神崎蘭子「高垣楓伍番勝負っ!」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 15:18:14.18 ID:USI9ZzTC0


神崎蘭子は激怒しかけたが、ちょっとだけ考えて、やっぱりやめておいた。
でも、何とかして、あの世紀末歌姫をぎゃふんと言わせなくちゃいけないと決意した。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1620541093
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 15:19:52.41 ID:USI9ZzTC0


時折したためている日記を今宵も書き付けている最中の事だ。


土曜の今日は昼前から夜までお仕事であった。
元気に事務所へ顔を出した蘭子はそのもちもちのほっぺたを高垣楓からつつかれ、
やや疲れを滲ませながら事務所へ戻って来た蘭子はそのぷにぷにのほっぺを楓につつかれた。

二回である。
蘭子は一日にして二回もそのもちぷにのほっぺっぺを楓からつつかれてしまったのだ。
蘭子のほっぺは楓からつつかれるためにもちもちしている訳ではない。
ただ、健やかに育っていたらもちもちしていた。それだけである。


圧倒的な年齢差と身長差に物を言わせ、蘭子の頬をつつくのが楓の生き甲斐であった。
だが、いつまでも黙って頬プニされるがままの蘭子ではない。
無論、毅然とした態度で抗議の意を楓の鼻先へと突きつけた。

ところがそれを見るや楓は、
チョコレートケーキやマドレーヌや栗羊羹や苺大福を揺らして見せるのである。
これはまこと卑劣な手管であり、
さしもの蘭子とて二つに結んだ銀のくるくるを揺らしながら甘味に舌鼓を打つ他に無い。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 15:25:02.98 ID:USI9ZzTC0

日記帳へとガラスペンを踊らせているうち、頬に指先の感触が蘇る。
ふつふつと湧き上がる衝動に任せ、
蘭子は今にもソファの上をぴょんこぴょんこと暴れ回りそうな心地であった。


 「にゃ、むぅ……ポルニィ……ふふ。もう、食べられません……」


ローテーブルに突っ伏すアナスタシアが呟いたのはそんな時である。
彼女の寝顔は蘭子にとって世界平和の象徴であり、
折を見てニューヨークは国連本部前に飾っておけないかなと常々考えていた。

 「ダッツ……? ニェート……ダッツは脇腹、です……むゅ……いいんです……」

喉元までこみ上げていた感情がゆっくりと帰ってゆくのを感じると、
蘭子は静かにペンを置いて勉強机から腰を上げた。
ローテーブルの向かいにしずしずと座り込み、夢見る彼女を眺めるばかりである。
アーニャの寝顔は何を置いても優先されるべきものであるから、
蘭子とて憤怒に身を任せている場合などではない。


そして憤怒の代わりに顔を出したのは、僅かばかりの義憤であった。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 15:32:09.50 ID:USI9ZzTC0

新田美波に三船美優。
楓の猛威に身を晒されているのは、ただ蘭子のみではない。
なれば、誰かが立ち上がらねばならないのだ。
今ここであの指先を食い止めねば、遠くない内に蘭子の頬が餅と化してしまうのは明らかである。

蘭子は、些か純粋過ぎる所があった。
心に決めたまま行動へ移す身軽さは、放たれた矢と見紛う程である。


 「……ラグナロクの刻は、来たれり」
 (決着を、つけなきゃ……!)


クローゼットの前に立った蘭子は、ゆっくりと扉を開く。
そして決戦の刻に備え、戦支度に入るのであった。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/09(日) 15:42:33.50 ID:USI9ZzTC0

天使な堕天使こと神崎蘭子ちゃんと世紀末歌姫こと高垣楓さんのSSです


http://i.imgur.com/yVxElOj.jpg
http://i.imgur.com/IqJgCai.jpg

前作とか
モバP「楓さんが猫かもしれない……」 ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1601809934/ )
高垣楓「風向き良し」 ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1556978069/ )
アナスタシア「流しソ連」 神崎蘭子「そうめんだよ」 ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501850717 )


第10回シンデレラガール総選挙、好評開催中
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 15:48:06.69 ID:USI9ZzTC0

  ◇ ◇ ◆


 「あら、蘭子ちゃん。おはようございます」

 「世紀末歌姫! 汝が天運を知りなさいっ!」
 (楓さん! お話がありますっ!)


