もしもし、そこの加蓮さん。

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207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/09(土) 20:52:12.65 ID:GVB5f6680

加蓮がペットボトルの中身を半分ほど減らしたところで、
美嘉が口を開きました。

 「昔さ、話したよね」

 「何を?」

 「アイドルになった理由。卯月とアタシ達で」

 「あー」

ほんの二、三年前の出来事を、まるで遥か昔の思い出のように感じられる事実こそが、
加蓮の過ごしてきたアイドル生活の濃さを物語っていました。

さてあの時はなんと話しただろう、と記憶を検索しますが、いまいちよく思い出せません。
何となくお茶を濁したような記憶だけが朧気に残っていて。


 「……ぼた餅」

 「それ。よく覚えてんね」


お茶からの連想ゲームだよとは言えませんでした。
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/09(土) 20:56:22.28 ID:GVB5f6680

 「ホントの所、どーなの?」

 「何が」

 「だーかーら、アイドルになったワケ★
  ぼた餅食べる為だけにここまでやんないでしょ、フツー」

 「やん」

腿をぺちんと叩かれました。

あの日は細く頼りなかった腿も、今ではごく健康的に膨らんで、
中にはステージを跳ねるために必要な全てが詰め込まれています。

男の人はどっちが好きなんだろうと思わないでもないですが、
それはそれとして、です。


加蓮は体育座りをして、しばし思案に耽りました。
隣で座る美嘉は、やっぱり何も言いません。

 「美嘉、口固い?」

 「莉嘉と仲良しの加蓮くらい固いよ」

 「じゃあ言わない」

 「コラ」
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/09(土) 21:00:40.21 ID:GVB5f6680

頬を突っつかれて、加蓮はまた両手を挙げました。

 「私ね、卯月になりたかったんだと思う」



 「……卯月?」

 「卯月みたいな娘、かな。正確には」

 「意外。加蓮が卯月推してるのは知ってたけど」

 「昔から漠然とアイドルには憧れててさ。
  最初は、ほら、アイドルってだいたい健康そうじゃない?
  私にとっての『元気』の象徴がアイドルで、だからなりたかったんだと思う」


加蓮は理詰めで物事を俯瞰できる娘でした。
その能力こそがアイドル北条加蓮の武器なのだと、彼女はまだ気付いてはいませんが。

 「でも違った。卯月ってさ、ほら、練習量すごいでしょ」

 「ま、ね。加蓮とはまた別の意味で、純粋に量こなすよね」


少し目を離した隙に、この前替えたばかりのシューズをボロボロにしている。
それが加蓮と美嘉、二人のよく知るアイドル島村卯月でした。
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/09(土) 21:10:45.96 ID:GVB5f6680


 「あの娘を見て、分かった。
  私……好きだからとか、やりたいからとか……
  そんな理由だけで頑張れる人に、ただ憧れてただけだった」


そこまで話すと、加蓮は言葉を切りました。
少し喋り過ぎたと、微かに頬を赤らめます。

 「……そっか」

美嘉は肯定も否定もせず、加蓮の瞳を覗き込んで柔らかく笑いました。


一緒に居ると気を許してしまって、ついつい話し過ぎてしまう。
加蓮にとって美嘉はそんなアイドルで、
帰宅してからベッドの上で転げ回った経験も一度や二度ではありません。


猫みたいに気持ちの良い伸びをして、美嘉が帰り支度を始めます。
すっかり存在を失念していた時計を見れば、
針はまもなく二十一時を回ろうとしていました。
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/09(土) 22:07:14.07 ID:GVB5f6680

 「ぜったい内緒だからね、卯月には」

 「加蓮が莉嘉にアタシの秘密とか訊き出そうとしなければね」

 「それは無理」

 「ちょっと」

心地良い疲労感を抱え、加蓮は立ち上がりました。
荷物を纏めて美嘉の後を追おうとし、つま先が何かに蹴躓きます。
足元を見てみても、トレーニングシューズに包まれたつま先以外は見当たりません。


 「加蓮ー? 置いてくよー」

 「あ……うん。いま行くー」

 「どうかしたの?」

 「いや、クラゲが居てさ」

 「……何の話?」

思い出話を語り合い、二人は更衣室へと向かいます。
あの日、床にへばりついていた液体生物は、
無事伸びてきた二本の脚で元気に歩いてゆくのでした。
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/09(土) 22:21:29.95 ID:GVB5f6680

 ◇ ◇ ◆


何かの拍子に窓ガラスが鳴って、加蓮はゆっくりと目を開きます。


薄手のシーツに包まれていた身を起こすと、
そこに待ち構えていたのは薄闇の広がる病室。
またこれかと、加蓮は誰に遠慮するでもなく、大きな大きな欠伸を決めました。


すっかり病院と縁遠くなって久しい頃、
加蓮は時折こういった夢を見るようになりました。

目覚めるのはいつもベッドの上。
階や場所は違うものの、いずれも加蓮が寝転んだ覚えのあるベッドでした。
時間はいつも深夜で、加蓮の他に人影はありません。


最初こそ恐ろしくて泣き出しそうになりましたが、
今ではすっかりルーティンワークです。
パジャマとスリッパのまま病室を出て、夢遊病ってこんな感じなのかな、
だとか下らない事を考えつつ、眠くなるまでぺたぺたと病院内を歩き回ります。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/09(土) 22:44:01.47 ID:GVB5f6680


他の病室。
受付。
診察室。
手術室。


錠も何も掛かっていない病院内はどこでも入り放題で、
勝手が分かってきた頃はむしろ若干楽しくすらありました。
もっとも、今ではそれもすっかり飽きてしまって、
ただぼんやりと徘徊するだけになってしまいましたが。


今日は比較的疲労の回りが早いようです。
そろそろ頃合いだろうと幽霊病院ツアーを切り上げ、
四階の病室まで踵を返します。

スライド式のドアを開け、さぁ一眠りして起きようとベッドに向かい、
何かが光っているのに気付きました。


サイドボードへ置かれていた携帯テレビ。
いつの間にかその電源が入っていて、小さな液晶に何かの映像が映し出されています。

 「……あ」

事務所主催のライブ映像のようでした。

いつのものかは判別が付きませんが、
奏や奈緒など、どのアイドルにも見覚えがあります。
なかなか盛大なライブらしく、思いつく限りの顔ぶれは全員が出演しているようでした。
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/09(土) 22:45:10.43 ID:GVB5f6680



 加蓮ただ一人を除いて。

215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/09(土) 22:46:09.49 ID:GVB5f6680


 「――っ!」


声にならない叫びを上げながら手を振り回しました。

床に叩き付けられたスマートフォンが震え続け、
表示された画面は午前七時を知らせてくれています。

肩で息を繰り返していると指先に軽い痛みが走ります。
スマートフォンを力の限り払い除けた衝撃か、
小指の爪の端はひび割れたように欠けていました。


加蓮の部屋の、加蓮のベッドの上。
壊れるまで使って捨てた携帯テレビなどある筈も無く、
そろそろ起きてくれと言わんばかりにアラームが鳴り響いているだけでした。

 「は……ぁ……」


小刻みに震える手を、もう片方の手で強く抑え込みます。
そうしていないと身体どころか、すぐに心まで震えてしまいそうでした。
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/09(土) 23:27:57.87 ID:GVB5f6680

 ◇ ◇ ◆

現代の理論では、夢について判明している事実は多くありません。

人によってフルカラーかモノクロームか違っているらしいだとか、
そもそも一切見ない人も居るだとか、
得た記憶の整理作業中の副産物なんじゃないかとか、
せいぜいがその程度です。


今回の夢について、加蓮は防衛機制の一種ではないかと推測していました。

バースデーライブという大一番。
その高揚と不安を察知した加蓮の心が、
安定の象徴たる過去の記憶を追体験させる事で解決を図ろうとしているのではないかと。

夢は所詮、どこまでいっても夢。
夢の中で何が起きようが、現実の自分に何ら影響はありません。


幾ら自分にそう言い聞かせても、
暗い病室で目覚める度、加蓮は細い体を震わせずには居られませんでした。
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/09(土) 23:40:32.93 ID:GVB5f6680

バースデーライブの長丁場をこなすため、
今の加蓮に必要とされているのは一にも二にも体力です。


とは言え、体力など一朝一夕につくものではありません。
地道な反復運動こそが一番の近道です。
加蓮の今の体力とて、三年間のアイドルを経てようやく身につけた成果なのですから。

