【艦これ】曙「はじまりの場所」

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1 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 18:55:52.94 ID:P245md5N0



このSSは史実を基にしたフィクションです。

「艦これ」のキャラクターたちを借りた、いわゆる「自衛艦これ」モノです。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1627725352
2 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 18:57:54.78 ID:P245md5N0




1945年、敗戦により大日本帝国海軍は解体。

その後1952年には、海上交通の安全確保を目的に海上警備隊(現在の海上自衛隊)が発足しました。

しかし、組織はできても構成する艦は無いも同然。

アメリカからの貸与艦たちが隊の中心でした。



3 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 18:59:27.49 ID:P245md5N0




国産艦の建造を……という機運は高まってはいたものの、無い袖は振れません。

しかし、そんな中の1952年末、当時としては破格の130億円という艦艇建造費が認可されます。

これにより国産艦の建造計画が本格的にスタート。

その結果誕生したのが、



甲型警備船(2隻):「はるかぜ」型DD「はるかぜ」、「ゆきかぜ」

乙型警備船(3隻):「いかづち」型DE「いかづち」、「いなづま」



そして───



4 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:02:04.16 ID:P245md5N0




───── 1955年10月15日 石川島重工業東京第二工場



あけぼの「はぁ……」


工員「何だ何だ辛気臭いな。せっかくの初披露の日に」

あけぼの「なんで私なのかしら……」

工員「はぁ?」

あけぼの「……だから! 戦後初の国産艦な訳でしょう私は!?」

工員「戦後『初』って、他の4隻がもうとっくに進水しとるぞ」

あけぼの「うっ! ……そ、そういうのはいいのよ。細かいわね!」



5 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:04:56.01 ID:P245md5N0




あけぼの「とにかく、他にもっと候補になるような子がいたんじゃないかってことよ! 私が言いたいのは」

工員「へぇ……」

あけぼの「な、何よ」

工員「いや、勝気な割に自尊心は低いんだなと思ってな」

あけぼの「フン、悪かったわね。昔から何かと貧乏くじ引かされてきた結果よ」


工員「……」

工員「まぁあれだ、学の無い俺なりに考えるにはだ」

工員「『曙』ってのは、太陽の昇る明け方、つまりは夜明けのことだ。転じて、物事の始まりのことでもある訳だ」

あけぼの「何をいっぱしに講釈垂れてんのよ……」

工員「やかましい! 最後まで黙って聴いとれ!」


工員「えーと、だからだ、この国産艦建造の黎明期とも言えるこの時期にお前を持ってきたということはだ、国産艦の『はじまり』であると共に海上自衛隊の『はじまり』を意味している……と。まぁこういう訳だな」



6 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:07:17.88 ID:P245md5N0




あけぼの「……ふーん」

工員「どうだ? 中々説得力ある考えだろう?」

あけぼの「そうね、無い知恵絞った割には上々じゃないかしら」

工員「かーっ、相変わらずな態度だねぇ。そこは涙目で『ありがとう』とか『おかげで少し気が楽になったわ』とか言うところだろうに……」

あけぼの「ハァ!? 気色悪いこと言ってんじゃないわよ、このクソ工員!!」

工員「あったま来た!! 表出ろ、このちんちくりんのまな板娘!」

あけぼの「上等よ!!」


ギャーギャー



─────────
─────
──



7 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:08:33.75 ID:P245md5N0




「あけぼの」は「いかづち」型の2隻と準姉妹艦と言ってもいいような艦でしたが、後者がディーゼル機関を採用したのに対し、「あけぼの」は蒸気タービン艦でした。

以後のDEの量産を考える上で、機関はどちらの方が適切なのか比較検討するための措置でした。

「あけぼの」は速度面でディーゼル艦の「いかづち」型より優れていたものの、乗員を30名多く必要としたため艦内が非常に窮屈に。

そういった要因からか、以後のDEに蒸気タービンが採用されることはありませんでした。



8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/31(土) 19:08:51.52 ID:rpnTMaNFO
なんで「黄金の国」とかいうのをエタらせておいて
性懲りもなく新たにつまらなそうなの書こうとしてんだよバーカ
9 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:10:06.58 ID:P245md5N0