土曜の事務所へ着くなり両の指を解しながら歩み寄って来る楓を掌で制す。
機先を制され小首を傾げる楓の前で、白ゴスに身を包んだ蘭子はオペラグローブを抜き去った。
そして楓の胸めがけ投げ付けようとしたが、ちょっとだけ考えて、やっぱりやめておいた。

割と上等なサテン生地製だったので、手荒に扱えばすぐに解れてしまうからである。
とてとてと歩み寄ってから、皿を作っていた楓の掌の上へグローブをそっと載せた。

 「世紀末歌姫よっ! 此処に尋常なる血闘を申し込むわ!」
 (楓さんっ! 私と勝負してくださいっ!)

 「血闘……ですか?」

 「うむ。汝の悪魔がごとき非道も潰えよう……今日こそ、審判の日!」
 (楓さんが私の頬を良い気でつっつけるのも、もうおしまいですっ!)

良い感じのポーズを取りつつ高笑う蘭子へ、
楓は実に触り心地の良い手袋をさわさわしながら鸚鵡返す。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 15:59:43.12 ID:USI9ZzTC0

 「クク……欠伸を漏らす暇も無く決しては、つまらぬ。伍番勝負と往こうではないか」
 (言い訳もできなくなっちゃうくらい、楓さんをやっつけます!)

 「なるほど……それで、どういった勝負を?」

 「我とて慈愛の心の欠片ならば持ち合わせている……三度の悪あがきを認めましょう」
 (ふふ……五本中、三本は楓さんが決めていいですよ?)

 「あら、蘭子ちゃんったら太っ腹♪」

 「……ふっ、太く……ない……」

存外、楓は乗り気で両手を合わせる。
脳裏を先週の体重計の数値が過ぎり、蘭子は慌てて首を振った。

これも、数々の甘味で魔王を堕落せしめんとする世紀末歌姫の所為である。
蘭子はそう断じた。

 「えーと、勝負なら審判が必要ですね」

 「ふむ……断罪者か」
 (あっ、確かに。うーんと……)

唐突に幕を開けようとしている血闘を見届けてくれる者など、そうは居ない。
唐突に幕を開けようとしている血闘を見届けてくれそうな者が、ちょうど小会議室から出てきた。

 「……む! 蒼き灰被りよ!」
 (あっ! 凛ちゃーんっ!)

 「ん」



 「審判やって!」

 「急に何?」

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 16:11:04.47 ID:USI9ZzTC0


かくかくしかじかなの。
ちゃんと説明しなさい。


蘭子の簡潔な説明を渋谷凛の簡潔な舌鋒が切って捨てた。
魔法の言葉を取り上げられた蘭子がネゴシエイトを開始する。

 「いや、もう帰るとこだったんだけど……事務所へはちょっと寄っただけ」

 「む……むむ……」

 「ちなみに、凛ちゃんのこの後のご予定は?」

 「え? ハナコの散歩兼ランニングと……勉強」

高校3年生という身分と切っても切り離せないのが、受験なるとびきりの鉄鎖である。
アイドルとして今を時めく渋谷凛とて、またその例外ではない。
本番はまだ先とは言え、早めに戦支度を整えておいて損を拾う事も無いだろう。