そうなれば後はもう、いかに体力を使わずに演じられるかの勝負になってきます。
そのために必要なのは効率化。
喉へ負担を掛けないブレスの方法や、最小限の動作で綺麗に見せる為のステップ。
どれも結局は地道な反復練習で、
けれど加蓮は他のメンバーが居ようと居まいと、泣き言一つ零しませんでした。


――もっと、体力を。


事務所でのレッスンが無い日にも、加蓮は近所で走り込みを繰り返します。
泣き言を言う暇があったら走れと、
いつだったかの凛の言葉を思い出して加蓮はひとり笑いました。

確かに泣いている暇などありません。
涙なんか流している暇があるなら、一滴でも多くの汗を。
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/09(土) 23:51:32.22 ID:GVB5f6680

文字通り寝る間を惜しみ、加蓮は体力作りに励みました。
ライブ本番が近付くにつれて、
その分、他のメンバーとの合同レッスンも必要になってきます。

削られた基礎動作の反復をプライベートの時間に無理やり捩じ込みます。

最初は二ヶ月に一度くらい。
けれど、レッスンが密度を増す度に、その頻度は増えていきました。


一ヶ月に一度。
二週間に一度。
一週間に二度。


消えて無くなる筈の不安感が、戻る必要の無い筈の場所が、得体の知れぬ質量をもって。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 00:04:25.36 ID:7gnP6kF90


 「加蓮ちゃん」



 「……ん。どうしたの、卯月?」

 「え、っと……最近、頑張ってますね!」

 「うん。私一番の大舞台だからね。ボケっとしてる暇は無いよ」

 「……ねぇ、加蓮ちゃん」

 「なに、卯月?」

 「少し、私と……お話を、しませんか?」


震える手が、加蓮の汗ばんだ手を握りました。
伝わってくる温度を感じて、俯くようにして頷きます。
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 00:19:13.01 ID:7gnP6kF90

 ◇ ◇ ◆

プロデューサーから差し入れられた、紙コップのアイスココア。
両手で抱え、小刻みに揺れる水面を、加蓮はただじっと見つめていました。

 「ネイル」


卯月が呟きます。

 「加蓮ちゃんのネイル。
  綺麗で、凄いなぁって見てたんです。でも、最近、してないなーって」

指先を伸ばしました。
いつだったか欠けてしまった小指の爪も、今では跡一つも残っていません。
綺麗に整えられた、ごく普通の爪です。


何だか、塗る気が起きなかったのです。

明日は塗ろうかな。
週末に塗ろうかな。

小さな先延ばしが積み重なって、今日がその最後尾でした。


 「ごめん」
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 00:29:15.35 ID:7gnP6kF90

加蓮の呟きに、プロデューサーは一瞬だけ、ほとんど泣きそうな顔になって。
それから何度も首を振りました。

 「そうじゃない。叱りたい訳じゃないんだ、加蓮」

 「……何で?」

 「だって……逆だろう。加蓮が……どうしてそんなに、辛そうなのか。
  担当プロデューサーの癖して分かってない、俺が叱られる側だ」

 「ちょっと、レッスン……し過ぎたからだよ」

 「そのくらいなら、俺も分かるんだ。加蓮は自分の体力を考えて、
  多分、俺の知らない所でも何かをこなして、上手いことレッスンを重ねてる。
  確かに普段よりもハードだけど、加蓮が苦しんでるのは……そこじゃない気がする」

 「……」

 「まるで……何かから、追い掛けられてるみたいだ」


揺れ続ける茶色の水面は、自分が今どんな顔をしているのか、加蓮に教えてくれません。


 「…………笑わない?」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 00:31:15.82 ID:7gnP6kF90

届く前に消えてしまいそうな言葉へ、二人は深く頷きました。

 「笑いません」

 「……ほんと?」

 「笑わない。笑ったら渋谷さん呼んで、ぶん殴ってもらう」

 「こわい夢を、みるんだ」


二人が静かになって、加蓮が話しやすくなりました。


 「暗くて、戻って、ぜんぶ失くす夢。
  あんまり寝たくなくて……走ってただけ」


もっと何かを話そうとして、話せませんでした。
口に出してしまえば、それが形となって襲い掛かってくるんじゃないかと、
そんな想像をしてしまったから。
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 00:38:55.18 ID:7gnP6kF90

加蓮が話し終えると、二人はじっと考え込んでいました。
やがてプロデューサーが一度頷いて、卯月に視線を移します。


 「島村さん」

 「はい」

 「どうか、力を貸してほしい」

 「もちろんですっ!」


待ってましたと言わんばかりに、卯月が勢い良く立ち上がりました。
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 10:35:31.66 ID:7gnP6kF90

 ◇ ◇ ◆

 「……」



 「ふぁー……! このマリネ、とっても美味しいです!」

 「あら! 良かったわー。遠慮せずにどんどん食べてね?」

 「はいっ!」

 「どうしましょうお父さん。楽しくて仕方が無いわ。娘がもう一人出来たみたい」

 「全くだ。でも加蓮の方が可愛い」

 「それもそうね」

 「え……えぇ〜っ? ふ、二人ともひどいですよ〜!」

 「うふふ……ごめんなさい」



 「……」
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 10:46:27.89 ID:7gnP6kF90

北条家の食卓に新たな家族が加わりました。
母が張り切って用意した夕飯を堪能しつつ、父にからかわれて目を白黒させています。

 「お母さん、お料理上手なんですねー」

 「そうなの。この人も胃袋から掴んだのよ」

 「おいおいやめてくれよ」

 「あははっ。加蓮ちゃん、お父さんもお母さんも、とっても面白い方ですね!」

 「……まぁ、浮かれてるのは否定しない、かな」


鶏の香草焼きに齧り付きながら、加蓮は苦笑を返します。
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 10:56:26.05 ID:7gnP6kF90


――ウチでライブ前の強化合宿したい。泊まり込みの。


そう両親に告げる前、具体的には「合宿」の辺りまで喋ったところで、
両親は来なさい来なさいと満面の笑顔で首肯を繰り返しました。

拍子抜けする程あっさりとした承諾に彼女は毒気を抜かれ、
居間とか使うようならテーブルをどけようか等と逆に提案してきた二人に、
加蓮は改めてダダ甘な親だと感じ入るばかりでした。


初日の今夜は卯月の番。
育ちの良さなら誰もが認める所の彼女は、加蓮の両親から案の定大歓迎を受けました
島村さんと呼ばれていたのも最初の一度だけ。
後は卯月ちゃん、卯月ちゃんと呼ばれる度に、とびきりの笑顔を零します。


明日以降の凛や奏を両親がどう構い倒すのか、ちょっぴりだけ楽しみでした。
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 11:06:02.63 ID:7gnP6kF90


 「ウチの娘になっちゃう?」

 「あはは。魅力的ですけど、パパとママが泣いちゃいそうで」

 「泣いちゃいそうって言うか、泣くね絶対。島村家の場合」


夕食から少し時間を開けて。
並んでジョギングをしながら、二人は家族談義を交わしていました。

 「本当に、加蓮ちゃんの事が大切なんですね」

 「そうかな? まぁ……そうかも」

 「昨日の今日で泊めてもらえて、
  あんなに歓迎してもらって……何だか、私まで嬉しくなっちゃって」

 「卯月ってさ、けっこう平気で言うよね。恥ずかしい事」

 「え、えぇ? そうでしょうか……?」

 「ふふ……あー、あっつい。もうむーりぃー」
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 11:17:38.09 ID:7gnP6kF90

おどけた声真似を披露しつつ、加蓮はゆっくりと歩調を緩めます。
夏の湿気にすっかり汗みずくとなったトレシャツのジッパーを下ろし、
ぱたぱたと仰いで、さして涼しくもない外気を取り込みます。

お外ではしたないのはダメです、と卯月にジッパーを上げ直され、
加蓮は情けない声で呻きました。

 「うぇえー……谷間は私のアイデンティティなのに……」

 「みくちゃんみたいですね」

温い風から逃れるように天を仰ぎます。
冬場に比べれば随分と濁っている夜空には、それでも、幾つもの星が微かに煌めいています。


空を見上げるのは久しぶりでした。
思えば、最近は前しか見ていなかったような気がします。


静かに夜空を見つめる背中を、卯月は微笑みながら見守っていました。
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 11:36:27.84 ID:7gnP6kF90


 「さ、女子会……の前に、どっちで寝るか決めよっか」

 「え? 加蓮ちゃんがベッドじゃないんですか?」

 「いやいや、ゲストに決めてもらわないと」


お風呂でしっかりと身を清め、
パジャマ姿の二人は加蓮の自室で女子会の準備に取り掛かりました。
ベッドのすぐ脇に予備のお布団を敷き、その上でちょこんと向かい合います。

