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【アイマス】真「目を閉じて見るハッピーエンド」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:09:36.60 ID:TL91zfWYO
《A side:大嫌いだから愛しくて》
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1571836176
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:12:08.84 ID:TL91zfWYO
菊地真、17歳
私と一緒にアイドルデュオとして活動している女の子。
3ヶ月ほど前から髪を伸ばしはじめていて、ボーイッシュさが前面に出ていた1年前より女の子らしくなった。
「真は男性ファンからの手紙も増えてきたな」と、プロデューサーが嬉しそうに報告してくれたのは一昨日の話だったかな。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:15:14.84 ID:TL91zfWYO
真ちゃんは運動神経がバツグンでいつも元気な、快活さを絵に描いたような性格をしている。
正義感が強くてちょっと空回りすることもあるけれど、そんなところも含めて周りの人達からは愛されている。
私にだって優しくしてくれる。食事やショッピングに誘ってくれて、いつだって友好的な態度で接してくれる真ちゃんは本当に良い人なんだろうな、と思う。
でも……私はそんな真ちゃんが大嫌いだった。
□□□□□□□
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:18:13.96 ID:TL91zfWYO
「雪歩ちゃん大好きです。これからも頑張ってください」
「ありがとうございます。応援よろしくお願いしますね」
歌詞カードにサインして手渡しながら、微笑んでファンの方と受け答えする。隣では真ちゃんも同様に手を動かしながらファンに笑顔を見せていた。
「大好き」かぁ……
ファンの人に好いてもらえるのは嬉しい。それが仕事なのだから。
だけど、好意を直接伝えられるのは苦手だった。それには理由があるのだけれど……
次々と入れ替わりでサインを求めてくるファンへの対応に忙殺されて、思考は中断された。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:21:39.89 ID:TL91zfWYO
それから1時間程してシングル発売記念のサイン会を終えると、プロデューサーは「今日はこのまま2人を家まで送るよ」と言ってくれた。私と真ちゃんは素直にその提案を受けて車に乗り込む。
距離が近い私の家の方に先に到着する。別れの挨拶をして私が車を降りると、真ちゃんがプロデューサーに「あ、ボクも降ります。雪歩と約束があるんで」と言い出した。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:24:21.03 ID:TL91zfWYO
「突然だな。一人で帰れるのか?」
「心配しすぎですよ。もう子どもじゃないんですから」
「高校生は十分に子どもだよ。あまり遅くならないうちに帰るんだぞ」
「わかってます。お父さんみたいなこと言わないでください」
真ちゃんは車を降りてドアを閉めると運転席の窓際に駆け寄り、プロデューサーに舌を突き出した。
プロデューサーは苦笑しながら窓越しに私たちに軽く手を振り、車を発進させて去っていった。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:27:21.38 ID:TL91zfWYO
……私はというと、二人が話している間何も言わずに立ち尽くしているだけだった。突然の真ちゃんの発言に違和感を覚えて、なんとなく口を挟むタイミングを逃してしまったからだ。
『雪歩と約束があるんで』
私は、真ちゃんが人に嘘を吐くところを初めて見た。存在しない“約束”を、真ちゃんはまるで天気の話みたいに平然と口にした。
私にはすぐに分かる嘘を私の前でいつもと同じ様子で言える真ちゃんが、全然知らない人のように感じられた。
□□□□□□□
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:31:44.04 ID:TL91zfWYO
嘘には敢えて触れないで、私はまるで本当に“約束”があったかのように振舞い真ちゃんを自室に案内した。
これが私のくだらない処世術だった。嘘を指摘して、もし二人の間の雰囲気が悪くなってしまったら、アイドル活動にも支障が出てしまうかもしれない。
それなら、無難な会話を重ねて気分良く真ちゃんに帰ってもらった方がいいに決まってる。
