結標「私は結標淡希。記憶喪失です」

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3 : ◆ZS3MUpa49nlt [saga]:2021/07/03(土) 23:42:03.87 ID:J2dUQG+bo


少女の言葉を聞いた少年は、周りの人影をぐるりと見渡した。
そして、


「…………ぎゃはっ」


笑った。泣くこともなく、驚くこともなく、怒ることもなければ絶望することなく。
少年はただ、不気味な笑みを浮かべて笑った。


「ったく、グダグダと何を話すつもりなのかと思ったがただの状況説明かよ、くっだらねェ」


少年は呆れながらため息をつき、続ける。


「たしかに俺は一人だ。仲間と言えるよォなヤツらがいたことも事実だ。オマエにはたくさんの仲間っつゥのがいるってのも現実だ。だけどよォ、違うンだよなァ……オマエは根本的な部分を間違ってンだよ」


「間違っている……? 一体どこを間違っているというのかしら?」


「その考え方だよ」


頭をクシャクシャと掻きながら少年は続ける。


「状況的に考えりゃオマエは有利な状況にあるだろォよ。誰が見てもそれは明白だ。これを見てどっちが勝つか賭けようぜ、って話になったら大穴狙いの馬鹿以外は全員オマエが勝つって方にベットするってぐれェ圧倒的な有利だ」


彼が言っていることはまさしくその通りだ。
例えるなら将棋で全ての駒が揃っている万全な状態と、王将以外の駒全て落とされた危機的な状態、パッと見てどちらが勝つでしょうと言われているようなものである。
大多数の人間は数が多い方が勝つと予想するだろう。それが将棋のルールを詳しく知らない人でもだ。
それくらい当然のことを彼は言っている。


「じゃあ有利、っつゥのは何だ? オマエらに勝ち筋が出てくるっつゥことか? 場の勢いってのがソッチに流れるっつゥことか? ……いや、もっと単純に言ってやる。オマエ自身が強くなるっつゥことか?」


「……そうね。流れってのは結構あると思うわよ。スポーツだってプロの世界もアマの世界も必ず流れがある方が勝つわ。格下が格上に勝ったって事例結構聞くけど、結局それは格下側に流れがあったに過ぎないわ」


「そォだな。オマエの言ってることは本当に間違ってねェ、至極真っ当なことだ。だからこそ違うンだよ」


首を左右に揺らしポキポキと音を鳴らしながら少年は指摘する。


「たとえ流れっつゥのが全部オマエ側にあるとして、オマエが人生の中で最高潮といえる場面で、最高の力を発揮できる最強の状態にあったとしてもよォ――」


少年の呆れた表情が一変し、口元を引き裂くような笑みを浮かべた。



「別にこの俺が弱くなったわけじゃねェだろォが!! どンな状況だろォと覆らないその根本的な部分をわかってねェンだよオマエはッ!!」



「…………そうね。貴方の言うとおりかもしれないわ」


少年の咆哮を受けて少女は肯定する、が。


「でも勝負ごとにはもしかしたら、ってことがあるのよ? 全部が全部、貴方の言うようになるとは思わないことね」


その瞳には敗北の色など一つも見えていなかった。


「チッ、くだらねェ。奇跡なンてモン崇拝したところで何も変わンねェってこと、この俺が分からせてやるよ」




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