 「私、お布団で大丈夫ですよ?」

 「あ……ごめんね? 私の匂い、くさいよね……」

 「く、くさくないですっ! とってもいい匂いがしますっ!」

 「いや力説されても困るけど」

軽口に卯月が拳を握りました。
そういうのは凛とか響子辺りにやってほしいと、
加蓮は掌を見せ、どうどうと卯月を宥めます。
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 11:55:19.11 ID:7gnP6kF90

 「でもいいの? このマットレス、
  けっこう良いやつなんだよね。卯月ん家も良いの使ってるんだろうけど」

 「へぇ……そうなんですか?」

 「そうそう。ちょっと一回だけ、お試しで寝転がってみたら?」

 「う〜ん……じゃあ、お言葉に甘えて……あ」

 「どう?」

 「確かに、すごくふかふかで……良いですね」

 「目を閉じるともっとよく分かるよ」

 「ふむふむ……」

 「はい、そのまま深呼吸してー」

 「すー……」

 「いいこいいこ。じゃ、頭の中で呼吸を百までカウントしてみよっか」

 「すー……すー……」


加蓮のカウントが六十回を超えた辺りで、卯月の吐息が寝息へと変わります。

そっとタオルケットを掛けてやりつつ、
親御さんは子供卯月を寝かしつけやすくて助かってたんだろうなぁと、
柔らかなほっぺたの感触を指先で味わっては頷きました。
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 12:03:47.21 ID:7gnP6kF90


卯月が完全におやすみモードへ突入したのを見届けると、
加蓮は冷房の設定温度を少しだけ上げました。
部屋の明かりを消して、自分も久々のお布団の中へ潜り込みます。


誰かを部屋に泊めるのは初めてでした。
いつもより天井が高くて、友達の寝息が聞こえて。
それだけで何だか秘密の冒険でもしているような、妙な気分に眉が緩んでしまいます。


 「ありがと」

 「……ふぇゆぅ」


耳に届いたのか定かではありません。
たまたまかもしれません。

卯月の夢心地な返事に小さく笑って、加蓮は目を閉じるのでした。
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 12:23:25.26 ID:7gnP6kF90

 ◇ ◇ ◆


何かの拍子に窓ガラスが音を立てました。
ゆっくりと目を開け、シーツをめくりながら身体を起こします。

 「あら、おはよう」



 「……おはよ。たぶん夜だけどね」

 「残念。もう少し寝てたらキスで起こしてあげたのに」


奏が隣のベッドに腰掛けていました。
女子会の時に着ていたネグリジェのまま、病室の中を感心したように見渡しています。

正直その格好は目の遣り場に困るので何とかしてほしいのですが、
言って素直に聞くような女ではない事を、加蓮は十二分に承知していました。

 「えっと、ここ、私の夢なんだけど……なんで居るの?」

 「さぁ。きっと、私の夢でもあるのよ」

 「……」

 「それで……やっぱり、ここが貴女の言ってた?」

 「うん」

 「暗いのね。それに、静か」
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 13:04:21.86 ID:7gnP6kF90

スリッパを履き、奏と共に病室を後にします。


今回も病院内は息を潜めるかのように静謐を湛えていて、
唯一違うのは一人分増えたスリッパの音だけでした。

いつものようにあちこちを歩き回る加蓮。
奏はそんな彼女の隣を静かに付き従います。


レントゲン室を出て、階段の所まで戻って来ました。
目を覚ました病室のある三階へと一歩を踏み出した時、奏が初めて口を開きます。

 「どうして戻るの?」



 「……え?」

どうしてと言われても、戻る場所は結局そこしか無いのです。
無いのですから、そこに戻るしかありません。

 「だって」

 「加蓮は、加蓮よ。貴女はもう、シンデレラなのに」
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 13:25:39.69 ID:7gnP6kF90

憫笑。

昔、何かの小説で知ったそんな言葉を、加蓮は思い出していました。
きっと、奏のこの笑みを表す為に作り出された表現なのだろうと、
何故だか加蓮は、自分の中にほとんど確信めいたものを持っていました。


病室へと続く一段目。
そこに載せていた足をそっと戻して、加蓮は再び歩き始めます。


これまでの夢で一度も近寄った事も無い玄関の自動ドアは、無機質に口を噤んでいました。
すぐ目の前に立っても、何度か手をかざしてみても、うんともすんとも言いません。

 「開かない」

 「開くわ。鍵は、掛かってないもの」

ガラスとガラスとの僅かな隙間に、奏が細い指先を差し込みました。
寝る前に塗ってやった夜色のネイルが剥がれ落ち、粉となって消えてゆきます。
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 13:48:00.29 ID:7gnP6kF90

 「んっ……」

整った顔を少しだけ歪め、奏は指先に力を籠めます。
ざりざりという悲鳴にも似た耳障りな音を立ててドアが開け放たれると、
強く吹き込んだ風が少女達の髪を弄んでいきました。

 「さぁ。往きましょう」

 「何処へ?」

 「何処へだって往けるわ。夜は、私達の時間だもの」


差し出された手に華を添える筈の夜色は、すっかり見る影もなくなっていました。
乱れた指先を見つめ、加蓮はゆっくりとその手を握ります。


お揃いのスリッパを履いて、シンデレラ達は静かなお城を抜け出しました。
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 14:34:24.73 ID:7gnP6kF90


 「――ねぇ!」


風切り音とヘルメットに阻まれて自信はありませんでしたが、
背後の奏がそう叫んだように聞こえました。

 「なに!」

 「まるでロード・ムービーみたいじゃない? 本当に……痛快だわ!」

 「イージーじゃないよこれぇ! ハンドルおっもい!」

車一台も通っておらず、信号の一つも灯っていない山の手通りを、
病院の駐輪場から失敬してきた二人乗りのオートバイが駆け抜けて行きます。

パジャマにヘルメットで叫び散らす少女達は、
百人が見れば百人が指を差して嘲る滑稽な姿でした。

ですが今、二人を見つめているのは物静かなお月様だけです。


 「寄り道していいーっ?」

 「加蓮、何か言ったー?」

 「寄り道していいかってー!」

 「何処へでもー!」


加蓮が急ハンドルを切ると、
二人分の悲鳴を生贄にして、奇跡的なドリフトが決まりました。
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 15:13:41.71 ID:7gnP6kF90

奇跡的に何とか停車する事が出来ました。
しかし、何故だかエンジンまで鼓動を止めてしまい、
どれだけいじり回してもうんともすんとも言ってくれません。

スタンドの立て方が分からず、
とりあえずその辺の街灯にオートバイを立て掛けて頷き合った二人は、
ヘルメットを脱いでパサつく髪を靡かせます。


久しく顔を見ていなかったコンクリートの塊は、
真っ暗闇の町中で煌々とライトアップされていました。
入口すぐ上の大看板に写っているのは、在りし日のデニス・ホッパー達。

 「あら。ちょうどいいわね」

 「ご都合主義だなぁ」

 「嫌い?」

 「別に。夢だしね」
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 15:32:12.91 ID:7gnP6kF90

 「ふふっ……レイトショーなんて初めて」

 「ごゆっくり」

 「貴女は?」

 「ん、ちょっと食べたいものがあってさ」

 「……そ」


手を振ってミニシアターへ消えようとした奏の背に、
加蓮は伝え忘れていた約束を思い出しました。

 「かなでー」

 「……?」

 「いつか、ツーリング行こ!」

加蓮が親指を立ててウィンクを飛ばします。


ハリウッド映画も真っ青なハンドル捌きを思い返すと、
奏は苦笑だけを返して劇場へと入って行きました。
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 16:30:07.23 ID:7gnP6kF90


百貨店の向かい、細長いビルの一階と二階に掲げられた顔馴染みのアルファベット。
やっぱりこのお店は照明が煌々と灯っていて、加蓮は店内へ続く扉を押し開けました。

明るい店内には誰も居ません。
でも、それでいいのです。

窓から通りを見渡せる二階のカウンター席へ腰掛け、静かに目を閉じます。


加蓮はアイスとポテトと甘いココアを愛する女の子でした。
健康に悪いものほど美味しい。
今でもそう信じて止まないのは、もしかしたらある種の反動だったのかもしれません。


