【デレマス(デレステ)】黒埼ちとせ「私の望みは――」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 01:27:55.39 ID:dE10EQKmO
1ヵ月後、夕方、都内某所、レストラン個室

Pの予想するちとせの死まで10ヶ月


P「悪いな、千夜。付き合わせてしまって」

千夜「構いません。お嬢さまは今日と明日に検査入院で家にいらっしゃいませんし、お前が夕餉をおごってくれるというなら、楽でいいというもの」

P「そうか、ありがとうな」

P「いろいろ聞きたいことがあるんだ。ちとせが休養のために家にいる日も増えてきたからな」

P「ちとせの様子は、どうだ」

千夜「……正直、芳しくありません」

千夜「もう気づいているかもしれませんが、お嬢さまは痩せてきています」

P「……ああ、いまはモデルの仕事がメインだから誤魔化しがきくがな」

千夜「食欲が、ないそうで。私の作る食事もあまり喉を通らないらしく」

千夜「それでも、お嬢さまは言うんです――」


ちとせ『ごめん、ね……。せっかく、千夜ちゃんが私のために作ってくれているのに』

ちとせ『食べたいの……それは本当よ? でも、身体が受け付けてくれないというか……』

千夜『無理して食べる必要はありません。ただ、栄養をとるためにも、何も食べないというわけにはいかないのです』

ちとせ『ええ、わかっているわ』パクッ

ちとせ モグモグ

ちとせ モグモグ

ちとせ モグ...

ちとせ『……』

ちとせ『……』

千夜『? どうかなさいましたか』

ちとせ『っ……ぅぅっ……』ポロポロ

千夜『お、お嬢さま?!』

ちとせ『ごめん……ごめんね……』ポロポロ

ちとせ『飲み込め……ない、の……』ポロポロ

千夜『もう食べるのはやめにしましょう。医者に点滴を提案してきますから』

千夜『はい、ここに出しちゃってください』

ちとせ『……ペッ』

ちとせ『ううっ……うううああああん』


千夜「あの強く高潔だったお嬢さまが、今では相当弱ってしまっているようです」

P「そんなことが……」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 01:47:36.03 ID:dE10EQKmO
P「千夜、辛くは、ないか」

千夜「……辛い。辛いに……決まっている……!」

千夜「日に日に弱っていくお嬢さまを見ているのが辛い……! そして、あと少しの期間しかお嬢さまのおそばにいることができないというのがもっと辛い……!! それを実感させられる日々が辛い……!!!」

千夜「グスッ……お嬢さまはおっしゃるんです――」


ちとせ「あ、おっかえりー! ち〜よちゃんっ」

千夜「ただいま帰りました、お嬢さま。今日はとてもお元気そうで何よりです」

ちとせ「うんっ、イイコトがあったから」

千夜「イイコト、ですか……?」

ちとせ「そう。千夜ちゃんがバラエティ番組のトーク部門でMVPに選ばれたの、さっき見ちゃった!」

千夜「ああ、あれですか……恐縮です」

ちとせ「嬉しいんだ、私」

ちとせ「千夜ちゃんのすごいところ、良いところを、色々な人に知ってもらえて」

ちとせ「……私なんかの呪縛には、とらわれないで」ボソッ


千夜「――と」

千夜「……」

P「そうか……最善を尽くしているつもりではあったが、病態の悪化が加速しているのかもしれない」

P「また、対処を、考えてみるよ」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 01:49:08.01 ID:dE10EQKmO
とりあえずここまで。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 18:56:46.21 ID:gQnz5Op0O
2ヵ月後、事務所、Pの部屋

Pの予想するちとせの死まで8ヶ月


P「……」

千夜「そんな難しい顔をして、どうかしたのですか」

P「ネット上でちとせがテレビに出てこなくなったことを気にするやつが増えてきた」

千夜「……」

P「だが、俺は――」

千夜「お嬢さまの病態は極力隠したい、お嬢さまという存在のためにも」

P「――そうだ」

P「それが、俺があいつにしてやれることだと思っている」

千夜「……策は、あるのですか」

P「ある」

P「VelvetRoseとして新曲を出す」

千夜「……!」

P「歌番組の依頼が来たら、スタジオとは別の場所から中継する形でなんとか誤魔化す。手配済みだ」

千夜「まったく、お前は……」

千夜「……本当に、感謝しなくては」ボソッ

P「何か言ったか?」

千夜「いえ、何も」

P「ちとせは今日も病院にいるんだよな」

千夜「ええ、今週1週間は検査入院です」

P「今日の仕事は終えてある。これから見舞いに行くとするよ」

P「千夜は来るか?」

千夜「私は……」

千夜「……その新曲とやらの練習をします。お嬢さまのために、時間は無駄にできないので」

P「そうか……わかった」

P「これが音源と歌詞のデータだ。確か収録用の小さい個室が1つ開いていたと思うから、そこを使えば良いだろう」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 19:13:40.14 ID:gQnz5Op0O
某病院内

