高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「人から離れたカフェで」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:45:20.67 ID:rUepDosI0
――おしゃれで、今日は静かなカフェ――

北条加蓮「そっか。また藍子ちゃんのゆるふわ空間が発動しちゃったかー」

高森藍子「そんな言い方しなくっても〜。それに、私がいるといつもよりゆっくり休める、って言ってもらえたんですよ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1603619120
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:45:55.80 ID:rUepDosI0
レンアイカフェテラスシリーズ第139話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

〜中略〜

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「のんびりうたたねのカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「思い出のあふれるカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「朝を過ぎてのカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「緑色と紅色のカフェテラスで」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:46:24.28 ID:rUepDosI0
加蓮「藍子のいる休憩時間、か。なんだかそれって、温泉みたいだね」

藍子「……温泉?」

加蓮「うん。藍子のいる休憩時間って言葉が、まず思い浮かぶでしょ?」

藍子「ふんふん」

加蓮「ゲームのキャラクターみたいに一瞬で回復するんじゃなくて、じわじわ回復していくような……そういう感じだと思うんだよね」

藍子「そういう魔法も、ゲームにあるみたいですよ」

加蓮「あ、そうなんだ。あーなんか紗南ちゃんがやってるの見たことあるー。いろいろ自分達を強化してって、それから攻撃してくんだっけ」

藍子「あんまり詳しいことはわかりませんけれど……前に、反撃開始〜! って楽しそうに言っていたのは、覚えてますっ」

加蓮「そういうゲームに藍子がいたら、魔法とか使わなくてもちょっとずつ回復してくれそうだね」

藍子「じゃあ、加蓮ちゃんがいたら……う〜ん。なんだか、こう……相手を、じわじわと苦しめたりしそう……?」

加蓮「それだと敵キャラじゃん! でもそれっぽいけどね」

藍子「でも、ときどき凄く強い魔法を撃つんですっ。相手のスキを見計らったりして……そういうのが得意そうですよねっ」

加蓮「それは否定しない。今もこうして、藍子の隙を窺ってる訳だし?」

藍子「ここはゲームの世界じゃありません……」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:47:54.53 ID:rUepDosI0
加蓮「で、じわじわ回復するって言ったら温泉かなって」

藍子「それで、温泉を思い出したんですね」

加蓮「そーそー」

藍子「温泉かぁ……。冬になっちゃう前に、1回くらいは行きたいな」

加蓮「昔みたいにまた一緒に行く?」

藍子「ふふ。行きましょうか♪ 加蓮ちゃんと2人もいいけれど、事務所のみんなと行くのもいいですね」

加蓮「それもいいねっ」

藍子「スケジュールを合わせるのは、難しいかもしれませんけれど。それでお風呂上がりにはみんなで卓球大会をやって!」

加蓮「藍子ちゃんプレゼンツ? 景品は何にしよっか」

藍子「そうですね。温泉でのLIVE権とかっ」

加蓮「規模大きすぎない??」

藍子「やっぱり? じゃあ、みんなの前で歌えるってことにしましょう」

加蓮「罰ゲームになってるじゃんっ」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:48:53.79 ID:rUepDosI0
藍子「温泉もいいですけれど、お風呂の後にお散歩するのもいいですよね。温泉施設でも、色んな場所に面白いものがあって……」

加蓮「ちょっと開放的になっちゃうんだよねー」

藍子「うんうんっ」

加蓮「でもたまには、大人を気取って温泉にじっくり浸かって……こう……そうそう、疲れを取って明日への! みたいなのもいいかもねっ」

藍子「温泉にじっくり浸かると、大人になるんですか?」

加蓮「さぁ?」

藍子「もう。なんですか、それ〜」

加蓮「もしそうなら藍子はじゅうぶん大人だね。のぼせるまで浸かってそう。のぼせたことにも気付いてなさそうだし」

藍子「あはは……。寒くなってくると、つい、家のお風呂にも長く浸かってしまいます。露天風呂になんて行ったら、ずっと出られなくなっちゃうかも」

加蓮「倒れたら運んであげるねー」

藍子「その時は、お願いします」フカブカ

加蓮「しょうがない。お願いされてあげる」フカブカ
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:49:24.47 ID:rUepDosI0
藍子「〜〜〜♪」