それでも加蓮は、これからだってポテトをつまみ続けます。
たまには小言の多い隊員にLサイズを託して。
時にはケチャップ色のネイルを塗って。


揚げたてを知らせる電子音と、扉を押し開ける小さな音と。
どちらが早かったのか、加蓮には分かりませんでした。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 16:44:04.55 ID:7gnP6kF90

 ◇ ◇ ◆


目の覚めるほど綺麗な顔が眠りこけていました。

枕元で振動を繰り返すスマートフォンを見もせずに黙らせ、
むくりとベッドから身を起こします。


 「……夜這いだぁ」


奏が埋もれていた筈のお布団はもぬけの殻。
ちょうど薄目を開け始めた彼女は相変わらず目の遣り場に困るネグリジェ姿です。

緩慢な動作で上半身を起こすと、若干ボサついている髪にくしゃっと雑な手櫛を通し、
ぼんやりと周りを見渡して、隣の加蓮を認めたのは一番最後。


 「……加蓮……何で、私のおふとんで寝てるの……?」

 「ぜんぶ逆」


奏は、見た夢の内容を寝起き三秒で忘れるタイプでした。
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 16:59:25.60 ID:7gnP6kF90


 「おはようございます。お父様、お母様」

 「あらおはよう。挨拶がしっかりしてるわねぇ」

 「奏ちゃん。ジャムは苺とブルーベリー、どっちがいい?」

 「そうですね、ブルーベリーをお願いできますか?」

 「よしきた」


奏らしきものをどうにかこうにか速水奏まで仕立て上げると、
加蓮は引き摺るようにして彼女を食卓へと連れてきました。
下りで一段踏み外したのが効いたのか、
今やどこに出しても恥ずかしくない人気アイドル速水奏です。

加蓮がもの言いたげな眼を向け、首を傾げた奏に何でもないとだけ呟きました。


 「美嘉ちゃん達もそうだったけど、加蓮のお友達はみんなしっかりしてるね」

 「恐縮です。幻滅させなければよいのですが」


加蓮が口を開き、何も言わずにトーストを齧ります。
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 17:30:15.33 ID:7gnP6kF90

 「幻滅なんてとんでもないわ! 次に泊まりに来るのは来週だったかしら?」

 「ええ。その予定です」

 「……それなんだけど」

トーストを持っていない方の手を挙げ、加蓮が三人の耳を集めました。
牛乳で口の中を綺麗にし、短く一息。

 「もう大丈夫。強化合宿は今日でおしまい」


奏が心得たように薄く微笑んで、両親は目を丸くしました。

それだけでは収まらず、
それぞれの手にしていたスプーンとフォークを皿の上へ取り落して、
指先をわなわなと震わせます。

 「そんな……嘘だろう、加蓮……」

 「……えっと、何が?」

 「ま、まだ奈緒ちゃんが泊まりに来てないじゃない!
  晩御飯の材料だってもう買ってあるのよ……?」

 「…………えぇー……?」
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 17:38:24.43 ID:7gnP6kF90

伏せた顔を震わせ続ける奏の前で、
両親による必死の説得が繰り広げられました。

最初こそ適当にあしらっていた加蓮でしたが、
熱の籠もった二人と言葉を交わすのがだんだん面倒になってきて、
結局最後は首を縦に振らされます。


手を握り合って喜ぶ両親を眺め、奏が加蓮へ視線を流しました。

 「愛娘は大変ね」

 「代わってあげよっか?」

 「遠慮しておくわ。胸焼けしちゃいそう」


加蓮が隠すように溜息をつきます。
とっくに焼けている胸の中へ、冷たい牛乳を流し込みました。
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 18:05:27.02 ID:7gnP6kF90

 【[】ミントグリーン


 「……キャンドルの炎がゆらめく時、そこに必ず影は寄り添う」



 「……急にどしたの、加蓮」

 「ん? いや、言ってたのはジェダイだったか、
  それともシスか……さっきから頑張ってるんだけど全然思い出せなくって」

そのままそっくり返すように、凛が首を傾げました。

 「意味分かんないけど、そういうのは奏の専門じゃないの」

 「ノベライズ版のモノローグよね、確か」

 「あ、そうだったっけ?」

 「おー、さすが」

 「誰の語りだったかは……私も覚えてないけど」

奏の苦笑に、奈緒が素直な称賛を贈ります。
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 18:32:54.26 ID:7gnP6kF90

 「いいよ。舞台裏って暗いよねって、何となく思っただけだから」


照明の落とされたステージの上、ベニヤとFRPで組み上げられたお城の裏。
僅かなフットライトだけが頼りの薄闇に立ち、
少女達は密やかに声を交わし合います。

 「リラックスし過ぎでしょ、アンタ達」

 「いいんじゃない? カッチコチになるよりはさ」

 「まぁね。あ、そだ」

茶目っ気たっぷりのウィンクを飛ばし、美嘉が笑いました。
それから思い出したようにぴんと指を伸ばして、加蓮の肩を抱き寄せます。

 「ウチの可愛い妹から伝言。
  センターなんだから、とびっきりカッコよくキメてよね☆ ……だってさ★」

挑むような瞳に軽口を叩こうと唇を尖らせました。
次の瞬間に辺りが一段と暗くなって、客席の照明も絞られたのだと分かります。
そばで控えていた卯月が握った拳へ、加蓮はこくりと頷きます。


五人の少女達はアイドルへと変わりました。
揃いの衣装、”アクロス・ザ・スターズ”に身を包んだ四人が、
騎士のようにお姫様へと寄り添います。
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 18:41:11.30 ID:7gnP6kF90

目を閉じるともう、真っ暗闇でした。
ホールはすっかり静かになって、自分の鼓動がよく聴こえます。

少しずつ呼吸をずらし、鼓動とぴったり重なった瞬間、
メロディが流れ出しました。


 『――誰よりも、光れ!』


そしてお城を飛び出して。


 『この世界、ただ一つのMY STAR――』


今日この日を精一杯輝くために編み出された衣装。
”スパークリング・モーメント”を華麗に翻し、加蓮は跳ねました。


 「――3、2、1、Fight!」
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/10(日) 19:06:15.38 ID:7gnP6kF90


 『BEYOND THE STARLIGHT』
 http://www.youtube.com/watch?v=eDzsLG4EZM8
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 19:22:21.25 ID:7gnP6kF90

 ◇ ◇ ◆

今の加蓮にとって、三千というのは決して小さなハコではありません。
それでも、他の五人の力を借りたのは確かでも、彼女は埋めてみせました。
埋めるどころか勢い良く零れて、
抽選率に加蓮のファン達が悲痛な叫びを上げていたくらいです。


もっと大きな会場を知っています。
もっと有名なアイドルだって知っています。

でも、客席を埋めるこの人数が、漏れ無く北条加蓮を求めて遊びに来たのだと、
その事実を噛み締めるだけで珠の汗が流れました。


 『――愛をこめてずっと、歌うよ!』


卯月とのデュエットを終えて前半戦が終了しました。
歓声と拍手を最後まで受け取ってから、加蓮がハンドマイクをしっかりと握り直します。

 『やー、嬉しいね。こんなに嬉しい事があと半分も残ってるんだってさ』

 『えぇっ……? もう半分しか残ってないんですかっ?』

卯月のMCへ合わせるように、会場が似たような声を上げました。
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 19:29:03.46 ID:7gnP6kF90

 『お。コップ半分の水? 私以外そっち派かー』

 『コップ……えっと、何ですかそれ?』

 『あ、ううん、気にしないで。卯月はみんなに可愛がられてればそれでいいから』

 『何ですかそれー!』

 『せーのっ、卯月かわいーっ!』

投げた声が三千倍になって帰ってきました。
爆笑する加蓮の隣で卯月がわたわたと頭を下げ、
盛大な拍手と笑い声が巻き起こります。


頬を膨らませてじとりと視線を向けてくる卯月を爽やかに無視して、
加蓮が再び会場へ語りかけました。

 『さてさて。ここで三十分の休憩だよ。みんな騒ぎ疲れちゃったでしょ?
  でも、後半はもっとブチ上がってもらうから、覚悟しておいてね?』

 『会場の温度も上がってます! しっかりと水分補給をしてくださいね!』

 『それじゃあまた三十分後。
  もし加蓮ちゃんが恋しかったら、泣いちゃってもいいからね? 分かったひとー』


はーいっ!