「約束」なんて嘘を吐くくらいだから何か大事な話があるんだと思ったけど、私の部屋を面白そうに見て周る真ちゃんは世間話しかしてこなかった。
その時になってようやく気付いたけれど、真ちゃんが私の家に来るのはこれが初めてだった。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:39:58.70 ID:TL91zfWYO
私のアルバムを発見した真ちゃんは興味深げに写真を見ながら、時折質問を投げかけてきた。
私はそれに答えながらも、早く真ちゃんが飽きてくれないかな、と考えていた。自分の写真を見るのは苦手だった。
アイドルの考える事じゃないな、と心の中で苦笑する。
「アルバム見てても思ったんだけどさぁ」
真ちゃんが視線をアルバムに向けたまま言葉を発する。
「雪歩って笑顔作るの下手だよね」
「…………」
なんて言葉を返すべきか分からなかった。やっぱり今日の真ちゃんはおかしい。相手を傷付けるようなことを言う人じゃないはずなのに……
そう、私は動揺と共に傷付いていた。今までひた隠しにしてきたコンプレックスの外殻に触れられたことに。
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:42:29.17 ID:TL91zfWYO
「今日のサイン会でも隣にいてヒヤヒヤしたよ。あんな笑顔じゃファンにいつ愛想尽かされてもおかしくないよ?」
ほら、こんな風に笑うんだよ、と真ちゃんは笑顔を作った。
それはファンの女の子達が黄色い歓声を上げるいつものスマイルそのものだった。
「……なんで分かったの?私の笑顔が全部作りものだって……」
真ちゃんの膝の上で開かれたままのアルバムに無意識に視線が引き寄せられる。そこには中学生の頃の私が笑顔で写っていた。
一人で、或いは友達と一緒に。何枚も、何枚も。写真のために、笑いたくもないのに作られた表情で。
私は自分の作った笑顔を見るのは嫌いだった。
でも、他の人にはわからないように完璧に笑顔を作っているはずだ。写真を見ても笑顔がおかしいとは思えない。それなのに真ちゃんが気付けた理由が分からなかった。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:45:43.41 ID:TL91zfWYO
「なんでって……」
真ちゃんはフフッと笑みを零した。心底面白そうに。
「ボクも雪歩と“同じ”だからさ」
“同じ”?真ちゃんが……私と?
思わず真ちゃんの目をジッと見つめてしまう。すると、真ちゃんはもう一度完璧な笑顔を見せた。
この笑顔が私と“同じ”だって言いたいの?それとも、もっと根源的な部分まで……?
……確かめてみよう
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:48:06.91 ID:TL91zfWYO
「あのね、いくつか質問してもいい?」
「構わないよ」
「……真ちゃんは私のこと、好き?」
「んー、好きでも嫌いでもないかな」
「じゃあ、これから好きになる可能性はある?」
「無いと思う。たぶんね。これまでがそうだったから」
質問の答えを聞く度に、胸がドキドキしてきた。
もしかして、本当に私と“同じ”なのかも……
あぁ、ダメだ。もう我慢できない。
「……私が『恋人になってほしい』って言ったら、どう思う?」
心臓の鼓動がいつもより早いせいで、自分が生きていることを今更のように意識できた。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:50:39.02 ID:TL91zfWYO
そんな私の言葉を聞くと、真ちゃんは少し苦笑した。
「ボクから言うつもりだったのに、先に言われちゃった」
あぁ……真ちゃんが、私の求めていた人だったんだ。
頬を何か熱いものが流れ落ちていく感触で、自分が泣いていることに気付く。
「キス……してもいい?」
「どうぞ」と、真ちゃんが両腕を開く。恐る恐る歩み寄ると体を軽く抱き寄せられて、真ちゃんの方から唇を重ねてきた。
数秒にも満たないファーストキスを終えると、距離の近さに改めて驚いてしまい、私は顔が更に熱くなるのを感じた。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/23(水) 22:54:46.98 ID:TL91zfWYO
「真ちゃん、『好き』って言ってほしい……」
自分の言葉に自分で恥ずかしくなって、私は真ちゃんの首元に顔を埋めてしまう。
それなのに、真ちゃんは私の耳元に口を寄せて、「雪歩、大好きだよ」と優しく囁いてくれた。
声色で、嘘だとわかる。
なんて優しい嘘。
涙目になりながらも今度はしっかりと真ちゃんの目を見つめる。
「私も大好きだよ」
知らないうちに私は笑顔になっていた。作りものじゃない自然な笑顔を他人に向けるのはいつ以来だろう。
私の嘘は、ちゃんと伝わったのかな?