加蓮「……、」チラ

藍子「……今日は、誰もいませんね。他のお客さん」

加蓮「うん……」

藍子「普段から、あんまりにぎわう場所ではないとはいえ……1人もいないっていうのは、ちょっぴり珍しいかも?」

加蓮「なんだかんだ、大抵は1組くらいはいるもんね。……あ、でも、今日だって店員さんがいるよ」

藍子「そうでしたね♪」

加蓮「……で、その店員さんなんだけどさ。さっきから、お客さんがいる時以上に忙しそうにしてない?」

藍子「お店の奥に入ったり、出てきたりですよね。持っているのは……雪の結晶の飾り付け?」

加蓮「冬支度かなぁ。さすがにちょっと早くない?」

藍子「そう、なのかな……?」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:49:54.35 ID:rUepDosI0
加蓮「……、」

藍子「〜〜〜♪」

加蓮「……」

藍子「〜〜♪」

加蓮「……ふわ……」

藍子「〜〜〜♪」

加蓮「……あ」

藍子「?」

加蓮「ううん。店員さん、また奥に入ってったなーって」

藍子「そうみたいですね。あれっ? さっきの結晶の飾り付け、どこに置いたんだろう……?」

加蓮「さすがに冬支度には早すぎるって気付いて引っ込めたとか?」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:50:26.97 ID:rUepDosI0
藍子「でも、ほら。カフェの出入り口のところ。小さなモミの木が飾ってありますよ♪」

加蓮「え? あれ、ホントだ……。あんなのあったっけ?」

藍子「私たちが来た時には、置いていませんでしたね。確か……2時間くらい前だったかな? ほら、加蓮ちゃんが、モバP(以下「P」)さんのぐちを言っていた時に――」

加蓮「あれは愚痴じゃないでーす。正当な要求でーす」

藍子「そうでしたね♪ では、加蓮ちゃんが"せいとうな要求"をお話していた時に、店員さん、入り口の辺りで何かされていて」

藍子「その後にはもう、モミの木が置かれてあったから、たぶんその時じゃないかな?」

加蓮「そうなんだ。こっちからじゃ振り返らないと入り口なんて見えないし、全然気付かなかった」

加蓮「カフェにいるのに、そのカフェの風景が切り替わるのって……。ふふっ。なんだかちょっと面白いね」

藍子「時間や季節の変わり目が、少しだけ見えたような……そんな不思議さと、面白さとっ。あと、ちょっぴりだけ寂しさも……。まだ、秋は終わっていないのに」

加蓮「ね」

藍子「ねっ」

加蓮「……私の話をテキトーに聞いてたね?」

藍子「そ、そんなことないですよ〜?」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:50:54.83 ID:rUepDosI0
加蓮「お、店員さんが出てきた。持ってるのは……レンガ?」

藍子「ということは、暖炉ストーブを設置されているのかも」

加蓮「レンガっぽいインテリアを並べて、その奥にストーブを隠して暖炉っぽくしてるヤツだよね」

藍子「これで加蓮ちゃんも、暖かい思いができますねっ」

加蓮「藍子もでしょー……って、それだけもこもこのセーターならあったかいか」

藍子「少し暑いくらいで……。実は、さっきから脱ごうかどうしようか、ずっと迷っていたり……」

加蓮「そんなことに悩む……?」

藍子「脱いじゃおっと。よい、しょっ……ふうっ」

加蓮「うわ、もわっとしたっ」

藍子「ずいぶん、すっきりしました♪ でもちょっぴり肌寒い気もするから、セーターはお布団みたいにかけて……んっ。あったかい……♪」

加蓮「……なんかずるーい。私も温かくなりたーい」

藍子「加蓮ちゃんも、もうちょっと厚着をすればいいのに……」

加蓮「やだよ。気温が下がる今だからこそ、最後まで肌を見せるコーデを!」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:51:24.37 ID:rUepDosI0
藍子「そんなところで我慢比べをしていたら、また風邪を引いちゃいますよ?」