コンコン

ちとせ「はーい」

ガラガラ

ちとせ「あっ、来てくれたんだ」

P「ああ」

P「ちとせに、あるニュースがあってな」

ちとせ「あら、本当? どんなのかな、楽しみ」

ちとせ「ちなみに聞いておきたいんだけど……良いニュース? それとも……」

P「良いニュース、だと思うぞ」

ちとせ「それじゃ、さっそく聞いちゃおっかな」

P「……新曲を、出すぞ」

ちとせ「……うそ、マジ?」

P「マジだ」

ちとせ「ちょ、ちょっと待って! 向こう向いてもらえる?」

P「? なぜだ」

ちとせ「なんていうか、私、いますごくにやけてる気がして、あんまり顔見て欲しくないっていうか!」

P「残念だがもうにやけてるな。ばっちり見たぞ」

ちとせ「〜〜〜〜〜〜!!!」ボフッ

P「……何やってるんだよ」

ちとせ「にやけ顔なおるまで布団に顔埋めてるの」モゴモゴ

ちとせ「……」

ちとせ「……」

ちとせ「……ぷはぁっ」

ちとせ「うん、もう大丈夫」

ちとせ「でも……そっかぁ……」

ちとせ「私、また、歌えるんだ」

P「ああ、またちとせの歌を世間に届けることができる」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 19:25:22.07 ID:gQnz5Op0O
ちとせ「あの、さ。なんていうかね」

ちとせ「私、嬉しいんだ。その……ありがとうね」

P「礼を言われるようなことはしていないさ。プロデューサーとしての仕事を全うしているだけだ」

ちとせ「これは“仕事”として、なの?」

P「……どう捉えるかは、勝手だが、俺としては――」

P「――そういうことにしておいてくれ、といったところだな」

ちとせ「ふ〜ん、そっか♪ じゃあ、都合のいいように考えとく♪」

ちとせ「……」

ちとせ「ねえ、こっち、来て」

P「……これでいいか?」

ちとせ「うんっ」

ちとせ「えいっ」ダキッ

ちとせ「うんうん……あなたの匂いがする」

ちとせ「あと……あなたの暖かさがある」

P ナデナデ

ちとせ「あ、なんでいま私が撫でて欲しいって思ったってわかったの?」

P「なんとなくそんな気がしただけだ」

ちとせ「ふふっ、そっか。嬉しい」

ちとせ「もっと強く抱きついちゃう」ギュウウウ

P「……」

ちとせ「これなら、顔も見れないし……」ボソッ

ちとせ「……」

ちとせ「……グスッ」

ちとせ「……ヒグッ……あの、ね」

ちとせ「あなたが……生きる楽しさを教えてくれたから、私……」

ちとせ「私……ね……グスッ」


ちとせ「……死にたく――ないよ」


P「……大丈夫だ」

P「俺が、そばにいるだろう」

P「それに、千夜もいる。千川さんだって、いる」

P「お前のファンだって、いる」

P「それでも足りなければ、俺がいくらでもちとせのワガママに振り回されてやるさ」

P「大丈夫だ、お前は、死なない」

P「だって、吸血鬼なんだろう?」

P「俺たちが勘弁してくれって思うくらいに、もう俺たちの中でお前は生きていて、永遠に死ぬことなんてない」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 19:31:57.31 ID:gQnz5Op0O
ちとせ「うん……ありがと」

ちとせ「やっぱ、あなたって不器用だね」

P「余計なお世話だ」

ちとせ「……あの、さ」

ちとせ「ここって、個室じゃない?」

ちとせ「私のしてほしいこと、わかる?」

P「……」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 19:57:18.52 ID:gQnz5Op0O
1ヵ月半後、都内某所、特設スタジオ