───── 1956年3月20日 石川島重工業東京第二工場



工員「調子はどうだ?」

あけぼの「就役日から調子を崩すほど柔じゃないわ」

工員「そいつはよかった。俺たちも胸を張って送り出せる」


工員「……おーおー、一丁前に軍艦旗なんか着けちゃって」

あけぼの「相変わらず学が無いわね。今のこれは自衛艦旗って言うのよ」

工員「へいへい、さいですか」



10 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:11:49.42 ID:P245md5N0




あけぼの「……」


あけぼの「……ねぇ」

工員「ん?」

あけぼの「マニラの方角ってどっちかしら」

工員「まにら? マニラってえと、確かフィリピンか? 何でまた?」

あけぼの「別に……何となくよ」


工員「……」

工員「まぁ、あっちの方なんじゃねえかな。多分だけど」


あけぼの「ふぅん……」


工員「……」

工員(あまり深掘りしない方がよさそうだな……)



11 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:12:56.04 ID:P245md5N0




1955年から1956年にかけて、フィリピンはマニラに放置されていた駆逐艦「曙」の解体作業が行われました。

これは日本の戦後賠償事業として行われたもので、作業は播磨造船所(後に石川島重工業と合併)の技師たちが手がけました。

警備艦(1960年より護衛艦と呼称)「あけぼの」は、それと入れ替わるように就役。

しかし、当初の兵装は二次大戦時レベルの代物だったことから、1958年には早くも兵装の近代化を図る特別改装工事を実施しました。



12 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:14:18.84 ID:P245md5N0




───── 1960年

・石川島重工業と播磨造船所が合併、「石川島播磨重工業(現在のIHI)」となる



13 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:16:57.74 ID:P245md5N0




───── 1960年6月4日 津軽海峡



ゆうだち「函館のカニ、美味しかったっぽい〜♪」

はるさめ「ゆうだち姉さん、まだ肝心の訓練が終わってないですよ」

ゆうだち「ぽいっ! 分かってるっぽい。ちょっと眠くなってきたけど……」

いかづち「もーっ、食べた後すぐ寝ると牛になっちゃうわよ」

あけぼの「……まったく。カニぐらいではしゃいじゃって。情けないわね」


ゆうだち「ぽいっぽいっぽいっ……」フッフッフ

あけぼの「な、何よ。その妙な笑い方は」



14 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:18:39.28 ID:P245md5N0




ゆうだち「ゆうだちは知ってるっぽい。あけぼのちゃんが、はるかぜさんとゆきかぜちゃんのためにカニを鮮魚列車で送ってもらえるように手続きしていたことを」


あけぼの「んなッ!?」///

いなづま「流石あけぼのちゃん、優しいのです」

いかづち「意外と気が利くのよね、あけぼのって」

あけぼの「ち、ちが、違うわよ! あれは───」

ゆうだち「『自分用に買ったのよ』……っぽい?」ニヤニヤ

あけぼの「自分用に……うぐっ!?」


むらさめ「はいはーい! お話はそこまで。夜間訓練始めるよー」



15 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:19:42.77 ID:P245md5N0




* * *



16 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:20:53.77 ID:P245md5N0




はるさめ「それでは、掃海水道航行隊形から掃討隊形に移行します、はい」


あけぼの(夜間の隊形変更には気を使うわ……)