加蓮「大丈夫大丈夫。心は熱いから」

藍子「……もうっ。茜ちゃんみたいなこと言ってる」

加蓮「確かに。茜の言いそうなことだ」

藍子「この前、実際に言っていましたよ。ランニングに付き合ってあげた時に、半袖のランニングシャツで寒くないの? って聞いたら、そう答えられました」

加蓮「言ってたんだ」

藍子「茜ちゃんは、たぶん風邪なんて引かないと思うからいいけれど……加蓮ちゃんは、駄目ですっ」

加蓮「えー」

藍子「心配をかけちゃ、駄目ですからね」

加蓮「ちぇ。ま、肌を見せるだけがオシャレじゃないもんね。明日から冬コーデを探してみよっと」

藍子「うんっ。そうしてみましょう」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:51:54.18 ID:rUepDosI0
加蓮「……」

藍子「〜〜〜♪」

加蓮「……」

藍子「……? ……〜〜♪」

加蓮「……あははっ」

藍子「くすっ♪」

加蓮「えーと。なんか……ちょっと落ち着かないなぁ」

藍子「加蓮ちゃん、さっきからほんのちょっとだけそわそわしていますよね」

加蓮「やっぱりバレる?」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:52:24.17 ID:rUepDosI0
藍子「たぶん、じ〜っと見て、初めて気がつくくらいだと思いますよ。そうですね〜……。Pさんなら、きっと気がつかないかもしれません」

加蓮「お、さり気なくディスっていく」

藍子「そんなつもりはないですけれど、さっきの加蓮ちゃんのぐちを聞いていたら……なんてっ」

加蓮「しかも人のせいにしていくー」

藍子「うぅ。なんだか、言えば言うほど、私が悪くなっちゃっている気がします……!」

加蓮「藍子ちゃん、悪いんだー」

藍子「ごめんなさいっ」

加蓮「うん、許す」

藍子「ほっ」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:52:56.21 ID:rUepDosI0
加蓮「もともとそんなにお客さんでひしめきあってる場所でもないし、こうして他に誰もいないなんて珍しくもないハズなのにさ。なんか、そわそわしちゃうんだよね」

藍子「ふんふん……」

加蓮「他にもっと誰かいればいいのに、って。あ、もちろん藍子じゃ物足りないとか言う訳じゃないよ」

藍子「よかった。私では、加蓮ちゃんの寂しさは埋められないのかな? なんて、思ってしまいました」

加蓮「……一応聞くけど、半分くらい違うって分かった上での?」

藍子「ううん、そんなことありませんよ」

加蓮「そう――」

藍子「100%違うと、ちゃんと思えてますからっ」

加蓮「……」

藍子「ねっ♪」

加蓮「……まぁ、膝のセーターに脳を吸い取られてる子の話はほっとくとして」

藍子「膝のセーターに!?」

加蓮「え、違うの?」

藍子「どうしてきょとんとしてるんですかっ。膝にかけているなら、吸い取られるとしたら膝から何かだと思いますっ」

加蓮「いやそういう問題じゃなくない??」

藍子「あれ……?」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:53:54.59 ID:rUepDosI0
加蓮「……いいや。とにかく……慣れてる筈なのに、いざこうなるとちょっと寂しいね」

藍子「……、」

加蓮「ふふっ。今日は藍子の隣に座っちゃおうかな? あ、でも他に誰も――店員さん以外誰も見てない場所でって、ちょっと特別感が過ぎちゃうか。重いね」

藍子「ううん。加蓮ちゃんが来たいなら、いつでも来ていいですよ」

加蓮「はいはい、そーいうのいいから」

藍子「本当ですからね〜」

加蓮「分かった分かった。ハァ……」

藍子「……、」ミワタス

藍子「……最初は、加蓮ちゃんが落ち着かなくて、そわそわしていたのって……加蓮ちゃんってやっぱり、静かなところが苦手だからかな? って、思ったんですけれど――」

加蓮「んー?」

藍子「こうして見渡してみると、私も、なんだかその気持ち分かります。少し……寂しいですよね」

藍子「ううん。寂しいって言うより、なんだか慣れないような……。変な気持ちです」

加蓮「そうそう、そんな感じ! そう、何故か慣れてない感じになるの。さっきは寂しいって言ったけど、ホントは寂しいんじゃないからね?」

藍子「だから、寂しいのではなくて、慣れてない感じだって言ってますよ〜」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:54:24.59 ID:rUepDosI0
加蓮「それならいいんだけど。誰かさんがすーぐ私のことを寂しがり屋だって言ってくるから」

