樋口円香「橋と水切りとステージと」

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1 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:18:25.15 ID:6vmrczOW0

――橋のそば

浅倉透「届くかな」

樋口円香「さすがに遠い」

透 「やってみないとわかんないって」

円香「川幅見ればわかるでしょ」

透 「ん?……」

ガチャガチャ ゴトゴト

市川雛菜「やは?。透先輩、何探してるの??」

透 「石」

福丸小糸「石? えっと、ここいっぱいあるよ……?」

透 「向こう側まで届きそうな、石」

雛菜「届きそ〜?」

透 「えーと。あ」

ヒョイ

透 「こんな感じの石を、こう、ね」

円香「……」

透 「えい」

ヒュッ

パシャッ パシャ シャ  

ポチャン


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2 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:19:47.29 ID:6vmrczOW0

透 「うーん、3回」

小糸「み、水切りだね」

透 「そう」

円香「やっぱり届かない」

透 「あー」

小糸「届かないって、む、向こうまで……?」

透 「うん。ずっと跳ねてくれれば、向こうまで届くかなって」

円香「投げるまでもないでしょ。ぱっと見、50m超えてる」

小糸「う、うん。この川はちょっと……」

雛菜「さすがに無理だとおもう?」

小糸「あっ、流石だけに?」

雛菜「へ??」

円香「小糸、解ってない」

小糸「ぴぇっ」
3 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:20:37.21 ID:6vmrczOW0

透 「ん〜」

ゴソゴソ ガチャガチャ

円香(投げるまでも、石を探すまでもない)

円香「ん……」

カチャ

円香「浅倉。これ」

透 「お、いい形」

円香「使えば」

透 「え? 樋口が投げなよ」

円香「……はぁ」

スッ

透 「めざせ、向こう岸」

円香「無理」

ヒュッ

パシャッ シャッ パシャ シャ シャ  チャポン

円香「5回」

透 「いいね」

雛菜「円香先輩うま?い」

円香(今ので半分も行ってない。向こう側なんて、届くわけもない)

雛菜「雛菜もやる?」
4 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:21:05.61 ID:6vmrczOW0

雛菜「えーい」

ヒュッ    ポチャ

透 「あー、跳ねてない」

円香「ていうか普通に投げたら跳ねないでしょ」

雛菜「ふつーに投げるほうが、遠くまで投げられるでしょ〜?」

円香「……あ、そ」

ガチャ ガチャ

透 「あ ……ふ、んっ……」ゴトッ

円香「……浅倉?」

透 「よっ、とっ…… この石どう? いい感じで円盤」

円香「両手で持ってる時点で大きすぎ」

小糸「み、みんな、そろそろ事務所行かないと……」

雛菜「あは〜、変な形の石〜」

小糸「お、おーい……!」

円香「無理。届いてない」

小糸「うぅ……」

透 「っとぉー」

ボッチャン
5 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:21:43.02 ID:6vmrczOW0

――橋

テクテク…

透 「はぁ〜、石投げて遊ぶなんて久しぶりだった」

円香「高校生にもなってやること?」

透 「樋口も遊んだじゃん」

円香「1回投げただけ」

雛菜「でも〜、1回は1回〜」

円香「……」

小糸「あ、で、でも分かるよ。せっかく見つけた石、もったいなかったもんね」

円香「じゃあ、そういうことで…… なんで浅倉が投げなかったの」

透 「え? あー……」

透 「見つけたの、樋口だし」

円香「始めたの、浅倉でしょ」
6 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:22:25.02 ID:6vmrczOW0

円香「そもそも、なんで急に水切り?」

透 「うーんと……動画で見てさ。なんか、かっこいいじゃんってなった」

透 「それで、河の向こうまで届くかなって」

円香「狭い川ならできるだろうけど」

透 「すごい人だと40回とか跳ねるんだって」

小糸「へぇー……す、すごいね」

透 「なら、めっちゃ跳ねたらさ、行けると思わない?」

円香「思わない」

透 「えー」

小糸「た、多分だけど……遠くまで投げるだけなら、雛菜ちゃんのやり方がいいんじゃないかな」

小糸「水面で跳ねるたびに、勢い減ってっちゃうから……」

雛菜「あは〜、雛菜だいせいかーい」

円香「……だって」

透 「へー」

円香(これは分かってないやつ)
7 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:31:02.58 ID:6vmrczOW0