あけぼの「取舵っと」ザザザァ


いなづま「はわわわわ!? あけぼのちゃん!?」

あけぼの「えっ───」



─────────
─────
──



17 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:23:08.50 ID:P245md5N0




───── 1960年8月某日 石川島播磨重工業東京第二工場



工員「派手にやったもんだ……」

あけぼの「……」

工員「この分じゃ、全治3〜4ヶ月ってところか」

あけぼの「……」


工員「……」

工員「……ったく」


ポコッ


あけぼの「痛っ……何すんのよ!!」

工員「いつまでそうやってしょげてる気だ?」



18 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:24:47.11 ID:P245md5N0




あけぼの「ッ……だって、だって!!」

あけぼの「私個人の勝手な自損だったらこうはなってないわよ! あの子を……いなづまを巻き込んだ!」

あけぼの「ただでさえあの子は『衝突』にトラウマを持ってるのに……それなのにっ!」

あけぼの「死者まで出して……もう、どう責任を取ったらいいのか……」


工員「……」

工員「まあな……仮にお前がここで解体を申し出たとして、死んだ人が蘇ることはねぇ」

工員「そのいなづまって子にも、少なくない傷が残るだろう」


あけぼの「……」


工員「お前にできるのは、忘れないことだ」

工員「物事に完璧は無ぇ。ミスは起こるし事故も起こる。この工場でもそうだ」



19 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:26:00.85 ID:P245md5N0




工員「けどな、お前がそのことを忘れずに、語り継いでいったらだ。完璧ってやつにほんの少しでも近付くんだ」

工員「忘れちまったが最後、いなづまは無意味に傷付いたことになり、亡くなった人間は……無駄死にになっちまう」

工員「だからお前にできる責任の取り方ってのは、忘れないこと。語り継ぐこと。そして、二度と同じ失敗を起こさないこと。これなんだ」


あけぼの「……」


工員「……」

工員「さて、お仕事再開だっと」スタスタ



20 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:27:48.12 ID:P245md5N0




あけぼの「……」


あけぼの「……うっ」


あけぼの「ひぐっ……うっ」

あけぼの「ぐっ……」


あけぼの「……」ゴシゴシ


バシッ


あけぼの「……メソメソすんな、私」



21 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:29:05.73 ID:P245md5N0




津軽海峡での夜間訓練中、「あけぼの」と「いなづま」の衝突事故が発生。

「いなづま」の右舷艦橋付近に、後方から20ノット程度の速度で「あけぼの」が突っ込んだ形でした。

「あけぼの」は艦首外板がめくれ、揚錨機が圧壊。



22 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:29:57.86 ID:P245md5N0




「いなづま」は12区画に損傷が及ぶほどの重傷で、衝突箇所には大破口ができ、乗員2名が死亡する事態となりました。

「あけぼの」は石播東京で、「いなづま」は三井造船玉野造船所(現在の三井E&S造船玉野艦船工場)で、それぞれ復旧工事を行いました。

後の海自による事故調査では、事故原因は「あけぼの」側の操艦ミスとされました。



23 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:30:47.88 ID:P245md5N0




───── 1979年

・石川島播磨重工業東京第一工場(佃工場)の閉鎖に伴い、それまでの東京第二工場が新「東京第一工場」となる



24 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:32:47.61 ID:P245md5N0




───── 1981年3月31日



工員「よっ」


あけぼの「……」ボーゼン

工員「何だよ、その信じられない物を見たって顔は」

あけぼの「……いや、あんた暇なの?」

工員「けっ、相変わらず失礼な奴だ。お役御免になるって聞いたからわざわざ来てやったってのに」

工員「それにな、今の俺はこれでもそこそこ偉いんだ。そんなに暇じゃねーの」

あけぼの「あっそ」

工員「すがすがしいまでに興味無いって反応、どうもありがとう」



25 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:34:35.85 ID:P245md5N0




工員「いやー、しかし……」

あけぼの「?」

工員「改めて見ると、小っさいなお前」

あけぼの「はっ、相変わらず失礼な奴ね。除籍になる老朽艦に対して出てくる言葉がそれな訳?」

工員「だってなぁ、ここ最近は『しらね』やら『くらま』を見慣れてたからなぁ。それと比べちゃうと」

あけぼの「最初期のDEと最新鋭のDDHを比べてどうするのよ。本当に馬鹿ね」

工員「へいへい。それで? どうだったよ、この四半世紀は?」

あけぼの「……ま、悪くはなかったんじゃないかしら」

あけぼの「蒸気タービンのおかげで早々に引退に追い込まれちゃったのは癪に障ったけどね」



26 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:36:21.54 ID:P245md5N0




工員「5年前には実質的に引退してた訳だしなぁ。でも原因は蒸気タービンと言うかそもそもお前が小っさいせい───」


あけぼの「ふんっ!!」ゲシッ

工員「いでっ!」


あけぼの「あら、除籍間際の小さな小さな艦のかよわい蹴りがそんなに痛いのかしら?」ニヤ

工員(……クソ〜ッ! じゃじゃ馬めぇ)ジンジン


あけぼの「……」

あけぼの「……そうだ」イジイジ

あけぼの「はい、これ」っ

工員「なんだよ?」

あけぼの「私の髪飾り。あんたが持ってて」



27 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:37:29.68 ID:P245md5N0




工員「……餞別代わりか?」

あけぼの「フン、あんたにやる訳じゃないわよ」

あけぼの「私は絶対にまた蘇るから、それまで保管しておいて欲しいってだけよ。それで、また私が生まれたら返しに来なさい」

工員「と、言われても……俺ももういい年だからなぁ。生きてまた会えるかは分からんぞ?」

あけぼの「百万年も眠るつもりはないわ。這ってでも返しに来なさいよ」


工員「……」

工員「分かったよ。せいぜい健康には気を付けて、それでも駄目なら墓の下から化けてでも返しに行く」

あけぼの「それでいいわ」



28 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:38:28.48 ID:P245md5N0




工員「……んじゃ、『またな』」


あけぼの「……」(敬礼)