ほとんど怒号のような返事が響いて、加蓮はまた笑ってしまいました。
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 19:37:49.21 ID:7gnP6kF90

 ◇ ◇ ◆

卯月と共にハケると、彼が待ち構えていました。

 「バッチリだ。ナイスパフォーマンス」

 「とーぜん。私を誰だと思ってるの?」

 「世界一のアイドルだよ」

 「言うようになったね」

 「どうも」

軽口を叩き合う二人のそばで、卯月は何か言いたげに手を泳がせるばかりで。


 「だから言わなくちゃいけない。加蓮」

 「お願い。無茶、させて」
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 19:45:32.85 ID:7gnP6kF90

 「……加蓮ちゃん」

泣き出しそうな卯月の呟き。
二人分の視線が加蓮の右足へと注がれました。
アドレナリンの分泌が落ち着きを見せ、震えが顔を出し始めます。

 「……アクセル、踏み過ぎだ」

 「あはは。私の方がアガっちゃってさ」

衣装の裾を握り締めそうになった手を、そっと離しました。

 「休めば、イケる。最後までだって、保たせるよ」



 「……分かった。何かあったらすぐに言ってくれ。
  島村さん、加蓮を控室まで連れて行ってもらえるかな」

 「はいっ」


じっとりと重たくなった手を引かれ、加蓮はステージを後にしました。
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 19:51:45.84 ID:7gnP6kF90

 「……お。加蓮、」

ひとまずの出番を終えたみんなは一足先に控室へと戻っていました。
休憩に戻ってきた加蓮と卯月を見て、奈緒がすぐに椅子から立ち上がります。
細い肩を叩こうとし、紡ぎかけた言葉が途切れました。

 「……加蓮?」

 「みんなありがと。えっへへ、
  会場かなりボルテージ上がってるよ。後半も凄いよ、きっと」

 「ねぇ、加蓮」

 「ただ、うっかりはしゃぎ過ぎてさー……
  疲れちゃって。少し休めばまた元通りだから」

 「……出ようか?」

 「……うん。ごめん」

問い掛けにも顔を上げない加蓮を、凛はじっと見つめていました。
所在無く立ち尽くしていた奈緒を手招きし、入口の扉へと背を押します。
他の三人にも視線だけで扉を示し、
みんなが出たのを確認してから最後にそっと扉を閉めました。
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:02:26.63 ID:7gnP6kF90

美嘉が叱ってくれて、
卯月が話してくれて、
プロデューサーが聞いてくれて。

みんなを頼り、自分を信じて積み重ねてきた筈のものが、今にも崩れかけている。
嘲るように目の前で震える脚が、
「助けて」とまた叫ぶだけの小さな勇気を、加蓮の中から奪っていきました。

みんなを失望させてしまう事が、加蓮は何よりも怖かったのです。
きっと、全てを失ってしまうから。


健全な精神は健全な肉体に宿る。
裏を返せば、満足でない身体には弱い心が宿ってしまうという事。

震える脚を前に、とうとう心まで震え出してしまいます。
悪循環が悪循環を呼び寄せて、
彼女の優れた武器である分析力を奪い取っていきます。
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:03:13.36 ID:7gnP6kF90



……。

255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:03:54.25 ID:7gnP6kF90



…………うん。

256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:04:46.21 ID:7gnP6kF90



ちょっと、深呼吸してみましょうか。

257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:05:31.00 ID:7gnP6kF90


 「…………ぁ、え?」


深呼吸。


 「な……なに? 奈緒? 誰……プロデューサー?」


まぁ、いいじゃありませんか。はい、吸ってー。


 「……す――」


吐いてー。


 「――は……っ」


少し、落ち着きましたか?


 「……まぁ、ね」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/10(日) 21:14:36.01 ID:7gnP6kF90

人は誰しも、自分がただの端役なんじゃないか、
数居る演者の一人に過ぎないんじゃないかと、そう思えてならない時期があります。

貴女にも、少しは心当たりがあるとは思いますが。


 「……」


もし、今の自分を悲劇のヒロインとでも考えているなら、それは違います。
貴女はいつも、いつだって、戦ってきました。



貴女は、貴女の物語の、主人公ですよ。

259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:20:57.77 ID:7gnP6kF90

 「……買い被り過ぎ。私は、
  卯月や、奏や……みんなみたいな主人公なんかじゃ、ないよ」


ふむ、なるほど。
そんな主人公たちに囲まれて、貴女ただ一人だけが、決して主人公などではないと。


 「…………アンタは」


そうそう。
物語の主人公というのは、往々にして魅力的な仲間に慕われているものです。


そして仲間達と共に――幸福な結末をその手に掴み取るのですよ。
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:27:22.49 ID:7gnP6kF90


それきり、男とも女とも、子供とも大人ともつかない、
妙な声は聞こえなくなりました。

 「ねぇ……ねぇ?」

加蓮は慌てたように辺りを見渡します。
壁も床も天井も、どこからも声は聞こえてきません。
しばらくうろうろと歩き回って、再び膝を折りました。

 「……言いたい放題言って、ドロンか」


イケ好かない奴。


そう小さく呟いた時、ノックの音が響きました。

ごくごく静かにドアが半分開かれて、
ぎゅうぎゅうに詰まって心配そうにこちらを伺う美嘉たちを背に、
彼が加蓮の傍でしゃがみ込みました。

 「加蓮……大丈夫か?」
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:34:30.28 ID:7gnP6kF90


――大丈夫。あなたが育てたアイドルだよ。


一流のアイドルなら、きっとそんな風に答えて彼を微笑ませるのでしょう。

でも、怯えて、泣いて、もがいて、これからだって戦い続ける加蓮に、
そんな綺麗な台詞は言えませんでした。


だから彼女は、また考えを巡らせました。
今まで数々の困難をやっつけてきた、その優れた武器を以て、返すべき言葉を探し当てます。


 「神様の声って、誰にでも一度だけ聞こえるんだって」
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:46:19.54 ID:7gnP6kF90


 「……加蓮?」

 「聞こえた事。Pさんは、ある?」

 「……いや――」

反射的に首を横に振ろうとして、彼はこちらを見つめる瞳に気が付きました。
先ほどまでの弱さの色が消え、知性の光を再び灯し始めた瞳に。


即席の言葉を打ち捨てて、彼もまた考えを巡らせます。
今、加蓮のこの言葉へ答える為にプロデューサーで在り続けたのだと、
彼はそう確信していました。


 「――思い出した」
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:48:02.05 ID:7gnP6kF90

そして、彼が口を開きます。

 「……思い出したよ。何で、今まで忘れてたんだろうな」

開いた口元を手で抑え、確かめるようにもう一度、零しました。

 「……あるの?」

 「……どうなんだろうな。
  正直、加蓮の言うそれなのかは分からない。でも、一度だけ、不思議な経験があるんだ」

プロデューサーが重ねた両手をぎゅっと握り合わせました。
捕まえた感覚を、もう二度と逃さないかのように。

 「加蓮と逢った日だよ」



 「私と……?」

 「ああ」

言われて加蓮も思い出します。
ポテトを待っていたら、何故か物凄い勢いで入店してきたスーツ男。
少し霞みかけた景色に、記憶の絵筆でもう一度色を付けました。

 「ポテト全サイズ百五十円」
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:49:17.07 ID:7gnP6kF90



 「……え、何? 急にどしたの、Pさん」

 「だから、ポテト全サイズ百五十円」

265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:50:57.23 ID:7gnP6kF90

彼にはあまり見せないよう努めていた間抜け面を久々に浮かべてしまいました。
ぽかんと口を丸く開けて、真意を問うように首を傾げます。

 「あの日の朝な。目覚める寸前だったと思うんだが……誰かが俺の耳元でな、
  どデカい声で『ポテト全サイズ百五十円!』って叫んだんだよ。一人暮らしなんだけどなぁ」



 「……はっ?」

 「そんでまぁ、なんか全然頭から離れなくてさ。急いで買いに行ったんだよ。
  朝は起きたら何故か遅刻寸前だったから、買ったのは結局外回り中だったけど」

 「……」

 「……加蓮? おーい」

加蓮が完全に固まってしまいました。
固まってなお柔らかい頬を何度かつついてみましたが、一向に反応がありません。

これは答えをだいぶマズったかな、と彼が若干後悔し出す頃。


 「…………ぷっ」


加蓮がお腹を抱えて笑い転げました。
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 21:55:42.84 ID:7gnP6kF90