藍子「……?」

加蓮「きょとんとすんなっ」

藍子「でも、不思議。学校の放課後や、夜遅くに鍵をかける直前の事務所の部屋みたい。いつもは他に誰かがいるのに、その時だけ誰もいなくて……寂しくて、それからちょっぴりの特別感」

加蓮「……藍子が言うなら相当かもね」

藍子「私が?」

加蓮「やっぱり私よりはカフェによく来るでしょ。他にお客さんがいないって状況も、よくあるんじゃないの?」

藍子「そういえば……。本当、不思議ですね」

加蓮「ね」

藍子「……あっ。店員さん、こっち向いてる」

加蓮「手でも振ってあげたら?」

藍子「〜〜〜♪」フリフリ

加蓮「どんな顔してるー?」

藍子「手を振り返してくれましたっ」

加蓮「そっか」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:54:55.06 ID:rUepDosI0
藍子「あぁ、行っちゃった。また、レンガのインテリアを取りに行ったのかな?」

加蓮「今日中にストーブをつけるかな。そしたら、向こうのスペースでのんびりする?」

藍子「いいですよ。クッションをお借りして、少し横になって……他のお客さんがいないからこそ、少しだけ、解放的にくつろいでしまうのもいいかも?」

加蓮「寂しいだけじゃないよね。カフェに2人きりって」

藍子「うんっ。……あ! 加蓮ちゃん、やっぱり寂しいって――」

加蓮「って藍子の顔が言ってた」

藍子「私は、加蓮ちゃんがいるならぜんぜん寂しくなんてありませんよ?」

加蓮「えー。さっきまでの話は?」

藍子「私は、寂しいとは一言も言ってませんっ」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:56:25.80 ID:rUepDosI0
>>16 申し訳ございません。3行目の藍子のセリフ、後半を一部修正させてください。
誤:少しだけ、解放的にくつろいでしまうのもいいかも?」
正:少しだけ、開放的にくつろいでしまうのもいいかも?」


加蓮「いや言ったよ。絶対言った。寂しいけど特別感があるって言った!」

藍子「そ、そうでしたっけ。それは……そうっ。きっと、加蓮ちゃんの気持ちになって言ったことですっ」

加蓮「はぁー? 藍子、さっきから私の気持ちを勝手に作りすぎ! いくら藍子でもそれはウザいよ」

藍子「それを言うなら、加蓮ちゃんだって私の顔が言ってたって言ったっ」

加蓮「だって加蓮ちゃんですし? 人の顔を見て察するのは、得意中の得意技だよー」

藍子「それなら私だって、私です! 加蓮ちゃんの顔を見て、加蓮ちゃんの気持ちを察するのは、たぶん得意だと思いますっ」

加蓮「そこで思いますってつける子には負けるつもりはないなぁ」

藍子「む〜……」

加蓮「あははっ」

藍子「もうっ」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:56:56.22 ID:rUepDosI0
加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……ごめん。やっぱり、ちょっと寂しいかも」

藍子「私も……。今は、はっきりと、寂しいなって思いました。静かな中に私たちの声が響いて、それから消えていくのが……去っていく季節みたいで、物悲しい……」

加蓮「今更なのにね」

藍子「今さらなのに」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:57:24.00 ID:rUepDosI0


□ ■ □ ■ □


加蓮「……店員さんが、いや店員さんじゃなくてもいいけど、ストーブみたいなのを両手でわっせわっせって運んでるのを見るとさー」

藍子「見ると?」

加蓮「なんか手伝わなきゃってならない?」

藍子「なりますよね」

加蓮「なるよね」

藍子「事務所でなら、きっと手伝っています。撮影現場でも。カフェでは……逆に、迷惑になってしまうかもしれませんから」

加蓮「それもそっか。気を遣わせちゃうかな?」

藍子「店員さんの気持ちになってみたら、きっと分かりますよ」

加蓮「……うん。逆に迷惑」

藍子「ですねっ」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:57:55.12 ID:rUepDosI0
加蓮「と言いつつ前に別のカフェで、手伝いますと言ったことのある藍子ちゃんなのだった」