大丈夫、真ちゃんは私と“同じ”なんだから……。ほら、笑顔で私を見つめ返してくれてる。
安心感で満ち足りた気分の中、今度は私から真ちゃんに唇を重ねた。
□□□□□□□
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/10/23(水) 22:59:32.48 ID:TL91zfWYO
キリがいいので今日はここまでで終わります。
もし読んでくれてる人がいたら意味がわからないところで終わってて申し訳ない。
明日の夜に続きを書きます。
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/24(木) 03:22:08.15 ID:TxTvNBCU0
支援
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/10/24(木) 21:01:28.04 ID:w1xTLu/tO
読んでくれてる人がいて良かった。
続き投稿します。
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:04:24.91 ID:w1xTLu/tO
「萩原さん、好きです。付き合ってください」
男の子からの告白は、いつだって私の気分を重くさせた。
「私はあなたを好きになれません」と、本当の気持ちを伝えても意味は無い。「付き合ってみなければわからない」と不確かな未来に期待した言葉を吐かれるだけだった。
けれど、私にはわかる。だって、私は今まで誰も好きになった事が無いから。
人を好きになる方法がわからないのに、どうして人を好きになれるんだろう。
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:06:55.74 ID:w1xTLu/tO
数度目の告白を断った後、私は煩わしさから「萩原雪歩は男性が苦手」だということにした。
これは効果があって、告白される頻度は激減した。
もし告白されたとしても、断る理由がハッキリしているから頭を使わずに済んで楽だった。
友達がオーディションに応募したのが切っ掛けでアイドルになったけど、始めてみるとアイドルは私に合っていると思えた。
アイドルは全ての人に平等に愛を与えなきゃいけない。その約束を破って、特定の人にだけ愛情を向けた時ファンの心は離れていってしまう。
私は誰も好きにならない。だからこそ誰にでも平等に愛情を与えられる。本当の気持ちは無くても、“与えている振り”はできるんだ。
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:08:16.41 ID:w1xTLu/tO
アイドルとしての生活は今までよりも嘘に塗れていた。
恋さえ知らない身で愛を語る歌を数え切れないほど歌った。笑顔を作る機会は何倍にも増えた。
笑顔を作る度、(私は幸せになれない)という想いは強まっていった。
□□□□□□□
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:10:36.97 ID:w1xTLu/tO
世界には愛が溢れている。
外に出ればそこかしこにカップルや夫婦が歩いているし、恋愛をテーマにした作品は飽きられもせずに今この瞬間にもどこかで作られている。
何よりも、私はお父さんとお母さんが愛し合った証明としてこの世に存在している。
「雪歩も恋愛した方がいいよ。男子が苦手なんて言わないでさ。たぶん、人間の幸せは恋愛の中に詰まってるんだよ。こんなに幸せな気持ちになれるなんて、私だって思ってなかったんだから」
アイドルになる何ヶ月か前、初めて彼氏の出来た友達は興奮気味にこんな言葉を漏らした。
私は曖昧に答えながら、それなら私は一生幸せになれないなぁ、とボンヤリと考えていた。
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:13:58.84 ID:w1xTLu/tO
私は別に感情が無いわけじゃない。
両親は好きだ。友達も好き。可愛らしい子猫が好きだし、お茶も好き。ただ、それ以上の段階の「好き」が欠落していた。
友達に付き合って恋愛映画を見る度に、(なんでこの映画に登場する人達は相手のことを想うあまり泣けるんだろう)と不気味にさえ思った。
私には愛情を表現できる人達がエイリアンに見えていた。私は、産まれてきてからずっとエイリアン達の中で暮らしている。
……いや、私だけがエイリアンなのかな……
□□□□□□□
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:15:58.08 ID:w1xTLu/tO
孤独だった。
愛情を知らない私は、周りにそれを悟られないために必死で生きてきた。おかげで笑顔だけは上手くなった。