テクテク…

雛菜「相変わらず、この橋長いね〜」

円香「長さ変わったら怖くない?」

雛菜「雛菜が渡るときだけ短くなってくれたら、楽でいい〜」

透 「ふふ、いいね、それ」

円香「雛菜限定なの?」

雛菜「んー? じゃあ、みんな一緒に渡ればいいよ〜」

小糸「そ、それなら助かる、ね」

雛菜「でしょ〜? みんな雛菜に感謝〜」

円香「何もないところから感謝生まないで」

雛菜「円香先輩は〜、橋が長くなる〜」

円香「……困るんだけど」

小糸「あははっ」

透 「……」ピタ

円香「……浅倉?」
8 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:31:31.33 ID:6vmrczOW0

雛菜「透先輩〜? 立ち止まってどうしたの〜?」

透 「ああ、うん。ちょうど真ん中だなって」

円香「真ん中?」

透 「柱2本あるじゃん。その、真ん中」

小糸「う、うん。……?」

透 「すごいなーって」

円香「なにが」

透 「橋」

円香「……?」

透 「向こう岸、いけるから」

円香「……」

透 「昔は川の向こうに運ぶって、大変なことだったんでしょ」

小糸「こ、この川、昔は暴れ川だったって、前にテレビで言ってたよ」

透 「でもいまは、歩くだけで向こうに行ける」

透 「楽、でしょ」
9 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:32:16.43 ID:6vmrczOW0

雛菜「楽になってこれかぁ〜」

円香「なら、バス使う?」

雛菜「え〜、お金払うのはやだ〜」

透 「ふふ……でも、リッチになったらあるかもよ」

透 「アイドルやっていったら」

円香「……」

小糸「い、印税、とか?」

透 「っていうの?」

円香「はぁ……結局、今のところは歩かないと渡り切らないから。早くいって」

透 「はーい。今日なんだっけ」

雛菜「えーと? なんだっけ〜」

小糸「ぼ、ボーカルレッスンだよ」

透 「なら、歌いながらいく?」

円香「いかない」

雛菜「あっ、カラオケいこ〜?」

小糸「せ、せめてレッスン終わってからにしよう?」
10 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:32:51.11 ID:6vmrczOW0

透 「皆はあれできた?」

小糸「あれ?」

透 「えーと、ほら、あれ」

円香「……たぶん、発声のこと」

透 「それそれ」

雛菜「なんだっけ〜。のどを開く?」

小糸「お、お腹から声を出す、だったよね」

透 「あー」

円香「腹式呼吸」

透 「あった」

雛菜「できたかどうかより、どうなったらできたことになるのか分かんないよね〜」

小糸「そ、そうだよね……」

透 「まぁ、まだ始まったばかりだし」

透 「いけるいける」

円香「……」

透 「……」

透 「樋口」

円香「ん」
11 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:33:49.32 ID:6vmrczOW0

透 「どうかした?」

円香「え? ……何も」

透 「嫌なことあった時の顔してる」

円香「……」

円香「別に」

円香「何でもない」

円香(そう)

円香(何でもないこと)

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

円香(それは、事務所に入って間もない頃に言われた)

シャニP(以下P)「通る声だよな」

円香「……はい?」

P 「円香の声。よく通るなって」

円香「……それがどのような評価に繋がるかわかりませんが」

P 「変な意味はないよ。ただの感想」

円香「そうですか。別に、伝えてくださらなくても結構です」

P 「あ、ああ…… ええと、大きい声じゃないけど、低くてよく通る。声だけでファンになる人もいるかもな、ははっ」

円香「……」
12 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:34:25.27 ID:6vmrczOW0

P 「あー、こほん……それでこれが本題なんだけど、そこでちょっと苦労するかもしれない」

円香「……通る分には、都合がいいのでは」

P 「お、気になる?」

円香「いえ、特に」

P 「はは…… ボイトレでも言われると思うよ。声は通るけど細いから、そのまま歌っても喉を潰してしまう。喉に負担をかけない声を身に付けないといけない。発声っていうやつ」

P 「声や歌を使って表現をする人の、一歩目だ」

円香「はぁ」

P 「俺はレッスンの専門じゃないけど、そうだな……透も同じタイプじゃないかな」

円香「……」

P 「小糸は声は小さい……と見せかけて、大きな声も出せるんだよな。雛菜はそもそも、発声が割とできてる。天性かな」

P 「まぁ、まずは腹式呼吸からやることになるんじゃないか。円香は器用そうだから、実際やったらすぐにできるかもしれないよ」

円香「そうですか。まぁ、あなたの発言が的外れでないことを祈っています」
13 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:34:56.16 ID:6vmrczOW0