29 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:40:11.71 ID:P245md5N0




******


「あけぼの」の髪飾り、ミヤコワスレの花言葉:「また会う日まで」


******



─────────
─────
──



30 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:41:03.18 ID:P245md5N0




───── 1995年

・石川島播磨重工業の船舶部門と住友重機械工業の艦艇部門の共同出資により「マリンユナイテッド(MU)」が設立



31 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:42:28.77 ID:P245md5N0




───── 2000年9月25日 石川島播磨重工業東京第一工場



社員「既に進水は済みましたので、これから竣工に向け艤装工事を進めていく段階です」

老人「の、ようだね」


社員「……本当によろしいのですか? お一人で」

老人「ははっ、なぁに。この工場のことは君よりよっぽど詳しいつもりだぞ?」

社員「はっ。それでは、私は先に車で待機しておりますので」

老人「すまないね。そうは時間を取らずに戻るよ」



32 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:43:47.45 ID:P245md5N0




コツ コツ コツ


老人「……さて」

老人「あれから20年か」

老人「あの時はああは言ったが、実際に生きてまた会えるとは思わなかったぞ? なぁ───」

老人「『あけぼの』よ」


あけぼの「誰が来たのかと思ったら……やっぱりあんただったのね」



33 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:44:42.89 ID:P245md5N0




* * *



34 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:46:10.07 ID:P245md5N0




老人「おっと、名前もこのままじゃいけねぇな」


元工員「よし、これでいいだろ」

あけぼの「何メタなことをやってんのよ」

元工員「はっはっは。人間、年取るとこんなこともできるようになる」


元工員「それはそうと……ほぉ」

あけぼの「?」

元工員「ちんちくりんから少しは成長したみたいだな」

あけぼの「フン、当然でしょ。今の私は満載排水量が6,000トンを超えるのよ。一昔前なら軽巡レベルよ」

あけぼの「そう言うあんたは……ぷぷっ」

元工員「な、何だよ?」

あけぼの「老けちゃってまぁ。クソ工員からクソジ……おじいさんにランクアップしたわね」プークスクス

元工員「うっ! クソッ、変な配慮しやがって……いっそ『クソジジイ』呼ばわりされた方がよかった……」



35 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:47:36.28 ID:P245md5N0




あけぼの「ところであんた、そのネクタイピンは何」

元工員「お、やっと気付いたか」

あけぼの「最初っから気付いてたわよ。明らかに浮いてるでしょ、それだけ」

元工員「ふふん、中々洒落てるだろう? キク科の『ミヤコワスレ』って花らしいな」

あけぼの「白々しいわね……」

あけぼの「大体、なんでそんな所に付けたりしてるのよ」

元工員「これは昔『とある知り合い』に『借りた』髪飾りなんだが、返すのを忘れてどっかにやっちまわないようにってな」

元工員「それに、これを付けてると会う人会う人みんなすぐ俺のことを覚えてくれるからな。結構助かってるんだ」ハハハ

あけぼの「何言ってるんだか」



36 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:48:52.98 ID:P245md5N0




元工員「……返した方がいいか?」


あけぼの「……」

あけぼの「別に。好きにしなさいよ」