Pの予想するちとせの死まで6ヶ月半


ちとせ「案外、静かなんだね」

P「まあ、極力騒がしくはならないようにしているからな」

ちとせ「ここから中継、か」

P「……」

ちとせ「あっ、別に嫌ってわけじゃないの。全然嬉しいよ?」

ちとせ「何もかも、あなたが私のためを思ってしてくれていることだって、わかってるから」

千夜「……遅くなってしまい、申し訳ありません。準備が終わりました」スタスタ

ちとせ「おっ、千夜ちゃん気合入ってる〜♪」

千夜「気合を入れてくれたのはスタイリストの方ですが」

ちとせ「いいのいいの、細かいことは気にしなーい」

P「……ん、そろそろ時間だ。ふたりとも舞台に上がってくれ」

ちとせ「うん。じゃあ、行ってくるね」

千夜「それでは」

P「ああ――」

P「――行ってらっしゃい」


同時刻、都内某放送局、音楽番組スタジオ

司会者「さて、次なるアーティストは、久しぶりの新曲となるVelvetRoseのお二人でございます!」

女子アナ「しばらくふたりでの活動がなかった黒埼ちとせさんと白雪千夜さんですが、今回はどんな歌を披露していただけるんでしょうか、楽しみです」

司会者「それではVelvetRoseのおふたりで――」


再び、都内某所、特設スタジオ

ガヤガヤ

スタッフ「本番60秒前でーす!」

ちとせ「……ねえ、千夜ちゃん」

千夜「はい、なんでしょうか、お嬢さま」

ちとせ「いろいろと、ごめんね」

千夜「お嬢さまに謝られることなど、何もありませんよ」

ちとせ「……ありがと」

千夜「感謝されることなど……私は、お嬢さまの僕として当然のことをしているだけですから」

ちとせ「……そっか」

ちとせ「私ね、こうしてまた千夜ちゃんと仕事ができて、テレビに映れて、歌えて、本当に嬉しいよ」

千夜「……私もです。お嬢さま」

ちとせ「また、ふたりで、歌おうね」

千夜「……もちろんです。お嬢さま」

ちとせ「それじゃ、行こっか」

千夜「……はい!」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 19:58:20.79 ID:gQnz5Op0O
一旦ここまで。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 00:25:36.29 ID:aY4zmbJYO
3ヵ月半後、都内某病院、某個室

Pの予想するちとせの死まで3ヶ月


P(あのライブの後、ちとせは奇跡的とも思える回復を見せた)

P(身体への負担を考慮しつつも、少しだけではあるがテレビ番組への出演も果たした)

P(新曲の売れ行きは徐々に伸びていき、「Fascinate」に匹敵するものとなった)

P(俺のちとせの余命の予想は外れたのかもしれないと思った)

P(だが、やはり俺は“正しかった”)

P(俺は、自分の賢さを憎んだ)

P(ちとせは、ラジオの収録の直後に――)


P(――意識不明になった)


ピーッピーッ...

ちとせ「……」

ピーッピーッ...

P「……」

P「なあ、ちとせ」

P「俺は、お前との約束を守れているだろうか」

P「……お前を退屈させないこと、そして――」

P「――お前に、嘘をつかないこと」

P「……」

P「2つ目は……守れていないかもな」

P「……3つ目の約束は」

P「3つ目は、お前は何を約束しようとしていたんだ?」

P「ちとせ……」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 00:26:07.67 ID:aY4zmbJYO
3ヵ月半後、都内某病院、某個室

Pの予想するちとせの死まで3ヶ月


P(あのライブの後、ちとせは奇跡的とも思える回復を見せた)

P(身体への負担を考慮しつつも、少しだけではあるがテレビ番組への出演も果たした)

P(新曲の売れ行きは徐々に伸びていき、「Fascinate」に匹敵するものとなった)

P(俺のちとせの余命の予想は外れたのかもしれないと思った)

P(だが、やはり俺は“正しかった”)

P(俺は、自分の賢さを憎んだ)

P(ちとせは、ラジオの収録の直後に――)


P(――意識不明になった)


ピーッピーッ...

ちとせ「……」

ピーッピーッ...