 「あっはははは! ひぃっ、ひぃー……っ! あはははっ!」

 「わ! 馬鹿、こら加蓮っ! 衣装にシワが……!」

 「……好きにさせてあげたら? なんか楽しそうだし」


気付けばみんな、加蓮とプロデューサーを囲んでいました。
ころころと転げ回る加蓮を見下ろして、凛が柔らかく笑みを浮かべていて、
それは他のみんなも同じでした。

 「あははっ! だ、誰か止めてぇ……っふふ!」

 「止めてと言われても……ねぇ?」

 「あはは……よく分かりませんけど、加蓮ちゃんが元気になって良かったです!」

 「莉嘉に動画送っとこ。はい加蓮、笑ってー……って笑ってるか、もう」

 「おーい、かれーん……結局脚は……聞こえてないな、これ」


加蓮の馬鹿笑いが収まるまでには、二分たっぷり必要でした。
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 22:21:53.94 ID:7gnP6kF90

 「はー……ばっかみたい」

目元に浮かんだ涙を拭い、加蓮が嘆息します。

 「散々私に偉そうな事言っといて……お節介が雑過ぎ」

 「え、俺そんな偉そうな事言ったっけ……?」

 「Pさんの事じゃないよ」

 「……じゃあ、誰?」

 「さぁ。誰なんだろうね?」

思い出したように加蓮がまた笑います。
疑問符を浮かべっぱなしの彼は背後を振り返りましたが、
同じように五つの疑問符が浮かんでいるだけでした。

 「ね、Pさん」

加蓮がよく見えるように右脚を伸ばしました。
震えはほとんど治まって、白い肌に血管が透けていました。

 「こういうの好き?」
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 22:24:27.41 ID:7gnP6kF90

 「本題」

 「はいはい……あんまり大丈夫じゃないんだ。
  痺れも痛みもないけど、結構ムリさせちゃってる。
  後半戦十回やったら、一回か二回は途中ですっ転んじゃうと思う」

あんなに言いたくなかった言葉が、驚くほど素直に滑り出しました。


出ていってしまった言葉の恐ろしさも、送り出した言葉の頼もしさも、
加蓮はもう知っていました。
また一つ新たな武器を手に入れて、今日これからだって彼女は戦うのです。

 「……それは、賭けだな」

 「でも私、分の悪い賭けってキライだからさ。ちょっとお願い、聞いてほしいの」

 「任せろ。得意だ」

 「魔法使いだから――でしょ? 全く、何回言うんだか」


勝手に代弁されて、勝手に呆れられて、彼はひどく嬉しそうに笑います。


 「それと……」

 「アタシ達も――でしょ? 加蓮の考える事くらい、みーんなお見通しなんだからね★」


美嘉の言葉に、奏が、卯月が、奈緒が、凛が、頷きます。
物語の主人公達は、それはそれは頼もしい笑みを浮かべてみせました。
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 22:28:50.58 ID:7gnP6kF90

 ◇ ◇ ◆


 『お待たせー。それじゃあ吹っ飛ばすから、掴まっててね?』


挑発は短く、激しく。

加蓮がそれだけで口上を打ち切って、頂点の一つになりました。
三人の呼吸音が、そのまま開幕の合図です。
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/10(日) 22:29:26.19 ID:7gnP6kF90


 『Trinity Field』
 http://www.youtube.com/watch?v=kV_XgNUdULA
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 22:32:23.88 ID:7gnP6kF90


 『光る螺旋を描いて行く――眩しい空へ飛び立った想いが…』


遠慮は要らない。


加蓮が凛と奈緒へそう告げると、二人は不思議そうに首を傾げました。
しないけど、と口を揃えて答えた彼女達は、まさしく加蓮が並び立つのに相応しい頂点でした。


 『溢れ出す…”Mind”――』


三つの頂点、トライアドプリムス。

ユニット名を噛み締めながら、
加蓮はあんなに大事に撫でていたリミッターを遥か彼方へ投げ飛ばしました。

このトリオの持ち味は激しいボーカルとダンス。
腐心していた魅せ方すらついでに投げ捨てて、加蓮は馬鹿になってやりました。
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 22:36:35.24 ID:7gnP6kF90


 『もっと』

 『もっと』

 『もっと』


 『――燃えたい!』


余分なものなんて、全部構わず燃やしてしまえ!
このおっぱいだって割とあるんだから、ちょっとくらい燃やしたっていいでしょ。
奈緒の髪も燃やしちゃって、さっぱりショートヘアを拝むのもいいな。
そうだ、ついでに凛の身長も燃やしちゃおうっと!


脳内麻薬がだくだくと分泌されているのが分かりました。
支離滅裂の塊みたいな思考がファン達にバレないよう、
持てる力を全てパフォーマンスに注ぎます。

明らかなオーバーペースですが、
後の事は後の加蓮ちゃんがきっと何とかしてくれるだろうと、
加蓮は半ば思考を放棄していました。
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 22:39:47.80 ID:7gnP6kF90

 ◇ ◇ ◆


 「はぁ……はぁっ……は……っ」


十一曲目。

美嘉とのデュエットを唄い上げ、加蓮は荒い息を繰り返します。
マイクが拾う温度と、肩で息をする姿に、観客達が静かにざわめき出しました。

汗でぬめるのも構わずに、美嘉がそっと彼女の肩へ手を置いて。
じんわりと広がる熱に引っ張られるみたいに、
ゆっくり、ゆっくりと、俯いていた視線を上げます。


ファンが居ました。


 『次、ラスト……新曲』

半ば予期していただろうとは言えど、それでも会場はどよめきます。
もつれそうになる舌で何とか言葉を吐き出しました。
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 22:44:32.87 ID:7gnP6kF90

美嘉に今度は背を撫でられて、
絶え絶えだった呼吸のリズムが少しずつ取り戻されていきます。
細く長く息を吐いて、加蓮は背筋をぴんと伸ばしました。

 『最後に……最後に、新曲、唄うよ!』

どよめきは、歓声に。

 『でも、その前に一つ……お願いが、あるんだ』


隣へ視線を送りました。
カリスマギャルがバチリと音の出そうなウィンクを返してくれて、加蓮は笑ってしまいます。


信頼を失うのは一番恐ろしい事だと思っていました。

仲間の信頼を、
プロデューサーの信頼を、
それからもちろん、ファン達の信頼を。


これから送り出す一言は、
これまでに積み上げてきた北条加蓮のイメージを粉々に砕いてしまうのかもしれません。


それでも加蓮は、分の悪い賭けだとは思っていませんでした。


 『実は結構、疲れちゃってさ……休憩しても……いい、かな?』
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 22:49:12.05 ID:7gnP6kF90

会場は静まり返って。
再びざわめき始めるまでの数十秒間を、
加蓮はマイクが壊れるほど強く握り締めながら待ちました。


――もちろん!


後部中央に居たファンの誰かが、力の限り叫びました。
それから少し間を置いて、彼ら彼女らが次々に声を張り上げます。


――休んでー!

――明日でもいいよー!

――明日は仕事ぉーっ!

――俺もー!

――めちゃくちゃ休憩してー!

――待ってるからーっ!


そのうち、重なり合った声はほとんど聞き取れなくなってしまいます。
滝のように汗を流しながら、それでも彼女は三千の声にじっと耳を澄ませました。
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 22:52:40.96 ID:7gnP6kF90

がたっ、かたん。

背後で幾つもの音が聞こえました。
袖から出てきた奈緒が、凛が、卯月が、奏が椅子を持ち寄って、
美嘉と加蓮にも勧めてくれています。

 『ありがとう』

椅子に体重を預け、加蓮が再び細く吐息を流しました。
ステージの中央に六人が身を寄せて、これから秘密の演奏会でも開きそうな雰囲気です。


 『……ライブってさ。たっ……くさんの人に支えられて出来てるんだよね』

 『うん。私達以外にも、事務所の人、スポンサーさん。
  メイクさんに衣装さん。会場を運営してる会社さんに、設営スタッフさんに……
  それからもちろん、集まってくれたみんなも』

言葉を継ぐように、凛が会場を見渡しました。
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 22:53:31.62 ID:7gnP6kF90

 『こうやって終演時刻を延ばしちゃうと、
  きっとみんな困っちゃうと思うんだ。
  お金だって掛かるし、スタッフさんも帰り辛いだろうし』

 『ひょっとしたら、
  交通機関の都合で本当に帰れない人も居るかもね。みんな、大丈夫かしら?』

奏がファン達に問い掛けます。


――明日の仕事、仮病使うから大丈夫ー!