家族から愛されて過ごしてきたし、友達には優しくしてもらった。そういった「幸せな人生」と呼ばれる要因の一つ一つが私には息苦しかった。
いじめや虐待を受けていれば、人間不信になったせいで人を好きになれないんだ、と自分に言い訳も出来たのに。
何一つ不自由なく生きてきたのに人を愛せないのは、私が欠陥品だという証明に思えて仕方がなかった。
□□□□□□□
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:18:55.31 ID:w1xTLu/tO
そんな私にとって、真ちゃんの「ボクも雪歩と“同じ”だよ」という告白は正に青天の霹靂だった。見知らぬ惑星で同じ人間を見つけたように。
〈まさか、そんなのあり得ない。
明るくて元気が良くて、男の人からも女の人からも愛される真ちゃんが私なんかと“同じ”なわけない……〉
あの告白の後でも、頭の片隅では私のネガティヴな部分が反抗を続けていた。
けれど、告白の言葉を思い出せばそんな疑念はすぐに吹き飛んだ。私と“同じ”じゃないとあの言葉は出てこない。
「あなたを好きになれないけど傍にいてほしい」なんて支離滅裂で我が儘な想いは、同じ気持ちを持つ人間同士でしか理解できないだろう。
□□□□□□□
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:21:32.43 ID:w1xTLu/tO
告白されるのが嫌なのは、相手が私に愛情を求めてくるから。
告白してくる男の子はきっとこう考えてる。(今は片想いだけど、いつか俺のことを好きになってくれるはず)、と。
でも、そうはならない。愛情の天秤は一方に傾いだままいつまでも動かない。
私はそんな時、誰も愛せない自分を直視させられて劣等感や罪悪感に苛まれた。
だから、もし私が付き合うとしたら“私を好きになれない人”しかいないと朧げに想像していた。そうすれば、人を愛せない私でも天秤は釣り合う。私も劣等感を感じずに済む。
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:23:40.60 ID:w1xTLu/tO
理屈に合わないことを考えているのは自分でもわかっていた。私を好きじゃない人が私と付き合ってくれる理由がない。
それでも……私は誰かに傍にいて欲しかった。
眠れない夜にはふと考えてしまう。私はこのままずっと一人なのかと。
人を愛せないのだから、結婚はできないと思う。それは仕方ない。高校生になる頃には諦めに似た気持ちを抱くようになった。
でも、私がお婆ちゃんになって、死ぬ直前に隣に誰もいない場面を想像するとひどく哀しくなった。死ぬまでの孤独に耐えられる程、私は強くはなかったんだ。
□□□□□□□
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:27:20.92 ID:w1xTLu/tO
真ちゃんというパートナーを得て、私は変わった。
付き合ってからすぐに私たちは恋人の真似事を始めた。本当に恋人になったのに“真似事”と言うのは変な気もするけれど、そうとしか言いようがない。
デートやセッ◯スの最中、私達は時々自分の意思とは関係なく「普通のカップルがやりそうなこと」を好んでやった。愛を表現する言葉や行動を意識して多く使った。
私達は確かめたかったんだ。特別な関係でしかできないそれらの振る舞いが、愛情自体とはなんの関係も無いと。
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:35:56.60 ID:w1xTLu/tO
何度体を重ねてみても真ちゃんに愛情を覚えたりはしなかった。真ちゃんだってそう。ただ、快楽だけが存在していた。
私の体を知り尽くした真ちゃんに感じやすい部分を弄られながら、耳元で中身の無い愛の言葉を囁かれるのが好きだった。そんな時、私は“愛”には何の意味も無いと安堵した気持ちになって、快楽だけに身を任せることが出来たから。
「私も愛してるよ」と言いながら絶頂を迎えると、日常で常に感じている倦怠感から解放されるような気がした。
□□□□□□□
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:37:10.10 ID:w1xTLu/tO
私は、私が嫌いだ。
他人を愛せない自分が嫌い。
ファンに嘘の言葉と笑顔しか見せられない自分が嫌い。
愛せないのがコンプレックスな癖に、恋人達の振る舞いをバカにして安心しようとする卑怯な自分が嫌い。
そして、そんな自分を一方で愛しいとも思っている自分が、何よりも……
□□□□□□□
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:39:03.46 ID:w1xTLu/tO
真ちゃん
真ちゃんが私と同じだと知った時、私がどんなことを考えたか知ってる?