藍子「ふぇっ!? ど、どうしてそれを知ってるんですかっ」

加蓮「ありゃ?」

藍子「あっ。ひょっとして、加蓮ちゃんもそのカフェに行ったことがあるとか! じゃあ、あの時の店長さんが話しちゃったのかな……。ふふ。もうっ、私が聞いたからって、お返ししないでくださいよ〜」

加蓮「待って待って。なんかすごい勢いで情報が流れてってる。ちょっと待って待って」

藍子「……あれっ?」

加蓮「1つずつ整理させて? えっと、そのカフェってどのカフェ? いや、そもそも藍子と行ったことある場所以外なんてほぼないんだけど……」

藍子「行ったことがあるわけではなかったんですね。もしかしたら、って思ったのに」

加蓮「な、なんかごめんね?」

藍子「いえ……。それなら、さっきのはかまをかけたんですか?」

加蓮「どころかテキトーに言ってみただけ」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:58:23.93 ID:rUepDosI0
加蓮「お喋りな店長さんなんだ」

藍子「そうなんですよ。私が行った時も……そうそう。今日みたいに、他のお客さんがいなかったんです。のんびりしていたら、ちらっと目が合って、そうしたらすっごく嬉しそうな顔でこっちにやってこようとしてっ」

藍子「でも、1歩だけ進んで、立ち止まったんです。やっぱり、お客さんに呼ばれてもいないのに行ったら迷惑かな? って、思ったのかもしれません」

加蓮「そこで藍子ちゃんは、いいですよって笑って手招きをしたと」

藍子「……加蓮ちゃん、本当に見てきたみたいに言うんですね」

加蓮「まぁ藍子のことですし?」

藍子「ふふ♪ 加蓮ちゃんの言う通り、手招きをしたらこっちに来て……それから、私のこと、アイドルの高森藍子のことを知っていた方だったんです!」

加蓮「カフェの人だもん、だいたいは知ってるでしょ」

藍子「頼まれちゃったから、サインを書いてあげて……。その後は、普通のお客さんとカフェの人と同じように、他のお客さんが来るまでゆっくりお喋りをしました」

藍子「その時に、少し違うお客さんのお話が出てきて。聞かない方がいいかも、と思って、1回は止めたのですが、構わず喋っちゃって……」

加蓮「えー。お客さんのことを話していいの?」

藍子「本当は駄目なんですけれどね。でも、店長さんのお話に出てくる人は、どんなお客さんなのか、分かりやすいけれど絶妙に分かりにくいんです。だから、もしそれが知っている人のことでも、きっと気づかないんだろうなぁって……そこが、うまいお話をされる方だなって思いましたっ」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:58:56.15 ID:rUepDosI0
加蓮「もしかしたらそれ、本当はいない人なのかも?」

藍子「さすがに、それはないと思いますよ。だってすごく具体的で、見た目の特徴も話されていましたから」

加蓮「それで特定できないようにってホントすごいね」

藍子「あっ。ひょっとしたら、ぜんぶは本当のことではなくて、加蓮ちゃんの言うように嘘が混ざっていたのかもしれません! そのカフェには、お客さんが自由に読める本棚に、小説がいっぱい入っていましたから」

加蓮「嘘つきだー」

藍子「ふふ。うそつきですね。お客さんを楽しませる、うそつきさんですっ」

加蓮「そこまで聞かれると気になっちゃうなぁ、そのカフェ。1人で探してみよっかなぁ」

藍子「え〜っ。それなら一緒に行きましょうよ。連れていってあげますよ?」

加蓮「やだ。1人で行って店長? から話を聞くんだっ。藍子がどんな間抜けなことをしたか全部!」

藍子「してませんっ。ただちょっと忙しそうにしている時に、手伝いましょうか? って、つい言っちゃっただけです!」

加蓮「ちぇ。そんなの聞いても藍子らしいなーとしか思わないよ」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:59:24.44 ID:rUepDosI0
加蓮「……、」

藍子「〜〜〜♪」

加蓮「……」

藍子「〜〜♪」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 18:59:53.98 ID:rUepDosI0
加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……、…………」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:00:24.10 ID:rUepDosI0
加蓮「……店員さん、さっきからずっとカウンターの向こうにいるね」