誰かがそう叫んで、どっと笑いが零れました。
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 22:56:52.27 ID:7gnP6kF90

 『ふふっ……大丈夫じゃないわね、ソレ』

束の間の笑いが収まると、再び会場が静まり返ります。

 『……んー……待たせちゃうお詫びに、ちょっと、私の話でもしよっか』

 『……いいのか?』

ステージ上である事も忘れ、奈緒がそっと訊ねました。

 『うん。みんなはどう? 聞いてくれる?』


返ってきた言葉はてんでバラバラでした。
それでも不思議と、何となく肯定してくれるのが分かってしまいます。
ちょっと感傷的過ぎるかなと、加蓮は頬の汗を拭いました。


話し出す前に、ついと足先を確かめました。
ふわり膨らんだ裾の向こうで見え隠れする両足には、
確かに立派な靴が填め込まれています。
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 22:59:08.75 ID:7gnP6kF90


 『実は私ね、昔はけっこう身体が弱かったんだ。
  確か一回だけラジオで喋った覚えがあるから、中には知ってる人も居るのかな』

 『知ってる方はかなりのファンですね』

 『ふふ。確かに……それで、何回も入退院を繰り返してね。
  持ち込んだ携帯テレビでアイドル達を見るのが、数ある日課の一つだったんだよ』


今はもう、彼女達の名を思い出せません。


 『あ。だからさ……薄荷。アレ唄うの、けっこうフクザツだったんだよ?
  事務所の人もみんなも死にそう、死にそうって言うんだもん』

 『だってなぁ……なぁ?』

 『ね』

頷き合う凛と奈緒。
加蓮が口を尖らせると、二人は両手を挙げておどけました。
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:02:23.98 ID:7gnP6kF90

 『そんな感じで、けっこう人生諦め入ってたんだよね、私って。
  体調は少しずつ良くなってったけど、ボーっと生きて、ポテトとかアイスばっか食べてた』

 『……アタシが見る限り、加蓮今でもそればっか食べてない?』

 『シツレイな。ちゃんとバーガーとコーラも頼むよ』

 『そこ?』

 『まぁいいや。えっと……何の話だったっけ?』

 『アイドル』

 『そうだそうだ。んーと、
  色々あってスカウトされて……私はアイドルになりました。めでたしめでたし』

 『……え、えぇ〜っ? 急にそんな、大雑把に?』

慌てる卯月に、会場が含み笑いを零します。

 『や、なんか、よく考えたら恥ずかしくない? 昔の自分の思い出話とか』

 『言い出したの加蓮だろうが』

奈緒が呆れたように苦笑しました。
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:06:45.34 ID:7gnP6kF90

 『やっぱ、アレだね。台本無いとグダるね』

 『加蓮。MCに台本は無い事になってるのよ』

 『おっと、そうだった』


凛が頬を掻きながら訊ねます。

 『それで? 後は何を話すの?』

 『んー、じゃあ、もう三つ』

 『うん』

 『一つ。今の私は、すっごい健康』


人差し指を、まっすぐに伸ばします。


 『二つ。私の目標は、忘れられないアイドルになる事』


ゆっくりと椅子から立ち上がり、つま先の感触を確かめます。


 『三つ――もう、バッチリ。ありがとね、みんな』
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:10:34.38 ID:7gnP6kF90

得意気な笑みを浮かべ、ステージを振り返りました。
五人は加蓮の視線に頷くと、椅子を抱えて袖へと戻って行きます。
最後の美嘉がキスを投げ残して見えなくなると、加蓮は再び客席へ向き直ります。


海は凪いでいました。
波も風も息を潜めて、加蓮の事をじっと見つめています。
加蓮の次の言葉を、今か今かと待ち侘びています。


でも、もう、加蓮が伝えるべき言葉はほとんど残されていないのです。
足取りもしっかり、気分も爽快。

散々待たせてしまったファン達に向けて、加蓮は必要な言葉だけを紡ぎました。


 『北条加蓮』


きっと――忘れられないアイドルになります。



 『Frozen Tears』

283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/10(日) 23:11:56.71 ID:7gnP6kF90


 『Frozen Tears』
 http://www.youtube.com/watch?v=gBFgHLC-9S4
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:14:34.59 ID:7gnP6kF90


揺れ動くようなイントロが弾けました。
合わせるように加蓮の身体もふわふわと揺れて、次々と緑の光が灯ってゆきます。


本当は、冬まで取っておく筈の曲でした。
けれど彼女自慢のワガママが、とうとう彼の首を縦に振らせてしまったのです。


 『きらきら輝く、この世界はまるで――何度もめくった、お伽話みたい』


古今東西の書物とにらめっこした日々は、彼女にとって楽しい記憶の一つです。

きっかけこそ勘違いと頑固さの組み合わせでしたが、
物語の後に続く未来、学術書に収まりきらなかった一頁。
無限に広がる余白に想像の翼を羽ばたかせて、
加蓮は知識と力を少しずつ蓄えていきました。
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:17:09.80 ID:7gnP6kF90


 『憧れをつかむのなら、思い切りが”らしい”でしょ?』


最初の一歩を踏み出してから、彼女の『らしさ』はだんだん薄まっていきました。

大の苦手だった運動はジョギングを日課に出来る程になり、
暇さえあれば読み耽っていた本も、近頃は表紙をめくる暇さえ無いくらいで。

モノクロームの日々を過ごしていた自分が、
しっちゃかめっちゃかに色付いていく日々を、悪くないとさえ感じるなんて。


 『ひとりきりじゃない――だから、かりそめの時間でいい』


奈緒にお小言を言われて、
凛に呆れ気味に笑われて、
美嘉に気安く絡まれて、
卯月にたびたびツッコまれて、
奏に上手くからかわれて。


何者でもなかった自分、傍観者でいいと気取っていた自分が。
主人公達の眩しさに当てられて、
ヒロインどころか、主人公になりたいと願うようになるなんて。
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:19:21.33 ID:7gnP6kF90


 『明日を想いながら、指先まで綺麗に――』


客席に向け、掌を伸ばします。
そして息を呑みました。


あの日、パステルクリームの壁紙に、あれほど映えていた筈の宝物。
大切な大切な今日も指先を彩ってくれる、ラメ入りのミントグリーン。



伸ばした指先は、眩しく煌めく緑の海に、すっかり溶け込んでしまいました。

287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:21:04.04 ID:7gnP6kF90


揺れるようなメロディだけが流れて、加蓮はまだ何も言えずにいます。

思わず歌詞を飛ばしてしまった未熟さと、過ぎ去ってしまった日々の遠さを、
彼女はどこまでも美しい笑顔と言葉で埋め合わせてみせました。



 『…ありがとう』

288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:25:03.55 ID:7gnP6kF90

 【\】プロローグ


 「ひゅむぅ」


加蓮の一日はよく分からない何かを呟きつつもぞもぞする事から始まります。


いえ。きっかけはほんの些細な出来心だったのです。
お泊り会の度に卯月が繰り出してくる、踏み潰されたアルパカみたいな謎の寝言。
それが毎度あんまりにも加蓮のツボを抑えてきたもので、
いつからか面白がって真似するようになってしまいました。


習慣というのは恐ろしいもの。
今では卯月が泊まっていようがいまいが関係無く出てくるようになってしまいました。

加蓮と卯月のお泊り会にウキウキ顔で参加した奈緒が、
朝日が昇るなり謎の譫言を繰り返し始める二人に挟まれ、
半泣きになりながら凛に連絡したのは未だ記憶に新しい事件です。


冤罪ですと、その際に卯月は繰り返し、繰り返し主張していました。
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:29:48.25 ID:7gnP6kF90


 「は……ふっ……」

軽くストレッチをこなしたら、トレーニングウェアに着替えて近所をジョギング。

現在のルートは第五まで開拓されており、
加蓮は毎回ストップウォッチでタイムを計っています。

少しずつ縮まっていくタイムを見てガッツポーズを決めるのは、
加蓮の大切な日課の一つです。


 「おはよー」

 「おはよう。今日は?」

 「更新ならず」

 「残念。さ、食べちゃいなさいな」

 「はーい」

軽くシャワーを浴びたら朝ご飯です。
父がまだ居れば三人で、もう出かけて行った後なら母と二人で朝食を囲みます。


ちなみにお泊りした誰かがここに加わると、
二人は人が変わったみたいに大はしゃぎして、特に父は遅刻寸前まで粘ります。

美嘉の家にお泊りした際も似たような感じだったので、
もしかしたら親というのはそういう生き物なのかもしれないと、
加蓮は密かに考察していました。
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:34:06.71 ID:7gnP6kF90