P「……」

P「なあ、ちとせ」

P「俺は、お前との約束を守れているだろうか」

P「……お前を退屈させないこと、そして――」

P「――お前に、嘘をつかないこと」

P「……」

P「2つ目は……守れていないかもな」

P「……3つ目の約束は」

P「3つ目は、お前は何を約束しようとしていたんだ?」

P「ちとせ……」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 00:30:10.28 ID:aY4zmbJYO
すみません、なんか連投になってました
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 00:43:18.20 ID:aY4zmbJYO
数時間後、事務所

P「……」

ちひろ「プロデューサーさんっ」ヒョコ

P「わぁっ! な、なんだ、千川さんか……」

ちひろ「もうっ、なんだとはなんですか。なんだ、とは」

P「いや、すまない。驚いただけだ」

ちひろ「ふふっ、別にいいですけど」

ちひろ「どうしたんですか、思いつめたような顔して」

P「……まあ、思いつめているからな」

ちひろ「ちとせちゃん、ですよね?」

P「ああ」

ちひろ「……よかったら、一緒に散歩でもしませんか?」


ちひろ「ちとせちゃんとの約束、ですか」

P「ちとせをアイドルにする前、あいつは約束しろって俺に言ったんだ」

P「退屈させないこと、嘘をつかないこと――」

P「――もう1つは、まだあいつは言ってない」

ちひろ「……それ、確かにちとせちゃんは“言ってはいない”かもしれませんけど」

ちひろ「もう既に、あなたには“伝えている”んじゃないですか?」

ちひろ「そしてあなたは、それに気づかないフリをしている」

P「……」

ちひろ「……ごめんなさい。意地悪な言い方になってしまって」

P「いや、いいんだ。君の言いたいことはわかるさ」

P「俺は、わかっていないフリをしている――そうなのかもしれないな」

P「あいつの口から聞きたいと思ってしまうんだよ。だって……」

P「……あいつの口から聞かずに俺が勝手に納得してしまったら、あいつの死を今すぐ受け入れてしまうような、そんな感じがして」

P「ちとせはまだ生きている。なんだか、それを自分なりに尊重したいという、俺のわがままだな」

ちひろ「……Pさんは、不器用ですよ」

ちひろ「それに、……とっても優しいです」

ちひろ「……そんなんだからPさん、モテちゃうんですよ、もうっ」

P「な、何を言うんだよ」

ちひろ「とぼけたって無駄ですっ! Pさんを好きな人は、アイドル、事務員、職員、……結構いるんですからね」

ちひろ「まあ、私は――」グイッ

P「!」

ちひろ「他の人は知らないようなPさん、知っちゃってますけど、ね」ニコッ

P「……ちひろ、近い」

ちひろ「キスしたくなっちゃいます?」

P「よせ……」

ちひろ「……なーんて、冗談ですよ!」

ちひろ「Pさんはとりあえずちとせちゃんのことを考えてあげてください。あとは、千夜ちゃんもですね」

ちひろ「あの子も、Pさんには思いを寄せています。近いうちには、それに対する答えをだしてあげてくださいね」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 01:28:55.47 ID:aY4zmbJYO
約2週間後、ちとせの病室