――レッスン室

トレーナー「たぶん歌とか演劇とか、しっかりやったことのある人はいない……わよね」

透 「えーと」

透 「いませーん」

トレーナー「じゃあ、まずは声を出す姿勢から。声が一番響くのはリラックスした時で――」

トレーナー「――で、姿勢ができたら腹式呼吸になるんだけど……最初は床に寝ながらやると楽ですよ」

トレーナー「息を吸う時に胸が上がらないように、横隔膜を下げてお腹を膨らませる。ゆっくりとしっかり大きく息を吸ったら、腹筋でキープ」

トレーナー「そしたら大きく口を開けて、息を吐ききるまで、あー」

ノクチル「「「「あーー……」」」」

トレーナー「腹筋で息をささえて。限界まで絞りだしてー」

雛菜「あーー……」プルプル

小糸「ぁぁーー……」プルプル

トレーナー「はい、楽にして息吸ってー」

小糸「はぁっ」

雛菜「ひゅ?」

トレーナー「OK、まずは何セットかやってみましょう」

雛菜「あは〜、雛菜寝そう〜」

円香(でしょうね)

円香(そんでもって浅倉は、下手すると寝てる)

チラ

透 「あーーー……」

円香(……)
14 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:35:30.89 ID:6vmrczOW0

トレーナー「うん、浅倉さんと樋口さんはいい声で通るけど、喉を使っているわね」

トレーナー「市川さん、福丸さんは声量ありますね。まだ喉にかかってるから、そのまま歌うと喉に負担がかかってしまいます。全員まず、基礎練として寝ながらの発声。慣れてきたら立ったまま、お腹から声を出す感覚を掴んでください」

小糸「お腹から声……」

トレーナー「声を、頭に響かせるようにとか、頭から通り抜けるようにとか、前に前に押し出すようにとか、人によっていろいろな言い方はあるけど」

トレーナー「私は、人に届けようとする声かなと思っているわ」

トレーナー「歌っていくとわかるけど、腹筋で息を支えることが重要になってくるから、そのためにお腹周りの筋肉は付けておきましょうね」

トレーナー「まぁ、あなたたちは技術も体力もまだまだ足りないんで、じっくり育てていくしかありません。結局はダンスで全身使うしスタミナもいるから、とにかくまずは体力を付けていきましょう」

小糸「は、はいっ」

円香「はい」

透 「はーい」

雛菜「ふわ〜……大変そー」
15 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:36:14.54 ID:6vmrczOW0

雛菜「ねぇ先生?」

トレーナー「先生ではないですが……はい、市川さん」

雛菜「なんかもっと楽な方法ってあります??」

トレーナー「楽って……」

円香「どちらかというと、コツといったニュアンスですので、気にしないでください」

トレーナー「あ、ああ、なるほど……」

トレーナー「あまり近道があるものではないけど……舌を押し下げる感覚、って感じかな」

雛菜「ふ?ん?」

トレーナー「なんにせよ、まずは声を出してみるしかないです。自分での気付きが第一歩よ」

円香「……気付く、ですか」

トレーナー「そう。自分でやっても、これが正しいのかどうか、実感できない気がするでしょう?」

円香「ええ」

トレーナー「大丈夫、自分で気が付けるから。今までとは違う声がでているって、自分でわかるから」

円香「……」

トレーナー「発声は大事だけど、発声だけがレッスンじゃないですからね。他のこともどんどんやっていきますよ」

小糸「は、はいっ」
16 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2020/12/06(日) 13:36:44.33 ID:6vmrczOW0

−−−

円香(……と言われてから2週間ほど。今だ発声が上手くできたか分からないまま)

円香(口を開けるだけじゃ足りない。口を開けることじゃない)

円香(たぶん一番最初にできたのは、雛菜だった)

雛菜「あのね?、喉が下がるんだよ?」

小糸「ど、どういうこと?」

雛菜「首のとこ触ってみて?」

雛菜「あー」

雛菜「から」

雛菜「あーー」

小糸「あっ、お、音変わった!」

雛菜「ほら、喉下がったでしょ??」

小糸「うーんと……こ、ここ?」フニフニ

雛菜「そこそこー」

透 「へー。私も」フニフニ
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