 「凛ちゃんっ……!」

 「……」

楓から見えないよう、蘭子はばちんばちんと可憐なウィンクを送る。
楓は楓で蘭子から見えないよう、ぱちんぱちんと華麗なウィンクを見舞ってくる。


きっと凛ちゃんなら――『私』を贔屓してくれる筈。


両者の瞳に籠められたそんな強い意志がはっきりと見て取れて、
凛は小さく溜息を吐いた。
今ここできっぱりと首を横に振れば、蘭子はともかく、楓は絡んでくるだろう。
それはもう、この上なく絡んでくるのは間違い無い。
場合によってはアルコールも混ぜ込んでくるだろう。

凛はもう一度、今度は大きな大きな溜息を吐いた。
9 :>>6 誤:土曜 → 正:日曜 [saga]:2021/05/09(日) 16:21:16.64 ID:USI9ZzTC0

 「……はぁ。分かった。付き合ってあげる」

 「さっすが凛ちゃん♪ シンデレラガールは気風が良いですね♪」

 「はいはい。すぐ終わるんでしょ?」



 「うむ! 伍番勝負を執り行うわ!」
 (うん! 五本勝負!)

 「やっぱ帰っちゃ駄目?」

10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 16:27:44.03 ID:USI9ZzTC0


  ◇ ◇ ◆


 ■チャンネル【シンデレラガールズ】が生放送”高垣楓伍番勝負”を開始しました。


 『お』 00:00:02

 『?』 00:00:02

 『勝負?』 00:00:03

 『1』 00:00:03

 『通知から』 00:00:05

 『楓さん?』 00:00:06

 『1』 00:00:06

 『お』 00:00:06

 『なんかはじったぞ』 00:00:07

 『凛ちゃんだ』 00:00:07

 『蘭子かわいいです』 00:00:09


  ◇ ◇ ◆
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 16:36:11.45 ID:USI9ZzTC0


 【壱番】


 「これでいいの? えっと……こんにちは。審判……審判……? の、渋谷凛です」


三脚へ据え付けられ、ノートパソコンに繋がれたビデオカメラ。
そのレンズに向け、若干首を傾げながらも凛は挨拶を投げた。

 「今回は、えーと……高垣楓、伍番勝負……を、やる、みたい?」

 「うむ!」

 「やっちゃうみたいです」

後ろに控えた蘭子と楓を振り返る。
二人は頷くばかりで、一切の補強は無いようだった。
横目で助けを求めると、いつもの気持ち良い笑顔が画面内に現れる。


 「その通り! 今回の突発企画こそ、蘭子ちゃんと楓さんの直接対決。その名も――」

いつの間に用意したのかも知れぬフリップをどこからともなく取り出してみせる。
アイドル達がアイドル達なら事務員も事務員だなと、
凛は千川ちひろの営業スマイルを眺めながらぼんやりと考えるばかりであった。

 「――じゃんっ♪ 『高垣楓伍番勝負』! 先に3本取った方の勝利です!」

 「えっと……いいけど……いやいいのかな……勝つとどうなるの?」

 「フフ……愚問! 敗者は勝者の命令を甘んじて享受するのみ!」
 (簡単です! 勝った方が負けた方に言う事を聞かせるんです!)
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 16:47:47.71 ID:USI9ZzTC0

もはや自信しか感じ取れない笑みを浮かべ、高笑いを零す蘭子。
隣で頷いている楓を見るに、合意は既に交わされているようであった。

 「そんな事言って……いいの? 蘭子。楓さんが勝ったら――」

 「諄いっ! 魔王に二言は無いわ!」
 (大丈夫。勝つもんっ!)

