... 困ったな... よしそれじゃあ...」



「僕が弦を押さえてるから... そう! その弦を弾いて!」

「よいしょ!」

ボーン

「おじさん! 弾けた!」

「やったね! うん、将来きっといいベーシストになる!」

「ほんと!?」

「ほんとだとも、体のわりに君は大きな手をしてる... いい素質を持ってる」

「ベーシストかー... かっこいい!」

「ベースはね、バンドを支える一番大事な役割なんだ」

「うん!」

「だから君も、誰かを支える立派な人になってほしいな」



ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
176 : ◆0rjCWOlcd8we [saga]:2020/10/19(月) 12:01:10.68 ID:6wb3q4St0
「...でも現実は甘くなかった、アタシより上手い奴なんてごまんといた そこで一回心折れちゃってさ」

「でも栗田艦隊のみんながやるっていった時... またやってもいいかなって少し思って... また始めた」

「多分アタシはどこか未練があったんだろうなきっと」


そういって摩耶は口を閉じた


「2人ともまた戻ってきてくれてよかったな」


清霜が口を開く


「だってこうやって一緒にジャズができたんだもの」

「お、お前...」

「あら、清霜ちゃん嬉しいこといってくれるのね」

「わ、私も!!」


ガンビアベイが声を上げる


「私も... こうしてジャズ始められるようになって...だからみんなと出会えたというか... なんというか...」

「おうなんだよはっきり言えよ」

「ひいい... やっぱ無理ぃ〜...」

「おい、冗談だ アタシもこうしてなんだかんだジャズ続けられたのはすごい嬉しいと思ってるよ」

「榛名もです」

「清霜もよ!」

「み、みんな...」

「ま、このメンバーで色々やるの楽しいし、続けてこうぜ!」



4人が、また一つとなって動き出す
そんな予感を清霜は感じ取った



「あ、ごちそうさま おいガンビー 置いてくぞ」

「え、ま、待ってえ!」


第14話
おわり
177 : ◆0rjCWOlcd8we :2020/10/19(月) 12:03:47.04 ID:6wb3q4St0
一旦ここまで、久しぶりに書きました
最近自分は楽器から離れてしまいましたが何かをきっかけにまた戻るのもありなのではないかと思います
ありがとうございました
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/21(水) 12:48:13.53 ID:hJ4ZvHr10
おー、久しぶりに更新来てた
乙です、かわいい
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