ガラガラガラッ

P「……ハァッ……ハァッ」

P「ち……ちとせ……」

ちとせ「う、うん……ちとせ、だけど」キョトン

P「お前が目を覚ましたって聞いたから……」

ちとせ「……走ってきてくれたんだ」

P「当たり前だろ……」

ちとせ「ありがと、嬉しい」

P「体調は、どうなんだ」

ちとせ「そりゃあよくはないんだけど、でも、辛くはないよ」

ちとせ「それに……あなたが来てくれたから、もっと元気になっちゃったかも」

P「そうか……それは良かった」

ちとせ「さっきね、先生がね」

ちとせ「病院の敷地内だったら、散歩してもいいって。一緒に行ってくれる人がいれば」

ちとせ「ねえ、私を、連れて行ってよ――」


P「……」

カラカラカラ

ちとせ「あっはは……ごめんね。歩いて散歩するのは、ちょっと無理っぽいんだ」

ちとせ「立てないわけじゃ、ないんだけどね」

ちとせ「体力的な問題で」

ちとせ「でも、車椅子からの眺めも新鮮で楽しい……ちっちゃい頃は、こんな高さの目線だったんだろうなって思う」

ちとせ「……」

ちとせ「……千夜ちゃん、元気にしてる?」

P「ああ。テレビには安定して出ているし、ラジオの仕事だってある。ラジオは、レギュラーもあるしな」

ちとせ「千夜ちゃんが出てたドラマ、ちひろさんが録画してくれていたみたいだから、後で見るんだ」

P「いいな、それ」

ちとせ「千夜ちゃん、無理してない?」

P「どうだろうか……お前がいないから、どこか寂しそうには見えるよ」

ちとせ「そっか……」

P「相変わらず、弁当は作ってくれる」

ちとせ「わお、ラブラブだね」

P「そんなんじゃないさ」

ちとせ「まあ、私がそんなこと言う資格はない――か」

ちとせ「うまくやってよね、あの子とはさ」

P「……善処する」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 01:41:50.71 ID:aY4zmbJYO
P「なあ、ちとせ」

ちとせ「? なあに」

P「お前に、聞きたいことがある」

P「お前は、俺に約束しろと言ったな」

P「覚えているか」

ちとせ「……うん」

P「3つの、約束だ」

ちとせ「覚えてるよ、ちゃんと」

P「お前を退屈させないこと、お前に嘘をつかないこと……」

P「……だが、まだ3つ目を聞いていない」

P「俺のエゴなのは百も承知だ。でも、お前の口から聞きたい」

P「3つ目……お前は何を約束させたかったんだ?」

ちとせ「……うーんと、ね」

ちとせ「……」

ちとせ「……ひみつ!」

P「……は?」

ちとせ「だーかーら、ひ・み・つ」

P「え、いや、でも……」

ちとせ「今は言いたい気分じゃないの」

P「そんな悠長なこと……!」

ちとせ「私がいますぐに死ぬとでも?」

P「っ……!」

ちとせ「ごめん。いまのは、いじわるだったよね」

ちとせ「でもね、いまは言いたくない」

ちとせ「私を信じて……必ず、あなたには言うから」

ちとせ「お願い」

P「……わかった」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 01:45:46.79 ID:aY4zmbJYO
とりあえずここまで。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/04(水) 22:27:12.53 ID:lEP1w3jq0
>>1です。また忙しさが落ち着いたら更新します。少々お待ちください。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 17:50:05.39 ID:KnBe1FwIO
1ヵ月半後、都内某病院、某個室

Pの予想するちとせの死まで1ヶ月


コンコン

「……入るぞ」

ガラガラッ

P「ちとせ……」

ちとせ「ぁ……」

P「いい、無理してしゃべらなくて、いいから」

ちとせ「わた……し、目、覚めた……んだよ」

P「ああ……、わかる、わかるよ」

ちとせ「……ぁ……た、ま……」

P「な、なんだ?」

ちとせ「撫でて……欲しい、の……」

P「こう、か……?」ナデナデ

ちとせ「ぅん、きもちぃ……」

ちとせ「ふふっ……ずっと、夢を見てた」

ちとせ「長い、長い、……夢」

ちとせ「私とあなた……そして千夜、ちゃん……の3人で」

ちとせ「……仲良く……お屋敷に住むの」

P「ああ……」ナデナデ

ちとせ「それで、ね……あなたは、私と千夜ちゃんの……ふたりをお嫁さんにしてるの」

P「何をやってるんだ俺は……」ナデナデ

ちとせ「夢の、中……だから。別に、いい……でしょう?」

P「まあ、お前がいいならな」ナデナデ

ちとせ「夢の中の千夜ちゃんは……いまみたいな僕ちゃんじゃ……なくって」

ちとせ「むかし、みたいな……かわいい女の子、なの……」

ちとせ「どっちがあなたとイチャつくかで、喧嘩したり……」

ちとせ「一緒に、あなたを喜ばせるために、お料理したり……」

ちとせ「そう、やって……暮らしてるの……」ポロポロ

P「ああ……ああ!」ポロポロ
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 18:02:20.36 ID:KnBe1FwIO
ちとせ「……ゃ、くそく……」

P「!?」

ちとせ「3つ、目、の……。まだ……ちゃんと、伝えてない」

P「それは……」

ちとせ「ち、よちゃん、と……」

ちとせ「……っっ、……」ヒューッヒューッ

P「おい……しっかりしてくれ……ちとせ……!! 死ぬな……!!!!」

ちとせ「かはぁっ……、はぁ……っ、はぁっ……」

ちとせ「だ、いじょう、ぶ……」

ちとせ「これ……伝えずに、は……死ねない、から……」

ちとせ「……もっと、近くに、……来て」

P ズイッ

ちとせ「3つ目は……ね」






ちとせ「――――千夜ちゃんと、幸せになって」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 18:14:54.16 ID:KnBe1FwIO
1ヵ月後、都内某教会