 「ほら、凛ちゃん。蘭子ちゃんもこう言っている事ですし」

 「……まぁ、二人がいいなら、いいんだけどさ」

頬を掻きつつ、ノートパソコンの画面を見やる。
日曜の午前に突如始まったにも関わらず、夥しい量のコメントが流れては消えてゆく。
案外この世には暇人が多いなと、凛は一度だけ頷いた。

 「さぁ、世紀末歌姫よ。賽を放るがよい……凋落への賽を!」
 (最初のお題は楓さんが決めてください)

 「あら。ふふ……さぁ、どんなお題にしましょうか」

 「あ、お二人とも。お題はアイドルっぽいものでお願いしますね?」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 16:57:06.39 ID:USI9ZzTC0

 「……ちひろさん」

 「どうかしました?」

悩ましげに頬へ手を添える楓に、不敵な笑みを絶やさぬ蘭子。
そんな両者をちひろは何処か楽しげに見守っている。
ともすれば無邪気にも見える笑顔を前に、凛は疑問を投げ掛けた。

 「何でWEB中継するの、こんなの」

 「こんなのなんて。お二人とも、とっても楽しそうじゃありませんか♪」

 「まぁ、それはそうですけど……流す理由が分からなくて。いまいち」

 「理由……そうですねぇ、幾つかありますけれど」

立てた指を、順に折り畳みながら数え上げる。


 「アイドルとして常に見られている立場だって実感してほしいですし、
  定時放送以外のゲリラ生にどれくらい需要があるのかも調べたかったし、
  好評なら今後の番組にも似たようなコーナー組み込んでみたいし……」

 「わ、分かった。分かりましたから」

 「まぁ、一番はあれです。私のシナリオと楓さんのシナリオは、多分同じなので」

 「……? それは、どういう」

 「じゃあ、後はお任せしますね、凛ちゃん? さーお仕事お仕事♪」

並べ立て終えて満足したのか。
ご機嫌な様子で通常業務へ復帰していったちひろを見送り、凛は振り向く。
どうやら第一のお題は定められたようだった。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 17:03:35.40 ID:USI9ZzTC0

  ◇ ◇ ◆


 「第一のお題は『食レポ』でいきましょう」

 「ほう」


食レポ。雑誌のコラムでも地上波の一コーナーでも定番と化したジャンルだ。
この事務所で特筆すべきなのは日野茜の雑誌連載、『一行カレー』であろう。

『牛肉が柔らかいです! おいしいです!!!』
『玉ねぎがたくさん入ってます!!! ちょっと辛いですね!!!』
『おいしい!!!!!』

といった具合の、比喩表現の一切を廃した食レポは読者からの好評を博している。

 「構わぬが……贄は何処に?」
 (食べるものはどうするんですか?)

 「そうですね……事務所のお茶菓子でもあれば」

 「おはようございまーす♪ 買いたてのプリンはいかがですかー……って、あれ?」


 「約束の女神……」
 (あ、茄子さんっ!)

 「あら……茄子さん。とてもとても良いところに」

弾むような鼻歌と共に鷹富士茄子が事務所へ顔を出した。
手に提げられた紙袋にはレタリングされた『Pastel』のロゴが煌めいている。
何やら喧々諤々していたらしい楓と蘭子を前に、茄子はとりあえず微笑んで見せる。


勝利の女神がどちらへ微笑むのかは知れなくとも、鷹富士茄子はみんなに微笑むのだ。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 17:17:02.53 ID:USI9ZzTC0

 「なんだか楽しそうな事をしてますね〜」

 「……」

 「それはもう。ますます楽しくなってきた所で」

親し気に歓談を交わす二人を他所に、蘭子の視線は茄子の揺らす紙袋へ釘付けであった。
先程の言葉が幻聴の類でなければ、そこにあるのはプリンが幾つか。
そう。蘭子にとってもう一つの因縁とも言える存在、プリンである。


蘭子はプリンを愛しているが――プリンは蘭子を愛していない。


何故かと問い質すのは野暮天窮まりない。
神は世界をそう創り給うたというまでだ。

蘭子がプリンをしまっておく。
何やかんやあって蘭子はプリンをおいしく食べられない。

この間に疑問の差し挟まる余地は最早残されてはいないのだ。
事実、今季の蘭プ率(蘭子がプリンをおいしく食べられる確率)は二割を下回っている。

蘭子は今季に入ってから既に12個のプリンを買い求めている。
うち2個は絶対に抹茶プリンの気分だったのに何故かいちごプリンが入っており、
うち1個はほろ酔いのまま事務所へ立ち寄った楓が誤って食べてしまい、
うち7個はレッスン後にどうしてもプリンを食べたい気分だったアーニャが食べてしまった。