(あぁ、可哀想な人だな)って思ったんだよ。
そしたら急にあんなに嫌いだった真ちゃんが愛おしく思えてきたんだ。
その時に気付いたの。私が真ちゃんを理由も無いのに嫌っていたのは、無意識に真ちゃんに自分と同じ匂いを感じていたからじゃないか、って。
私は、私が嫌いだから。
嫌われる理由としては笑っちゃうくらい理不尽な話だよね。ごめんなさい。
でも、私はそんな気持ちを気取られない様に気を付けてたから、真ちゃんは知らなかったかもしれないね。
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:41:52.11 ID:w1xTLu/tO
真ちゃんと付き合って気付いたことはもう一つあって……
私は可哀想な真ちゃんに恋人として話したり触れたりする時、真ちゃんを通して自分を見ていたの。
真ちゃんは私を映す鏡なんだ。私の語る「愛してる」は、他ならぬ自分に向けた言葉だった。
私は、弱い私を愛してあげたかった。
こういう気持ちも自己愛って言うのかな?気持ち悪いよね。
でも、どうしようもないの。私の皮膚の薄皮一枚下には透明な膜が合って、その中には誰も入って来れない。
自分の中にポッカリと空いた穴を埋められるのは、自分しかいないの。
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:44:39.06 ID:w1xTLu/tO
もう、真ちゃんがいない生活なんて考えられない。孤独な時間がどれほど空虚なものなのか、私は知ってしまった。
どうしようもなく哀しくて
どうしようもなく虚しくて
だから、どうしようもなくあなたが愛しい。
真ちゃんは私の分身だから。私の心の穴から出てきたあなたが只々愛しい。
そう扱う事でしか、私は満たされなくなってしまった。
自分でも不思議なんだ。こんなに真ちゃんが愛しいのに、気持ちが愛情に変化したりはしないことが。
たぶん、この気持ちは“愛”なんて綺麗なものじゃなくて、“依存”に近いんだと思う。麻薬に手を出してしまって、止めたくても止められない人の気持ちが今なら分かる。
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:47:52.33 ID:w1xTLu/tO
自分でも分かってるんだよ。こんな恋人の真似事を続けても何にもならないって。一瞬だけ満たされた後、一人になった時はもっと虚しくなるだけなのに、止められない。
だって、たった一瞬だけ満たされるその瞬間が、人生で一番幸福な時間だから。自分から幸せを手放せるほど、私は強い人間じゃない。
麻薬なんかに例えられたら、真ちゃんは怒るかな?
でも、お互い様だよね。真ちゃんも同じ様に私を利用して虚しさを埋めてるんだから。
尋ねてみたことはないけれど、私と“同じ”ならそうに違いない。言葉になんかしなくても、私達は解り合える。
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 21:53:37.28 ID:w1xTLu/tO
「真ちゃん」
体を重ねている最中、世界中でただ一人私を幸せにしてくれる人の名前を呼ぶ。
それだけで、真ちゃんは魔法使いのように私が求めてる言葉を与えてくれる。
「雪歩、愛してるよ」
いつも通り感情の込められていないその言葉を聴いて、私の中の欠けた部分が満たされるのを感じた。
「私も。私も愛してるよ、真ちゃん」
熱っぽい口調で喋っていると、不意に目頭が熱くなった。
理由のわからない涙を堪えながら、私は微笑む。幸せから生じた表情を真ちゃんに見せる。すると、真ちゃんも笑みを返してくれた。
この瞬間が永遠に続けばいいのに。
馬鹿げていても、愚かだと思われても、私が幸せを感じる手段はこれしかないのだから。二人だけの閉じた世界で、私の幸せは完結しているのだから。
叶わない夢と知りながら、その事実から逃げる為に、私は愛しい人に重なるように身を寄せる。
二人の鼓動のリズムが合っていることに気付いて、私はまた一つ、この世界にまだ生きていてもいい理由を見つけた気がした。
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/10/24(木) 21:55:40.30 ID:w1xTLu/tO
前編の雪歩視点終了。
後編の真視点に移る。
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 22:01:02.75 ID:w1xTLu/tO
《B side:目を閉じてみるハッピーエンド》
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 22:06:03.72 ID:w1xTLu/tO
萩原雪歩、17歳
ボクと一緒にアイドルデュオとして活動している女の子。
その儚げで柔らかな雰囲気から守ってあげたい気持ちになるらしく、特に男性からの人気が高い。
アイドル活動を始めた当初は男性恐怖症のせいで仕事に支障を来たす事も少なくなかったけれど、1年以上の活動を経てその恐怖心も少しは薄れてきたらしい。