Pの予想するちとせの死まで――0日


千夜「……なんだか、気恥ずかしい」

ちひろ「そう言わないでくださいって、Pさんと、選んだんでしょう?」

千夜「それは……そうですが」

ちひろ「とても、似合っていますよ。綺麗です。千夜ちゃん」

千夜「ちひろさん……ありがとう」

ちひろ「それにしても、世間はいま頃大騒ぎですよ」

ちひろ「――人気絶好調のアイドル、白雪千夜がプロデューサーと電撃結婚、だなんて」

千夜「改めて言われると照れる……」

ちひろ「照れてる千夜ちゃん可愛いです」

ちひろ「……ちとせちゃん、最後にすごいお願いをしたものですね」

ちひろ「自分の命日になりそうな日に2人が結婚する姿を見せてくれ、だなんて」

ちひろ「それもあって、この結婚式も、参加者は、事情を知る聖職者の方々と、私と、お2人と――」

ちひろ「――ちとせちゃんだけですし」

千夜「お嬢さまが饒舌にお話になられたら、聖職者に手伝ってもらったから灰になってしまう……だなんて冗談を言うかもしれませんね」

ちひろ「ふふっ、そうかもしれません」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 18:26:17.50 ID:KnBe1FwIO
ちひろ「……千夜ちゃん」

千夜「?」

ちひろ「プロデューサーさんを、助けてあげてくださいね」

ちひろ「結局、私にはそれが最後までできませんでした」

ちひろ「でも、千夜ちゃんなら……」

ちひろ「いいえ、こう言ったほうがいいかしら。千夜ちゃんとちとせちゃんなら、と」

千夜「ちひろさん……」

ちひろ「……グスッ。こ、こんなの、野暮な話ですよねっ。ごめんなさい……」

ちひろ「昔の女の戯言です……忘れてください……」

千夜「そんなこと……」

千夜「私は、お嬢さまの願いの成就のため、ちひろさんの叶わなかった思いのため、そして――」

千夜「――なによりも、あの人のために、生きていきます」

ちひろ「うんっ……うん!」

千夜「……それに」

千夜「あの人にふさわしい女は、ちひろさんではなく私だと思い知らせてあげますよ」フフフ……

ちひろ「あーっ、言ってくれますね、もうっ!」プンスコ

ちひろ「……あははっ」

千夜「ちひろさんの顔に笑顔が戻った」

千夜「そうです、ちひろさん。まだ泣くには早いですよ」

千夜「式は、これからですから――」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 18:45:25.99 ID:KnBe1FwIO
――新郎が、入場する。

P「……」

その男は、かつて自らが生み出してしまった災厄に苦しむ少女を救おうとした。

それと同時に、その災厄に苦しめられていたのは男も同じであった。


――新婦が、入場する。

千夜「……」

その女は、贖罪のために友を主とし、あろうことか主の想い人を愛してしまった。

しかしそのことが、主の救いであるということに気づいたのであった。


――高潔な女が、そこにいる。

ちとせ「……」

その女は、最初からいた。最初からいて最後までいないよう努めて存在しているが、それでもなお存在感が絶大な女がそこにいた。

女は新婦の主であった。けれども、今日をもってその契約は終わる。

それは、女の最後の望みであった。


――また別のところには、諦めてしまった女がいる。

ちひろ「……」

その女は、新郎を支え、救いの手を差し伸べようとした。だが、その手が男をつかむことはなかった。

しかし、女は最早後悔していなかった。男を救う別の女が、現れてくれたから。


――式が、進んでいく。


――誓いますか? Y/N

P「俺は――」

千夜「私は――」

ふたりは誓いを交わした。新婦の主は無言でそれを眺めている。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 18:57:56.41 ID:KnBe1FwIO
――新郎と新婦は唇を重ねあう。


――結婚した事実が宣言される。


――一連の流れは、無事終了した。



ちとせ(ああ、とっても幸せ)

ちとせ(私が、なによりも望んでいたコト……)

ちとせ(私の愛する貴方が、長年の災厄からようやく解放され、救われる)

ちとせ(私の愛する貴女が、長年の呪縛からようやく解放され、救われる)

ちとせ(私は貴方・貴女(あなた)たちに十分愛された……今度は、貴方・貴女(あなた)たちが愛し愛され――愛し合う番)

ちとせ ニコッ

ちとせ(Pさん……貴方、とてもかっこいいよ。何度でも惚れてしまいそう。その姿にも、自ら招いたモノによる翳りも)

ちとせ(千夜ちゃん……貴女、とても可愛いよ。いまの千夜ちゃんは、もう、一人の女の子なのね。それで、いいのよ)

ちとせ(幸せ……幸せしあわせシアワセ!!)