 「納豆要る?」

 「んー……午後だけど、お仕事あるからいーや」

 「あぁ……そうだったわね」

中学生くらいまでは抜きがちだった朝食も、
今では食べないとお昼まで保たないくらいです。

昨晩の残り物やベーコンエッグなど、メニューはごくごくシンプルですが、
加蓮はしっかりゆっくりお腹へ収めます。
最近は納豆がマイブームでしたが、
今日は大事な仕事があるため、泣く泣くキャンセルするしかありませんでした。

 「いつ頃出るの?」

 「十時過ぎくらい。お昼はいいや」

 「はいはい」

 「そういえば奈緒がさ、はいは一回だって言ってたよ」

 「はい」

 「うーん素直」
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:41:11.48 ID:7gnP6kF90

そろそろ出なければ一限に間に合わなくなる時間でしたが、
そもそも今日は講義自体がありません。

部屋に戻った加蓮は最近買い替えたばかりの机に座ります。
ノートと教科書を広げ、通学用の鞄から図書館で借りてきた本を取り出しました。


加蓮は試験よりもレポートを好む学生でした。
時間のごく限られたペーパーテストとは違い、その気になれば幾らだって悩めますし、
何より知識を結び付けていく過程で新たな発見に出会ったりするのを、
彼女は楽しむ事が出来るのでした。


小一時間も進めるとおおよそのアウトラインが見えてきました。
凝り固まっていた身体を小さな伸びで解すと、
とうっ、と小さく叫んでベッドへのダイブを敢行します。

しばらくそのまま動かなくなったと思えば、二分後にようやくの再起動。
枕の下に手を突っ込み、古びた文庫本を引っ張り出します。


星新一著、『ようこそ地球さん』。
ふと読み直したくなって、今週に入ってから少しずつ栞を進めている一冊です。


三編も読むとちょうどいい時間でした。
窓を開けて春の陽気を確かめると、薄手のカーディガンを選んで羽織ります。

上機嫌そうに鼻歌を口ずさみながら、
加蓮は目をつぶったって辿り着ける事務所へと向かいました。
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:45:10.30 ID:7gnP6kF90

 ◇ ◇ ◆


 「おはよ。しんどそう」

 「おはようしんどい」

 「文を区切るのもしんどいんだ」

 「うん」

 「今日のミニライブ、大丈夫?」

 「まかせろ」

 「Pさんそっちは植木鉢だよ」


事務所に顔を出すと、彼はちょっと傾きながら仕事をしているところでした。
角度がだいぶ甘いので、どうやらまだ余裕はあるようです。
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:48:32.77 ID:7gnP6kF90

 「後は機材だの運んで先生方と設営するだけ」

 「お疲れ様。ご褒美あげよっか?」

 「何をくれるんだ?」

 「何が欲しいの?」

 「俺が決めるのか」

 「今日はえっちなのは控え目にね」



 「なぁ、その言い方だと俺が普段からそういうのをねだっていや違います。
  はい。ないです。ちひろさん。ないです」

傾きながら謝りつつタイピングする姿は、なかなかどうして器用でした。
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:51:10.16 ID:7gnP6kF90

 「忙しい?」

 「うん」

 「ふぅん。じゃあ送迎いいや。お昼がてら先に行ってる」

 「悪いな」

 「テキトーにブラついてるから、二人連れて合流してね」

 「ああ」

ひらひらと片手を振るだけで見送りを済まされるのはやや不満ですが、
彼の多忙は自分の為だと、彼女はいつだって知っています。


名残惜しそうに一度だけ振り返ってから、
褒めてもらえなかった下ろし立てのカーディガンを翻して、
加蓮は事務所を後にするのでした。
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:53:06.62 ID:7gnP6kF90

 ◇ ◇ ◆

加蓮の言う『良い日』には幾つかの判断基準があります。

暑過ぎない。
寒過ぎない。
彼が付き添ってくれる。
映画が面白かった。
ポテトが全サイズ百五十円。などなど。


今日は暑過ぎなくて、お昼を食べに行ったらポテトも全サイズ百五十円でした。
機嫌を良くした彼女は先ほどよりも気合の入った鼻歌と共に歩いてゆきます。
そして、今回のライブ会場にやって来ました。

 「……変わってないなぁ」


四角く白い、大きな建物。
感覚的には半年ぶり。
物理的にはほとんど五年ぶりに目にする、かつての彼女のお城でした。
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:53:44.72 ID:7gnP6kF90

本日の午後に講堂で開かれる予定のミニライブは、
加蓮たっての希望で実現したものです。

宣伝と言えば院内の掲示板に貼られた簡素なチラシぐらいではありましたが、
加蓮に美嘉に卯月にと、
取ろうとすればなかなかの額が動きそうなメンバーが揃っています。
もちろんロハですが。


 「ちょっち早かったかなー」

腕時計を確認すると、待ち合わせの約束まではまだ時間がありました。
前庭に揺れる木陰の下にベンチを見つけ、加蓮はのんびりと腰を落ち着けます。
葉擦れの音が眠気を誘うような、気持ちの良い春の午後でした。

目を閉じて、彼女はしばらく風の音色を楽しみました。
背中の半ばまで伸ばした髪が気ままに揺れます。


ふと、彼女が何かを思い出したように目を開けます。
すぐ隣に向けて、柔らかく微笑みかけました。


 「ありがと」


ただのひとり言か、それとも詩的に風へ語り掛けたのか。
彼女はそう礼を述べると、また心地良さそうに目を細めながら前を向きます。
応える者のない言葉は、ただ風に乗って溶けてゆくだけでした。
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:55:09.62 ID:7gnP6kF90



 でも、どういたしまして。

298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:57:13.56 ID:7gnP6kF90


 「――あ! 加蓮ちゃーんっ!」

駐車場の方から、卯月が手を振ってやって来ました。
その後ろには傾いたまま機材を肩から提げたプロデューサーが続いて、
見かねたらしき隣の美嘉が小さなケースを一つ持ってあげているようです。

 「えへへ。探しちゃいました」

 「あー、まぁ、広いからねこの病院」

 「割とまだしんどい」

 「まだしんどいんだ……」

 「うん」


卯月と加蓮がもう一つずつケースを持ってあげると、
彼の背はだいぶまっすぐになってきました。
賑やかに雑談を交わしながら、四人は病院の入口へと向かいます。
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:58:15.71 ID:7gnP6kF90



……。

300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/10(日) 23:59:07.09 ID:7gnP6kF90



…………。

301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/11(月) 00:00:06.42 ID:f5+pGcIp0



 もしもし、そこの加蓮さん。

302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/11(月) 00:01:10.67 ID:f5+pGcIp0


 「あれ? 加蓮、そのカーデ新しいやつじゃん。似合ってる★」

 「へぇ。よく気付くな、城ヶ崎さん」

 「もうっ! ダメですよ、ちゃんと気付いてあげないと〜!」

 「ご、ごめんなさい」

 「Pさん、それじゃモテないよ」

 「あの、島村さんくらいとまでは言わないからさ、もうちょい優しく怒って――」


仲間達と肩を並べ、加蓮はまっすぐ前を向いて歩いてゆきます。


四人の姿が自動ドアの向こうへ吸い込まれて、
後はただ、気持ちの良い風が春の陽気をどこかへ運んでいくだけでした。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [nagasaki]:2020/05/11(月) 00:02:13.96 ID:f5+pGcIp0



 めでたし、めでたし。


 主人公達に幸あれ!

304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/11(月) 00:04:11.96 ID:f5+pGcIp0

・作中で言及されている通り、本作は星バーーーローー著『天使考』をベースとしています
・境遇から察するに、加蓮ちゃん恐らくは本好きだよね、っていうお話です
・第9回シンデレラガール総選挙、大好評開催中。北条加蓮ちゃんへのご投票をよろしくお願いします


http://blog-imgs-141.fc2.com/g/a/r/garretlibrary/20200511-01.jpg

最後に、かぐら様(Twitter:@nekobasami)の素敵なイラストをどうぞ
305 :>>304 訂正 [sage saga バーロー]:2020/05/11(月) 00:07:19.16 ID:f5+pGcIp0

・作中で言及されている通り、本作は星新一著『天使考』をベースとしています
・境遇から察するに、加蓮ちゃん恐らくは本好きだよね、っていうお話です
・第9回シンデレラガール総選挙、大好評開催中。北条加蓮ちゃんへのご投票をよろしくお願いします


http://blog-imgs-141.fc2.com/g/a/r/garretlibrary/20200511-01.jpg

最後に、かぐら様(Twitter:@nekobasami)の素敵なイラストをどうぞ
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/11(月) 16:10:52.21 ID:AYMY2k4H0
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