「雪歩もだいぶ男性とのやり取りが自然になってきたな」と褒めるプロデューサーに対して曖昧な笑みで返す雪歩。
そんな雪歩をボクはジッと見つめていた。
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 22:08:29.59 ID:w1xTLu/tO
雪歩は嘘を吐いている。
いや、嘘に塗れている。
雪歩の「男性恐怖症」というのは嘘で、単にその嘘を少しずつ無かったことにしようとしているだけなのだ。
【仮面】の存在がそれを証明している。
ーーこれは、ボクがそんな雪歩に恋をする物語だ。
□□□□□□□
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 22:18:39.30 ID:w1xTLu/tO
唐突な話で信じられないだろうけれど、ボクは他人の嘘を見る事ができる。
これは相手が嘘を吐く際の癖を見抜く技術が優れているって意味じゃなくて、ボクは相手を見れば話の内容が本心かそうでないかを確実に見分けられるんだ。
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 22:20:06.72 ID:w1xTLu/tO
その能力に関して一番古い記憶として残っているのは幼稚園の頃。
幼いボクは来たるクリスマスに向けてサンタさんへ手紙を書いていた。
「おおきなクマのぬいぐるみがほしいです」と声に出して文字を書いていると、近くにいた幼稚園の先生が「真ちゃんは良い子だからきっとサンタさんが持ってきてくれるね」と話しかけてきた。
嬉しくなって見上げた時の先生の顔は今でも覚えている。
まず真っ先に異変に気付いた部分は目だ。先生の顔からは目が失われていた。
より正確に言うと、そこに目がある事はわかるのだけど、眼球が薄い皮膚で覆われたかのようになっていて視線や感情が全く読み取れなくなっていた。
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 22:21:31.36 ID:w1xTLu/tO
次いでボクは、先生の鼻の穴や口の中までもが目と同様に薄い皮膚で塞がれたようになっている事に気付く。
その様子を例えるなら……ショーケースに並んだマネキンをイメージしてもらえると分かり易いかもしれない。
マネキンは顔の凹凸からパーツの判別はできるけど、細かな感情までは読み取れない。それと同じ状態だ。
幼いボクは単純に先生の変化に疑問を持ったようで、顔がおかしくなってる理由を先生に尋ねた。
すると、先生の顔が通常のものに戻り、怪訝な表情が露わになった。
幼心にも自分が言ってはいけない事を口走ったと気付き、それ以来ボクは顔の変化について誰かに話すのをやめた。
□□□□□□□
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 22:27:33.75 ID:w1xTLu/tO
中学生になる頃には、ボクは自分に与えられた能力を完璧に理解していた。
嘘を見抜く能力と言えば分かり易いけれど、これは何も言葉にだけ反応する訳じゃなくて、本心を隠したり偽ろうとする意図があればちょっとした仕草にも敏感に反応する。
そして、その人が真実を隠したいという気持ちが強ければ強いほど肌の色が肌色から黒に近くなっていくという特徴がある。
何気ない嘘なら肌色のまま、バレたら困る嘘なら黒色という風に。
ボクは他人が嘘を吐く時に顔が変化するこの現象を、便宜上【仮面】と呼んだ。
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/10/24(木) 22:31:39.08 ID:w1xTLu/tO
ただ、この能力が役に立つかと言われればそうでもない。別に目に見えなくても他人が嘘を言っているかどうかくらい分かるからだ。
周りのクラスメイト達だって相手が嘘を吐いているかどうかはある程度察しているようだし、わざわざ見える必要性は感じられない。
ポーカーなんかの一部のギャンブルには有効だろうけど、対等じゃない勝負には興味が無かった。
どうやらこの世界に神様はいないらしい。
ゲームや漫画のように超常的な存在が能力を与えられた理由を説明してくれるはずもなく、ボクは坦々と日常を過ごしていた。
□□□□□□□
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/10/24(木) 22:38:33.29 ID:w1xTLu/tO
雪歩と出会う場面まではいきたかったけれど今日はここまでです。
明日の夜に続きを書きます。
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/10/25(金) 06:49:59.61 ID:y+ctAerg0
おつ
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/25(金) 07:00:24.75 ID:NBdCcC/GO
ヤってる時に感じてる演技をされてもバレバレなのか
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