藍子「また、私たちが注文するのを待っているのでしょうか」

加蓮「それならこっちをちらちら見てきそうだし、違いそう」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:00:54.88 ID:rUepDosI0
藍子「〜〜〜♪」

加蓮「……」

藍子「……、〜〜♪ ……? 〜〜〜♪」

加蓮「……藍子」

藍子「?」

加蓮「私からいったん目を離して、すっと目線を戻されるとさ。顔に何かついてる? ってなっちゃうんだけど」

藍子「大丈夫。何もついていませんよ」

加蓮「その目線は気になるってー……」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:01:23.96 ID:rUepDosI0
藍子「ごめんなさいっ。じゃあ……じ〜」

加蓮「違うっ」ペシ

藍子「いたいっ。えへへ……。やっぱり?」

加蓮「悪戯っぽく笑えばいいかな、って思うのもやめなさいっ」

藍子「……加蓮ちゃんは、私のことを許してくれないんですか……?」

加蓮「…………」ペシ

藍子「いたいっ。さっきより痛いです!」

加蓮「さっきより痛くしたから」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:01:53.97 ID:rUepDosI0
加蓮「……」

藍子「〜〜〜♪」

加蓮「……、」

藍子「〜♪」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:02:54.80 ID:rUepDosI0
加蓮「……ねぇ。さっきの話なんだけどさ……」

藍子「慣れているのに、静かなことが不思議に思うってお話?」

加蓮「うん。……ずっと、人に囲まれてたからかも。あ、昔話とか都会育ちだからとかじゃなくて。最近の話」

加蓮「アイドルとして頑張ってると、どこに行っても絶対に誰かがいてくれるじゃん。移動中でもPさんがいるし、休憩時間だって、直接喋ってなくてもスタッフさんはいる訳だし」

藍子「あ〜……」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:03:24.14 ID:rUepDosI0
加蓮「カフェに行けば、藍子がいるし?」

藍子「ここにいますよ〜」

加蓮「1人になる時なんて家くらい……いや、家でも最近お母さんと喋ってばっかりなんだよね。あとお父さんも。ホント、2人とも心配性すぎてさ……」

藍子「アイドルのことを、お話するんですか?」

加蓮「あとは学校のこととか。宿題やったかとかテストどうかとか。それなら勉強の為の1人の時間をよこせってのっ」

藍子「……1人になったら、ちゃんと勉強するの?」

加蓮「しないけど」

藍子「ですよね……」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:03:54.07 ID:rUepDosI0
加蓮「1人――独りの時間なんて、最近ほとんどなくて。いつだって物音と、人の声と……静かでも、人の気配がしてたから」

藍子「だからこうして、私と加蓮ちゃん以外がいない場所が……」

加蓮「不思議なのかもね……」

藍子「……私も、そうかも。お陰さまで、ずっとアイドルをやらせてもらって……その、ちょっぴりくらいは、有名になれたと……思いますから」

加蓮「うん、そうだね」

藍子「……、」

加蓮「……」

藍子「……あ、そっか」

加蓮「?」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:04:23.90 ID:rUepDosI0
藍子「加蓮ちゃん。ずっと昔……2人でいろいろなカフェに行っていた頃のことを、覚えていますか?」

加蓮「そりゃ覚えてるけど……。どのカフェに行った時のこと?」

藍子「街角の、奥の席に座ったカフェっ」

加蓮「あぁ、隠れ家のカフェ」

藍子「あの時に加蓮ちゃん、秘密基地みたいな場所に、他の人がいるってお手洗いの時に気がついて、落ち着かなくなったって言っていましたよね」

加蓮「んーっと……あ、それ覚えてる。あははっ。今と真逆じゃん」

藍子「そういえば……? どっちも加蓮ちゃんが言っていたことなのに、へんなのっ」

加蓮「ねー」

藍子「でも、今はそのお話ではないんです」

加蓮「ごめんごめん。続けて?」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:04:54.16 ID:rUepDosI0
藍子「その後に、ほら……その……うぅっ」

加蓮「?」

藍子「ほ、ほら、私がいたことを忘れちゃったんですか? って言って、いるのが当たり前みたいだったって加蓮ちゃんが言って……それは家族みたいだけど、少し嫌だって思っちゃったとか、私が言って……」