あけぼの「この通り、私にはまた新しい物があるし」


元工員「ほーん……」

元工員「それじゃ、貰っておこうかな。お守り代わりにな」


あけぼの「……ふん」



37 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:49:45.20 ID:P245md5N0




* * *



38 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:52:14.35 ID:P245md5N0




あけぼの「で、今日は何しに来たのよ?」

元工員「おっと、そうだったそうだった。年取ると忘れっぽくなっていけねぇや」

元工員「お前を案内したい場所があってな。迎えに来た」

あけぼの「案内したい場所って……行ける訳ないでしょ? 艤装工事がこれからなのよ?」


元工員「……」

元工員「実はな、この工場だが、再来年の4月には閉鎖される」

あけぼの「……え?」

元工員「お前が、この工場が送り出す最後の自衛艦だ」


元工員「……そういや、戦後最初に建造したのもお前だったな」

元工員「『あけぼの』に始まり『あけぼの』に終わる、か。悪くないじゃないか。物事にゃ始まりがあれば終わりがある」



39 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:54:13.53 ID:P245md5N0




あけぼの「……」


元工員「とまぁ、そんな訳でな。工場の最初と最後を飾るお前には何かしら特別待遇があってもよかろうってことなのさ」

元工員「汚いっちゃ汚いが、俺が立場を使って頭を下げたのも功を奏したな」フフン

あけぼの「『立場を使って』……?」

元工員「あぁ。元工場長なもんでな、俺」


あけぼの「……? ……??」

あけぼの「……えーっと、元工場長って、誰が?」

元工員「俺が」

あけぼの「どこの?」

元工員「ここの」



40 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:56:10.07 ID:P245md5N0




あけぼの「……」


あけぼの「???」

元工員「いや、理解してくれよ」


あけぼの「世も末ね……」

元工員「おう、世紀末だからな」ハハハ

元工員「ま、そういう訳で車を待たせてある。とっとと行くぞ」


あけぼの「……っ! で、でもやっぱり───」


元工員「アホ! ウチの工場を見くびるな!」

元工員「1日や2日の遅れなんぞすぐにでも取り戻せる! 技術と叡智に懸けてでもお前は予定通りに竣工させて送り出してやるわい!」



41 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:57:17.21 ID:P245md5N0




あけぼの「!」

元工員(決まった……)


あけぼの「いや、実際に頑張るのはあんたじゃなくて今働いてる人たちでしょうが」

元工員「ぐぅ……相変わらず手厳しい」


あけぼの「……ま、いいわ。付き合ってあげる」

あけぼの「竣工が遅れたら、あんたにそそのかされたせいだって言ってやるからね」ギロ

元工員「へいへい結構結構。んじゃ、行くかいお姫様?」



42 : ◆3XajO/Hvp6 [saga]:2021/07/31(土) 19:59:09.49 ID:P245md5N0




───── 2000年9月26日 宮城県白石市 傑山寺



あけぼの「……」

元工員「……」


元工員(『茜さすマニラ湾頭 あゝ殉國二百十四の勇士』……か)

元工員(俺がこいつを連れて来たのは、先々代のこいつ、すなわち特型駆逐艦『曙』の戦没者慰霊碑だった)

元工員(先代『あけぼの』の除籍後、1983年に建立されていたそうで、俺が知ったのは最近のことだ)

元工員(マニラ……俺はこの地名に聞き覚えがあった)

元工員(駆逐艦『曙』が最期を迎えた地であり、ちょうどあの頃、合併前の播磨造船所が残された『曙』の残骸のサルベージ作業を行っていたんだそうだ)



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