この事務所において、『蘭子ちゃんのプリン』とは「とても儚いもの。また、その様」を意味する。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 17:26:31.39 ID:USI9ZzTC0

 「なるほどー。確かにそういう事ならちょうどいいですね♪」

 「蘭子ちゃんもそれでいいですか?」

 「……クク……うむ、構わぬ。どうであれ、結末は既に記されている」
 (だ、大丈夫です……負けません……よ?)


プリンを食べる。甘くて美味しい。そして勝負に勝つ。


簡単な事だ。大魔王たる蘭子にとって、その程度は造作も無い戯れ。
微かに震えていた指先をお尻の辺りにぺしぺしと叩き付け、蘭子は不敵に笑う。

 「先手は譲るわ。精々足掻いてみせる事ね」
 (じゃあ、楓さんがお先にどうぞ)

 「あら。今日の蘭子ちゃんはサービスが良いですね……では、お言葉に甘えて」

 「はい、どうぞー。あ、凛ちゃんもどうぞ♪」

 「ん……ありがとうございます」

お行儀良くテーブルへ就いた楓の前にプリンの容器が一つ、そっと差し出された。
パステルの看板商品、なめらかプリン。
商品名として謳われる程の柔らかな舌触りで名高い一品である。
小さなスプーンを握り、楓がカップを持ち上げる。

 「では、いただきます」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 17:33:40.05 ID:USI9ZzTC0

一面の卵色に何の抵抗もなくスプーンの先が沈んでゆき、すぐに一塊を掬い上げた。
ふるん、と一度その黄色を揺らしながら微笑むと、楓はそっとスプーンを口元へ運んでゆく。

 「……はむっ」


蘭子が喉を鳴らした。


 「……やっぱり、何度食べても美味しいですね。ここのプリンは」

そう言いながら再びスプーンを差し込み、すぐに二口目。
しっかりと味わい、こくん、と飲み下してから、先程の感想に言葉を継いでいく。

 「最近はしっかりとした……焼きプリンに近いプリンが再評価されていますけれど、
  それでも私はこの滑らかな舌触りに微笑んでしまうんです。あまくて、とろける。
  スプーンからお腹まで、するするーっと甘さが染み渡るこの感覚。堪りませんね」

言い終えてから、またスプーンを動かしていく。
もく、もくと静かにスプーンを進めては、時折穏やかな笑みを浮かべて。
自分のものを食べ進めていた凛も茄子も、しばしその様子に見惚れてしまう程であった。

 「ご馳走様でした」

そして、楓は食レポを終えた。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/05/09(日) 17:43:55.12 ID:USI9ZzTC0

 「……えー、以上、楓さんの食レポでした……なんか、まともだったね」

 「凛ちゃん、たまに私に厳しいですよね。くすん」

 「それでは続いて……蘭子、お願い」

 「うむっ!」
 (はーい!)

何処からか取り出したハンカチで目元を拭う楓を尻目に、凛が蘭子の出番を告げる。
するするーっ、と楓が呟いて、凛は尚聞こえない振りを貫いていた。

 「……我が血肉の糧となるがよい」
 (いただきまーす)

握手会でファン達が口を揃え「ちっちゃかった」と評する手にスプーンを握る。
掬い上げた黄色は微かに震えているようにも見えた。
甘美なる景色に見惚れる事暫し、蘭子は徐にスプーンを口へ運ぶ。


 「……はむ」


――ジャンガリアンハムスターを思い出すんです。蘭子ちゃんが何か食べていると。


かつて楓がそう語っていたのを、凛はふと思い出していた。
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