ちとせ(幸せすぎて死んでしまいそうなの――なんてね)

ちとせ(これは、いつもの私の冗談めかしたセリフなんかじゃない……もう、そろそろだよね)

ちとせ(私は……)
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:06:18.16 ID:KnBe1FwIO
「……とせ、ち……せ!!!!」

「……さま!! お……さ……」


なんだか騒がしいなあ、もう。

私がこうなっちゃうことなんて、ふたりとも知っていたでしょ?

まあでも、いざそうなりそうになると、冷静じゃいられないのかもね。

ありがと。私のことを想ってくれているの、ちゃんとわかってるよ。

そうだ、最期に、あれだけ言っておかなくちゃね。

きちんと、自分の言葉で。

だから、いまだけは声を出すんだ、私!!!!!!!!!


ちとせ「あなた、幸せになりなさい」


――――――――。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:12:25.60 ID:KnBe1FwIO
6年後、都内某所、一軒家。


??「おかーさんっ! 早く早く!!」

千夜「もう、そんなに急がなくてもコンサートは逃げないというのに」

??「だってはやてちゃんとなぎちゃんが歌ってるところ、はやくみたいから!」

千夜「出てくる時間はもう決まっていますよ。別に早まるわけじゃない」

??「んー?」

??「あ、そーいえば、おとーさんは、来れないの?」

千夜「いいえ、あの人なら先に向こうについているはず」

??「あ、そっか。ぷろでゅーさーっていうの、やってるんだもんね」

千夜「そういうこと」

千夜「……そうだ。ちょっと忘れていたことがありました」

千夜「ねえ、もうトイレは済ませましたか?」

??「あ! まだいってないや」

千夜「じゃあ、いま行ってきなさい」

??「うんっ!」テテテ……
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:20:49.56 ID:KnBe1FwIO
ちとせの遺影の前。

千夜「お嬢さま……いいえ、ちとせちゃん」

千夜「あの子が、私たちがしていたような仕事に興味を持っているようです」

千夜「あの子は……どのように成長していくんでしょうか」

千夜「健やかに、長生きできるようにと、名前をつけました。それも、あなたがどこかであの子を守ってくれるように」

千夜「私たち夫婦も、まだまだこれから学んでいくんでしょうね」

千夜「ずっと、見守っていてね、ちとせちゃん」

千夜「……いってきます」


??「トイレ終わったー!」

千夜「忘れ物がないか、確かめた?」

??「じゅんびかんりょー、です!」

千夜「ふふっ……そうですか」

千夜「それじゃ、行きましょうか」

千夜「おいで――」


千夜「――千歳(ちとせ)」








END.
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:21:32.01 ID:KnBe1FwIO
以上です。ありがとうございました。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:54:20.95 ID:KnBe1FwIO
過去作を一応貼っておきます(完結したもの一覧):
・【安価】世莉架「安価でタクを楽しませちゃうよ」【CHAOS;CHILD】https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1487424130/#footer

・【デレマス(デレステ)】久川颯「はーはPちゃんが好きなの」https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1554736389/
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:56:24.86 ID:KnBe1FwIO
※冒頭でも述べたように、このSSと【デレマス(デレステ)】久川颯「はーはPちゃんが好きなの」は世界観を共有しています(ただし、こちらはSS速報Rなので注意)。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:57:59.53 ID:KnBe1FwIO
また、時間があるときに、何か書こうと思います。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/21(土) 20:03:28.65 ID:3or7ch/DO
えーと、つまり……はーちゃんは捨てられて、Pは千夜とくっつくと?
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 20:10:03.22 ID:KnBe1FwIO
>>132

世界観は共有していますが、冒頭で述べたようにPはそれぞれにおいて別の人物です。このSSの中では、区別するために前作のPを「miroirP」と表記しています。
146.49 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)