加蓮「あぁ、あったあった。って、なんでそんなに顔真っ赤にしてんの?」

藍子「気にしないでくださいっ」

加蓮「そ、そう?」

藍子「……ごほん。あの時の加蓮ちゃんの気持ちって、こんな感じだったのかなぁ……」

加蓮「え? いや、だって今は他に人いないよ?」

藍子「状況は違うかもしれませんね。でもなんとなく確証があります。あの時の加蓮ちゃん、きっとこの気持ちだったんだなって♪」

藍子「そして、ここにいる加蓮ちゃんは……私と同じ時間をすごして、同じ気持ちを持ってくれる加蓮ちゃんは、いるのが当たり前になってくれた人なんだなって」

藍子「改めて、思いました。……それだけですっ」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:05:25.15 ID:rUepDosI0
加蓮「そう……。んー……ちょっと照れくさいけど、まっ、ありがと」

藍子「どういたしまして。こちらこそ、ありがとうっ」

加蓮「……いや私から言っといてだけど、何が?」

藍子「さあ。何がでしょうか?」

加蓮「あははっ」

藍子「ふふ♪」

藍子「……あっ。店員さん、また動き出したみたいですよ」

加蓮「休憩時間は終わりかな? ……そういえば、私がいて藍子がいて、他にお客さんがいなくて寂しいって言っても……店員さんもいるんだよね、一応」

藍子「そうですね。じゃあ……店員さんも、いるのが当たり前だって思える人?」

加蓮「えー。それは少し違うでしょ」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:05:54.13 ID:rUepDosI0
藍子「さっきのお話だと、そうなりませんか?」

加蓮「店員さんは店員さんだけど、藍子はそれ……藍子は藍子だからっ」

藍子「……それ?」

加蓮「ほら、店員さんが何か持ってきてる。飾り付けかな? なんかレンガインテリアにくっつけてるっ。遠くからじゃ見えないなー」

藍子「……むぅ」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:06:24.81 ID:rUepDosI0
加蓮「……」

藍子「〜〜〜♪」

加蓮「……、」

藍子「?」

加蓮「……」

藍子「……〜〜♪」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:06:54.34 ID:rUepDosI0
加蓮「……店員さん、引っ込んで戻ってこなくなっちゃった」

藍子「奥で、何かしているのかな。それとも、もう1回休憩?」

加蓮「カフェの店員って大変そうだもんね」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:07:24.38 ID:rUepDosI0
藍子「〜〜♪」

加蓮「……」

藍子「〜〜〜♪」

加蓮「……」

藍子「……、」

加蓮「?」

藍子「ううん。こうして……いつもと変わらない、変わっていかない風景を眺め続けるのも、やっぱりいいなぁ……」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:08:25.39 ID:rUepDosI0
加蓮「……そう?」

藍子「加蓮ちゃんにとっては、退屈になっちゃいますか?」

加蓮「どうだろ。もしかしたら、ちょっと退屈かもね」

藍子「やっぱりっ」

加蓮「店員さんが内装いじってるし、それがどう変化するんだろ? って見届ける方が私は好きかも。藍子なら外で1日中ベンチに座ったりしてても、楽しめるかもしれないけどさ」

藍子「きっと、加蓮ちゃんも楽しめますよ」

加蓮「そうかなぁ……」

藍子「〜〜〜♪」

加蓮「……うん。楽しいかどうかって言われたら、やっぱりそれは分かんない」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/25(日) 19:08:55.24 ID:rUepDosI0
加蓮「でも……大した話もしないで、少し寂しくもあって……慣れてるのに慣れない寂しさも含めて、たまにはこういうのもいいかな? って感じだね」

藍子「それで、十分です。のんびりして……退屈になっちゃったら、またお話でもしましょ?」

加蓮「いいよー。何話す? そういえば最近、なんか事務所で私がお菓子を配るお姉さんみたいなキャラになっててさー。ハロウィン対策でクッキーとか持ち歩いてるからかな? ほら、イタズラはされるよりしたい方ですし♪ で、この前もさ――」

藍子「あはは……。うんうん、それでっ?」

加蓮「どーしても私にイタズラしたいか、それとも新しいイタズラを考えたら私が来たってことなのかもね。ちびっこがみんなで並んでトリック・オア・トリートって言うからつい――」


【おしまい】
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