【艦これ】19とアイスを食べるだけの話

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2 : ◆yufVJNsZ3s :2020/08/11(火) 23:22:06.13 ID:AVuudPRF0

「……なにやってるの?」

 イクがアイスキャンディを齧りながら部屋の入口に立っていた。あれほどノックをしろと――いや、空けっ放しにしていたのは俺だ。空気の通りをよくするために。
 溶けたアイスが液体となってぽた、ぽた、廊下に一滴ずつ染みていく。イクは指に、手首に伝ったそれを舌で舐めとった。なんとも扇情的な光景であったが、幸か不幸か頭は茹っている。下半身は反応しない。

「あちぃ」

「うんうん、わかる。ほんっと、あっついのね」

「茹だるぜぇ」

「熱中症にだけは気を付けてよ?」

「おう、おう」

 スチールデスクはひんやりとしていて気持ちがいいものの、すぐに人肌でぬるまってしまう。少しだけ体を動かして、まだ仄かにでもひんやりとした場所を探す。
 そんな俺の姿を見て、イクはぼそりと「毒虫みたい」と呟いた。グレゴール・ザムザの名前くらいは知ってはいるが、毒虫そのものにはとんと見識が及ばなかった。

3 : ◆yufVJNsZ3s :2020/08/11(火) 23:22:45.67 ID:AVuudPRF0

 イクが裸足をぺたぺた鳴らして近寄ってくる。スクール水着。科学の粋を集めて作られた特製仕様。僅かに肌や髪が濡れているようにも見える。シャワーでも浴びていたか、海に潜っていたか。
 しゃり。随分と柔らかくなったアイスキャンディの音。少し大きめに噛み砕いた破片を、イクはその口の端に咥えて、首の角度を九十度、俺と合うように傾げた。
 少しぽってりとした、厚みのある唇が、アイスキャンディの破片とともに俺の口元へとやってくる。俺は拒まず、寧ろ積極的に受け入れるようにその破片を啄み、偶然を装って彼女の唇を、そしてその奥の舌さえも啄んでみる。
 あちらもまた拒まなかった。破片が互いの口のちょうど間で急速に溶けていき、その際に俺たちから熱は奪われているはずなのに、不思議とそんな気はしない。

 すっかりと溶けて小さくなった欠片をイクが最後に舌で押しやり、俺の口の中へと納める。彼女の舌はところどころ冷たく、ところどころ熱い。

4 : ◆yufVJNsZ3s :2020/08/11(火) 23:23:13.40 ID:AVuudPRF0

 ぷは、と空気の漏れる音がした。それがどちらのものだか不明瞭なままに、俺たちは顔を離す。

 アイスキャンディはソーダ味だった。懐かしい味。安っぽい味。すぐに鼻から抜けて消えてなくなるくらいの薄らとした。それよりもよほどイクの芳香が強烈であるくらいには。

「提督」

 イクは笑った。もしくは、笑っていた。
 言葉が続くと思ったが、それ以上はなにもなかった。無言のままに手と手が重なる。彼女の左手と、俺の左手。机の上で交差するように。
 その交差はまるで不自然極まりなかったが、その意味はすぐに知れる。かちん、かつん、互いの左手、その薬指に嵌った指輪が、軽やかに、愉快そうに、ぶつかって音を鳴らす――否。イクが音を鳴らしている。

5 : ◆yufVJNsZ3s :2020/08/11(火) 23:24:34.21 ID:AVuudPRF0

 右手に持っていたアイスキャンディはその殆どが溶けていて、根元の方に少し残っているだけだ。細く白い指先を水色の液体が濡らしている。
 イクが差し出してきたそれを、何のためらいもなく口に運ぶ。そのまま人差し指を舌先でくすぐった。イクは僅かに体を震えさせたが、それが身動ぎなのか身震いなのかはわからない。
 アイスの棒が机に落ちる。しかし今の俺には代わりがあった。爪の感触を確かめたり、関節を僅かに噛んだり……感じるいたずらの共犯者めいた昂揚。

 ゆっくり、遅々とした、蝸牛のような鈍さで指を口から引き抜いていく。

 重なり合った左手は汗ばんでぬめる。左手同士でうまくかみ合わないのを構いもせず、俺たちは強く手を握った。あるいは、だからこそ、強く。

 暑いのもたまには悪くない。



《おわり》
6 : ◆yufVJNsZ3s :2020/08/11(火) 23:25:28.76 ID:AVuudPRF0
――――――――――
おしまい
リハビリ
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/12(水) 00:12:43.45 ID:vJ2MsZRhO

お熱いのね
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/12(水) 00:38:18.11 ID:jLYOdf6Eo
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/12(水) 17:29:06.04 ID:fZ3FREe/o
お疲れ様
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/12(水) 23:25:52.12 ID:U7M5ALvQo
おつ
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